(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】電流信号処理装置
(51)【国際特許分類】
G01R 15/08 20060101AFI20231215BHJP
G01R 15/04 20060101ALI20231215BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
G01R15/08
G01R15/04
G01R19/00 B
(21)【出願番号】P 2021023853
(22)【出願日】2021-02-18
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相原 大輝
(72)【発明者】
【氏名】仲井 敏光
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-98718(JP,A)
【文献】特開2014-112052(JP,A)
【文献】特開2000-162248(JP,A)
【文献】特開2005-188936(JP,A)
【文献】特開2005-167429(JP,A)
【文献】特開2000-82961(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103743943(CN,A)
【文献】特開2003-233355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/00
G01R 19/00
G05F 1/10
H03F 3/34
G01T 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電流の電流域を分割した複数のレンジそれぞれに対応した抵抗値を有し、前記入力電流
の接地に向かう通電経路上に直列に接続された電流電圧変換抵抗、
前記電流電圧変換抵抗それぞれに対応して設けられ、
一端が前記電流電圧変換抵抗の前記接地から遠い側の端子に接続され、他端が前記通電経路とは別の経路で接地され、前記電流電圧変換抵抗が変換した電圧を増幅する演算増幅器、および
前記電流電圧変換抵抗のうち、最大の抵抗値を有する電流電圧変換抵抗と、前記演算増幅器の入力インピーダンスに対する前記抵抗値の比が一定値を超える電流電圧変換抵抗に対してそれぞれ並列接続して設けられたバイパスダイオード、
を備えたことを特徴とする電流信号処理装置。
【請求項2】
前記入力電流は、10pA以上、5mA以下の電流域を有する電離箱検出器から出力される電流であり、
前記電流電圧変換抵抗は前記電流域を4分割以上に分割した複数のレンジそれぞれに対応して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電流信号処理装置。
【請求項3】
前記一定値は、前記電離箱検出器による放射線計測で求められる計測精度に基づいて設定されることを特徴とする請求項2に記載の電流信号処理装置。
【請求項4】
前記入力電流の極性に応じて、前記バイパスダイオードの極性を切り替える切替回路、 を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電流信号処理装置。
【請求項5】
前記演算増幅器それぞれに対応して設けられ、前記演算増幅器からの出力をデジタル変換するA/D変換器、および
前記A/D変換器それぞれから出力されたデジタルデータのうち最適値を選択して出力する論理回路、
を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電流信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電流信号処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線計測において、電離箱検出器からの電流信号は微小で、かつレンジも8桁以上と広範囲であるため、信号処理装置としてトランジスタによる対数特性を利用した対数変換回路(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。しかし、トランジスタの対数特性は温度によって変化するため、温度依存性を補償するための回路を別途設ける必要があるとともに、使用するトランジスタの特性のばらつきにより比例電圧が安定しないといった問題があった。
【0003】
そこで、温度依存性のない複数の電流電圧変換抵抗により入力電流を分圧し、各電流電圧変換抵抗の出力を切り替えて変換する電流電圧変換回路(例えば、特許文献2参照。)を適用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-96851号公報(段落0019~0032、
図1)
【文献】特開2012-247233号公報(段落0066~0086、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単に電流電圧変換抵抗で分圧しただけでは、変換した電圧を増幅するための演算増幅器に流れる電流による電圧降下の影響を受けて精度が低下することがあり、高精度が要求される放射線計測への適用は困難である。つまり、放射線計測に適した信頼性の高い電流信号処理装置を得ることは困難であった。
【0006】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、放射線計測に適した信頼性の高い電流信号処理装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示される電流信号処理装置は、入力電流の電流域を分割した複数のレンジそれぞれに対応した抵抗値を有し、前記入力電流の接地に向かう通電経路上に直列に接続された電流電圧変換抵抗、前記電流電圧変換抵抗それぞれに対応して設けられ、一端が前記電流電圧変換抵抗の前記接地から遠い側の端子に接続され、他端が前記通電経路とは別の経路で接地され、前記電流電圧変換抵抗が変換した電圧を増幅する演算増幅器、および前記電流電圧変換抵抗のうち、最大の抵抗値を有する電流電圧変換抵抗と、前記演算増幅器の入力インピーダンスに対する前記抵抗値の比が一定値を超える電流電圧変換抵抗に対してそれぞれ並列接続して設けられたバイパスダイオード、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本願に開示される電流信号処理装置によれば、演算増幅器での電圧降下を抑制することで、微小で広範囲なレンジの電流を正確に計測できるので、放射線計測に適した信頼性の高い電流信号処理装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1にかかる電流信号処理装置の構成を説明するための回路図である。
【
図2】実施の形態2にかかる電流信号処理装置の構成を説明するための回路図である。
【
図3】実施の形態2の変形例にかかる電流信号処理装置の演算ブロック部分の構成を説明するための回路図である。
【
図4】実施の形態3にかかる電流信号処理装置の構成を説明するための回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる電流信号処理装置の構成および動作について説明するためのものであり、図示しない電離箱検出器からの電流の入力を受け付ける入力端部分から、演算した計測値を出力する出力端部分までの回路図である。
【0011】
本実施の形態1にかかる電流信号処理装置1は、
図1に示すように、図示しない電離箱検出器から出力される8桁以上の広範な電流レンジ(10pA~5mA)の入力電流Cdを放射線の計測値を示す出力データCxに変換して出力する装置である。そのため、入力電流Cdをデジタル値に変換する4つの演算ブロック7-1、7-2、7-3、7-4、および変換されたデジタル値を統合して信号処理する論理回路であるFPGA8(field-programmable gate array)を備えている。
【0012】
演算ブロック7-1、7-2、7-3、7-4は、それぞれ2桁(100倍)ずつ入力レンジ(電流域)が異なり、それぞれを構成する部品の仕様も電流域に合わせて設定している。なお、ブロック番号を区別する場合は、「演算ブロック7-1」のように、種別を示す符号(7)の後ろに、ブロックを示す番号(1)をハイフン(-)に続けて記載する。一方、ブロックを区別しない場合は、単に「演算ブロック7」のように、ハイフンと番号の記載を省略する。後述する部品、あるいはその仕様(抵抗値等の特性)についても同様である。
【0013】
各演算ブロック7には、その演算ブロック7に割り振られた電流域に応じた抵抗値Rに設定され、入力電流Cdに応じて電圧に変換する電流電圧変換抵抗2が設けられている。そして、電流電圧変換抵抗2で変換した電圧をフィードバック抵抗5の定数(抵抗値)に応じて増幅する演算増幅器4と、増幅された電圧をデジタル値に変換するA/D変換器6を備えている。さらに、特徴的な構成として、演算増幅器4に流れる電流による電圧降下の影響を抑制するためのバイパスダイオード3を電流電圧変換抵抗2に対して並列に設けている。
【0014】
なお、各演算ブロック7に設けた演算増幅器4のゲインGは、各電流域(2桁=100)を網羅するため、100とした。演算ブロック7ごとの測定電流値Lcとして、2.44nA、313nA、40μA、5.12mA、というように、ゲインG以上の比を有するように設定した。そして、電流電圧変換抵抗2の抵抗値Rは、その演算ブロック7の演算増幅器4における処理電圧Vt、測定電流値Lc、およびゲインGを用いて、式(1)に基づいて設定している。
R≒Vt×G/Lc ・・・(1)
【0015】
演算ブロック7ごとのA/D変換器6は、10pA~5mAの入力電流Cdに対し、2桁ごとの4分割した電流域(レンジL、LL、H、HH)に対応させており、デジタルフィルタ内臓のΔΣタイプで、50/60Hzノイズ成分を除去する仕様である。そして、それぞれ同時に動作し、FPGA8に出力するようにしている。一方、FPGA8は、各A/D変換器6から出力された値のうち、最適値を選択し、32bitデータ(FS=5.12mA)として出力する仕様のものを用いている。
【0016】
つぎに、動作について説明する。
図示しない電離箱検出器からの微小電流の入力電流Cdは、電流電圧変換抵抗2-1、2-2、2-3、および2-4を経由してアースに流れる。各電流電圧変換抵抗2の電圧降下が抵抗値R×入力電流Cdの電流値となり、それぞれ演算増幅器4によりフィードバック抵抗5の定数に応じて増幅される。
【0017】
演算増幅器4の出力電圧はA/D変換器6に入力され、デジタルデータに変換され、FPGA8に出力される。FPGA8は、各演算ブロック7からのデジタルデータの読み込みを行い、統合化処理を行うことで出力データCxを出力する。
【0018】
これら一連の処理において、バイパスダイオード3は、それぞれ電離箱検出器からの入力電流Cdが演算増幅器4に流れた際の電圧降下の影響を抑制する機能を発揮する。例えば、演算増幅器4の入力インピーダンスは無限大であることが理想的ではあるが、現実的には有限値を有する。ここで、例えば、演算増幅器4の入力インピーダンスRcが1GΩであるとする。この場合、演算増幅器4の入力インピーダンスRcに対する電流電圧変換抵抗2-1の抵抗値R(10.2MΩ)の比(=R/Rc)は1/100程度になり、1/100(=1%)の誤差が生じることを意味する。
【0019】
つまり、背景技術で説明したように、単に電流電圧変換抵抗で分圧しただけでは、レンジごとの演算増幅器に流れる電流による電圧降下の影響を受けて、上述した精度低下が生じるため、高精度が要求される放射線計測への適用は困難である。しかし、本実施の形態1、および以降の各実施の形態にかかる電流信号処理装置1では、電流電圧変換抵抗2に並列接続したバイパスダイオード3を設けることで、電圧降下の影響を抑制して微小で広範囲なレンジの電流を正確に計測することが可能となる。
【0020】
なお、バイパスダイオード3は、演算増幅器4の入力インピーダンスRcに対する電流電圧変換抵抗2の抵抗値Rの比が必要とされる精度に対応して十分小さくなる電流電圧変換抵抗2に対しては省略してもよい。例えば、演算ブロック7-4における入力インピーダンスRcに対する電流電圧変換抵抗2-4の抵抗値R(4.9Ω)の比は、10-8程度と小さく、誤差は10-8(0.01ppm)程度にしかならず、演算ブロック7-4に対しては設置を省略している。
【0021】
つまり、最も抵抗値が高い電流電圧変換抵抗2-1に加え、入力インピーダンスRcに対する抵抗値Rの比が計測精度で許容されるレベル(例えば、10-6)を超える電流電圧変換抵抗2に対してはバイパスダイオード3を並列して設けるようにした。これにより、温度依存性の影響もなく、電圧降下の影響を抑制し、微小で広範囲なレンジの電流を正確に計測することが可能となる。
【0022】
実施の形態2.
実施の形態1においては、電離箱検出器から正極性の入力電流が入力される場合に対応する回路を示した。本実施の形態2においては、負極性の入力電流に対応する回路について説明する。
図2は、実施の形態2にかかる電流信号処理装置の構成および動作について説明するためのものであり、図示しない電離箱検出器からの電流の入力を受け付ける入力端部分から、演算した計測値を出力する出力端部分までの回路図である。なお、本実施の形態2においては、負極性に対応するため、ダイオードの極性を逆にした以外は実施の形態1と同様であり、同様部分の説明は省略する。
【0023】
本実施の形態2にかかる電流信号処理装置1は、
図2に示すように、実施の形態1と同様に、入力電流Cdをデジタル値に変換する4つの演算ブロック7-1、7-2、7-3、7-4、および変換されたデジタル値を統合して信号処理するFPGA8を備えている。各演算ブロック7には、その演算ブロック7に割り振られた電流域に応じた抵抗値Rに設定され、入力電流Cdに応じて電圧に変換する電流電圧変換抵抗2が設けられている。
【0024】
そして、特徴的な構成である、演算増幅器4に流れる電流による電圧降下の影響を抑制するためのバイパスダイオード3は、電流電圧変換抵抗2に対して並列に、かつ、実施の形態1の
図1で説明した状態とは逆方向に接続している。
【0025】
つぎに、動作について説明する。
入力電流Cdは、電流電圧変換抵抗2-1、2-2、2-3、および2-4を経由してアースに流れる。各電流電圧変換抵抗2の電圧降下が抵抗値R×入力電流Cdの電流値となり、それぞれ演算増幅器4によりフィードバック抵抗5の定数に応じて増幅される。
【0026】
このとき、バイパスダイオード3は、演算増幅器4の入力インピーダンスRcに対する電流電圧変換抵抗2の抵抗値Rの比に応じた誤差の発生を防止する機能を有することを説明した。しかし、
図1で示した回路に負極性の入力電流Cdが入った場合は、バイパス機能を発揮することができず、演算増幅器4の入力インピーダンスRcに対する電流電圧変換抵抗2の抵抗値Rの比に応じた誤差が生じることになる。
【0027】
これに対し、本実施の形態2においては、バイパスダイオード3は、負極性の入力電流Cdに対するバイパス機能を発揮して、演算増幅器4の入力インピーダンスRcに対する電流電圧変換抵抗2の抵抗値Rの比に応じた誤差の発生を防止することが可能となる。つまり、入力電流Cdの極性に応じて
図1に示す回路と
図2に示す回路を適宜使い分けるようにすればよい。
【0028】
変形例.
本変形例では、入力電流の極性に応じてバイパスダイオードの極性を自動的に使い分ける手段について説明する。
図3は変形例にかかる電流信号処理装置の演算ブロック部分の構成を説明するための回路図である。バイパスダイオード以外の構成については実施の形態1と同様であり、同様部分の説明は省略する。
【0029】
本変形例にかかる電流信号処理装置1の演算ブロック7では、
図3に示すように、リレー32等の経路切替部品を介して逆方向を向いたダイオード3a、3bを並列接続し、経路切り替え可能なバイパスダイオード回路30を形成する。そして、形成したバイパスダイオード回路30を電流電圧変換抵抗2と並列接続し、入力電流Cdの極性に応じて、必要な向きのダイオード3a、3bを切り替えてバイパスダイオード3として使用できるようにしてもよい。
【0030】
また、バイパスダイオード3として整流素子に限らずスイッチング素子を用いてもよい。スイッチング素子を用いた場合、例えば、切替回路として極性を逆向きにした対をなすスイッチング素子の導通対象を切り替えるようにしてもよい。切り替えは、図示しない制御部により、入力電流Cdの極性に応じて電流電圧変換抵抗2との並列接続対象を選定し、選定した対象に自動的に切り替えるようにしてもよいし、手動で切り替えるようにしてもよい。いずれの場合でも各演算ブロック7のバイパスダイオード回路30において、選定した向きのバイパスダイオード3に同時に切り替えるようにする。
【0031】
実施の形態3.
上記実施の形態1と2では、入力電流を2桁ずつ入力レンジが異なる4つの演算ブロックを設けた例について説明したが、これに限ることはない。本実施の形態3においては、必要とされる分解能に応じ、入力電流をi個の入力レンジに分けて、それに対応するi個の演算ブロックを設けた例について説明する。
【0032】
図4は、実施の形態3にかかる電流信号処理装置の構成および動作について説明するためのものであり、実施の形態1、2と同様に、図示しない電離箱検出器からの電流の入力を受け付ける入力端部分から、演算した計測値を出力する出力端部分までの回路図である。なお、本実施の形態3においては、レンジの設定とそれに伴う演算ブロックごとの部品の仕様以外は実施の形態1と同様であり、同様部分の説明は省略する。また、実施の形態1に対する実施の形態2で説明したバイパスダイオードの向きの変更、あるいは切替の適用が可能であることについても同様である。
【0033】
本実施の形態3にかかる電流信号処理装置1は、
図4に示すように、入力電流Cdをデジタル値に変換するためのi個の演算ブロック7-1、7-2、・・・、7-i-1、7-i、および変換されたデジタル値を統合して信号処理するFPGA8を備えている。各演算ブロック7には、その演算ブロック7に割り振られた電流域に応じた抵抗値に設定され、入力電流Cdに応じて電圧に変換する電流電圧変換抵抗2が設けられている。そして、実施の形態1、2と同様に、演算増幅器4に流れる電流による電圧降下の影響を抑制するためのバイパスダイオード3を電流電圧変換抵抗2に対して並列に設けている。
【0034】
なお、各演算ブロック7に設けた演算増幅器4のゲインGは、例えば、8桁をi分割する場合、各電流域(108/i)を網羅するため、108/iに設定した。そして、演算ブロック7-1の測定電流値Lc1を2.44nAに設定し、以降、Lc1にゲインGを乗じた値以上の値をLc2、さらにLc2にゲインGを乗じた値以上の値をLc3、というように、式(2)のようにして仕様を設定する。式(2)において、「i-1」を減算と混同しないよう、下付きで表記した。
Lci≧Lci-1×G ・・・(2)
【0035】
そして、電流電圧変換抵抗2の抵抗値Rは、実施の形態1で説明したのと同様に、式(1)に基づいて設定している。なお、本実施の形態3においても、最も抵抗値Rが低い電流電圧変換抵抗2を有する演算ブロック7-iのみ、バイパスダイオード3を設けていないが、これに限ることはない。必要とする精度に応じて、最も抵抗値Rの高い電流電圧変換抵抗2を有する演算ブロック7-1に加え、演算増幅器4の入力インピーダンスRcに対する抵抗値Rの比が一定以上となる電流電圧変換抵抗2に対して設けるようにすればよい。
【0036】
つぎに、動作について説明する。
入力電流Cdは、電流電圧変換抵抗2-1、2-2、2-3、および2-4を経由してアースに流れる。各電流電圧変換抵抗2の電圧降下が抵抗値R×入力電流Cdの電流値となり、それぞれ演算増幅器4によりフィードバック抵抗5の定数に応じて増幅される。ここで、i>4であれば、実施の形態1、2よりも高分解能で信号処理が可能となる。
【0037】
この場合も、最も抵抗値が高い電流電圧変換抵抗2-1に加え、演算増幅器4の入力インピーダンスRcに対する抵抗値Rの比が一定以上(例えば、10-6以上)となる電流電圧変換抵抗2に対しては並列してバイパスダイオード3を設けるようにした。これにより、電圧降下の影響を抑制し、微小で広範囲なレンジの電流を正確に計測することが可能となる。一方、iが3以下の場合、分解能は実施の形態1、2よりも劣るが、回路数が減じられて低コスト化が図れる。
【0038】
なお、本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。したがって、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、電離箱検出器から出力される電流レンジを対象とした電流域について説明したが、これに限ることはない。電流域が広範囲で、かつ精度が要求されるものであれば、上述した効果を発揮することが可能となる。
【0039】
以上のように、本願の電流信号処理装置1によれば、入力電流Cdの電流域を分割した複数のレンジそれぞれに対応した抵抗値Rを有し、入力電流Cdの通電経路上に直列に接続された電流電圧変換抵抗2、電流電圧変換抵抗2それぞれに対応して設けられ、電流電圧変換抵抗2が変換した電圧を増幅する演算増幅器4、および電流電圧変換抵抗2のうち、最大の抵抗値Rを有する電流電圧変換抵抗2-1と、演算増幅器4の入力インピーダンスRcに対する抵抗値Rの比(R/Rc)が一定値を超える電流電圧変換抵抗2に対してそれぞれ並列接続して設けられたバイパスダイオード3、を備えるように構成したので、電流電圧変換抵抗2との抵抗値Rが高いために生じる演算増幅器4での電圧降下を抑制することができる。その結果、微小で広範囲なレンジの電流を正確に計測できるので、放射線計測に適した信頼性の高い電流信号処理装置1を得ることができる。
【0040】
入力電流Cdは、10pA以上、5mA以下の電流域を有する電離箱検出器から出力される電流であり、電流電圧変換抵抗2は電流域を4分割以上に分割した複数のレンジそれぞれに対応して設けられているので、電離箱検出器による放射線計測の電流域に適した信頼性の高い電流信号処理装置1を得ることができる。
【0041】
その際、バイパスダイオード3の設置基準となる一定値は、電離箱検出器による放射線計測で求められる計測精度に基づいて設定されるので、放射線計測で要求される精度を確実に満たすことができる。
【0042】
入力電流Cdの極性に応じて、バイパスダイオード3の極性を切り替える切替回路(例えば、互いに逆方向を向いた対をなすダイオード3a、3bと、そのいずれか一方を電流電圧変換抵抗2との並列接続の対象に切り替えるリレー32)、を備えるようにすれば、いずれの極性の入力電流Cdに対しても微小で広範囲なレンジの電流を正確に計測できる。
【0043】
演算増幅器4それぞれに対応して設けられ、演算増幅器からの出力をデジタル変換するA/D変換器6、およびA/D変換器6それぞれから出力されたデジタルデータのうち最適値を選択して出力する論理回路(FPGA8)を備えれば、容易に最適なデータを得ることができる。
【符号の説明】
【0044】
1:電流信号処理装置、 2:電流電圧変換抵抗、 3:バイパスダイオード、 30:バイパスダイオード回路(切替回路)、 32:リレー(切替回路)、 4:演算増幅器、 5:フィードバック抵抗、 6:A/D変換器、 7:演算ブロック、 8:FPGA(論理回路)、 Cd:入力電流、 G:ゲイン、 Lc:測定電流値、 R:抵抗値、 Rc:(演算増幅器の)入力インピーダンス、 Vt:処理電圧。