(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】エレベータ巻上機及びそのブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B66B 11/08 20060101AFI20231215BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20231215BHJP
F16D 121/14 20120101ALN20231215BHJP
F16D 127/10 20120101ALN20231215BHJP
【FI】
B66B11/08 G
F16D65/18
F16D121:14
F16D127:10
(21)【出願番号】P 2023067773
(22)【出願日】2023-04-18
【審査請求日】2023-04-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003568
【氏名又は名称】弁理士法人加藤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深貝 聖史
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034872(JP,A)
【文献】国際公開第2006/038284(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/085303(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 11/08
F16D 49/00-71/04;121/14;127/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体、
前記筐体の内側に設けられており、ブレーキ回転体の制動面に押し付けられる作動位置と、前記ブレーキ回転体から離れた解除位置との間で変位可能な制動片、及び
前記制動片に当たっており、かつ前記ブレーキ回転体に近付いたり離れたりする方向へ前記制動片とともに変位可能な可動部材
を備え、
前記制動片は、前記ブレーキ回転体が回転しているときに前記作動位置に変位した場合に、前記ブレーキ回転体の回転により前記可動部材に対して変位可能であり、
前記筐体には、前記制動片が前記可動部材に対して変位した場合に前記制動片が当たる筐体側傾斜面が設けられており、
前記筐体側傾斜面は、前記可動部材から離れるに従って前記ブレーキ回転体に近付く方向へ前記制動面に対して傾斜して
おり、
前記制動片が前記ブレーキ回転体の回転により前記可動部材に対して変位していないときには、前記制動片は、前記筐体側傾斜面から離れているエレベータ巻上機のブレーキ装置。
【請求項2】
前記制動片には、前記制動片が前記可動部材に対して変位した場合に前記筐体側傾斜面に当たる制動片側傾斜面が設けられており、
前記制動片側傾斜面は、前記制動面に対して前記筐体側傾斜面と同方向へ傾斜している請求項1記載のエレベータ巻上機のブレーキ装置。
【請求項3】
前記制動片には、制動片溝が設けられており、
前記可動部材における前記制動片側の端部には、前記制動片溝に挿入されている挿入部が設けられており、
前記制動片が前記可動部材に対して変位するとき、前記挿入部は、前記制動片溝内を相対的に移動する請求項1又は請求項2に記載のエレベータ巻上機のブレーキ装置。
【請求項4】
前記筐体は、
前記筐体側傾斜面が設けられている筐体主部と、
前記筐体主部に取り付けられているガイドプレートと
を有しており、
前記制動片には、ガイドピンが固定されており、
前記ガイドプレートには、前記ガイドピンが通されているガイド孔が設けられており、
前記ガイド孔は、
前記作動位置と前記解除位置との間で前記制動片が変位するときに前記ガイドピンを案内する第1ガイド部と、
前記制動片が前記可動部材に対して変位するときに前記ガイドピンを案内する第2ガイド部と
を有している請求項1又は請求項2に記載のエレベータ巻上機のブレーキ装置。
【請求項5】
前記制動片を前記可動部材に押し付ける力を前記制動片に付与する補助ばね
をさらに備え、
前記ガイドプレートには、ばね掛け部が設けられており、
前記補助ばねは、前記ガイドピンと前記ばね掛け部との間に設けられている請求項4記載のエレベータ巻上機のブレーキ装置。
【請求項6】
前記第2ガイド部は、第1内壁面と、前記第1内壁面に対向する第2内壁面とを有しており、
前記第2内壁面は、前記第1内壁面よりも前記制動面から遠い面であり、
前記第2内壁面は、前記第1ガイド部に近付くに従って前記制動面から離れる方向へ前記制動面に対して傾斜している請求項4記載のエレベータ巻上機のブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のブレーキ装置
を備えているエレベータ巻上機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベータ巻上機及びそのブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のディスクブレーキでは、摩擦ブレーキパッドが楔体に固定されている。楔体には、一対の楔側キー面が設けられている。ブレーキキャリパには、一対のキャリパ側キー面が設けられている。一対の楔側キー面と一対のキャリパ側キー面との間には、複数のローラが介在している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のディスクブレーキでは、モータ制御によってブレーキディスクを静止させた後にブレーキディスクの静止状態を保持する場合も、回転するブレーキディスクを制動する場合も、同じ動作によって制動力が得られる。このため、ブレーキディスクの静止状態を保持する場合にも、大きな制動力がブレーキディスクに印加され、大きな衝突音が生じる。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、制動片がブレーキ回転体に衝突する際の衝突音を低減することができるエレベータ巻上機及びそのブレーキ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るエレベータ巻上機のブレーキ装置は、筐体、前記筐体の内側に設けられており、ブレーキ回転体の制動面に押し付けられる作動位置と、前記ブレーキ回転体から離れた解除位置との間で変位可能な制動片、及び前記制動片に当たっており、かつ前記ブレーキ回転体に近付いたり離れたりする方向へ前記制動片とともに変位可能な可動部材を備え、前記制動片は、前記ブレーキ回転体が回転しているときに前記作動位置に変位した場合に、前記ブレーキ回転体の回転により前記可動部材に対して変位可能であり、前記筐体には、前記制動片が前記可動部材に対して変位した場合に前記制動片が当たる筐体側傾斜面が設けられており、前記筐体側傾斜面は、前記可動部材から離れるに従って前記ブレーキ回転体に近付く方向へ前記制動面に対して傾斜している。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、制動片がブレーキ回転体に衝突する際の衝突音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1によるエレベータを示す概略の構成図である。
【
図2】
図1のエレベータ巻上機を示す側面図である。
【
図3】
図2のブレーキ装置の要部を示す縦断面図である。
【
図5】
図4のブレーキ装置の非制動時の状態を示す断面図である。
【
図6】
図4のブレーキ装置の一部の部品を分解して示す斜視図である。
【
図7】
図6のガイドプレートを拡大して示す斜視図である。
【
図8】
図3の制動片がピストンに対して変位した状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1によるエレベータを示す概略の構成図である。
図1において、昇降路1の上には、機械室2が設けられている。機械室2には、エレベータ巻上機3及びそらせ車6が設置されている。
【0010】
エレベータ巻上機3は、巻上機モータ4と、駆動シーブ5とを有している。巻上機モータ4は、駆動シーブ5を回転させる。
【0011】
駆動シーブ5及びそらせ車6には、懸架体7が巻き掛けられている。懸架体7としては、複数本のロープ又は複数本のベルトが用いられている。懸架体7の第1端部には、かご8が接続されている。懸架体7の第2端部には、釣合おもり9が接続されている。
【0012】
かご8及び釣合おもり9は、懸架体7によって昇降路1内に吊り下げられている。また、かご8及び釣合おもり9は、駆動シーブ5を回転させることによって、昇降路1内を昇降する。
【0013】
昇降路1内には、一対のかごガイドレール10と、一対の釣合おもりガイドレール11とが設置されている。
図1では、片側のかごガイドレール10、及び片側の釣合おもりガイドレール11のみが示されている。
【0014】
一対のかごガイドレール10は、かご8の昇降を案内する。一対の釣合おもりガイドレール11は、釣合おもり9の昇降を案内する。
【0015】
かご8は、かご枠12及びかご室13を有している。かご枠12には、懸架体7が接続されている。かご室13は、かご枠12に支持されている。
【0016】
図2は、
図1のエレベータ巻上機3を示す側面図である。
図1では省略したが、エレベータ巻上機3は、ブレーキ回転体としてのブレーキディスク20と、一対のブレーキ装置21とをさらに有している。
図2では、一対のブレーキ装置21のうちの1つのみが示されている。
【0017】
ブレーキディスク20は、駆動シーブ5に対して固定されている。また、ブレーキディスク20は、駆動シーブ5の回転中心を中心として駆動シーブ5とともに回転する。
【0018】
一対のブレーキ装置21は、駆動シーブ5の静止状態を保持する。また、一対のブレーキ装置21は、かご8の走行中における非常動作時に、駆動シーブ5の回転を制動する。
【0019】
図3は、
図2のブレーキ装置21の要部を示す縦断面図である。ブレーキディスク20は、一対の制動面20aを有している。各制動面20aは、ブレーキディスク20の回転中心に直交する面である。
【0020】
各ブレーキ装置21は、一対のブレーキ本体22を有している。一対のブレーキ本体22は、ブレーキディスク20を挟み込むことにより、ブレーキディスク20に制動力を印加する。
【0021】
以下、各ブレーキ本体22の構造について説明する。ブレーキ本体22は、筐体23と、制動片24と、可動部材としてのピストン25と、制動ばね26と、図示しない解除装置とを有している。
【0022】
制動片24は、筐体23の内側に設けられている。また、制動片24は、作動位置と解除位置との間で、制動面20aに直交する方向へ変位可能である。作動位置は、
図3に示す位置であり、制動片24が制動面20aに押し付けられている位置である。解除位置は、
図5に示す位置であり、制動片24が制動面20aから離れている位置である。
【0023】
制動片24は、ブレーキパッド27と、バックプレート28とを有している。ブレーキパッド27は、バックプレート28に固定されている。制動片24が作動位置に位置するとき、ブレーキパッド27は、制動面20aに押し付けられる。制動片24が解除位置に位置するとき、ブレーキパッド27は、隙間を介して制動面20aに対向する。
【0024】
バックプレート28におけるブレーキディスク20とは反対側の面には、制動片溝28aが設けられている。
【0025】
ピストン25は、筐体23内に設けられている。ピストン25における制動片24側の端部には、挿入部25aが設けられている。挿入部25aは、制動片溝28aに挿入されている。ピストン25は、挿入部25aにおいて制動片24に当たってる。
【0026】
また、ピストン25は、筐体23に案内されて、制動面20aに直交する方向、即ちブレーキディスク20に近付いたり離れたりする方向へ変位可能である。また、ピストン25は、制動片24に当たった状態のまま、制動片24とともに変位可能である。制動面20aに直交する方向以外の方向へのピストン25の変位は、筐体23によって規制されている。
【0027】
制動片24が作動位置に位置するとき、ピストン25は、第1位置に位置している。制動片24が解除位置に位置するとき、ピストン25は、第2位置に位置している。
【0028】
制動ばね26は、筐体23内に設けられている。また、制動ばね26は、ピストン25を第1位置に変位させる力、即ち制動片24を作動位置に変位させる力を、ピストン25に付与している。
【0029】
解除装置は、油圧又は電磁力によって、制動ばね26に抗してピストン25を第2位置に変位させる。
【0030】
制動片24は、ブレーキディスク20が回転しているときに作動位置に変位した場合に、ブレーキディスク20の回転によりピストン25に対して変位可能である。制動片24がピストン25に対して変位するとき、挿入部25aは、制動片溝28a内を相対的に移動する。
【0031】
筐体23には、第1筐体側傾斜面23aと、第2筐体側傾斜面23bとが設けられている。
【0032】
第1筐体側傾斜面23aは、ブレーキディスク20が第1回転方向へ回転しているときに、制動片24がピストン25に対して変位した場合に、制動片24が当たる面である。
図3においては、第1回転方向は上方向であり、かご8を上昇させる方向である。制動片24は、ピストン25に対して上方向へ変位することにより、第1筐体側傾斜面23aに当たる。
【0033】
第2筐体側傾斜面23bは、ブレーキディスク20が第2回転方向へ回転しているときに、制動片24がピストン25に対して変位した場合に、制動片24が当たる面である。第2回転方向は、第1回転方向と逆の回転方向である。
図3においては、第2回転方向は下方向であり、かご8を下降させる方向である。制動片24は、ピストン25に対して下方向へ変位することにより、第2筐体側傾斜面23bに当たる。
【0034】
第1筐体側傾斜面23a及び第2筐体側傾斜面23bのそれぞれは、ピストン25から離れるに従ってブレーキディスク20に近付く方向へ制動面20aに対して傾斜している。即ち、第1筐体側傾斜面23aと第2筐体側傾斜面23bとは、ブレーキディスク20に近付くに従って互いの間隔が大きくなるテーパ状に傾斜している。
【0035】
制動片24には、第1制動片側傾斜面24aと、第2制動片側傾斜面24bとが設けられている。第1制動片側傾斜面24a及び第2制動片側傾斜面24bは、バックプレート28に設けられている。
【0036】
第1制動片側傾斜面24aは、ブレーキディスク20が第1回転方向へ回転しているときに、制動片24がピストン25に対して変位した場合に、第1筐体側傾斜面23aに当たる面である。また、第1制動片側傾斜面24aは、制動面20aに対して、第1筐体側傾斜面23aと同方向へ傾斜している。
【0037】
第2制動片側傾斜面24bは、ブレーキディスク20が第2回転方向へ回転しているときに、制動片24がピストン25に対して変位した場合に、第2筐体側傾斜面23bに当たる面である。また、第2制動片側傾斜面24bは、制動面20aに対して、第2筐体側傾斜面23bと同方向へ傾斜している。
【0038】
図4は、
図3のIV-IV線に沿う断面図である。
図5は、
図4のブレーキ装置21の非制動時の状態を示す断面図である。
図6は、
図4のブレーキ装置21の一部の部品を分解して示す斜視図である。
【0039】
筐体23は、筐体主部31と、一対のガイドプレート32とを有している。筐体主部31は、ピストン25の変位を案内する。第1筐体側傾斜面23a及び第2筐体側傾斜面23bは、筐体主部31に設けられている。
【0040】
各ガイドプレート32は、図示しない複数のボルトによって、筐体主部31に取り付けられている。制動片24は、一対のガイドプレート32の間に配置されている。即ち、制動片24は、一対のガイドプレート32によって挟まれている。各ガイドプレート32には、ガイド孔32aと、ばね掛け部32bとが設けられている。
【0041】
制動片24には、一対のガイドピン33が固定されている。各ガイドピン33は、制動面20aに平行、かつ、ピストン25に対する制動片24の変位方向に直角に配置されている。各ガイドピン33は、対応するガイド孔32aに通されて、対応するガイドプレート32を貫通している。
【0042】
ガイド孔32aは、
図6に示すように、直線状の第1ガイド部32cと、直線状の第2ガイド部32dとを有している。第1ガイド部32cは、第2ガイド部32dの中間部から制動面20aとは反対側へ、第2ガイド部32dに対して直角に設けられている。即ち、ガイド孔32aは、T字状の孔である。
【0043】
第1ガイド部32cは、作動位置と解除位置との間で制動片24が変位するときに、ガイドピン33を案内する。第2ガイド部32dは、制動片24がピストン25に対して変位するときにガイドピン33を案内する。
【0044】
ブレーキ本体22は、一対の補助ばね34をさらに有している。各補助ばね34は、対応するガイドプレート32の外側において、ガイドピン33とばね掛け部32bとの間に設けられている。
【0045】
一対の補助ばね34は、一対のガイドピン33を介して、制動片24をピストン25に押し付ける力を制動片24に付与している。実施の形態1における各補助ばね34は、引きばねである。ピストン25がブレーキディスク20から離れる方向へ変位する際、制動片24は、一対の補助ばね34のばね力によって、ピストン25に接したまま、ピストン25と同方向へ変位する。
【0046】
バックプレート28には、補助溝28bが設けられている。補助溝28bは、制動片24の側面と制動片溝28aとの間に、制動片溝28aに対して直角に設けられている。例えば、制動片24を交換する際、挿入部25aを補助溝28bに通すことにより、制動片溝28aに直角の方向へ制動片24を引き抜くことができる。
【0047】
図7は、
図6のガイドプレート32を拡大して示す斜視図である。第2ガイド部32dは、第1内壁面32eと、第2内壁面32fとを有している。第1内壁面32eは、制動面20aに平行な面である。第2内壁面32fは、第1内壁面32eに対向している。また、第2内壁面32fは、第1内壁面32eよりも制動面20aから遠い面である。
【0048】
第1ガイド部32cの一側、即ち
図7の上側において、第2内壁面32fは、第1ガイド部32cに近付くに従って制動面20aから離れる方向へ制動面20aに対して傾斜している。第2ガイド部32dの他側、即ち
図7の下側においても、第2内壁面32fは、第1ガイド部32cに近付くに従って制動面20aから離れる方向へ制動面20aに対して傾斜している。
【0049】
次に、かご8の通常運転時におけるブレーキ本体22の動作について説明する。モータ制御によりかご8が停止階に停止すると、駆動シーブ5及びブレーキディスク20も停止する。この状態から、解除装置による制動ばね26に抗する力が除去されると、制動ばね26のばね力によって、ピストン25が第1位置に変位するととに、制動片24が作動位置に変位する。このとき、各ガイドピン33は、第1ガイド部32cに沿って、制動面20aに近付く方向へ移動する。
【0050】
これにより、ブレーキディスク20に制動力が印加され、モータ制御を解除しても、ピストン25と制動片24との間の摩擦力と、制動片24とブレーキディスク20との間の摩擦力とによって、ブレーキディスク20の姿勢は保持される。
【0051】
かご8が停止階を出発する際には、解除装置により、ピストン25を第2位置に変位させ、制動片24を解除位置に変位させる。このとき、各ガイドピン33は、第1ガイド部32cに沿って、制動面20aから離れる方向へ移動する。
【0052】
次に、非常動作時におけるブレーキ本体22の動作について説明する。非常動作は、停電、又は何らかの異常により、走行中のかご8を停止させる動作である。非常動作時には、巻上機モータ4への電力の供給が遮断される。また、かご8は走行しているため、駆動シーブ5及びブレーキディスク20は回転している。
【0053】
この状態から、解除装置による制動ばね26に抗する力が除去されると、制動ばね26のばね力によって、ピストン25が第1位置に変位するとともに、制動片24が作動位置に変位する。制動片24がブレーキディスク20に押し付けられると、ブレーキディスク20の回転により、制動片24は、ピストン25に対して変位する。
【0054】
例えば、ブレーキディスク20が第1回転方向に回転している場合、制動片24は、
図3の上方向へ変位し、
図8に示すように、第1制動片側傾斜面24aが第1筐体側傾斜面23aに当たる。このとき、ガイドピン33は、第2ガイド部32dに沿って、上方向へ移動する。
【0055】
この後、ブレーキディスク20がさらに回転しようとすることにより、制動片24は、第1筐体側傾斜面23aと制動面20aとの間に食い込む。即ち、制動片24が楔として機能する。これにより、ブレーキディスク20に対する制動片24の押し付け力が大きくなり、ブレーキディスク20及び駆動シーブ5の回転が制動され、かご8が停止する。
【0056】
ブレーキディスク20が第2回転方向に回転している場合は、制動片24は、
図3の下方向へ変位し、第2制動片側傾斜面24bが第2筐体側傾斜面23bに当たる。このとき、ガイドピン33は、第2ガイド部32dに沿って、下方向へ移動する。そして、制動片24が第2筐体側傾斜面23bと制動面20aとの間に食い込み、ブレーキディスク20及び駆動シーブ5の回転が制動される。
【0057】
次に、非常動作後のブレーキ本体22の復旧動作について説明する。復旧動作は、安全確認後に行われる。復旧動作においては、まず解除装置により、制動ばね26に抗してピストン25を第2位置に変位させる。
【0058】
そして、手動、又は巻上機モータ4に電力を供給することにより、非常動作時の回転方向とは反対方向へ駆動シーブ5及びブレーキディスク20を回転させる。これにより、第1筐体側傾斜面23a又は第2筐体側傾斜面23bと、制動面20aとの間への制動片24の食い込みが解除され、制動片24が非常動作時とは反対方向へ変位する。
【0059】
この後、各ガイドピン33が第1ガイド部32cの位置まで移動すると、一対の補助ばね34の引張力によって、制動片24が解除位置に変位し、挿入部25aが制動片溝28aに挿入される。
【0060】
このようなエレベータ巻上機3及びブレーキ装置21では、制動片24は、ブレーキディスク20が回転しているときに作動位置に変位した場合に、ブレーキディスク20の回転によりピストン25に対して変位可能である。また、筐体23には、第1筐体側傾斜面23a及び第2筐体側傾斜面23bが設けられている。また、第1筐体側傾斜面23a及び第2筐体側傾斜面23bは、ピストン25から離れるに従ってブレーキディスク20に近付く方向へ制動面20aに対して傾斜している。
【0061】
このため、非常動作時には、第1筐体側傾斜面23a又は第2筐体側傾斜面23bと、制動面20aとの間に制動片24を食い込ませて、制動力を大きくすることができる。これにより、ブレーキディスク20の静止状態を保持するための制動力を大きくする必要がなくなり、制動片24がブレーキディスク20に衝突する際の制動片24の衝突音を低減することができる。特に、通常動作は頻度が高いため、衝突音を低減することにより、衝突音が建物の居室に伝わることも抑制することができる。
【0062】
また、制動片24には、第1制動片側傾斜面24a及び第2制動片側傾斜面24bが設けられている。また、第1制動片側傾斜面24aは、制動面20aに対して、第1筐体側傾斜面23aと同方向へ傾斜している。また、第2制動片側傾斜面24bは、制動面20aに対して、第2筐体側傾斜面23bと同方向へ傾斜している。
【0063】
このため、制動片24をより確実に楔として機能させることができ、非常動作時における制動力を大きくすることができる。
【0064】
また、制動片24がピストン25に対して変位するとき、挿入部25aが制動片溝28a内を相対的に移動する。このため、簡単な構造により、非常動作時に制動片24をスムーズに変位させることができるとともに、復旧動作時に制動片24をスムーズに通常位置に戻すことができる。
【0065】
また、制動片24には、一対のガイドピン33が固定されている。また、各ガイドプレート32には、ガイド孔32aが設けられている。そして、各ガイドピン33は、ガイド孔32aに通されている。また、ガイド孔32aは、第1ガイド部32cと第2ガイド部32dとを有している。
【0066】
このため、簡単な構造により、通常動作時及び非常動作時のいずれにおいても、制動片24をスムーズに変位させることができる。
【0067】
また、ガイドプレート32には、ばね掛け部32bが設けられている。また、ガイドピン33とばね掛け部32bとの間には、補助ばね34が設けられている。また、補助ばね34は、制動片24をピストン25に押し付ける力を制動片24に付与している。
【0068】
このため、簡単な構造により、通常動作時に制動片24をピストン25とともに変位させることができる。また、復旧動作時に制動片24を解除位置に容易に戻すことができる。
【0069】
また、第2内壁面32fは、第1ガイド部32cに近付くに従って制動面20aから離れる方向へ制動面20aに対して傾斜している。このため、復旧動作時に制動片24をよりスムーズに解除位置に戻すことができる。
【0070】
なお、可動部材は、ピストン25に限定されない。
【0071】
また、ブレーキ回転体は、ブレーキディスク20に限定されず、例えばブレーキドラムであってもよい。
【0072】
また、エレベータ巻上機3におけるブレーキ装置21の数及び位置は、特に限定されない。
【0073】
また、ブレーキ装置21におけるブレーキ本体22の数は、特に限定されない。
【0074】
また、エレベータ巻上機3の構成は、
図2の構成に限定されない。例えば、ブレーキディスク20は、巻上機モータ4のロータに固定されてもよい。
【0075】
また、エレベータのタイプは、
図1のタイプに限定されるものではなく、例えば2:1ローピング方式であってもよい。
【0076】
また、エレベータは、機械室レスエレベーター、ダブルデッキエレベータ、ワンシャフトマルチカー方式のエレベーター等であってもよい。ワンシャフトマルチカー方式は、上かごと、上かごの真下に配置された下かごとが、それぞれ独立して共通の昇降路を昇降する方式である。
【0077】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0078】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0079】
(付記1)
筐体、
前記筐体の内側に設けられており、ブレーキ回転体の制動面に押し付けられる作動位置と、前記ブレーキ回転体から離れた解除位置との間で変位可能な制動片、及び
前記制動片に当たっており、かつ前記ブレーキ回転体に近付いたり離れたりする方向へ前記制動片とともに変位可能な可動部材
を備え、
前記制動片は、前記ブレーキ回転体が回転しているときに前記作動位置に変位した場合に、前記ブレーキ回転体の回転により前記可動部材に対して変位可能であり、
前記筐体には、前記制動片が前記可動部材に対して変位した場合に前記制動片が当たる筐体側傾斜面が設けられており、
前記筐体側傾斜面は、前記可動部材から離れるに従って前記ブレーキ回転体に近付く方向へ前記制動面に対して傾斜しているエレベータ巻上機のブレーキ装置。
(付記2)
前記制動片には、前記制動片が前記可動部材に対して変位した場合に前記筐体側傾斜面に当たる制動片側傾斜面が設けられており、
前記制動片側傾斜面は、前記制動面に対して前記筐体側傾斜面と同方向へ傾斜している付記1記載のエレベータ巻上機のブレーキ装置。
(付記3)
前記制動片には、制動片溝が設けられており、
前記可動部材における前記制動片側の端部には、前記制動片溝に挿入されている挿入部が設けられており、
前記制動片が前記可動部材に対して変位するとき、前記挿入部は、前記制動片溝内を相対的に移動する付記1又は付記2に記載のエレベータ巻上機のブレーキ装置。
(付記4)
前記筐体は、
前記筐体側傾斜面が設けられている筐体主部と、
前記筐体主部に取り付けられているガイドプレートと
を有しており、
前記制動片には、ガイドピンが固定されており、
前記ガイドプレートには、前記ガイドピンが通されているガイド孔が設けられており、
前記ガイド孔は、
前記作動位置と前記解除位置との間で前記制動片が変位するときに前記ガイドピンを案内する第1ガイド部と、
前記制動片が前記可動部材に対して変位するときに前記ガイドピンを案内する第2ガイド部と
を有している付記1から付記3までのいずれか1項に記載のエレベータ巻上機のブレーキ装置。
(付記5)
前記制動片を前記可動部材に押し付ける力を前記制動片に付与する補助ばね
をさらに備え、
前記ガイドプレートには、ばね掛け部が設けられており、
前記補助ばねは、前記ガイドピンと前記ばね掛け部との間に設けられている付記4記載のエレベータ巻上機のブレーキ装置。
(付記6)
前記第2ガイド部は、第1内壁面と、前記第1内壁面に対向する第2内壁面とを有しており、
前記第2内壁面は、前記第1内壁面よりも前記制動面から遠い面であり、
前記第2内壁面は、前記第1ガイド部に近付くに従って前記制動面から離れる方向へ前記制動面に対して傾斜している付記4又は付記5に記載のエレベータ巻上機のブレーキ装置。
(付記7)
付記1から付記6までのいずれか1項に記載のブレーキ装置
を備えているエレベータ巻上機。
【符号の説明】
【0080】
3 エレベータ巻上機、4 巻上機モータ、20 ブレーキディスク(ブレーキ回転体)、20a 制動面、21 ブレーキ装置、23 筐体、23a 第1筐体側傾斜面、23b 第2筐体側傾斜面、24 制動片、24a 第1制動片側傾斜面、24b 第2制動片側傾斜面、25 ピストン(可動部材)、25a 挿入部、28a 制動片溝、31 筐体主部、32 ガイドプレート、32a ガイド孔、32b ばね掛け部、32c 第1ガイド部、32d 第2ガイド部、32e 第1内壁面、32f 第2内壁面、33 ガイドピン、34 補助ばね。
【要約】
【課題】制動片がブレーキ回転体に衝突する際の衝突音を低減することができるエレベータ巻上機及びそのブレーキ装置を得ることを目的とする。
【解決手段】制動片24は、ブレーキディスク20が回転しているときに作動位置に変位した場合に、ブレーキディスク20の回転によりピストン25に対して変位可能である。また、筐体23には、第1筐体側傾斜面23a及び第2筐体側傾斜面23bが設けられている。また、第1筐体側傾斜面23a及び第2筐体側傾斜面23bは、ピストン25から離れるに従ってブレーキディスク20に近付く方向へ制動面20aに対して傾斜している。
【選択図】
図3