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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】電力変換装置の制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/32 20060101AFI20231215BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231215BHJP
【FI】
H02J3/32
H02M7/48 R
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022504960
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2020030142
(87)【国際公開番号】W WO2021176746
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2020037344
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020037346
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】前田 直人
(72)【発明者】
【氏名】高見 潤
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 良太
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】磯尾 淳
(72)【発明者】
【氏名】東海林 和
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-80476(JP,A)
【文献】特開2014-168351(JP,A)
【文献】特開2007-244068(JP,A)
【文献】国際公開第2013/008413(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230071(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/32
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期発電機を模擬した仮想同期発電機制御が行われ、直流電源の直流電力を交流電力に変換する電力変換器を有し、前記電力変換器の出力がLCフィルタを介して電力系統と連系される電力変換装置において、
前記電力変換器の出力電流を検出した出力電流検出値と設定した電圧振幅指令値を入力とし、電力変換器の出力電流で生じる仮想同期インピーダンスによる電圧降下を模擬し、その模擬した電圧降下に応じて、出力電圧指令値と仮想同期発電機の内部誘起電圧を算出する仮想同期インピーダンス補償ブロックと、
同期発電機を模擬した角周波数を決定する仮想同期発電機モデルと、
前記電力変換装置の出力電圧が、前記仮想同期インピーダンス補償ブロックで算出された出力電圧指令値と一致するように、前記仮想同期発電機モデルにより決定された角周波数に基いて制御する出力電圧制御部と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置の制御システム。
【請求項2】
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、内部誘起電圧Efを基準位相とし、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、設定した電圧振幅指令値|Vac|*から、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が、|Vac|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在する動作点の、出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを算出することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の制御システム。
【請求項3】
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、出力電圧指令値Vac*を基準位相とし、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、設定した電圧振幅指令値|Vac|*から、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が、|Vac|*であり且つ出力電圧指令値Vac*がd軸に存在する動作点の、出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを算出することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の制御システム。
【請求項4】
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、内部誘起電圧Efを基準位相とし、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、前回制御周期時に算出された内部誘起電圧から、位相差δを算出し、設定した電圧振幅指令値|Vac|*を前記位相差δで回転座標変換することによって出力電圧指令値Vac*を算出し、
該算出した出力電圧指令値Vac*と、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsから内部誘起電圧Efを算出することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の制御システム。
【請求項5】
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、内部誘起電圧Efを基準位相とし、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、設定した電圧振幅指令値|Vac|*から、位相差δを算出し、設定した電圧振幅指令値|Vac|*を前記位相差δで回転座標変換することによって出力電圧指令値Vac*を算出し、
該算出した出力電圧指令値Vac*と、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsから内部誘起電圧Efを算出することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の制御システム。
【請求項6】
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【数1】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
前記Vz算出部で算出されたVz_qと、前記電圧振幅指令値|Vac|*に基いて、下記(2)式を演算して出力電圧位相δを求めるsin-1算出部と、
【数2】
前記出力電圧位相δのcos成分であるcosδを算出するcos算出部と、
前記cos算出部の出力と電圧振幅指令値|Vac|*を乗算して、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が|Vac|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在する動作点の出力電圧指令値Vac_d*を求める乗算器と、
前記乗算器で求められた出力電圧指令値Vac_d*と前記Vz算出部で算出されたVz_dを加算して、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が|Vac|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在する動作点の内部誘起電圧Efを求める加算器と、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置の制御システム。
【請求項7】
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【数1】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
前記Vz算出部で算出されたVz_dと前記電圧振幅指令値|Vac|*を加算して、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が|Vac|*であり且つ出力電圧指令値Vac*がd軸に存在する動作点の内部誘起電圧Efを求める加算器と、
を備えたことを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置の制御システム。
【請求項8】
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【数1】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
制御周期毎に算出された内部誘起電圧Efを一時記憶するバッファと、
前記バッファに記憶されている、前回制御周期時に算出された内部誘起電圧Ef_d(Z-1)と、前記Vz算出部で算出されたVz_d、Vz_qとに基いて、下記(7)式を演算して位相差δを求めるtan-1算出部と、
【数7】
前記電圧振幅指令値|Vac|*を、前記tan-1算出部で求められた位相差δによって回転座標変換して、下記(8)式に沿って出力電圧指令値Vac*を演算する回転行列演算部と、
【数8】
前記回転行列演算部で演算された出力電圧指令値Vac*と、前記Vz算出部で算出されたVz_dを加算して内部誘起電圧Efを算出する加算器と、
を備えたことを特徴とする請求項4に記載の電力変換装置の制御システム。
【請求項9】
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【数1】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
前記電圧振幅指令値|Vac|*と、前記Vz算出部で算出されたVz_d、Vz_qとに基いて、下記(10)式を演算して位相差δを求めるtan-1算出部と、
【数10】
前記電圧振幅指令値|Vac|*を、前記tan-1算出部で求められた位相差δによって回転座標変換して出力電圧指令値Vac*を演算する回転行列演算部と、
前記回転行列演算部で演算された出力電圧指令値Vac*と、前記Vz算出部で算出されたVz_dを加算して内部誘起電圧Efを算出する加算器と、
を備えたことを特徴とする請求項5に記載の電力変換装置の制御システム。
【請求項10】
同期発電機を模擬した仮想同期発電機制御が行われ、直流電源の直流電力を交流電力に変換する電力変換器を有し、前記電力変換器の出力がLCフィルタおよび連系用のトランスを介して電力系統と連系される電力変換装置において、
前記電力変換器の出力電流を検出した出力電流検出値と設定した電圧振幅指令値|V|*を入力とし、電力変換器の出力電流で生じる仮想同期インピーダンスおよびトランスによる電圧降下を模擬し、その模擬した電圧降下に応じて、出力電圧指令値Vac*と仮想同期発電機の内部誘起電圧Efを算出する仮想同期インピーダンス補償ブロックと、
同期発電機を模擬した角周波数を決定する仮想同期発電機モデルと、
前記電力変換装置の出力電圧Vacが、前記仮想同期インピーダンス補償ブロックで算出された出力電圧指令値Vac*と一致するように制御する出力電圧制御部と、
を備え、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、内部誘起電圧Efを基準位相とし、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、トランスのインピーダンスZtrと、設定した電圧振幅指令値|V|*から、前記電力系統の連系点電圧Vsysの振幅が、|V|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在する動作点の出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを算出することを特徴とする電力変換装置の制御システム。
【請求項11】
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacを前記仮想同期発電機モデルで決定された角周波数から決まる内部位相により回転座標変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【数1】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qと、前記トランスのインピーダンスZtrに基いて、下記(11)式を演算してトランスによる電圧降下Vtrを算出するVtr算出部と、
【数11】
(ただし、RtrはZtrの抵抗成分、XtrはZtrのリアクタンス成分)
前記Vz算出部で算出されたVz_qと、前記電圧振幅指令値|V|*に基いて、下記(12)式を演算して系統電圧位相δを求めるsin-1算出部と、
【数12】
前記系統電圧位相δのcos成分であるcosδを算出するcos算出部と、
前記cos算出部の出力と電圧振幅指令値|V|*を乗算する乗算器と、
前記乗算器の乗算出力と前記Vz算出部で算出されたVz_dを加算して、前記電力系統の連系点電圧Vsysの振幅が、|V|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在し前記トランスによる電圧降下Vtrを打ち消すように補償する動作点の、内部誘起電圧Ef_dを算出する加算器と、
前記Vz算出部で算出されたVz_dから前記Vtr算出部で算出されたVtr_dを減算する第1の減算器と、
前記加算器で算出された内部誘起電圧Ef_dから、前記第1の減算器の減算出力を減算して、前記電力系統の連系点電圧Vsysの振幅が、|V|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在し前記トランスによる電圧降下Vtrを打ち消すように補償する動作点の出力電圧指令値Vac_d*を算出する第2の減算器と、
前記Vz算出部で算出されたVz_qから前記Vtr算出部で算出されたVtr_qを減算する第3の減算器と、
前記第3の減算器の偏差出力を極性反転させて出力電圧指令値Vac_q*を出力する極性反転器と、を備え、
前記出力電圧制御部の制御は、前記仮想同期発電機モデルで決定された角周波数から決まる内部位相により回転座標変換したd、q座標上で実施することを特徴とする請求項10に記載の電力変換装置の制御システム。
【請求項12】
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacを前記仮想同期発電機モデルで決定された角周波数から決まる内部位相により回転座標変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【数1】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qと、前記トランスのインピーダンスZtrに基いて、下記(11)式を演算してトランスによる電圧降下Vtrを算出するVtr算出部と、
【数11】
(ただし、RtrはZtrの抵抗成分、XtrはZtrのリアクタンス成分)
前記Vz算出部で算出されたVz_dと前記Vtr算出部で算出されたVtr_dを加算する第1の加算器と、
前記Vz算出部で算出されたVz_qと前記Vtr算出部で算出されたVtr_qを加算する第2の加算器と、
前記第2の加算器の加算出力と前記電圧振幅指令値|V|*に基づいて、下記(16)式を演算して系統電圧位相δを求めるsin-1算出部と、
【数16】
前記系統電圧位相δのcos成分であるcosδを算出するcos算出部と、
前記cos算出部の出力と電圧振幅指令値|V|*を乗算する乗算器と、
前記乗算器の乗算出力と第1の加算器の加算出力を加算して、前記電力系統の連系点電圧Vsysの振幅が、|V|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在し前記トランスによる電圧降下のうち振幅の減少を補償する動作点の、内部誘起電圧Ef_dを算出する第3の加算器と、
前記第3の加算器で算出された内部誘起電圧Ef_dから、前記Vz算出部で算出されたVz_dを減算して、前記電力系統の連系点電圧Vsysの振幅が、|V|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在し前記トランスによる電圧降下のうち振幅の減少を補償する動作点の、出力電圧指令値Vac_d*を算出する減算器と、
前記Vz算出部で算出されたVz_qを極性反転させて出力電圧指令値Vac_q*を出力する極性反転器と、を備え、
前記出力電圧制御部の制御は、前記仮想同期発電機モデルで決定された角周波数から決まる内部位相により回転座標変換したd、q座標上で実施することを特徴とする請求項10に記載の電力変換装置の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の制御システムに関し、同期発電機を模擬した仮想同期発電機制御を行う電圧制御型の電力変換器において、出力電流に応じて仮想同期インピーダンスモデルによって発生する電圧降下の模擬と、出力電圧振幅を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1の上段に、例えば蓄電池等の直流電源の直流電力を交流電力に変換する電力変換器を有し、電力変換器の出力がLCフィルタを介して電力系統と連系されるPCS(Power Conversion System;電力変換装置)の構成を示し、図1の下段に仮想同期インピーダンスモデルの構成を示す。
【0003】
尚、従来、蓄電池による仮想同期発電システムは、例えば特許文献1に記載のものが提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-80476号公報
【発明の概要】
【0005】
図1において、同期発電機を模擬した仮想同期発電機制御を行う電圧制御型の電力変換器では、電力変換装置(PCS)の内部誘起電圧Efから仮想同期インピーダンスZsによる出力電圧降下Vzを減じた値を電圧指令値Vac*として、フィルタコンデンサCの電圧Vacを電圧制御することで、仮想同期インピーダンスによる同期化力を再現する。
【0006】
一方、電圧振幅|Vac|は、電圧振幅指令値|Vac|*に一致させる必要がある。仮想同期インピーダンスによる電圧降下量は負荷電流によって一意に決定されるので、電圧降下量に応じて電圧振幅|Vac|を電圧振幅指令値|Vac|*に一致させる制御が必要であり、負荷変動時にも高速に応答できる制御系が望ましい。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、仮想同期インピーダンスによる同期化力を再現しつつ、負荷変動時にも出力電圧振幅制御の高速応答を可能とした電力変換装置の制御システムを提供することにある。
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に記載の電力変換装置の制御システムは、
同期発電機を模擬した仮想同期発電機制御が行われ、直流電源の直流電力を交流電力に変換する電力変換器を有し、前記電力変換器の出力がLCフィルタを介して電力系統と連系される電力変換装置において、
前記電力変換器の出力電流を検出した出力電流検出値と設定した電圧振幅指令値を入力とし、電力変換器の出力電流で生じる仮想同期インピーダンスによる電圧降下を模擬し、その模擬した電圧降下に応じて、出力電圧指令値と仮想同期発電機の内部誘起電圧を算出する仮想同期インピーダンス補償ブロックと、
同期発電機を模擬した角周波数を決定する仮想同期発電機モデルと、
前記電力変換装置の出力電圧が、前記仮想同期インピーダンス補償ブロックで算出された出力電圧指令値と一致するように、前記仮想同期発電機モデルにより決定された角周波数に基いて制御する出力電圧制御部と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の電力変換装置の制御システムは、請求項1において、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、内部誘起電圧Efを基準位相とし、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、設定した電圧振幅指令値|Vac|*から、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が、|Vac|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在する動作点の、出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを算出することを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の電力変換装置の制御システムは、請求項1において、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、出力電圧指令値Vac*を基準位相とし、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、設定した電圧振幅指令値|Vac|*から、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が、|Vac|*であり且つ出力電圧指令値Vac*がd軸に存在する動作点の、出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを算出することを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載の電力変換装置の制御システムは、請求項1において、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、内部誘起電圧Efを基準位相とし、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、前回制御周期時に算出された内部誘起電圧から、位相差δを算出し、設定した電圧振幅指令値|Vac|*を前記位相差δで回転座標変換することによって出力電圧指令値Vac*を算出し、
該算出した出力電圧指令値Vac*と、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsから内部誘起電圧Efを算出することを特徴としている。
【0012】
請求項5に記載の電力変換装置の制御システムは、請求項1において、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、内部誘起電圧Efを基準位相とし、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、設定した電圧振幅指令値|Vac|*から、位相差δを算出し、設定した電圧振幅指令値|Vac|*を前記位相差δで回転座標変換することによって出力電圧指令値Vac*を算出し、
該算出した出力電圧指令値Vac*と、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsから内部誘起電圧Efを算出することを特徴としている。
【0013】
請求項6に記載の電力変換装置の制御システムは、請求項2において、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【0014】
【数1】
【0015】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
前記Vz算出部で算出されたVz_qと、前記電圧振幅指令値|Vac|*に基いて、下記(2)式を演算して出力電圧位相δを求めるsin-1算出部と、
【0016】
【数2】
【0017】
前記出力電圧位相δのcos成分であるcosδを算出するcos算出部と、
前記cos算出部の出力と電圧振幅指令値|Vac|*を乗算して、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が|Vac|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在する動作点の出力電圧指令値Vac_d*を求める乗算器と、
前記乗算器で求められた出力電圧指令値Vac_d*と前記Vz算出部で算出されたVz_dを加算して、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が|Vac|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在する動作点の内部誘起電圧Efを求める加算器と、
を備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の電力変換装置の制御システムは、請求項3において、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【0019】
【数1】
【0020】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
前記Vz算出部で算出されたVz_dと前記電圧振幅指令値|Vac|*を加算して、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が|Vac|*であり且つ出力電圧指令値Vac*がd軸に存在する動作点の内部誘起電圧Efを求める加算器と、
を備えたことを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の電力変換装置の制御システムは、請求項4において、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【0022】
【数1】
【0023】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
制御周期毎に算出された内部誘起電圧Efを一時記憶するバッファと、
前記バッファに記憶されている、前回制御周期時に算出された内部誘起電圧Ef_d(Z-1)と、前記Vz算出部で算出されたVz_d、Vz_qとに基いて、下記(7)式を演算して位相差δを求めるtan-1算出部と、
【0024】
【数7】
【0025】
前記電圧振幅指令値|Vac|*を、前記tan-1算出部で求められた位相差δによって回転座標変換して、下記(8)式に沿って出力電圧指令値Vac*を演算する回転行列演算部と、
【0026】
【数8】
【0027】
前記回転行列演算部で演算された出力電圧指令値Vac*と、前記Vz算出部で算出されたVz_dを加算して内部誘起電圧Efを算出する加算器と、
を備えたことを特徴とする。
【0028】
請求項9に記載の電力変換装置の制御システムは、請求項5において、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【0029】
【数1】
【0030】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
前記電圧振幅指令値|Vac|*と、前記Vz算出部で算出されたVz_d、Vz_qとに基いて、下記(10)式を演算して位相差δを求めるtan-1算出部と、
【0031】
【数10】
【0032】
前記電圧振幅指令値|Vac|*を、前記tan-1算出部で求められた位相差δによって回転座標変換して出力電圧指令値Vac*を演算する回転行列演算部と、
前記回転行列演算部で演算された出力電圧指令値Vac*と、前記Vz算出部で算出されたVz_dを加算して内部誘起電圧Efを算出する加算器と、
を備えたことを特徴とする。
【0033】
請求項10に記載の電力変換装置の制御システムは、
同期発電機を模擬した仮想同期発電機制御が行われ、直流電源の直流電力を交流電力に変換する電力変換器を有し、前記電力変換器の出力がLCフィルタおよび連系用のトランスを介して電力系統と連系される電力変換装置において、
前記電力変換器の出力電流を検出した出力電流検出値と設定した電圧振幅指令値|V|*を入力とし、電力変換器の出力電流で生じる仮想同期インピーダンスおよびトランスによる電圧降下を模擬し、その模擬した電圧降下に応じて、出力電圧指令値Vac*と仮想同期発電機の内部誘起電圧Efを算出する仮想同期インピーダンス補償ブロックと、
同期発電機を模擬した角周波数を決定する仮想同期発電機モデルと、
前記電力変換装置の出力電圧Vacが、前記仮想同期インピーダンス補償ブロックで算出された出力電圧指令値Vac*と一致するように制御する出力電圧制御部と、
を備え、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、内部誘起電圧Efを基準位相とし、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、トランスのインピーダンスZtrと、設定した電圧振幅指令値|V|*から、前記電力系統の連系点電圧Vsysの振幅が、|V|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在する動作点の出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを算出することを特徴とする。
【0034】
請求項11に記載の電力変換装置の制御システムは、請求項10において、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacを前記仮想同期発電機モデルで決定された角周波数から決まる内部位相により回転座標変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【0035】
【数1】
【0036】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qと、前記トランスのインピーダンスZtrに基いて、下記(11)式を演算してトランスによる電圧降下Vtrを算出するVtr算出部と、
【0037】
【数11】
【0038】
(ただし、RtrはZtrの抵抗成分、XtrはZtrのリアクタンス成分)
前記Vz算出部で算出されたVz_qと、前記電圧振幅指令値|V|*に基いて、下記(12)式を演算して系統電圧位相δを求めるsin-1算出部と、
【0039】
【数12】
【0040】
前記系統電圧位相δのcos成分であるcosδを算出するcos算出部と、
前記cos算出部の出力と電圧振幅指令値|V|*を乗算する乗算器と、
前記乗算器の乗算出力と前記Vz算出部で算出されたVz_dを加算して、前記電力系統の連系点電圧Vsysの振幅が、|V|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在し前記トランスによる電圧降下Vtrを打ち消すように補償する動作点の、内部誘起電圧Ef_dを算出する加算器と、
前記Vz算出部で算出されたVz_dから前記Vtr算出部で算出されたVtr_dを減算する第1の減算器と、
前記加算器で算出された内部誘起電圧Ef_dから、前記第1の減算器の減算出力を減算して、前記電力系統の連系点電圧Vsysの振幅が、|V|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在し前記トランスによる電圧降下Vtrを打ち消すように補償する動作点の出力電圧指令値Vac_d*を算出する第2の減算器と、
前記Vz算出部で算出されたVz_qから前記Vtr算出部で算出されたVtr_qを減算する第3の減算器と、
前記第3の減算器の偏差出力を極性反転させて出力電圧指令値Vac_q*を出力する極性反転器と、を備え、
前記出力電圧制御部の制御は、前記仮想同期発電機モデルで決定された角周波数から決まる内部位相により回転座標変換したd、q座標上で実施することを特徴とする。
【0041】
請求項12に記載の電力変換装置の制御システムは、請求項10において、
前記仮想同期インピーダンス補償ブロックは、
前記出力電流検出値Iacを前記仮想同期発電機モデルで決定された角周波数から決まる内部位相により回転座標変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部と、
【0042】
【数1】
【0043】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qと、前記トランスのインピーダンスZtrに基いて、下記(11)式を演算してトランスによる電圧降下Vtrを算出するVtr算出部と、
【0044】
【数11】
【0045】
(ただし、RtrはZtrの抵抗成分、XtrはZtrのリアクタンス成分)
前記Vz算出部で算出されたVz_dと前記Vtr算出部で算出されたVtr_dを加算する第1の加算器と、
前記Vz算出部で算出されたVz_qと前記Vtr算出部で算出されたVtr_qを加算する第2の加算器と、
前記第2の加算器の加算出力と前記電圧振幅指令値|V|*に基づいて、下記(16)式を演算して系統電圧位相δを求めるsin-1算出部と、
【0046】
【数16】
【0047】
前記系統電圧位相δのcos成分であるcosδを算出するcos算出部と、
前記cos算出部の出力と電圧振幅指令値|V|*を乗算する乗算器と、
前記乗算器の乗算出力と第1の加算器の加算出力を加算して、前記電力系統の連系点電圧Vsysの振幅が、|V|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在し前記トランスによる電圧降下のうち振幅の減少を補償する動作点の、内部誘起電圧Ef_dを算出する第3の加算器と、
前記第3の加算器で算出された内部誘起電圧Ef_dから、前記Vz算出部で算出されたVz_dを減算して、前記電力系統の連系点電圧Vsysの振幅が、|V|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在し前記トランスによる電圧降下のうち振幅の減少を補償する動作点の、出力電圧指令値Vac_d*を算出する減算器と、
前記Vz算出部で算出されたVz_qを極性反転させて出力電圧指令値Vac_q*を出力する極性反転器と、を備え、
前記出力電圧制御部の制御は、前記仮想同期発電機モデルで決定された角周波数から決まる内部位相により回転座標変換したd、q座標上で実施することを特徴とする。
【0048】
(1)請求項1~9に記載の発明によれば、負荷変動時でも出力電圧指令の振幅を一定に保ちつつ、仮想同期インピーダンスによる電圧降下を模擬し、同期化力を再現することができる。
(2)請求項3、7に記載の発明によれば、出力電圧指令値Vac*を基準位相としているため、仮想同期インピーダンス補償ブロックにおける演算量は少なくて済む。
(3)請求項5、9に記載の発明によれば、仮想同期インピーダンスを、位相差δの誤差が問題にならない程度に小さい値に設定する場合、請求項4のように制御周期毎に算出した内部誘起電圧Efを一時記憶するために必要な記憶手段(例えばバッファ)が不要となり、構成が簡略化できる。
(4)請求項10~12に記載の発明によれば、負荷変動時でも系統電圧(電力系統との連系点電圧)Vsysの振幅を電圧振幅指令値|V|*に保ち、仮想同期インピーダンスZsおよび連系用のトランスのインピーダンスZtrによる電圧降下を模擬し、同期化力を再現することができる。
(5)請求項11に記載の発明によれば、連系用のトランスによる電圧降下を打ち消すように補償する動作点の、出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを算出することができる。
(6)請求項12に記載の発明によれば、連系用のトランスによる電圧降下のうち振幅の減少を補償する動作点の、出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】電力変換装置における仮想インピーダンスモデルの説明図。
図2】本発明の実施形態例における電力変換装置の制御システムの一例を示す全体構成図。
図3】本発明の実施例1における仮想同期インピーダンスモデルのベクトル図。
図4】本発明の実施例1による仮想同期インピーダンス補償ブロックの構成図。
図5】本発明の実施例2における仮想同期インピーダンスモデルのベクトル図。
図6】本発明の実施例2による仮想同期インピーダンス補償ブロックの構成図。
図7】本発明の実施例3における仮想同期インピーダンスモデルのベクトル図。
図8】本発明の実施例3による仮想同期インピーダンス補償ブロックの構成図。
図9】本発明の実施例4における仮想同期インピーダンスモデルのベクトル図。
図10】本発明の実施例4による仮想同期インピーダンス補償ブロックの構成図。
図11】トランスを介して電力系統に連系される電力変換装置の、本発明の実施例5における仮想インピーダンスモデルの説明図。
図12】本発明の実施形態例における電力変換装置の制御システムの他の例を示す全体構成図。
図13】本発明の実施例5における仮想同期インピーダンスモデルのベクトル図。
図14】本発明の実施例5による仮想同期インピーダンス補償ブロックの構成図。
図15】本発明の実施例6における仮想インピーダンスモデルの説明図。
図16】本発明の実施例6における仮想同期インピーダンスモデルのベクトル図。
図17】本発明の実施例6による仮想同期インピーダンス補償ブロックの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【0051】
本実施形態例では、蓄電池等の直流電源をDC/AC変換装置(電力変換器INV)とLCフィルタとトランスを介して系統連系を行い、特に制御系に、同期発電機を模擬した角周波数ωrを決定する仮想同期発電機モデルと、内部誘起電圧Efと同期発電機の仮想同期インピーダンス(Zs)による電圧降下(Vz)を模擬する仮想同期インピーダンス補償ブロックとを備えたPCS(電力変換装置)において、PCSの出力電圧を指令値に制御する電圧制御によって制御されるときに、仮想同期インピーダンス補償ブロックにて、仮想同期インピーダンス(Zs)により発生する電圧降下(Vz)に応じて、電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efの動作点を数学的に求めることによって、仮想同期インピーダンスによる同期化力を再現しつつ、負荷変動時にも高速に応答できるように構成した。
【0052】
図2は、本実施形態例における電力変換装置の制御システムの全体構成の一例を示している。図2において、1は例えば蓄電池を有した直流電源であり、2は直流電源1の直流電力を交流電力に変換する電力変換器(INV)である。
【0053】
電力変換器2は、例えばIGBTをブリッジ接続して構成され、後述のPWM部(16)で生成されたゲート信号Gateによってオン、オフ制御がなされる。
【0054】
電力変換器2の交流出力側は、リアクトルLfおよびコンデンサCfからなるLCフィルタ3とトランス4(Tr)を介して電力系統5に接続(連系)されている。
【0055】
11は、電力変換器2の出力電流を変流器12で検出した出力電流検出値Iacと、設定した電圧振幅指令値|Vac|*を入力とし、電力変換器2の出力電流で生じる仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vzを模擬し、その模擬した電圧降下Vzに応じて、出力電圧指令値Vac*と仮想同期発電機の内部誘起電圧Efを算出する仮想同期インピーダンス補償(Zs補償)ブロックである。
【0056】
13は、仮想同期インピーダンス補償ブロック11で算出された内部誘起電圧Efと前記出力電流検出値IacからVSG(Virtual Synchronous Generator)モデルの電気出力(Pe)を演算し、その演算した電気出力(Pe)と設定した基準電力Prefとの偏差に基いて、同期発電機を模擬した角周波数ωrを決定する仮想同期発電機モデルである。
【0057】
14は、PCSの出力電圧(電力変換器2の出力電圧)を計器用変圧器15により検出した出力電圧Vacが、仮想同期インピーダンス補償ブロック11で算出された出力電圧指令値Vac*と一致するように制御するための出力電圧制御指令Vcmdを生成するPCS出力電圧制御部(AVR)である。
【0058】
16は、PCS出力電圧制御部14で生成された出力電圧制御指令VcmdとPWMキャリアによりPWM変調したゲート信号Gateを生成し、電力変換器2をPWM制御するPWM部である。同期PWMの場合は、仮想同期発電機モデル13で決定された角周波数ωrを逓倍した周波数のPWMキャリアを用いる。非同期PWMの場合は固定周波数のPWMキャリアを用いる。
【0059】
尚、図2において、出力電流検出値Iac、出力電圧Vacは、角周波数ωrを積分した位相により3相のu、v、wをd軸、q軸に変換した信号を各々用いており、出力電圧制御指令Vcmdは、角周波数ωrを積分した位相によりd軸、q軸を3相のu,v,wに逆dq変換した信号を用いているものとする。
【0060】
前記仮想同期インピーダンス補償ブロック11の詳細は、以下の各実施例のように構成されている。
(実施例1)
実施例1における、出力電流検出値Iac、出力電圧指令値Vac*、内部誘起電圧Ef、出力電圧位相δ、電圧振幅指令値|Vac|*、電圧降下Vz_d,Vz_qの、d軸、q軸上の関係は図3に示すとおりであり、内部誘起電圧Efを基準位相(d軸上)としている。
【0061】
実施例1における仮想同期インピーダンス補償ブロック11は、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、設定した電圧振幅指令値|Vac|*から、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が、|Vac|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在する動作点の、出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを算出するものであり、図4のように構成されている。
【0062】
図4において、20は、前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部である。
【0063】
【数1】
【0064】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
21は、前記Vz算出部20で算出されたVz_qと、前記電圧振幅指令値|Vac|*に基いて、下記(2)式を演算して出力電圧位相δを求めるsin-1算出部である。
【0065】
【数2】
【0066】
22は、前記出力電圧位相δのcos成分であるcosδを算出するcos算出部である。
【0067】
23は、cos算出部22の出力と電圧振幅指令値|Vac|*を乗算して、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が|Vac|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在する動作点の出力電圧指令値Vac_d*を求める乗算器である。
【0068】
24は、Vz算出部20で算出された電圧降下Vz_qの極性を反転させる極性反転器であり、その出力は、出力電圧指令値Vac_q*として出力される。
【0069】
25は、乗算器23で求められた出力電圧指令値Vac_d*とVz算出部20で算出されたVz_dを加算して、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が|Vac|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在する動作点の内部誘起電圧Ef_dを求める加算器である。尚、内部誘起電圧Ef_qは0である。
【0070】
上記のように構成された装置において、PCS出力電圧制御部14は、出力電圧Vac(LCフィルタ後の端子電圧を検出した電圧Vac)が、内部誘起電圧Efから出力電流Iacが流れることによって生じる仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vzを減算した出力電圧指令値Vac*と一致するように電圧制御を行う。
【0071】
仮想同期インピーダンスZs(rおよびx)と出力電流Iacより、電圧降下Vzをd、q座標上で表すと下記(1)式(Vz算出部20で算出される式)のようになる。
【0072】
【数1】
【0073】
電圧降下Vzより、出力電圧指令値Vac*の振幅が|Vac|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸上に位置する動作点は一意に求めることができ、下記(2)~(4)式のようになる。
【0074】
【数2】
【0075】
【数3】
【0076】
【数4】
【0077】
上記(2)式は図4のsin-1算出部21により求められ、上記(3)式は乗算器23および極性反転器24により求められ、上記(4)式は加算器25により求められる。
【0078】
このように、負荷電流(出力電流検出値Iac)に応じて出力すべき電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを図4の仮想同期インピーダンス補償ブロック(11)にて逐次演算することで、負荷変動時も出力電圧指令値Vac*の振幅を電圧振幅指令値|Vac|*に保ち、且つ仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vzを模擬し、同期化力を再現することが可能になる。
【0079】
以上のように本実施例1によれば、内部誘起電圧Ef基準の座標上において、負荷電流に応じて、出力電圧指令値Vac*の振幅が電圧振幅指令値|Vac|*であり、且つ内部誘起電圧Efがd軸上に位置する動作点の出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを逐次演算することで、負荷変動時でも電圧振幅を一定に保ちつつ、仮想同期インピーダンスによる電圧降下を模擬し、同期化力を再現できる。
(実施例2)
実施例2における、出力電流検出値Iac、出力電圧指令値Vac*、内部誘起電圧Ef、出力電圧位相δ、電圧振幅指令値|Vac|*、電圧降下Vz_d,Vz_qの、d軸、q軸上の関係は図5に示すとおりであり、出力電圧指令値Vac*を基準位相(d軸上)としている。
【0080】
実施例2における仮想同期インピーダンス補償ブロック11は、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、設定した電圧振幅指令値|Vac|*から、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が、|Vac|*であり且つ出力電圧指令値Vac*がd軸に存在する動作点の、出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを算出するものであり、図6のように構成されている。
【0081】
図6において、図4と同一部分は同一符号をもって示している。26は、前記Vz算出部20で算出されたVz_dと電圧振幅指令値|Vac|*を加算して、前記出力電圧指令値Vac*の振幅が|Vac|*であり且つ出力電圧指令値Vac*がd軸に存在する動作点の内部誘起電圧Ef_dを求める加算器である。
【0082】
Vz算出部20で算出されたVz_qは内部誘起電圧Ef_qとして出力される。
【0083】
出力電圧指令値Vac*をd軸上に配置しているため、|Vac|*がVac_d*として出力され、q軸成分Vac_q*は0である。
【0084】
前記実施例1では基準位相を内部誘起電圧Efとしていたのに対して、本実施例2では図5に示すように基準位相を出力電圧指令値Vac*で考える。仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vzは実施例1と同様に(1)式から求める。
【0085】
電圧降下Vzより、出力電圧指令値の振幅が|Vac|*であり、且つ出力電圧指令値Vac*がd軸上に位置する動作点は一意に求めることができ下記(5)式、(6)式のようになる。
【0086】
【数5】
【0087】
【数6】
【0088】
上記(5)式のVac_d*、Vac_q*図2図6の仮想同期インピーダンス補償ブロック11から出力され、上記(6)式は図6の加算器26により求められる。
【0089】
以上のように本実施例2によれば、実施例1と同様に、負荷変動時も出力電圧指令値Vac*の振幅を電圧振幅指令値|Vac|*に保ち、且つ仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vzを模擬し、同期化力を再現することが可能になる。
【0090】
但し、本実施例2では三角関数の演算が不要であるため、実施例1と比較して少ない演算量で済む。
(実施例3)
実施例3における、出力電流検出値Iac、出力電圧指令値Vac*、内部誘起電圧Ef、出力電圧位相δ、電圧振幅指令値|Vac|*、電圧降下Vz_d,Vz_qの、d軸、q軸上の関係は図7に示すとおりであり、内部誘起電圧Efを基準位相(d軸上)としている。
【0091】
尚、出力電圧指令値Vac*の演算時は、図7(a)のように前回制御周期で求めた内部誘起電圧Ef(Z-1)をd軸上に配置し、Efの演算時は図7(b)のように今回制御周期での内部誘起電圧Efをd軸上に配置している。
【0092】
実施例3における仮想同期インピーダンス補償ブロック11は、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、前回制御周期時に算出された内部誘起電圧から、位相差δを算出し、設定した電圧振幅指令値|Vac|*を前記位相差δで回転座標変換することによって出力電圧指令値Vac*を算出し、該算出した出力電圧指令値Vac*と、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsから内部誘起電圧Efを算出するものであり、図8のように構成されている。
【0093】
図8において、図4と同一部分は同一符号をもって示している。図8において、31は、制御周期毎に、後述の加算器36により算出された内部誘起電圧Ef_dを一時記憶するバッファ(Z-1は単位遅延演算子)である。
【0094】
32は、前記バッファ31に記憶されている、前回制御周期時に演算された内部誘起電圧Ef_d(Z-1)と、Vz算出部20で算出されたVz_dとの偏差をとる減算器である。
【0095】
33は、設定した0とVz算出部20で算出されたVz_qとの偏差をとる減算器である。
【0096】
34は、減算器32の偏差出力(Ef_d(Z-1)-Vz_d)と減算器33の偏差出力(-Vz_q)に基いて、下記(7)式を演算して位相差δを求めるtan-1算出部である。
【0097】
【数7】
【0098】
35は、電圧振幅指令値|Vac|*を、tan-1算出部34で求められた位相差δによって回転座標変換して、下記(8)式に沿って出力電圧指令値Vac_d*、Vac_q*を演算する回転行列演算部である。
【0099】
【数8】
【0100】
36は、回転行列演算部35で演算された出力電圧指令値Vac_d*と、Vz算出部20で算出されたVz_dを加算して内部誘起電圧Ef_dを算出する加算器である。
【0101】
加算器36の加算出力であるEf_dは出力されるとともに、次回制御周期の演算のためにバッファ31に入力される。尚、内部誘起電圧Ef_qは0と近似する。
【0102】
前記実施例1では内部誘起電圧Efと出力電圧指令値Vac*を同時に求めていたのに対して、本実施例3では、図8の回路のように、前回制御周期で求めた内部誘起電圧前回値Ef(Z-1)と電圧降下Vzの差分より、tan-1算出部34にて下記(7)式のように位相差δを求め、回転行列演算部35にて下記(8)式のように電圧振幅指令値|Vac|*を位相差δで回転座標変換することで、出力電圧指令値Vac*を求める。
【0103】
【数7】
【0104】
【数8】
【0105】
内部誘起電圧Efは、出力電圧指令値Vac*と電圧降下Vzより、下記(9)式のようになる。
【0106】
【数9】
【0107】
上記(9)式は加算器36で演算される。
【0108】
本実施例3では、内部誘起電圧前回値Ef(Z-1)を基準に動作点を決定するため、内部誘起電圧Efにq軸成分が出てくる場合があるが、内部誘起電圧Efをd軸上に配置するため、q軸成分は0と近似する。また、次回制御周期の演算のためにEf_dをバッファ31に保存する。尚、バッファ31の初期値は電圧振幅指令値|Vac|*とする。
【0109】
以上のように実施例3によれば、前回制御周期のEf(Z-1)を利用して出力電圧指令値Vac*を演算することで、電圧振幅を一定に保ちつつ、仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vzを模擬し、同期化力を再現できる。前回制御周期のEf(Z-1)を使用するため、実施例1、2と比較して応答は遅い。また、内部誘起電圧Efは近似値となる。
(実施例4)
実施例4における、出力電流検出値Iac、出力電圧指令値Vac*、内部誘起電圧Ef、出力電圧位相δ、電圧振幅指令値|Vac|*、電圧降下Vz_d,Vz_qの、d軸、q軸上の関係は図9に示すとおりであり、内部誘起電圧Efを基準位相(d軸上)としている。尚、出力電圧指令値Vac*の演算時は図9(a)のベクトルとなり、Efの演算時は図9(b)のベクトルとなる。
【0110】
実施例4における仮想同期インピーダンス補償ブロック11は、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsと、設定した電圧振幅指令値|Vac|*から、位相差δを算出し、設定した電圧振幅指令値|Vac|*を前記位相差δで回転座標変換することによって出力電圧指令値Vac*を算出し、該算出した出力電圧指令値Vac*と、出力電流検出値Iacと、前記仮想同期インピーダンスZsから内部誘起電圧Efを算出するものであり、図10のように構成されている。
【0111】
図10において図8と同一部分は同一符号をもって示している。図10において41は、電圧振幅指令値|Vac|*とVz算出部20で算出されたVz_dの偏差をとる減算器である。
【0112】
42は、設定した0とVz算出部20で算出されたVz_qの偏差をとる減算器である。
【0113】
43は、減算器41の偏差出力(|Vac|*-Vz_d)と減算器42の偏差出力(-Vz_q)に基いて下記(10)式を演算して位相差δを求めるtan-1算出部である。
【0114】
【数10】
【0115】
44は、電圧振幅指令値|Vac|*を、tan-1算出部43で求められた位相差δによって回転座標変換して、下記(8)式に沿って出力電圧指令値Vac_d*、Vac_q*を演算する回転行列演算部である。
【0116】
【数8】
【0117】
45は、回転行列演算部44で演算された出力電圧指令値Vac_d*と、Vz算出部20で算出されたVz_dを加算して内部誘起電圧Ef_dを算出する加算器である。尚、内部誘起電圧Ef_qは0と近似する。
【0118】
前記実施例3では位相差δ演算のために、内部誘起電圧Ef前回値を使用していたのに対して、本実施例4では電圧振幅指令値|Vac|*を使用することで簡略化した。
【0119】
すなわち、減算器41,42およびtan-1算出部43によって下記(10)式を演算して位相差δを演算している。
【0120】
【数10】
【0121】
出力電圧指令値Vac_d*,Vac_q*は、実施例3と同様に回転行列演算部44にて(8)式を演算することで求められる。
【0122】
内部誘起電圧Ef_dは、実施例3と同様に加算器45にて(9)式を演算することで求められる。
【0123】
位相差δは、実施例3のように内部誘起電圧Efからの電圧降下によって決定した場合と比較して誤差が生じるが、電圧振幅を一定に保ちつつ、同期化力を再現できる。
【0124】
本実施例4は、実施例3と比較して内部誘起電圧Efのバッファ(31)を不要とすることができ、構成を簡略化できる。
【0125】
尚、模擬する同期発電機の仮想同期インピーダンスは、電力変換器内のパラメータであるため、同期機の物理的な制限に囚われず自由に設定することができる。仮想同期インピーダンスが小さいほど、前記位相差δの誤差は小さくなると考えられるため、仮想同期インピーダンスを位相差δの誤差が問題にならない程度に小さい値に設定する場合は、本実施例4の方式を適用できる。
(実施例5)
図11の上段に、例えば蓄電池等の直流電源の直流電力を交流電力に変換する電力変換器の出力が、LCフィルタおよび連系用のトランス(Tr)を介して電力系統と連系されるPCSの構成を示し、図11の下段に仮想同期インピーダンスモデルの構成を示す。
【0126】
図11のように、電力変換器の出力が、LCフィルタおよび連系用のトランスTrを介して電力系統と連系される場合、トランスTrによる電圧降下Vtrによって系統電圧(電力系統との連系点電圧)Vsysは減少する。
【0127】
系統電圧振幅|Vsys|を電圧振幅指令値|V|*に一致させたい場合、電圧降下量に応じて系統電圧振幅|Vsys|を電圧振幅指令値|V|*に一致させる制御が必要であり、負荷変動時にも高速に応答できる制御系が望ましい。
【0128】
そこで本実施例5では、蓄電池等の直流電源をDC/AC変換装置(電力変換器INV)とLCフィルタとトランスを介して系統連系を行い、特に制御系に、同期発電機を模擬した角周波数ωrを決定する仮想同期発電機モデルと、内部誘起電圧Efと同期発電機の仮想同期インピーダンス(Zs)による電圧降下(Vz)を模擬する仮想同期インピーダンス補償ブロックとを備えたPCS(電力変換装置)において、PCSの出力電圧を指令値に制御する電圧制御によって制御されるときに、仮想同期インピーダンス補償ブロックにて、仮想同期インピーダンスとトランスにより発生する電圧降下量に応じて、電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efの動作点を数学的に求めることによって、仮想同期インピーダンスによる同期化力を再現しつつ、連系用のトランスによる電圧降下を補償し、負荷変動時にも高速に応答できるように構成した。
【0129】
図12は、本実施例5における電力変換装置の制御システムの全体構成を示しており、図2と同一部分は同一符号をもって示している。図12において、1は例えば蓄電池を有した直流電源であり、2は直流電源1の直流電力を交流電力に変換する電力変換器(INV)である。
【0130】
電力変換器2は、例えばIGBTをブリッジ接続して構成され、後述のPWM部(16)で生成されたゲート信号Gateによってオン、オフ制御がなされる。
【0131】
電力変換器2の交流出力側は、リアクトルLfおよびコンデンサCfからなるLCフィルタ3とトランス4(Tr)を介して電力系統5に接続(連系)されている。
【0132】
11は、電力変換器2の出力電流を変流器12で検出した検出電流を、後述する座標変換部52によりd、q軸に変換した出力電流検出値Iacと、設定した電圧振幅指令値|V|*を入力とし、電力変換器2の出力電流で生じる仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vzを模擬し、その模擬した電圧降下Vzに応じて、出力電圧指令値Vac*と仮想同期発電機の内部誘起電圧Efを算出する仮想同期インピーダンス補償(Zs補償)ブロックである。
【0133】
13は、仮想同期インピーダンス補償ブロック11で算出された内部誘起電圧Efと前記出力電流検出値IacからVSG(Virtual Synchronous Generator)モデルの電気出力(Pe)を演算し、その演算した電気出力(Pe)と設定した基準電力Prefとの偏差に基いて、同期発電機を模擬した角周波数ωrを決定する仮想同期発電機モデルである。
【0134】
14は、PCSの出力電圧(電力変換器2の出力電圧)を計器用変圧器15により検出した検出電圧を、後述する座標変換部53によりd、q軸に変換した出力電圧検出値Vacが、仮想同期インピーダンス補償ブロック11で算出された出力電圧指令値Vac*と一致するように制御するための指令信号を生成するPCS出力電圧制御部(AVR)であり、その指令信号は後述する座標変換部54により3相のu,v,wに変換され、3相の出力電圧制御指令Vcmdが出力される。
【0135】
16は、PCS出力電圧制御部14で生成された出力電圧制御指令VcmdとPWMキャリアによりPWM変調したゲート信号Gateを生成し、電力変換器2をPWM制御するPWM部である。同期PWMの場合は、仮想同期発電機モデル13で決定された角周波数ωrを逓倍した周波数のPWMキャリアを用いる。非同期PWMの場合は固定周波数のPWMキャリアを用いる。
【0136】
51は、仮想同期発電機モデル13から出力される角周波数ωrを積分して内部位相θrを出力する積分器である。
【0137】
前記座標変換部52,53,54は、積分器51から出力される内部位相θrで各々回転座標変換を行う。
【0138】
実施例5における仮想インピーダンスモデルは図11のとおりである。実施例5における、出力電流検出値Iac、出力電圧指令値Vac*、内部誘起電圧Ef、出力電圧位相δ、電圧振幅指令値|V|*、仮想同期インピーダンスでの電圧降下Vz_d,Vz_q、系統電圧(連系点電圧)Vsys、連系用のトランスによる電圧降下Vtr_d,Vtr_qの、d軸、q軸上の関係は図13に示すとおりであり、内部誘起電圧Efを基準位相(d軸上)としている。
【0139】
実施例5における仮想同期インピーダンス補償ブロック11は、図14のように構成されている。
【0140】
図14において、61は、前記出力電流検出値Iacをd軸、q軸に変換したd軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(1)式を演算して仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vz_d、Vz_qを算出するVz算出部である。
【0141】
【数1】
【0142】
(ただし、rはZsの抵抗成分、xはZsのリアクタンス成分)
62は、d軸電流検出値Iac_d、q軸電流検出値Iac_qに基いて、下記(11)式を演算して連系用のトランス4のインピーダンスZtrによる電圧降下Vtr_d、Vtr_qを算出するVtr算出部である。
【0143】
【数11】
【0144】
(ただし、RtrはZtrの抵抗成分、XtrはZtrのリアクタンス成分)
63は、Vz算出部61で算出された電圧降下Vz_dから、Vtr算出部62で算出された電圧降下Vtr_dを減算する減算器(第1の減算器)である。
【0145】
64は、Vz算出部61で算出された電圧降下Vz_qから、Vtr算出部62で算出された電圧降下Vtr_qを減算する減算器(第3の減算器)である。
【0146】
65は、前記Vz算出部61で算出されたVz_qと、設定された電圧振幅指令値|V|*に基いて、下記(12)式を演算して出力電圧位相δを求めるsin-1算出部である。
【0147】
【数12】
【0148】
66は、前記出力電圧位相δのcos成分であるcosδを算出するcos算出部である。
【0149】
67は、cos算出部66の出力と電圧振幅指令値|V|*を乗算する乗算器である。
【0150】
68は、Vz算出部61で算出されたVz_dと乗算器67の出力とを加算して、系統電圧(電力系統の連系点電圧)Vsysの振幅が|V|*であり、且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在しトランス4による電圧降下Vtrを打ち消すように補償する動作点の内部誘起電圧Ef_dを出力する加算器である。
【0151】
69は、加算器68から出力される内部誘起電圧Ef_dから、減算器63の偏差出力を減算して、系統電圧(電力系統の連系点電圧)Vsysの振幅が|V|*であり、且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在しトランス4による電圧降下Vtrを打ち消すように補償する動作点の出力電圧指令値Vac_d*を出力する減算器(第2の減算器)である。
【0152】
70は、減算器64の偏差出力の極性を反転させる極性反転器であり、その出力は、出力電圧指令値Vac_q*として出力される。尚、内部誘起電圧Ef_qは0である。
【0153】
尚、図13のベクトル「Vz-Vtr」は図14の減算器63(第1の減算器)の減算動作を表し、図13のベクトルEf,Vz-Vtr,Vac*図14の減算器69(第2の減算器)の減算動作を表している。
【0154】
上記のように構成された装置において、PCS出力電圧制御部14は、出力電圧Vac(LCフィルタ後の端子電圧を検出した電圧Vac)が、内部誘起電圧Efから出力電流Iacが流れることによって生じる仮想同期インピーダンスZsによる電圧降下Vzを減算した値に、連系用のトランス4に生じる電圧降下を加算した出力電圧指令値Vac*と一致するように電圧制御を行う。
【0155】
仮想同期インピーダンスZs(rおよびx)と出力電流Iacより、電圧降下Vzをd、q座標上で表すと下記(1)式(Vz算出部61で算出される式)のようになる。
【0156】
【数1】
【0157】
連系用のトランス4のインピーダンスZtr(RtrおよびXtr)と出力電流Iacより、推定される電圧降下Vtrをd、q軸上で表すと下記(11)式のようになる。
【0158】
【数11】
【0159】
電圧降下Vzより、電力系統の連系点電圧Vsysの振幅が|V|*であり且つ内部誘起電圧Efがd軸上に位置する動作点は一意に求めることができ、下記(12)~(14)式のようになる。
【0160】
【数12】
【0161】
【数13】
【0162】
【数14】
【0163】
上記(12)式は図14のsin-1算出部65により求められ、上記(13)式は乗算器67および加算器68により求められる。また(14)式は図13のベクトル図に示されるEf,Vz_d,Vsysの関係から明らかである。
【0164】
算出した系統電圧Vsysに連系用のトランス4の電圧降下Vtrを下記(15)式のように加算し、出力電圧指令値Vac*とする。
【0165】
【数15】
【0166】
加算したトランス4の電圧降下Vtrは、実際に発生する電圧降下と打ち消し合うことで(14)式で算出した系統電圧Vsysを連系用のトランス4の上位に再現する。
【0167】
以上のように本実施例5によれば、負荷電流に応じて、系統電圧Vsysの振幅が電圧振幅指令値|V|*であり、且つ内部誘起電圧Efがd軸上に位置する、連系用のトランスによる電圧降下を打ち消す動作点の出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを逐次演算することで、負荷変動時でも系統電圧振幅を一定に保ちつつ、仮想同期インピーダンスによる電圧降下を模擬し、同期化力を再現できる。
(実施例6)
実施例6における仮想インピーダンスモデルは図15に示すとおりである。実施例6における、出力電流検出値Iac、出力電圧指令値Vac*、内部誘起電圧Ef、出力電圧位相δ、電圧振幅指令値|V|*、仮想同期インピーダンスZsでの電圧降下Vz_d,Vz_q、系統電圧(連系点電圧)Vsys、連系用のトランス4による電圧降下Vtr_d,Vtr_qの、d軸、q軸上の関係は図16に示すとおりであり、内部誘起電圧Efを基準位相(d軸上)としている。
【0168】
前記実施例5では連系用のトランス4による電圧降下を全て補償していたのに対して、本実施例6は、系統電圧(Vsys)振幅の電圧振幅指令値|V|*からの降下分のみを補償する方式である。系統(Vsys側)から見たときに、実施例5では図11のように内部誘起電圧Efと位相同期インピーダンスZsのみが存在するように見える(トランス4による電圧降下分は打ち消されるため)のに対し、実施例6では図15のように連系用のトランス4のインピーダンスも見える点が異なる。
【0169】
実施例6における仮想同期インピーダンス補償ブロック11は、図17のように構成されている。図17において、図14と同一部分は同一符号をもって示している。
【0170】
81は、Vz算出部61で算出された電圧降下Vz_dと、Vtr算出部62で算出された電圧降下Vtr_dを加算する加算器(第1の加算器)である。
【0171】
82は、Vz算出部61で算出された電圧降下Vz_qと、Vtr算出部62で算出された電圧降下Vtr_qを加算する加算器(第2の加算器)である。
【0172】
83は、加算器82の出力と、設定された電圧振幅指令値|V|*に基いて、下記(16)式を演算して出力電圧位相δを求めるsin-1算出部である。
【0173】
【数16】
【0174】
84は、前記出力電圧位相δのcos成分であるcosδを算出するcos算出部である。
【0175】
85は、cos算出部84の出力と電圧振幅指令値|V|*を乗算する乗算器である。
【0176】
86は、加算器81の加算出力と乗算器85の出力とを加算して、系統電圧(電力系統の連系点電圧)Vsysの振幅が|V|*であり、且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在しトランス4による電圧降下Vtrのうち振幅の減少を補償する動作点の内部誘起電圧Ef_dを出力する加算器(第3の加算器)である。
【0177】
87は、加算器86から出力される内部誘起電圧Ef_dから、Vz算出部61で算出されたVz_dを減算して、系統電圧(電力系統の連系点電圧)Vsysの振幅が|V|*であり、且つ内部誘起電圧Efがd軸に存在しトランス4による電圧降下Vtrのうち振幅の減少を補償する動作点の出力電圧指令値Vac_d*を出力する減算器である。
【0178】
88は、Vz算出部61から出力されるVz_qの極性を反転させる極性反転器であり、その出力は、出力電圧指令値Vac_q*として出力される。尚、内部誘起電圧Ef_qは0である。
【0179】
上記のように構成された装置において、仮想同期インピーダンスによる電圧降下Vzは実施例5と同様に(1)式から求め、連系用のトランス4による電圧降下Vtrは実施例5と同様に(11)式から求める。
【0180】
【数1】
【0181】
【数11】
【0182】
前記電圧降下Vz,Vtrより、系統電圧(Vsys)振幅が|V|*であり、且つ内部誘起電圧Efがd軸上に位置する動作点は一意に求めることができ、下記(16)~(19)式のようになる。
【0183】
【数16】
【0184】
【数17】
【0185】
【数18】
【0186】
【数19】
【0187】
上記(16)式は図17のsin-1算出部83により求められ、(17)式は図17の加算器86により求められる。(18)式は図16のベクトルVsys、Ef、Vz、Vtrの関係から明らかであり、(19)式は図16のベクトルEf、Vz、Vac*の関係から明らかである。
【0188】
以上のように本実施例6によれば、負荷電流に応じて、系統電圧Vsysの振幅が電圧振幅指令値|V|*であり、且つ内部誘起電圧Efがd軸上に位置する、連系用のトランスによる電圧降下のうち振幅の減少を補償する動作点の出力電圧指令値Vac*と内部誘起電圧Efを逐次演算することで、負荷変動時でも系統電圧振幅を一定に保ちつつ、仮想同期インピーダンスによる電圧降下を模擬し、同期化力を再現できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17