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特許7403649フッ素樹脂組成物、硬化被膜、積層フィルム、および構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】フッ素樹脂組成物、硬化被膜、積層フィルム、および構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20231215BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20231215BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20231215BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20231215BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231215BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20231215BHJP
   C09D 175/00 20060101ALI20231215BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231215BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L27/12
C08K5/54
C08K5/29
C09D7/63
C09D127/18
C09D175/00
B32B27/30 D
B32B27/18 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022530115
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2021019899
(87)【国際公開番号】W WO2021251135
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2020102294
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】村上 真一
(72)【発明者】
【氏名】落合 洋之
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-117073(JP,A)
【文献】特開平07-228819(JP,A)
【文献】特開2018-123314(JP,A)
【文献】特開2014-030998(JP,A)
【文献】特開2011-202033(JP,A)
【文献】特開平08-174775(JP,A)
【文献】国際公開第2009/157449(WO,A1)
【文献】特開平02-232221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C09D 7/63
C09D 127/18
C09D 175/00
B32B 27/30
B32B 27/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)四フッ化エチレン樹脂、(B)三フッ化エチレン樹脂、(C)ケイ素含有有機化合物、および(D)イソシアネート系硬化剤を含む、フッ素樹脂組成物であって、
前記(A)四フッ化エチレン樹脂と前記(B)三フッ化エチレン樹脂の含有量の比が、55:45~95:5であり、
前記(C)ケイ素含有有機化合物が、ポリエステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエーテル-ポリエステル変成シリコーン、シリコーン変性アクリル樹脂、およびカルビノール変性シリコーンからなる群から選択される少なくとも1種の有機変性シリコーンであり、
前記(C)ケイ素含有有機化合物の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として0.01質量%以上5質量%以下である、フッ素樹脂組成物
【請求項2】
前記(D)イソシアネート系硬化剤の含有量は、前記(A)四フッ化エチレン樹脂および前記(B)三フッ化エチレン樹脂の合計の水酸基1個に対して、前記(D)イソシアネート系硬化剤のイソシアネート基を0.05~2.5個含むものである、請求項1に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)四フッ化エチレン樹脂の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として40質量%以上70質量%以下である、請求項1または2に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)三フッ化エチレン樹脂の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として5質量%以上35質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)四フッ化エチレン樹脂と前記(B)三フッ化エチレン樹脂の含有量の比が、60409010である、請求項1~4のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)ケイ素含有有機化合物の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として0.02質量%以上質量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項7】
塗料組成物である、請求項1~6のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物から形成される硬化被膜。
【請求項9】
基材と、前記基材上に請求項1~7のいずれか一項に記載のフッ素樹脂組成物から形成された硬化被膜とを有する、積層フィルム。
【請求項10】
前記硬化被膜上に保護フィルムをさらに有する、請求項9に記載の積層フィルム。
【請求項11】
前記基材が、樹脂フィルムである、請求項9または10に記載の積層フィルム。
【請求項12】
前記基材の前記硬化被膜と反対側の面に粘着層をさらに備える、請求項9~11のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項13】
ペイントプロテクションフィルムに用いられる、請求項9~12のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項14】
車両のランプレンズに用いられる、請求項9~13のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項15】
支持体と、前記支持体上に積層された請求項9~14のいずれか一項に記載の積層フィルムとを備える、構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂組成物に関する。また、本発明は、フッ素樹脂組成物から形成される硬化被膜、および該硬化被膜を有する積層フィルムにも関する。さらに、本発明は、該積層フィルムを備える構造体にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、自動車の外装としてペイントプロテクションフィルムが用いられている。ペイントプロテクションフィルムは、屋外で使用される工業製品の表面保護にも用いられる機能性フィルムである。自動車の外装用塗膜においては、塗膜の耐久性、特に酸性雨による雨じみ、および洗車ブラシや走行中に舞い上がる砂粒やホコリ等による傷が問題となっていた。そのため、自動車用のペイントプロテクションフィルムに求められる機能性としては、透明性、密着性、耐候性、防汚性、および耐傷性等が挙げられる。特に、耐傷性には、長期間の使用を想定し、自己修復性も求められている。
【0003】
しかし、従来のアクリル樹脂やウレタン樹脂系のみの塗料組成物からなる場合には、耐候性の向上やその他性能の維持を両立することが困難であり、これらの機能には改善の余地があった。通常、塗膜の耐候性については、塗料組成物にフッ素樹脂を配合することで大きく改善することができる。例えば、特許文献1では、フッ素系樹脂を含む塗料組成物を用いることが提案されている(特許文献1参照)。また、特許文献2では、フッ素系樹脂およびビニル系樹脂を含む塗料組成物を用いることも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平05-105840号公報
【文献】特開平08-295843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ペイントプロテクションフィルムの製造の際には、通常、硬化被膜面に保護フィルム(セパレートフィルム)を貼付け、施工の際には、硬化被膜面から保護フィルムを剥離する必要がある。しかし、本発明者らは、特許文献1および2に記載の塗料組成物を用いた場合、硬化被膜面への保護フィルムの貼付性や施工時の保護フィルムの剥離性が劣るという技術的な課題を知見した。
【0006】
そこで、本発明者らは、塗料組成物中にケイ素含有有機化合物を配合することで、硬化被膜面への保護フィルムの貼付性や施工時の保護フィルムの剥離性が改善することを知見した。しかし、ケイ素含有有機化合物は、フッ素樹脂との相溶性が悪く、白化し易いため、透明性が維持できない恐れがあった。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、透明性、密着性、施工性、耐候性、自己修復性、および防汚性に優れる硬化被膜を形成可能なフッ素樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、フッ素樹脂組成物において、フッ素樹脂として(A)四フッ化エチレン樹脂および(B)三フッ化エチレン樹脂を併用し、さらに(C)ケイ素含有有機化合物を配合することにより、上記課題を解決できることを知見した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] (A)四フッ化エチレン樹脂、(B)三フッ化エチレン樹脂、および(C)ケイ素含有有機化合物を含む、フッ素樹脂組成物。
[2] (D)イソシアネート系硬化剤をさらに含む、[1]に記載のフッ素樹脂組成物。
[3] 前記(A)四フッ化エチレン樹脂の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として40質量%以上70質量%以下である、[1]または[2]に記載のフッ素樹脂組成物。
[4] 前記(B)三フッ化エチレン樹脂の含有量が、前記フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として5質量%以上35質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
[5] 前記(A)四フッ化エチレン樹脂と前記(B)三フッ化エチレン樹脂の含有量の比が、固形分換算で、55:45~95:5である、[1]~[4]のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
[6] 前記(C)ケイ素含有有機化合物の含有量が、フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として0.01質量%以上5質量%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
[7] 塗料組成物である、[1]~[6]のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物から形成される硬化被膜。
[9] 基材と、前記基材上に[1]~[7]のいずれかに記載のフッ素樹脂組成物から形成された硬化被膜とを有する、積層フィルム。
[10] 前記硬化被膜上に保護フィルムをさらに有する、[9]に記載の積層フィルム。
[11] 前記基材が、樹脂フィルムである、[9]または[10]に記載の積層フィルム。
[12] 前記基材の前記硬化被膜と反対側の面に粘着層をさらに備える、[9]~[11]のいずれかに記載の積層フィルム。
[13] ペイントプロテクションフィルムに用いられる、[9]~[12]のいずれかに記載の積層フィルム。
[14] 車両のランプレンズに用いられる、[9]~[13]のいずれかに記載の積層フィルム。
[15] 支持体と、前記支持体上に積層された[9]~[14]のいずれかに記載の積層フィルムとを備える、構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透明性、密着性、施工性、耐候性、自己修復性、および防汚性に優れる硬化被膜を形成可能なフッ素樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、このようなフッ素樹脂組成物から形成される硬化被膜、および積層フィルムを提供することもできる。さらに、本発明によれば、このような積層フィルムを備える構造体を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による積層フィルムの一実施形態を示した概略断面図である。
図2】本発明による積層フィルムの一実施形態を示した概略断面図である。
図3】本発明による積層フィルムの一実施形態を示した概略断面図である。
図4】本発明による構造体の一実施形態を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。なお、本明細書において、「固形分」とは、フッ素樹脂組成物から有機溶剤等の揮発成分を除いたものであり、硬化させたときに硬化被膜を構成する成分を示す。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレートおよびメタクリレートを表し、「(メタ)アクリル」はアクリルおよびメタクリルを表す。
【0013】
<フッ素樹脂組成物>
本発明によるフッ素樹脂組成物は、(A)四フッ化エチレン樹脂、(B)三フッ化エチレン樹脂、および(C)ケイ素含有有機化合物を含むものである。本発明においては、フッ素樹脂組成物が(A)~(C)成分を含むことで、透明性、密着性、施工性、耐候性、自己修復性、および防汚性に優れる硬化被膜を形成することができる。このようなフッ素樹脂組成物は、塗料組成物として用いることができ、特に、フロントボディ、アッパーボディ、フロントガラス、およびランプレンズ等の車両部材用の塗料組成物として好適に用いることができる。一例として、本発明によるフッ素樹脂組成物から形成された硬化被膜は、ペイントプロテクションフィルムとして好適であり、特に自動車のペイントプロテクションフィルムとして好適である。
【0014】
本発明によるフッ素樹脂組成物は、上記の(A)~(C)成分以外にも、(D)イソシアネート系硬化剤、(E)光安定剤、(F)紫外線吸収剤、および溶剤等の他の成分をさらに含んでもよい。以下、フッ素樹脂組成物を構成する各成分について詳述する。
【0015】
((A・B)フッ素樹脂)
フッ素樹脂とは、分子構造中にフッ素を有する樹脂であり、例えば、四フッ化エチレン樹脂、三フッ化エチレン樹脂、二フッ化エチレン樹脂(フッ化ビニリデン樹脂)等が挙げられる。本発明においては、水酸基含有四フッ化エチレン樹脂および水酸基含有三フッ化エチレン樹脂を併用することで、二フッ化エチレン樹脂を用いるのに比べて、下記のケイ素含有有機化合物との相溶性を維持しつつ、硬化被膜の自己修復性および防汚性をバランスよく向上させることができる。
【0016】
(A)四フッ化エチレン樹脂は、少なくとも、テトラフルオロエチレンおよび水酸基含有ビニル系単量体が共重合したものであり、さらに他のビニル系単量体が共重合したものでもよい。これらの単量体は、水酸基以外にも、エポキシ基やカルボキシ基等の他の官能基を有していてもよい。四フッ化エチレン樹脂中のテトラフルオロエチレンの含有量は特に限定されず、適宜調節することができるが、通常、20~60質量%が好ましい。
【0017】
水酸基含有ビニル系単量体としては、例えば、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル;2-アリロキシ-1-エタノール、3-アリロキシ-1-プロパノール、4-アリロキシ-1-ブタノール、5-アリロキシ-1-ペンタノール、6-アリロキシ-1-ヘキサノール、7-アリロキシ-1-ヘプタノール、8-アリロキシ-1-オクタノール、ポリエチレングリコールのモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールのモノアリルエーテル等のヒドロキシ基含有アリルエーテル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルポリオールと、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートまたは2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有ビニル系単量体とのモノエーテル;無水マレイン酸や無水イタコン酸のような酸無水基含有ビニル系単量体と、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール等のグリコール類とのモノエステル化物またはジエステル化物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有ビニル系単量体に、ε-カプロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、δ-カプロラクトン、γ-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン等のラクトン類が0~10モル付加したラクトン変性ビニル系単量体等を挙げることができる。これらの水酸基含有ビニル系単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
他のビニル系単量体としては、ばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のC1~C18アルキルまたはシクロアルキルエステル;その他には2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、スチレン、スチレン誘導体、アクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルトルエン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等を挙げることができる。これらの他のビニル系単量体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
四フッ化エチレン樹脂の具体例としては、例えば、ダイキン工業株式会社製ゼッフルシリーズ(GK-500、GK-510、GK-550、GK-570等)等が挙げられる。
【0020】
(A)四フッ化エチレン樹脂の含有量は、フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として、好ましくは40質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは45質量%以上65質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上60質量%以下である。四フッ化エチレン樹脂の含有量が上記数値範囲内であると、透明性、密着性、施工性、耐候性、自己修復性、および防汚性により優れる硬化被膜を得ることができる。」
【0021】
(B)三フッ化エチレン樹脂は、少なくとも、クロロトリフルオロエチレンおよび水酸基含有ビニル系単量体が共重合したものであり、さらに他のビニル系単量体が共重合したものでもよい。三フッ化エチレン樹脂中のクロロトリフルオロエチレンの含有量は特に限定されず、適宜調節することができるが、通常、20~60質量%が好ましい。水酸基含有ビニル系単量体および他のビニル系単量体は、上述の四フッ化エチレン樹脂と同様のものを用いることができる。
【0022】
三フッ化エチレン樹脂の具体例としては、例えば、AGC株式会社製ルミフロンシリーズ(LF200、LF400、LF600、LF600X、LF800、LF906N、LF910LM、LF916N、LF936、LF9010等)等が挙げられる。
【0023】
(B)三フッ化エチレン樹脂の含有量は、フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として、好ましくは5質量%以上35質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上25質量%以下である。三フッ化エチレン樹脂の含有量が上記数値範囲内であると、透明性、密着性、耐候性、自己修復性、および防汚性により優れる硬化被膜を得ることができる。
【0024】
フッ素樹脂組成物中の(A)四フッ化エチレン樹脂と(B)三フッ化エチレン樹脂の含有量の比は、好ましくは55:45~95:5であり、好ましくは60:40~90:10であり、さらにより好ましくは70:30~80:20である。(A)四フッ化エチレン樹脂と(B)三フッ化エチレン樹脂の含有量の比が上記数値範囲内であると、透明性、密着性、施工性、耐候性、自己修復性、および防汚性により優れる硬化被膜を得ることができる。
【0025】
フッ素樹脂全体の水酸基価(OHV)は、好ましくは40~55mgKOH/gであり、より好ましくは44~51mgKOH/gである。水酸基当量が上記数値範囲内であると、所望の架橋密度が得られ易く、耐候性、自己修復性、および防汚性が向上し易くなる。
【0026】
((C)ケイ素含有有機化合物)
ケイ素含有有機化合物としては、特に限定されず、従来公知のケイ素含有有機化合物を用いることができ、例えば、有機変性シリコーンを用いることができる。変性シリコーンは、シリコーンの一部に各種有機基の置換基を導入したものである。変性部位は、例えば、ポリエステル部位、ポリエーテル部位、アクリル樹脂部位、及びカルビノール部位からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。本明細書において、アクリル樹脂には、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体が含まれる。変性部位は、シリコーン鎖の片末端型、両末端型、側鎖型、および側鎖両末端型のいずれであってもよい。有機変性シリコーンとしては、例えば、ポリエステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエーテル-ポリエステル変成シリコーン、シリコーン変性アクリル樹脂、カルビノール変性シリコーン等が挙げられる。これらの有機変性シリコーンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ポリエステル変性シリコーンの市販品としては、BYK-310、313、315(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。ポリエーテル変性シリコーンの市販品としては、BYK-300、302、306、307、330、331、333、342、378(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0028】
ケイ素含有有機化合物は水酸基を含有していることが好ましい。水酸基は、変性部位であるポリエステル部位、ポリエーテル部位、アクリル樹脂部位、およびカルビノール部位等に有していることが好ましい。水酸基含有有機変性シリコーンとしては、例えば、水酸基含有ポリエステル変性シリコーン、水酸基含有ポリエーテル変性シリコーン、水酸基含有ポリエーテル-ポリエステル変成シリコーン、水酸基含有シリコーン変性アクリル樹脂、カルビノール変性シリコーン等が挙げられる。これらの水酸基含有有機変性シリコーンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ケイ素含有有機化合物として、水酸基含有有機変性シリコーンを用いることで、イソシアネート系硬化剤と反応し、硬化被膜中で架橋密度が増大し、耐候性、自己修復性、および防汚性が向上し易くなる。
【0029】
水酸基含有シリコーン変性アクリル樹脂の市販品としては、BYK-シルクリーン3700(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、サイマックUS-270(東亞合成株式会社製)、ZX-028-G(株式会社T&K TOKA製)等が挙げられる。水酸基含有ポリエステル変性シリコーンの市販品としては、BYK-370(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。水酸基含有ポリエーテル変性シリコーンの市販品としては、BYK-377(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0030】
ケイ素含有有機化合物の含有量は、フッ素樹脂との相溶性の観点から、フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.02質量%以上2質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以上1質量%以下である。ケイ素含有有機化合物の含有量が上記数値範囲内であると、フッ素樹脂との相溶性を悪化させずに、耐候性、および防汚性が向上し易くなる。
【0031】
((D)イソシアネート系硬化剤)
イソシアネート系硬化剤は、フッ素樹脂に含まれる水酸基との反応により硬化するものであれば特に限定されない。イソシアネート系硬化剤は、ケイ素含有有機化合物が水酸基を有している場合には、ケイ素含有有機化合物とも反応し、架橋密度を増大させることができる。
【0032】
イソシアネート系硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ポリイソシアネート、およびこれらのイソシアネートを含むブロック型イソシアネート等が挙げられる。これらのイソシアネート系硬化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、密着性や施工性の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
【0033】
イソシアネート系硬化剤の含有量としては、フッ素樹脂の水酸基1個に対して、イソシアネート系硬化剤のイソシアネート基を好ましくは0.05~2.5個含み、より好ましくは0.1~2.0個含み、さらに好ましくは0.15~1.5個含む。フッ素樹脂の水酸基1個に対してイソシアネート系硬化剤のイソシアネート基が0.05個以上であると、反応性が良好となり、2.5個以下であると、水酸基と過剰に反応することがないため好ましい。
【0034】
((E)光安定剤)
光安定剤としては、特に限定されず、従来公知の光安定剤を用いることができる。光安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、1-[2-[3-(3,5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4,5]デカン-2,4-ジオン、ビス-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロネート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、(Mixed1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル/トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、Mixed{1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル/β,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエチル}-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、(Mixed 2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル/トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、Mixed{2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル/β,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエチル}-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、ポリ[(6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノール]、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの重合物、N,N’,N’’,N’’’-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン、ジブチルアミン-1,3,5-トリアジン-N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル等が挙げられる。
【0035】
光安定剤の含有量は、耐候性の観点から、フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.02質量%以上2質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以上1質量%以下である。
【0036】
((F)紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤は、特に限定されず、従来公知の紫外線吸収剤を用いることができる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2-[2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシヘキシル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチル-3’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-5-メトキシ-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-5-シアノ-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-5-tert-ブチル-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-5-ニトロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、ベンゼンプロパン酸-3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1、1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-,C7~9-ブランチ直鎖アルキルエステル、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール等が挙げられる。
【0038】
ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0039】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-アセトキシエトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシ-5,5’-ジスルホベンゾフェノン・2ナトリウム塩等が挙げられる。
【0040】
紫外線吸収剤の含有量は、耐候性の観点から、フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準として、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.02質量%以上2質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以上1質量%以下である。
【0041】
(その他の成分)
本発明によるフッ素樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、上記(A)~(E)成分以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、帯電防止剤、重合禁止剤、非反応性希釈剤、つや消し剤、分散剤、沈降防止剤、レベリング剤、分散剤、熱安定剤、密着性向上剤、光増感剤、抗菌剤、防カビ剤、抗ウイルス剤、可塑剤、蓄光材等を必要に応じて配合することができる。
【0042】
<フッ素樹脂組成物の調製方法>
本発明によるフッ素樹脂組成物は、上記の各成分を、従来公知の混合機、分散機、撹拌機等の装置を用いて、混合・撹拌することにより得られる。このような装置としては、たとえば混合・分散ミル、ホモディスパー、モルタルミキサー、ロール、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等が挙げられる。
【0043】
本発明においては、フッ素樹脂組成物を塗布に適した粘度に調整する等、必要に応じて溶剤で希釈することができる。溶剤としては、フッ素樹脂組成物中の樹脂分を溶解するものであれば特に限定されない。具体的には、芳香族炭化水素(例えば、トルエン、キシレンおよびエチルベンゼン)、エステル又はエーテルエステル(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルおよびメトキシブチルアセテート)、エーテル(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールのモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールのモノエチルエーテル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトンおよびシクロヘキサノン)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n-又はi-プロパノール、n-、i-、sec-又はt-ブタノール、2-エチルヘキシルアルコールおよびベンジルアルコール)、アミド(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、水およびこれらの2種以上の混合溶剤等が挙げられる。
【0044】
<硬化被膜>
本発明によるフッ素樹脂組成物から形成された硬化被膜は、厚さ10μmの場合、JIS K 7136に準拠して測定したヘイズが、1%未満であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましい。また、厚さ10μmの硬化被膜は、JIS K 7361-1に準拠して測定した全光線透過率が、90%以上であることが好ましく、91%以上であることがより好ましい。ヘイズおよび全光線透過率が上記範囲内であれば、透明性に優れる。
【0045】
<積層フィルム>
本発明による積層フィルムは、基材と、基材上に上記のフッ素樹脂組成物から形成された硬化被膜とを備えるものである。本発明による積層フィルムは、硬化被膜上に保護フィルムをさらに備えてもよい。また、本発明による積層フィルムは、基材の硬化被膜と反対側の面に粘着層をさらに備えてもよい。
【0046】
本発明による積層フィルムの実施形態の概略断面図を図1~3に示す。図1に示す積層フィルム11は、基材12と、基材12上に硬化被膜13とを備えるものである。図2に示す積層フィルム21は、基材22と、基材22上に硬化被膜23と、硬化被膜23上に保護フィルム24とを備えるものである。図3に示す積層フィルム31は、基材32と、基材32上に硬化被膜33と、硬化被膜33上に保護フィルム34とを備えるものである。さらに、積層フィルム31は、基材32の硬化被膜33と反対側の面に粘着層35を備えるものである。
【0047】
基材としては特に限定されず、各種の樹脂フィルムを用いることができる。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、ポリアミド樹脂、 セ ルロース樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリメチルメタクリル樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂等のフィルムが挙げられる。なお、本発明のフッ素樹脂組成物は全光線透過率が高く、ヘイズが低い、透明な硬化被膜を形成することが可能なため、透明な樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0048】
基材の厚さは、特に限定されるものではないが、通常25μm以上300μm以下であり、50μm以上200μm以下であることが好ましい 。
【0049】
保護フィルムは、使用時に硬化被膜から剥離されるフィルム(セパレートフィルム)である。保護フィルムとしては特に限定されず、各種の樹脂フィルムを用いることができる。樹脂フィルムとしては、基材と同様の樹脂フィルムを用いることができるが、剥離性や作業性の観点からポリエステル樹脂フィルム、特にPETフィルムを用いることが好ましい。
【0050】
保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、通常25μm以上250μm以下であり、25μm以上75μm以下であることが好ましい。
【0051】
粘着層として特に限定されず、積層フィルムを支持体に貼付できるものであれば、従来公知の粘着層を用いることができる。粘着層は、例えば、粘着剤を用いて形成することが好ましい。粘着剤としては、例えば、アクリル樹脂系、ポリビニルエーテル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、エステル樹脂系、シリコーン樹脂系、天然ゴム系、合成ゴム系等の粘着剤が挙げられる。これらの粘着剤は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、アクリル樹脂系粘着剤が好ましい。
【0052】
粘着層の厚さは、特に限定されるものではないが、通常10μm以上200μm以下であり、20μm以上100μm以下であることが好ましい 。
【0053】
本発明による積層フィルムの硬化被膜は、透明性、密着性、施工性、耐候性、自己修復性、および防汚性に優れる。そのため、本発明による積層フィルムは、ペイントプロテクションフィルムとして好適であり、特に自動車のペイントプロテクションフィルムとして好適である。また、本発明による積層フィルムは、自動車の他に、二輪車、鉄道車輛等を初めとする乗り物、並びに、外部の外装材、建物内部における内装材等への使用も可能である。
【0054】
<積層フィルムの製造方法>
本発明による積層フィルムは、上記のフッ素樹脂組成物を基材の少なくとも一方の面に塗布する塗布工程と、
塗布工程の後、上記のフッ素樹脂組成物を加熱し、硬化させて硬化被膜を形成する硬化工程と、
を含むものである。以下、各工程について、詳細に説明する。
【0055】
(塗布工程)
塗布工程は、基材の少なくとも一方の面に、従来公知の方法により、上記のフッ素樹脂組成物を塗布する工程である。塗布には、例えば、バーコーター、グラビアコーター、ロールコーター(ナチュラルロールコーターおよびリバースロールコーター等)、エアナイフコーター、スピンコーターおよびブレードコーター等の塗布機が使用できる。これらの中でも、作業性および生産性の観点からグラビアコーターを用いた塗布方法が好ましい。
【0056】
塗布膜厚は、硬化乾燥後の硬化被膜の膜厚として、好ましくは1~20μmであり、より好ましくは5~15μmである。硬化被膜の膜厚が上記範囲内であれば、施工性や自己修復性、耐候性に優れるものを得られ易い。
【0057】
(硬化工程)
硬化工程は、基材上に塗布されたフッ素樹脂組成物を加熱して硬化させる工程である。加熱方法としては、例えば熱風乾燥(ジェット乾燥機等)が挙げられる。加熱温度は、フッ素樹脂組成物が硬化するのに十分な温度であれば特に限定されないが、好ましくは40~150℃であり、より好ましくは60~120℃である。また、加熱時間は、フッ素樹脂組成物が硬化するのに十分な時間であれば特に限定されないが、好ましくは1分以上である。
【0058】
<構造体>
本発明による構造体は、支持体と、支持体上に積層された上記の積層フィルムとを備えるものである。積層フィルムの粘着層面を支持体に貼付することで、構造体を形成することができる。構造体の使用の際には、積層フィルム上の保護フィルムを硬化被膜から剥離することができる。
【0059】
本発明による構造体の実施形態の概略断面図を図4に示す。図4に示す構造体47は、支持体46上に、粘着層45、基材42、硬化被膜43、および保護フィルム44を順に備える積層フィルム41が積層されている。積層フィルム41の粘着層45面を支持体46に貼付することで、構造体47を形成することができる。図4では、保護フィルム44を図示しているが、保護フィルム44は剥離されていてもよい。
【0060】
支持体としては、特に限定されず、上記の積層フィルムを支持できる部材、駆体、筐体等であればよい。支持体としては、例えば、フロントボディ、アッパーボディ、フロントガラス、コーティングプラスチック材、およびランプレンズ等の車両部材が挙げられる。
【実施例
【0061】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
フッ素樹脂組成物の調製ために、以下の材料を準備した。
・(A)四フッ化エチレン樹脂1:水酸基価(OHV)60.0mgKOH/g、標準品、ダイキン工業株式会社製、商品名ゼッフルGK570
・(A)四フッ化エチレン樹脂2:水酸基価(OHV)60.0mgKOH/g、高酸価品、ダイキン工業株式会社製、商品名ゼッフルGK510
・(B)三フッ化エチレン樹脂1:水酸基価(OHV)31.0mgKOH/g、標準品、AGC株式会社製、商品名ルミフロンLF-200
・(B)三フッ化エチレン樹脂2:水酸基価(OHV)30.0mgKOH/g、低分子量品、AGC株式会社製、商品名ルミフロンLF-936
・アクリルポリオール:水酸基価(OHV)90.0mgKOH/g、日立化成株式会社製、商品名ヒタロイド3616
・(C)ケイ素含有有機化合物1:水酸基含有シリコーン変性アクリル樹脂、ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名BYK-シルクリーン3700
・(C)ケイ素含有有機化合物2:ポリエーテル変性シリコーン、ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名BYK-342
・フッ素オリゴマー:DIC株式会社製、商品名メガファックF-576
・アクリル樹脂:ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名BYK-394
・(D)イソシアネート系硬化剤:ヘキサメチレンジイソシアネート、イソシアネート量(NCO)14.0%、中国塗料株式会社製、商品名硬化剤74-H
・(E)光安定剤:BASF株式会社製、商品名チヌビン123
・(F)紫外線吸収剤:BASF株式会社製、商品名チヌビン479
・錫系触媒:DIC株式会社製、商品名グレックTL
・溶剤:酢酸ブチル
【0063】
<フッ素樹脂組成物の調製>
[実施例1]
表1に記載の配合に従って、フッ素樹脂組成物を調製した。詳細には、表1に記載の配合の通り、酢酸ブチルを7.4質量部と、四フッ化エチレン樹脂1(ゼッフルGK570)を83.1質量部と、三フッ化エチレン樹脂1(ルミフロンLF-200)を10.0質量部と、ケイ素含有有機化合物1(BYK-3700)を1.06質量部と、光安定剤(チヌビン123)を0.14質量部と、紫外線吸収剤(チヌビン479)を0.28質量部と、錫系触媒(グレックTL)を0.033質量部とを混合・溶解し、さらにイソシアネート系硬化剤(74-H)をNCO/OH=1.0の割合となるよう27.7質量部添加し、酢酸ブチルにて溶液の固形分濃度が20%となるよう希釈し、混合・溶解させて、フッ素樹脂組成物を得た。
【0064】
[実施例2~6、比較例1~9]
表1および2に記載の配合に従って、各成分の配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして、フッ素樹脂組成物を得た。但し、比較例7では、三フッ化エチレン樹脂およびアクリルポリオールを混合した段階で白濁した。また、比較例8では、四フッ化エチレン樹脂およびアクリルポリオールを混合した段階で白濁した。なお、表1および表2に記載の(A)~(C)成分の含有量(%)は、フッ素樹脂組成物の固形分換算100質量%を基準とした固形分質量である。
【0065】
<積層フィルムの製造>
熱可塑性ポリウレタンフィルム(厚さ150μm、Argotec社製、商品名ArgoGuard)に、上記で調製したフッ素樹脂組成物を乾燥膜厚が10μmとなるように1回塗布し、80℃の乾燥機にて4分間加温することで、塗膜を硬化させ、硬化被膜を形成し、積層フィルムを得た。
【0066】
<積層フィルムの評価>
(光学特性)
上記で製造した積層フィルムについて、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、型番:NDH4000)を用いて、JIS K 7136に準拠してヘイズ(HZ)を測定し、JIS K 7361-1に準拠して全光線透過率(TT)を測定した。測定結果を表3および4に示した。また、下記の基準にて光学特性を判定した。
[透明性(ヘイズ)(%)(HZ判定基準)]
〇:1%未満であった。
×:1%以上であった。
[透明性(全光線透過率)(%)(TT判定基準)]
〇:90%以上であった。
×:90%未満であった。
【0067】
(施工性)
上記で製造した積層フィルムの製造時において、フッ素樹脂組成物の塗布後、80℃で4分間の硬化乾燥直後の硬化被膜面に、PET保護フィルム(セパレートフィルム)を貼付けることが出来るか否かを確認し、セパレートフィルムの貼付性を評価した。さらに、セパレートフィルムを貼付後、40℃で24時間の養生後に硬化被膜面とセパレートフィルムが接着することなく、剥がすことが出来るか否かを確認し、セパレートフィルムの剥離性を評価した。下記の基準にて貼付性および剥離性を判定し、表3および4に示した。
[貼付性の評価基準]
○:硬化被膜面にセパレートフィルムを張り付けることができた。
×:硬化被膜面にセパレートフィルムを張り付けることができなかった。
[剥離性の評価基準]
○:硬化被膜面からセパレートフィルムを剥離することができた。
×:硬化被膜面からセパレートフィルムを剥離することができなかった。
【0068】
(密着性)
上記で製造した積層フィルムについて、JIS K 5600-5-6に記載されている碁盤目試験の方法に準拠して、カッターを用いて1mm間隔で塗膜に10マス×10マスの切れ込みを入れ、碁盤目を付けた試験片を作製した。続いて、セロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製)を試験片の碁盤目部分に貼り付けた後、このセロテープ(登録商標)を速やかに、碁盤目に対して45度斜め上方方向に引っ張って剥離させ、残った碁盤目の塗膜数を測定した。下記の基準にて密着性を判定し、表3および4に示した。
[評価基準]
〇:剥離が全く無かった(100目残存)であった。
△:僅かに剥離があった(90目以上100目以下残存)であった。
×:剥離が多かった(90目未満残存)であった。
【0069】
(耐候性(外観評価))
上記で製造した積層フィルムについて、QUV促進耐候性試験機(Q-Lab社製)を用いて、JIS K5600-7-8(塗料一般試験方法)を参考にして、照度:0.71W/m(波長313nm)、ブラックパネル温度:照射時60℃、結露時50℃、照射、結露の各2時間を1サイクルとし、375サイクルを行い、1500時間の促進耐候性試験を行った。促進耐候試験後の外観を目視にて判定した。下記の基準にて耐候性を判定し、表3および4に示した。
[評価基準]
○:硬化被膜は、外観に問題は無く、結露による水滴跡(雨跡)の発生も無かった。
×:硬化被膜は、結露による水滴跡(雨跡)が発生した。
【0070】
(自己修復性)
上記で製造した積層フィルムの硬化被膜表面に、真鍮ブラシを用いて荷重1.5kgにて10往復させた時の傷が60℃で3分以内に目視にて消失するか否かを判定した。下記の基準で評価し、評価結果を表3および4に示した。
[評価基準]
○:傷が消失した。
×:傷が消失しなかった。
【0071】
(防汚性)
上記で製造した積層フィルムの硬化被膜表面に、油性マジック(寺西化学製、No.500ブラック)にて5本の平行線を書き、60℃で3分間静置した。その後、エタノールにて洗浄して、被膜の状態を目視にて5段階評価のいずれに相当するかを判定した。下記の基準で評価し、評価結果を表3および4に示した。
[評価基準]
○:4級以上の防汚性であった。
×:3級以下の防汚性であった。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
<構造体の製造例>
[実施例7]
上記の実施例1で製造した積層フィルムの硬化被膜と反対側の面に、アクリル樹脂系接着剤を用いて、粘着層(厚さ40~50μm)を形成した。続いて、ポリカーボネート樹脂製の支持体(帝人社製、パンライトL1225Z、厚さ2.3mm)上に、積層フィルムの粘着層を貼付して、構造体を製造した。
【0077】
[実施例8]
ポリカーボネート樹脂製の支持体(帝人社製、パンライトL1225Z、厚さ2.3mm)上に、エネルギー線硬化型組成物を塗布して、110℃で4分間効果塗膜(厚さ10μm)を形成した。続いて、支持体の塗膜上に、実施例7と同様にして、上記の実施例1で製造した積層フィルムの粘着層を貼付して、構造体を製造した。
【0078】
[比較例10]
積層フィルムを貼付しなかった以外は、実施例8と同様にして構造体を製造した。
【0079】
<構造体の評価>
上記で製造した構造体について、下記の条件で累計4000時間の促進耐候性試験を行った。なお、実施例7および8では、積層フィルム面に対して照射を行い、比較例10では、塗膜面に対して照射を行った。
(促進耐候性試験条件)
・スーパーキセノン試験/照度180W/m
・ブラックパネル温度:照射時63℃
・サイクル:照射102分→照射+シャワー18分
【0080】
促進耐候性試験前(初期)、照射後、1000時間、2000時間、3000時間、および4000時間で、各構造体の状態を下記の基準で評価し、表5に示した。
【0081】
(HZ)
実施例7および8の構造体の硬化被膜面、比較例10の構造体の塗膜面について、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、型番:NDH4000)を用いて、JIS K 7136に準拠してヘイズ(HZ)(%)を測定した。
【0082】
(YI)
実施例7および8の構造体の硬化被膜面、比較例10の構造体の塗膜面について、分光測色計(コニカミノルタ社製、型番:CM-5)を用いて、イエローインデックス(YI)(%)を測定した。三刺激値(X、Y、Z)から次式を用いて算出した。
YI(%)=100×(1.28×X-1.06×Z)/Y
【0083】
(密着性)
実施例7および8の構造体の硬化被膜、比較例10の構造体の塗膜について、JIS K 5600-5-6に記載されている碁盤目試験の方法に準拠して、カッターを用いて1mm間隔で塗膜に10マス×10マスの切れ込みを入れ、碁盤目を付けた試験片を作製した。続いて、セロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製)を試験片の碁盤目部分に貼り付けた後、このセロテープ(登録商標)を速やかに、碁盤目に対して45度斜め上方方向に引っ張って剥離させ、残った碁盤目の塗膜数を測定した。
【0084】
(外観)
実施例7および8の構造体の硬化被膜、比較例10の構造体の塗膜について、目視により、クラックの有無を確認し、下記基準で評価した。
[評価基準]
○:クラックが無かった。
×:クラックが有った。
【0085】
【表5】
【符号の説明】
【0086】
11、21、31、41:積層フィルム
12、22、32、42:基材
13、23、33、43:硬化被膜
24、34、44:保護フィルム
35、45:粘着層
46:支持体
47:構造体
図1
図2
図3
図4