(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】エールビール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 11/02 20060101AFI20231215BHJP
C12C 11/00 20060101ALI20231215BHJP
C12C 5/02 20060101ALI20231215BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20231215BHJP
【FI】
C12C11/02
C12C11/00 A
C12C5/02
C12N15/31 ZNA
(21)【出願番号】P 2022105996
(22)【出願日】2022-06-30
(62)【分割の表示】P 2018124732の分割
【原出願日】2018-06-29
【審査請求日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2017162671
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】小埜 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】大舘 巧
(72)【発明者】
【氏名】大村 文彦
(72)【発明者】
【氏名】児玉 由紀子
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-504132(JP,A)
【文献】WORLD JOURNAL OF PHARMACEUTICAL RESEARCH,2015年,Vol.4,No.3,pp.232-239
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硫酸を
5.5~20ppm
含むエールビール
(但し、下記(1)~(3)のビールを除く:
(1)配列番号3の塩基配列からなるSbSSU1遺伝子並びにグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター及びターミネーターを含み、前記SbSSU1遺伝子がTDHのプロモーター及びターミネーターで発現される発現ベクターを導入した上面発酵酵母を用いて製造されたビール
(2)配列番号3の塩基配列からなるSbSSU1遺伝子並びにグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター及びターミネーターを含み、前記SbSSU1遺伝子がTDHのプロモーター及びターミネーターで発現される発現ベクターを導入した上面発酵酵母を含むビール
(3)特開2004-283169号公報の図11に記載のSc型MET14遺伝子又は非Sc型MET14遺伝子並びにグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター及びターミネーターを含み、前記MET14遺伝子がTDHのプロモーター及びターミネーターで発現される発現ベクターを導入した上面発酵酵母を含むビール)。
【請求項2】
亜硫酸を
5.5~20ppm
含み、「エール」の表示が付されたビール
(但し、下記(1)~(3)のビールを除く:
(1)配列番号3の塩基配列からなるSbSSU1遺伝子並びにグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター及びターミネーターを含み、前記SbSSU1遺伝子がTDHのプロモーター及びターミネーターで発現される発現ベクターを導入した上面発酵酵母を用いて製造されたビール
(2)配列番号3の塩基配列からなるSbSSU1遺伝子並びにグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター及びターミネーターを含み、前記SbSSU1遺伝子がTDHのプロモーター及びターミネーターで発現される発現ベクターを導入した上面発酵酵母を含むビール
(3)特開2004-283169号公報の図11に記載のSc型MET14遺伝子又は非Sc型MET14遺伝子並びにグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター及びターミネーターを含み、前記MET14遺伝子がTDHのプロモーター及びターミネーターで発現される発現ベクターを導入した上面発酵酵母を含むビール)。
【請求項3】
亜硫酸が、酵母に由来する亜硫酸である、請求項1に記載のエールビール。
【請求項4】
亜硫酸が、酵母に由来する亜硫酸である、請求項2に記載のビール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母の亜硫酸生成能向上方法、酵母の亜硫酸耐性能向上方法、亜硫酸生成能が向上した酵母の製造方法及び亜硫酸耐性能が向上した酵母の製造方法に関する。本発明はまた、亜硫酸排出能を有する変異型ポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチドに関する。本発明はさらに、酵母の亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能を評価する方法、亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母を選択する方法、酵母形質転換体及びビールの製造方法に関する。本発明はまた、エールビールに関する。
【背景技術】
【0002】
醸造酒であるビールは、原料作物や酵母由来のタンパク質、アミノ酸、糖などの多様な有機化合物を含んでいる。酵母が生成する亜硫酸は、有機化合物の非酵素的な酸化劣化を防ぐ作用や、他の混入菌の繁殖を抑える作用を有し、ビールの品質安定性には不可欠な成分である。ワイン醸造の現場では酸化防止の目的で亜硫酸を添加することが認められているが、一般的なビールでは亜硫酸を添加することはなく、酵母に由来する亜硫酸に依存しているのが現状である。
【0003】
酵母における亜硫酸排出機構については、SSU1遺伝子にコードされる膜タンパク質であるSSU1とよばれる亜硫酸輸送体が担っていることが知られている(非特許文献1)。上面発酵するエール酵母(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))はSc型のSSU1遺伝子を有している。一方、下面発酵するラガー酵母(サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus))は、Sc型のSSU1遺伝子に加え、サッカロミセス・ユウバヤヌス(Saccharomyces eubayanus)由来と考えられているSb型のSSU1遺伝子を有している。一般にラガー酵母はエール酵母より亜硫酸生成能が高く、これまでの研究でラガー酵母に特有のSb型SSU1がその高い生成能に寄与していることが報告されている(特許文献1及び非特許文献2)。しかしながら、なぜSb型SSU1が高い亜硫酸排出能を有しているかは明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Avram, D., and Bakalinsky, A. (1997) J. Bacteriology 179, 5971-5974.
【文献】藤村朋子(2003)バイサイエンスとインダストリー 61, 809-810.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ビール発酵において、酵母が生成する亜硫酸は抗酸化作用を有しており、ビールの品質保持のために重要な役割を果たしていることが知られている。酵母の亜硫酸生成能を高めることができれば、香味安定性に優れ、品質保持期間が長いビール等の酒類を製造することができると考えられる。
【0007】
本発明は、酵母の亜硫酸生成能を向上させる方法を提供することを目的とする。また、本発明は、亜硫酸排出能が向上した変異型ポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチドを提供することを目的とする。本発明はさらに、酵母の亜硫酸生成能を評価する方法及び亜硫酸生成能が高い酵母を選択する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、酵母由来の亜硫酸排出能を有するポリペプチド(亜硫酸トランスポーターということもできる)のアミノ酸配列において、配列番号2に示すアミノ酸配列の19番目に相当する位置にあるアミノ酸を改変することで、該ポリペプチドの亜硫酸排出能を向上させることができることからを見出した。また、上記ポリペプチドにおいて、配列番号2に示すアミノ酸配列の19番目に相当する位置にあるアミノ酸に加えて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の259番目に相当する位置にあるアミノ酸及び/又は423番目に相当する位置にあるアミノ酸を改変すると、亜硫酸排出能をさらに向上させることができることも見出した。
【0009】
亜硫酸排出能を有するポリペプチド(例えば、SSU1)において、配列番号2に示すアミノ酸配列の19番目に相当する位置にあるアミノ酸が亜硫酸排出能に影響を与えることから、天然に存在する遺伝資源について、該ポリペプチドの上記位置のアミノ酸配列情報を基に、高い亜硫酸生成能を有する酵母及び高い亜硫酸耐性能を有する酵母を選択することができる。高い亜硫酸生成能を有する酵母を使用することにより、例えば、亜硫酸含量が多く、抗酸化性の高いビールを製造することができる。一方、亜硫酸は硫黄化合物に由来する香りの原因になることが知られている。亜硫酸排出能を有するポリペプチドの上記位置のアミノ酸の情報は、硫黄化合物の量を制御するための亜硫酸生成能が高い又は低い酵母を選択する際の遺伝的指標としても利用できる。
【0010】
本発明は、以下の酵母の亜硫酸生成能を向上させる方法等を包含する。
〔1〕酵母に対して変異を導入することを含む、酵母の亜硫酸生成能を向上させる方法であって、上記変異は、下記(a)~(c)の1以上のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸を、バリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換する変異を含む、酵母の亜硫酸生成能向上方法。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、19番目のメチオニン以外の領域中に1~9個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜硫酸排出能を有するポリペプチド
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、亜硫酸排出能を有するポリペプチド
【0011】
〔2〕酵母に対して変異を導入することを含む、酵母の亜硫酸耐性能を向上させる方法であって、上記変異は、上記(a)~(c)の1以上のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸を、バリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換する変異を含む、酵母の亜硫酸耐性能向上方法。
【0012】
〔3〕酵母に対して変異を導入することを含む、亜硫酸生成能が向上した酵母の製造方法であって、上記変異は、上記(a)~(c)の1以上のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸を、バリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換する変異を含む、亜硫酸生成能が向上した酵母の製造方法。
【0013】
〔4〕酵母に対して変異を導入することを含む、亜硫酸耐性能が向上した酵母の製造方法であって、上記変異は、上記(a)~(c)の1以上のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸を、バリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換する変異を含む、亜硫酸耐性能が向上した酵母の製造方法。
〔5〕上記変異は、上記ポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の259番目のロイシンに相当する位置にあるアミノ酸を、メチオニンに置換する変異、及び/又は、423番目のセリンに相当する位置にあるアミノ酸を、ロイシンに置換する変異をさらに含む、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕上記変異が導入された酵母は、上記変異が導入されたポリペプチドを高発現する上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕上記変異が導入された酵母は、亜硫酸還元が抑制されている上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
【0014】
〔8〕上記(a)~(c)のいずれかに記載のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸がバリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換されている変異型ポリペプチド(好ましくは、配列番号37~46に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを除く)。
〔9〕上記変異型ポリペプチドが、上記(a)又は下記(b1)のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸が、上記非極性アミノ酸(X)に置換されている変異型ポリペプチドである上記〔8〕に記載の変異型ポリペプチド。
(b1)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、以下の(i)~(vi)からなる群より選択される1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜硫酸排出能を有するポリペプチド
(i)52番目のアラニン、(ii)61番目のアラニン、(iii)90番目のアスパラギン、(iv)122番目のアラニン、(v)157番目のプロリン及び(vi)164番目のチロシン
〔10〕上記(b)又は(c)のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸が上記非極性アミノ酸(X)に置換されている変異型ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の259番目のロイシンに相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンである、及び/又は、423番目のセリンに相当する位置にあるアミノ酸がロイシンである、上記〔8〕に記載の変異型ポリペプチド。
〔11〕上記変異型ポリペプチドが、上記(a)又は上記(b1)のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸が上記非極性アミノ酸(X)に置換され、かつ、259番目のロイシンに相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンに置換、及び/又は、423番目のセリンに相当する位置にあるアミノ酸がロイシンに置換されている変異型ポリペプチドである、上記〔10〕に記載の変異型ポリペプチド。
〔12〕上記〔8〕~〔11〕のいずれかに記載の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0015】
〔13〕被験酵母における、上記〔8〕~〔11〕のいずれかに記載の変異型ポリペプチドの発現を検出又は測定することを含む、酵母の亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能を評価する方法。
〔14〕被験酵母における、上記〔12〕に記載のポリヌクレオチドの発現を検出又は測定することを含む、酵母の亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能を評価する方法。
〔15〕上記〔12〕に記載のポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて設計したプライマー又はプローブを用いて、酵母の亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能を評価する方法。
〔16〕被験酵母における、上記〔8〕~〔11〕のいずれかに記載の変異型ポリペプチドの発現を検出又は測定することを含む、亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母を選択する方法。
〔17〕被験酵母における、上記〔12〕に記載のポリヌクレオチドの発現を検出又は測定することを含む、亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母を選択する方法。
〔18〕上記ポリヌクレオチドの発現が検出された被験酵母、又は、上記ポリヌクレオチドの発現量が基準酵母よりも多い被験酵母を、亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母として選択する上記〔17〕に記載の亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母を選択する方法。
〔19〕上記〔12〕に記載のポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて設計したプライマー又はプローブを用いて、亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母を選択する方法。
【0016】
〔20〕変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその一部を含むポリヌクレオチドが導入された酵母形質転換体であって、上記変異型ポリペプチドは、上記(a)~(c)のいずれかに記載のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸がバリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換されている変異型ポリペプチドであり、上記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの一部は、上記変異型ポリペプチド中の、配列番号2の19番目に相当する位置にある上記非極性アミノ酸(X)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである、酵母形質転換体。
〔21〕上記(b)又は(c)のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸が上記非極性アミノ酸(X)に置換されている変異型ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の259番目のロイシンに相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンである、及び/又は、423番目のセリンに相当する位置にあるアミノ酸がロイシンである、上記〔20〕に記載の酵母形質転換体。
〔22〕上記変異型ポリペプチドを高発現する上記〔20〕又は〔21〕に記載の酵母形質転換体。
〔23〕亜硫酸還元が抑制されている上記〔20〕~〔22〕のいずれかに記載の酵母形質転換体。
【0017】
〔24〕変異型ポリペプチド又はそれをコードするポリヌクレオチドを含む酵母により麦汁を発酵させる工程を含むビールの製造方法であって、上記変異型ポリペプチドは、上記(a)~(c)のいずれかに記載のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸がバリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換されている変異型ポリペプチドである、ビールの製造方法。
〔25〕上記酵母は、上面発酵酵母である上記〔24〕に記載のビールの製造方法。
〔26〕上記(b)又は(c)のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸が上記非極性アミノ酸(X)に置換されている変異型ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の259番目のロイシンに相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンである、及び/又は、423番目のセリンに相当する位置にあるアミノ酸がロイシンである、上記〔24〕又は〔25〕に記載のビールの製造方法。
〔27〕上記酵母は、上記変異型ポリペプチドを高発現する上記〔24〕~〔26〕のいずれかに記載のビールの製造方法。
〔28〕上記酵母は、亜硫酸還元が抑制されている上記〔24〕~〔27〕のいずれかに記載のビールの製造方法。
〔29〕亜硫酸を1ppm以上含むエールビール。
〔30〕亜硫酸を1ppm以上含み、「エール」の表示が付されたビール。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酵母の亜硫酸生成能を向上させることができる。本発明によれば、酵母の亜硫酸耐性能を向上させることができる。また、本発明によれば、亜硫酸排出能が向上した変異型ポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチドを提供することができる。また、本発明によれば、酵母の亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能を評価することができ、亜硫酸生成能が高い酵母及び亜硫酸耐性能が高い酵母を選択することができる。本発明により提供される亜硫酸生成能が高い酵母を酒類の製造に用いることにより、製品中の亜硫酸含量を増加させることができる。これにより、香味安定性に優れるビール等の酒類を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)WEIHENSTEPHAN 34/70株(WH34/70株)のSbSSU1のアミノ酸配列(上段)と、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)S288C株のScSSU1のアミノ酸配列(下段)との配列アラインメントを示す図である。
【
図2】
図2は、ScSSU1又はその変異体をコードするDNAを導入した形質転換体、及び、SbSSU1又はその変異体をコードするDNAを導入した形質転換体の亜硫酸生成能の評価結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、ScSSU1又はその変異体をコードするDNAを導入した形質転換体、及び、SbSSU1又はその変異体をコードするDNAを導入した形質転換体の亜硫酸耐性能の評価結果を示す写真である。
【
図4】
図4は、ScSSU1若しくはその変異体、又は、SbSSU1をコードするDNAを導入した形質転換体の亜硫酸生成能の評価結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)EO001株、WH34/70株及びサッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)EOY005株(EOY005株)の亜硫酸生成能の評価結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、WH34/70株及びEOY005株の亜硫酸耐性能の評価結果を示す写真である。
【
図7】
図7は、EOY005株のSbSSU1のアミノ酸配列(上段)と、WH34/70株のSbSSU1のアミノ酸配列(下段)との配列アラインメントを示す図である。
【
図8】
図8は、ScSSU1、SbSSU1又はその変異体をコードするDNAを導入した形質転換体の亜硫酸生成能の評価結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、ScSSU1、SbSSU1又はその変異体をコードするDNAを導入した形質転換体の亜硫酸耐性能の評価結果を示す写真である。
【
図10】
図10は、qPCRによるScSSU1遺伝子の発現解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<変異型ポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチド>
本発明の変異型ポリペプチドは、下記(a)~(c)のいずれかに記載のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸がバリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換されている変異型ポリペプチドである。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、19番目のメチオニン以外の領域中に1~9個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜硫酸排出能を有するポリペプチド
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、亜硫酸排出能を有するポリペプチド
本明細書中、アミノ酸の番号は、N末端からのアミノ酸番号である。
【0021】
本明細書中、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニン(メチオニン残基)に相当する位置にあるアミノ酸(アミノ酸残基)とは、比較対象のポリペプチドのアミノ酸配列(一次構造)について、配列番号2のアミノ酸配列(基準のアミノ酸配列)とアミノ酸配列の相同性に基づくアラインメントを行った場合に、配列番号2のアミノ酸配列中の19番目に対応する位置のアミノ酸を意味する。従って、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸とは、配列番号2では19番目のメチオニンであるが、配列番号2に示すアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列のポリペプチドにおいては、19番目とはならない場合がある。配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目以外のアミノ酸(例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列の259番目のロイシン、423番目のセリン)に相当する位置にあるアミノ酸についても、同様である。
本明細書中、アミノ酸配列における配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置を、「配列番号2の19番目に相当する位置」ともいう。同様に、アミノ酸配列における配列番号2に示されるアミノ酸配列の259番目のロイシンに相当する位置及び423番目のセリンに相当する位置を、それぞれ「配列番号2の259番目に相当する位置」、「配列番号2の423番目に相当する位置」ともいう。
【0022】
配列番号2の19番目に相当する位置のアミノ酸を、上記(a)~(c)等の任意のポリペプチドにおいて特定することは、容易である。
配列番号2の19番目に相当する位置のアミノ酸の特定は、例えば、ClustalWのような既知の配列比較プログラムを用いて行うことができる。ClustalWは、通常、デフォルトパラメーターを用いることができる。ClustalWは、日本DNAデータバンク(Data Bank of Japan:DDBJ)、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI)等のウェブサイトから利用することができる。比較を行いたい2つのポリペプチドのアミノ酸配列を入力してプログラムを実行することによって、アミノ酸配列の相同性に基づくアラインメントを行うことができる。ここで、配列番号2のアミノ酸配列を、2つのポリペプチドの1つとして入力することによって、任意のポリペプチドの特定位置の残基が、配列番号2のポリペプチドにおいてどの位置に相当するかを容易に特定することができる。任意のポリペプチドにおける配列番号2の259番目に相当する位置、423番目に相当する位置についても同様である。
【0023】
上記(a)~(c)のポリペプチドは、亜硫酸排出能を有するポリペプチド(タンパク質)であり、亜硫酸トランスポーターということもできる。本明細書中、上記(a)~(c)のポリペプチドを、非変異型ポリペプチドともいう。
【0024】
後掲の実施例に示されるように、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)が保持するサッカロミセス・ユウバヤヌス由来のSbSSU1(Sb型SSU1遺伝子にコードされる亜硫酸排出能を有するポリペプチド)において、配列番号2の19番目に相当する位置にあるバリン残基が高い亜硫酸排出能に大きく寄与していることが見出された。そして、配列番号2のアミノ酸配列において、19番目のメチオニンをバリンに置換する変異(M19V)を導入した変異型ポリペプチドでは、変異導入前(配列番号2のポリペプチド)と比較して亜硫酸排出能が向上し(増強され)、該変異型ポリペプチドを発現させた酵母の亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能(亜硫酸耐性)が向上することが見出された。また、配列番号2のアミノ酸配列において、19番目のメチオニンを、アラニン、イソロイシン、グリシン又はロイシンに置換する変異(M19A、M19I、M19G又はM19L)を導入した変異型ポリペプチドでも、変異導入前(配列番号2のポリペプチド)と比較して亜硫酸排出能が向上し、該変異型ポリペプチドを発現させた酵母の亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能が向上することが見出された。
【0025】
本発明の変異型ポリペプチドは、上記(a)~(c)のいずれかに記載のポリペプチド(非変異型ポリペプチド)において、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸が、バリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチド(タンパク質)である。本発明において、非極性アミノ酸(X)は、バリン、アラニン、イソロイシン、グリシン、ロイシンであり、変異型ポリペプチドの亜硫酸排出能がより高くなる観点から、好ましくは、バリン、アラニン、イソロイシン、グリシンであり、より好ましくはバリン、アラニン、イソロイシンであり、さらに好ましくは、バリンである。本発明の変異型ポリペプチドは、上記(a)~(c)のいずれかに記載のポリペプチドにおいて、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸が、バリンに置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチドであることが特に好ましい。本発明の変異型ポリペプチドは、このように配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸が非極性アミノ酸(X)であることにより、該位置にあるアミノ酸が非極性アミノ酸(X)に置換されていないポリペプチド(非変異型ポリペプチド)と比較して、亜硫酸排出能が高い。本発明の変異型ポリペプチドは、亜硫酸排出能を有し、変異型亜硫酸トランスポーターということもできる。
【0026】
本明細書中、ポリペプチドの亜硫酸排出能は、細胞内(好ましくは、酵母の細胞内)の亜硫酸を細胞外へ排出する機能であり、亜硫酸トランスポーター活性ということもできる。ポリペプチドが亜硫酸排出能を有することは、例えば、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入して発現させた酵母と、該ポリヌクレオチドを導入していない酵母(コントロール)とについて亜硫酸生成能を比較することにより確認することができる。ポリペプチドが亜硫酸排出能を有する場合、該ポリペプチドを発現させた酵母は、コントロールの酵母と比較して亜硫酸生成能が向上する。酵母の亜硫酸生成能は、酵母を培養し、培地中の亜硫酸濃度を測定することによって評価することができる。培地中の亜硫酸濃度は、例えば、J. W. Buechsenstein, C. S. Ough Am J Enol Vitic. January 1978 29: 161-164に記載の方法により測定することができる。亜硫酸濃度は、市販の亜硫酸測定キット(例えば、F-キット 亜硫酸((株)JKインターナショナル))を用いて測定することもできる。
【0027】
配列番号2に示すアミノ酸配列は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のScSSU1(Sc型SSU1遺伝子にコードされる亜硫酸排出能を有するポリペプチド)のアミノ酸配列の一例である。上記(b)及び/又は(c)のポリペプチドは、例えば、天然に存在する配列番号2のポリペプチド(上記(a)のポリペプチド)の変異体であってよい。(b)及び/又は(c)のポリペプチドは、公知の部位特異的変異導入法等の手法を用いて、人為的に取得することができるものであってもよい。
【0028】
本明細書中、アミノ酸配列において、1~9個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は付加されたとは、同一配列中の任意かつ1~9のアミノ酸配列中の位置において、1~9個のアミノ酸(アミノ酸残基)の欠失及び/又は置換及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換及び付加のうち2以上が同時に生じていてもよい。
上記(b)のポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列((a)のアミノ酸配列)において、19番目以外の領域中に好ましくは1~8個(より好ましくは1~7個、1~6個、1~5個又は1~4個、さらに好ましくは1~3個、1~2個又は1個)のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は付加された配列からなる。
【0029】
上記(b)のポリペプチドとして、例えば、(b1)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、以下の(i)~(vi)からなる群より選択される1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜硫酸排出能を有するポリペプチドが好ましい。
(i)52番目のアラニン、(ii)61番目のアラニン、(iii)90番目のアスパラギン、(iv)122番目のアラニン、(v)157番目のプロリン及び(vi)164番目のチロシン
【0030】
上記(i)~(vi)のアミノ酸が置換される他のアミノ酸は特に限定されない。(b1)のポリペプチドのアミノ酸配列の一例として、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、(i-1)52番目のアラニンのトレオニンへの置換(A52T)、(ii-1)61番目のアラニンのトレオニンへの置換(A61T)、(iii-1)90番目のアスパラギンのセリンへの置換(N90S)、(iv-1)122番目のアラニンのセリンへの置換(A122S)、(v-1)157番目のプロリンのセリンへの置換(P157S)及び(vi-1)164番目のチロシンのヒスチジンへの置換(Y164H)の(i-1)~(vi-1)からなる群より選択される1~6の置換を有するアミノ酸配列が挙げられる。
【0031】
(b1)のポリペプチドの好ましい態様の一例として、例えば、以下の(b1-1)、(b1-2)のポリペプチド等が挙げられる。
(b1-1)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、52番目のアラニンがトレオニンに、90番目のアスパラギンがセリンに、122番目のアラニンがセリンに、157番目のプロリンがセリンに及び164番目のチロシンがヒスチジンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド(配列番号2に示されるアミノ酸配列中に、A52T、N90S、A122S、P157S及びY164Hのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド)
(b1-2)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、52番目のアラニンがトレオニンに、61番目のアラニンがトレオニンに、90番目のアスパラギンがセリンに、122番目のアラニンがセリンに、157番目のプロリンがセリンに及び164番目のチロシンがヒスチジンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド(配列番号2に示されるアミノ酸配列中に、A52T、A61T、N90S、A122S、P157S及びY164Hのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド)
(b1-1)及び(b1-2)のアミノ酸配列は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のScSSU1のアミノ酸配列である。
【0032】
上記(c)の配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、同一性(配列同一性)は、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらにより好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。
上記(c)のポリペプチドは、そのアミノ酸配列における配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸が、非極性アミノ酸(X)以外のアミノ酸であることが好ましく、バリン以外のアミノ酸であることがより好ましい。一態様において、上記(c)のポリペプチドのアミノ酸配列として、配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目に相当するアミノ酸がメチオニンであるアミノ酸配列が好ましい。
【0033】
アミノ酸配列や塩基配列の配列同一性は、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 872264-2268,1990;Proc Natl Acad Sci USA 90:5873,1993)を用いて決定できる。BLASTを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いることができる。
【0034】
一態様において、本発明の変異型ポリペプチドとして、例えば、(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド又は(b1)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、上記(i)~(vi)からなる群より選択される1~6個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜硫酸排出能を有するポリペプチドにおいて、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸が非極性アミノ酸(X)(好ましくはバリン)に置換されている変異型ポリペプチドが好ましい。上記(a)又は(b1)のポリペプチドにおいて、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸が、非極性アミノ酸(X)に置換されているアミノ酸配列からなる変異型ポリペプチドは、亜硫酸排出能の向上の点で好ましい。
一態様において、本発明の変異型ポリペプチドは、配列番号37~46に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドでないことが好ましい。本発明の変異型ポリペプチドは、配列番号39に示されるアミノ酸配列において、251番目のグルタミン及び/又は291番目のアルギニンが他のアミノ酸に置換された以下のポリペプチドでないことも好ましい。
配列番号39に示されるアミノ酸配列において、251番目のグルタミンがグルタミン以外の任意のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド;配列番号39に示されるアミノ酸配列において、291番目のアルギニンがアルギニン以外の任意のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド;配列番号39に示されるアミノ酸配列において、251番目のグルタミンがグルタミン以外の任意のアミノ酸に置換され、291番目のアルギニンがアルギニン以外の任意のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【0035】
例えば、上記(a)のポリペプチドにおいて、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸が非極性アミノ酸(X)に置換されている変異型ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンが、非極性アミノ酸(X)に置換されたアミノ酸配列からなる変異型ポリペプチドと表すこともできる。
上記(b)のポリペプチドにおいて、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸がバリンに置換されている変異型ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンが非極性アミノ酸(X)に置換されたアミノ酸配列において、上記19番目以外の領域中に1~9個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜硫酸排出能を有する変異型ポリペプチドと表すこともできる。
上記(c)のポリペプチドにおいて、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸がバリンに置換されている変異型ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸が、非極性アミノ酸(X)に置換されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜硫酸排出能を有する変異型ポリペプチドと表すこともできる。
【0036】
亜硫酸排出能向上の観点から、本発明の変異型ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の259番目のロイシンに相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンである、及び/又は、配列番号2に示されるアミノ酸配列の423番目のセリンに相当する位置にあるアミノ酸がロイシンであることが好ましい。より好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の259番目に相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンであり、かつ、配列番号2に示されるアミノ酸配列の423番目に相当する位置にあるアミノ酸がロイシンである。
このような変異型ポリペプチドとして、上記(b)又は(c)のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸が非極性アミノ酸(X)に置換されている変異型ポリペプチドとして、259番目のロイシンに相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンである、及び/又は、423番目のセリンに相当する位置にあるアミノ酸がロイシンである、変異型ポリペプチドが挙げられる。
上記変異型ポリペプチドは、上記(a)~(c)のいずれかの非変異型ポリペプチドにおいて、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸が非極性アミノ酸(X)に置換され、かつ、259番目のロイシンに相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンに置換、及び/又は、423番目のセリンに相当する位置にあるアミノ酸がロイシンに置換されている変異型ポリペプチドと記載することもできる。
後記の実施例に示されるように、SbSSU1では、配列番号2の19番目に相当する位置にあるバリンが高い亜硫酸排出能に寄与しているが、さらに配列番号2の259番目に相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンである、及び/又は、423番目のセリンに相当する位置にあるアミノ酸がロイシンであると、亜硫酸排出能がより向上する。
亜硫酸排出能向上の観点から、変異型ポリペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の259番目に相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンであることが好ましく、259番目に相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンであり、かつ、423番目のセリンに相当する位置にあるアミノ酸がロイシンであることがより好ましい。
【0037】
一態様において、亜硫酸排出能向上の観点から、本発明の変異型ポリペプチドとして、上記(a)又は上記(b1)のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸が非極性アミノ酸(X)に置換され、かつ、259番目のロイシンに相当する位置にあるアミノ酸がメチオニンに置換、及び/又は、423番目のセリンに相当する位置にあるアミノ酸がロイシンに置換されている変異型ポリペプチドも好ましい。(b1)のポリペプチドの好ましい態様は上記の通りである。
【0038】
本発明の変異型ポリペプチドは、例えば、公知の遺伝子工学的手法又は合成手法によって製造することができる。例えば遺伝子工学的手法を用いた製法においては、変異型ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAを含む発現ベクターにより形質転換された宿主細胞を培養し、当該培養物から目的のポリペプチドを採取することにより本発明の変異型ポリペプチドを得ることができる。形質転換細胞等からの変異型ポリペプチドの抽出及び精製、又は、合成ポリペプチドの製造は、それ自体公知の方法に従って行われて良い。また、本発明の変異型ポリペプチドは、上述した非変異型ポリペプチドを改変して、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸を非極性アミノ酸(X)に置換することによって製造することができる。亜硫酸排出能向上の観点から、非変異型ポリペプチドの配列番号2の259番目に相当するアミノ酸がメチオニン以外のアミノ酸である場合には、さらに、当該アミノ酸をメチオニンに置換することが好ましい。非変異型ポリペプチドの配列番号2の423番目に相当するアミノ酸がロイシン以外のアミノ酸である場合には、当該アミノ酸をロイシンに置換することが好ましい。このようなアミノ酸の置換は、公知の部位特異的変異導入法により行うことができる。本発明の変異型ポリペプチドは、後述する酵母に変異を導入して亜硫酸生成能が高い酵母を製造する方法等により得られる酵母から単離することもできる。
【0039】
本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも、本発明に包含される。本明細書中、ポリヌクレオチドとは、DNA又はRNAを意味する。ポリヌクレオチドは、好ましくはDNAである。本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、単に本発明のポリヌクレオチドともいう)は、変異型ポリペプチドのみをコードするポリヌクレオチドであってもよく、非翻訳領域、シグナルペプチドをコードする領域等を含んでいてもよい。本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、cDNAであってよい。本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、変異型亜硫酸トランスポーター遺伝子ということもできる。
【0040】
本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法又は公知の合成手法によって取得することが可能である。本発明のポリヌクレオチドの塩基配列は、例えば、変異型ポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて、対応するコドンに置き換えることで設計可能である。
【0041】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば、上記の非変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下では、非変異型ポリヌクレオチドともいう)の塩基配列において、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸をコードする塩基配列を、非極性アミノ酸(X)をコードする塩基配列に置換する変異を導入することによって調製することもできる。
非変異型ポリヌクレオチドは、上記(a)~(c)のいずれかのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであればよい。非変異型ポリヌクレオチドとして、具体的には、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;配列番号2に示されるアミノ酸配列において、19番目のメチオニン以外の領域中に1~9個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、亜硫酸排出能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、亜硫酸排出能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
【0042】
配列番号1に示す塩基配列は、上記(a)の配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの塩基配列である。例えば、(a)のポリペプチドにおいて、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸がバリンに置換されている変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列として、配列番号1に示す塩基配列において、配列番号2のアミノ酸配列の19番目のメチオニンをコードする塩基配列(55~57番目のatg)を、置換後のバリンをコードする塩基配列(gtc、gta、gtg又はgtt)に置換した塩基配列が挙げられる。
このような塩基配列を有する本発明のポリヌクレオチドを発現させることにより、上述した本発明の変異型ポリペプチドが得られる。非変異型ポリヌクレオチドに目的の変異を導入する方法は特に限定されず、任意の部位特異的変異導入法、例えば、インバースPCR法等のPCRによる変異導入等を用いることができる。
【0043】
非変異型ポリヌクレオチドは、例えば、酵母から公知の方法により取得することができる。例えば、配列番号2の非変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであれば、酵母からゲノムDNAを抽出し、配列番号1の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いたPCRにより、目的とする塩基配列を有するポリヌクレオチドを増幅し、さらに増幅したポリヌクレオチドを精製することにより配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを取得することができる。また、非変異型ポリヌクレオチドは、例えば、非変異型ポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて、対応するコドンに置き換えることで設計可能である。
【0044】
本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、例えば、本発明の変異型ポリペプチドを発現するベクター又は酵母形質転換体の製造、酵母の亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能の改変、酵母の亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能の評価、亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母の選択等に好適に使用され得る。
【0045】
<亜硫酸排出能を有するポリペプチドの亜硫酸排出能を向上させる方法>
上記(a)~(c)のいずれかのポリペプチドに対して、そのアミノ酸配列中の配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸をバリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換する変異を導入することにより、該変異を導入する前と比較して、該ポリペプチドの亜硫酸排出能を向上させることができる。このような方法も本発明の1つである。このような変異は、上記(a)~(c)のいずれかのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対して、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸の非極性アミノ酸(X)への置換を引き起こす変異を導入することにより行うことができる。非極性アミノ酸(X)の好ましい態様は上述した通りであり、バリンが特に好ましい。上記非変異型ポリペプチドにおいて、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸を非極性アミノ酸(X)に置換する変異を、19X変異ともいう。亜硫酸排出能向上の観点から、上記(a)~(c)のいずれかのポリペプチドにおいて、19X変異に加えて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の259番目に相当する位置にあるアミノ酸を、メチオニンに置換する変異、及び/又は、423番目に相当する位置にあるアミノ酸を、ロイシンに置換する変異を導入することが好ましい。上記非変異型ポリペプチドにおいて、配列番号2の259番目に相当する位置にあるアミノ酸をメチオニンに置換する変異を、259M変異ともいう。上記(a)~(c)の非変異型ポリペプチドにおいて、配列番号2の423番目に相当する位置にあるアミノ酸をロイシンに置換する変異を、423L変異ともいう。(a)~(c)のポリペプチドの配列番号2の259番目に相当する位置にあるアミノ酸がメチオニン以外のアミノ酸である場合は、259M変異を導入することが好ましい。(a)~(c)のポリペプチドの配列番号2の423番目に相当する位置にあるアミノ酸がロイシン以外のアミノ酸である場合には、423L変異を導入することが好ましい。
【0046】
<酵母形質転換体>
本発明の酵母形質転換体は、上述した本発明の変異型ポリペプチド(上記(a)~(c)のいずれかに記載のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸がバリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換されている変異型ポリペプチド)をコードするポリヌクレオチド又はその一部を含むポリヌクレオチドが導入された酵母形質転換体である。本発明の酵母形質転換体において、上記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの一部(以下、部分ポリヌクレオチドともいう)は、上記変異型ポリペプチド中の、配列番号2の19番目に相当する位置にある上記非極性アミノ酸(X)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。非極性アミノ酸(X)及びその好ましい態様は、上記と同じである。
このような酵母形質転換体は、酵母に上述した本発明のポリヌクレオチド又はその一部を含むポリヌクレオチドを導入することにより作製される。導入するポリヌクレオチドは1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0047】
上記部分ポリヌクレオチドは、上記変異型ポリペプチド中の、配列番号2の19番目に相当する位置にある非極性アミノ酸(X)をコードする塩基配列を含む。上記部分ポリヌクレオチドは、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列(変異型ポリペプチドをコードする塩基配列)の部分配列からなるポリヌクレオチドである。本発明における部分ポリヌクレオチドは、上記(a)~(c)の1以上の非変異型ポリペプチドを発現している酵母に導入された場合に、該非変異型ポリペプチドにおいて、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸を、非極性アミノ酸(X)に置換する変異(19X変異)をもたらし得るものであればよい。このような部分ポリヌクレオチドとして、例えば、導入する変異(変異型ポリペプチド中の、配列番号2の19番目に相当する位置にある非極性アミノ酸(X)をコードする塩基配列、並びに、その上流域及び下流域に、酵母ゲノム中の(a)~(c)のいずれかのポリペプチドをコードする領域と相同組換えが生じ得る長さの、該領域に相同な塩基配列を有するポリヌクレオチドが好ましい。このような部分ポリヌクレオチドとして、変異型ポリペプチド中の、配列番号2の19番目に相当する位置にある非極性アミノ酸(X)(好ましくはバリン)をコードする塩基配列、並びに、その上流域及び下流域にそれぞれ15~50塩基(より好ましくは17~30塩基、さらに好ましくは18~25塩基)の塩基配列を有するポリヌクレオチドが好ましい。このようなポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法又は公知の合成手法によって取得することが可能である。
【0048】
一態様において、本発明の酵母形質転換体は、上記(a)~(c)の1以上の非変異型ポリペプチドを発現している酵母に導入された場合に、該非変異型ポリペプチドにおいて、配列番号2の259番目に相当する位置にあるアミノ酸を、メチオニンに置換する変異(259M変異)をもたらし得るポリヌクレオチドをさらに含むことが好ましい。酵母が有する非変異型ポリペプチドにおいて、配列番号2の259番目に相当する位置にあるアミノ酸がメチオニン以外のアミノ酸である場合には、このようなポリヌクレオチドを含むことが好ましい。このようなポリヌクレオチドとして、例えば、上記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの一部を含むポリヌクレオチドであって、変異型ポリペプチド中の、配列番号2の259番目に相当する位置にあるアミノ酸としてメチオニンをコードする塩基配列、並びに、その上流域及び下流域にそれぞれ15~50塩基(より好ましくは17~30塩基、さらに好ましくは18~25塩基)の塩基配列を有するポリヌクレオチドが好ましい。
【0049】
また、本発明の酵母形質転換体は、上記(a)~(c)の1以上の非変異型ポリペプチドを発現している酵母に導入された場合に、該非変異型ポリペプチドにおいて、配列番号2の423番目に相当する位置にあるアミノ酸を、ロイシンに置換する変異(423L変異)をもたらし得るポリヌクレオチドをさらに含むことも好ましい。酵母が有する非変異型ポリペプチドにおいて、配列番号2の423番目に相当する位置にあるアミノ酸がロイシン以外のアミノ酸である場合には、このようなポリヌクレオチドを含むことが好ましい。このようなポリヌクレオチドとして、例えば、上記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの一部を含むポリヌクレオチドであって、変異型ポリペプチド中の、配列番号2の423番目に相当する位置にあるアミノ酸としてロイシンをコードする塩基配列、並びに、その上流域及び下流域にそれぞれ15~50塩基(より好ましくは17~30塩基、さらに好ましくは18~25塩基)の塩基配列を有するポリヌクレオチドが好ましい。
【0050】
本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はその一部を含むポリヌクレオチドは、本発明のポリヌクレオチド又はその一部からなるポリヌクレオチドであってよい。また、後述する酵母に導入されたポリヌクレオチドの発現を調製するその他の配列、マーカー遺伝子の配列等を含んでいてもよい。本発明のポリヌクレオチド又はその一部を含むポリヌクレオチドは、そのまま酵母に導入することができる。また、本発明のポリヌクレオチド又はその一部は、該ポリヌクレオチドが挿入されたベクター(発現ベクター)により酵母に導入されてもよい。本発明のポリヌクレオチド又はその一部を含むベクターは、酵母形質転換体の製造に好適に使用される。
【0051】
本発明のポリヌクレオチド又はその一部が挿入されるベクターは、酵母で導入された遺伝子を発現できるベクターであれば特に限定されず、例えば多コピー型プラスミド(YEp型)、単コピー型プラスミド(YCp型)、染色体DNA組み込み型プラスミド(YIp型)のいずれもが利用可能である。例えば、YEp型ベクターとしてはYEp51(J.R.Broach et al., Experimental Manipulation of Gene Expression, Academic Press, New York, 83,1983)等、YCp型ベクターとしてはYCp50(M.D.Rose et al., Gene, 60,237,1987)等、YIp型ベクターとしてはYIp5(K.Struhl et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USP,76,1035,1979)等が挙げられる。これらのプラスミドは市販されており、容易に入手することができる。実施例で使用したベクター等も使用可能である。
【0052】
ベクターは、例えば、導入される宿主(酵母)において、本発明のポリヌクレオチド又はその一部を発現可能なように、該ポリヌクレオチドを含んでいればよく、その他の構成は特に限定されない。ベクターは、酵母に導入されたポリヌクレオチドの発現を調製するその他の配列、例えば、プロモーター、オペレーター、エンハンサー、サイレンサー、リボソーム結合配列、ターミネーター等を有していてもよい。また、上記ポリヌクレオチドが導入された宿主を選択するためのマーカー遺伝子(選択マーカー)の配列を有していてもよい。酵母の遺伝子を発酵初期から構成的に発現させるためのプロモーター及びターミネーターは、酵母中で機能し、発酵液中の亜硫酸濃度に非依存的なものが好ましいが、任意の組み合わせで用いてよい。例えばプロモーターとしては、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(TDH3)遺伝子のプロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ(PGK1)遺伝子のプロモーター等が利用可能である。これらのプロモーターは公知であり容易に入手することができる。
【0053】
上記ポリヌクレオチドやベクターを宿主酵母に導入して形質転換する方法は、公知の手段に従って行ってよい。例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、CRISPR-Cas法(例えば、Woo et al., Nature Biotechnology 33, 1162-1164 (2015))等を用いることができる。
より具体的には、例えば、宿主酵母を標準酵母栄養培地(例えばYEPD培地“Genetic Engineering,vol.1,Plenum Press, New York,117(1979)”等)で、OD600nmの値が1~6となるように培養する。この培養酵母を遠心分離して集め、洗浄し、濃度約1~2Mのアルカリ金属イオン、好ましくはリチウムイオンで前処理する。この細胞を約30℃で、約60分間静置した後、導入するポリヌクレオチド(好ましくはDNA)又はベクター(約1~20μg)とともに約30℃で、約60分間静置する。ポリエチレングリコール(好ましくは約4,000ダルトンのポリエチレングリコール)を、最終濃度が約20~50%となるように加える。約30℃で、約30分間静置した後、この細胞を約42℃で約5分間加熱処理する。好ましくは、この細胞懸濁液を標準酵母栄養培地で洗浄し、所定量の新鮮な標準酵母栄養培地に入れて、約30℃で約60分間静置する。その後、必要に応じて選択マーカーとして用いる抗生物質等を含む標準寒天培地上に植えつけ、形質転換体を取得する。
その他、一般的なクローニング技術に関しては、「モレキュラークローニング第3版」、“Methods in Yeast Genitics、A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, NY)”等を参照することができる。
【0054】
形質転換の際に用いる選択マーカーとしては、醸造用酵母の場合は栄養要求性マーカーが利用できないので、G418耐性遺伝子(G418r)、銅耐性遺伝子(CUP1)“M.Marin et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,p337,1984”、セルレニン耐性遺伝子(fas2m,PDR4)(「猪腰淳嗣ら,生化学,64,p660,1992」、“M.Hussain et al., Gene,101,p149,1991”)等が利用可能である。
【0055】
本発明のポリヌクレオチド又はその一部を含むポリヌクレオチドを宿主酵母に導入する際、宿主として用いられる酵母としては、醸造用に使用可能な酵母が好ましい。醸造用に使用可能な酵母として、例えばビール、ワイン、清酒等の醸造用酵母などが挙げられる。醸造用酵母として広く用いられている任意の酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の酵母等が挙げられる。酵母は、ビール酵母が好ましく、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)がより好ましい。例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC1951、NBRC1952、NBRC1953、NBRC1954、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)WH34/70等のビール酵母が好適に使用できる。ビール酵母の中でも、上面発酵酵母が好ましい。上面発酵酵母として、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)が挙げられる。上面発酵酵母は、通常、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)と比較して亜硫酸生成能が低いが、上記ポリヌクレオチドを導入することにより、その亜硫酸生成能を向上させることができる。さらに、ウイスキー酵母(例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)NCYC90等)、ワイン酵母(例えば協会ぶどう酒用1号、3号、4号等)、清酒酵母(例えば協会酵母清酒用7号、9号等)も同様に宿主に使用できる。
【0056】
本発明の酵母形質転換体は、本発明のポリヌクレオチド又はその一部を含むポリヌクレオチドが導入されたことにより、本発明の変異型ポリペプチドを生成するものであることが好ましい。このような酵母形質転換体は、上記ポリヌクレオチドの導入により本発明の変異型ポリペプチドの発現が増強された酵母ということもできる。
例えば、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを導入した酵母形質転換体を、酵母が生育可能な培地で培養することにより、該ベクター上の本発明のポリヌクレオチドが発現して本発明の変異型ポリペプチドが生成する。また、一態様において、本発明のポリヌクレオチド又はその一部を酵母に導入すると、導入されたポリヌクレオチドと、酵母のゲノム中の上記(a)~(c)のいずれかのポリペプチドをコードする領域との間で相同組換えが起こる。これにより、上記(a)~(c)の1以上のポリペプチド中の配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸を非極性アミノ酸(X)に置換する変異(19X変異)が導入され、亜硫酸生成能の向上した酵母形質転換体、亜硫酸耐性能が向上した酵母形質転換体が得られる。亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能向上の観点から、一態様においては、上記(a)~(c)の1以上のポリペプチドにおいて、上記変異に加えて、259M変異及び/又は423L変異が導入されることが好ましい。
上述したように本発明の変異型ポリペプチドは、非変異型ポリペプチドと比較して亜硫酸排出能が高い。このため該変異型ポリペプチドを生成し、該ポリペプチドを含む酵母形質転換体は、通常形質転換前の酵母(親株)と比較して亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能が向上している。このような酵母形質転換体を用いて酒類等の製造を行うと、培養物中の亜硫酸濃度が上昇して、香味安定性等に優れた製品を製造することができる。
【0057】
亜硫酸生成能が向上する観点から、本発明の酵母形質転換体は、上記変異型ポリペプチドを高発現するものであることが好ましい。このような酵母形質転換体として、例えば、変異型ポリペプチドを高発現するプロモーター(高発現型プロモーターともいう)を有する酵母形質転換体、変異型ポリペプチドの発現を促進する転写因子(以下、単に転写因子という)の活性が高い酵母形質転換体、変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの翻訳効率が高い酵母形質転換体などが挙げられる。高発現型プロモーターは、酵母で機能するものであればよく、例えば、TDH3プロモーター等が挙げられる。例えば、上記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、高発現型プロモーターの下流に配置したベクターを酵母に導入することにより、変異型ポリペプチドを高発現する酵母形質転換体を得ることができる。転写因子の活性が高い酵母形質転換体として、転写促進活性が高い高活性型転写因子を有する酵母形質転換体が挙げられる。転写因子として、例えば、FZF1遺伝子にコードされるFZF1タンパク質が挙げられる(Avram D, et al. (1999) Yeast 15(6):473-80)。例えば、酵母形質転換体においてFZF1タンパク質の活性が高いと、変異型ポリペプチドが高発現される。FZF1タンパク質の活性が高い酵母形質転換体として、例えば、野生型のFZF1タンパク質よりも転写促進活性が高い高活性型FZF1タンパク質を有する形質転換体が挙げられる。高活性型FZF1タンパク質の一例として、野生型FZF1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号64)において、162番目のシステインがチロシンに置換された配列(配列番号66)を有する変異型FZF1タンパク質(FZF1-C162Y)が挙げられる。
【0058】
亜硫酸生成能が向上する観点から、本発明の酵母形質転換体は、亜硫酸の還元が抑制されていることが好ましい。亜硫酸の還元が抑制されると、酵母細胞内において変異型ポリペプチドの基質である亜硫酸量が増加し、亜硫酸生成能の向上につながる。酵母における亜硫酸の還元抑制は、公知の方法により行うことができる。例えば、亜硫酸の還元経路に係わるポリペプチドの発現を抑制することが挙げられる。亜硫酸の還元経路に係わるポリペプチドとして、例えば、メチオニンの合成経路に係わるMET5にコードされるポリペプチド、MET10にコードされるポリペプチド等が挙げられる(Masselot M and De Robichon-Szulmajster H (1975) Mol Gen Genet 139(2):121-32)。このようなポリペプチドの発現抑制は、公知の方法により、当該ポリペプチドをコードする遺伝子発現を抑制することにより行うことができる。亜硫酸の還元が抑制されている酵母形質転換体の一例として、このような亜硫酸の還元経路に係わるポリペプチドの発現が抑制された(好ましくは部分的に抑制された)酵母形質転換体が挙げられる。
本発明の酵母形質転換体は、上記の高発現型転写因子を有する酵母、亜硫酸還元が抑制された酵母等を宿主として得られるものであってよい。また、酵母形質転換体は、上記変異型ポリペプチドを高発現する変異、及び/又は、亜硫酸の還元を抑制する変異を酵母に導入して得られたものであってもよい。
【0059】
<酵母の亜硫酸生成能向上方法及び酵母の亜硫酸耐性能向上方法>
本発明の酵母の亜硫酸生成能向上方法(以下、単に亜硫酸生成能向上方法ともいう)及び酵母の亜硫酸耐性能向上方法(以下、単に亜硫酸耐性能向上方法ともいう)は、酵母に対して変異を導入することを含む。
本発明の亜硫酸生成能向上方法及び亜硫酸耐性能向上方法において、上記変異は、上記(a)~(c)の1以上のポリペプチド(非変異型ポリペプチド)において、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸を、バリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換する変異(19X変異)を含む。
(a)~(c)の非変異型ポリペプチド、非極性アミノ酸(X)及びこれらの好ましい態様等は上述した通りである。変異を導入するポリペプチドは(a)~(c)の1種であってもよく、2種以上であってもよい。上記変異を酵母に導入すると、酵母において、本発明の変異型ポリペプチドが生成する。変異型ポリペプチドは、通常、変異導入前の非変異型ポリペプチドと比較して亜硫酸排出能が高い。このため上記変異が導入された酵母は、該変異が導入される前と比較して、亜硫酸生成能が向上する(高くなる)。また上記変異が導入された酵母は、該変異が導入される前と比較して、亜硫酸耐性能が向上する(高くなる)。酵母に上記変異を導入することにより、変異導入前と比較して、亜硫酸生成能が向上した酵母又は亜硫酸耐性能が向上した酵母を製造することができる。亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能向上の観点から、上記変異は、259M変異及び/又は423L変異をさらに含むことが好ましい。つまり、上記ポリペプチドに、259M変異及び/又は423L変異をさらに導入することが好ましい。亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能向上の観点から、259M変異を導入することがより好ましく、259M変異及び423L変異を導入することがさらに好ましい。非変異型ポリペプチドにおいて、配列番号2の259番目に相当する位置にあるアミノ酸がメチオニン以外のアミノ酸である場合には、259M変異を導入することが好ましい。非変異型ポリペプチドにおいて、配列番号2の423番目に相当する位置にあるアミノ酸がロイシン以外のアミノ酸である場合には、423L変異を導入することが好ましい。
【0060】
変異が導入される酵母は特に限定されず、上述した酵母形質転換体を得る際に宿主として用いられる醸造用酵母等が好適に使用される。酵母は、好ましくはビール酵母であり、より好ましくは上面発酵酵母である。上記変異を導入することにより、上面発酵酵母の亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能を効果的に向上させることができる。このため本発明の方法は、上面発酵酵母の亜硫酸生成能の向上、又は、上面発酵酵母の亜硫酸耐性能の向上に好適に使用される。一態様において、変異が導入される酵母は、上記(a)~(c)の1以上のポリペプチドを含む酵母が好ましく、該ポリペプチドを含むビール酵母がより好ましく、上面発酵酵母がさらに好ましい。
【0061】
変異を導入する方法は、酵母において、該変異が導入されたポリペプチド(上述した本発明の変異型ポリペプチド)を生成させることができればよく、特に限定されない。
変異の導入は、例えば、上記(a)~(c)のいずれかのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対して、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸の非極性アミノ酸(X)への置換を引き起こす変異を導入することにより行うことができる。好ましくは、上記ポリヌクレオチドに、配列番号2の259番目に相当する位置にあるアミノ酸のメチオニンへの置換を引き起こす変異、及び/又は、配列番号2の423番目に相当する位置にあるアミノ酸のロイシンへの置換を引き起こす変異をさらに導入する。このような変異の導入には、例えば、公知の遺伝子工学的手法を適宜使用することができる。また、変異の導入には、酵母に突然変異処理を施す方法、酵母において自然変異を誘発する方法なども使用され得る。
【0062】
変異を導入するための遺伝子工学的手法は特に限定されない。例えば、上述した本発明のポリヌクレオチド(変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)又はその一部(上記の部分ポリヌクレオチド)を含むポリヌクレオチドを導入する方法、CRISPR/Cas9システム等が挙げられる。CRISPR/Cas9システムは、特定の部位に変異を導入することができる。
上記変異の導入は、例えば、酵母に上述した本発明のポリヌクレオチド又はその一部を含むポリヌクレオチドを導入することにより行うことが好ましい。導入するポリヌクレオチドは1種であってもよく2種以上であってもよい。
一態様において、酵母に本発明のポリヌクレオチド又はその一部を導入すると、導入したポリヌクレオチドと、酵母のゲノム中の上記(a)~(c)のいずれかのポリペプチドをコードする領域との間で相同組換えが起こり、該ポリペプチドの配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸を非極性アミノ酸(X)に置換する変異(19X変異)を導入することができる。259M変異及び423L変異についても同様の方法で導入することができる。また、本発明のポリヌクレオチドを酵母に導入して、該ポリヌクレオチドにコードされる変異型ポリペプチドを発現させることも、上記変異を導入することに含まれる。
本発明のポリヌクレオチド又はその一部を含むポリヌクレオチドをそのまま、又は、上述するベクターに挿入して酵母に導入し形質転換することにより、該酵母に上記変異を導入することができる。酵母に導入するポリヌクレオチドやベクター、その導入方法等は、上述した酵母形質転換体の製造に使用されるものと同じである。
本発明のポリヌクレオチドの一部を使用して上記変異を導入する方法として、CRISPR/Cas9システム等を使用することもできる。変異の導入に使用される本発明のポリヌクレオチド及びその一部は、上述したPCRによる変異導入等の方法により得ることができる。
【0063】
突然変異処理は、例えば、紫外線照射、放射線(γ線等)等の高エネルギービーム線照射等の物理的方法;EMS(エチルメタンスルホネート)、亜硝酸(応用微生物学 改訂版、村井及び荒井共編、培風館)、N-メチル-N-ニトロソグアニジン、アジ化ナトリウム等の薬剤処理による化学的方法など、いかなる方法を用いてもよい。
自然変異を誘発する方法として、例えば、亜硫酸濃度が高い培地(例えば、亜硫酸濃度が0.5~5mM)で酵母を培養して突然変異を誘発する方法が挙げられる。
【0064】
酵母に上記の変異を導入後(例えば、上記ポリヌクレオチドを導入後、突然変異処理後又は突然変異を誘発後)、変異が導入された酵母を選抜することが好ましい。選抜方法は特に限定されず、例えば、選抜培地(例えば、0.5~5mM)で培養することにより変異が導入された酵母を選抜することができる。一態様においては、上記選抜培地で生育可能な酵母を、変異が導入された酵母として選抜することができる。
【0065】
酵母に上記変異が導入されていることは、例えば、PCR法等により確認することができる。例えば、酵母からゲノムDNAを抽出し、本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて設計したプライマー又はプローブを用いて、酵母のゲノムに本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドに特異的な配列(好ましくは、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸をコードする塩基配列を含む配列)が存在するか否かを調べる。上記の特異的な配列として、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸をコードする配列に加えて、配列番号2の259番目に相当する位置にあるアミノ酸及び/又は423番目に相当する位置にあるアミノ酸をコードする塩基配列を含む配列の存在を調べることも好ましい。本発明のポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドに特異的な配列の存在が確認された酵母は、上記変異が導入されており、亜硫酸生成能や亜硫酸耐性能が向上している。プライマー又はプローブを用いて所望の塩基配列を含むポリヌクレオチドの存在を確認する方法は、公知の手法で実施することができる。このような方法として、後述する酵母の評価方法に記載の方法を使用することができる。変異が導入された酵母は、亜硫酸生成能が向上した酵母、亜硫酸耐性能が向上した酵母として好適に使用され得る。
【0066】
亜硫酸生成能、亜硫酸耐性能が向上することから、上記変異が導入された酵母は、上記変異型ポリペプチドを高発現するものであることが好ましい。また上記変異が導入された酵母は、亜硫酸還元が抑制されていることが好ましい。亜硫酸還元が抑制されている酵母では、酵母細胞内において変異型ポリペプチドの基質である亜硫酸量が増加することから、亜硫酸生成能が向上する。
変異型ポリペプチドを高発現する酵母として、上述した変異型ポリペプチドのプロモーターとして高発現型プロモーターを有する酵母、転写因子の活性が高い酵母などが挙げられる。亜硫酸還元が抑制されている酵母として、例えば、上述した亜硫酸の還元経路に係わるポリペプチドの発現が抑制されている酵母などが挙げられる。
本発明においては、上記の変異を導入する酵母として、上記変異型ポリペプチドを高発現する酵母、亜硫酸還元が抑制されている酵母を使用してもよい。また、酵母に、上記変異型ポリペプチドを高発現させる変異を導入することにより、変異型ポリペプチドを高発現させてもよい。酵母に、亜硫酸還元を抑制する変異を導入してもよい。
【0067】
上記変異型ポリペプチドを高発現させる変異を導入する方法として、酵母に上述した高発現型プロモーターを導入する、転写因子の活性を高める変異を導入する等の方法が挙げられる。酵母において転写因子の活性を高める方法として、高活性型転写因子を導入する等の方法が挙げられる。亜硫酸還元を抑制する変異を導入する方法として、例えば、上述した亜硫酸の還元経路に係わるポリペプチドの発現を抑制する方法等が挙げられる。これらの変異は、公知の方法で導入することができる。例えば、亜硫酸の還元経路に係わるポリペプチドの発現抑制は、当該ポリペプチドをコードする遺伝子発現を抑制することにより行うことができる。高発現型プロモーター、転写因子及び高活性型転写因子、亜硫酸の還元経路に関わるポリペプチドとしては、上述したものなどが挙げられる。
【0068】
<亜硫酸生成能が向上した酵母の製造方法及び亜硫酸耐性能が向上した酵母の製造方法>
本発明の亜硫酸生成能が向上した酵母の製造方法及び亜硫酸耐性能が向上した酵母の製造方法は、酵母に対して変異を導入することを含む。本発明の亜硫酸生成能が向上した酵母の製造方法及び亜硫酸耐性能が向上した酵母の製造方法を、まとめて本発明の酵母の製造方法ともいう。
本発明の酵母の製造方法における上記変異は、上述した(a)~(c)の1以上のポリペプチド(非変異型ポリペプチド)において、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸を、バリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換する変異(19X変異)を含む。変異を導入するポリペプチドは(a)~(c)の1種であってもよく、2種以上であってもよい。非変異型ポリペプチド、非極性アミノ酸(X)及びこれらの好ましい態様等は上述した通りである。酵母に導入する変異及びその好ましい態様は、上述した酵母の亜硫酸生成能向上方法において酵母に導入する変異及びその好ましい態様と同じである。亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能向上の観点から、上記変異は、259M変異及び/又は423L変異をさらに含むことが好ましい。酵母に対して変異を導入する方法は、上述した酵母の亜硫酸生成能向上方法における変異を導入する方法と同じである。変異が導入される酵母も、上述したものと同じものを使用することができ、好ましくは上面発酵酵母である。
亜硫酸生成能、亜硫酸耐性能が向上することから、上記変異が導入された酵母は、上記変異型ポリペプチドを高発現するものであることが好ましい。また上記変異が導入された酵母は、亜硫酸還元が抑制されていることが好ましい。
【0069】
本発明の酵母の製造方法では、上述した亜硫酸生成能向上方法と同様に、変異を導入後、変異が導入された酵母を選抜することが好ましい。
酵母に上記変異を導入することにより、該変異導入前と比較して、亜硫酸生成能が向上した(高い)酵母を製造することができる。亜硫酸生成能が向上した酵母は、変異導入前と比較して亜硫酸排出能が向上していることから、亜硫酸耐性能が向上している。
【0070】
<酒類の製造方法>
本発明の変異型ポリペプチド又はそれをコードするポリヌクレオチドを含み、酒類の醸造に適した酵母は、酒類の製造に好適に用いられる。このような酵母を酒類の製造に用いることによって、所望の酒類で亜硫酸含量を増加させることができる。変異型ポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチド並びにこれらの好ましい態様は、上述したものと同じである。本発明の変異型ポリペプチド又はそれをコードするポリヌクレオチドを含む酵母は、例えば、酵母(好ましくは酒類の醸造に適した酵母)に対して、上記(a)~(c)の1以上のポリペプチドにおいて、配列番号2に示されるアミノ酸配列の19番目のメチオニンに相当する位置にあるアミノ酸を、バリン、アラニン、イソロイシン、グリシン及びロイシンからなる群より選択されるいずれかの非極性アミノ酸(X)に置換する変異を導入することにより得ることができる。好ましい態様においては、上記ポリペプチドにおいて、259M変異及び/又は423L変異をさらに導入する。
上記変異が導入された酵母(例えば、上述した本発明の酵母の製造方法により得られる酵母)を酒類の製造に使用すると、所望の酒類で亜硫酸含量を増加させることができる。後述する酵母の評価方法によって亜硫酸生成能が高いと評価された酵母、後述する亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母の選択方法によって選択された酵母も同様に好適に酒類の製造に使用することができる。酒類は特に限定されないが、例えば、ビール、ワイン、ウイスキー、清酒等が挙げられ、ビールが好ましい。これらの酒類を製造する場合、変異導入前の酵母の代わりに本発明において得られた酵母を用いる以外は、公知の手法で各種類を製造することができる。本発明によれば、亜硫酸含量が多く、香味安定性等に優れた酒類を、既存の原料、施設等を用いて製造することができる。
また上記酵母が、上記変異型ポリペプチドを高発現する、及び/又は、亜硫酸還元が抑制されている酵母であると、上述したように亜硫酸生成能がより高くなる。従って、このような酵母を酒類の製造に使用すると、酒類の亜硫酸含量をより増加させることが可能となる。変異型ポリペプチドを高発現する酵母、亜硫酸還元が抑制されている酵母は、上述したものと同じである。
【0071】
上述した本発明の変異型ポリペプチド又はそれをコードするポリヌクレオチドを含む酵母により麦汁を発酵させる工程を含むビールの製造方法も、本発明に包含される。このような酵母を用いることにより、ビール中の亜硫酸含量を増加させることができる。酵母は、ビールの製造に使用可能な酵母であればよく、上述したビール酵母等が挙げられ、好ましくは上面発酵酵母である。本発明の変異型ポリペプチド又はそれをコードするポリヌクレオチドを含む酵母は、上述した本発明の酵母形質転換体であってよい。
一態様において、本発明の変異型ポリペプチド又はそれをコードするポリヌクレオチドを含む上面発酵酵母を使用し、上面発酵によりビールを製造すると、亜硫酸含量が高いエールビール(上面発酵ビール)を製造することが可能である。本発明の一態様においては、例えば、酵母に由来する亜硫酸を1ppm以上(好ましくは、2ppm以上、より好ましくは2.5ppm以上)含むエールビールを製造することが可能である。エールビールとは、上面発酵酵母を使用して、上面発酵により製造されたビールを指す。上面発酵の温度は、通常10℃以上であり、好ましくは15~30℃、より好ましくは18~25℃である。
本発明において、ビールの亜硫酸含量は、ランキン法(aeration-oxidation法)により測定される、SO2量に換算した総亜硫酸量(遊離型及び結合型の亜硫酸の合計値)を指す。本発明において、ppmはppm(w/v)である。
【0072】
<エールビール>
亜硫酸を1ppm以上含むエールビールも、本発明の一つである。亜硫酸を1ppm以上含み、「エール」の表示が付されたビールも、本発明の一つである。「エール」の表示が付されたビールは、通常、エールビールである。亜硫酸を1ppm以上含むエールビールは、例えば、エールビールの製造において、上述した本発明の変異型ポリペプチド又はそれをコードするポリヌクレオチドを含む上面発酵酵母を使用することにより製造することができる。
【0073】
亜硫酸を1ppm以上含むエールビールは、従来のエールビールよりも亜硫酸含量が多く、これにより、香味安定性に優れ、品質保持期間が長いという効果を奏する。エールビールの亜硫酸含量は、香味安定性及び品質保持期間の向上の観点から、2ppm以上が好ましく、2.5ppm以上がより好ましく、3ppm以上がさらに好ましい。ビールの香味の観点から、エールビールの亜硫酸含量は20ppm以下が好ましく、15ppm以下がより好ましい。
【0074】
<酵母の評価方法及び選択方法>
本発明は、酵母の亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能を評価する方法も包含する(単に評価方法ともいう)。本発明は、亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母を選択する方法(単に酵母の選択方法ともいう)も包含する。
一態様において、本発明の酵母の評価方法及び酵母の選択方法は、被験(被検)酵母における、本発明の変異型ポリペプチドの発現を検出又は測定することを含む。本発明の変異型ポリペプチドは非変異型ポリペプチドと比較して亜硫酸排出能が高いことから、該変異型ポリペプチドの発現が検出される酵母は、検出されない酵母と比較して亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能が高いといえる。また、該変異型ポリペプチドの発現量が多い酵母は、少ない酵母と比較して、亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能が高いといえる。変異型ポリペプチドの発現は、例えば、該変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を検出又は測定することによって、検出又は測定することができる。
【0075】
本発明においては、被験酵母における、本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を検出又は測定することによって、酵母の亜硫酸生成能及び亜硫酸排出能を評価することができる。このような被験酵母における、本発明のポリヌクレオチドの発現を検出又は測定することを含む、酵母の亜硫酸生成能又は亜硫酸排出能を評価する方法も本発明の1つである。
上記ポリヌクレオチドの発現の検出又は測定は、例えば、被験酵母における、該ポリヌクレオチドのmRNAを検出又は定量することによって行うことができる。mRNAの検出又は定量は、公知の手法によって行うことができ、例えばノーザンハイブリダイゼーションや定量的RT-PCRによって行うことができる。例えば、本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現が検出された被験酵母は、該ポリヌクレオチドが検出されない酵母と比較して、亜硫酸生成能が高いと評価することができる。また、上記ポリヌクレオチドの発現が検出された被験酵母は、該ポリヌクレオチドが検出されない酵母と比較して、亜硫酸耐性能が高いと評価することができる。一方、上記ポリヌクレオチドの発現が検出されない被験酵母は、該ポリヌクレオチドが検出された酵母と比較して、亜硫酸生成能が低いと評価することができる。この亜硫酸生成能が低いと評価された酵母は、亜硫酸耐性能が低いと評価することもできる。一態様において、ポリヌクレオチドの発現の検出又は測定は、ポリヌクレオチド又はそれがコードするポリペプチドの発現量の測定により行われることが好ましい。亜硫酸生成能が高いと評価された酵母は、例えば、上述した酒類の醸造等に好適に使用される。
【0076】
また、被験酵母における、本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を検出又は測定することによって、亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母を選択することができる。このような被験酵母における、本発明のポリヌクレオチドの発現を検出又は測定することを含む、亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母を選択する方法も本発明の1つである。一態様において、上記ポリヌクレオチドの発現が検出された被験酵母を、亜硫酸生成能が高い酵母又は亜硫酸耐性能が高い酵母として選択することができる。また、別の一態様において、基準酵母及び被験酵母における上記ポリヌクレオチドの発現量を測定し、基準酵母と被験酵母の該ポリヌクレオチドの発現量を比較して、所望の酵母を選択することもできる。例えば、被験酵母及び基準酵母における、上記ポリヌクレオチドの発現量を測定し、該ポリヌクレオチドの発現量が基準酵母よりも多い被験酵母を、亜硫酸生成能が高い酵母又は亜硫酸耐性能が高い酵母として選択することもできる。
【0077】
被験酵母又は基準酵母は、野生型の酵母、上述した本発明の酵母形質転換体、突然変異処理が施された酵母、自然変異した酵母、上述した本発明の酵母の製造方法により得られた変異が導入された酵母等のいずれであってもよい。酵母は、好ましくは上記の醸造用に使用可能な任意の酵母であり、サッカロミセス(Saccharomyces)属等の酵母が挙げられ、ビール酵母が好ましく用いられる。中でも、上面発酵酵母が好ましい。基準酵母、被験酵母は、上記酵母から任意の組合せで選択してもよい。
【0078】
本発明のポリヌクレオチドの発現の検出又は測定する方法の一態様として、該ポリヌクレオチド又はその特異的な配列を検出する方法が挙げられる。本発明のポリヌクレオチド又はその特異的な配列の検出は、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて設計したプライマー又はプローブを用いて行うことができる。
本発明は、上述した本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(本発明のポリヌクレオチド)の塩基配列に基づいて設計したプライマー又はプローブを用いて、酵母の亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能を評価する方法も包含する。本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて設計したプライマー又はプローブを用いて、亜硫酸生成能又は亜硫酸耐性能が高い酵母を選択する方法も包含する。
【0079】
プライマー又はプローブを用いる評価方法の一般的手法は公知であり、例えば、WO01/040514号公報、特開平8-205900号公報等に記載されている。以下、この評価方法の一例について簡単に説明する。
まず、被験酵母のゲノムDNAを調製する。調製方法は、Hereford法や酢酸カリウム法など、公知の如何なる方法を用いることができる(例えば、Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory Press, p130 (1990))。得られたゲノムDNAを対象にして、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列(好ましくはORF配列)に基づいて設計したプライマー又はプローブを用いて、被験酵母のゲノムにそのポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドに特異的な配列が存在するか否かを調べる。
プライマー又はプローブの設計は公知の手法を用いて行うことができる。
本発明のポリヌクレオチドに特異的な配列として、変異型ポリペプチドにおける配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸(上記の非極性アミノ酸(X)、好ましくはバリン)を含む部分配列をコードする塩基配列が挙げられる。本発明のポリヌクレオチド又はその特異的な配列が検出された被験酵母は、亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能が高いと評価される。このような被験酵母を、亜硫酸生成能が高い酵母又は亜硫酸耐性能が高い酵母として選択することができる。亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能がより高い酵母を選択する観点から、上記の塩基配列に加えて、変異型ポリペプチドにおける配列番号2の259番目に相当する位置にあるアミノ酸を含む部分配列をコードする塩基配列、及び/又は、配列番号2の423番目に相当する位置にあるアミノ酸を含む部分配列をコードする塩基配列を検出することも好ましい。配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸が非極性アミノ酸(X)(好ましくはバリン)であり、かつ、配列番号2の259番目に相当する位置にあるアミノ酸がメチオニン及び/又は423番目に相当する位置にあるアミノ酸がロイシンであると、亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能がより高い酵母と評価することができる。
【0080】
本発明のポリヌクレオチド又はその特異的な配列の検出は、公知の手法を用いて実施することができる。例えば、特異的配列の一部又は全部を含むポリヌクレオチド又はその塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドを一つのプライマーとして用い、もう一方のプライマーとしてこの配列よりも上流又は下流の配列の一部又は全部を含むポリヌクレオチド、又は、その塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドを用いて、PCR法によって酵母の核酸を増幅し、増幅物の有無、増幅物の分子量の大きさなどを測定する。プライマーに使用するポリヌクレオチドの塩基数は、10塩基以上が好ましく、15~25塩基がより好ましい。また、挟み込む部分の塩基数は、300~2000塩基が好ましい。また、挟み込む部分は、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸をコードする塩基配列を含むことが好ましい。PCR法の反応条件は、特に限定されないが、例えば、変性温度:90~95℃、アニーリング温度:40~60℃、伸長温度:60~75℃、サイクル数:10回以上などの条件を用いることができる。得られる反応生成物はアガロースゲルなどを用いた電気泳動法等によって分離され、増幅産物の分子量を測定することができる。この方法により、増幅産物の分子量が特異部分のDNA分子を含む大きさかどうかによって、その酵母の亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能について予測及び/又は評価することができる。また、増幅物の塩基配列を分析することによって、さらに上記性能についてより正確に予測及び/又は評価することが可能である。
【0081】
本発明の酵母の選択方法において選択された亜硫酸生成能が高い酵母は、例えば、上述した酒類の醸造に好適に使用される。選択された亜硫酸生成能が高い酵母は、通常亜硫酸耐性能が高い酵母として選択することもできる。亜硫酸耐性能が高い酵母は、亜硫酸濃度が高い酒類の醸造に好適に使用される。さらに、被験酵母における本発明の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現量を測定し、目的とする亜硫酸生成能に応じた該ポリヌクレオチドの発現量の被験酵母を選択することによって、所望の酒類の醸造に好適な亜硫酸生成能を有する酵母を選択することもできる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。
実施例において用いる分子生物学的手法は、特に詳述しない場合は、Molecular Cloning(Sambrookら, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 2001)に記載の方法に従った。
【0083】
<実施例1>
候補アミノ酸の抽出
サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)S288C株(以下、S288C株ともいう)のScSSU1は、ラガービール酵母であるサッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)の有するSbSSU1(Sb型SSU1遺伝子にコードされる亜硫酸排出能を有するポリペプチド)よりも亜硫酸排出能(亜硫酸排出活性)が低い。
S288C株のScSSU1のアミノ酸配列(配列番号2)と、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus) WEIHENSTEPHAN 34/70株(WH34/70株ともいう)のSbSSU1のアミノ酸配列(配列番号4)についてClustalWによりアライメントを行い、活性に寄与する候補酸残基を抽出した。ペアワイズアライメントパラメーターとしては、open gap penalty=10.0、extend gap penalty=0.1(デフォルトのパラメーター)とした。
図1は、WH34/70株のSbSSU1のアミノ酸配列(上段)と、S288C株のScSSU1のアミノ酸配列(下段)との配列アラインメントを示す図である。
アライメントの結果、SbSSU1(配列番号4)とScSSU1(配列番号2)は79%(362残基)の配列同一性を示し、両者の間に96残基の異なるアミノ酸があることが分かった(
図1)。
【0084】
<実施例2>
SSU1変異体の作出
配列番号4のSbSSU1及び配列番号2のScSSU1の間で異なるアミノ酸残基のうち、11箇所のアミノ酸(連続部分も含む)に着目し、ScSSU1にSbSSU1型のアミノ酸置換変異導入を行った。配列番号2のScSSU1をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号1に、配列番号4のSbSSU1をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を配列番号3にそれぞれ示す。
(1)ScSSU1変異体
ScSSU1変異体として、配列番号2に示すアミノ酸配列に以下のアミノ酸置換変異を導入した。以下では、置換位置の番号の前に非変異型のアミノ酸(置換前の配列番号2又は4中のアミノ酸残基)を記載し、該置換位置の番号の後に変異後のアミノ酸を記載して、アミノ酸を置換する変異を表記する(アミノ酸は、1文字表記)。例えば、19番目のメチオニンをバリンに置換する変異は、M19Vと表記する。
(1-1)1アミノ酸置換変異体
M19V(ScSSU1-M19V)
A52T(ScSSU1-A52T)
H89Y(ScSSU1-H89Y)
Y164H(ScSSU1-Y164H)
N175H(ScSSU1-N175H)
C194G(ScSSU1-C194G)
L258V(ScSSU1-L258V)
V269I(ScSSU1-V269I)
G390A(ScSSU1-G390A)
(1-2)連続変異置換変異体
110-124番目のアミノ酸を配列番号4のSbSSU1の110-124番目の配列に置換(ScSSU1(110-124))
198-216番目のアミノ酸を配列番号4のSbSSU1の198-216番目の配列に置換(ScSSU1(198-216))
【0085】
(2)サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)EOY001株(以下、EOY001株という)のScSSU1変異体
EOY001株のScSSU1(以下、ScSSU1(EOY001)という)は、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、52番目及び61番目のアラニンがトレオニンに(A52T、A61T)、90番目のアスパラギンがセリンに(N90S)、122番目のアラニンがセリンに(A122S)、157番目のプロリンがセリンに(P157S)、164番目のチロシンがヒスチジンに(Y164H)それぞれ置換されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである。ScSSU1(EOY001)のアミノ酸配列において、19番目のメチオニンをバリンに置換する変異(M19V)を導入した。
M19V(ScSSU1(EOY001)-M19V)
【0086】
(3)SbSSU1変異体
SbSSU1変異体については、配列番号4に示すアミノ酸配列に、以下のアミノ酸置換変異を導入した。
V19M(SbSSU1-V19M)
【0087】
SSU1又はSSU1変異体をコードするDNAを酵母発現ベクターに組み込むために下記のプライマーセット(配列番号5~34)を設計した。PCRによる変異導入についてはNoguchi et al 2007に倣った(Noguchi et al (2007) J. Biol. Chem. 282, 23581-23590.)。配列番号2のScSSU1及びその変異体はS288C株のゲノムDNAを鋳型にした。SbSSU1及びその変異体は、ラガー酵母であるWH34/70株のゲノムDNAを鋳型とした。また、ScSSU1(EOY001)及びその変異体については、EOY001株のゲノムDNAを鋳型にした。
【0088】
典型的なPCR条件は下記の通りである。
PCR反応液(50μL)は、酵母ゲノム(S288C株、WH34/70株又はEOY001株)1μL、PrimestarMax Premix (2x)(TaKaRaBio)、プライマー各0.4pmol/μLからなる組成とした。PCR反応は、95℃で1分間反応させた後、95℃で15秒、55℃で10秒、72℃で30秒の反応を計30サイクルの増幅を行った。PCR産物を1.2%アガロースゲルにより電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した結果、推定された目的のサイズに増幅バンドが得られたことを確認した。
【0089】
1. ScSSU1-TDH3pro-F CATTAATGCAGGTTGCGGCCGCATGGTTGCCAATTGGGTACTT(配列番号5)
2. ScSSU1-TDH3pro-R CGGGCATTTAAATGCGGCCGCTTATGCTAAACGCGTAAAATCTAGAG(配列番号6)
3. SbSSU1-TDH3pro-R CATTAATGCAGGTTGCGGCCGCATGGTCGCTAGTTGGATGCTC(配列番号7)
4. SbSSU1-TDH3pro-R GGGCATTTAAATGCGGCCGCTTATGTTAAATATGTACTATCGATAGCCG(配列番号8)
5. ScSSU1-M19V-F ATGTTTGTCATGGTCATGGGTG(配列番号9)
6. ScSSU1-M19V-R GACCATGACAAACATGAAGGGG(配列番号10)
7. ScSSU1-H89Y-FW3 CAGAAATATGAAGTACAATTTATTTTGGGGTAC(配列番号11)
8. ScSSU1-H89Y-RV3 GTACCCCAAAATAAATTGTACTTCATATTTCTG(配列番号12)
9. ScSSU1-A52T-FW GTTTGCTATCACTTGCCTTATTTTCATTGC(配列番号13)
10. ScSSU1-A52T-RV GAAAATAAGGCAAGTGATAGCAAACATG(配列番号14)
【0090】
11. ScSSU1-Y164H-FW GATTGGGAATCATCCTTCATATAATATCAAAATGG(配列番号15)
12. ScSSU1-Y164H-FW CCATTTTGATATTATATGAAGGATGATTCCCAATC(配列番号16)
13. ScSSU1-N175H-F TCCGAACACATGAAAAGTGTATTG(配列番号17)
14. ScSSU1-N175R-R TTTCATGTGTTCGGATGCCA(配列番号18)
15. ScSSU1-C194G-F TCAAGTGGTGGAACATTCACAA(配列番号19)
16. ScSSU1-C194G-R TGTTCCACCACTTGAAGCGA(配列番号20)
17. ScSSU1-L258V-F TTCCTGGTATTGGGCCCG(配列番号21)
18. ScSSU1-L258V-R GCCCAATACCAGGAATAAGGT(配列番号22)
19. ScSSU1-V269I-F TTTGGAATTTTATTGCTTACAGATAATATA(配列番号23)
20. ScSSU1-V269I-R CAATAAAATTCCAAAACTTCCTTGGC(配列番号24)
【0091】
21. ScSSU1-G390A-FW2 GCATTTAGAGTCCTAGCAACCATATACG(配列番号25)
22. ScSSU1-G390A-RV2 CGTATATGGTTGCTAGGACTCTAAATGC(配列番号26)
23. ScSSU1-110-124Sense ACTGTCACAAAAATTTACCACGACAAGCCCTGCGAATGCCAAGCACTTG(配列番号27)
24. ScSSU1-110-124AntiS CAAGTGCTTGGCATTCGCAGGGCTTGTCGTGGTAAATTTTTGTGACAGT(配列番号28)
25. ScSSU1-110-124-F AATGCCAAGCACTTGATGATATTTGTTTACGTCTTGTG(配列番号29)
26. ScSSU1-110-124-R AAATTTTTGTGACAGTGCTCCTAAGAAATTTATAATTGTAAC(配列番号30)
27.ScSSU1-198-216Sense CAAAAATATTCGGTACCACTTTTGATAGGAATATTCAATTGCTAACACTG(配列番号31)
28.ScSSU1-198-216AntiS CAGTGTTAGCAATTGAATATTCCTATCAAAAGTGGTACCGAATATTTTTG(配列番号32)
29. ScSSU1-198-216-F CAATTGCTAACACTGGTCATATGTGCCTTAACG(配列番号33)
30. ScSSU1-198-216-R GGTACCGAATATTTTTGACATTGTGAATGTTCCACA(配列番号34)
31.SbSSU1-V19M-F CCTTTCATGTTTATGATGGTTATGG(配列番号35)
32.SbSSU1-V19M-R AACCATCATAAACATGAAAGGGTT(配列番号36)
【0092】
1アミノ酸置換変異体をコードするDNAを含むプラスミドについては、以下のように調製した。例えばM19V(ScSSU1-M19V)については、上記の1+6のプライマーセット(配列番号5及び配列番号10)でS288C株のゲノムDNAを鋳型としてPCRして得られたDNA断片、2+5のプライマーセット(配列番号6及び配列番号9)でPCRして得られたDNA断片(鋳型はS288C株のゲノムDNA)、及び、酵母発現ベクターYCpG-TDH3ptベクター(特開2016-077160号公報)をStuIで消化した断片、の合計3断片をGeneArt Seamless(Thermoscientific)で連結して、ScSSU1-M19V変異体をコードするDNAを含むプラスミドを得た。その他の変異体をコードするDNAを含むプラスミドも同様にして調製した。
ScSSU1(EOY001)-M19VをコードするDNAを含むプラスミドは、S288C株のゲノムDNAの代わりに、EOY001株のゲノムDNAを鋳型として用いた以外は、上記のScSSU1-M19VをコードするDNAを含むプラスミドの調製と同じ方法で調製した。
【0093】
連続置換変異体ScSSU1(110-124)については、上記の23と24(配列番号27及び配列番号28)をアニーリングさせたDNA断片、1+26のプライマーセット(配列番号5及び配列番号30)でPCRして得られたDNA断片(鋳型はS288C株のゲノムDNA)、2+25のプライマーセット(配列番号6及び配列番号29)でPCRして得られたDNA断片(鋳型はS288C株のゲノムDNA)、及び、YCpG-TDH3ptベクターをStuIで消化した断片、合わせて4断片をGeneArt Seamless(Thermoscientific)で連結して、ScSSU1(110-124)をコードするDNAを含むプラスミドを得た。連続置換変異体ScSSU1(198-216)をコードするDNAを含むプラスミドについても同様にして調製した。
【0094】
得られたプラスミドから、各変異体をコードするDNA断片を酵母発現用YCpG_TDH3ptベクターにサブクローニングして発現ベクターを得た。この発現ベクターについて、DNA Sequencer model 3100(Applied Biosystems)を用い、合成オリゴヌクレオチドプライマーによるプライマーウォーキング法によって配列を決定し、目的の遺伝子及び変異のみが導入されていることを確認した。本発現ベクターにおいてはTDH3遺伝子のプロモーターの下流に導入遺伝子が挿入されることで、構成的に挿入された遺伝子が発現する。
【0095】
<実施例3>
酵母の形質転換
サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)EOY002株(以下、EOY002株ともいう)を宿主として、酢酸リチウム法で、上記で作製したSSU1(ScSSU1又はSbSSU1)又はその変異体をコードするDNAを含む発現ベクター(プラスミド)を用いて形質転換した。形質転換株として、YPD+G418寒天培地(1Lあたり、グルコース20g、Yeast extract 10g、ペプトン20g、Bacto agar20g、G418硫酸塩20μg/mL)で生育するものを選抜した。
各プラスミドを保持したEOY002形質転換体を、G418硫酸塩を20μg/mL含むYPD培地(1Lあたり、グルコース20g、Yeast extract 10g、ペプトン20g)で一晩、30℃で培養した。1×107cellsの菌体を10mLのSSY培地(1Lあたり、グルコース10g、マルトース60g、Yeast extract 5g、ペプトン10g)に移し、20℃で3日間振とう培養した。3日後、上清を回収した。
上清の亜硫酸の測定はF-キット 亜硫酸((株)JKインターナショナル)を用い、プロトコルに従って測定した。この測定方法は、溶存している亜硫酸を亜硫酸オキシダーゼと反応させ、生成された過酸化水素を還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の存在下、NADHペルオキシダーゼで還元し、減少するNADHを340nmの吸光度変化により求めることで、亜硫酸を定量する方法である。実施例中、亜硫酸は、SO2量に換算した量で求めた。F-キット 亜硫酸で測定した亜硫酸測定結果は、基準株のSO2量を1とした比で表した。
【0096】
SSU1の亜硫酸生成能の評価結果
図2は、ScSSU1又はその変異体をコードするDNAを導入した形質転換体、及び、SbSSU1又はその変異体をコードするDNAを導入した形質転換体の亜硫酸生成能の評価結果を示す図である。
図2に示す結果は、S288C株のScSSU1(配列番号2)を導入した形質転換体(ScSSU1)の亜硫酸生成量(培地上清中の亜硫酸濃度)を1とした、各形質転換体の亜硫酸生成量の比(濃度比)である。S288C株のScSSU1を導入した形質転換体(ScSSU1)の亜硫酸生成量を1とした場合、空ベクターであるYCpG_TDH3ptベクターで形質転換した酵母(コントロール)では約0.3程度の相対活性が見られ、これが酵母のバックグラウンドレベルであった(
図2)。それに対してSbSSU1(配列番号4)を導入した形質転換体(SbSSU1)は、ScSSU1に対して約2.2倍の相対活性を示し、ラガー酵母の高い亜硫酸生成に大きく寄与していると考えられる。
次に、ScSSU1の19番目のMet残基をValに置換した変異体を導入した形質転換体(ScSSU1-M19V)を評価したところ、ScSSU1の約1.8倍の亜硫酸生成を検出した。
同様にEOY001株由来のScSSU1(EOY001)(S288C株由来のSSU1と比べ6か所のアミノ酸多型を有する(A52T、A61T、N90S、A122S、P157S、Y164H))についてもM19V変異を導入したところ、M19Vを導入しない元々のScSSU1(EOY001)に比べ約1.9倍の高い相対活性を示した。したがってScSSU1の亜硫酸排出能(亜硫酸排出活性)を、例えばSbSSU1並に高めるためにはM19V変異が重要であることが明らかとなった。
逆に、SbSSU1の19番目のVal残基をMetに置換した変異体を導入した形質転換体(SbSSU1-V19M)について評価したところ、ScSSU1と同程度の低い亜硫酸生成活性を示した。従って、SbSSU1の高い亜硫酸排出能を19番目のVal残基が大きく担っていることが示された。
その他の10種のScSSU1変異体では元のScSSU1とあまり活性の変化が認められなかったため、これらは単独では亜硫酸生成にほとんど寄与していないと予想された。
【0097】
<実施例4>
SSU1の亜硫酸耐性の評価系(培地)
実施例3で作製した一部の株(形質転換体)を、ピロ亜硫酸カリウム(K2S2O5)を含む培地で培養することにより、亜硫酸耐性を評価した。
ピロ亜硫酸カリウムを含む培地の組成は以下である。SD寒天培地(1Lあたり、グルコース20g、Yeast nitrogen base 6.7g、Bacto agar 20g)にピロ亜硫酸カリウムを1mM、3mM、5mMになるように添加した。
G418硫酸塩を20μg/mL含むYPD培地(1Lあたり、グルコース20g、Yeast extract 10g、ペプトン20g)で一晩、30℃で各形質転換体を培養した。培養後、上記のピロ亜硫酸カリウムを含む培地に、1×106cells/mL、1×105cells/mL、1×104cells/mLの菌体液をそれぞれ3μLスポットした。30℃で3日間培養した。
【0098】
SSU1の亜硫酸耐性の評価(結果)
図3に、ScSSU1又はその変異体をコードするDNAを導入した形質転換体、及び、SbSSU1又はその変異体をコードするDNAを導入した形質転換体の亜硫酸耐性能の評価結果を示す。
図3は、各形質転換体をピロ亜硫酸カリウム濃度0mM又は5mMで3日間培養後のプレートの写真である(菌数(スポットした菌体液の1mLあたり)は、左から1×10
6cells、1×10
5cells、1×10
4cells)。
ネガティブコントロール区の空ベクターを保持している酵母(コントロール)については5mMピロ亜硫酸カリウムを含む培地では生育できなかったが、ScSSU1(配列番号2)を構成的に発現させた酵母(ScSSU1)については菌数を増やすと生育が確認できた(
図3)。ScSSU1を構成的に発現させた酵母は5mMピロ亜硫酸カリウムを含む培地では生育阻害が確認されたが、SbSSU1(配列番号4)を発現させた酵母(SbSSU1)はピロ亜硫酸カリウムを含まない対照区(0mM)と同程度の増殖を示した。したがって、亜硫酸生成能は外部からの亜硫酸の排出にも寄与することが確認された。
先述の亜硫酸生成活性が高まったScSSU1-M19V変異体及びScSSU1(EOY001株)-M19V変異体を導入した形質転換体について評価したところ、1アミノ酸残基の変異導入にもかかわらず5mMピロ亜硫酸カリウムを含む培地でも生育し、SbSSU1と同等の亜硫酸耐性を示した。逆に亜硫酸排出能の低下したSbSSU1-V19M変異体を導入した形質転換体については、亜硫酸耐性がScSSU1の形質転換体と同レベルまで低下しており、M19V変異による亜硫酸生成活性と亜硫酸耐性との間に正の相関が確認された。
本プレート培地では亜硫酸が酵母の細胞外に与えられるため、細胞外亜硫酸に対する耐性を観察しており、酵母のSbSSU1は内生の亜硫酸を排出するだけでなく、外部から曝露された亜硫酸に対しても排出を行うことで、亜硫酸耐性に寄与していることが示された。特にSbSSU1の19番目のVal残基がこの高い活性に重要で、活性が低いScSSU1の19番目のMet残基をVal残基に置き換えるだけでその亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性を付与することができることが明らかとなった。
【0099】
<実施例5>
上記のように、酵母のSSU1において、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸を、ScSSU1型のメチオニン残基からSbSSU1で見られるバリン残基に置換すると、SSU1の亜硫酸排出能及び酵母の亜硫酸耐性能が大きく向上する。
次に、SSU1において、配列番号2の19番目に相当する位置にあるアミノ酸を、バリン残基以外のアミノ酸に置換することによってSSU1の活性を向上させられないか検討した。下記の変異導入用のプライマーセット(配列番号49~56)を用いて、前述の実施例2に記載のM19V変異体の作製と同様の方法で、配列番号2に示すアミノ酸配列の19番目のメチオニン(M)をグリシン(G)、アラニン(A)、ロイシン(L)又はイソロイシン(I)に置換した以下の4種のScSSU1変異体をコードするDNAを含むプラスミドを作製した。鋳型には、S288C株のゲノムDNAを用いた。
M19G(ScSSU1-M19G)
M19A(ScSSU1-M19A)
M19L(ScSSU1-M19L)
M19I(ScSSU1-M19I)
【0100】
ScSSU1-M19G
ScSSU1-M19G-FW:CTTCATGTTTGGAATGGTCATGGGTGTC(配列番号49)
ScSSU1-M19G-RV:ATGACCATTCCAAACATGAAGGGGTCAAA(配列番号50)
ScSSU1-M19A
ScSSU1-M19A-FW:CTTCATGTTTGCAATGGTCATGGGTGTC(配列番号51)
ScSSU1-M19A-RV:ATGACCATTGCAAACATGAAGGGGTCAAA(配列番号52)
ScSSU1-M19L
ScSSU1-M19L-FW:CTTCATGTTTCTGATGGTCATGGGTGTC(配列番号53)
ScSSU1-M19L-RV:ATGACCATCAGAAACATGAAGGGGTCAAA(配列番号54)
ScSSU1-M19I
ScSSU1-M19I-FW:CTTCATGTTTATCATGGTCATGGGTGTC(配列番号55)
ScSSU1-M19I-RV:ATGACCATGATAAACATGAAGGGGTCAAA(配列番号56)
【0101】
作製したプラスミドを用いて、実施例3と同じ方法で酵母形質転換体を作製した。得られた酵母形質転換体について、実施例3と同じ方法で、F-キット 亜硫酸((株)JKインターナショナル)を用いて亜硫酸生成能を評価した。対比のため、空ベクターを導入した酵母形質転換体、配列番号2のScSSU1を導入した形質転換体(WT)、実施例2~3で作製したScSSU1-M19V、配列番号4のSbSSU1を導入した形質転換体についても同様に評価を行った。結果を
図4に示す。
【0102】
図4は、ScSSU1若しくはその変異体又はSbSSU1をコードするDNAを導入した形質転換体をコードするDNAを導入した形質転換体の亜硫酸生成能の評価結果を示すグラフである。
図4に示す結果は、配列番号2のScSSU1を導入した形質転換体(WT)の亜硫酸生成量(培地上清中の亜硫酸濃度)を1とした、各形質転換体の亜硫酸生成量の比(濃度比)である。Vectorは、空ベクターを保持している酵母(コントロール)である。上記で作製した4種のScSSU1変異体を導入した酵母は、いずれの点変異体においてもM19V変異には若干及ばないものの、野生型のScSSU1に比べて亜硫酸生成能の向上が確認された(
図4)。したがって配列番号2の19番目に相当する位置のアミノ酸をV以外のG、A、L又はI残基に置換することでも、SSU1タンパク質の活性を向上させられることを見出した。
【0103】
<実施例6>
SbSSU1のV19の効果に相加的にかかわるアミノ酸残基の同定
ラガー酵母サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)WH34/70株の持つSbSSU1はユニークな19番目のVal(V19)の効果により高活性型であること分かった。
実施例3で使用した亜硫酸生成量の評価系(F-キット 亜硫酸、(株)JKインターナショナル)を用いて亜硫酸生成能の高いラガー酵母を探索した。種々のラガー酵母を評価した結果、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)EOY005株(以下、EOY005株ともいう)が、亜硫酸生成能が高いことが分かった。
【0104】
亜硫酸生成能の評価においては、実施例3と同様に10mLのSSY培地に、酵母を1×10
7cells植菌し、20℃で3日間振とう培養した。3日後、上清を回収した。実施例3と同様に、F-キット 亜硫酸を用いて上清の亜硫酸濃度を測定した。エールビール酵母であるサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)EOY002(以下、EOY002株ともいう)についても同様の方法で亜硫酸生成能を評価した。
図5に、EOY002株、WH34/70株及びEOY005株の亜硫酸生成能の評価結果を示す。
図5に示す結果は、配列番号2のアミノ酸配列からなるScSSU1を、酵母EOY002株に導入した形質転換体(
図8中のScSSU1)の亜硫酸生成量(培地上清中の亜硫酸濃度)を1とした、各株の亜硫酸生成量の比(濃度比)で示した。
【0105】
エールビール酵母であるScSSU1を持つEOY002株に比べ、SbSSU1を持つラガー酵母WH34/70株では、この評価系で約2倍の亜硫酸生成能が認められた。さらに別のラガー酵母であるEOY005株については、WH34/70株と比べさらに4倍程度の高い亜硫酸生成能を有することが分かった(
図5)。
【0106】
さらに、亜硫酸耐性能を評価するため、実施例4に記載の方法において、WH34/70株及びEOY005株を1mMのピロ亜硫酸カリウムを含む培地上で培養した。
図6に結果を示す。
図6は、WH34/70株及びEOY005株をピロ亜硫酸カリウム濃度0mM又は1mMで3日間培養後のプレートの写真である(スポットした菌体液中の菌数(1mLあたり)は、左から1×10
6cells、1×10
5cells、1×10
4cells)。上記濃度の菌体液を、それぞれ3μLスポットした。1mMのピロ亜硫酸カリウム存在下において、WH34/70株と比べEOY005株は良好な生育を示すことから、亜硫酸耐性能も高いと確認された。
【0107】
ラガー酵母であるEOY005株の高い亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能の原因を調べる為に、EOY005株が有するSbSSU1(SbSSU1-EOY005)遺伝子の配列を確認した。SbSSU1-EOY005遺伝子のDNA配列を配列番号47に、SbSSU1-EOY005のアミノ酸配列を配列番号48にそれぞれ示す。WH34/70株のSbSSU1のアミノ酸配列と、EOY005株のSbSSU1のアミノ酸配列について、ClustalWマルチプルアライメント(デフォルト設定)したところ、WH34/70株のSbSSU1と比べSbSSU1-EOY005は2か所(M259及びL423)のアミノ酸多型を有していることが分かった(
図7)。
図7は、EOY005株のSbSSU1のアミノ酸配列(上段、SbSSU1-EOY005)と、WH34/70株のSbSSU1のアミノ酸配列(下段、SbSSU1)との配列アラインメントを示す図である。なお、EOY005株のSbSSU1の259番目及び423番目のアミノ酸は、配列番号2に示すアミノ酸配列の259番目及び423番目にそれぞれ相当する位置にあるアミノ酸である。
【0108】
SbSSU1-EOY005が有するアミノ酸多型がSbSSU1タンパク質の活性に寄与するかどうかを調べる為に、実施例2~3に記載の方法でSSU1遺伝子を酵母(EOY002株)で構成的に発現させて、その亜硫酸生成及び耐性能を評価した。
SbSSU1-EOY005の変異体として、SbSSU1-EOY005の19番目のバリンをメチオニンに置換した変異体(SbSSU1-EOY005-V19M変異体)、259番目のメチオニンをロイシンに置換した変異体(SbSSU1-EOY005-M259L変異体)及び423番目のロイシンをプロリンに置換した変異体(SbSSU1-EOY005-L423P変異体)を酵母に導入するためのベクターを作製した。V19M変異体を導入するためのベクターは、実施例2~3に記載の方法で、上記の配列番号35及び36のプライマーセットを用いて作製した。M259L変異体については、配列番号57及び58のプライマーセットを、L423P変異体については配列番号59及び60のプライマーセットを用いて、各変異体を導入するためのベクターを作製した。これらのSbSSU1-EOY005の変異体作製において、M259L変異体の作製には、EOY005株のゲノムDNAを鋳型に、L423P変異体の作製には、WH34/70株のゲノムDNAを鋳型に、それぞれ用いた。なお、L423P変異体(SbSSU1-EOY005-L423P変異体)のアミノ酸配列は、WH34/70株のSbSSU1(配列番号4)の259番目のロイシンをメチオニンに置換(L259M)したアミノ酸配列と同じである。
SbSSU1-EOY005-M259L-FW 5’-GTTGTTCTTGGTATTGGGGCCATTG(配列番号57)
SbSSU1-EOY005-M259L-RV 5’-CAATGGCCCCAATACCAAGAACAAC(配列番号58)
SbSSU1-L259M-FW 5’-GTTGTTCTTGGTAATGGGGCCATTG(配列番号59)
SbSSU1-L259M-RV 5’-CAATGGCCCCATTACCAAGAACAAC(配列番号60)
得られたベクターを酵母EOY002株に導入して、SbSSU1-EOY005-V19M変異体、SbSSU1-EOY005-M259L変異体及びSbSSU1-EOY005-L423P変異体をそれぞれ発現する酵母形質転換体を作製した。
【0109】
この3種のSbSSU1-EOY005変異体を発現する酵母形質転換体の亜硫酸生成能を、実施例3と同様に、F-キット 亜硫酸((株)JKインターナショナル)を用いて評価した。また、この3種のSbSSU1-EOY005変異体をそれぞれ発現させた酵母の亜硫酸耐性能について、実施例4に記載の方法で評価した。
SbSSU1-EOY005変異体の代わりに、EOY005株のSbSSU1(野生型)をコードするDNAを導入した形質転換体(SbSSU1(EOY005))も作製し、上記と同様に亜硫酸生成能及び亜硫酸耐性能を評価した。実施例2~3で作製した配列番号2のアミノ酸配列からなるScSSU1を発現させた形質転換体(ScSSU1)、WH34/70株のSbSSU1を発現させた形質転換体(SbSSU1)及びSbSSU1-V19M変異体を発現する酵母についても同様に評価を行った。
【0110】
図8に、上記の各形質転換体の亜硫酸生成能の評価結果を示す。
図8に示す結果は、ScSSU1を発現させた形質転換体(ScSSU1)の亜硫酸生成量を1とした、各形質転換体の亜硫酸生成量の比(濃度比)である。
SbSSU1-EOY005変異体の亜硫酸生成能を評価したところ、SbSSU1-EOY005-V19M変異体を発現させた酵母(SbSSU1(EOY005)-V19M)では、野生型のSbSSU1-EOY005を発現させた酵母(SbSSU1(EOY005))と比べて亜硫酸生成能が低下し、ScSSU1と同レベルであった(
図8)。一方、SbSSU1-EOY005-M259L変異体を発現させた酵母(SbSSU1(EOY005)-M259L)では野生型のSbSSU1-EOY005に比べ約31%の活性の低下が見られ、その活性はSbSSU1と同程度であった(
図8)。また、SbSSU1-L259M(つまり、SbSSU1-EOY005のアミノ酸配列において、423番目のロイシンをプロリンに置換したSbSSU1-EOY005変異体(SbSSU1-EOY005-L423P))においては野生型のSbSSU1-EOY005に比べ約17%の活性の低下が見られた(
図8)。
【0111】
各形質転換体の亜硫酸耐性能を評価した結果を
図9に示す。
図9は、ピロ亜硫酸カリウム濃度0mM又は5mMで3日間培養後のプレートの写真である(スポットした菌体液中の菌数(1mLあたり)は、左から1×10
6cells、1×10
5cells、1×10
4cells)。上記濃度の菌体液を、それぞれ3μLスポットした。
図9において、Vectorは、空ベクターを保持している酵母(コントロール)である。ScSSU1は、上記のScSSU1を発現させた酵母、SbSSU1は、WH34/70のSbSSU1を発現させた酵母、SbSSU1-V19Mは、WH34/70のSbSSU1-V19M変異体を発現させた酵母である。
SbSSU1-EOY005-V19M変異体を発現させた酵母(SbSSU1(EOY005)-V19M)では著しく亜硫酸耐性能が低下し、ScSSU1を発現させた株と同程度であった(
図9)。一方のSbSSU1-EOY005-M259L変異体を発現させた酵母(SbSSU1(EOY005)-M259L)及びSbSSU1-L259M(つまりSbSSU1-EOY005-L423P)変異体を発現させた酵母においては、野生型のSbSSU1-EOY005を発現させた酵母(SbSSU1(EOY005))に比べ生育阻害が共に見られた(
図9)。したがって、酵母の亜硫酸生成量と亜硫酸耐性能の間には相関関係が確認できた。以上の結果から、EOY005株由来のSbSSU1の持つ二つのユニークなアミノ酸は高い亜硫酸生成能及び耐性能に寄与していることが示された。表1に、実施例6で酵母に導入して発現させたSSU1又はその変異体と、そのアミノ酸配列中の配列番号2に示すアミノ酸配列における19番目、259番目及び423番目にそれぞれ相当する位置にあるアミノ酸を示す。
【0112】
【0113】
以上の結果から、SbSSU1-EOY005においてもV19はSSU1の高い亜硫酸生成活性及び耐性活性に寄与していることが明らかとなるとともに、SbSSU1-EOY005に特徴的なM259残基及びL423残基についてはV19残基に相加的に亜硫酸生成及び耐性能に寄与するアミノ酸残基であることが示された。従って、これらの知見に基づいて、活性の高いSSU1タンパク質の単離やタンパク質デザイン、並びに亜硫酸生成能の高い酵母の選抜及びそれを利用した亜硫酸含量の高いビール(エールビール)の醸造が可能となる。
【0114】
<実施例7>
ScSSU1におけるM19V変異導入の効果の確認
ビール発酵過程におけるScSSU1の19番目のメチオニン残基をバリン残基に置換(M19V)した効果を確認した。まずS288C株のScSSU1のプロモーターからターミネーターまでを含むゲノミックDNA断片(約2.3kb)を下記のプライマーセットと、前述のM19V変異導入用のプライマーセット(配列番号9及び10)用いて、V19型の変異を持ったScSSU1(gScSSU1-M19V)を含むゲノミックDNAをPCRで増幅し、YCpGベクターのNotIサイトにGeneArtシステム(サーモフィッシャー社)を用いて、製造業者が推奨する方法で組み込んだ。
SSU1-F-790: CATTAATGCAGGTTGCGGCCGCTAATCTTTTTGGGCTGGTAGG(配列番号61)
SSU1-R+405: CGGGCATTTAAATGCGGCCGCGTAATGCTTGGTGTTCGTG(配列番号62)
変異塩基配列以外に、変異がないことを確認した後、gScSSU1-M19Vを含むベクターをエール酵母株3(以下、EOY003株という)及びエール酵母株4(以下、EOY004株という)に導入し、これらをScSSU1-M19Vに形質転換した。EOY003株及びEOY004株はいずれも上面発酵酵母である。
【0115】
EOY003株は、EOY002株の保有するMET5遺伝子の機能を一般的な相同組換え法により部分的に破壊した株である。MET5遺伝子は、メチオニン合成に関わるタンパク質をコードする(Masselot M and De Robichon-Szulmajster H (1975) Methionine biosynthesis in Saccharomyces cerevisiae. I. Genetical analysis of auxotrophic mutants. Mol Gen Genet 139(2):121-32)。MET5にコードされるポリペプチドは亜硫酸をさらに還元する反応を担う酵素の構成因子であるため、その機能抑制によってEOY003株はSSU1タンパク質の基質である細胞内亜硫酸量を高める効果が期待される。
EOY004株は、EOY002株の遺伝的背景を持ちながら、SSU1遺伝子発現量を高める転写因子であるFZF1タンパク質(Avram D, et al. (1999) Fzf1p of Saccharomyces cerevisiae is a positive regulator of SSU1 transcription and its first zinc finger region is required for DNA binding. Yeast 15(6):473-80))の活性が高い変異株である。具体的にはEMSによる突然変異処理により、EOY004株は、野生型のFZF1遺伝子(配列番号63)にコードされるFZF1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号64)の162番目のCys残基がTyr残基に置換したC162Y変異を有している。上記のC162Y変異を有する変異型FZF1タンパク質をコードするDNA配列を配列番号65に、該変異型FZF1タンパク質(FZF1-C162Y)のアミノ酸配列を配列番号66に、それぞれ示す。FZF1の活性化変異はこれまでいくつか報告があるが、本変異型(C162Y変異)は新規なものである。
【0116】
実際にEOY004株及びFZF1-C162Y変異の遺伝子をEOY002株に導入した株では、EOY002株に比べてScSSU1遺伝子発現が上昇することを確かめるために、下記の配列番号67~70のプライマーセットを用いて、一般的なqPCRを行った。
scSSU1-F-RT:ACGACGAAGAGCCCCACTAA(配列番号67)
scSSU1-R-RT:TTCCCAATCCCTTCCAAAGA(配列番号68)
TDH3-F-RT:CGGTAACATCATCCCATCC(配列番号69)
TDH3-R-RT:CGGCAGCCTTAACAACCTTC(配列番号70)
各株のScSSU1の発現量は、TDH3遺伝子発現により標準化した。
図10は、qPCRによるScSSU1遺伝子の発現解析結果を示すグラフである。
図10(a)は、EOY002株及びEOY004株のScSSU1遺伝子の発現量を示し、
図10(b)は、EOY002株に空ベクターを導入した株(vec(EOY002))、EOY002株に野生型のFZF1を導入した株(FZF1)及びEOY002株に変異型FZF1(FZF1-C162Y)を導入した株(FZF1-C162Y)のScSSU1遺伝子の発現量を示す。
図10(a)及び(b)に示すScSSU1遺伝子の発現量はいずれも、ScSSU1遺伝子の発現量をTDH3遺伝子発現量により標準化し(ScSSU1遺伝子/TDH3遺伝子)、
図10(a)のEOY002株の該ScSSU1遺伝子発現量(ScSSU1遺伝子/TDH3遺伝子)を1としたときの相対発現量である。
【0117】
EOY002株のScSSU1発現量を1とした相対発現量は、EOY004株では8.56、FZF1-C162Y変異遺伝子を導入したEOY002株(FZF1-C162Y)では18.7であり、ScSSU1の遺伝子発現量が顕著に上昇していることを確認した(
図10)。したがって、EOY004株は、活性型FZF1-C162Y変異により、ScSSU1の発現量が高まることでScSSU1を介した亜硫酸生成能が高まると期待される。
【0118】
下記の麦汁を用いてビール発酵試験を行った。
<麦汁>
麦汁エキス濃度 13%
麦汁FAN(遊離アミノ態窒素)濃度 30mg/100mL
<発酵試験>
麦汁容量 2L
麦汁溶存酸素濃度 10ppm
発酵温度 19℃
酵母投入量 1×107cells/mL
6日間発酵させ、発酵終了後の発酵液(ビール)の麦汁エキス、亜硫酸濃度を測定した。亜硫酸濃度測定はランキン法(aeration-oxidation法)により行った(酒類総合研究所標準分析法、「9-16 亜硫酸」)。なお測定した亜硫酸濃度は、総亜硫酸(遊離型及び結合型の亜硫酸の合計値)の濃度であり、SO2量に換算した値で示した。麦汁エキス濃度は、DMA4500M(振動式密度・比重・濃度計、アントンパール社)により測定した。
【0119】
結果を表2に示す。エキス(%)は、麦汁エキス濃度(%)である。ScSSU1-M19V非導入株の2種の酵母株(EOY003株及びEOY004株)を用いて得られたビールでは、共にSO2は0.16ppm以下であったが、ScSSU1-M19Vを導入したEOY003株(EOY003+gScSSU1-M19V)を用いて得られたビールでは、SO2は2.7ppm以上であった。また、ScSSU1-M19Vを導入したEOY004株(EOY004+gScSSU1-M19V)では、5.5ppm以上のSO2産生が確認された。
【0120】
【0121】
以上の結果より、麦汁を使った実際のビール発酵試験においても、異なる2種のエール酵母においてScSSU1へのM19V変異導入による亜硫酸生成上昇が確認された。
EOY003株とEOY004株はSSU1の発現量と基質量を高めるための遺伝的背景を持つものだが、このように異なる変異型においても同様の効果が得られることから、SSU1を介して亜硫酸産生が向上したといえる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、ビール等の酒類中の亜硫酸含量を増加させることができ、香味安定性に優れ、より品質保持期間が長いビール等の酒類を製造することが可能となる。本発明は、飲食品分野等で有用である。
【配列表】