(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】組成物、硬化物、硬化物の製造方法、ウェアラブルデバイス、ウェアラブルデバイスの装着方法、ウェアラブルデバイスの取り外し方法、ウェアラブルデバイスの使用方法、及び、バンド
(51)【国際特許分類】
C08F 299/04 20060101AFI20231218BHJP
B29C 39/24 20060101ALI20231218BHJP
G04B 37/16 20060101ALN20231218BHJP
A44C 5/00 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
C08F299/04
B29C39/24
G04B37/16 Z
A44C5/00 Z
(21)【出願番号】P 2019168247
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2022-07-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業ソロタイプ、「光駆動型動的細胞操作材料の開発と構造力学場記憶機構の解明」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】宇都 甲一郎
(72)【発明者】
【氏名】荏原 充宏
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-215719(JP,A)
【文献】特開2005-211681(JP,A)
【文献】特表2002-504585(JP,A)
【文献】特表2019-525264(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0081493(KR,A)
【文献】特開2018-109999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
B29C 39/24
G04B 37/16
A44C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される重合性化合物と、光重合開始剤と、有機溶媒とを混合し、混合物を調製することと、
前記混合物から前記有機溶媒を除去して、前記重合性化合物と、前記光重合開始剤とを含有する組成物を得ることと、
前記組成物を加熱して、前記重合性化合物を溶融することと、
前記溶融後の組成物に光照射して硬化物を得ることと、を有する硬化物の製造方法。
【化1】
(式1中、
L
1はポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、
X
1は重合性基
であるエチレン性不飽和基を有する基を表し、
R
1は水素原子、又は、前記重合性基を有さない1価の置換基を表し、
X
1
及びR
1
は、L
1
である前記ポリオキシアルキレンカルボニル基の酸素原子に結合しており、
pは0以上の整数を表し、qは2以上の整数を表し、pが0かつqが2のとき、M
1は単結合、又は、2価の連結基を表し、pが1以上かつqが2のとき、及び、qが3以上のとき、M
1はp+q価の連結基を表し、複数あるL
1はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項2】
前記組成物が実質的に前記有機溶媒を含有しない、請求項
1に記載の硬化物の製造方法。
【請求項3】
前記重合性化合物の溶融温度が60℃以下である、請求項
1又は2に記載の硬化物の製造方法。
【請求項4】
前記光照射が、モールドに入れられた前記溶融後の組成物に対して行われる、請求項
1~3のいずれか1項に記載の硬化物の製造方法。
【請求項5】
式1において、L
1
の前記ポリオキシアルキレンカルボニル基が、式2で表される基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化物の製造方法。
【化2】
(式2中、L
2
は分岐構造を有してもよいアルキレン基を表し、nは2以上の数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、硬化物、硬化物の製造方法、ウェアラブルデバイス、ウェアラブルデバイスの装着方法、ウェアラブルデバイスの脱離方法、ウェアラブルデバイスの使用方法、及び、バンドに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、ポリカプロラクトンを多価アルコールで開環重合させ、重合性基を導入した化合物を熱重合して得られた重合体が、温度応答性材料として使用可能であることが記載されている。
【0003】
また、特許文献1には、手首に固定して用いられるウェアラブル電子デバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Journal of Controlled Release : Official Journal of the Controlled Release Society [05 Dec 2005, 110(2):408-413]
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2019/0000370号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の重合体は優れた温度応答性を有しているが、例えば、所定の厚みのフィルムを得ようとすると、典型的にはセルキャスト法による溶液重合で作成しなければならず、耐溶剤性が低い基材上に直接積層することが難しかった。
【0007】
上記課題に鑑み、本発明は、有機溶媒を使用しなくとも、光照射によって均一な重合体を得ることができる組成物を提供することを課題とする。また、重合体の製造方法を提供することも課題とする。
【0008】
また、ウェアラブルデバイスを使用者の身体に固定する場合、機械的な調整機構を有するバンドが用いられる場合があったが、調製が煩雑であるという問題があった。
上記課題に鑑み、本発明は、機械的な調整機構を有さなくても、使用者の身体に簡単に固定できるウェアラブルデバイスを提供することを課題とする。
また、本発明は、ウェアラブルデバイスの装着方法、ウェアラブルデバイスの取り外し方法、ウェアラブルデバイスの使用方法、及び、バンドを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0010】
[1] 後述する式1で表される重合性化合物と、光重合開始剤と、を含有する組成物。
[2] 実質的に有機溶媒を含有しない、[1]に記載の組成物。
[3] 上記重合性化合物の溶融温度が60℃以下である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の組成物を硬化させた硬化物。
[5] 後述する式1で表される重合性化合物と、光重合開始剤と、有機溶媒とを混合し、混合物を調製することと、上記混合物から上記有機溶媒を除去して、上記重合性化合物と、上記光重合開始剤とを含有する組成物を得ることと、上記組成物を加熱して、上記重合性化合物を溶融することと、上記溶融後の組成物に光照射して硬化物を得ることと、を有する硬化物の製造方法。
[6] 上記組成物が実質的に上記有機溶媒を含有しない、[5]に記載の硬化物の製造方法。
[7] 上記重合性化合物の溶融温度が60℃以下である、[5]又は[6]に記載の硬化物の製造方法。
[8] 上記光照射が、モールドに入れられた上記溶融後の組成物に対して行われる、[5]~[7]のいずれかに記載の硬化物の製造方法。
[9] 本体と、上記本体を使用者の身体に保持するための固定具とを有するウェアラブルデバイスであって、上記固定具が[4]に記載の硬化物を有する、ウェアラブルデバイス。
[10] 上記固定具は、リストバンド、ベルト、ステッカー、バンド、及び、グリップからなる群より選択される少なくとも1種である、[9]に記載のウェアラブルデバイス。
[11] 使用者の身体に上記固定具を接触させ、上記固定具を上記使用者の体温で加熱することで、上記固定具を収縮させて、上記固定具の形状を上記身体の形状に沿うよう変化させることを含む、[9]に記載のウェアラブルデバイスを装着するためのウェアラブルデバイスの装着方法。
[12] 使用者の身体に装着された上記ウェアラブルデバイスの上記固定具を上記身体から離すように応力を与えて、離された部分を上記使用者の体温よりも低い温度に冷却することで、上記身体から離した状態で固定し、その後、取り外すことを含む、上記使用者の身体に装着された[9]に記載のウェアラブルデバイスを取り外すためのウェアラブルデバイスの取り外し方法。
[13] 上記ウェアラブルデバイスの上記固定具を上記使用者の身体に接触させ、上記固定具を上記使用者の体温で加熱することで、上記固定具を収縮させて、上記固定具の形状を上記身体の形状に沿うよう変化させて、上記ウェアラブルデバイスを上記身体に装着することと、上記使用者の身体に装着された上記ウェアラブルデバイスの上記固定具を上記身体から離すように応力を与えて、離された部分を上記使用者の体温よりも低い温度に冷却することで、上記身体から離した状態で固定し、その後、取り外すことと、を含む、[9]に記載のウェアラブルデバイスを使用するためのウェアラブルデバイスの使用方法。
[14] [4]に記載の硬化物を有し、使用者の身体に固定して用いられるバンド。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機溶媒を使用しなくとも、光照射によって均一な重合体を得ることができる組成物を提供できる。また、本発明によれば、重合体の製造方法も提供できる。
【0012】
本発明によれば、機械的な調整機構を有さなくても、使用者の身体に簡単に固定できるウェアラブルデバイスを提供できる、また、本発明によれば、ウェアラブルデバイスの装着方法、ウェアラブルデバイスの取り外し方法、ウェアラブルデバイスの使用方法、及び、バンドを提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るウェアラブルデバイスの模式図である。
【
図2】2b30マクロモノマーの光架橋反応における光照射時間と収量の関係を示す図である。
【
図3】2b30マクロモノマーの光架橋反応の光照射時間と、得られる硬化物の融点及び結晶化温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの双方、又は、いずれかを表し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの双方、又は、いずれかを表す。また、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びメタクリロイルの双方、又は、いずれかを表す。
【0016】
[組成物]
本発明の実施形態に係る組成物は、後述する式1で表される重合性化合物と、光重合開始剤と、を含有する組成物である。以下では、上記組成物が含有する各成分について詳述する。
【0017】
〔重合性化合物〕
本発明の実施形態に係る組成物は後述する式1で表される重合性化合物を含有する。組成物中における重合性化合物の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有するが得られる点で、一般に組成物の全質量に対して、50~99.999質量%が好ましい。なお、組成物は、重合性化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の重合性化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0018】
【0019】
式1中、L1はポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、X1は重合性基を有する基を表し、R1は水素原子、又は、上記重合性基を有さない1価の置換基を表し、pは0以上の整数を表し、qは2以上の整数を表し、pが0かつqが2のとき、M1は単結合、又は、2価の連結基を表し、pが1以上かつqが2のとき、及び、qが3以上のとき、M1はp+q価の連結基を表し、複数あるL1はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0020】
L1のポリオキシアルキレンカルボニル基としては特に制限されないが、以下の式2で表される基が好ましい。
【0021】
【0022】
式2中、L2は分岐構造を有してもよいアルキレン基を表し、炭素数としては特に制限されないが、2~20個が好ましく、2~10個がより好ましい。なかでも、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、炭素数が2~10個の直鎖状のアルキレン基が更に好ましい。
また、nは、2以上の数を表し、特に制限されないが、5~50が好ましい。
【0023】
X1の重合性基を有する基として特に制限されないが、以下の式3で表される基が好ましい。
【0024】
【0025】
式3中、Zは重合性基を表し、L3は単結合、又は、2価の連結基を表す。また、「*」は結合位置を表す。
L3の2価の連結基としては特に制限されないが、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-NR2-(R2は水素原子又は1価の有機基を表す)、アルキレン基(炭素数1~10個が好ましい)、シクロアルキレン基(炭素数3~10個が好ましい)、アルケニレン基(炭素数2~10個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、L3としては、単結合、-C(O)-、又は、-NR2-が好ましい。
【0026】
式1中、Zの重合性基とは、重合反応に関与する基をいう。重合性基としては、特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、ラジカル重合が可能な基が好ましく、エチレン性不飽和基がより好ましい。エチレン性不飽和基としては特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、及び、アリル基等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0027】
式1中、M1は、p+q価の連結基を表し、M1が2価の連結基である場合には、その形態としては特に制限されないが、式3のL3の2価の連結基としてすでに説明した基が好ましい。
【0028】
M1が3価以上の連結基である場合には、特に制限されないが、例えば、以下の式(4a)~(4d)で表される基が挙げられる。
【0029】
【0030】
式4a中、L3は3価の基を表す。T3は単結合又は2価の基を表し、3個のT3は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
L3としては、3価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L3の具体例としては、グリセリン残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、及びシクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0031】
式4b中、L4は4価の基を表す。T4は単結合又は2価の基を表し、4個のT4は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、L4の好適形態としては、4価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L4の具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及びジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0032】
式4c中、L5は5価の基を表す。T5は単結合又は2価の基を表し、5個のT5は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、L5の好適形態としては、5価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L5の具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及びシクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0033】
式4d中、L6は6価の基を表す。T6は単結合又は2価の基を表し、6個のT6は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
なお、L6の好適形態としては、6価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。L6の具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0034】
式4a~式4d中、T3~T6で表される2価の基の具体例及び好適形態は、すでに説明したM1の2価の基と同様であってよい。
また、M1が7価以上の基である場合には、式4a~式4dで表した基を組み合わせた基を用いることができる。
【0035】
式1中、R1は水素原子、又は、上記重合性基を有さない1価の置換基を表す。重合性基を有さない1価の置換基としては特に制限されないが、例えば、*-L4-R′で表される基が挙げられる。
上記式中、L4は、単結合、又は、2価の連結基を表し、R′は、水素原子、炭化水素基(直鎖状、分岐鎖状、若しくは、環状のいずれであってもよい)、(ポリ)オキシアルキレン基を表し、*は結合位置を表す。
【0036】
・重合性化合物の製造方法
重合性化合物の製造方法としては特に制限されないが、より簡便に重合性化合物が得られる点で、環状化合物を開環重合して得られた前駆体化合物に、重合性基を有する基を導入して得る方法が好ましい。
【0037】
環状化合物としては公知の環状化合物を使用することができ、特に制限されないが、加水分解によって開環し得るものが好ましく、例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、δ-ステアロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-オクタノイックラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、ε-カプリロラクトン、ε-パルミトラクトン、α-ヒドロキシ-γ-ブチロラクトン、及び、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル(ラクトン化合物);グリコリド、及び、ラクチド等の環状ジエステル;等が挙げられる。
【0038】
なかでも、開環重合の反応性が良好である点で、環状化合物としては、ラクトン化合物またはラクチドが好ましく、反応性がより高く、原料の入手がより容易な点で、ラクトン化合物がより好ましく、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、δ-ステアロラクトン、ε-カプロラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、ε-カプリロラクトン、及び、ε-パルミトラクトンからなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0039】
環状化合物を開環重合して前駆体化合物を得る方法としては特に制限されないが、金属触媒の存在下、アルコールを開始剤として開環重合する方法が挙げられる。
【0040】
・・金属触媒
金属触媒としては特に制限されないが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、及び、アンチモン等の脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、及び、アルコラート等が挙げられる。
より具体的には、塩化第一スズ、臭化第一スズ、ヨウ化第一スズ、硫酸第一スズ、酸化第二スズ、ミリスチン酸スズ、オクチル酸スズ、ステアリン酸スズ、テトラフェニルスズ、スズメトキシド、スズエトキシド、スズブトキシド、酸化アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム-イミン錯体、四塩化チタン、チタン酸エチル、チタン酸ブチル、チタン酸グリコール、チタンテトラブトキシド、塩化亜鉛、酸化亜鉛、ジエチル亜鉛、三酸化アンチモン、三臭化アンチモン、酢酸アンチモン、酸化カルシウム、酸化ゲルマニウム、酸化マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、酸化マグネシウム、及び、イットリウムアルコキシド等の化合物が挙げられる。
【0041】
金属触媒の使用量は金属触媒中の金属元素に換算して、環状化合物1kg当たり0.01×10-4~100×10-4モル程度が好ましい。
【0042】
・・開始剤
開始剤としては特に制限されないが、1価又は2価以上のアルコールが挙げられる。
【0043】
1価のアルコールとしては特に制限されないが、R2-OHで表されるアルコールが挙げられ、R2は、置換基を有していてもよい炭素数1~20個の脂肪族炭化水素基を表す。
脂肪族炭化水素基としては、特に制限されないが、炭素数1~20個のアルキル基等が挙げられる。
1価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、n-デシルアルコール、n-ドデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ラウリルアルコール、エチルラクテート、及び、ヘキシルラクテート等が挙げられる。
【0044】
また、2価以上のアルコール(多価アルコール)としては、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、テトラメチレングリコール(1,4-ブタンジオール)、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセロール、及び、トリメチロールメラミン等が挙げられる。
開始剤の使用量は、特に制限されないが、環状化合物1kg当たり、好ましくは0.0001~0.04モル程度が好ましい。
【0045】
・・開環重合
開環重合は、環状化合物の揮散を防ぐため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。重合温度は、特に制限されないが、100~250℃が好ましい。
重合時間としては特に制限されないが、0.1~48時間程度が好ましい。
【0046】
・・重合性基の導入
前駆体化合物に重合性基を導入する方法としては特に制限されないが、例えば、前駆体化合物が有するヒドロキシ基に対して反応性を示す置換基、及び、重合性基を有する化合物(F1)を反応させる方法(イ)、及び、前駆体化合物が有するヒドロキシ基を他の官能基に置換し、この置換基に対して反応性を示す官能基、及び、重合性基を有する化合物(F2)を反応させる方法(ロ)等があげられる。なかでも、より簡便に重合性化合物(マクロモノマー)が得られる点で、(イ)の方法が好ましい。
【0047】
上記(イ)の方法で、前駆体化合物のヒドロキシ基と反応させる化合物(F1)としては、特に制限されないが、例えば、重合性基が(メタ)アクリロイル基である場合、塩化(メタ)アクリル酸、及び、臭化(メタ)アクリル酸等の不飽和酸ハロゲン化合物類等が挙げられる。
前駆体化合物のヒドロキシ基基と反応させる化合物(F1)の使用量としては、特に制限されないが、ヒドロキシ基に対し、0.1~10モル当量程度が好ましい。
【0048】
重合性化合物の溶融温度としては特に制限されないが、後述するように、組成物を所望の形状に変化させやすい点で、80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。高分子化合物の溶融温度が60℃以下であると意図しない重合反応がより惹起されにくい点で好ましい。
なお、本明細書において、溶融温度とは、DSC(示差走査熱量分析計)で測定した結晶融解温度を意味する。
【0049】
〔光重合開始剤〕
本組成物は光重合開始剤を含有する。組成物中における光重合開始剤の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する光重合開始剤が得られる点で、一般に組成物の全質量に対して、0.001~50質量%が好ましい。なお、組成物は、光重合開始剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の光重合開始剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0050】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、キサントン、及び、チオキサントン等の芳香族ケトン化合物;2-エチルアントラキノン等のキノン化合物;アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、及び、2,2-ジメトキシー2-フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン化合物;メチルベンゾイルホルメート等のジケトン化合物;1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-ベンゾイル)オキシム等のアシルオキシムエステル化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド化合物;テトラメチルチウラム、及び、ジチオカーバメート等のイオウ化合物;過酸化ベンゾイル等の有機化酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;有機スルフォニウム塩化合物;ヨードニウム塩化合物;フォスフォニウム化合物;等が挙げられる。
【0051】
〔その他の成分〕
組成物は本発明の効果を奏する範囲内において、上記以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては特に制限されないが、例えば、溶媒、紫外線吸収剤、重合禁止剤、及び、充てん剤等が挙げられる。
【0052】
(溶媒)
本組成物は溶媒を含有してもよい。本組成物が溶媒を含有する場合、溶媒の含有量としては特に制限されず、例えば、組成物の固形分が10~50質量%に調整されるよう、含有してもよい。
【0053】
溶媒としては特に制限されず、水、及び、有機溶媒等が挙げられる。
より優れた本発明の効果を有する組成物が得られる点で、組成物は実質的に有機溶媒を含有しないことが好ましい。
【0054】
本明細書において、実質的に有機溶媒を含有しない、とは、組成物の全質量を100質量%としたとき、組成物中における有機溶媒の含有量が、1質量%以下であることを意味し、0.1質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以下であることがより好ましく0.0001質量%以下であることが更に好ましい。
なお、組成物中が2種以上の有機溶媒を含有する場合、2種以上の有機溶媒の含有量の合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0055】
[組成物の製造方法]
本組成物の製造方法としては特に制限されないが、より均一に重合が進みやすい組成物が得られる点で、以下の製造方法が好ましい。
【0056】
式1で表される重合性化合物と、光重合開始剤と、有機溶媒とを混合し、混合物を調製することと(工程1)、上記混合物から上記有機溶媒を除去して、組成物を得ることと(工程2)を有する組成物の製造方法である。
【0057】
(工程1)
工程1は、式1で表される重合性化合物と、光重合開始剤と、有機溶媒とを混合し、混合物を調製する工程である。重合性組成物、及び、光重合開始剤としてはすでに説明したものが使用でき、その形態は上述のとおりであるので、説明を省略する。
【0058】
混合物は、有機溶媒を含有する。混合物中における有機溶媒の含有量としては特に制限されないが、一般に混合物の全質量に対して、1~99質量%が好ましい。なお、混合物は、有機溶媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。混合物が、2種以上の有機溶媒を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0059】
有機溶媒としては、重合性化合物、及び、光重合開始剤を溶解、又は、分散できるものであれば特に制限されない。溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、及び、クロロホルム(61.2℃)、アセトン(56.6℃)、及び、テトラヒドロフラン(66℃)等が挙げられる。なお、上記有機溶媒は例示であり、重合性化合物と光重合開始剤とを溶解し、かつ、留去しやすい有機溶媒(具体的には、沸点が70℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、60℃以下が更に好ましく。50℃以下が特に好ましい。)であればよい。
【0060】
混合物を調製する方法としては特に制限されないが、上記の各成分を公知の方法により混合する方法が挙げられる。
本工程によって重合性化合物と光重合開始剤とを有機溶媒中で溶解、及び/又は、分散させて、均一化でき、結果として、より均一な重合体が得られやすい。
【0061】
(工程2)
工程2は、得られた混合物から有機溶媒を除去して、組成物を得る工程である。有機溶媒を除去する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、混合物を減圧、及び/又は、加熱すればよい。加熱の温度としては特に制限されず、20~100℃が好ましく、重合性化合物の意図しない重合をより抑制できる観点から、20~50℃が好ましい。
【0062】
本製造方法においては先に有機溶媒中で重合性化合物と光重合開始剤とを均一に混合したのちに、有機溶媒を除去して組成物を得るため、組成物中の各成分がより均一に混合されているため、より均一な硬化物が得られやすい。
【0063】
〔用途〕
本組成物は、有機溶媒を含有しなくても光照射によって均一な重合体を得ることができる。そのため、耐溶剤性が低い基材上であっても直接積層することができるため、温度応答性を有する積層体の製造に使用できる。上記のような積層体は、例えば、ヒトの体温によって収縮し、装着したい部分の形状に適合する装身具(ウェアラブルデバイス)等に利用可能である。
【0064】
[硬化物]
本発明の実施形態に係る硬化物(以下、「本硬化物」ともいう。)は、すでに説明した組成物にエネルギー(熱、及び/又は、光であって、光が好ましい。)を付与して硬化させた硬化物を意味する。
【0065】
光を照射する場合、照射する光としては特に制限されないが、紫外線、及び、電子線等が挙げられ、例えば、紫外線照射装置(UV-LED)を用いる場合、ピーク強度として10~500mW/cm2、積算光量として、50~1500mJ/cm2の条件で照射することが好ましい。
【0066】
また、光を照射する前に、上記組成物を加熱して、重合性化合物を溶融させることで、任意の形状の硬化物が得られる。具体的には、重合性化合物を溶融させて所定のモールドに入れることで、(組成物をモールドに入れた状態で加熱してもよい)、任意の形状の重合体が得られる。
加熱の温度としては特に制限されず、重合性化合物の溶融温度に応じで任意に変更できる。特に制限されないが、一般に、40~60℃が好ましい。加熱の方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。
【0067】
硬化物の軟化温度としては特に制限されない。重合性化合物が重合することで、三次元の網目構造が形成される。そのため、重合性化合物と比較すると、結晶形成が妨げられやすく、結果として、結晶の融解温度がより低下することが多い。なかでも、硬化物が生体温度にて形状記憶能を発揮しやすい点で、硬化物の結晶融解温度(軟化温度)としては、例えば、32~45℃が好ましい。
【0068】
[硬化物の製造方法]
本硬化物の製造方法としては特に制限されないが、より均一に重合が進みやすい組成物が得られる点で、以下の製造方法が好ましい。
【0069】
式1で表される重合性化合物と、光重合開始剤と、有機溶媒とを混合し、混合物を調製することと(工程1)、上記混合物から上記有機溶媒を除去して、組成物を得ることと(工程2)、組成物を加熱して、重合性化合物を溶融することと(工程3)、溶融後の組成物に光照射して重合体を得ることと(工程4)、を有する重合体の製造方法である。
【0070】
なお、工程1、及び、工程2については、すでに説明した組成物の製造方法と同様であるので説明を省略する。
【0071】
(工程3)
工程3は、組成物を加熱して、重合性化合物を溶融する工程である。重合性化合物を溶融することで、組成物を任意の形状に成形できる。具体的には、重合性化合物を溶融させて所定のモールドに注入することで、任意の形状の硬化物が得られる。
加熱の温度としては特に制限されず、重合性化合物の溶融温度に応じで任意に変更できる。特に制限されないが、一般に、40~60℃が好ましい。加熱の方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。
【0072】
(工程4)
工程4は、溶融後の組成物に光照射して重合体を得る工程である。光照射の条件としては特に制限されず、重合性化合物及び光重合開始剤等の種類等によって適宜調整すればよい、
また照射する光は、紫外線、及び、電子線等が挙げられ、例えば、紫外線照射装置(UV-LED)を用いる場合、ピーク強度として10~500mW/cm2、積算光量として、50~1500mJ/cm2の条件で照射することが好ましい。
【0073】
[ウェアラブルデバイス]
本発明の実施形態に係るウェアラブルデバイスは、本体と、本体を使用者の身体に保持するための固定具とを有し、上記固定具がすでに説明した硬化物を有するウェアラブルデバイスである。
図1は、本発明の実施形態に係る腕時計であるウェアラブルデバイスの模式図を表す。ウェアラブルデバイス10は、本体11と、組成物からなる、リストバンドである固定具12とを有し、固定具12によって使用者13の腕に保持されている。
【0074】
本体11は時刻表示部であるが、本発明の実施形態に係るウェアラブルデバイスとしては上記に制限されない。例えば、スマートフォン等の通信機器、及び、使用者の生体情報(脈拍、血圧、体温、及び、皮膚電位等のバイタル・データ)の測定装置等であってもよい。
上記のようなウェアラブルデバイスとしては、例えば、米国特許出願公開第2019/0000370号明細書に記載されるようなウェアラブル電子デバイス等が挙げられる。
【0075】
また、ウェアラブルデバイス10は本体11として電子デバイスを有しているが、本ウェアラブルデバイスとしては上記に制限されず、本体は、電子デバイスでなくてもよく、医療用の患者識別ラベル、及び、スポーツ用のゼッケン等であってもよい。
【0076】
固定具12はすでに説明した硬化物により形成されたフィルムを筒状に成形したリストバンドである。本発明の実施形態に係るウェアラブルデバイスが有する固定具としては上記に制限されず、硬化物を有していればよく、例えば、支持体と、上記支持体の少なくとも一方の主面に形成された硬化物層とを有する積層体等であってもよいし、その形態もリストバンド、ベルト、ステッカー、バンド、及び、グリップ等であってもよい。
【0077】
固定具の厚みとしては特に制限されないが、ウェアラブルデバイスが腕時計である場合には、一般に、0.5~30mmが好ましい。また、幅としては、一般に、5~50mm程度が好ましい。
また、引張強度等は特に制限されず、一般的なウェアラブルデバイス用の固定具と同様でよい。
【0078】
上記組成物の硬化物は、典型的には生体温度(例えば、35~42℃)に結晶融解温度(軟化温度)を有する結晶性高分子である。そのため、まず、結晶融解温度よりも高い温度でひずみを与えたまま、結晶融解温度より低い温度まで冷却すると、上記ひずみが固定され、再度、結晶融解温度よりも高い温度で保持すると、ひずみが元に戻るという特性(形状記憶能)を有する。
【0079】
例えば、上記のように硬化物をリストバンドとして用いると、リストバンドを加熱して引き伸ばした状態で冷却し、腕に通る程度の内径に変形させたうえで、腕に装着すると、体温により再び温められ、リストバンドが収縮し、使用者の腕にぴったりと合う内径に変化する。また、取り外す際は、すでにリストバンドは軟化温度以上まで加熱された状態であるため、これを引き伸ばすことで、その部分が室温(例えば、25℃)まで冷却され、ひずみが固定されて、リストバンドの内径が使用者の腕の直径より大きい状態で固定される。このような状態になれば、使用者の腕からリストバンドを取り外すことができる。
上記によれば、使用者の体形等によって複数の長さのリストバンドを準備したり、リストバンドに長さ調整機能を付加したりしなくても、使用者の体形等にぴったりとフィットしたウェアラブルデバイスを提供できる。
【0080】
なお、ウェアラブルデバイス10においては、固定具12はリストバンドであるが、本ウェアラブルデバイスとしては上記に制限されず、ベルト、ステッカー、バンド(チェストバンド等のリストバンド以外のもの)、及び、グリップ等からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0081】
[バンド]
本発明の実施形態に係るバンドは、使用者の身体に固定して用いられるバンドである。上記バンドは本硬化物を有していいるため、すでに説明したとおり機械的な調整機構を有していなくても使用者の身体に簡単に固定できる。
なお、バンドの形態としては、すでに説明したウェアラブルデバイス用の固定具のほか、医療用の患者識別ラベル用のバンド、スポーツ用のゼッケン、腕章、及び、サポーター等であってもよい。
【実施例】
【0082】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0083】
[実施例1]
(2b30マクロモノマーの合成)
三口フラスコに、ε-カプロラクトン(東京化成工業社製)、及び、テトラメチレングリコール(東京化成工業社製)を導入し、窒素を吹き込みながら、混合物を攪拌した。次に、混合物にオクタン酸錫を加え、得られた混合物を120℃で24時間保持して、前駆体化合物を得た。次に、前駆体化合物の末端を塩化アクリロイルと反応させてマクロモノマーを得た。このマクロモノマーの分岐鎖の重合度は30であり、これを「2b30」と命名した。上記のスキームを以下の式に示した。
なお、このマクロモノマーの構造、及び、分子量はプロトン核磁気共鳴分光法、及び、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定、及び、推定した。
【0084】
【0085】
(組成物の調製)
バイアル瓶に、2b30マクロモノマー500mgを入れ、そこに、ジクロロメタン500μL、DEAP(2,2-diethoxyacetophenone)5μLをそれぞれ、マイクロピペッターで加えて混合物を得た。次に、上記混合液を3分ソニケーションして溶解し、さらに3分間脱気した。
【0086】
上記混合物の80μLをマイクロピペッターで採取し、22mmのガラス小円板に滴下してフィルム状の混合物層を得た。その後、混合物層を常温で一晩放置して、ジクロロメタンを乾燥除去してフィルム状の組成物を得た。
次に、フィルム状の組成物を60℃に調整したホットプレートで加熱し、2b30マクロモノマーを溶融し、PDMS(ジメチルポリシロキサン)パターン基板に載置し、パターン状の組成物を得た。
【0087】
次に、上記パターン状の組成物に30分間光照射し、光架橋反応させた。光反応後20分間室温で放置し、その後、アセトン中に浸して、ガラス小円板からフィルムを剥離してフィルム状の重合体を得た。得られた重合体は、一晩減圧乾燥させた。
【0088】
表1~4には、パターン状の組成物の質量(表中「光照射前の質量」と記載した。)、光照射後の組成物の質量(表中「光照射後の質量」と記載した。)、アセトン中に浸漬して、減圧乾燥させた後の質量(表中「剥離後→減圧乾燥後の質量」と記載した。)、及び、収量を記載した。なお、収量とは、(C)/(B)×100%を意味する。
表1~4に示したとおり、光照射によって重合体が形成されて、耐溶剤性が向上していることが示唆された。なお、表中「-」はデータを取得しなかったことを示す。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
図2には、2b30マクロモノマーの光架橋反応における光照射時間と収量の関係を示した。
図2に示した結果から、光照射時間が10分以上であると、より収量が高くなることがわかった。
【0094】
図3には、2b30マクロモノマーの光架橋反応の光照射時間と、得られる硬化物の融点及び結晶化温度との関係を示した。なお、融点(昇温過程、
図3中、白抜きの丸印のプロット)及び結晶化温度(冷却過程、
図3中、黒塗りの丸印のプロット)ともにDSC(いずれも5℃/分の温度変化とした。)により測定される温度である。
図3の結果から、光照射により架橋構造が形成されると(硬化すると)融点及び結晶化度が低下し、融点は約37℃で一定となることが分かった。上記硬化物によれば、ウェアラブルデバイスに適用した際に生体温度で所望の駆動が実現でき、優れた効果が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本組成物は、有機溶媒を含有しなくても光照射によって均一な重合体を得ることができる。そのため、耐溶剤性が低い基材上であっても直接積層することができるため、温度応答性を有する積層体の製造に使用できる。上記のような積層体は、例えば、ヒトの体温によって収縮し、装着したい部分の形状に適合する装身具(ウェアラブルデバイス)等に利用可能である。
【0096】
上記硬化物をリストバンド(固定具)として用いると、リストバンドを加熱して引き伸ばした状態で冷却し、腕に通る程度の内径に変形させたうえで、腕に装着すると、体温により再び温められ、リストバンドが収縮し、使用者の腕にぴったりと合う内径に変化する。また、取り外す際は、すでにリストバンドは軟化温度以上まで加熱された状態であるため、これを引き伸ばすことで、その部分が室温(例えば、25℃)まで冷却され、ひずみが固定されて、リストバンドの内径が使用者の腕の直径より大きい状態で固定される。このような状態になれば、使用者の腕からリストバンドを取り外すことができる。
上記によれば、使用者の体形等によって複数の長さのリストバンドを準備したり、リストバンドに機械的な調整機構を付加したりしなくても、使用者の体形等にぴったりとフィットしたウェアラブルデバイスを提供できる。
【0097】
また、上記バンドは、機械的な調整機構を付加したりしなくても、使用者の体形等にぴったりとフィットするため、医療用の患者識別ラベル、スポーツ用のゼッケン等に好ましく使用できる。