(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】回転電機およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/278 20220101AFI20231215BHJP
【FI】
H02K1/278
(21)【出願番号】P 2022541340
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2020029678
(87)【国際公開番号】W WO2022029842
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢部 実透
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳也
(72)【発明者】
【氏名】西川 英也
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 正文
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-162692(JP,A)
【文献】特開2013-162691(JP,A)
【文献】特開2017-221024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/278
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定された回転子、前記回転子の外周に配置された複数個の磁石、前記複数個の磁石の間に配置されている前記磁石を固定するホルダを備え、
前記回転子に、前記磁石を
軸方向に位置決めする
第1の位置決め部と、前記ホルダを圧入固定するための溝部が形成され、
前記ホルダには、前記溝部に圧入する圧入部と、前記磁石を
前記軸方向に固定するための
第1の押圧部が形成されており、
前記圧入部が前記溝部に圧入されていることにより、前記
第1の位置決め部で位置決めされた磁石の端部を前記
第1の押圧部が、押圧して固定して
おり、
前記第1の位置決め部は、前記軸方向の一方の端部に形成されて前記磁石と係合しており、前記第1の押圧部は、前記ホルダの前記軸方向側に形成され、前記圧入部が前記溝部に圧入されていることにより、前記磁石の前記第1の位置決め部と係合していない前記軸方向の他方の端部を前記第1の押圧部が前記軸方向に押圧していることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記回転子に形成され、周方向の位置決めを行う第2
の位置決め部は、前記磁石の周方向側の一方の端部と係合しており、
前記ホルダに形成され、前記磁石を固定する第2の押圧部は、前記圧入部の周方向側に形成され、前記圧入部が前記溝部に圧入されていることにより、前記磁石の前記
第2の位置決め部と係合していない周方向側他方の端部を前記
第2の押圧部が周方向および径方向に押圧していることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記磁石の前記
第2の位置決め部と係合している端部を前記
第2の押圧部が径方向に押圧していることを特徴とする請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
回転軸に固定された回転子、前記回転子の外周に配置された複数個の磁石、前記複数個の磁石の間に配置されている前記磁石を固定するホルダを備え、
前記回転子に、前記磁石を位置決めする位置決め部と、前記ホルダを圧入固定するための溝部が形成され、
前記ホルダには、前記溝部に圧入する圧入部と、前記磁石を固定するための押圧部と径方向の抜け止め手段
が形成されており、
前記抜け止め手段は、前記ホルダと一体形成された前記径方向に弾性変位する可撓部から延びた爪部からなり、前記圧入部とは別に形成されており、
前記圧入部が前記溝部に圧入されていることにより、前記位置決め部で位置決めされた前記磁石の端部を前記押圧部が押圧して固定しており、
前記圧入部と前記爪部は、軸方向に交互に複数配置され、互いに平行に延在していることを特徴とす
る回転電機。
【請求項5】
前記磁石は、
前記軸方向に複数段重ねられ
、段ごとに周方向にずれて配設されていることを特徴とする請求項1から
4のいずれか一項に記載の回転電機。
【請求項6】
前記ホルダは、
前記軸方向に重ねられた前記磁石を一体として固定することを特徴とする請求項
5に記載の回転電機。
【請求項7】
複数の前記ホルダは前記回転子に同時に組付けられることを特徴とする請求項1から
6のいずれか一項に記載の回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、回転電機およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁石が固定された回転子ユニットをコイルの内側で回転させる回転電機において、接着剤を使わずに、複数の磁石を樹脂製の磁石ホルダにより回転子に固定したものが知られている。例えば、特許文献1においては、積層鋼板からなる回転子に磁石ホルダをあらかじめインサート成型し、磁石を回転軸方向から磁石ホルダ間に圧入固定したものが開示されている。
【0003】
また、特許文献2においては、樹脂で成型された磁石ホルダを回転子に固定し、磁石ホルダと回転子の外周面で形成された磁石収容部に回転軸方向から磁石を圧入固定したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5842365号公報
【文献】特許第5044217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回転子に磁石ホルダをあらかじめインサート成型する特許文献1の構成は、複雑で高価なインサート成型用の金型が必要で設備投資がかさみ、製品コストの増大は避けられない。
【0006】
また、一体型の磁石ホルダを回転子に固定し、磁石ホルダと回転子外周面で形成された磁石収容部に磁石を圧入固定する特許文献2の構成は、回転子の取付け誤差、磁石ホルダの成形誤差、および組み立てによる磁石ホルダの変形等の組み立て誤差が加算されるため、磁石の配置精度のばらつきが大きくなるという課題があった。
【0007】
特に回転軸の周方向の位置精度がばらつくと、トルクリップルおよびコギングトルクが発生し、回転電機の性能が劣化する。さらに、磁石ホルダと回転子の外周面で形成された磁石収容部に回転軸方向から磁石を圧入固定する必要があるため、組み立ての作業性が悪く、圧入時に磁石および磁石ホルダが削れ、錆の発生、精度悪化等の懸念があった。
【0008】
本願は、上述のような問題を解決するためになされたもので、インサート成形用の金型を必要とせず、組立精度が良好な、トルクリップルおよびコギングトルクの小さい回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に開示される回転電機は、回転軸に固定された回転子、回転子の外周に配置された複数個の磁石、複数個の磁石の間に配置されている磁石を固定するホルダを備え、回転子に、磁石を軸方向に位置決めする第1の位置決め部と、ホルダを圧入固定するための溝部が形成され、ホルダには、溝部に圧入する圧入部と、磁石を軸方向に固定するための第1の押圧部が形成されており、圧入部が溝部に圧入されていることにより、第1の位置決め部で位置決めされた磁石の端部を第1の押圧部が、押圧して固定しており、第1の位置決め部は、軸方向の一方の端部に形成されて磁石と係合しており、第1の押圧部は、ホルダの軸方向側に形成され、圧入部が溝部に圧入されていることにより、磁石の第1の位置決め部と係合していない軸方向の他方の端部を第1の押圧部が軸方向に押圧していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願に開示される回転電機によれば、複雑で高価なインサート成型用の金型を必要とせず、圧入時に磁石および磁石ホルダの損傷がなく、組立精度が良好なため、トルクリップルおよびコギングトルクが小さい特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る回転電機の断面図である。
【
図2】実施の形態1に係る回転電機の回転子と磁石と磁石ホルダが組み立てられた状態の斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係る回転電機の回転子と磁石と磁石ホルダが組み立てられた状態の側面図である。
【
図4】実施の形態1に係る回転電機の回転子の斜視図である。
【
図5】実施の形態1に係る回転電機の磁石の斜視図である。
【
図6】実施の形態1に係る回転電機の磁石ホルダの斜視図である。
【
図7】実施の形態1に係る回転電機の磁石ホルダで固定する前の斜視図である。
【
図8】実施の形態1に係る
図2のA-A断面図である。
【
図9】実施の形態1に係る
図3のB-B断面の部分拡大図である。
【
図10】実施の形態1に係る
図3のC-C断面の部分拡大図である。
【
図11】実施の形態1に係る回転子ユニットの斜視図である。
【
図12】実施の形態2に係る回転電機の回転子と磁石と磁石ホルダが組み立てられた状態の斜視図である。
【
図13】実施の形態2に係る回転電機の回転子と磁石と磁石ホルダが組み立てられた状態の側面図である。
【
図14】実施の形態2に係る回転電機の回転子の斜視図である。
【
図15】実施の形態2に係る回転電機の磁石ホルダの斜視図である。
【
図17】実施の形態2に係る回転電機の磁石ホルダの圧入前の斜視図である。
【
図18】実施の形態2に係る回転電機の磁石ホルダの圧入後の斜視図である。
【
図19】実施の形態3に係る回転子と回転子軸の組み立て斜視図である。
【
図20】実施の形態3に係る磁石ホルダの斜視図である。
【
図21】実施の形態3に係る磁石ホルダの上面図である。
【
図22】実施の形態3に係る回転子の上面図である。
【
図23】実施の形態3に係る磁石ホルダの圧入前の斜視図である。
【
図24】実施の形態3に係る回転子ユニットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、本願に係る回転電機の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、同一内容および相当部については同一符号を配し、その詳しい説明は省略する。以降の実施の形態も同様に、同一符号を付した構成について重複した説明は省略する。
【0013】
また、本願は以下の記述に限定されるものではなく、本願の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。以下に示す図面においては、理解の容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合があり、また、本願の特徴に関係しない構成の図示は省略する。
【0014】
図1~
図11を用いて本願の実施の形態1による回転電機を説明する。
本実施の形態では、回転電機を車両に搭載する電動パワーステアリングに適用した例を示しており、車両のステアリングの操舵力をアシストするには回転電機本体以外に制御装置も必要になるが、制御装置についての図示を省略している。
図1は回転電機の構成を説明するための断面図である。
【0015】
回転電機1の筐体であるフレーム2はリア側(図面上側)に開口部を有した略円筒形をなし、安価で軽量なアルミニウム合金で形成されている。固定子3は電磁鋼板を積層して形成され、フレーム2に固定されている。固定子3には絶縁体であるインシュレータ4を介して固定子巻線5が巻装され、リア側に設けられた制御装置(図示せず)からの電流を固定子巻線5に供給するためのターミナル6が設置されている。また、フレーム2にはフロント側に軸受7とリア側から軸受ホルダ8を介して、軸受9が固定されている。
【0016】
回転子軸10には電磁鋼板を積層して形成された回転子11が固定されており、回転子11の外周には複数の磁石12が磁石ホルダ13で固定され、非磁性の保護管14で覆われ、回転子ユニット15を構成している。回転子軸10は軸受7および軸受9によって回転可能に支持され、回転子ユニット15は固定子3と離間して囲まれるように配置される。
【0017】
また、回転子軸10のフロント側(図面下側)の端部には車両側と組付けるためのジョイント16が設置され、回転子軸10のリア側の省略部分には回転子11の回転状態を検出する回転角度検出センサが設置されている。
【0018】
制御装置(図示せず)を設置しているヒートシンク17は、フレーム2のリア側開口端に固定されている。制御装置は外部からの直流電流を変換するパワー半導体を有する電力変換回路と制御回路を具備しており、所要の電流がターミナル6を介して、固定子巻線5に供給される。これにより回転子11に回転力を発生させ、回転子ユニット15、ひいてはジョイント16を回転させる。
【0019】
次に本実施の形態の回転子ユニット15の構成について詳細に説明する。
図2と
図3に回転子11と磁石12と磁石ホルダ13が組み立てられた状態の斜視図と側面図を示す。回転子11の外周に均一な間隔で複数の磁石12が配置され、磁石12の間には磁石12を固定および保持する磁石ホルダ13が磁石12と同数配置されている。
【0020】
図4に回転子11の斜視図を示す。回転子11は電磁鋼板を上下方向に複数枚積層した積層鋼板からなり、本実施の形態において、外形は略正八角柱形状をなし8個の外周面11aを有し、中央に回転子軸10を挿入するための貫通穴11bが設けられている。また、外周の上下端付近には、磁石12の周方向における位置を規定する位置決めボス11c、11dと磁石12の軸方向における位置を規定する位置決めボス11e、11fが形成されている。また、磁石12の間に軸方向に延在する溝部11gが形成されている。
【0021】
図5に磁石12の斜視図を示す。磁石12は、例えばNd-Fe-B系の焼結磁石であり、表面は防錆用のコーティングが施され、1つの円筒面12aとそれに対向する平面12bおよび2つの側面12c、12dと上面12e、下面12fを有する略蒲鉾形状をなし、回転子軸10の周方向に均一な間隔となるように回転子11の8つの側面に配置される。
【0022】
次に磁石ホルダ13の斜視図を
図6に示す。磁石ホルダ13は高剛性で弾性を有するエポキシ系、PPS(ポリフェニレンサルファイド)系、またはPBT(ポリブチレンテレフタレート)系樹脂成型品である。そして、断面が略T字形をなし、圧入部13aと、磁石12の円筒面12aを径方向に押圧する第1接触部13bと第2接触部13cとを有している。また磁石12の側面12cを周方向に押圧する第3接触部13dと磁石12の側面12dと接触しない非接触部13eを有し、さらに、磁石12の上面12eを軸方向に押圧する第4接触部13fを有した形状をなしている。
【0023】
図7に磁石ホルダ13で固定する前の斜視図を示す。回転子11に対し、8個の磁石12を配置し、8個の磁石ホルダ13を同時に径方向(矢印方向)に移動し、圧入部13aを回転子11の溝部11gに圧入する。これにより
図2および
図3に示した状態に組み立てられる。
【0024】
次に、
図2のA-A断面を
図8に示す。また、
図3のB-B断面とC-C断面の部分拡大図を
図9、
図10に示す。
図8のように、磁石12の上面12eは磁石ホルダ13の第4接触部13fで押圧され、下面12fと回転子11の位置決めボス11e、11fが当接し、位置決め固定される。
【0025】
図9、
図10のように磁石12の円筒面12aは磁石ホルダ13の第1接触部13bと第2接触部13cで押圧され、平面12bと回転子11の外周面11aが当接し、位置決め固定される。磁石12の一方の側面12cは磁石ホルダ13の第3接触部13dで押圧され、他方の側面12dと回転子11の位置決めボス11c、11dが当接し、位置決め固定される。このとき磁石ホルダ13の非接触部13eは磁石12の側面12dとは離間しており、押圧することはない。
【0026】
ここで、圧入後に磁石ホルダ13が回転子11から抜けないように圧入代、圧入長さ、材料等に基づいて設計し、必要な保持力を確保している。また、本実施の形態では、磁石ホルダ13は樹脂成型品としたが、アルミニウムまたはステンレス等の非磁性金属の鋳造品、切削加工品、またはプレス加工等としてもよい。
【0027】
以上のように構成したので、磁石ホルダ13は複雑で高価な金型を必要とせず、小型で安価に提供することができる。また、個別の磁石ホルダ13を回転子軸10の径方向から回転子11に圧入固定するため、磁石12を回転子11および磁石ホルダ13に擦りながら圧入することなく、簡単な組み立てが可能となる。
【0028】
磁石12も組み立て時に、軸方向および周方向の移動が必要ないため、より一層簡単な組み立てが可能である。また、これにより磁石12のコーティングが剥がれて錆が発生したり、磁石ホルダ13が削れて磁石の配置精度および保持力が劣化したりすることがない。
【0029】
さらに、磁石12は磁石ホルダ13の部品精度、および磁石ホルダ13と回転子11の組み立て精度の影響を受けず、回転子11の部品精度のみで高精度に固定されるため、トルクリップルおよびコギングトルクの発生を抑制し、良好な特性の回転電機を提供できる。
【0030】
また、磁石12は磁石ホルダ13の第1接触部13bと第2接触部13cで確実に押圧されるため、平面12bは回転子11の外周面11aとガタなく確実に押圧されている。
【0031】
ここで、本実施の形態では、磁石12は蒲鉾形状のものを8個使用し、回転子11は略正八角柱形状のものとしたが、磁石の数は問わず、形状もセグメント型等他の形状でもよく、回転子11も円筒形状等他の形状としてもよいことは言うまでもない。
【0032】
次に
図11に回転子ユニット15の斜視図を示す。
上記のようにして固定された磁石ホルダ13の外側には深絞りによって形成されたステンレスまたはアルミニウム等の非磁性材料からなる保護管14が外装されている。本実施の形態では磁石ホルダ13の外周は磁石12の外周より若干大き目に構成されており、保護管14は磁石ホルダ13に圧入気味に固定された後、端面を折り曲げ、磁石ホルダ13または回転子11の上下面に接触固定される。
【0033】
当該回転子ユニット15では保護管14が無くても構成可能であるが、磁石12が割れたり、外れたりした場合に回転子ユニット15がロックするのを防ぐために取り付けられている。また、保護管14により、磁石ホルダ13と磁石12は、より強固に固定保持される。最後に回転子11の貫通穴11bに回転子軸10を圧入することで回転子ユニット15が完成する。
【0034】
また、本実施の形態では回転子11に磁石を固定した後に回転子軸10を圧入固定したが、回転子11を回転子軸10に圧入固定した後に、上述した手順で磁石12を固定してもよいことは言うまでもない。
【0035】
以上のように、実施の形態1の回転電機によれば、小型のホルダで構成できるため複雑で高価なインサート成型用の金型を必要とせず、安価なホルダで構成可能となる。また、磁石の位置はホルダの精度およびホルダと回転子の組み立て精度の影響を受けず、回転子の精度のみで高精度に決まるためトルクリップルおよびコギングトルクの小さい良好な特性が得られる。さらに、個別のホルダを回転軸の径方向から回転子に固定するため、磁石の圧入作業が不要で簡単に組み立てられる。また、組み立て時に磁石が削れることがないため、錆の発生および精度が劣化することがない信頼性の高い回転電機が得られるという効果を奏する。
【0036】
実施の形態2.
次に本実施の形態2の回転子ユニット15の構成について
図12から
図16を用いて、詳細に説明する。
実施の形態2の回転子11と磁石12と磁石ホルダ13が組み立てられた状態の斜視図、側面図をそれぞれ
図12、
図13に示す。また、回転子11の斜視図を
図14に示し、磁石ホルダ13の斜視図を
図15に示す。磁石12は実施の形態1と同じである。なお、実施の形態1と同様の構成、作用については、説明を省略する。
【0037】
図15Aの正面から視た図に示すように、磁石ホルダ13は、上下面と、その間に4か所の爪部13gを有している。これにより、圧入部13aは3か所に分かれ、第3接触部13dと非接触部13eも3か所に分かれている。また、
図15Bの背面から視た図に示すように、爪部13gの根元は、細いたわみ部13hで本体と連結され、たわみ部13hの中央付近は周囲の背面より高い凸部13iが形成されている。また、背面部には穴13jと長穴13kの凹部が形成されている。
【0038】
次に、
図14に示すように、回転子11の上下面と、その間に、磁石ホルダ13の爪部13gと係合する係合部11hが、1つの磁石ホルダ13に対応して、4か所形成されている。
図16は
図12のD-D断面であり、中心から左側は係合部11hの構造が分かりやすいように、磁石ホルダ13が取り付けられていない回転子11のみの状態を示している。回転子11は電磁鋼板を上下に積層して形成しているため、このような複雑な形状も難なく形成することが可能である。
【0039】
以上の構成において、磁石12の位置決め、固定の構成、方法、作用については、実施の形態1と同様であり、
図13のB-B断面、C-C断面も
図9、
図10と同様である。磁石ホルダ13の圧入後は、
図16の中心から右側に示すように磁石ホルダ13の爪部13gが回転子11の係合部11hに引っ掛かるため、回転時に径方向に発生する遠心力に対しても保持力が一層高くなる。
【0040】
また、実施の形態1では磁石12の軸方向の位置は回転子11の位置決めボス11e、11fにより規定していたが、本実施の形態では、磁石12の軸方向端部の係合部11hと軸方向端部の爪部13gが係合することにより位置決めも行うため、回転子11の下面と磁石の下面12fが等しくなるように組み立てている。なお、実施の形態1のように、軸方向の位置決めを位置決めボス11e、11fにより行うようにしてもよい。
【0041】
次に組み立て方法の詳細を
図17、
図18を用いて具体的に説明する。
図17は磁石ホルダ13の圧入前、
図18は圧入後の状態を示す。
まず、
図17に示すように固定治具100に回転子11と8個の磁石12を設置し、8か所の可動治具101に磁石ホルダ13を、背面の穴13jと長穴13k(
図15Bに図示)を基準に設置する。
【0042】
図示していない上型が下降することにより、8か所の可動治具101が同時に径方向に移動し、磁石ホルダ13の圧入部13aは回転子11の溝部11gに圧入される。また、同時に磁石ホルダ13の爪部13gは回転子11に接触し、上または下方向に反りながら移動する。このとき磁石ホルダ13の爪部13gの根元は細いたわみ部13hと周囲の背面より高い凸部13iが形成されているため爪部13gは径方向にもたわみ、スムーズに回転子11の係合部11hに引っ掛かる。磁石ホルダ13が可動治具101から解放されると爪部13gのたわみが解放され、回転子11の係合部11hにガタ無く固定される。
【0043】
以上の構成、組み立て方法により実施の形態1で述べた効果に加え、磁石ホルダ13を径方向から挿入する簡単な作業で、径方向の抜け止めが構成でき、別部品、別工程を設けることなく、より強固な径方向の保持が可能になる。本実施の形態では爪部13gにより抜け止めを機構したが、接着、カシメ、ねじ固定、ピン固定等の別工程により抜け止め機構を設けてもよいことは言うまでもない。なお、回転子ユニット15の構成、組み立て方法は実施の形態1と同様である。
【0044】
実施の形態3.
実施の形態3では、実施の形態2の磁石取り付け構造をステップスキュー型の回転子ユニット15に適用したものについて説明する。
図19に示すように本実施の形態では2つの回転子11を周方向に所定の角度(数度)ずらし、軸方向に2段重ねて回転子軸10に圧入固定したものに対して、磁石12を磁石ホルダ13で固定する。
【0045】
磁石ホルダの斜視図を
図20(
図20Aは正面から視た図、
図20Bは背面から視た図)に示す。実施の形態2の磁石ホルダ2個を回転子11と同様に周方向に所定の角度ずらし、軸方向に重ねた形状をなし、一体で成形されている。ここで磁石ホルダ13の上面図と回転子11の上面図(部分拡大図)をそれぞれ
図21と
図22に示す。磁石ホルダ13の圧入部13aと爪部13gは軸方向に重ね合わせた形状の上側と下側で平行になるように構成し、回転子11の溝部11gと係合部11hの溝も軸方向に重ね合わせた上側と下側で平行になるように構成している。
【0046】
これにより、磁石ホルダ13を回転子11に径方向からスムーズに圧入可能となっている。組み立て方法は実施の形態1、実施の形態2と同様に、
図23に示すように、全ての磁石12を回転子に対してセットした状態で磁石ホルダ13を同時に径方向に移動させ、圧入することで完了する。
【0047】
この後、
図24に示すように、実施の形態1と同様に保護管14を磁石ホルダ13に圧入気味に固定した後、端面を折り曲げ、磁石ホルダ13または回転子11の上下面に接触固定し、回転子ユニット15が完成する。また、本実施の形態では、2つの回転子11を周方向に所定の角度(数度)ずらし、軸方向に重ねたものを回転子軸10に圧入固定したが、回転子11を周方向に所定の角度(数度)ずらしたものを一体で製造しておき、実施の形態1、2と同様に磁石12を固定し、回転子軸10に固定してもよいことは言うまでもない。回転子11は電磁鋼板を上下に積層して形成しているため、このような複雑な形状も難なく形成することが可能である。
【0048】
以上のように、本実施の形態によればステップスキュー型の回転子ユニット15において、回転子11および磁石ホルダ13の数を増やすことなく、磁石ホルダ13を径方向から1度の圧入作業で組み立て可能であり、安価で組み立て容易な、しかも高精度の回転電機を提供することができる。さらに実施の形態1および2に述べた効果を奏することができる。
【0049】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0050】
1:回転電機、2:フレーム、3:固定子、4:インシュレータ、5:固定子巻線、6:ターミナル、7:軸受、8:軸受ホルダ、9:軸受、10:回転子軸、11:回転子、11a:外周面、11b:貫通穴、11c、11d:位置決めボス、11e、11f:位置決めボス、11g:溝部、11h:係合部、12:磁石、13:磁石ホルダ、13a:圧入部、13b:第1接触部、13c:第2接触部、13d:第3接触部、13e:非接触部、13f:第4接触部、13g:爪部、13h:たわみ部、13i:凸部、13j:穴、13k:長穴、14:保護管、15:回転子ユニット、16:ジョイント、17:ヒートシンク、100:固定治具、101:可動治具