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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】吸着装置及びその制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20231218BHJP
   F16B 47/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B25J15/06 S
F16B47/00 H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019221844
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2021091016
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】塚越 秀行
(72)【発明者】
【氏名】濱 研吾
(72)【発明者】
【氏名】中野 政身
【審査官】國武 史帆
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-326802(JP,A)
【文献】特開2020-040134(JP,A)
【文献】特開2019-098461(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152062(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
F16B 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体の下部外側に設けられ、磁気粘性流体のみよりなる吸盤と、
前記基体内に設けられ、前記吸盤に対して磁場を印加させるための磁場印加手段と、
前記基体の下部外側の一部又は下部側方に設けられ、前記吸盤に吸着された対象物を引剥がすための引剥がし手段と、
前記磁場印加手段及び前記引剥がし手段を制御するための制御ユニットと
を具備する吸着装置。
【請求項2】
前記引剥がし手段は前記基体の下部外側の一部又は下部側方に設けられたバルーンである請求項1に記載の吸着装置。
【請求項3】
前記引剥がし手段は前記基体の下部側方に設けられた単軸アクチュエータである請求項1に記載の吸着装置。
【請求項4】
前記磁場印加手段は、
前記基体内に設けられた永久磁石と、
前記基体内の前記永久磁石と前記基体の下部との間に設けられたスペーサ用バルーンと
を具備し、
前記制御ユニットは前記基体内に空気を導入して前記基体の下部へ移動させるか、又は前記スペーサ用バルーンに空気を導入して前記永久磁石を前記基体の上部へ移動させるようにする請求項1に記載の吸着装置。
【請求項5】
前記磁場印加手段は前記基体内に設けられた電磁石を具備し、
前記制御ユニットは前記電磁石をオン、オフさせるようにする請求項1に記載の吸着装置。
【請求項6】
前記磁気粘性流体は配合比0.50~1.00%の微粉末シリカを含む請求項1に記載の吸着装置。
【請求項7】
基体と、
前記基体の下部外側に設けられ、磁気粘性流体よりなる吸盤と、
前記基体内に設けられ、前記吸盤に対して磁場を印加させるための磁場印加手段と、
前記基体の下部外側の一部又は下部側方に設けられ、前記吸盤に吸着された対象物を引剥がすための引剥がし手段と
を具備する吸着装置の制御プログラムであって、
前記吸盤に対して前記磁場印加手段により磁場を印加させると共に前記吸盤を前記基体の下部外側へ塗布するための吸盤塗布手順と、
前記吸着装置を対象物へ設置する吸着装置設置手順と、
前記吸着装置設置手順の後に、前記吸盤に対する前記磁場印加手段による磁場印加を停止して前記吸盤を液状化させるための吸盤液状化手順と、
前記吸盤液状化手順の後に、前記吸盤に対して前記磁場印加手段による磁場を印加させて前記吸盤の粘度を高めるための吸盤粘着手順と、
前記吸盤粘着手順の後に、前記吸盤に対して前記磁場印加手段による磁場を印加したまま前記引剥がし手段を駆動して前記対象物を前記基体の下部から引剥がすための対象物引剥手順と
コンピュータによって実行させるための吸着装置の制御プログラム。
【請求項8】
前記引剥がし手段は前記基体の下部外側の一部又は下部側方に設けられたバルーンである請求項7に記載の吸着装置の制御プログラム。
【請求項9】
前記引剥がし手段は前記基体の下部側方に設けられた単軸アクチュエータである請求項7に記載の吸着装置の制御プログラム。
【請求項10】
前記磁場印加手段は、
前記基体内に設けられた永久磁石と、
前記基体内の前記永久磁石と前記基体の下部との間に設けられたスペーサ用バルーンと
を具備する請求項7に記載の吸着装置の制御プログラム。
【請求項11】
前記磁場印加手段は前記基体内に設けられた電磁石を具備する請求項7に記載の吸着装置の制御プログラム。
【請求項12】
前記磁気粘性流体は配合比0.50~1.00%の微粉末シリカを含む請求項7に記載の吸着装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着装置及びその制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物体を把持して運搬する運搬機構、ドローン、マルチコプタ等を天井に固定させる固定機構として吸着装置が広く用いられている。
【0003】
図13は従来の吸着装置を示す断面図である(参照:特許文献1)。
【0004】
図13において、吸着装置は、円形状をなし、基体101と、基体101に設けられ、対象物100との間に吸着力を発揮するための環状の吸盤102とを有する。対象物100、基体101及び吸盤102によって囲まれる密閉空間103から圧力制御ユニット104へチューブ105が連通されている。チューブ105は密閉空間103内でバルーン105aを形成し、バルーン105aの開口部105bに逆止弁106が設けられている。吸盤102は、粘着性、弾性を有するウレタンゲル等、また、磁力、静電気力、ファンデルワールス力を用いたもの、さらに対象物100が金属の場合、永久磁石で構成される。
【0005】
図14の(A)は図13の吸着装置の吸着動作を説明するための断面図である。
【0006】
図14の(A)に示すように、吸盤102が対象物100に接触して粘着力が対象物100との間に発生する。次に、圧力制御ユニット104によってバルーン105a内の内部圧力を減少させると、逆止弁106が開となり、開口部105bを介して密閉空間103の圧力も低下する。従って、密閉空間103の圧力が大気圧より低下して負圧となり、吸盤102の吸引力が発生する。この結果、粘着力と負圧による吸引力との和による吸着力が発生する。
【0007】
図14の(B)は図13の吸着装置の離脱動作を説明するための断面図である。
【0008】
図14の(B)に示すように、圧力制御ユニット104によってバルーン105a内の内部圧力を上昇させると、逆止弁106が閉状態となり、開口部105bが塞がれる。この状態で圧力制御ユニット104によってさらにバルーン105aの内部圧力を上昇させると、バルーン105aは膨張し、密閉空間103の負圧状態が解除され、負圧による吸引力が失われる。この状態で圧力制御ユニット104によってさらにバルーン105aの内部圧力を上昇させると、吸盤102が対象物100から離脱し、吸盤102の粘着力が失われる。
【0009】
図15図13の吸着装置の吸着力の測定結果であり、(A)は対象物100がアクリル樹脂の場合を示し、(B)は対象物100が石膏ボードの場合を示す。
【0010】
図15に示すように、吸着力は負圧が0のときの吸盤102の粘着力と負圧による吸引力との和によって決定される。この場合、粘着力は小さいので、吸着力は、ほとんど負圧による吸引力によって決定される。従って、対象物100が平坦な場合には、吸盤102の粘着力に加えて、負圧による吸引力も大きくなり、この結果、吸着力が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2017-213663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、図13に示す従来の吸着装置においては、対象物100の表面が凹凸面の場合、負圧を確保できず、この結果、負圧による吸引力を発揮できず、従って、吸着力が小さいという課題がある。特に、対象物100が多孔質、スリット型、メッシュ型等の場合には、負圧による吸引力はほとんど発揮できず、従って、吸着力もほとんど発揮できないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するために、本発明に係る吸着装置は、基体と、基体の下部外側に設けられ、磁気粘性流体のみよりなる吸盤と、基体内に設けられ、吸盤に対して磁場を印加させるための磁場印加手段と、基体の下部外側の一部又は下部側方に設けられ、吸盤に吸着された対象物を引剥がすための引剥がし手段と、磁場印加手段及び引剥がし手段を制御するための制御ユニットとを具備するものである。
【0014】
また、本発明に係る吸着装置の制御プログラムは、基体と、基体の下部外側に設けられ、磁気粘性流体よりなる吸盤と、基体内に設けられ、吸盤に対して磁場を印加させるための磁場印加手段と、基体の下部外側の一部又は下部側方に設けられ、吸盤に吸着された対象物を引剥がすための引剥がし手段とを具備する吸着装置の制御プログラムであって、吸盤に対して磁場印加手段により磁場を印加させると共に吸盤を基体の下部外側へ塗布するための吸盤塗布手順と、吸着装置を対象物へ設置する吸着装置設置手順と、吸着装置設置手順の後に、吸盤に対する磁場印加手段による磁場印加を停止して吸盤を液状化させるための吸盤液状化手順と、吸盤液状化手順の後に、吸盤に対して磁場印加手段による磁場を印加させて吸盤の粘度を高めるための吸盤粘着手順と、吸盤粘着手順の後に、吸盤に対して磁場印加手段による磁場を印加したまま引剥がし手段を駆動して対象物を基体の下部から引剥がすための対象物引剥手順とをコンピュータによって実行させるためのものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吸着力は負圧による吸引力を利用せずに吸盤の粘着力のみを利用し、しかも、吸盤を磁気粘性(MR)流体で構成することにより吸盤の粘着力を著しく大きくしたので、吸着力を大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に用いられる混合型磁気粘性(MR)流体の製造方法を説明するための図である。
図2図1の混合型MR流体の粘着力を計測するための粘着力計測装置を示す図である。
図3図1の混合型MR流体の粘着力特性を示し、(A)は微粉末シリカ配合比を変化させた場合を示し、(B)は対象物を変化させた場合を示す。
図4】本発明に係る吸着装置の第1の実施の形態を示す図である。
図5図4の吸着装置の動作を説明するための図である。
図6図4の吸着装置の動作を説明するための図である。
図7図4の吸着装置の動作を説明するための図である。
図8】本発明に係る吸着装置の第2の実施の形態を示す図である。
図9図8の吸着装置の動作を説明するための図である。
図10図8の吸着装置の動作を説明するための図である。
図11図8の吸着装置の動作を説明するための図である。
図12図4図8における引剥がし用バルーンの代りの引剥がし用単軸アクチュエータを示す図である。
図13】従来の吸着装置を示す断面図である。
図14図13の吸着装置の動作を説明するための断面図であって、(A)は吸着動作を示し、(B)は離脱動作を示す。
図15図13の吸着装置の吸着力測定結果を示すグラフであって、(A)は対象物がアクリル樹脂の場合、(B)は対象物が石膏の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明に用いられる混合型磁気粘性(MR)流体の製造方法を説明するための図である。
【0018】
図1の(A)に示すLoad社製の磁気粘性(MR)流体(商品名:MRF-140CG)を準備する。一般に、MR流体は溶媒中に強磁性体粒子たとえば鉄粉を分散させたもので、磁場の印加により強磁性体粒子が鎖状に繋がり、強磁性体粒子の流動性が低下してMR流体の粘度が大きくなるものである。本発明においては、さらに図1の(A)に示すMR流体に、図1の(B)に示す微粉末シリカを配合し、撹拌することにより図1の(C)に示す混合型磁気粘性(MR)流体を得る。
【0019】
図2図1の混合型MR流体の粘着力を計測する粘着力計測装置を示す図である。
【0020】
図2においては、対象物20上に、混合型MR流体21を設ける。また、混合型MR流体21上に磁場印加ユニット22を設ける。磁場印加ユニット22は磁場を透過させるための厚さ3mmのスペーサ221及び磁場を発生する永久磁石(たとえばネオジム磁石)222よりなる。さらに、磁場印加ユニット22上に混合型MR流体21の粘着力を計測するためのフォースゲージ23を吊り上げ状態に設ける。図示の場合、フォースゲージ23は磁場印加ユニット22の垂直方向粘着力を計測できる。他方、フォースゲージ23を横向き状態にすると、フォースゲージ23は磁場印加ユニット22のせん断方向粘着力を計測できる。
【0021】
図3図2の粘着力計測装置の計測結果である粘着力を示す。測定は対象物20上に液状化したMR流体を含む混合型MR流体21を塗布しておき、その上に図2の粘着力計測装置を降下させて磁場を混合型MR流体21に印加して粘度を上昇させた状態で粘着力を計測した。
【0022】
図3の(A)は対象物20をアクリル樹脂とし、微粉末シリカの配合比を変化させた場合のMR流体を含む混合型MR流体の粘着力を示す。図3の(A)に示すように、垂直方向粘着力は、微粉末シリカが配合比0%の場合よりも、微粉末シリカの配合比0.50~1.00%の場合に大きくなった。他方、せん断方向粘着力については微粉末シリカの配合比はほとんど変化がなかった。従って、本発明においては、好ましくは、微粉末シリカの配合比0.50~1.00%の混合型MR流体を用いる。
【0023】
図3の(B)は対象物20を変化させた場合の微粉末シリカの配合比1.00%の混合型MR流体の粘着力を示す。図3の(B)に示すように、平坦なアクリル樹脂の場合には、大きな粘着力を発揮できる。また、凹凸面状かつ多孔質のコンクリートの場合にも大きな粘着力を発揮できる。さらに、1mmのスリットが形成されたスリット型アクリル樹脂及びメッシュ型金網の場合においても大きな粘着力特に大きなせん断方向粘着力を発揮できる。
【0024】
図4は本発明に係る吸着装置の第1の実施の形態を示す図であって、(A)は永久磁石下降状態(磁場印加状態)を示し、(B)は永久磁石上昇状態(磁場非印加状態)を示し、(C)は引剥がし用バルーン膨張状態を示す。
【0025】
図4において、吸着装置は、磁場を透過するための円筒状の基体1と、基体1の内部空間1aに設けられ、磁場を発生する永久磁石(たとえばネオジム磁石)2と、基体1の内部空間1a内の永久磁石2と下部1bとの間に設けられた可変スペーサとして作用するスペーサ用バルーン3と、基体1の下部1bの外側の一部に設けられた引剥がし用バルーン4と、基体1の上部1c、基体1の下部1bのスペーサ用バルーン3及び引剥がし用バルーン4に接続された空気通路(チューブ)5-1、5-2、5-3と、各空気通路5-1、5-2、5-3に接続された空気ポンプ6-1、6-2、6-3と、制御信号C1、C2、C3を用いて空気ポンプ6-1、6-2、6-3を駆動するための制御ユニット7とによって構成される。尚、制御ユニット7はマイクロコンピュータ等によって構成される。
【0026】
図4においては、吸着装置を動作させる前に、基体1の下面の外側に図1の(C)の混合型MR流体よりなる吸盤8を塗布して設ける。
【0027】
図4の(A)に示す永久磁石下降状態(磁場印加状態)においては、制御ユニット7は制御信号C1を送出して空気ポンプ6-1を駆動する。この結果、空気が空気通路5-1から基体1の内部空間1aに導入されて永久磁石2は下降する。従って、永久磁石2から発生した磁場が基板1の下部1bから外部へ印加される。その際、吸盤8が下部1bに存在すれば、吸盤8の混合型MR流体の粘度が上昇する。
【0028】
図4の(B)に示す永久磁石上昇状態(磁場非印加状態)においては、制御ユニット7は制御信号C2を送出して空気ポンプ6-2を駆動する。この結果、空気が空気通路5-2からスペーサ用バルーン3に導入されてスペーサ用バルーン3は膨張状態となって永久磁石2は上昇状態となる。従って、永久磁石2から発生した磁場は基板1の下部1bから外部に到達しなくなる。つまり、磁場非印加状態となる。その際、吸盤8が下部1bに存在すれば、吸盤8の混合型MR流体の粘度が低下して混合型MR流体は液状化する。
【0029】
図4の(C)に示す引剥がし用バルーン膨張状態においては、制御ユニット7は制御信号C3を送出して空気ポンプ6-3を駆動する。この結果、空気が空気通路5-3から引剥がし用バルーン4に導入されて引剥がし用バルーン4は膨張状態となる。その際、粘度の大きい吸盤8が対象物と共に下部1bに存在すれば、引剥がし用バルーン4は基体1の下部1bの外部の一部のみ設けられているので、吸盤8が片寄り、対象物が傾いて引剥がされる。この場合、吸盤8も一部引剥がされるが、大部分の吸盤8は粘着状態で回収される。
【0030】
図5図6図7図4の吸着装置の動作を説明するための図である。
【0031】
始めに、図5の(A)の吸盤塗布工程を参照すると、制御ユニット7は制御信号C1を送出して空気ポンプ6-1を駆動させる。この結果、空気が基体1の内部空間1aに導入されて永久磁石2は下降する。この状態で混合型MR流体容器(図示せず)に浸し基体1の下部1b外側に吸盤8として混合型MR流体を塗布する。このとき、下降している永久磁石4の磁場による磁場印加状態の混合型MR流体の粘度が急に大きくなり、この結果、吸盤8が完成する。
【0032】
次に、図5の(B)の吸着装置設置工程を参照すると、制御信号C1を維持した磁場印加状態の吸着装置又は対象物10を移動して吸着装置を対象物10の表面上に設置する。
【0033】
次に、図6の(A)の吸盤液状化工程を参照すると、制御ユニット7は制御信号C2を送出して空気ポンプ6-2を駆動する。この結果、スペーサ用バルーン3が膨張して永久磁石2が上昇する。従って、永久磁石2の磁場が吸盤10に印加しなくなり、磁場非印加状態の吸盤8の混合型MR流体は低粘度化して液状化する。この場合、対象物10が凹凸面状、多孔質、スリット状、又はメッシュ状であっても、吸盤8の液状の混合型MR流体は凹凸面内又は多孔質、スリット、メッシュ等に入り込むことができる。
【0034】
次に、図6の(B)の粘着工程を参照すると、制御ユニット7は制御信号C1を送出して空気ポンプ6-1を駆動させる。この結果、空気が基体1の内部空間1aに導入されて永久磁石2は下降する。従って、永久磁石2の磁場が吸盤8に印加され、磁場印加状態の吸盤8の混合型MR流体の粘度は上昇し、吸盤8が対象物10の表面の形状をロックする。これにより、吸盤8の粘着力は急上昇する。
【0035】
上述の粘着工程の後に所定の動作が行われる。たとえば、対象物10を移動させる。
【0036】
最後に、図7の対象物引剥工程を参照すると、制御ユニット7は制御信号C1、C3を送出して空気ポンプ6-1、6-3を駆動する。この結果、永久磁石2を下降した磁場印加状態の吸盤8を高粘度状態のまま引剥がし用バルーン4が膨張して対象物10を斜めにして引剥がす。この場合、引剥がし用バルーン4は基体1の下部1bの外部の一部のみしか設けられていないので、吸盤8は片寄り、高粘度の吸盤8の大部分は剥がされずに吸着したままである。つまり、吸盤8の大部分は回収される。
【0037】
図7の対象物引剥工程後、次の対象物の処理のために、図5の(B)に示す吸着装置設置工程に戻り、上述の処理を繰返す。但し、処理すべき対象物がないときには、回収された吸盤8のMR流体を液状化させて混合型MR流体容器(図示せず)に戻す。
【0038】
尚、上述の第1の実施の形態においては、永久磁石2の上昇状態の実現のために、スペーサ用バルーン3を用いたが、基体1と永久磁石2との隙間が小さくかつ基体1と永久磁石2との摩擦が小さければ、スペーサ用バルーン3を設けず、空気ポンプ6-1及び電磁弁を用いて基体1の内部空間1aを負圧にしてもよい。
【0039】
図8は本発明に係る吸着装置の第2の実施の形態を示す図であって、(A)は磁場印加状態を示し、(B)は磁場非印加状態を示し、(C)は引剥がし用バルーン膨張状態を示す。
【0040】
図8において、図4の永久磁石2及びスペーサ用バルーン3の代わりに電磁石31を設け、電磁石31は制御ユニット7の制御信号C4によってオン、オフ駆動される。図4の空気通路5-1、5-2及び空気ポンプ6-1、6-2は存在しない。
【0041】
図8においては、吸着装置を動作させる前に、基体1の下面の外側に図1の(C)の混合型MR流体よりなる吸盤8を塗布して設ける。
【0042】
図8の(A)に示す磁場印加状態においては、制御ユニット7は制御信号C4をオンにして電磁石31を駆動する。この結果、電磁石31から発生した磁場が基板1の下部1bから外部へ発生する。その際、吸盤8が下部1bに存在すれば、吸盤8の混合型MR流体の粘度は上昇する。
【0043】
図8の(B)に示す磁場非印加状態においては、制御ユニット7は制御信号C4をオフにして電磁石4をオフする。この結果、磁場は存在しない。つまり、磁場非印加状態となる。
【0044】
図8の(C)に示す引剥がし用バルーン膨張状態においては、制御ユニット7は制御信号C3を送出して空気ポンプ6-3を駆動する。この結果、空気が空気通路5-3から引剥がし用バルーン4に導入されて引剥がし用バルーン4は膨張状態となる。その際、粘度の大きい吸盤8が対象物と共に下部1bに存在すれば、引剥がし用バルーン4は基体1の下部1bの外部の一部のみ設けられているので、対象物が傾いて引剥がされる。この場合、吸盤8は片寄り、吸盤8も一部引剥がされるが、大部分の吸盤8は粘着状態で回収される。
【0045】
図9図10図11図8の吸着装置の動作を説明するための図である。
【0046】
始めに、図9の(A)の吸盤塗布工程を参照すると、制御ユニット7は制御信号C4をオンにして電磁石31を駆動させる。この状態で混合型MR流体容器(図示せず)に浸し、基体1の下部1b外側に吸盤8として混合型MR流体を塗布する。このとき、電磁石31の磁場による磁場印加状態の混合型MR流体の粘度が急に大きくなり、この結果、吸盤8が完成する。
【0047】
次に、図9の(B)の吸着装置設置工程を参照すると、制御信号C4のオンを維持した磁場印加状態の吸着装置又は対象物10を移動して吸着装置を対象物10の表面上に設置する。
【0048】
次に、図10の(A)の吸盤液状化工程を参照すると、制御ユニット7は制御信号C4をオフにして電磁石31をオフにする。この結果、磁場が吸盤10に印加しなくなり、磁場非印加状態の吸盤8の混合型MR流体は低粘度化して液状化する。この場合、対象物10が凹凸面状、多孔質、スリット状、メッシュ状であっても、吸盤8の液状の混合型MR流体は凹凸面内、多孔質、スリット、メッシュ等に入り込むことができる。
【0049】
次に、図10の(B)の粘着工程を参照すると、制御ユニット7は制御信号C4をオンにして電磁石31を駆動させる。この結果、電磁石31の磁場が吸盤8に印加され、磁場印加状態の吸盤8の混合型MR流体の粘度は上昇し、吸盤8が対象物10の表面の形状をロックする。これにより、吸盤8の粘着力は急上昇する。
【0050】
上述の粘着工程の後に所定の動作が行われる。たとえば、対象物10を移動させる。
【0051】
最後に、図11の対象物引剥工程を参照すると、制御ユニット7は制御信号C4をオンにすると共に制御信号C3を送出して空気ポンプ6-3を駆動する。この結果、電磁石31が駆動して吸盤8を高粘度状態のまま引剥がし用バルーン4が膨張して対象物10を引剥がす。この場合、引剥がし用バルーン4は基体1の下部1bの外部の一部のみしか設けられていないので、吸盤8は片寄り、高粘度の吸盤8の大部分は剥がされずに吸着したままである。つまり、吸盤8の大部分は回収される。
【0052】
図11の対象物引剥工程後、次の対象物の処理のために、図9の(B)に示す吸着装置設置工程に戻り、上述の処理を繰返す。但し、処理すべき対象物がないときには、回収された吸盤8のMR流体を液状化させて混合型MR流体容器(図示せず)に戻す。
【0053】
図1図4においては、引剥がし用バルーン4を基体1の下部1bの外側の一部に設けているが、基体1の下部1bの側方に設けてもよい。
【0054】
また、引剥がし用アクチュエータとしては、基体1の下部1bの側方に設けられた図12に示す単軸アクチュエータ4’を用いてもよい。単軸アクチュエータ4’は制御ユニット7からの制御信号C5によって制御され、制御信号C5がオフのときには、図12の(A)の粘着工程に示すごとく、単軸アクチュエータ4’の軸は対象物10に到達せず、他方、制御信号C5がオンのときには、図12の(B)の対象物引剥がし工程に示すごとく、単軸アクチュエータ4’の軸は対象物10の一方側を押し下げて対象物10を斜めにして引剥がす。尚、引剥がし用アクチュエータとしては、他にソレノイド及びリンク機構を有するアクチュエータでもよい。
【0055】
尚、図5図6図7に示す動作及び図9図10図11に示す動作はプログラムとして制御ユニット7のROM等に格納されている。
【0056】
また、上述の実施の形態においては、吸盤8として配合比0.50~1.00%の微粉末シリカを含む混合型MR流体を用いているが、微粉末シリカを含まないMR流体を用いてもよい。
【0057】
さらに、本発明は上述の実施例の自明の範囲でいかなる変更にも適用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、2つの吸着装置を両端に有する湾曲アクチュエータ、高所の壁面等に吸着できる吸盤を搭載した壁面移動ロボットに利用できる。
【符号の説明】
【0059】
1:基体
1a:内部空間
1b:下部
1c:上部
2:永久磁石
3:スペーサ用バルーン
4:引剥がし用バルーン
4’:引剥がし用単軸アクチュエータ
5-1、5-2、5-3:空気通路(チューブ)
6-1、6-2、6-3:空気ポンプ
7:制御ユニット
8:吸盤
10:対象物
21:混合型磁気粘性(MR)液体
22:磁場印加ユニット
221:スペーサ
222:永久磁石
23:フォースゲージ
31:電磁石

図1
図2
図3
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