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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】電動機駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 1/16 20060101AFI20231215BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20231215BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
H02P1/16
H02P21/22
H02P27/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022544891
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2020031813
(87)【国際公開番号】W WO2022044070
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100207192
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 健一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広崇
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-114889(JP,A)
【文献】特開平01-129786(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0434137(KR,B1)
【文献】特開昭59-063927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 1/16
H02P 21/22
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の巻線を備える電動機と、
交流電源の電力を整流する整流器と、
前記整流器から直流リンクに出力された電圧を平滑化するコンデンサと、
前記電圧が平滑化された直流電力を交流電力に変換して、前記交流電力を前記複数の巻線にそれぞれ供給するインバータと、
前記複数の巻線にそれぞれ流れる負荷電流をそれぞれ検出する電流センサと、
前記電流センサによって検出された電流値と、前記電動機の速度を調整するための速度基準とに基づいて前記インバータを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記インバータが前記複数の巻線に流す負荷電流の大きさに対する直流電圧基準を規定する変換規則を用いるように形成されていて、
前記交流電源が不足電圧状態になったことの検出に関連付けられた前記負荷電流の大きさに基づいて、前記変換規則を用いて直流電圧基準を算出し、
前記算出された直流電圧基準に基づいて前記速度基準を補正して速度補正値を生成して、
前記不足電圧状態が解消して前記インバータから前記電動機に対する交流電力の供給を再開する場合に、前記生成した速度補正値を用いて前記インバータの負荷電流を調整することで前記インバータの電力変換量を制御する、
電動機駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記負荷電流の大きさと前記直流電圧基準との対応関係が規定された前記変換規則を用いて前記インバータの電力変換量を制御する、
請求項1に記載の電動機駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記変換規則を用いて、前記不足電圧状態が検出されるまでの負荷電流の大きさに基づいて前記インバータから前記電動機に対して供給する有効電力量を制御する、
請求項1に記載の電動機駆動装置。
【請求項4】
前記変換規則は、前記負荷電流の大きさが大きくなるほど、前記直流電圧基準の値が大きくなるように規定されている、
請求項1に記載の電動機駆動装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記直流電圧基準の値を、前記交流電源が不足電圧状態になる前の前記負荷電流の大きさに対応付けて決定する、
請求項4に記載の電動機駆動装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記電動機の制御に係る回転座標系の第1軸電圧の定格値CS_EQUIP_VOLTと、直流電圧の定格値CS_DC_VOLTとの積を、前記直流電圧基準VDC_F0で除算して変調比を決定し、前記変調比を用いて前記速度基準を補正して速度補正値を生成する、
請求項1に記載の電動機駆動装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記交流電源が不足電圧状態になったことの検出に応じて前記インバータから前記電動機に対する交流電力の供給を制限して、前記不足電圧状態が解消したことを検出した場合に、前記インバータから前記電動機に対して供給する電流の大きさを前記不足電圧状態になるまでの負荷電流の大きさに調整する電流制御を実施する、
請求項1に記載の電動機駆動装置。
【請求項8】
前記制御部は、
テーブル番号に対応付けて、互いに値が異なる複数の電流閾値を保
持する第1テーブルと、
テーブル番号に対応付けて、前記直流電圧基準の値として互いに異なる値の複数の電圧設定値を保持する第2テーブルと、
前記交流電源が不足電圧状態になったことの検出に関連付けられたタイミングに前記負荷電流の値を保持する第1変数処理部と、
前記第1テーブルに保持されている前記複数の電流閾値の何れかを保持する第2変数処理部と、
同じテーブル番号に対応付けられた、前記第1変数処理部によって前記保持される前記負荷電流の値と、前記第2変数処理部によって前記保持される前記電流閾値との差に基づいて前記差が所定の範囲になるテーブル番号を決定して、前記第2テーブルに保持されている前記複数の電圧設定値の中から前記決定したテーブル番号に対応する1つの電圧設定値を決定する第3変数処理部と
を備える請求項1に記載の電動機駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電動機駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機駆動装置は、交流電源から供給される電力を変換して、変換したのちの交流電力を用いて多相交流電動機(単に電動機という。)を駆動する。交流電源の電圧が安定しないために、電動機駆動装置は、交流電源側の電圧低下状態(不足電圧状態)を検出することがある。停電及び瞬低は、不足電圧状態の一例である。電動機駆動装置は、その電圧低下状態を検出すると電動機に対する交流電力の供給を一時的に中断して、その電圧低下状態が解消すると交流電力の供給を再開する。ところで、電動機駆動装置が上記のように交流電力の供給を再開して電動機を再起動させると、電動機駆動装置の負荷の急な変動を招き、電動機駆動装置及び電動機の稼働に影響を与える程の大きさの過電流が発生することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-39033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、電動機の再稼働時の利便性をより高めることができる電動機駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電動機駆動装置は、電動機と、主回路と、電流センサと、制御部と、を備える。電動機は、複数の巻線を備える、前記主回路は、交流電源の電力を交流電力に変換して、前記交流電力を前記複数の巻線にそれぞれ供給する。前記電流センサは、前記複数の巻線にそれぞれ流れる負荷電流をそれぞれ検出する。前記制御部は、前記電流センサによって検出された電流値に基づいて前記主回路を制御する。前記制御部は、前記主回路が前記複数の巻線に流す負荷電流の大きさに対する指標値を規定する変換規則を用いて、前記交流電源が不足電圧状態になったことの検出に関連付けられた前記負荷電流の大きさに基づいて前記主回路から前記電動機に対して供給する電力量を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の電動機駆動装置の構成図。
図2】実施形態の制御部の構成図。
図3】実施形態の主回路の構成図。
図4】実施形態の速度制御ユニットの構成図。
図5】実施形態の変換率換算部の構成図。
図6】実施形態の変換規則を説明するための図。
図7】実施形態の変換規則が規定されるテーブルを説明するための図。
図8】実施形態の直流電圧基準を決定する処理の概略手順を示すフローチャート。
図9】実施形態の停電発生時のタイミングチャート。
図10】変形例における変換率換算部の一部を含むFPGAの概略構成図。
図11A】変形例のFPGAによる直流電圧基準VDC_F0を決定する処理を示すフローチャート。
図11B】変形例のFPGAによる直流電圧基準VDC_F0を決定する処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の電動機駆動装置を、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、可変速の電動機駆動装置を単に電動機駆動装置と呼ぶ。また、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。以下の説明に示す「PWM制御」とは、パルス幅変調(Pulse Width Modulation)制御のことであり、単にPWMと呼ぶことがある。PWM制御は、三角波又は鋸歯状波のキャリア波を利用するキャリア比較PWM方式を適用してよい。「基本波」とは、特定の交流電圧波形の中で、周波数が最も低い成分をいう。実施形態における「交流電源の不足電圧状態」とは、交流の電圧の実効値が所定の値を満たさない状態のことであり、所謂停電状態、瞬低状態なども含まれる。実施形態における「速度」とは、角速度のことであり、電動機の回転子の角速度のことを単に「速度」と呼ぶ。
【0008】
図1は、実施形態の電動機駆動装置1の構成図である。
電動機駆動装置1は、例えば、電動機2と、変圧器3と、整流器4と、コンデンサ5と、インバータ6と、DC電圧センサ7と、電流センサ8と、AC電圧センサ9と、制御部10とを備える。
【0009】
電動機2(M)は、複数の巻線を有している。例えば、電動機2は、3相交流電力が供給される3つの巻線を有している。3つの巻線は電動機2内でスター型(Y形)に結線されている。電動機2は、例えば、誘導電動機であってよく、これに制限されない。電動機駆動装置1の各部は、交流電源Gから供給される交流電力に基づいて電動機2を駆動する。
【0010】
変圧器3は、交流電源Gから供給される交流電力の電圧(電源電圧という。)を、所定の電圧に変換する。変圧器3の一次側に計器用変成器VTが設けられている。計器用変成器VTは、変圧器3の一次側の電源電圧に基づいた交流電圧を検出して入力電圧帰還VACを出力する。
【0011】
整流器4は、交流電源Gから供給される交流電力を整流して、出力に接続される直流リンクの負極Nと正極Pの間に所望の電圧(直流電圧)を出力する。例えば、コンデンサ5は、直流リンクの負極Nと正極Pの間の電圧を平滑する。インバータ6は、直流リンクを介して供給される直流電力を交流電力に変換して出力する。
【0012】
DC電圧センサ7は、例えば、直流リンクに掛かる電圧を検出して、これに対応する直流電圧帰還VDCを出力する。例えば、DC電圧センサ7は、直流リンクの負極Nと正極Pの間の電圧を検出してもよい。
【0013】
電流センサ8は、インバータ6の出力側の多相交流の各相に流れる相電流をそれぞれ検出して、これに対応する電流帰還を出力する。変成器CTは、電流センサ8の一例である。
【0014】
AC電圧センサ9は、インバータ6の出力側の多相交流の各相の線間電圧(2ライン間の電圧)をそれぞれ検出する。AC電圧センサ9は、例えば、3相交流のU相ラインLU(図3)とV相ラインLV(図3)の2ライン間の交流電圧を検出して、これを出力電圧帰還V_UV_FBKとして出力する。AC電圧センサ9は、V相ラインLVとW相ラインLW(図3)の2ライン間の交流電圧を検出して、これを出力電圧帰還V_VW_FBKとして出力する。
【0015】
制御部10は、速度基準SP_REFに基づいて、インバータ6にゲートパルスGPを送り、インバータ6による電力変換量を制御する。例えば、制御部10は、DC電圧センサ7と、電流センサ8と、AC電圧センサ9と、計器用変成器VTとを含む各センサの検出結果に基づいて、インバータ6を制御してよい。以下の説明では、制御部10が電動機2をVVVF(variable voltage variable frequency)制御する事例について説明する。
【0016】
図2は、実施形態の制御部10の構成図である。
制御部10は、PWM制御ユニット11(図中の表記はPWM。)と、DQ逆変換ユニット12と、DQ変換ユニット13と、絶対値演算ユニット14(図中の表記はABS。)と、速度制御ユニット15(図中の表記はASR。)と、電流制御ユニット17(図中の表記はACR。)と、監視ユニット19とを備える。
【0017】
PWM制御ユニット11は、後述する電圧指令ERと三角波キャリアCarとに基づいたPWM制御によって、インバータ6を制御するためのゲートパルスGPを生成する。
【0018】
DQ逆変換ユニット12は、基準位相QOを用いた所定の演算処理により、互いに直交するd軸とq軸を有する回転座標系(dq座標系という。)の信号を、uvw相にそれぞれ対応付けられた3軸を有する静止座標系(uvw座標系という。)の信号に変換する。電圧指令ERは、uvw座標系の信号の一例である。
【0019】
DQ変換ユニット13は、基準位相QOを用いた所定の演算処理により、uvw座標系の信号を、dq座標系の信号に変換する。DQ逆変換ユニット12による変換処理とDQ変換ユニット13の変換処理とは逆の変換になる。
【0020】
例えば、DQ変換ユニット13は、電流センサ8によって検出された相電流の瞬時値に基づいて、d軸電流帰還ID_FBKとq軸電流帰還IQ_FBKとを生成する。電流センサ8によって検出された相電流の瞬時値を、IU_F,IV_F,IW_Fで示す。なお、この3相の値のうち少なくとも2相分であってもよい。
【0021】
絶対値演算ユニット14は、電流センサ8によって検出された電流の大きさを示す電流値を生成する。出力電流I1_Fは、その電流値の一例である。出力電流I1_Fは、d軸電流帰還ID_FBKとq軸電流帰還IQ_FBKとの二乗和の根であってよい。
【0022】
速度制御ユニット15は、電動機2の速度を規定する速度基準SP_REFと、AC電圧センサ9によって検出された線間電圧と、出力電流I1_Fとに基づいて、速度基準SP_REFを補正した速度補正信号EQ_REFと、基準位相QOとを生成する。出力電圧帰還V_UV_FBKと出力電圧帰還V_VW_FBKとは、AC電圧センサ9に基づいて検出された2線間電圧の一例である。基準位相QOは、dq座標系の基準軸と、uvw座標系の基準軸とのなす角に相当する。この速度制御ユニット15の詳細については後述する。なお、電動機2が誘導電動機の場合には、速度制御ユニット15は、滑り角周波数を推定して、これに基づいて基準位相QOを補正するとよい。
【0023】
電流制御ユニット17は、速度補正信号EQ_REFと、d軸電流帰還ID_FBKと、q軸電流帰還IQ_FBKと、基準位相QOとに基づいて、d軸電圧基準VD_REFと、q軸電圧基準VQ_REFとを生成する。d軸電圧基準VD_REFと、q軸電圧基準VQ_REFは、DQ逆変換ユニット12の入力信号になる。
【0024】
監視ユニット19は、出力電流I1_Fと、変圧器3の1次側電圧の検出結果である交流電圧VACと、直流電圧VDCと、速度基準SP_REFと、基準位相QOとに基づいて、制御状態を監視する。
【0025】
例えば、監視ユニット19は、交流電圧VACに基づいて交流電源Gの停電(不足電圧状態。)と復電(不足電圧状態の解消。)とを検出して、上記の状態によって、後述する再起動信号Aと再起動信号Bとを出力する。監視ユニット19は、速度基準SP_REFと、基準位相QOとに基づいて、速度基準SP_REFに対して電動機2の速度が追従している状態か否かを検出する。例えば、監視ユニット19は、速度基準SP_REFと基準位相QOとの偏差の大きさが所定値よりも小さくなった状態が所定時間を超えて継続した際に、速度基準SP_REFに対して電動機2の速度が追従していると判定してもよい。監視ユニット19は、電動機2の速度が速度基準SP_REFに追従する状態に復帰したと判定された段階で、この判定の結果に応じて再起動信号Aを解除するとよい。なお、監視ユニット19は、復電が検出されてから所定時間経過したのちに再起動信号Bを解除するとよい。
【0026】
図3を参照して、実施形態の主回路20について説明する。図3は、実施形態の主回路20の構成図である。
【0027】
主回路20は、例えば、変圧器3と、整流器4と、コンデンサ5と、インバータ6と、DC電圧センサ7と、電流センサ8と、AC電圧センサ9を含む。DC電圧センサ7と、電流センサ8と、AC電圧センサ9を主回路20の外部で構成してもよい。
【0028】
例えば、主回路20は、U相V相W相の各相について各々独立して構成されている。各相の構成を、図1に示した各構成の符号に、U,V,Wの文字を添えて、各相の構成であることを示す。さらに、正極側の構成にはPの文字を添えて、負極側の構成にはNの文字を添えることで、これを識別する。また、直流の極性によらずに対等な関係にある構成には、AまたはBの文字を添えることで、これを識別する。
【0029】
ここで、U相を例示して説明する。
変圧器3Uは、例えば1次巻線と2つの2次巻線とを備える。第1の2次巻線には、接続端子を介して整流器4UAの交流側が接続されている。第2の2次巻線には、接続端子を介して整流器4UBの交流側が接続されている。整流器4UAの直流側と、整流器4UBの直流側とが、直列に接続され、直列に接続された整流器4UAと整流器4UBの両端が、U相の直流リンクの正極と負極とにそれぞれ接続されている。整流器4UAと、整流器4UBは、それぞれに供給される交流電力を整流する。
【0030】
符号UCは、U相直流系の中性点を示す。中性点UCの電位は、U相の直流リンクの正極と負極の中間電位になる。コンデンサ5UPの両極の端子は、U相の直流リンクの正極と中性点UCとに接続される。コンデンサ5UNの両極の端子は、U相の直流リンクの負極と中性点UCとに接続される。
【0031】
インバータ6は、例えばレグ6UAとレグ6UBとを備え、フルブリッジ型で構成される。インバータ6は、レグ6UAとレグ6UBを備えた単相出力型で構成してもよい。各レグは、NPC型などの3レベル型であってもよく、これに代えて2レベル型であってもよい。レグ6UAとレグ6UBとの各レグは、それぞれ複数のスイッチング素子を備える。複数のスイッチング素子は、例えば、同じ種類のもので揃えるとよい。スイッチング素子の種類は問わない。スイッチング素子は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)などであってよい。スイッチング素子には、逆並列接続された還流ダイオードが設けられていてもよい。
【0032】
例えば、レグ6UAとレグ6UBがNPC(Neutral-Point-Clamped)型である場合、それぞれが、U相の直流リンクの正極と負極と、中性点UCとにそれぞれ接続されている。レグ6UAの出力端子は、端子TUに接続される。レグ6UBの出力端子は、交流側中性点ACNに接続される。端子TUには、電動機2のU相巻線が接続される。
【0033】
レグ6UAの出力端子から端子TUまでの接続線LUに、電流センサ8Uが設けられている。電流センサ8Uは、接続線LUと電動機2のU相巻線に流れる電流を検出する。
【0034】
変圧器3Uと、整流器4UAと、整流器4UBと、コンデンサ5UPと、コンデンサ5UNと、中性点UCと、レグ6UAと、レグ6UBと、端子TUと、電流センサ8Uと、接続線LUは、U相に関するものである。
【0035】
変圧器3Vと、整流器4VAと、整流器4VBと、コンデンサ5VPと、コンデンサ5VNと、中性点VCと、レグ6VAと、レグ6VBと、端子TVと、電流センサ8Vと、接続線LVは、V相に関するものである。V相の構成は、U相と構成と同等であり、詳細な説明はU相の説明を参照する。
【0036】
変圧器3Wと、整流器4WAと、整流器4WBと、コンデンサ5WPと、コンデンサ5WNと、中性点WCと、レグ6WAと、レグ6WBと、端子TWと、電流センサ8Wと、接続線LWは、W相に関するものである。W相の構成は、U相と構成と同等であり、詳細な説明はU相の説明を参照する。
【0037】
上記の各相に属さない構成について説明する。
AC電圧センサ9は、接続線LUと、接続線LVと、接続線LWとにそれぞれ接続されていて、例えば、接続線LUと接続線LV間の電圧と、接続線LVと接続線LW間の電圧と、接続線LWと接続線LU間の電圧とを検出する。前述したとおり、このうち少なくとも2つの電圧を出力するとよい。
【0038】
なお、入力電圧帰還VACには、各相の計器用変成器VTU、VTV、VTWからそれぞれ出力される入力電圧帰還VACU、VACV、VACWが含まれていてよい。
【0039】
図4を参照して、実施形態の速度制御ユニット15について説明する。図4は、実施形態の速度制御ユニット15の構成図である。速度制御ユニット15は、上記の制御装置から供給される速度基準SP_REFを受け付ける。
【0040】
例えば、速度制御ユニット15は、周波数補正部151と、速度位相設定部152と、周波数範囲調整部153と、DQ変換部154と、VF制御部155と、変換率換算部156と、電圧帰還調整部157と、磁束制御部159とを備える。
【0041】
周波数補正部151は、機械的な共振が発生する周波数を避けるように、速度基準SP_REFを補正する。例えば、周波数補正部151は、演算ブロック151aから演算ブロック151dを備える。演算ブロック151aは、制限周波数帯域が規定された制限周波数テーブルを内部に有していて、速度推定演算を行い、推定された速度(周波数)と制限周波数テーブルを対比して、制限周波数テーブルに規定された周波数が生じないように、速度基準SP_REFを補正する。この補正を周波数ジャンプと呼ぶ。上記の速度を推定するための演算処理に、既知の演算手法を用いてよい。
【0042】
演算ブロック151bと151cは、演算ブロック151aが出力する信号の急峻な変化を吸収するように変化率を制限する。例えば、演算ブロック151cの特性は、演算ブロック151bの特性に比べて、系の応答が緩やかになるように設定される。より具体的には、演算ブロック151cの特性は、電動機2の応答特性に対して急峻に変化する信号が、電動機2に供給されないように決定されるとよい。演算ブロック151dは、切替器である。演算ブロック151dは、再起動信号Aに基づいて、演算ブロック151bと151cの出力の何れかを選択して、選択した信号を出力する。例えば、演算ブロック151dは、再起動信号Aの論理値が0である場合に、演算ブロック151bの出力を選択し、再起動信号Aの論理値が1である場合に、演算ブロック151cの出力を選択する。再起動信号Aの論理値は、再起動時とは異なる通常時に0になり、再起動時に1になる。
【0043】
速度位相設定部152は、演算ブロック152aから152dを備える。演算ブロック152aは、周波数補正部151によって補正された速度基準に対し、電動機2の最低速度を補償するように速度基準を設定する。演算ブロック152bは、周波数補正部151によって補正された速度基準に対してその上限値を制限する。演算ブロック152cは、切替器である。演算ブロック152cは、再起動信号Bに基づいて、演算ブロック152bからの速度基準SP_Rと、後述するVF制御部155からの速度基準SP_RSUとの何れかを選択して、選択した信号を、速度基準SP_R_VFとして出力する。例えば、演算ブロック152cは、再起動信号Bの論理値が0である場合に、速度基準SP_Rを選択し、再起動信号Bの論理値が1である場合に、速度基準SP_RSUを選択して、速度基準SP_R_VFとして出力する。再起動信号Aの論理値は、再起動時とは異なる通常時に0になり、再起動時に1になる。演算ブロック152dは、速度基準SP_R_VFを積分して、基準位相QOを生成する。
【0044】
周波数範囲調整部153は、演算ブロック153aから153dを備える。演算ブロック153aは、乗算器である。演算ブロック153aは、速度基準SP_R_VFに磁束基準FL_Rを乗じて、その結果を出力する。演算ブロック153bは、演算ブロック153aが出力する信号の急峻な変化を吸収するように変化率を制限する。演算ブロック153cは、再起動信号Bに基づいて、演算ブロック153aの出力値と、演算ブロック153bの出力値との何れかを選択して、選択した信号を、速度基準EQ_REF0として出力する。例えば、演算ブロック153cは、再起動信号Bの論理値が0である場合に、演算ブロック153aの出力値を選択し、再起動信号Bの論理値が1である場合に、演算ブロック153bの出力値を選択して、速度基準EQ_REF0を生成する。演算ブロック153dは、加算器である。演算ブロック153dは、速度基準EQ_REF0と、後述する補正信号VSM_EQ_PRとを加算して、その結果を速度基準EQ_REFとして出力する。
【0045】
DQ変換部154は、AC電圧センサ9によって検出された2つの相の線間電圧を少なくとも2つ取得してuvw座標系の各軸成分の線間電圧を生成する。DQ変換部154は、基準移送QOに従い、その各軸成分の線間電圧をDQ変換することにより、dq座標系の各軸成分のd軸電圧帰還ED_FBKと、q軸電圧帰還EQ_FBKとして出力する。
【0046】
VF制御部155は、演算ブロック155aから155cを備える。演算ブロック155aは、例えば所定の伝達特性を有しているPI演算を実施する。これをPI制御と呼ぶ。PI制御を換言すれば、電圧帰還の周波数帯域における低域成分を抽出し、またその位相成分を抽出する。例えば、演算ブロック155aは、d軸電圧帰還ED_FBKと、q軸電圧帰還EQ_FBKとを取得して、取得した電圧帰還の大きさ(振幅)に対して、例えば周波数に依存する所定のゲイン特性(伝達特性)を有しているPI演算を実施して、信号VF_IPLL_OUTを生成する。演算ブロック155bは、AC電圧センサ9によって検出された2つの相の線間電圧を少なくとも2つ取得して、これに基づいて交流の基本波周波数を検出して、検出された周波数を示す信号FSEEK_SP_Fを生成する。演算ブロック155cは、加算器であり、信号VF_IPLL_OUTと信号FSEEK_SP_Fを加算して、速度基準SP_RSUを生成する。この速度基準SP_RSUは、起動時に利用される。
【0047】
例えば、上記の演算により生成される信号VF_IPLL_OUTは、d軸電圧帰還ED_FBKと、q軸電圧帰還EQ_FBKとして示される出力電圧帰還の大きさ(振幅)の変化に追従して変化する。信号FSEEK_SP_Fは、上記の出力電圧帰還の基本波の周波数の変化に追従して変化する。例えば、上記の出力電圧帰還の基本波の周波数が高くなる方向に変化した場合、信号FSEEK_SP_Fの値がより大きくなり、上記の出出電圧帰還の基本波の周波数が低くなる方向に変化した場合、信号FSEEK_SP_Fの値がより小さくなるように規定してもよいこれに限らず、既知のVVVF制御の手法を用いてもよい。
【0048】
変換率換算部156は、q軸電圧帰還EQ_FBKと出力電流I1_Fとに基づいて、q軸電圧帰還EQ_FBK0を生成する。変換率換算ユニット156の詳細について後述する。
【0049】
電圧帰還調整部157は、演算ブロック157aと157bとを備える。演算ブロック157aは、スイッチである。演算ブロック157aの入力側は、変換率換算ユニット156の出力に接続され、演算ブロック157aの出力側は、演算ブロック157bの入力に接続されている。演算ブロック157aは、再起動信号Bに基づいて、ON/OFFを切り替えて、演算ブロック157aの入力側の信号をその出力側に出力するか否かを切り替える。例えば、演算ブロック157aは、再起動信号Bの論理値が0である場合に、OFFになり、演算ブロック157aの入力側と出力側を遮断する。演算ブロック157aは、再起動信号Bの論理値が1である場合に、ONになり、演算ブロック157aの入力側と出力側を導通させる。演算ブロック157bは、演算ブロック157aの出力を取得して、これに応じた補正信号VSM_EQ_PRを出力する。なお、演算ブロック157bは、演算ブロック157aがOFFになっているときには、その入力が初期値PRESETにバイアスされており、初期値PRESETに応じた大きさの信号を補正信号VSM_EQ_PRとして出力する。
【0050】
磁束制御部159は、電動機2の磁束の大きさを制御するための磁束基準FL_Rを生成する。磁束制御部159は、磁束弱め制御などを実施するように構成してもよく、一般的な手法で実現してよい。
【0051】
図5は、実施形態の変換率換算部156の構成図である。
変換率換算部156は、演算ブロック156aから156eとを備える。
演算ブロック156aは、出力電流I1_Fに基づいて出力電流I1_Fに対する直流電圧基準VDC_F0を推定する。演算ブロック156aには、例えば、出力電流I1_Fに基づいて直流電圧基準VDC_F0を推定するための変換規則が予め定められている。この変換規則は、テーブル化されていてもよく、ソフトウェア内に書き込まれていてもよく、その組み合わせで構成されるように形成されていてもよい。
【0052】
演算ブロック156bは、乗算器であり、次の2つの定数値を乗算して、その積を出力する。2つの定数値とは、q軸電圧の定格値CS_EQUIP_VOLTと、直流電圧の定格値CS_DC_VOLTとである。演算ブロック156cは、除算器であり、演算ブロック156bによって算出された積を、直流電圧基準VDC_F0で除算して、変調比k0を決定する。なお、変調比k0と他の変数との関係を、式(1)に示す。
【0053】
k0=((CS_EQUIP_VOLT)×(CS_DC_VOLT))/(VDC_F0) (1)
【0054】
演算ブロック156dは、乗算器であり、q軸電圧帰還EQ_FBKと、変調比k0とを乗算して、q軸電圧帰還EQ_FBK1を算出する。演算ブロック156eは、一次遅れフィルタであり、q軸電圧帰還EQ_FBK1を受け付けて、q軸電圧帰還EQ_FBK1の周波数成分のうち所定の周波数までの帯域を通過して、これを超える周波数の成分を減衰させたq軸電圧帰還EQ_FBK0を算出する。
【0055】
図6を参照して、実施形態の変換率換算部156に関わる変換規則を説明する。図6は、実施形態の変換規則を説明するための図である。
【0056】
演算ブロック156aは、入力変数として出力電流I1_Fが設定され、出力変数として直流電圧基準VDC_F0が設定されている。さらに、演算ブロック156aには、変換規則を規定するための電流閾値IFCHG1から電流閾値IFCHG5までと、電圧設定値VFR1から電圧設定値VFR5までがそれぞれ設定される。演算ブロック156aは、電流閾値IFCHG1から電流閾値IFCHG5までと、電圧設定値VFR1から電圧設定値VFR5までとを、テーブル化して保持するとよい。
【0057】
変換規則をモデル化してグラフで示す。このグラフのx軸に相電流を割り付けて、y軸に電圧基準を割り付ける。x軸とy軸の値は、相電流の大きさと電圧基準の大きさに対応する。
【0058】
電流閾値IFCHG1から電流閾値IFCHG5までを、図6に示すx軸の値xaから値xeまでに対応付ける。この場合、電流閾値IFCHG1から電流閾値IFCHG5までの順に、各閾値が大きくなるように規定されている。
【0059】
電圧設定値VFR1から電圧設定値VFR5までを、図6に示すy軸の値yaから値yeまでに対応付ける。この場合、電圧設定値VFR1から電圧設定値VFR5までの順に、各設定値の電圧値が大きくなるように規定されている。
【0060】
このグラフに示されるように、出力電流I1_Fの大きさが、電流閾値IFCHG1以下である場合に、演算ブロック156aは、電圧設定値VFR1を直流電圧基準VDC_F0として出力する。出力電流I1_Fの大きさが、電流閾値IFCHG1を超えて電流閾値IFCHG2以下である場合に、演算ブロック156aは、電圧設定値VFR2を直流電圧基準VDC_F0として出力する。出力電流I1_Fの大きさが、電流閾値IFCHG2を超えて電流閾値IFCHG3以下である場合に、演算ブロック156aは、電圧設定値VFR3を直流電圧基準VDC_F0として出力する。出力電流I1_Fの大きさが、電流閾値IFCHG3を超えて電流閾値IFCHG4以下である場合に、演算ブロック156aは、電圧設定値VFR4を直流電圧基準VDC_F0として出力する。出力電流I1_Fの大きさが、電流閾値IFCHG4を超えて電流閾値IFCHG5以下である場合に、演算ブロック156aは、電圧設定値VFR5を直流電圧基準VDC_F0として出力する。
【0061】
演算ブロック156aは、上記の変換規則に対応する直流電圧基準VDC_F0を出力させるための固定的なデータが格納されたテーブルを備えていてもよい。
【0062】
図7を参照して、実施形態の変換規則が規定されるテーブルの一例について説明する。図7は、実施形態の変換規則が規定されるテーブルを説明するための図である。
【0063】
このテーブルの項目は、電流レンジと、テーブル番号iXと、直流電圧基準を含む。電流レンジの項目は、負荷電流の大きさを複数に区分した場合の、各範囲を示す。テーブル番号iXの項目は、電流レンジと、出力電圧とを識別するための識別情報である。直流電圧基準の項目は、負荷電流の大きさに基づいて決定される直流リンクの電圧に関わる電圧設定値を示す。直流リンクの電圧に関わる電圧設定値は、指標値として利用する物理量の一例であり、これに制限されない。
【0064】
このテーブルによって規定される変換規則は、例えば、負荷電流の大きさが大きくなるほど、直流リンクの電圧に関わる電圧設定値の大きさが大きくなるように規定してよい。このように設定することによって、電圧設定値(指標値)に対応する電力量が多くなるように規定することができる。
【0065】
上記のテーブルに示すように、電圧設定値(指標値)が示す大きさは、複数の離散値の中の何れかに決定されているとよい。上記の複数の離散値は、所望の大きさにそれぞれ定められていてよく、互いに異なる値にするとよい。上記の例によれば、電圧設定値(指標値)は、直流リンクの直流電圧の大きさに対応する。
【0066】
図8を参照して、実施形態の直流電圧基準VDC_F0を決定する処理について説明する。
図8は、実施形態の直流電圧基準VDC_F0を決定する処理の概略手順を示すフローチャートである。
【0067】
速度制御ユニット15において、変換率換算部156の演算ブロック156aは、電流センサ8によって検出された負荷電流に基づいた出力電流I1_Fを取得する(ステップSA1)。演算ブロック156aは、電流閾値IFCHG1から電流閾値IFCHG5までを用いて、出力電流I1_Fの大きさを判定して(ステップSA2)、該当するテーブル番号iXを決定する(ステップSA3)。演算ブロック156aは、テーブル番号iXに対応する電圧値に基づいて直流電圧基準VDC_F0を決定して(ステップSA3)、その直流電圧基準VDC_F0を出力する。
【0068】
図9を参照して、停電発生時の動作について説明する。図9は、実施形態の停電発生時のタイミングチャートである。
【0069】
図9の上段側から順に、再起動信号A、再起動信号B、入力側交流電圧、速度、および負荷電流が並べて配置されている。この図9の横軸が時間の経過を示す。再起動信号Aと再起動信号Bは、0または1の値をとる2値論理の信号である。入力側交流電圧に、計器用変声期VTによって検出された入力電圧帰還VACの変化を示す。速度に、基準位相QOの変化を示す。基準位相QO_1と基準位相QO_2は、特性が異なる2つのケースの事例を示す。負荷電流に、負荷電流の変化と、その負荷電流に対応する出力電流I1_Fの値の変化を示す。
【0070】
時刻t1に停電が発生するまでは、交流電源Gから所望の振幅の交流電圧が供給され、これに基づいて電動機2を、速度基準SP_REF1に相当する速度で駆動している状態にある。そのため、再起動信号Aと再起動信号Aの論理値は、ともに0である。
【0071】
例えば、入力側交流電圧が低下して停電状態が発生して(時刻t1)、制御部10(監視ユニット19)は、計器用変声期VTの検出結果からこれを検出する。監視ユニット19は、再起動信号Aと再起動信号Bの論理値をともに1にする。なお、制御部10は、このタイミングの負荷電流の大きさ(出力電流I1_Fの値)をレジストリ221に保持して、その後、インバータ6からの負荷電流の出力を停止(インバータ6の停止という。)する。これにより、負荷電流が0になり、実際の電動機2の速度は徐々に低下する。
【0072】
上記の通り、制御部10は、負荷電流の出力を停止させるが、その制御を継続する。例えば、速度制御ユニット15は、停電検出時の線間電圧に対応するd軸電圧帰還ED_FBKとq軸電圧帰還EQ_FBKの大きさに基づいて、その大きさの低域周波数成分を用いて速度基準SP_RSUを生成する。速度制御ユニット15は、速度基準SP_REF1に基づいた速度基準SP_Rに代えて速度基準SP_RSUを用いて、インバータ6の停止期間の電圧基準EQ_REFを維持するように制御する。
【0073】
さらに速度制御ユニット15は、出力電流I1_Fの値に基づいた直流電圧基準VDC_F0を決定して、停電発生時の変調率k0と同等の大きさの変調率k0で再起動させるように復電時に備える。
【0074】
制御部10(監視ユニット19)は、時刻t2に復電したことを、計器用変声期VTの入力側交流電圧の検出結果から検出する。監視ユニット19は、再起動信号Aと再起動信号Bの論理値を1に維持したままにして、この時点から所定時間経過した段階で再起動信号Bの論理値を0にするためのタイマーを始動する。
【0075】
制御部10は、この復電の検出に応じて、インバータ6からの交流電力の出力を再開させて、インバータ6による電動機2の駆動を再開させる。
【0076】
なお、比較例の場合、これに応じて、負荷電流が急に増加して、電動機2の速度が不安定になることがある。これに対して実施形態の制御部10は、上記の通り再起動信号Aと再起動信号Bの論理値がともに1にあるため、速度制御は、実質的に停電中と同様の制御状態が継続される。
【0077】
時刻t3に再起動信号Bのタイマー期間が満了すると、監視ユニット19は、これに応じて、再起動信号Bの論理値を0にする。これにより、制御部10の速度制御は、通常時の制御系に復帰する。
ただし、周波数補正部151のレート制御については、再起動時の設定が維持される。
【0078】
その後、電動機2の速度がさらに上昇して、監視ユニット19は、基準位相QOが示す速度と速度基準SP_REF1に相当する速度とが同等になったことを検出する(時刻t4)。監視ユニット19は、この検出に応じて、再起動信号Aの論理値を0にして、再起動の処理を終える。
【0079】
上記の実施形態によれば、制御部10は、主回路20が電動機2の複数の巻線に流す負荷電流の大きさに対する指標値を規定する変換規則を用いて、交流電源Gが不足電圧状態になった後に、主回路20から電動機2に対して供給する電力量を制御する。制御部10は、変換規則を用いて、交流電源Gが不足電圧状態になったことの検出に関連付けられた負荷電流の大きさに基づいて、上記の電力量を制御する。これにより、交流電源Gが不足電圧状態から復帰する際に電動機2を再起動させるときの制御の安定性をより高めることができることから、電動機駆動装置1は、電動機の再稼働時の利便性をより高めることができる。
【0080】
さらに、制御部10は、負荷電流の大きさと指標値との対応関係が規定された変換規則を用いて前記電力量を制御するとよい。図6に示す変換規則と、図7に示すテーブルは上記に変換規則の一例である。
【0081】
制御部10は、変換規則を用いて、不足電圧状態が検出されるまでの負荷電流の大きさに基づいて主回路20から電動機2に対して供給する有効電力量を制御するとよい。
【0082】
制御部10は、交流電源Gが不足電圧状態になったことの検出に応じて主回路20から電動機2に対する交流電力の供給を制限して、不足電圧状態が解消したことの検出に応じて主回路20から電動機2に対する交流電力の供給を再開する場合に、主回路20から電動機2に対して供給する電力量を制御するとよい。
【0083】
(実施形態の変形例)
実施形態の変形例について説明する。
本変形例は、変換率換算部156の一部または全部に、FPGA200を利用して構成するときに適用するとよい。以下の説明では、演算ブロック156aの部分を中心にその一例を説明するが、変換率換算部156の全部をFPGA200に収めてもよい。
【0084】
図10を参照して、変換率換算部156の一部である演算ブロック156a部分をモデル化したFPGA200について説明する。図10は、変形例における変換率換算部156の一部を含むFPGA200の概略構成図である。
【0085】
FPGA200は、FPGAを用いた構成の一例である。例えば、テーブル211(第1テーブル)と、テーブル212(第2テーブル)と、レジストリ221(第1変数処理部)と、レジストリ222(第2変数処理部)と、レジストリ223(第3変数処理部)と、テーブル番号指定部231と、比較演算部232とを備える。
【0086】
テーブル211は、電流閾値IFCHG1から電流閾値IFCHG5までが書き込まれたルックアップテーブルである。テーブル211は、後述するテーブル番号指定部231が出力するテーブル番号ixに応じた電流閾値を、電流閾値IFCHG1から電流閾値IFCHG5までの中から選択して出力する。
【0087】
テーブル212は、電圧設定値VFR1から電圧設定値VFR5までが書き込まれたルックアップテーブルである。テーブル212は、テーブル番号ixに応じた電圧設定値を、電圧設定値VFR1から電圧設定値VFR5までの中から選択して出力する。
【0088】
レジストリ221は、所定の条件が満たされたタイミングに出力電流I1_Fを書き込み、それを保持する。例えば、レジストリ221は、セレクタ221Sと、記憶領域221Rとを備える。セレクタ221Sは、制御周期内の所定のタイミングで、外部から供給される出力電流I1_Fと、記憶領域221Rの出力からの信号とを切り替えて、その結果を記憶領域221Rの入力に供給する。
【0089】
所定の条件が満たされたタイミングは、交流電源Gが不足電圧状態になったことを検出したタイミングに関連付けられてよい。例えば、上記のタイミングは、交流電源Gが不足電圧状態になったことを検出したタイミングに同期するものであってよい。
【0090】
レジストリ222は、テーブル211から読みだされた電流閾値IFCHG1から電流閾値IFCHG5までの何れかの値(IFCHG*)を保持する。例えば、レジストリ222は、セレクタ222Sと、記憶領域222Rとを備える。セレクタ222Sは、制御周期内の所定のタイミングで、テーブル211から供給される信号(IFGHG*)と、記憶領域222Rの出力からの信号とを切り替えて、その結果を記憶領域222Rの入力に供給する。
【0091】
レジストリ223は、テーブル212から読みだされた電圧設定値VFR1から電圧設定値VFR5までの何れかの値(VFR*)を保持して、これを直流電圧基準VDC_F0として出力する。
【0092】
なお、セレクタ221S、222S、223S、231Sは、それぞれ同期した信号によって切り替えられてもよく、互いに所定の時間差が生じるように設定された信号によって切り替えられてもよい。記憶領域221R、222R、223R、231Rは、それぞれ同期したクロック信号CLKによって、入力供給されている信号の値を取得して更新する。
【0093】
テーブル番号指定部231は、テーブル211とテーブル212を参照するためにテーブル番号ixを生成する。テーブル番号指定部231は、テーブル番号ixとして初期値の1が設定されると、これを保持する。
【0094】
例えば、テーブル番号指定部231は、セレクタ231Sと、記憶領域231Rと、加算器231ADを備える。セレクタ231Sは、制御周期内の所定のタイミングで、初期値の1を示す信号と、加算器231ADの演算結果を示す信号とを切り替えて、その結果を記憶領域231Rの入力に供給する。加算器231ADは、記憶領域231Rの出力に、後述する比較演算部232が出力する論理値(0または1)を加算する。
【0095】
テーブル番号指定部231は、比較演算部232の判定の結果が否定的結果を示す0の場合に、保持しているテーブル番号ixに1を加算し、これに対し、比較演算部232の判定の結果が肯定的結果を示す1の場合には、保持しているテーブル番号ixの値を維持して、その値を保持する。
【0096】
比較演算部232は、レジストリ221の出力値と、レジストリ222の出力値とを比較して、その結果を出力する。例えば、比較演算部232は、レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値以下の場合に0を出力し、それ以外の場合に1を出力する。
【0097】
図11A図11Bは、変形例のFPGA200による直流電圧基準VDC_F0を決定する処理を示すフローチャートである。
【0098】
レジストリ221は、上記のように許可されたタイミングに出力電流I1_Fを書き込む(ステップSB1)。
【0099】
テーブル番号指定部231は、テーブル番号ixとして初期値の1を、記憶領域231Rに書き込み、これを保持する(ステップSB2)。
【0100】
テーブル番号指定部231は、テーブル番号ixが1であるか否かを判定する(ステップSB11)。
【0101】
テーブル番号ixが1である場合には、テーブル211は、テーブル番号ixによって参照される電流閾値IFCHG1を出力する。レジストリ222は、電流閾値IFCHG1をテーブル211から読み込み、その電流閾値IFCHG1を記憶領域222Rに書き込み保持する(ステップSB12)。
【0102】
比較演算部232は、レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値以下であるか否かを判定する(ステップSB13)。
【0103】
レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値以下である場合には、テーブル212は、テーブル番号ixによって参照される電圧設定値VFR1を出力する。レジストリ223は、電圧設定値VFR1をテーブル212から読み込む(ステップSB14)。
【0104】
レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値を超える場合には、テーブル番号指定部231は、テーブル番号ixに1を加算して、その結果を記憶領域231Rに書き込みテーブル番号ixの値を更新させて(ステップSB15)、ステップSB11に処理を進める。
【0105】
テーブル番号ixが1でない場合には、ステップSB21からの処理を実行させる。テーブル番号指定部231は、テーブル番号ixが2であるか否かを判定する(ステップSB21)。
【0106】
テーブル番号ixが2である場合には、テーブル211は、テーブル番号ixによって参照される電流閾値IFCHG2を出力する。レジストリ222は、電流閾値IFCHG2をテーブル211から読み込み、その電流閾値IFCHG2を記憶領域222Rに書き込み保持する(ステップSB22)。
【0107】
比較演算部232は、レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値以下であるか否かを判定する(ステップSB23)。
【0108】
レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値以下である場合には、テーブル212は、テーブル番号ixによって参照され電圧設定値VFR2を出力する。レジストリ223は、電圧設定値VFR2をテーブル212から読み込む(ステップSB24)。
【0109】
レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値を超える場合には、テーブル番号指定部231は、テーブル番号ixに1を加算して、その結果を記憶領域231Rに書き込みテーブル番号ixの値を更新させて(ステップSB25)、ステップSB21に処理を進める。
【0110】
テーブル番号ixが2でない場合には、ステップSB31(図11B)からの処理を実行させる。テーブル番号指定部231は、テーブル番号ixが3であるか否かを判定する(ステップSB31)。
【0111】
テーブル番号ixが3である場合には、テーブル211は、テーブル番号ixによって参照される電流閾値IFCHG3を出力する。レジストリ222は、電流閾値IFCHG3をテーブル211から読み込み、その電流閾値IFCHG3を記憶領域222Rに書き込み保持する(ステップSB32)。
【0112】
比較演算部232は、レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値以下か否かを判定する(ステップSB33)。
【0113】
レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値以下である場合には、テーブル212は、テーブル番号ixによって参照される電圧設定値VFR3を出力する。レジストリ223は、電圧設定値VFR3をテーブル212から読み込む(ステップSB34)。
【0114】
レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値を超える場合には、テーブル番号指定部231は、テーブル番号ixに1を加算して、その結果を記憶領域231Rに書き込みテーブル番号ixの値を更新させて(ステップSB35)、ステップSB31に処理を進める。
【0115】
テーブル番号ixが3でない場合には、ステップSB41からの処理を実行させる。テーブル番号指定部231は、テーブル番号ixが4であるか否かを判定する(ステップSB41)。
【0116】
テーブル番号ixが4である場合には、テーブル211は、テーブル番号ixによって参照される電流閾値IFCHG4を出力する。レジストリ222は、電流閾値IFCHG4をテーブル211から読み込み、その電流閾値IFCHG4を記憶領域222Rに書き込み保持する(ステップSB42)。
【0117】
比較演算部232は、レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値以下であるか否かを判定する(ステップSB43)。
【0118】
レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値以下である場合には、テーブル212は、テーブル番号ixによって参照される電圧設定値VFR4を出力する。レジストリ223は、電圧設定値VFR4をテーブル212から読み込む(ステップSB44)。
【0119】
レジストリ221の出力値がレジストリ222の出力値を超える場合には、テーブル番号指定部231は、テーブル番号ixに1を加算して、その結果を記憶領域231Rに書き込みテーブル番号ixの値を更新させて(ステップSB45)、ステップSB41に処理を進める。
【0120】
テーブル番号ixが4でない場合には、テーブル212は、テーブル番号ixによって参照され電圧設定値VFR5を出力する。レジストリ223は、電圧設定値VFR5をテーブル212から読み込む(ステップSB54)。
【0121】
ステップSB14と、ステップSB24と、ステップSB34と、ステップSB44と、ステップSB54とのうちの何れかの処理を終えた後、レジストリ223は、読み込んだ電圧設定値VFR1から電圧設定値VFR5の何れかを、直流電圧基準VDC_F0として出力する(ステップSB61)。
【0122】
本変形例によれば、テーブル211は、互いに値が異なる複数の電流閾値を保持する。テーブル212は、互いに値が異なる複数の電圧設定値を保持する。レジストリ221は、交流電源Gが不足電圧状態になったことの検出に関連付けられたタイミングに負荷電流の値(出力電流I1_F)を保持する。レジストリ222は、テーブル211に保持されている複数の電流閾値の何れかを保持する。レジストリ223は、レジストリ221によって保持される負荷電流の値と、レジストリ222によって保持される電流閾値との差に基づいて、テーブル212に保持されている複数の電圧設定値の中から1つの電圧設定値を決定することにより、比較的小規模のFPGA200を用いて演算ブロック156aを構成することができるほか、実施形態と同等の効果を奏する。
【0123】
少なくとも上記の実施形態によれば、電動機駆動装置1は、電動機2と、主回路20と、電流センサ8と、制御部10と、を備える。電動機2は、複数の巻線を備える。主回路20は、交流電源Gの電力を交流電力に変換して、交流電力を複数の巻線にそれぞれ供給する。電流センサ8は、複数の巻線にそれぞれ流れる負荷電流をそれぞれ検出する。制御部10は、電流センサ8によって検出された電流値に基づいて主回路20を制御する。さらに、制御部10は、主回路20が複数の巻線に流す負荷電流の大きさに対する指標値を規定する変換規則を用いて、交流電源が不足電圧状態になったことの検出に関連付けられた負荷電流の大きさに基づいて主回路20から電動機2に対して供給する電力量を制御する。これにより、電動機駆動装置1は、電動機2の再稼働時の利便性をより高めることができる。
【0124】
上記の電動機駆動装置1の制御部10は、その少なくとも一部を、CPUなどのプロセッサがプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部で実現してもよく、全てをLSI等のハードウェア機能部で実現してもよい。
【0125】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0126】
上記の実施形態の説明では、交流電源Gが不足電圧状態になったことを検出して、このタイミングの負荷電流の大きさに基づいて電動機2の起動時の変調率k0を制御する事例について説明した。これに対して、負荷電流の大きさを識別するタイミングは、交流電源Gが不足電圧状態になる直前のタイミングであってもよい。この場合、交流電源Gの不足電圧状態の有無によらずに周期的に繰り返して負荷電流の値をサンプリングして、さらに、交流電源Gの不足電圧状態の期間内は、上記の周期的なサンプリングを実施しないように、速度制御ユニット15を形成してもよい。これにより、速度制御ユニット15(レジストリ221)は、停電が発生する直前の出力電流I1_Fの値を利用できる。
【符号の説明】
【0127】
1…電動機駆動装置、G…交流電源、2…電動機、3…変圧器、4…整流器4、5…コンデンサ、6…インバータ、7…DC電圧センサ、8…電流センサ、9…AC電圧センサ、10…制御部、15…速度制御ユニット(ASR)、20…主回路、VT…計器用変成器
図1
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図11A
図11B