(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】ワイヤロープの検査方法及び検査システム
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20231215BHJP
G01B 11/08 20060101ALI20231215BHJP
G01B 11/30 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
G01B11/24 A
G01B11/08 Z
G01B11/30 A
(21)【出願番号】P 2021029769
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊昭
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-101399(JP,A)
【文献】特開2001-033233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01N 21/84-21/958
B66B 5/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の距離センサを有するワイヤロープ探傷装置と、
前記ワイヤロープ探傷装置から得られたデータに基いてワイヤロープの検査をするワイヤロープ検査装置と、を用いる、前記ワイヤロープの検査方法において、
前記ワイヤロープは、複数本のストランドが撚り合わされた構成を有し、
前記ワイヤロープ探傷装置は、前記ワイヤロープを挟んで対向して配置された前記一対の距離センサを用いて、前記距離センサのそれぞれと前記ストランドとの距離を計測し、
前記ワイヤロープ検査装置は、前記距離センサの出力から前記ワイヤロープの外径を算出し、前記ワイヤロープの前記外径
を表す波形を1ピッチごとに切り分け、前記外径の極大値の頻度分布を用いて判定をする、ワイヤロープの検査方法。
【請求項2】
少なくとも一対の距離センサを有するワイヤロープ探傷装置と、
前記ワイヤロープ探傷装置から得られたデータに基いてワイヤロープの検査をするワイヤロープ検査装置と、を用いる、前記ワイヤロープの検査方法において、
前記ワイヤロープは、複数本のストランドが撚り合わされた構成を有し、
前記ワイヤロープ探傷装置は、前記ワイヤロープを挟んで対向して配置された前記一対の距離センサを用いて、前記距離センサのそれぞれと前記ストランドとの距離を計測し、
前記ワイヤロープ検査装置は、
前記距離センサの出力から前記ワイヤロープの外径を算出し、前記ワイヤロープの前記外径を表す波形を1ピッチごとに切り分け、前記外径の極大値と極小値との差の頻度分布を用い
て判定をする
、ワイヤロープの検査方法。
【請求項3】
少なくとも一対の距離センサを有するワイヤロープ探傷装置と、
前記ワイヤロープ探傷装置から得られたデータに基いてワイヤロープの検査をするワイヤロープ検査装置と、を用いる、前記ワイヤロープの検査方法において、
前記ワイヤロープは、複数本のストランドが撚り合わされた構成を有し、
前記ワイヤロープ探傷装置は、前記ワイヤロープを挟んで対向して配置された前記一対の距離センサを用いて、前記距離センサのそれぞれと前記ストランドとの距離を計測し、
前記ワイヤロープ検査装置は、
前記距離センサの出力から前記ワイヤロープの外径を算出し、前記ワイヤロープの前記外径を表す波形を1ピッチごとに切り分け、前記ワイヤロープの前記ピッチの頻度分布を用い
て判定をする
、ワイヤロープの検査方法。
【請求項4】
少なくとも一対の距離センサを有するワイヤロープ探傷装置と、
前記ワイヤロープ探傷装置から得られたデータに基いてワイヤロープの検査をするワイヤロープ検査装置と、を備えた、ワイヤロープの検査システムにおいて、
前記ワイヤロープは、複数本のストランドが撚り合わされた構成を有し、
前記一対の距離センサは、前記ワイヤロープを挟んで対向して配置され、前記距離センサのそれぞれと前記ストランドとの距離を計測し、
前記ワイヤロープ検査装置は、前記距離センサの出力から前記ワイヤロープの外径を算出し、前記ワイヤロープの前記外径
を表す波形を1ピッチごとに切り分け、前記外径の極大値の頻度分布、前記外径の極大値と極小値との差の頻度分布又は前記ワイヤロープの前記ピッチの頻度分布を用いて判定をする、ワイヤロープの検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープの検査方法及び検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エレベーター、リフト、ケーブルカー、ホイスト、クレーン等に使用されているワイヤロープは、複数本の鋼線を撚って構成されたストランドを複数本撚って構成されているため、螺旋状に凹凸のある構造になっている。そのワイヤロープは、ストランド同士の接触やトラクションシーブとの接触により摩耗し、外径が減少していく。摩耗による外径の減少は、経年的に進行する。外径が基準値を下回った場合には、ワイヤロープは、寿命に至ったと判断され、交換される。
【0003】
そのため、定期的な検査においては、ワイヤロープ断面方向の外径を確認するため、ロープ中心に対向するストランドをノギス等で挟んで計測する。そして、これにより、ワイヤロープが安全に使用できるか否かを評価する。
【0004】
特許文献1には、1本又は2本以上のワイヤロープを異なる方向から撮影する2台のカメラを用い、画像データに対して、ステレオ方式による三角測量の原理を適用して、カメラに対するワイヤロープの座標を求め、ワイヤロープの座標に基づき、ワイヤロープの直径を算出する際に、ボリューム歪像の補正を行う、ワイヤロープ計測装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のワイヤロープ計測装置は、2本以上のワイヤロープについても一方向からのワイヤロープの直径を算出することができる。しかしながら、表面に周期的な凹凸を有するワイヤロープの形状を計測するものではない。
【0007】
本発明は、ワイヤロープの全長にわたる外径だけでなく、摩耗状態等の表面の異常についても正確かつ容易に検査することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも一対の距離センサを有するワイヤロープ探傷装置と、ワイヤロープ探傷装置から得られたデータに基いてワイヤロープの検査をするワイヤロープ検査装置と、を用いる、ワイヤロープの検査方法において、ワイヤロープは、複数本のストランドが撚り合わされた構成を有し、ワイヤロープ探傷装置は、ワイヤロープを挟んで対向して配置された一対の距離センサを用いて、距離センサのそれぞれとストランドとの距離を計測し、ワイヤロープ検査装置は、距離センサの出力からワイヤロープの外径を算出し、ワイヤロープの外径に基いて判定をする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ワイヤロープの全長にわたる外径だけでなく、摩耗状態等の表面の異常についても正確かつ容易に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例に係るワイヤロープの検査システムを示す概略構成図である。
【
図2】
図1のワイヤロープ検査装置7の構成を示すブロック図である。
【
図3】検査対象となるワイヤロープの一例を示す断面図である。
【
図4】
図1のワイヤロープ探傷装置6に内蔵された距離センサの配置を示す断面図である。
【
図5】距離センサの配置を含むワイヤロープを示す側面図である。
【
図6】距離センサのデータからワイヤロープの外径を算出する例を示すグラフである。
【
図7】
図6の曲線17aについて、ピッチごとに切り出し、ワイヤロープの外径の極大値及び極小値を算出する例を示すグラフである。
【
図8】ワイヤロープ間の摩耗によりワイヤロープ全体の外径が減少した場合の計測波形を示すグラフである。
【
図9】ワイヤロープの表面(凸部)が摩耗した状態におけるワイヤロープの外径を計測した波形を示すグラフである。
【
図10】ワイヤロープに変形、つぶれ、キンク、ストランドの破断等が発生した状態におけるワイヤロープの外径を計測した波形を示すグラフである。
【
図11】ワイヤロープ全長のそれぞれのピッチにおけるワイヤロープの外径の極大値D
xについての頻度を示すグラフである。
【
図12】ワイヤロープ全長のそれぞれのピッチにおけるワイヤロープの外径の極大値と極小値との差D
x-D
nについての頻度を示すグラフである。
【
図13】ワイヤロープのピッチPについての頻度を示すグラフである。
【
図14】実施例に係るワイヤロープの検査方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、エレベーター(昇降機)を含む機械設備のワイヤロープの検査、特に、その移動に係わるワイヤロープにおける外径等の計測に関する。
【0012】
以下、図面を用いて、一実施例について説明する。
【実施例】
【0013】
本実施例は、エレベーターのワイヤロープの異常検査を行うものである。この検査では、異常として、ワイヤロープの外形および表面形状の検査を行う。
【0014】
本実施例のワイヤロープの検査システムは、1:1ローピングのエレベーターを検査の対象とするものである。
【0015】
図1は、本実施例に係るワイヤロープの検査システムを示す概略構成図である。
【0016】
本図において、エレベーターは、乗かご1と、つり合い重り2と、ワイヤロープ3と、トラクションシーブ4と、そらせ5と、を備えている。ワイヤロープ3には、ワイヤロープ探傷装置6が設置されている。そして、ワイヤロープ探傷装置6には、ワイヤロープ検査装置7が接続されている。また、ワイヤロープ検査装置7には、信号処理データベース8が接続されている。ワイヤロープ検査装置7は、ワイヤロープ探傷装置6で計測された計測データを用いて、検査を行う。信号処理データベース8は、検査を行うための信号処理データテーブルを格納する。
【0017】
なお、ワイヤロープ探傷装置6とワイヤロープ検査装置7とは、一体で構成してもよい。また、信号処理データベース8は、ワイヤロープ検査装置7の内部に設けてもよい。さらに、ワイヤロープ探傷装置6、ワイヤロープ検査装置7及び信号処理データベース8は、一体で構成してもよい。
【0018】
ワイヤロープ3の探傷をする際は、エレベーターを稼働してワイヤロープ3を移動させることで、ワイヤロープ探傷装置6がワイヤロープ3の全長にわたって計測を行う。そして、ワイヤロープ検査装置7がこの計測結果である計測データを用いて、検査を行う。
【0019】
また、ワイヤロープ探傷装置6及びワイヤロープ検査装置7は、ネットワーク15を介してセンター装置12と接続されている。ここで、センター装置12は、いわゆるコンピュータであり、ワイヤロープ探傷装置6、ワイヤロープ検査装置7及び信号処理データベース8から各種の情報を受信する。そして、センター装置12は、これらの情報を用いて、点検、交換等のためのメンテナンススケジュールを作成する。センター装置12は、メンテナンススケジュール等を、ネットワーク15を介して、作業用端末装置13や管理者端末装置14などに通知することが可能である。ここで、作業用端末装置13及び管理者端末装置14としては、ノートPC、携帯端末等のコンピュータ等を用いることができる。
【0020】
また、ネットワーク15は、情報の通信ができればよく、インターネット等で実現できる。さらに、ネットワーク15は、有線、無線などその通信形式は問わない。さらに、ワイヤロープ探傷装置6、ワイヤロープ検査装置7及び信号処理データベース8はそれぞれ、ネットワーク15を介して接続されていてもよい。
【0021】
なお、本実施例においては、1:1ローピングのエレベーターを例として説明しているが、本実施例は、これ以外の構成を有する各種のエレベーターにも適用可能である。
【0022】
次に、
図1のワイヤロープ検査装置7について更に説明する。
【0023】
図2は、
図1のワイヤロープ検査装置7の構成を示すブロック図である。
【0024】
図2に示すように、ワイヤロープ検査装置7は、処理部71、メモリ部72、インターフェース部73、データ入出力部74、および通信部75を有する。
【0025】
処理部71は、CPUのようなプログラムに従って演算する機能を有する。本実施例では、処理部71は、メモリ部72に展開されたワイヤロープ外径解析プログラム711、ワイヤロープ摩耗検出プログラム712およびワイヤロープ変形検出プログラム713に従った処理を実行する。ここで、これらの各プログラムの機能は、ハードウエアで実現してもよい。この場合、各プログラムの機能は、それぞれワイヤロープ外径解析部、ワイヤロープ摩耗検出部およびワイヤロープ変形検出部として実現できる。なお、これらの各プログラム、各部の機能については、追って説明する。また、これらの各プログラムは、1つのプログラムで実現してもよいし、更に細分化してもよい。さらに、これらの一部を組み合わせてもよく、一部を細分化したプログラムとして実現してもよい。
【0026】
また、インターフェース部73は、利用者からの入力の受け付け、出力の表示等をする。このため、インターフェース部73は、例えばタッチパネルで実現できる。但し、インターフェース部73は、入力部と出力部とを分けて構成してもよいし、インターフェース部73自体を設けなくともよい。
【0027】
また、データ入出力部74は、ワイヤロープ探傷装置6及び信号処理データベース8と接続し、これらと情報を送受信する。ここで、信号処理データベース8には、外径の基準、摩耗状態、変形、キンク等を判定するための判定処理データテーブル81が格納されている。
【0028】
さらに、通信部75は、ネットワーク15と接続する機能を有し、センター装置12などにワイヤロープの外径などの検査結果を送信する。また、通信部75は、センター装置12、作業用端末装置13や管理者端末装置14などからの情報を受信する。
【0029】
次に、ワイヤロープ3の構造について説明する。
【0030】
図3は、検査対象となるワイヤロープの一例を示す断面図である。
【0031】
本図においては、ワイヤロープ3は、心綱10の周りに8本のストランド9が撚り合わされた構成を有する。
【0032】
従来は、ワイヤロープ3の検査を行う際においては、ワイヤロープ3の中心軸に対向する2本のストランド9の凸部間の距離を、ノギス等を用いて計測することにより、ワイヤロープ3の外径を求めていた。
【0033】
図4は、
図1のワイヤロープ探傷装置6に内蔵された距離センサの配置を示す断面図である。
【0034】
本図においては、8本のストランド9のそれぞれに対応する距離センサ11a~11hが配置されている。
【0035】
距離センサ11a~11hは、その内部に光源と受光素子とを有し、光源から照射された光が測定対象物であるストランド9の表面で反射され、受光素子で受光される構成を有する。反射光を評価・演算することにより、距離センサ11a~11hのそれぞれからストランド9の表面までの距離のデータを得ることができる。照射する光は、所定の波長を有する赤外線又は可視光であり、これ以外に、電波、超音波等であってもよい。光源は、LED、レーザダイオード等が好適である。測定原理としては、反射角を検出する三角測距方式や、光の照射から受光までの短い時間を測定し、その時間差を距離に換算するタイム・オブ・フライト方式(位相差測距方式又はパルス伝播方式)等がある。
【0036】
なお、エレベーター等の機械設備に用いられるワイヤロープ3の表面には、通常、潤滑油が塗布されている。このため、例えば、ワイヤロープ3の凹部に潤滑油が厚く付着している場合、潤滑油を透過しにくい可視光等を照射する光として用いると、光がワイヤロープ3の表面まで達しにくく、正確な距離の計測が困難となる場合がある。この場合には、赤外線や電波等、潤滑油を透過してワイヤロープ3の表面まで達するものを照射波として用いることが望ましい。
【0037】
距離センサ11a、11eは、ワイヤロープ3を挟んで対向して配置されている。言い換えると、距離センサ11eは、ワイヤロープ3の中心軸の周りに距離センサ11aを180度回転した位置に配置されている。
【0038】
同様に、距離センサ11b、11f、距離センサ11c、11g、及び距離センサ11d、11hがそれぞれ対になって、ワイヤロープ3を挟んで対向して配置されている。
【0039】
よって、本図においては、四対の距離センサを有する構成となっている。なお、距離センサは、少なくとも一対がワイヤロープ3を挟んで対向して配置されていれば、所望の検査が可能である。
【0040】
ワイヤロープ3の検査においては、距離センサ11a~11hが8本のストランドのそれぞれまでの距離を計測するため、四対の距離センサにより、ワイヤロープ3の断面における4つの方向についてのワイヤロープの外径を計測することができる。
【0041】
なお、距離センサの個数は、ストランドの本数と同じとすることが望ましい。すべてのストランドの状態を検査できるからである。
【0042】
図5は、距離センサの配置を含むワイヤロープを示す側面図である。
【0043】
本図に示すように、ワイヤロープ3は、ストランド9を撚り合わせて構成されているため、ワイヤロープ3の表面には、螺旋状の凹凸があり、凹凸の間隔は周期的である。距離センサ11a~11hは、所定の位置に固定されたワイヤロープ探傷装置に内蔵されている。検査の際は、固定された距離センサ11a~11hに対してワイヤロープ3を長手方向に移動させながら計測を行う。このため、距離センサ11a~11hの出力は、ワイヤロープ3の表面の凹凸の形状変化に従う信号出力となる。
【0044】
ここで、隣り合う2つの凹部の間隔を1ピッチと定義する。ワイヤロープ3の外径を判定する際には、各ピッチの凸部の外径が規定値を下回ったことを交換基準とする。このため、ワイヤロープ3の外径を表す波形を1ピッチごとに切り分けて判定する。
【0045】
図6は、距離センサのデータからワイヤロープの外径を算出する例を示すグラフである。横軸に時間、縦軸に距離又は外径をとっている。
【0046】
曲線16a、16eはそれぞれ、ワイヤロープを挟んで対向して配置された
図4の距離センサ11a、11e(一対の距離センサ)の信号出力の変化を示したものである。ここで、信号出力は、それぞれの距離センサとストランドとの距離の変化が波形として出力されたものである。当該距離は、ワイヤロープ3の長手方向への移動に伴って変化する。
【0047】
曲線16aの信号出力をda、曲線16eの信号出力をde、距離センサ11aと距離センサ11eとの間の距離(定数)をdsとすると、ワイヤロープ3の外径dpは、次の式で算出される。
【0048】
dp=ds-(da+de)
曲線17aは、ワイヤロープ3の長手方向への移動に伴って変化するワイヤロープ3の外径dp(ワイヤロープ外径波形)である。
【0049】
図7は、
図6の曲線17aについて、ピッチP
a、ワイヤロープの外径の極大値D
xa、及びワイヤロープの外径の極小値D
naを示したものである。
【0050】
本図に示すように、ワイヤロープの外径の分布曲線が減少から増加に変わる点(極小値)を抽出することにより、分布曲線を1ピッチごとに切り分ける。そして、計測データの始まりから1つ目の凹部までを1ピッチ目とし、1つ目の凹部の直後から2つ目の凹部までを2ピッチ目とする。そして、以降の全長にわたるデータを同様に切り分ける。このようにして、隣り合う極小値の間隔をピッチPa1、Pa2、Pa3、Pa4、…とする。そして、ピッチPa1、Pa2、Pa3、Pa4、…のそれぞれに対応するワイヤロープの外径の極大値をDxa1、Dxa2、Dxa3、Dxa4、…、極小値をDna1、Dna2、Dna3、Dna4、…として算出する。
【0051】
ワイヤロープの劣化は、ストランド同士の接触やトラクションシーブとの接触により摩耗による外径が減少の他に、ワイヤロープとトラクションシーブとの接触面の摩擦異常によるワイヤロープ表面の偏摩耗や、ワイヤロープの一部に局所的に発生する変形、つぶれ、キンク、ストランドの破断などがある。
【0052】
以下、計測信号からの劣化判定方法について説明する。
【0053】
図8は、ワイヤロープ間の摩耗によりワイヤロープ全体の外径が減少した場合の計測波形を示すグラフである。破線で表されている曲線17は、ワイヤロープが摩耗する前に計測したワイヤロープ外径波形である。実線で表されている曲線18は、摩耗して外径が減少したワイヤロープ外径波形である。
【0054】
本図に示すように、ワイヤロープの摩耗は、ストランド同士の接触やトラクションシーブとの接触により発生するため、ワイヤロープの一部に局所的に発生するのではなく、ワイヤロープが全体的に摩耗する。このため、曲線18は、全範囲で曲線17に比べて低くなっている。
【0055】
図9は、ワイヤロープの表面(凸部)が摩耗した状態におけるワイヤロープの外径を計測した波形を示すグラフである。
【0056】
本図に示す曲線19は、摩耗により凸部が平らになった状態を示している。
【0057】
通常、ワイヤロープ3(
図1)は、トラクションシーブ4との接触により徐々に摩耗するが、接触面に異常があった場合には、急激に摩耗が進行する。曲線19は、これを計測した結果を示したものである。
【0058】
図8に示す曲線18では全体的に外径が減少しているのに対し、
図9に示す曲線19では、ワイヤロープの凸部のみが摩耗し、凸部が平らになっている。結果として、ワイヤロープの外径の極大値D
x(凸部)と極小値D
n(凹部)の差が小さくなっている。
【0059】
図10は、ワイヤロープに変形、つぶれ、キンク、ストランドの破断等が発生した状態におけるワイヤロープの外径を計測した波形を示すグラフである。
【0060】
本図に示す曲線20は、通常のワイヤロープに発生する周期的な凹凸の一部が無くなり、通常では無い状態(凸部の一部が凹部に変化)を示している。
【0061】
ワイヤロープの変形、つぶれ、キンク、ストランドの破断等は、ワイヤロープに局所的に発生する。曲線20は、そのような変形、つぶれ、キンク、ストランドの破断等を示している。
【0062】
つぎに、ワイヤロープの劣化状態を判定する方法について説明する。
【0063】
図11は、ワイヤロープ全長のそれぞれのピッチにおけるワイヤロープの外径の極大値D
xについての頻度を示すグラフである。横軸にD
x、縦軸にその頻度をとっている。
【0064】
本図に示す曲線21は、Dxの頻度分布(度数分布)が正常な範囲であることを示している。ストランド同士の接触やトラクションシーブとの接触により摩耗による外径が減少した場合は、曲線21が全体的に左へ移動する。点22、23は、曲線21の正常値を外れた異常値である。これについては後述する。
【0065】
図12は、ワイヤロープ全長のそれぞれのピッチにおけるワイヤロープの外径の極大値と極小値との差D
x-D
nについての頻度を示すグラフである。このグラフは、ワイヤロープとトラクションシーブとの接触面の摩擦異常によるワイヤロープ表面の偏摩耗を判定するためのものである。横軸にD
x-D
n、縦軸にその頻度をとっている。
【0066】
本図に示す破線の曲線24は、摩耗前のD
x-D
nの頻度分布(度数分布)である。これに対して、実線の曲線25は、摩耗してD
x-D
nが減少した状態を示している。これは、
図9の曲線19のように、ワイヤロープとトラクションシーブとの接触面の摩擦異常による、ワイヤロープ表面が偏摩耗して凸部D
xと凹部D
nの差が減少している状態に対応している。曲線25で示す分布の中央値が規定値を下回った場合に偏摩耗発生と判定する。点26は、曲線25の正常値を外れた異常値である。これについては後述する。
【0067】
図13は、ワイヤロープのピッチPについての頻度を示すグラフである。横軸にP、縦軸にその頻度をとっている。
【0068】
本図に示す曲線27は、Pの頻度分布(度数分布)が正常な範囲であることを示している。
【0069】
つぎに、ワイヤロープの一部に局所的に発生する変形、つぶれ、キンク、ストランドの破断等が発生した場合の判定方法について説明する。
【0070】
上述のワイヤロープの摩耗は、連続的な変化であり、
図11、
図12及び
図13に示す分布の中に全体がずれる場合や、分布の広がりが変化する場合があるが、分布から外れた値となることはない。
【0071】
一方、ワイヤロープに発生する変形、つぶれ、キンク、ストランドの破断等は、局所的に発生する。このため、
図11の点22、23、
図12の点26、
図13の点28は、正常値を外れた異常値となる。これを判定するためには、外れ値が分布からの外れ度合いを算出し、一定以上外れた場合に異常と判定する。
【0072】
図14は、実施例に係るワイヤロープの検査方法を示すフローチャートである。
【0073】
本図に示すように、ワイヤロープ検査装置7(
図1)の距離センサにより、ワイヤロープ3の全長にわたって、距離センサからワイヤロープまでの距離を計測する(S100)。
【0074】
一対の距離センサの距離データからワイヤロープの外径dpを算出する(S101)。
【0075】
算出したワイヤロープの外径dpからその分布曲線であるワイヤロープ外径波形を求め、ワイヤロープ外径波形が減少から増加に変わる点(極小値)を抽出する(S102)。これにより、分布曲線を1ピッチごとに切り分けることができる。
【0076】
隣り合う極小値の間隔をピッチP1~Piとし、ピッチP1~Piのそれぞれに対応するワイヤロープの外径の極大値をDx,1~Dx,i、極小値をDn,1~Dn,iとして算出する(S103)。以下、P1~Pi、Dx,1~Dx,i、及びDn,1~Dn,iをそれぞれまとめてP、Dx、Dnと表す。
【0077】
Dxの最小値がワイヤロープの外径の規定値以下である場合は、交換が必要であると判定する(S104)。
【0078】
つぎに、P、Dx及びDx-Dnの頻度分布を求める(S105)。
【0079】
つぎに、Dx-Dnの頻度分布から摩耗状態を判定する(S106)。
【0080】
P、Dx及びDx-Dnのいずれかの頻度分布において外れ値がある場合は、変形の可能性があると判定する(S107)。
【0081】
さらに、必要に応じて、外径、変形、摩耗状態等についての判定の結果を出力する(S108)。
【符号の説明】
【0082】
1:乗りかご、2:つり合い重り、3:ワイヤロープ、4:トラクションシーブ、5:そらせ、6:ワイヤロープ探傷装置、7:ワイヤロープ検査装置、8:信号処理データベース、9:ストランド、10:心綱、11:距離センサ、12:センター装置、13:作業用端末装置、14:管理者端末装置、15:ネットワーク、71:処理部、72:メモリ部、73:インターフェース部、74:データ入出力部、75:通信部。