(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】触感測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 19/02 20060101AFI20231218BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20231218BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20231218BHJP
G01N 3/40 20060101ALI20231218BHJP
G01N 19/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
G01N19/02 C
G01L5/00 101Z
G01N3/00 Z
G01N3/40 Z
G01N19/00 C
(21)【出願番号】P 2020099185
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】奥山 武志
(72)【発明者】
【氏名】田中 真美
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-181693(JP,A)
【文献】特開2007-333522(JP,A)
【文献】特開2018-116054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/02
G01L 5/00
G01N 19/00
G01N 3/40
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定する対象物を取り付けるための取付面を有し、前記取付面に対して垂直方向に前記取付面を往復移動可能に設けられた取付台と、
触感センサと、
前記触感センサを、前記取付台に取り付けられた前記対象物の表面に押し付け可能に設けられた押付手段と、
前記触感センサを前記取付面に沿ってスライド可能に設けられたスライド手段と、
前記触感センサを前記対象物の表面に押し付けたときの押し付け力を測定可能に設けられた力センサと、
前記力センサで測定された押し付け力に基づいて前記取付面の位置を制御することにより、前記触感センサを前記対象物の表面に押し付けるときの押し付け力を制御可能に設けられた制御部とを、
有することを特徴とする触感測定システム。
【請求項2】
前記制御部は、あらかじめ取得しておいた前記力センサで測定された押し付け力と前記取付面の位置との関係に基づいて、前記取付面の位置をフィードフォワード制御することにより、前記触感センサを前記対象物の表面に押し付けるときの押し付け力を制御可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載の触感測定システム。
【請求項3】
前記押付手段は、先端部に前記触感センサが取り付けられて、前記取付面に沿って伸びる梁部材を有し、
前記スライド
手段は、前記取付面に沿って前記梁部材をスライドさせることにより、前記触感センサをスライド可能に設けられ、
前記力センサは、前記梁部材の後端部に取り付けられたひずみゲージから成ることを
特徴とする請求項1または2記載の触感測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触感測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、触感を評価する方法として、官能評価や物理特性の計測が行われている。しかしながら、一般的に、官能評価は、多くの評価者を必要とし、その評価者の習熟度や嗜好に影響を受け、客観性に欠けるという問題があった。また、物理特性の計測は、客観的なデータを得ることはできるが、官能評価で得られる触感との関係が十分ではなく、触感を定量的に評価することができないという問題があった。
【0003】
そこで、触感を客観的かつ定量的に評価するために、ヒトの触感知覚機構を模擬した触感計測用センサシステムとして、高分子圧電材料の一つであるポリフッ化ビニリデン(Polyvinylidene difluoride,PVDF)フィルムを、触感センサの受感材に用い、その触感センサをX軸直動スライダに取り付けてスライダの走査速度を制御することにより、指先の移動速度を模擬すると共に、測定対象物を取り付けたZ軸ステージを手動で上下させることにより、触感センサの測定対象物への初期押し付け力を調節するものが、本発明者等により開発されている(例えば、非特許文献1参照)。このセンサシステムは、触感センサを測定対象物に接触させながら走査し、それにより生じた振動を圧力変動として出力して解析を行うものであり、ヒトの指の振動を知覚する機械受容器の応答特性と類似した特性を有することが確認されている。
【0004】
また、圧電素子で形成された梁の先端部に触感センサを取り付け、圧電素子に電圧を加えることにより、触感センサの測定対象物への初期押し付け力を調節すると共に、梁に取り付けられたひずみゲージで押し付け力を計測し、押し付け力が一定に保たれるように、圧電素子に電圧を印加して制御するものも開発されている(例えば、特許文献1または2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】田中真美、「皮膚表面性状計測用センサの開発:第1報 センサの基本特性」、日本AEM学会誌、1999年、Vol.7、No.3、p.308-313
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-181693号公報
【文献】特開2007-333522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ヒトの接触動作を考慮すると、対象物への押し付け力が常に一定とは限らず、押し付け力や押付時の移動速度が変化する場合も多い。このため、様々な触感を評価するためには、触感センサの押し付け力や走査速度を適切に制御できることが望まれる。
【0008】
非特許文献1に記載の、Z軸ステージにより触感センサの測定対象物への初期押し付け力を調節するセンサシステムは、初期押し付け力のみを調節するものであり、走査中の押し付け力がわからないため、押し付け力の変動による出力への影響を考慮することができず、高い精度で触感を評価するのが難しいという課題があった。また、手動でZ軸ステージを調整して初期押し付け力を調節するため、その調節に手間がかかるという課題もあった。また、特許文献1および2に記載のセンサシステムでは、走査中の押し付け力を一定に保つため、押し付け力の変動を考慮する必要はないが、押し付け力が変化するときの触感を評価することはできないという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、走査中の触感センサの押し付け力を容易に制御することができ、押し付け力が変化するときの触感を高精度で評価可能な触感測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る触感測定システムは、測定する対象物を取り付けるための取付面を有し、前記取付面に対して垂直方向に前記取付面を往復移動可能に設けられた取付台と、触感センサと、前記触感センサを、前記取付台に取り付けられた前記対象物の表面に押し付け可能に設けられた押付手段と、前記触感センサを前記取付面に沿ってスライド可能に設けられたスライド手段と、前記触感センサを前記対象物の表面に押し付けたときの押し付け力を測定可能に設けられた力センサと、前記力センサで測定された押し付け力に基づいて前記取付面の位置を制御することにより、前記触感センサを前記対象物の表面に押し付けるときの押し付け力を制御可能に設けられた制御部とを、有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る触感測定システムは、取付台の取付面に対象物を取り付けて使用される。本発明に係る触感測定システムは、取付面に取り付けられた対象物の表面に、押付手段により触感センサを押し付けた状態で、スライド手段により触感センサをスライドさせて走査する。このとき、力センサにより測定された触感センサの押し付け力に基づいて、制御部により、取付面を移動させて取付面の位置を制御する。取付面の位置により触感センサの押し付け力が変化するため、取付面の位置を制御することにより、走査中の触感センサの押し付け力を制御することができる。また、手動ではなく、制御部により自動で触感センサの押し付け力を制御することができ、制御が容易である。
【0012】
本発明に係る触感測定システムは、押し付け力を制御しながら触感センサを走査して測定を行うことができ、そのときの触感センサの出力に基づいて、触感を評価することができる。また、これにより、押し付け力を変化させながら走査を行うことができるため、押し付け力が変化するときの触感を高精度で評価することができる。また、スライド手段による触感センサのスライド速度も制御して変化させることにより、様々な触感を評価することができる。
【0013】
本発明に係る触感測定システムで、取付台は、取付面の移動方向は上下方向や水平方向など、いかなる方向であってもよいが、取付面を上下方向に往復移動可能に設けられていることが好ましい。また、スライド手段は、取付面の移動方向に合わせて、例えば、取付面が上下方向に往復移動可能な場合には、触感センサを水平方向にスライド可能であることが好ましい。本発明に係る触感測定システムで、触感センサは、ヒトの触感を模擬可能なものであれば、いかなるものであってもよいが、非特許文献1に記載のような、受感材にPVDFフィルムを用いたものから成ることが好ましい。
【0014】
本発明に係る触感測定システムで、前記制御部は、あらかじめ取得しておいた前記力センサで測定された押し付け力と前記取付面の位置との関係に基づいて、前記取付面の位置をフィードフォワード制御することにより、前記触感センサを前記対象物の表面に押し付けるときの押し付け力を制御可能に設けられていることが好ましい。この場合、触感センサの押し付け力を正確かつ迅速に制御することができ、触感をより高精度で評価することができる。また、測定条件の変動による測定結果の変動を抑えることもできる。
【0015】
本発明に係る触感測定システムで、押付手段は、対象物の表面に触感センサを押し付け可能であれば、いかなる構成であってもよい。押付手段は、例えば、先端部に触感センサが取り付けられて、取付面に沿って伸びる梁部材であってもよい。この場合、スライド手段は、取付面に沿って梁部材をスライドさせることにより、触感センサをスライド可能になっていることが好ましい。また、力センサは、触感センサの押し付け力を測定可能であれば、いかなるものであってもよく、例えば、押付手段が梁部材である場合には、梁部材の後端部に取り付けられたひずみゲージから成っていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、走査中の触感センサの押し付け力を容易に制御することができ、押し付け力が変化するときの触感を高精度で評価可能な触感測定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態の触感測定システムを示す、(a)平面図、(b)正面図である。
【
図2】本発明の実施の形態の触感測定システムの、触感の測定試験に用いた各サンプル(S1~S9)を示す平面図である。
【
図3】本発明の実施の形態の触感測定システムの、触感の測定試験に用いた(a)押し付け力が変化するパターン(Pattern 1)、(b)押し付け力が増加するパターン(Pattern 2)、(c)押し付け力が減少するパターン(Pattern 3)、(d)押し付け力が一定のパターン(Pattern 4)を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施の形態の触感測定システムの、触感の測定試験での(a)サンプルS1、(b)サンプルS2、(c)サンプルS3、(d)サンプルS4、(e)サンプルS7に対する、Pattern 2での触感センサの出力を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態の触感測定システムの、触感の測定試験での(a)Pattern 1、(b)Pattern 3、(c)Pattern 4の、サンプルごとの触感センサ出力の分散値を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態の触感測定システムの、触感の測定試験での(a)Pattern 1、(b)Pattern 2、(c)Pattern 4の、サンプルごとの触感センサ出力の重心周波数を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施の形態の触感測定システムに関する官能評価試験の、各サンプルに対する(a)「がさがさ-すべすべ」、(b)「硬い-軟らかい」の全被験者の官能評価値の平均値を示すグラフである。
【
図8】
図5に示す触感測定システムによる(a)Pattern 1、(b)Pattern 2、(c)Pattern 3、(d)Pattern 4での各サンプルの分散値と、
図7(a)に示す「がさがさ-すべすべ」での弱く撫でたときの官能評価値との関係を示すグラフである。
【
図9】
図6に示す触感測定システムによる(a)Pattern 1、(b)Pattern 2、(c)Pattern 3、(d)Pattern 4での各サンプルの重心周波数と、
図7(b)に示す「硬い-軟らかい」での押し込んだときの官能評価値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図9は、本発明の実施の形態の触感測定システムを示している。
図1に示すように、触感測定システム10は、取付台11と触感センサ12と押付手段13とスライド手段14と力センサ15と制御部16とを有している。
【0019】
取付台11は、Z軸ステージ(Z-axis stage)21とステージ制御手段(Stage controller)22とを有している。Z軸ステージ21は、測定する対象物(Sample)1を取り付けるための水平な取付面(Sample fixture)21aを有し、取付面21aに対して垂直方向、すなわち上下方向に取付面21aを往復移動可能に設けられている。ステージ制御手段22は、Z軸ステージ21に接続されて、取付面21aの上下方向の移動を制御可能に構成されている。
図1に示す具体的な一例では、Z軸ステージ21およびステージ制御手段22として、それぞれ中央精機株式会社製の「ALV-102-HP」および「QT-ADL1」を用いている。
【0020】
触感センサ(Tactile sensor)12は、土台の上に、かまぼこ型のシリコーン樹脂、アセテートテープ、PVDFフィルム、ダイヤカット微小孔付きの半透明ポリエチレン製テープの順に、層状に重ねて形成されている。触感センサ12は、PVDFフィルムが受感材を成しており、ヒトの触感を模擬可能に構成されている。
図1に示す具体的な一例では、土台はケミカルウッド製であり、シリコーン樹脂は、ヤング率が277.7 kPaのものを用いている。触感センサ12は、データ計測デバイス(DAQ for sensor)23を介して制御部16に接続されている。
【0021】
押付手段13は、取付面21aの上方に、取付面21aに沿って伸びるよう配置された梁部材から成り、先端部に触感センサ12が取り付けられている。押付手段13は、触感センサ12が、取付台11に取り付けられた対象物1に対向するよう設けられ、Z軸ステージ21を上昇させることにより、触感センサ12を対象物1の表面に押し付け可能になっている。
図1に示す具体的な一例では、押付手段13は、アクリル製である。
【0022】
スライド手段14は、X軸スライダ装置(X-axis linear slider)24とスライダ制御手段(Slider controller)25とを有している。X軸スライダ装置24は、押付手段13の後端部に取り付けられ、押付手段13を水平方向にスライド可能に設けられている。これにより、X軸スライダ装置24は、押付手段13を介して、触感センサ12を取付面21aに沿って水平方向にスライド可能になっている。スライダ制御手段25は、X軸スライダ装置24に接続されて、押付手段13と共に触感センサ12の水平方向の移動を制御可能に構成されている。
図1に示す具体的な一例では、X軸スライダ装置24およびスライダ制御手段25として、それぞれオリエンタルモーター株式会社製の「SPR20B10-3PM」および「EMP100」を用いている。
【0023】
力センサ15は、ひずみゲージ(Strain gauge)から成り、押付手段13の後端部の、X軸スライダ装置24との取付位置より先端側に取り付けられている。力センサ15は、触感センサ12を対象物1の表面に押し付けたときの押付手段13の曲がりによる歪みを検出し、その歪み量から押し付け力を測定可能に設けられている。力センサ15は、ブリッジ回路ボックス(Bridge box)26、ひずみアンプ(Strain amplifier)27およびデータ計測デバイス(DAQ for strain gauge)28を介して制御部16に接続されている。
【0024】
制御部16は、コンピュータ(PC)から成り、データ計測デバイス23を介して、触感センサ12の測定データを取得するよう構成されている。また、制御部16は、ブリッジ回路ボックス26、ひずみアンプ27およびデータ計測デバイス28を介して、力センサ15の測定データを取得するよう構成されている。また、制御部16は、取付台11およびスライド手段14にも接続され、それぞれステージ制御手段22およびスライダ制御手段25を介して、取付面21aの上下方向の移動、および触感センサ12の水平方向のスライドを制御可能に構成されている。
【0025】
制御部16は、力センサ15で測定された押し付け力と取付面21aの位置との関係を、あらかじめ取得しておき、その関係に基づいて、取付面21aの位置をフィードフォワード制御することにより、触感センサ12を対象物1の表面に押し付けるときの押し付け力を制御可能に設けられている。また、制御部16は、取得した触感センサ12の測定データや、力センサ15の測定データを保存すると共に、それらのデータに対して様々な解析処理を実行可能になっている。
図1に示す具体的な一例では、データ計測デバイス23として、National Instruments社製「NI USB-6210」を用い、データ計測デバイス28として、National Instruments社製「NI USB-9162」および「NI 9215 with BNC」を用いている。また、ひずみアンプ27として、株式会社共和電業製「DPM-952A」を用いている。
【0026】
次に、作用について説明する。
触感測定システム10は、取付台11の取付面21aに対象物1を取り付けて使用される。触感測定システム10は、取付面21aに取り付けられた対象物1の表面に、Z軸ステージ21により押付手段13を介して触感センサ12を押し付けた状態で、スライド手段14により触感センサ12をスライドさせて走査する。このとき、あらかじめ取得しておいた押し付け力と取付面21aの位置との関係に基づいて、制御部16により、取付面21aを移動させて取付面21aの位置を制御する。これにより、走査中の触感センサ12の押し付け力を、正確かつ迅速に制御することができる。また、測定条件の変動による測定結果の変動を抑えることもできる。また、手動ではなく、制御部16により自動で触感センサ12の押し付け力を制御することができ、制御が容易である。
【0027】
触感測定システム10は、押し付け力を制御しながら触感センサ12を走査して測定を行うことができ、そのときの触感センサ12の出力に基づいて、触感を評価することができる。また、これにより、押し付け力を変化させながら走査を行うことができるため、押し付け力が変化するときの触感を高精度で評価することができる。また、スライド手段14による触感センサ12のスライド速度も制御して変化させることにより、様々な触感を評価することができる。
【0028】
なお、触感測定システム10は、触感センサ12を走査中に、力センサ15により触感センサ12の押し付け力を測定してもよい。また、触感測定システム10は、制御部16により取付面21aの位置をフィードフォワード制御する代わりに、走査中に力センサ15により測定する触感センサ12の押し付け力に基づいて、取付面21aの位置をフィードバック制御してもよい。
【実施例1】
【0029】
図1に示す触感測定システム10を用いて、触感の測定試験を行った。測定には、
図2に示す、超精密研磨フィルムをゴムスポンジシートに貼り付けたサンプル(S1~S9)を用いた。
図2に示すように、各サンプルは、剛性の異なる母材3種類と、粗さの異なる超精密研磨フィルム(三共理化学株式会社製)3種類とを組み合わせて作製した。母材は、BM1、BM2、BM3の順に剛性が小さくなり、超精密研磨フィルムは、番手が大きいほど滑らかである。
【0030】
測定には、
図3に示す4種類の押し付け力の制御パターンを用いた。Pattern 1は押し付け力が変化するパターン、Pattern 2は押し付け力が増加するパターン、Pattern 3は押し付け力が減少するパターン、Pattern 4は押し付け力が一定で、従来の初期押し付け力のみを制御したパターンである。また、測定では、触感センサ12の走査速度を50 mm/s、走査距離を50 mm、サンプリング周波数を5000 Hz、計測時間を2.4秒間とした。また、各パターンに対して、3回ずつ測定を行った。なお、各測定では、計測時間のうちの0.4秒間のみ、
図3に示すパターンで制御を行っている。
【0031】
触感センサ12の測定結果の一例として、Pattern 2でのサンプルS1, S2, S3, S4, S7に対する触感センサ12の出力を、
図4に示す。なお、
図4中には、パターン制御の始点(Start point)と終点(End point)も示している。
図4に示すように、サンプルS1, S2, S3を比べると、母材の剛性が大きいS1, S2, S3の順に、振幅も大きくなっていることが確認された。また、サンプルS1, S4, S7を比べると、超精密研磨フィルムが粗いS1, S4, S7の順に、センサ出力の振幅も大きくなっていることが確認された。
【0032】
各サンプルの各パターンでの触感センサ12の測定データに対し、触感センサ12の出力の振幅の特徴を評価するため、センサ出力の分散値を求めた。Pattern 1, Pattern 3, Pattern 4のサンプルごとの分散値を、
図5に示す。また、触感センサ12の出力のパワースペクトル密度分布を詳細に比較するため、周波数分布の特徴を表す重心周波数(Mean power frequency, MPF)を求めた。Pattern 1, Pattern 2, Pattern 4のサンプルごとの重心周波数を、
図6に示す。
図5に示すように、分散値では、Pattern 1およびPattern 3で、超精密研磨フィルムが粗いほど大きくなる傾向が認められたが、Pattern 4ではその傾向は認められなかった。また、
図6に示すように、MPFでは、Pattern 2のみで、母材の剛性が大きいほど小さくなる傾向が認められた。
【0033】
[官能評価試験(比較試験)]
触感測定システム10による触感センサ12の測定結果との比較のため、同じ9種類のサンプル(S1~S9)を用いて官能評価試験を行った。官能評価では、サンプルの下に配置した3軸ロードセル(株式会社テック技販製「USL06-H5-200N-C」)を用いて、指による押し付け力を測定した。官能試験の被験者は、22~25歳(平均23.8歳)の男性5名とした。評価項目は、「がさがさ-すべすべ」および「硬い-軟らかい」とした。官能評価は、SD(Semantic Differential)法によるアンケートを実施し、各評価項目について「-3~+3」の7段階で評価を行った。また、「がさがさ-すべすべ」については、被験者の主観で、「強く撫でる(strong)」および「弱く撫でる(week)」の2条件で官能評価を行い、「硬い-軟らかい」については、さらに「押し込む動作(push)」を含めた3条件での官能評価を行った。各条件について3回ずつ試行を行い、解析には、それぞれ2試行目と3試行目の結果を平均して用いた。
【0034】
「がさがさ-すべすべ」および「硬い-軟らかい」の全被験者の官能評価値の平均値を、それぞれ
図7(a)および(b)に示す。
図7(a)に示すように、「がさがさ-すべすべ」では、強く撫でたときも弱く撫でたときも、超精密研磨フィルムが滑らかになるほど評価値が増加する傾向が認められ、母材による差異はほとんど認められなかった。また、
図7(b)に示すように、「硬い-軟らかい」では、弱く撫でたときには評価値に顕著な差異は認められなかったが、強く撫でたときおよび押し込んだときに、母材の剛性が小さくなるほど評価値が大きくなる傾向が認められた。また、超精密研磨フィルムによる差異はほとんど認められなかった。
【0035】
[官能評価試験との比較]
触感測定システム10による触感センサ12の測定結果と、官能評価試験の結果との比較を行った。Pattern 1~4での各サンプルの分散値(
図5参照)と、「がさがさ-すべすべ」での弱く撫でたときの官能評価値(
図7(a)参照)との関係を
図8に示す。また、Pattern 1~4での各サンプルの重心周波数(
図6参照)と、「硬い-軟らかい」での押し込んだときの官能評価値(
図7(b)参照)との関係を、
図9に示す。
【0036】
図8に示すように、「がさがさ-すべすべ」の触感に関しては、Pattern 1およびPattern 3で、各母材について、触感センサ12の出力の分散値と官能評価値との間に負の相関関係が認められたが、Pattern 2およびPattern 4では、顕著な傾向は認められなかった。また、
図9に示すように、「硬い-軟らかい」の触感に関しては、Pattern 2で、触感センサ12の出力の重心周波数と官能評価値との間に正の相関関係が認められたが、他のパターンでは、顕著な傾向は認められなかった。
【0037】
これらの結果から、表面粗さに関する「がさがさ-すべすべ」の触感については、緩やかに押し付け力を減少させる場合に、触感センサ12の出力の分散値に基づいて評価可能であることが確認された。また、硬さに関する「硬い-軟らかい」の触感については、緩やかに押し付け力を増加させる場合に、触感センサ12の出力の重心周波数に基づいて評価可能であることが確認された。このように、触感測定システム10によれば、押し付け力が変化するときの触感を高精度で評価できることが確認された。
【符号の説明】
【0038】
1 対象物
10 触感測定システム
11 取付台
21 Z軸ステージ
21a 取付面
22 ステージ制御手段
12 触感センサ
23 データ計測デバイス
13 押付手段
14 スライド手段
24 X軸スライダ装置
25 スライダ制御手段
15 力センサ
26 ブリッジ回路ボックス
27 ひずみアンプ
28 データ計測デバイス
16 制御部