(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20231218BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B32B27/18 A
(21)【出願番号】P 2020038474
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2019045881
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002462
【氏名又は名称】積水樹脂株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399034253
【氏名又は名称】株式会社レニアス
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】森岡 則雄
(72)【発明者】
【氏名】萩原 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 貴之
(72)【発明者】
【氏名】村上 光一
(72)【発明者】
【氏名】野尻 秀智
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-174783(JP,A)
【文献】特開2014-171974(JP,A)
【文献】国際公開第2019/015789(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/015790(WO,A1)
【文献】特開2015-104910(JP,A)
【文献】特開2015-143028(JP,A)
【文献】特開2012-210739(JP,A)
【文献】特開2012-016843(JP,A)
【文献】特開2005-319774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂からなる基層と、
基層の少なくとも片面に積層されるポリカーボネート樹脂からなる膜状の表層と、
表層に積層される膜状のプライマー層と、
プライマー層に積層される膜状のハードコート層と、を備え、
前記表層と、前記プライマー層と、前記ハードコート層との全ての層に紫外線吸収剤が配合されているとともに、
前記基層と前記表層とが、共押出成形によって一体的に形成されて
おり、
表層とプライマー層との間は、プライマー層を構成するプライマー組成物中の溶剤が、表層のポリカーボネート樹脂を溶解し、当該ポリカーボネート樹脂とプライマー樹脂とが相溶されることによって形成された厚さ80nm~800nmの相溶層を介して密着されてなることを特徴とする積層体。
【請求項2】
表層は5μm以上100μm以下に形成され、プライマー層は2μm以上5μm以下に形成され、ハードコート層は3μm以上10μm以下に形成されてなる請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
ハードコート層よりも表層およびプライマー層に濃い濃度で紫外線吸収剤が含有され、
表層よりもプライマー層に濃い濃度で紫外線吸収剤が含有されてなる請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
ポリカーボネート樹脂材料からなる基層材料と、紫外線吸収剤が含有されたポリカーボネート樹脂からなる表層材料とを共押出成形して基層の少なくとも片面に紫外線吸収剤が含有された膜状の表層を積層したポリカーボネート層を形成する工程と、
前記表層の表面に、紫外線吸収剤と、溶剤と、プライマー樹脂とを含むプライマー組成物を塗布して加熱乾燥させることによって、当該表層に含まれる紫外線吸収剤よりも濃い濃度で紫外線吸収剤が含有された膜状のプライマー層を形成する工程と、
前記プライマー層の表面に、紫外線吸収剤が含有されたオルガノポリシロキサン組成物を塗布し、脱水縮合反応によるシロキサン結合の膜状のハードコート層を形成する工程と、を具備し、
プライマー層を形成する工程において、
表層のポリカーボネート樹脂を溶解してプライマー樹脂と相溶する溶剤が3質量%~15質量%の割合で含有されたプライマー組成物を用いることを特徴とする積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂板にハードコート層を形成して構成される積層体と、その製造方法に関し、耐磨耗性、耐候性、透明性に優れたものに関する。本発明の積層体は、道路や鉄道の透明防音壁、自動車、鉄道、飛行機等各種交通機関の窓、看板、自動販売機、カーポート等の各種屋外構造物の透明パネル部材として使用される。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス板の代替え部材として、ガラス板よりも衝撃強度に優れたポリカーボネート板を利用することが行われており、このポリカーボネート板の表面に各種コーティング層を積層した積層体として構成することで、ポリカーボネート板がガラス板よりも劣る耐磨耗性や耐候性等を改善することが行われている。
【0003】
従来より、このような積層体としては、ポリカーボネート樹脂からなる樹脂層Aの上に、当該樹脂層Aよりも硬度の高い樹脂層Bを設け、その上にプライマーによる層と、ハードコート層とを設けた4層構造とし、樹脂層Aおよび/または樹脂層Bと、ハードコート層とに、紫外線吸収剤を含有させたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
他の積層体としては、ポリカーボネート樹脂からなる樹脂シートの上に、当該樹脂シートと共押出成形による透明樹脂層を設け、その上にハードコート層を設けた3層構造とし、透明樹脂層とハードコート層とに、紫外線吸収剤を含有させたものが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
他の積層体としては、ポリカーボネート樹脂を含むプラスチック基材の上に、アクリル系樹脂からなる中間層を設け、その上にハードコート層を設けた3層構造とし、中間層とハードコート層とに、紫外線吸収剤を含有させたものが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
他の積層体としては、ポリカーボネート樹脂からなる基材の上に、当該基材と共押出成形による樹脂層を設け、その上に表面硬度の高い塗膜層を設けた3層構造とし、樹脂層と塗膜層とに、紫外線吸収剤を含有させたものが開示されている(例えば、特許文献4参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-177553号公報
【文献】特開2005-47179号公報
【文献】特開2002-301791号公報
【文献】特開平8-230127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来の積層体の場合、何れの積層体もハードコート層に紫外線吸収剤を含有させているものの、ハードコート層の紫外線吸収剤は、本来、当該ハードコート層の硬度の低下を生じない程度の小量しか含有させることができない。
【0009】
そのため、特許文献1に開示の積層体のように、ハードコート層の下層の樹脂層Bを高硬度とすることで、ハードコート層に、当該ハードコート層の表面硬度の低下を生じない範囲で多くの紫外線吸収剤を含有させるようなことが行われているが、この場合、多くの紫外線吸収剤を含有させることによってハードコート層は、樹脂層Bに対する接着力が低下してしまう。一方、樹脂層Bは、高硬度にすることによってハードコート層に対する接着力が低下するとともに、当該樹脂層Bの下層の樹脂層Aに対する接着力も低下してしまう。したがって、樹脂層Bとハードコート層との接着力を向上させるためのプライマー等を使用しなければならなかったり、樹脂層Aと樹脂層Bとの線膨張係数を近似させなければならず、実際の製品は、中間にある高硬度の樹脂層Bを馴染ませるのが難しく、経時的な使用による層間剥離を生じ易くなってしまう。
【0010】
特許文献2に開示の積層体の場合は、劣化防止のために透明樹脂層に大量の紫外線吸収剤を含有させなければならないのに対して、透明樹脂層とハードコート層との間にプライマーが介在していないので、透明樹脂層とハードコート層との間が経時的に剥離し易くなってしまう。
【0011】
特許文献3に開示の積層体の場合は、紫外線吸収剤を含有しないポリカーボネート樹脂からなるプラスチック基材に、紫外線吸収剤を含有するアクリル系樹脂からなる中間層を設けるので、両層間の密着性を確保することが難しく、ポリカーボネート基材と中間層との間が経時的に剥離し易くなってしまう。
【0012】
特許文献4に開示の積層体の場合は、プライマーが介在しないので、樹脂層と塗膜層との間が経時的に剥離し易くなってしまう。
【0013】
したがって、上記従来の積層体では、5000時間の耐候試験に耐え得る十分な耐磨耗性や耐久性が得られたとしても、それ以降に急激に劣化し易くなり、本発明者等が実施した従来技術品の検証試験の結果では、1万時間の耐候試験後に、5000時間の耐候試験後と同様の十分な耐磨耗性や耐久性を発揮するものは得られなかった。
【0014】
本発明は、係る実情になされたものであって、表面硬度を維持して十分な耐磨耗性を得るとともに、十分な耐久性をも得ることができる積層体と、その製造方法とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明の積層体は、ポリカーボネート樹脂からなる基層と、基層の少なくとも片面に積層されるポリカーボネート樹脂からなる膜状の表層と、表層に積層される膜状のプライマー層と、プライマー層に積層される膜状のハードコート層とを備え、前記表層と、前記プライマー層と、前記ハードコート層との全ての層に紫外線吸収剤が配合されているとともに、前記基層と前記表層とが、共押出成形によって一体的に形成されており、表層とプライマー層との間は、プライマー層を構成するプライマー組成物中の溶剤が、表層のポリカーボネート樹脂を溶解し、当該ポリカーボネート樹脂とプライマー樹脂とが相溶されることによって形成された厚さ80nm~800nmの相溶層を介して密着されてなるものである。
【0016】
上記積層体としては、JIS K 7204 に準拠したテーバー磨耗試験装置によるJIS K 6735 付属書JAに準拠したテーバー磨耗試験(荷重4.9N、回転速度70±5rpm、磨耗輪CS-10F)による100回転後のJIS K 7136 に準拠したヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)が15%以下であり、JIS K 7350-4 に準拠したサンシャインウェザー試験による1万時間経過後のJIS K 7136に準拠したヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)が10%以下であってもよい。
【0017】
上記積層体としては、JIS K 7204 に準拠したテーバー磨耗試験装置によるJIS K 6735 付属書JAに準拠したテーバー磨耗試験(荷重4.9N、回転速度70±5rpm、磨耗輪CS-10F)による100回転後のJIS K 7136 に準拠したヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)が15%以下であり、JIS K 7350-4 に準拠したサンシャインウェザー試験による1万時間経過後のJIS K 7373に準拠した黄色度(YI)が7以下であってもよい。
【0018】
上記積層体としては、JIS K 7204 に準拠したテーバー磨耗試験装置によるJIS K 6735 付属書JAに準拠したテーバー磨耗試験(荷重4.9N、回転速度70±5rpm、磨耗輪CS-10F)による100回転後のJIS K 7136 に準拠したヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)が15%以下であり、JIS K 7350-4 に準拠したサンシャインウェザー試験による1万時間経過後のJIS K 7373に準拠した黄変度(ΔYI)が7以下であってもよい。
【0019】
上記積層体としては、JIS K 7204 に準拠したテーバー磨耗試験装置を用いたJIS K 6735 付属書JAに準拠したテーバー磨耗試験(荷重4.9N、回転速度70±5rpm、磨耗輪CS-10F)による100回転後のJIS K 7136 に準拠したヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)が15%以下であり、ブラックパネル温度63℃、紫外線量81mW/cm2の雰囲気下で60ワットのメタルハライドランプによる118分の光照射をした後、当該光照射とともに2分間の散水を行い、これを反復して繰り返すメタルウェザー試験による700時間経過後のJIS K 7373に準拠した黄変度(ΔYI)が2以下であってもよい。
【0020】
上記積層体において、表層は5μm以上100μm以下に形成され、プライマー層は2μm以上5μm以下に形成され、ハードコート層は3μm以上10μm以下に形成されてなるものであってもよい。
【0022】
上記積層体としては、ハードコート層よりも表層およびプライマー層に濃い濃度で紫外線吸収剤が含有され、表層よりもプライマー層に濃い濃度で紫外線吸収剤が含有されてなるものであってもよい。
【0023】
上記課題を解決するための本発明の積層体の製造方法は、ポリカーボネート樹脂材料からなる基層材料と、紫外線吸収剤が含有されたポリカーボネート樹脂からなる表層材料とを共押出成形して基層の少なくとも片面に紫外線吸収剤が含有された膜状の表層を積層したポリカーボネート層を形成する工程と、前記表層の表面に、紫外線吸収剤と、溶剤と、プライマー樹脂とを含むプライマー組成物を塗布して加熱乾燥させることによって、当該表層に含まれる紫外線吸収剤よりも濃い濃度で紫外線吸収剤が含有された膜状のプライマー層を形成する工程と、前記プライマー層の表面に、紫外線吸収剤が含有されたオルガノポリシロキサン組成物を塗布し、脱水縮合反応によるシロキサン結合の膜状のハードコート層を形成する工程と、を具備し、プライマー層を形成する工程において、表層のポリカーボネート樹脂を溶解してプライマー樹脂と相溶する溶剤が3質量%~15質量%の割合で含有されたプライマー組成物を用いるものである。
【0025】
本発明の基層を構成するポリカーボネート樹脂としては、透明性が確保されたものであれば、特に限定されるものではなく、従来より周知の各種ポリカーボネート樹脂を用いることができる。この基層を構成するポリカーボネート樹脂には、紫外線吸収剤を含有していないものが使用されるが、表層のポリカーボネート樹脂に含まれる紫外線吸収剤よりも少ない範囲で紫外線吸収剤を含有したものであってもよい。このポリカーボネート樹脂によって構成される基層の厚みとしては、2~30mmの範囲のものが使用される。
【0026】
本発明の表層を構成するポリカーボネート樹脂としては、上記基層を構成するポリカーボネート樹脂と同様に、透明性が確保されたものであれば、特に限定されるものではなく、従来より周知の各種ポリカーボネート樹脂を用いることができる。この表層を構成するポリカーボネート樹脂には、紫外線吸収剤を含有したものが使用される。
【0027】
この際、紫外線吸収剤の含有量としては、基層を構成するポリカーボネート樹脂と共押出成形した際に、基層と表層との密着を阻害することなく強固に密着させることができる量の範囲内であれば、特に限定されるものではないが、表層部分のポリカーボネート樹脂100質量部に対して1~20質量部、好ましくは3~10質量部の範囲で含有されたものであることが好ましい。20質量部を超えると、効果が飽和して紫外線吸収剤が無駄になるとともに、初期黄色度が高くなって外観不良の原因となったり、強度が低下する原因となる。また、1質量部未満の場合、紫外線吸収剤の添加による紫外線吸収効果が十分に発揮されず、かつ、表層の上に設けられるプライマー層との相溶性が十分に得られないこととなり、表層とプライマー層との密着性が不十分になってしまうことが懸念される。このポリカーボネート樹脂によって構成される表層の厚みとしては、5μm~100μmの範囲のものが使用される。5μm未満の場合、紫外線吸収効果が十分に得られず、100μmを超えると、紫外線吸収効果が飽和してしまい無駄になるとともに、初期黄色度が高くなって外観不良の原因となる。
【0028】
表層に含有される紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリチル酸フェニルエステル系、トリアジン系の紫外線吸収剤が挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,αジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチレンブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等を例示することができ、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-4’-クロルベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン等を例示することができる。また、サリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤としては、p-t-ブチルフェニルサリチル酸エステル等が例示でき、トリアジン系紫外線吸収剤としては、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシエトキシ)-1,3,5-トリアジンなどを挙げることができるが、これらだけに限定されるものではなく、一般的に入手可能な紫外線吸収剤などが含まれる。
【0029】
本発明のプライマー層を構成するプライマーとしては、紫外線吸収剤と、溶剤と、プライマー樹脂とを添加して構成されたプライマー組成物が用いられる。このプライマーは、前記表層の上に塗布した後、加熱乾燥することによって形成される。
【0030】
この際、使用される紫外線吸収剤としては、特に限定されるものではないが、上記した表層に添加される紫外線吸収剤と同じものを使用することが好ましい。また、紫外線吸収剤の添加量としては、硬化後のプライマー樹脂100質量部に対して1~20質量部となる範囲で使用される。1質量部未満の場合、紫外線吸収による十分な効果が発揮できなくなる。また、20質量部を超えると、紫外線吸収による十分な効果が飽和して無駄になるとともに、ハードコート層による密着性が低下してしまうこととなる。
【0031】
プライマーに使用される溶剤としては、紫外線吸収剤およびプライマー樹脂を溶解するものであれば、特に限定されるものではなく、トルエン、キシレン、酢酸ブチル、PGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)等を使用することができる。このうち、表層にプライマー組成物を塗布した際に、少なくとも一部の溶剤が、表層を構成するポリカーボネート樹脂を溶解し、当該ポリカーボネート樹脂および紫外線吸収剤が、プライマー樹脂と相溶した層を形成して強固に一体化するように、溶剤の一部には、プライマー樹脂だけではなく、表層を構成するポリカーボネート樹脂をも溶解するものが添加される。このような表層のポリカーボネート樹脂を溶解する溶剤としては、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)、アセトン(ジメチルケトン)等のケトン系溶剤を使用することができる。ただし、このような表層を構成するポリカーボネート樹脂を溶解する溶剤を多く加え過ぎると、表層のポリカーボネート樹脂のヘーズ(曇価)が低下し、積層体の透明度が低下してしまう。したがって、このような表層を構成するポリカーボネート樹脂を溶解する溶剤の使用量としては、プライマー中、3質量%~15質量%の範囲内で使用される。3質量%未満の場合、プライマー層の形成時にプライマー樹脂と表層のポリカーボネート樹脂とが十分に相溶せず、表層の上にプライマー層を強固に密着させることができなくなってしまう。また、15質量%を超えると、溶剤が表層のポリカーボネート樹脂を溶解し過ぎてしまい、積層体の透明度が低下してしまうこととなってしまう。
【0032】
プライマーに使用されるプライマー樹脂としては、ポリカーボネート樹脂との相溶性に優れ、かつ、十分な透明度を有し、ハードコート層のバックアップ層として十分な硬度を有することができるものであれば、特に限定されるものではなく、ウレタン系樹脂や、アクリル系樹脂からなるものが使用される。このプライマー樹脂は、プライマーを塗布した後、加熱乾燥することによってプライマー層を形成することとなる。この際、形成されるプライマー層の厚みが2μm~5μmとなるように塗布される。このプライマー層の厚みが2μm未満の場合は、紫外線吸収による十分な効果が発揮されない、プライマー層上に設けるハードコート層の密着性が低下する、などの不都合を生じることとなる。また、5μmを超える場合は、紫外線吸収による十分な効果が飽和してしまい無駄になるとともに、過剰な紫外線吸収剤が、表層を構成するポリカーボネート樹脂とプライマー樹脂とによる相溶層の形成を阻害してしまい、表層とプライマー層との密着性を低下させてしまうことになる。また、プライマー層上に設けるハードコート層にクラックが生じやすくなるなどの不都合が懸念される。
【0033】
本発明のハードコート層としては、紫外線吸収剤を含有したオルガノポリシロキサン組成物を、脱水縮合反応によって硬化させることによって形成される。
【0034】
この際、オルガノポリシロキサン組成物に含有される紫外線吸収剤としては、特に限定されるものではないが、上記したプライマー層に添加される紫外線吸収剤と同じものを使用することが好ましい。また、紫外線吸収剤の添加量としては、硬化後のハードコート層100質量部に対して0.1~5質量部となる範囲で使用される。0.1質量部未満の場合、紫外線吸収による十分な効果が発揮できなくなる。また、5質量部を超えると、ハードコート層の耐磨耗性が低下してしまうこととなる。
【0035】
オルガノポリシロキサン組成物としては、脱水縮合反応によりシロキサン結合によるハードコート層を形成することができるものであれば、特に限定されるものではなく、各種の有機官能基が架橋されたオルガノポリシロキサン組成物を使用することができる。例えば、3官能性のオルガノシロキサン化合物、具体的にはメチルトリメトキシシラン(MTMS)等を主成分とし、これにジメチルジメトキシシラン(DMDMS)等の2官能性オルガノポリシロキサン化合物を適度に混合した複合組成物を出発原料とし、脱水縮重合反応を経て得られたハードコート層の鉛筆硬度が、紫外線吸収剤等を含めた他の成分を含有した状態の硬化後でF以上となるオルガノポリシロキサン樹脂を使用することができる。また、このようなオルガノポリシロキサン組成物にコロイダルシリカを添加して硬化後のハードコート層の硬度を高めるようにするものであってもよい。オルガノポリシロキサン組成物には、当該オルガノポリシロキサン組成物以外に、溶剤、硬化触媒、分散剤、チクソ剤、等が含まれていてもよい。このオルガノポリシロキサン組成物は、脱水縮合反応により形成されるハードコート層の厚みが3μm~10μmとなるように塗布される。このハードコート層の厚みが3μm未満の場合は、ハードコート層による十分な耐磨耗性の効果が発揮されないこととなる。また、10μmを超える場合は、耐磨耗性の効果が飽和してしまい無駄になってしまう、ハードコート層にクラックが生じやすくなる、などの不都合を生じることとなる。このオルガノシロキサン組成物としては、ハードコート層100質量部に対して紫外線吸収剤が0.1~5質量部となる範囲で含有された状態の硬化後のハードコート層において、鉛筆硬度がF以上となるように形成する。このようにハードコート層を形成することで、良好な耐磨耗性を得ることができる。
【0036】
次に、本発明に係る積層体の製造方法について説明する。
【0037】
本発明に係る積層体は、ポリカーボネート層を形成する工程と、プライマー層を形成する工程と、ハードコート層を形成する工程と、を具備している。
【0038】
ポリカーボネート層を形成する工程では、上記した基層を構成する基層材料であるポリカーボネート樹脂と、上記した表層を構成する表層材料である紫外線吸収剤が含有されたポリカーボネート樹脂とを、共押出成形によって板状に成形する。すなわち、溶融させた基層材料を押出装置から押し出すとともに、溶融させた表層材料を他の押出装置から押し出してこれらを積層し、基層と表層とが一体化した状態で冷却固化させてポリカーボネート層を構成する。この際、表層及び基層は、冷却後に厚さ2~30mmからなるように調整された型を用いて共押出成形されることで、所望の厚さのポリカーボネート板が得られる。このようにして得られるポリカーボネート層は、基層の片面に表層を構成するものであってもよいし、基層の両面に表層を構成するものであってもよい。
【0039】
プライマー層を形成する工程では、上記工程で得られた表層の上に、上記したプライマーを塗布した後、加熱乾燥させることによってプライマー層を形成する。このプライマーを塗布すると、当該プライマー中の溶剤によって、表層の表面は、当該表層を構成するポリカーボネート樹脂および紫外線吸収剤が溶解し、これらポリカーボネート樹脂と紫外線吸収剤と、プライマー中のプライマー系樹脂とが相溶状態となって強固に一体化する。したがって、プライマー層は、当該プライマー層と表層との界面部分に、両層の成分が相溶して強固に一体化した相溶層が形成されて表層に密着することとなる。このプライマーは、硬化後の厚さが2~5μmとなるように、所望の量が塗布される。プライマー塗布後、15分程度放置することにより、揮発性の高い溶媒は、揮発し、塗布膜中より脱離する。この放置時間中に、相溶層は形成される。次に、120~130度で15分~60分の加熱処理を行うことにより、架橋反応を経てプライマー層が形成される。架橋反応は温度に依存するため、上記した120度未満の低温処理でも進行する、加熱乾燥温度としては、上記した120~130度に限定されるものではないが、実用的には、基層や表層の樹脂の耐熱温度以下でかつより高温で行うことが、生産性を高める上で有利であるため、上記した120~130度での処理が最も好ましい。このようにして得られるプライマー層は、表層との界面に、ポリカーボネート樹脂と紫外線吸収剤と、プライマー中のプライマー系樹脂とが相溶状態となって強固に一体化した相溶層が形成されるが、この際、相溶層の厚みが厚くなり過ぎると、積層体のヘーズ(曇価)が低下し、透明性が低下することとなる。したがって、ヘーズ(曇価)の低下が1%以下、すなわち、相溶層の厚みとして80nm~800nm程度となるように、ポリカーボネートを溶解する溶剤の量や、加熱乾燥温度や加熱乾燥時間を調整する。相溶層は、80nm未満の場合、ポリカーボネート樹脂と、紫外線吸収剤と、プライマー系樹脂とを、十分な相溶状態にできていないため、表層とプライマー層とを強固に密着させることができなくなる。また、800nmを超えると、表層を構成するポリカーボネート樹脂および紫外線吸収剤が過度に溶解され過ぎてしまい、ヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)が大きくなり、透明性に悪影響を与えてしまうこととなる。
【0040】
ハードコート層を形成する工程では、上記工程で得られたプライマー層の上に、上記した紫外線吸収剤を含有したオルガノポリシロキサン組成物を塗布し、反応硬化させることによってハードコート層を形成する。この際、オルガノポリシロキサン組成物を塗布するプライマー層には、非常に多くの紫外線吸収剤を含有させているため、ハードコート層の接着力不足が懸念されるが、オルガノポリシロキサン組成物の脱水縮合反応によって得られる結合力は非常に大きいため、当該オルガノポリシロキサン組成物の脱水縮合反応によって形成されるハードコート層は、プライマー層と強固に密着することとなる。このハードコート層は、硬化後の厚みが3μm~10μmとなるように、所望の量を塗布して使用される。
【0041】
図1に示すように、このようにして構成される積層体1は、基層10の少なくとも片面(図面では両面)に表層20が共押出成形により一体成形され、表層20の上にプライマー層30が積層され、プライマー層30の上にハードコート層40が積層され、表層20とプライマー層30とハードコート層40との全ての層に紫外線吸収剤が配合された状態で形成される。この際、基層10と表層20とが共押出形成によって強固に一体化している。しかも、表層20とプライマー層30とは、プライマー層30を構成するプライマー組成物の溶剤が表層20の界面のポリカーボネート樹脂および紫外線吸収剤を溶かしてプライマー樹脂と相溶した相溶層31を形成することとなるので、プライマー層30は表層20に強固に一体化する。さらに、プライマー層30とハードコート層40とは、シロキサン結合の結合力が大きいため、強固に一体化する。よって、積層体1として各層が強固に密着したものとなる。
【0042】
ハードコート層40よりも表層20およびプライマー層30に多くの紫外線吸収剤を含有させており、ハードコート層40には少量の紫外線吸収剤しか含有させていないので、当該ハードコート層40の硬度低下が最小限に抑えられている。したがって、優れた耐磨耗性が得られ、表面の傷つき等による経時的な白濁を生じ難くなる。また、クラックが入り易くなるのを防止できる。このように、ハードコート層40は耐磨耗性向上の関係で紫外線吸収剤を十分に添加していないが、ハードコート層40の主成分は無機成分で他の層よりも黄変し難い。また、このハードコート層40の下のプライマー層30に多くの紫外線吸収剤を添加しているので、紫外線による黄変を防止することができる。
【0043】
ハードコート層40は硬い反面クラックを生じる起点になり易いが、仮にクラックを生じた場合であっても、ハードコート層40からプライマー層30に伝播したとしても、表層20にも紫外線吸収剤を添加しており、しかも表層20とプライマー層30とは相溶層31によって強固に密着しているので、表層20からのプライマー層30の剥離を生じ難くなり、表層20でクラックの伝播を防止できる。よって、クラックの発生とともに、当該クラックを介して紫外線が入光して紫外線劣化が急激に進行するのを防止できる。
【0044】
このようなことから、本発明の積層体1は、例えば、NEXCO 遮音壁施工管理要領で定められている透明の防音壁で比較した場合、通常は、JIS K 7350-2に準拠するキセノンウェザー試験による5000時間経過後の促進曝露実施後のヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)が10%以下、黄色度(YI)が7以下、黄変度(ΔYI)が7以下であるが、本発明による積層体1は10000時間経過後も同条件を満たすものとなり、倍以上の性能を満たすことができる。また、規定時間の3倍に相当する15000時間経過後であっても、本発明による積層体は、同条件を、当該条件における各設定値の半分以下の値で満たすことができる。さらに、JIS K 7350-2に準拠するキセノンウェザー試験を、JIS K 7350-4 に準拠するサンシャインウェザー試験に変更した場合であっても、規定時間の3倍に相当する15000時間経過後に、上記と同じ条件を、当該条件における各設定値の半分以下の値で満たすことができる。
【0045】
ただし、上記試験による変化を確認するには、1年以上経過しても、あまり変化が起こらないこととなるので、メタルハライドランプを用いた加速試験を行っても良い。加速試験の条件としては、例えば、ブラックパネル温度63℃、紫外線量81mW/cm2の雰囲気下で60ワットのメタルハライドランプによる118分の光照射をした後、当該光照射とともに2分間の散水を行い、これを反復して繰り返すメタルウェザー試験が挙げられる。試験による測定項目としては、上記したヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)、黄色度(YI)、黄変度(ΔYI)などが挙げられるが、その中でもJIS K 7373に準拠した黄色度(YI)や黄変度(ΔYI)が、上記条件の場合は最も変化が確認し易い。
【0046】
なお、防音壁は、一例であって、本発明の積層体は、その他にも自動車、鉄道、飛行機等各種交通機関の窓、看板、自動販売機、カーポート等の各種屋外構造物の透明パネル部材、アーケードや住宅、公共施設等の屋根材等に使用できる。
【発明の効果】
【0047】
以上述べたように、本発明によると、表面硬度を維持して十分な耐磨耗性を得るとともに、ヘーズ(曇価)の変化や黄変を生じ難い十分な耐久性をも得ることができ、飛躍的に耐久性を向上させた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】本発明に係る積層体の全体構成の概略を示す断面図である。
【
図2】メタルウェザー試験の経過時間と黄変度(ΔYI)との関係を示すグラフである。
【
図3】メタルウェザー試験の試験前と700時間経過後の各試験片の状態を示す画像データである。
【
図4】サンシャインウェザー試験の経過時間とヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)との関係を示すグラフである。
【
図5】サンシャインウェザー試験の経過時間と黄色度(YI)との関係を示すグラフである。
【
図6】サンシャインウェザー試験の経過時間と黄変度(ΔYI)との関係を示すグラフである。
【
図7】サンシャインウェザー試験の経過時間と各試験片の状態を示す画像データである。
【
図8】キセノンウェザー試験の経過時間とヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)との関係を示すグラフである。
【
図9】キセノンウェザー試験の経過時間と黄色度(YI)との関係を示すグラフである。
【
図10】キセノンウェザー試験の経過時間と黄変度(ΔYI)との関係を示すグラフである。
【
図11】キセノンウェザー試験の経過時間と各試験片の状態を示す画像データである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
(実施例1、比較例1-2)
[積層体の調製]
ポリカーボネート樹脂からなる基層の両面に、紫外線吸収剤が含有されたポリカーボネート樹脂からなる表層を、共押出成形によって形成し、厚さ8mmのポリカーボネート板(タキロンシーアイ社製:製品番号PCSP6658)を用意して試験片とした。
このポリカーボネート板は、基層の厚みが7.90mm、表層の厚みが50μm、表層における樹脂100質量部に対して紫外線吸収剤が6質量部の割合で添加されている。
【0050】
次に、上記試験片をプライマーに浸漬し、加熱乾燥してプライマー層を形成した。
プライマーとしては、プライマー樹脂としてアクリル樹脂(関東化学株式会社製メタクリル酸メチルポリマー)をプライマー全体の10質量%、表層のポリカーボネート樹脂および紫外線吸収剤を溶解する溶剤としてMIBK(メチルイソブチルケトン)をプライマー全体の5質量%含有し、前記アクリル樹脂100質量部に対してベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(東京化成工業株式会社製1、2、3-ベンゾトリアゾール)を10質量部(この場合、プライマー全体の1質量%)含有し、残部がPGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)で希釈されたものを使用した。すなわち、10質量%のアクリル樹脂、5質量%のMIBK、1質量%の紫外線吸収剤、84質量%のPGMからなる組成のプライマーを使用した。
【0051】
室温23度、湿度50%以下の環境雰囲気下において、このプライマーに上記試験片を浸漬し、当該プライマーを試験片に塗布した。15分間自然乾燥し、この15分間でMIBKによって表層のポリカーボネート樹脂および紫外線吸収剤を溶解してアクリル樹脂と相溶させた後、125度で30分間の加熱乾燥を行うことにより、厚さ300nmの相溶層を形成し、厚さ3μmのプライマー層を形成した。プライマー層の膜厚の調整は、プライマーに浸漬後、ディップコート法により行った。ディップコート法によれば、試験片をプライマー液に浸漬した状態から、一定速度で引き上げることにより膜厚均一性に優れたプライマー層を得ることができる。すなわち、所望の膜厚が得られるよう引き上げ速度を調整した。また、膜厚は、プライマー層の屈折率を1.59として光学干渉式膜厚計(フィルメトリクス社製F20)により測定した。
【0052】
プライマー中のMIBKは、表層のポリカーボネート樹脂を侵すため、上記積層体の調製方法にしたがって積層体を調製すると、MIBKは、表層のポリカーボネート樹脂を溶解し、当該ポリカーボネート樹脂と、アクリル樹脂と、紫外線吸収剤とが相溶した相溶層を、表層とプライマー層との界面に形成することとなる。
【0053】
この際、MIBKの濃度が高いと、表層のポリカーボネート樹脂をより多く溶解することとなるため、相溶層の厚さは、上記積層体の調製方法にしたがって15分間に固定した一定の自然乾燥時間で調製した場合は、MIBKの濃度に比例することとなる。この相溶層は、表層とプライマー層との中間的な層となるため、当該相溶層が形成されると、表層とプライマー層との密着性が高くなる。しかし、この相溶層の厚さが厚くなるのに比例して、ヘーズ(曇価)が上昇することが確認できる。このヘーズ(曇価)は、相溶層の厚みが増えたり、紫外線吸収剤の含有量が増えたりすると、上昇することとなり、これによって積層体の透明性が低下することになってしまう。上記した積層体の調製方法において、プライマーの全量中に、表層を溶解する溶剤として5質量%含有されているMIBKは、15質量%以下の含有であれば、積層体の透明性に大きく影響しない。
【0054】
また、相溶層は、表層のポリカーボネート樹脂と、プライマーのアクリル樹脂と、紫外線吸収剤とが互いに相溶して表層とプライマー層との中間的な層を形成すればよく、これら成分の1分子以上が厚み方向に相溶していればよく、特にその厚みが薄くても密着性向上の効果を発揮することができる。上記した積層体の調製方法において、プライマーの全量中に、表層を溶解する溶剤として5質量%含有されているMIBKは、3質量%以上の含有であれば、形成された相溶層による密着性向上の効果が期待できる。
【0055】
なお、相溶層の測定は、以下の方法により確認した。
試験片を5×10mm程度の小片に切断し、アルミ等の金属板で挟んで感光性アクリル樹脂等で包埋した。この小片の断面を精密研磨装置((株)マルトー、ML-160A)にて研磨し、試験片断面の平坦な研磨面を得た。この状態で断面方向より走査型電子顕微鏡により10、000倍以上に拡大して観察し、プライマー層と表層のポリカーボネート界面に生ずる相溶層の厚さを撮影画像により測定した。このとき、必要に応じてアセトンやTHF(テトラフロロフラン)等の溶剤にごく短時間浸漬することにより界面を強調させた。
【0056】
このようにして相溶層およびプライマー層を形成後、上記試験片を、紫外線吸収剤が含有されたオルガノポリシロキサン組成物に浸漬し、加熱乾燥して、厚さ8μmのハードコート層を形成した。紫外線吸収剤が含有されたオルガノポリシロキサン組成物は、熱硬化型オルガノポリシロキサン樹脂液中の樹脂100質量部に対して紫外線吸収剤としてのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を1質量部添加し、樹脂の固形分濃度が30質量%となるようにIPA(イソプロピルアルコール)で希釈したものを使用した。
【0057】
室温23度、湿度50%以下の環境雰囲気下において、試験片を、上記紫外線吸収剤が含有されたオルガノポリシロキサン組成物に浸漬し、当該オルガノポリシロキサン組成物を試験片に塗布した。15分間自然乾燥して溶剤や揮発成分を揮発させた後、熱風乾燥炉内において、125度で40分間の熱処理を行うことにより、ハードコート層を形成した。ハードコート層の膜厚の調整は、上記オルガノポリシロキサン組成物に浸漬後、ディップコート法により行った。膜厚の調整は、プライマー層と同様、試験片の引き上げ速度を調整することにより行った。また、膜厚は、ハードコート層の屈折率を1.43として光学干渉式膜厚計(フィルメトリクス社製F20)により測定した。
【0058】
このようにして構成された基層7.90mm、表層50μm、相溶層300nm、プライマー層3μm、ハードコート層8μmの積層体について、下記のテーバー磨耗試験を行った。また、比較対象として、基層と表層とを共押出成形し、表層に紫外線吸収剤を添加した厚さ8mmの積層体(タキロンシーアイ社製:製品番号PCSP6658)を比較例1とし、基層のみからなるポリカーボネート板の上に、紫外線吸収剤を含有したプライマー層を形成するとともに、その上に紫外線吸収剤を含有させたハードコート層を形成した厚さ8mmの積層体(タキロンシーアイ社製:製品番号PCMR56620)を比較例2とし、これらについても、同様のテーバー磨耗試験を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[テーバー磨耗試験]
JIS K 7204 に準拠したテーバー磨耗試験装置によるJIS K 6735 付属書JAに準拠したテーバー磨耗試験(荷重4.9N、回転速度70±5rpm、磨耗輪CS-10F)による100回転後のJIS K 7136 に準拠したヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)を求めた。
【0060】
【0061】
上記の結果から、本発明に係る積層体は、上記テーバー磨耗試験において、ヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)15%以下を達成することができることが確認できた。
【0062】
また、これら各試験片について、メタルウェザー試験を行い、0、200、400、600、700時間経過後に、JIS K 7373に準拠した黄変度(ΔYI)の測定を行った。700時間経過後の2個の試験片を、試験開始前の1個の試験片と並べて画像撮影した。結果を表2、
図2および
図3に示す。
【0063】
【0064】
[メタルウェザー試験]
機器名:メタルウェザー試験機(ダイプラ・ウィンテス株式会社製)
型式:KW-R5TP-A
光源ランプ:メタルハライドランプMW-60W 232L
フィルタ:KF-1フィルタ(石英/295-780nm)
冷却方法:水冷ジャケット方式
試験条件:光照射試験118分→光照射+降雨試験2分/の繰り返し
紫外線量:81mW/cm2(岩崎電機株式会社製UVP365-01にて300~400nm測定)
BP温度:63±3度
湿度:光照射試験時(50%Rh以下)、光照射+降雨試験時(98%Rh以上)
所要時間:120分/1サイクル
【0065】
上記の結果から、メタルウェザー試験で700時間経過後であっても、本発明に係る実施例の積層体は、黄変度2以下を達成できることが確認できた。比較例2は、700時間で急激に黄変度が上昇しているが、表面を確認したところ、多くのクラックが確認されたことから、これらのクラックの発生とともに、急激に黄変度が上昇したものと推測される。
【0066】
(実施例2-3、比較例3-4)
上記した積層体の調製方法により、本発明に係る2種類の積層体(実施例2-3)を用意し、縦75mm×横65mmの大きさに切断して試験片とした。実施例2の積層体は、基層9.90mm、表層50μm、相溶層300nm、プライマー層3μm、ハードコート層8μmである。実施例3の積層体は、基層16.90mm、表層50μm、相溶層300nm、プライマー層3μm、ハードコート層8μmである。
【0067】
また、比較対象として、基層と表層とを共押出成形し、表層に紫外線吸収剤を添加した積層体(タキロンシーアイ社製:製品番号PCSP6658)を用意し、縦75mm×横65mmの大きさに切断して比較対象の試験片(比較例3)とし、基層のみからなるポリカーボネート板の上に、紫外線吸収剤を含有したプライマー層を形成するとともに、その上に紫外線吸収剤を含有させたハードコート層を形成した積層体(タキロンシーアイ社製:製品番号PCMR56620)を用意し、縦75mm×横65mmの大きさに切断して他の比較対象の試験片(比較例4)とした。比較例3の積層体は、基層7.90mm、表層50μmである。比較例4の積層体は、基層8mm、プライマー層3μm、ハードコート層8μmである。
【0068】
これら各試験片について、JIS K 7350-4 に準拠したサンシャインウェザー試験を行い、1000時間毎にJIS K 7136に準拠したヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)の測定、JIS K 7373に準拠した黄色度(YI)の測定、JIS K 7373に準拠した黄変度(ΔYI)の測定を行った。また、実施例に係る各試験片については、JIS K 7350-2 に準拠したキセノンウェザー試験を行い、1000時間毎にJIS K 7136に準拠したヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)の測定、JIS K 7373に準拠した黄色度(YI)の測定、JIS K 7373に準拠した黄変度(ΔYI)の測定を行った。
【0069】
サンシャインウェザー試験の結果を表3~表5、
図4~
図6に示す。キセノンウェザー試験の結果を表6~表8、
図8~10に示す。また、上記サンシャインウェザー試験を行った各試験片については、1000時間毎に表面状態を観察するための写真と、同拡大写真とを撮影した。画像データを
図8に示す。上記キセノンウェザー試験を行った実施例に係る各試験片については、1000時間、5000時間、10000時間の表面状態を観察するための写真と、同拡大写真とを撮影した。画像データを
図11に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
[サンシャインウェザー試験]
試験:JIS K 7350-4 に準拠
機器名:サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機(スガ試験機株式会社製)
形式:S80
アーク電圧:直流電圧50V
アーク電流:交流電圧60A
BP温度:63±3度
湿度:50±5%Rh
降雨スプレー時間:18分/120分・1サイクル
降雨スプレー圧力:1.0kgf/cm2
降雨スプレー量:2100±100cc/分
試験時間:10000時間
【0077】
[キセノンウェザー試験]
試験:JIS K 7350-2 に準拠
機器名:スーパーキセノンウェザーメーター(スガ試験機株式会社製)
形式:SX75
フィルタ:デイライトフィルタ(インナ-:石英、アウター:♯295(スガ試験機株式会社製)
放射照度:60W/m2(300-400nm)
照射時ブラックスタンダード温度:63±3度
槽内温度:38±3度
照射時相対湿度:50±5%Rh
降雨スプレー時間:18分/120分・1サイクル
試験時間:10000時間
照度校正:放射照度計(スガ試験機株式会社製RAX34C)にて調整
【0078】
[ヘーズ(曇価)の変化量の測定]
ヘーズ(曇価)の変化量(ΔH)の測定は、日本電色工業(株)社製ヘーズメーター(型式:NDH7000)を利用し、JIS K 7136に準拠する方法で行った。
【0079】
[黄色度および黄変度の測定]
黄色度(YI)および黄変度(ΔYI)の測定は、JIS K 7373に準拠する方法で行った。
また、測定には、JIS Z 8722に準拠する下記の測定装置と条件で行った。
機器名:測色試験機(日本電色工業(株)社製)
型式:SE-2000
測定モード:反射モード
測定事項:色差
測定範囲:30mmφ
光源:C光源
測定視野:2°
【0080】
上記の結果から、サンシャインウェザー試験で15000時間経過後またはキセノンウェザー試験で15000時間経過後であっても、本発明に係る実施例の積層体は、ヘーズ(曇価)の変化量が10以下、黄色度が7以下、黄変度が7以下、をそれぞれ達成することができることが確認できた。
【0081】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。