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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】光コネクタ用清掃具
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/36 20060101AFI20231215BHJP
   B08B 1/00 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
G02B6/36
B08B1/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022084382
(22)【出願日】2022-05-24
(65)【公開番号】P2023172519
(43)【公開日】2023-12-06
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000102739
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】安東 和俊
(72)【発明者】
【氏名】鴨打 輝正
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-003901(JP,A)
【文献】国際公開第2021/220750(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/108278(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147742(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/049441(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0070211(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/24
G02B 6/255
G02B 6/36 - 6/40
B08B 1/00 - 1/04
B08B 5/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバの先端面が露出する被清掃面を有しかつ扁平な形状に形成されたフェルールが筒状のスリーブに挿入された状態で前記被清掃面を清掃する光コネクタ用清掃具であって、
前記スリーブに挿入されて前記被清掃面と対向する扁平なヘッドを有するベース部材と、
前記ベース部材を前記ヘッドが突出する状態で収容するとともに前記スリーブの軸線方向に移動可能に保持するガイド部材と、
前記ベース部材と前記ガイド部材との間に形成された清掃布通路に通され、前記ヘッドの厚み方向の両側を通るように前記ヘッドで折り返されて移動する帯状の清掃布と、
前記ベース部材と前記ガイド部材との間に設けられ、前記ベース部材を前記フェルールに向けて付勢するばね部材とを備え、
前記ベース部材は、前記ヘッドが一端部に設けられたヘッドベースを備え、
前記ヘッドベースにおける前記ヘッドを除く部分には、前記清掃布通路の一部を構成する溝が形成され、
前記ヘッドの厚み方向とは直交する幅方向の両端部には、前記スリーブの両側壁に近接して前記清掃布の脱落を防止する脱落防止部がそれぞれ設けられ、
前記脱落防止部は、前記被清掃面とは反対の方向に前記溝まで途切れることなく延び、
前記ヘッドベースと前記ガイド部材との間に形成される前記清掃布通路は、前記ヘッドベースに前記清掃布通路の一部を構成するように形成された溝からなる第1の溝と、前記ガイド部材に形成されて前記第1の溝の開放部分を塞ぐ第2の溝とによって構成され、
前記第1の溝の溝幅と前記第2の溝の溝幅は、前記清掃布の幅より狭く、
前記清掃布は、前記第1の溝と前記第2の溝とによって形成された前記清掃布通路に、厚み方向に撓んだ状態で通されていることを特徴とする光コネクタ用清掃具。
【請求項2】
請求項1記載の光コネクタ用清掃具において、
前記フェルールは、厚み方向とは直交する幅方向の両端部に前記被清掃面から突出するガイドピンを有し、
前記ヘッドは、前記ガイドピンが嵌入する穴を有し、
前記脱落防止部は、前記ヘッドの厚み方向において前記ガイドピンと重なる板状に形成されていることを特徴とする光コネクタ用清掃具。
【請求項3】
請求項2記載の光コネクタ用清掃具において、
前記脱落防止部は、前記被清掃面と対向する前記ヘッドの先端面より前記被清掃面とは反対の方向に予め定めた長さだけ後退する位置に形成されていることを特徴とする光コネクタ用清掃具。
【請求項4】
請求項2記載の光コネクタ用清掃具において、
前記脱落防止部は、前記ヘッドの厚み方向から見て、前記被清掃面と対向する前記ヘッドの先端面に向かうにしたがって前記ヘッドの幅が次第に狭くなるように形成されていることを特徴とする光コネクタ用清掃具。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一つに記載の光コネクタ用清掃具において、
前記ヘッドベースは、他端側に、前記ばね部材が接続されるばね受け部を有し、
前記ばね受け部は、前記ヘッドより前記ヘッドの厚み方向に大きく形成され、
前記ヘッドベースの前記清掃布通路を形成する壁面は、前記ヘッドと前記ばね受け部とを接続する傾斜面を含んでいることを特徴とする光コネクタ用清掃具。
【請求項6】
請求項に記載の光コネクタ用清掃具において、
前記第1の溝は、前記清掃布通路が延びる方向とは直交する断面の形状が円弧状に形成され、
前記第2の溝の溝底は、前記第1の溝に倣って湾曲する凸曲面を含んで形成されていることを特徴とする光コネクタ用清掃具。
【請求項7】
請求項1~請求項4のいずれか一つに記載の光コネクタ用清掃具において、
前記ガイド部材は、前記ベース部材を前記スリーブの軸線方向に移動可能に保持する棒状支持体と、前記棒状支持体を収容する筒体とによって構成され、
前記ヘッドの幅方向における前記棒状支持体の両端部には、前記軸線方向に延びるリブが設けられていることを特徴とする光コネクタ用清掃具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多心のフェルールの被清掃面を清掃する光コネクタ用清掃具に関する。
【背景技術】
【0002】
データセンタ等で用いられている多心型の光コネクタは、光通信量の増加に伴い、空間利用効率が高くなるように小型化・高密度化が図られている (例えば非特許文献1参照)。以下においては、これらのコネクタを単に「高密度多心コネクタ」という。高密度多心コネクタの特徴は、複数の高密度多心コネクタを並べて高密度に設置できるようにするためにボディが非常に薄く形成されていることである。このボディの先端には、複数の光ファイバの先端面が露出する扁平な板状のフェルールが突設されている。
【0003】
高密度多心コネクタを他の高密度多心コネクタに接続するためには、これら両方の高密度多心コネクタをアダプタに両側から挿入し、フェルールどうしをアダプタ内で対向させて行う。ボディは、アダプタに挿入する際にフェルールのおおよその位置決めを行うもので、光ファイバの長手方向に延びる細長い形状に形成され、この長さを使ってフェルールをアダプタ内に適切に導いている。そして、フェルールどうしの精密な位置決めは、アダプタ内に形成された矩形状の穴(本明細書では、この穴を含む構造を便宜的にスリーブと呼ぶ)と、一方のフェルールに突設されたピンとによって行われる。スリーブは、フェルールを挿入可能な形状に形成されている。ピンは、他方のフェルールに形成された穴に嵌合する。
【0004】
このフェルールとスリーブとを有する接続構造は、従来の多心コネクタの代表であるMPOコネクタと比べると、むしろ、単心コネクタであるLCコネクタやSCコネクタの構造に近い。MPOコネクタはボディが精密な位置決めの役割を果たし、ピンは存在するものの、フェルールだけを受けるスリーブに当たる構造が存在しない。一方、単心コネクタに近い接続構造をもつ高密度多心コネクタ用のアダプタは、単心コネクタ用アダプタに近い構造で、コネクタの挿入口となる開口部から奥まった箇所にスリーブを有している。
【0005】
MPOコネクタに用いることが可能な従来の光コネクタ用清掃具としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載されているものがある。
特許文献1に開示された光コネクタ用清掃具は、帯状の清掃布が清掃用ヘッドで折り返して移動する構造が採られており、清掃布が被清掃面に押し付けられるように清掃用ヘッドを被清掃面に対向させて使用する。この光コネクタ用清掃具において、清掃布は、清掃用ヘッドが挿入されるガイド部材に形成されたガイド溝に通される。清掃布をガイド溝に通すことにより、清掃布の布ずれをガイド溝によって防ぐことができる。
【0006】
特許文献2に開示された光コネクタ用清掃具は、清掃用のテープが巻き返されるように形成されているヘッドに、テープの幅方向のずれを防ぐガイド溝が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5955453号公報
【文献】特許第3836439号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】センコーアドバンス株式会社、"SN-MTコネクタ"、[online]、[令和4年5月11日検索]、インターネット<URL:https://www.senko.com/ja/product-category/interconnect/sn-mt-connector-series/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1や特許文献2に記載されている光コネクタ用清掃具では、アダプタ内の高密度多心コネクタを清掃することができないという問題があった。この理由は、スリーブの中の狭小な空間より清掃用ヘッドが大きく、この空間の中に清掃用ヘッドを挿入することができないからである。この不具合を解消するためには、特許文献1や特許文献2に開示されている清掃用ヘッドを物理的にアダプタの開口部に挿入できるように薄く形成することが考えられる。しかし、たとえ清掃用ヘッドをアダプタの開口部に挿入できたとしても、大きな問題が残る。この問題とは、後述する清掃布の布ずれが生じることである。
【0010】
従来のMPOアダプタにはスリーブが無いのでフェルールの周りに空間的な余裕があり、特許文献2にも示されているように、清掃布の位置決めをサポートする構造を清掃具のヘッド部に設けることができた。しかし、単心コネクタの接続構造に近い高密度多心コネクタの場合、フェルールが挿入されるスリーブ内には清掃布を支持するような構造を設けることができない。
【0011】
そのため、清掃布の幅方向への移動を規制することが難しく、布ずれが生じ易い。ここでいう「布ずれ」とは、清掃の際に清掃布に不均衡な力が加えられて清掃布がヘッド先端からずれてしまう現象である。布ずれが発生すると、フェルールの先端面(被清掃面)に布が当たらなくなるため、清掃できなくなる。アダプタ内の高密度多心コネクタを清掃する場合、アダプタのスリーブ部に布ずれを防ぐ構造を設ける空間がないので、特許文献1や特許文献2などに記載されているような従来技術を適用することができない。
【0012】
本発明の目的は、清掃布の布ずれを抑制することができ、高密度多心コネクタに対して安定して清掃することが可能な光コネクタ用清掃具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために本発明に係る光コネクタ用清掃具は、複数の光ファイバの先端面が露出する被清掃面を有しかつ扁平な形状に形成されたフェルールが筒状のスリーブに挿入された状態で前記被清掃面を清掃する光コネクタ用清掃具であって、前記スリーブに挿入されて前記被清掃面と対向する扁平なヘッドを有するベース部材と、前記ベース部材を前記ヘッドが突出する状態で収容するとともに前記スリーブの軸線方向に移動可能に保持するガイド部材と、前記ベース部材と前記ガイド部材との間に形成された清掃布通路に通され、前記ヘッドの厚み方向の両側を通るように前記ヘッドで折り返されて移動する帯状の清掃布と、前記ベース部材と前記ガイド部材との間に設けられ、前記ベース部材を前記フェルールに向けて付勢するばね部材とを備え、前記ヘッドの厚み方向とは直交する幅方向の両端部には、前記スリーブの両側壁に近接して前記清掃布の脱落を防止する脱落防止部がそれぞれ設けられているものである。
【0014】
本発明は、前記光コネクタ用清掃具において、前記フェルールは、厚み方向とは直交する幅方向の両端部に前記被清掃面から突出するガイドピンを有し、前記ヘッドは、前記ガイドピンが嵌入する穴を有し、前記脱落防止部は、前記ヘッドの厚み方向において前記ガイドピンと重なる板状に形成されていてもよい。
【0015】
本発明は、前記光コネクタ用清掃具において、前記脱落防止部は、前記被清掃面と対向する前記ヘッドの先端面より前記被清掃面とは反対の方向に予め定めた長さだけ後退する位置に形成されていてもよい。
【0016】
本発明は、前記光コネクタ用清掃具において、前記脱落防止部は、前記ヘッドの厚み方向から見て、前記被清掃面と対向する前記ヘッドの先端面に向かうにしたがって前記ヘッドの幅が次第に狭くなるように形成されていてもよい。
【0017】
本発明は、前記光コネクタ用清掃具において、前記ベース部材は、前記ヘッドが一端部に設けられるとともに他端側に前記ばね部材が接続されるばね受け部を有するヘッドベースを備え、前記ばね受け部は、前記ヘッドより前記ヘッドの厚み方向に大きく形成され、前記ヘッドベースの前記清掃布通路を形成する壁面は、前記ヘッドと前記ばね受け部とを接続する傾斜面を含んでいてもよい。
【0018】
本発明は、前記光コネクタ用清掃具において、前記ベース部材は、前記ヘッドが一端部に設けられたヘッドベースを備え、前記ヘッドベースと前記ガイド部材との間に形成される前記清掃布通路は、前記ヘッドベースに形成された第1の溝と、前記ガイド部材に形成されて前記第1の溝の開放部分を塞ぐ第2の溝とによって構成され、前記第1の溝の溝幅と前記第2の溝の溝幅は、前記清掃布の幅より狭く、前記清掃布は、前記第1の溝と前記第2の溝とによって形成された前記清掃布通路に、厚み方向に撓んだ状態で通されていてもよい。
【0019】
本発明は、前記光コネクタ用清掃具において、前記第1の溝は、前記清掃布通路が延びる方向とは直交する断面の形状が円弧状に形成され、前記第2の溝の溝底は、前記第1の溝に倣って湾曲する凸曲面を含んで形成されていてもよい。
【0020】
本発明は、前記光コネクタ用清掃具において、前記ガイド部材は、前記ベース部材を前記スリーブの軸線方向に移動可能に保持する棒状支持体と、前記棒状支持体を収容する筒体とによって構成され、前記ヘッドの幅方向における前記棒状支持体の両端部には、前記軸線方向に延びるリブが設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、清掃布がヘッドの側方に脱落するような布ずれを抑制することができ、高密度多心コネクタに対して安定して清掃することが可能な光コネクタ用清掃具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明に係る光コネクタ用清掃具の要部とアダプタおよび高密度多心コネクタを示す断面図である。
図2図2は、図1におけるII-II線断面図である。
図3図3は、光コネクタ用清掃具の全体の概略の構成を示す側面図である。
図4図4は、アダプタ内でヘッドをフェルールに対向させた状態を示す断面図である。
図5図5は、図1におけるV-V線断面図である。
図6図6は、ベース部材の平面図である。
図7図7は、ベース部材の側面図である。
図8図8は、ベース部材の正面図である。
図9図9は、ガイドを破断して示すベース部材の断面図である。
図10図10は、ガイドを破断して示すベース部材の断面図である。
図11図11は、ヘッドと清掃布の断面図である。
図12図12は、ベース部材と清掃布の断面図である。
図13図13は、アダプタに挿入されたベース部材と清掃布の断面図である。
図14図14は、清掃布の長手方向から見たガイドとヘッドベースの断面図である。
図15図15は、しなった清掃部本体と清掃布の平面図である。
図16図16は、ガイドを破断して示すベース部材の断面図である。
図17図17は、ベース部材と清掃布の断面図である。
図18図18は、アダプタに挿入されたベース部材と清掃布の断面図である。
図19図19は、清掃布の長手方向から見たガイドとヘッドベースの断面図である。
図20図20は、清掃布の長手方向から見たガイドとヘッドベースの断面図である。
図21図21は、清掃布の長手方向から見たガイドとヘッドベースの断面図である。
図22図22は、清掃部本体とベース部材の平面図である。
図23図23は、図22におけるXXIII-XXIII線断面図である。
図24図24は、ベース部材の平面図である。
図25図25は、ベース部材の平面図である。
図26図26は、ベース部材の平面図である。
図27図27は、布ずれを起こしていない清掃布とベース部材の平面図である。
図28図28は、布ずれを起こした清掃布とベース部材の平面図である。
図29図29は、布ずれを起こした清掃布とベース部材の平面図である。
図30図30は、布ずれを起こした清掃布とベース部材の平面図である。
図31図31は、ガイドピンとベース部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る光コネクタ用清掃具の一実施の形態を図1図31を参照して詳細に説明する。
図1に示す清掃部1は、本発明に係る光コネクタ用清掃具2において清掃を行う部分である。本発明に係る光コネクタ用清掃具2は、清掃部1と、この清掃部1に清掃布3(図2参照)を供給する布送り機構4(図3参照)とによって構成されている。以下において、光コネクタ用清掃具2の各部品を説明するにあたって方向を示す場合は、布送り機構4から清掃部1に向かう方向を前方として行う。
【0024】
(布送り機構の説明)
布送り機構4は、従来からよく知られているものを用いることができ、清掃布3を清掃部1に送ることが可能であれば、どのようなものでも使用することができる。布送り機構4としては、例えば押し込み動作を利用して清掃布3を送る機構や、電動で清掃布3を送る機構でもよい。押し込み動作で清掃布3が送られる布送り機構4は、図3に示すように構成されていることが多い。
【0025】
図3に示す布送り機構4は、従来の多心コネクタ用クリーナに用いられるもので、清掃布3が巻き付けられた送り側ボビン5と、清掃布3を巻取る巻取側ボビン6と、これらのボビン5,6を回転可能に支持する筐体7と、筐体7に前後方向へ往復移動自在に支持されたスライド部材8などを備えている。スライド部材8の前端部には、従来の清掃部9が取付けられている。本発明の光コネクタ用清掃具2は、図3に示す清掃部9の代わりに図1に示す清掃部1を取り付けることによって構成することができる。
【0026】
清掃布3は、帯状に形成されており、送り側ボビン5から引き出されて清掃部1の前端に導かれ、清掃部1の前端で折り返されて巻取側ボビン6に巻き取られる。図3に示す清掃部9で単体の光コネクタ(図示せず)を清掃する場合は、単体の光コネクタをアタッチメント10の一端部に挿入し、清掃部9をアタッチメント10の他端部に挿入して行う。
【0027】
図3に示す布送り機構4においては、清掃部9をアタッチメント10に挿入して筐体7をアタッチメント10に向けて押すことにより、巻取側ボビン6が巻取方向(図3においては反時計方向)に回転して清掃布3が巻取側ボビン6に巻付けられる。このときには新規の清掃布3が送り側ボビン5から引き出される。
【0028】
(清掃部の説明)
図1に示す清掃部1(本発明の光コネクタ用清掃具2に用いる清掃部)は、図1中に符号11で示す高密度多心コネクタの被清掃面12を清掃するためのものである。高密度多心コネクタ11は、図4に示すように、複数の光ファイバ13の先端部を保持するフェルール14を有し、筒状に形成されたアダプタ15の中にフェルール14とともに挿入して使用される。フェルール14は、図4に示すように、複数の光ファイバ13の先端面が露出する被清掃面12を有し、扁平な板状に形成されている。
【0029】
図1に示す高密度多心コネクタ11のフェルール14は、その厚み方向(図1の紙面とは直交する方向)とは直交する幅方向(図1においては上下方向)の両端部にそれぞれガイドピン16を有している。これらのガイドピン16は、被清掃面12から突出している。ガイドピン16を有する高密度多心コネクタ11と接続される他の高密度多心コネクタ11は、図示してはいないがフェルール14にガイドピン16の代わりに一対の穴が形成されている。これらの穴には、この穴を有する高密度多心コネクタ11にガイドピン16を有する他の高密度多心コネクタ11を接続する際にガイドピン16が嵌合する。これらの高密度多心コネクタ11どうしの接続は、アダプタ15の一方の端部に一方の高密度多心コネクタ11を挿入し、アダプタ15の他方の端部に他方の高密度多心コネクタ11を挿入し、アダプタ15内でフェルール14どうしを接続して行われる。本発明による光コネクタ用清掃具は、ガイドピン16を有するフェルール14の被清掃面12と、ガイドピン16を有していないフェルール14の被清掃面12との両方をそれぞれ清掃可能なものである。
【0030】
アダプタ15の内部には、フェルール14が挿入可能な筒状のスリーブ21が形成されている。スリーブ21のフェルール14と対向する内壁面は、フェルール14にクリアランスをおいて対向するように形成されている。
高密度多心コネクタ11どうしを接続する際には、スリーブ21の一端部に一方の高密度多心コネクタ11のフェルール14を挿入するとともに、スリーブ21の他端部に他方の高密度多心コネクタ11のフェルール14を挿入する。フェルール14の被清掃面12を清掃するためには、図4に示すように、フェルール14をスリーブ21の一端部に挿入し、スリーブ21の他端部に光コネクタ用清掃具2の後述するヘッド22を挿入して行う。図4は清掃布3を省略した状態で描いてある。ヘッド22は、詳細な説明は後述するが、スリーブ21の中に挿入可能な形状、すなわちフェルール14と同様に扁平な板状に形成されている。
【0031】
この実施の形態による光コネクタ用清掃具2の清掃部1は、図1に示すように、上述した布送り機構4のスライド部材8に接続される清掃部本体23と、清掃部本体23を収容する角筒状のガイド24と、清掃部本体23の前端部に設けられたベース部材25などを備えている。上述したヘッド22はベース部材25の前端部に設けられている。
【0032】
清掃部本体23は、清掃部1の後述する構成部品が取り付けられるベースとなるもので、スライド部材8に接続される連結軸23aと、連結軸23aの先端に設けられた角柱状の柱状体23bと、柱状体23bの先端に設けられた角柱状の支持体23cとによって1本の棒状に形成されている。この実施の形態においては、清掃部本体23が本発明でいう「棒状支持体」に相当する。柱状体23bは、ガイド24の後端部に係止されている。このため、清掃部本体23とガイド24は、一体となって布送り機構4のスライド部材8とともに筐体7に対して移動する。
【0033】
清掃部本体23の前端部(支持体23c)は、後述するベース部材25の軸部26(図6参照)を清掃部本体23の長手方向に移動自在に支持している。また、支持体23cの前端部には、ベース部材25を前端側に向けて(フェルール14に向けて)付勢するヘッドスプリング27が設けられている。ヘッドスプリング27は、フェルール14の被清掃面12とヘッド22とに挟まれた清掃布3に適正な圧力を付与するものである。この実施の形態によるヘッドスプリング27は、圧縮コイルばねによって構成されており、ベース部材25の軸部26が通された状態で、支持体23cのばね座28と、ベース部材25のばね受け部29との間に圧縮された状態で装着されている。ベース部材25の軸部26は、ばね座28を貫通し、軸部26の先端に設けられた係合片30によってばね座28に対して抜け止めされている。この実施の形態においては、ヘッドスプリング27が本発明でいう「ばね部材」に相当する。
【0034】
清掃部本体23の柱状体23bと支持体23cは、図5に示すようにガイド24の中に収容され、ガイド24と協働して清掃布通路31を形成している。清掃布通路31は、清掃布3が通る通路で、ヘッド22の厚み方向(図1においては紙面と直交する方向であって、図5においては上下方向)において清掃部本体23の両側に形成されている。
ガイド24は、図4に示すようにアダプタ15の開口部に挿入されてベース部材25のヘッド22をスリーブ21まで導くための甲殻部分である。アダプタ15内のスリーブ21が開口する端面にガイド24の前端が当たるまで、ガイド24はアダプタ15内に挿入される。
【0035】
ガイド24がアダプタ15の開口部に嵌合することにより、ヘッド22が清掃布3を介してアダプタ15内のフェルール14にヘッドスプリング27のばね力によって押し付けられる。このようにガイド24がアダプタ15の開口部に嵌合している状態で筐体7をアダプタ15に対して進退させることにより、清掃布3がヘッド22で折り返されるように移動し、フェルール14の被清掃面12が清掃される。また、清掃布3は、このガイド24と清掃部本体23との間を通ることにより、外部からの汚染等から守られる。このため、ガイド24は、布を保護する機能も有している。この実施の形態においては、ガイド24が本発明でいう「筒体」に相当し、ガイド24と清掃部本体23とが本発明でいう「ガイド部材」に相当する。
【0036】
(ベース部材の説明)
ベース部材25は、図6図8に示すように、上述した軸部26と、上述したばね受け部29を有するヘッドベース32と、ヘッドベース32の前端部に設けられたヘッド22などによって構成されている。この実施の形態による軸部26と、ヘッドベース32およびヘッド22は、一体成型により一体に形成されている。なお、ベース部材25を構成するヘッド22、ヘッドベース32等の各機能部は、一体に形成する他に、個別に形成して接着等により組み合わせることも可能である。
【0037】
この実施の形態によるベース部材25は、図1に示すように、ガイド24の前端からヘッド22が突出する状態で清掃部本体23に組み付けられている。ばね受け部29を含むヘッドベース32とヘッド22とは、清掃部本体23と同様に、ガイド24と協働して清掃布通路31を形成している。
ヘッドベース32は、ヘッド22が固定もしくは一体成型されたベース部分である。ヘッド22は、フェルール14と対向する箇所で、スリーブ21に入る部分である。ヘッド22には、フェルール14に突設されたガイドピン16が嵌合するピン穴33と、後述するフィン34とが形成されている。
【0038】
ベース部材25のヘッドベース32およびヘッド22は、詳細は後述するが、清掃布3が布ずれを起こすことを抑制する構成が採られている。
ここでは先ず、清掃布3の布ずれの原因について説明する。布ずれとは、清掃布3の折り返し部であるヘッド22の近傍で、図9に示すように清掃布3がヘッド22の先端を覆うべきであるのに、幅方向(図9においては上下方向)にずれてしまい、図10に示すようにヘッド22の一側部に露出部35が生じることを言う。図9図10に示すヘッド22は、厚み方向とは直交する幅方向の側面22aがガイド24の先端から大きく離れるように、言い換えれば深く切り立つように形成されている。
【0039】
清掃布3は、送り側ボビンから供給される帯状の布、すなわちリボン形状の平細長い布であり、クリーナ先端部(ヘッド22)で折り返されて、巻取側ボビン6で巻き取られる形で移動する。この移動の際に清掃布3に不均一な抵抗が生じると、清掃布3にかかる力の分布が均等にならず、進行方向に対して横向きの力が生じる場合がある。この力により清掃布3がずれる。このような不均一な抵抗を生じる要因は、主に後述する3つが挙げられる。また、布ずれの原因となる不均一な抵抗を生じる要因とは別に、布ずれからの復帰が難しいことも問題である。この復帰が難しいという問題を含めると、本発明のベース部材25が解決する課題は4つになる。
【0040】
(1)第1の課題:スリーブ21に清掃布3を真っ直ぐ挿入することが困難である。
従来の多心クリーナでは、図11に示すように、ヘッド22の先端まで十分厚みを確保できるため、清掃布3を真っ直ぐ送り、真っ直ぐ引き戻すことができた。
しかし高密度多心コネクタ用のクリーナの場合、アダプタ15の奥まったところに位置するスリーブ21の中にヘッド22を挿入するため、ヘッド22はスリーブ21と同等サイズに薄く形成する必要がある。また、ヘッドベース32は、ヘッドスプリング27を受けるための厚みを確保する必要がある。すなわち、図12に示すように、薄いヘッド22に厚いヘッドベース32が続く構造となる。そのため、この形状のままスリーブ21にヘッド22を挿入すると、図13に示すようにスリーブ21のエッジ36の近傍で清掃布3の進行方向が急に変わるため、不均一な抵抗を生じ易い。
【0041】
(2)第2の課題:ヘッドベース側面で布の挟み込みが生じる。
従来の多心クリーナの場合、フェルールの周りに空間的な余裕があり、清掃布3の位置決めをサポートする構造をクリーナのヘッド22の先端まで設けることができたため、清掃布3がずれることを抑制できていた。
しかし、単心コネクタの接続構造に近い高密度多心コネクタ11の場合、フェルール14が挿入されるスリーブ21内には清掃布3を支持するような構造を設けることができないため、清掃を続けると清掃摩擦による不均一な抵抗で布ずれが発生し易い。例えば、図14に示すように清掃布通路31がガイド24の凹部37とヘッドベース32の平坦面38との間に形成されている場合、ヘッドベース32とガイド24との間に生じる隙間39にずれた清掃布3が挟まり込み、徐々に布挟まりが大きくなり、大きく布ずれが生じて清掃布3を送ることができなくなる。
【0042】
(3)第3の課題:ガイドとともに清掃部本体がしなることがある。
高密度多心コネクタ用アダプタ15の内部に清掃部1を挿入するためには、清掃部1の厚みも高密度多心コネクタ11と同等の厚みになる。また、高密度多心コネクタ11は細長く形成されているので、それに合わせて清掃部1も長くなり、結果として清掃部1は細平たく、かつ、長い形状になる。そのため、ガイド24を含めて清掃部本体23がしなり易い。清掃部本体23及びガイド24が図15に示すように清掃布3の幅方向にしなった場合、ヘッド22の先端が傾くためフェルール14と片当たりして、不均一な抵抗を生じ易い。図15中の矢印Aは、清掃部本体23及びガイド24がしなる方向を示している。
【0043】
(4)第4の課題:布ずれからの復帰が困難である。
清掃布3の布ずれが発生した状態で清掃すると、清掃布3のずれが徐々に大きくなっていく。清掃布3がずれたまま繰り返し清掃すると、ヘッド22の先端から清掃布3が脱落して布詰まりが起こる。
図16に示すようにヘッド22の側面22aが深く切り立っている場合、清掃布3がヘッド22の側面22aに沿うように脱落し易い。このように清掃布3がヘッド22から脱落すると、ヘッド22が側方から清掃布3で覆われて布ずれ部40が形成され、ヘッド22の反対側に露出部35が生じる。
また、ずれた清掃布3を修正しようと清掃部1をアダプタ15に挿入することなく清掃布3を空送りしても、ヘッド22の角張ったエッジ22bの近傍に強く引っ掛かり元の位置に戻り難い。
【0044】
本発明では、上記4つの課題の対策として以下の(A)~(D)の解決策を提供する。
(A)スリーブ21に清掃布3を真っ直ぐ挿入することが困難であるという第1の課題を解決するために、ヘッドベース32を図17に示すように形成する。図17に示すヘッドベース32の前端部は、ヘッド22と同等サイズに薄く形成され、後端部は、ヘッドスプリング27を受けるために厚いテーパ形状に形成されている。このヘッドベース32の清掃布通路31を形成する壁面(図17においては上側の面と下側の面)は、ヘッド22とばね受け部29とを接続する傾斜面41を含んでいる。
この構成を採ることにより、図18に示すようにヘッド22をスリーブ21に挿入した状態で、スリーブ21のエッジ36の近傍で清掃布3がヘッドベース32に触れて不均一な抵抗が発生することを避けることができる。
【0045】
(B)ヘッドベースとガイドとの間で布の挟み込みが生じるという第2の課題を解決するためには、図19に示すように、ヘッドベース32とガイド24との間に形成される清掃布通路31を、ヘッドベース32に形成された第1の溝42と、ガイド24に形成されて第1の溝42の開放部分を塞ぐ第2の溝43とによって構成する。第1の溝42の溝幅W1と第2の溝43の溝幅W2とのうち広い方の幅(W2)からなる布ガイド幅W3は、自然状態にある清掃布3の幅より狭い。このようにヘッドベース部分の清掃布通路31の布ガイド幅W3を清掃布3の幅より狭くすることにより、清掃布3が清掃布通路31内に入る際に絞られるようになり、厚み方向に撓んだ状態で清掃布通路31に通される。この清掃布3は、図19に示すように、ヘッド22の厚み方向の一方(図10においては上方)または他方(図19においては下方)に撓んだり、図20に示すように、清掃布通路31内で斜めに傾斜するように撓む。
【0046】
図19および図20に示す第1の溝42と第2の溝43は、これらの溝が合わせられる部分に生じる隙間44(ヘッドベース32とガイド24との間の隙間)がヘッド22の厚み方向(図19図20においては上下方向)において清掃布通路31の中央部に位置するように形成されている。
この構成を採ることにより、清掃布3の幅方向の端縁が清掃布通路31の隅部分を通るようになる。このため、ヘッドベース32とガイド24との間の隙間44に清掃布3が入り込んで挟まることを防ぎ、結果としてヘッド22の先端部で生じる布ずれを抑制することができる。
【0047】
第1の溝42の溝幅W1と、第2の溝43の溝幅W2は、図19に示すように第1の溝42の溝幅W1を第2の溝43の溝幅W2より小さくする他に、第2の溝43の溝幅W1を第1の溝42の溝幅W2より小さくしてもよいし、両方の溝の溝幅W1,W2を同等としてもよい。
また、清掃布通路31の断面形状は、図21に示すように円弧形状に形成することができる。図21に示す第1の溝42は、清掃布通路31が延びる方向とは直交する断面の形状が円弧状に形成されている。第2の溝43の溝底は、第1の溝42に倣って湾曲する凸曲面45を含んで形成されている。
【0048】
(C)清掃部本体23がしなるという第3の課題を解決するためには、図22に示すように、清掃部本体23の清掃布3が沿う支持体23cにリブ46を設けてしなりを抑制する。詳述すると、ヘッド22の幅方向(図22においては上下方向)における支持体23cの両端部47,47には、清掃部本体23の長手方向(スリーブ21の軸線方向)に延びるリブ46が設けられている。リブ46は、図23に示すように、支持体23cの両端部47,47を部分的にヘッド22の厚み方向(図23においては上下方向)の両側に突出させて形成されている。支持体23cの一方の端部47に形成されたリブ46と、他方の端部47に形成されたリブ46との間に、図5に示すように清掃布通路31が形成される。
このリブ46で清掃部本体23が補強されて清掃部本体23のしなりが抑制されることにより、清掃布3が清掃部本体23とガイド24との間に挟まって清掃布3の移動が妨げられることがなくなり、結果としてヘッド22の先端部の布ずれを抑制することができる。なお、ガイド24の外側をリブ46で補強することは、隣接する光コネクタに干渉するため難しい。
【0049】
(D)布ずれからの復帰が困難であるという第4の課題の解決策について;
ヘッド22の幅方向の両端に形成されているエッジを単純に大きく丸めることによりエッジ近傍での清掃布3の引っ掛かりが弱くなり、清掃部1をアダプタ15から外した状態で清掃布3を空送りすることによって、清掃布3に正規の経路に戻す方向に張力が作用して布ずれを解消することが可能になる。
【0050】
しかし、それではヘッド22の先端の面積が減少して清掃範囲が狭くなり、フェルール14の幅方向の端部に位置する光ファイバ13を清掃できなくなるおそれがある。そこで、ヘッド22のエッジの丸みは最小限にして、図24図26に示すようにヘッド22の側部にフィン34を設けることによって、清掃布3がヘッド22の側面22aに沿うように脱落する量が減少して先端面22cにより多くの清掃布3を留めることができるようになる。
【0051】
フィン34は、図8に示すように、ヘッド22の厚み方向とは直交する幅方向の両端部にピン穴33の壁の一部となるように形成されている。このフィン34は、板状に形成されており、ヘッド22の厚み方向において、ピン穴33の両側にそれぞれ設けられている。このフィン34は、ヘッド22のピン穴33にフェルール14のガイドピン16が挿入された状態でヘッド22の厚み方向においてガイドピン16と重なる。
このように形成されたフィン34は、図4に示すようにスリーブ21の両側壁21a,21aに近接して清掃布3の脱落を防止する脱落防止部51を構成する。
【0052】
ヘッド22の厚み方向から見たフィン34の形状は、図24図26に示すように矩形に形成したり、図25に示すように三角形に形成することができる。
図24図25に示すフィン34は、ヘッド22の先端に連なるように形成されている。図25に示すフィン34は、ヘッド22の厚み方向から見て、ヘッド22の先端面{フェルール14(図2参照)の被清掃面12と対向する面}に向かうにしたがってヘッド22の幅が次第に狭くなるように形成されている。
図26に示すフィン34は、ヘッド22の先端より僅かに後退した位置に設けられている。詳述すると、図26に示すフィン34は、ヘッド22の先端面22cよりフェルール14の被清掃面12とは反対の方向に予め定めた長さだけ後退する位置に形成されている。
【0053】
図24に示すようにフィン34をヘッド22の先端に連なるように形成すると、清掃布3がヘッド22の側方に脱落することを抑制することができる。清掃布3がヘッド22の先端で折り返されて進む際には、清掃布3に送り方向に引っ張る力が加えられる。図27に示すように清掃布3がヘッド22の先端から両側方に均等に出ている場合には、両側方にはみ出た布端にかかる力は均等である。図27においては、清掃布3の両端を送り方向に引っ張る力を矢印Bによって示す。
【0054】
しかし、図28に示すように布ずれが生じると、ずれた方の布端にかかる力が大きくなり、ずれが大きくなっていく。図28においては、ずれた方の布端にかかる力を矢印Cによって示し、他方の布端にかかる力を矢印Dによって示す。そして、ヘッド22の側面22aが深く切り立っていると、送り方向に引っ張る力(矢印Cで示す力)の影響を直接受けるため、急速にヘッド22の側方に多くの布が脱落する。
【0055】
図29および図30に示すようにヘッド22の幅方向の両端部にフィン34を設けることで、布端にかかる送り方向への力の影響を緩和することができ、ヘッド22の側方へ清掃布3が脱落することを抑制できる。図29は、矩形のフィン34を設けた場合を示し、図30は、三角形のフィン34を設けた場合を示している。図29に示すように矩形のフィン34を設けた場合、布端にかかる送り方向への力は、矢印Eで示すように、布ずれが生じているにもかかわらず清掃布3の両端で同等になる。図30に示すように三角形のフィン34を設けた場合、布端にかかる送り方向のへの力は、矢印F,Gで示すように斜め方向に作用するようになる。このため、布ずれが生じたとしてもヘッド22のエッジ22bに引っ掛かり難くなる。このことは、清掃部1をアダプタ15に挿入することなく清掃布3の空送りを行うことによって、清掃布3の布ずれを解消することが可能になることを意味する。
【0056】
ところで、清掃対象のフェルール14には、幅方向の両端部にガイドピン16が設けられているものと、ガイドピン16が設けられていないものとの2種類がある。上記の布ずれは、ガイドピン16が設けられていないフェルール14を清掃する場合に生じ易い。そのため、ガイドピン16が設けられていないフェルール14のみが清掃対象であれば、図24に示すようにヘッド22の先端に連なる矩形のフィン34で布ずれを抑制しながら安定した状態で清掃を行うことができる。図示してはいないが、ガイドピン16が設けられていないフェルール14のみを清掃する場合は、ヘッド22にピン穴33が形成されていないヘッドを使用することができる。この場合は、脱落防止部51をフィン状ではなく中実の形状であって、ヘッド22の厚み方向から見て、図24に示す矩形、図25に示す三角形、図26に示すヘッド22の先端から後退した位置に形成された矩形、図6に示すヘッド22の先端から後退した位置に形成された三角形などの形状に形成することができる。
【0057】
ガイドピン16を有するフェルール14の場合は、布ずれは生じ難くなるが、その代わりに「布挟まり」の問題が生じる。この「布挟まり」は、図31(A),(B)に示すようにヘッド22がフェルール14に接続される過程で清掃布3がガイドピン16によって押され、ピン穴33の中(一対のフィン34どうしの間)に押し込まれることにより発生する。図31(A)に示すように、清掃布3は、ピン穴33の開口部の一部を塞ぐ状態でヘッド22で折り返されている。すなわち、清掃布3の一部3aがピン穴33の開口部を横切っている。
【0058】
この状態で図31(B)に示すようにガイドピン16がヘッド22に接近してピン穴33に入ると、ピン穴33の開口部を横切っていた清掃布3の一部3aがガイドピン16によって押されてピン穴33の中に押し込まれ、布挟まりが生じる。
布挟まりが生じた状態は、清掃布3がガイドピン16とフィン34との間に挟み込まれた状態である。この布挟まりは、ガイドピン16とフィン34と清掃布3の接触面積が大きいほど強く生じ易い。布挟まりが生じた状態では、清掃布3を送ることができなくなるおそれがある。
【0059】
ガイドピン16とフィン34と清掃布3の接触面積は、図26に示すようにフィン34をヘッド22の先端より僅かに後退させた位置から設けたり、図6図25に示すようにフィン34を三角形に形成することにより減らすことができる。図6に示す三角形のフィン34は、ヘッド22の先端より僅かに後退させた位置から設けられている。このようにガイドピン16とフィン34と清掃布3の接触面積が小さくなることにより、清掃布3の脱落抑制と布挟まりの抑制とを両立することができる。この場合、清掃布3の布ずれが多少生じたとしても、清掃布3がヘッド22の側方に脱落する量を減らして先端面22cにより多くの布を留めるため、清掃布3を空送りしたときに清掃布3を容易に修正することができる。なお、フィン34を過度に大きく後退させて設けると、ヘッド22の側面22aが深く切り立っている場合と同様に清掃布3が脱落し易くなる。
【0060】
フィン34の形状は、ヘッド22の厚み方向から見て矩形より図6図25に示すように三角形の方が、ガイドピン16とフィン34との間の布挟まりをより一層少なく抑えることができるとともに、スリーブ21にヘッド22を挿入するときにスリーブ21のエッジ36に引っ掛かり難くなってヘッド22を容易に挿入することができる。
【0061】
(実施の形態による効果の説明)
この実施の形態によるベース部材25のヘッド22は、幅方向の両端部にスリーブ21の両側壁21aに近接して清掃布3の脱落を防止するフィン34(脱落防止部51)をそれぞれ備えている。このため、清掃布3がヘッド22の側方に脱落するような布ずれを抑制することができ、高密度多心コネクタ11に対して安定して清掃することが可能な光コネクタ用清掃具を提供することができる。
【0062】
この実施の形態によるヘッド22は、フェルール14の被清掃面12から突出するガイドピン16が嵌入するピン穴33を有している。
ヘッド22のフィン34は、ヘッド22の厚み方向においてガイドピン16と重なる板状に形成されている。このように構成されたヘッド22を備えた光コネクタ用清掃具2によれば、ガイドピン16を有するフェルール14の被清掃面12を清掃することが可能になる。
【0063】
図6図26に示したフィン34は、フェルール14の被清掃面12と対向するヘッド22の先端面より被清掃面12とは反対の方向に予め定めた長さだけ後退する位置に形成されている。このため、このフィン34を有する光コネクタ用清掃具2によれば、清掃布3の布挟まりが発生することを防ぐことができるから、清掃を確実に行うことが可能になる。
【0064】
図6図25に示したフィン34は、ヘッド22の厚み方向から見て、被清掃面12と対向するヘッド22の先端面22cに向かうにしたがってヘッド22の幅が次第に狭くなるように形成されている。このため、フィン34をヘッド22の厚み方向から見て矩形に形成する場合と較べると、フィン34の清掃布3と接触する部分の面積が小さくなるから、清掃布3の布挟まりをより一層少なく抑えることができるとともに、スリーブ21にヘッド22を挿入するときにスリーブ21のエッジ36に引っ掛かり難くなる。
【0065】
この実施の形態によるベース部材25は、ヘッド22が一端部に設けられるとともに他端側にヘッドスプリング27が接続されるばね受け部29を有するヘッドベース32を備えている。ばね受け部29は、ヘッド22よりヘッド22の厚み方向に大きく形成されている。ヘッドベース32の清掃布通路31を形成する壁面は、ヘッド22とばね受け部29とを接続する傾斜面41を含んでいる。
このため、ヘッド22がスリーブ21に挿入された状態で清掃布3がスリーブ21のエッジ36の近傍でヘッドベース32に接触して不均一な抵抗が発生することを防ぐことができるから、清掃布3の布ずれがより一層発生し難くなる。
【0066】
この実施の形態によるベース部材25は、ヘッド22が一端部に設けられたヘッドベース32を備えている。図19図20に示すガイド24とヘッドベース32との間に形成された清掃布通路31は、ヘッドベース32に形成された第1の溝42と、ガイド24に形成されて第1の溝42の開放部分を塞ぐ第2の溝43とによって構成されている。第1の溝42の溝幅W1と第2の溝43の溝幅W2は、清掃布3の幅より狭い。清掃布3は、第1の溝42と第2の溝43とによって形成された清掃布通路31に、厚み方向に撓んだ状態で通されている。このため、清掃布3の幅方向の端縁が清掃布通路31の隅部分を通るから、ヘッドベース32とガイド24との間の隙間44に清掃布3が入り込んで挟まることを防ぐことができ、ヘッド22の前端部で生じる清掃布3の布ずれを抑制することができる。
【0067】
図21に示す第1の溝42は、清掃布通路31が延びる方向とは直交する断面の形状が円弧状に形成されている。また、第2の溝43の溝底は、第1の溝42に倣って湾曲する凸曲面45を含んで形成されている。この構成を採ることにより、清掃布3の幅方向の端縁が確実に清掃布通路31の隅部分を通るようになるから、布ずれがより一層発生し難くなる。
【0068】
この実施の形態においては、ベース部材25をスリーブ21の軸線方向に移動可能に保持する清掃部本体23と、清掃部本体23を収容するガイド24とによって本発明でいうガイド部材が構成されている。ヘッド22の幅方向における清掃部本体23の両端部47,47には、スリーブ21の軸線方向に延びるリブ46が設けられている。このため、清掃部本体23がリブ46によって補強されて清掃部本体23のヘッド幅方向へのしなりが抑制されるから、清掃布3が清掃部本体23とガイド24との間に挟まって清掃布3の移動が妨げられることを防ぐことができ、ヘッド22の先端部において清掃布3が布ずれを起こすことを抑制することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…清掃部、2…光コネクタ用清掃具、3…清掃布、12…被清掃面、13…光ファイバ、14…フェルール、16…ガイドピン、21…スリーブ、22…ヘッド、22c…先端面、23…清掃部本体(棒状支持体)、24…ガイド(筒体)、25…ベース部材、27…ヘッドスプリング(ばね部材)、29…ばね受け部、31…清掃布通路、32…ヘッドベース、33…ピン穴、34…フィン、41…傾斜面、42…第1の溝、43…第2の溝、45…凸曲面、46…リブ、51…脱落防止部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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