(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】円筒形電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0587 20100101AFI20231215BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20231215BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231215BHJP
H01M 10/0525 20100101ALN20231215BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M4/133
H01M4/587
H01M10/0525
(21)【出願番号】P 2020571239
(86)(22)【出願日】2020-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2020004405
(87)【国際公開番号】W WO2020162504
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019021656
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森澤 直也
(72)【発明者】
【氏名】山上 慎平
(72)【発明者】
【氏名】田下 敬光
(72)【発明者】
【氏名】水越 文一
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-102877(JP,A)
【文献】特開2013-134938(JP,A)
【文献】国際公開第2012/077653(WO,A1)
【文献】特開2011-060465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0587
H01M 4/133
H01M 4/587
H01M 10/0525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極がセパレータを介して渦巻状に巻回された電極体と、
前記電極体を収容する有底円筒形状の外装缶と、
を備え、
前記負極は、負極芯体と、前記負極芯体の表面に設けられた負極合剤層とを有し、
前記電極体の外周面には前記負極芯体の表面が露出した露出部が形成され、前記露出部が前記外装缶の内面に接触し、
前記負極合剤層は、負極活物質として、内部空隙率が5%以下で、且つ破壊強度が25MPa~55MPaである黒鉛粒子を含
み、
前記黒鉛粒子の含有量は、前記負極活物質の総質量に対して15質量%以上である、円筒形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、円筒形電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正極と負極がセパレータを介して渦巻状に巻回された電極体と、電極体を収容する有底円筒形状の外装缶とを備えた円筒形電池が広く知られている。例えば、特許文献1には、巻回型の電極体の外周面に負極芯体の表面が露出した露出部を形成し、負極外部端子となる金属製の外装缶の内面に露出部を接触させた構造を有する円筒形電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の円筒形電池では、電極体の外周面と外装缶の内面の接触状態が不安定になり、内部抵抗値のばらつきが大きくなる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様である円筒形電池は、正極と負極がセパレータを介して渦巻状に巻回された電極体と、前記電極体を収容する有底円筒形状の外装缶とを備え、前記負極は、負極芯体と、前記負極芯体の表面に設けられた負極合剤層とを有し、前記電極体の外周面には前記負極芯体の表面が露出した露出部が形成され、前記露出部が前記外装缶の内面に接触し、前記負極合剤層は、負極活物質として、内部空隙率が5%以下で、且つ破壊強度が25MPa~55MPaである黒鉛粒子を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様である円筒形電池によれば、電極体の外周面と外装缶の内面の接触状態を安定に維持でき、内部抵抗値のばらつきを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の一例である円筒形電池の断面図である。
【
図2】
図2は、黒鉛粒子の内部空隙率、破壊強度、及び電池の内部抵抗のばらつきの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述のように、負極芯体表面の露出部が形成された巻回型電極体の外周面と外装缶の内面を接触させた構造を有する円筒形電池において、電極体の外周面と外装缶の内面の接触状態を安定に維持することは重要な課題である。本発明者らは、この課題を解決すべく鋭意検討した結果、負極活物質として、内部空隙率が5%以下で、且つ破壊強度が25MPa~55MPaである黒鉛粒子を用いることで、電極体の外周面と外装缶の内面の接触状態が安定化し、内部抵抗のばらつきが低減されることを見出した。
【0009】
本開示に係る円筒形電池では、黒鉛粒子の破壊強度を25MPa~55MPaに制御することで、負極作製時の合剤層の圧縮による反発力が大きくなり、黒鉛粒子の内部空隙率を5%以下に制御することで、当該圧縮による反発力が空隙に吸収されず、外装缶に電極体を挿入した後に負極が大きく膨張すると考えられる。このようなメカニズムによって、電極体の外周面と外装缶の内面の接触状態が安定化するものと推測される。
【0010】
以下、本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。実施形態の説明で参照する図面は模式的に記載されたものであるから、各構成要素の寸法比率等は以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0011】
図1は、実施形態の一例である円筒形電池10の断面図である。
図1に例示するように、円筒形電池10は、電極体14と、電解質(図示せず)と、電極体14及び電解質を収容する外装缶16とを備える。電極体14は、正極11、負極12、及びセパレータ13を有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻き状に巻回された巻回構造を有する。外装缶16は、軸方向一方側が開口した有底円筒形状の金属製容器であって、外装缶16の開口は封口体17によって塞がれている。以下では、説明の便宜上、円筒形電池10の封口体17側を上、外装缶16の底部側を下とする。
【0012】
電解質には、例えば非水電解質が用いられる。非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、固体電解質であってもよい。電解質塩には、例えばLiPF6等のリチウム塩が使用される。電解質の種類は特に限定されず、水系電解質であってもよい。
【0013】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状の長尺体であって、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層される。正極11は、正極芯体30と、正極芯体30の表面に設けられた正極合剤層31とを有する。同様に、負極12は、負極芯体40と、負極芯体40上に形成された負極合剤層41とを有する。円筒形電池10は、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19を備える。
【0014】
電極体14の外周面には、負極12が配置され、負極芯体40の表面が露出した露出部42が形成されている。露出部42は、電極体14の外周面の一部に形成されてもよいが、好ましくは外周面の全域に形成される。露出部42は、電極体14の外側を向いた負極芯体40の片面(外面)のみに形成されてもよく、負極芯体40の両面に形成されてもよい。露出部42は、例えば電極体14の外周面に位置する負極芯体40の長手方向の一端から電極体14の周長の1周~2周分程度の長さの範囲に形成される。
【0015】
円筒形電池10では、負極12の露出部42が外装缶16の内面に接触して、負極12と外装缶16が電気的に接続されている。本実施形態では、封口体17が正極外部端子となり、外装缶16が負極外部端子となる。正極11に取り付けられた正極リード20は、絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、封口体17の底板である内部端子板23の下面に溶接等で接続される。負極12には、負極リードが接続されていなくてもよいが、好ましくは電極体14の巻き芯側に位置する負極12の長手方向の端部に、外装缶16の底部内面に溶接等で接続される負極リードが取り付けられる。なお、電極リードが接続される部分には、芯体表面の露出部が形成される。
【0016】
外装缶16と封口体17の間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。外装缶16には、側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部21が形成されている。溝入部21は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。封口体17は、溝入部21と、封口体17に対して加締められた外装缶16の開口端部とにより、外装缶16の上部に固定される。
【0017】
封口体17は、電極体14側から順に、内部端子板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円盤状又はリング状を呈し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。更に内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の通気孔からガスが排出される。
【0018】
以下、電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13について、特に負極12の活物質について詳説する。
【0019】
[正極]
正極11は、上述の通り、正極芯体30と、正極芯体30の表面に設けられた正極合剤層31とを有する。正極芯体30には、アルミニウムなど正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合剤層31は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含み、正極リード20が接続される部分を除く正極芯体30の両面に設けられることが好ましい。正極11は、例えば正極芯体30の表面に正極活物質、導電剤、及び結着剤等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合剤層31を正極芯体30の両面に形成することにより作製できる。
【0020】
正極活物質は、リチウム含有遷移金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム含有遷移金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好適なリチウム含有遷移金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。具体例としては、Ni、Co、Mnを含有するリチウム含有遷移金属複合酸化物、Ni、Co、Alを含有するリチウム含有遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0021】
正極合剤層31に含まれる導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合剤層31に含まれる結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0022】
[負極]
負極12は、上述の通り、負極芯体40と、負極芯体40の表面に設けられた負極合剤層41とを有する。また、負極12には、電極体14の外周面に対応する部分に、負極芯体40の表面が露出した露出部42が形成されている。負極芯体40には、銅など負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合剤層41は、負極活物質、及び結着剤を含み、例えば負極リードが接続される部分及び露出部42を除く負極芯体40の両面に設けられることが好ましい。負極12は、例えば負極芯体40の表面に負極活物質、及び結着剤等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合剤層41を負極芯体40の両面に形成することにより作製できる。
【0023】
負極合剤層41は、負極活物質として、内部空隙率が5%以下で、且つ破壊強度が25MPa~55MPaである黒鉛粒子(以下、「黒鉛粒子P」という場合がある)を含む。黒鉛粒子Pを用いることにより、露出部42が形成された電極体14の外周面と外装缶16の内面の接触状態が安定化し、電池の内部抵抗のばらつきが低減される。黒鉛粒子Pは、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれであってもよいが、内部空隙率及び破壊強度の調整のし易さを考慮すると、人造黒鉛が好ましい。負極合剤層41には、本開示の目的を損なわない範囲で、黒鉛粒子P以外の黒鉛粒子、Si等のリチウムと合金化する金属、当該金属を含有する合金、当該金属を含有する化合物などが併用されてもよい。
【0024】
負極合剤層41は、負極活物質の総質量に対して15質量%以上の黒鉛粒子Pを含むことが好ましく、黒鉛粒子Pの含有率は100質量%であってもよい。黒鉛粒子Pの含有量が15質量%未満であっても、電池の内部抵抗のばらつきの低減効果は得られるが、15質量%以上とすることで、当該効果がより顕著に表れる。負極合剤層41は、負極活物質として、黒鉛粒子Pと他の黒鉛粒子を含んでいてもよい。他の黒鉛粒子は、例えば内部空隙率が5%超過20%以下で、且つ破壊強度が5MPa以上25MPa未満である。
【0025】
黒鉛粒子Pの体積基準のメジアン径(以下、「D50」とする)は、例えば5μm~30μmであり、好ましくは10μm~25μm、より好ましくは15μm~20μmである。D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、HORIBA製、LA950)を用い、水を分散媒として測定できる。D50は、体積基準の粒度分布において粒子径の小さい方から累積50%の粒子径を意味する。
【0026】
黒鉛粒子Pは、粒子断面において、粒子内部に存在して粒子表面に連通しない閉じられた空隙(内部空隙)と、粒子表面に連通した空隙(外部空隙)とを有する。黒鉛粒子Pの内部空隙率とは、粒子断面の総面積に対する内部空隙の面積の割合から求めた2次元値である。黒鉛粒子Pの内部空隙率は、実質的に0%であってもよい。黒鉛粒子の内部空隙率は、以下の手順で求められる。
【0027】
[黒鉛粒子の内部空隙率の測定方法]
(1)負極合剤層の断面を露出させる。断面を露出させる方法としては、負極の一部を切り取り、イオンミリング装置(例えば、日立ハイテク社製、IM4000PLUS)で加工し、負極合剤層の断面を露出させる方法が挙げられる。
(2)走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、露出させた負極合剤層の断面の反射電子像を撮影する。反射電子像を撮影する際の倍率は、3000倍~5000倍である。
(3)負極合剤層の断面像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフト(例えば、アメリカ国立衛生研究所製、ImageJ)を用いて2値化処理を行い、断面像内の粒子断面を黒色とし、粒子断面に存在する空隙を白色として変換した2値化処理画像を得る。
(4)2値化処理画像から、黒鉛粒子を選択し、粒子断面の面積、及び当該粒子断面に存在する内部空隙の面積を算出する。
ここで、粒子断面の面積とは、黒鉛粒子の外周で囲まれた領域の面積、即ち黒鉛粒子の断面部分全ての面積を指している。また、粒子断面に存在する空隙のうち、幅が3μm以下の空隙については、画像解析上、内部空隙か外部空隙かの判別が困難となる場合があるため、幅が3μm以下の空隙は内部空隙としてもよい。黒鉛粒子の内部空隙率は、黒鉛粒子10個の平均値とする。
【0028】
[黒鉛粒子の破壊強度の測定方法]
黒鉛粒子の破壊強度の測定には、株式会社島津製作所製の微小圧縮試験機(MCT-W201)を用いる。測定手順は、以下の通りである。
(1)黒鉛粒子を測定装置の下部加圧版(SKS平板)上に散布する。
(2)光学顕微鏡にてD50に近いサイズの粒子を選択する。
(3)上部加圧子として直径50μmのダイヤモンド製フラット圧子を用い、この上部加圧子と下部加圧板との間に1粒子のみが存在するようにする。
(4)上部加圧子をゆっくり下降させ、黒鉛粒子に接触した時点(下降速度が変化する)から一定の加速度で荷重を加えていく。
(5)荷重と黒鉛粒子の変形量との関係を測定し、粒子の変形量が急激に変化した点(荷重-変形量のプロファイルの変極点)を破壊点とし、そのときの荷重と粒子径から、以下の式に基づいて破壊強度を算出する。破壊強度は、黒鉛粒子5個の平均値とする。
St=2.8P/πd2
St:破壊強度[MPa]、P:荷重[N]、d:粒子径[mm]
【0029】
黒鉛粒子Pは、例えば、主原料となるコークス(前駆体)を所定サイズに粉砕し、粉砕物に結着剤を添加して凝集させた後、2600℃以上の温度で焼成して黒鉛化させ、篩い分けることで作製される。結着剤には、ピッチを用いることが好ましい。ピッチは、焼成工程で一部が揮発し、残りの一部が残存して黒鉛化する。粒子の破壊強度は、例えば残存するピッチの量により調整可能であり、ピッチの残存量が多いほど、破壊強度は高くなる傾向にある。また、粉砕後の前駆体の粒径や凝集させた状態の前駆体の粒径等によって、内部空隙率を5%以下に調整することができる。
【0030】
一方、主原料となるコークス(前駆体)を所定サイズに粉砕して、粉砕物に結着剤を添加して凝集させた後、更にブロック状に加圧成形し、その状態で2600℃以上の温度で焼成して黒鉛化させることにより、内部空隙率が5%を超える黒鉛粒子を作製できる。この場合も、ピッチ量によって粒子の破壊強度を調整できる。また、ピッチ量及び前駆体をブロック状に成形する際の成形圧によって、粒子の内部空隙率を調整できる。一般的には、ピッチ量を多くし、成形圧を小さくするほど、内部空隙率は大きくなる。
【0031】
負極合剤層41に含まれる結着剤には、正極20の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合剤層41は、更に、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0032】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ13の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本開示を更に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
[負極活物質の作製]
黒鉛原料として、コークスをD50が8μmとなるまで粉砕したものを用いた。粉砕したコークスにピッチを添加し、D50が15μmとなるまで凝集させた。この凝集物を2600℃~3000℃の温度で焼成して黒鉛化した。このとき、粒子の破壊強度が、それぞれ10MPa、15MPa、30MPa、50MPa、55MPa、60MPaとなるようにピッチの揮発量を調整した。その後、250メッシュの篩いを用いて分級し、D50が17μmの黒鉛粒子A,B,C,D,E,Fを得た。各黒鉛粒子の内部空隙率を上述の方法で測定したところ、5%であった。黒鉛粒子A~Fの内部空隙率及び破壊強度は下記の通りである。
黒鉛粒子A:内部空隙率5%、破壊強度10MPa
黒鉛粒子B:内部空隙率5%、破壊強度15MPa
黒鉛粒子C:内部空隙率5%、破壊強度30MPa
黒鉛粒子D:内部空隙率5%、破壊強度50MPa
黒鉛粒子E:内部空隙率5%、破壊強度55MPa
黒鉛粒子F:内部空隙率5%、破壊強度60MPa
【0035】
黒鉛原料として、コークスをD50が15μmとなるまで粉砕したものを用いた。粉砕したコークスにピッチを添加し、所定の圧力を加えて1.6g/cc~1.9g/ccの密度を有するブロック状の成形体を作製した。この成形体を2400℃~3000℃の温度で焼成して黒鉛化した。このとき、粒子の破壊強度が、10MPa、30MPa、60MPaとなるようにピッチの揮発量を調整した。その後、黒鉛化したブロック状の成形体を粉砕し、250メッシュの篩いを用いて分級することにより、D50が23μmの黒鉛粒子G,H,Iを得た。黒鉛粒子Gの内部空隙率を上述の方法で測定したところ、15%であった。黒鉛粒子G~Iの内部空隙率及び破壊強度は下記の通りである。
黒鉛粒子G:内部空隙率15%、破壊強度10MPa
黒鉛粒子H:内部空隙率15%、破壊強度30MPa
黒鉛粒子I:内部空隙率15%、破壊強度60MPa
【0036】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、LiNi0.88Co0.09Al0.03O2で表されるリチウム含有遷移金属複合酸化物を用いた。100質量部の正極活物質と、1質量部のアセチレンブラックと、0.9質量部のポリフッ化ビニリデンとを混合し、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いて、正極合剤スラリーを調製した。次に、当該正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、100℃~150℃の温度で熱処理して塗膜を乾燥させた。ロールプレス機を用いて塗膜が形成された芯体を圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、正極芯体の両面に正極合剤層が形成された正極を作製した。なお、正極の長手方向中央部に芯体表面が露出した露出部を設け、当該露出部に正極リードを超音波溶接した。
【0037】
[負極の作製]
負極活物質として、黒鉛粒子Cを用いた。100質量部の負極活物質と、1質量部のカルボキシメチルセルロース(CMC)と、1.5質量部のスチレン-ブタジエンゴム(SBR)とを混合し、分散媒として水を用いて、負極合剤スラリーを調製した。次に、当該負極合剤スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。ロールプレス機を用いて塗膜が形成された芯体を圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、負極芯体の両面に負極合剤層が形成された負極を作製した。なお、負極の長手方向両端部に芯体表面が露出した露出部を設け、一方の露出部に負極リードを超音波溶接した。
【0038】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、1:3の体積比で混合した非水溶媒に、ビニレンカーボネート(VC)を5質量%の濃度で添加し、LiPF6を1.5mol/Lの濃度で溶解させて非水電解液を調製した。
【0039】
[電池の作製]
上記正極と上記負極を、ポリエチレン製のセパレータを介して渦巻状に巻回することにより、巻回型の電極体を作製した。このとき、正極合剤層がセパレータを介して負極合剤層と対向するように、また負極の露出部(負極リードが存在しない露出部)が電極体の外周面を構成するように、各電極及びセパレータを巻回した。外装缶内に電極体が挿入できるように、外装缶の内径に対する電極体の直径の比率を98%とした。電極体の上下に絶縁板をそれぞれ配置し、負極リードを外装缶の底部内面に溶接し、正極リードを封口体の内部端子板に溶接して、電極体を外装缶内に収容した。その後、外装缶内に非水電解液を減圧方式で注入し、ガスケットを介して外装缶の開口を封口体で封止することにより、円筒形電池を作製した。
【0040】
<実施例2>
負極活物質として、黒鉛粒子Dを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び円筒形電池を作製した。
【0041】
<実施例3>
負極活物質として、黒鉛粒子Eを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び円筒形電池を作製した。
【0042】
<実施例4>
負極活物質として、30質量部の黒鉛粒子Cと70質量部の黒鉛粒子Gを混合したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び円筒形電池を作製した。
【0043】
<実施例5>
負極活物質として、15質量部の黒鉛粒子Cと85質量部の黒鉛粒子Gを混合したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び円筒形電池を作製した。
【0044】
<比較例1>
負極活物質として、黒鉛粒子Aを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び円筒形電池を作製した。
【0045】
<比較例2>
負極活物質として、黒鉛粒子Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び円筒形電池を作製した。
【0046】
<比較例3>
負極活物質として、黒鉛粒子Fを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び円筒形電池を作製した。
【0047】
<比較例4>
負極活物質として、黒鉛粒子Gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び円筒形電池を作製した。
【0048】
<比較例5>
負極活物質として、黒鉛粒子Hを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び円筒形電池を作製した。
【0049】
<比較例6>
負極活物質として、黒鉛粒子Iを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び円筒形電池を作製した。
【0050】
[内部抵抗の評価]
実施例及び比較例の各円筒形電池を10個ずつ用いて、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で充電終止電圧が4.2Vとなるまで充電し、0.5Itの定電流で放電終止電圧が3Vとなるまで放電を行った。次に、25℃の温度環境下で、電池の1kHzにおける交流抵抗を測定した。このときの抵抗値の平均とばらつき(標準偏差)の結果を表1に示す。また、黒鉛粒子の内部空隙率、破壊強度、及び電池の内部抵抗のばらつきの関係を
図2に示す。
【0051】
【0052】
表1及び
図2に示すように、実施例の電池はいずれも、比較例の電池と比べて内部抵抗のばらつきが小さい。特に、実施例1~3の電池では、内部抵抗の平均値が小さく、内部抵抗のばらつきも更に低減されている。この結果は、黒鉛粒子の破壊強度を25MPa~55MPaとすることで、負極合剤層の圧縮による反発力が大きくなり、且つ黒鉛粒子の内部空隙率を5%以下とすることで、当該圧縮による反発力が空隙に吸収されず、外装缶に電極体を挿入した後の負極膨張が大きくなり、電極体の外周面と外装缶の内面の接触状態が安定化したことによると考えられる。
【0053】
一方、比較例の電池では、実施例の電池のようなメカニズムが働かないため、電極体の外周面と外装缶の内面の接触状態が不安定になり、内部抵抗の平均値及びばらつきが大きくなったと考えられる。
【符号の説明】
【0054】
10 円筒形電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 溝入部、23 内部端子板、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30 正極芯体、31 正極合剤層、40 負極芯体、41 負極合剤層、42 露出部