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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】酸素貯蔵材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/10 20060101AFI20231215BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20231215BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20231215BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20231215BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20231215BHJP
   B01J 37/06 20060101ALI20231215BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231215BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20231215BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231215BHJP
   C01B 13/00 20060101ALI20231215BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
B01J23/10 A
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01J35/10 301F
B01J37/03 B
B01J37/04 102
B01J37/06
B01J37/08
B82Y30/00
B82Y40/00
C01B13/00 ZAB
F01N3/10 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020537731
(86)(22)【出願日】2019-01-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-15
(86)【国際出願番号】 US2019012480
(87)【国際公開番号】W WO2019136343
(87)【国際公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】62/614,600
(32)【優先日】2018-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513089291
【氏名又は名称】パシフィック インダストリアル デベロップメント コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バートン,アナトリー
(72)【発明者】
【氏名】バートン,ミラ
(72)【発明者】
【氏名】シェパード,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】リー,ユンクイ
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ジン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ラシャペル,ジェフリー
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189655(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196100(WO,A1)
【文献】特開2006-247635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/94
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2~10nmの細孔の割合が20%未満であるメソ多孔性酸素貯蔵材料(OSM)を製造するための方法であって、
(a)ジルコニウムオリゴマー種の酸性予備重合溶液を調製する工程と、
(b)セリウム塩およびセリウム塩以外の1種以上の希土類塩の酸性溶液を前記ジルコニウムオリゴマー種の酸性予備重合溶液に添加し、多価金属含有混合物を作る工程と、
(c)ジルコニウムに対する親和性を示す陰イオンを含む錯化試薬を前記多価金属含有混合物に添加する工程と、
(d)前記多価金属含有混合物と、前記錯化試薬とを相互作用させる工程と、
(e)ジルコニウムベースの前駆体スラリーを形成する工程と、
(f)前記ジルコニウムベースの前駆体スラリーを塩基で中和し、構成要素となるあらゆる金属水酸化物の共沈を達成する工程と、
(g)前記共沈した金属水酸化物を水で洗浄し、陽イオンと陰イオンの混合物を除去する工程と、
(h)前記洗浄した共沈した金属水酸化物を乾燥させる工程と、
(i)前記洗浄した共沈した金属水酸化物を焼成し、前記OSMを形成する工程と、を含み、
工程(a)において、前記重合させたジルコニウムオリゴマーは、30~100重量%の量でジルコニウムオクタマーを含む、方法。
【請求項2】
前記重合させたジルコニウムオリゴマーは、ジルコニアゾル粒子を含まない、請求項1に記載のOSMを製造するための方法。
【請求項3】
前記錯化剤は、硫酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1または2に記載のOSMを製造するための方法。
【請求項4】
前記錯化試薬およびジルコニウムは、ジルコニウムに対する前記錯化剤のモル比が0.35~0.85の範囲になるように存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載のOSMを製造するための方法。
【請求項5】
前記多価金属含有混合物は、水溶性硝酸塩、塩化物、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩またはそれらの組み合わせを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のOSMを製造するための方法。
【請求項6】
前記塩基は、アルカリ金属水酸化物、アンモニア水または水酸化テトラアルキルアンモニウムからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載のOSMを製造するための方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法に従って、ジルコニウム、セリウム、セリウム以外の少なくとも1種の希土類金属を含み、2~10nmの細孔の割合が20%未満であるメソ多孔性酸素貯蔵材料(OSM)を形成する方法であって、
酸化ジルコニウムの含有量が、前記メソ多孔性OSMの総重量に対して20重量%以上である、方法。
【請求項8】
前記酸化ジルコニウムの含有量が40重量%以上である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
酸化セリウムの含有量が、前記メソ多孔性OSMの総重量に対して5重量%~70重量%の範囲である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記セリウム以外の少なくとも1種の希土類金属は、ランタン、ネオジム、プラセオジム、イットリウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記セリウム以外の少なくとも1種の希土類金属は、前記OSMの総重量に対して、0重量%超15重量%以下の範囲の量で存在する、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記メソ多孔性OSMは、600℃で焼成後に全細孔容積が少なくとも0.5cm/gであり、直径2~10nmの細孔の割合が20%未満である、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記メソ多孔性OSMは、800℃で焼成後に全細孔容積が少なくとも0.3cm/gであり、直径2~10nmの細孔の割合が10%未満である、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
1,000℃以上の温度で焼成後の前記メソ多孔性OSMは、、直径2~10nmの細孔の割合が5%未満である、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記メソ多孔性OSMの平均細孔径は、600℃から最大1100℃までの焼成温度範囲で変化しないままである、請求項7~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
車両の排ガスを処理するための、三元触媒、四元触媒、ディーゼル酸化触媒または酸化触媒における、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法によって製造されたOSMの使用。
【請求項16】
車両の排ガスを処理するための、三元触媒、四元触媒、ディーゼル酸化触媒または酸化触媒における、請求項7~14のいずれか1項に記載の方法によって形成されたOSMの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広義には、酸素貯蔵材料、その酸素貯蔵材料の製造法およびその使用に関する。特に、この酸素貯蔵材料は、触媒用途で使用することができる。
【背景技術】
【0002】
「背景技術」の項における説明は単に本開示に関連する背景情報を提供するだけであり、先行技術を構成しない可能性がある。
【0003】
車両の排ガスを処理するための三元触媒では、酸素貯蔵材料(OSM)としてセリウム-ジルコニウム混合酸化物が広く用いられている。OSMをうまく応用するには、OSMが満たすべき要件がいくつかある。これらの要件には、熱安定性の高さ、焼結耐性、貴金属に対する相容性がゆえにOSMの表面に貴金属を十分に分散できることが含まれる。
【0004】
従来のセリア-ジルコニアベースのOSMの製造には、異なる方法が使用される。これらの方法には、特開平5-193948号に記載されているようなゾル-ゲル技術、特開平5-155622号に示されているような試薬間の固相反応、米国特許第6,139,814号に定義されているような含浸が含まれる。熱安定性のあるOSMを製造するのに最も一般的かつ広く用いられる方法は、米国特許第6,171,572号、同第6,214,306号、同第6,255,242号、同第6,387,338号、同第7,431,910号、同第7,919,429号、同第7,927,699号ならびに米国特許出願公開第2016/0207027号に基づく沈殿/共沈である。沈殿/共沈技術で製造されたOSMは、焼結に対する耐性が高く、場合によっては、1100℃でエイジング後の表面積が15~25m/gを超える可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
OSM材料の用途に大きく影響する別の重要な要素に、その多孔性がある。大きな細孔(すなわち、メソ細孔およびマクロ細孔)を有するOSMには、熱安定性の高さだけでなく、ガスを拡散させやすいという利点がある。米国特許第7,642,210号に示されているように、平均孔径が7ナノメートル(nm)~10nmの混合酸化物は、容易に焼結可能である。これに対し、米国特許第7,642,210号、同第7,795,171号、同第7,927,699号、同第8,956,994号に記載されているように、大きな細孔(すなわち、メソ細孔およびマクロ細孔)を有する材料は、かなり耐熱性が高い。細孔が小さい(すなわち、10nm未満のメソ細孔およびミクロ細孔を有する)OSMの別の欠点として、OSMの表面に担持された白金族金属(PGM)が相当な割合でエイジング後に被包されて非活性化することがあげられる。このような面があることから、PGMを無駄にしないようにするために、直径10nm未満の細孔がないか、あってもその割合が小さいOSMのほうが好まれるであろう。したがって、小さな細孔が存在せず、耐焼結性を有し、メソ多孔性が改善された三元触媒(TWC)に求められる要件を満たす酸素貯蔵材料(OSM)が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、広義には、10nm未満の細孔の割合が小さく(フレッシュな状態またはエイジング後)、耐熱焼結性を有し、メソ多孔性が改善された酸素貯蔵材料(OSM)の製造方法を提供する。このOSMは、触媒および触媒担体として使用するのに適している。この酸素貯蔵材料(OSM)を製造するプロセスは、大まかに、予備重合させたジルコニウムオリゴマー、セリウム、希土類および遷移金属塩を含む溶液の調製と、この溶液とジルコニウムに対する親和性のある錯化試薬との相互作用と、ジルコニウムベースの前駆体の形成と、構成要素となるすべての金属水酸化物と塩基との共沈と、を含む。
【0007】
本明細書で提供する説明から、他の応用分野も明らかになるであろう。この説明および具体的な実施例は、例示のみを目的としたものにすぎず、本開示の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示をよく理解することができるように、添付の図面を参照して、例として示す本開示の様々な形態について説明する。
図1図1は、本開示の教示内容による酸素貯蔵材料(OSM)を形成する方法を示すフローチャートの概略図である。
図2図2は、実施例1(破線)および比較例1A(実線)で作製したOSM材料のフレッシュな試料の細孔サイズ分布のグラフ表示である。
図3図3は、実施例1(破線)および比較例1A(実線)で作製した試料を1100℃で2時間エイジングさせた後の細孔サイズ分布のグラフ表示である。
図4図4は、実施例2に従って作製した試料のフレッシュな状態とエイジング後の細孔サイズ分布のグラフ表示である。
【0009】
本明細書にて説明する図面は、例示目的のものにすぎず、どのような形であれ本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明は、本質的に単なる例示であり、決して本開示またはその用途または使用を限定することを意図するものではない。例えば、本開示全体を通して、本明細書に含まれる教示内容に沿って製造され、使用される酸素貯蔵材料(OSM)の組成および使用についてさらに十分に説明するために、このOSMを、車両の排ガス処理に用いられる三元触媒とともに説明する。四元触媒、ディーゼル酸化触媒、酸化触媒などの他の触媒または触媒用途にそのような酸素貯蔵材料を取り入れて使用することは、本開示の範囲内であると考えられる。説明全体を通して、対応する参照番号は、同様のまたは対応する部分および特徴を示すことを理解されたい。
【0011】
本開示は、広義には、メソ多孔性が改善され、直径10nm未満の細孔の割合が小さく、耐焼結性が高められた酸素貯蔵材料(OSM)ならびに、そのようなOSMの製造方法を提供する。このメソポーラスOSMは、直径約2nm~10nmの細孔の割合が20%未満であるか、あるいは15%未満、あるいは10%未満である。
【0012】
図1を参照すると、メソポーラスOSMの製造方法1は、大まかに、工程(a)から工程(i)を含む。工程(a)は、重合させたジルコニウムオリゴマーを含む酸性溶液の調製(5)である。工程(b)では、セリウム塩および希土類塩の酸性溶液をジルコニウム含有溶液に添加(10)し、多価金属含有混合物を作る。工程(c)は、酸性の多価金属含有混合物と、ジルコニウムに対する親和性を示す錯化試薬の溶液との相互作用を可能に(15)する。工程(d)では、ジルコニウムベースの前駆体スラリーが形成(20)される。工程(e)では、ジルコニウム含有前駆体スラリーを塩基で中和(25)し、構成要素となる金属水酸化物の共沈を達成する。工程(f)では、沈殿した混合酸化物材料を水で洗浄(30)し、陽イオンおよび陰イオン混合物を除去する。工程(g)では、周囲温度で、あるいは高温で、沈殿したばかりの混合酸化物材料をエイジング(35)させる。工程(h)では、湿った混合酸化物材料を乾燥(40)させる。最後に、工程(i)では、混合酸化物材料を焼成(45)し、OSMを形成する。
【0013】
方法1の具体的な態様を参照すると、調製(5)される酸性溶液は、溶液の総重量の約30重量%~約100重量%の範囲の量で重合させたジルコニウムオリゴマーを含む溶液を含む。あるいは、重合させたジルコニウムオリゴマーは、35重量%~約90重量%の範囲の量、あるいは40重量%~約80重量%の範囲の量、あるいは30重量%を超える量、あるいは50重量%を超える量、あるいは75重量%を超える量で存在する。
【0014】
重合させたジルコニウムオリゴマー溶液は、既知のどのような方法で調製(5)されてもよい。こうした方法として、電気透析による電荷平衡カウンター陰イオンの部分的除去、脂肪族アミンを用いるか陰イオン交換樹脂での処理による陰イオン抽出、フレッシュな状態の水酸化ジルコニウムの酸への溶解、あるいは、酸性媒体中でオキシ塩化ジルコニウム溶液とHを形成する、塩化物イオンとの酸化還元反応の使用を含み得るが、それらに限定されるものではない。重合させたジルコニウム種をジルコニウム源として使用すると、オキシ塩化ジルコニウムの場合は、ジルコニア核形成の開始ブロックが異なる度合いでジルコニウム四量体単位からジルコニウムオリゴマー種(オクタマーなど)に変わり、これによって核の大きさの平均値が大きくなり、その形態が変化する。望ましい場合、重合させたジルコニウムオリゴマーは、約30~100%の範囲、あるいは約40%~約90%の範囲の量でジルコニウムオクタマーを含み得る。重合させたジルコニウムオリゴマーは、ジルコニアゾル粒子を含まない。
【0015】
方法1の別の態様は、多価金属反応混合物に錯化剤を添加(15)することである。錯化剤は、ジルコニウムに対する親和性のある陰イオンを含み得る。錯化剤は、硫酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩およびそれらの組み合わせを含む、それらからなる、または本質的にそれらからなる群から選択されてもよい。ジルコニウム錯化剤(ZCA)の量が、ZCA/ZrO2のモル比が約0.35~約0.85になるように選択されると、錯化剤がジルコニウムオリゴマーの表面に吸着され、それによって錯化剤は反応部位を占有し、反応部位がそれ以上重合反応に関与しないようにこれを保護する。あるいは、ZCA/ZrO2比が、0.40~0.80であるか、あるいは0.50~0.70である。その結果、中和反応(例えば、塩基の追加)の間、ヒドロキシルイオンがゆえに生じる競合と、その大きさ、形態、充填方法への影響により、錯化剤によって水酸化ジルコニウムの一次粒子の形成速度が低下する(例えば、緩く会合した二次凝集体の形成が可能になる)。沈殿物をさらに乾燥させて焼成すると、混合酸化物材料の開骨格構造が安定し、メソ多孔性が改善され、小さな細孔(10nm未満)が存在せず、熱安定性が向上した材料が形成される。
【0016】
この方法のさらに別の態様によれば、多価金属含有混合物は、水溶性硝酸塩、塩化物、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩またはそれらの組み合わせを含むが、これに限定されるものではない。沈殿に用いられる塩基は、アルカリ水酸化物、アンモニア水または水酸化テトラアルキルアンモニウムから選択することができる。
【0017】
本発明の酸素貯蔵材料は、ジルコニウム、セリウム、セリウム以外の少なくとも1種の希土類金属を含む、それらからなる、または本質的にそれらからなる特定の組成によっても特徴付けられる。酸素貯蔵材料の酸化ジルコニウムは、20重量%以上、あるいは40重量%以上である。本開示のOSMにおける酸化セリウムの含有量は、約5重量%~約70重量%の量で存在する。あるいは、OSMの酸化セリウムの含有量は、約10重量%~約60重量%であるか、あるいは約20重量%~約50重量%である。
【0018】
本開示の別の態様によれば、OSMは、セリウム以外の1種以上の希土類金属を含む。これらの希土類金属には、ランタン、ネオジム、プラセオジム、イットリウムまたはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されるものではない。希土類金属は、OSMの総重量に対して、0重量%から最大15重量%までの範囲の量で存在し得る。あるいは、希土類金属は、OSMの総重量に対して、0重量%より多く15重量%未満の量で存在するか、あるいは約5重量%~10重量%の量で存在する。
【0019】
本開示の別の態様によれば、600℃で焼成後のOSMでは、全細孔容積(PV)が少なくとも0.5cm/gであり、直径10nm未満の細孔の割合は20%未満である。800℃で焼成後のOSMでは、全細孔容積が少なくとも0.3cm/gであり、直径10nm未満の細孔の割合は10%未満である。フレッシュな状態のOSMは、平均細孔半径が約15nm~約35nmの範囲、あるいは20nm~30nmの範囲にある、単峰性の細孔サイズ分布を示す。
【0020】
OSMにおける直径10nm未満の細孔の割合は、1000℃以上でのエイジング後に5%未満である。エイジングさせたOSMは、平均細孔半径が約20nm~約40nmの範囲、あるいは25nm~35nmの範囲にある、単峰性の細孔サイズ分布を示す。本開示の別の態様によれば、OSMの平均細孔径は、約600℃から最大約1100℃までの広い焼成温度範囲で基本的に変化しないままである。
【0021】
本開示の目的のために、本明細書では、当業者に知られている想定される変動(測定値の限界とばらつきなど)による測定可能な値および範囲に関して、「約」および「実質的に」という表現を使用する。
【0022】
本開示の目的のために、「重量」という用語は、単位がグラム、キログラムなどになる質量の値をいう。また、上限値と下限値によって数値の範囲に言及する場合、上限値および下限値それ自体ならびに、その数値の範囲に包含されるすべての数を含む。例えば、40重量%~60重量%という範囲の濃度は、40重量%、60重量%、その間のすべての濃度(例えば、40.1%、41%、45%、50%、52.5%、55%、59%など)を含む。
【0023】
本開示の目的のために、「少なくとも1」および「1以上の」要素という表現を同義に使用し、これらの表現が同じ意味を持つ場合がある。これらの表現は、単一の要素または複数の要素を含むことを示し、要素の末尾に接尾辞「(s)」を付してそのことを表す場合もある。例えば、「少なくとも1種のポリウレタン」、「1種以上のポリウレタン」および「ポリウレタン(polyurethane(s))」を同義に使用する場合があり、これらに同じ意味を持たせることを意図している。
【0024】
以下の具体的な実施例は、本開示の教示内容に従って形成した酸素貯蔵材料を示すためのものであり、本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書に開示した特定の実施形態には多くの変更を加えることができ、それでもなお、本開示の意図または範囲から逸脱したりこれを超えたりすることなく同等または類似の結果を得られることが、当業者であれば本開示に照らして自明であろう。また、本明細書で報告した特性が、日常的に測定され、複数の異なる方法で得られる特性を表すことも、当業者であれば理解するであろう。本明細書に記載の方法は、そのような方法の1つを表し、本開示の範囲を超えることなく他の方法を利用することができる。
【実施例
【0025】
実施例1A-OSMの調製
【0026】
ZrOCl*8HO結晶を合計97.0g、200gのDI水に溶解させる。次に、27.9重量%の硝酸セリウム(III)溶液35.8g、25.4重量%の硝酸プラセオジム溶液9.8g、25.3重量%の硝酸ランタン溶液9.9gを、ジルコニウム含有溶液に加える。この多価金属含有混合物を、OH形態のDOW Amberlite PWA15樹脂300gの入ったカラムに通し、予備重合させたジルコニウムオリゴマーを形成する。次に、20重量%のNaSO溶液合計90gを多価金属混合物に加えた後、反応混合物のpHが13に達するまで20重量%のNaOH溶液をゆっくりと加える。形成される沈殿物をブフナーフィルターで濾過し、脱イオン水で洗浄して、過剰な塩化物、硝酸塩、硫酸塩、ナトリウムイオンを除去する。
【0027】
回収した湿った沈殿物を、130℃の電気オーブンで約12時間乾燥させた後、空気中にて700℃で2時間焼成する。焼成後のOSMを、さらに1100℃で2時間エイジングさせる。700℃での焼成後(図2参照)と1,100℃でのエイジング後(図3参照)の両方について、OSM材料の細孔半径を測定する。
【0028】
実施例1C-比較例のOSMの調製
【0029】
ZrOCl*8HO結晶を合計97.0g、200gの脱イオン(DI)水に溶解させる。次に、27.9重量%の硝酸セリウム(III)溶液35.8g、25.4重量%の硝酸プラセオジム溶液9.8g、25.3重量%の硝酸ランタン溶液9.9gを、ジルコニウム含有溶液に加える。次に、20重量%のNaSO溶液90gを多価金属混合物に加えた後、反応混合物のpHが13に達するまで20重量%のNaOH溶液をゆっくりと加える。形成された沈殿物をブフナーフィルターで濾過し、脱イオン水で洗浄して、過剰な塩化物、硝酸塩、硫酸塩、ナトリウムイオンを除去する。
【0030】
回収した湿った沈殿物を、130℃の電気オーブンで約12時間乾燥させた後、空気中にて700℃で2時間焼成する。焼成後の試料を、さらに1100℃で2時間エイジングさせる。700℃での焼成後(図2参照)と1,100℃でのエイジング後(図3参照)の両方について、従来のBrunauer-Emmett-Teller(BET)およびBarrett-Joyner-Halenda(BHJ)分析法で、TriStar Micromeritics Inc.の分析装置を用いてOSM材料の表面積と細孔サイズ分布を測定する。
【0031】
実施例2-OSMの調製
【0032】
予備重合させたジルコニウム含有溶液の調製は、塩基性炭酸ジルコニウム(41.3重量%のZrO2)30.3gを含有するスラリー100gを、得られる溶液が透明になるまで、23.4重量%のZrOCl溶液53.4gと混合することを含む。次に、27.8重量%の硝酸セリウム(III)溶液63g、29.65重量%の硝酸ネオジム溶液13.5g、18.3重量%の硝酸ランタン溶液5.45g、19.3重量%の硝酸イットリウム溶液12.95gを、ジルコニウム含有溶液に加える。次に、20重量%のNaSO溶液71.6gを多価金属混合物に加えた後、反応混合物のpHが13に達するまで20重量%のNaOH溶液をゆっくりと加える。形成された沈殿物をブフナーフィルターで濾過し、脱イオン水で洗浄して、過剰な塩化物、硝酸塩、硫酸塩、ナトリウムイオンを除去する。
【0033】
回収した湿った沈殿物を、130℃の電気オーブンで12時間乾燥させた後、空気中にて600℃で2時間焼成する。焼成後の試料を、さらに1000℃~1100℃で2時間エイジングさせる。
【0034】
実施例3-OSMの調製
【0035】
ZrOCl*8HO 63.5gと、27.9重量%の硝酸セリウム(III)溶液62.7gと、29.65重量%の硝酸ネオジム溶液13.5gと、18.3重量%の硝酸ランタン溶液5.45gと、19.3重量%の硝酸イットリウム溶液12.95gとを、脱イオン(DI)水1000gと混合することによって、Zr塩、Ce塩、Nd塩、La塩、Y塩を含有する溶液を調製する。次に、10重量%のNaOH溶液65gを多価金属含有溶液に加え、透明な溶液が形成されるまで混合する。次に、20重量%のNaSO溶液合計64gを、重合させたジルコニウムオリゴマーを含有する溶液に加えた後、反応混合物のpHが13に達するまで20重量%のNaOH溶液をゆっくりと加える。形成された沈殿物をブフナーフィルターで濾過し、脱イオン水で洗浄して、過剰な塩化物、硝酸塩、硫酸塩、ナトリウムイオンを除去する。
【0036】
回収した湿った沈殿物を、まず130℃の電気オーブンで12時間乾燥させた後、空気中にて800℃で2時間焼成する。焼成後の試料を、さらに1100℃で2時間エイジングさせる。
【0037】
実施例4-OSMの特性の測定
【0038】
実施例1A、1C、2および3で調製したOSMの表面積(SA)および細孔容積(PV)を、700℃での焼成後と1,100℃でのエイジング後に測定する。OSMの表面積については、Micromeritics Tristar II分析装置で従来のBET分析法を用いて測定する。OSMの細孔容積については、Micromeritics Tristar II分析装置で従来のBJH分析法を用いて測定する。測定結果を表1にまとめておく。
【0039】
【表1】
【0040】
この実施例は、本開示の教示内容に従って調製したOSM(実施例1A、2、3)の表面積および細孔容積が、最初の焼成後と高温でのエイジング後のどちらも比較例1Cの表面積および細孔容積より大きいことを示している。しかしながら、本開示のフレッシュな状態のOSMとエイジング後のOSM(実施例1A、2、3)の細孔容積(PV)が参考例のOSM(実施例1C)の細孔容積よりはるかに大きい事実にもかかわらず、直径10nm未満の小さな細孔の容積は、参考例の材料(実施例1C)の場合よりも大幅に小さい。本発明のフレッシュな状態のOSMとエイジング後のOSMにおける小さな細孔(<10nm)の容積の割合は、それぞれ8~17%および4~5%であるのに対し、参考例のOSM(実施例1C)では44%および25%である。
【0041】
実施例2に従って調製したフレッシュな状態のOSMとエイジング後のOSMについて測定した細孔サイズ分布を図4にあげておく。図4に示すように、このOSMの平均細孔サイズは約40~45nmであり、600℃から最大1100℃までの広い焼成温度範囲で変化しないままである。観察可能な唯一の変化は、全細孔容積が徐々に減少することである。これは、本開示の予想外の結果である。なぜなら、焼成温度の上昇に伴って小さな細孔が徐々に崩壊し、平均細孔サイズ直径も大きくなるのが一般的な結果だからである。
【0042】
本明細書では、明確かつ簡潔な明細書を記載できるように実施形態を説明してきたが、本発明から逸脱することなく実施形態を様々に組み合わせたり分離したりしてもよいことが意図されており、その旨が理解されるであろう。例えば、本明細書に記載のすべての好ましい特徴は、本明細書に記載の本発明のすべての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0043】
本発明の様々な形態の前述の説明は、例示および説明の目的で提示したものである。網羅的であることを意図したものではなく、開示された正確な形態に本発明を限定することを意図したものでもない。上記の教示内容に照らして、多くの改変例または変形例が可能である。ここで論じた形態は、本発明の原理およびその実用的な用途を最も良く示すことで、当業者が考える特定の用途に適した様々な形態および様々な改変を施した形で本発明を利用できるようにするために選択して説明したものである。そのような改変例および変形例はいずれも、公正かつ合法的、正当に権利が与えられる外延に従って解釈されるとき、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲内である。
図1
図2
図3
図4