(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】接着構造体、半導体装置、モータ及び飛翔体
(51)【国際特許分類】
C09J 7/26 20180101AFI20231215BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20231215BHJP
C09J 11/00 20060101ALI20231215BHJP
C09J 201/10 20060101ALI20231215BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20231215BHJP
H02K 21/12 20060101ALI20231215BHJP
C09J 163/00 20060101ALN20231215BHJP
【FI】
C09J7/26
C09J7/35
C09J11/00
C09J201/10
H01L21/52 E
H02K21/12 M
C09J163/00
(21)【出願番号】P 2023552194
(86)(22)【出願日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2023013557
【審査請求日】2023-08-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加茂 芳幸
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0212288(US,A1)
【文献】特開平6-41515(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112662357(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0269859(US,A1)
【文献】特開2014-005314(JP,A)
【文献】特表2018-532837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/00- 7/50
H01L 21/52
H02K 21/00-21/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、
前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された
接着構造体であって、
前記薄膜は、熱伝導性材料および/または導電性材料を含むことを特徴とする接着構造体。
【請求項2】
前記薄膜に対する前記接着剤の弾性率の比は、2以上、20以下であることを特徴とする請求項1に記載の接着構造体。
【請求項3】
前記薄膜は、ガラス転移温度が、60℃以上、200℃以下であり、含浸させた接着剤硬化物のガラス転移温度は多孔性薄膜のガラス転移温度より高いことを特徴とする請求項
1に記載の接着構造体。
【請求項4】
前記細孔は、径が0.1μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項
1に記載の接着構造体。
【請求項5】
前記接着剤に対する前記薄膜の伸び率の比は、2以上、1000以下であることを特徴とする請求項
1に記載の接着構造体。
【請求項6】
基板の表面に請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の接着構造体を介して設けられた半導体素子と、前記基板の表面に設けられた電極と半導体素子の表面に設けられた電極と接続するボンディングワイヤと、前記半導体素子を封止する封止樹脂と、を備えたことを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
基板の表面に
、多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された接着構造体を介して設けられた半導体素子と、前記基板の表面に設けられた電極と半導体素子の表面に設けられた電極と接続するボンディングワイヤと、前記半導体素子を封止する封止樹脂と、を備えたことを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
前記薄膜に対する前記接着剤の弾性率の比は、2以上、20以下であることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記薄膜は、ガラス転移温度が、60℃以上、200℃以下であり、含浸させた接着剤硬化物のガラス転移温度は多孔性薄膜のガラス転移温度より高いことを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記細孔は、径が0.1μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記接着剤に対する前記薄膜の伸び率の比は、2以上、1000以下であることを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項12】
シャフトに装着された円筒形の鋼板と、前記鋼板の外周に請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の接着構造体を介して接着された磁石と、を備えたことを特徴とするモータ。
【請求項13】
シャフトに装着された円筒形の鋼板と、前記鋼板の外周に
、多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された接着構造体を介して接着された磁石と、を備えたことを特徴とするモータ。
【請求項14】
前記薄膜に対する前記接着剤の弾性率の比は、2以上、20以下であることを特徴とする請求項13に記載のモータ。
【請求項15】
前記薄膜は、ガラス転移温度が、60℃以上、200℃以下であり、含浸させた接着剤硬化物のガラス転移温度は多孔性薄膜のガラス転移温度より高いことを特徴とする請求項13に記載のモータ。
【請求項16】
前記細孔は、径が0.1μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項13に記載のモータ。
【請求項17】
前記接着剤に対する前記薄膜の伸び率の比は、2以上、1000以下であることを特徴とする請求項13に記載のモータ。
【請求項18】
コンプレッサーが搭載された飛翔体であって、前記コンプレッサーに用いられるセンサー及び部品の接着に、請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の接着構造体を用いたことを特徴とする飛翔体。
【請求項19】
コンプレッサーが搭載された飛翔体であって、前記コンプレッサーに用いられるセンサー及び部品の接着に、
多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された接着構造体を用いたことを特徴とする飛翔体。
【請求項20】
前記薄膜に対する前記接着剤の弾性率の比は、2以上、20以下であることを特徴とする請求項19に記載の飛翔体。
【請求項21】
前記薄膜は、ガラス転移温度が、60℃以上、200℃以下であり、含浸させた接着剤硬化物のガラス転移温度は多孔性薄膜のガラス転移温度より高いことを特徴とする請求項19に記載の飛翔体。
【請求項22】
前記細孔は、径が0.1μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項19に記載の飛翔体。
【請求項23】
前記接着剤に対する前記薄膜の伸び率の比は、2以上、1000以下であることを特徴とする請求項19に記載の飛翔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、接着構造体、半導体装置、モータ及び飛翔体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置及びモータの駆動部品などの高温耐熱化が検討され、構成部品を接着する接着剤に対しても耐熱性を求められている。高い接着力を持ち、高温に耐えられる接着剤としてエポキシ系接着剤が挙げられる。従来から使用されているエポキシ系接着剤は高いものでも180℃程度の耐熱性しか有していなかったが、最近では200℃越えの耐熱性を持つ接着剤が上市され始めている。
【0003】
しかし、一般的に耐熱性の高いものは硬化物が脆い、接着力が高くないなどの課題があった。加えて、温度サイクルなどで熱応力が加わった際に接着力が担保できずにクラックが生じる、または被着体から剥がれるといった問題があった。
【0004】
半導体装置の接着用途において半導体素子と配線回路基板との間の接着剤の熱応力を充分に緩和するために、例えば特許文献1では、接着シートとしてシート状多孔質基材の両面に接着剤層が形成された構造のものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-17240号公報(段落0010、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような接着シートでは、接着剤層に粘着剤を用いていることから構造用接着に必要な強度を発揮できないという問題があった。
【0007】
本願は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、熱応力を十分に緩和でき、接着性に優れた接着構造体、半導体装置、モータ及び飛翔体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示される接着構造体は、多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された接着構造体であって、前記薄膜は、熱伝導性材料および/または導電性材料を含むことを特徴とする。
【0009】
本願に開示される半導体装置は、基板の表面に上記本願に開示される接着構造体を介して設けられた半導体素子と、前記基板の表面に設けられた電極と半導体素子の表面に設けられた電極と接続するボンディングワイヤと、前記半導体素子を封止する封止樹脂と、を備えたことを特徴とする。
また、本願に開示される半導体装置は、基板の表面に、多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された接着構造体を介して設けられた半導体素子と、前記基板の表面に設けられた電極と半導体素子の表面に設けられた電極と接続するボンディングワイヤと、前記半導体素子を封止する封止樹脂と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本願に開示されるモータは、シャフトに装着された円筒形の鋼板と、前記鋼板の外周に上記本願に開示される接着構造体を介して接着された磁石と、を備えたことを特徴とする。
また、本願に開示されるモータは、シャフトに装着された円筒形の鋼板と、前記鋼板の外周に、多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された接着構造体を介して接着された磁石と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本願に開示される飛翔体は、コンプレッサーが搭載された飛翔体であって、前記コンプレッサーに用いられるセンサー及び部品の接着に、上記本願に開示される接着構造体を用いたことを特徴とする。
また、本願に開示される飛翔体は、コンプレッサーが搭載された飛翔体であって、前記コンプレッサーに用いられるセンサー及び部品の接着に、多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された接着構造体を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願によれば、接着構造体は、熱応力を十分に緩和できるだけでなく、接着性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1に係る接着構造体の構成示す断面図である。
【
図2】実施の形態1に係る接着構造体用いて接着した状態を示す断面図である。
【
図3】実施の形態1に係る接着構造体の接着強度の変化率を示す図である。
【
図4】実施の形態2に係る接着構造体を用いた半導体装置の構成を示す断面図である。
【
図5】実施の形態3に係る接着構造体を用いたSPMモータの構成を示す断面図である。
【
図6】実施の形態4に係る接着構造体の構成を示すブロック図である。
【
図7】実施の形態4に係る接着構造体を用いた航空システムの動作の流れを示すシステムフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は、本願の実施の形態1に係る接着構造体の構成示す断面図である。
図1に示すように、本実施の形態1に係る接着構造体100は、多孔性薄膜11、多孔性薄膜11に含侵した接着剤13から構成される。
【0016】
多孔性薄膜11は、多孔体骨格を有する薄膜である。多孔性薄膜11は、主としてエポキシ主剤とアミン系硬化剤により加熱して硬化させた樹脂からなる。これらの硬化の際に相分離可能な材料を添加することで重合誘起相分離機構が発生し、硬化中に架橋重合を起こす部分と相分離が発生する場所がランダムに形成されることで、3次元的に連続した網目骨格と細孔をもつ多孔性薄膜を作製することが可能である。
【0017】
ここで使用するエポキシモノマーは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、複素芳香環を含有するエポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂等の非芳香族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシについてはモノマー内にあるエポキシ基の官能基数は問わないが、2官能または4官能エポキシモノマーが望ましい。これらのエポキシモノマーは単体で用いてもよく、2種以上を使用してもよい。これらの組み合わせにより柔軟性、細孔のサイズ、耐熱性、強度/伸びといった特性を変化させることが可能である。
【0018】
また、硬化剤としては、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼン等の芳香族アミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン等の脂肪族アミン類、イソホロンジアミン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンなどの脂環族アミン類、複素芳香環含有アミン、およびこれらの変性品が挙げられる。また、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミン等の非芳香族硬化剤なども可能である。これらの硬化剤は単体で用いてもよく、2種以上を使用してもよい。ここで、エポキシモノマーと硬化剤添加比率はエポキシモノマーに対して、未硬化のエポキシ100重量部に対して、40~300重量部の範囲で混合するのが望ましい。
【0019】
熱硬化性樹脂を熱硬化させる際に細孔を形成するため、相分離させる相分離細孔形成剤を選択する必要がある。ここで、相分離細孔形成剤は、エポキシ樹脂を構成する未硬化モノマー(またはポリマー)及び/又は硬化剤を溶かすことができるものを選択する。モノマー(または未硬化ポリマー)と硬化剤が重合した後、重合物と相分離した未硬化モノマー(またはポリマー)及び/又は硬化剤は除去される。相分離細孔形成剤としては、メチルセロソルブエチルセロソルブのようなセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。これらの相分離細孔形成剤は単体で用いてもよく、2種以上を使用してもよい。これらの相分離細孔形成剤の内、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールまたはポリエチレングリコールを用いることが望ましい。相分離細孔形成剤の使用量は、未硬化状態のエポキシ/硬化剤100重量部に対して、相分離細孔形成剤を10~400重量部添加することが望ましい。
【0020】
接着剤13は、単独使用においてSPCC(Steel Plate Cold Commercial)-SPCC間の接着強度が10MPa以上を持ち、ガラス転移温度150℃以上の物性を示すものを用いる。
【0021】
接着剤13としては、4,4′-メチレンビス(N,N-ジグリシジルアニリン)、N,N,N´,N´-テトラグリシジル-4,4´-ジアミドジフェニルメタン、N,N,N´,N´-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、2,2´-ジアリルビスフェノールAジアリルエーテルなどの高ガラス転移点をもつエポキシ樹脂と芳香族アミンであるフェニレンジアミン、4,4´-ジメチルジフェニルメタン、3,3´-ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノシクロヘキサン、N,N´-ジフェニル-1,4-フェニレンジアミン、4,4´-ジアミノジフェニルエーテルなどを混合したものが挙げられる。また、市販されている、高耐熱性かつ多孔性薄膜11よりも弾性率の高いセメダイン社Y612、PANACOL社のGTH-T、スリーボンド社のTB2237J、ADEKA社のCLS-1194といった接着剤を使うことも可能である。
【0022】
これらの接着剤13の弾性率は2000~10000MPaであることから、多孔体薄膜11との弾性率差が大きく、多孔性薄膜11と含浸する接着剤13の弾性率比が2~20の範囲であることが望ましい。2よりも低い場合は薄膜層を入れた効果が薄く、20を超えるものは有機物では存在しえない。加えて、含浸する接着剤13は剛直なため、接着剤自身の伸び率は1~5%程度と小さい。これを多孔性薄膜11と組み合わせることで、多孔性薄膜11が持つ柔軟性が付与されるため、接着面のクラックが一気に起こらず、応力が分散されることで温度変化によって発生する応力に対して強くなる。このときの接着剤13と多孔性薄膜11の伸び率の比は2~1000の範囲がよく、より好ましくは2~20の範囲がよい。多孔性薄膜11の厚みが大きいほど、接着剤13が含浸しにくくなるため、多孔性薄膜11の厚みは1mm以下がよく、より好ましくは0.001mm以上、0.5mm以下が望ましい。0.001mmよりも薄いものは作製できず、0.5mmを超えるとその後に接着する際に接着剤層が厚くなりすぎて実用性に乏しくなる。
【0023】
次に、本願の実施の形態1に係る接着構造体100に用いる多孔性薄膜11の製造方法について説明する。
【0024】
最初に、エポキシ主剤とアミン系硬化剤に相分離細孔形成剤を添加した混合溶液を攪拌機にて十分に攪拌する。続いて、前処理を行った基板上にこのエポキシ溶液を所望の厚みが得られるように薄く塗布して熱硬化を行う。最後に、熱硬化後のエポキシ薄膜を基板から剥がしとることで多孔性薄膜11としての多孔性エポキシ薄膜を得ることが可能である。必要に応じて本薄膜を溶剤で洗浄することで、より表面状態の清潔な薄膜を得ることが可能である。
【0025】
ここで、作製した多孔質薄膜11の弾性率は0.1~3000MPaの範囲であることが特徴として挙げられる。このうち、10~1000MPaの範囲の弾性率をもつ多孔性薄膜11が接着信頼性向上にはより好ましい。この時の多孔性薄膜11は0.1~100μmの細孔径をもつことが分かっており、0.1μmより細孔径が小さいと接着剤が十分に含浸できない。100μmより細孔径が大きいと微細な柔軟構造が得られず効果が乏しい。より好ましくは0.5~10μmの細孔径を持つものが望ましい。
【0026】
また、作製した多孔性薄膜11は、60~200℃のガラス転移温度を持つことが分かっている。60℃より低い多孔性薄膜の場合、耐熱性が顕著に下がる傾向があり、200℃を超えるものは作製可能であるが剛直な樹脂であることから組織の柔軟性を担保することは不可能である。クラック及び剥離が起こらない、よい接合信頼性が得られることから、100~140℃のガラス転移温度を持つことが望ましい。多孔性薄膜11自体はやわらかく、3~50%程度の伸びを示すことが分かっている。ここで、硬化物との伸び率比が2より低い場合は十分に硬化が得られない、1000を超える場合は柔軟構造の耐熱性が低く、高耐熱用途に適さない結果となる。
【0027】
作製した多孔性薄膜11に、接着剤13を含浸することで、多孔構造を有した接着構造体100を得ることができる。接着剤13を含侵する際は、接着剤13の硬化温度より低い温度を印加すること、及び真空脱泡を繰り返すことで、多孔性薄膜11内に十分に含浸させることが可能である。なお、接着剤13は、被着体硬化後はSPCC同士の接着強度が10MPa以上かつ、ガラス転移温度が多孔性薄膜のガラス転移温度より高く、170℃~300℃である接着剤を用いる。
【0028】
接着構造体100は、接着剤13を多孔性薄膜11に含浸させることで、接着剤13がもつ初期強度からは低下するが、接着剤13の接着強度が高いため実使用において優れた接着強度を有する。一方で、接着構造体100のような構成にしたことで、環境変化における応力緩和効果を発現することが可能であり、例えば、-20~130℃といった温度差の厳しい温度サイクル試験耐性を持つことが可能である。また、磁石/鋼板、アルミ/鉄、インバー/鉄、及びエンジニアリングプラスチック類(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド)/金属などの熱膨張係数差のある接着を行う際には、熱硬化の場合、被着体の熱膨張係数差で接着が剥がれるという課題があったが、接着構造体100を用いることで、そういった問題も解決することが可能である。
【0029】
さらに、接着構造体100を使用する際には、これらの密着性向上のための表面処理として、表面粗さの向上と新生面の獲得を目的とした研磨紙による被着面の研磨処理、大気処理、アルゴンプラズマ処理、深紫外光処理、及びコロナ放電処理といった物理的処理を行うことで密着性及び接着強度の向上が期待できる。
【0030】
また、化学処理としてシランカップリング剤を塗布することでも同様の効果が得られる。例えば、エポキシ系接着剤に対しては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ベニルベンジル)―2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などをプライマーとして用いてもよい。このことによって、熱硬化時の応力の緩和が図れ、温度差の激しい場所での使用に対してより柔軟な接着剤となるだけでなく、市販されている接着剤を用いても今まで利用できなかった分野での使用が可能となる。
【0031】
図2は、本願の実施の形態1に係る接着構造体100を用いて接着した状態を示す図である。
図2に示すように、被着体12と直接接触するのは含浸させた接着剤13である。また、一般的に接着剤13の厚みも設計されていることが多く、他部材とのクリアランス及び設計公差を満たすためにも接着構造体100の厚みは0.5mm以下が望ましい。
【0032】
図3は、本願の実施の形態1に係る接着構造体100の接着強度の変化率を示す図である。
図3では、接着構造体100をインバー材鉄といった被着体12に接着し、-15~130℃の温度差で300サイクルまで温度サイクル試験を行った結果(○:接着構造体100、△:市販の接着剤)を示す。本結果より、市販の接着剤では温度サイクル試験後に接着強度が低下しているのに対し、接着構造体100では温度サイクル試験後も接着強度を維持していることがわかる。接着構造体100では、多孔体骨格により柔軟構造を導入することで、従前の剛直な成分のみでは達成しえなかった効果を得ることができた。
【0033】
以上のように、本実施の形態1に係る接着構造体100によれば、多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の多孔性薄膜11を備え、多孔性薄膜11の細孔には接着剤13を含侵したので、エポキシの多孔性薄膜は機械的物性が柔軟であり応力緩和効果を発生することにより、温度サイクルなどで発生する応力を緩和することができ、温度変化の大きい機器に適用することが可能となる。これにより、接着剤がもつガラス転移温度及び接着性など下げることなく応力緩和を起こすことができる。また、硬質な接着剤単体ではせん断試験時に破壊モードが界面破壊を示し、クラックが生じることが多いのに対し、接着剤を含侵した多孔性薄膜を用いると接着剤の破壊モードが少なくとも一部が多孔性薄膜内の凝集破壊状になり、応力を分散することができる。
【0034】
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1での接着構造体100を、電子部品へ適用した場合について説明する。
【0035】
図4は、本願の実施の形態2に係る接着構造体100を用いた半導体装置の構成を示す断面図である。
図4に示すように、半導体装置200は、基板21、基板21の表面に接着構造体100を介して設けられた半導体素子23、基板21の表面に設けられた電極(図示せず)と半導体素子23の表面に設けられた表面電極(図示せず)と接続するボンディングワイヤ24、半導体素子23を封止する封止樹脂25から構成されている。
【0036】
数百アンペアに達する大電流が流れるパワーデバイスなどでは、200℃前後の高温に耐える必要があり、これまでにない耐熱性も要求されている。特に、SiC、GaN、Ga2O3といったパワー半導体では300℃以上でも動作可能であるが、その能力を活用するためにはその高温に耐えるモジュールの実装材料として、実施の形態1での接着構造体100を用いることができる。
【0037】
パワーデバイスなどの半導体装置200に、実施の形態1での接着構造体100を用いることにより、温度サイクルなどで発生する応力を緩和することができる。
【0038】
なお、必要に応じて多孔質薄膜11に熱伝導性材料であるシリカ、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ケイ素、酸化ベリリウム、及びダイヤモンドなどの粉末(鱗片状、真球状、針状、及び特殊形状)を任意量添加することで、一定の熱伝導率を付与することも考えられる。加えて、導電性が必要な場合は、熱伝導性材料である、銅、銀、カーボンブラック、及びグラファイトなど導電性粉末(鱗片状、真球状、針状、及び特殊形状)を加えてもよい。
【0039】
また、実装材料に使用される基板としては、エポキシを用いたガラスプリプレグ材を積層したプリント配線板、セラミック層を積層させ焼結したセラミック基板、及び、薄い純銅板を打ち抜き成型したリードフレーム等を用いても構わない。
【0040】
以上のように、本実施の形態2に係る接着構造体100を用いた半導体装置200によれば、基板21の表面に実施の形態1の接着構造体100を介して設けられた半導体素子23と、基板21の表面に設けられた電極と半導体素子23の表面に設けられた電極と接続するボンディングワイヤ24と、半導体素子23を封止する封止樹脂25と、を備えるようにしたので、半導体素子の接着において温度サイクルなどで発生する応力を十分に緩和できるだけでなく、接着性に優れる。
【0041】
実施の形態3.
実施の形態3では、実施の形態1での接着構造体100を、モータへ適用した場合について説明する。
【0042】
図5は、本願の実施の形態3に係る接着構造体100を用いたモータの構成を示す断面図である。
図5に示すように、モータ200は、シャフト34、シャフト34に装着された円筒形の鋼板33、鋼板33の外周に接着構造体100を介して接着された磁石32から構成されている。
【0043】
SPMモータ(Surface Permanent Magnet Motor:表面構造永久磁石同期電動機)では、高耐熱が求められる磁石の固定、及びエンジンルーム内のパーツの固定などに、実施の形態1での接着構造体100を用いることができる。
【0044】
SPMモータなどのモータ300に、実施の形態1での接着構造体100を用いることにより、温度サイクルなどで発生する応力を緩和することができる。
【0045】
ここで用いられる磁石は、フェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石、及びボンド磁石のどの種類でもよくその合金組成は問わない。磁石を接着している材料は鉄であり、その形態はダイキャスト成形品、及び薄い鉄板を積層した電磁鋼板でも構わない。
【0046】
以上のように、本実施の形態3に係る接着構造体100を用いたモータ300によれば、シャフト34に装着された円筒形の鋼板33と、鋼板33の外周に実施の形態1の接着構造体100を介して接着された磁石32と、を備えるようにしたので、磁石の接着において温度サイクルなどで発生する応力を十分に緩和できるだけでなく、接着性に優れる。
【0047】
実施の形態4.
実施の形態4では、実施の形態1での接着構造体100を、航空機用部品へ適用した場合について説明する。
【0048】
図6は、本願の実施の形態4に係る接着構造体100の構成を示すブロック図である。
図7は、本願の実施の形態4に係る接着構造体100を用いた機内空調設備のシステムフローを示す図である。
【0049】
図6に示すように、最初に、ジェットエンジン41では、外気を取り込み、接着構造体100を用いたセンサー及び部品44が用いられたコンプレッサー(圧縮機)42により圧縮空気を作り、燃焼室で燃料と混合し断続的に燃焼させる(ステップS701)。
【0050】
続いて、燃焼室から出た空気は接着構造体100を用いたセンサー及び部品45が用いられた熱交換機43により任意の温度まで下げられる(ステップS702)。
【0051】
次いで、接着構造体100を用いたセンサー及び部品44が用いられたコンプレッサー42から圧縮空気を取り入れ(ステップS703)、これを航空機のエアコンシステムに送る(ステップS704)。
【0052】
最後に、エアコンシステム内でこの空気が冷却され(ステップS705)、機内に送風される(ステップS706)。
【0053】
航空機外の外気は地上で0~40℃、高度1万m以上では-40~60℃といった低温である。そのため、コンプレッサー42に用いられるセンサー及び部品44は、100~200℃といった比較的高温な状態から-40~60℃という低温まで状態を維持する必要がある。
【0054】
上記のように機内空調設備に接着構造体100を用いた構成とすることで、耐熱性を有し、温度差の大きい箇所で構造を維持するための高い靭性を有する。
【0055】
以上のように、本実施の形態4に係る接着構造体100を用いた機内空調設備によれば、コンプレッサー42に用いられるセンサー及び部品44の接着に、実施の形態1の接着構造体100を用いるようにしたので、センサー及び部品の接着において温度サイクルなどで発生する応力を十分に緩和できるだけでなく、接着性に優れる。
【0056】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、
前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された接着構造体であって、
前記薄膜は、熱伝導性材料または導電性材料を含むことを特徴とする接着構造体。
(付記2)
前記薄膜に対する前記接着剤の弾性率の比は、2以上、20以下であることを特徴とする付記1に記載の接着構造体。
(付記3)
前記薄膜は、ガラス転移温度が、60℃以上、200℃以下であり、含浸させた接着剤硬化物のガラス転移温度は多孔性薄膜のガラス転移温度より高いことを特徴とする付記1または付記2に記載の接着構造体。
(付記4)
前記細孔は、径が0.1μm以上、100μm以下であることを特徴とする付記1から付記3のいずれか1項に記載の接着構造体。
(付記5)
前記接着剤に対する前記薄膜の伸び率の比は、2以上、1000以下であることを特徴とする付記1から付記4のいずれか1項に記載の接着構造体。
(付記6)
基板の表面に付記1から付記5のいずれか1項に記載の接着構造体を介して設けられた半導体素子と、前記基板の表面に設けられた電極と半導体素子の表面に設けられた電極と接続するボンディングワイヤと、前記半導体素子を封止する封止樹脂と、を備えたことを特徴とする半導体装置。
(付記7)
基板の表面に、多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された接着構造体を介して設けられた半導体素子と、前記基板の表面に設けられた電極と半導体素子の表面に設けられた電極と接続するボンディングワイヤと、前記半導体素子を封止する封止樹脂と、を備えたことを特徴とする半導体装置。
(付記8)
前記薄膜に対する前記接着剤の弾性率の比は、2以上、20以下であることを特徴とする付記7に記載の半導体装置。
(付記9)
前記薄膜は、ガラス転移温度が、60℃以上、200℃以下であり、含浸させた接着剤硬化物のガラス転移温度は多孔性薄膜のガラス転移温度より高いことを特徴とする付記7または付記8に記載の半導体装置。
(付記10)
前記細孔は、径が0.1μm以上、100μm以下であることを特徴とする付記7から付記9のいずれか1項に記載の半導体装置。
(付記11)
前記接着剤に対する前記薄膜の伸び率の比は、2以上、1000以下であることを特徴とする付記7から付記10のいずれか1項に記載の半導体装置。
(付記12)
シャフトに装着された円筒形の鋼板と、前記鋼板の外周に付記1から付記5のいずれか1項に記載の接着構造体を介して接着された磁石と、を備えたことを特徴とするモータ。
(付記13)
シャフトに装着された円筒形の鋼板と、前記鋼板の外周に、多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された接着構造体を介して接着された磁石と、を備えたことを特徴とするモータ。
(付記14)
前記薄膜に対する前記接着剤の弾性率の比は、2以上、20以下であることを特徴とする付記13に記載のモータ。
(付記15)
前記薄膜は、ガラス転移温度が、60℃以上、200℃以下であり、含浸させた接着剤硬化物のガラス転移温度は多孔性薄膜のガラス転移温度より高いことを特徴とする付記13または付記14に記載のモータ。
(付記16)
前記細孔は、径が0.1μm以上、100μm以下であることを特徴とする付記13から付記15のいずれか1項に記載のモータ。
(付記17)
前記接着剤に対する前記薄膜の伸び率の比は、2以上、1000以下であることを特徴とする付記13から付記16のいずれか1項に記載のモータ。
(付記18)
コンプレッサーが搭載された飛翔体であって、前記コンプレッサーに用いられるセンサー及び部品の接着に、付記1から付記5のいずれか1項に記載の接着構造体を用いたことを特徴とする飛翔体。
(付記19)
コンプレッサーが搭載された飛翔体であって、前記コンプレッサーに用いられるセンサー及び部品の接着に、多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の薄膜を備え、前記薄膜の細孔には接着剤が含侵された接着構造体を用いたことを特徴とする飛翔体。
(付記20)
前記薄膜に対する前記接着剤の弾性率の比は、2以上、20以下であることを特徴とする付記19に記載の飛翔体。
(付記21)
前記薄膜は、ガラス転移温度が、60℃以上、200℃以下であり、含浸させた接着剤硬化物のガラス転移温度は多孔性薄膜のガラス転移温度より高いことを特徴とする付記19または付記20に記載の飛翔体。
(付記22)
前記細孔は、径が0.1μm以上、100μm以下であることを特徴とする付記19から付記21のいずれか1項に記載の飛翔体。
(付記23)
前記接着剤に対する前記薄膜の伸び率の比は、2以上、1000以下であることを特徴とする付記19から付記22のいずれか1項に記載の飛翔体。
【符号の説明】
【0057】
11 多孔性薄膜、13 接着剤、100 接着構造体。
【要約】
接着構造体(100)は、多孔体骨格により細孔が形成されたエポキシ系樹脂製の多孔性薄膜(11)を備え、多孔性薄膜(11)の細孔には接着剤(13)が含侵されている。この構成により、熱応力を十分に緩和するだけでなく、接着性にも優れる。