(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】連結式印判
(51)【国際特許分類】
B41K 1/04 20060101AFI20231218BHJP
B41K 1/02 20060101ALI20231218BHJP
B41K 1/50 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B41K1/04 B
B41K1/02 B
B41K1/04 D
B41K1/50 B
(21)【出願番号】P 2019225635
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】安江 明哲
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 友也
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-113809(JP,A)
【文献】実開昭56-027952(JP,U)
【文献】特開2019-005916(JP,A)
【文献】実開昭60-166562(JP,U)
【文献】実開昭55-029275(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41K 1/04
B41K 1/02
B41K 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の印字体を有する複数の印判同士を連結可能とした連結式印判であって、前記印字体の背面に
、前記印字体よりも硬度が低くインキ吸蔵体を兼ねるクッション体
が配
されており、
前記印字体は、下記に示す連泡性が3.0mg/mm
2
~9.0mg/mm
2
の範囲である連結式印判。
連泡性:粘度700mPa・s(25℃)のインキを飽和状態まで含浸させて、5000回連続捺印した後における印字面の単位面積当たりのインキ消費量。
【請求項2】
印字体とクッション体が、一体成形されている請求項
1に記載の連結式印判。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字体の成形時の寸法誤差や、長期間使用後のヘタリ等により連結した複数の印字体間に段差が生じても、印影に濃淡や滲みが発生するのを防止することができる連結式印判に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の印判同士を連結可能とした連結式印判が広く利用されている。このような連結式印判では、会社名、住所、電話番号、代表者名等の種々の印判を目的に応じて任意に組み合わせ、1個の印判のようにして取り扱うため、種々のパターンの印判を作成することができ便利である。
【0003】
しかしながら、印字体の成形時において寸法誤差が発生したり、長期間使用した後にヘタリ等が発生したりして、連結した複数の印字体間に段差が発生する場合があった。この結果、捺印時に加わる圧力が印字体毎で差が生まれ、印影に濃淡が生じて均一な状態で捺印できないという問題や、特定の印字体にインキの滲みが発生して文字が読みにくくなるという問題があった。多孔質性の印字体を使用した場合は潰れた印字体から余剰インキが吐き出されるため、印影に滲みが発生し、より顕著に濃淡差が生まれる。
【0004】
そこで、特許文献1や特許文献2に示されるように、多孔性ゴムからなる印字体の背面にクッション性のスポンジ体を設け、このスポンジ体の圧縮により印字面に生じた段差を緩和する構造の連結式印判が提案されている。ところが、この構造では印字面に生じた段差の解消は図れるものの、印字体のインキの滲みは防止することができないという問題があった。即ち、スポンジ体の硬度が印字体の硬度よりも高い場合は、捺印時に先ず印字体が圧縮され、その後、スポンジ体が圧縮されて段差が緩和されるため、印字体の圧縮によるインキの滲みが生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平2-21244号公報
【文献】実公平5-28051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような従来の問題点を解決して、印字体の成形時の寸法誤差や、長期間使用後のヘタリ等により連結した複数の印字体間に段差が生じても、その段差を解消し、かつ印字体の圧縮も防いで、印影に濃淡や滲みが発生するのを的確に防止することができる連結式印判を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の連結式印判は、多孔質の印字体を有する複数の印判同士を連結可能とした連結式印判であって、前記印字体の背面に、前記印字体よりも硬度が低くインキ吸蔵体を兼ねるクッション体が配されており、前記印字体は、下記に示す連泡性が3.0mg/mm
2
~9.0mg/mm
2
の範囲であることを特徴とするものであり、これを請求項1に係る発明とする。
連泡性:粘度700mPa・s(25℃)のインキを飽和状態まで含浸させて、5000回連続捺印した後における印字面の単位面積当たりのインキ消費量。
【0008】
好ましい実施形態によれば、前記印字体とクッション体が、一体成形されているものが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【0009】
【0010】
【発明の効果】
【0011】
本発明では、多孔質の印字体を有する複数の印判同士を連結可能とした連結式印判であって、前記印字体の背面にクッション体を配し、このクッション体の硬度を前記印字体の硬度よりも低くしたので、印字体に成形誤差があったとしても、捺印の際にはクッション体が優先的に縮んで段差を吸収するため、印影に濃淡が発生するのを防止し、しかも、印字体の圧縮に起因する印影の滲みの発生も確実に防止することができる。
【0012】
また、本発明では、クッション体が、インキ吸蔵体を兼ねているものとしたので、別途インキ吸蔵体を組み込む必要がなく、部品点数を減らせてコンパクトな設計とすることができる。
【0013】
また、本発明では、印字体とクッション体が、一体成形されているものとしたので、個別に成形して組み合わせたものに比べて、全体の成形誤差を小さくすることができる。
【0014】
また、本発明では、印字体の連泡性が、3.0mg/mm2~9.0mg/mm2の範囲としたので、インキ追従性が良好となり連続捺印した後の印影であっても濃淡は発生せず、綺麗な印影を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態を示す上方からの斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態を示す下方からの斜視図である。
【
図7】印字体に寸法誤差がある場合のA-A断面図である。
【
図8】
図7に示す連結式印判の捺印時におけるA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は、一例として4個の印判を連結した連結式印判を示す上方からの斜視図、
図2は下方からの斜視図、
図3は正面図、
図4は平面図、
図5は側面図である。また、
図6は
図4のA-A断面図である。
図中、1は印判であり、任意に複数連結して使用できるように周知の連結機構(図示せず)を備えている。2は、この印判1の格子状の骨格部であり、この骨格部2の下端面には印字体3が装着されている。また、骨格部2の下端部両側には弾発下で昇降自在なスタンド7、7が取り付けられている。なお、前記骨格部2とスタンド7は、ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂で形成されている。
【0017】
図6に示されるように、前記印字体3の背面にはクッション体4が配置されている。該クッション体4はインキ吸蔵体を兼用するものである。また、図示のものでは、クッション体4の背面に吸収体5が配置されている。該吸収体5はポリビニルホルマール樹脂の発泡体で成形されたインキ吸収体であり、機能上は前記クッション体4と同一である。これら印字体3、クッション体4が一体として骨格部2の下方にセットされている。また、6は、前記印字体3、クッション体4、吸収体5を固定するための固定部材である。なお、この固定部材6を省いて前記骨格部2に直接支持させることもできる。
図6においては、前記印字体3と前記クッション体4は一体としているが、互いに別々に成形し、前記クッション体4を、前記印字体3と引き離して、前記吸収体5の背面に配置しても作用上の問題はない。この場合、クッション体4はインキ吸蔵体である必要がなくなるため、単なるクッション体として機能させる事になる。
【0018】
前記印字体3は多孔質のものであり、一度スタンプ台でインキの補充をするとインキが連通孔内に入り込んで貯留されるため、その後は複数回にわたって連続捺印が可能な構造である。
前記印字体3としては、例えば、原料ゴムに揮発性溶剤を加えて作成した軟化原料ゴムと、水溶性微粉末と、加硫剤と、充填剤を混錬してマスターバッチとし、このマスターバッチを加硫した後、水溶性微粉末を除去して得られる連続気泡を有する多孔質のゴム印材を用いることができる。
【0019】
前記クッション体4の硬度は前記印字体3の硬度よりも低いものである。このような構造とすることにより、印字体に成形誤差があったとしても、印影に濃淡が発生したり印影に滲みが発生するのを防止することができる。
即ち、
図7に示すように、成形上の誤差等から印字体3aの厚みが誤差(d)だけ大きかった場合、連結印として連結すると、印字体3aは他の印字体3と比べて誤差(d)だけ突出した状態となる。この状態で捺印すると、印字体3aの印影は鮮明であるが、他の印字体3の印影は紙との密着性が劣り薄くて不鮮明になり、逆に、他の印字体3の印影を鮮明にしようとして強く押すと印字体3aは圧縮されてインキの滲みを生じさせるという問題があった。
【0020】
一方、本発明のようにクッション体4の硬度を印字体3の硬度よりも低くした場合は、
図8に示すように、捺印の際にクッション体4が優先的に縮んで印字体3aの誤差(d)を吸収して全ての印字面を同一平面とするため、印影に濃淡が発生するのを防止して均一な印影が得られることとなる。しかも、前記クッション体4が圧縮されて誤差(d)を吸収するため、印字体3aが圧縮されることもなく、圧縮に起因する印影の滲みの発生も確実に防止できることとなる。
【0021】
前記クッション体4としては、クッション性を有するものであれば材質、多孔質・非多孔質等に限定なく、あらゆる材料を用いる事ができる。好ましくは、例えば、内部に細かな孔が無数に空いた多孔質の柔らかい物質であるスポンジを用いることができる。スポンジは天然の海綿加工品でもよいし、合成樹脂などで作った人造の加工品でもよい。その他、ゴム材料で作った人造の加工品でもよい。
【0022】
前記クッション体4が捺印の際に優先的に縮むようにするには、前記印字体3の硬度が40~55°、クッション体4の硬度が5~20°の範囲であって、またクッション体4の硬度を印字体3の硬度に比べて20°以上小さくするのが好ましい。
それぞれ印字体3としての機能やクッション体4としての機能を発揮させるためには、上記の硬度の範囲であることが好ましい。
なお、硬度の測定は、試験対象となる前記印字体3及びクッション体4を硬い剛性のある平らな面に置き、押し針が多孔質ゴム印字体の測定面に対して直角になるようにE型硬度計を保持し、加圧面に衝撃が加わらない程度に、なるべく速やかに試験片測定面に密着させて、目盛を読み込むことによって測定した。この測定方法はJIS K 6253に準拠する。
【0023】
前記クッション体4は、インキ吸蔵体を兼ねているのが好ましい。クッション体4が有する孔を連通孔として、この孔内にインキを貯蔵させれば、インキ吸蔵体としても利用することができる。これにより、別途インキ吸蔵体を組み込む必要がなく、部品点数を減らせてコンパクトな設計とすることができる。この場合、捺印時に印字体3aの誤差(d)を吸収する際、インキ吸蔵体が誤差(d)だけ圧縮されるが、インキ吸蔵体には予め誤差の圧縮分を考慮してインキが充填されているため、インキ吸蔵体からインキが溢れ出る事はない。
【0024】
また、前記印字体3とクッション体4が、一体成形されている構造とすることもできる。この場合は、クッション体4を印字体3と同じ多孔質のゴム印材で形成するとともに、印字体3以外の部分は発泡率を変えて硬度が小さくなるように成形すればよい。これにより、個別に成形後に組み合わせたものに比べて、全体の成形誤差を小さくすることができる。
【0025】
また、前記印字体3の連泡性が、3.0mg/mm2~9.0mg/mm2の範囲とすることが好ましい。
ここで連泡性とは、多孔質性の印字体内部に存在する気泡同士が互いに繋がりあっている程度を表す指標であり、本発明では粘度700mPa・s(25℃)のインキを飽和状態まで含浸させて、5000回連続捺印した後における印字面の単位面積当たりのインキ消費量として評価する。また、前記飽和状態とは、インキ中に印字体3を浸し、真空状態にして孔内にインキを含浸させ、次いで、印字体3を取り出して表面に付着しているインキを拭き取った後、再度、インキ中に印字体3を浸して同じ動作を繰り返し、印字体3の質量に変化がなくなった状態をいう。
【0026】
インキ吸蔵体は高圧縮ではインキ充填率が高くなり、低圧縮ではインキ充填率が低くなることが知られており、一般に、クッション体4のインキ充填率が高い方がインキ追従性が良くて、連捺印性が良好となる。従って、クッション体4の圧縮状態に差が生じると連捺印性に差が生じ、この結果、印影に濃淡が発生するという問題があることが判明した。例えば、
図8に示すものでは、寸法誤差の発生した印判については、捺印時に印字体3aの誤差(d)分だけ前記クッション体(インキ吸蔵体)4が圧縮されるため、他の寸法誤差の発生していない印判のクッション体(インキ吸蔵体)4に比べて、寸法誤差の発生した印判のクッション体(インキ吸蔵体)4が高圧縮状態となり、インキ充填率は相対的に高くなる。そのため、印字体3aの上のクッション体4は連捺印性が良好であるが、他のクッション体4の連捺印性はそれより劣るため、連続捺印後の印影に濃淡が発生するのである。
そこで、本発明者は鋭意研究した結果、印字体3の連泡性を所定値以上のものとすることにより、低圧縮のクッション体4であっても高圧縮のクッション体4と同様にインキ追従性を良くできることを究明し、印影に濃淡が発生するのを防止した。
【0027】
低圧縮のクッション体4であってもインキ追従性を良くするには、印字体3の連泡性を3.0mg/mm2以上とする必要がある。これ未満の場合は、インキ追従性が不十分で印影に濃淡が発生する場合がある。一方、連泡性が9.0mg/mm2より大きいと1回の捺印でインキが過剰に吐き出され印影滲みが発生するため不向きとなる。
【0028】
次に、連泡性と連続捺印後の印影の濃淡有無について試験した結果を説明する。
未加硫のニトリル量40%アクリロニトリル-ブタジエン共重合体100部をメチルエチルケトン400部に加えて混合し、極めて流動性の高いペースト状物を得た。次に、当該ペースト状物を常温で12時間程度放置し、軟化原料ゴムを得た。この軟化原料ゴムの重量を計測したところ120部であった。
次に、当該軟化原料ゴム120部、硫黄5部、亜鉛華5部、加硫促進剤5部、ワセリン・DBP等からなる軟化剤30部、カーボンブラック50部、老化防止剤2部、100~80メッシュ(0.149~0.176mm)の塩化ナトリウム800部、250~150メッシュ(0.062~0.103mm)のバレイショデンプン200部、水溶性クエン酸アセチルトリエチル20部を加え混練してマスターバッチとし、これをカレンダーロールで厚さ7mmの板状シートとした。
【0029】
次に、当該板状シートを平滑な金型内に収容し、次いで200kg/cm2程度の圧力を加えて熱盤間に挟圧し、120℃の温度下で60分間加硫した。加硫後板状シートを離型した。その後、連泡性の調整成分である塩化ナトリウム、バレイショデンプン、水溶性クエン酸アセチルトリエチルが完全に除去されるまで充分に水洗し、脱水乾燥して多孔質ゴム印材とした。
このようにして得られた多孔質ゴム印材にYAGレーザ加工機などにて彫刻し、その後、所要のサイズに切断して多孔質の印判を得た。
【0030】
上記のようにして得られる印判において、連泡性の調整成分の添加量を調整して、種々の連泡性を有する印判を作成し、それらの連続捺印後の印影の濃淡有無について確認した。表1にその結果を示す。
なお、インキ消費量の試験では、ヒマシ油誘導体を主溶剤とする粘度700mPa・S(25℃)の油性顔料インキを前記多孔質ゴム印に飽和状態になるまで含浸させた後、Xstamperネーム9(商品名:シヤチハタ株式会社製)に組み立てたものを用い、PPC用紙に5000回連続捺印した時のインキ消費量を計測した。前記ゴム印の印字面の表面積は、63.5mm2である。ここで印字面とは、捺印した際に被捺印面に接触する部分のことを指す。
印字体の連泡性が、3.0mg/mm2~9.0mg/mm2の範囲にあるものは連続捺印後の印影の濃淡が発生せず、一方、連泡性が前記範囲外にあるものは連続捺印後の印影の濃淡が発生することが確認できた。
【0031】
【符号の説明】
【0032】
1 印判
2 骨格部
3 印字体
4 クッション体
5 吸収体
6 固定部材
7 スタンド