(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】車両のサスペンションシステムにおける劣化した性能の認識方法
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20231215BHJP
B60G 17/018 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
B60G17/015 A
B60G17/018
(21)【出願番号】P 2021506941
(86)(22)【出願日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 IB2019056763
(87)【国際公開番号】W WO2020031133
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】102018000008039
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】503336534
【氏名又は名称】マレッリ・サスペンション・システムズ・イタリー・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】MARELLI SUSPENSION SYSTEMS ITALY S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルテル・ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】ピエロ・アントニオ・コンティ
(72)【発明者】
【氏名】ファビオ・コット
(72)【発明者】
【氏名】ジョルダーノ・グレコ
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ・マルケッティ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ディ・ヴィットーリオ
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-109642(JP,A)
【文献】特開平09-193639(JP,A)
【文献】特開2004-316809(JP,A)
【文献】特開2003-267216(JP,A)
【文献】特開平06-048137(JP,A)
【文献】米国特許第07287760(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/015
B60G 17/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブサスペンションシステム又はセミアクティブサスペンションシステムにおける車両のショックアブソーバの減衰特性を推定するための方法であって、
前記アクティブサスペンションシステム又は前記セミアクティブサスペンションシステムは、
複数の調整可能な減衰するショックアブソーバを備えており、
前記ショックアブソーバは、減衰流体を含む圧力チャンバをそれぞれ有しており、
前記圧力チャンバの内側において、ピストンが摺動できて、
前記ピストンの位置が下方圧力チャンバと上方圧力チャンバを形成しており、
前記ショックアブソーバは、前記上方圧力チャンバと連動しているバイパスチャンバ、及び前記圧力チャンバと前記バイパスチャンバとの間の前記減衰流体の通過を制御するように構成されている少なくとも1つの制御バルブをそれぞれ有しており、
前記アクティブサスペンションシステム又は前記セミアクティブサスペンションシステムは、
前記車両のボディと、所定のショックアブソーバが関連しているそれぞれの車輪との間の相対加速度又は相対運動、及び前記ボディの加速度と運動を検出するためのセンサ手段と、
前記相対加速度又は前記相対運動を示す信号を受信するように構成されて、且つ前記ショックアブソーバの予め決められた減衰特性を得るため、前記ショックアブソーバの前記制御バルブの駆動信号を発するように構成されている電子的処理及び制御手段とを備えており、
前記方法は、
道路区間上を駆動する間において、前記車両の前記車輪により発生する垂直方向の加速度の値に
予め決められている解析関係により関連している道路深刻度指数、すなわちRSIと、前記ショックアブソーバの前記制御バルブの駆動力の大きさを示す量との間の公称の関係を示す参照モデルを与えるステップと、
前記車両の前記ボディに対する前記車両の少なくとも前輪のそれぞれの相対加速度又は速度のデータを得るステップと、
前記車両の前記ボディに対する前記車両の前記前輪の前記相対加速度又は速度のデータから始まる前記道路深刻度指数の値を定めるステップと、
それぞれの前記ショックアブソーバの前記制御バルブの前記駆動力の大きさを示す量の値を得るステップと、
少なくとも1つの前記ショックアブソーバに対して、得られた前記駆動力の大きさを示す前記量の前記値を、前記参照モデルに係る前記道路深刻度指数に応じて定まる公称駆動力の大きさを示す前記量の期待値と比較するステップと、
得られた前記駆動力の大きさを示す前記値が、前記公称駆動力の大きさの前記期待値と対応しないとき、前記ショックアブソーバの劣化状態を定めるステップとを備える、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ショックアブソーバの前記制御バルブの前記駆動力の大きさを示す前記量は、前記制御バルブの駆動電流を示す量であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ショックアブソーバの前記制御バルブの前記駆動電流を示す前記量は、予め決められた時間間隔における前記制御バルブの平均駆動電流であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記車両が不規則な表面における直線運動で移動する検証の動作状態において実行されることを特徴とする、請求項1、2、又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記車両の前記セミアクティブサスペンションシステムは、スカイフック制御モデルに基づくフィードバックにおいて計算される駆動電流により、前記ショックアブソーバの前記制御バルブを駆動することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記参照モデルは、異なる既知の特徴付けられている前記ショックアブソーバの劣化状態に対して、前記道路深刻度指数と前記ショックアブソーバの前記制御バルブの前記駆動力の大きさを示す前記量との間の複数の公称関係を示すことを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、
少なくとも1つの前記ショックアブソーバに対して、
得られた前記駆動力の大きさを示す前記量の前記値と前記公称駆動力の大きさを示す前記量の前記期待値との間の偏差を計算するステップと、
前記偏差が、送達できない駆動力の大きさの値に対応する最大偏差閾値を越えることを確認するステップとを備えており、
前記方法はまた、
前記偏差が前記最大偏差閾値を越えるとき、警報信号を発するステップと、
前記偏差が前記最大偏差閾値を越えないとき、前記ショックアブソーバの前記制御バルブの前記駆動力の大きさを変更するための補償信号を発するステップとを備えることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
得られた前記駆動力の大きさを示す前記量の前記値を、前記参照モデルに係る前記道路深刻度指数に応じて定まる前記公称駆動力の大きさを示す前記量の前記期待値と比較するステップは、異なる既知の特徴付けられている前記ショックアブソーバの劣化状態に関連して、前記道路深刻度指数と前記ショックアブソーバの前記制御バルブの前記駆動力の大きさを示す前記量との間の複数の公称関係に対して実行されて、
前記比較するステップは、検証の動作状態の間において、複数回実行されることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
複数の公称関係に対して、得られた前記駆動力の大きさを示す前記量の前記値を前記公称駆動力の大きさを示す前記量の前記期待値と比較するステップは、
前記複数の公称関係に対して、平均駆動電流の得られた値と公称平均駆動電流の期待値との間の二乗平均平方根を計算するサブステップと、
前記平均駆動電流の得られた前記値がより近い前記公称平均駆動電流の前記期待値に関連している予め決められた劣化指数を前記ショックアブソーバに付けるサブステップを含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記平均駆動電流の得られた前記値を前記公称平均駆動電流の前記期待値と比較することは、前記検証の動作状態の予め決められた数の連続発生に対して実行されて、
前記方法はまた、前記検証の動作状態の前記予め決められた数の連続発生の間において、予め決められた重みと共に、前記ショックアブソーバに付ける劣化指数を平均することにより計算される前記予め決められた劣化指数を前記ショックアブソーバに付けるステップを含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記参照モデルは、前記道路深刻度指数と、前記ショックアブソーバの減衰F/vに関連しているベンチにおいて測定される少なくとも1つの前記ショックアブソーバの前記制御バルブの公称平均駆動電流との間の解析的関係、又は全単射で対応している数値のマップであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記参照モデルは、前記道路深刻度指数と、前記車両の動作の間、前記ショックアブソーバに対して計算される平均駆動電流との間の解析的関係、又は全単射で対応している数値のマップであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ショックアブソーバの前記制御バルブの前記駆動電流を示す前記量の前記値は、予め決められたフィルタリングルールに従って、前記制御バルブの実際の前記平均駆動電流と相関があることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項14】
前記フィルタリングルールは、一次のフィルタ、及び予め決められた時間間隔にわたる移動平均を備えることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記公称駆動力の大きさの前記期待値は、下方閾値と上方閾値との間において構成される値であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記センサ手段は、前記車両の前記ボディと繋がる少なくとも1つの加速度計、及び前記車両の前記前輪のそれぞれのハブと繋がる少なくとも1対の加速器を含むことを特徴とする、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
アクティブサスペンションシステム又はセミアクティブサスペンションシステムにおける車両のショックアブソーバの減衰特性を推定するためのシステムであって、
前記アクティブサスペンションシステム又は前記セミアクティブサスペンションシステムは、
複数の調整可能な減衰するショックアブソーバを備えており、
前記ショックアブソーバは、減衰流体を含む圧力チャンバをそれぞれ有しており、
前記圧力チャンバの内側において、ピストンが摺動できて、
前記ピストンの位置が下方圧力チャンバと上方圧力チャンバを形成しており、
前記ショックアブソーバは、前記上方圧力チャンバと連動しているバイパスチャンバ、及び前記圧力チャンバと前記バイパスチャンバとの間の前記減衰流体の経路を制御するように構成されている少なくとも1つの制御バルブをそれぞれ有しており、
前記アクティブサスペンションシステム又は前記セミアクティブサスペンションシステムは、
前記車両のボディと、所定のショックアブソーバが関連しているそれぞれの車輪との間の相対加速度又は相対運動、及び前記ボディの加速度と運動を検出するためのセンサ手段と、
前記相対加速度又は前記相対運動を示す信号を受信するように構成されて、且つ前記ショックアブソーバの予め決められた減衰特性を得るため、前記ショックアブソーバの前記制御バルブの駆動信号を発するように構成されている電子的処理及び制御手段とを備えており、
前記システムは、入力部において、前記センサ手段と、また出力部において、前記電子的処理及び制御手段と繋がり、請求項1~16のいずれかに記載の前記方法を実行するように構成されて、前記ショックアブソーバの前記劣化状態を推定する処理モジュールを備える、ことを特徴とするシステム。
【請求項18】
車両のアクティブサスペンションシステム又はセミアクティブサスペンションシステムであって、
請求項17に記載の前記車両の前記ショックアブソーバの前記減衰特性を推定するための前記システムを備える、ことを特徴とするアクティブサスペンションシステム又はセミアクティブサスペンションシステム。
【請求項19】
コンピュータシステムにより実行できるコンピュータプログラム又はプログラムのグループであって、
請求項1~16のいずれかに記載の前記セミアクティブサスペンションシステムにおける前記車両の前記ショックアブソーバの前記減衰特性を推定するための前記方法を実行するための1つ以上のコードモジュールを備える、ことを特徴とするコンピュータプログラム又はプログラムのグループ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、車両のアクティブサスペンションシステム又はセミアクティブサスペンションシステム、特にアクティブサスペンションシステム又はセミアクティブサスペンションシステムのショックアブソーバの性能の劣化の推定に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、調整可能な減衰するショックアブソーバが、特に自動車分野において、ますます用いられている。このショックアブソーバは、車両のサスペンションシステムの動作を変化させるため、例えば、路面状況、車両の動作状態、及びドライバにより所望される快適設定に応じて、電子制御ユニットの制御の下で減衰特性を変化させることができる。
【0003】
車両のボディの垂直方向の運動、特に車両の垂直方向のダイナミクスは、路面状況、及びステアリング、加速、ブレーキ、変速操作などのドライバによって与えられる操作により影響を与えられる。
【0004】
セミアクティブサスペンションシステムは、一般的に、
調整可能な減衰するショックアブソーバを備ており、
この種類のショックアブソーバは、減衰流体(オイル)を含む圧力チャンバを有しており、
前記圧力チャンバの内側において、ピストンが摺動できて、
前記ピストンの位置が下方圧力チャンバと上方圧力チャンバを形成しており、
前記ショックアブソーバは、流体の通過のための穴を通して、前記上方圧力チャンバと連動しているバイパスチャンバ、及び前記圧力チャンバと前記バイパスチャンバとの間の前記減衰流体の経路を制御するように構成されている制御バルブ、すなわち一般的にはソレノイドバルブを有しており、
前記セミアクティブサスペンションシステムは、
前記車両のボディと車輪のハブとの間の相対加速度又は相対運動、及び前記ボディの加速度と運動を検出するように構成されて、前記車両の前軸と後軸に配置されている1組のセンサと、
前記車両のダイナミクスを示す前記センサにより発せられる信号を受信して、且つ読み取るように構成されて、予め決められた安全状態又は駆動設定に応じるため、前記ショックアブソーバの所望の減衰特性を追うように、前記システムの前記ショックアブソーバの前記制御バルブの駆動信号を発するように構成されている電子的処理及び制御手段とを備える。
【0005】
サスペンションシステムの制御ロジックはモジュール式であり、車両が安全状態で走行することを保つことを考慮して予め決められた優先ルールに従って、検出された路面状況、車両の横方向のダイナミクス、減衰特性モデルセット、及び/又は使用者により所望される減衰特性モデルセットに応じる複数の予め決められた制御方法の1つに従って制御される。
【0006】
ショックアブソーバの減衰特性は、ショックアブソーバの制御ソレノイドバルブのアクチュエータ手段の電気的な駆動電流信号を発することによって、制御ユニットにより調整される。駆動電流信号の大きさは、一般的に、既知のパルス幅変調(PWM)技術に従って調整される。このようなバルブの駆動電流の調整により、減衰力の特性は、それぞれのショックアブソーバに対して、ホイールアセンブリと車両のボディとの間の相対移動速度(F/v)に基づいて連続的に調整され得る。パッシブサスペンションシステムに関して、減衰特性(F/v)は、ショックアブソーバの機械的且つ物理的なパラメータ、及び減衰流体の粘着特性により決められて、ショックアブソーバの作用点が配置されている決められた単一の曲線により表される。セミアクティブサスペンションシステムは、(サスペンションの振動モードの知覚できる不足減衰動作に対応する)最小減衰特性と(サスペンションの振動モードの知覚できる過減衰動作に対応する)最大減衰特性との間の作用領域を覆う異なる減衰曲線(F/v)にある一群の作用点を定める。この作用領域内において、中間の安全な減衰曲線が、ショックアブソーバの機械的且つ物理的なパラメータ、及び減衰流体の粘着特性に応じて配置されている。システムは、制御ソレノイドバルブの動作における異常の場合、フェイルセーフ曲線と呼称される中間の安全な減衰曲線に自動的に設定する。
【0007】
ショックアブソーバの動作寿命の間、構成部品、例えば制御ソレノイドバルブ、ガスケット、及びオイルシールなどの劣化により、性能の劣化、又はソレノイドバルブの励起又は駆動回路のような減衰特性を調整する電子回路の動作の変化をモニタすることが要求される。
【0008】
ショックアブソーバを形成する部品の性能の劣化は、公称の形状/較正性能又は動作寿命の開始に関して、ショックアブソーバの応答(減衰特性)の変化、又は制御ソレノイドバルブの減衰特性(F/v)と駆動電流との間の関係の変化を生じる。これは、特に、同じ路面の粗さにより、ソレノイドバルブ駆動電流の実際の平均値が公称状態と異なることを示す。
【0009】
(直線運動の状態における不規則な路面に位置しているボディと車輪の運動を制御するためのセミアクティブサスペンション制御システムにおいて用いられるスカイフックモデルのような)フィードバック型のサスペンションシステム制御モデルは、ループゲインの調整を通して、ショックアブソーバの動作特性の変化を自動的に補償する。車両の横方向のダイナミクスの制御が優先されるとき、選択され得る異なるモデルは、完全な予測型であり、車両のダイナミクス動作からフィードバックに基づくことなく、所望の減衰特性に対応しない制御ソレノイドバルブの駆動電流の調整を定める。
【0010】
ソレノイドバルブの駆動電流に基づいて、ショックアブソーバの減衰特性F/vを直接測定することは、ショックアブソーバを緩みと圧縮で動作させること、及び要求される物理量(ショックアブソーバの力、ショックアブソーバの速度と制御電流)を測定することにより、ベンチでのみ実行され得る。ショックアブソーバを車両に取り付けた後、ショックアブソーバにより与えられる力を測定できるショックアブソーバボディの界面におけるロードセルが車両にないため、この測定はできない。
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明の目的は、システムの制御方法をショックアブソーバの動作電流特性にリアルタイムで適応させるように、アクティブサスペンションシステム又はセミアクティブサスペンションシステムのショックアブソーバの性能の劣化を推定するための方法を提供することである。
【0012】
本発明によれば、この目的は、ショックアブソーバの減衰特性を推定するためのシステムと方法により達成される。このシステムと方法は、独立請求項に記載されている特性を有する。
【0013】
従属請求項において、特定の実施形態を示す。
【0014】
本発明の別の主題は、請求されているようなコンピュータプログラムとサスペンションシステムである。
【0015】
要約すると、本発明は、内蔵センサ、好ましくは前輪のハブに配置されている加速度計センサにより測定される垂直方向の加速度から道路深刻度指数(RSI)を特定して連続的に更新すること、及び車両の動作の間、それぞれのショックアブソーバの制御バルブの駆動力の大きさ、例えば駆動電流の所定の量を有する、特に例えば一次のフィルタ、及び予め決められた時間間隔にわたる移動平均などの予め決められたフィルタリングルールに従う実際の駆動電流に関連している、前方と後方の両方のそれぞれのショックアブソーバの制御バルブの平均駆動電流を示す値を有する指数を比較することの原理に基づいている。
【0016】
本発明は、好ましくは、車両が、不規則な表面を有する道路上を直線運動で、すなわち車輪のハブにおいて非ヌル加速度を生じるように移動する動作状態において適用される。また、サスペンションのセミアクティブ制御システムは、ボディと車輪のハブの垂直方向のダイナミクスを制御することを目的として、既知のスカイフック制御モデルに基づいているフィードバックにおいて計算される電流をショックアブソーバのソレノイドバルブに与える。この特定の動作状態が、内蔵CANバスと繋がる処理モジュールを含むサスペンション制御システムによりリアルタイムで容易に特定できることを注目すべきである。車両の横方向のダイナミクス制御ユニット及び/又はヨー方向と横方向の加速度センサのような車両の横方向のダイナミクスセンサが、内蔵CANバスを通して連動している。
【0017】
1つ以上の特定のショックアブソーバの性能のいずれかの劣化状態は、道路深刻度指数とショックアブソーバの制御バルブの公称平均駆動電流との間の予め決められた公称の相関と比較することにより推定される。この公称平均駆動電流は、例えば車両の制御ロジックのチューニングに応じてベンチにおいて実行される制御バルブの駆動電流に基づいてショックアブソーバの減衰特性F/vを直接測定することから導かれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の別の特徴と利点が、非限定的な実施例により添付図面を参照して、以下の実施形態の詳細な説明に記載されている。
【
図1】
図1は、ショックアブソーバの減衰特性の劣化を推定するように構成されているアクティブサスペンションシステム又はセミアクティブサスペンションシステムの制御アーキテクチャの概略図である。
【
図2】
図2は、ショックアブソーバの公称の動作状態と劣化した動作状態における、ショックアブソーバの制御バルブの駆動電流を示す値と路面深刻度指数との間の関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、複数の異なる劣化した動作状態における、ショックアブソーバの制御バルブの駆動電流を示す値と路面深刻度指数との間の関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明に記載のショックアブソーバの減衰特性の劣化を推定するための方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1におけるブロック図を参照して、本発明に記載のアクティブサスペンションシステム又はセミアクティブサスペンションシステムの制御アーキテクチャを概略的に示す。
【0020】
システムの制御ユニット10は、車両が安全状態で走行することを保つように、予め決められた優先ルールに従って、検出された路面状況、車両の横方向のダイナミクス、減衰特性モデルセット、及び/又は使用者により所望される減衰特性モデルセットに基づいて、複数の予め決められた制御方法の1つを選択するように構成されている制御方法処理モジュール12を備える。
【0021】
処理モジュール12は、車両のボディ及び少なくとも1つの車軸、好ましくは前軸の車輪のハブとそれぞれ繋がる(一般的に加速度計を含む)センサアセンブリ20,22と繋がる。このセンサアセンブリ20,22は、車両のボディと車輪のハブとの間の相対加速度又は相対運動を検出するように構成されている。好ましくは、センサアセンブリ20は、シャシ運動を評価するため、車両のボディと繋がる3つのセンサ、例えば前軸におけるサスペンションドームに配置されている2つのセンサ、及び後軸に配置されている1つのセンサを備える。また、センサアセンブリ22は、前輪のハブに配置されている少なくとも2つの複数のセンサ(したがって、後輪の加速度が推定される)、又は車両の車輪の数に対応している複数のセンサを備える。
【0022】
この処理モジュール12は、内蔵CANバスと繋がる。他の内蔵制御ユニット、一般的には、エンジン制御ユニット、トランスミッション制御ユニット、ブレーキ又は加速操作の間におけるABS、EBD、ASR機能を管理するために構成されている車両の縦方向ダイナミクス制御ユニット、ステアリング操作を管理するために構成されている車両の横方向ダイナミクス制御ユニット、及び「ボディコンピュータ」と一般的に呼称される乗員室とボディ装置用の制御ユニットは、この内蔵CANバスを通して連動している。
【0023】
改良された実施形態において、使用者のインターフェース(図示せず)は、サスペンションシステムの所望の動作特性を設定するための指示の全般(快適、スポーツ)を取得してする、及び/又は例えば検出される故障状態に対する警告灯により、システムの動作状態における情報を表示するために設けられている。
【0024】
最後に、ショックアブソーバの減衰特性の調整バルブをまとめて符号30で示す。この調整バルブは、処理モジュール12によりそれぞれ制御される。
【0025】
コントロールユニット10に統合されているショックアブソーバの性能の劣化の状態を推定するための推定処理モジュールを符号14で示す。
【0026】
推定モジュール14は、入力部において、車両の前輪のハブと繋がる一対の加速度計(この場合、推定は後輪のハブの加速度計により行われる)、又はショックアブソーバ30の特性の制御バルブの駆動電子機器を有して、車両の前輪及び後輪のハブとそれぞれ繋がる複数の加速度計を一般的に備えるセンサアセンブリ22と繋がる。
【0027】
推定モジュール14はまた、読み取りと書き込みにおいて、例えば予め決められている解析関係により、車輪、好ましくは前輪のハブにより発生する垂直方向の加速度の値に関連している道路深刻度指数RSIと、例えば車両の制御ロジックのチューニングに応じてベンチにおいて実行される制御バルブの駆動電流に基づいてショックアブソーバの減衰特性F/vを直接測定することから導かれるそれぞれのショックアブソーバの制御バルブの駆動電流を示す量Iとの間の公称の関係を示す数学的参照モデルを保存するためのメモリモジュールMと繋がる。
【0028】
参照モデルは、実際の道路又はテスト駆動面における、道路深刻度指数と、ショックアブソーバの減衰特性F/vに関連しているベンチにおいて測定される少なくとも1つのショックアブソーバの制御バルブの公称平均駆動電流との間の解析的関係、又は全単射で対応している数値のマップ、若しくは道路深刻度指数と、車両の動作の間、ショックアブソーバに対して計算される平均駆動電流との間の解析的関係、又は全単射で対応している数値のマップであってもよい。考慮されるショックアブソーバは、フロントショックアブソーバのみ、又はすべてのショックアブソーバである。リヤショックアブソーバの動作は、フロントショックアブソーバの動作に基づいて推定される。
【0029】
所定の種類のショックアブソーバに対して、全単射で対応している表示量の数値のマップの形態で、数学的参照モデル又は駆動電流手段の過程を示し得る。代替として、このモデルは、表示量の間の関係の動的数学モデルであってもよい。
【0030】
ショックアブソーバの劣化が推定される特定の動作状態は、好ましくは、不規則な表面における車両の直線移動の状態、すなわち車輪のハブにおける非ヌル加速度を生じるような状態に対応している。ショックアブソーバの減衰曲線の制御は、既知のスカイフック制御モデルに基づくフィードバックで起こる。この動作状態は、CAN信号に基づいて、セミアクティブサスペンションシステムの制御ユニットにより容易に特定できる。この制御ユニットは、ハブとボディの加速度計センサ(
図1)に基づいて、他の車両のダイナミクス制御ユニットから受容されている。この特定の動作状態は、「検証の状態」と呼称される。
【0031】
推定モジュール14は、それぞれのショックアブソーバの制御バルブの駆動電流の量を示す公称値と実値との間の偏差を示す信号又はデータΔを与えるための処理モジュール12と接続している。したがって、この偏差は、考慮される特定のショックアブソーバのいずれかの劣化を示す。
図2は、破線により、実際の道路深刻度指数と量Iの実値との間の関係曲線を示す。この量Iは、考慮されるショックアブソーバの制御バルブの駆動電流を示す。本発明の曲線の距離は、
図2の破線として示す公称曲線から、ショックアブソーバの動作特性の電流の劣化を示す。
【0032】
推定モジュール14は、例えば局所的に保存されているコンピュータプログラム又はプログラムのグループを実行するように構成されて、ショックアブソーバの性能の劣化状態を推定するための上述の方法(アルゴリズム)を実行するように構成されている。
【0033】
単なる例として、ショックアブソーバの特性の劣化を推定するための方法の説明が提供されている。
【0034】
セミアクティブサスペンション制御システムの調整可能な減衰するショックアブソーバが考慮される。また、
図3のグラフに示すように、道路深刻度指数RSIと、異なる既知の特徴付けられているショックアブソーバの劣化状態に対して、ショックアブソーバの制御バルブの駆動電流の移動平均を示す量Iとの間の公称の関係を示す数学的参照モデルを知る、又は得ることが想定される。Nは、劣化していない動作状態における、RSIとIの指標との間の公称の関係の曲線を示す。D1,D2,D3,D4は、異なる既知の特徴付けられているショックアブソーバの劣化した状態において、RSIとIの指標との間の関係を示す他の曲線を示す。これらの劣化状態は、それぞれ、合成劣化指標Δi(i=1,2,3,4)と関連している。
【0035】
図4におけるフローチャートを参照して、車両の運動の間、サスペンションシステムの制御ユニット10は、ステップ100において、不規則な表面における直線移動の状態として予め決められている検証の動作状態であることを定める。
【0036】
この場合、ステップ110において、推定モジュール14は、ショックアブソーバ(例えば、フロントショックアブソーバ)の加速度計センサ22からそれぞれの加速度のデータを得る。
【0037】
次に、ステップ120において、推定モジュール14は、それぞれのショックアブソーバの制御バルブのそれぞれの平均駆動電流の値を得る。処理モジュール12において実行されるスカイフック制御モデルにより定められる(すなわち、フロントショックアブソーバとリヤショックアブソーバの)劣化が推定される。
【0038】
次に、ステップ140において、推定モジュール14は、前輪のハブに配置されている加速度計センサにより測定される垂直方向の加速度に基づいて、道路深刻度指数RSIと、それぞれのショックアブソーバの制御バルブの平均駆動電流Iとの間の公称の関係を示す参照モデルを通して、道路深刻度指数(RSI)を定める。この推定モジュール14は、それぞれの期待される駆動電流、好ましくは(
図3において、N
inf曲線とN
sup曲線により示す)期待される駆動電流の下方閾値と上方閾値との間の範囲を定める。
【0039】
ステップ150において、推定モジュール14は、スカイフック制御モデルにより得られるそれぞれのショックアブソーバの制御バルブの平均駆動電流の値が上記下方閾値Ninfと上記上方閾値Nsupとの間であることを確認する。この場合、推定モジュールは、ステップ160において、ショックアブソーバの劣化がないことを判断する。そうでない場合、推定モジュールは、考えられる劣化状態を検出して、ステップ170において、ショックアブソーバを特定する。このショックアブソーバに対するそれぞれの制御バルブの駆動電流は、期待される値と一致しない。すなわち、この駆動電流は、予め決められた閾値Ninf又は閾値Nsupを越える。
【0040】
次のステップ180において、推定モジュール14は、ショックアブソーバの正しい動作に戻すために必要となる現在の駆動電流から電流の偏差を計算して、この電流の偏差が、ショックアブソーバに対して所望されるスカイフックの力を達成するために必要な正しい駆動電流に達して、送達される最大電流より大きい、又は制御バルブを作動させる最小電流より小さいこと、すなわちこの変化量が、考えられる劣化の最大補償を越えることを検証する。
【0041】
この場合、ステップ190において、推定モジュール14は、ショックアブソーバの推定される劣化を示す警報信号を、スクリーン上の視覚信号、又は車両の動作ログに保存されるショックアブソーバの動作状態を示す信号の形態で使用者に向けて送る。そうでない場合、ステップ200において、推定モジュール14は、劣化補償信号を、ショックアブソーバの制御バルブの制御パラメータを変更する制御処理モジュール12に向けて送る。劣化補償信号は、(フィードバックにより作用しない)制御方法の処理モジュール12により定められるような、制御バルブの駆動電流に対して追加される(負又は正のいずれかでもよい)電流の差の形態である。
【0042】
図3を参照して、ステップ150において実行される検証を示す。曲線D
actにより示すようなRSIとIの指標との間の関係により示されるショックアブソーバの劣化動作状態を図示する。
【0043】
有利であるように、ステップ150において、検証は以下の動作を含む。
図3に示すように、検証の状態のすべての時間に対して、異なる既知の特徴付けられているショックアブソーバの劣化状態を示す曲線D
actと曲線D1~D4との間の距離が計算される。この距離は、好ましくは、検証の状態の間、曲線D
actと曲線D1~D4との間の二乗平均平方根を計算することにより定量化される。曲線D
actが曲線D2により近いことが想定される。したがって、予め決められた合成指標Δ2により示す劣化の量と共に、ショックアブソーバが劣化していることが推定される。
【0044】
好ましくは、上述の比較は、予め決められた数の時間、次の検証の状態の下で必要に応じて繰り返される。これらの検証の状態の下で、それぞれ、劣化指標Δiが計算される。また、現在の劣化指標Δは、予め決められた重みと共に、それぞれの劣化指標Δiを平均することにより計算される。それぞれの劣化指標の重みは、好ましくは、異なる劣化状態におけるRSIとIの指標との間の関係を示す曲線の信頼性に基づいて計算される。例えば、より大きな時間及び/又は距離の移動にわたって、より大きな範囲のRSIと共に得られる曲線は、より小さな時間及び/又は距離の移動にわたって、ほぼ一定のRSIの指標と共に得られる曲線よりも大きな重みを有する。
【0045】
有利であるように、上述のすべての推定処理は、ショックアブソーバの劣化指標Δの推定を周期的に更新するように一定間隔で繰り返される。
【0046】
有利であるように、ショックアブソーバ(又はサスペンションシステム全体)の性能の推定される劣化を示すデータ要素Δは、用いられる方法に基づいて決定して、ショックアブソーバの特性の制御電流の対応する変更を実行するため、サスペンションシステムの制御モジュールにより、またCANネットワークと接続している他のモジュールにより用いられ得る。これにより、(持続できる限り)サスペンションシステムの動作をショックアブソーバの劣化に合わせることができる。したがって、乗員は、絶対的な駆動の快適さ、ドライバにより所望される快適設定、及び車両の動的性能の変化を感じない。
【0047】
ショックアブソーバの劣化が回復できないとき、予め設定された許容範囲帯と比べて客観的に過剰であるため、システムは、ドライバに警告して、サスペンションシステム全体を整備する、又は特定のショックアブソーバを交換するため、ガレージに行く時間であることを示すように構成されている。
【0048】
明らかに、本発明の原理に悪影響を及ぼすことなく、実施形態と実行の詳細が、添付の請求項に定められているような本発明の範囲から逸脱することなく、非限定的な例により説明及び図示されたことに関して大きく変更され得る。