(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】放射線検出装置および試料分析装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/17 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
G01T1/17 F
(21)【出願番号】P 2021168129
(22)【出願日】2021-10-13
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 元気
(72)【発明者】
【氏名】宮武 耕志
(72)【発明者】
【氏名】柳原 孝太
(72)【発明者】
【氏名】磯部 竜一
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-137329(JP,A)
【文献】特開平10-197643(JP,A)
【文献】特開平08-028981(JP,A)
【文献】特開平01-225229(JP,A)
【文献】特開2015-064277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出する検出器と、
前記検出器の出力信号を微分して第1パルス信号に変換する第1微分フィルターと、
前記第1微分フィルターよりも大きい時定数を有し、前記検出器の出力信号を微分して第2パルス信号に変換する第2微分フィルターと、
前記第1パルス信号のピークのタイミングと前記第2パルス信号のピークのタイミングの差に基づいて、ノイズを検知するノイズ検知部と、
を含む、放射線検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記ノイズ検知部は、前記第1パルス信号のピークのタイミングと前記第2パルス信号のピークのタイミングとの差と、前記第1微分フィルターの時定数と前記第2微分フィルターの時定数の差を比較して、ノイズを検知する、放射線検出装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記ノイズ検知部は、さらに、前記第1パルス信号のピーク強度と前記第2パルス信号のピーク強度に基づいて、ノイズを検知する、放射線検出装置。
【請求項4】
X線を検出する検出器と、
前記検出器の出力信号を微分して第1パルス信号に変換する第1微分フィルターと、
前記第1微分フィルターよりも大きい時定数を有し、前記検出器の出力信号を微分して第2パルス信号に変換する第2微分フィルターと、
前記第1パルス信号のピーク強度
α0と前記第2パルス信号のピーク強度
α1に基づいて、ノイズを検知するノイズ検知部と、
を含
み、
前記ノイズ検知部は、α1/α0<D(0<D<1)を満たした場合にノイズと判定する、放射線検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか1項において、
前記第1微分フィルターおよび前記第2微分フィルターよりも大きい時定数を有し、前記検出器の出力信号を微分してメインパルス信号を出力するメインフィルターと、
前記第1パルス信号に基づいて、イベント信号を出力するイベント検知部と、
前記イベント信号に基づいて前記メインパルス信号の波高値の検出を開始し、前記波高値の情報を含む信号を出力する波高値検出部と、
を含む、放射線検出装置。
【請求項6】
請求項1ないし
3のいずれか1項において、
前記検出器の出力信号は、前記放射線のエネルギーに相当する高さの段差を有する階段波である、放射線検出装置。
【請求項7】
請求項4において、
前記検出器の出力信号は、前記X線のエネルギーに相当する高さの段差を有する階段波である、放射線検出装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の放射線検出装置を含む、試料分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出装置および試料分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出装置は、X線やγ線等の放射線を検出するための装置である。放射線検出装置として、X線を検出するためのX線検出装置が知られている。
【0003】
X線検出装置としては、エネルギー分散型X線検出装置(Energy Dispersive X-ray
Spectroscopy、EDS)や、波長分散型X線検出装置(Wavelength-Dispersive X-ray Spectroscopy、WDS)が知られている。
【0004】
エネルギー分散型X線検出装置は、試料から放出されたX線を半導体検出器で検出し、電気信号に変えて分光分析する。このようなX線検出装置では、ノイズがX線による信号と判断され、試料に含まれない元素に対応するピークが観測されるという問題がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、X線検出器が出力した階段波を微分フィルターで微分して得られたパルス信号において、ノイズのピークの幅がX線信号のピークの幅よりも小さいことを利用してノイズを検出するノイズイベント検出部を備えたX線検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
X線検出装置では、ノイズとX線信号を効果的に判別することが望まれている。特に低エネルギーのX線は、検出効率が悪く小さいピークしか得られない場合が多い。そのため、X線スペクトルにおいて、低エネルギーのX線のピークがノイズのピークと重なってピークとして識別できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る放射線検出装置の一態様は、
放射線を検出する検出器と、
前記検出器の出力信号を微分して第1パルス信号に変換する第1微分フィルターと、
前記第1微分フィルターよりも大きい時定数を有し、前記検出器の出力信号を微分して第2パルス信号に変換する第2微分フィルターと、
前記第1パルス信号のピークのタイミングと前記第2パルス信号のピークのタイミングの差に基づいて、ノイズを検知するノイズ検知部と、
を含む。
【0009】
このような放射線検出装置では、ノイズ検知部が第1パルス信号のピークのタイミングと第2パルス信号のピークのタイミングの差に基づいてノイズを検知するため、ノイズとX線信号を効果的に判別できる。
【0010】
本発明に係る放射線検出装置の一態様は、
X線を検出する検出器と、
前記検出器の出力信号を微分して第1パルス信号に変換する第1微分フィルターと、
前記第1微分フィルターよりも大きい時定数を有し、前記検出器の出力信号を微分して第2パルス信号に変換する第2微分フィルターと、
前記第1パルス信号のピーク強度α0と前記第2パルス信号のピーク強度α1に基づいて、ノイズを検知するノイズ検知部と、
を含み、
前記ノイズ検知部は、α1/α0<D(0<D<1)を満たした場合にノイズと判定する。
【0011】
このような放射線検出装置では、ノイズ検知部が第1パルス信号のピーク強度と第2パルス信号のピーク強度に基づいてノイズを検知するため、ノイズとX線信号を効果的に判別できる。
【0012】
本発明に係る試料分析装置の一態様は、
上記放射線検出装置を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係るX線検出装置の構成を示す図。
【
図2】X線検出器の出力信号の一例を模式的に示す図
【
図8】時定数の異なる3つの微分フィルターの出力信号を示す図。
【
図9】時定数の異なる3つの微分フィルターの出力信号を示す図。
【
図12】ピークタイミング検知部の処理を説明するための図。
【
図13】X線検出装置の信号処理回路の処理を説明するための図。
【
図15】第2実施形態に係るX線検出装置の構成を示す図。
【
図16】時定数の異なる3つの微分フィルターの出力信号を示す図。
【
図17】時定数の異なる3つの微分フィルターの出力信号を示す図。
【
図20】ピーク強度比較部の処理を説明するための図。
【
図21】X線検出装置の信号処理回路の処理を説明するための図。
【
図22】第3実施形態に係るX線検出装置の構成を示す図。
【
図23】第4実施形態に係る試料分析装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0015】
1. 第1実施形態
1.1. X線検出装置の構成
まず、第1実施形態に係るX線検出装置の構成について、図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係るX線検出装置100の構成を示す図である。
【0016】
X線検出装置100は、
図1に示すように、X線検出器2と、信号処理回路4と、スペ
クトル生成処理部6と、を含む。
【0017】
X線検出器2は、X線を検出する。X線検出器2は、エネルギー分散型の検出器である。X線検出器2は、例えば、Si(Li)検出器、シリコンドリフト検出器(Silicon Drift Detector、SDD)等の半導体検出器である。X線検出器2の出力は、例えば、増幅器で増幅されて出力される。
【0018】
図2は、X線検出器2の出力信号S2の一例を模式的に示す図である。なお、
図2では、縦方向(高さ方向)がX線のエネルギーに対応し、横方向が時間に対応している。
【0019】
X線検出器2は、X線を検出して、X線のエネルギーに相当する高さの段差を有する階段波を出力する。
図2に示す例では、X線検出器2は、高さH1に相当するエネルギーを持つX線、および高さH2に相当するエネルギーを持つX線をこの順で検出して、高さH1の段差および高さH2の段差を有する出力信号S2を出力する。
【0020】
X線検出器2の出力信号S2は、
図1に示すように、信号処理回路4に入力される。X線検出器2の出力信号S2は、メインフィルター10、イベント検知フィルター20、およびノイズ検知フィルター30に入力される。
【0021】
信号処理回路4は、メインフィルター10と、波高値検出部12と、イベント検知フィルター20(第1微分フィルターの一例)と、ノイズ検知フィルター30(第2微分フィルターの一例)と、イベント検知部40と、ノイズ検知部50と、を含む。
【0022】
メインフィルター10は、X線検出器2の出力信号S2を微分(1次微分)して、メインパルス信号S10に変換する。メインパルス信号S10は、出力信号S2の段差の高さに応じた高さ(波高値)のピークを有するパルス信号である。
【0023】
図3は、メインパルス信号S10の一例を模式的に示す図である。
【0024】
図3に示すメインパルス信号S10のピークP1の波高値P1maxは、
図2に示す出力信号S2の段差の高さH1に対応している。また、
図3に示すメインパルス信号S10のピークP2の波高値P2maxは、
図2に示す出力信号S2の段差の高さH2に対応している。メインフィルター10は、時定数(微分時定数)Tを有する微分フィルターである。
【0025】
イベント検知フィルター20は、X線検出器2の出力信号S2を微分(1次微分)して、第1パルス信号S20に変換する。第1パルス信号S20は、出力信号S2の段差の高さに応じた高さ(波高値)のピークを有するパルス信号である。
【0026】
図4は、第1パルス信号S20の一例を模式的に示す図である。
【0027】
図4に示す第1パルス信号S20のピークA1の波高値A1maxは、
図2に示す出力信号S2の段差の高さH1に対応している。また、
図4に示す第1パルス信号S20のピークA2の波高値A2maxは、
図2に示す出力信号S2の段差の高さH2に対応している。イベント検知フィルター20は、メインフィルター10の時定数Tよりも小さい時定数Tiを有する微分フィルターである。
【0028】
ノイズ検知フィルター30は、X線検出器2の出力信号S2を微分(1次微分)して、第2パルス信号S30に変換する。第2パルス信号S30は、出力信号S2の段差の高さに応じた高さ(波高値)のピークを有するパルス信号である。
【0029】
図5は、第2パルス信号S30の一例を模式的に示す図である。
【0030】
図5に示す第2パルス信号S30のパルスB1の波高値B1maxは、
図2に示す出力信号S2の段差の高さH1に対応している。また、
図5に示す第2パルス信号S30のパルスB2の波高値B2maxは、
図2に示す出力信号S2の段差の高さH2に対応している。ノイズ検知フィルター30は、メインフィルター10の時定数Tよりも小さく、イベント検知フィルター20の時定数Tiよりも大きい時定数Tnを有する微分フィルターである。
【0031】
イベント検知部40は、X線検出器2でX線が検出されるごとに1つのイベント信号を発生させる。イベント検知部40は、第1パルス信号S20が閾値を超えるとイベント信号S40を発生させる。イベント検知部40は、比較器42と、立ち上がり検出部44と、を含む。
【0032】
比較器42は、第1パルス信号S20と基準信号(閾値TH2)を比較する。立ち上がり検出部44は、比較器42の出力信号の立ち上がりを検出する。
【0033】
図6は、イベント検知部40の処理を説明するための図である。
【0034】
比較器42は、第1パルス信号S20が閾値TH2を超えた場合に「High」レベルとなり、第1パルス信号S20が閾値TH2以下のときに「Low」レベルとなる出力信号S42を出力する。閾値TH2は、任意の値に設定可能である。
【0035】
立ち上がり検出部44は、比較器42の出力信号S42の立ち上がりを検出する。立ち上がり検出部44は、
図6に示すように、比較器42の出力信号S42が立ち上がるとイベント信号S40を発生させる。イベント信号S40は、例えば、所定のパルス信号である。
図6に示す例では、立ち上がり検出部44は、ピークA1に対応するイベント信号S40-1、およびピークA2に対応するイベント信号S40-2を発生させる。
【0036】
波高値検出部12は、イベント信号S40に基づいて、メインパルス信号S10の波高値の検出を開始し、メインパルス信号S10の波高値の情報を含む検出信号S12を出力する。
【0037】
図7は、波高値検出部12の処理を説明するための図である。
【0038】
波高値検出部12は、
図7に示すように、イベント信号S40が入力されると、メインパルス信号S10の波高値の検出を開始する。波高値検出部12は、検出を開始してから検出時間L1内におけるメインパルス信号S10の波高値(最大値)を検出する。検出時間L1は、メインフィルター10の時定数Tに応じて設定される。
図7に示す例では、1つ目のイベント信号S40-1が発生したときに、波高値検出部12は、ピークP1の波高値P1maxの検出を開始し、2つ目のイベント信号S40-2が発生したときに、ピークP2の波高値P2maxの検出を開始する。
【0039】
ノイズ検知部50は、ノイズを検知する。すなわち、ノイズ検知部50では、ノイズとX線信号を識別する。
【0040】
図6に示すように、イベント検知部40では、閾値TH2を超えるとイベント信号S40を発生させる。第1パルス信号S20の波高値は、X線のエネルギーの大きさに比例するため、例えば100eV以下の低エネルギーのX線を検出するためには、閾値TH2を
低く設定する必要がある。しかしながら、閾値TH2を低く設定すると、ノイズも閾値TH2を超えてしまうため、イベント検知部40ではノイズまでイベントとして検知してしまう。そのため、X線検出装置100では、ノイズ検知部50において、ノイズを検知する。以下、ノイズを検知する手法について説明する。
【0041】
図8および
図9は、時定数の異なる3つの微分フィルターの出力信号を示す図である。ここでは、時定数が3μsの微分フィルター、時定数が9μsの微分フィルター、時定数が12.8μsの微分フィルターを用いた。なお、
図8は、X線信号を微分した結果であり、
図9は、ノイズを微分した結果である。
【0042】
図8に示すように、X線信号を微分した場合、微分フィルターの出力信号のピークのタイミングの差は、微分フィルターの時定数の差に一致する。例えば、時定数が3μsの微分フィルターのピークのタイミングと時定数が9μsの微分フィルターのピークのタイミングの差は、6μsである。また、時定数が3μsの微分フィルターのピークのタイミングと時定数が12.8μsの微分フィルターのピークのタイミングの差は、9.8μsである。
【0043】
これに対して、
図9に示すように、ノイズを微分した場合、微分フィルターの出力信号のピークのタイミングの差は、微分フィルターの時定数の差からずれる場合がある。
【0044】
このように、ノイズとX線信号とは、時定数の異なる微分フィルターの出力信号のピークのタイミングの差によって判別できる。
【0045】
ノイズ検知部50では、イベント信号S40が発生したタイミングを起点として、第1パルス信号S20のピークのタイミングおよび第2パルス信号S30のピークのタイミングを計測する。そして、ノイズ検知部50は、第1パルス信号S20のピークのタイミングと第2パルス信号S30のピークのタイミングの差と、イベント検知フィルター20の時定数とノイズ検知フィルター30の時定数の差に基づいて、ノイズを検知する。
【0046】
ノイズ検知部50は、
図1に示すように、ピークホールド回路52aと、ピークホールド回路52bと、メモリ53aと、メモリ53bと、タイムカウンター54と、ピークタイミング検知部56と、ノイズ除去処理部58と、を含む。
【0047】
図10および
図11は、ノイズ検知部50の処理を説明するための図である。なお、
図10は、X線信号の処理を示し、
図11は、ノイズの処理を示している。
【0048】
イベント検知フィルター20は、X線検出器2の出力信号S2を微分して第1パルス信号S20に変換する。
【0049】
ピークホールド回路52aは、第1パルス信号S20が閾値TH2を超えてイベント信号S40が発生したタイミングで、第1パルス信号S20のピーク(最大値)の検出を開始する。タイムカウンター54は、イベント信号S40が発生したときから第1パルス信号S20のピークが検出されるまでの時間の計測を開始する。メモリ53aには、タイムカウンター54で計測された第1パルス信号S20のピーク(最大値)のタイミングT0、すなわち、第1パルス信号S20が閾値TH2を超えてから第1パルス信号S20のピークが検出されるまでの時間が記憶される。
【0050】
ピークホールド回路52bは、第1パルス信号S20が閾値TH2を超えてイベント信号S40が発生したタイミングで、第2パルス信号S30のピーク(最大値)の検出を開始する。タイムカウンター54は、イベント信号S40が発生したときからピークが検出
されるまでの時間の計測を開始する。メモリ53bには、タイムカウンター54で計測された第2パルス信号S30のピーク(最大値)のタイミングT1、すなわち、第1パルス信号S20が閾値TH2を超えてから第2パルス信号S30のピークが検出されるまでの時間が記憶される。
【0051】
図12は、ピークタイミング検知部56の処理を説明するための図である。
【0052】
イベント検知フィルター20の時定数をTiとし、ノイズ検知フィルター30の時定数をTnとする。このとき、X線信号の場合、タイミングT1とタイミングT0の差T1-T0の値は、時定数Tnと時定数Tiの差Tn-Tiの値とほぼ一致する。これに対して、ノイズの場合、差Ti-T0の値は、必ずしも差Tn-Tiの値と一致しない。
【0053】
そのため、差Tn-Tiを基準として一定の範囲±aを設定し、その範囲から外れたイベントはノイズであると判断する。すなわち、ピークタイミング検知部56は、差T1-T0が(Tn-Ti)-a以上(Tn-Ti)+a以下の範囲に含まれているか否かを判定する。ピークタイミング検知部56は、差T1-T0がこの範囲に含まれていると判定した場合には、ノイズイベント信号S56を出力しない。また、ピークタイミング検知部56は、差T1-T0がこの範囲に含まれていないと判定した場合には、ノイズイベント信号S56を出力する。ノイズイベント信号S56は、イベントがノイズによって発生したことを特定するための信号である。
【0054】
なお、許容範囲を決めるaの値は、適宜設定可能である。aの値が小さいほどノイズを判別することができるが、aの値が小さすぎると、X線信号もノイズと判定してしまう可能性が高くなる。
【0055】
ノイズ除去処理部58は、ピークタイミング検知部56がノイズイベント信号S56を出力しない場合には、波高値検出部12で検出された波高値の情報を含む検出信号S12をスペクトル生成処理部6に出力する。ノイズ除去処理部58は、ピークタイミング検知部56がノイズイベント信号S56を出力した場合には、波高値検出部12で検出された波高値の情報を含む検出信号S12をスペクトル生成処理部6に出力しない。
【0056】
スペクトル生成処理部6は、波高値の情報を含む検出信号S12が入力されると、該波高値の値に応じて弁別してそれぞれ計数し、横軸が波高値、すなわち、X線のエネルギー、縦軸がカウント数となるX線スペクトル(エネルギースペクトル、波高分布図)を作成する。スペクトル生成処理部6の機能は、例えば、パーソナルコンピューター(PC)等で実現することができる。
【0057】
なお、上記では、信号処理回路4が1つのノイズ検知フィルター30を有している場合について説明したが、信号処理回路4が互いに時定数の異なる複数のノイズ検知フィルター30を有していてもよい。この場合、ノイズ検知部50では、各ノイズ検知フィルター30ごとに、第1パルス信号S20のピークのタイミングと第2パルス信号S30のピークのタイミングとの差を計算してノイズを検知してもよい。
【0058】
1.2. X線検出装置の動作
図13は、X線検出装置100の信号処理回路4の処理を説明するための図である。
【0059】
X線検出器2にX線が入射すると、X線検出器2の出力信号S2には、X線のエネルギーに応じた段差が現れる。
【0060】
メインフィルター10、イベント検知フィルター20、およびノイズ検知フィルター3
0は、それぞれ出力信号S2を微分する。これにより、メインパルス信号S10にはピークP10が現れ、第1パルス信号S20にはピークP11が現れ、第2パルス信号S30にはピークP12が現れる。
【0061】
イベント検知部40では、第1パルス信号S20の強度が閾値TH2を超えて時刻t1にイベント信号S40aが発生する。イベント信号S40aが発生したタイミングで、ピークホールド回路52aが第1パルス信号S20の最大値の検出を開始し、ピークホールド回路52bが第2パルス信号S30の最大値の検出を開始し、タイムカウンター54が、最大値が検出されるタイミングの計測を開始する。メモリ53aには、タイムカウンター54で計測された第1パルス信号S20のピーク(最大値)のタイミングT0が記憶され、メモリ53bには第2パルス信号S30のピーク(最大値)のタイミングT1が記憶される。
【0062】
ピークタイミング検知部56は、タイミングT1とタイミングT0の差を計算し、差T1-T0が(Tn-Ti)-a以上(Tn-Ti)+a以下の範囲に含まれているか否かを判定する。時刻t1に発生したイベントでは、差T1-T0がこの範囲に含まれているため、ピークタイミング検知部56は、ノイズイベント信号S56を出力しない。
【0063】
波高値検出部12は、イベント信号S40aが発生したタイミングで、メインパルス信号S10の波高値の検出を開始し、検出時間L1だけ波高値の検出を行い、メインパルス信号S10の波高値P10maxの情報を含む検出信号S12を出力する。ノイズ除去処理部58は、ノイズイベント信号S56が入力されないため、波高値P10maxの情報を含む検出信号S12をスペクトル生成処理部6に出力する。これにより、スペクトル生成処理部6に、ピークP10の波高値P10maxの情報が送られる。
【0064】
次に、X線検出器2の出力信号S2にノイズが生じた場合の動作について説明する。メインフィルター10、イベント検知フィルター20、およびノイズ検知フィルター30は、それぞれ出力信号S2を微分する。これにより、メインパルス信号S10にはピークP20が現れ、第1パルス信号S20にはピークP21が現れ、第2パルス信号S30にはピークP22が現れる。
【0065】
イベント検知部40では、第1パルス信号S20の強度が閾値TH2を超えて、時刻t2にイベント信号S40bが発生する。イベント信号S40bが発生したタイミングで、ピークホールド回路52aが第1パルス信号S20の最大値の検出を開始し、ピークホールド回路52bが第2パルス信号S30の最大値の検出を開始し、タイムカウンター54が、最大値が検出されるタイミングの計測を開始する。メモリ53aには、タイムカウンター54で計測された第1パルス信号S20のピークのタイミングT0が記憶され、メモリ53bには第2パルス信号S30のピークのタイミングT1が記憶される。
【0066】
ピークタイミング検知部56は、差T1-T0を計算し、差T1-T0が(Tn-Ti)-a以上(Tn-Ti)+a以下の範囲に含まれているか否かを判定する。時刻t2に発生したイベントでは、差T1-T0がこの範囲に含まれないため、ピークタイミング検知部56は、ノイズイベント信号S56を出力する。
【0067】
波高値検出部12は、イベント信号S40bが発生したタイミングで、メインパルス信号S10の波高値の検出を開始し、検出時間L1だけ波高値の検出を行い、メインパルス信号S10の波高値P20maxの情報を含む検出信号S12を出力する。ノイズ除去処理部58には、ノイズイベント信号S56が入力されるため、ノイズ除去処理部58は、検出信号S12をスペクトル生成処理部6に出力しない。したがって、スペクトル生成処理部6に、ピークP20の波高値P20maxの情報が送られない。
【0068】
時刻t3に発生したイベントについても同様の処理が行われ、メインフィルター10、イベント検知フィルター20、およびノイズ検知フィルター30は、それぞれ出力信号S2を微分する。これにより、メインパルス信号S10にはピークP30が現れ、第1パルス信号S20にはピークP31が現れ、第2パルス信号S30にはピークP32が現れる。時刻t3に発生したイベント(イベント信号S40c)では、差T1-T0が(Tn-Ti)-a以上(Tn-Ti)+a以下の範囲に含まれているため、ピークタイミング検知部56は、ノイズイベント信号S56を出力しない。そのため、スペクトル生成処理部6に、ピークP30の波高値P30maxの情報が送られる。
【0069】
上述した処理を繰り返すことにより、スペクトル生成処理部6には、ノイズ検知部50でX線信号によって生じたイベントと判定された場合のみ、信号処理回路4から波高値の情報が送られる。これにより、スペクトル生成処理部6では、ノイズの影響が低減されたスペクトルを生成できる。
【0070】
1.3. 効果
X線検出装置100は、X線検出器2と、X線検出器2の出力信号S2を微分して第1パルス信号S20に変換するイベント検知フィルター20と、イベント検知フィルター20よりも大きい時定数を有し、X線検出器2の出力信号S2を微分して第2パルス信号S30に変換するノイズ検知フィルター30と、第1パルス信号S20のピークのタイミングT0と第2パルス信号S30のピークのタイミングT1との差T1-T0に基づいてノイズを検知するノイズ検知部50と、を含む。そのため、X線検出装置100では、ノイズとX線信号を効果的に判別できる。
【0071】
例えば、エネルギーの低いX線を検出する場合、イベント検知フィルター20において
図6に示す閾値TH2を低く設定しなければならない。しかしながら、閾値TH2を低く設定すると、イベント検知フィルター20では、小さなノイズでもイベントとして検知してしまう。そのため、X線検出装置100では、ノイズ検知部50が差T1-T0に基づいてノイズを検知する。この結果、閾値TH2を低く設定しても、X線スペクトルにおいてノイズの影響を低減できる。
【0072】
図14は、X線検出装置100で取得したX線スペクトルである。
図14には、X線検出装置100で取得したX線スペクトルを実線で示している。
図14には、比較例として、ノイズ検知部50を有さないX線検出装置で得られたX線スペクトルを破線で示している。
【0073】
図14に示すように、X線検出装置100では、低エネルギーに現れるノイズに起因するピークを低減できる。したがって、X線検出装置100では、低エネルギーのX線ピークを識別しやすくでき、低エネルギーのX線の感度を向上できる。
【0074】
X線検出装置100では、ノイズ検知部50は、第1パルス信号S20のピークのタイミングT0と第2パルス信号S30のピークのタイミングT1との差T1-T0と、イベント検知フィルター20の時定数Tiとノイズ検知フィルター30の時定数Tnの差Tn-Tiを比較して、ノイズを検知する。上述したように、X線信号の場合、差T1-T0は差Tn-Tiとほぼ一致し、ノイズの場合、差T1-T0は差Tn-Tiは一致しない。したがって、ノイズ検知部50では、ノイズを正確に検知できる。
【0075】
2. 第2実施形態
2.1. X線検出装置の構成
次に、第2実施形態に係るX線検出装置について、図面を参照しながら説明する。
図1
5は、第2実施形態に係るX線検出装置200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係るX線検出装置200において、第1実施形態に係るX線検出装置100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0076】
上述したX線検出装置100では、ノイズ検知部50は、第1パルス信号S20のピークのタイミングT0と第2パルス信号S30のピークのタイミングT1の差T1-T0に基づいてノイズを検知した。
【0077】
これに対して、X線検出装置200では、ノイズ検知部50は、第1パルス信号S20のピーク強度と第2パルス信号S30のピーク強度に基づいてノイズを検知する。
【0078】
まず、ノイズ検知部50において、ノイズを検知する手法について説明する。
図16および
図17は、時定数の異なる3つの微分フィルターの出力信号を示す図である。ここでは、時定数がTAの微分フィルター、時定数がTBの微分フィルター、時定数がTCの微分フィルターを用いた。ただし、TA<TB<TCである。なお、
図16は、X線信号を微分した結果であり、
図17は、ノイズを微分した結果である。
【0079】
図16に示すように、X線信号を微分した場合、微分フィルターの出力信号のピーク強度は、時定数の大きさによらずほぼ一定となる。これに対して、
図17に示すように、ノイズを微分した場合、微分フィルターの出力信号のピーク強度は、時定数の大きさに応じて変化する。具体的には、ピーク強度は、時定数が大きくなるほど低くなる傾向がある。
【0080】
このように、ノイズとX線信号は、時定数の異なる微分フィルターの出力信号のピーク強度によって判別できる。
【0081】
ノイズ検知部50は、第1パルス信号S20のピーク強度と第2パルス信号S30のピーク強度に基づいて、ノイズを検知する。
【0082】
ノイズ検知部50は、
図15に示すように、ピークホールド回路52aと、ピークホールド回路52bと、ピーク強度比較部59と、ノイズ除去処理部58と、を含む。
【0083】
図18および
図19は、ノイズ検知部50の処理を説明するための図である。なお、
図18は、X線信号の処理を示し、
図19は、ノイズの処理を示している。
【0084】
イベント検知フィルター20は、
図18および
図19に示すように、X線検出器2の出力信号S2を微分して第1パルス信号S20に変換する。
【0085】
ピークホールド回路52aは、第1パルス信号S20が閾値TH2を超えてイベント信号S40が発生したタイミングで、第1パルス信号S20のピーク強度(最大値)の検出を開始する。ピークホールド回路52aは、一定期間、第1パルス信号S20のピーク強度α0の情報を出力する。
【0086】
ピークホールド回路52bは、第1パルス信号S20が閾値TH2を超えてイベント信号S40が発生したタイミングで、第2パルス信号S30のピーク強度(最大値)の検出を開始する。ピークホールド回路52bは、一定期間、第2パルス信号S30のピーク強度α1の情報を出力する。
図18に示すX線信号の場合、第1パルス信号S20のピーク強度α1と第2パルス信号S30のピーク強度α0との強度比α1/α0は、約1となる。
図19に示すノイズの場合、強度比α1/α0は、1よりも小さくなる。
【0087】
図20は、ピーク強度比較部59の処理を説明するための図である。
【0088】
ピーク強度比較部59は、第1パルス信号S20のピーク強度α0に対する第2パルス信号S30のピーク強度α1の強度比α1/α0を計算し、強度比α1/α0と閾値Dを比較する。ピーク強度比較部59は、強度比α1/α0が閾値D未満の場合にノイズイベント信号S59を出力し、比α1/α0が閾値D以上の場合にノイズイベント信号S59を出力しない。
【0089】
なお、閾値Dは、適宜設定可能である。閾値Dの値が大きいほどノイズを判別することができるが、閾値Dの値が大きすぎると、X線信号もノイズと判定してしまう可能性が高くなる。
【0090】
上記では、信号処理回路4が1つのノイズ検知フィルター30を有している場合について説明したが、信号処理回路4が互いに時定数の異なる複数のノイズ検知フィルター30を有していてもよい。この場合、ノイズ検知部50では、各ノイズ検知フィルター30ごとに、第1パルス信号S20のピーク強度α0と第2パルス信号S30のピーク強度α1との強度比α1/α0を計算してノイズを検知してもよい。
【0091】
2.2. X線検出装置の動作
図21は、X線検出装置200の信号処理回路4の処理を説明するための図である。
【0092】
X線検出器2にX線が入射すると、X線検出器2の出力信号S2には、X線のエネルギーに応じた段差が現れる。
【0093】
メインフィルター10、イベント検知フィルター20、およびノイズ検知フィルター30は、それぞれ出力信号S2を微分する。これにより、メインパルス信号S10にはピークP10が現れ、第1パルス信号S20にはピークP11が現れ、第2パルス信号S30にはピークP12が現れる。
【0094】
イベント検知部40では、第1パルス信号S20の強度が閾値TH2を超えて時刻t1にイベント信号S40aが発生する。イベント信号S40aが発生したタイミングで、ピークホールド回路52aが第1パルス信号S20のピーク強度(最大値)α0の検出を開始し、ピークホールド回路52bが第2パルス信号S30のピーク強度α1の検出を開始する。ピークホールド回路52aは、一定期間、ピーク強度α0の情報を出力し、ピークホールド回路52bは、一定期間、ピーク強度α1の情報を出力する。
【0095】
ピーク強度比較部59は、第1パルス信号S20のピーク強度α0に対する第2パルス信号S30のピーク強度α1の強度比α1/α0を計算し、強度比α1/α0の値と閾値Dを比較する。時刻t1に発生したイベントでは、強度比α1/α0は閾値D以上であるため、ピーク強度比較部59は、ノイズイベント信号S59を出力しない。
【0096】
波高値検出部12は、イベント信号S40aが発生したタイミングで、メインパルス信号S10の波高値の検出を開始し、メインパルス信号S10の波高値P10maxの情報を含む検出信号S12を出力する。ノイズ除去処理部58は、ノイズイベント信号S59が入力されないため、波高値P10maxの情報を含む検出信号S12をスペクトル生成処理部6に出力する。これにより、スペクトル生成処理部6に、ピークP10の波高値P10maxの情報が送られる。
【0097】
次に、X線検出器2の出力信号S2にノイズが生じた場合の動作について説明する。メインフィルター10、イベント検知フィルター20、およびノイズ検知フィルター30は、それぞれ出力信号S2を微分する。これにより、メインパルス信号S10にはピークP
20が現れ、第1パルス信号S20にはピークP21が現れ、第2パルス信号S30にはピークP22が現れる。
【0098】
イベント検知部40では、第1パルス信号S20の強度が閾値TH2を超えて時刻t2にイベント信号S40bが発生する。イベント信号S40bが発生したタイミングで、ピークホールド回路52aが第1パルス信号S20のピーク強度α0の検出を開始し、ピークホールド回路52bが第2パルス信号S30のピーク強度α1の検出を開始する。
【0099】
ピーク強度比較部59は、強度比α1/α0を計算し、強度比α1/α0の値と閾値Dを比較する。時刻t2に発生したイベントでは、強度比α1/α0は閾値D未満であるため、ピーク強度比較部59は、ノイズイベント信号S59を出力する。
【0100】
波高値検出部12は、イベント信号S40bが発生したタイミングで、メインパルス信号S10の波高値の検出を開始し、メインパルス信号S10の波高値P20maxの情報を含む検出信号S12を出力する。ノイズ除去処理部58には、ノイズイベント信号S59が入力されるため、ノイズ除去処理部58は、検出信号S12をスペクトル生成処理部6に出力しない。したがって、スペクトル生成処理部6に、ピークP20の波高値P20maxの情報が送られない。
【0101】
時刻t3に発生したイベントについても同様の処理が行われ、メインフィルター10、イベント検知フィルター20、およびノイズ検知フィルター30は、それぞれ出力信号S2を微分する。これにより、メインパルス信号S10にはピークP30が現れ、第1パルス信号S20にはピークP31が現れ、第2パルス信号S30にはピークP32が現れる。時刻t3に発生したイベントでは、強度比α1/α0は閾値D以上であるため、ピーク強度比較部59は、ノイズイベント信号S59を出力しない。そのため、スペクトル生成処理部6に、ピークP30の波高値P30maxの情報が送られる。
【0102】
上述した処理を繰り返すことにより、スペクトル生成処理部6には、ノイズ検知部50でX線信号によって生じたイベントと判定された場合のみ、信号処理回路4から波高値の情報が送られる。これにより、スペクトル生成処理部6では、ノイズの影響が低減されたスペクトルを生成できる。
【0103】
2.3. 効果
X線検出装置200は、X線検出器2と、X線検出器2の出力信号S2を微分して第1パルス信号S20に変換するイベント検知フィルター20と、イベント検知フィルター20よりも大きい時定数を有し、X線検出器2の出力信号S2を微分して第2パルス信号S30に変換するノイズ検知フィルター30と、第1パルス信号S20のピーク強度α0と第2パルス信号S30のピーク強度α1に基づいて、ノイズを検知するノイズ検知部50と、を含む。そのため、X線検出装置200では、X線検出装置100と同様に、ノイズとX線信号を効果的に判別できる。
【0104】
3. 第3実施形態
次に、第3実施形態に係るX線検出装置について、図面を参照しながら説明する。
図22は、第3実施形態に係るX線検出装置300の構成を示す図である。以下、第3実施形態に係るX線検出装置300において、第1実施形態に係るX線検出装置100および第2実施形態に係るX線検出装置200の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0105】
X線検出装置300では、ノイズ検知部50は、第1パルス信号S20のピークのタイミングT0と第2パルス信号S30のピークのタイミングT1の差T1-T0に基づいて
ノイズを検知し、かつ、第1パルス信号S20のピーク強度α0に対する第2パルス信号S30のピーク強度α1の強度比α1/α0に基づいてノイズを検知する。
【0106】
ノイズ検知部50は、
図22に示すように、ピークホールド回路52aと、ピークホールド回路52bと、メモリ53aと、メモリ53bと、タイムカウンター54と、ピークタイミング検知部56と、ノイズ除去処理部58と、ピーク強度比較部59と、を含む。
【0107】
X線検出装置300では、ピークホールド回路52aは、検出したピーク強度(最大値)の情報を、メモリ53aとピーク強度比較部59に送る。また、ピークホールド回路52bは、検出したピーク強度の情報を、メモリ53bとピーク強度比較部59に送る。
【0108】
ノイズ除去処理部58は、ピークタイミング検知部56から出力されたノイズイベント信号S56およびピーク強度比較部59から出力されたノイズイベント信号S59を受け付ける。ノイズ除去処理部58は、ノイズイベント信号S56およびノイズイベント信号S59に基づいて、検出信号S12をスペクトル生成処理部6に出力するか否かを判断する。
【0109】
例えば、ノイズ除去処理部58は、ノイズイベント信号S56およびノイズイベント信号S59のうちの少なくとも一方が入力された場合に、ノイズと判定し検出信号S12を出力しなくてもよい。また、例えば、ノイズ除去処理部58は、ノイズイベント信号S56およびノイズイベント信号S59の両方が入力された場合に、ノイズと判定し検出信号S12を出力しなくてもよい。
【0110】
X線検出装置300では、X線検出装置100およびX線検出装置200と同様に、ノイズとX線信号を効果的に判別できる。
【0111】
4. 第4実施形態
次に、第4実施形態に係る試料分析装置400について、図面を参照しながら説明する。
図23は、第4実施形態に係る試料分析装置400の構成を示す図である。
【0112】
試料分析装置400は、蛍光X線分析法による分析を行うための装置である。蛍光X線分析法とは、試料Sに一次X線を照射し、一次X線の照射により試料Sから放射される二次X線を検出することで、試料Sの分析を行う手法である。
【0113】
試料分析装置400は、
図23に示すように、X線管402と、フィルター403と、一次X線コリメーター404と、試料支持板405と、二次X線コリメーター406と、X線検出装置100と、を含む。
【0114】
X線管402は、一次X線を発生させる。X線管402では、試料Sの材質や分析対象元素に応じて、管電圧および管電流が設定される。X線管402で発生したX線は、フィルター403および一次X線コリメーター404を介して、試料Sに照射される。
【0115】
フィルター403を通してX線を試料Sに照射することで、フィルター403に連続X線や特性X線の一部を吸収させることができ、それらの成分を除去することができる。試料分析装置400は、複数のフィルター403を備えており、複数のフィルター403は互いに低減できるエネルギー帯域が異なっていてもよい。測定対象元素に応じて複数のフィルター403から測定に用いられるフィルター403が選択される。
【0116】
一次X線コリメーター404は、試料Sに照射されるX線の照射領域を制限する。一次X線コリメーター404によって、照射領域の大きさを選択することができる。
【0117】
試料支持板405は、試料Sを支持している。試料支持板405には、開口が形成されており、当該開口を介して、一次X線が試料Sに照射される。
【0118】
二次X線コリメーター406は、試料Sから放射された二次X線の取得領域を制限する。二次X線コリメーター406を用いることで、目的の二次X線をX線検出装置100で効率よく検出することができる。ここで、二次X線とは、試料Sに一次X線を照射した際に、試料Sから放射されるX線をいう。
【0119】
X線検出装置100は、試料Sから放射された二次X線を検出する。X線検出装置100は、二次X線の検出結果に基づいて、X線スペクトルを生成する。
【0120】
試料分析装置400では、X線検出装置100を含むため、ノイズの影響を低減でき、低エネルギーのX線の感度を向上できる。
【0121】
なお、ここでは、本発明に係る試料分析装置が、X線を照射して試料からX線を発生させ、発生したX線を本発明に係る放射線検出装置で検出する蛍光X線分析装置である場合について説明したが、本発明に係る試料分析装置は、電子線やイオン等を照射して試料からX線やガンマ線を発生させ、発生したX線やガンマ線を本発明に係る放射線検出装置で検出する装置であってもよい。例えば、本発明に係る試料分析装置は、本発明に係る放射線検出装置を搭載した透過電子顕微鏡(TEM)、走査透過電子顕微鏡(STEM)、および走査電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)等であってもよい。
【0122】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0123】
2…X線検出器、4…信号処理回路、6…スペクトル生成処理部、10…メインフィルター、12…波高値検出部、20…イベント検知フィルター、30…ノイズ検知フィルター、40…イベント検知部、42…比較器、44…立ち上がり検出部、50…ノイズ検知部、52a…ピークホールド回路、52b…ピークホールド回路、53a…メモリ、53b…メモリ、54…タイムカウンター、56…ピークタイミング検知部、58…ノイズ除去処理部、59…ピーク強度比較部、100…X線検出装置、200…X線検出装置、300…X線検出装置、400…試料分析装置、402…X線管、403…フィルター、404…一次X線コリメーター、405…試料支持板、406…二次X線コリメーター