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特許74035041-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造方法
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  • 特許-1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20231215BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20231215BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231215BHJP
   B01J 27/24 20060101ALN20231215BHJP
【FI】
C07C17/25
C07C21/18
C07B61/00 300
B01J27/24 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021126382
(22)【出願日】2021-08-02
(65)【公開番号】P2023021492
(43)【公開日】2023-02-14
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】三宅 孝典
(72)【発明者】
【氏名】佐野 誠
(72)【発明者】
【氏名】高宮 裕樹
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-125272(JP,A)
【文献】特開2020-125271(JP,A)
【文献】特開2006-193437(JP,A)
【文献】特開昭55-059118(JP,A)
【文献】米国特許第02709181(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/
C07C 21/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンを、活性炭にメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、メラミンまたはアンモニアを接触させた後、該活性炭を、窒素雰囲気下で加熱処理してなる固体触媒の存在下、気相で、250~550℃で反応させる、1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造方法。
【請求項2】
活性炭にメラミンを接触させた後、該活性炭を、窒素雰囲気下で加熱処理してなる固体触媒の存在下で反応させる、請求項1に記載の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンを原料とし、1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンを製造する方法に関する。1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンは、電子材料や医・農薬の製造中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来より、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンを原料とし、1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンを製造する方法としては、化学量論量以上の水酸化ナトリウムを用い、液相で1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンを反応させる方法(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、ニッケル製反応管を用い、500℃~600℃で1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンをガスとして流通させる方法(例えば特許文献3参照)、並びに800℃~1,000℃で熱分解により製造する方法が知られている(例えば特許文献4参照)。
【0003】
従来の特許文献1または2に記載の方法では、液相での水酸化ナトリウムとの反応のため、多量の廃液が発生するという課題がある。一方、特許文献3及び4に記載の方法は、600℃以上の高温での反応が必要という課題がある。
【0004】
これに対して特許文献5には固体触媒を用いて250℃~550℃という比較的低い温度条件下、気相で1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンを反応させる方法が提案されている。しかしながらこの方法も、比較的低い温度条件で、長時間反応を実施した際の触媒の寿命(反応転化率の低下)をさらに延ばすことが望まれており、比較的低い温度条件で、且つ長時間製造しても反応が安定している工業的に実施可能な方法が望まれていた。
具体的に特許文献5の段落0037~0039の実施例1では、活性炭を用い、原料中酸素0.0容量%条件下での1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造例が記載されている。また段落0049~0050の実施例2では、5.0重量%の塩化セシウムを担持した活性炭を用い、原料中酸素0.0容量%条件下での1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造例が記載されている。これら実施例1、実施例2ではいずれも反応温度は350℃であり、反応開始時から反応継続60分後までの転化率及び選択率は変化なく維持されているものの、そののちまで反応を継続させた場合に維持できるかは不明である。また反応を効率的にするため350℃にて行っているものの、装置コストを低減し、かつエネルギー消費を抑制しながら、工業的規模で実用的な製造方法としては、触媒作用をより長く維持するにはできるだけ低い温度であることが望ましく、より低温側でも十分な反応性(転化率)を有する触媒が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】独国特許出願公開第2846812号明細書。
【文献】米国特許第2709181号明細書。
【文献】米国特許第2628989号明細書。
【文献】英国特許出願公開第774125号明細書。
【文献】特開2020-125271公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、これら従来技術を鑑み、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンを原料とし、1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンを気相反応により製造する際、比較的低い温度条件で十分な速度で1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンを製造することが可能であり、且つ長時間製造を実施した場合においても反応効率が維持される、実用的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンを、固体触媒存在下、気相で反応させる1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造方法について鋭意検討した結果、活性炭に塩基性物質を接触させた後、該活性炭を、窒素雰囲気下で加熱処理してなる固体触媒を用いて反応させることにより、比較的低い温度で、1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造が可能であり、且つ長時間製造を実施した場合においても反応転化率の低下が極めて少ない、より工業的に実施可能な1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造方法を見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は下記の要旨に係わるものである。
【0008】
(1)1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンを、活性炭に塩基性物質を接触させた後、該活性炭を、窒素雰囲気下で加熱処理してなる固体触媒の存在下、気相で反応させる、1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造方法。
【0009】
(2)前記塩基性物質が、有機アミンまたはアンモニアである、上記(1)に記載の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造方法。
(3)前記塩基性物質が、メラミンである、上記(1)に記載の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造方法。
【0010】
(4)反応温度が、250℃~550℃であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、比較的低い温度条件にて反応が可能で、且つ長時間製造を継続実施した場合においても反応転化率及び選択率の低下が極めて少ない、1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンのより工業的に実施可能な製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】比較例1,2と実施例1-1~1-3における反応の転化率と選択率の結果を示す図であり、図中、黒丸(●)は転化率、白丸(〇)は選択率を示し、Y軸(縦軸)は転化率または選択率の数値(単位は%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0014】
本発明に用いられる原料の1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンは、1,1,2-トリクロロエチレンとフッ化水素の反応により容易に調製される。
【0015】
<活性炭>
本発明に適用可能な活性炭の種類としては、木炭、石炭、ヤシ殻等から調製された活性炭等が挙げられる。
【0016】
活性炭の比表面積は特に限定されず、通常10m/g~4000m/gであることが好ましく、50m/g~3000m/gがより好ましく、100m/g~2000m/gがさらに好ましい。活性炭の比表面積が10m/gより小さいと十分な反応転化率及び選択率が得られない場合がある。逆に4000m/gを超えた場合でも比表面積に応じた十分な反応転化率及び選択率の増大は得られにくく、また副反応が起こりやすくなることがある。活性炭の比表面積は、BET法に準拠した方法で測定される。
【0017】
上記活性炭は、必要に応じて高温処理されていてもよい。高温処理方法は特に限定されないが、不活性ガス中で400℃~1000℃で1時間~3時間熱処理すること等が挙げられる。
不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素等が挙げられる。
【0018】
本発明に用いられる固体触媒としては、上記活性炭に、塩基性物質を接触させ、その後窒素雰囲気下で加熱処理する工程により得ることができる。
【0019】
塩基性物質として、具体的には、炭酸アンモニウムや炭酸水素アンモニウム等の熱分解性のアミン塩や、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メラミン等の有機アミンや、アンモニアなどの塩基性物質が挙げられる。これらの塩基性物質は、単独で用いても、メラミンとアンモニアなど2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記塩基性物質は、溶媒に溶解させた溶液を用いて接触させてもよい。用いる溶媒として、例えば、水や、メタノール、エタノール等のアルコール類が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
上記塩基性物質の使用量は、活性炭に対して、0.01質量比~100質量比が好ましく、0.1質量比~50質量比がより好ましく、1質量比~30質量比がさらに好ましい。塩基性物質の使用量が活性炭に対して、0.01質量比より少ないと十分な反応効率が得られない場合があり、逆に100質量比を超えて使用しても、反応効率の増大は得られにくく、また副反応が起こりやすくなることがある。
【0022】
加熱処理方法は特に限定されないが、例えば、上記塩基性物質を接触させた活性炭を、窒素雰囲気下で温度300℃~1200℃の範囲に調整し、処理時間1分間~5時間熱処理する等が挙げられる。
【0023】
本発明に用いる固体触媒は、反応装置の大きさにもよるが、通常、粉末または1mm~30mmの成形体として用いられる。
【0024】
本発明の反応方法は、通常、石英、パイレックス(登録商標)ガラス、鉄、ニッケル製の反応管を用い、反応管内に固体触媒を充填し、所定の温度に加熱の後、窒素、ヘリウム、またはアルゴンで希釈した1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンをガス状態で供給し、反応を行う。
【0025】
本発明に適用可能な希釈された1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンの濃度としては、5.0体積%~50.0体積%の濃度範囲である。
【0026】
本発明の反応温度としては、固体触媒の種類にもよるが、250℃~550℃が好ましい。反応温度が250℃より低い場合、十分な反応転化率が得られない場合がある。反応温度が550℃を超えても、反応転化率及び選択率の増大は得られにくく、また副反応が起こりやすくなるおそれがある。高い選択率を得るためには、反応温度は250℃~400℃がより好ましく、250℃~350℃がさらに好ましい。
【0027】
本発明の反応時間(触媒との接触時間)は、原料の転化率と、生成物の選択率を制御するために、反応温度が高ければ反応時間を短く、反応温度が低ければ反応時間を長くすることができるが、0.05秒~20秒が好ましく、0.1秒~10秒がより好ましく、0.2秒~5秒がさらに好ましい。反応時間が0.05秒より短いと十分な反応転化率及び選択率が得られない場合があり、逆に20秒を超えても、反応転化率及び選択率の増大は得られにくく、また副反応が起こりやすくなるおそれがある。
【0028】
本発明の反応後の後処理としては、特に制約はないが、一般的には、生成物を冷却し液化の後、常圧または加圧条件下で蒸留精製することにより、精製1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンを得る。
【実施例
【0029】
以下、本発明を実施例により更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0030】
[触媒調製例1]
活性炭を窒素雰囲気中300℃で1時間処理した。得られた活性炭1gにメラミン(C)0.0798g、エタノール30mL加えて1時間撹拌した後、35kPa、65℃で減圧乾燥した。この操作を1回行った。その後、窒素雰囲気下700℃で5時間加熱処理を行い、メラミン担持活性炭を得た(触媒1-1)。
上記の活性炭にメラミン、エタノール加えて撹拌した後、減圧乾燥する操作を2回繰り返した。その後、窒素雰囲気下700℃で5時間加熱処理を行い、メラミン担持活性炭を得た(触媒1-2)。
上記の活性炭にメラミン、エタノール加えて撹拌した後、減圧乾燥する操作を3回繰り返した。その後、窒素雰囲気下700℃で5時間加熱処理を行い、メラミン担持活性炭を得た(触媒1-3)。
以上の触媒1-1、触媒1-2および触媒1-3について、1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造のための反応を行なった(実施例1-1~実施例3-3)。
【0031】
[触媒調製例2]
活性炭を窒素雰囲気中300℃で1時間処理した(触媒2)。
触媒2について、以下に示す通り、そのまま1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造のための反応を行なった(比較例1)。
【0032】
[実施例1-1~実施例1-3] 固体触媒として触媒1-1(実施例1-1)、触媒1-2(実施例1-2)または触媒1-3(実施例1-3)を用い、反応温度を300℃とした1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造
内径6.0mm石英製反応管に、上記触媒1-1、触媒1-2または触媒1-3を0.4g充填(充填長さ8.0mm)し、窒素を12mL/min流通下、300℃で1時間乾燥の後、触媒層の温度を300℃に保持し、窒素で1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタン濃度13.7容量%に希釈したガスを反応管に13.9mL/minの速度で供給し、反応を行った。
【0033】
反応実施直後に反応管から流出するガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンの転化率、および目的物の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの選択率は、それぞれ、触媒1-1では30%および91%、触媒1-2では36%および96%、および触媒1-3では63%および88%であった。
【0034】
[比較例1] 触媒2を用い、反応温度を300℃とした1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造
固体触媒を触媒2とした以外は、実施例1と同様の方法にて反応を行った。
【0035】
反応実施直後に反応管から流出するガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンの転化率は3%で、目的物の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの選択率は63%であった。
【0036】
[比較例2] 5.0質量%塩化セシウム担持活性炭を用い、反応温度を300℃とした1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造
固体触媒を5.0質量%塩化セシウム担持活性炭とした以外は、実施例1と同様の方法にて反応を行った。
なお、5.0質量%塩化セシウム担持活性炭は以下の通りにて製造した。
活性炭を窒素雰囲気中300℃で1時間処理した。得られた活性炭2gに塩化セシウム水溶液(CsCl 0.1g、水20ml)を加え30分撹拌後、35kPa、80℃で減圧乾燥を行った。その後、窒素雰囲気下450℃、3時間加熱処理を行い、5.0質量%塩化セシウム担持活性炭を得た。
【0037】
反応実施直後に反応管から流出するガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンの転化率は22.7%で、目的物の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの選択率は95%であった。
【0038】
以上の比較例1、実施例1-1~実施例1-3、および比較例2の結果を、表1に示した。また、以上の結果を、図1にも示した。
【0039】
【表1】
【0040】
表1及び図1から、活性炭に塩基性物質の一つであるメラミンを担持させない場合(比較例1)に対し、一回の担持処理(実施例1-1)から、2回の担持処理(実施例1-2)、3回の担持処理(実施例1-3)と、メラミン担持量が増加するにつれて、反応温度300℃の条件では反応性を示す転化率が徐々に高くなっていることが分かる。このことは、活性炭単独でメラミンが担持されなくとも反応は進行するものの、メラミンを担持させることで反応が加速され、担持量が多くなるほど反応が加速することになることが分かる。
一方、反応の選択率は、一般に、反応が早くなるほど、つまり激しくなるほど選択率が低下するとされることが多い。上記表1の結果では、実施例1-2と実施例1-3とを対比すると、メラミン担持量が増加すると転化率、つまり反応速度は高まるものの、選択率が若干低下していた。このため、適正な反応速度を設定することで、選択率も高水準を維持できることが分かる。
【0041】
また表1及び図1について、比較例2の塩化セシウムを担持した活性炭と、実施例1-1~実施例1-3のメラミンを担持した活性炭との触媒活性を比較した場合、少なくとも300℃の反応条件ではメラミンを担持した活性炭の方が転化率、すなわち反応速度が高いことが分かる。さらに具体的に両者の比較に選択率を加味した場合、選択率が95%の設定では、メラミン担持活性炭の方が塩化セシウム担持活性炭よりも反応触媒として効率的であることを意味すると解される。
【0042】
[実施例2-1~実施例2-3] 固体触媒として触媒1-1(実施例2-1)、触媒1-2(実施例2-2)または触媒2-3(実施例1-3)を用い、反応温度を350℃とした1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造
触媒層の温度を350℃とした以外は、実施例1と同様の方法にて反応を行った。
【0043】
反応実施直後に反応管から流出するガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンの転化率、および目的物の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの選択率は、それぞれ、触媒2-1では36%および95%、触媒2-2では52%および97%、および触媒2-3では95%および55%であった。
【0044】
[実施例3-1~実施例3-3] 固体触媒として触媒1-1(実施例3-1)、触媒1-2(実施例3-2)または触媒2-3(実施例3-3)を用い、反応温度を400℃とした1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造
触媒層の温度を400℃とした以外は、実施例1と同様の方法にて反応を行った。
【0045】
反応実施直後に反応管から流出するガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンの転化率、および目的物の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの選択率は、それぞれ、触媒3-1では80%および84%、触媒3-2では88%および92%、および触媒3-3では98%および35%であった。
【0046】
以上の実施例1-1~実施例1-3、実施例2-1~実施例2-3、および実施例3-1~実施例3-3の結果を、表2に示した。実施例1-1~実施例1-3の結果は表1と同じである。
【表2】
【0047】
表2から、活性炭に塩基性物質の一つであるメラミンを一回の担持処理(実施例1-1)から、2回の担持処理(実施例1-2)、3回の担持処理(実施例1-3)と、メラミン担持量が増加するにつれて、反応温度300℃、350℃および400℃のいずれの条件でも、反応性を示す転化率が徐々に高くなっていることが分かる。このことは、活性炭に担持されるメラミンの量が増えると共に反応はより速く進行することが分かる。
一方、反応の選択率は、一般に、反応が早くなるほど、つまり激しくなるほど選択率が低下するとされることが多い。上記表2の結果では、反応温度が300℃から400℃へと高温になれば反応性(転化率)は高くなるものの、選択率はその逆に、反応温度が300℃から400℃へと高温になれば低下していた。
これらのことから、本発明に係る反応条件は単に反応性が高いことだけではなく、選択率が高レベルに維持されている条件で行うことが実用的には重要である。このため、反応温度を比較的低めとした条件であっても反応性(転化率)が高く、かつその状態を維持できることが効率的な反応として実用的なものとなる。
【0048】
[実施例4] 固体触媒として、活性炭にメラミン、エタノール加えて撹拌した後、減圧乾燥する操作を3回繰り返した触媒1-3を用い、反応温度を280℃とした1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造
【0049】
触媒層の温度を280℃とした以外は、実施例1と同様の方法にて反応を行った。
【0050】
反応実施直後に反応管から流出するガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンの転化率は35%で、目的物の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの選択率は80%であった。
【0051】
さらに反応を継続実施360分後に反応管から流出するガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンの転化率は35%で、目的物の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの選択率は80%であった。
【0052】
[比較例3] 5.0質量%塩化セシウム担持活性炭を用い、反応温度を350℃とした1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの製造
【0053】
固体触媒を5.0質量%塩化セシウム担持活性炭とし、反応温度を350℃とした以外は、実施例1と同様の方法にて反応を行った。
【0054】
反応実施直後に反応管から流出するガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンの転化率は38%で、目的物の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの選択率は98%であった。
【0055】
さらに反応を継続実施360分後に反応管から流出するガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、1,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエタンの転化率は30%で、目的物の1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの選択率は98%であった。
【0056】
以上の結果を表3に示した。
【0057】
【表3】
【0058】
表3では、活性炭に塩基性物質の一つであるメラミンを3回の担持処理(実施例4)と塩化セシウムを担持した活性炭(比較例3)とを対比している。但し、メラミン担持活性炭と塩化セシウム担持活性炭との反応性(転化率)を同程度と設定するため、反応温度を前者では280℃、後者を350℃としている。
この条件で反応を継続した場合、表3の結果から分かるように、反応開始時では転化率と選択率はほぼ同程度であった。その後の、反応継続360分後では、メラミンを3回の担持処理(実施例4)では転化率と選択率のいずれも変化なく維持されていた。これに対し塩化セシウムを担持した活性炭(比較例3)では転化率が38%から30%へと低下していた。この両者の相違としては種々考えられ、反応温度が高温度側の後者では触媒としての機能が劣化しやすいことが考えられる。あるいは反応中に触媒として機能する塩化セシウムが活性炭から抜け出てしまうことも考えられる。これらの原因は不明なものの、少なくとも、メラミン担持活性炭による触媒機能は、塩化セシウム担持活性炭による触媒機能よりも安定して機能を発揮できることは明らかであり、実用的な触媒である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により、比較的低い温度条件において反応が進行し、且つ、長時間反応を継続実施した場合においても反応転化率及び選択率の低下が極めて少ない1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンの工業的な製造が可能となった。本発明の方法で得られる1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレンは各種、医農薬、電子材料の合成原料として利用可能である。
図1