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特許7403480二重特異性抗CD3×MUC16抗体および抗PD-1抗体で癌を治療する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】二重特異性抗CD3×MUC16抗体および抗PD-1抗体で癌を治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20231215BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231215BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20231215BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20231215BHJP
【FI】
A61K39/395 U
A61K39/395 T
A61P35/00 ZNA
A61P43/00 121
A61K47/68
A61K47/55
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020570938
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 US2019038163
(87)【国際公開番号】W WO2019246356
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】62/688,251
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】アリソン・クロフォード
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/053856(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/099978(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/112775(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MUC16を発現する腫瘍を治療またはその増殖を阻害する方法において、MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームとCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームとを含む治療有効量の二重特異性抗体と組み合わせて使用するための、プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する治療有効量の抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物であって、前記方法は、それを必要としている対象に、前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片と、前記二重特異性抗体とを投与することを含み、
ここで:
(a)前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、3つの重鎖相補性決定領域、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3と、3つの軽鎖相補性決定領域、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3とを含み、前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3は、それぞれ、配列番号35、36、37、38、39、および40のアミノ酸配列を含み;
(b)前記二重特異性抗体の前記第1の抗原結合アームは、3つの重鎖相補性決定領域、A-HCDR1、A-HCDR2、およびA-HCDR3と、3つの軽鎖相補性決定領域、A-LCDR1、A-LCDR2、およびA-LCDR3とを含み、前記A-HCDR1、A-HCDR2、A-HCDR3、A-LCDR1、A-LCDR2、およびA-LCDR3は、それぞれ、配列番号8、9、10、11、12、および13のアミノ酸配列を含み;
(c)前記二重特異性抗体の前記第2の抗原結合アームは、3つの重鎖相補性決定領域、B-HCDR1、B-HCDR2、およびB-HCDR3と、3つの軽鎖相補性決定領域、B-LCDR1、B-LCDR2、およびB-LCDR3とを含み、前記B-HCDR1、B-HCDR2、B-HCDR3、B-LCDR1、B-LCDR2、およびB-LCDR3は、それぞれ、配列番号14、15、16、11、12、および13、または、それぞれ、26、27、28、11、12、および13のアミノ酸配列を含む;
上記医薬組成物。
【請求項2】
MUC16を発現する腫瘍を治療またはその増殖を阻害する方法において、プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する治療有効量の抗体またはその抗原結合断片と組み合わせて使用するための、MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームとCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームとを含む治療有効量の二重特異性抗体を含む医薬組成物であって、前記方法は、それを必要としている対象に、前記二重特異性抗体と、前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片とを投与することを含み、
ここで:
(a)前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、3つの重鎖相補性決定領域、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3と、3つの軽鎖相補性決定領域、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3とを含み、前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3は、それぞれ、配列番号35、36、37、38、39、および40のアミノ酸配列を含み;
(b)前記二重特異性抗体の前記第1の抗原結合アームは、3つの重鎖相補性決定領域、A-HCDR1、A-HCDR2、およびA-HCDR3と、3つの軽鎖相補性決定領域、A-LCDR1、A-LCDR2、およびA-LCDR3とを含み、前記A-HCDR1、A-HCDR2、A-HCDR3、A-LCDR1、A-LCDR2、およびA-LCDR3は、それぞれ配列番号8、9、10、11、12、および13のアミノ酸配列を含み;
(c)前記二重特異性抗体の前記第2の抗原結合アームは、3つの重鎖相補性決定領域、B-HCDR1、B-HCDR2、およびB-HCDR3と、3つの軽鎖相補性決定領域、B-LCDR1、B-LCDR2、およびB-LCDR3とを含み、前記B-HCDR1、B-HCDR2、B-HCDR3、B-LCDR1、B-LCDR2、およびB-LCDR3は、それぞれ、配列番号14、15、16、11、12、および13、または、それぞれ、26、27、28、11、12、および13のアミノ酸配列を含む;
上記医薬組成物。
【請求項3】
前記方法は:
(a)前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を、前記二重特異性抗体の前に、同時にまたは後に投与すること;
(b)前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を、前記二重特異性抗体の前に投与すること;または
(c)前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の1回以上の用量を、前記二重特異性抗体の1回以上の用量と組み合わせて投与すること、
を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記方法は、前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を、前記二重特異性抗体の少なくとも1週間前に投与することを含む、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記方法は:
(a)前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を、前記対象の体重1kg当たり0.1mg/kg~20mg/kgの用量で投与すること;
(b)前記二重特異性抗体を、前記対象の体重1kg当たり0.1mg/kg~20mg/kgの用量で投与すること;
(c)前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の各用量を、直前の用量の0.5~12週間後に投与すること;
(d)前記二重特異性抗体の各用量を、直前の用量の0.5~12週間後に投与すること;および/または
(e)前記抗体を、静脈内、皮下、または腹腔内に投与すること、
を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の各用量が、10~8000マイクログラムを含む、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記二重特異性抗体の各用量が、10~8000マイクログラムを含む、請求項5または6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
(a)前記腫瘍は、卵巣癌を含む、または前記腫瘍は、膵臓癌を含む;および/または
(b)前記対象は、以前の療法に耐性があるか、もしくは応答が不十分であるか、または以前の療法後に再発している、
請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記方法は、第3の治療薬または療法を前記対象に投与することをさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記第3の治療薬または療法は、放射線、手術、化学療法剤、癌ワクチン、PD-L1阻害剤、LAG-3阻害剤、CTLA-4阻害剤、TIM3阻害剤、BTLA阻害剤、TIGIT阻害剤、CD47阻害剤、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニスト、アンギオポエチン-2(Ang2)阻害剤、形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害剤、上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤、腫瘍特異的抗原に対する抗体、カルメット-ゲラン桿菌ワクチン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、細胞毒素、インターロイキン6受容体(IL-6R)阻害剤、インターロイキン4受容体(IL-4R)阻害剤、IL-10阻害剤、IL-2、IL-7、IL-21、IL-15、抗体-薬物複合体、抗炎症剤、および栄養補助食品からなる群より選択される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記二重特異性抗体の前記第1の抗原結合アームは、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)とを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記二重特異性抗体の前記第2の抗原結合アームの、前記B-HCDR1、B-HCDR2、B-HCDR3、B-LCDR1、B-LCDR2、およびB-LCDR3は、それぞれ、配列番号14、15、16、11、12、および13のアミノ酸配列を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記二重特異性抗体の前記第2の抗原結合アームは、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)とを含む、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記二重特異性抗体の前記第2の抗原結合アームの、前記B-HCDR1、B-HCDR2、B-HCDR3、B-LCDR1、B-LCDR2、およびB-LCDR3は、それぞれ配列番号26、27、28、11、12、および13のアミノ酸配列を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記二重特異性抗体の前記第2の抗原結合アームが、配列番号7のアミノ酸配列を含むHCVRと、配列番号2のアミノ酸配列を含むLCVRとを含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記PD-1に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が、配列番号33のアミ
ノ酸配列を含むHCVRと、配列番号34のアミノ酸配列を含むLCVRとを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記二重特異性抗体が、配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖と対をなす配列番号29のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と、配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖と対をなす配列番号31のアミノ酸配列を含む第2の重鎖とを含む、請求項1~13および16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記二重特異性抗体が、配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖と対をなす配列番号29のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と、配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖と対をなす配列番号32のアミノ酸配列を含む第2の重鎖とを含む、請求項1~11および1416のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記PD-1に特異的に結合する抗体が、配列番号41のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号42のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の参照
本出願は、2019年6月12日に作成され、33,567バイトを含むファイル10469WO01-Sequence.txtとしてコンピュータ可読形式で提出された配列表を参照により組み入れる。
【0002】
本発明は、癌を治療する方法に関し、この方法は、それを必要とする対象に、ムチン16(MUC16)およびCD3に結合する二重特異性抗体と組み合わせて、プログラム細胞死1(PD-1)受容体に特異的に結合する治療有効量の抗体を投与することを含む。
【背景技術】
【0003】
癌抗原125、細胞癌抗原125、炭水化物抗原125、またはCA-125としても既知であるムチン16(MUC16)は、卵巣癌において高発現する内在性膜糖タンパク質が高度にグリコシル化された単一の膜貫通ドメインである。MUC16は、3つの主要ドメイン、すなわち細胞外N末端ドメイン、ウニ精子、エンテロキナーゼ、およびアグリン(SEA)ドメインが点在する大きな縦列反復ドメイン、ならびに膜貫通領域のセグメントおよび短い細胞質テールを含むカルボキシル末端ドメイン、からなる。タンパク質分解の切断は、MUC16の細胞外部分の血流への流出をもたらす。MUC16は、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、非小細胞肺癌、肝内胆管癌-腫瘤形成型、子宮頸部腺癌、および胃腸腺癌を含む癌、ならびに炎症性腸疾患、肝硬変、心不全、腹膜感染症および腹部手術を含む疾患および病態において過剰発現する。(非特許文献1)。癌細胞上での発現は腫瘍細胞を免疫系から保護することが示されている。(非特許文献2)。MUC16に対する抗体を使用して卵巣癌を治療するための方法が研究されている。オレゴボマブおよびアブゴボマブは、限られた成果を収めた抗MUC16抗体である。(非特許文献3)。
【0004】
CD3は、T細胞受容体複合体(TCR)と共にT細胞上に発現されるホモ二量体またはヘテロ二量体抗原であり、T細胞活性化に必要とされる。機能的CD3は、4つの異なる鎖:イプシロン、ゼータ、デルタ、およびガンマのうちの2つの二量体会合から形成される。CD3の二量体配置は、ガンマ/イプシロン、デルタ/イプシロン、およびゼータ/ゼータを含む。CD3に対する抗体はT細胞上でCD3をクラスター化し、それによってペプチド負荷MHC分子によるTCRの関与と同様の様式でT細胞活性化を引き起こすことが示されている。したがって、抗CD3抗体はT細胞の活性化を含む治療目的のために提案されている。さらに、CD3および標的抗原に結合することができる二重特異性抗体は、標的抗原を発現する組織および細胞に対するT細胞免疫応答を標的とすることを含む治療的使用のために提案されている。
【0005】
腫瘍微小環境におけるプログラム細胞死1(PD-1)受容体シグナル伝達は、腫瘍細胞が宿主免疫系による免疫監視を回避することを可能にする上で重要な役割を果たす。PD-1シグナル伝達経路の遮断は、多発腫瘍型を有する患者で臨床効果を示しており、PD-1を遮断する抗体療法(例えば、ニボルマブおよびペムブロリズマブ)は、転移性黒色腫ならびに転移性扁平上皮非小細胞肺癌の治療用に承認されている。最近のデータは、高悪性度NHLおよびホジキンリンパ腫を有する患者でPD-1遮断の臨床効果を示している(非特許文献4)。
【0006】
卵巣癌は、婦人科悪性腫瘍の中で最も致死性が高く、アメリカ人女性の卵巣癌の新規症例の推定数は他の特定の癌よりもはるかに少ないが、卵巣癌の罹患率に対する死亡率は、大幅に高くなっている(非特許文献5)。卵巣癌は、進行期で診断されることが多く、その致死性の一因となっている。卵巣癌に対する現在の標準治療は、手術であり、続いて化学療法、すなわち白金剤とタキサンとの組み合わせである。大多数の患者は初回治療に対して応答するが、ほとんどの患者は疾患の再発を経験し、手術と追加の化学療法のサイクルを繰り返すことになる。再発性卵巣癌はさらなる治療に対して応答する可能性があるが、ほぼ全てが、最終的に現在利用可能な療法に対して耐性を示すようになる。BRCAまたは他の相同組換え修復欠損(HRD)変異を保有する患者に対するPARP阻害剤などの療法の最近の進歩にもかかわらず、進行卵巣癌は、依然としてアンメットニーズが高い疾患である。
【0007】
証拠は、卵巣癌がいくつかの形式の免疫療法に適し得ることを示唆している(非特許文献6)。例えば、腫瘍が上皮内CD8Tリンパ球浸潤について陽性であった卵巣癌患者は、上皮内CD8Tリンパ球浸潤のない患者よりも、全生存期間および無増悪生存期間が著しく優れていた(非特許文献7;および非特許文献8)。さらに一部の患者は、進行疾患を有する患者の血液、腫瘍または腹水中の腫瘍反応性T細胞および抗体の検出によって示されるように、腫瘍に対して自然免疫応答を示す(非特許文献9)。PD-1/PD-L1チェックポイント経路の遮断は、卵巣癌ではいくつかのベネフィットを示しており、PD-1遮断単剤療法は、初期の臨床試験で約10~15%の全奏効率(ORR)をもたらした(非特許文献10)。ただし、この経路の遮断だけでは明らかに十分ではない。
【0008】
卵巣癌の有効な療法に対するアンメットニーズが高いことから、本明細書に示されるように、標的抗原に対する薬剤(二重特異性抗MUC16抗体/抗CD3抗体)と共に、T細胞の機能を増強する薬剤(例えば、抗PD-1抗体などのPD-1阻害剤)による治療を組み合わせることが有用であり得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Haridas,D.et al.,2014,FASEB J.,28:4183-4199
【文献】Felder,M.et al.,2014,Molecular Cancer,13:129
【文献】Felder,supra,Das,S.and Batra,S.K.2015,Cancer Res.75:4660-4674
【文献】Lesokhin,et al.2014,Abstract 291,56th ASH Annual Meeting and Exposition,San Francisco,Calif.;Ansell et al.2015,N.Engl.J.Med.372(4):311-9
【文献】Siegal et al.,CA Cancer J Clin 66:7-30,2016
【文献】Kandalaft et al.,J.Clin.Oncol.,29:925-933,2011
【文献】Hamanishi et al.,PNAS,104:3360-65,2007
【文献】Zhang et al.,N.Engl.J.Med.,348:203-213,2003
【文献】Schliengar et al.,Clin Cancer Res,9:1517-1527,2003
【文献】Hamanishi et al.,supra
【発明の概要】
【0010】
ある特定の実施形態によれば、本発明は、対象において癌を治療する、少なくとも1つの癌の症状もしくは徴候を寛解する、または癌の増殖を阻害するための方法を提供する。本発明のこの態様による方法は、プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する治療有効量の抗体またはその抗原結合断片を、MUC16およびCD3に特異的に結合する治療有効量の二重特異性抗体と組み合わせて、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0011】
本発明のある特定の実施形態では、対象において癌を治療する、少なくとも1つの癌の症状もしくは徴候を寛解する、または癌の増殖を阻害するための方法が提供される。本発明のある特定の実施形態では、腫瘍の増殖を遅延させる、または腫瘍再発を予防するための方法が提供される。本発明のこの態様および他の態様による方法は、PD-1に特異的に結合する治療有効量の抗体またはその抗原結合断片の1回以上の用量を、MUC16およびCD3に特異的に結合する治療有効量の二重特異性抗体の1回以上の用量と組み合わせて、それを必要とする対象に連続的に投与することを含む。
【0012】
一態様では、本発明は、腫瘍を治療またはその増殖を阻害する方法を提供し、この方法は、それを必要とする対象に(a)プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する治療有効量の抗体またはその抗原結合断片と、(b)MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む治療有効量の二重特異性抗体とを投与することを含む。場合によっては、抗PD-1抗体は、二重特異性抗体の前に、同時にまたは後に投与される。場合によっては、抗PD-1抗体は、二重特異性抗体の前に投与される。場合によっては、抗PD-1抗体は、二重特異性抗体の少なくとも1週間前に投与される。場合によっては、抗PD-1抗体の1回以上の用量は、二重特異性抗体の1回以上の用量と組み合わせて投与される。場合によっては、抗PD-1抗体は、対象の体重1kg当たり0.1mg/kg~20mg/kgの用量で投与される。場合によっては、抗PD-1抗体の各用量は、10~8000マイクログラムを含む。場合によっては、二重特異性抗体は、対象の体重1kg当たり0.1mg/kg~20mg/kgの用量で投与される。場合によっては、二重特異性抗体の各用量は、10~8000マイクログラムを含む。場合によっては、抗PD-1抗体の各用量は、直前の用量の0.5~12週間後に投与される。場合によっては、二重特異性抗体の各用量は、直前の用量の0.5~12週間後に投与される。様々な実施形態では、抗体は、静脈内、皮下、または腹腔内に投与される。
【0013】
いくつかの実施形態では、腫瘍は卵巣癌を含む。いくつかの実施形態では、対象は、以前の療法に耐性があるか、もしくは応答が不十分であるか、または以前の療法後に再発している。
【0014】
場合によっては、この方法は、第3の治療薬または療法を対象に投与することをさらに含む。いくつかの実施形態では、第3の治療薬または療法は、放射線、手術、化学療法剤、癌ワクチン、PD-L1阻害剤、LAG-3阻害剤、CTLA-4阻害剤、TIM3阻害剤、BTLA阻害剤、TIGIT阻害剤、CD47阻害剤、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニスト、アンギオポエチン-2(Ang2)阻害剤、形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害剤、上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤、腫瘍特異的抗原に対する抗体、カルメット-ゲラン桿菌ワクチン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、細胞毒素、インターロイキン6受容体(IL-6R)阻害剤、インターロイキン4受容体(IL-4R)阻害剤、IL-10阻害剤、IL-2、IL-7、IL-21、IL-15、抗体-薬物複合体、抗炎症剤、および栄養補助食品からなる群より選択される。
【0015】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含む。場合によっては、HCDR1は配列番号35のアミノ酸配列を含み、HCDR2は配列番号36のアミノ酸配列を含み、HCDR3は配列番号37のアミノ酸配列を含み、LCDR1は配列番号38のアミノ酸配列を含み、LCDR2は配列番号39のアミノ酸配列を含み、LCDR3は配列番号40のアミノ酸配列を含む。場合によっては、HCVRは配列番号33のアミノ酸配列を含み、LCVRは配列番号34のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、配列番号41のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号42のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体の第1の抗原結合アームは、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の3つの重鎖CDR(A-HCDR1、A-HCDR2およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の3つの軽鎖CDR(A-LCDR1、A-LCDR2およびA-LCDR3)とを含む。場合によっては、A-HCDR1は配列番号8のアミノ酸配列を含み、A-HCDR2は配列番号9のアミノ酸配列を含み、A-HCDR3は配列番号10のアミノ酸配列を含み、A-LCDR1は配列番号11のアミノ酸配列を含み、A-LCDR2は配列番号12のアミノ酸配列を含み、A-LCDR3は配列番号13のアミノ酸配列を含む。場合によっては、A-HCVRは配列番号1のアミノ酸配列を含み、A-LCVRは配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体の第2の抗原結合アームは、配列番号3、4、5、6および7からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む。場合によっては、B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3は、配列番号14-15-16、17-18-19、20-21-22、23-24-25および26-27-28からなる群より選択されるアミノ酸配列をそれぞれ含み、B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3は、配列番号11-12-13のアミノ酸配列をそれぞれ含む。場合によっては、B-HCVRは、配列番号3、4、5、6および7からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、B-LCVRは配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体の第2の抗原結合アームは、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体の第2の抗原結合アームは、配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体の第2の抗原結合アームは、配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体の第2の抗原結合アームは、配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体の第2の抗原結合アームは、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体、二重特異性抗体、またはそれらの両方が、ヒトIgG1またはIgG4重鎖定常領域を含む。
【0024】
別の態様では、本発明は、腫瘍を治療またはその増殖を阻害する方法を提供し、この方法は、それを必要とする対象に(a)プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する治療有効量の抗体またはその抗原結合断片と、(b)MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む治療有効量の二重特異性抗体とを投与することを含み、ここで(a)抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含み、(b)二重特異性抗体の第1の抗原結合アームは、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の3つの重鎖CDR(A-HCDR1、A-HCDR2およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の3つの軽鎖CDR(A-LCDR1、A-LCDR2およびA-LCDR3)とを含み、(c)二重特異性抗体の第2の抗原結合アームは、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む。
【0025】
この方法のいくつかの実施形態では、抗PD-1抗体および二重特異性抗体は、それぞれ以下を含む:(a)HCDR1が配列番号35のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号36のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号37のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号38のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号39のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号40のアミノ酸配列を含み、(b)A-HCDR1が配列番号8のアミノ酸配列を含み、A-HCDR2が配列番号9のアミノ酸配列を含み、A-HCDR3が配列番号10のアミノ酸配列を含み、A-LCDR1が配列番号11のアミノ酸配列を含み、A-LCDR2が配列番号12のアミノ酸配列を含み、A-LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含み、(c)B-HCDR1が配列番号14のアミノ酸配列を含み、B-HCDR2が配列番号15のアミノ酸配列を含み、B-HCDR3が配列番号16のアミノ酸配列を含み、B-LCDR1が配列番号11のアミノ酸配列を含み、B-LCDR2が配列番号12のアミノ酸配列を含み、B-LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含む。
【0026】
この方法のいくつかの実施形態では、その抗PD-1抗体および二重特異性抗体は、それぞれ以下を含む:(a)HCVRが配列番号33のアミノ酸配列を含み、LCVRが配列番号34のアミノ酸配列を含み、(b)A-HCVRが配列番号1のアミノ酸配列を含み、A-LCVRが配列番号2のアミノ酸配列を含み、(c)B-HCVRが配列番号3のアミノ酸配列を含み、B-LCVRが配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0027】
この方法のいくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、配列番号41のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号42のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含み、二重特異性抗体の第1の抗原結合アームは、配列番号29のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含み、二重特異性抗体の第2の抗原結合アームは、配列番号31のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む。
【0028】
この方法のいくつかの実施形態では、腫瘍は卵巣癌を含む。
【0029】
別の態様では、本発明は、腫瘍を治療またはその増殖を阻害する方法を提供し、この方法は、それを必要とする対象に(a)プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する治療有効量の抗体またはその抗原結合断片と、(b)MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む治療有効量の二重特異性抗体とを投与することを含み、ここで(a)抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含み、(b)二重特異性抗体の第1の抗原結合アームは、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の3つの重鎖CDR(A-HCDR1、A-HCDR2およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の3つの軽鎖CDR(A-LCDR1、A-LCDR2およびA-LCDR3)とを含み、(c)二重特異性抗体の第2の抗原結合アームは、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む。
【0030】
この方法のいくつかの実施形態では、抗PD-1抗体および二重特異性抗体は、それぞれ以下を含む:(a)HCDR1が配列番号35のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号36のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号37のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号38のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号39のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号40のアミノ酸配列を含み、(b)A-HCDR1が配列番号8のアミノ酸配列を含み、A-HCDR2が配列番号9のアミノ酸配列を含み、A-HCDR3が配列番号10のアミノ酸配列を含み、A-LCDR1が配列番号11のアミノ酸配列を含み、A-LCDR2が配列番号12のアミノ酸配列を含み、A-LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含み、(c)B-HCDR1が配列番号26のアミノ酸配列を含み、B-HCDR2が配列番号27のアミノ酸配列を含み、B-HCDR3が配列番号28のアミノ酸配列を含み、B-LCDR1が配列番号11のアミノ酸配列を含み、B-LCDR2が配列番号12のアミノ酸配列を含み、B-LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含む。
【0031】
この方法のいくつかの実施形態では、抗PD-1抗体および二重特異性抗体は、それぞれ以下を含む:(a)HCVRが配列番号33のアミノ酸配列を含み、LCVRが配列番号34のアミノ酸配列を含み、(b)A-HCVRが配列番号1のアミノ酸配列を含み、A-LCVRが配列番号2のアミノ酸配列を含み、(c)B-HCVRが配列番号7のアミノ酸配列を含み、B-LCVRが配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0032】
この方法のいくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、配列番号41のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号42のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含み、二重特異性抗体の第1の抗原結合アームは、配列番号29のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含み、二重特異性抗体の第2の抗原結合アームは、配列番号32のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む。
【0033】
この方法のいくつかの実施形態では、腫瘍は卵巣癌を含む。
【0034】
上記または本明細書で論じられている方法のいずれか1つの様々な実施形態では、二重特異性抗体の抗腫瘍活性は、最大10kU/mlの濃度でCA-125を循環させることによって著しく妨げられない。上記または本明細書で論じられている方法のいずれか1つの様々な実施形態では、対象は卵巣癌と診断されて、対象が最大10kU/mlのCA-125の循環レベルを有する。上記または本明細書で論じられている方法のいくつかの実施形態では、対象は、治療を開始する前に、CA-125の高い血清レベルを有する。上記または本明細書で論じられている方法のいくつかの実施形態では、対象は、治療を開始する前に、正常CA-125血清レベルの上限の2倍以上のCA-125の血清レベルを有する。上記または本明細書で論じられている方法のいくつかの実施形態は、CA-125の血清レベルをモニタリングすること、例えば、治療中または治療後の様々な時点でCA-125の血清レベルを、特定の患者の血清CA-125のベースラインレベルまたは総患者集団の血清CA-125のベースラインレベルと比較することによって、治療の有効性を測定することを含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、本明細書で論じられている抗体は、上記または本明細書で論じられているいずれかの方法で使用するための薬剤の製造に使用される。いくつかの実施形態では、本明細書で論じられている抗体は、上記または本明細書で論じられているように、医薬に使用するまたは癌の治療に使用するためのものである。例えば、本開示は以下を含む:
(A)プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片と組み合わせた、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うための薬剤の製造における、MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体の使用、
(B)MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体と組み合わせて、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うための薬剤の製造における、プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の使用で、
(C)プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片と組み合わせた、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うための薬剤の製造における、MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体の使用であって、(i)抗PD-1抗体またはその抗原結合断片が、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含み、(ii)二重特異性抗体の第1の抗原結合アームが、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の3つの重鎖CDR(A-HCDR1、A-HCDR2およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の3つの軽鎖CDR(A-LCDR1、A-LCDR2およびA-LCDR3)とを含み、(iii)二重特異性抗体の第2の抗原結合アームが、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む、使用、
(D)MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体と組み合わせた、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うための薬剤の製造における、プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の使用であって、(i)抗PD-1抗体またはその抗原結合断片が、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含み、(ii)二重特異性抗体の第1の抗原結合アームが、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の3つの重鎖CDR(A-HCDR1、A-HCDR2およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の3つの軽鎖CDR(A-LCDR1、A-LCDR2およびA-LCDR3)とを含み、(iii)二重特異性抗体の第2の抗原結合アームが、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む、使用、
(E)プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片と組み合わせた、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うための薬剤の製造における、MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体の使用であって、(i)抗PD-1抗体またはその抗原結合断片が、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含み、(ii)二重特異性抗体の第1の抗原結合アームが、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の3つの重鎖CDR(A-HCDR1、A-HCDR2およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の3つの軽鎖CDR(A-LCDR1、A-LCDR2およびA-LCDR3)とを含み、(iii)二重特異性抗体の第2の抗原結合アームが、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む、使用、
(F)MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体と組み合わせた、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うための薬剤の製造における、プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の使用であって、(i)抗PD-1抗体またはその抗原結合断片が、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含み、(ii)二重特異性抗体の第1の抗原結合アームが、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の3つの重鎖CDR(A-HCDR1、A-HCDR2およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の3つの軽鎖CDR(A-LCDR1、A-LCDR2およびA-LCDR3)とを含み、(iii)二重特異性抗体の第2の抗原結合アームが、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む、使用、
(G)プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片と組み合わせて、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うために使用するための、MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体、
(H)MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体と組み合わせて、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うために使用するための、プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片、
(I)プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片と組み合わせて、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うために使用するための、MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体であって、(i)抗PD-1抗体またはその抗原結合断片が、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含み、(ii)二重特異性抗体の第1の抗原結合アームが、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の3つの重鎖CDR(A-HCDR1、A-HCDR2およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の3つの軽鎖CDR(A-LCDR1、A-LCDR2およびA-LCDR3)とを含み、(iii)二重特異性抗体の第2の抗原結合アームが、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む、二重特異性抗体、
(J)MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体と組み合わせて、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うために使用するための、プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、(i)抗PD-1抗体またはその抗原結合断片が、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含み、(ii)二重特異性抗体の第1の抗原結合アームが、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の3つの重鎖CDR(A-HCDR1、A-HCDR2およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の3つの軽鎖CDR(A-LCDR1、A-LCDR2およびA-LCDR3)とを含み、(iii)二重特異性抗体の第2の抗原結合アームが、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む、抗体またはその抗原結合断片、
(K)プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片と組み合わせて、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うために使用するための、MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体であって、(i)抗PD-1抗体またはその抗原結合断片が、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含み、(ii)二重特異性抗体の第1の抗原結合アームが、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の3つの重鎖CDR(A-HCDR1、A-HCDR2およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の3つの軽鎖CDR(A-LCDR1、A-LCDR2およびA-LCDR3)とを含み、(iii)二重特異性抗体の第2の抗原結合アームが、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む、二重特異性抗体、ならびに
(L)MUC16に特異的に結合する第1の抗原結合アームおよびCD3に特異的に結合する第2の抗原結合アームを含む二重特異性抗体と組み合わせて、腫瘍の治療またはその増殖の阻害を必要とする対象においてそれを行うために使用するための、プログラム細胞死1(PD-1)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、(i)抗PD-1抗体またはその抗原結合断片が、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)と、配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)とを含み、(ii)二重特異性抗体の第1の抗原結合アームが、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の3つの重鎖CDR(A-HCDR1、A-HCDR2およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の3つの軽鎖CDR(A-LCDR1、A-LCDR2およびA-LCDR3)とを含み、(iii)二重特異性抗体の第2の抗原結合アームが、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(B-HCVR)の3つの重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(B-LCVR)の3つの軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2およびB-LCDR3)とを含む、抗体またはその抗原結合断片。
【0036】
本発明の他の実施形態は、後述の詳細な説明の総説から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】ELISA(本明細書の実施例2に記載)によって決定されるように、様々な濃度の抗MUC16クローン3A5およびBSMUC16/CD3-001のCA125への結合を示す。BSMUC16/CD3-001およびそのMUC16親抗体は、MUC16の反復領域に結合する抗MUC16クローン3A5と比較して、試験した全ての濃度で、著しく減少した結合シグナルを示した。
図2】CD3結合対照+アイソタイプ対照(Δ)、BSMUC16/CD3-005+アイソタイプ対照(□)、CD3結合対照+抗PD-1(▲)およびBSMUC16/CD3-005+抗PD-1(■)で処置されたマウス群(群あたり5)の平均腫瘍増殖曲線を示す(本明細書の実施例3に記載されるように)。抗PD-1抗体と抗CD3×MUC16二重特異性抗体との組み合わせは、相乗的に腫瘍増殖を阻害した。
図3】PD-1陽性T細胞の割合に対するBSMUC16/CD3-001とのT細胞インキューベーションの影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明を説明する前に、本発明は、特定の方法および説明される実験条件が変わり得るため、このような方法および条件に制限されないことは理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定することを企図するものではないことも理解されるべきである。任意の実施形態または実施形態の特徴は、互いに組み合わせることができ、そのような組み合わせは、本発明の範囲内に明示的に含まれる。上記または本明細書で論じられている任意の特定の値は、上記または本明細書で論じられている別の関連する値と組み合わせて、範囲の上限および下限を表す値を有する範囲を列挙することができ、そのような範囲は、本開示の範囲内に含まれる。
【0039】
別段定義されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は全て、本発明の属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本発明で使用する場合、「約」との用語は、特定の列挙された数値に関して使用されるとき、その値が列挙された値から1%以下だけ変動し得ることを意味する。例えば、本発明で使用する場合、「約100」との表現は、99および101、ならびにその間の全値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0040】
本明細書に説明されるものと類似のまたは等価の任意の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料をこれから説明する。本明細書で言及される特許、出願、および非特許刊行物は全て、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0041】
癌を治療またはその増殖を阻害するための方法
本発明は、対象において癌を治療する、少なくとも1つの癌の症状もしくは徴候を寛解する、または癌の増殖を阻害するための方法を提供する。本発明のこの態様による方法は、PD-1に特異的に結合する治療有効量の抗体またはその抗原結合断片を、MUC16およびCD3に対する治療有効量の二重特異性抗体と組み合わせて、それを必要とする対象に投与することを含む。本明細書で使用する場合、「治療する」、「治療すること」または同様の用語は、一時的または永続的のいずれかで、症状を軽減し、症状の原因を排除すること、腫瘍の増殖を遅延させるもしくは阻害すること、腫瘍細胞量もしくは腫瘍量を減少させること、腫瘍退縮を促進すること、腫瘍縮小、壊死および/もしくは消失を引き起こすこと、腫瘍再発を予防すること、ならびに/または対象の生存期間を増加させることを意味する。
【0042】
本明細書で使用する場合、「それを必要とする対象」という表現は、癌の1つ以上の症状もしくは徴候を示し、かつ/または卵巣癌を含む癌と診断されたヒトまたは非ヒト哺乳動物、ならびにそれらの治療を必要とするヒトまたは非ヒト哺乳動物を意味する。多くの実施形態では、「対象」という用語は、「患者」という用語と区別なく使用され得る。例えば、ヒト対象は、原発性もしくは転移性腫瘍、および/またはリンパ節(複数可)の肥大、腹部腫脹、胸部痛/胸部圧迫感、原因不明の体重減少、発熱、寝汗、持続性の疲労、食欲不振、脾臓の肥大、痒みを含むが、これらに限定されない1つ以上の症状もしくは徴候を有すると診断され得る。その表現は、原発性または定着した卵巣腫瘍を有する対象を含む。特定の実施形態では、その表現は、卵巣癌またはMUC16を発現する別の腫瘍を有し、治療を必要とするヒト対象を含む。他の特定の実施形態では、その表現は、MUC16+腫瘍(例えば、フローサイトメトリーによって決定されるMUC16発現を伴う腫瘍)を有する対象を含む。ある特定の実施形態では、「それを必要とする対象」という表現は、以前の療法(例えば、従来の抗癌剤による治療)に対して耐性を示すかもしくは不応性であるか、または十分に制御されない卵巣癌を有する患者を含む。例えば、その表現は、白金ベースの化学療法剤(例えば、シスプラチン)またはタキソール化合物(例えば、ドセタキセル)などの化学療法で治療された対象を含む。その表現はまた、例えば毒性の副作用のために従来の抗癌療法が推奨されない卵巣腫瘍を有する対象を含む。例えば、その表現は、毒性の副作用を伴う化学療法を1サイクル以上受けた患者を含む。ある特定の実施形態では、「それを必要とする対象」という表現は、治療されたが、その後再発または転移した卵巣腫瘍を有する患者を含む。例えば、腫瘍退縮につながる1つ以上の抗癌剤による治療を受けたが、その後、その1つ以上の抗癌剤に対して耐性を示す癌(例えば、化学療法耐性癌)によって再発した卵巣腫瘍を有する患者を、本発明の方法で治療する。
【0043】
「それを必要とする対象」という表現はまた、卵巣癌を発病するリスクのある対象、例えば、卵巣癌の家族歴を有する人、卵巣癌に関連する感染症の既往歴を有する人、BRCA1/2遺伝子の変異を有する人、またはHIV感染症によってもしくは免疫抑制剤によって免疫系が損なわれている人を含む。
【0044】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、1つ以上の癌関連バイオマーカー(例えば、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)、CA125、ヒト精巣上体タンパク質4(HE4)、および/または癌胎児性抗原(CEA))の高いレベルを示す患者を治療するために使用されてよい。例えば、本発明の方法は、治療有効量の抗PD-1抗体を、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせて、高いレベルのPD-L1および/またはCA125を有する患者に投与することを含む。
【0045】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、卵巣癌を有する対象に使用される。「腫瘍」、「癌」および「悪性腫瘍」という用語は、本明細書では区別なく使用される。「卵巣癌」という用語は、本発明で使用する場合、卵巣および卵管の腫瘍を指し、漿液性癌、類内膜癌、明細胞癌および粘液性癌を含む。
【0046】
ある特定の実施形態によれば、本発明は、腫瘍を治療する、または腫瘍の増殖を遅延させるもしくは阻害するための方法を含む。ある特定の実施形態では、本発明は、腫瘍退縮を促進するための方法を含む。ある特定の実施形態では、本発明は、腫瘍細胞量を減少させるまたは腫瘍量を減少させるための方法を含む。ある特定の実施形態では、本発明は、腫瘍再発を予防するための方法を含む。本発明のこの態様による方法は、治療有効量の抗PD-1抗体を、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせて、それを必要とする対象に連続的に投与することを含み、各抗体は、例えば特定の治療投薬レジメンの一部として、複数回用量で対象に投与される。例えば、治療投薬レジメンは、約1日に1回、2日ごとに1回、3日ごとに1回、4日ごとに1回、5日ごとに1回、6日ごとに1回、週に1回、2週ごとに1回、3週ごとに1回、4週ごとに1回、月に1回、2か月ごとに1回、3か月ごとに1回、4か月ごとに1回、またはそれ以下の頻度で、抗PD-1抗体の1回以上の用量を対象に投与することを含み得る。ある特定の実施形態では、抗PD-1抗体の1回以上の用量が、治療有効量の二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の1回以上の用量と組み合わせて投与され、ここで、二重特異性抗体の1回以上の用量は、約1日に1回、2日ごとに1回、3日ごとに1回、4日ごとに1回、5日ごとに1回、6日ごとに1回、週に1回、2週ごとに1回、3週ごとに1回、4週ごとに1回、月に1回、2か月ごとに1回、3か月ごとに1回、4か月ごとに1回、またはそれ以下の頻度で、対象に投与される。
【0047】
ある特定の実施形態では、抗MUC16/抗CD3抗体の各用量は、2つ以上の画分、例えば、所与の投与期間内に2~5つの画分(「分割投与」)で投与される。抗MUC16/抗CD3二重特異性抗体は、抗体の投与に応答して誘導されるサイトカインの「スパイク」を減少させるまたは排除するために、分割用量で投与されてよい。サイトカインスパイクは、サイトカイン放出症候群(「サイトカインストーム」)および注入関連反応の臨床症状を指す。ある特定の実施形態では、本発明の方法は、抗PD-1抗体の1回以上の用量を、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の1回以上の用量と組み合わせて、それを必要とする対象に投与することを含み、二重特異性抗体の用量は、分割用量として、または2つ以上の画分として、例えば、2つの画分として、3つの画分として、4つの画分として、または5つの画分として所与の投与期間内に投与される。ある特定の実施形態では、二重特異性抗体の用量は、2つ以上の画分に分割され、各画分は、他の画分に等しい量の抗体を含む。例えば、1000マイクログラムを含む抗MUC16/抗CD3抗体の用量は、週に1回投与されてもよく、用量は週内に2つの画分で投与され、各画分は500マイクログラムを含む。ある特定の実施形態では、二重特異性抗体の用量は、2つ以上の画分に分割投与され、各画分は、例えば、第1の画分を超えるかまたは第1の画分より少ない、不等な量の抗体を含む。例えば、1000マイクログラムを含む抗MUC16/抗CD3抗体の用量は、週に1回投与されてもよく、用量は週内に2つの画分で投与され、第1の画分は700マイクログラムを含み、第2の画分は300マイクログラムを含む。別の例として、1000マイクログラムを含む抗MUC16/抗CD3抗体の用量は、2週に1回投与されてもよく、用量は2週内に3つの画分で投与され、第1の画分は400マイクログラムを含み、第2の画分は300マイクログラムを含み、第3の画分は300マイクログラムを含む。
【0048】
ある特定の実施形態では、本発明は、末梢器官への腫瘍転移または腫瘍浸潤を阻害、遅延または停止させるための方法を含む。この態様による方法は、治療有効量の抗PD-1抗体を、それを必要とする対象に、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせて投与することを含む。
【0049】
特定の実施形態では、本発明は、抗腫瘍効果の増加または腫瘍阻害の増加のための方法を提供する。本発明のこの態様による方法は、治療有効量の二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体を投与する前に、治療有効量の抗PD-1抗体を、卵巣癌を有する対象に投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、二重特異性抗体の約1日前に、1日前よりも前に、2日前よりも前に、3日前よりも前に、4日前よりも前に、5日前よりも前に、6日前よりも前に、7日前よりも前に、または8日前よりも前に投与されてよい。ある特定の実施形態では、この方法は、抗PD-1抗体の前に二重特異性抗体を投与された対象と比較して、例えば、約20%、20%より多く、30%より多く、40%より多く、50%より多く、60%より多く、70%より多く、または80%より多く増加した腫瘍阻害を提供する。
【0050】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、治療有効量の抗PD-1抗体および治療有効量の二重特異性抗CD3×MUC16抗体を、卵巣癌を有する対象に投与することを含む。特定の実施形態では、卵巣癌は漿液性癌である。さらなる実施形態では、卵巣癌は無痛性または高悪性度である。ある特定の実施形態では、対象が、以前の療法に応答しないか、または以前の療法後に再発している。ある特定の実施形態では、本発明の方法は、追加の治療薬を対象に投与することをさらに含む。
【0051】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、治療有効量の二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体を、MUC16+癌を有する対象に投与することを含む。特定の実施形態では、癌は卵巣癌である。さらなる実施形態では、卵巣癌は無痛性または高悪性度である。いくつかの実施形態では、癌は白金耐性の卵巣癌である。いくつかの実施形態では、癌はタキソール耐性の卵巣癌である。いくつかの実施形態では、癌は卵管癌である。いくつかの実施形態では、癌は原発性腹膜癌であり、任意に、患者は血清CA-125の高いレベルを有する。特定の実施形態では、癌は膵臓癌(例えば、膵臓腺癌)である。ある特定の実施形態では、対象が、以前の療法に応答しないか、または以前の療法(例えば、化学療法)後に再発している。
【0052】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、「第一選択」治療(例えば、初回治療)として、抗PD-1抗体を、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせて、それを必要とする対象に投与することを含む。他の実施形態では、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせた抗PD-1抗体は、「第二選択」治療として(例えば、以前の療法後)投与される。例えば、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせた抗PD-1抗体は、例えば化学療法による以前の療法後に再発した対象に「第二選択」治療として投与される。
【0053】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、MRD陽性疾患を有する患者を治療するために使用される。微小残存病変(MRD)とは、治療中または治療後に患者に残る少数の癌細胞を指し、患者は疾患の症状または徴候を示す場合と示さない場合がある。そのような残存癌細胞は、排除されない場合、疾患の再発につながることがよくある。本発明は、MRD試験時に患者の残存癌細胞を阻害および/または排除する方法を含む。MRDは、当技術分野で既知である方法(例えば、MRDフローサイトメトリー)に従ってアッセイすることができる。本発明のこの態様による方法は、抗PD-1抗体を、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせて、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0054】
ある特定の実施形態によれば、本発明の方法は、第3の治療薬と組み合わせて、治療有効量の抗PD-1抗体および二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体のそれぞれを対象に投与することを含む。第3の治療薬は、例えば、放射線、化学療法、手術、癌ワクチン、PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-L1抗体)、LAG3阻害剤(例えば、抗LAG3抗体)、CTLA-4阻害剤(例えば、抗CTLA-4抗体)、TIM3阻害剤、BTLA阻害剤、TIGIT阻害剤、CD47阻害剤、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニスト、Ang2阻害剤、形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害剤、表皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤、腫瘍特異的抗原に対する抗体(例えば、CA9、CA125、黒色腫関連抗原3(MAGE3)、癌胎児性抗原(CEA)、ビメンチン、腫瘍-M2-PK、前立腺特異抗原(PSA)、ムチン-1、MART-1およびCA19-9)、ワクチン(例えば、カルメット-ゲラン桿菌)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、細胞毒素、化学療法剤、IL-6R阻害剤、IL-4R阻害剤、IL-10阻害剤、サイトカイン(例えばIL-2、IL-7、IL-21およびIL-15)抗炎症剤(例えばコルチコステロイドおよび非ステロイド性抗炎症薬)、および栄養補助食品(例えば抗酸化剤)からなる群より選択される薬剤であってよい。ある特定の実施形態では、抗体は、化学療法剤(例えば、パクリタキセル、カルボプラチン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、シスプラチン、ゲムシタビンまたはドセタキセル)、放射線および手術を含む療法と組み合わせて投与されてよい。本明細書で使用する場合、「と組み合わせて」という句は、抗体が、第3の治療薬の投与と同時に、その直前、または直後に対象に投与されることを意味する。ある特定の実施形態では、第3の治療薬は、抗体を有する共製剤として投与される。関連する実施形態では、本発明は、治療有効量の抗PD-1抗体を、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせて、バックグラウンド抗癌治療レジメンのある対象に投与することを含む方法を含む。バックグラウンド抗癌治療レジメンは、例えば、化学療法剤または放射線の投与経過を含み得る。二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせた抗PD-1抗体は、バックグラウンドの抗癌治療レジメンにさらに追加され得る。いくつかの実施形態では、抗体は「バックグラウンドステップダウン」方式の一部として追加され、一定用量で、または増加用量で、または減少用量で、抗体を、時間をかけて対象に投与しながら、バックグラウンド抗癌療法は、時間をかけて(例えば、段階的な方法で)対象から徐々に中止される。
【0055】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、それを必要とする対象に、治療有効量の二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせて、治療有効量の抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで抗体の投与は、腫瘍増殖の阻害の増加をもたらす。ある特定の実施形態では、腫瘍増殖は、未治療の対象または単剤療法としていずれかの抗体を投与された対象と比較して、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%または約80%阻害される。ある特定の実施形態では、抗PD-1抗体および二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の投与は、腫瘍退縮、腫瘍縮小および/または消失の増加をもたらす。ある特定の実施形態では、抗PD-1抗体および二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の投与は、腫瘍増殖および発症の遅延をもたらし、例えば、腫瘍増殖は、未治療の対象または単剤療法としていずれかの抗体で治療された対象と比較して、約3日、3日より長く、約7日、7日より長く、15日より長く、1か月より長く、3か月より長く、6か月より長く、1年より長く、2年より長く、または3年より長く遅延され得る。ある特定の実施形態では、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせた抗PD-1抗体の投与は、腫瘍の再発を予防し、かつ/または対象の生存期間を増加させ、例えば、未治療の対象もしくは単剤療法としていずれかの抗体を投与される対象に比べて、生存期間を15日より長く、1か月より長く、3か月より長く、6か月より長く、12か月より長く、18か月より長く、24か月より長く、36か月より長く、または48か月より長く増加させる。ある特定の実施形態では、抗体の組み合わせの投与は、無増悪生存期間または全生存期間を増加させる。ある特定の実施形態では、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせた抗PD-1抗体の投与は、対象の応答および応答期間を、未治療の対象または単剤療法としていずれかの抗体を投与された対象より、例えば2%より多く、3%より多く、4%より多く、5%より多く、6%より多く、7%より多く、8%より多く、9%より多く、10%より多く、20%より多く、30%より多く、40%より多くまたは50%より多く増加させる。ある特定の実施形態では、卵巣癌を有する対象への抗PD-1抗体および二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の投与は、腫瘍細胞の全ての証拠の完全な消失(「完全奏功」)をもたらす。ある特定の実施形態では、卵巣癌を有する対象への抗PD-1抗体および二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の投与は、腫瘍細胞または腫瘍サイズの少なくとも30%以上の減少(「部分奏功」)をもたらす。ある特定の実施形態では、卵巣癌を有する対象への抗PD-1抗体および二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の投与は、新しい測定可能な病変を含む腫瘍細胞/病変の完全または部分的な消失をもたらす。腫瘍減少は、当技術分野で既知の任意の方法によって、例えば、X線、ポジトロン放出断層撮影(PET)、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴イメージング(MRI)、細胞学、組織学または分子遺伝子解析によって測定できる。ある特定の実施形態では、抗PD-1抗体および二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の投与は、単独で投与された場合の2つの薬剤の複合効果を超える相乗的な抗腫瘍効果を生み出す。
【0056】
ある特定の実施形態では、投与された抗体の組み合わせは、安全であり、患者によって十分に許容され、単剤療法として二重特異性抗体を投与された患者と比較して、有害な副作用の増加(例えば、サイトカイン放出の増加(「サイトカインストーム」)またはT細胞活性化の増加)はない。
【0057】
抗PD-1抗体およびその抗原結合断片
本発明のある特定の例示的な実施形態によれば、この方法は、治療有効量の抗PD-1抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む。「抗体」という用語は、本発明で使用する場合、ジスルフィド結合によって相互連結された4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにそれらの多量体(例えば、IgM)を含む。典型的な抗体では、各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVと略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、C1、C2、およびC3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVと略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(C1)を含む。V領域およびV領域は、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域へとさらに細分することができる。各VおよびVは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置された3つのCDRおよび4つのFRからなる。本発明の異なる実施形態では、抗IL-4R抗体(もしくはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよく、または天然にもしくは人工的に修飾されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0058】
本明細書で使用される「抗体」という用語はまた、完全抗体分子の抗原結合断片を含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」という用語、およびこれらに類するものは、本発明で使用する場合、任意の天然に生じる、酵素処理で入手可能な、合成の、または遺伝子操作された、抗原を特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドもしくは糖タンパク質を含む。抗体の抗体結合断片は、例えば、抗体可変ドメインおよび場合により定常ドメインをコードするDNAの操作および発現に関連するタンパク質消化技術または組換え遺伝子操作技術などの任意の適切な標準的技術を用いて、完全抗体分子から誘導され得る。そのようなDNAは既知であり、かつ/または例えば市販の供給源、DNAライブラリー(例えばファージ-抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、または合成することができる。DNAは、例えば、1つ以上の可変ドメインおよび/もしくは定常ドメインを好適な立体配置へと配置するか、またはコドンを導入し、システイン残基を作成し、アミノ酸を修飾、付加、もしくは欠失などするために、化学的に、または分子生物学技術を使用することによって配列決定および操作され得る。
【0059】
抗体結合断片の非限定例としては、(i)Fab断片、(ii)F(ab’)2断片、(iii)Fd断片、(iv)Fv断片、(v)一本鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAb断片、および(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基、または拘束FR3-CDR3-FR4ペプチドからなる最小認識単位が挙げられる。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小型モジュール型免疫医薬品(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の操作された分子も、本明細書で使用する「抗原結合断片」という表現に包含される。
【0060】
抗体の抗原結合断片は、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含むであろう。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成物であり得、概して、1つ以上のフレームワーク配列に隣接しているか、または1つ以上のフレームワーク配列とインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。Vドメインと結合したVドメインを有する抗体結合断片において、VドメインおよびVドメインは、任意の好適な配置で互いに対して位置し得る。例えば、可変領域は二量体であり、V-V、V-VまたはV-V二量体を含み得る。あるいは、抗体の抗原結合断片は、単量体のVドメインまたはVドメインを含み得る。
【0061】
ある特定の実施形態では、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合された少なくとも1つの可変ドメインを含み得る。本発明の抗体の抗原結合断片内に見出すことができる可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的な例示的立体配置としては、(i)V-C1、(ii)V-C2、(iii)V-C3、(iv)V-C1-C2、(v)V-C1-C2-C3、(vi)V-C2-C3、(vii)V-C、(viii)V-C1、(ix)V-C2、(x)V-C3、(xi)V-C1-C2、(xii)V-C1-C2-C3、(xiii)V-C2-C3、および(xiv)V-Cが挙げられる。先に列挙した例示的立体配置のいずれかを含む、可変ドメインおよび定常ドメインの任意の立体配置において、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接連結されていてもよく、または完全もしくは部分的ヒンジ領域もしくはリンカー領域によって連結されていてもよい。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子において隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメイン間の可撓性または半可撓性の連結をもたらす少なくとも2つの(例えば、5、10、15、20、40、60またはそれより多数の)アミノ酸からなり得る。そのうえ、本発明の抗体の抗原結合断片は、互いとのおよび/または1つ以上の単量体VドメインもしくはVドメイン(例えば、ジスルフィド結合(複数可)により)との非共有結合において、先に列挙した可変ドメイン立体配置および定常ドメイン立体配置のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含み得る。
【0062】
本明細書で使用される「抗体」という用語はまた、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を含む。多重特異性抗体または抗体の多重特異性抗原結合断片は、典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含むことになっており、各可変ドメインは、別々の抗原へまたは同じ抗原上の異なるエピトープへ特異的に結合することができる。任意の多重特異性抗体フォーマットは、当技術分野で利用可能な通例の技術を使用して、本発明の抗体または抗体の抗原結合断片の文脈において使用に適合し得る。例えば、本発明は、二重特異性抗体の使用を含む方法を含み、免疫グロブリンの一方のアームがPD-1またはその断片に特異的であり、免疫グロブリンの他方のアームが第2の治療標的に特異的であるか、または治療部分にコンジュゲートしている。本発明の文脈において使用することができる例示的な二重特異性フォーマットとしては、例えば、scFvベースのまたはダイアボディ二重特異性フォーマット、IgG-scFv融合体、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、クワドローマ(Quadroma)、ノブズ-イントゥ-ホールズ(knobs-into-holes)、共通軽鎖(例えば、ノブズ-イントゥ-ホールズを有する共通軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用型Fab(DAF)-IgG、およびMab.sup.2二重特異性フォーマットが挙げられるが、限定するものではない(上述のフォーマットの総説については、例えばKlein et al.2012,mAbs 4:6,1-11、およびこの中で引用されている参考文献を参照のこと)。二重特異性抗体は、ペプチド/核酸結合を用いて構築することもでき、例えば、直交化学反応性を有する非天然アミノ酸を使用して、部位特異的抗体-オリゴヌクレオチド複合体を生成し、これが次に、規定される組成物、原子価および幾何学的形状を有する多量体複合体へと自己集合する。(例えば、Kazane et al.,J.Am.Chem.Soc.[Epub:Dec.4,2012]を参照のこと)。
【0063】
本発明の方法で使用される抗体は、ヒト抗体であり得る。「ヒト抗体」という用語は、本発明で使用する場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことが企図される。それにもかかわらず、本発明のヒト抗体は、例えば、CDR、特にCDR3における、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発によってまたはインビボでの体細胞突変異によって導入された変異)によってコードされないアミノ酸残基を含み得る。ただし、本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、別の哺乳類種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列へと移植された抗体を含むことを意図するものではない。
【0064】
本発明の方法で使用される抗体は、組換えヒト抗体であり得る。本明細書で使用される「組換えヒト抗体」という用語は、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを用いて発現される抗体など組換え手段によって調製、発現、作成または単離される全てのヒト抗体(後述)、組換え型コンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(後述)、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al.(1992)Nucl.Acids Res.20:6287-6295)、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、作成、または単離される抗体を含むことを意図する。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する。ただし、ある特定の実施形態では、そのような組換えヒト抗体は、インビトロ変異誘発(または、ヒトIg配列についてトランスジェニック動物が使用される場合は、インビボ体細胞変異誘発)を受け、したがって、組換え抗体のVおよびV領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VおよびV配列に由来し関連してはいるが、インビボでヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在し得ない配列である。
【0065】
ある特定の実施形態によれば、本発明の方法で使用される抗体はPD-1に特異的に結合する。「特異的に結合する」または同様の用語は、抗体またはその抗原結合断片が、生理学的条件下で比較的安定である抗原と複合体を形成することを意味する。抗体が抗原に特異的に結合するかどうかを決定するための方法は、当技術分野で周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。例えば、本発明の文脈において使用されるPD-1に「特異的に結合する」抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合に、約500nM未満、約300nM未満、約200nM未満、約100nM未満、約90nM未満、約80nM未満、約70nM未満、約60nM未満、約50nM未満、約40nM未満、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満もしくは約0.5nM未満のKでPD-1またはその部分に結合する抗体を含む。ただし、ヒトPD-1に特異的に結合する単離された抗体は、他の(非ヒト)種由来のPD-1分子などの他の抗原に対する交差反応性を有し得る。
【0066】
本発明のある特定の例示的な実施形態によれば、抗PD-1抗体、またはその抗原結合断片は、米国特許公開第2015/0203579号に記載の抗PD-1抗体のいずれかのアミノ酸配列を含む、重鎖可変領域(HCVR)、軽鎖可変領域(LCVR)、および/または相補性決定領域(CDR)を含む。ある特定の例示的な実施形態では、本発明の方法の文脈において使用することができる抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号33のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)の重鎖相補性決定領域(HCDR)、および配列番号34のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)の軽鎖相補性決定領域(LCDR)を含む。ある特定の実施形態によれば、抗PD-1抗体、またはその抗原結合断片は、3つのHCDR(HCDR1、HCDR2およびHCDR3)ならびに3つのLCDR(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含み、HCDR1が配列番号35のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号36のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号37のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号38のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号39のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号40のアミノ酸配列を含む。さらに他の実施形態では、抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、配列番号33を含むHCVR、および配列番号34を含むLCVRを含む。ある特定の実施形態では、本発明の方法は、抗PD-1抗体の使用を含み、抗体は、配列番号41のアミノ酸配列を含む重鎖を含む。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、配列番号42のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。配列番号41のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号42のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む例示的な抗体は、REGN2810(セミプリマブとしても既知)として既知である完全ヒト抗PD-1抗体である。ある特定の例示的な実施形態によれば、本発明の方法は、REGN2810またはその生物学的等価物の使用を含む。本明細書で使用される「生物学的等価物」という用語は、類似の実験条件下で単回用量または複数回用量のいずれかで同じモル用量で投与された場合に、吸収速度および/または吸収の程度が、REGN2810との有意差を示さない医薬的等価物または医薬的選択肢である、抗PD-1抗体またはPD-1結合タンパク質またはその断片を指す。本発明の文脈において、この用語は、安全性、純度、および/または効力において、REGN2810と臨床的に意味のある差を有さない、PD-1に結合する抗原結合タンパク質を指す。
【0067】
本発明の方法の文脈において使用することができる他の抗PD-1抗体としては、例えば、ニボルマブ(米国特許第8,008,449号)、ペムブロリズマブ(米国特許第8,354,509号)、MEDI0608(米国特許第8,609,089号)、ピディリズマブ(米国特許第8,686,119号)、または米国特許第6,808,710号、同第7,488,802号、同第8,168,757号、同第8,354,509号、同第8,779,105号、もしくは同第8,900,587号に示される抗PD-1抗体のいずれかとして呼ばれかつ当技術分野で既知である抗体が挙げられる。
【0068】
本発明の方法の文脈において使用される抗PD-1抗体は、pH依存性の結合特性を有し得る。例えば、本発明の方法において使用される抗PD-1抗体は、中性pHと比較して酸性pHでPD-1への結合の低下を示し得る。あるいは、本発明の抗PD-1抗体は、中性pHと比較して酸性pHでその抗原への増強された結合を示し得る。「酸性pH」との表現は、約6.2未満、例えば、約6.0、5.95、5.9、5.85、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0、またはそれ未満のpH値を含む。本発明で使用する場合、「中性pH」との表現は、約7.0~約7.4のpHを意味する。「中性pH」との表現は、約7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35、および7.4のpH値を含む。
【0069】
ある特定の場合では、「中性pHと比較して、酸性pHでPD-1への結合の低下」は、中性pHでPD-1に結合する抗体のK値に対する酸性pHでPD-1に結合する抗体のK値の比に関して、表される(またはその逆)。例えば、抗体またはその抗原結合断片が約3.0以上の酸性/中性K比を示す場合、本発明の目的のために、抗体またはその抗原結合断片は「中性pHと比較して酸性pHではPD-1への結合の低下」を示すとみなされ得る。ある特定の例示的な実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片の酸性/中性K比は、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、20.0、25.0、30.0、40.0、50.0、60.0、70.0、100.0、またはそれ以上であり得る。
【0070】
pH依存性結合特性を有する抗体は、例えば、中性pHと比較して酸性pHで特定の抗原への結合の低下(または増強)について抗体の集団をスクリーニングすることによって得ることができる。さらに、アミノ酸レベルでの抗原結合ドメインの修飾は、pH依存的特性を有する抗体を産生し得る。例えば、抗原結合ドメイン(例えばCDR内)の1つ以上のアミノ酸をヒスチジン残基で置換することにより、中性pHに対して酸性pHで抗原結合が低下した抗体を得ることができる。本発明で使用する場合、「酸性pH」との表現は6.0以下のpHを意味する。
【0071】
二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体
本発明のある特定の例示的な実施形態によれば、この方法は、CD3およびMUC16に特異的に結合する治療有効量の二重特異性抗体を投与することを含む。そのような抗体は、本明細書において、例えば、「抗MUC16/抗CD3」、または「抗MUC16×CD3」もしくは「MUC16×CD3」二重特異性抗体、または他の同様の用語と呼ばれてもよい。
【0072】
本発明で使用する場合、「二重特異性抗体」という表現は、少なくとも第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインを含む免疫グロブリンタンパク質を指す。本発明の文脈において、第1の抗原結合ドメインは第1の抗原(例えばMUC16)に特異的に結合し、第2の抗原結合ドメインは第2の異なる抗原(例えばCD3)に特異的に結合する。二重特異性抗体の各抗原結合ドメインは、それぞれ3つのCDRを含む、重鎖可変ドメイン(HCVR)および軽鎖可変ドメイン(LCVR)を含む。二重特異性抗体の文脈において、第1の抗原結合ドメインのCDRは接頭辞「A」を付けて指定され、第2の抗原結合ドメインのCDRは接頭辞「B」を付けて指定され得る。したがって、第1の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書においてA-HCDR1、A-HCDR2、およびA-HCDR3と呼ばれてもよく、第2の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書においてB-HCDR1、B-HCDR2、およびB-HCDR3と呼ばれてもよい。
【0073】
第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインは、それぞれ別々の多量体化ドメインに連結される。本発明で使用する場合、「多量体化ドメイン」は、同一または類似の構造または構成の第2の多量体化ドメインと会合する能力を有する任意の高分子、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、またはアミノ酸である。本発明の文脈において、多量体化成分は、免疫グロブリンのFc部分(CH2-CH3ドメインを含む)、例えばアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4から選択されるIgGのFcドメイン、ならびに各アイソタイプ群内のアロタイプである。
【0074】
本発明の二重特異性抗体は、典型的には2つの多量体化ドメイン、例えば、それぞれ別々の抗体重鎖の一部である2つのFcドメインを含む。第1および第2の多量体化ドメインは、例えば、IgG1/IgG1、IgG2/IgG2、IgG4/IgG4などの同じIgGアイソタイプであり得る。あるいは、第1および第2の多量体化ドメインは、例えば、IgG1/IgG2、IgG1/IgG4、IgG2/IgG4などの異なるIgGアイソタイプのものであり得る。
【0075】
任意の二重特異性抗体フォーマットまたは技術を使用して、本発明の二重特異性抗原結合分子を作製することができる。例えば、第1の抗原結合特異性を有する抗体またはその断片は、第2の抗原結合性を有する他の抗体または抗体断片などの1つ以上の他の分子実体に(例えば、化学結合、遺伝的融合、非共有結合などにより)機能的に連結されて、二重特異性抗原結合分子を生成することができる。本発明の文脈において使用できる特定の例示的な二重特異性フォーマットには、例えば、scFv系フォーマットまたはダイアボディ二重特異性フォーマット、IgG-scFv融合、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、Quadroma、ノブズ-イントゥ-ホールズ(knobs-into-holes)、共通の軽鎖(例えば、ノブズ-イントゥ-ホールズを備えた共通の軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用型Fab(DAF)-IgG、およびMab二重特異性フォーマットが含まれるが、これらに限定されない(上述のフォーマットの総説については、例えば、Klein et al.2012,mAbs4:6,1-11、およびそこに引用されている参考文献を参照されたい)。
【0076】
本発明の二重特異性抗体の文脈において、Fcドメインは、野生型の、天然に存在するFcドメインと比較して、1つ以上のアミノ酸変化(例えば、挿入、欠失または置換)を含んでもよい。例えば、本発明は、FcとFcRnとの間の修飾された結合相互作用(例えば、増強または減少)を有する修飾Fcドメインをもたらす、Fcドメイン中の1つ以上の修飾を含む二重特異性抗原結合分子を含む。一実施形態では、二重特異性抗原結合分子は、CH2またはCH3領域に修飾を含み、この修飾は酸性環境(例えば、pH範囲約5.5~約6.0のエンドソーム内)において、FcRnに対するFcドメインの親和性を高める。そのようなFc修飾の非限定的な例は、その全体が本明細書に組み込まれる米国特許公開第2015/0266966号に開示されている。
【0077】
本発明はまた、第1のC3ドメインおよび第2のIgC3ドメインを含む二重特異性抗原結合分子を含み、第1および第2のIgC3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸ほど互いに異なっており、少なくとも1つのアミノ酸の相違は、アミノ酸の相違を欠いている二重特異性抗体と比較して、プロテインAへの二重特異性抗体の結合を低減させる。一実施形態では、第1のIgC3ドメインはプロテインAを結合し、第2のIgC3ドメインはH95R修飾(IMGTエクソン番号付けによる、EU番号付けではH435R)などのプロテインA結合を低減または消失させる変異を含有する。第2のC3は、Y96F修飾(IMGTによるものであり、EUではY436F)をさらに含み得る。例えば、米国特許第8,586,713号を参照のこと。第2のC3内に見出され得るさらなる修飾には、IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによるものであり、EUによるD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I)、IgG2抗体の場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGTであって、EUによるN384S、K392N、およびV422I)、ならびにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによるものであり、EUによるQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)が含まれる。
【0078】
ある特定の実施形態では、Fcドメインは、2つ以上の免疫グロブリンアイソタイプに由来するFc配列を組み合わせたキメラであり得る。例えば、キメラFcドメインは、ヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4のC2領域に由来するC2配列の一部または全て、およびヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4に由来するC3配列の一部または全てを含むことができる。キメラFcドメインはまた、キメラヒンジ領域を含み得る。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下部ヒンジ」配列と組み合わせた、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上部ヒンジ」配列を含むことができる。本明細書に記載の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの特定の例は、N末端からC末端に、[IgG4C1]-[IgG4上部ヒンジ]-[IgG2下部ヒンジ]-[IgG4CH2]-[IgG4CH3]を含む。本明細書に記載の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの別の例は、N末端からC末端に、[IgG1C1]-[IgG1上部ヒンジ]-[IgG2下部ヒンジ]-[IgG4CH2]-[IgG1CH3]を含む。本発明の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインのこれらおよび他の例は、米国特許公開第2014/0243504号に記載されており、その全体が本明細書に組み込まれる。これらの一般的な構造配置を有するキメラFcドメイン、およびその変異体は、Fc受容体結合を変えることができ、そのことがFcエフェクター機能に影響を及ぼす。
【0079】
本発明のある特定の例示的な実施形態によれば、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体、もしくはその抗原結合断片は、重鎖可変領域(A-HCVRおよびB-HCVR)、軽鎖可変領域(A-LCVRおよびB-LCVR)、ならびに/または米国特許公開第2018/0112001号に記載されている二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の任意のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR)を含む。ある特定の例示的な実施形態では、本発明の方法の文脈において使用することができる二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(A-HCVR)の重鎖相補性決定領域(A-HCDR1、A-HCDR2、およびA-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(A-LCVR)の軽鎖相補性決定領域(A-LCDR1、A-LCDR2、およびA-LCDR3)とを含む第1の抗原結合アームと、(b)配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6または配列番号7のアミノ酸配列を含むHCVR(B-HCVR)の重鎖CDR(B-HCDR1、B-HCDR2およびB-HCDR3)と、配列番号2のアミノ酸配列を含むLCVR(B-LCVR)の軽鎖CDR(B-LCDR1、B-LCDR2、およびB-LCDR3)とを含む第2の抗原結合アームと、を含む。ある特定の実施形態によれば、A-HCDR1が配列番号8のアミノ酸配列を含み、A-HCDR2が配列番号9のアミノ酸配列を含み、A-HCDR3が配列番号10のアミノ酸配列を含み、A-LCDR1が配列番号11のアミノ酸配列を含み、A-LCDR2が配列番号12のアミノ酸配列を含み、A-LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含み、B-HCDR1が配列番号14、配列番号17、配列番号20、配列番号23または配列番号26のアミノ酸配列を含み、B-HCDR2が配列番号15、配列番号18、配列番号21、配列番号24または配列番号27のアミノ酸配列を含み、B-HCDR3が配列番号16、配列番号19、配列番号22、配列番号25または配列番号28のアミノ酸配列を含み、B-LCDR1が配列番号11のアミノ酸配列を含み、B-LCDR2が配列番号12のアミノ酸配列を含み、B-LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含む。さらに他の実施形態では、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体またはその抗原結合断片は、(a)配列番号1を含むHCVR(A-HCVR)および配列番号2を含むLCVR(A-LCVR)を含む第1の抗原結合アームと、(b)配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6または配列番号7を含むHCVR(B-HCVR)および配列番号2を含むLCVR(B-LCVR)を含む第2の抗原結合アームとを含む。ある特定の例示的な実施形態では、二重特異性抗CD3×MUC16抗体は、配列番号29のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗MUC16結合アームと、配列番号31のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗CD3結合アームとを含む。ある特定の例示的な実施形態では、二重特異性抗CD3×MUC16抗体は、配列番号29のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗MUC16結合アームと、配列番号32のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号30のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗CD3結合アームとを含む。
【0080】
ある特定の実施形態では、本発明の二重特異性抗CD3×MUC16抗体の抗腫瘍活性は、高レベル(例えば、最大10,000U/ml)の循環CA125の存在によって実質的に妨げられない。CA125の血清レベルは、大多数の卵巣癌患者の血清で増加している(公表されているレベルの中央値は約656U/mlである)。以下の実施例2に示されるように、血清または腹水中の高レベルのCA125は、本発明の二重特異性抗体の抗腫瘍プロファイルを著しく妨げない。
【0081】
本発明の方法の文脈において使用することができる他の二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体には、例えば、米国特許公開第2018/0112001号に記載の任意の抗体が含まれる。
【0082】
併用療法
ある特定の実施形態によれば、本発明の方法は、抗PD-1抗体と組み合わせて、抗MUC16/抗CD3二重特異性抗体を対象に投与することを含む。ある特定の実施形態では、本発明の方法は、癌、好ましくは卵巣癌を治療するための相加的または相乗的活性のための抗体を投与することを含む。本発明で使用する場合、「と組み合わせて」という表現は、抗MUC16/抗CD3二重特異性抗体が、抗PD-1抗体の前に、後に、または同時に投与されることを意味する。「と組み合わせて」という用語はまた、抗PD-1抗体および二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の連続的または同時投与を含む。例えば、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の「前に」投与される場合、抗PD-1抗体は、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の投与の150時間前より前に、約150時間前に、約100時間前に、約72時間前に、約60時間前に、約48時間前に、約36時間前に、約24時間前に、約12時間前に、約10時間前に、約8時間前に、約6時間前に、約4時間前に、約2時間前に、約1時間前に、約30分前に、約15分前にまたは約10分前に投与され得る。二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の「後に」投与される場合、抗PD-1抗体は、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の投与の約10分後に、約15分後に、約30分後に、約1時間後に、約2時間後に、約4時間後に、約6時間後に、約8時間後に、約10時間後に、約12時間後に、約24時間後に、約36時間後に、約48時間後に、約60時間後に、約72時間後に、または72時間後より後に投与され得る。二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と「同時」投与することは、抗PD-1抗体が、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の投与の5分未満以内(前に、後にまたは同時に)に別々の剤形で対象に投与されるか、または抗PD-1抗体と二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の両方を含む単一の併用剤形として対象に投与されることを意味する。
【0083】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、第3の治療薬の投与を含み、第3の治療薬は抗癌剤である。本発明で使用する場合、「抗癌剤」は、細胞毒素、ならびに代謝拮抗剤、アルキル化剤、アントラサイクリン、抗生物質、有糸分裂阻害剤、プロカルバジン、ヒドロキシ尿素、アスパラギナーゼ、コルチコステロイド、ミトタン(O,P’-(DDD))、生物製剤(例えば、抗体およびインターフェロン)、および放射性薬剤などの薬剤を含む癌を治療するために有用な任意の薬剤を意味するが、これらに限定されない。本発明で使用する場合、「細胞毒素または細胞毒性剤」は、化学療法剤も指し、細胞に有害である任意の薬剤を意味する。例としては、タキソール(登録商標)(パクリタキセル)、テモゾラミド、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、シスプラチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンビアスチン、コイチシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシン、ならびにそれらのアナログまたはホモログが挙げられる。
【0084】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、放射線、手術、癌ワクチン、PD-L1阻害剤(例えば、抗PD-L1抗体)、LAG-3阻害剤、CTLA-4阻害剤(例えば、イピリムマブ)、TIM3阻害剤、BTLA阻害剤、TIGIT阻害剤、CD47阻害剤、別のT細胞共阻害剤またはリガンドのアンタゴニスト(例えば、CD-28、2B4、LY108、LAIR1、ICOS、CD160またはVISTAに対する抗体)、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニスト[例えば、「VEGF-トラップ」(例えば、米国特許第7,087,411号に記載のアフリベルセプトもしくは他のVEGF阻害融合タンパク質、または抗VEGF抗体もしくはその抗原結合断片(例えば、ベバシズマブもしくはラニビズマブ)、もしくはVEGF受容体の小分子キナーゼ阻害剤(例えば、スニチニブ、ソラフェニブもしくはパゾパニブ))]、Ang2阻害剤(例えば、ネスバクマブ)、形質転換増殖因子β(TGFβ)阻害剤、表皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤(例えば、エルロチニブ、セツキシマブ)、共刺激受容体に対するアゴニスト(例えば、糖質コルチコイドを誘導されたTNFR関連タンパク質に対するアゴニスト)、腫瘍特異性抗原に対する抗体(例えば、CA9、CA125、黒色腫関連抗原3(MAGE3)、癌胎児性抗原(CEA)、ビメンチン、腫瘍-M2-PK、前立腺特異抗原(PSA)、ムチン-1、MART-1およびCA19-9)、ワクチン(例えば、カルメット‐ゲラン桿菌、癌ワクチン)、抗原提示を増加させるアジュバント(例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、細胞毒素、化学療法剤(例えば、ダカルバジン、テモゾロマイド、シクロホスファミド、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、シスプラチン、カルボプラチン、ゲムシタビン、メトトレキセート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセルおよびビンクリスチン)、放射線治療、IL-6R阻害剤(例えば、サリルマブ)、IL-4R阻害剤(例えば、デュピルマブ)、IL-10阻害剤、サイトカイン(例えばIL-2、IL-7、IL-21およびIL-15)抗体-薬物複合体(ADC)(例えば、抗CD19-DM4 ADCおよび抗DS6-DM4 ADC)、キメラ抗原受容体T細胞(例えば、CD19標的化T細胞)、抗炎症剤(例えば、コルチコステロイドおよび非ステロイド性抗炎症薬)、ならびに栄養補助食品(例えば抗酸化剤)からなる群より選択される第3の治療薬の投与を含む。
【0085】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、放射線療法と組み合わせて、抗PD-1抗体および抗MUC16/抗CD3二重特異性抗体を投与して、長期持続性の抗腫瘍応答を生成し、および/または癌を有する患者の生存を高めることを含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、癌患者に抗PD-1抗体および二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体を投与する前に、同時に、または後に放射線療法を投与することを含む。例えば、放射線療法は、抗体の1回以上の用量を投与後に、腫瘍病変に1回以上の用量で投与されてもよい。いくつかの実施形態では、放射線療法は、抗PD-1抗体および/または二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の全身投与後に、患者の腫瘍の局所免疫原性を増強(作用性放射線)および/または腫瘍細胞を死滅(切除性放射線)するために、腫瘍病変に局所投与されてもよい。ある特定の実施形態では、抗体は、放射線療法および化学療法剤(例えば、カルボプラチンおよび/またはパクリタキセル)またはVEGFアンタゴニスト(例えば、アフリベルセプト)と組み合わせて投与されてもよい。
【0087】
医薬組成物および投与
本発明は、抗PD-1抗体を、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせて、対象に投与することを含む方法を含み、抗体は、別々または組み合わせた(単一)医薬組成物の中に含まれる。本開示の医薬組成物は、好適な担体、賦形剤、および好適な移動、送達、耐性などをもたらす他の薬剤と共に製剤化され得る。多くの適切な製剤は、製薬化学者全員に既知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,Paにおいて見出すことができる。これらの製剤には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、ベシクル(LIPOFECTIN(商標)など)を含有する脂質(カチオン性またはアニオン性)、DNA結合体、無水吸収ペースト、水中油エマルションおよび油中水エマルション、エマルションカーボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカーボワックスを含有する半固体混合物が含まれる。Powell et al.「Compendium of excipients for parenteral formulations」PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0088】
様々な送達系は既知であり、本発明の医薬組成物を投与するために使用することができ、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルにおける封入、変異ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスである(例えば、Wu et al.,1987,J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照されたい)。投与方法には、皮内経路、経皮経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、硝子体内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜外経路および経口経路が含まれるが、これらに限定されない。組成物は、例えば、注入もしくはボーラス注射による、上皮もしくは粘膜皮膚の裏打ち(例えば、口腔粘膜、直腸および腸の粘膜など)を通じての吸収による何らかの簡便な経路によって投与され得、他の生物学的に活性のある薬剤と共に投与され得る。
【0089】
本発明の医薬組成物は、標準的な針および注射器を用いて皮下にまたは静脈内に送達することができる。さらに、皮下送達に関して、ペン送達デバイスは、本発明の医薬組成物を送達する上での適用を容易に有する。このようなペン送達デバイスは、再利用可能または使い捨て可能であり得る。再利用可能なペン送達デバイスは、概して、医薬組成物を含有する交換可能なカートリッジを利用する。一度、カートリッジ内の医薬組成物が全て投与され、カートリッジが空になると、この空のカートリッジは容易に廃棄することができ、医薬組成物を含有する新しいカートリッジと容易に交換することができる。次に、ペン送達デバイスは再利用することができる。使い捨てのペン送達デバイスにおいて、交換可能なカートリッジは存在しない。むしろ、使い捨てペン送達デバイスは、このデバイス内の貯蔵器の中に保持された医薬組成物が事前に充填されている。一度、貯蔵器が医薬組成物に関して空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0090】
特定の状況において、医薬組成物は、徐放系で送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用することができる。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができ、Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),1974,CRC Pres.,Boca Raton,Flaを参照されたい。さらに別の実施形態では、徐放系を組成物の標的の近傍に配置することができ、それによって全身用量のほんの一部のみが必要となる(例えば、Goodson,1984,in Medical Applications of Controlled Release,supra,vol.2,pp.115-138を参照されたい)。他の徐放系は、Langer,1990,Science249:1527-1533による総説で論じられている。
【0091】
注入可能な調製物には、静脈内注入、皮下注入、皮内注入、および筋肉内注入、点滴注入などのための投薬形態が含まれ得る。これらの注入可能な調製物は、既知の方法により調製され得る。例えば、注入可能な調製物は、例えば、注入用に従来どおり使用される滅菌水性媒体または油性媒体中に上述の抗体またはその塩を溶解、懸濁または乳化させることによって調製され得る。注入用水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコース含有等張液、および他の補助剤などがあり、これらは、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などの適切な可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。油性媒体として、例えば、ゴマ油、ダイズ油などが使用され、ベンジルベンゾエート、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。このように調製された注射は、好ましくは適切なアンプルに充填される。
【0092】
有益なことに、上記に記載される経口または非経口での使用のための医薬組成物は、有効成分の用量に適合するために好適な単位用量の投薬形態へと調製される。単位用量におけるこのような投薬形態には、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル剤)、坐剤などが含まれる。
【0093】
投与レジメン
本発明は、週に約4回、週に2回、週に1回、2週ごとに1回、3週ごとに1回、4週ごとに1回、5週ごとに1回、6週ごとに1回、8週ごとに1回、12週ごとに1回の投薬頻度、または治療応答が達成される限りそれ以下の頻度で、対象に抗PD-1抗体を投与することを含む方法を含む。ある特定の実施形態では、本発明は、週に約4回、週に2回、週に1回、2週ごとに1回、3週ごとに1回、4週ごとに1回、5週ごとに1回、6週ごとに1回、8週ごとに1回、12週ごとに1回の投薬頻度、または治療応答が達成される限りそれ以下の頻度で、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体を対象に投与することを含む方法を含む。ある特定の実施形態では、方法は、週に約4回、週に2回、週に1回、2週ごとに1回、3週ごとに1回、4週ごとに1回、5週ごとに1回、6週ごとに1回、8週ごとに1回、9週ごとに1回、12週ごとに1回の投薬頻度、または治療応答が達成される限りそれ以下の頻度で、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせて、抗PD-1抗体を投与することを含む。
【0094】
本発明のある特定の実施形態によれば、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせた抗PD-1抗体の複数回用量は、既定される時間経過にわたって対象に投与され得る。本発明のこの態様による方法は、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の1回以上の用量と組み合わせて、抗PD-1抗体の1回以上の用量を対象に連続的に投与することを含む。本発明で使用する場合、「連続的に投与すること」は、抗体の各用量が、異なる時点、例えば、所定の間隔(例えば、数時間、数日、数週間、または数か月)よって分けられた異なる日に、対象へ投与されることを意味する。本発明には、抗PD-1抗体の単回の1次用量と、それに続く抗PD-1抗体の1回以上の2次用量、次いで場合により抗PD-1抗体の1回以上の3次用量を患者へ連続的に投与することを含む方法が含まれる。ある特定の実施形態では、方法は、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の単回の1次用量と、それに続く二重特異性抗体の1回以上の2次用量、次いで場合により二重特異性抗体の1回以上の3次用量を患者へ連続的に投与することをさらに含む。
【0095】
本発明のある特定の実施形態によれば、抗PD-1抗体および二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の複数回用量は、既定される時間経過にわたって対象に投与され得る。本発明のこの態様による方法は、抗PD-1抗体および二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の複数回用量を対象へ連続的に投与することを含む。本発明で使用する場合、「連続的に投与すること」は、抗PD-1抗体の各用量が、二重特異性抗体と組み合わせて、異なる時点、例えば、所定の間隔(例えば、数時間、数日、数週間、または数か月)よって分けられた異なる日に、対象へ投与されることを意味する。
【0096】
「1次用量」、「2次用量」、および「3次用量」という用語は、投与の時系列を指す。したがって、「1次用量」とは、治療レジメンの開始時に投与される用量(「ベースライン用量」とも称する)であり、「2次用量」とは、1次用量後に投与される用量であり、「3次用量」とは、2次用量後に投与される用量である。1次用量、2次用量、および3次用量は全て、同じ量の抗体(抗PD-1抗体または二重特異性抗体)を含み得る。ただし、ある特定の実施形態では、1次用量、2次用量および/または3次用量に含まれる量は、治療経過の間、互いに異なる(例えば、適宜上下に調整される)。ある特定の実施形態では、1回以上(例えば、1回、2回、3回、4回、または5回)の用量が治療レジメンの開始時において「負荷用量」として投与され、続いてより低い頻度に基づいて投与される後続用量(例えば、「維持用量」)が投与される。例えば、抗PD-1抗体は、約1~3mg/kgの負荷用量で卵巣癌を有する患者に投与され得、続いて、患者の体重1kg当たり約0.1~約20mg/kgの1つ以上の維持用量で投与され得る。
【0097】
本発明の一例示的な実施形態では、各2次用量および/または3次用量は、直前の用量の1/2~14(例えば、1/2、1、11/2、2、21/2、3、31/2、4、41/2、5、51/2、6、61/2、7、71/2、8、81/2、9、91/2、10、101/2、11、111/2、12、121/2、13、131/2、14、141/2、またはそれ以上)週間後に投与される。「直前の用量」という句は、本発明で使用する場合、一連の複数回投与において、抗PD-1抗体(および/または二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体)の用量を意味し、これは、介入用量のない直後の用量の投与の前に患者へ投与される。
【0098】
本発明のこの態様による方法は、抗PD-1抗体(および/または二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体)の2次用量および/または3次用量の任意の回数を患者へ投与することを含んでよい。例えば、ある特定の実施形態では、単回の2次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2回以上(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回またはそれ以上)の2次用量が患者に投与される。同様に、ある特定の実施形態では、単回の3次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2回以上(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回またはそれ以上)の3次用量が患者に投与される。
【0099】
複数回の2次用量を伴う実施形態では、各2次用量は他の2次用量と同じ頻度で投与され得る。例えば、各2次用量は、直前の用量の1~2週間後に患者に投与されてもよい。同様に、複数の3次用量を含む実施形態において、各3次用量は他の3次用量と同じ頻度で投与されてもよい。例えば、各3次用量は、直前の用量の2~4週間後に患者に投与されてもよい。あるいは、2次用量および/または3次用量が患者へ投与される頻度は、治療計画の経過にわたって変動し得る。投与頻度はまた、臨床検査後の個々の患者の必要性に応じて、医師によって治療経過の間に調整され得る。
【0100】
ある特定の実施形態では、抗PD-1抗体および/または二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の1回以上の用量は、治療レジメンの開始時に、「誘導用量」としてより高い頻度ベースで(週に2回、週に1回または2週間に1回)投与され、続いて、その後の用量(「強化用量」または「維持量」)が低い頻度ベースで(例えば、4~12週間に1回)投与される。
【0101】
本発明は、抗PD-1抗体を、二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体と組み合わせて、卵巣癌(例えば、漿液性癌)を治療する患者に連続投与することを含む方法を含む。いくつかの実施形態では、本方法は、抗PD-1抗体の1回以上の用量、続いて二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の1回以上の用量を投与することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、抗PD-1抗体の単回投与、続いて二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の1回以上の用量を投与することを含む。いくつかの実施形態では、卵巣癌を有する対象において腫瘍増殖を阻害し、および/または腫瘍再発を予防するために、約0.1mg/kg~約20mg/kgの抗PD-1抗体の1回以上の用量を投与され得、続いて、約0.1mg/kg~約20mg/kgの二重特異性抗体の1回以上の用量を投与され得る。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は1回以上の用量で投与され、続いて、二重特異性抗体の1回以上の用量を投与され、その結果抗腫瘍効果の増加をもたらす(例えば、未治療の対象または単剤療法としていずれかの抗体を投与された対象と比較して、腫瘍増殖のより大きな阻害、腫瘍再発のより大きな予防)。本発明の代替の実施形態は、抗PD-1抗体と同様のまたは異なる頻度で別々の投与量で投与される、抗PD-1抗体と二重特異性抗体の同時投与に関する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、抗PD-1抗体の前に、後に、または同時に投与される。ある特定の実施形態では、二重特異性抗体は、抗PD-1抗体を有する単一剤形として投与される。
【0102】
投与量
本発明の方法に従って対象に投与される抗PD-1抗体および/または二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の量は、一般には治療有効量である。本発明で使用する場合、「治療有効量」という句は、以下の1つ以上をもたらす抗体の量(抗PD-1抗体または二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体)を意味する:(a)癌(例えば、卵巣癌)の重症度または症状の持続期間の減少、(b)腫瘍増殖の阻害、または腫瘍壊死、腫瘍縮小および腫瘍消失の増加、(c)腫瘍増殖および発症の遅延、(d)腫瘍転移の阻害または遅延または停止、(e)腫瘍増殖の再発の予防、(f)癌を有する対象の生存の増加、ならびに/または(g)未治療の対象もしくは単剤療法としていずれかの抗体を投与された対象と比較した、従来の抗癌剤療法の使用または必要性の減少(例えば、化学療法剤もしくは細胞傷害性薬剤の使用の減少または排除)。
【0103】
抗PD-1抗体の場合では、治療有効量は、約0.05mg~約600mgの抗PD-1抗体、例えば、約0.05mg、約0.1mg、約1.0mg、約1.5mg、約2.0mg、約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約110mg、約120mg、約130mg、約140mg、約150mg、約160mg、約170mg、約180mg、約190mg、約200mg、約210mg、約220mg、約230mg、約240mg、約250mg、約260mg、約270mg、約280mg、約290mg、約300mg、約310mg、約320mg、約330mg、約340mg、約350mg、約360mg、約370mg、約380mg、約390mg、約400mg、約410mg、約420mg、約430mg、約440mg、約450mg、約460mg、約470mg、約480mg、約490mg、約500mg、約510mg、約520mg、約530mg、約540mg、約550mg、約560mg、約570mg、約580mg、約590mgまたは約600mgである。ある特定の実施形態では、250mgの抗PD-1抗体が投与される。
【0104】
二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体の場合では、治療有効量は、約10マイクログラム(mcg)~約8000mcgの二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体、例えば、約10mcg、約20mcg、約50mcg、約70mcg、約100mcg、約120mcg、約150mcg、約200mcg、約250mcg、約300mcg、約350mcg、約400mcg、約450mcg、約500mcg、約550mcg、約600mcg、約700mcg、約800mcg、約900mcg、約1000mcg、約1050mcg、約1100mcg、約1500mcg、約1700mcg、約2000mcg、約2050mcg、約2100mcg、約2200mcg、約2500mcg、約2700mcg、約2800mcg、約2900mcg、約3000mcg、約4000mcg、約5000mcg、約6000mcg、約7000mcgまたは約8000mcgであり得る。
【0105】
個々の用量に含有される抗PD-1抗体または二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体のいずれかの量は、患者の体重キログラム当たりの抗体のミリグラム(すなわち、mg/kg)に関して表され得る。ある特定の実施形態では、本発明の方法で使用される抗PD-1抗体または二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体のいずれかが、対象の体重の約0.0001~約100mg/kgの用量で、対象に投与され得る。例えば、抗PD-1抗体は、患者の体重1kg当たり約0.1mg/kg~約20mg/kgの用量で投与され得る。二重特異性抗MUC16/抗CD3抗体は、患者の体重1kg当たり約0.1mg/kg~約20mg/kgの用量で投与され得る。
【0106】
本明細書で参照される配列および対応する配列番号のまとめを、以下の表1に示す。
【表1】
【実施例
【0107】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物をどのように作製および使用するかに関する完全な開示および説明を当業者に提供するために提示されており、本発明者らが本発明とみなすことの範囲を限定することを企図するものではない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力はしてきたが、いくつかの実験上の誤差および偏差が考慮されるべきである。別段示されない限り、部分は重量部分であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧またはそれに近い圧力である。
【0108】
実施例1:卵巣細胞特異的(MUC16)およびCD3に結合する二重特異性抗体の産生
本発明は、CD3およびMUC16に結合する二重特異性抗原結合分子を提供し、このような二重特異性抗原結合分子はまた、本明細書において「抗MUC16/抗CD3または抗MUC16×CD3二重特異性分子」とも呼ばれる。抗MUC16/抗CD3二重特異性分子の抗MUC16部分は、MUC16(CA-125としても既知)を発現する腫瘍細胞を標的化するのに有用であり、二重特異性分子の抗CD3部分は、T細胞を活性化するのに有用である。腫瘍細胞上のMUC16およびT細胞上のCD3の同時結合は、活性化T細胞によって標的腫瘍細胞の直接死滅(細胞溶解)を促進する。
【0109】
抗MUC16特異的結合ドメインおよび抗CD3特異的結合ドメインを含む二重特異性抗体を、標準的な方法を用いて構築し、抗MUC16抗原結合ドメインおよび抗CD3抗原結合ドメインがそれぞれ共通のLCVRと対をなす異なる別個のHCVRを含む。例示的な二重特異性抗体では、抗CD3抗体由来の重鎖、抗MUC16抗体由来の重鎖、および抗MUC16抗体由来の共通軽鎖を利用して分子を構築した。他の例では、二重特異性抗体は、抗CD3抗体由来の重鎖、抗MUC16抗体由来の重鎖、および抗CD3抗体由来の軽鎖、または乱雑であって、あるいは様々な重鎖アームと効果的に対をなすことが既知である抗体軽鎖を利用して構築され得る。
【0110】
2014年8月28日に公開された米国特許出願公開第US2014/0243504A1号に記載の、IgG1Fcドメイン(BSMUC16/CD3-001、-002、-003、および-004)または修飾(キメラ)IgG4Fcドメイン(BSMUC16/CD3-005)を有する例示的な二重特異性抗体を製造した。
【0111】
構築した様々な抗MUC16×CD3二重特異性抗体の抗原結合ドメインの構成部分のまとめを表2に示す。
【表2】
【0112】
実施例2:CA-125はインビトロで抗MUC16×CD3抗体活性を妨げない
BSMUC16/CD3-001の活性に対する可溶性CA-125(MUC16の排出型)の影響は、卵巣癌患者の腹水から精製したCA-125の高レベルの存在下で、FACS結合および細胞傷害性アッセイを使用して評価された。CA-125レベルは、大多数の卵巣癌患者の血清で増加し、循環レベルは、抗原シンクとして作用することで任意のMUC16標的化療法に影響を与える可能性がある。アッセイで使用されるCA-125のレベル(10,000U/ml)は、卵巣癌患者の公表されているレベルの中央値656.6U/mLをはるかに上回る。ヒトの腹水から濃縮された可溶性CA-125(creative Biomart,NY,USA)またはMUC16(MUC16Δ)の5つのカルボキシ末端SEAドメインを発現する膜近位構築および膜近傍領域の存在下で、MUC16発現OVCAR-3細胞を死滅するBSMUC16/CD3-001の能力は、固定濃度(100pM)のBSMUC16/CD3-001またはCD3結合対照抗体、およびMUC16-1HまたはMUC16Δのいずれかの段階希釈物を用いて、37℃で72時間、4:1のエフェクター/標的比率で実施された。MUC16保有標的細胞の特異的死滅をモニタリングするために、OVCAR-3細胞を1uMのバイオレット細胞トラッカーで標識した。標識後、細胞を37℃で一晩播種した。別に、ヒトPBMCを1×10細胞/mLで補充RPMI培地に播種し、粘着細胞を枯渇させることによってリンパ球を濃縮するために37℃で一晩インキュベートした。翌日、標的細胞を、粘着細胞除去ナイーブPBMC(エフェクター/標的細胞4:1の比率)、およびBSMUC16/CD3-001またはCD3結合対照のいずれかの段階希釈物と共に37℃で72時間インキュベートした。トリプシンを使用して細胞を細胞培養プレートから取り出し、FACSにより分析した。FACS分析のために、細胞を死/生の遠赤細胞トラッカー(Invitrogen)で染色した。死滅の特異性を評価するために、細胞をバイオレット細胞トラッカー標識集団にゲートした。調整生存率の計算のために、以下のように生きている標的細胞の割合を報告した。調整生存率=(R1/R2)100であり、R1=抗体の存在下で生きている標的細胞の%、およびR2=試験抗体の非存在下で生きている標的細胞の%。T細胞活性化は、細胞をCD2、CD69およびCD25に直接コンジュゲートした抗体と共にインキュベートし、全T細胞(CD2+)のうち活性化された(CD69+)T細胞または(CD25+)T細胞の割合を報告することによって評価された。
【0113】
BSMUC16/CD3-001およびヒトの腹水から得られたCA125にCA-125(クローン3A5)を結合することが既知である抗体の結合は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって測定された。簡潔に説明すると、PBSに4000ユニット/mLの濃度で可溶性CA-125(creative Biomart,NY,USA)を、96ウェルマイクロタイタープレートに4℃で一晩受動的に吸着させた。次に、プレートをPBSTで洗浄し、PBS中の0.5%BSAにより1時間遮断した。ビオチン化BSMUC16/CD3-001、MUC16親抗体、a-MUC16 3A5および非結合対照(BSMUC16/CD3-001アイソタイプ対照およびa-MUC16 3A5アイソタイプ対照)を、PBS中の0.5%BSAに10、1、0.3、または0.1nMの濃度で1時間プレートに加え、続いて、PBSTで洗浄した。1.0mg/mLストック溶液の1:10000希釈で、西洋ワサビペルオキシダーゼでコンジュゲートしたストレプトアビジン(SA-HRP)(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA,USA)をウェルに加えて、プレート結合ビオチン化抗体を検出するために1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、製造元の指示に従って3-3’,5-5’-テトラメチルベンジジン(BD Biosciences,Franklin Lakes,NJ,USA)基質で発色させた。Victor Multilabel Plate Reader(Perkin Elmer;Melville,NY)で、各ウェルの450nmでの吸光度を記録した。GraphPadPrismソフトウェアを使用してデータを分析した。
【0114】
過剰なCA-125は、BSMUC16/CD3-0001のOVCAR-3細胞への結合に最小限の影響しか与えず、CA-125への最小限の結合を示唆している(図1)。対照的に、CA-125は、MUC16の反復領域に結合する可能性が高い対照薬抗体(抗体クローン3Aの自社バージョン)の能力を大幅に阻害した(図1)。さらに、参照により本明細書に組み込まれるWO2018/067331により詳細に示すように、MUC16(MUC16Δ)の5番目SEAドメインまでの近位領域を含む可溶性MUC16構築は、BSMUC16/CD3-001の結合を劇的に阻害し、BSMUC16/CD3-001が膜近位領域に結合することを示した。結合試験と一致して、BSMUC16/CD3-001は、CA-125の存在下でもT細胞媒介性死滅を誘導する可能性があるが、高濃度のMUC16Δの存在下では誘導する可能性はない(データは示さず)。したがって、BSMUC16/CD3-001はMUC16に結合し、高濃度のCA-125の存在下でもT細胞の再指向性死滅を誘導することができる。
【0115】
実施例3:PD-1遮断は、異種および同系腫瘍モデルにおいて抗MUC16×CD3二重特異性抗体の抗腫瘍活性を増強する。
PD-1遮断と組み合わせて抗MUC16/抗CD3二重特異性抗体のインビボでの有効性を、異種および同系腫瘍モデルで評価した。
【0116】
A.異種モデル-OVCAR-3/Luc
異種モデルについては、免疫不全NSGマウスに、ヒトPBMCを移植した13日後に予めインビボで継代培養した(0日目)OVCAR-3/Luc細胞を腹腔内(IP)注射した。マウスを12.5ug/マウスBSMUC16/CD3-001で腹腔内処置するか、5日目と8日目に12.5ugのCD3結合対照を単独でまたは100ugのREGN2810と組み合わせて投与した。腫瘍量は、腫瘍移植後4、8、12、15、20および25日目にBLIによって評価された。25日目のBLI測定によって決定されるように、12.5ugのBSMUC16/CD3-001による処置は、BLI測定によって決定された有意な抗腫瘍効果をもたらし、REGN2810(抗PD-1)との組み合わせは抗腫瘍効果をさらに増強した。全ての群は、投与開始前にBLIによって評価されたものと同様の腫瘍量を有していた。群間の腫瘍量に有意差はなかった。
【0117】
BSMUC16/CD3-001は、12.5ugで腫瘍量を有意に減少し、抗PD-1の追加により、BSMUC16/CD3-001単独の場合よりも抗腫瘍効果が増強する。ヒトT細胞を移植したNSGマウスにヒトOVCAR-3/Luc細胞を移植した。マウスを5日目および8日目に12.5ugのBSMUC16/CD3-001を静脈内投与で、またはCD3結合対照もしくは非結合対照(12.5ug静脈内)で処置した。以下の表3に示すデータは、腫瘍移植後25日目にBLIによって評価された腫瘍量である。統計的有意性は、対応のないノンパラメトリックなマン・ホイットニーt検定を用いて決定された。BSMUC16/CD3-001+/-REGN2810による処置をCD3結合対照と比較して(BSMUC16/CD3-001についてp<0.05、BSMUC16/CD3-001およびREGN2810について**p<0.01)、BSMUC16/CD3-001単独の処置をREGN2810との組み合わせと比較した(#p<0.05)。
【表3】
【0118】
B.同系モデル-ID8-VEGF/huMUC16
免疫適格モデルにおける有効性を調べるために、マウスCD3遺伝子をヒトCD3と置き換え、マウスMUC16遺伝子の一部をヒト配列と置き換えた。置換により、そのT細胞がヒトCD3を発現し、BSMUC16/CD3-001およびBSMUC16/CD3-005二重特異性抗体が結合するヒトMUC16の一部を含むキメラMUC16分子を発現するマウスが得られた。
【0119】
この最初の同系腫瘍モデルでは、ヒトMUC16の一部を発現するように操作されたID8-VEGF細胞株を使用した。マウスにID8-VEGF/huMUC16細胞を腹腔内移植し、移植後3日目に、アイソタイプ対照と共にまたは抗PD-1(5mg/kg静脈内)と組み合わせて、5mg/kgのBSMUC16/CD3-001またはCD3結合対照で処置した。BSMUC16/CD3-001での処置は、CD3結合対照を受けた群と比較して生存期間中央値が拡張するが、抗PD-1遮断の追加によってもマウスの50%の生存率をもたらした。
【0120】
BSMUC16/CD3-001は、ID8-VEGF腹水モデルの生存期間中央値を有意に増加させ、PD-1(REGN2810)遮断を追加すると、複数のマウスの生存が可能になる。マウスCD3およびキメラMUC16分子の代わりにヒトCD3を発現するマウスに、ヒトMUC16の一部を発現するマウス卵巣腫瘍株を移植した。移植後3日目に、アイソタイプ対照と共にまたは抗PD-1と共に、マウスにBSMUC16/CD3-001(5mg/kg静脈内)を投与するか、またはCD3結合対照(5mg/kg静脈内)を投与した。腫瘍移植後3、7、10,14、17日目にマウスを処置した。示されるデータは生存期間中央値である。腹水誘導された腹部膨満のために体重増加が20%を超えたときにマウスを屠殺した。統計的有意性は、Mantel-Cox法を使用して決定された。BSMUC16/CD3-001とBSMUC16/CD3-001+抗PD-1との処置が、生存期間中央値の増加をもたらし、BSMUC16/CD3-001+抗PD-1の組み合わせが50%の生存率をもたらし、MUC16×CD3二重特異性抗体と抗PD-1抗体との相乗効果を示した。結果を以下の表4に示す。
【表4】
【0121】
BSMUC16/CD3-001を1mg/kgで抗PD-1抗体と組み合わせて投与した場合に同様の結果が観察された。
【0122】
C.同系モデル-MC38/huMUC16
上述したように、本実験で使用したマウスは、マウスCD3遺伝子をヒトCD3と置き換え、マウスMUC16遺伝子の一部をヒト配列と置き換えるように操作された。置換により、そのT細胞がヒトCD3を発現し、BSMUC16/CD3-001およびBSMUC16/CD3-005二重特異性抗体が結合するヒトMUC16の一部を含むキメラMUC16分子を発現するマウスが得られた。
【0123】
この2番目の同系腫瘍モデルでは、ヒトMUC16の一部を発現するように操作されたMC38株を使用した。マウスにMC38/huMUC16細胞を皮下移植し、腫瘍移植後7日目に、アイソタイプ対照(1mg/kg静脈内)と共にまたは抗PD-1(5mg/kg静脈内)と組み合わせて、BSMUC16/CD3-005またはCD3結合対照で処置した。本実験で使用した抗PD-1抗体は、市販のマウス抗体(クローンRMP1-14、BioXCell)であった。BSMUC16/CD3-005と抗PD-1との組み合わせは、相乗的な抗腫瘍効果を示した。
【0124】
BSMUC16/CD3-005と抗PD-1遮断との組み合わせは、MC38SCモデルにおいてBSMUC16/CD3-005単独よりも優れた抗腫瘍効果をもたらした。マウスCD3およびキメラMUC16分子の代わりにヒトCD3を発現するマウスに、ヒトMUC16の一部を発現するマウス腫瘍株MC38を移植した。移植後7日目に、アイソタイプ対照と共にまたは抗PD-1抗体(5mg/kg静脈内)と共に、マウスにBSMUC16/CD3-005を投与するか、またはCD3結合対照(1mg/kg静脈内)を投与した。腫瘍移植後7、11および14日目にマウスを処置した。結果を図2に示す。統計的有意性は、テューキーの多重比較検定の二元配置分散分析を使用して決定された。BSMUC16/CD3-005+抗PD-1により、CD3結合対照よりも有意かつ相乗的に腫瘍増殖が阻害された。
【0125】
実施例4:操作されたマウスにおける免疫PETイメージングは、T細胞に富む器官への抗MUC16×CD3二重特異性抗体の局在を示した
BSMUC16/CD3-001およびBSMUC16/CD3-005のインビボでの局在ならびにMUC16タンパク質の発現は、PETイメージングを使用して、野生型および遺伝的ヒト化マウスで評価された。89Zr-標識抗MUC16抗体(二重特異性と同じ抗MUC16重鎖および軽鎖を使用して生成された二価抗MUC16抗体、ここでは「親」と呼ばれる)の生体内分布は、野生型マウスとヒト化マウスの両方で類似しており、抗体に対するヒト化MUC16タンパク質の発現/有無が低いことを示唆している。対照的に、マウスは、89のZr標識BSMUC16/CD3-001二重特異性抗体の治療上適切な用量を投与し、脾臓およびリンパ節の分布(データは示さない)、これらのリンパ器官におけるCD3陽性T細胞の認識によるもので明らかでした。個々の組織におけるexvivo生体内分布分析により、リンパ節および脾臓への局在が確認されました(データは示していません)。リンパ組織における89Zr-標識BSMUC16/CD3-005二重特異性抗体の取り込みは、CD3に対する親和性が低いため、BSMUC16/CD3-001と比較して大幅に減少した。BSMUC16/CD3-001およびBSMUC16/CD3-005が、MUC16発現腫瘍に蓄積するかどうかを評価するために、89Zr-標識BSMUC16/CD3-001および89Zr-標識BSMUC16/CD3-005を、ID8-VEGF-huMUC16Δ腫瘍を保有するマウスに投与した。BSMUC16/CD3-001のリンパ系取り込みが高いにもかかわらず、二重特異性抗体間の腫瘍取り込みに有意差はなかった(データは示さず)。
【0126】
免疫複合体の調製と小動物用PET:PNGaseFで抗体を脱グリコシル化した後、微生物のトランスグルタミナーゼによるアミド基転移により、BSMUC16/CD3-001および対照抗体をDFOと295位のグルタミン残基にコンジュゲートした。次に、DFOにコンジュゲートした抗体をジルコニウム-89(89Zr)でキレート化した。マウスは、尾静脈注射を介して最終用量0.5mg/kgで抗体を投与された。次に、PETイメージングを実施して、エクスビボでの生体内分布試験の前に、投与後6日目に放射性免疫複合体のインビボでの局在を評価した。担癌マウスでの実験では、マウスは、10×10ID8-VEGF-huMUC16Δ腫瘍細胞を皮下移植した。担癌マウスに、腫瘍の平均が150mmである移植後20日目に89Zr放射標識抗体を投与した。
【0127】
事前に較正されたSofie Biosciences G8 PET/CT装置(Sofie Biosciences(Culver city,CA)およびPerkin Elmer)を使用して、PETおよびCT画像を取得した。エネルギーウィンドウは150~650keVの範囲で、視野の中心で1.4mmの再構成された解像度であった。投与後6日目に、マウスはイソフルランを使用した麻酔導入を受け、10分間の静的PET取得の間、イソフルランを継続的に流す状態で維持した。CT画像はPET取得後に取得された。その後、PET画像は事前構成された設定を使用して再構築された。崩壊補正されたPETデータおよびCTデータは、VivoQuantソフトウェア(inviCRO Imaging Services)を使用して、1回の注入量(%ID/gで表される)の0~30%の信号範囲を示すように較正されたカラースケールで偽色の同時登録PET-CT最大強度投影に処理された。エクスビボでの生体内分布分析のために、投与後6日目のイメージング後にマウスを安楽死させた。血液は心臓穿刺してカウントチューブに採取された。次に、正常組織(鼠径部および腋窩リンパ節、胸腺、脾臓、心臓、肺、胃、小腸、肝臓、腎臓、骨、および卵巣)を切除して、カウントチューブに入れた。腫瘍も同様にカウントチューブに採取された。全てのチューブは事前に計量され、その後、血液および組織の重量を決定するために再計量された。次に、全てのサンプルのγ放射放射能を自動ガンマカウンタ(Wizard 2470,Perkin Elmer)でカウントし、結果を1分当たりのカウント数(cpm)で報告した。各サンプルの%IDは、元の注入された材料から調製された用量標準カウントと比較したサンプルカウントを使用して決定した。続いて、個々の%ID/g値は、%ID値を適切な血液、組織、または腫瘍サンプルのそれぞれの重量で割ることによって導き出された。
【0128】
89Zr-標識BSMUC16/CD3-001と89Zr-標識BSMUC16/CD3-005は、相対性CD3親和性に関連するリンパ系に分布して、MUC16+腫瘍およびCD3+リンパ組織に特異的な局在を示した。MUC16×CD3二重特異性は両方、CD3+組織の存在下で同等の腫瘍局在を示した。
【0129】
実施例5:カニクイザルの毒性試験は、抗MUC16×CD3二重特異性抗体に対して明白な毒性を示さなかった
BSMUC16/CD3-001は、サルのMUC16およびCD3と交差反応する。安全性と忍容性を決定し、二重特異性抗体の薬物動態を特徴づけるために、カニクイザルで反復投与毒性試験を実施した。6匹のサル/性別/群にBSMUC16/CD3-001を週1回投与し、0.01、0.1または1mg/kgで合計5回投与した。投与期間の終了時、3匹の動物/性別/群を安楽死させて、組織を顕微鏡所見で検査し、一方、残りの3匹の動物/性別/群は、任意のBSMUC16/CD3-001に関する作用の可逆性または持続性を評価するために12週間の非投与回復を受けた。BSMUC16/CD3-001は十分な許容性があり、全ての動物は予定された剖検時まで生存した。毒性動態分析は、性差は認められずに、用量群全体で用量比例曝露と線形動態を示した(データは示さず)。BSMUC16/CD3-001への継続的な曝露は投与段階を通して観察され、BSMUC16/CD3-001の曝露は、全ての動物(n=6)ならびに0.1および1.0mg/kg群の50%の動物それぞれで回復期の終わりまで維持された。BSMUC16/CD3-001は、回復8週後、0.01mg/kg群の任意の動物の血清で検出されなかった。BSMUC16/CD3-001の消失半減期は約10日であった。
【0130】
BSMUC16/CD3-001に関連する臨床観察はなく、投与期間中もしくは回復期間中の尿検査パラメータ、末梢血免疫表現型検査、摂食量、または体重の変化もなかった。重要なことに、BSMUC16/CD3-001の投与は、ECGパラメータの変化を含め、呼吸器系、神経性、または心血管系の安全性薬理評価に変化をもたらさなかった。BSMUC16/CD3-001に関連する臓器重量の変化は見られず、最終剖検または回復剖検のいずれにおいても肉眼的変化は認められなかった。循環免疫マーカー(C反応性タンパク質(CRP)およびIL-6)の用量関連性、可逆的上昇は、1.0または0.1mg/kgのいずれかの1次用量後1日以内に観察されたが、これらの上昇はその後の投与後には明らかではなかった(データは示さず)。血清サイトカインの最小限の増加に従って、血液腫瘍に対するいくつかのCD3二重特異性分子について記載されているものとは対照的に、BSMUC16/CD3-001投与後にT細胞の再分布は検出されなかった(データは示さず)。
【0131】
カニクイザルの試験は、IACUCのガイドラインに従って実施された。カニクイザル(6匹/性別/群)に、対照物質(プラセボ希釈)またはBSMUC16/CD3-001(0.01、0.1、または1mg/kg)を週1回30分間の静脈内注入により投与した。対照物質は、注射用0.9%塩化ナトリウム、USP(滅菌生理食塩水)で希釈した、pH6、10%スクロースおよび0.05%ポリソルベート20を含む10mMヒスチジンであった。血液サンプルまたは組織は、臨床病理学および組織病理学のために様々な時点で採取された。BSMUC16/CD3-001濃度はELISAによって決定され、毒性動態分析はWinNonLinソフトウェアを使用して行われた。CRPはRoche Modular P800システムで分析された。サイトカインは、MSD(Meso Scale Diagnostics,Rockville,MD)によって測定された。T細胞はフローサイトメトリーを使用して定量化された。簡潔に説明すると、血液をカリウムEDTAチューブに採取し、溶解し、CD3、CD4およびCD8(BD Biosciences)で染色し、FACS Canto IIを使用して各表現型の相対値を決定する。次に、これらの値にリンパ球の絶対値(血液学的分析による)を掛けて、各表現型の絶対細胞数を列挙する。
【0132】
MUC16の免疫組織化学的染色は、予想した組織、膵臓(中皮、管上皮)、心臓および卵巣(データは示さず)および唾液腺(杯細胞)、肝臓(中皮、胆管)、肺(中皮、細気管支/気管支上皮)、小腸(中皮)、精巣(中皮、精巣網/排出管)ならびにトンシル(上皮、粘液腺)扁桃(上皮、粘液腺)(示さず)に存在した。ヘマトキシリン・エオジン(H&E)組織染色によって評価されたBSMUC16/CD3-001に関連する顕微鏡的変化は、炎症(白血球の浸潤)が挙げられ、漿膜内層ならびに/または多数の胸部および腹膜器官の中皮下結合組織の非有害な肥大をもたらす、中皮細胞のサイズおよび細胞充実性を増加させた。これらの変化は一般的に性質上、限局性または多発性であって、重症度は軽微ないしわずかであって、漿膜上皮(中皮)細胞に発現するMUC16の関与およびT細胞の活性化に起因するBSMUC16/CD3-001の標的と考えられた。重要なことに、漿膜の変化は、回復期間終了後、回復の逆方向に向かうか、または回復に向かった(データは示さず)。
【0133】
カニクイザルの毒性試験では、BSMUC16/CD3-001投与後、明白な毒性を示さずに、血清サイトカインおよびC反応性タンパク質の最小限かつ一過性の増加を示した。
【0134】
実施例6:担癌マウスにおける血清サイトカイン誘導の評価
サイトカイン放出症候群(CRS)は、CD3二重特異性およびCART細胞療法の高頻度の重篤な副作用であるため、BSMUC16/CD3-001による処置後の関連モデルで血清サイトカインをモニタリングする試験が実施された。腫瘍のない遺伝的ヒト化MUC16/CD3マウスでは、BSMUC16/CD3-001投与時に血清サイトカイン応答は明らかではなかった。
【0135】
BSMUC16/CD3-001によるインビボでのT細胞活性化を評価するために、担癌マウスの血清サイトカインレベルを測定した。血清サンプルは、0.5mg/kgのBSMUC16/CD3-001、CD3結合対照、および非結合対照群において、初回の抗体用量の4時間後に採取された。非結合対照およびCD3結合対照と比較して、BSMUC16/CD3-001による処置は、IFNγ、TNFα、IL-2、IL-6、IL-8およびIL-10の誘導によって決定されるようにT細胞を活性化した(データは示さず)。OVCAR3/Luc細胞のみを保有するマウスは、血清に検出可能なヒトIFNγを持たず、架橋としてMUC16を提供される腫瘍細胞を保有しないマウスは、BSMUC16/CD3-001に応答する血清IFNγの増加を示さなかった(データは示さず)ので、BSMUC16/CD3-001誘導サイトカイン応答には、T細胞とOVCAR-3/Luc細胞の存在が必要であった。
【0136】
血清サイトカインレベルの測定:BSMUC16 / CD3-001による治療に応答したT細胞活性化は、インターフェロンγ(IFNγ)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、インターロイキン-2(IL-2)の血清濃度を測定することによって評価されました。 IL-4、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12p70、IL-13、およびIL-1Bは、最初の0.5 mg / kg投与の4時間後です。サイトカインレベルは、V-plex Human ProInflammatory-10 Plexキットを使用して、製造元の指示(Meso Scale Diagnostics,Rockville,MA)に従って分析された。サイトカインは、群当たり4~6匹のマウスを用いた2つの別々の試験で測定された。
【0137】
実施例7:ヒト化マウスにおけるMUC16発現およびMUC16陽性組織に対する抗MUC16×CD3二重特異性抗体の効果
完全に無傷の免疫系を有するマウスにおけるBSMUC16/CD3-001の抗腫瘍効果を調査するために、マウスは、内因性マウス遺伝子座の両方で、T細胞および抗体結合領域をカバーするMUC16の領域にヒトCD3を発現するように遺伝子操作された(ノックインマウス)。これらのマウスを検証するために、MUC16発現をRT-PCRとIHCの両方で調べた。RNA発現は気管で検出され、肺、心臓、卵巣、膵臓、および膀胱でも低レベルで検出され(データは示さず)、これは、マウスのMUC16発現に関する公開データと同様である。MUC16タンパク質の発現を評価するために、MUC16の膜近位領域を認識する抗ヒトMUC16抗体を使用して、選択した組織に対してIHCを実施した。MUC16タンパク質の発現は、これらのマウスの卵巣および胃の上皮表面で確認された。MUC16は、ヒトで報告されているように、気管内層/上皮および粘膜下腺でも観察された(データは示さず)。
【0138】
マウス組織の組織学:ヒト化マウスまたはWTマウスの組織を収集し、Ventana Discovery XT(Ventana;Tucson,AZ)を使用したIHCにより、MUC16の膜近位ドメインに結合する抗MUC16抗体で染色した。5μmのパラフィン切片をSuperfrostPLUSスライドにカットし、60°Cで1時間焼きました。免疫組織化学的染色は、Ventana DABMap検出キットを使用してDiscoveryXT AutomatedIHC染色システムで実行されました。脱パラフィンは、EZ Prep溶液を75℃で8分間使用して行われた。VentanaのTris-EDTAバッファーpH9(CC1)を使用して、マイルド抗原賦活化を行った(95℃、8分、続いて100℃、24分)。これに続いて、複数のブロッキング工程が行われた。組織切片を抗MUC16抗体(2μg/ml)と共に室温で8時間インキュベートした。無関係な非結合抗体を認識するアイソタイプ対照抗体を陰性対照として使用した。一次抗体および陰性対照を手動で適用した。二次抗体(1μg/ml)としてビオチン化ヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch)を使用して、サンプルを室温で1時間インキュベートした。発色シグナルは、Ventana DAB MAPキットを使用して発色させた。スライドをヘマトキシリンで手動で対比染色し(2分)、脱水してカバーガラスで覆った。画像をAperio AT2スライドスキャナ(Leica Biosystems;Buffalo Grove,IL)で取得して、Indica HALOソフトウェア(Indica Labs;Corrales,NM)を使用して分析した。H&E染色は、Histoserv,Inc(Germantown,MD,USA)によって行われた。
【0139】
これらのマウスのT細胞は、T細胞受容体(TCR)Vβの使用によって評価されるようにポリクローナルであり、ヒトCD3を発現し、野生型マウスと同様の数で存在する(データは示さず)。BSMUC16/CD3-001が、これらの動物の正常組織に任意のT細胞活性化または影響を誘導したかどうかを決定するために、非担癌マウスに高用量のBSMUC16/CD3-001(10mg/kg)注射して、次に、血中のT細胞数、血清サイトカイン、および組織病理学を調べた。血液からのT細胞の辺縁趨向およびの高レベルの血清サイトカインによって測定されるように(データは示さず)、抗ヒトCD3抗体(OKT3)によってT細胞を活性化することができるが、BSMUC16/CD3-001はそのような効果をまったく誘導せず、MUC16標的への接近性が限定的であることを示唆している(データは示さず)。BSMUC16/CD3-001がMUC16発現組織に任意の顕微鏡的変化を誘導したかどうかを決定するために、MUC16およびCD3ヒト化マウスに、0日目と3日目に10mg/kgで2回用量のBSMUC16/CD3-001を投与した。5日目に、いくつかのMUC16発現組織(気管、胃および卵巣)を調べて、BSMUC16/CD3-001投与後、これらの組織に細胞浸潤や壊死は見られなかった(データは示さず)。
組織病理学検査では、検査時にBSMUC16/CD3-001投与後、マウスのMUC16発現組織の炎症または浸潤を示さなかった。
【0140】
この試験の結果は、実施例5で論じられているカニクイザルの試験と同様に、BSMUC16/CD3-001の安全性プロファイルを示す。BSMUC16/CD3-001は最小限の血清サイトカインのみを誘導し、MUC16発現では炎症の限局性誘導および漿膜内層の肥大があり、標的活性を示唆したが、これらの効果は回復期間終了までに解消し、炎症および回復を意味している細胞充実性の増加と一致していた。観察された漿膜の変化は、臨床的観察、臨床病理学(炎症反応を除く)、または根底にある実質の顕微鏡的変化とは相関していなかった。したがって、遺伝的ヒト化マウスおよびカニクイザルの両方における試験は、BSMUC16/CD3-001が十分な許容性があったことを示している。
【0141】
実施例8:ナイーブヒトエフェクター細胞を使用するFACSベースの細胞傷害性アッセイにおけるPD-1発現のモニタリング
フローサイトメトリーによってMuc16を保有する標的細胞の特異的な死滅をモニタリングするために、卵巣細胞株OVCAR-3を1uMのバイオレット細胞トラッカーで標識した。標識後、細胞を37℃で一晩播種した。別に、ヒトPBMCを1×10細胞/mLで補充RPMI培地に播種し、付着マクロファージ、樹状細胞、およびいくつかの単球を枯渇させることによってリンパ球を濃縮するために37℃で一晩インキュベートした。翌日、標的細胞を、粘着細胞除去ナイーブPBMC(エフェクター/標的細胞4:1)、およびBSMUC16/CD3-001またはCD3結合対照のいずれかの段階希釈物と共に37℃で72時間インキュベートした。トリプシンを使用して細胞を細胞培養プレートから取り出し、FACSにより分析した。FACS分析のために、細胞を死/生の遠赤細胞トラッカー(Invitrogen)で染色した。死滅の特異性を評価するために、細胞をバイオレット細胞トラッカー標識集団にゲートした。
【0142】
PD-1発現は、細胞をCD2、CD4、CD8およびPD-1に直接コンジュゲートした抗体と共にインキュベートし、全T細胞(CD2+)のうちPD-1/CD4陽性T細胞またはPD-1/CD8陽性T細胞の割合を報告することによって評価された。BSMUC16/CD3-001とのインキューベーションにより、対照と比較して、PD-1+T細胞の割合が、10倍以上(CD4+T細胞)または3倍以上(CD8+T細胞)増加した。結果を図3に示す。
【0143】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるべきではない。実際、本明細書に記載されるものに加えて本発明の様々な変更が前述の記載から当業者には明らかとなるであろう。そのような変更は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
図1
図2
図3
【配列表】
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