(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】オートファジー活性化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20231215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231215BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231215BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20231215BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20231215BHJP
A61K 36/8962 20060101ALI20231215BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231215BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20231215BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231215BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20231215BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231215BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20231215BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231215BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231215BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231215BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20231215BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231215BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20231215BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20231215BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P43/00 111
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61K36/8962
A61P21/00
A61P9/04
A61P9/00
A61P31/00
A61P37/06
A61P3/04
A61P3/10
A61P9/10 101
A61P1/16
A61P3/06
A61P25/00
A61P3/00
A61P43/00 107
A23L33/175
(21)【出願番号】P 2020523190
(86)(22)【出願日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2019022637
(87)【国際公開番号】W WO2019235597
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2018109700
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250100
【氏名又は名称】湧永製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 順一朗
(72)【発明者】
【氏名】小寺 幸広
(72)【発明者】
【氏名】三木 里美
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-106001(JP,A)
【文献】特開2014-023449(JP,A)
【文献】米国特許第07201929(US,B1)
【文献】Chemical and Biological Properties of S-1-Propeny 1-L-Cysteinein Aged Garlic Extract,Molecules,2017年,Article No.570,1-18
【文献】The Synthesis and Base-Catalyzed Cyclization of (+)-and(-)-cis-S-(1-propeny 1)-L-cysteineSulfoxides,The Journal of Organic Chemistry,Vol. 31, No. 9,2862-2864
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/327
A61K31/33-31/80
A61K33/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
S-1-プロペニルシステイン又はその塩
からなるオートファジー活性化剤。
【請求項2】
S-1-プロペニルシステインにおけるトランス体の割合が、トランス体とシス体の合計を100%とした場合に、50~100%である請求項1記載のオートファジー活性化剤。
【請求項3】
S-1-プロペニルシステイン又はその塩が、ニンニク、タマネギ、エレファントガーリック、ニラ及びネギから選ばれる1種以上のアリウム属植物に由来するものである請求項1又は2記載のオートファジー活性化剤。
【請求項4】
医薬である、請求項1~
3のいずれか1項記載のオートファジー活性化剤。
【請求項5】
食品である、請求項1~
3のいずれか1項記載のオートファジー活性化剤。
【請求項6】
アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィー、心不全、拡張性心筋症、感染症、自己免疫疾患、肥満、糖尿病、動脈硬化若しくは脂肪性肝炎の予防、治療又は改善に使用するための請求項1~
5のいずれか1項記載のオートファジー活性化剤。
【請求項7】
S-1-プロペニルシステイン又はその塩
からなる神経変性疾患の予防、治療又は改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートファジーの機能を高める、オートファジー活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
オートファジーは、タンパク質凝集体や損傷したオルガネラ等の莫大な量のタンパク質を分解するシステムであり、生体の恒常性を維持している。タンパク質凝集体や損傷したオルガネラは隔離膜に囲まれ、オートファゴソームを形成し、オートファゴソームは、リソソームと結合してオートリソソームを形成することにより分解を行う。オートファジーの活性化は、負に制御する哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mammalian target of rapamycin;mTOR)を細胞内エネルギーセンサーであるAMP活性化プロテインキナーゼ(AMP-activated protein kinase;AMPK)が抑制することによりunc-51 like kinase(ULK)複合体が活性化されることで誘導される。ULK複合体は様々なオートファジー関連遺伝子群(autophagy related gene;Atg)を活性化させる。特にAtg7は、ユビキチン様酵素活性により、LC3(Microtubule-associated protein light chain 3)にホスファチジルエタノールアミンを結合させLC3-IIに変化させる過程に重要なタンパク質である。LC3-IIは隔離膜の伸長および閉鎖を行うことでオートファジーを誘導する。
【0003】
オートファジーは非選択的に細胞内タンパク質を分解するが、タンパク質凝集体等を選択的に分解するメカニズムがある。タンパク質凝集体はユビキチン化され、ユビキチン結合タンパク質であるp62が認識する。ユビキチン化タンパク質凝集体と結合したp62はLC3と結合することによりオートファジーで選択的に分解される。
【0004】
オートファジー機能の低下は、神経変性疾患、心血管疾患、肺疾患、感染症等の様々な疾患を引き起こすと考えられており、近年、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋ジストロフィー、ニーマン・ピック病、心不全、拡張性心筋症、感染症、慢性炎症、脂肪肝等の疾患とオートファジーとの関連が報告され、各疾患の発症にオートファジーの機能の低下が関与していることが示唆されている。したがって、オートファジーの活性化は、これらの疾患の予防又は治療に有用であると考えられる。
例えば、非特許文献4には、アルツハイマー病では、初期にオートファジーの機能低下が起こり、通常オートファジーにより分解されるタウタンパク質の凝集体が細胞内に蓄積され、アルツハイマーの発症に繋がることが開示されている。
非特許文献5には、パーキンソン病の原因がオートファジーの機能低下によるα―シヌクレインタンパク質の蓄積であり、オートファジーの活性化により改善される可能性が開示されている。
非特許文献6には、ハンチントン病は、変異ハンチンチン(変異Htt)の蓄積が引き金となること、変異Httは、ユビキチンープロテアソーム系およびオートファジーによって分解されることが開示されている。
非特許文献7には、ALSは、疾患関連タンパク質の誤った局在化やタンパク質凝集体形成により引き起こされる運動ニューロンの機能不全が原因であり、オートファジーの機能低下は、ALSを含む神経変性を引き起こすことが開示されている。
非特許文献8には、筋肉においては、オートファジーの活性化が一定のレベルに保たれているが、活性化のレベルが高まると筋肉の消耗が促進され、そのレベルが低下して異常タンパク質やオルガネラの蓄積が起こること、筋ジストロフィーにおいてはオートファジー機能低下が知られており、オートファジーの活性化がその治療に繋がることが開示されている。
非特許文献9には、ニーマン・ピック病が、オートファゴソームとエンドソームの融合により形成されるアンフィソームの不形成に基づいて、細胞内にコレステロールが蓄積されることにより引き起こされること、Npc遺伝子のノックアウトや変異マウスでは、オートファジー機能の低下やコレステロールの蓄積が起こり、ニーマン・ピック病と同様の病態を示すこと、Npc遺伝子の変異マウスあるいは細胞株にオートファジーの誘導剤であるラパマイシンを添加することでニーマン・ピック病と同様の病態が抑制されたことが示され、オートファジーを誘導することにより、有効的な治療できることが示唆されている。
非特許文献10には、心肥大や心不全のような心疾患にオートファジーの変化が関連していること、オートファジーの活性化を誘導するタンパク質であるAtg5の欠損マウスにおいて、左心室の拡張や収縮不全を起こし、心肥大が誘導されることが開示されている。
非特許文献11には、結核の原因である結核菌が、マクロファージ等の宿主細胞においてファゴソーム形成を抑制することにより細胞質へ回避されること、宿主細胞内の結核菌量はオートファジーによってコントロールされていることが開示されている。
非特許文献12には、生体防御と炎症のバランスは、オートファジーによって維持されていること、オートファジーの機能低下は、がん、自己免疫疾患、神経変性疾患を引き起こすことが開示されている。
非特許文献13には、脂質の分解に関与するlipophagyの機能低下が、肥満、糖尿病、動脈硬化や脂肪性肝炎等の脂肪性の疾患に関与しており、オートファジーの活性化が治療のターゲットとなる可能性があることが開示されている。
【0005】
ニンニクは古くより食品としてだけでなく、様々な疾病の治療に利用されてきた。ニンニクの特徴的な成分としては、γ-グルタミル-S-1-プロペニルシステインがある。該成分はニンニクを切ったり、つぶしたり、すりおろしたり、又は熟成することにより、ニンニク中に含まれるγ-グルタミルトランスペプチダーゼという酵素により、水溶性のS-1-プロペニルシステイン(以下、S1PCと略す)に変換される。このような酵素反応により生成される水溶性化合物として、S1PCの他にS-メチルシステイン、S-アリルシステイン(以下、SACと略す)などがある(非特許文献1)。
【0006】
S1PCには、免疫調整作用(非特許文献2、特許文献1)や血圧降下作用(非特許文献3、特許文献2)を有することが報告されているが、オートファジーの活性化については全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/088892号
【文献】国際公開第2016/199885号
【非特許文献】
【0008】
【文献】ニンニクの化学,初版,2000, 93-122,
【文献】Nutrition., 2016, 32,884-9
【文献】J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci., 2017 1046,147-155.
【文献】Rev Neurosci. 2015 ; 26(4): 385-395.
【文献】Cold Spring Harb Perspect Med.2012 2(4), a009357
【文献】Front Mol Neurosci. 2016;9:27
【文献】Front Mol Neurosci. 2017;10:263
【文献】Front Aging Neurosci. 2014;6:188
【文献】Cell Rep. 2013;5(5):1302-15.
【文献】Nat Med. 2007;13(5):619-24
【文献】Curr Issues Mol Biol. 2017;21:63-72.
【文献】Autophagy. 2016;12(2):245-6
【文献】Sci Signal. 2017;10(468)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、副作用が少なく作用の緩和な、オートファジーを活性化するために使用される化合物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、S1PC又はその塩の有用性について種々検討したところ、S1PC又はその塩に優れたオートファジー活性化作用、更にはアポトーシス抑制作用及びタウタンパク質除去作用が有り、オートファジー活性化剤、及び神経変性疾患の予防、治療又は改善剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の1)~10)に係るものである。
1)S1PC又はその塩を有効成分とするオートファジー活性化剤。
2)S1PCにおけるトランス体の割合が、トランス体とシス体の合計を100%とした場合に、50~100%である1)のオートファジー活性化剤。
3)S1PC又はその塩が、ニンニク、タマネギ、エレファントガーリック、ニラ及びネギから選ばれる1種以上のアリウム属植物に由来するものである1)又は2)のオートファジー活性化剤。
4)S1PC又はその塩が、アリウム属植物を10~50%のエタノール水溶液中、0~80℃で、1ヶ月以上抽出し、得られた抽出物を陽イオン交換樹脂に吸着させた後、0.1~3Nのアンモニア水で溶出し、該溶出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー及び/又は逆相カラムクロマトグラフィーに付し、回収することにより取得される、3)のオートファジー活性化剤。
5)医薬である、1)~4)のいずれかのオートファジー活性化剤。
6)食品である、1)~4)のいずれかのオートファジー活性化剤。
7)アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィー、心不全、拡張性心筋症、感染症、自己免疫疾患、肥満、糖尿病、動脈硬化若しくは脂肪性肝炎の予防、治療又は改善に使用するための1)~6)のいずれかのオートファジー活性化剤。
8)S1PC又はその塩を有効成分とするオートファジー活性化用食品。
9)S1PC又はその塩を有効成分とする神経変性疾患の予防、治療又は改善剤。
10)S1PC又はその塩を有効成分とする神経変性疾患の予防又は改善用食品。
11)オートファジー活性化剤を製造するための、S-1-プロペニルシステイン若しくはその塩の使用。
12)オートファジー活性化のために使用される、S-1-プロペニルシステイン若しくはその塩。
13)S-1-プロペニルシステイン若しくはその塩を対象に投与することを特徴とするオートファジー活性化方法。
14)神経変性疾患の予防、治療又は改善剤、又は神経変性疾患の予防又は改善用食品を製造するための、S-1-プロペニルシステイン若しくはその塩の使用。
15)神経変性疾患を予防、治療又は改善するために使用される、S-1-プロペニルシステイン若しくはその塩。
16)S-1-プロペニルシステイン若しくはその塩を対象に投与することを特徴とする神経変性疾患の予防、治療又は改善方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明オートファジー活性化の有効成分であるS1PC又はその塩は、優れたオートファジー作用、更にはアポトーシス抑制作用及びタウタンパク質の除去作用を有する。そして、当該成分は長年、ヒトによって食されている植物由来の化合物である。したがって、本発明によれば、神経変性疾患を始めとするオートファジーの機能低下により発症する疾患の、安全性の高い予防、治療又は改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】S1PCのオートファジー活性化作用及びタウタンパク質の除去作用を示す。
【
図2】S1PCのオートファジー活性化作用及びタウタンパク質の除去作用に与えるオートファジー阻害剤の影響を示す。
【
図4】S1PCとSACのタウタンパク質の除去作用を示す。
【
図5】S1PCのα-シヌクレインタンパク質除去作用を示す。
【
図6】S1PCのα-シヌクレインタンパク質除去作用(SACとの比較)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、S1PCは、下記式(1)で示されるシステイン誘導体である。
【0015】
【0016】
この化合物は、式(1)中の波線で示されるように、シス又はトランスの立体配置が存在するが、トランス体の割合が多いのが好ましく、トランス体の割合がトランス体とシス体の合計を100%とした場合に、50~100%であるのがより好ましく、75~100%であるのがより好ましく、80~100%であるのがより好ましく、90~100%であるのが更に好ましい。
また、システイン由来の不斉炭素を有することから光学異性体が存在するが、D体、L体はあるいはラセミ体のいずれであってもよい。
【0017】
S1PCの塩は、酸付加塩又は塩基付加塩の何れでもよい。酸付加塩としては、たとえば、(イ)塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸との塩、(ロ)ギ酸、酢酸、クエン酸、フマル酸、グルコン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸との塩、(ハ)メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類との塩を、また、塩基付加塩としては、たとえば、(イ)ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属との塩、(ロ)カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩、(ハ)アンモニウム塩、(ニ)トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N′-ジベンジルエチレンジアミンなどの含窒素有機塩基との塩を挙げることができる。
【0018】
更に、S1PC又はその塩は、未溶媒和型のみならず、水和物や溶媒和物としても存在することができ、斯かる水和物又は溶媒和物は製造条件により任意の結晶形として存在することができる。従って、本発明におけるS1PC又はその塩は、全ての立体異性体、水和物、溶媒和物、及び全ての多形結晶形態もしくは非晶形を包含するものである。
【0019】
本発明におけるS1PC又はその塩は、有機合成手法〔1〕H Nishimura, A Mizuguchi, J Mizutani, Stereoselective synthesis of S-(trans-prop-1-enyl)-cysteine sulphoxide. Tetrahedron Letter, 1975, 37, 3201-3202;2〕JC Namyslo, C Stanitzek, A palladium-catalyzed synthesis of isoalliin, the main cysteine sulfoxide in Onion(Allium cepa). Synthesis, 2006, 20, 3367-3369;3〕S Lee, JN Kim, DH Choung, HK Lee, Facile synthesis of trans-S-1-propenyl- L-cysteine sulfoxide (isoalliin) in onions(Allium cepa). Bull. Korean Chem. Soc. 2011, 32(1), 319-320〕、酵素若しくは微生物を用いた生化学的手法、又はこれらを組み合わせた方法によって取得することができる。また、この他、当該化合物を含有する植物、例えばアリウム属植物あるいはその加工物から抽出・精製することにより取得できる。
したがって、本発明のS1PC又はその塩としては、単離・精製されたもののみならず、粗生成物、上記植物からの抽出操作によりS1PC又はその塩の含有量が高められた画分を用いることができる。
【0020】
ここで、S1PC又はその塩を含有するアリウム属植物としては、ニンニク(Allium sativum L.)、タマネギ(Allium cepa L.)、エレファントガーリック(Allium mpeloprazum L.)、(Allium tuberosum. Rottl. Ex K. Spreng.)及びネギ(Allium fistulosum L.)等が挙げられる。これらの植物は、単独あるいは組み合わせて用いてもよい。また、上記アリウム属植物は生のものをそのまま、あるいは必要に応じて外皮を取り除き、切断又は細断したものを使用することもできる。あるいは、これらを粉末化したもの、また、医薬や食品の製造に可能な溶媒を用いて抽出したものを用いることができる。溶媒としては、水やアルコールなどや、酸あるいは塩基性物質を溶媒に添加したものなどが挙げられる。
【0021】
本発明におけるS1PC又はその塩として、アリウム属植物からの抽出画分を用いる場合、当該画分は、例えば1)アリウム属植物を10~50%のエタノール水溶液中、0~80℃で、1ヶ月以上抽出し、2)得られた抽出物を固液分離後、エタノール溶出画分を回収する、ことにより取得することができる。
【0022】
工程1)で使用するエタノール水溶液は、10~50%のエタノール水溶液を使用することができるが、好ましくは20~40%のエタノール濃度に調製されたものである。また、処理温度は0~80℃の範囲に設定することができるが、好ましくは10~60℃、更に好ましくは20~40℃である。処理期間は上記条件下で少なくとも1ヶ月以上抽出に付すことができるが、好ましくは1~20ヶ月、更に好ましくは1~10ヶ月である。また、本工程は衛生面やエタノールの揮発等を考慮し、気密、密封あるいは密閉容器内で行うことができるが、密閉容器を使用するのが好ましい。
【0023】
工程2)では、工程1)で得られた抽出物を固液分離後、エタノール溶出画分が回収される。回収物を適宜濃縮することにより、S1PC又はその塩を含む抽出画分を得ることができる。当該抽出画分は、そのまま使用することができるが、適宜、スプレードライなどにより乾燥させて使用することもできる。
【0024】
更に、上記S1PC又はその塩を含む抽出画分からのS1PC又はその塩の単離は、必要に応じて分子排除サイズ3000~4000の透析膜を用いて透析に付し、次いで陽イオン交換樹脂を用いた吸着・分離、順相クロマトグラフィー又は逆相クロマトグラフィーによる分離精製手段を適宜組み合わせることにより行うことができる。
ここで、陽イオン交換樹脂を用いた吸着・分離は、陽イオン交換樹脂(例えば、アンバーライト(ダウ・ケミカル社)、DOWEX(ダウ・ケミカル社製)、DIAION(三菱化学製)等)に吸着させ、0.1~3Nのアンモニア水で溶出させる方法が挙げられる。
順相クロマトグラフィーとしては、例えばシリカゲルカラムを用いて、クロロフォルム/メタノール/水混合物等で溶出させる方法が挙げられる。
逆相クロマトグラフィーとしては、例えばオクタデシルシリルカラムを用いて、0.01~3%ギ酸水溶液等で溶出させる方法が挙げられる。
【0025】
好ましくは、上記エタノール抽出画分を透析(透析膜:分子排除サイズ3000~4000)し、次いで陽イオン交換樹脂に吸着させた後、0.5~2Nのアンモニア水で溶出し、溶出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:クロロフォルム/メタノール/水混合物)に付して目的物を含む画分を回収し、更に分取用逆相カラムクロマトグラフィー(溶媒:0.1~0.5%ギ酸水溶液)に付して目的物を回収する方法が挙げられる。
斯くして得られたS1PCは、トランス体の割合が、トランス体とシス体の合計を100%とした場合に、50~100%であるのがより好ましく、60~100%であるのがより好ましく、70~100%であるのがより好ましい。
【0026】
本発明におけるS1PC又はその塩は、例えば原料の一つであるニンニクの希エタノール抽出液(エキス分14.5%,アルコール数1.18)のLD50値が、経口、腹腔および皮下のいずれの投与経路においても、50ml/Kg以上であること(The Journal of Toxicological Sciences,9,57(1984))およびニンニクやタマネギ等のアリウム属植物が食品として常用されていること、等により一般に低毒性である。
【0027】
後記実施例に示すように、S1PC又はその塩は、ヒト神経芽細胞において、Atg7のタンパク質量を増加させる作用を有する。Atg7は、オートファジーに関与するタンパク質で、特にオートファゴゾームの形成においては必須の重要な因子である。オートファジーの進行につれて発現量が増えることから、オートファジーのマーカーとされている。よって、S1PC又はその塩は、オートファジー活性化作用を有し、オートファジー活性化剤となり得る。
本発明において、「オートファジー」とは、タンパク質凝集体や損傷したオルガネラ等を分解するシステムを意味し、その活性化とはオートファジーの当該機能を促進し高めることを意味する。
【0028】
オートファジーの機能低下は、既に述べたように、神経変性疾患、心血管疾患、肺疾患、感染症等、多くの疾患に関わっているとされている(非特許文献4~13)。したがって、本発明のオートファジー活性化剤は、オートファジーの機能低下により発症する疾患の予防、治療又は改善剤として有用である。
【0029】
例えば、神経変性疾患の一種であるアルツハイマー病は、アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)がセクレターゼによって切断されることにより産生されたアミロイドβが引き金となる。アミロイドβはそれ自身が神経毒性を示すと共に神経細胞表面に沈着し、プラークを形成する。アミロイドβプラークは、微小管結合タンパク質であるタウタンパク質を異常リン酸化し、細胞内で不溶性の凝集体を形成させる。斯かるタウタンパク質の凝集体が細胞内に蓄積し、細胞死を引き起こすことによりアセチルコリンが低下し、アルツハイマー病を発症すると考えられている。また、パーキンソン病は、遺伝性および孤発性に分けられ、孤発性パーキンソン病は、中脳ドーパミン神経の変性を特徴とする神経変性疾患であるが、その原因は、神経細胞内におけるα-シヌクレインの凝集および蓄積によるドーパミン神経の欠落であると考えられている。遺伝性のパーキンソン病は、ユビキチンリガーゼであるパーキンの変異により除去できなかった異常ミトコンドリアや変性タンパク質が蓄積し、発症すると考えられている。斯かる脳神経組織における異常タンパク質や変性タンパク質の凝集及び蓄積は、オートファジーの機能低下が要因となっている(前記非特許文献4,5)。
したがって、S1PC又はその塩は、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の予防、治療又は改善剤としても有用であると考えられ、実際に、S1PC又はその塩は、ヒト神経芽細胞において、アポトーシスの早期に関連するプロテアーゼであるカスパーゼ-3の活性化を抑制する作用を示した。また、オートファジー阻害剤を添加した神経芽細胞において、S1PCを処理することでタウタンパク質の蓄積が抑制されること、すなわちタウタンパク質の除去作用を有することが確認された。
【0030】
その他、オートファジー機能低下により発症し得る疾患としては、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋ジストロフィー、ニーマン・ピック病、心不全、拡張性心筋症、感染症、自己免疫疾患、肥満、糖尿病、動脈硬化、脂肪性肝炎等が挙げられる(前記非特許文献6~13)。
【0031】
本発明のオートファジー活性化は、オートファジーの機能促進を発揮する医薬又は食品であってもよく、或いはこれらに配合して使用される素材又は製剤であってもよい。
【0032】
また、当該食品には、異常タンパク質等の分解促進をコンセプトとし、必要に応じてその機能に基づく作用を説明表示した食品、機能性食品、機能性表示食品、病者用食品、特定保健用食品が包含される。
【0033】
本発明のS1PC又はその塩を含有する医薬の投与形態は、特に限定されるものではなく、経口に適した剤形をとることができるが、経口に適した剤形であることが好ましい。経口投与製剤の具体的な剤形として、例えば、固形剤としては錠剤、カプセル剤、細粒剤、丸剤、顆粒剤、液剤としては乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤等の形態が挙げられる。斯かる医薬製剤は、本発明のS1PC又はその塩に、必要に応じて賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色料、矯味矯臭剤、pH調整剤等を適宜配合し、常法に従って調製することができる。
【0034】
本発明のS1PC又はその塩を含有する食品の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、固形食品、半流動食品、ゲル状食品、錠剤、キャプレット、カプセル剤等、種々の形態をとることができ、更に具体的には、菓子、飲料、調味料、水産加工食品、食肉加工食品、パン、健康食品等の種々の食品の形態であり得る。
斯かる食品は、これらの食品を通常製造する場合に用いられる食品素材と、本発明のS1PC又はその塩を適宜配合し、常法により製造することができる。
【0035】
上記医薬又は食品には、更に、神経細胞索の伸長を促す作用や神経伝達にかかわりのある他の物質、例えば、γ-グルタミル-S-アリルシステインやSACなどの含硫アミノ酸類、ニンジン、イチョウ等の生薬類、グルタミン酸やGABAなどのアミノ酸類を含有することができる。また、炎症を和らげるようなビタミン類、脂質類、ミネラル類、例えば、ビタミンC、ビタミンE,ビタミンB2,ビタミンB6,ナイアシン、ヘスペリジン、α-リポ酸、グルタチオン、コエンザイムQ10、亜鉛、マグネシウム、オメガ3脂肪酸などを含有することができる。
【0036】
上記医薬又は食品の、一日当たりの好ましい摂取量は、摂取する対象、摂取の形態、同時に摂取する素材や添加剤等の種類、摂取の間隔等の要因に依存して変動するものであるが、通常S1PC又はその塩類として、一日当たり0.1~2.7mg/kg摂取することが好ましく、0.3~0.9mg/kg摂取することがより好ましい。また、所望により、この一日量を2~4回に分割して摂取することもできる。
投与又は摂取対象としては、オートファジー機能が低下或いはその可能性があるヒト、神経変性疾患、心血管疾患、肺疾患、感染症等のオートファジー機能の低下によって発症する疾患に罹患したヒト或いはその予防を望むヒト等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
製造例1 S1PC含有植物抽出画分の製造
(1)ニンニクのエタノール抽出画分
外皮を取り除いたニンニク鱗茎約1kgと約1000mLの30%エタノールを容器に入れ密閉した。この容器を室温で1~10ヶ月放置し、適宜攪拌した。この混合物から固体と液体を分離し、液体をスプレードライによって乾燥させ、黄褐色の粉末を得た。
【0038】
(2)タマネギのエタノール抽出画分
外皮を取り除いたタマネギ球を2~4分割し、その約5kgと約5000mLの34%エタノールを容器に入れ密閉した。この容器を室温で1~10ヶ月放置し、適宜攪拌した。この混合物から固体と液体を分離し、液体を減圧濃縮した。
【0039】
(3)ニラのエタノール抽出画分
洗浄したニラを約5~10cmの長さに切り、その約5kgと約5000mLの34%エタノールを容器に入れ密閉した。この容器を室温で1~10ヶ月放置し、適宜攪拌した。この混合物から固体と液体を分離し、液体を減圧濃縮した。
【0040】
製造例2 ニンニクのエタノール抽出画分からのS1PCの単離
(1)製造例1(1)で得られたニンニクのエタノール抽出画分をポアサイズ3500の透析チューブに入れ、精製水に対して透析を行った。透析外液を陽イオン交換樹脂Dowex50Wx8(H+)に通じ、精製水で樹脂を良く洗浄した。樹脂に吸着したアミノ酸類を2Nのアンモニアで溶出させ、減圧濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムに付し、クロロフォルム/メタノール/水混合物を溶媒としてカラムクロマトグラフーを行った。目的物(S1PC)を含む画分を回収し、濃縮した。濃縮物を水に溶解し、分取用逆相カラム(オクタデシルシリルカラム)を用いて、0.1%ギ酸を溶媒としてクロマトグラフを行い、目的物を回収し溶媒を凍結乾燥によって取り除いた。得られた凍結乾燥物は、NMR(溶媒:重水)及び質量分析装置にて、構造を以下に示す標準物質から得られたスペクトルと比較し、トランス-S1PCとシス-S1PC(トランス体:シス体=8:2)の混合物であることを確認した。
【0041】
trans-S1PC
1H-NMR (500 MHz, in D2O-NaOD, δ): 1.76 (d, 3H, J = 7.0 Hz), 2.98 (dd, 1H, J = 7.5, 14.5 Hz), 3.14 (dd, 1H, J = 4.5, 14.5 Hz) 3.69 (dd, 1H, J = 4.5, 7.5Hz), 5.10-5.14 (m, 1H), 6.02(d, 1H, J = 15.5 Hz);
13C-NMR (125 MHz, in D2O-NaOD, δ): 17.61, 33.53, 53.70, 119.92, 132.12, 172.73,
HRMS: observed [M+H]+ = 162.0583, calculated [M+H] + = 162.0581
【0042】
cis-S1PC
1H-NMR (500 MHz, in D2O, δ): 1.74 (d, 3H, J = 7.0 Hz), 3.21 (dd, 1H, J = 7.5, 15.0 Hz), 3.31 (dd, 1H, J = 4.5, 15.0 Hz), 3.95 (dd, 1H, J = 4.5, 7.5 Hz), 5.82-5.86 (m, 1H), 6.01(d, 1H, J = 9.5 Hz);
13C-NMR (125 MHz, in D2O-NaOD, δ): 13.89, 33.88, 54.16, 122.58, 127.78, 172.63.
HRMS: observed [M+H] + = 162.0580, calculated [M+H] + = 162.0581
【0043】
(2)ニンニクのエタノール抽出画分中のS1PCの測定
製造例1(1)で得られたニンニクのエタノール抽出画分を500mgから1g容器に取り、内部標準としてS-n-3-ブテニルシステインの20mM塩酸溶液を加え、20mM塩酸にて20mLとした。良く攪拌した後、一部を取り1750Gにて遠心分離を約10分間行った。得られた上清を一部取り、遠心式ろ過ユニット(Amicon Ultra、cutoff:3000)を用いて遠心ろ過を行った(15000rpm、10分)。得られたろ過物20μLを取り、AccQ・Tag Derivatization Kit(Waters)を用いて誘導体化をおこなった。別途、標準化合物を20mM塩酸に溶解し、試料と同様の操作を行い、検量線用標準液を調製した。試料溶液及び標準液をAcquity UPLCシステム(Waters)にてクロマトグラフを行い、含量を求めた。その結果、S1PCは、3.7±0.3mg/g乾燥物であった。
【0044】
試験例
オートファジー活性化および変異タンパク質分解促進作用
(1)試料の調製
生物活性を評価するための被検液の調製を以下の通り行った。生物活性評価に際し、被検液はいずれも用時調製を行った。
【0045】
製造例1で製造したS1PC(シス/トランス混合物) を約4mg精密に量り取り、培養液1mLに溶解した。この液を原液とし、適宜希釈して試験に供した。
【0046】
(2)評価試験用ヒト神経芽細胞の調製
ヒト神経芽細胞株SH-SY5Y細胞を10%ウシ胎児血清、抗生物質ペニシリン、ストレプトマイシン溶液を添加したダルベッコ改変イーグル培地で培養し、評価試験用細胞とした。
【0047】
(3)ウエスタンブロット法
(a)オートファジー活性化及びタウタンパク質除去作用
上記(2)で調整した評価試験用ヒト神経芽細胞にオカダ酸100nM、S1PCを0.03、0.1および0.3mMの濃度で添加し、6時間培養した。培養後にリン酸緩衝液で洗浄後に、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のプロテアーゼ/ホスファターゼ混合型阻害剤を添加した精製水で10倍に希釈したミリポア社製のRIPA細胞溶解用緩衝液により細胞を溶解した後、遠心(10000 rpm、10分、4℃)し、上清を細胞抽出液とした。この細胞抽出液を用いて定法に従いウエスタンブロッティング法により解析した。抗体は抗Atg7抗体(Cell Signaling Technology社製)、抗4T-タウ抗体(和光純薬社製)、および抗β-アクチン抗体(和光純薬社製)を用いた。結果を
図1に示す。S1PCは、Atg7発現を増加させ、タウタンパク質の除去を促進した。
【0048】
(b)オートファジーを介したタウタンパク質除去作用
上記(2)で調整した評価試験用ヒト神経芽細胞にオカダ酸10nM、S1PCを0.3mMおよびオートファジー阻害剤(3-メチルアデニン)を10mMの濃度で添加し、24時間培養した。上記(a)と同様に細胞抽出液を作製し、定法に従いウエスタンブロッティング法により解析した。抗体は抗Atg7抗体(Cell Signaling Technology社製)、抗4T-タウ抗体(和光純薬社製)および抗β-アクチン抗体(和光純薬社製)を用いた。結果を
図2に示す。
S1PCによるAtg7発現の増加作用及びタウタンパク質の除去作用は、オートファジー阻害剤の添加により抑制された。以上の結果より、S1PCは、オートファジー活性化作用を介してタウタンパク質除去作用を発揮したと云える。
【0049】
(c)アポトーシス抑制作用
上記(2)で調整した評価試験用ヒト神経芽細胞にオカダ酸100nM、S1PCを0.3mMの濃度で添加し、6時間培養した。上記(a)と同様に細胞抽出液を作製し、定法に従いウエスタンブロッティング法により解析した。抗体は抗Caspase-3抗体(Cell Signaling Technology社製)および抗β-アクチン抗体(和光純薬社製)を用いた。結果を
図3に示す。
図3より、S1PCには、Caspase-3の活性化を抑制することが確認された。
Caspase-3は、標的タンパク質を切断することでアポトーシスを誘導することから、S1PCには、アポトーシスを抑制する作用があると云える。
【0050】
(d)タウタンパク質除去作用のSACとの比較
上記(2)で調整した評価試験用ヒト神経芽細胞にオカダ酸50nM、S1PCあるいはSACを0.3mMの濃度で添加し、6時間培養した。上記(a)と同様に細胞抽出液を作製し、定法に従いウエスタンブロッティング法により解析した。抗体は抗4T-タウ抗体(和光純薬社製)および抗β-アクチン抗体(和光純薬社製)を用いた。結果を
図4に示す。
図4よりタウタンパク質は、S1PCの添加により減少し、その効果はSACより優れていた。よって、S1PCは、タウタンパク質の蓄積を伴うアルツハイマー病等の神経変性疾患に有用と考えられる。
【0051】
(e)オートファジーを介したα-シヌクレインタンパク質除去作用
上記(2)で調整した評価試験用ヒト神経芽細胞にロテノン10μM、S1PCを0.3mMおよびオートファジー阻害剤(3-メチルアデニン)を1mMの濃度で添加し、3時間培養した。上記(a)と同様に細胞抽出液を作製し、定法に従いウエスタンブロッティング法により解析した。抗体は抗α-シヌクレイン抗体、抗LC3B抗体(Cell Signaling Technology社製)および抗β-アクチン抗体(株式会社医学生物学研究所製)を用いた。結果を
図5に示す。
S1PCによるLC3B-II発現の増加作用及びα-シヌクレインタンパク質の除去作用は、オートファジー阻害剤の添加により抑制された。
以上の結果より、S1PCは、オートファジー活性化作用を介してα-シヌクレインタンパク質除去作用を発揮したと云える。
【0052】
(f)α-シヌクレインタンパク質除去作用のSACとの比較
上記(3)で調整した評価試験用ヒト神経芽細胞にロテノン500nM、S1PCあるいはSACを0.3mMの濃度で添加し、3時間培養した。上記(a)と同様に細胞抽出液を作製し、定法に従いウエスタンブロッティング法により解析した。抗α-シヌクレイン抗体、抗LC3B抗体(Cell Signaling Technology社製)および抗β-アクチン抗体(株式会社医学生物学研究所製)を用いた。結果を
図6に示す。α-シヌクレインタンパク質は、S1PCの添加により減少し、その効果はSACより優れていた。よって、S1PCは、α-シヌクレインタンパク質の蓄積を伴うパーキンソン病等に有用と考えられる。