(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】鉄筋接合用治具
(51)【国際特許分類】
B23K 20/00 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
B23K20/00 330C
(21)【出願番号】P 2022159632
(22)【出願日】2022-10-03
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】593001897
【氏名又は名称】岩下 和久
(73)【特許権者】
【識別番号】394024983
【氏名又は名称】東海ガス圧接株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【氏名又は名称】工藤 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100204456
【氏名又は名称】調 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】岩下 和久
(72)【発明者】
【氏名】宮口 樹哉
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3081447(JP,U)
【文献】実開昭56-91688(JP,U)
【文献】特開平8-174237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部同士が互いに対向した状態で外周部の一部に円形部を有する二本の鉄筋をそれぞれ保持し、一方の鉄筋の端部を保持する第1保持面を有する固定保持部と、前記一方の鉄筋の端部に対して他方の鉄筋の端部を接離自在に保持する第1保持面と同形状の第2保持面を有する可動保持部とを備え、前記一方の鉄筋の端部の軸方向中心位置に対して前記他方の鉄筋の端部の軸方向中心位置を調整する調整部材を有する鉄筋接合用工具の前記固定保持部及び前記可動保持部にそれぞれ装着される鉄筋接合用治具であって、
前記第1保持面または前記第2保持面に嵌合可能な第1面及び前記円形部に嵌合可能な第2面を有する鉄筋保持部と、前記第1保持面または前記第2保持面に前記第1面が嵌合した状態で前記鉄筋保持部を前記固定保持部または前記可動保持部に固定する固定部とを有する鉄筋接合用治具。
【請求項2】
請求項1記載の鉄筋接合用治具において、
前記第1保持面及び前記第2保持面は二面の平面部を有し、前記第1面は前記各平面部に面接触可能な接触面を有することを特徴とする鉄筋接合用治具。
【請求項3】
請求項1または2記載の鉄筋接合用治具において、
前記第2面は前記円形部と同じ直径を有する円の半円形状であることを特徴とする鉄筋接合用治具。
【請求項4】
請求項3記載の鉄筋接合用治具において、
前記鉄筋保持部は、上端部に比して下端部が前記固定部側に位置していることを特徴とする鉄筋接合用治具。
【請求項5】
請求項1記載の鉄筋接合用治具において、
前記固定部はねじを有することを特徴とする鉄筋接合用治具。
【請求項6】
請求項1記載の鉄筋接合用治具において、
前記固定部はクリップ部を有することを特徴とする鉄筋接合用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二本の鉄筋の端面同士を溶接により接合する際に、各鉄筋の端面の軸方向中心位置を一致させるために用いられる鉄筋接合用工具に装着可能な鉄筋接合用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
プレキャストの柱、梁、床等を一階ずつ組み立てて躯体を構築し、続いて仕上げ、設備工事まで含めて順次一層ずつ完成させていくシステム工法であるRC積層工法が知られている。現在では、高強度コンクリートを使用することにより三十階を超える建築が可能であり、ここで用いられる高強度コンクリートは、コンクリートの芯部に鋼鉄製の細い棒である鉄筋を埋設した鉄筋コンクリートである。
鉄筋コンクリートに用いられる鉄筋には、主筋として用いられる柱筋及び柱筋同士を囲むように接合される帯筋があり、鉄筋の長さが不足する場合には二本の鉄筋をつなぎ合わせる接合が行われる。
【0003】
接合には、二本の鉄筋の端面同士を突き合わせた状態で加熱及び加圧して接合するガス圧接工法と、表面に雄ねじ加工が施された二本のねじ節鉄筋をカプラと呼ばれる雌ねじ加工が施された長いナットを用いて接合する機械式接合工法とがある。ガス圧接工法は、表面に縦リブと呼ばれる軸方向に形成された膨らみと、横節と呼ばれる軸垂直方向に形成された膨らみとを有する、外形がほぼ円形に形成された竹節鉄筋が用いられる。ガス圧接工法による接合時において、二本の竹節鉄筋の軸方向中心位置が互いにずれていると、接合して一本とした鉄筋の中心位置が接合部においてずれてしまい強度が低下するという問題点がある。
【0004】
そこで、接合される各鉄筋の軸方向中心位置を合致させることが可能な鉄筋接合用工具が提案されており、二本の竹節鉄筋を鉄筋接合用工具にそれぞれ取り付け、各端面同士を突き合わせた状態で外圧により加圧し、さらにガスによって加熱して溶融することにより接合することが従来行われている。しかし、このような鉄筋接合用工具を用いても、工具に作用する応力等により経時的に各軸方向中心位置の位置合わせ精度が悪化するという問題点があった。そこで、工具の経時的な変化に影響されることなく、各鉄筋の軸方向中心位置の位置合わせ精度を維持することが可能な鉄筋接合用工具が提案されている(例えば「特許文献1」または「特許文献2」参照)。
【0005】
一方、機械式接合方法は、二本の鉄筋をカプラによって接合するために各鉄筋の軸方向中心位置がずれることがなく、接合中心のずれによる強度低下が発生しないと共に、溶接等の特別な技術を要することなく、かつ短時間で接合を行うことができるという特徴を有する。しかし、カプラを用いるためにコストが高いと共に、カプラによる接合であるため溶接に比して接合強度が弱いという問題点があった。
そこで最近では、二本のねじ節鉄筋を上述した鉄筋接合用工具にそれぞれ取り付け、各端面同士を突き合わせた状態で外圧により加圧してガスによって加熱して溶融する、ねじ節鉄筋を用いたガス圧接工法も採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-351474号公報
【文献】特開2016-55313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、二本のねじ節鉄筋を鉄筋接合用工具にそれぞれ取り付けてガス圧接工法により接合する場合において、鉄筋接合用工具を用いても各鉄筋の軸方向中心位置を揃えることができず、高強度の鉄筋接合を行うことができないという問題点がある。これは、竹節鉄筋の外形がほぼ円形であるのに対し、ねじ節鉄筋の外形が円形から互いに対向する二面を平面となるように削ぎ落とした、いわゆる小判型形状であることに起因している。
本発明は、上述した問題点を解決し、鉄筋接合用工具を用いて二本の鉄筋の接合を行う際に、用いられる鉄筋の断面が非円形であっても高強度な接合を行うことが可能な鉄筋接合用治具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、端部同士が互いに対向した状態で外周部の一部に円形部を有する二本の鉄筋をそれぞれ保持し、一方の鉄筋の端部を保持する第1保持面を有する固定保持部と、前記一方の鉄筋の端部に対して他方の鉄筋の端部を接離自在に保持する第1保持面と同形状の第2保持面を有する可動保持部とを備え、前記一方の鉄筋の端部の軸方向中心位置に対して前記他方の鉄筋の端部の軸方向中心位置を調整する調整部材を有する鉄筋接合用工具の前記固定保持部及び前記可動保持部にそれぞれ装着される鉄筋接合用治具であって、前記第1保持面または前記第2保持面に嵌合可能な第1面及び前記円形部に嵌合可能な第2面を有する鉄筋保持部と、前記第1保持面または前記第2保持面に前記第1面が嵌合した状態で前記鉄筋保持部を前記固定保持部または前記可動保持部に固定する固定部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉄筋接合用工具にそれぞれ保持された二本の鉄筋の鉛直方向における軸方向中心位置を互いに整合させることができ、用いられる鉄筋の断面が非円形であっても高強度な接合を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態を適用可能な鉄筋接合用工具の(A)概略側面図(B)概略斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態を適用可能な鉄筋接合用工具を用いた鉄筋接合工程を説明する概略図である。
【
図3】従来用いられている竹節鉄筋を説明する概略図である。
【
図4】従来の竹節鉄筋を用いた鉄筋接合工程を説明する概略図である。
【
図5】従来の竹節鉄筋を用いた鉄筋接合工程を説明する(A)概略側面図(B)概略正面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に用いられるねじ節鉄筋を説明する概略図である。
【
図7】従来のねじ節鉄筋を用いた鉄筋接合工程を説明する(A)概略側面図(B)概略正面図である。
【
図8】従来のねじ節鉄筋を用いた鉄筋接合工程における各鉄筋の芯合わせ工程を説明する概略図である。
【
図9】従来のねじ節鉄筋を用いた鉄筋接合工程における各鉄筋の芯合わせ工程を説明する(A)概略側面図(B)概略正面図である。
【
図10】従来のねじ節鉄筋を用いた鉄筋接合工程における各鉄筋の芯合わせ工程における問題点を説明する概略図である。
【
図11】本発明の第1の実施形態に係る鉄筋接合用治具の概略斜視図である。
【
図12】本発明の第1の実施形態に係る鉄筋接合用治具の概略側面図である。
【
図13】本発明の第1の実施形態に係る鉄筋接合用治具の鉄筋保持部を説明する概略図である。
【
図14】本発明の第1の実施形態に係る鉄筋接合用治具を鉄筋接合用工具に取り付けた状態を説明する概略図である。
【
図15】本発明の第2の実施形態に係る鉄筋接合用治具の概略斜視図である。
【
図16】本発明の第2の実施形態に係る鉄筋接合用治具の概略側面図である。
【
図17】本発明の第1の実施形態に係る鉄筋接合用治具と本発明の第2の実施形態に係る鉄筋接合用治具とをそれぞれ鉄筋接合用工具に取り付けた際に鉄筋を取り外す状態を説明する概略図である。
【
図18】本発明の第3の実施形態に係るクリップ部の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
先ず、本発明が適用可能な鉄筋接合用工具及びガス圧接工法による鉄筋接合工程について説明する。
図1は、本発明が適用可能な鉄筋接合用工具1を示している。鉄筋接合用工具1は、中空状支持体2に固定された固定保持部3と、中空状支持体2の長手方向に沿って移動可能な可動保持部4とを備えている。
【0012】
固定保持部3は中空状支持体2の長手方向における一端部の外周面上に設けられており、接合対象物である二本の鉄筋のうちの一方の鉄筋を挟持する。可動保持部4は中空状支持体2の内部に摺動自在に設けられた円柱状の摺動体5の外周面上に設けられている。摺動体5は中空状支持体2の周面に形成された長穴2aから一体的に延出形成された延長部5aを外側に向けて突出させており、可動保持部4は延長部5aの先端に固定され、接合対象物である二本の鉄筋のうちの他方の鉄筋を挟持する。
摺動体5は図示しないシリンダのプランジャによって外圧を受け、中空状支持体2の長手方向に向けて中空状支持体2内を移動する。固定保持部3は、中空状支持体2の外周面に一体的に設けられた延長部3aの先端に固定されている。なお図示しないシリンダは、摺動体5に対して外圧を付与可能であれば油圧式、空気圧式、手動式等の何れの方式であってもよい。
【0013】
固定保持部3と可動保持部4とはそれぞれ同様に構成されており、ここでは可動保持部4を代表して説明する。可動保持部4は、鉄筋6の外周面を保持する第2保持面としての凹状面7と、凹状面7に対向した垂直方向の内壁面である縦壁面8とを備えている。凹状面7には二箇所の平面部7a,7bが形成されており、縦壁面8には雌ねじが形成され、この雌ねじには鉄筋固定用ねじ9が挿通されている。鉄筋固定用ねじ9を凹状面7側に向けて進出させると、鉄筋固定用ねじ9の先端部が鉄筋6に当接し、凹状面7側に鉄筋6を押し付けることができるため鉄筋6が可動保持部4に保持される。このとき鉄筋6は、その外周面を各平面部7a,7bに接触させて位置決めされる。なお、
図1(B)に示すように、固定保持部3側にも凹状面7と同様の平面部7a,7bを有する凹状面7A、縦壁面8、鉄筋固定用ねじ9が設けられている。凹状面7Aは、鉄筋6の外周面を保持する第1保持面として機能する。
この構成において、固定保持部3と可動保持部4とがそれぞれ同様に構成されているため、各保持部3,4にそれぞれ保持された各鉄筋6の鉛直方向における軸方向中心位置は、互いに同じ位置を占める。
【0014】
可動保持部4に保持されている鉄筋6の軸方向中心位置の位相をずらすため、鉄筋接合用工具1には延長部5aを挟む態様で調整部材10が設けられている。
ここで、鉄筋6の軸方向中心位置の位相をずらすとは、
図1(a)において、摺動体5における円形断面の軸方向中心を中心として、可動保持部4が図の左右方向に揺動することにより達成される。この動作により、固定保持部3側での鉄筋6の軸方向中心位置に対して可動保持部4側での鉄筋6の軸方向中心位置を整合させることができる。各鉄筋の中心位置合わせ、いわゆる芯合わせが行われた各保持部3,4の関係は、保持される鉄筋6のサイズが更新されるまでの間、あるいは経時的変化による横ずれや折れ曲がりが顕著となるまでの間、維持されることとなる。
【0015】
調整部材10は、長穴2aの両側において基端を中空状支持体2の外周面に固定され、先端部が延長部5aの両面と対向するようにそれぞれ延出形成された一対の支持片部10aと、各支持片部10aにそれぞれ形成された雌ねじ10bと、各雌ねじ10bにそれぞれ螺号された調整ねじ10cとを備えている。各調整ねじ10cをそれぞれ軸方向の同じ方向に移動させると、各調整ねじ10cの先端部が延長部5aを移動させることで可動保持部4が摺動体5における円形断面の軸方向中心を中心として図の左右方向に揺動する。これにより、凹状面7及び鉄筋固定用ねじ9によって保持されている鉄筋6の軸方向中心位置の位相を
図1(A)において左右方向、すなわち上述した鉛直方向に直交する水平方向へとずらすことができる。
【0016】
このように、各鉄筋6のそれぞれの端部における軸方向中心位置が合わされると、次に
図2に示すように、図示しないシリンダのプランジャによって中空状支持体2の長手方向に向けて摺動体5に外圧が付与される。外圧が付与された摺動体5は中空状支持体2内を
図2において右方へと移動され、摺動体5に支持された可動保持部4に保持された他方の鉄筋6の端部が、固定保持部3に保持された一方の鉄筋6の端部に対して圧接される。この状態でバーナー11によって各鉄筋6の接合部が熱せられることにより、一方の鉄筋6と他方の鉄筋6とが熱及び圧力によって接合され、ガス圧接工法を用いた鉄筋接合工程が完了する。
【0017】
ここで、[発明が解決しようとする課題]の欄で説明した問題点について詳細に説明する。
図3は、ガス圧接工法に用いられる鉄筋6としての竹節鉄筋12を示している。竹節鉄筋12は、外径がほぼ円形に形成されており、その外周面上には、軸方向に向けて二本の縦リブ12aが突出形成されていると共に、軸垂直方向に向けて複数本の横節12bが突出形成されている。各横節12bはそれぞれ半円形状となるように、それぞれの端部が各縦リブ12aに接続されている。竹節鉄筋12は、外周面上に形成された各縦リブ12a及び各横節12bによる凹凸により、コンクリートに対しての噛み合い性が向上されて強度が向上するように構成されている。
【0018】
図4は、鉄筋接合用工具1に二本の竹節鉄筋12A,12Bを保持させた状態を示している。
図4(B)に示す状態において鉄筋接合用工具1は、固定保持部3と可動保持部4とにおいて、互いに位相が90度ずれた状態で二本の竹節鉄筋12A,12Bをそれぞれ保持している。
ここで、上述したように、固定保持部3と可動保持部4とがそれぞれ同様に構成されているため、各保持部3,4にそれぞれ保持された各竹節鉄筋12A,12Bの鉛直方向における軸方向中心位置は、互いに同じ位置を占める。そして
図5に示すように、上述と同様に調整部材10を操作することにより、竹節鉄筋12Aの軸方向中心線12A1と竹節鉄筋12Bの軸方向中心線12B1の水平方向における位置を合わせることができる。
【0019】
ところで、近年では上述したようにコスト低減の観点から、二本のねじ節鉄筋を鉄筋接合用工具1にそれぞれ取り付けてガス圧接工法により接合する場合が増えてきている。この場合の工程を以下に説明する。
図6は、ガス圧接工法に用いられる鉄筋6としてのねじ節鉄筋13を示している。ねじ節鉄筋13は、ほぼ円形に形成された外周面上に雄ねじ13aが形成され、その外形は円形から互いに対向する二つの面を平面13b,13bとなるように削ぎ落とした、平面13b,13bと円形部である雄ねじ13aとを有するいわゆる小判型形状を呈している。ねじ節鉄筋13は、外周面上に形成された雄ねじ13aによる凹凸により、コンクリートに対しての噛み合い性が向上されて強度が向上するように構成されている。
【0020】
図7は、鉄筋接合用工具1に二本のねじ節鉄筋13A,13Bを保持させた状態を示している。
図7(B)に示す状態において鉄筋接合用工具1は、固定保持部3と可動保持部4とにおいて、互いに位相が90度ずれた状態で二本のねじ節鉄筋13A,13Bをそれぞれ保持している。
図7(B)に示す状態において、
図7(A)に示すように、ねじ節鉄筋13Aは円形部である雄ねじ13aを各平面部7a,7bにそれぞれ当接させた状態で可動保持部4に保持されており、ねじ節鉄筋13Aとは位相が90度ずれたねじ節鉄筋13Bも円形部である雄ねじ13aを各平面部7a,7bにそれぞれ当接させた状態で固定保持部3に保持されている。
この状態では、
図4に示した竹節鉄筋12A,12Bの保持時と同様に、各保持部3,4にそれぞれ保持された各ねじ節鉄筋13A,13Bの鉛直方向における軸方向中心位置は、
図8に示すように互いに同じ位置を占める。そして
図9に示すように、上述と同様に調整部材10を操作することにより、ねじ節鉄筋13Aの軸方向中心線13A1とねじ節鉄筋13Bの軸方向中心線13B1の水平方向における位置を合わせることができる。
【0021】
しかし、各ねじ節鉄筋13A,13Bの位相が互いに90度ずれて固定保持部3と可動保持部4とに保持された状態としては、
図10に示すように、ねじ節鉄筋13Aが平面13bを平面部7aに当接させ、ねじ節鉄筋13Bが平面13bを平面部7bに当接させた状態も考えられる。この状態では、各保持部3,4にそれぞれ保持された各ねじ節鉄筋13A,13Bの鉛直方向における軸方向中心位置は互いにずれてしまい、各中心位置には鉛直方向においてずれδが生じてしまう。この状態では、調整部材10を操作しても軸方向中心線13Aと軸方向中心線13Bとの鉛直方向における位置合わせを行うことができず、各ねじ節鉄筋13A,13Bの芯合わせを行うことができない。これにより、高強度の鉄筋接合を行うことができないという問題点があった。
【0022】
上述の問題点を解決する本発明の構成を以下に説明する。
図11は本発明の第1の実施形態に係る鉄筋接合用治具の概略斜視図を、
図12は同概略側面図をそれぞれ示している。
図11及び
図12において鉄筋接合用治具14は、共に金属製の鉄筋保持部14Aと固定部14Bとを有しており、鉄筋保持部14Aと固定部14Bとは溶接によって互いに固定されている。ここで、鉄筋同士のガス圧接工法を用いた接合工程に使用される鉄筋接合用治具14は、高温及び高圧力が作用することから高耐久性の部材によって構成される必要があり、本実施形態では機械構造用炭素鋼であるS45Cの焼き入れ材を材質として用いている。
【0023】
鉄筋保持部14Aは、その外形が正八角形を半分に分割したような形状を呈しており、外周面である第1面14A1には少なくとも二つの平面14A2,14A3が形成されている。第1面14A1は、鉄筋接合用治具14が固定保持部3または可動保持部4に取り付けられた際に、
図13に示すように、凹状面7Aまたは凹状面7の平面部7aに対して平面14A2が、平面部7bに対して平面14A3がそれぞれ面接触するように形成されている。
図13に示す状態において、平面14A2,14A3はそれぞれ接触面として機能する。
鉄筋保持部14Aの内面である第2面14A4は、
図13に示すように、鉄筋接合用工具1に保持される断面が非円形であるねじ節鉄筋13の円形部である、雄ねじ13aの外径と同じ直径を有する円の半円形状となるように形成されている。
【0024】
固定部14Bは、
図11に示すようにコ字形状を呈し鉄筋保持部14Aの第1面14A1側に固定された取付部14B1を有しており、取付部14B1は鉄筋保持部14Aとの間に空間14B2を形成している。空間14B2は、固定保持部3及び可動保持部4の凹状面7A,7が形成された縦壁面8と対向する壁部(
図13に符号3A(4A)で示す)が容易に嵌入可能となる大きさに形成されている。
固定部14Bには雌ねじ14B3が二箇所形成されており、各雌ねじ14B3にはそれぞれねじとしての治具固定ねじ14B4が
図12に示すように螺合されている。取付部14B1及び治具固定ねじ14B4によって固定部14Bが構成されている。
【0025】
鉄筋接合用治具14は、
図14に示すように、空間14B2内に壁部3A(4A)を嵌合させ、平面14A2,14A3を平面部7a,7bにそれぞれ面接触させた状態で治具固定ねじ14B4,14B4をねじ込み、治具固定ねじ14B4,14B4の先端を壁部3A(4A)に圧接させることにより、鉄筋接合用工具1の固定保持部3及び可動保持部4のそれぞれに対して一つずつ固定される。
鉄筋接合用治具14が固定されると、鉄筋接合用工具1に対してねじ節鉄筋13を保持させる際に、ねじ節鉄筋13の平面13bがどの位置にある場合であっても円形部である雄ねじ13aが必ず第2面14A4に接触する。この構成により、
図10に示したずれδの発生が防止され、各保持部3,4にそれぞれ保持された各ねじ節鉄筋13A,13Bの鉛直方向における軸方向中心位置を互いに整合させることができ、用いられる鉄筋の断面が非円形であっても高強度な接合を行うことができる。
【0026】
鉄筋は、構造物の形状に合わせて90度曲げ、R曲げ、クランク曲げ等の折り曲げ加工がなされており、現場で配置されている鉄筋の状態には端面同士が向き合わない場合であっても双方の中心を合わせる必要があった。従来は、鉄筋接合用工具1を用いても調整ができない場合には配置されている鉄筋を交換する等の対応が必要であったが、鉄筋接合用治具14を用いることで鉄筋同士の芯合わせ作業を簡易化でき、作業の容易化及び作業工程の短縮化を図ることができる。
【0027】
鉄筋接合用治具14は、鉄筋接合用工具1に使用される全てのサイズの鉄筋(主にD13,D16,D19,D22,D25,D29,D32,D35,D38,D41,D51)、及びこの鉄筋サイズに対応した鉄筋接合用工具1にそれぞれ対応可能となるように複数のサイズのものが作成され、平面14A2,14A3の角度及び長さ、第2面14A4の円弧形状、空間14B2の大きさ等が各サイズに合わせて適宜決定されている。また、鉄筋のサイズに合わせて幅方向長さ(鉄筋の軸方向長さ)も適宜決定され、この長さに合わせて雌ねじ14B3及び治具固定ねじ14B4の個数も適宜変更される。
【0028】
上述の鉄筋接合用治具14では、第1面14A1が凹状面7A,7に形成された各平面部7a,7bに対してそれぞれ面接触する接触面である平面14A2,14A3を有している。この構成により、鉄筋接合用工具1に対して鉄筋接合用治具14が取り付けられた際に、各保持部3,4に対する鉄筋保持部14Aの位置決めが確実に行われるので、保持される鉄筋の軸方向中心位置を精度よく位置決めできる。
また、第2面14A4が円形部であるねじ節鉄筋13の雄ねじ13aと同じ直径を有する円の半円形状であるので、ねじ節鉄筋13が有する平面13bがどのような位置にある場合であっても雄ねじ13aの中心位置を位置決めできる。
また、固定部14Bが治具固定ねじ14B4を有しているので、鉄筋接合用工具1に対する鉄筋接合用治具14の固定を強固に行うことができる。
【0029】
図15は本発明の第2の実施形態に係る鉄筋接合用治具の概略斜視図を、
図16は同概略側面図をそれぞれ示している。
図15及び
図16において鉄筋接合用治具14Xは、上述した鉄筋接合用治具14と比較すると、鉄筋保持部14Aに代えて鉄筋保持部14XAを用いる点においてのみ相違しており、他の構成は同一である。
鉄筋保持部14XAは、その外形が、鉄筋保持部14Aの上端部を固定部14Bから離れる方向に、下端部を固定部14Bに近付ける方向に向けて傾けた形状を呈しており、外周面である第1面14XA1には少なくとも二つの平面14XA2,14XA3が形成されている。第1面14XA1は、鉄筋接合用治具14Xが固定保持部3または可動保持部4に取り付けられた際に、凹状面7Aまたは凹状面7の平面部7aに対して平面14XA2が、平面部7bに対して平面14XA3がそれぞれ面接触するように形成されており、平面14XA2,14XA3はそれぞれ接触面として機能する。
鉄筋保持部14XAの内面である第2面14XA4は、第2面14A4と同様に、雄ねじ13aの外径と同じ直径を有する円の半円形状となるように形成されている。
【0030】
図17(A)は鉄筋接合用治具14を取り付けた状態の鉄筋接合用工具1から鉄筋であるねじ節鉄筋13を取り外す際の状態を、
図17(B)は鉄筋接合用治具14Xを取り付けた状態の鉄筋接合用工具1からねじ節鉄筋13を取り外す際の状態をそれぞれ示している。
図17に示すように、その上端部に比して下端部が固定部14B側に位置すべく傾いた鉄筋保持部14XAを有する鉄筋接合用治具14Xを用いることにより、鉄筋接合用治具14を用いた場合に比して鉄筋固定用ねじ9の移動量が少ない状態で鉄筋保持部14XAからねじ節鉄筋13を取り出すことができ、作業性を向上することができる。
【0031】
図18は、本発明の第3の実施形態に用いられる固定部としてのクリップ部を示している。クリップ部14Cは、各鉄筋接合用治具14,14Xにおいて、固定部14Bに代えて用いられる。クリップ部14Cは上述と同様の材質からなる鉄板を曲折形成された板ばね状を呈しており、その基端を鉄筋保持部14A,14XAに接合されている。クリップ部14Cは、壁部3A,4Aに対して鉄筋保持部14A,14XAがずれることなく固定されるように、隙間や形状等が設定されている。
固定部14Bに代えてクリップ部14Cを用いることにより、構成を簡易化でき鉄筋接合用治具14,14Xの取り付け及び取り外し性を向上できると共にコストダウンを図ることができる。
【0032】
上記各実施形態で示した鉄筋接合用工具1は、各保持部3,4に鉄筋固定用ねじ9を一本ずつ有する構成としたが、鉄筋固定用ねじ9を二本以上ずつ有する構成としてもよい。また、調整ねじ10cを一本のみ有する構成を示したが、調整ねじ10cを二本以上有する構成としてもよい。
上記各実施形態では、鉄筋接合用治具14,14Xに保持する鉄筋としてねじ節鉄筋13,13A,13Bを示したが、鉄筋としてはこれに限られず、円形部を有する形状であれば他の形状のものを用いてもよく、外径円形状の竹節鉄筋12A,12Bを用いてもよい。また、各保持部3,4にそれぞれ異なる形状の鉄筋を保持させる構成としてもよい。
【0033】
本発明の態様は、例えば以下の通りである。
[1]端部同士が互いに対向した状態で外周部の一部に円形部を有する二本の鉄筋をそれぞれ保持し、一方の鉄筋の端部を保持する第1保持面を有する固定保持部と、前記一方の鉄筋の端部に対して他方の鉄筋の端部を接離自在に保持する第1保持面と同形状の第2保持面を有する可動保持部とを備え、前記一方の鉄筋の端部の軸方向中心位置に対して前記他方の鉄筋の端部の軸方向中心位置を調整する調整部材を有する鉄筋接合用工具の前記固定保持部及び前記可動保持部にそれぞれ装着される鉄筋接合用治具であって、前記第1保持面または前記第2保持面に嵌合可能な第1面及び前記円形部に嵌合可能な第2面を有する鉄筋保持部と、前記第1保持面または前記第2保持面に前記第1面が嵌合した状態で前記鉄筋保持部を前記固定保持部または前記可動保持部に固定する固定部とを有する鉄筋接合用治具である。
[2]前記第1保持面及び前記第2保持面は二面の平面部を有し、前記第1面は前記各平面部に面接触可能な接触面を有することを特徴とする[1]に記載の鉄筋接合用治具である。
[3]前記第2面は前記円形部と同じ直径を有する円の半円形状であることを特徴とする[1]または[2]に記載の鉄筋接合用治具である。
[4]前記鉄筋保持部は、上端部に比して下端部が前記固定部側に位置していることを特徴とする[3]に記載の鉄筋接合用治具である。
[5]前記固定部はねじを有することを特徴とする[1]ないし[4]の何れか一つに記載の鉄筋接合用治具である。
[6]前記固定部はクリップ部を有することを特徴とする[1]ないし[4]の何れか一つに記載の鉄筋接合用治具である。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を例示したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0035】
1 鉄筋接合用工具
3 固定保持部
4 可動保持部
7 第2保持面(凹状面)
7A 第1保持面(凹状面)
7a,7b 平面部
10 調整部材
13,13A,13B 鉄筋(ねじ節鉄筋)
14,14X 鉄筋接合用治具
14A,14XA 鉄筋保持部
14A1,14XA1 第1面
14A2,14A3,14XA2,14XA3 接触面(平面)
14A4,14XA4 第2面
14B 固定部
14B4 ねじ(治具固定ねじ)
14C クリップ部
【要約】
【課題】鉄筋接合用工具を用いて二本の鉄筋の接合を行う際に、用いられる鉄筋の断面が非円形であっても高強度な接合を行うことが可能な鉄筋接合用治具を提供する。
【解決手段】二本の鉄筋13A,13Bをそれぞれ保持し、鉄筋13Aを保持する第1保持面7Aを有する固定保持部3と、鉄筋13Aに対して鉄筋13Bを接離自在に保持する第1保持面7Aと同形状の第2保持面7を有する可動保持部4とを備え、鉄筋13Aの軸方向中心位置に対して鉄筋13Bの軸方向中心位置を調整する調整部材10を有する鉄筋接合用工具1の固定保持部3及び可動保持部4にそれぞれ装着され、第1保持面7Aまたは第2保持面7に嵌合可能な第1面14A1及び円形部13aに嵌合可能な第2面14A4を有する鉄筋保持部14Aと、第1保持面7Aまたは第2保持面7に第1面14A1が嵌合した状態で鉄筋保持部14Aを固定保持部3または可動保持部4に固定する固定部14Bとを有する鉄筋接合用治具14。
【選択図】
図14