(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】複雑地形においてLiDARで高速の風の流れを測定するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01P 5/26 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
G01P5/26 A
(21)【出願番号】P 2022579319
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021011284
(87)【国際公開番号】W WO2021200248
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-02
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナビ,サレー
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0293836(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014216368(DE,A1)
【文献】特表2014-506327(JP,A)
【文献】米国特許第4735503(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 5/00- 5/26
G01S17/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複雑形状を有する地形の上方の一組の異なる高度における風の流れを、前記高度のうちの各高度における視線速度の一組の測定値から求めるための風流検知システムであって、前記風流検知システムは、
前記高度のうちの各高度ごとに前記地形の上方の見通し線ポイントにおける前記視線速度の一組の測定値を受けるように構成された入力インターフェイスと、
プロセッサとを備え、前記プロセッサは、
前記高度のうちの各高度ごとの速度場を、前記視線速度の測定値に適合する一組の1つまたは複数の凸形状で前記地形の形状を近似したものの上方の前記速度場のデータ同化に基づいて、推定し、
前記高度のうちの各高度における水平速度を、前記推定した速度場の鉛直速度の対応する水平導関数で補正された、対応する前記視線速度の水平投影として、推定するように、構成され、前記風流検知システムはさらに、
前記高度のうちの各高度における前記推定した水平速度をレンダリングするように構成された出力インターフェイスを備
え、
前記凸形状は円筒である、風流検知システム。
【請求項2】
前記一組の凸形状は、直径が異なる少なくとも2つの円筒を含む、請求項1に記載の風流検知システム。
【請求項3】
前記データ同化は、入口速度場の値と、前記一組の凸形状のうちのある凸形状の寸法とによって規定された境界条件の組み合わせに対する多変数サーチを実行する、請求項1に記載の風流検知システム。
【請求項4】
前記多変数サーチは、前記風の流れの力学に従う前記視線速度の測定値をもたらす、前記入口速度場の値と前記凸形状の半径とを決定する、請求項3に記載の風流検知システム。
【請求項5】
前記データ同化は複数のラプラス方程式を解くことによって実行され、前記ラプラス方程式の各々は、前記入口速度場の特定の値および前記凸形状の前記半径について前記風の流れの力学を規定する、請求項4に記載の風流検知システム。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記速度場を、前記データ同化によって求めた前記速度場に写像関数を適用することによって推定するように構成されている、請求項1に記載の風流検知システム。
【請求項7】
前記写像関数は、非凸地形について求めた速度場と凸形状によるその近似との差を最小にするように訓練されたニューラルネットワークである、請求項6に記載の風流検知システム。
【請求項8】
前記視線速度の前記測定値は、円錐上の、地上ベースのLiDARによって測定され、各高度ごとの前記円錐上の前記測定値は円の上の測定値であり、前記円の上の測定値は、前記円の円周上の異なる見通し線ポイントで測定された異なる角度方向における前記視線速度の複数の測定値と、前記円の中心で測定された鉛直方向における前記視線速度の1つの測定値とを含む、請求項1に記載の風流検知システム。
【請求項9】
前記高度のうちの各高度における前記鉛直速度の前記水平導関数は、対応する前記高度について前記LiDARの前記測定値を定める前記円錐の前記円の前記中心における前記鉛直測度の勾配を規定する、請求項8に記載の風流検知システム。
【請求項10】
前記高度のうちの各高度ごとの前記速度場は、前記円錐の内側および外側における前記風の速度の値を含む、請求項1に記載の風流検知システム。
【請求項11】
前記高度のうちの各高度における前記推定した水平速度に基づいて風力タービンを制御する、前記風力タービンのコントローラをさらに備え、前記風力タービンは、請求項1に記載の風流検知システムに作動的に接続される、請求項1に記載の風流検知システム。
【請求項12】
複雑形状を有する地形の上方の一組の異なる高度における風の流れを、前記高度のうちの各高度における視線速度の一組の測定値から求めるための風流検知方法であって、前記方法は、前記方法を実現する格納された命令と結合されたプロセッサを使用し、前記命令は、前記プロセッサによって実行されると前記方法のステップを実行し、前記ステップは、
前記高度のうちの各高度ごとに前記地形の上方の見通し線ポイントにおける前記視線速度の一組の測定値を受けるステップと、
前記高度のうちの各高度ごとの速度場を、前記視線速度の測定値に適合する一組の1つまたは複数の凸形状で前記地形の形状を近似したものの上方の前記速度場のデータ同化に基づいて、推定するステップと、
前記高度のうちの各高度における水平速度を、前記推定した速度場の鉛直速度の対応する水平導関数で補正された、対応する前記視線速度の水平投影として、推定するステップと、
前記高度のうちの各高度における前記推定した水平速度を出力するステップとを含
み、
前記凸形状は円筒である、風流検知方法。
【請求項13】
前記一組の凸形状は、直径が異なる少なくとも2つの円筒を含む、請求項12に記載の風流検知方法。
【請求項14】
前記視線速度の前記測定値は、円錐上の、地上ベースのLiDARによって測定され、各高度ごとの前記円錐上の前記測定値は円の上の測定値であり、前記円の上の測定値は、前記円の円周上の異なる見通し線ポイントで測定された異なる角度方向における前記視線速度の複数の測定値と、前記円の中心で測定された鉛直方向における前記視線速度の1つの測定値とを含む、請求項13に記載の風流検知方法。
【請求項15】
前記高度のうちの各高度における前記鉛直速度の前記水平導関数は、対応する前記高度について前記LiDARの前記測定値を定める前記円錐の前記円の前記中心における前記鉛直測度の勾配を規定する、請求項14に記載の風流検知
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してリモートセンシングに関し、より具体的には複雑地形においてLiDARにより高速の風の流れを測定するための風流検知システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風の流れの測定は、気象学等の多くの用途、ならびに空港および風力発電所等の場所の監視および特徴付けにとって、重要である。広範囲の高度にわたってまたは広大な体積に相当するゾーンにおいて気団の変位を測定することが役に立つことがよくある。そのような広大な体積の変位の検知を、風杯型風速計等の風速計で実行することは、非実用的である可能性があり、遠隔測定を行うことが可能なリモートセンシング機器を必要とする。これらの機器は、特に、レーダ、LiDARおよびSODARを含む。レーダおよびLiDARシステムは、それぞれハイパー周波数範囲および光周波数範囲の電磁波を使用する。SODARシステムは音波を使用する。たとえば、気団/風の流れの測定の場合、機器は、(音および/または電磁)波の1つ以上のビームを、測定対象のゾーン内の伝送軸に沿って連続的にまたはパルスとして伝送する。異なる伝送軸に沿った伝送は、同時または逐次伝送とすることができる。
【0003】
ビームには、特に遭遇する不均一性(エアロゾル、粒子、電磁波の屈折率の変化、または音波の音響インピーダンスの変化)に起因する、大気中の散乱効果が発生する。これらが気団または移動粒子内で散乱すると、これらの波のビームにもドップラー効果による周波数シフトが生じる。後方散乱したビームは、測定軸に応じて配向された1つ以上の受信機によって検出される。この1つ以上の受信機は、大気によってそれらの測定軸に沿った方向に散乱させられた波を検出する。次に、散乱が発生した、検出器の測定軸に沿った距離を、たとえば飛行時間を測定する方法、または干渉計による位相シフト測定方法により、計算することができる。測定軸に沿った気団または空気粒子の視線速度も、ドップラー効果による波の周波数シフトを測定することによって得ることができる。この測定された視線速度は、検出器の測定軸上の散乱部位の速度ベクトルの投影に対応する。
【0004】
特に、大気の下層における風の特徴の測定に適したLiDARシステムは、モノスタティック型であることが多い。このことは、同一の光学装置または同一のアンテナ(音響または電磁)が信号の送信および受信に使用されることを意味する。探査される体積は、一般的に、その頂点が光学装置のレベルまたは機器のアンテナのレベルに位置する円錐に沿って拡がっている。円錐に沿った機器のパルスの各ビームは、伝送軸と一致する測定軸に沿う粒子の移動の視線速度を測定する。このようにして、ビーム伝搬軸上の風のベクトルの投影を表す風の視線速度の測定値が得られる。次に、風の視線速度の測定値に基づいて、対象とする体積全体にわたる風のベクトルすなわち速度場が計算される。
【0005】
既存の機器において、この計算は一般的に、純粋に幾何学的なモデルを用いて実行される。これらのモデルの1つの欠点は、特に、サンプル測定の全期間にわたって風が空間的および時間的に均一であるという、場合によってはかなり非現実的な仮説に、これらのモデルが基づいている点である。この仮説に従うと、所与の高度における風ベクトルは、機器によって探査される大気のすべてのポイントで同一ということになる。
【0006】
「ドップラービームスイング」(DBS:Doppler Beam Swinging)法等のいくつかの方法は、風の空間的および時間的均一性を用いて、所与の高度における風ベクトルの成分を、1つの同一高度において少なくとも3つの異なる方向で測定された視線速度の少なくとも3つの測定値から、風ベクトルと、視線速度の測定値によって構成された測定値の軸に沿うその投影との間の幾何学的関係を記述する3つの未知数を有する少なくとも3つの式の系を解くことによって計算する。幾何学的計算を使用する方法の一例は、「速度方位角表示」(VAD:Velocity Azimuth Display)法である。しかしながら、この方法は、所与の高度における風の空間的均一性という同じ仮説に基づいている。
【0007】
風ベクトルの再構築のために幾何学的技術を使用する風の測定のためのリモートセンシング機器は、実質的に平坦な地形(起伏がほとんどもしくは全くない地形または沖合)の上方でこの測定を実行する場合、風の平均速度の正確な測定を可能にする。たとえば、LiDARシステムを用いた場合、10分間の平均測定値について得られた相対誤差は、較正された風杯型風速計によって構成された基準に対し、2%を下回る。他方、起伏のあるもしくは山地の地形、森林で覆われた地形などのような複雑地形の上方で測定を実行する場合、水平および鉛直速度を求める精度は大幅に低下する。LiDARシステムを用いて実行された測定について、較正された風杯型風速計に対し、計算された10分間の平均値の、約5%~10%の相対誤差が、複雑地形上で観察された。
【0008】
このように、幾何学的モデルを実現する機器は、複雑地形上の風の水平および/または鉛直速度ならびに方向を十分正確に測定することができない。実際、複雑地形上では、機器によって探査される大気の体積内の所与の高度において風を均一とみなすことはもはやできない。しかしながら、これらの条件下において風を正確に測定することは、特に風力発電所の開発という状況において、有用である。
【0009】
いくつかの方法は、LiDARによって測定された視線方向流速に適合させるために、最適化技術とともにいくつかの異なる数値モデルを使用する。しかしながら、そのような方法における初期条件または境界条件の決定は煩雑である。また、最適化技術は反復的なので、風の測定は、冗長なプロセスとなり、時間がかかり、計算コストが高く、そのため、オンラインでの風の再構築が処理し難くなる可能性がある。
【0010】
したがって、複雑地形上の風の流れの測定に適したシステムおよび方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
いくつかの実施形態の目的は、複雑な形状を有する地形の上方の一組の異なる高度における風の流れを、これらの高度の各々における視線速度の一組の測定値から求めるための、風流検知システムおよび風流検知方法を提供することである。また、いくつかの実施形態の目的は、高度の各々における水平速度を推定することである。加えて、実施形態の目的は、データ同化に基づいて各高度ごとに速度場を推定することである。
【0012】
いくつかの実施形態において、LiDAR等のリモートセンシング機器を、大気中の風の特徴を測定するために使用する。風の特徴は、風速(水平および鉛直速度)、乱流、風の方向などを含む。LiDARは、見通し線(LOS:line of sight)方向における風の視線速度を測定する。しかしながら、水平速度ベクトル(大きさおよび方向)が、対象とするパラメータである。そのため、いくつかの実施形態は、幾何学的関係を用いて、測定した視線速度から風を再構築することに基づく。いくつかの実施形態は、水平速度が、測定された視線速度の水平投影によって得られる、という認識に基づいている。実際、均一という仮定、すなわちすべてのLOS速度が同一の水平速度に対応するという仮定に基づいた、そのような投影は、不正確である。なぜなら、測定した視線速度は異なる高度に対して異なっており、同じ高度であってもLiDARは値が異なる5つの視線速度を測定するからである。また、視線速度の対応する水平投影は、鉛直方向における速度の変動を考慮しない。さらに、そのような投影は、丘陵のような複雑地形または近くの大きな建築物もしくはその他の都市構造物の上の風の流れには有効でない。
【0013】
そのため、いくつかの実施形態は、鉛直方向における速度の変化(すなわち鉛直変化)を考慮するという目的に基づいている。いくつかの実施形態は、鉛直変化を考慮するために、鉛直速度の水平導関数を、測定した視線速度の水平投影に対する補正として使用することができる、という認識に基づいている。そのような実施形態では、先ず、鉛直速度を、視線速度の測定に適合する風の流れの速度場をシミュレートすることによって求める。シミュレーションの視線速度の、測定の視線速度に対する「近さ」を考慮することによる、そのようなシミュレーションを、データ同化と呼ぶ。いくつかの実施形態ではデータ同化を計算流体力学(CFD:Computational fluid dynamics)を用いて実現する。いくつかの実施形態は、水平速度および鉛直速度はいずれもシミュレートされた速度場を用いて求めることができる、という認識に基づいている。さらに、速度場からの鉛直速度を用いて、対応する水平導関数を推定する。次に、水平導関数を、測定した視線速度の水平投影の補正として適用する。この補正の結果、水平速度推定の精度が改善される。
【0014】
しかしながら、CFDシミュレーションにおいて、境界または大気条件等のオペレーティングパラメータは未知であり、これらのオペレーティングパラメータは、オペレーティングパラメータが測定された視線速度になるまで、繰り返し求められる。その結果、CFDでデータ同化を行うと、非常に時間がかかる。さらに、CFDシミュレーションはナビエ・ストークス方程式の解に基づく最適化プロセスなので、CFDによるデータ同化は単調である。また、CFDシミュレーションは、複雑地形の上の風の流れについては複雑になる。
【0015】
そのため、いくつかの実施形態は、複雑地形を凸形状たとえば円筒で表現または近似することに基づいている。いくつかの実施形態において、複雑地形を同等の円筒で近似する。その他いくつかの実施形態において、地形を複数の凸形状で近似する。そのような表現は、速度場のシミュレーションを単純にする。さらに、そのような円筒の周囲の風の流れをポテンシャル流れで近似する。ポテンシャル流れは、ナビエ・ストークス方程式の繰り返しの最適化ではなく、ラプラス方程式の代数解を必要とし、それにより計算効率を高める。加えて、ラプラス方程式はナビエ・ストークス方程式よりも解くのが簡単である。
【0016】
しかしながら、そのような近似は、速度場のシミュレーションを劣化させる。いくつかの実施形態は、そのような近似は速度場を求めるのに十分正確ではないかもしれないが、この近似は、測定した視線速度の水平投影を改善する補正としての鉛直速度の水平導関数を求めるのに十分正確である、という認識に基づいている。したがって、水平速度の推定の精度は、速度場の劣化を最小にして、大幅に改善される。
【0017】
そのため、いくつかの実施形態は、データ同化を、速度場を推定するために視線速度の測定に適合させるよう凸形状を用いて地形を近似することに基づいて実現する、という認識に基づいている。さらに、推定した速度場の鉛直速度の対応する水平導関数で補正された、対応する視線速度の水平投影として、水平速度を推定する。これに加えてまたはこれに代えて、そのような定式化に基づく実施形態は、オンラインですなわちリアルタイムで風を再現するおよび/または水平速度を計算することができる。
【0018】
ある実施形態では、(ラプラス方程式の)ポテンシャル流れについて、速度を、速度ポテンシャルの観点で表現し、また、ポテンシャル流れの解は、流れ関数をもたらす。いくつかの実施形態は、流体流(風)において、ラプラス方程式を満たす速度ポテンシャルまたは流れ関数のいずれかを、流れ場を規定するために利用できる、という認識に基づいている。ラプラス方程式は線形なので、必要な解を得るためにさまざまな解を追加することができる。たとえば、線形偏微分方程式(ラプラス方程式など)の場合、さまざまな境界条件に対する解は、個々の境界条件の合計である。いくつかの実施形態は、流れ場において、流線は、それを通る流れがないので、固体境界とみなすことができる、という認識に基づいている。加えて、固体境界および流線に沿う条件は同一である。したがって、基本ポテンシャル流の速度ポテンシャルおよび流れ関数の組み合わせは、特定のボディ形状をもたらし、これは、そのボディの周囲の流体流と解釈することができる。そのようなポテンシャル流れの問題を解決する方法を、重ね合わせ(superposition)と呼ぶ。
【0019】
いくつかの実施形態は、円筒の周囲のポテンシャル流れを、基本ポテンシャル流の速度ポテンシャルと流れ関数との組み合わせによって求めることができる、という認識に基づいている。基本ポテンシャル流は、均一流れ、吹き出し(source)/吸い込み(sink)流れ、二重(doublet)流れなどを含む。ある実施形態において、円筒の周囲の流体流のモデルに対応する組み合わされた流れは、均一流れと二重流れとの組み合わせによって得られる。
【0020】
いくつかの実施形態は、円筒と複雑形状(たとえば複雑地形)との間の写像を決定するという目的に基づいている。いくつかの実施形態において、そのような写像は、複素数の分析写像を含む等角写像を用いることによって決定することができる。等角写像では、ある座標系から別の座標系への複素数値関数の変換のために変換関数が使用される。いくつかの他の実施形態において、円筒と複雑な形状との間の写像は、機械学習方法に基づいて決定される。いくつかの実施形態は、複雑地形への写像または複雑地形の近似のために一組の凸形状(円筒)を重ね合わせることができる、という認識に基づいている。
【0021】
そのため、いくつかの実施形態は、複雑地形を近似する円筒の半径と上流速度とを求めるという目的に基づいている。いくつかの実施形態は、未知の値すなわち円筒の半径および速度を、直接随伴ルーピング(DAL)法を用いて推定できる、という認識に基づいている。そのような実施形態は、円筒の最確分布および上流速度を、コスト関数を最小にすることによって推定する。DAL法は、円筒の半径および上流速度の初期推定値で初期化される。いくつかの実施形態に従うと、DALは、反復方式の、円筒の分布に対するポテンシャル流れの分析的解と随伴(または感度)方程式とを含む最適化方法である。
【0022】
したがって、一実施形態は、非凸形状を有する地形の上方の一組の異なる高度における風の流れを、高度のうちの各高度における視線速度の一組の測定値から求めるための風流検知システムを開示し、このシステムは、高度のうちの各高度ごとに地形の上方の見通し線ポイントにおける視線速度の一組の測定値を受けるように構成された入力インターフェイスと、プロセッサとを備え、プロセッサは、高度のうちの各高度ごとの速度場を、視線速度の測定値に適合する一組の1つまたは複数の凸形状で地形の形状を近似したものの上方の速度場のデータ同化に基づいて、推定し、高度のうちの各高度における水平速度を、推定した速度場の鉛直速度の対応する水平導関数で補正された、対応する視線速度の水平投影として、推定するように、構成され、風流検知システムはさらに、高度のうちの各高度における推定した水平速度をレンダリングするように構成された出力インターフェイスを備える。
【0023】
したがって、別の実施形態は、非凸形状を有する地形の上方の一組の異なる高度における風の流れを、高度のうちの各高度における視線速度の一組の測定値から求めるための風流検知方法を開示し、この方法は、この方法を実現する格納された命令と結合されたプロセッサを使用し、命令は、プロセッサによって実行されると方法のステップを実行し、ステップは、高度のうちの各高度ごとに地形の上方の見通し線ポイントにおける視線速度の一組の測定値を受けるステップと、高度のうちの各高度ごとの速度場を、視線速度の測定値に適合する一組の1つまたは複数の凸形状で地形の形状を近似したものの上方の速度場のデータ同化に基づいて、推定するステップと、高度のうちの各高度における水平速度を、推定した速度場の鉛直速度の対応する水平導関数で補正された、対応する視線速度の水平投影として、推定するステップと、高度のうちの各高度における推定した水平速度を出力するステップとを含む。
【0024】
ここに開示される実施形態を、添付の図面を参照しながらさらに説明する。示されている図面は、必ずしも一定の縮尺に従っている訳ではなく、代わりに、全体として、ここに開示される実施形態の原理の説明の際には強調を加えている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】複雑地形における高速風流測定のためにいくつかの実施形態により使用される原理の概要を示す図である。
【
図2】いくつかの実施形態に係る、風の流れを求めるための風流検知システムのブロック図を示す。
【
図3A】いくつかの実施形態に係る、風の流れの視線速度を測定するように構成された具体例としてのリモートセンシング機器の概略図を示す。
【
図3B】いくつかの実施形態により、円錐の表面および円錐の中心線に沿う特定の高度で測定される、視線速度の幾何学的形態の概略図を示す。
【
図3C】いくつかの実施形態によって使用される複雑地形の上の風のリモートセンシングの概略図を示す。
【
図4】風の流れの速度場を推定するためにいくつかの実施形態によって使用される、風の流れの具体例としてのパラメータの概略図を示す。
【
図5A】いくつかの実施形態に係る、風の流れを解明するための計算流体力学(CFD)フレームワークのブロック図を示す。
【
図5B】一実施形態に係る、不偏速度場を求める方法のブロック図を示す。
【
図6A】一実施形態に係る、鉛直速度の水平勾配を得るためのCFDシミュレーションに基づくフレームワークのブロック図を示す。
【
図6B】いくつかの実施形態によって決定されたメッシュの例を示す図である。
【
図7】いくつかの実施形態に係る、オペレーティングパラメータを選択する方法のブロック図を示す。
【
図8】いくつかの実施形態に係る、オペレーティングパラメータの現在の値を求める方法のフローチャートを示す図である。
【
図9】いくつかの実施形態に係る、コスト関数の異なる項に異なる重みを割り当てるプロセスを示す図である。
【
図10】一実施形態によりオペレーティングパラメータを求めるために使用される直接随伴ルーピング(DAL)の実現およびCFDシミュレーションの結果の概略図を反復形式で示す。
【
図11】いくつかの実施形態に係る、風流検知に関連する、1つの面上の各種データポイントの例を示す図である。
【
図12】一実施形態に係る、風の流れの水平速度を求めるための概略図を示す。
【
図13】一実施形態に係る、CFDシミュレーションの概略図を示す。
【
図14】ある実施形態に係る、円筒の周囲の風の流れの圧力および速度場のマップを示す図である。
【
図15】ある実施形態に係る、地形流れモデルの幾何学的形状を示す図である。
【
図16】ある実施形態に係る、均一流れと吹き出し流れとの組み合わせを示す図である。
【
図17A】いくつかの実施形態に係る、円筒の周囲の流体流を決定する均一流れと二重流れとの組み合わせを示す図である。
【
図17B】ある実施形態に係る、二重流れを得るための、強度Λが等しい吹き出し流れおよび吸い込み流れを示す図である。
【
図18】いくつかの実施形態に係る、具体例としての、半径bの円筒と地形との間の写像を示す図である。
【
図19】いくつかの実施形態に係る、地形への写像のための一組の円筒の重ね合わせを示す図である。
【
図20】いくつかの実施形態に係る、LOS測定値とラプラスの重ね合わせからのLOSとの両方を含むコスト関数の構築および評価の概略図を示す。
【
図21】いくつかの実施形態に係る、円筒の半径および上流速度を求めるためのDALの実現のブロック図を示す。
【
図22】いくつかの実施形態に係る、鉛直速度の水平勾配の推定の概略図を示す。
【
図23A】複雑地形における風の流れの乱流の測定のためにいくつかの実施形態によって使用される原理の概要を一括して示す。
【
図23B】複雑地形における風の流れの乱流の測定のためにいくつかの実施形態によって使用される原理の概要を一括して示す。
【
図24A】ある実施形態に係る、自己相関関数を用いた標準偏差の補正の概略図を示す。
【
図24B】いくつかの実施形態に係る、風杯型風速計データとの比較に基づいた自己相関関数ρ
u、ρ
v、およびρ
wの値の計算のための概略図を示す。
【
図24C】いくつかの実施形態に係る、高忠実度CFDシミュレーションとの比較に基づいた自己相関関数ρ
u、ρ
v、およびρ
wの値の計算のための概略図を示す。
【
図25】いくつかの実施形態に係る、風の流れの乱流を求めるための風流検知システムのブロック図を示す。
【
図26】いくつかの実施形態の原理を採用するシステムと通信するコントローラを含む風力タービンの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の記載では、説明のために、本開示が十分に理解されるよう多数の具体的な詳細事項を述べる。しかしながら、本開示はこれらの具体的な詳細事項なしで実施し得ることが当業者には明らかであろう。その他の場合では、本開示を不明瞭にするのを回避することだけのために装置および方法をブロック図の形式で示す。
【0027】
本明細書および請求項で使用される、「たとえば(for example)」、「例として(for instance)」、および「~のような(such as)」という用語、ならびに「備える(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、およびこれらの動詞の他の形態は、1つ以上の構成要素またはその他のアイテムの列挙とともに使用される場合、その列挙がさらに他の構成要素またはアイテムを除外するとみなされてはならないことを意味する、オープンエンドと解釈されねばならない。「~に基づく」という用語は、少なくとも部分的に基づくことを意味する。さらに、本明細書で使用される文体および術語は、説明のためのものであって限定とみなされてはならないことが理解されるはずである。本明細書で使用されるいかなる見出しも、便宜的なものにすぎず、法的または限定効果を持つものではない。
【0028】
図1は、複雑地形における高速風流測定のためにいくつかの実施形態により使用される原理の概要を示す。LiDAR等のリモートセンシング機器を、大気中の風の特徴のサブセットを測定するために使用する。風のさまざまな特徴は、風速(水平および鉛直速度)、乱流、風の方向などを含む。方法100において、LiDARは、見通し線(LOS)方向における風の視線速度102を測定する。しかしながら、水平速度ベクトルが、対象とするパラメータである。
【0029】
そのため、いくつかの実施形態は、幾何学的関係104を用いて、測定した視線速度102から風を再現することに基づく。言い換えると、水平速度106は、測定した視線速度102の水平投影によって得られる。実際、そのような投影は不正確である。なぜなら、測定した視線速度は異なる高度に対して異なっており、同じ高度であってもLiDARは値が異なる5つの視線速度を測定するからである。また、視線速度の対応する水平投影は、鉛直方向における速度の変化を考慮しない。さらに、そのような投影は、丘陵のような複雑地形または近くの大きな建築物もしくはその他の都市構造物の上の風の流れには有効でない。
【0030】
そのため、いくつかの実施形態は、鉛直方向における速度の変化(すなわち鉛直変化)を考慮するという目的に基づいている。いくつかの実施形態は、鉛直変化を考慮するために、鉛直速度の水平導関数を、測定した視線速度の水平投影に対する補正として使用することができる、という認識に基づいている。そのような実施形態では、先ず、鉛直速度を、視線速度102の測定に適合する速度場を発見するために風の流れの速度場をシミュレートするデータ同化によって求める。シミュレーションの視線速度の、測定の視線速度に対する「近さ」を考慮することによる、そのようなシミュレーションを、データ同化と呼ぶ。いくつかの実施形態ではデータ同化を計算流体力学(CFD)を用いて実現する。いくつかの実施形態は、水平速度および鉛直速度はいずれもシミュレートされた速度場を用いて求めることができる、という認識に基づいている。さらに、速度場からの鉛直速度を用いて、対応する水平導関数を推定し、次に、水平導関数を、測定した視線速度の水平投影の補正として適用する。この補正の結果、水平速度推定の精度が改善される。
【0031】
しかしながら、データ同化において境界または大気条件等のオペレーティングパラメータは不明であり、これらのオペレーティングパラメータは、これらのオペレーティングパラメータが測定された視線速度になるまで、繰り返し求められる。その結果、CFDを用いたデータ同化の実行には非常に時間がかかる。さらに、CFDを用いたデータ同化は単調である。なぜなら、CFDシミュレーションは、ナビエ・ストークス方程式の解に基づく最適化プロセスであるからである。加えて、CFDシミュレーションは、複雑地形上の風の流れに対しては複雑になる。
【0032】
そのため、いくつかの実施形態は、複雑地形を凸形状たとえば円筒で表現または近似すること(110)に基づいている。いくつかの実施形態において、複雑地形を同等の円筒で近似する。その他いくつかの実施形態において、地形を複数の凸形状で近似する。そのような表現は、速度場のシミュレーションを単純にする。さらに、そのような円筒の周囲の風の流れをポテンシャル流れ112で近似する。ポテンシャル流れ112は、ナビエ・ストークス方程式の繰り返しの最適化ではなく、ラプラス方程式の代数解を必要とし、それにより計算効率を高める。加えて、ラプラス方程式112はナビエ・ストークス方程式よりも解くのが簡単であり、単純形状たとえば円筒の場合、閉じた数学的形式の分析解が存在する。しかしながら、そのような近似110は、速度場のシミュレーションを劣化させる。いくつかの実施形態は、そのような近似110は速度場を求めるのに十分正確ではないかもしれないが、この近似110は、測定した視線速度108の水平投影を改善する補正としての鉛直速度の水平導関数を求めるのに十分正確となり得る、という認識に基づいている。したがって、水平速度の推定114の精度は、速度場の劣化を最小にして、大幅に改善される。
【0033】
そのため、いくつかの実施形態は、データ同化を、速度場を推定するために視線速度108の測定に適合させるよう凸形状を用いて地形を近似すること(110)に基づいて実現する、という認識に基づいている。さらに、推定した速度場の鉛直速度の対応する水平導関数で補正された、対応する視線速度の水平投影として、水平速度を推定する(114)。これに加えてまたはこれに代えて、そのような定式化に基づく実施形態は、オンラインですなわちリアルタイムで風を再現するおよび/または水平速度を計算することができる。
【0034】
図2は、いくつかの実施形態に係る、風の流れを求めるための風流検知システム200のブロック図を示す。風流検知システム200は、各高度ごとに見通し線方向における視線速度の一組の測定値218を受ける入力インターフェイス202を含む。いくつかの実施形態において、測定値218は、円錐上の、地上ベースのLiDAR等のリモートセンシング機器によって測定される。風流検知システム200は、システム200を他のシステムおよびデバイスに接続する複数のインターフェイスを有することができる。たとえば、ネットワークインターフェイスコントローラ(NIC:network interface controller)214は、風流検知システム200を、バス212を通してネットワーク216に接続するように適合され、ネットワーク216は、風流検知システム200を、風の流れの視線速度を測定するように構成されたリモートセンシング機器に接続する。ネットワーク216を通して、風流検知システム200は、各高度ごとに見通し線方向における視線速度の一組の測定値218を無線または有線のいずれかで受信する。
【0035】
さらに、いくつかの実施形態において、測定値218を、さらに処理するために、ネットワーク216を通して記憶装置236にダウンロードし格納することができる。これに加えてまたはこれに代えて、いくつかの実装形態において、風流検知システム200は、プロセッサ204をキーボード232およびポインティングデバイス234に接続するヒューマンマシンインターフェイス230を含み、ポインティングデバイス234は、とりわけ、マウス、トラックボール、タッチパッド、ジョイスティック、ポインティングスティック、スタイラス、またはタッチスクリーンを含み得る。
【0036】
風流検知システム200は、格納されている命令を実行するように構成されたプロセッサ204と、プロセッサが実行可能な命令を格納するメモリ206とを含む。プロセッサ204は、シングルコアプロセッサ、マルチコアプロセッサ、コンピューティングクラスタ、または任意の数のその他の構成であってもよい。メモリ206は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出専用メモリ(ROM)、フラッシュメモリ、または任意のその他の適切なメモリシステムを含み得る。プロセッサ204は、バス212を通して1つ以上の入出力インターフェイスおよび/またはデバイスに接続することができる。
【0037】
いくつかの実施形態に従うと、メモリ206に格納された命令は、高度の各々における視線速度の一組の測定値から一組の異なる高度における風の流れの速度場を求める方法を実現する。そのために、記憶装置236を、プロセッサ204の実行可能な命令を格納する異なるモジュールを格納するように適合させることができる。記憶装置236は、オペレーティングパラメータの現在の値を用いて風の流れの計算流体力学(CFD)をシミュレートすることによって高度の各々における速度場を推定するように構成されたCFDシミュレーションモジュール208を格納する。記憶装置236はまた、コスト関数を低減するオペレーティングパラメータの値を求めるように構成されたCFDオペレーティングパラメータモジュール210と、速度場から鉛直速度の水平導関数を求めるように構成された水平導関数モジュール236とを格納する。さらに、記憶装置236は、鉛直速度の水平導関数と視線速度の測定値とを用いて水平速度を含む速度場を求めるように構成された速度場モジュール238を格納する。さらに、記憶装置236は、視線速度の測定値に適合するように一組の1つまたは複数の凸形状で地形の形状を近似するように構成されたラプラスシミュレーションモジュール240を格納する。ラプラスシミュレーションモジュール240は、地形の形状を近似するために、入口速度場の特定の値および凸形状の半径について風の流れの力学を規定する複数のラプラス方程式を解くように構成される。記憶装置236は、ハードドライブ、光学ドライブ、サムドライブ、ドライブのアレイ、またはその任意の組み合わせを用いて実現することができる。
【0038】
風流検知システム200は、高度の各々における推定水平速度をレンダリングする出力インターフェイス224を含む。加えて、風流検知システム200を、風流検知システム200をディスプレイデバイス222に接続するように適合されたディスプレイインターフェイス220に、バス212を介して連結することができ、ディスプレイデバイス222は、とりわけ、コンピュータモニタ、カメラ、テレビ、プロジェクタ、またはモバイルデバイスであってもよい。加えて、風流検知システム200は、風力タービン等のマシンと統合されるコントローラ228に、高度の各々における推定水平速度をサブミットするように構成された制御インターフェイス226を含む。コントローラ228は、高度の各々における推定水平速度に基づいてマシンを操作するように構成される。いくつかの実施形態において、出力インターフェイス224は、高度の各々における推定水平速度をコントローラ228にサブミットするように構成される。
【0039】
図3Aは、いくつかの実施形態に係る、風の流れの視線速度を測定するように構成された具体例としてのリモートセンシング機器の概略図を示す。LiDAR300は、異なる高度における風の流れの視線速度218を測定するように構成される。異なる実施形態は異なるリモートセンシング機器を使用する。これらの機器の例は、レーダ、LiDAR、およびSODARを含む。明確にするために、本開示は、具体例としてのリモートセンシング機器としてLiDAR300を使用する。
【0040】
所与のポイントを基準とする、ある物体の視線速度は、物体とポイントとの間の距離の変化率である。すなわち、視線速度は、物体とポイントとを結ぶ半径の方向を指す物体の速度の成分である。大気測定の場合、このポイントは、地上のレーダ、LiDARおよびSODAR等のリモートセンシング機器の位置であり、視線速度は、物体が受信機器(LiDARデバイス300)から遠ざかるまたは当該機器に接近する速度を表す。この測定された視線速度は見通し線(LOS)速度とも呼ばれる。
【0041】
リモートセンシング機器は、関心領域(volume of interest)における空気等の流体の流量を、気流の速度場を記述することによって求める。たとえば、LiDAR300は、レーザ302、または戻り信号306のスペクトル分析が行われる音響送信機および受信機と、さらなる計算を実行するためのコンピュータ304と、送信機および/または受信機の照準を、この送信機および/または受信機からかなりの距離にある空間内のターゲットに定めるためのナビゲータとを含む。受信機は、測定軸に沿ってリモートセンシングシステムとターゲットとの間に汚染物質が存在するために散乱した戻り信号306を検出する。レーザは、可能な照準方向によって形成された円錐表面308に沿って送信される。上記ターゲットにおける関心空間310の粒子の視線速度は、特定の空気汚染物質に起因するドップラー効果による周波数シフトから導き出される。
【0042】
図3Bは、いくつかの実施形態により、円錐の表面308および円錐の中心線312に沿う特定の高度で測定される、視線速度の幾何学的形態の概略図を示す。LiDARの測定値は、風の視線(見通し線)速度成分を提供し、いわゆる「サイクロプス(cyclops)」ジレンマが原因で、風の大きさおよび方向を正確に求めることを困難にする。この現象は、単一のLOS測定値を用いて任意の3D速度場を正確に再現することができないことを意味する。1つのビームに沿った視線速度314は、デカルト座標系320、322、および324においてLiDARを位置318に配置した状態における、速度ベクトル316の投影を示す。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
図3Cは、いくつかの実施形態によって使用される複雑地形330の上の風のリモートセンシングの概略図を示す。ポイント332たとえば丘の頂上に配置された、LiDAR300は、円錐上で一連の見通し線測定を実行し、これは、円錐の表面に沿った測定334、336、340、342と、中心線338に沿った測定とを含む。これらの測定値は、異なる面344として示されている異なる高度で得られる。このように、各高度344における、円錐上の測定値は、円上の測定値であり、これらの測定値は、この円の円周上の異なる見通し線ポイントにおいて測定された異なる角度方向における視線速度の複数の測定値と、この円の中心において測定された鉛直方向における視線速度の1つの測定値とを含む。見通し線測定値は見通し線速度に対応する。
【0047】
一実施形態は、各高度ごとに風の流れの水平速度vhを求めることを意図している。これらの測定値を考慮し、幾何学的関係を使用するとともに、風の速度は各面上で均一であると仮定して、水平速度vhの推定値を、視線速度vRの測定値から求めることができる。ここで、VL=(uL,vl,wL)は、均一という仮定に基づいた風の流れの推定速度である。
【0048】
【0049】
いくつかの実施形態は、地形330のような複雑地形の場合、均一速度であると仮定すると、水平速度のLiDAR推定に偏りが生じる、という認識に基づいている。主な誤差の原因は、鉛直方向における、たとえば丘陵に沿う、鉛直速度wの変化にある。そのため、いくつかの実施形態は、複雑地形上を通る風の流れの検知における均一速度という仮定は、鉛直速度の水平導関数を用いて補正できる、という認識に基づいている。
【0050】
図4は、風の流れの速度場を推定するためにいくつかの実施形態によって使用される、風の流れの具体例としてのパラメータの概略図を示す。いくつかの実施形態は、複雑地形上を通る風の流れの検知において、速度が均一であるという仮定は、誤りであるが、鉛直速度の水平導関数を用いて補正できる、という認識に基づいている。
図4は、LiDAR300が丘の頂上の近くに、たとえば位置332に配置されたときの風の流れを2次元で説明したものを示す。鉛直速度の水平導関数は、所与の高度における鉛直速度400の方向および/または大きさの変化を示すことができる。この例において、鉛直速度の水平導関数は、ポイント402における丘の頂上までの丘のある傾斜に沿う鉛直速度の増加と、丘の別の傾斜にわたるポイント404からの鉛直速度の減少とを示す。また、鉛直速度の線形変化を示す一次導関数を用いて風の流れの検知の精度を高めることもできる。なぜなら、速度が均一であるという仮定は、検知した速度場の最大桁の項(leading order terms)の誤差を引き起こすからである。
【0051】
【0052】
よって、均一という仮定に起因する偏りは、i)デバイス300の上方の高度z、ii)鉛直速度の水平勾配dw/dxおよびdw/dyに、比例する。そのような誤差は、仰角ψの関数ではなく、そのような角度を減じることは、水平速度の偏りを減じることにはならない。いくつかの実施形態は、dw/dxおよびdw/dyの推定値を視線速度測定値のみに基づいて得ることはできない、という認識に基づいている。結果として得られた式は、走査ビームの対称性のため、劣決定である。
【0053】
流れの非圧縮性は、ある流速で移動する無限小体積の流体の塊の中で材料密度が一定である流れを意味する。そのような物理的原理は質量保存に基づく。いくつかの実施形態は、速度が均一であるという仮定に起因する最大桁誤差は非圧縮性である、という認識に基づいている。言い換えると、高度と鉛直速度の水平勾配との積からなる偏りの項が質量を保存することを示すことができる。このことは、複雑地形の上の風の流れの場合、対称ドメイン内の流体の体積に対して非圧縮性条件を課しても、流れが均一であるという仮定に起因する最大桁誤差は補正されないことを示唆する。
【0054】
計算流体力学(CFD)は、数値分析およびデータ構造を用いて、流体の流れを含む問題を解決し分析する、流体力学の部門である。コンピュータを用いて、液体および気体と、境界条件によって定められる表面との相互作用をシミュレートするために必要な計算を実行する。いくつかの実施形態は、CFDを用いることにより、LiDARによって検知された円錐上の風の測定値から風の速度場を推定することができる、という広い理解に基づいている。しかしながら、複雑地形上の風の流れの場合、境界条件等のオペレーティングパラメータは、通常は未知であり、これらのオペレーティングパラメータを近似すると、風の流れの検知精度が不必要に低下する可能性がある。
【0055】
いくつかの実施形態は、CFD近似が、速度場を決定するには十分に正確ではない場合があるが、所与の高度における鉛直速度再構成の水平導関数の平均には十分に正確となり得るものであり、これを用いることで、速度は均一であるという仮定に起因する偏りを補正できる、という認識に基づいている。そのために、いくつかの実施形態は、CFD近似を用いることにより、鉛直速度の水平導関数を求め、鉛直速度の水平導関数を、所望の高度における風の流れの視線速度推定値と組み合わせて用いることにより、その所望の高度の速度場を求める。そのようにして、視線速度推定値を用いた速度場の検知における目標精度を達成することができる。
【0056】
図5Aは、対象の各高度における鉛直速度の水平勾配の正確な測定値を得ることを目的として風の流れを解明するためにいくつかの実施形態が使用する、計算流体力学(CFD)のブロック図を示す。見通し線測定(500)を用いて、速度場の第1の近似をCFDシミュレーションによって得る(502)。たとえば、CFDシミュレーションは、
図2に示されるCFDシミュレーションモジュール208によって実行することができる。複数の状況において、CFDシミュレーションは、境界条件および大気条件等のオペレーティングパラメータを必要とする。これらのオペレーティングパラメータは、典型的には未知である。そのため、いくつかの実施形態は、推定視線速度と測定視線速度との差を低減するオペレーティングパラメータを求める。たとえば、そのような推定は、
図2に示されるCFDオペレーティングパラメータモジュール210によって実行することができる。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
図6Aは、鉛直速度の水平勾配を得る(608)ためにいくつかの実施形態が使用するCFDシミュレーションに基づくフレームワークのブロック図を示す。これらの実施形態は、CFDシミュレーションの幾何学的形状および物理的範囲を定めるために、前処理ステップを実行する。たとえば、いくつかの実装形態は、シミュレーションの範囲を定めるためにコンピュータ支援設計(CAD)を使用する。流体(風)が占める体積を、離散的なセル(メッシュ)に分割する。GPSを用いて地形のジオロケーションを求める(600)。そのようなロケーションを、デバイスメモリに格納された、利用可能なデータセットと比較することにより、地形データを生成する。地形データは、Google(登録商標)またはNASAデータベース等のさまざまなリソースを用いて収集することができる。さらに、メッシュ610を構成するために最適半径を選択する。
【0061】
図6Bは、いくつかの実施形態によって決定された、一例としてのメッシュ610を示す。さまざまな実装形態において、メッシュ610は、均一または不均一であってもよく、構造化されまたは構造化されていなくてもよく、六面体、四面体、角柱、ピラミッド形または多面体の要素の組み合わせからなる。最適なメッシュサイズおよび番号は、重要な地形構造が風の方向に基づいてこのメッシュにおいて捕捉されるように、選択される。この地形における選択された半径に基づいて、メッシュが生成される。加えて、メッシュの解像度が手動で設定される。
【0062】
前処理の間に、オペレーティングパラメータの値も指定される(604)。いくつかの実施形態において、オペレーティングパラメータは、流体ドメインのすべての境界面における流体の挙動および特性を指定する。場(速度、圧力)の境界条件(入口速度)は、関数自体の値、または関数の法線導関数の値、または法線導関数および変数自体に値を与える曲線または面の形態、または所与の領域における関数の値と関数の導関数との関係を、指定する。地形によって定められる固体表面における境界条件は、ゼロに設定することが可能な流体の速度を含む。入口速度は、風の方向と、平坦な地形の上の高さに対するログプロファイルを有する速度とに基づいて決定される。
【0063】
いくつかの実施形態は、CFDシミュレーションを、オペレーティングパラメータの現在の値を用いて風の流れを定義するナビエ・ストークス方程式の変形のうちの1つを解くことにより、実行する(606)。たとえば、CFDは、ナビエ・ストークス方程式を、質量およびエネルギ保存とともに解く。一組の方程式が、空気等の任意のニュートン流体の機械的挙動を表すために与えられ、大気流のシミュレーションのために実現される。ナビエ・ストークス方程式の離散化とは、計算流体力学に適用できるように方程式を再公式化することである。数値的方法は、有限体積法、有限要素法、または有限差分法であってもよく、スペクトルまたはスペクトル要素法であってもよい。
【0064】
【0065】
いくつかの実施形態は、式4aおよび4bをN(p,V)=0で表し、入口速度および方向はVin,Θinで示され、pは空気の圧力[pa]または[atm]、ρは空気の密度[kg/m3]、νは動粘度[m2/s]である。実施形態は、CFDシミュレーションに続いて、垂直速度の水平勾配を抽出する(608)。
【0066】
図7は、いくつかの実施形態に係る、オペレーティングパラメータを選択する方法のブロック図を示す。たとえば、いくつかの実施形態は、オペレーティングパラメータの値の変化に対する鉛直速度の水平導関数(HDVV)の感度702に基づいて、オペレーティングパラメータ700を選択する(706)。一実施形態において、しきい値704を上回る感度を有するオペレーティングパラメータを、CFDシミュレーション中に近似されたオペレーティングパラメータの目的ベースのセットにおいて選択する。そのようにして、いくつかの実施形態は、CFDの未知のオペレーティングパラメータを、CFDシミュレーションの目的に適合させる。そのようなオペレーティングパラメータの適合化は、対象の量のCFD近似の精度を低下させることなく計算上の負担を低減する。たとえば、いくつかの実施形態は、地形の粗度、入口平均速度、入口乱流強度、および大気安定性条件等の、オペレーティングパラメータを選択する。
【0067】
【0068】
【0069】
いくつかの実施形態は、複数の状況において、CFDをシミュレートするためのオペレーティングパラメータが未知である、という認識に基づいている。たとえば、上述のケースにおいて、式5a~5dの入口Vref,zref,z0は、未知のオペレーティングパラメータであり、リモートセンシング測定は、そのような値を直接提供しない。
【0070】
図8は、いくつかの実施形態に係る、オペレーティングパラメータの現在の値を求める方法のフローチャートを示す。具体的には、いくつかの実施形態は、一組の見通し線ポイントにおける視線速度の測定値(800)と、同じ一組の見通し線ポイントにおける視線速度の推定値(804)との間の誤差を最小にするオペレーティングパラメータを求め(802)、これは、CFDにより、オペレーティングパラメータの現在の値を用いて実行される。
【0071】
いくつかの実施形態は、鉛直速度の水平導関数を抽出するためにCFDを使用する場合、オペレーティングパラメータの推定を得るために、特定のコスト関数806を最小化する、という認識に基づいている。具体的には、いくつかの実施形態は、鉛直速度の水平導関数が、高度に応じて速度場に対して異なる影響を有する、という認識に基づいている。そのため、コスト関数806は、誤差の重み付けされた組み合わせを含む。各誤差は、高度のうちの1つに対応し、対応する高度における見通し線ポイントで測定された速度と、CFDにより、オペレーティングパラメータの現在の値を用いてシミュレートされた、対応する高度の見通し線ポイントでシミュレートされた速度との差を含む。加えて、少なくともいくつかの誤差に対する重みは異なる。たとえば、誤差は、第1の高度に対応する第1の誤差と、第2の高度に対応する第2の誤差とを含み、誤差の重み付けされた組み合わせにおける第1の誤差の重みは、誤差の重み付けされた組み合わせにおける第2の誤差の重みと異なる。
【0072】
図9は、いくつかの実施形態に係る、コスト関数の異なる項に異なる重みを割り当てるプロセスを示す。いくつかの例において、コスト関数806は、さまざまな高度における異なるビームの見通し線に沿って、CFDシミュレーション(CFDシミュレーションからの見通し線速度)902が、LiDARデータ(LiDAR測定からの見通し線速度)900と、どの程度よく合致するかを表す数を返す。そのため、CFDによる鉛直速度の水平導関数を求めるために、コスト関数は、たとえば異なる重み904を用いて、異なる高度に対し異なる考慮を行う。たとえば、いくつかの実施形態において、コスト関数は、異なる高度についてCFDの精度を表す誤差の重み付けされた組み合わせを含む。
【0073】
【0074】
vRのセットは、風の流れのリモートセンシング機器から与えられる視線(または見通し線)速度の測定値を示す。そのような値は、誤差が非常に小さく、ビーム方向の風の真の値として用いられる。iで示される、式(6)の各項は、高度のうちの1つに起因する誤差に対応し、対応する高度における見通し線ポイントの測定速度vRと、対応する高度についてCFDによってシミュレートされた見通し線ポイントにおけるシミュレートされた速度との差を含む。誤差の重み付けされた組み合わせにおける各誤差の重みは、対応する高度の値の増加関数である。
【0075】
いくつかの実施形態は、オペレーティングパラメータの未知の値を、直接随伴ルーピング(DAL:direct-adjoint looping)ベースのCFDフレームワークを用いて推定することができる、という認識に基づいている。このフレームワークは、前方CFDシミュレーションと利用可能なLiDAR測定との間の見通し線データおよびその勾配の誤差を推定するコスト関数を最小化し、次に、感度(または随伴CFD)方程式を繰り返し解くことにより、共通の目的を果たす未知のパラメータを同時に補正する。共通の目的を果たすパラメータの感度は、DALベースのCFDフレームワークの収束の方向を示す。同時に補正することにより、複数のオペレーティングパラメータを更新する計算時間を短縮する。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
λは、ステップサイズを表す正の定数であり、いくつかの標準アルゴリズムを用いて選択することができる。DAL法を用いると、未知のパラメータの数にかかわらず、式(4)および(10)のみが各反復につき1度解かれるので、計算コストが削減され、最適化問題を解くことが可能になる。これは、コスト関数の外乱を直接測定することによってコスト関数の感度を求める方法に勝る、随伴方法の利点である。DALが収束して外部オペレーティングパラメータの現在の値を生成すると(1012)、その後、いくつかの実施形態は、対象の量、すなわち鉛直速度勾配を抽出し、測定円錐上のLiDAR見通し線(LOS)を使用して、複雑地形の上の風速再構成における偏り誤差を補正する。
【0089】
図11は、いくつかの実施形態に係る、風の流れの検知に関連する、単一面上のさまざまなデータポイントの一例を示す。この例において、円1100上のポイントは、視線速度1102が測定されるポイントである。いくつかの実装形態において、各高度ごとの速度場は、円錐、すなわち円1100の内側および外側における風の速度の値を含む。
【0090】
これに加えてまたはこれに代えて、いくつかの実施形態において、高度の各々における鉛直速度の水平導関数は、対応する高度に対するLiDARの測定値を定める円錐の円の中心における鉛直速度の勾配を定める。たとえば、いくつかの実施形態は、各高度の速度および/または勾配を平均することにより、円錐および円1100の中心1104を生成する。これらの実施形態において、幾何学的関係を通して得られた速度場の第2の近似、および、速度の水平勾配を用いた偏りの除去により、各面(または各高度)の速度場の単一の値を提供する。このようにして、1106および1108における不偏速度値は、その単一の値に等しいとみなされる。
【0091】
そのために、一実施形態において、速度場の第2の近似は、各高度ごとの速度場の単一の値を含む。加えて、この実施形態は、高度の各々における視線速度の測定値と一致する風の流れの非圧縮性および正則化を課すことにより、単一の値を、高度の各々における速度場の一定ではない値の高密度グリッドに変換する。そのような変換の後、ポイント1102、1104、1106、および1108等の円錐の内側および外側のポイントにおける水平速度は、異なる値を有し得る。
【0092】
図12は、一実施形態に係る、風の流れの水平速度を求めるための概略図を示す。単一面上のすべてのポイントにおける偏りのない同一の値から開始される(1200)実施形態は、空気の非圧縮性を課すことにより、LOS測定値のスパース性に起因する誤差、および、速度値の密なグリッドを生成する(1204)均一という仮定に起因する二次誤差を、低減する(1202)。各種実施形態において、ポイントのグリッドの密度は、ユーザが指定した値である。特に、この実施形態において、空気の非圧縮性は、速度が均一であるという仮定に起因する最大桁誤差を補正するために非圧縮性を課すのとは異なり、二次誤差を補正するために使用される。
【0093】
【0094】
このアルゴリズムは収束に達すると終了する。
【0095】
ナビエ・ストークス方程式を解く際の計算コストは、流体の速度および粘度に依存する。大気流の場合、風速が大きいので計算コストは非常に大きいが、空気の粘度は小さい。これは、いわゆる高いレイノルズ数の流れをもたらし、流れの中の不安定化慣性力は、安定化粘性力よりも著しく大きい。流体力学を十分に解明し、数値の不安定性を回避するために、乱流のすべての空間スケールを、最小の散逸スケール(コルモゴロフスケール)から、運動エネルギの大部分を含む運動に関連付けられたドメインサイズに比例する積分スケールまで、計算メッシュにおいて解明する。
【0096】
ラージエディシミュレーション(LES:large eddy simulation)は、流体力学の基礎方程式を解くための、よくあるタイプのCFD技術である。コルモゴロフの自己相似性理論の1つの意味は、流れの大きな渦(large eddy)が幾何学的形状に依存するのに対し、より小さいスケールはより普遍的である、ということである。この特徴により、大きな渦を計算において明示的に解決することができ、小さな渦をサブグリッドスケールモデル(SGS(subgrid-scale)モデル)を使用することによって暗黙的に説明することができる。LES法を使用するCFDシミュレーションは、高い忠実度で流れ場をシミュレートすることができるが、計算コストは非常に高い。
【0097】
いくつかの実施形態は、すべての新たな測定データセットについて(たとえばすべての新たな風向および/または新たな地形について)高忠実度のCFD解を使用するのではなく、低忠実度モデルを修正して、結果の所望の精度に必要な内部モデルパラメータを学習することができる、という認識に基づいている。
【0098】
図13は、一実施形態に係る、CFDシミュレーションの概略図を示す。低忠実度CFDシミュレーションは、いくつかの内部パラメータに依存するモデルによって流れの中の小さなスケールの項を近似する。そのため、この実施形態は、高忠実度LESシミュレーション1300における流れの特徴に対する低忠実度モデル1303の内部パラメータの依存性を学習するために、鉛直速度の水平導関数を含む特徴ベクトルを使用する、フィールド反転・機械学習(FIML:Field Inversion and Machine Learning)方式1302を適用する。
【0099】
レイノルズ平均ナビエ・ストークス(Reynolds-averaged Navier-Stokes)方程式(またはRANS方程式)等の低忠実度CFDモデルが使用される。そのようなモデルは、流体の流れの時間平均運動方程式である。加えて、そのようなモデルは、低忠実度が原因で解明されていない項を近似するための内部パラメータを含む。内部パラメータの正確な値は、問題に固有のものであり、したがって、RANSをLESとほぼ同じ精度にするために、FIMLフレームワークが採用される。FIMLと併せてRANSを使用することにおける重要な利点は、所望の精度を維持しつつ、高忠実度LESシミュレーションと比較して、数桁高いレイノルズ数に対するCFDシミュレーションのコストを削減することである。低忠実度モデルのための内部モデルパラメータがオフラインで(事前に)固定されると、オペレーティングパラメータが既知である場合、RANSベースのCFDシミュレーションを実行することができる。
【0100】
このように、いくつかの実施形態において、風の流れのCFDのシミュレーションを、レイノルズ平均ナビエ・ストークス(RANS)方程式を解くことによって実行する一方で、RANS方程式の内部オペレーティングパラメータを、高度の各々の鉛直速度の水平導関数を含む特徴ベクトルを用いるフィールド反転・機械学習(FIML)を使用して求める。
【0101】
LiDAR対風杯型風速計の相対誤差は、水平速度を計算するために均一仮定を使用すると約8%であり、入口速度および風向に焦点を当てて最も実現可能なオペレーティングパラメータを見出すためのCFDおよびDALを使用すると約1%である。加えて、いくつかの実施形態は、非圧縮性の仮定を課して、円錐領域内および円錐領域外の高密度場を再構築する。
【0102】
そのため、CFDシミュレーションではオペレーティングパラメータが未知でありオペレーティングパラメータが測定された視線速度をもたらすまでオペレーティングパラメータが繰り返し求められるので、CFDでデータ同化を実行するには非常に時間がかかることが、理解されるであろう。さらに、CFDシミュレーションはナビエ・ストークス方程式の解に基づく最適化プロセスであるため、CFDにおけるデータ同化は単調である。加えて、CFDシミュレーションは、複雑な地形の上の風の流れに対して複雑になる。
データ同化の近似
【0103】
そのため、いくつかの実施形態は、凸形状、たとえば円筒を伴う複雑地形の表現または近似に基づく。いくつかの実施形態は、この円筒の周囲の風の流れが複雑地形の風の流れと定性的に類似している、という認識に基づいている。
【0104】
図14は、ある実施形態に係る、円筒1402の周囲の風の流れの圧力1404および速度場1406のマップ1400を示す。円筒1402の表面上で圧力が変化し、特に圧力は1408で最大であり、1410で最小である。このため、風速が変化し、速度場1406が不均一になる。言い換えると、水平方向における鉛直速度の変化/勾配dw/dxも存在し、これは位置に応じて正または負(dw/dx>0またはdw/dx<0)の可能性がある。
【0105】
【0106】
【0107】
ポテンシャル流れは、単純形状、たとえば円筒の選択のために、ナビエ・ストークス方程式の繰り返しの最適化ではなく、ラプラス方程式の代数解を伴い、それによって計算効率を高める。ラプラス方程式を繰り返し解いても、計算コストはナビエ・ストークスより大幅に低い。
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
いくつかの実施形態は、流体流において、ラプラス方程式を満たす速度ポテンシャルまたは流れ関数のいずれかを、流れ場を規定するために利用できる、という認識に基づいている。ラプラス方程式は線形なので、必要な解を得るためにさまざまな解を追加することができる。たとえば、線形偏微分方程式(ラプラス方程式など)の場合、さまざまな境界条件に対する解は、個々の境界条件の合計である。流れ場において、流線は、それを通る流れがないので、固体境界とみなすことができる。加えて、固体境界および流線に沿う条件は同一である。したがって、基本ポテンシャル流の速度ポテンシャルおよび流れ関数の組み合わせは、特定のボディ形状をもたらし、これは、そのボディの周囲の流体流と解釈することができる。そのようなポテンシャル流れの問題を解決する方法を、重ね合わせ(superposition)と呼ぶ。
【0112】
そのため、いくつかの実施形態は、円筒の周囲のポテンシャル流を、基本ポテンシャル流の速度ポテンシャルと流れ関数との組み合わせによって求めることができる、という認識に基づいている。基本ポテンシャル流は、均一流れ、吹き出し(source)/吸い込み(sink)流れ、二重(doublet)流れなどを含む。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
組み合わせ流れ1606において、流れは、吹き出し流れ1602による速度が均一流れ1600による速度と相殺される点において停滞する。いくつかの実施形態は、流線1608が、「B」において停滞点を含み、均一流れ1600からの流れおよび点1604からの流れを分離する、という認識に基づいている。流線1608の外側の流体流は均一流れ1600からのものであり、流線1608の内側の流体流は吹き出し流れ1602からのものである。流体流において、ボディの表面における速度は、ボディの接線である。そのため、いくつかの実施形態は、組み合わせ流れ1606の任意の流線を同じ形状の固体表面で置き換えることができる、という認識に基づいている。したがって、流線1608が固体で置き換えられる場合、均一流れ1600に対して流れは歪まない。流線1608は、無限遠まで下流に延び、半無限ボディを形成し、ランキンハーフボディ(Rankine Half-Body)1610と呼ばれる。
【0120】
したがって、半無限ボディ上の流れは、均一流れ1600と吹き出し流れ1602との組み合わせによって決まり得ることが認識されるであろう。いくつかの実施形態は、円筒の周囲の流体流のモデルを、均一流れと二重流れとの組み合わせによって得ることができる、という認識に基づいている。
【0121】
図17Aは、いくつかの実施形態に係る、円筒の周囲の流体流を決定する均一流れ1700と二重流れ1702との組み合わせを示す。実施形態に従うと、二重流れ1702は、強度が等しい吹き出し流れと吸い込み流れとを重ね合わせることによって得られる。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
式(23)は、θのすべての値についてr=Rによって満たされる。Rは一定であるので、式23は、原点を中心とする半径Rの円の方程式と解釈することができる。これは、Rのすべての値に対してθ=0およびπによって満たされる。そのため、点Aおよび点Bを通り無限に上流および下流に延びる水平軸1718は、停滞流線の一部である。
【0127】
【0128】
加えて、均一流れ、吹き出し/吸い込み流れ、二重流れなどのような、複数の基本ポテンシャル流れを用いて、複雑な形状の上の流体流を近似することができる。
【0129】
いくつかの実施形態は、円筒と複雑形状(たとえば複雑地形)との間の写像を決定するという目的に基づいている。いくつかの実施形態において、そのような写像は、複素数の分析写像を含む等角写像を用いることによって決定することができる。等角写像では、ある座標系から別の座標系への複素数値関数の変換のために変換関数が使用される。いくつかの他の実施形態において、円筒と複雑な形状との間の写像は、機械学習方法に基づいて決定される。
【0130】
たとえば、ある技術は、典型的な場所を表すさまざまな形状および複雑地形について、収束したCFDデータ上で機械学習プログラムを「訓練」することを含む。訓練では100回を超えるそのようなシミュレーションが必要とされることがある。プログラムが訓練されると、たとえばガウス過程回帰または深層学習技術を使用するプロセスが、以前の複雑地形形状のすべてに基づいて新たな複雑地形形状について速度および圧力ならびに鉛直速度の水平勾配を推測するために利用される。次のステップにおいて、各形状ごとに、たとえばDAL法を用いて1つまたは複数の円筒の等価半径を求めることにより、逆問題を解くことができる。最適化問題に対するそのような解を訓練に使用することができる。新たな複雑地形に遭遇すると、訓練された回帰式を用いて等価半径を求めることができる。
【0131】
図18は、いくつかの実施形態に係る、具体例としての、半径bの円筒と地形との間の写像を示す。そのような等角写像の例は、ジューコフスキー翼(Joukowski airfoil)であり、これは、同種の一群の翼形を通過するポテンシャル流れに対する解を意味する。その手順は、円筒を翼形に変換する写像を発見することを含む。そのような写像は、等角写像と呼ばれる。数学において、等角写像は、角度を局所的に保持するが、必ずしも長さは保持しない関数である。変換は、各点におけるヤコビアンが回転行列(行列式1に直交)で乗算された正のスカラーであるときは常に等角である。いくつかの実施形態は、そのヤコビアンを任意のスカラー×任意の直交行列として記述することができる方位逆転写像を含むように等角性を定義する。
【0132】
いくつかの実施形態は、複雑地形への写像または複雑地形の近似のために一組の凸形状(円筒)を重ね合わせることができる、という認識に基づいている。
【0133】
図19は、いくつかの実施形態に係る、地形1908への写像のための一組の円筒1900、1902、1904および1906の重ね合わせを示す。円筒1900、1902、1904および1906は、それぞれ半径r1、r2、r3およびr4を有する。上記円柱は、重ね合わされて、円筒の重ね合わせ形状1912または分布を形成する。上記円筒の半径は、これらの円筒のラプラス流の見通し線速度が測定値に最も近くなるように決定される。
【0134】
【0135】
図20は、いくつかの実施形態に係る、LOS測定値とラプラスの重ね合わせシミュレーションからのLOSとの両方を含むコスト関数の構築および評価の概略図を示す。LiDAR測定による見通し線速度2000およびラプラス重ね合わせによる見通し線速度2002から、コスト関数評価は、ラプラス重ね合わせによる見通し線速度2002が、各種高度における異なるビームの見通し線に沿ったLiDAR測定による見通し線速度2000と、どの程度よく合致するかを表す数値を生み出す。重み付け係数2004は、各高度補正項が偏りの量に比例するように選択される。一例は、高度が高くなると偏りが大きくなるので、そのような重み付けとしてLiDARよりも高い高度を使用することである。コスト関数は、分析解を含む複数の円筒の軽量方法を用いて評価される。よって、数値的に解かれる偏微分方程式(PDE:partial differential equation)または微分方程式がないので、計算時間は著しく短縮され、ひいては、高度の各々における風のオンライン再構成または水平速度のオンライン推定が可能になる。
【0136】
図21は、いくつかの実施形態に係る、円筒の半径および上流速度Uを求めるためのDALの実現のためのブロック図を示す。この実施形態は、コスト関数を最小化することによって円筒の最確分布および上流速度を推定する。DAL方法は、円筒の半径および上流速度の初期推定値を用いて初期化される(2100)。ここで、DALは、反復方式2114の、円筒の分布についてのポテンシャル流れの分析解2102と、随伴(または感度)方程式2104とを含む、最適化方法である。そのような最適化は、未知数すなわち円筒の半径および未知数の現在の推定における上流速度に関するコスト関数の感度を提供する(2106)。各反復の後、円筒の半径および上流速度の現在の値の推定値は、共役勾配降下を用いて更新される(2108)。いくつかの実施形態に従うと、共役勾配降下を用いて未知数の現在の推定値を更新することは、コスト関数の感度の最大減少方向に更新することを含む。
【0137】
さらに、収束基準が確認される(2110)。そのような収束基準の例は、連続する反復の間のコスト関数の変化である。別の例は、以前の反復による推定値の変化がしきい値を下回ることである。収束基準が満たされない場合は、円筒の分布についてのポテンシャル流れの分析解が決定される(2102)次の反復が調査される。収束基準が満たされる場合、円筒の半径および上流速度の最終推定が得られる(2112)。
【0138】
図22は、いくつかの実施形態に係る、鉛直速度の水平勾配の推定の概略図を示す。LiDAR測定による見通し線速度が得られる(2200)。さらに、円筒の最確分布および上流速度が、LiDAR測定による見通し線速度(2200)を用いて求められる(2202)。いくつかの実施形態において、円筒の最確分布および上流速度は、コスト関数を最小化することによって求められる(2202)。たとえば、コスト関数の最小化は、コスト関数の感度に基づいて反復的に実行することができる。求められた円筒の分布および上流速度に基づいて、鉛直速度の水平勾配を推定することができる(2204)。
風の流れの乱流
【0139】
図23Aおよび
図23Bは、複雑地形における風の流れの乱流測定のためにいくつかの実施形態によって使用される原理の概略図を一括して示す。LiDAR等のリモートセンシング機器は、一組の時間ステップについて各高度ごとに見通し線(LOS)ポイントにおける風の視線速度2300を測定するために使用される。しかしながら、水平速度に関連する乱流量が、対象とするパラメータである。
【0140】
そのため、いくつかの実施形態は、各高度ごとに風の流れの水平速度に関連する乱流量を求めることを意図している。いくつかの実施形態は、ある時間ステップにおける水平速度の推定値を、この時間ステップに対応する視線速度の測定値2300から、幾何学的関係を用いるとともに風速は測定円錐の内側の各面上で均一であると仮定して、求めることができる、という認識に基づいている。
図23Bの信号2312は、異なる時点に対するそのような水平速度推定の具体例としてのプロットを表す。さらに、水平速度は、ある期間たとえば10分間にわたって平均される。
図23Bに示される水平線2314は、その期間の水平速度の平均を表している。水平速度2312および水平速度の平均2314は、各時点で異なる。水平速度2312と平均2314との差の二乗を標準偏差と呼ぶ。いくつかの実施形態に従うと、水平速度の平均値に対する標準偏差が乱流強度(TI)を定める。乱流強度は、ある期間(たとえば10分)ごとに定められる。そのため、いくつかの実施形態は、乱流強度が信号2312の形状および対応する値の関数であり、そのため、乱流強度は水平速度の瞬時値に依存する、という認識に基づいている。
【0141】
【0142】
いくつかの実施形態は、鉛直速度の水平導関数を、偏りを取り除く(2302)ための、偏った水平速度の補正として使用できる、という認識に基づいている。鉛直速度の水平導関数は、速度場を推定することによって求められる。速度場は、視線速度の測定値2300に適合するようにデータ同化2304に基づいて各時点ごとに推定される。いくつかの実施形態に従うと、データ同化は、風の流れの計算流体力学(CFD)をシミュレートすることによって実行される。そのようなデータ同化は
図5A~
図13を参照しながら説明されている。その他いくつかの実施形態に従うと、データ同化は、
図14~
図22を参照しながら詳細に説明されている、ポテンシャル流れ近似を使用する分析流体力学近似によって実行される。
【0143】
そのような偏りの除去は、それぞれの瞬間における対応する不偏水平速度2316を得るために、各瞬間における水平速度2312に対して実行される。言い換えると、瞬間的な偏りの除去は、各瞬間ごとに不偏水平速度を得るために実行される。さらに、その期間の不偏水平速度2316の平均が求められる(2306)。不偏水平速度の平均は、
図23Bの水平線2318によって表される。標準偏差は、不偏水平速度2316と不偏水平速度の平均値2318との差の二乗として求められる(2308)。標準偏差は不偏水平速度に基づいて求められるので(2308)、偏った水平速度に起因する標準偏差に存在する偏りは取り除かれる。これにより、標準偏差の精度が高められる。
【0144】
いくつかの実施形態に従うと、乱流強度(TI)および乱流運動エネルギ(TKE)等の乱流量は、各時間ステップごとの不偏水平速度および不偏水平速度の平均値に基づいて求められる。
【0145】
【0146】
式23は、他の速度成分(たとえばv)および/または水平速度vhについても同様に記述することができる。
【0147】
【0148】
【0149】
乱流量は、偏りのある水平速度の使用とは対照的に、瞬間的な偏りの除去によって得られる不偏水平速度と、不偏水平速度の平均値とを使用して求められるので、乱流量の精度は大幅に改善される。
【0150】
いくつかの実施形態は、関数すなわち自己相関関数を定式化することにより、ある高さにおける走査円上の異なるポイントの標準偏差間の関係を確立することができる、という認識に基づいている。自己相関関数は、補正関数とも呼ばれる。したがって、自己相関関数は、さまざまなポイントの標準偏差に関連し、乱流をもたらすように推定水平速度の標準偏差を測定するために使用することができる。いくつかの実施形態は、乱流を推定する前に不偏水平速度を補正するために補正関数を使用することができる、という認識に基づいている。
【0151】
図24Aは、自己相関関数を用いた標準偏差の補正の概略図を示す。いくつかの実施形態は、乱流を推定する前に不偏水平速度を補正するために補正関数を使用することができる、という認識に基づいている。補正関数はオフラインで、すなわち事前に訓練される。ある実施形態に従うと、補正関数は、実際の乱流を得るために、求められた乱流に適用される。「補正関数」および「自己相関関数」は、区別なく使用され、同じ意味を有する。
【0152】
【0153】
【0154】
図24Bは、いくつかの実施形態に係る、風杯型風速計データとの比較に基づいた自己相関関数ρ
u、ρ
v、およびρ
wの値の計算のための概略図を示す。音波風速計は、LiDAR2406によって使用される測定技術をシミュレートするために使用される。たとえば、2つの音波風速計が、各測定高さにおいて対向するブーム上に約11.5m離して配置される。音波データが、LiDARビーム位置の方向に投影される。南の音波からの投影データは、LiDARビームが走査円の一方側から他方側に移動するのに要する時間をシミュレートするために、時間的に2秒前方にシフトされる。時間的にシフトされ投影されたデータ、すなわち音波データ2408に基づいて、自己相関関数ρ
u、ρ
v、およびρ
wの値が計算される(2410)。
【0155】
ある実施形態に従うと、ρu、ρv、およびρwの平均値は、音波データから計算される。たとえば、あるシナリオにおいて、不安定な条件下でのρu、ρv、およびρwの平均値は、それぞれ0.96、0.81、および0.66に対応し得る。安定した条件下での、ρu、ρv、およびρwの平均値は、0.95、0.71、および0.69に対応し得る。これらの値は、風のu、v、およびw成分が、空間および時間の両方において著しく変化することを示す。特に、wの値は、垂直方向における動きのより小さい乱流スケールの存在の結果として、wの値がuおよびvの値よりも迅速に脱相関されることを示す。
【0156】
【0157】
いくつかの他の実施形態は、自己相関関数の値を最小二乗法を使用することによって計算することができる、という認識に基づいている。そのような実施形態は、音波データから計算された値と同様のρuおよびρvの値、ならびに音波値と比較してより小さなρwの値をもたらす。
【0158】
いくつかの実施形態に従うと、ACFは、実際の地形を考慮して訓練することができる。加えて、代替実施形態において、ACFは、一組の凸形状で近似される地形に対して訓練される。別の実施形態において、ACFは、実際の地形を考慮して訓練され、一組の凸形状による地形近似を使用して乱流のオンライン推定中に適用されて、実際の乱流を得ることができる。
【0159】
図24Cは、いくつかの実施形態に係る、高忠実度CFDシミュレーションとの比較に基づいた自己相関関数ρ
u、ρ
v、およびρ
wの値の計算のための概略図を示す。高忠実度CFDシミュレーションは、データ同化に基づき、LiDAR2412によって使用される測定技術をシミュレートするために使用される。高忠実度シミュレーションは、たとえば、オープンソースフィールド演算および操作(OpenFOAM:Open-source Field Operations And Manipulations)計算流体力学(CFD)ツールボックス上に構築されたオン/オフショア風力エネルギシミュレータ(SOWFA:Simulator for On/Offshore Wind Energy)内のラージエディシミュレーション(LES:large-eddy simulation)ソルバを使用することによって実行できる。ソルバは非圧縮性であり、非構造化有限体積定式を使用する。浮力効果は、ブシネスク(Boussinesq)浮力強制項を通して組み込まれる。タービンが、アクチュエータラインを用いてモデル化される。次に、高忠実度シミュレーションからのLOSデータをLiDARの出力と比較し(2414)、LiDAR測定とCFDシミュレーションとの差が最小になるように自己相関関数ρ
u、ρ
v、およびρ
wの値を計算する(2416)。言い換えると、最小二乗問題を解いて、自己相関関数値を評価する。
【0160】
代替的に、そのような値は、風速計データまたは高忠実度シミュレーションデータのいずれかを、LOSデータから抽出された水平速度の標準偏差に写像し、式25および26の自己相関関数に適合させることによって求めることができる。
【0161】
図25は、いくつかの実施形態に係る、風の流れの乱流を求めるための風流検知システム2500のブロック図を示す。風流検知システム2500は、一組の時間ステップについて各高度ごとに見通し線方向における視線速度の一組の測定値2518を受けるための入力インターフェイス2502を含む。いくつかの実施形態において、測定値2518は、円錐上の、地上ベースのLiDAR等のリモートセンシング機器によって測定される。風流検知システム2500は、システム2500を他のシステムおよび装置に接続する複数のインターフェイスを有することができる。たとえば、ネットワークインターフェイスコントローラ(NIC)2514は、風流検知システム2500を、バス2512を通してネットワーク2516に接続するように適合され、ネットワーク2516は、風流検知システム2500を、各時間ステップについて風の流れの視線速度を測定するように構成されたリモートセンシング機器に接続する。ネットワーク2516を通して、風流検知システム2500は、一組の時間ステップについて各高度ごとに見通し線方向における視線速度の一組の測定値2518を無線または有線のいずれかで受信する。
【0162】
さらに、いくつかの実施形態において、測定値2518を、さらに処理するために、ネットワーク2516を通して記憶装置2536にダウンロードし格納することができる。これに加えてまたはこれに代えて、いくつかの実装形態において、風流検知システム2500は、プロセッサ2504をキーボード2532およびポインティングデバイス2354に接続するヒューマンマシンインターフェイス2530を含み、ポインティングデバイス2354は、とりわけ、マウス、トラックボール、タッチパッド、ジョイスティック、ポインティングスティック、スタイラス、またはタッチスクリーンを含み得る。
【0163】
風流検知システム2500は、格納されている命令を実行するように構成されたプロセッサ2504と、プロセッサ2504が実行可能な命令を格納するメモリ2506とを含む。プロセッサ2504は、シングルコアプロセッサ、マルチコアプロセッサ、コンピューティングクラスタ、または任意の数のその他の構成であってもよい。メモリ2506は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出専用メモリ(ROM)、フラッシュメモリ、または任意のその他の適切なメモリシステムを含み得る。プロセッサ2504は、バス2512を通して1つ以上の入出力インターフェイスおよび/またはデバイスに接続することができる。
【0164】
いくつかの実施形態に従うと、メモリ2506に格納された命令は、一組の時間ステップについて各高度ごとに視線速度の一組の測定値2518から一組の異なる高度における風の流れの乱流を求める方法を実現する。そのために、記憶装置2536を、プロセッサ2504の実行可能な命令を格納する異なるモジュールを格納するように適合させることができる。記憶装置2536は、CFDシミュレーションモジュール208、CFDオペレーティングパラメータモジュール210、水平導関数モジュール236、速度場モジュール238、およびラプラスシミュレーションモジュール240を格納する。これらのモジュールは、
図2の説明に記載されている。さらに、記憶装置2536は、不偏水平速度を補正するためにグラウンドトゥルースと求めた不偏水平速度との差を低減するように訓練された補正関数2538を格納する。記憶装置2536は、ハードドライブ、光学ドライブ、サムドライブ、ドライブのアレイ、またはその任意の組み合わせを用いて実現することができる。
【0165】
プロセッサ2504は、対応する時間ステップについて求められた推定された速度場の鉛直速度の対応する水平導関数で補正された、対応する視線速度の水平投影として、各時間ステップごとに各高度における不偏水平速度を推定するように構成される。さらに、プロセッサ2504は、各高度について、一組の時間ステップを含む期間の不偏水平速度の平均を求め、次に、時間ステップごとの不偏水平速度と不偏水平速度の平均とに基づいて、乱流を求めるように構成される。ある実施形態に従うと、期間は10分の倍数であり、時間ステップ間の差は1秒の倍数である。
【0166】
風流検知システム2500は、各高度における乱流をレンダリングする出力インターフェイス2524を含む。加えて、風流検知システム2500を、風流検知システム2500をディスプレイデバイス2522に接続するように適合されたディスプレイインターフェイス2520に、バス2512を介して連結することができ、ディスプレイデバイス2522は、とりわけ、コンピュータモニタ、カメラ、テレビ、プロジェクタ、またはモバイルデバイスであってもよい。加えて、風流検知システム2500は、風力タービン等のマシンと統合されるコントローラ2528に、高度の各々における推定された乱流をサブミットするように構成された制御インターフェイス2526を含む。ある実施形態に従うと、コントローラ2528は、高度の各々における推定された乱流に基づいてマシンを操作するように構成される。
【0167】
図26は、いくつかの実施形態の原理を採用するシステム2500と通信するコントローラ2606を含む風力タービン2602の概略図を示す。複雑地形2604上の風力タービン2602は、システム2500と統合される。風力タービン2602は、有線または無線通信チャネルを通して、システム2500に対する風力タービンのコントローラ2606の通信機能を可能にするトランシーバを備えていてもよい。たとえば、コントローラ2606は、風のパラメータの推定を、トランシーバを通してシステム2500から受信する。
【0168】
LiDAR300は、一組の時間ステップについて各高度ごとに複雑地形2604および風力タービン2602のブレード上を流れる風2600のLOS速度を測定する。システム2500は、(
図25に記載されるように)LiDAR測定値を受信する。受信したLiDAR測定値に基づいて、システム2500は、各時間ステップごとに各高度における風の流れ2600の不偏水平速度を推定する。さらに、システム2500は、乱流強度および乱流運動エネルギ等の風の流れ2600の乱流量を推定する。システム2500は、推定された水平速度および乱流量をコントローラ2606にサブミットする。コントローラ2606は、推定された水平速度および乱流量に基づいて、風力タービン2602を制御するための制御入力を生成する。
【0169】
たとえば、しきい値よりも大きな水平速度および乱流は、風力タービン2602に対する不規則な風負荷を生じさせる。そのような条件下で風力タービン2602を動作させることは、エネルギ生産および風力タービン2602のブレードの構造の両方に影響を及ぼし得る。推定された水平速度または乱流がしきい値よりも大きい場合、コントローラ2606は、風力タービン2602を停止または制動させる制御入力を生成する。これにより、風力タービン2602に対する不規則な風の望ましくない影響が防止される。加えて、コントローラ2606は、風力タービンを任意に作動させる代わりに、推定された水平速度に基づいて風力タービン2602を作動させることができる。代替的に、コントローラ2606は、推定された水平速度および乱流の両方に従って風力タービン2602を作動させることができる。それにより、風力タービン2602のエネルギ生成が増大し、風力タービン2602が受ける風の負荷が低減され、ひいてはタービン2602の寿命が延びる。
【0170】
以下の説明は、具体例としての実施形態を提供するだけであって、本開示の範囲、適用可能性、または構成を限定することを意図していない。むしろ、具体例としての実施形態の以下の説明は、具体例としての1つ以上の実施形態の実現を可能にする説明を当業者に提供するであろう。添付の請求項に記載されている開示された主題の精神および範囲から逸脱することなく要素の機能および構成に対してなされ得る各種変更が意図されている。
【0171】
具体的な詳細事項は、以下の説明において、実施形態の十分な理解を得るために与えられている。しかしながら、これらの具体的な詳細事項がなくても実施形態を実行できることを、当業者は理解できる。たとえば、開示された主題におけるシステム、プロセス、および他の要素は、実施形態を不必要な詳細で不明瞭にしないために、ブロック図の形態で構成要素として示される場合がある。他の例において、実施形態を不明瞭にしないよう、周知のプロセス、構造、および技術は、不必要な詳細事項なしで示される場合がある。さらに、各種図面における同様の参照番号および名称は同様の要素を示す。
【0172】
また、個々の実施形態は、フローチャート、フロー図、データフロー図、構造図、またはブロック図として示されるプロセスとして説明される場合がある。フローチャートは動作を逐次プロセスとして説明する場合があるが、動作の多くは並行してまたは同時に実行することができる。加えて、動作の順序は並べ替えられてもよい。プロセスは、その動作が完了したときに終了されてもよいが、論じられていないかまたは図に含まれていない追加のステップを有する場合がある。さらに、具体的に記載されている何らかのプロセスにおけるすべての動作がすべての実施形態に起こり得る訳ではない。プロセスは、方法、関数、手順、サブルーチン、サブプログラムなどに対応し得る。プロセスが関数に対応する場合、関数の終了は、呼び出し関数または主関数に関数を戻すことに対応し得る。
【0173】
さらに、開示されている主題の実施形態は、少なくとも一部が、手作業または自動のいずれかで実装されてもよい。手作業または自動の実装は、マシン、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェア、マイクロコード、ハードウェア記述言語、またはその任意の組み合わせを通じて、実行されてもよく、または、少なくとも支援されてもよい。ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェアまたはマイクロコードで実装される場合、必要なタスクを実行するためのプログラムコードまたはコードセグメントは、マシン読取可能媒体に格納されてもよい。プロセッサ(複数のプロセッサ)が必要なタスクを実行してもよい。
【0174】
本明細書で概要を述べた各種方法またはプロセスは、さまざまなオペレーティングシステムまたはプラットフォームのうちのいずれか1つを採用した1つ以上のプロセッサ上で実行可能なソフトウェアとして符号化されてもよい。加えて、このようなソフトウェアは、複数の好適なプログラミング言語および/またはプログラミングもしくはスクリプトツールのうちのいずれかを用いて記述されてもよく、フレームワークもしくは仮想マシン上で実行される、実行可能なマシン言語コードまたは中間符号としてコンパイルされてもよい。典型的に、プログラムモジュールの機能は、各種実施形態において所望される通りに組み合わせても分散させてもよい。
【0175】
本開示の実施形態は、方法として実施されてもよく、その一例が提供されている。この方法の一部として実行される動作の順序は任意の適切なやり方で決められてもよい。したがって、実施形態は、例示されている順序と異なる順序で動作が実行されるように構成されてもよく、これは、いくつかの動作を、例示されている実施形態では一連の動作として示されるが、同時に実行することを含み得る。さらに、請求項において、ある請求項の要素を修飾する「第1」、「第2」のような順序を表す用語は、それ自体が、請求項のある要素の、別の要素に対する優位、先行、もしくは順序、または、方法の動作を実行する時間的順序を内包している訳ではなく、単に、請求項の要素を区別するために、(順序を表す用語が使用されていない場合に)特定の名称を有する請求項のある要素を同じ名称を有する別の要素と区別するためのラベルとして使用されているにすぎない。
【0176】
特定の好ましい実施形態を参照しつつ本開示について説明してきたが、本開示の精神および範囲の中でその他各種の改変および修正が可能であることが理解されるはずである。したがって、本開示の真の精神および範囲に含まれるこのような変形および修正のすべてをカバーすることが添付の請求項の態様である。