IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧 ▶ 住友理工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-自動車用エンジンのカバー 図1
  • 特許-自動車用エンジンのカバー 図2
  • 特許-自動車用エンジンのカバー 図3
  • 特許-自動車用エンジンのカバー 図4
  • 特許-自動車用エンジンのカバー 図5
  • 特許-自動車用エンジンのカバー 図6
  • 特許-自動車用エンジンのカバー 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】自動車用エンジンのカバー
(51)【国際特許分類】
   F02B 77/13 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
F02B77/13 J
F02B77/13 U
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021163505
(22)【出願日】2021-10-04
(65)【公開番号】P2023054574
(43)【公開日】2023-04-14
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】師 遠
(72)【発明者】
【氏名】杢出 大樹
(72)【発明者】
【氏名】富山 幸治
(72)【発明者】
【氏名】金田 光稀
(72)【発明者】
【氏名】大西 一義
(72)【発明者】
【氏名】田口 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康雄
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-012638(JP,U)
【文献】実開平04-034436(JP,U)
【文献】特開2000-025536(JP,A)
【文献】特開平11-254570(JP,A)
【文献】特開平10-319968(JP,A)
【文献】特開2001-098954(JP,A)
【文献】特開2013-167191(JP,A)
【文献】実開昭59-075519(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 77/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクプーリ及び補機駆動ベルトが車体の前方向に向いた姿勢でエンジンルームに配置されたエンジンの前記クランクプーリ及び補機駆動ベルトを覆うカバーであって、
前記エンジンに取り付く締結部を有する補強体と、前記補強体が一体化された吸音性本体とを有しており
前記補強体は、クランク軸線方向から見てシリンダボア軸線方向に長い縦長部と、クランク軸線方向から見てシリンダボア軸線方向と交叉した方向に長い横長部とを有して全体として十字状に形成され、前記補強体における縦長部の両端と横長部の両端とに前記締結部を設けている、
自動車用エンジンのカバー。
【請求項2】
前記締結部には、ボルト又は他の棒状ファスナの押圧力を受ける筒状のカラーが前記補強体を貫通して設けられている、
請求項1に記載した自動車用エンジンのカバー。
【請求項3】
クランクプーリ及び補機駆動ベルトが車体の前方向に向いた姿勢でエンジンルームに配置されたエンジンの前記クランクプーリ及び補機駆動ベルトを覆うカバーであって、
前記エンジンに取り付く締結部を有する補強体と、前記補強体が一体化された吸音性本体とを有しており
前記吸音性本体は、数mm~10数mmの厚さの硬質ウレタンで構成されて全体としてエンジンに向けて開口するトレー状の形態を成している一方、
前記補強体は、クランク軸線方向から見てシリンダボア軸線方向に長い縦長部と、クランク軸線方向から見てシリンダボア軸線方向と交叉した方向に長い横長部とを有して全体として十字状に形成され、前記補強体における縦長部の両端と横長部の両端とに前記締結部を設けている、
動車用エンジンのカバー。
【請求項4】
前記吸音性本体は、全体としてエンジンに向けて開口するトレー状の形態を成して外周部は壁部になっており、前記補強体は前記吸音性本体の壁部にも配置されている、
請求項1~3のうちのいずれかに記載した自動車用エンジンのカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジンのカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンは、一般に車体の前部に設けたエンジンルームに配置されている。エンジンルームの態様は様々であり、セダンタイプの自動車の場合は、エンジンルームは運転席の前方に形成されてフード(ボンネット)で覆われており、キャブオーバータイプやワンボックスタイプの自動車の場合は、エンジンルームがキャビンの下方まで入り込んでいることがある。
【0003】
また、エンジンの配置姿勢について見ると、クランク軸を車幅方向に長い姿勢に配置した横置きタイプと、クランク軸を車体の前後方向に長い姿勢にして配置した縦置きとがあり、キャブオーバータイプやワンボックスタイプの自動車の場合は、高さ方向のスペースが狭いことから、エンジンのシリンダボアは鉛直よりも水平に近い姿勢に大きくスラントしている。
【0004】
いずれにしても、エンジンルームの下方は大きく開口しているため、自動車の走行に際して、前輪で跳ね飛ばされた小石などの異物がエンジンに向けて飛んでくることがある。縦置きのエンジンでは、クランクプーリや補機駆動ベルトが自動車の前進方向を向いているため、異物がクランクプーリや補機駆動ベルトに当たりやすい。また、走行に際してエンジン周りで発生した騒音がエンジンルームの床下開口部から漏れて車外音として伝播することがあるが、キャブオーバータイプやワンボックスタイプではエンジン搭載位置が低いため、車外音の問題が顕著に顕れやすい。そこで、エンジンの防護や騒音防止等のためのカバーが提案されている。
【0005】
その例として特許文献1,2には、キャブオーバ型自動車に縦置きされたスラント型エンジンにおいて、エンジンを下方から全体的に覆うアンダーカバーを設けることが開示されており、特許文献3には、同様に縦置きされたスラント型エンジンにおいて、補機駆動ベルトとクランクプーリとの間に異物が噛み込むことを防止するためのカバーを設けることが開示されている。
【0006】
エンジンにおいて、カムを駆動するタイミングチェーンはチェーンカバーで覆われているが、騒音低減手段として、チェーンカバーに吸音材を貼り付けることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6218557号公報
【文献】実開平3-121988号のマイクロフィルム
【文献】実開平4-075132号のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2のようにアンダーカバーを設けると、エンジン回りで発生した騒音の車外漏れ抑制効果や、クランクプーリや補機駆動ベルト等の部材への被水防止・異物衝突防止の効果に優れているが、これらの効果を追求していくと、アンダーカバーの設定範囲の拡大による重量増加と共にエンジンルームの通風性が阻害されエンジン部品の熱害の問題が発生する。他方、特許文献3は、部分的な保護に過ぎないため保護機能が不十分であり、また、騒音抑制機能は全く期待できないという問題がある。
【0009】
また、既述のとおり、チェーンカバーに吸音材を張り付けて遮音機能を持たせることも行われているが、この場合は、クランクプーリの回転や補機駆動ベルトの周回によって発生した音が車外に漏洩することは防止できないため、高い遮音機能を期待できないという問題がある。この点について、吸音性のカバーでクランクプーリや補機駆動ベルトを覆うことが考えられるが、吸音性の材料は一般に金属に比べて密度が小さく強度が高くないため、十分な剛性・保形性を保持し難いおそれがある。
【0010】
本願発明はこのような現状を背景になされたもので、クランクプーリや補機駆動ベルト等の部材への被水・異物噛み込みを防止できると共に遮音性に優れたカバーに関し、保形性(剛性)に優れると共に熱変形温度が低い等の特性を改良した技術を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、クランクプーリ及び補機駆動ベルトが車体の前方向に向いた姿勢でエンジンルームに配置されたエンジンの前記クランクプーリ及び補機駆動ベルトを覆うカバーを対象にしており、請求項1の発明では、このカバーは、
「前記エンジンに取り付く締結部を有する補強体と、前記補強体が一体化された吸音性本体とを有しており
前記補強体は、クランク軸線方向から見てシリンダボア軸線方向に長い縦長部と、クランク軸線方向から見てシリンダボア軸線方向と交叉した方向に長い横長部とを有して全体として十字状に形成され、前記補強体における縦長部の両端と横長部の両端とに前記締結部を設けている
という特徴を備えている。吸音性本体と補強体との一体化手段としては、例えば、吸音性本体を補強体にインサート成形する方法を採用できる。
【0012】
本願発明のカバーは吸音性本体と補強体との複合構造であるが、補強体は、吸音性本体と異なる形態に形成することも可能であるし、吸音性本体と略同じ形態に形成することも可能である。形態に関しては、格子状やパンチングメタル状なども選択できる。また、補強体は、吸音性本体の片面に露出した態様や両面に露出した態様など、様々な配置態様を採用できる。
【0013】
本願発明は、様々に展開できる。その例として請求項2では、
「前記締結部にはボルト又は他の棒状ファスナの押圧力を受ける筒状のカラーが前記補強体を貫通して設けられている」
という構成を採用している。
【0014】
求項3の発明は請求項1が対象にしているカバーと同じものを対象にしており、請求項3では、このカバーは、
前記エンジンに取り付く締結部を有する補強体と、前記補強体が一体化された吸音性本体とを有しており
前記吸音性本体は、数mm~10数mmの厚さの硬質ウレタンで構成されて全体としてエンジンに向けて開口するトレー状の形態を成している一方、
前記補強体は、クランク軸線方向から見てシリンダボア軸線方向に長い縦長部と、クランク軸線方向から見てシリンダボア軸線方向と交叉した方向に長い横長部とを有して全体として十字状に形成され、前記補強体における縦長部の両端と横長部の両端とに前記締結部を設けている」
という構成になっている。
【0015】
請求項3に記載の「硬質ウレタン(硬質ポリウレタン)」とは、架橋構造のウレタン樹脂であって、それ自体としてトレー状の形態が保持されており、人が手で押しても軽い力では曲がらない強度を有しているものをいう。
【0016】
更に請求項4では、請求項1~3のうちのいずれかにおいて、
「前記吸音性本体は、全体としてエンジンに向けて開口するトレー状の形態を成して外周部は壁部になっており、前記補強体は前記吸音性本体の壁部にも配置されている」
という構成になっている。この場合、補強体のうち壁部に配置されている部位に、エンジンと重なるフランジ状の締結部を設けることができる。
【発明の効果】
【0017】
本願発明のカバーは、クランクプーリや補機駆動ベルトが車体の前方に向いて配置された縦置きエンジンに適用されるが、プーリや補機駆動ベルトなどはカバーで前から覆われているため、車輪で跳ね上げられた小石等の異物や、雨、雪からプーリ類や補機駆動ベルト等の部材を的確に保護できる。
【0018】
そして、カバーは吸音性本体を備えているため、プーリの回転や補機駆動ベルトの周回に起因した騒音がエンジンルームの外に漏洩することを抑制して、車外及び車内の静粛性を向上できる。また、カバーは断熱性も高いため、低温環境下での走行に際してエンジンが冷やされることを抑制できる利点もある。カバーには走行風が当たるため、熱の籠もりも生じない。
【0019】
さて、吸音性の素材は金属板や硬質合成樹脂に比べて強度は低いのが普通であるため、カバーをボルト等のファスナでエンジンに締結するにおいて、ボルト等のファスナで吸音性本体を直接押さえると、締結部(の周縁部)に応力が集中するため、振動等による負荷によって締結部の箇所が破断しやすくなるおそれがある。これに対しては、多数の締結部を確保して1か所の締結部に作用する負荷を軽減することが考えられるが、この対応は、締結作業に多大の手間がかかるのみでなく、締結箇所の確保のためにカバー及びエンジンの設計が非常に厄介になるという問題があり、現実的でない。
【0020】
これに対して本願発明では、エンジンへの締結部は補強体に形成されているため、ファスナの締結に伴う押圧力が吸音性本体に波及することを防止できる。従って、吸音性本体の狭い部位に応力が集中することを防止して、少ない箇所の締結であってもカバーをエンジンにしっかりと固定できる。よって、本願発明では、高い取り付け強度を確保しつつ、カバーによる保護機能・遮音機能を確保できる。
【0021】
請求項2のように締結部にカラーを設けると、吸音性本体を締結部の箇所まで広げつつ高い取り付け強度を確保できて好適である。この場合、カラーにワッシャ部を設けてワッシャ部をエンジンに重ねると、エンジンによる支持面積を増大して締結強度を向上できると共に、補強体吸音性本体との接合面積を増大して補強体吸音性本体との一体性を向上できるため、カバーの堅牢性の向上にも貢献できる利点がある。
【0022】
請求項3の構成では、カバーがトレー状であって曲げやねじりに対する抵抗が大きいことと、補強体が十字状に形成されていて硬質ウレタンよりなる吸音部をまんべんなく補強できることとが相まって、4か所のみの締結でありながらカバーを安定的かつ強固に支持できる。補強体が十字状であることの効果は請求項1でも同様に発揮される。
【0023】
請求項4のように、補強体を吸音性本体の壁部にも配置すると、カバーをトレー状態に形成したことによるリブ効果が更に向上するため、ねじりや曲げに対する強度を更に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態のカバーが適用されるエンジンの正面図である。
図2】カバーを装着した状態でのエンジンの正面図である。
図3】カバーの斜視図である。
図4】(A)はカバーの正面図、(B)は(A)のB-B底面図である。
図5】(A)は図4(A)の VA-VA視側面図、(B)は図4(A)の VB-VB視断面図、(C)は図4(A)の VC-VC視断面図である。
図6図2のVI-VI 視拡大断面図である。
図7】他の実施形態を図6と同じ箇所で表示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向及び車体の前後方向であり、左右方向は車幅方向である。結局、前後・左右は運転手から見た方向と同じである。上下方向は鉛直方向としている。
【0026】
(1).エンジンの概要
まず、本実施形態のカバーが適用されるエンジンを図1に基づいて説明する。エンジンは、ワンボックスキャブオーバ型自動車に搭載されるもので、クランク軸1が前後方向を向いた縦置き姿勢でエンジンルームに搭載されている。また、シリンダボア軸線2は、水平に近い状態まで大きくスラントしている。スラント角度は水平に対して25°程度になっている。
【0027】
エンジンは、機関本体の要部であるシリンダブロック3とその頂面に固定されたシリンダヘッド4とを備えており、シリンダヘッド4の頂面にヘッドカバー5が固定されている。他方、シリンダブロック3の底面には、クランクケースとしても機能する上部オイルパン6が固定されており、上部オイルパン6の下面に下部オイルパン7が固定されている。シリンダヘッド4とシリンダブロック3と上部オイルパン6の前面には、タイミングチェーン(図示せず)を覆う1枚のチェーンカバー8が配置されており、チェーンカバー8は、シリンダヘッド4とシリンダブロック3と上部オイルパン6にボルトの群で固定されている。
【0028】
クランク軸1の前端はチェーンカバー8の前方に突出しており、この突出した前端にクランクプーリ9がボルト9aによって固定されている。クランクプーリ9には、第1及び第2の2本の補機駆動ベルト10,11が巻き掛けられている。第1補機駆動ベルト10は、上部オイルパン6の右側に配置されたエアコン用コンプレッサのプーリ12に巻き掛けられて、第2補機駆動ベルト11は、クランクプーリ9の上方に配置されオルタネータ14のプーリ15に順掛けされると共に、クランク軸1よりも低い位置に配置されたウォータポンプのプーリ16に背面掛けされている。
【0029】
第2補機駆動ベルト11は、オルタネータ14のプーリ15との接触長さを大きくするためにシリンダヘッド4の側に向けて大きく蛇行しており、シリンダヘッド4に近い箇所に配置された上下一対の順掛け式アイドルプーリ17,18と、オルタネータプーリ15の右に配置された背面掛け式テンションプーリ19とによって蛇行状態が保持されている。
【0030】
なお、テンションプーリ19はオートテンショナであり、その下方に配置された回転体にアーム(図示せず)を介して取り付けられている。回転体20には、その回転に抵抗を付与するばねが内蔵されており、テンションプーリ19は、左右方向に移動可能で第2補機駆動ベルト11を右方向に押している。
【0031】
チェーンカバー8のうち下部オイルパン7の上の部位には、前向き張り出し部21が形成されており、前向き張り出し部21に下方からオイルフィルタ22を螺着している。図1において、符号23,24,25で示すのは冷却系のホースであり、符号26で示すのは、エンジンを車体に支持するためのマウンウトブラケットの1つである。
【0032】
(2).カバーの基本構造
図2に示すように、エンジンの前面部にはカバー(フロントカバー)30が配置されて、このカバー30により、クランクプーリ9の全体と第1補機駆動ベルト10の大部分、第2補機駆動ベルト11の下半分程度が覆われている。カバー30はシリンダボア軸線2の方向に長い略菱形状の形態を成しており、中央からやや右に寄った部位に、クランクプーリ9をクランク軸1に固定するボルト9aを露出させる貫通穴31が空いている。
【0033】
図3~5から理解できるように、カバー30は、周囲に壁部32を有してチェーンカバー8に向けて開口したトレー状に形成されている。また、クランクプーリ9やウォータポンプ等と干渉しないように、複雑な凹凸形状になっている。また、カバー30は、図5(B)(C)から理解できるように、厚肉の吸音性本体33と、吸音性本体33がインサート成形によって一体に形成された補強体34とを有している。
【0034】
吸音性本体33はカバー30の外形を構成しており、硬質ウレタン樹脂の成形品である。他方、補強体34は、ナイロン樹脂やポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、高密度ポリエチンレン樹脂等の合成樹脂の成形品であって板状に形成されている。従って、先に補強体34を製造してから、補強体34を金型にセットして吸音性本体33を成形している。吸音性本体33は、補強体34がなくても保形されて、人が手で多少の力を加えても変形しない程度の強度を有している。
【0035】
補強体34の大部分は吸音性本体33の外面(主として前面)に接合されているが、一部は吸音性本体33の内面(主として後面)に接合されている。従って、補強体34は手前に露出していない部分がある。図4では、補強体34が露出している部分に平行斜線を付している。吸音性本体33は、10mm程度の厚さに設定されているが、その厚さは任意に設定できる。場所によって厚さを異ならせることも可能である。補強体34の厚さは2mm程度になっているが、これも任意に設定できる。補強体34を金属板で製造することも可能である。
【0036】
図2から明瞭に把握できるように、補強体34は、シリンダボア軸線2の方向に長い縦長部34aと、縦長部34aと交叉した横長部34bとを有して、全体として十字状の形態を成している。縦長部34aは概ね一直線に長く延びているが、横長部34bは、縦長部34aを挟んだ上下の部位が左右にずれている。
【0037】
カバー30の外周部を構成する壁部32は、前面部と同様に吸音性本体33と補強体34との両方で構成されているが、縦長部34aの両端に位置した壁部32と横長部34bの両端に位置した壁部32とに、カバー30をチェーンカバー8に固定するための第1~第4の締結部35~38を形成している。
【0038】
各締結部35~38は足状に突出した後ろ向きの部位(壁部32)に設けているが、後ろ向き突出寸法は互いに相違している。すなわち、図4,5から理解できるように、縦長部34aの右上端でシリンダヘッド4の側に位置した第1締結部35は突出高さが2番目に低く(3番目に高く)て、縦長部34aの下端で下部オイルパン7に近い部位に位置した第2締結部36は突出高さが最も高く、横長部34bの上端でオルタネータ14に近い部位に位置した第3締結部37は突出高さが最も低く、横長部34bの下端でクランクプーリ9の略下方に位置した第4締結部38は、2番面に高い突出高さになっている。このように各締結部35~38の突出高さ(前後位置)の相違は、チェーンカバー8の前面の形状の違いに起因している。
【0039】
図2に示すように、カバー30の右側部の一部はエアコン用コンプレッサのプーリ12の後ろに隠れている。従って、カバー30の壁部32のうちエアコン用コンプレッサのプーリ13に近接した部位は、第1補機駆動ベルト10と干渉しないように切欠かれている。オルタネータ15のプーリ16は、その下部がカバー30で部分的に覆われている。
【0040】
(3).締結部の構造
各締結部35~38は、基本的には同じ構造になっている。そこで、図6において第1締結部35を取り上げて明示している。すなわち、各締結部35~38は、補強体34の縁と吸音性本体33の縁部とでフランジ状に形成されており、ボルト39でチェーンカバー8に締結されているが、補強体34及び吸音性本体33に、ボルト39の軸力を支持する補強部材40を装着している。
【0041】
各締結部35~38において、補強体34の外周には剛性を向上させるためのリブ41を設けており、リブ41は吸音性本体33に埋設されている。図2では、ボルトは丸で模式的に表示している。図6のとおり、チェーンカバー8のうち各締結部35~38の箇所には、ボルト39がねじ込まれるタップ穴35a~38a(図1も参照)を形成している。
【0042】
補強部材40は金属板製又は硬質合成樹脂製であり、ボルト39の軸部が貫通するカラー40aと、チェーンカバー8に重なるワッシャ部40bとを有して、全体としてT形に形成されている。実施形態では、補強部材40を補強体34に接着した状態で金型にセットして吸音性本体33を成形しており、従って、吸音性本体33が補強部材40にもインサート成形で接合されているが、補強部材40は、カバー30の取り付けに際してカバー30にセットしてもよい。
【0043】
或いは、吸音性本体33を製造してから、吸音性本体33又は/及び補強体34の弾性変形を利用して強制的に装着したり、接着剤によってワッシャ部40bを接着したりすることも可能である。
【0044】
補強部材40は様々に具体化できる。その例を図7に示している。図7のうち(A)に示す例では、補強部材40をボルト39の軸方向に分離した2つの部材で構成している。両部材とも、カラー40aとワッシャ部40bを有している。2つの部材は同一形態になっている。
【0045】
図7のうち(B)に示す実施形態では、カラー40aとワッシャ部40bとを別部材に構成して、接着剤等によって一体に接合している。カラー40aは、ワッシャ部40bの内周部に当接している。従って、カラー40aに作用した軸方向の外力は、ワッシャ部40bを介してチェーンカバー8で支持される。
【0046】
図7のうち(C)に示す実施形態では、補強部材40は硬質合成樹脂製であり、カラー40aの外周に山形の環状係合突起42を一体に形成して、環状係合突起42を補強体34に強制的に嵌合させている。この場合、吸音性本体33を補強体34にインサート成形する前の段階で予め補強部材40を補強体34に装着しておいてもよいし、補強体34に吸音性本体33をインサート成形してから、吸音性本体33の一部を圧縮変形させて、補強部材40を補強体34に強制嵌合してもよい。
【0047】
(4).まとめ
本実施形態は以上の構成であり、エンジンの前面の広い範囲がカバー30で覆われているため、クランクプーリ9や補機駆動ベルト10,11などの部材が、飛び石等の異物や雨、雪から保護される。また、カバー30はその全体が硬質ウレタンより成る吸音性本体33で構成されているため、クランクプーリ9の回転や補機駆動ベルト10,11の周回に起因した騒音が車外及び車内に伝わることを著しく抑制できる。回転センサ用の円板をチェーンカバー8の手前に配置している場合、これをカバー30で保護することもできる。カム軸とクランク軸1との同期関係を検査するためのタイミングマークの保護も成される。
【0048】
また、カバー30はトレー状の形態であるため、曲がりや捩じりに対して高い抵抗を発揮するが、適度の幅を有する帯状の補強体34が心材の役割を果たすため、壁部32を有するトレー状の形態であることと相まって、堅牢性を格段に向上できる。この場合、補強体34はその大部分が吸音性本体33の前面に位置しているため、吸音性本体33による吸音性能が補強体34によって阻害されることはない。すなわち、吸音性本体33の吸音性能を阻害することなくカバー30の剛性を向上できる。
【0049】
また、吸音性本体33を構成する硬質ウレタンは、硬質合成樹脂や金属板に比べると曲げやせん断等の強度は低く、従って、吸音性本体33をボルト39で直接固定すると、極めて多数の箇所で固定しないと必要な締結強度を確保できないが、本実施形態では、締結部35~38が補強体34に形成されているため、吸音性本体33に負荷がかかることはなくて、高い取り付け強度を保持できる。
【0050】
この場合、各補強部材40がカラー40aを有するため、吸音性本体33を締結部35~38まで広げつつ、ボルト39の軸力が吸音性本体33に作用することを防止でき、かつ、各補強部材40がワッシャ部40bを有するため、ボルトの軸力が補強体34に直接作用することも防止できるため、吸音性本体33及び補強体34に応力が集中することを防止できる。
【0051】
従って、4か所だけの締結部35~38であるが、カバー30の振動によって締結部35~38に負荷が作用しても、吸音性本体33の破断や補強体34の破断は発生せずに、高い取り付け強度・耐久性を確保できる。
【0052】
実施形態のように補強体34を十字状に形成してその先端部に締結部35~38を設けると、菱形の各頂点部を締結する状態になるため、締結部35~38を最小限度にしつつ高い締結強度を確保できる。また、補強体34は帯板状であって吸音性本体33は広い面積で補強体34に接合しているため、カバー30が振動しても吸音性本体33の剥離が生じるような不具合は生じない。
【0053】
本実施形態のカバー30は、特許文献1,2のようなアンダーカバーと併用することも可能であるが、エンジンの前面のみを本実施形態のカバー30で覆うと、エンジンの下方での熱の籠もりを防止できる利点がある。
【0054】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、カバーの形状はエンジンの仕様に応じて適宜変更できる。適用対象たるエンジンはスラント型には限らず、シリンダボア軸線を概ね鉛直姿勢にした直列縦型エンジンや、縦置きV型エンジンなどにも適用できる。カバーは、その一部をシリンダブロックやシリンダヘッドに締結することも可能である。
【0055】
吸音性本体をグラスウールのような無機材で構成して、これを樹脂製等のシェル体に接着することも可能である。吸音材としては無機材等の不織布も使用可能である。棒状ファスナとしては、ボルトには限らず、打ち込み式のリベットなども使用できる。補強体は、合成樹脂や金属板の他に、炭素繊維等の繊維からなる織地又は編地をシート状に固めたものなども使用できる。合成樹脂にタルクを混入した複合材なども使用できる。
【0056】
実施形態では締結部をフランジ状に形成したが、締結部を筒形ボス状に形成して、カバーの外周の内側に配置することも可能である。この場合、筒形のボス部に金属製等のカラーを装着すると、座屈を防止できて好適である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本願発明は、自動車用エンジンのカバーに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 クランク軸
2 シリンダボア軸線
3 シリンダブロック
4 シリンダヘッド
5 ヘッドカバー
6 上部オイルパン
7 下部オイルパン
8 チェーンカバー
9 クランクプーリ
10、11 補機駆動ベルト
12 エアコン用コンプレッサのプーリ
15 オルタネータのプーリ
30 カバー
32 壁部
33 吸音性本体
34 補強体
34a 縦長部34a
34b 横長部34b
35~38 締結部
39 ボルト
40 補強部材
40a カラー
40b ワッシャ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7