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特許7403625転写シート、転写方法及び膜電極接合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】転写シート、転写方法及び膜電極接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20231215BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20231215BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20231215BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231215BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M8/1004
B32B7/06
H01M8/10 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022502331
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 IB2021050890
(87)【国際公開番号】W WO2021171114
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2020028905
(32)【優先日】2020-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】押川 克彦
(72)【発明者】
【氏名】高椋 庄吾
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-125929(JP,A)
【文献】特表2001-505284(JP,A)
【文献】特開2010-225421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
B32B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート(51)上に転写層(52)が積層された転写シート(50A,50B)であって、
前記転写層(52)の表面又は内部に複数のガス吸蔵体(60)であって、多孔質のホウケイ酸ガラスビーズである、ガス吸蔵体(60)を備え、
前記ガス吸蔵体(60)は、ガスを貯蔵し、赤外線が付与されると前記貯蔵したガスを放出する
転写シート(50A,50B)。
【請求項2】
前記複数のガス吸蔵体(60)は、前記転写層(52)の面内方向の異なる位置に配置される
請求項1に記載の転写シート(50A,50B)。
【請求項3】
前記転写層(52)は、燃料電池(10)の電極(2)に含まれる触媒層(21)である
請求項1又は請求項2に記載の転写シート(50A,50B)。
【請求項4】
基材シート(51)上に転写層(52)が積層された転写シート(50A,50B)から、前記転写層(52)を被転写体に転写する方法であって、
前記転写シート(50A,50B)を前記被転写体に当接させて、前記転写層(52)を転写するステップと、
前記基材シート(51)を前記被転写体から剥離するステップと、を含み、
前記転写シート(50A,50B)は、前記転写層(52)の表面又は内部に、ガスを貯蔵する複数のガス吸蔵体(60)であって、多孔質のホウケイ酸ガラスビーズである、ガス吸蔵体(60)を備え、
前記基材シート(51)の剥離前又は剥離中に、前記ガス吸蔵体(60)に赤外線を付与し、前記ガス吸蔵体(60)から前記ガスを放出させるステップをさらに含む
転写方法。
【請求項5】
触媒層(21)を含む電極(2)と、前記電極(2)が両側に配置される電解質膜(1)と、を備える膜電極接合体(3)の製造方法であって、
基材シート(51)上に前記触媒層(21)が積層された転写シート(50A,50B)を前記電解質膜(1)に当接させて、前記触媒層(21)を転写するステップと、
前記基材シート(51)を前記触媒層(21)から剥離するステップと、を含み、
前記転写シート(50A,50B)は、前記触媒層(21)の表面又は内部に、ガスを貯蔵する複数のガス吸蔵体(60)であって、多孔質のホウケイ酸ガラスビーズである、ガス吸蔵体(60)を備え、
前記基材シート(51)の剥離前又は剥離中に、前記ガス吸蔵体(60)に赤外線を付与し、前記ガス吸蔵体(60)から前記ガスを放出させるステップをさらに含む
膜電極接合体(3)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写シート、転写方法及び膜電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型の燃料電池に用いられる膜電極接合体は、電解質膜の両側に1対の電極が配置された構造を有する。電極は、燃料ガスの化学反応を促進する触媒層を含む。
【0003】
膜電極接合体の製造方法として、触媒層の材料を含むインクを塗布することにより基材シート上に触媒層を形成し、この基材シートから電解質膜上へ触媒層を転写する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
基材シートとしては、樹脂フィルムが使用される。転写性又は剥離性の向上のため、物性の調整又は離型層の形成等の樹脂フィルムの改良も行われている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-179625号公報
【文献】特開2017-177679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、触媒層の形成性、基材シートの剥離性等の観点から、適切な樹脂フィルムが基材シートとして選択される。その場合でも、基材シートの剥離性が不足し、触媒層にクラックやホール等の欠陥が生じることがあった。
【0007】
本発明は、基材シートの種類によらず、基材シートの剥離性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の転写シート(50A,50B)は、基材シート(51)上に転写層(52)が積層された転写シート(50A,50B)であって、前記転写層(52)の表面又は内部に複数のガス吸蔵体(60)を備え、前記ガス吸蔵体(60)は、ガスを貯蔵し、エネルギーが付与されると前記貯蔵したガスを放出する。
【0009】
本発明の他の一態様の転写方法は、基材シート(51)上に転写層(52)が積層された転写シート(50A,50B)から、前記転写層(52)を被転写体に転写する方法であって、前記転写シート(50A,50B)を前記被転写体に当接させて、前記転写層(52)を転写するステップと、前記基材シート(51)を前記被転写体から剥離するステップと、を含み、前記転写シート(50A,50B)は、前記転写層(52)の表面又は内部に、ガスを貯蔵する複数のガス吸蔵体(60)を備え、前記基材シート(51)の剥離前又は剥離中に、前記ガス吸蔵体(60)にエネルギーを付与し、前記ガス吸蔵体(60)から前記ガスを放出させるステップをさらに含む。
【0010】
本発明の他の一態様の膜電極接合体(3)の製造方法は、触媒層(21)を含む電極(2)と、前記電極(2)が両側に配置される電解質膜(1)と、を備える膜電極接合体(3)の製造方法であって、基材シート(51)上に前記触媒層(21)が積層された転写シート(50A,50B)を前記電解質膜(1)に当接させて、前記触媒層(21)を転写するステップと、前記基材シート(51)を前記触媒層(21)から剥離するステップと、を含み、前記転写シート(50A,50B)は、前記触媒層(21)の表面又は内部に、ガスを貯蔵する複数のガス吸蔵体(60)を備え、前記基材シート(51)の剥離前又は剥離中に、前記ガス吸蔵体(60)にエネルギーを付与し、前記ガス吸蔵体(60)から前記ガスを放出させるステップをさらに含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材シートの種類によらず、基材シートの剥離性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の転写シートの構成を示す断面図である。
図2】燃料電池の構成を示す断面図である。
図3】電解質膜に触媒層が設けられる処理手順を示すフローチャートである。
図4】電解質膜に当接させた転写シートを示す一部断面図である。
図5】電解質膜から剥離する基材シートを示す一部断面図である。
図6】他の実施形態の転写シートの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の転写シート、転写方法及び膜電極接合体の製造方法の実施形態について、図面を参照して説明する。以下に説明する構成は、本発明の一例(代表例)であり、この構成に限定されない。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態の転写シート50Aの構成例を示す。
図1に示すように、転写シート50Aは、基材シート51と、基材シート51上の転写層52と、を備える。転写シート50Aの転写層52を被転写体に当接させて転写することにより、被転写体上に転写層52を積層することができる。図中、z方向は積層方向を表す。x方向及びy方向は、z方向に直交する面内において互いに直交する方向である。
【0015】
基材シート51は、被転写体の形状に合わせやすいことから、樹脂フィルムであることが好ましい。樹脂材料としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン等のプロピレン系樹脂、シクロオレフィンコポリマー等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン-6等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、脂肪族ポリエステル等のポリエステル系樹脂;スチレン-アクリロニトリル樹脂等のスチレン系樹脂等が挙げられる。
【0016】
転写層52は、基材シート51上に積層される。転写層52は、基材シート51上に転写層52の材料を含むインクを塗布し、必要に応じて乾燥することにより、積層することができる。
【0017】
(ガス吸蔵体)
転写シート50Aは、転写層52の表面に複数のガス吸蔵体60を備える。
【0018】
ガス吸蔵体60は、ガスを貯蔵し、エネルギーが付与されると貯蔵したガスを放出する。ガス放出のためのエネルギーは、例えば赤外線の照射、加熱等により付与することができる。
【0019】
ガス吸蔵体60からガスを放出することにより、基材シート51と転写層52とを離間させることができる。そのため、少ない剥離力で基材シート51を容易に剥離することができる。一方、ガスは徐々に放出されるため、ガスによって転写層52に強い負荷が加わることもない。したがって、転写層52におけるクラックやホール等の欠陥の発生を減らすことができる。
【0020】
本実施形態において、複数のガス吸蔵体60は、ガス吸蔵体60及び溶媒を含むインクを基材シート51上に塗布することによって、配置される。具体的には、ガス吸蔵体60は、塗布により形成された表面層53中に配置される。ガス吸蔵体60の位置を固定する観点から、インクはバインダー樹脂を含むことができる。また、ガス吸蔵体60を転写層52の面内方向(x-y平面)に均一に分散させる観点から、インクは分散剤を含むことができる。
【0021】
表面層53の厚さは、ガス吸蔵体60を被覆する程度とすることができる。このような厚さであれば、ガス吸蔵体60を基材シート51表面に固定しつつ、ガス放出を妨げない。表面層53の厚さは、インクの塗布量(g/m)及び粘度等により調整することができる。
【0022】
ガス吸蔵体60が吸蔵するガスは特に限定されず、例えば空気、水素ガス、窒素ガス、酸素ガス等であってもよい。安全性の観点からは、可燃性ガスではなく、窒素ガス等の不活性ガスを使用することができる。ガス吸蔵体60が貯蔵するガスは、例えば多孔質ガラスビーズの場合はその細孔のサイズによって選択することができる。細孔が小さいほど、細孔内に貯蔵できるガスの分子量も小さくなる。
【0023】
ガス吸蔵体60としては、例えば多孔質ガラスビーズ、ガス吸蔵合金等を用いることができる。被転写体の導電性等の物性に及ぼす影響を減らす観点から、多孔質ガラスビーズが好ましく、細孔の形成性の観点からは、ホウケイ酸ガラスビーズがより好ましい。特に、酸化鉄(Fe)がドープされたホウケイ酸ガラスビーズは、水素ガスの貯蔵に適している。
【0024】
水素ガスを吸蔵した多孔質ガラスビーズは、例えばホウケイ酸又はアルミナホウケイ酸等のガラスフリットを、必要に応じて0.1~10質量%の酸化鉄を配合して熱し、500~700℃の温度下で溶融した状態で水素雰囲気にして急冷し、粒子状に成形することで形成することができる。水素ガスを吸蔵した多孔質ガラスビーズは、例えばDouglas B.Rapp,James E.Shelby,“Photo-Induced Hydrogen outgassing of glass,Journal of Non Crystalline Solids”,349(2004)pp.254-259等を参照できる。
【0025】
ガス吸蔵体60のサイズは、ガスの貯蔵量に応じて設定すればよいが、多孔質ガラスビーズの場合、その粒径は例えば0.1~1000μmとすることができる。
【0026】
ガス吸蔵体60の配合量は、ガス吸蔵体60のガス吸蔵量と、転写層52の面積とに応じて、決定すればよい。温度又は圧力等の環境条件にもよるが、例えば1cmのガス吸蔵体60に1000倍の体積量のガスを吸蔵できる場合、単位面積が10cm×10cmの転写層52に対し、1/10個以上のガス吸蔵体60が配置されていれば、十分剥離できる。
【0027】
転写層52の面内方向(x-y平面)で均一にガスを放出する観点から、複数のガス吸蔵体60は、面内方向の異なる位置に分散して配置されることが好ましい。
【0028】
(燃料電池)
上記転写シートは、燃料電池の膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の製造に使用することができる。
【0029】
図2は、一実施形態としての燃料電池10の構成例を示す。
図2に示すように、燃料電池10は、MEA3、1対のセパレータ4及びサブガスケット5を備える。MEA3は、電解質膜1及び1対の電極2を備える。電解質膜1の両側にはそれぞれ電極2及びセパレータ4が積層されている。図中、z方向は積層方向を表す。x方向及びy方向は、z方向に直交する面内において互いに直交する方向である。
【0030】
電解質膜1は、イオン伝導性の高分子電解質の膜である。電解質膜1としては、例えばナフィオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー;スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリイミド等の芳香族系ポリマー;ポリビニルスルホン酸、ポリビニルリン酸等の脂肪族系ポリマー等が挙げられる。
【0031】
電解質膜1は、耐久性向上の観点から、多孔質基材1aに高分子電解質を含浸させた複合膜であってもよい。多孔質基材1aとしては、高分子電解質を担持できるのであれば特に限定されず、多孔質、織布状、不織布状、フィブリル状等の膜を用いることができる。多孔質基材1aの材料としても特に限定されないが、イオン伝導性を高める観点から、上述したような高分子電解質を用いることができる。なかでも、フッ素系ポリマーであるポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等は、強度及び形状安定性に優れる。
【0032】
1対の電極2のうち、一方の電極2はアノードであり、燃料極とも呼ばれる。他方の電極2はカソードであり、空気極とも呼ばれる。燃料ガスとして、アノードには水素ガスが供給され、カソードには酸素ガスを含む空気が供給される。
【0033】
アノードでは、水素ガス(H)が供給され、当該水素ガス(H)から電子(e)とプロトン(H)を生成する反応が生じる。電子は、図示しない外部回路を経由してカソードへ移動する。この電子の移動により外部回路では電流が発生する。プロトンは電解質膜1を経由してカソードへ移動する。
【0034】
カソードでは、酸素ガス(O)が供給され、外部回路から移動してきた電子により酸素イオン(O )が生成される。酸素イオンは、電解質膜1から移動してきたプロトン(2H)と結合して、水(HO)になる。
【0035】
電極2は、触媒層21を備える。本実施形態の電極2は、燃料ガスの拡散性向上のため、さらにガス拡散層22を備える。
【0036】
触媒層21は、触媒によって水素ガス及び酸素ガスの反応を促進する。触媒層21は、触媒と、触媒を担持する担体及びこれらを被覆するアイオノマーを含む。
触媒としては、例えば白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)等の金属、これら金属の混合物、合金等が挙げられる。なかでも、触媒活性、一酸化炭素に対する耐被毒性、耐熱性等の観点から、白金、白金を含む混合物、合金等が好ましい。
【0037】
担体としてはメソポーラスカーボン、Ptブラック等の細孔を有する導電性の多孔性金属化合物が挙げられる。分散性が良好で表面積が大きく、触媒の担持量が多い場合でも高温での粒子成長が少ない観点からは、メソポーラスカーボンが好ましい。
アイオノマーとしては、電解質膜1と同様のイオン伝導性の高分子電解質を使用することができる。
【0038】
ガス拡散層22は、供給された燃料ガスを触媒層21に均一に拡散することができる。ガス拡散層22としては、例えば導電性、ガス透過性及びガス拡散性を有するカーボン繊維等の多孔性繊維シートの他、発泡金属、エキスパンドメタル等の金属板等を用いることができる。
【0039】
セパレータ4は、複数のリブ4bが表面に設けられたプレートであり、バイポーラプレートとも呼ばれる。各リブ4bによってセパレータ4の表面に凹部4aが設けられる。凹部4aは、セパレータ4とMEA3との間に燃料ガスの流路を形成する。この流路は、燃料ガスの反応によって生じた水の排出路でもある。
【0040】
セパレータ4の材料としては、例えばカーボンの他、ステンレス鋼等の金属が用いられる。
【0041】
サブガスケット5は、電解質膜1の端部に設けられるフィルム又はプレートである。具体的には、触媒層21よりも外周側の電解質膜1の端部を挟むように、2つのフレーム状のサブガスケット5が設けられる。このようなサブガスケット5は、MEA3の支持体又は端部の保護部材として機能する。また、サブガスケット5は、外周縁部においてセパレータ4と当接することにより、燃料電池10内部を封止する。
【0042】
サブガスケット5の材料としては、導電性が低い樹脂を用いることができる。樹脂材料としては特に限定されず、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)、ガラス入りポリプロピレン(PP-G)、ポリスチレン(PS)、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0043】
上記燃料電池10は、MEA3の外周にサブガスケット5を設けた後、MEA3の両側にセパレータ4を配置することで製造することができる。
【0044】
(膜電極接合体の製造方法)
MEA3は、電解質膜1の両側の表面上に触媒層21を積層し、さらに各触媒層21上にガス拡散層用シートを配置してガス拡散層22を形成することにより、製造できる。
【0045】
触媒層21の積層に転写シート50Aを使用することができる。この場合、転写シート50Aの転写層52として、基材シート51上に触媒層21が形成される。
【0046】
図3は、転写シート50Aを用いて電解質膜1に触媒層21を積層する処理手順を示す。図4及び図5は、電解質膜1に転写される触媒層21を示す。
【0047】
図3に示すように、まず基材シート51上にガス吸蔵体60を含む表面層53用のインクが塗布され、ガスを貯蔵するガス吸蔵体60が配置される(ステップS1)。表面層53上には触媒層21用のインクが塗布され、触媒層21が形成される(ステップS2)。これにより、図1に示すように、触媒層21の転写シート50Aが得られる。
【0048】
なお、アノード側とカソード側とでガス吸蔵体(60)が貯蔵するガスを異ならせてもよい。例えば、供給される燃料ガスに合わせて、アノード側の触媒層21の形成には水素ガスを貯蔵するガス吸蔵体(60)を使用することができる。カソード側の触媒層21の形成には酸素ガス又は空気を貯蔵するガス吸蔵体(60)を使用することができる。また、燃料ガスの化学反応に影響が少ない窒素ガス等の不活性ガスを貯蔵するガス吸蔵体(60)が使用されてもよい。
【0049】
次いで、転写シート50Aは電解質膜1上に配置される。図4に示すように、基材シート51上の触媒層21が電解質膜1に接触する(ステップS3)。転写シート50Aと電解質膜1は、熱プレス加工等により加圧及び加温され、触媒層21が電解質膜1に転写される(ステップS4)。
【0050】
触媒層21が転写された転写シート50Aには赤外線が照射され、エネルギーが付与される。これにより、ガス吸蔵体60からガスが放出される(ステップS5)。このガスの放出中に基材シート51が剥離される(ステップS6)。図5に示すように、ガスの放出により基材シート51と触媒層21間にガスが入り込むため、基材シート51の剥離が容易になる。
【0051】
なお、転写時の加圧及び加温によってもエネルギーが付与されるが、ガス放出のために付与されるエネルギーと、転写のために付与されるエネルギーとは同じであってもよいし、異なっていてもよい。つまり、剥離前の転写用の加圧及び加温が転写だけでなくガス放出の役割を有してもよいし、転写用の加圧及び加温の後の剥離中にガス放出用のエネルギーをさらに付与してもよい。
【0052】
以上のように、本実施形態によれば、転写層52(触媒層21)の表面、つまり転写層52(触媒層21)と基材シート51との間にガス吸蔵体60が配置され、基材シート51の剥離前又は剥離中にガス吸蔵体60からガスが放出される。ガスによって転写層52(触媒層21)と基材シート51が離間しやすくなるため、基材シート51の種類によらず、基材シート51の剥離性を高めることができる。
【0053】
したがって、転写性又は剥離性が改良された樹脂フィルムのような、特別な樹脂フィルムではなく、オレフィン系樹脂フィルムのような一般的で安価な樹脂フィルムも基材シート51として選択することができる。転写層52(触媒層21)に最適な基材シート51を選択する作業が不要となり、製造コストを減らすことが可能である。
【0054】
剥離力が小さくても十分に剥離できるため、強すぎる剥離力による転写層52の損傷も減らすことができる。特に、燃料電池10においては、基材シート51の剥離による触媒層21の欠陥の発生を減らすことができ、優れた発電性能を得ることが可能である。そのため、転写シート50AはMEA3の製造に特に適している。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されない。
【0056】
例えば、ガス吸蔵体60は、転写層52の機能を阻害しないのであれば、転写層52の内部に配置されていてもよい。
図6は、転写層52内にガス吸蔵体60が配置された転写シート50Bの構成例を示す。
【0057】
ガス吸蔵体60は、基材シート51側に配置されることが好ましい。ガス吸蔵体60からのガスが基材シート51側に放出されやすく、剥離性が向上する。例えば、ガス吸蔵体60を含む転写層52用のインクを塗布した後、含まない転写層52用のインクを塗布することにより、ガス吸蔵体60を基材シート51側に配置することができる。
【0058】
触媒層21は厚さ方向に連通する空隙が多いほど、燃料ガスの供給効率及び水の排出効率が高まり、発電効率が高い燃料電池10を提供できる。しかし、インクの塗布により形成される触媒層21は、塗布膜の乾燥時にアイオノマー等の樹脂成分が融着しやすく、空隙が塞がれやすい。そこで、ガスの放出を空隙の形成に利用してもよい。
【0059】
具体的には、触媒層21の塗布膜を基材シート51上に形成した後、乾燥しないうちに電解質膜1に転写する。また転写と並行してガス吸蔵体60からガスを放出する。転写時の加圧及び加温により塗布膜が乾燥するが、ガスによって樹脂の融着が妨げられ、触媒層21の内部に厚さ方向に連通する空隙が形成されやすい。その後、ガスが放出されている間に基材シート51を剥離することにより、剥離も容易となる。
【符号の説明】
【0060】
50・・・転写シート、51・・・基材シート、52・・・転写層、60・・・ガス吸蔵体、10・・・燃料電池、1・・・電解質膜、2・・・電極、21・・・触媒層、22・・・ガス拡散層、4・・・セパレータ、
図1
図2
図3
図4
図5
図6