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特許7403733インフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】インフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/145 20060101AFI20231218BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20231218BHJP
   C07K 1/113 20060101ALN20231218BHJP
   C07K 14/11 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
A61K39/145 ZNA
A61P31/16
C07K1/113
C07K14/11
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018137952
(22)【出願日】2018-07-23
(65)【公開番号】P2019043937
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2017169230
(32)【優先日】2017-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【弁理士】
【氏名又は名称】釜平 双美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宜聖
(72)【発明者】
【氏名】安達 悠
(72)【発明者】
【氏名】阿戸 学
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/173256(WO,A2)
【文献】特表2014-513680(JP,A)
【文献】国際公開第2016/028776(WO,A1)
【文献】Curr. Opin. Immunol. (2016) vol.42, p.83-90
【文献】長倉三郎ほか編, 岩波 理化学辞典 第5版, 2003年11月, 株式会社 岩波書店, p.327
【文献】DOMS R.W. et al.,Journal of Virology,1986年12月,vol.60, no.3,p.833-839
【文献】BYRD L.L. et al.,Journal of Virology,2015年04月,vol.89, no.8,p.4504-4516
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/145
C07K 14/11
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルマリン処理をしていないインフルエンザHAスプリットワクチンに酸性処理を施すことを含む、HA幹領域のLAHに結合する抗体を産生する、インフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法であって、前記酸性処理はpH3.0~6.5にて処理を行う、製造方法
【請求項2】
該インフルエンザHAスプリットワクチンが、抗原変異インフルエンザウイルスに対しても有効である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ホルマリン処理をしていないインフルエンザHAスプリットワクチンに酸性処理を施すことを含む、HA幹領域のLAHに結合する抗体を産生する、抗原変異インフルエンザウイルスに対するインフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法であって、前記酸性処理はpH3.0~6.5にて処理を行う、製造方法
【請求項4】
前記酸性処理はpH4.0~6.0にて処理を行うことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のインフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法
【請求項5】
前記酸性処理はpH4.4~5.8にて処理を行うことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のインフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法。
【請求項6】
前記インフルエンザHAスプリットワクチンはH3N2型又はH1N1型であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のインフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法。
【請求項7】
ホルマリン処理をしていないインフルエンザHAスプリットワクチンに酸性処理を施すことを含む方法により製造される、HA幹領域のLAHに結合する抗体を産生する、インフルエンザHAスプリットワクチンであって、前記酸性処理はpH3.0~6.5にて処理を行う、インフルエンザHAスプリットワクチン
【請求項8】
ホルマリン処理をしていないインフルエンザHAスプリットワクチンに酸性処理を施すことを含む方法により製造される、HA幹領域のLAHに結合する抗体を産生する、抗原変異インフルエンザウイルスに対しても有効なインフルエンザHAスプリットワクチンであって、前記酸性処理はpH3.0~6.5にて処理を行う、インフルエンザHAスプリットワクチン
【請求項9】
前記酸性処理はpH4.0~6.0にて処理を行うことを特徴とする請求項7または8に記載のインフルエンザHAスプリットワクチン
【請求項10】
前記酸性処理はpH4.4~5.8にて処理を行うことを特徴とする請求項7~9のいずれかに記載のインフルエンザHAスプリットワクチン
【請求項11】
前記インフルエンザHAスプリットワクチンはH3N2型又はH1N1型であることを特徴とする請求項7~10のいずれかに記載のインフルエンザHAスプリットワクチン
【請求項12】
請求項7~11のいずれかに記載のインフルエンザHAスプリットワクチンを含む、インフルエンザ感染の予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現行のインフルエンザヘマグルチニン(以下、ヘマグルチニンを「HA」と記載することがある。)ワクチンは、HA抗体を誘導することで感染防御効果を発揮する。HA抗体は、球状部領域(head region)と呼ばれるウイルス膜から外側に露出した部分に結合するが、この部分はウイルス株間で最も構造変化に富む領域となる。その結果、ワクチン株と異なる抗原変異ウイルス感染に対して、HA抗体が結合できずワクチンが奏功しないケースがある。
【0003】
近年、抗原変異を起こしにくい幹領域(stem region)に結合する抗体の中に、感染防御抗体が含まれることが明らかにされた(特許文献1)。ステム抗体を効率的に誘導するため、人工的な変異やリンカーを結合させることで、不安定なステム部分の安定化に成功したHAステムタンパクが開発され、ヒト臨床試験が実施されている。
【0004】
しかし、実用化に向けた製造面での課題も残されており、より簡便にステム抗体を誘導可能なHAワクチン抗原の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-516090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、抗原変異を起こしにくいインフルエンザのHA幹領域に結合する抗体を産生する、インフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるHAスプリットワクチンの製造方法は、インフルエンザHAスプリットワクチンに酸性処理を施すことにより、HA幹領域のLAH(long alpha helix)に結合する抗体を産生する、抗原変異インフルエンザウイルスに対しても有効なインフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法である。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のものに関する。
[項1]
インフルエンザHAスプリットワクチンに酸性処理を施すことにより、HA幹領域のLAHに結合する抗体を産生する、インフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法。
[項2]
該インフルエンザHAスプリットワクチンが、抗原変異インフルエンザウイルスに対しても有効である、項1に記載の製造方法。
[項3]
インフルエンザHAスプリットワクチンに酸性処理を施すことにより、HA幹領域のLAHに結合する抗体を産生する、抗原変異インフルエンザウイルスに対するインフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法。
[項4]
前記酸性処理はpH4.4~5.8にて処理を行うことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のインフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法。
[項5]
前記インフルエンザHAスプリットワクチンはH3N2型又はH1N1型であることを特徴とする
請求項1~4のいずれかに記載のインフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法。
[項6]
HA幹領域のLAHに結合する抗体を産生する、インフルエンザHAスプリットワクチン。
[項7]
該インフルエンザHAスプリットワクチンが、抗原変異インフルエンザウイルスに対しても有効である、項6に記載のインフルエンザHAスプリットワクチン。
[項8]
該インフルエンザHAスプリットワクチンが、HA幹領域が外部に露出した形状である、項6または7に記載のインフルエンザHAスプリットワクチン。
[項9]
インフルエンザHAスプリットワクチン抗原のHA幹領域が外部に露出した形状であることにより、HA幹領域のLAHの抗原性が高められており、かつ、HA幹領域のLAHに結合する抗体を産生することができる、項6~8のいずれかに記載のインフルエンザHAスプリットワクチン。
[項10]
インフルエンザHAスプリットワクチンに酸性処理を施すことにより製造される、HA幹領域のLAHに結合する抗体を産生する、インフルエンザHAスプリットワクチン。
[項11]
インフルエンザHAスプリットワクチンに酸性処理を施すことにより製造される、HA幹領域のLAHに結合する抗体を産生する、抗原変異インフルエンザウイルスに対しても有効なインフルエンザHAスプリットワクチン。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な手法により、抗原変異を起こしにくいインフルエンザのHA幹領域に結合する抗体を産生する、インフルエンザHAスプリットワクチンが得られる。そのため抗原変異インフルエンザウイルスに対しても有効なインフルエンザHAスプリットワクチンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】インフルエンザウイルスを説明する模式図である。
図2】H3N2型の膜融合型HAスプリットワクチンを接種したマウスの血清中のLAH抗体価の上昇を示す図である。
図3】H3N2型の膜融合型HAスプリットワクチンを接種したマウスの抗原変異株に対する交差防御能の向上を示す図である。
図4】H1N1型の膜融合型HAスプリットワクチンを接種したマウスの血清中のLAH抗体価の上昇を示す図である。
図5】H1N1型の膜融合型HAスプリットワクチンを接種したマウスの抗原変異株に対する交差防御能の向上を示す図である。
図6】LAH結合性モノクローナル抗体が、現行HAスプリットワクチンよりも膜融合型HAスプリットワクチンに対して強く結合することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0012】
本実施形態にかかるインフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法では、インフルエンザHAスプリットワクチンに酸性処理を施す工程を有する。
【0013】
インフルエンザHAスプリットワクチンは、エーテルで全粒子ワクチンを処理して発熱物質となる脂質成分を除いたものであり、また、免疫に必要なウイルス粒子表面のHA蛋白を密度勾配遠沈法により回収して製造するためHA蛋白が主成分となっている。
【0014】
インフルエンザウイルスの表面には、スパイクタンパクという糖タンパク質が突き出ている(図1)。A型インフルエンザウイルスには、HAとNA(ノイラミニダーゼ)の二種類のスパイクタンパクがあり、ウイルスが感染を起こすための役割を果たす。HAは感染しようとする細胞に結合し、ウイルスを細胞の中に取り込む役割をする。HAは頻繁に抗原変異を起こす。NAは、感染した細胞とHAの結合を切って、複製されたウイルスを細胞から放出させる役割を持つ。
【0015】
インフルエンザA型ウイルスのHAは、球状部領域と幹領域の2つに分けられる(図1)。球状部領域は、ウイルスが標的細胞に結合するためのレセプター結合部位を含んでいる。
また幹領域は、ウイルス膜と標的細胞の細胞膜との膜融合に必要な融合ペプチド配列を含んでいる。
【0016】
インフルエンザHAスプリットワクチンに酸性処理を施すことにより、HAタンパクは膜融合型と呼ばれる構造に変化する。膜融合型HAタンパクでは、抗原ステム立体構造の大きな構造変化を伴いながら、球状部領域に代わり幹領域がウイルス膜から外部に露出した形状となる。本発明者は、膜融合型HAをワクチンとして使用したとき、幹領域のLAHに結合する抗体が誘導され、この抗体が抗原変異ウイルス株への防御効果を有することをin vivoで新知見として見出し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。
【0017】
酸性処理は、特に限定されるものではないが、例えばpH3.0~6.5、好ましくは4.0~6.0、更に好ましくは4.4~5.8である。酸性処理を施すために使用される酸は、特に限定されるものではないが、例えばリン酸、クエン酸、マレイン酸等を使用することが可能である。
【0018】
抗原性の違いからA型インフルエンザウイルスのHAは18の亜型(H1~H18)に、NAは9の亜型(N1~N9)に分けられるが、本発明のインフルエンザHAスプリットワクチンはこれら全ての亜型を対象とすることが可能である。また本発明にかかるインフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法ではA型のみならず、HAを有するB型のワクチンも製造可能である。
【0019】
本発明にかかる製造方法で得られたインフルエンザHAスプリットワクチンは、変異の少ないLAHに結合する抗体を産生することから、同一のHAの亜型内であれば、抗原変異株として知られるインフルエンザウイルスに対しても交差防御が可能であり得る。さらに、LAHのアミノ酸配列が類似しているHA亜型間(例えば、H3型とH7型)では交差反応性を示しうる。
【0020】
本発明にかかる製造方法で得られたインフルエンザHAスプリットワクチンは、LAH結合性モノクローナル抗体に対して、現行HAスプリットワクチンよりも強く結合することが好ましい。例えば、LAH結合性モノクローナル抗体に対して、現行HAスプリットワクチンよりも1.05倍以上、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.5倍以上、更に好ましくは2倍以上強く結合することが好ましい。ここで、現行HAスプリットワクチンよりも1.05倍、1.1倍、1.5倍、または2倍以上強く結合するとは、例えば、回帰によって求めた吸光度が0.7を示した時の抗体濃度の逆数が、現行HAスプリットワクチンの抗体濃度の逆数の、それぞれ1.05倍、1.1倍、1.5倍、または2倍以上であることをいう。現行HAスプリットワクチンと比較した本発明のインフルエンザHAスプリットワクチンのLAH結合性モノクローナル抗体に対する結合性は高い方が好ましく、上限は特に限定されるものではないが、例えば1.05~200倍、1.1~150倍、1.5~100倍、2~50倍の範囲が例示される。あるいは現行HAスプリットワクチンと比較した本発明のインフルエンザHAスプリットワクチンのLAH結合性モノクローナル抗体に対する結合性の範囲は、1.05、1.1、1.5、2、3、4、および5から選択される下限値と200、150、100、50、30、および20から選択される上限値との組合せにより示されうる。LAH結合性モノクローナル抗体に対するインフルエンザHAスプリットワクチンの結合性の測定方法は特に限定されず、当業者に知られる一般的な方法で行うことができるが、例えば本願実施例の方法に従って測定することができる。
【0021】
本願において、LAH結合性モノクローナル抗体とは、LAHに結合するモノクローナル抗体を意味し、その製造方法は特に限定されず、当業者に知られる一般的な方法により製造することができる。LAH結合性モノクローナル抗体に対するインフルエンザHAスプリットワクチンの結合性の測定においては、LAH結合性モノクローナル抗体は当該インフルエンザHAスプリットワクチンが由来するインフルエンザウイルスのLAHの少なくとも一部に相当するペプチドに結合することができるものであることを意味する。
【0022】
本願において、現行HAスプリットワクチンとは、エーテルで全粒子ワクチンを処理して発熱物質となる脂質成分を除いたものを意味し、例えば本願実施例1の方法により製造することができる。また、現行HAスプリットワクチンは、以下の酸性処理を施す工程を有する方法により製造された本発明のインフルエンザHAスプリットワクチンに対して、酸性処理を施さずに製造されたインフルエンザHAスプリットワクチンであり得る。
【0023】
本発明にかかるインフルエンザHAスプリットワクチンの製造方法では、アジュバントを包含させる工程を有することが可能である。アジュバントとしては、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、キトサン、オリゴデオキシヌクレオチド、水中油型エマルジョン等を用いることが可能である。好ましくは水酸化アルミニウムであり、水酸化アルミニウムをアジュバントとして用いることにより、免疫原性を高めることができる。
【0024】
本発明にかかる製造方法で得られたインフルエンザHAスプリットワクチンは、例えば、初回接種の後、所定期間の経過後に追加接種するように使用されることが可能である。初回接種の後、追加接種されるまでの期間は、特に限定されるものではないが、例えば20日~3年であり、好ましくは3月~2年であり、より好ましくは6月~1年である。初回接種及び追加接種のインフルエンザHAスプリットワクチンの量は、特に限定されるものではないが、1用量あたり例えば1μg~200μgであり、好ましくは10μg~30μgであり、より好ましくは15μgである。1用量は例えば0.5mLである。初回接種及び追加接種では、投与方法は特に限定されるものではないが、例えば経鼻、皮下、皮内、経皮、眼内、粘膜、又は、経口投与であり、好ましくは、筋肉内投与である。
【0025】
本発明にかかる製造方法で得られたインフルエンザHAスプリットワクチンは、抗原変異ウイルス株への防御効果を有する。例えば、H3N2型インフルエンザウイルス粒子(A/Fujian/411/02(H3N2))から現行HAスプリットワクチンを調整し、酸性処理を施した場合、A/Fujian/411/02(H3N2)のみならず、例えば、A/Guizhou/54/89(H3N2)、A/OMS/5389/88(H3N2)、A/Beijing/32/92(H3N2)、A/England/427/88(H3N2)、A/Johannesburg/33/94(H3N2)、A/Leningrad/360/86(H3N2)、A/Mississippi/1/85(H3N2)、A/Philippines/2/82(H3N2)、A/Shangdong/9/93(H3N2)、A/Shanghai/16/89(H3N2)、A/Shanghai/24/90(H3N2)、A/Sichuan/2/87(H3N2)、A/Kitakyushyu/159/93(H3N2)、A/Akita/1/94(H3N2)、A/Panama/2007/99(H3N2)、A/Wyoming/03/03(H3N2)、A/New York/55/2004(H3N2)又はA/Hiroshima/52/2005(H3N2)等に対しても感染防御効果を有しうる。また例えばH1N1型インフルエンザウイルス粒子(A/Puerto Rico/8/34(H1N1))から現行HAスプリットワクチンを調整し、酸性処理を施した場合、A/Puerto Rico/8/34(H1N1)のみならず、例えば、A/Narita/1/09(H1N1)、A/Beijing/262/95(H1N1)、A/Brazil/11/78(H1N1)、A/Chile/1/83(H1N1)、A/New Jersey/8/76(H1N1)、A/Taiwan/1/86(H1N1)、A/Yamagata/32/89(H1N1)、A/New Caledonia/20/99(H1N1)、A/Solomon Islands/3/2006(H1N1)、A/Brisbane/59/2007(H1N1)又はA/Mexico/4108/2009(H1N1)等に対しても感染防御効果を有しうる。
【実施例
【0026】
1.HAスプリットワクチンの調整
リン酸緩衝生理食塩水に懸濁したH3N2型インフルエンザウイルス粒子(X31株)もしくはH1N1型インフルエンザウイルス粒子(A/Puerto Rico/8/34株)に、最終濃度が0.2%になるようTween80を添加し懸濁した。ジエチルエーテルを加えさらに懸濁し、水層とジエチルエーテル層が完全に分離するまで静置した後、ジエチルエーテル層を取り除いた。このエーテル抽出を繰り返した後、回収した水層に残存するジエチルエーテルを常圧で留去し、HAスプリットワクチンとした。
【0027】
2.酸性処理
HAスプリットワクチンをリン酸緩衝生理食塩水で懸濁後、酸性処理として0.15Mクエン酸緩衝液(pH 3.5)を添加しpHを5.0にした。室温で30分静置した後、1M Tris緩衝液 (pH8.0)を加えて、pHを7.3に戻した。その後、遠心分離を行い、膜融合型HAスプリットワクチンとした。作製した膜融合型HAスプリットワクチンに、最終濃度0.05%になるようホルマリンを加えて数日静置した。
【0028】
なお、現行HAスプリットワクチンの場合は、1.で調整したHAスプリットワクチンに対して酸性処理を施さない以外は上記と同様の処理を行った。
【0029】
3.ELISA法によるLAH抗体価の測定
3-1.H3N2型インフルエンザワクチンの接種
BALB/cマウス(♀、6~12週令)に、H3N2型の現行HAスプリットワクチン又は膜融合型HAスプリットワクチン(10 μgワクチン + 20 μg AddaVaxアジュバント(InvivoGen)をリン酸緩衝生理食塩水に溶解し、液量200 μlにする)を腹腔内接種した。初回ワクチン接種28日後に、膜融合型HAワクチン(10 μgワクチンのみをリン酸緩衝生理食塩水に溶解し、液量200 μlにする)を腹腔内接種した。追加ワクチン接種から14日後以降に、ワクチンを接種したマウスより採血を行い、血清を回収した。
【0030】
3-2.ELISA法による測定
下記に示す手法により、ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)にて、H3N2型の現行HAスプリットワクチン又は膜融合型HAスプリットワクチンを腹腔内接種したBALB/cマウスの血清中のLAH抗体濃度を測定した。
【0031】
即ち、ステム部分の一部(long alpha helix)に相当する合成ペプチド(H3; Ac-RIQDLEKYVEDTKIDLWSYNAELLVALENQHTIDLTDSEMNKLFEKTRRQLRENADYKDDDDKC)(配列番号1)を10 μg/mlにてリン酸緩衝生理食塩水(pH 7.3)に溶解し、96ウェルプレートに100 μlずつ添加した。4℃で一晩静置した後、リン酸緩衝生理食塩水にて各ウェルを3回洗浄し、1%牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩水を150 μlずつ添加した。室温で2時間静置後、リン酸緩衝生理食塩水にて各ウェルを3回洗浄し、Tween20を0.05%と1%牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液にて段階希釈したマウス血清と、濃度既知の標準モノクローナル抗体(H3; クローン名V15-5)を各ウェルに100 μlずつ添加した。室温で2時間静置後、リン酸緩衝生理食塩水(Tween20を0.05%含む)にて各ウェルを3回洗浄し、0.05%Tween20と1%牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩水にて希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(Southern Biotech)を各ウェルに100 μlずつ添加した。室温で2時間静置後、リン酸緩衝生理食塩水(Tween20を0.05%含む)にて各ウェルを3回洗浄し、基質としてクエン酸緩衝液(pH 5.0) 60 mlにo-phenylendiamine tablet (シグマ) 30 mgと24 μlの30%過酸化水素水(30%w/w; シグマ)を加えたものを調整し、それを各ウェルに100 μlずつ添加した。発色後50 μlの2N硫酸(和光純薬工業)で反応を止め、Microplate Reader 450型(Biorad)を用いて490 nmの吸光値を測定した。
【0032】
図2に示されるように、膜融合型HAスプリットワクチンを腹腔内接種したBALB/cマウスの血清中のLAH抗体価は、現行HAスプリットワクチンを腹腔内接種したBALB/cマウスの血清中のLAH抗体価よりも、有意に上昇していた。
【0033】
4.抗原変異株に対する交差防御
H3N2型ウイルス感染防御実験では、ワクチン非接種マウス、又は、H3N2型の現行HAスプリットワクチン若しくは膜融合型HAスプリットワクチン接種後のマウスより回収した血清を、BALB/cマウス(♀、6~12週令)に200 μlずつ腹腔内投与した。
【0034】
血清投与から3時間後、ワクチン株とは抗原性の異なる別のH3N2型インフルエンザウイルス (A/Guizhou/54/89)を5マウスlethal dose50 (50%のマウスに致死性感染をおこすウイルス量の5倍)にて麻酔下において経鼻投与することでウイルス感染を行った。
【0035】
ウイルス感染から21日間、毎日マウスの体重測定及び観察を行い、体重の推移と生存率を調べた。25%の体重減少が認められたマウスが生じた場合は、安楽殺処分とした。
【0036】
図3に示されるように、膜融合型HAスプリットワクチンを接種したBALB/cマウスでは、抗原性の異なる別のH3N2型インフルエンザウイルス感染後9日目から有意に生存率低下を抑制できた。
【0037】
5.ELISA法によるLAH抗体価の測定
5-1.H1N1型インフルエンザウイルス粒子
C57BL/6マウス(♀、6~12週令)に、H1N1型の現行HAスプリットワクチン又は膜融合型HAスプリットワクチン(10 μgワクチン + 10 μg CpG-ODN1760をリン酸緩衝生理食塩水に懸濁し、等量のFreund’s incomplete adjuvant (ROCKLAND) と混合して液量200 μlにする)を腹腔内接種した。初回ワクチン接種28日後に、膜融合型HAスプリットワクチン(初回ワクチン接種と同様に、10 μgワクチン + 10 μg CpG-ODNをリン酸緩衝生理食塩水に懸濁し、等量のFreund’s incomplete adjuvant (ROCKLAND) と混合して液量200 μlにする)を腹腔内接種した。追加ワクチン接種から14日後以降に、ワクチンを接種したマウスより採血を行い、血清を回収した。
【0038】
5-2.ELISA法による測定
下記に示す手法により、ELISA法にて、H1N1型の現行HAスプリットワクチン又は膜融合型HAスプリットワクチンを腹腔内接種したC57BL/6マウスの血清中のLAH抗体濃度を測定した。
【0039】
ステム部分の一部(long alpha helix)に相当する合成ペプチド(H1; Ac-RIENLNKKVDDGFLDIWTYNAELLVLLENERTLDYHDSNVKNLYEKVRSQLKNNADYKDDDDKC)(配列番号2)を使用し、濃度既知の標準モノクローナル抗体(H1; クローン名F2)を使用した以外は、上記と同様の手法を用いた。
【0040】
図4に示されるように、膜融合型HAスプリットワクチンを腹腔内接種したC57BL/6マウスの血清中のLAH抗体価は、現行HAスプリットワクチンを腹腔内接種したC57BL/6マウスの血清中のLAH抗体価よりも、有意に上昇していた。
【0041】
6.抗原変異株に対する交差防御
H1N1型ウイルス感染防御実験では、ワクチン非接種マウス、又は、H1N1型の現行HAスプ
リットワクチン若しくは膜融合型HAスプリットワクチン接種後のマウスより回収した血清を、C57BL/6マウス(♀、6~12週令)に200 μlずつ腹腔内投与した。
【0042】
血清投与から3時間後、ワクチン株とは抗原性の異なる別のH1N1型インフルエンザウイルス (A/Narita/1/09)を5マウスlethal dose50 (50%のマウスに致死性感染をおこすウイルス量の5倍)にて麻酔下において経鼻投与することでウイルス感染を行った。
【0043】
ウイルス感染から20日間、毎日マウスの観察を行い、生存率を調べた。図5に示されるように、膜融合型HAスプリットワクチンを接種したC57BL/6マウスでは、抗原性の異なる別のH1N1型インフルエンザウイルス感染後9日目から有意に生存率低下を抑制できた。
【0044】
7.LAH epitopeに対する抗体結合性
ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)により、X31株を感染させたマウスもしくはヒト末梢血より作製したLAH結合性モノクローナル抗体の、現行HAスプリットワクチンまたは膜融合型HAスプリットワクチンに対する結合を測定した。H3N2型インフルエンザウイルス(X31株)の現行HAスプリットワクチンまたは膜融合型HAスプリットワクチンをリン酸緩衝生理食塩水(pH 7.3)に溶解し、96ウェルプレートに50 μlずつ添加した。4℃で一晩静置した後、リン酸緩衝生理食塩水にて各ウェルを3回洗浄し、1%牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩水を150 μlずつ添加した。室温で2時間静置後、リン酸緩衝生理食塩水(Tween20を0.05%含む)にて各ウェルを3回洗浄し、1%牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液にて段階希釈したLAH結合性のモノクローナル抗体を50μlずつ添加した。4℃で一晩静置した後、リン酸緩衝生理食塩水(Tween20を0.05%含む)にて各ウェルを3回洗浄し、0.05%Tween20と1%牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩水にて希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(Southern Biotech)を各ウェルに100μlずつ添加した。室温で2時間静置後、リン酸緩衝生理食塩水(Tween20を0.05%含む)にて各ウェルを3回洗浄し、基質としてクエン酸緩衝液(pH 5.0) 60 mlにo-phenylendiamine tablet (シグマ) 30 mgと24 μlの30%過酸化水素水(30%w/w; シグマ)を加えたものを調製し、それを各ウェルに50μlずつ添加した。発色後25μlの1mol/L硫酸(和光純薬工業)で反応を止め、Microplate Reader 450型(Biorad)を用いて490 nmの吸光値を測定した。測定した現行HAスプリットワクチンまたは膜融合型HAスプリットワクチンに対するそれぞれの吸光値より、結合性の変化を算出した。
【0045】
図6に示されるように、LAH結合性モノクローナル抗体が膜融合型HAスプリットワクチンに対して現行HAスプリットワクチンよりも1.05~21倍強く結合した。これらの結果は、HAスプリットワクチンの酸性処理により、LAH epitopeに対する抗体結合性が亢進することを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
インフルエンザワクチンの製造に利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0047】
配列番号1、2:合成ペプチド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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