IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ガズナット・エスアーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】ガス分離用グラフェン膜フィルター
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20231215BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20231215BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20231215BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20231215BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20231215BHJP
   C01B 32/186 20170101ALI20231215BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
C01B32/186
C01B3/56 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020572609
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2019056144
(87)【国際公開番号】W WO2019175162
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】18161632.7
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520352595
【氏名又は名称】ガズナット・エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クマール・ヴァルーン・アグラワル
(72)【発明者】
【氏名】シキ・ファン
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-507044(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0273401(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
C01B32/00-991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス選択分離フィルターを調製するための方法であって、
a)犠牲支持層上にグラフェン膜を設ける工程と、
b)前記グラフェン膜を多孔質炭素基材の有機前駆体でコーティングする工程と、
c)前記有機前駆体に熱分解を施し、前記有機前駆体を前記グラフェン膜上で前記多孔質炭素基材に変換する工程であり、前記多孔質炭素基材が5%から90%の空隙率を有する、工程と、
d)多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体を、マクロ多孔質支持構造体に載せる工程と、
e)工程d)の前又は後で、犠牲支持層の少なくとも一部を除去する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
工程e)において、前記犠牲支持層の少なくとも一部を除去する工程が、前記犠牲支持層の一部をエッチングする工程を含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
エッチングする工程を、工程d)の前に行って、エッチング液中に懸架された自立型の多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体を得る、請求項に記載の方法。
【請求項4】
工程d)において、液浴中で、湿式転写プロセスにより、前記多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体を、前記マクロ多孔質支持構造体に載せる、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程b)において、前記有機前駆体が溶液中にあり、前記溶液を、前記グラフェン膜の表面に前記有機前駆体のフィルムが形成されるまで乾燥させる、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機前駆体が、両親媒性ブロックコポリマーである、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記有機前駆体が、ブロックコポリマーであるポリスチレン-co-ポリ(4-ビニルピリジン)(PS-P4VP)である、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程c)において、熱分解を、400℃から1000℃の範囲の温度にて0.25から1.5時間実施する、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程c)において、熱分解をH/Ar流下で実施する、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
不活性雰囲気下で、1ミリ秒(ms)から1ヶ月にわたる、オゾンを用いた前記グラフェン膜の処理を更に含む、請求項からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
25℃から200℃の間の温度における、オゾンを用いた前記グラフェン膜の処理を更に含む、請求項から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ガスを分離するための、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法によって得られるマクロ多孔質支持構造体上に多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体を含むガス選択分離フィルターの使用。
【請求項13】
COからH又はCHを分離するための、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法によって得られるマクロ多孔質支持構造体上に多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体を含むガス選択分離フィルターの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ガス選択分離フィルター、特にガス混合物の分離に、とりわけ、CO及び炭化水素からの、例えばガス廃棄物又は流出物からのH及びNの分離に起因する炭素捕捉との関連で有用なガス選択分離フィルターの分野に関係する。本発明は、より詳細には、原子厚のグラフェン多孔質膜を使用したフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化問題及び特定された寄与因子に取り組む枠組みにおいて、開発された選択肢の1つが、ガス流れからの二酸化炭素の補足とそれに続く地下隔離による温室ガス排出の削減である。炭素捕捉及び保存は、大規模点源、例えば石炭火力発電プラントからCO排出を和らげるための方略である。更に、CO/CHの効果的分離は、主に約60vol.%CH及び40vol.%COを含有するバイオガス処理にも必要であり、大規模なH処理は、他のさほど望ましくない化学種、とりわけCOからそれを分離するために、費用効果があり効率的な手段を必要とする。ポリマー膜は、工業的ガス分離に数十年にわたって適用されており、ガス選択性は、様々なガスを分離するために商業化されている(Sandersら、2013年、Polymer.、54、4729~4761頁)が、これらは固有の選択性と性能との兼ね合い(Parkら、2017年、Science 356)、及び、主に、濾過なしの体積(filtration free volume)に影響を与えるガス流路のポリマーフィルムの経時的可塑化を伴う物理的老化(Sandersら、2013年、上述)により、性能の限界に直面している。
【0003】
分子選択的ナノ細孔を持つ原子厚のグラフェンフィルムは、考えられる最も薄い分子バリアであり、したがって分子の分離のための究極の膜と考えることができる。いくつかの分子シミュレーションにより、グラフェンにおける2次元ナノ細孔で、従来の膜で得られるものよりも大きい規模の、これまでにないガスパーミアンスが得られることが示されている(Blankenburgら、2010年、Small 6、2266~2271頁、Duら、2011年、J. Phys. Chem. C、115、23261~23266頁、Liuら、2013年、Solid State Commun.、175~176、101~105頁)。そのような高流量の膜は、一定の体積のガス混合物の分離に必要な膜面積を実質的に低減でき、この分野における長年の課題である膜のスケールアップの問題に対する新たな解決法を示す。したがって、グラフェン格子は、化学的堅牢性及び高い機械的強度のため、5%もの高い空隙率を有していても、ガス分離にきわめて好適になる。最近は、グラフェンにおいてサブナノメートルの細孔を穿孔するためのいくつかのエッチング法が開発されており、これにより、液体及び溶存イオンに対する有望なふるい分け性能が得られる。しかし、ガスのふるい分け能力の実証は限定されている。具体的な証拠は、UV処理により微小機械的に剥離したグラフェンに細孔が作り出された二分子膜グラフェンマイクロバルーンの収縮速度を測定することによってしか得られなかった(Koenigら、2012年、Nat. Nanotechnol.、7、728~32頁)。一般に、液体、イオン及びガス輸送研究の大半は、ミクロンサイズのグラフェン領域で実行されており、これは、化学蒸着(CVD)由来のグラフェンを転写する間に、微小機械的剥離、並びに裂け目及びひびの発生の制限に寄与する。
【0004】
実際に、CVDによる単一層グラフェンは、CVDプロセスのスケーラビリティ故に、大面積の膜を製作するのに特に適合すると考えられている(Polsenら、2015年、Sci. Rep. 5、10257頁)。しかし、CVD後、ある者は膜を製作するために、非孔質触媒金属箔(例えばCu)から、多孔質基材にグラフェンを転写する必要があり、従来の転写方法が、グラフェンフィルムにひび及び裂け目を常にもたらすので、今までのところ、懸架された、ひび及び裂け目がない単一層のグラフェン膜は、膜面積を数μmまで限定されている(Sukら、2011年、ACS Nano、5、6916~6924頁)。これまでに開発されたいくつかの転写技術のうち、湿式転写技術は、その多用途性のため最も調査されており、広範囲の支持体にグラフェン転写が可能となる(Zhangら、2017年、Adv. Mater. 29、1~7頁)。簡潔には、グラフェンフィルムは、機械的に強化したポリマー層、例えば厚さ100~200nmのポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)フィルムでコーティングされている。続いて、金属ホイルを、エッチャント浴中でエッチングし、ポリマーをコーティングしたグラフェンを液浴中に浮いたままにする。最終的に、浮いたフィルムを望ましい基材の上面にすくい取り、ポリマーフィルムを溶解除去して、グラフェンの表面を曝露させる。しかし、多孔質支持体が使用された場合、グラフェンフィルムに発生する顕著なひび及び裂け目は、主に、溶媒を乾燥させる段階中における懸架されたグラフェンフィルム上の強力な毛管力のためである(Leeら、2014年、ACS Nano、8、2336~2344頁)。
【0005】
Celebiら、2014年、Science、344、289~292頁では、個別の層におけるひびを隠すために、グラフェン層を別のグラフェン層でオーバーコーティングすることにより得られる2’500μmフィルム(二重層グラフェン膜)が報告されている。集束イオンビーム(FIB)を使用して、グラフェンにおいて比較的大きい細孔(>7.6nm)を穿孔し、この穿孔した二重層グラフェン膜でのガス輸送の噴出を観察した。輸送の噴出から、Knudsen拡散(4までのH/CO選択性)により予想されるガス選択性、及び膨大なHパーミアンス(ca.10-2molm-2-1Pa-1)が導かれた。最近は、Boutilierら、2017、ACS Nano、11、5726~5736頁により、イオン衝撃及びOプラズマの組合せを用いた、センチメートル規模の単一層ナノ多孔質グラフェンの製作が報告されている。しかし、グラフェンフィルムにおける転写中に発生したひびの存在により、Knudsen拡散(He/SF及びH/CH、それぞれ8及び3.2の分離選択性)から予想されるものに近い分離選択性は限定された。それにもかかわらず、輸送モデリングを使用して、これらにより、フィルムにおいて分子をふるい分けする、ガスの分離にきわめて好適なナノ細孔の存在が実証された。酸化グラフェン(GO)フィルムは、Hパーミアンスがわずかな(10-7molm-2-1Pa-1)、H/CO分離に使用されて成功している(Liら、2013年、Science、342、95~8頁)。しかし、GO膜の再現可能な合成及び安定性には、GOフレークの正確な構造を予測する際における困難、及び、GO格子における不安定な曲がった結合のため、疑問の余地がある。全体として、十分にスケール変更された単一層グラフェン膜からのガス混合物の分離の実証は、a)ひび及び裂け目を発生させずに大面積のグラフェンを多孔質支持体に転写し、b)グラフェンにおいて狭い細孔サイズ分布(PSD)を生じる方法の開発を要するので、依然としてつかみどころがない(Wangら、2017年、Nat. Nanotechnol.、12、509~522頁)。
【0006】
したがって、サイズ選択的な細孔を所有し、狭い細孔サイズ分布を有するひび及び裂け目がない、懸架されたグラフェンフィルムを製作する新たな方法の開発は、これまで、上に記載されている技術的な限定がネックになってきたナノ多孔質2次元膜を大規模に展開する観点から、きわめて好適である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sandersら、2013年、Polymer.、54、4729~4761頁
【文献】Blankenburgら、2010年、Small 6、2266~2271頁
【文献】Duら、2011年、J. Phys. Chem. C、115、23261~23266頁
【文献】Liuら、2013年、Solid State Commun.、175~176、101~105頁
【文献】Koenigら、2012年、Nat. Nanotechnol.、7、728~32頁
【文献】Polsenら、2015年、Sci. Rep. 5、10257頁
【文献】Sukら、2011年、ACS Nano、5、6916~6924頁
【文献】Zhangら、2017年、Adv. Mater. 29、1~7頁
【文献】Leeら、2014年、ACS Nano、8、2336~2344頁
【文献】Celebiら、2014年、Science、344、289~292頁
【文献】Boutilierら、2017、ACS Nano、11、5726~5736頁
【文献】Liら、2013年、Science、342、95~8頁
【文献】Wangら、2017年、Nat. Nanotechnol.、12、509~522頁
【文献】Rodriguezら、2007年、Adv. Funct. Mater.、17、2710~2716頁
【文献】Yooら、2015年、Sci. Adv.、1(6)、1~7頁
【文献】Jackson, E. A.、Hillmyer, M. A. Nanoporous Membranes Derived from Block Copolymers : From Drug Delivery to Water Filtration. ACS Nano 2010年、4、3548~3553頁
【文献】Robesonら、2008年、J. Memb. Sci.、320、390~400頁
【文献】Meyerら、2007年、Nature、446、60~63頁
【文献】Agrawalら、2017年、J. Phys. Chem. C.、121、14312~14321頁
【文献】Cancadoら、2011年、Nano Lett.、11、3190~3196頁
【文献】Drahushukら、2012年、Langmuir、28、16671~16678頁
【文献】Yuanら、2017年、ACS Nano 11、7974~7987頁
【文献】Jiangら、2009年、Nano Lett.、9、4019~402頁
【文献】Yuanら、2013年、ACS Nano、7、4233~4241頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一般的な目的は、ガス分離(例えばH/CO、H/CH、CO/N及びCO/CH分離)のための、グラフェン膜を使用した効率的なガス選択フィルターを提供することである。
【0009】
本発明の具体的な目的の1つは、CO捕捉のための効率的なガス選択フィルターを提供することである。
【0010】
高い分離選択性、特にH/CO、H/CH、CO/N及び/又はCO/CH分離選択性と組み合わせた、高いガスパーミアンスを有するガス選択フィルターを得ることは有利である。
【0011】
複数の分離サイクルにわたる、特に複数の加熱及び冷却サイクルにわたる、安定なガス分離性能を有するガス選択フィルターを得ることは有利である。
【0012】
特に高圧下(例えば少なくとも7barまでの膜差圧)での、複数の分離サイクルにわたる、安定なガス分離性能を有するガス選択フィルターを得ることは有利である。
【0013】
ガス選択フィルターのための、ひび及び裂け目がない原子厚の大面積グラフェン膜を得ることは有利である。
【0014】
大規模な使用が可能な生産費用を示す、ひび及び裂け目がない原子厚のグラフェン膜を得ることは有利である。
【0015】
かなり大面積のCVD単一層グラフェンを多孔質支持体に転写することが可能であるが、グラフェンのガス濾過性質を損なわない、原子厚のグラフェン膜支持体を得ることは有利である。
【0016】
選択的ガス分離に有用な、ひび及び裂け目がない原子厚の大面積グラフェン膜を調製するための、費用効果がある方法を得ることは有利である。
【0017】
かなり大きい面積(例えば1mm以上)のCVD単一層グラフェンを、ひび及び裂け目なしで支持構造に転写するための方法を得ることは有利である。
【0018】
目標規格(例えば供給規格、並びに純度及び回収率要件)に応じて、グラフェン膜の分離性能を整えるための、容易に拡張可能な方法を得ることは有利である。
【0019】
本発明の目的は、グラフェン膜を含むガス選択フィルター、及び、費用効果があり、良好なガス選択性を有し、高い性能を有するグラフェン膜を含むガス選択フィルターを調製するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の目的は、請求項1によるガス選択分離フィルター、及び請求項5によるガス選択分離フィルターを調製するための方法を提供することにより達成された。
【0021】
ガス選択分離フィルターを調製するための方法であって、
a)犠牲支持層上にグラフェン膜を設ける工程と、
b)前記グラフェン膜を多孔質炭素基材の有機前駆体でコーティングする工程と、
c)有機前駆体がグラフェン膜上で前記多孔質炭素基材に変換されるように、不活性雰囲気中で有機前駆体に熱分解を施す工程であり、多孔質炭素基材が5%から90%の範囲の空隙率を有する、工程と、
d)多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体を、マクロ多孔質支持構造に載せる工程と、
e)工程d)の前又は後で、犠牲支持層の少なくとも一部を除去して、ガスを多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体全体に流す工程と
を含む、方法が、本明細書に開示されている。
【0022】
約0.34から2nmの厚さ及び0.001%超の空隙率を有するナノ多孔質グラフェン膜と、グラフェン膜を載せた多孔質炭素基材であり、5%から90%の範囲の空隙率及びグラフェン膜のHパーミアンスを超えるHパーミアンスを有する、多孔質炭素基材と、グラフェン膜及び多孔質炭素基材が機械的に支持されている多孔質支持構造とを含む、ガス選択フィルターも、本明細書に開示されている。
【0023】
ガスを分離するための、特にCOから、及び分子量が大きい炭化水素(例えばC、C、C、C、C)から、H、N及び/又はCHを分離するための、多孔質炭素基材上にグラフェン膜を含むガス選択フィルターの使用も、本明細書に開示されている。
【0024】
本発明の別の態様によれば、ナノ多孔質グラフェン膜のガス濾過性能を改善するための方法であって、
(i)多孔質支持体上にグラフェン膜を設ける工程と、
(ii)前記グラフェン膜に、1%~25%のオゾン濃度、及び1ミリ秒から1日、典型的には約1秒から約60分の処理時間で、25℃から300℃、典型的には25℃から100℃の温度にてオゾンを用いた処理を施す工程と
を含む、方法が本明細書に更に開示されている。
【0025】
この方法は、
(iii)大気環境下又は不活性環境下で、25℃から200℃にてグラフェン膜を保存する工程を更に含み得る。
【0026】
有利な実施形態では、グラフェン膜のHパーミアンスは、約10-8molm-2-1Pa-1から約10-4molm-2-1Pa-1(例えば10-7から10-6molm-2-1Pa-1)である。
【0027】
有利な実施形態では、グラフェン膜の空隙率は、約0.2nmから約0.5nm、好ましくは約0.25nmから0.3nmの平均サイズを有するナノ多孔質グラフェン膜における細孔により形成される。ナノ多孔質グラフェン膜の空隙率は、好ましくは0.01%超、より好ましくは0.1%超であり5%にまでなり得る。
【0028】
有利な実施形態では、多孔質炭素基材は、約10nmから約1000nm、好ましくは10nmから約100nmの範囲の平均サイズ(すなわち限局した細孔の円の幅又は直径)を有する細孔により形成される、10%超、より特定すると20%から70%の範囲の空隙率を有する。
【0029】
本発明の実施形態による多孔質炭素基材は、グラフェン膜のHパーミアンスより少なくとも10倍高い、一般には100倍超高いHパーミアンスを有する。
【0030】
多孔質支持構造は、0.01μmから100μmの範囲、例えば0.1μmから20μmの範囲、より特定すると1μmから10μmの範囲の平均サイズの細孔を有し得る。
【0031】
多孔質支持構造は、フィルターを通るガス流に対し、抵抗の増加を無視できるほど、又はわずかにすることに寄与するように、2%から60%の範囲、好ましくは5%超、例えば5%から25%の空隙率を有して、一方では、十分な構造的強度、また一方では、良好なパーミアンス(グラフェン膜と比較して)を確実にすることができる。
【0032】
多孔質支持構造は、10μmから10000μmの範囲、典型的には20μmから100μm(例えば50μm)の厚さを有し得る。
【0033】
有利には、多孔質炭素基材は、グラフェン層を理想的に支持し、これにより、犠牲支持層の除去が可能となり、とりわけ、転写プロセス中に、グラフェン層における熱及び機械的応力を限定することにより、グラフェン層に裂け目又はひびを誘発することなく、機械的な支持構造にグラフェン層を載せることが可能となる。炭素基材の空隙率は、理想的な性質のために容易に構成され、一方では、グラフェン膜と比較してガス流への過剰な抵抗を避けることができ、更に、グラフェン層の支持を弱める、大きすぎる細孔を避けることができる。炭素基材へのグラフェンの適合性は、グラフェン層の多孔質炭素層への結合、及び相対的な熱膨張の抑制にもきわめて有利である。
【0034】
有利な実施形態では、犠牲支持層の少なくとも一部を除去する工程は、犠牲支持層をエッチングするためのエッチャントを含有するエッチングチャンバーにおいて、犠牲支持層の前記一部をエッチングする工程を含む。
【0035】
有利な実施形態では、エッチングする工程は、多孔質炭素支持体及びグラフェン膜をマクロ多孔質支持構造に載せる前に行って、エッチング液中に懸架された自立型の、多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体を得る。
【0036】
しかし、変形では、本発明の範囲内で、犠牲支持層に形成された多孔質炭素支持体及びグラフェン膜は、犠牲支持層のすべて、又は一部を除去する前に、マクロ多孔質支持構造に載せることができる。その結果、犠牲支持層は、様々な層がマクロ多孔質支持構造に載せられているが、少なくとも部分的に除去してよい。マクロ多孔質支持構造は、マクロ多孔質支持構造に対して位置決めされた多孔質炭素基材と、或いはマクロ多孔質支持構造に対して位置決めされた犠牲層と載せてよい。後者の変形では、犠牲層の除去は、マクロ多孔質支持構造の細孔により、部分的であってもよく、曝露した犠牲層の表面積に限定されてもよい。
【0037】
エッチングすることによる犠牲層の除去は好ましいが、例えば、グラフェンがPt支持体から剥離し、Pt支持体の再使用が可能となる電気化学的発泡技術での、他の除去方法を本発明の範囲内で実践してもよい。
【0038】
前記マクロ多孔質支持体に多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体を載せる工程は、好ましくは、液浴中での湿式転写プロセスにより実行される。
【0039】
有機前駆体は、好ましくは溶液中で、犠牲支持層に形成されたグラフェン膜層にコーティングされ、溶液は、次いで、有機前駆体のフィルムが、グラフェン膜の表面に形成されるまで乾燥させる。
【0040】
多孔質支持構造は、多孔質炭素基材及びグラフェン膜を機械的に支持する機能を有し、グラフェン膜と関係するフィルターを通るガス流に対する抵抗を無視できるほど、又はわずかにのみ示すべきである。また、支持構造の固体表面積は、グラフェン表面積のできる限り多くをガス流に曝露させるために、グラフェン膜をできる限り小さくカバーすべきである。好ましくは、多孔質支持構造は、5%超の空隙率を有する。多孔質支持体の細孔は、多孔質炭素基材の良好な支持を確実にするために(特に、炭素基材のひび割れを避けるために)、好ましくは、0.01μm超、好ましくは100μm未満、例えば0.1μmから20μmの範囲、より特定すると1μmから10μmの範囲の平均直径を有する。
【0041】
有利な実施形態では、グラフェン膜は、化学蒸着(CVD)グラフェン層、特に、約0.34から2nmの厚さを有するCVD由来の、実質的に単層のグラフェンである。
【0042】
有利な実施形態では、犠牲支持層は、約0.1から1000μmの範囲、典型的には1から100μmの厚さ、例えば厚さ10~50μmの範囲のエッチング可能な金属ホイル、好ましくはCuフィルム又はホイルを含む、又はそれからなる。犠牲層の厚さは、グラフェン膜の形成、及び、後続する多孔質炭素支持体の前駆体材料のコーティング中に、良好な機械的な支持を示すように構成され、更に犠牲層の効率的除去が可能となる。
【0043】
有利な実施形態では、多孔質炭素構造の有機前駆体は、両親媒性ブロックコポリマーである。
【0044】
本発明の他の特徴及び利点は、特許請求の範囲、詳細な説明及び図から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の実施形態による炭素基材が補助する転写方法での、グラフェン膜を有するガス選択フィルターの調製を例証する概略図である。
図2】実施例1で得られた本発明の実施形態の多孔質炭素基材に支持されているグラフェン膜の構造の特性評価を示す図であり、その構成要素は、実施例2で記載されている走査電子顕微鏡法(SEM)及び透過型電子顕微鏡法(TEM)の撮像により特徴付けられる。a~b)多孔質タングステン基材のSEM画像、タングステンホイル(50μm厚)上の面積1mmに広がった5μmの細孔配列。c)多孔質タングステン支持基材における、本発明の実施形態によるグラフェン膜上における炭素基材のSEM画像。d)グラフェンの上面における多孔質炭素基材のSEM画像。e)TEMグリッドでの、本発明の多孔質炭素基材及び単一層グラフェン膜のTEM画像。f)本発明の実施形態による多孔質炭素基材及び単一層グラフェン膜を通る、グラフェンの回折パターン。g)本発明の実施形態による、多孔質炭素基材及び単一層グラフェン膜の断面SEM画像。h)単一層LPCVDグラフェンからの典型的なラマンスペクトル。
図3】実施例3に記載されているガスパーミアンステストの設定についての概略図を示す図である。
図4a】実施例3に記載されている本発明の実施形態によるCVDグラフェン膜8枚(M1~M8)のガス分離性能の結果を報告するグラフである。ガス輸送は、グラフェンにおける内部欠陥から起きる。a)単一のガスパーミアンステストによる、温度の関数としてのHパーミアンス。
図4b】実施例3に記載されている本発明の実施形態によるCVDグラフェン膜8枚(M1~M8)のガス分離性能の結果を報告するグラフである。ガス輸送は、グラフェンにおける内部欠陥から起きる。b~d)単一のガスパーミアンステストを経た異なるガスの選択性、b)H/CH
図4c】実施例3に記載されている本発明の実施形態によるCVDグラフェン膜8枚(M1~M8)のガス分離性能の結果を報告するグラフである。ガス輸送は、グラフェンにおける内部欠陥から起きる。b~d)単一のガスパーミアンステストを経た異なるガスの選択性、c)H/CO
図4d】実施例3に記載されている本発明の実施形態によるCVDグラフェン膜8枚(M1~M8)のガス分離性能の結果を報告するグラフである。ガス輸送は、グラフェンにおける内部欠陥から起きる。b~d)単一のガスパーミアンステストを経た異なるガスの選択性、d)He/H
図4e】実施例3に記載されている本発明の実施形態によるCVDグラフェン膜8枚(M1~M8)のガス分離性能の結果を報告するグラフである。ガス輸送は、グラフェンにおける内部欠陥から起きる。e)異なる動的直径を有するガスに対する、抽出された活性化エネルギー。
図4f】実施例3に記載されている本発明の実施形態によるCVDグラフェン膜8枚(M1~M8)のガス分離性能の結果を報告するグラフである。ガス輸送は、グラフェンにおける内部欠陥から起きる。f)混合物ガスパーミアンステストによる、温度の関数としてのHパーミアンス。
図4g】実施例3に記載されている本発明の実施形態によるCVDグラフェン膜8枚(M1~M8)のガス分離性能の結果を報告するグラフである。ガス輸送は、グラフェンにおける内部欠陥から起きる。g~i)混合物ガスパーミアンステストを経た異なるガスの分離因子、g)H/CH
図4h】実施例3に記載されている本発明の実施形態によるCVDグラフェン膜8枚(M1~M8)のガス分離性能の結果を報告するグラフである。ガス輸送は、グラフェンにおける内部欠陥から起きる。g~i)混合物ガスパーミアンステストを経た異なるガスの分離因子、h)H/CO
図4i】実施例3に記載されている本発明の実施形態によるCVDグラフェン膜8枚(M1~M8)のガス分離性能の結果を報告するグラフである。ガス輸送は、グラフェンにおける内部欠陥から起きる。g~i)混合物ガスパーミアンステストを経た異なるガスの分離因子、i)He/H
図5a】実施例3に記載されている、本発明のグラフェン膜の内部欠陥の安定性テストを報告するグラフである。a)3つの連続的な温度サイクルでのH及びCHパーミアンス。
図5b】実施例3に記載されている、本発明のグラフェン膜の内部欠陥の安定性テストを報告するグラフである。b)100℃におけるテスト圧力(1~7bar)の関数としての、異なるガスのガスパーミアンス。
図5c】実施例3に記載されている、本発明のグラフェン膜の内部欠陥の安定性テストを報告するグラフである。c)100℃におけるテスト圧力(1~7bar)の関数としてのHとCHとの間における分離因子。
図6a】実施例4に記載されている、本発明の実施形態による、オゾン処理したグラフェン膜の特性評価を報告するグラフである。a)異なる条件下での、O処理したグラフェン膜のラマンスペクトル。
図6b】実施例4に記載されている、本発明の実施形態による、オゾン処理したグラフェン膜の特性評価を報告するグラフである。b)異なる処理を用いた、O処理したグラフェン膜のI/I値のヒストグラム。
図6c】実施例4に記載されている、本発明の実施形態による、オゾン処理したグラフェン膜の特性評価を報告するグラフである。c)異なる反応温度及び反応時間で処理した、O処理したグラフェン膜のC-O結合含有量。
図6d】実施例4に記載されている、本発明の実施形態による、オゾン処理したグラフェン膜の特性評価を報告するグラフである。d)異なる反応温度及び反応時間で処理した、O処理したグラフェン膜のC=O結合含有量。
図7a】実施例4に記載されている、本発明によるいくつかのオゾン処理したグラフェン膜のガス分離性能の結果を報告するグラフである。簡潔には、CVD成長による内部欠陥が輸送経路として作用するグラフェンフィルムは、25~100℃に及ぶ温度にて、1~10分の期間にわたりオゾンを用いて処理し、これにより、膜のガス分離性能における改善が導かれた。性能における改善は、内部欠陥(平均細孔サイズ、細孔密度)、並びにオゾン処理の温度及び処理時間によって決まる。a~b)25℃にて2分間、O処理したM2、a)H及びCHのパーミアンス。
図7b】実施例4に記載されている、本発明によるいくつかのオゾン処理したグラフェン膜のガス分離性能の結果を報告するグラフである。簡潔には、CVD成長による内部欠陥が輸送経路として作用するグラフェンフィルムは、25~100℃に及ぶ温度にて、1~10分の期間にわたりオゾンを用いて処理し、これにより、膜のガス分離性能における改善が導かれた。性能における改善は、内部欠陥(平均細孔サイズ、細孔密度)、並びにオゾン処理の温度及び処理時間によって決まる。a~b)25℃にて2分間、O処理したM2、b)H/CH及びH/CO選択性。
図7c】実施例4に記載されている、本発明によるいくつかのオゾン処理したグラフェン膜のガス分離性能の結果を報告するグラフである。簡潔には、CVD成長による内部欠陥が輸送経路として作用するグラフェンフィルムは、25~100℃に及ぶ温度にて、1~10分の期間にわたりオゾンを用いて処理し、これにより、膜のガス分離性能における改善が導かれた。性能における改善は、内部欠陥(平均細孔サイズ、細孔密度)、並びにオゾン処理の温度及び処理時間によって決まる。c~d)100℃にて2分間、O処理したM8、c)H及びCHのパーミアンス。
図7d】実施例4に記載されている、本発明によるいくつかのオゾン処理したグラフェン膜のガス分離性能の結果を報告するグラフである。簡潔には、CVD成長による内部欠陥が輸送経路として作用するグラフェンフィルムは、25~100℃に及ぶ温度にて、1~10分の期間にわたりオゾンを用いて処理し、これにより、膜のガス分離性能における改善が導かれた。性能における改善は、内部欠陥(平均細孔サイズ、細孔密度)、並びにオゾン処理の温度及び処理時間によって決まる。c~d)100℃にて2分間、O処理したM8、d)H/CH及びH/CO選択性。
図7e】実施例4に記載されている、本発明によるいくつかのオゾン処理したグラフェン膜のガス分離性能の結果を報告するグラフである。簡潔には、CVD成長による内部欠陥が輸送経路として作用するグラフェンフィルムは、25~100℃に及ぶ温度にて、1~10分の期間にわたりオゾンを用いて処理し、これにより、膜のガス分離性能における改善が導かれた。性能における改善は、内部欠陥(平均細孔サイズ、細孔密度)、並びにオゾン処理の温度及び処理時間によって決まる。e~f)80℃にて1分間、O処理したM6、e)H及びCHのパーミアンス。
図7f】実施例4に記載されている、本発明によるいくつかのオゾン処理したグラフェン膜のガス分離性能の結果を報告するグラフである。簡潔には、CVD成長による内部欠陥が輸送経路として作用するグラフェンフィルムは、25~100℃に及ぶ温度にて、1~10分の期間にわたりオゾンを用いて処理し、これにより、膜のガス分離性能における改善が導かれた。性能における改善は、内部欠陥(平均細孔サイズ、細孔密度)、並びにオゾン処理の温度及び処理時間によって決まる。e~f)80℃にて1分間、O処理したM6、f)H/CH及びH/CO選択性。
図7g】実施例4に記載されている、本発明によるいくつかのオゾン処理したグラフェン膜のガス分離性能の結果を報告するグラフである。簡潔には、CVD成長による内部欠陥が輸送経路として作用するグラフェンフィルムは、25~100℃に及ぶ温度にて、1~10分の期間にわたりオゾンを用いて処理し、これにより、膜のガス分離性能における改善が導かれた。性能における改善は、内部欠陥(平均細孔サイズ、細孔密度)、並びにオゾン処理の温度及び処理時間によって決まる。g)異なるオゾン処理後におけるガス分離性能トラジェクトリー(M8のデータは、200℃にて得、他のデータは、150℃にて測定し、薄色マーカーは、初期のグラフェン膜のガス性能であるが、濃色マーカーは、対応する膜から官能化したグラフェン膜のガス性能である)。
【発明を実施するための形態】
【0046】
「グラフェン膜」という表現は、グラフェン層、特に、例えばCVDにより得られるグラフェン単層である。例えば、単一層グラフェン膜は、約0.34から1nmの範囲の厚さを有する。しかし、本発明の実施形態によるグラフェン膜は、二分子膜グラフェン、又は二分子膜グラフェンを有する部分も含み得、膜の表面領域全体で高度に均一な単層を達成するのは、産業規模の膜の製造では、効率的ではない場合があることが理解される。
【0047】
「犠牲支持層」という表現は、グラフェン膜が構造的(機械的)支持体に適用される前又は後で犠牲になり得るグラフェン膜に適する支持体(例えばCu、Ni、Pt、又は単一層グラフェンが合成され得る他の任意の金属製基材)、特に非孔質支持体である。
【0048】
「多孔質基材の有機前駆体」という表現は、グラフェン表面にフィルムを形成でき、熱分解後に、約10nmから約1000nmの細孔を有する多孔質炭素基材へと変換できる任意の有機作用剤を指す。特定の一態様によれば、多孔構造の有機前駆体の例は、ブロックコポリマー、特に両親媒性ブロックコポリマー、より特定すると、薄膜としてコーティングした場合、乾燥させた際に、親水性領域(例えばポリビニルピリジン)及び疎水性領域(例えばポリスチレン)への相分離に供するブロックコポリマー、例えば、Rodriguezら、2007年、Adv. Funct. Mater.、17、2710~2716頁、又はYooら、2015年、Sci. Adv.、1(6)、1~7頁、又はJackson, E. A.、Hillmyer, M. A. Nanoporous Membranes Derived from Block Copolymers : From Drug Delivery to Water Filtration. ACS Nano 2010年、4、3548~3553頁に記載されているものである。特定の一実施形態によれば、本発明による多孔質炭素構造の有機前駆体として、好ましくはN,N-ジメチルホルムアミドに可溶性のブロックコポリマーが使用される。
【0049】
「膜性能」という表現は、膜ガスパーミアンス及びそのガス選択性の組合せを指す。典型的には、ガス分離の分野では、10-8molm-2-1Pa-1以上のHパーミアンス、及び6以上のH/CH選択性が、良好な膜性能と考えられる。
【0050】
図面、特にまず図1を参照すると、本発明の実施形態によるひび及び裂け目がない単一層グラフェン膜を含む、ガス選択フィルターを調製するための方法の例証が示されている。ガス選択フィルターを調製するための、例証されている方法は、一般に、犠牲支持層上にグラフェン膜を設ける工程と、前記グラフェン膜を多孔質炭素基材の有機前駆体でコーティングする工程と、有機前駆体がグラフェン膜上で前記多孔質炭素基材に変換されるように、不活性雰囲気中で有機前駆体に熱分解を施す工程であり、多孔質炭素基材が、5%から90%の範囲の空隙率、及びグラフェンのHパーミアンスより少なくとも10倍高いHパーミアンスを有する、工程と、マクロ多孔質構造支持体に多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体を載せる工程と、犠牲支持層の少なくとも一部を除去して、ガスを多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体全体に流す工程とを含む。多孔質基材は、扁平であってもよく曲がっていても、例えば管状であってもよい。
【0051】
より具体的には、図1で例証されている実施形態の工程は、
a)CVDグラフェン膜3(特にグラフェン単層)を、犠牲支持層2上に設けて、支持グラフェン膜1を形成する工程と、
b)前記グラフェン膜3を、多孔質炭素基材の有機前駆体を含む溶液でコーティングし、有機前駆体のフィルム4がグラフェン膜の表面に形成されるまで、溶液を放置して乾燥させる工程と、
c)有機前駆体のフィルム4がグラフェン膜3の表面上で多孔質炭素基材5に変換されるように、不活性雰囲気下で有機前駆体のフィルム4に熱分解を施す工程であり、多孔質炭素層が、約5%から約90%、典型的には10%から80%、好ましくは20%超、典型的には70%未満の空隙率を有する、工程と、
d)多孔質炭素基材とグラフェン膜の複合体を、エッチャント8を含有するエッチングチャンバー7中で、工程c)で得られた犠牲支持層2に置いて、犠牲支持層2をエッチングし、エッチング液中に懸架された、多孔質炭素基材に支持されているグラフェン膜を得る工程と、
e)工程d)で得られた、炭素基材に支持されているグラフェン膜9をマクロ多孔質支持体10に転写して、多孔質炭素基材5、グラフェン膜3及びマクロ多孔質支持構造10を組み合わせた層を含む、(工程f)の)ガス選択フィルターシート11を得る工程と
を含む。
【0052】
特定の一実施形態によれば、CVDグラフェン層は、低圧化学蒸着(LPCVD)により合成される。
【0053】
実施形態によれば、グラフェン膜は、約0.34nmから2.0nmの厚さを有する。
【0054】
実施形態によれば、ナノ多孔質グラフェン膜の細孔の平均サイズは、0.2nmから0.5nmの範囲、特に約0.25nmから約0.3nmの範囲である。
【0055】
特定の一実施形態によれば、犠牲支持層2は、約10~100μm厚、特に約10~50μm厚、例えば約25μm厚のCuホイルである。
【0056】
特定の一実施形態によれば、多孔質炭素基材の有機前駆体は、両親媒性ブロックコポリマー、特にポリビニルピリジン及びポリスチレンモノマーのブロックコポリマー、例えば、ブロックコポリマーであるポリスチレン-co-ポリ(4-ビニルピリジン)(PS-P4VP)である。
【0057】
特定の一実施形態によれば、工程b)で使用されるコーティング溶液は、N,N-ジメチルホルムアミドに溶解した、ツラノース及びブロックコポリマーであるポリスチレン-co-ポリ(4-ビニルピリジン)(PS-P4VP)の溶液であり、その結果、ツラノース及びブロックコポリマーの濃度は、それぞれ1~10%及び1~10%(w/w)となる。
【0058】
別の特定の実施形態によれば、工程b)で使用されるコーティング溶液は、フィルムをアニールし、親水性及び疎水性領域の相分離を促すために、コーティング前に高温、例えば約50から約200℃(例えば180℃)にて処理する。
【0059】
特定の一実施形態によれば、工程b)でのコーティングは、スピンコーティングにより実行する。
【0060】
別の特定の実施形態によれば、熱分解は、工程c)で、約400~1000℃、特に約500℃にて約1時間実施する。
【0061】
別の特定の実施形態によれば、熱分解は、工程c)で、H/Ar流下で実施する。
【0062】
別の特定の実施形態によれば、多孔質炭素基材5の空隙率は、基材が、10から50nmの平均直径の細孔、及び約20~70%の空隙率を有し、その結果、かなりの面積のグラフェンを曝露させる(すなわち多孔質炭素基材5でカバーされない)ようにする。
【0063】
別の特定の実施形態によれば、エッチング液は、犠牲支持層2に対する可溶化液(例えば、Cu支持層では水中の0.2M Naの溶液)である。
【0064】
別の特定の実施形態によれば、工程d)で得られた多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体9は、すすいで(例えば脱イオン水中)残渣を除去する。
【0065】
別の特定の実施形態によれば、多孔質支持構造7は、0.01μm超かつ100μm未満、典型的には20μm未満の平均直径を有する細孔を有する。
【0066】
別の特定の実施形態によれば、マクロ多孔質支持構造7は、10μmから約10000μm、典型的には20μmから約100μmの厚さを有する。
【0067】
更なる特定の実施形態によれば、マクロ多孔質支持構造7は、焼結されるセラミック(例えばアルミナ、シリカ等)及び金属(ステンレス鋼、インコネル、ハステロイ等)から選択される。
【0068】
更なる特定の実施形態によれば、マクロ多孔質支持構造7は、約20から約100μm厚(例えば50μm)を有し、2%から約50%、典型的には5%~15%の空隙率、及び0.1μmから100μm、典型的には1μmから10μm、例えば約5μmの平均細孔サイズを有するタングステン(W)ホイルである。
【0069】
更なる特定の実施形態によれば、工程f)で得られたガス選択フィルターシート11は、約10-8molm-2-1Pa-1から約10-4molm-2-1Pa-1(例えば10-7から10-6molm-2-1Pa-1)のHパーミアンスを有する。
【0070】
別の更なる特定の実施形態によれば、工程f)で得られたガス選択フィルターシート11は、約3から約1000(例えば約20)のH/CH選択性を有する。
【0071】
別の更なる特定の実施形態によれば、グラフェン膜のガス濾過性能は、支持されているグラフェン膜に、不活性雰囲気下で、オゾンを用いた処理を約1msから約1ヶ月、典型的には約30sから約60分施すことにより改善する。
【0072】
別の更なる特定の実施形態によれば、本発明による方法は、ガス選択フィルターシート11に、不活性雰囲気下で、オゾンを用いた処理を約1msから約1ヶ月、典型的には約30sから約60分施すことによる、グラフェン膜の官能化工程g)を更に含む。
【0073】
別の更なる特定の実施形態によれば、本発明による方法は、約25℃から200℃、より好ましくは25℃から約120℃の温度にて官能化工程g)を実行することを更に含む。
【0074】
別の更なる特定の実施形態によれば、異なる供給規格、並びに純度及び回収率要件を処理するために、オゾン処理条件を用いたガス濾過性能の改善を通して、ガス濾過性能を整えることができる。例えば、分離プロセスは、供給濃度、透過純度(90%、95%、99%等、より高い純度が、高い選択性の膜を必要とする場合)、全体の回収率(80%、90%、95%)又は費用(より透過性の膜を使用することで費用の更なる抑制が達成される)に応じて、選択的な膜、又は更に透過性の膜を必要とすることがある。
【0075】
典型的には、官能化工程g)は、約0~60℃(例えば25℃)の温度にて実行し、グラフェン膜のH/CH選択性を向上できる。
【0076】
典型的には、官能化工程g)は、約60~150℃、好ましくは80~100℃の温度にて実行し、グラフェン膜のHパーミアンスを向上できる。
【0077】
特定の一態様によれば、本発明によるガス選択フィルターは、有利には、CHからの、また、大きい分子量の炭化水素からのHの分離に、又は不純物を除去するために若しくは特定の下流用途に向けてH/CO比を調整するために、合成ガス(シンガス)の処理に使用できる。
【0078】
本発明によるガス選択フィルターは、Hを除去して処理の効率を向上させるために、また、全体の変換率を上昇させるために、(例えばアルカンからオレフィンを生成するための)膜反応器として、脱水素反応器と組み合わせて使用される。更に、本発明によるグラフェン膜は、炭素捕捉(H/CO、H/CH、CO/N及びCO/CHの分離)に好適になり得る。
【0079】
本発明によるガス選択フィルターの観察温度の目を見張る安定性により、とりわけ高圧(5~20bar)及び高温(100~250℃)にて短いライフサイクルを有するポリマー膜に役立つ代替物としての、このフィルターの使用が可能となる。
【0080】
以下の実施例に記載されている本発明は、例証の目的で提示されており、限定されない。
【実施例
【0081】
実施例1:支持体により補助される、単一層グラフェンの多孔質基材への転写方法
支持体による補助で、単一層グラフェンを多孔質基材へと転写する工程を含む、ひび及び裂け目がない原子厚のグラフェン膜を調製するための本発明の方法は、図1で例証されており、以下で詳述されている通りである。
【0082】
工程a:犠牲支持層上で合成されるCVDグラフェンを提供する。
支持されているグラフェン膜1を、銅ホイル(25μm、99.999%純度、Alfa-Aesar社)上での低圧化学蒸着(LPCVD)により合成した犠牲支持層2上で支持されているCVDグラフェン単層3として用意した。CVDの前に、銅ホイルは、CO雰囲気中で1000℃にて30分間、アニールして、有機混入物の大半を除去した。次いで、8sccmのHを誘導して、COをパージし、銅表面をアニールした。続いて、24sccmのCHを添加して、グラフェン結晶化を開始した。グラフェンの成長後(30分間)、CH流のスイッチを切った。
【0083】
工程b:犠牲支持層上におけるグラフェン膜へと多孔質炭素構造の有機前駆体をコーティングする工程
本発明による多孔質炭素構造の有機前駆体として、0.2gツラノース(Sigma-Aldrich社)及び両親媒性ブロックコポリマー(0.1gブロックコポリマー、ポリスチレン-co-ポリ(4-ビニルピリジン)(PS-P4VP)(Sigma-Aldrich社))を、N,N-ジメチルホルムアミドに溶解する。ツラノースは、後続の炭素フィルムの細孔サイズの調節を助ける。得られた溶液は、180℃にて処理して、ツラノースと、ブロックコポリマーのP4VP領域との間における水素結合を改善し、次いで、グラフェン表面の上面にスピンコーティングし、室温にて乾燥させた。ブロックコポリマーフィルムは、次いで、既に記載されているように、乾燥させる際に、疎水性及び親水性領域への相分離に供する(Rodriguezら、2007年、Adv. Funct. Mater.、17、2710~2716頁)。
【0084】
工程c:ポリマーを熱分解により多孔質炭素層へと変換する工程
グラフェン膜の表面上における、工程(b)で形成された乾燥したコポリマーフィルムは、次いで、不活性雰囲気下で(H/Ar流で)、500℃にて1時間熱分解し、グラフェン層3の上面における多孔質炭素基材5の形成を引き起こし、かなりの面積(ca.50%)のグラフェンを曝露させる。
【0085】
工程d:エッチングにより犠牲支持体を除去する工程
新たに生成された多孔質炭素基材5と、工程(c)で得られたCu犠牲支持層2との間に挟まれたグラフェン層3により形成された複合構造6は、次いで、エッチング液8(水中の0.2M Na)を含有するエッチングチャンバー7に入れて(d1)、Cu犠牲支持層2をエッチングして、エッチング液8中に浮かされた、自立型の、炭素基材に支持されているグラフェン膜9を得(d2)、次いで、これを、脱イオン水中ですすいで、Cuのエッチングによる残渣を除去する(d3)。
【0086】
工程e:多孔質炭素基材及びグラフェン層の複合体を、マクロ多孔質支持体に転写する工程
次に、炭素基材に支持されているグラフェン膜9は、浮かべたグラフェン膜の下にWホイルを静かに置くことでのエッチングチャンバー7中の湿式転写により、マクロ多孔質支持体10(例えば、50μm厚Wホイルに5μm細孔、細孔は、レーザー穿孔により予めWホイルに組み込む、図1、工程e)に転写し、その結果、多孔質炭素基材及びグラフェン層の複合体9は、エッチングチャンバー7における流体レベルが低い場合、マクロ多孔質支持体10に堆積される。
【0087】
工程f:ガス選択分離フィルターシートを得る工程
多孔質炭素基材5上のグラフェン膜3及びマクロ多孔質支持構造10(例えばWホイル)を含むガス選択フィルターシート11は、このように得られ、次いで、様々な用途に使用するために、エッチングチャンバー7から除去される。フィルターシートは、ガスを分離するガスフローデバイスに導入するためのフィルターユニットへの統合用の、追加の構造シート及び構造素子へと組み立てることができる。フィルターユニットは、例えば、用途及び処理されるガス流速に応じて、数cmから例として1mの表面積までをカバーするハニカム構造で配置されている大きい複数のフィルターシートを含み得る。
【0088】
実施例2:多孔質炭素層及びグラフェン膜の特性評価
実施例1で得られた本発明の多孔質炭素層及びグラフェン膜の構造、及びその構成要素は、図2で示されている、走査電子顕微鏡法(SEM)及び透過型電子顕微鏡法(TEM)の撮像により特徴付けた。
【0089】
走査電子顕微鏡法(SEM)は、FEI社Teneo SEMを使用することにより実行した。導電性コーティングは、SEM前に基材に適用しなかった。炭素基材、及び複合グラフェン/炭素基材の透過型電子顕微鏡法(TEM)撮像及び電子回折は、120keV入射電子ビームを用いてFEI社Tecnai G2 Spirit Twinにより実施した。
【0090】
高分解能TEM(HRTEM)を、従来の湿式転写技術によりquantifoil TEMグリッドに転写した、独立したグラフェン膜(炭素フィルムなし)で実施した(Robesonら、2008年、J. Memb. Sci.、320、390~400頁)。収差補正(Cs)HRTEMは、Weinタイプモノクロメーターを備えたダブル補正Titan Themis 60-300(FEI社)を使用して行った。電子照射のダメージを低下させるために、80keV入射電子ビームをすべての実験に使用した。入射電子ビームは、目的の領域に広がったエネルギーを低下させるように単色であった(「レインボー」モードの照明)。HRTEM画像は、バンドパス及びガウスフィルターの組合せを使用して後処理した。
【0091】
ラマンによる特性評価は、湿式転写方法によりSiO/Siウエハ上に転写した、独立したグラフェン(炭素フィルムなし)で実行した。単一ポイントのデータ採取及びマッピングは、Renishaw社マイクロラマン分光器(532nm、2.33eV、100×対物)を使用して行った。ラマンデータの分析は、MATLAB(登録商標)を使用して実行した。D及びGのピーク高さを計算するために、最小二乗曲線当てはめツール(lsqnonlin)を使用して、ラマンデータからバックグラウンドを差し引いた。
【0092】
光学及び電子顕微鏡法による、実施例1で得られた支持グラフェン膜の精査から、転写された多孔質炭素基材及びグラフェン膜の複合体の表面を、転写前のマクロ多孔質基材の表面(図2a~b)と比較した場合、複合体の表面に目に見える裂け目又はひびは存在しなかったことが確認された(図2c)。多孔質炭素基材5と、工程(c)で得られたCu犠牲支持層2との間に挟まれたグラフェン層3により形成された複合構造6のSEM画像(図2d)、並びに、工程d1でのCuホイルのエッチング後、及びTEMグリッドにおける転写後(マクロ多孔質支持体における転写の前)に得られた、炭素基材に支持されているグラフェン膜9のTEM画像(図2e)から、PSD(細孔サイズ分布)の分析後に、炭素基材にて20~30nmの直径を有する細孔が提示されることが明らかになった。工程d1で、Cuホイルのエッチング後に得られ、TEMグリッド上で収集した炭素基材に支持されているグラフェン膜9の制限視野電子回折(SAED)(図2f)は、0.213及び0.123nmの周期性を表す、懸架された単一層グラフェンの典型的な回折ピークを呈した(Meyerら、2007年、Nature、446、60~63頁)。炭素基材は、非晶質炭素基材の特性であるブロードな環形を示し、SAEDの一因となった(図2f)。炭素基材しか表さない領域は見出せず、これにより、熱分解工程中にグラフェン及び炭素基材が強く結合していることが指し示される。これはきわめて重要な特徴であり、この特徴は予想されておらず、非結合グラフェン層が転写工程中に崩壊及び分離するので、ひびのないグラフェン転写の達成を可能にした。
【0093】
興味深いことに、図2bで示されているように肉眼で見える折り畳みさえ膜を破壊せず、これにより、当方法は、単一層グラフェン膜の潜在的なスケールアップにきわめて有望となった。
【0094】
炭素フィルムのSEM画像から、炭素基材の厚さが、ca.100nmであったことが指し示された(図2g)。
【0095】
実施例3:炭素基材に支持されているグラフェン膜の空隙率及びガス分離性能
走査型トンネル顕微鏡法(STM)を使用して、CVD由来のグラフェンが、ガス分離に好適な10から13個の炭素原子の欠落からなるナノ細孔を含む超低密度の内部欠陥を持つことを示した(Agrawalら、2017年、J. Phys. Chem. C.、121、14312~14321頁)。この研究では、CVDグラフェンにおける欠陥の密度は、炭素非晶質化トラジェクトリー(Cancadoら、2011年、Nano Lett.、11、3190~3196頁)(0.07±0.02のI/I図2h)を使用して、0.025%の空隙率に相当する5.4×1010個の欠陥/cmと評価した。これは、ガスを透過しない小さい細孔、例えば6個未満の炭素原子の欠落により作られたもの、並びに、ガス分離に適する大きい細孔から構成されているグラフェンにおける細孔サイズ分布による、ガス透過性ナノ細孔の上限を表す。
【0096】
実施例1で達成されたグラフェン膜のガス透過は、以下に記載するようにガス透過テストにてテストし、図3で図式化し、独立した炭素基材及びマクロ多孔質W支持体からのものと比較した。すべてのケースにおいて、グラフェン膜を通るパーミアンスは、炭素及びW支持体ものより著しく低く、これにより、グラフェン膜は、ひび又は裂け目を有していないことが指し示された。テストの前に、膜を150℃に加熱して、グラフェン表面における混入物を除去した。自家製透過セルにおいて、金属面シールを使用して膜をW支持体の上面に直接シールし、ガス輸送の漏れ止めを確実に測定する。典型的には、供給側(純粋ガス供給又は混合物供給)を1.6~7.0barに加圧した一方で、予め較正した質量分析計(MS)に接続した透過側を、アルゴンでスイープしながら1barで維持した。質量流コントローラー(MFC)により、供給ガス流速が調節され、供給圧力は、下流に導入された背圧調節器を調整することにより制御した。別のMFCでは、スイープガスとしてのAr流速が制御され、これは、透過濃度のリアルタイム分析のために、透過ガスを較正した質量分析計(MS)に運んだ。混合物透過テストでは、等モルのガス混合物を供給側で使用した。温度における均一性を確実にするために、供給及びスイープガスライン、並びに膜モジュールをオーブン内部で加熱した。定常状態が確立されたら(典型的には透過条件を変えた30分後)、ガスの流量を計算した。膜の温度は、膜パーミアンスに対する温度の効果、及び、本発明の膜の熱安定性を研究するために、25~250℃で変動させた。実施例1に記載されているように調製し、上に記載したように測定した異なるグラフェン膜8枚からの単一成分のガス輸送により、H/CH、H/COで、5.2×10-9~7.2×10-8molm-2-1Pa-1(15~215ガス透過単位、GPU)の範囲のHパーミアンス、及び、25℃にて、それぞれ4.8~13.0、3.1~7.2及び0.7~2.0の範囲のHe/H選択性が明らかになった。Hパーミアンスは、5.4×1010個の欠陥/cmの欠陥密度に基づき、1.0×10-23~1.3×10-22mols-1Pa-1の最小透過係数に相当する。この透過係数は、Koenigら、2012年、上述により報告されているBi-3.4Å膜のものと一致し、そこでは、4.5×10-23mols-1Pa-1の係数が報告されている。興味深いことに、H/CO選択性は、ca.1.5の選択性が報告されているBi-3.4膜からのものより高い。ある膜(M8)は、1超のHe/H選択性を呈する最良の分子ふるい分け性能を呈し、これは、M8における平均細孔サイズは、Hの動的直径(0.289nm)未満であったことを意味する。
【0097】
He、H、CO及びCHのパーミアンスは、温度と共に増加し、これにより、輸送は、活性化された輸送レジーム下にあることが指し示された。150℃にて、Hパーミアンスは、3.3×10-8~4.1×10-7molm-2-1Pa-1(100~1220 GPU)に増加し、H/CH及びH/CO選択性は、それぞれ7.1~23.5及び3.6~12.2に増加した(図4a~図4i)。ごく低い0.025%の空隙率を有する単一層グラフェンによるこのH/CH分離性能は、ポリマー膜で測定される上限に達している(Robeson、2008年、上述)(ポリマー膜の1μm厚の選択的スキン層として)。Drahushukら、2012年、Langmuir、28、16671~16678頁及びYuanら、2017年、ACS Nano 11、7974~7987頁に記載されている吸収相の輸送モデルを使用して、温度依存性のガス流量から、ガスの平均活性化エネルギーを抽出できる。
【0098】
【数1】
【0099】
【数2】
【0100】
ここで、Cは細孔密度であり、Eact及びΔEsurは、それぞれ細孔転位及びガス-グラフェン相互反応ポテンシャルに対する活性化エネルギーである。Aact及びAsurは、対応する前指数因子である。Tは温度であり、P及びPは、それぞれ供給側及び透過側におけるガス分圧である。He、H、CO及びCHでの平均Eact(膜8枚すべて)は、それぞれ16.7±3.2、20.2±2.7、31.3±2.8及び25.8±4.8kJ/molであり、動的直径に応じて増加した。Hでの活性化エネルギーは、Jiangら、2009年、Nano Lett.、9、4019~402頁により報告されている水素官能化細孔-10からのもの(0.22eV)と同様であり、この研究における平均細孔は、以前のSTMの研究結果(Agrawalら、2017、上述)と一致する10個の炭素原子の欠落でできていることが指し示された。Eactが、COと比較してCHでわずかに低いことは、CHの転位が、より少ない数の細孔から起こることにより説明でき(He、H、CO及びCHでの平均Cactsurは、それぞれ1.5×10-5、2.6×10-5、3.8×10-6及び1.3×10-6であった)、Aactsurは、CO及びCHでは著しく変化しないと推定される。高分解能透過型電子顕微鏡法(HRTEM)により、サブナノメートル細孔は、CVDグラフェンに実際に存在することが実証された。これらの細孔の統計解析から、細孔密度は、およそ2.8×1011cm-2であり、これは、炭素非晶質化トラジェクトリーから予測されるものと同等の規模の範囲内であることが示唆された。全体として、活性化された輸送の観察及びサブナノメートル細孔の可視化から、より高いHパーミアンスは、とりわけ非酸化性雰囲気中で、上昇温度(250~300℃)にて得られることが指し示された。
【0101】
ガス混合物の分離は、ナノ多孔質グラフェンを通る競合的吸着及び拡散の効果を理解するのに重要である。しかし、今日まで、単一層グラフェン膜を通るガス混合物分離の報告は、困難なままである。グラフェンナノ細孔を通過する、n-成分ガス混合物からの化学種iの輸送は、以下の数式によりモデル化できる。
【0102】
【数3】
【0103】
【数4】
【0104】
大面積グラフェン膜を含む本発明の膜により、等モルガス混合物からHe、H、CO及びCHの流量の測定が可能となる。興味深いことに、混合物の供給に対する全体的な性能傾向(パーミアンス及び分離因子)は、単一成分の供給のケースで観察されたものと比較して改善した(図4f~図4i)。しかし、とりわけ膜M2での、単一成分を用いたHパーミアンス及び対応する活性化エネルギーは、混合物のケースと同様であった(He、H、CO及びCHでのM2混合物のEactは、20.4、19.9、34.9、28.8kJ/molであった)。H/CH選択性は、25℃にて5.7(単一成分)から10.8(混合物)に改善し、150℃にて11.2(単一成分)から12.2(混合物)に改善した。同様に、Hパーミアンスも、M3で変化しなかったが、H/CH選択性は、14.2(単一成分)から18.0(混合物)に増加した。他の膜(M1、M4、M5及びM6)では、Hパーミアンス及びH/CH選択性は、混合物のケースでは、単一成分のケースと比較して変化しなかった。これらの結果から、軽量ガスのサイズふるい分けに関して、競合的吸着(Hと対比をなすCH)が、少なくとも中等度の供給圧力(1~7bar)で分離選択性を低下させない、本発明の単一層グラフェン膜の固有な特徴が強調される。これは、高濃度のCHでさえ、CHからのHの分離に有利である。
【0105】
更に、本発明のグラフェン膜は、並外れた熱安定性を示した。一般に、すべての膜は、少なくとも150℃まで安定していた。例えば、25℃から150℃の3つの連続温度サイクル下でテストした膜M2の性能は、著しく変化しなかった(図5a)。150℃でのサイクル1からサイクル3により、Hパーミアンスは、わずかに低下した(3.3×10-8から2.3×10-8molm-2-1Pa-1)が、H/CH選択性は、わずかに増加した(8.3から10.5)。更に、グラフェン膜も、100℃にて少なくとも8barの混合物供給まで安定していた(図5b&図5c)。Hパーミアンス及びH/CH分離因子は、混合物の供給圧力が2から8barに増加し、透過側圧力が1barで維持された場合、著しく変化しなかった(図5b~図5c)。
【0106】
全体として、そのようなデータから、本発明の方法は、支持体により補助される拡張可能な転写方法の実現を可能として、ひび及び裂け目がなく、熱的に安定な大面積(約1mmのサイズ)の懸架された単一層グラフェン膜を製造することが裏付けられる。このようにして得られた、約0.025%のきわめて低い空隙率を有する炭素基材に支持されているグラフェン膜は、炭素支持コーティングが想定外にネックにならない好適なガスふるい分け性能を思いがけず呈した(4.1×10-7molm-2-1Pa-1までのHパーミアンス、及び23までのH/CH選択性)。
【0107】
以下の表は、コーティングされたフィルム単体のパーミアンスについて記載している。
【0108】
【表1】
【0109】
得られたHパーミアンス及び選択性は、1μm厚の最新式ポリマー膜の性能に達していた。更に有利には、炭素に支持されている本発明のグラフェン膜の性能は、複数の加熱及び冷却サイクル中に、少なくとも中等度の膜差圧(7bar)まで安定していた。ガス混合物供給の使用では、Hパーミアンス又はH/CH分離選択性が低下しなかった。
【0110】
実施例4:膜性能を更に向上させるためのオゾン処理
実施例3で報告されているように、150℃にてHパーミアンスをほぼ3.3×10-8~4.1×10-7molm-2-1Pa-1にする本発明のグラフェン膜の空隙率は、わずか0.025%であった。グラフェン膜のオゾンへの曝露は、以下で裏付けられているように、グラフェン膜のガス分離性能を更に整えるために使用できることが想定外に見出されている。
【0111】
本発明の炭素基材に支持されているグラフェン膜に対するオゾン処理の効果を、様々な温度(25℃から100℃)及び時間(1分間から7分間)で調査し、透過の設定においてin-situで実行し(図3)、Oを、透過側から誘導して、機械的に強化した炭素支持フィルムの酸化を防止した。O処理の前及び後のガス輸送を、処理の直後に、また、温度の関数として比較した。オゾン曝露の関数としてのグラフェンの放出を、以下に詳述されているように、マイクロラマン分光法(図6a~図6b)及びX線光電子分光法(XPS、図5c~図5d)により研究した。
【0112】
ラマンによる特性評価は、湿式転写方法によりSiO/Siウエハへと転写される、本発明の独立したグラフェン膜(炭素フィルムなし)で実行された(Robeson、2008年、上述)。単一ポイントデータの採取及びマッピングは、Renishaw社マイクロラマン分光器(532nm、2.33eV、100×対物)を使用して行った。ラマンデータの分析は、MATLABを使用して実行した。D及びGピーク高さを計算するために、最小二乗曲線当てはめツール(lsqnonlin)を使用して、ラマンデータからバックグラウンドを差し引いた。
【0113】
X線光電子分光法(XPS)分析は、Mg Kα X線源(1253.6eV)及びPhoibos 100(SPECS)半球型電子分析器を、マルチチャンネルトロン検出器と共に使用して、やはりCuホイル上における、本発明の実施形態の独立したグラフェン膜(炭素フィルムなし)で実施した。XPSスペクトルは、検査では90eVのパスエネルギーを、ナロースキャンでは20eVを使用して、固定分析器透過(fixed analyser transmission)(FAT)モードで記録した。試料は、静電帯電を示さなかったので、結合エネルギーは、補正なしで提示されている(C-Cの結合エネルギー:284.4eV、C-O:285.7eV、C=O:286.8eV、O-C=O:288.5eV)。カルボニル基(C=O)が(O-C=O)の一部であるため、O-C=Oは、官能基の要約としてC=Oにカウントした。XPSスペクトルは、CasaXPSにて、Shirley法によるバックグラウンド除去で処理した。
【0114】
Dピークの相対強度は、グラフェンにおける障害の程度を意味するGピークに対して、増加した(I/Iは0.07から4.0増加した)が、2Dピークは、反応時間及び温度の増加と共に強度が低下し、これにより、グラフェンにおけるsp-混成部位が、オゾン処理後に増加したが指し示される(Yuanら、2013年、ACS Nano、7、4233~4241頁)。オゾン官能化グラフェンの結合エネルギー分布から、C-O及びC=Oは、オゾン官能化後のグラフェンにおける主な官能基であることが示された。興味深いことに、C=O基の個数密度は、軽度の官能化のケース(25℃、2分)でさえ、C-O基のものより高かった。反応温度及び時間と共に増加する官能基の個数密度(図6c~図d)は、ラマン分光法の結果と一致する。100℃にて、C-O及びC=O基の全体のカバー率は、2、5及び7分の曝露時間で、それぞれ35、56及び65%ほどの高さであった。
【0115】
興味深いことに、オゾン処理後、Hパーミアンスの増加、又はH/CH選択性の増加、又はパーミアンス及び選択性の改善により、すべてのグラフェン膜の分離性能が顕著に改善した。
【0116】
処理を25℃にて2分実行した場合、Hパーミアンスは、1.9×10-7から1.2×10-7molm-2-1Pa-1低下したが、H/CH及びH/CO選択性は、150℃にて、10.0から15.0、及び5.1から6.4それぞれ増加し(M2、図6a~図6b)、これにより、細孔の収縮が指し示された。興味深いことに、Eact-app(Eact+ΔEsurと定義される)及びCactsurの両方は、O処理での細孔の官能化後に低下した。Eact-appにおける変化は、Eact(細孔が収縮することによる、より高い活性化エネルギー)及びΔEsur(官能化した細孔により結合エネルギーが増加する)における相対的な変化のため、解釈するのが難しく、CHでは、Cactsurが20分の1に低下し(5.7×10-7から2.8×10-8)、オゾン処理後に、CHの転位に利用できる細孔の数は少ないことが明らかに指し示される。これは、いかなる理論にも束縛されることなく、サイズが収縮した官能化細孔の縁が、官能化細孔を通るより大きいガス分子をブロックし、より高いガス選択性につながることにより説明できる。
【0117】
これに対して、100℃でのオゾン処理は、ガスパーミアンスを3倍まで増加させるが、ガス選択性は、内部欠陥から得られたものと同様のままであった(図6c~図6d)。ここで、Eact-appは、官能化後に著しく変化しなかったが、ガスに対するCactsurは、細孔密度規模の上昇を指し示すことで増加した。高温処理によりC-O及びC=O基のカバー率が高くなることを考えると、これらの官能基は凝集し、このプロセスではCO及び/又はCOのようなガス相にて、グラフェン格子から炭素を放出し、新たな細孔を形成する可能性が高い。性能改善に基づく官能化は、グラフェンにおける内部欠陥のPSDに依存する。例えば、内部欠陥による優れた分離性能(狭いPSD)を呈するグラフェン膜は、80℃でのオゾン処理後にも分離性能を呈した。
【0118】
分離性能トラジェクトリーは、オゾン処理の前及び後の分離選択性及び水素パーミアンスを比較することにより確立された(図6g)。全体的なトラジェクトリーの傾向から、本発明のグラフェン膜のガス分離性能が、オゾン処理により整えることができると明らかに示された。
【0119】
より高いガスパーミアンス(3倍増加)は、80~100℃でのオゾン処理により、新たなナノ細孔を生成することで達成でき(図6c~図6f)、官能化グラフェンのHRTEM画像から、80℃で2分間のオゾン処理後に、グラフェンに存在するサブナノメートル細孔の個数密度がより高い(細孔密度は、2.8×1011から4.2×1011cm-2に増加した)が、選択性は維持できたという証拠が示された。膜M5のケースでは、分離選択性並びにパーミアンスの増加は、80℃で1分間のオゾン処理後に達成された。筆者らは、膜M5のケースでは、新たな細孔がより狭いPSDを有していたと仮定している。
【0120】
より高い選択性は、オゾン処理を室温にて(例えば25℃)実行する場合に得られるが、パーミアンスは低下する。
【0121】
したがって、パーミアンス及び選択性の両方が膜性能を決定するので、これらの結果から、本発明の実施形態によるグラフェン膜を用いたガス選択フィルターのガス分離性能は、供給規格、並びに純度及び回収率要件に応じて、オゾン官能化により更に改善できることが裏付けられる。本発明による合成処理後、Hパーミアンス(300%まで)並びにH/CH選択性(150%まで)の改善が可能となる。
【0122】
したがって、オゾン由来のエポキシ及びカルボニル基を用いた、グラフェン格子の制御温度に依存する官能化を使用して、CVD由来のグラフェンにガス選択細孔を開ける、又は、既存の細孔を圧縮することができ、これは、本発明によるグラフェン膜を用いたガス選択フィルターを整えるガス濾過性能に有用になる。
【符号の説明】
【0123】
1 支持されているグラフェン膜
2 犠牲支持層
3 CVDグラフェン膜
4 有機前駆体のフィルム
5 多孔質炭素基材
6 複合構造
7 エッチングチャンバー
8 エッチャント
9 炭素基材に支持されているグラフェン膜
10 マクロ多孔質支持体
11 ガス選択フィルターシート
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図4g
図4h
図4i
図5a
図5b
図5c
図6a
図6b
図6c
図6d
図7a
図7b
図7c
図7d
図7e
図7f
図7g