(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】乗客コンベア用移動手摺の案内ローラ取替治具
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20231215BHJP
B66B 31/02 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
B66B31/00 D
B66B31/02 Z
(21)【出願番号】P 2023517002
(86)(22)【出願日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2021017205
(87)【国際公開番号】W WO2022230174
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-09-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 孝行
(72)【発明者】
【氏名】中村 知至
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-252078(JP,A)
【文献】特開平7-252079(JP,A)
【文献】特開2001-316069(JP,A)
【文献】特開平7-206393(JP,A)
【文献】特開2005-213038(JP,A)
【文献】特開2010-215392(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19919705(DE,A1)
【文献】薄井淳一,エスカレーターの帰路側手摺外し治具,発明協会公開技報,公技番号2007-500840,日本,一般社団法人発明推進協会,2007年02月13日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの移動手摺の内周側に配置される傘ローラを取り替えるために、前記移動手摺の裏側において幅方向内側に向けて曲げられた両側部の端部を外側に押し広げる案内ローラ取替治具であって、
基端側を閉じることによって先端側が開かれるようにそれぞれが回動自在に支持される一対のレバーと、
前記レバーの先端部にそれぞれ設けられ、前記移動手摺の前記端部にそれぞれ係合する一対の係合片と、
一対の前記レバーの先端側が開いた状態をラッチするラッチ機構と、
を備える、案内ローラ取替治具。
【請求項2】
請求項1に記載の案内ローラ取替治具であって、
前記係合片の内側は、平面視において前記傘ローラの外周に沿った円弧状に形成される、案内ローラ取替治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアの移動手摺の内周側に設けられる案内ローラを取り替えるために、移動手摺の裏側において幅方向内側に向けて曲げられた両側部の端部を外側に押し広げる案内ローラ取替治具に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアとしてのエスカレーターは、自動で昇降する階段状の踏板と、踏板の両側に設けられる欄干と、欄干の上部に設けられると共にエスカレーターの運転方向に移動する移動手摺とを有する。移動手摺は、移動方向において無端状に形成され、移動方向から見た断面視が略C字形状に形成される。
【0003】
移動手摺は、案内ローラによって支持されると共にエスカレーターの運転方向に案内される。移動手摺の裏側復路には、案内ローラの一つである傘ローラが設けられる。傘ローラは、移動手摺の内周側に設けられ、移動手摺の内周側を支持すると共に移動手摺の横触れを防止する。傘ローラは、移動手摺の間隙に収まる円盤状に形成されている。
【0004】
傘ローラを回転支持する軸受け等が劣化した場合には、新しい傘ローラと取り替える必要がある。例えば、特許文献1には、傘ローラの取替作業時において、移動手摺と傘ローラの間が所定の隙間に確保されているか否かを判定できる案内ローラ調整治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、傘ローラの取替作業では、移動手摺の裏側において幅方向内側に向けて曲げられた端部を外側に押し広げて、傘ローラを移動手摺の内周側から取り外し、新しい傘ローラを移動手摺の内周側に差し込む作業が行われる。当該作業は、移動手摺が固いゴム製であるため、作業性が悪かった。
【0007】
本発明の目的は、乗客コンベア用移動手摺の傘ローラの取替作業性を向上させることができる案内ローラ取替治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る案内ローラ取替治具は、乗客コンベアの移動手摺の内周側に配置される傘ローラを取り替えるために移動手摺の裏側において幅方向内側に向けて曲げられた両端部の端部を外側に押し広げる取替治具であって、基端側を閉じることによって先端側が開かれるようにそれぞれが回動自在に支持される一対のレバーと、レバーの先端部にそれぞれ設けられ、移動手摺の端部にそれぞれ係合する一対の係合片と、一対のレバーの先端側が開いた状態をラッチするラッチ機構と、を備える。
【0009】
本発明に係る案内ローラ取替治具において、係合片の内側は、平面視において傘ローラの外周に沿った円弧状に形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る案内ローラ取替治具によれば、乗客コンベア用移動手摺の傘ローラの取替作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るエスカレーターを示す模式図である。
【
図3】実施形態に係る傘ローラと移動手摺との関係を示す正面図である。
【
図4】実施形態に係る傘ローラと移動手摺との関係を示す平面図である。
【
図5】実施形態の一例である取替治具の平面図である。
【
図6】実施形態の一例である取替治具の底面図である。
【
図7】実施形態の一例である取替治具の係合片の斜視図である。
【
図8】傘ローラの取替作業の流れを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の説明において、具体的な形状、材料、方向、数値等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等に合わせて適宜変更することができる。
【0013】
図1及び
図2を用いて、実施形態に係る乗客コンベアとしてのエスカレーター80について説明する。
図1は、エスカレーター80を示す模式図である。
図2は、
図1のA部詳細図である。
【0014】
エスカレーター80は、傾斜に沿って上昇又は下降する複数の踏段(図示なし)と、踏段の両側に設けられた欄干81と、欄干81の上部に設けられると共に踏段と同期して移動する移動手摺82とを備えている。移動手摺82は、移動方向において無端状に形成され、移動方向から見た断面視が略C字形状に形成される。移動手摺82は、例えば、合成ゴムから構成されている。移動手摺82は、手摺駆動シーブ83によって駆動される。
【0015】
手摺駆動シーブ83は、移動手摺82の復路に設けられている。手摺駆動シーブ83は、上部スプロケット84の駆動力が手摺チェーン85を介して伝達されることによって回転する。また、移動手摺82の復路には、移動手摺82のテンションを調整する移動手摺緊張装置86が設けられている。
【0016】
移動手摺82の復路には、移動手摺82を支持すると共にエスカレーター80の運転方向に移動手摺82を案内する案内ローラ(保護ローラ87及び傘ローラ90)が設けられる。保護ローラ87は、移動手摺82の下側に設けられ、移動手摺82の垂れを防止する。傘ローラ90は、移動手摺82の内周側に配置され、移動手摺82の内周側を案内すると共に移動手摺82の横触れを防止する。
【0017】
図3及び
図4を用いて、実施形態に係るエスカレーター80の移動手摺82の傘ローラ90について説明する。
図3は、傘ローラ90と移動手摺82とを示す正面図である。
図4は、傘ローラ90と移動手摺82とを示す平面図である。以下では、移動手摺82の移動方向、当該移動方向と直交する移動手摺82の幅方向に従って説明する。
【0018】
傘ローラ90は、上述したように移動手摺82の内周側を案内すると共に移動手摺82の横触れを防止する。移動手摺82は、上述したように移動方向から見た断面視がC字状に形成され、内周側において幅方向の内側に向けて曲げられたそれぞれの端部82Aを有する。傘ローラ90は、端部82A、82A間の間隙より大きい直径の円盤状に形成されている。
【0019】
傘ローラ90は、玉軸受91が組み込まれたボルト92の頭部に回転自在に取り付けられている。傘ローラ90は、一対のナット、ワッシャ及びばね座金によってボルト92を取付アングル93に締結することによって取り付けられている。取付アングル93は、L字状に形成され、トラス94に固定されている。
【0020】
例えば傘ローラ90の玉軸受91が劣化した場合には、傘ローラ90を新しい傘ローラ90と取り替える必要がある。傘ローラ90の取替作業では、移動手摺82の裏側において幅方向の内側に向けて曲げられた端部82Aを外側に押し広げて、傘ローラ90を移動手摺82の内周側から取り外し、新しい傘ローラ90を移動手摺82の内周側に差し込む作業が行われる。以下では、傘ローラ90を取り替える際に用いる取替治具10について説明する。
【0021】
図5から
図7を用いて、実施形態の一例である取替治具10について説明する。
図5は、取替治具10の平面図である。
図6は、取替治具10の底面図である。
図7は、一対の係合片30の斜視図である。以下では、取替治具10の長手方向と直交する取替治具10の開閉方向を幅方向として説明する。
【0022】
取替治具10は、上述したように傘ローラ90を取り替える際に用いる治具である。より詳細には、取替治具10は、移動手摺82の裏側において幅方向の内側に向けて曲げられた端部82Aを外側に押し広げると共に押し広げた状態を維持する治具である。取替治具10によれば、傘ローラ90の取替作業性を向上させることができる。
【0023】
図5及び
図6に示すように、取替治具10は、長手方向の基端側を閉じることによって先端側が開かれるようにそれぞれが回動自在に支持される一対のレバー20と、レバー20の先端部の外側にそれぞれ設けられ、移動手摺82の端部82Aにそれぞれ係合する一対の係合片30と、一対のレバー20の先端側が所定角度開いた状態で一対のレバー20をラッチするラッチ機構40とを備える。
【0024】
一対のレバー20は、長尺状のレバー20が互いに略平行に設けられて構成されている。レバー20は、屈折した腕部21と、腕部21の基端側に設けられる把持部22とを有する。腕部21は、先端側に後述する係合片30が設けられ、屈折した角部に回動軸23を有する。回動軸23は、後述するラッチ機構40のベース41において回動自在に支持される。
【0025】
係合片30は、上述したように、移動手摺82の端部82Aに係合する部材である。係合片30は、レバー20の先端側に固定されている。係合片30は、アルミ材によって好適に形成される。
【0026】
図7に示すように、係合片30は、長手方向から見た断面視において湾曲部30Aを有する鉤状に形成される。湾曲部30Aは、傘ローラ90の移動方向から見た断面視における湾曲部(湾曲した側面)に沿って形成されている。湾曲部30A(係合片30の幅方向内側)は、平面視において傘ローラ90の平面視における外周に沿った円弧状に形成されている。
【0027】
ラッチ機構40は、上述したように、一対のレバー20の先端側が所定角度開いた状態でラッチする機構である。ラッチ機構40は、ベース41と、ベース41に回動自在に支持される歯車42と、それぞれのレバー20の回動軸23に固定されると共に歯車42に歯合する一対の歯車43と、歯車42の回転を規制する固定レバー44とを有する。
【0028】
ベース41には、歯車42、一対の回動軸23、固定レバー44が回動自在に支持されている。歯車42は、歯車42に歯合する一対の歯車43を同期して回転させることによって、一対のレバー20のそれぞれの回動軸23を同期して回転させて、一対のレバー20を同期して開閉させる。
【0029】
固定レバー44は、歯車42の回転を規制することによって一対のレバー20の先端側が任意の角度で開いた状態で一対のレバー20を固定する部材である。固定レバー44は、歯車42に係合する爪部44Aと、基端側に延出する操作部44Bと、爪部44Aが歯車42に係合する方向と逆向きに付勢するバネ44Cとを含む。
【0030】
固定レバー44によれば、操作部44Bを外側に向けて回動させることによって爪部44Aを歯車42に係合させて歯車42の回転を規制し、一対のレバー20を固定することができる。一方、一対のレバー20を固定した状態から操作部44Bを内側に向けて回動させることによって爪部44Aの歯車42への係合を解除して歯車42を回転させて、一対のレバー20を開閉することができる。
【0031】
図8を用いて、取替治具10を用いた傘ローラ90の取替作業の流れについて説明する。
【0032】
図8(A)に示すように、傘ローラ90が設けられた移動手摺82において、傘ローラ90の手前側から取替治具10の係合片30を移動手摺82の内周側に差し込み、移動手摺82の内周側において取替治具10の係合片30を傘ローラ90に向けて移動させて、それぞれの係合片30の湾曲部30Aを移動手摺82の端部82Aに係合させる。
【0033】
図8(B)に示すように、取替治具10の一対のレバー20の把持部22を閉じることによって一対の係合片30を開いて、移動手摺82の端部82Aを押し広げる。そして、平面視において、係合片30同士の間から傘ローラ90の全体が覗くまで係合片30を開いた状態で、固定レバー44の操作部44Bを外側に向けて回動させることによって一対のレバー20を固定する。この状態で、傘ローラ90を取り外し、新しい傘ローラ90を取り付ける。
【0034】
図8(C)に示すように、固定レバー44の操作部44Bを内側に向けて回動させることによって一対のレバー20の固定を解除する。そして、押し広げられた移動手摺82が元の状態に戻り、移動手摺82の弾性によって係合片30が閉じられる。そして、移動手摺82の内周側から取替治具10を引き抜き取替作業が終了する。
【0035】
なお、本発明は上述した実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において種々の変更や改良が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
10 取替治具、20 レバー、21 腕部、22 把持部、23 回動軸、30 係合片、30A 湾曲部、40 ラッチ機構、41 ベース、42 歯車、43 歯車、44 固定レバー、44A 爪部、44B 操作部、44C バネ、80 エスカレーター、81 欄干、82 移動手摺、82A 端部、83 手摺駆動シーブ、84 上部スプロケット、85 手摺チェーン、86 移動手摺緊張装置、87 保護ローラ、90 傘ローラ、91 玉軸受、92 ボルト、93 取付アングル、94 トラス