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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】骨固定具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/86 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
A61B17/86
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019210061
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021078904
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】橋元 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】水野 潤
(72)【発明者】
【氏名】関 康弘
【審査官】山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-523092(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044433(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0231535(US,A1)
【文献】特開2010-227551(JP,A)
【文献】特表2010-536451(JP,A)
【文献】特開2017-148506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨折した骨を固定するための骨固定具であって、
前記骨固定具における、前記骨の皮質骨又は海綿骨に対応する箇所表面の少なくとも一部に、周期性を有するナノスケールの凹凸構造からなるナノ周期構造が形成されており、
前記ナノ周期構造は、前記骨の前記皮質骨又は前記海綿骨に接触させたときに前記骨の骨折箇所と交差する複数の帯状凹部及び複数の帯状凸部からなることを特徴とする骨固定具。
【請求項2】
前記ナノ周期構造が形成されている位置を表示する注意表示が付され
前記注意表示は色、模様、図形、文字又は立体的形状により前記ナノ周期構造が形成されている位置を明確化するものであることを特徴とする請求項1に記載の骨固定具。
【請求項3】
前記ナノ周期構造を含み、前記骨固定具の主要形状を構成する主構造がステンレス鋼からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の骨固定具。
【請求項4】
前記ナノ周期構造を含み、前記骨固定具の主要形状を構成する主構造がマグネシウム又はマグネシウム合金からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の骨固定具。
【請求項5】
前記ナノ周期構造を含み、前記骨固定具の主要形状を構成する主構造がチタン又はチタン合金からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の骨固定具。
【請求項6】
前記主構造の少なくとも一部を覆う被覆膜を備えることを特徴とする請求項3~5のいずれかに記載の骨固定具。
【請求項7】
前記骨固定具は、先端ネジ部及び円筒部を有する骨固定用ネジであり、
前記円筒部の表面の少なくとも一部に前記ナノ周期構造が形成されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の骨固定具。
【請求項8】
前記ナノ周期構造は、前記骨の皮質骨又は海綿骨に対応する箇所において、前記円筒部の表面において前記骨固定用ネジの先端側から基端側にかけて連続する前記帯状凹部及び前記帯状凸部を含むことを特徴とする請求項に記載の骨固定具。
【請求項9】
前記骨固定具は、骨固定用ピン、骨固定用ワイヤー又は骨固定用ステープルであり、
前記ナノ周期構造は、前記骨の皮質骨又は海綿骨に対応する箇所において、前記骨の骨折箇所と交差する前記帯状凹部及び前記帯状凸部を含むことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の骨固定具。
【請求項10】
前記骨固定具は、骨固定用プレートであり、
前記骨の前記皮質骨又は前記海綿骨に接触させたときに記骨骨折箇所に対応する箇所の少なくとも一部に前記ナノ周期構造が形成されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の骨固定具。
【請求項11】
前記ナノ周期構造は、凹凸の幅が20nm~600nmの範囲内にあることを特徴とする請求項1~10に記載の骨固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
骨折等の治療のために骨を固定する器具として、骨に取り付けて用いる骨固定具が広く知られている。骨固定具の具体例としては、ネジ(スクリュー)、ピン、ワイヤー、ステープル及びプレートを挙げることができる。
【0003】
骨固定具には、機械的な強度と生体内での安定性との両立が求められる。現在においては、生体内で安定であり毒性が低い金属(例えば、チタンやチタン合金)からなる骨固定具が一般的に用いられている。このような骨固定具は生体にとって有害なものではないが、骨を固定する以外の意味で骨の治癒を積極的に促進させるものではなかった。
【0004】
ところで、近年、固体表面の物理的な構造が細胞に与える影響が注目されている。例えば、金属表面にナノスケールの構造(例えば、ナノスケールの凹凸構造)を形成することで、その表面上において細胞の増殖等を促進させることが可能であることがわかってきている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-227551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
医療の現場においては、骨を早期に治癒させることが可能な骨固定具が希求されている。上記したようなナノスケールの構造を骨固定具に応用することで、従来の骨固定具(ナノスケールの構造が形成されていない骨固定具)と比較して骨の治癒を促進させることが可能な骨固定具を得ることが可能であると考えられるが、そのような骨固定具の具体的な構造については知られていない。
【0007】
そこで、本発明は上記した課題に鑑みてなされたものであり、従来の骨固定具(ナノスケールの構造が形成されていない骨固定具)と比較して骨の治癒を促進させることが可能な骨固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明の骨固定具は、固定を想定する骨の皮質骨又は海綿骨に対応する箇所の少なくとも一部に、周期性を有するナノスケールの凹凸構造からなるナノ周期構造が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の骨固定具によれば、固定を想定する骨の皮質骨又は海綿骨に対応する箇所の少なくとも一部にナノ周期構造が形成されているため、当該ナノ周期構造を骨の実体部位である皮質骨及び海綿骨の少なくとも一方と接触させて使用することで、皮質骨及び海綿骨の少なくとも一方における細胞(特に骨芽細胞)の増殖や分化を促進させることが可能となる。このため、本発明の骨固定具によれば、骨固定具と骨とを早期にかつ強固に固着させることで骨を安定して固定することが可能となる。また、本発明の骨固定具によれば、細胞の増殖や分化を促進させることから、骨自体の治癒力を高めることも可能となる。したがって、本発明の骨固定具は、従来の骨固定具と比較して骨の治癒を促進させることが可能な骨固定具となる。
【0010】
ここで、本発明の骨固定具における「ナノ周期構造」について説明する。本発明の発明者らは、ナノスケールの構造の中でも、一定の間隔で同じ構造が繰り返すもの、つまり、「周期性を有するナノスケールの凹凸構造であるナノ周期構造」に着目して研究をおこなってきた。
【0011】
本発明の発明者らの研究により、固体表面にナノ周期構造を形成した場合、単に細胞の増殖や分化を促進させることが可能となるだけでなく、細胞の増殖に配向性をもたせることも可能となることが判明している(日本歯科医学会 平成29年8月31日 第33回「歯科医学を中心とした総合的な研究を推進する集い」での発表 「チタン表面の規格化ナノ構造形成による周辺細胞制御技術とこれを応用した次世代インプラントの開発」参照。)。
【0012】
例えば、基材表面への規格化ナノ構造(ナノ周期構造)形成により、当該基材表面で骨髄間質細胞を培養した場合、溝が連続する方向に沿って骨髄間質細胞を増殖させることが可能であることが、本発明の発明者らがおこなった実験により確認できている。
【0013】
なお、固体表面における細胞の増殖に配向性をもたせることで、当該固体(人工物)と生体内の組織(特に骨)との間の細胞接着及び結合が強固となるという効果や、細胞の増殖及び分化を再現性が取れる形で制御することが可能となるという効果が得られると考えられ、それらを支持する実験結果も出つつある。
【0014】
ナノスケールの構造が細胞に影響を与える具体的な原理については、未だ詳細には判明していない。しかしながら、ナノスケールの凹凸構造が細胞の増殖等を促進可能であること、及び、ナノ周期構造により細胞増殖の配向性を制御可能であることについては、上記のような実験結果等から支持されている。本発明は上記の研究結果を発展応用したものである。
【0015】
本明細書においては、「骨」には、犬、猫、鳥等の動物の骨や人間の骨が含まれる。つまり、本発明の骨固定具は、人間の骨の治療方法に用いることもできるし、動物の骨の治療方法に用いることもできる。また、本明細書においては、「皮質骨に対応する箇所」とは、骨固定具の使用時において固定を想定する骨の皮質骨に接触させるべき箇所のことをいう。同様に、「海綿骨に対応する箇所」とは、骨固定具の使用時において固定を想定する骨の海綿骨に接触させるべき箇所のことをいう。
【0016】
本明細書においては、「固定を想定する骨の皮質骨又は海綿骨に対応する箇所の少なくとも一部」には、「固定を想定する骨の皮質骨に対応する箇所の一部又は全部」及び「固定を想定する骨の海綿骨に対応する箇所の一部又は全部」の他に、「固定を想定する骨の皮質骨に対応する箇所の一部又は全部と海綿骨に対応する箇所の一部又は全部との両方」も含まれる。
【0017】
本明細書においては、「周期性を有する」とは、一定の間隔で同じ構造が繰り返すことをいう。また、本明細書においては、「ナノスケール」とは、ナノメートル単位であらわすことが適切な大きさ(1nm~1000nm程度の大きさ)のことをいう。本明細書においては、「ナノスケールの凹凸構造」とは、凹凸の幅、高さ、径等、当該構造の基本単位のいずれかが1nm~1000nmの範囲内にあることをいう。このため、本明細書における「ナノ周期構造」とは、ナノスケールの凹凸構造の凹凸等の周期が1nm~1000nmの範囲内のナノスケールの周期的な構造であることをいう。
【0018】
なお、ナノ周期構造は、凹凸の幅、高さ、径が20nm~600nmの範囲内にあり、周期が20nm~600nmの範囲内にあることが好ましい。また、凹凸の幅、高さ、径が50nm~500nmの範囲内にあり、周期が50nm~500nmの範囲内にあることが一層好ましい。また、凹凸の幅、高さ、径が80nm~300nmの範囲内にあり、周期が80nm~300nmの範囲内にあることがより一層好ましい。さらに、凹凸の幅、高さ、径が100nm~200nmの範囲内にあり、周期が100nm~200nmの範囲内にあることがさらに一層好ましい。
【0019】
本発明の骨固定具は、それぞれ独立した複数の箇所にナノ周期構造を有していてもよい。また、本発明の骨固定具は、複数種類のナノ周期構造を有していてもよい。さらに、本発明の骨固定具は、ナノ周期構造の他に周期性を有しないナノスケールの凹凸構造を有していてもよい。周期性を有しないナノスケールの凹凸構造の例としては、ランダムに配置された点状の凹凸構造を挙げることができる。
【0020】
骨の機械的強度は主に皮質骨により確保されるため、本発明の骨固定具においては、固定を想定する骨の皮質骨に対応する箇所と連続する部分にナノ周期構造が形成されていることが好ましい。また、固定を想定する骨の皮質骨に対応する箇所の少なくとも一部にはナノ周期構造が形成されていることが好ましい。
【0021】
本発明における骨固定具は、骨の治療が終了した後も体内に残置するものであってもよいし、骨が治癒した後に体内から除去するものであってもよい。
【0022】
[2]本発明の骨固定具においては、固定を想定する骨は、骨折した骨であることが好ましい。
【0023】
このような構成とすることにより、骨固定具の表面構造により骨折面の癒合を促進させることが可能となる。
【0024】
[3]本発明の骨固定具においては、前記ナノ周期構造は、互いに接触しない複数の帯状凹部又は複数の帯状凸部からなることが好ましい。
【0025】
このような構成とすることにより、細胞の増殖、分化等が帯状凹部や帯状凸部に沿うようになるように制御することが可能となるため、治癒の方向性を制御することが可能となる。
【0026】
本明細書においては、「帯状凹部」とは、平面視したときに枝分かれせず連続する凹部のことをいう。帯状凹部は、溝状の構造と表現することもできる。また、本明細書においては、「帯状凸部」とは、平面視したときに枝分かれせず連続する凸部のことをいう。帯状凸部は、畝状の構造と表現することもできる。なお、ある構造が凹部からなるか凸部からなるかは、主に基準の高さをどのように設定するかの問題である。このため、実際には、ナノ周期構造が複数の帯状凹部からなるといえると同時に複数の帯状凸部からなるともいえる場合もある(後述する実施形態1参照。)。
【0027】
本明細書においては、「互いに接触しない」とは、複数の帯状凹部に関しては帯状凹部同士が交差したり合流したりしないことをいい、複数の帯状凸部に関しては帯状凸部同士が交差したり合流したりしないことをいう。上記[3]の場合においては、ナノ周期構造は、平面視したときに縞状にみえる構造となることが多い(後述する図1(c)参照。)。
【0028】
[4]本発明の骨固定具においては、前記ナノ周期構造が形成されている位置を表示する注意表示が付されていることが好ましい。
【0029】
このような構成とすることにより、ナノ周期構造が形成されている位置の把握が容易となるため、使用時における配置ミスを抑制することが可能となる。
【0030】
位置を表示する注意表示の例としては、色、模様、図形、文字、立体的形状等によりナノ周期構造が形成されている位置を明確化することを挙げることができる。注意表示はナノ周期構造が形成されている箇所に付されていてもよいし、ナノ周期構造が形成されていない箇所に付されていてもよい。また、注意表示はナノ周期構造が形成されている箇所又はナノ周期構造が形成されていない箇所の全てに付されていてもよいし、一部のみに付されていてもよい。
【0031】
[5]本発明の骨固定具においては、前記骨固定具の主要形状を構成する主構造がステンレス鋼からなることが好ましい。
【0032】
このような骨固定具は、生体内で使用できる他の材料からなる骨固定具と比較して強度とコストとのバランスに優れ、かつ、骨の治癒を積極的に促進させることが可能な骨固定具となる。
【0033】
本発明においては、「主要形状を構成する主構造」とは、主要形状を構成する主な構造のことをいう。骨固定具における主構造は、骨固定具の機械的強度を担う構造であるともいえる。ステンレス鋼としては、例として医療用(低ニッケル)のSUS316系ステンレス鋼を挙げることができる。
【0034】
[6]本発明の骨固定具においては、前記骨固定具の主要形状を構成する主構造がマグネシウム又はマグネシウム合金からなることも好ましい。
【0035】
マグネシウム及びマグネシウム合金には、人体内で分解・吸収されやすいという性質を有するものがある。このため、上記のような骨固定具は、十分な初期強度を有し、生体により分解・吸収されることが期待でき、かつ、骨の治癒を積極的に促進させることが可能な骨固定具となる。
【0036】
マグネシウム合金は、マグネシウムとマグネシウム以外の元素との合金である。本発明において好適に使用できると考えられるマグネシウム合金としては、Mg-Ca-Zn系合金を例示することができる。
【0037】
[7]本発明の骨固定具においては、前記骨固定具の主要形状を構成する主構造がチタン又はチタン合金からなることも好ましい。
【0038】
このような骨固定具は、高い強度を有しつつ毒性が低い性質も有し、かつ、骨の治癒を積極的に促進させることが可能な骨固定具となる。
【0039】
[8]本発明の骨固定具においては、前記主構造の少なくとも一部を覆う被覆膜を備えることが好ましい。
【0040】
このような構成とすることにより、主構造のみでは得ることが難しい性質(例えば、優れた強度、高い生体親和性、製造の容易さ、低い製造コスト等の優れた性質を高いレベルであわせ持つという性質)を有する骨固定具とすることが可能となる。
【0041】
なお、骨固定具が主構造及び被覆膜を備える場合には、ナノ周期構造は、主構造の表面のみ又は被覆膜の表面のみに形成されていてもよいし、主構造と被覆膜との両方の表面に形成されていてもよい。また、被覆膜が液状又はゲル状の物質からなる場合や水溶性又は生分解性が高い物質からなる場合のように、被覆膜が生体内において主構造から速やかに離脱する材質からなる場合には、骨固定具の使用前(保存時)においては、ナノ周期構造が被覆膜の下に埋まっていてもよい。被覆膜を構成する材質の例としては、金属、セラミック(特に、ハイドロキシアパタイトやリン酸三カルシウムからなるもの)、コラーゲン、アガロース及びセルロースを挙げることができる。
【0042】
[9]本発明の骨固定具においては、前記骨固定具は、先端ネジ部及び円筒部を有する骨固定用ネジであり、前記円筒部の表面の少なくとも一部に前記ナノ周期構造が形成されていることが好ましい。
【0043】
このような骨固定具は、骨の治癒を促進させることが可能な骨固定用ネジとなる。
【0044】
本明細書において、「先端ネジ部」とは、骨固定用ネジで骨を固定するときに骨固定用ネジを前進させる側を先端とするとき、当該先端側にあるネジ山が存在する部分のことをいう。また、本明細書において、「円筒部」とは、先端ネジ部の先端側とは反対の側(基端側)に配置され、ネジ山が存在しない円筒状の形状からなる部分のことをいう。当然のことではあるが、本発明の骨固定用ネジは先端ネジ部及び円筒部以外の部分(例えば、頭部)をさらに有していてもよい。また、上記[9]に記載の骨固定用ネジとは異なるが、固定を想定する骨の皮質骨又は海綿骨に対応する箇所にナノ周期構造が形成されている場合には、円筒部を有しない骨固定用ネジであっても本発明の骨固定用ネジとなる。
【0045】
[10]上記[9]に記載の骨固定具においては、前記ナノ周期構造は、前記固定を想定する骨の皮質骨又は海綿骨に対応する箇所において、前記円筒部の先端側から基端側にかけて連続する凹部又は凸部を含むことが好ましい。
【0046】
このような構成とすることにより、使用時には骨固定具が刺さっている方向に沿うように細胞の増殖や分化を促すことが可能となり、その結果、骨固定具と骨との間の結合を早期に強固なものとすることが可能となると考えられる。また、このような構成とすることにより、骨固定具の使用に起因する骨の損傷を速やかに治癒させることが可能となると考えられる。
【0047】
なお、「円筒部の先端側から基端側にかけて連続する凹部又は凸部」には、上記[3]に関連して記載した帯状凹部及び帯状凸部が含まれ得る。ただし、上記[10]における凹部や凸部は、円筒部の先端側から基端側にかけて連続していれば、互いに交差したり合流したりしていてもよい。
【0048】
[11]本発明の骨固定具においては、前記骨固定具は、骨固定用ピン、骨固定用ワイヤー又は骨固定用ステープルであり、前記ナノ周期構造は、前記固定を想定する骨の皮質骨又は海綿骨に対応する箇所において、長さ方向に沿って連続する凹部又は凸部を含むことも好ましい。
【0049】
このような骨固定具は、骨の治癒を促進させることが可能な骨固定用ピン、骨固定用ワイヤー又は骨固定用ステープルとなる。
【0050】
また、上記のような構成とすることにより、使用時には骨固定具が刺さっている方向に沿うように細胞の増殖や分化を促すことが可能となり、その結果、骨固定具と骨との間の結合を早期に強固なものとすることが可能となると考えられる。また、このような構成とすることにより、骨固定具の使用に起因する骨の損傷を速やかに治癒させることが可能となると考えられる。
【0051】
なお、「長さ方向に沿って連続する凹部又は凸部」には、上記[3]に関連して記載した帯状凹部及び帯状凸部が含まれ得る。ただし、上記[11]における凹部や凸部は、固定を想定する骨の皮質骨又は海綿骨に対応する箇所において連続していれば、互いに交差したり合流したりしていてもよい。
【0052】
[12]本発明の骨固定具においては、前記骨固定具は、骨固定用プレートであり、前記固定を想定する骨の損傷箇所に対応する箇所の少なくとも一部に前記ナノ周期構造が形成されていることも好ましい。
【0053】
このような骨固定具は、骨の治癒を促進させることが可能な骨固定用プレートとなる。
【0054】
[13]上記[12]に記載の骨固定具においては、前記ナノ周期構造は、前記損傷箇所と交差する凹部又は凸部を含むことが好ましい。
【0055】
このような構成とすることにより、骨の損傷箇所を埋めるように細胞の増殖、分化等を促すことが可能となり、その結果、骨の損傷を速やかに治癒させることが可能となると考えられる。
【0056】
本明細書においては、凹部又は凸部について「固定を想定する骨の損傷箇所と交差する」とは、凹部又は凸部が骨の損傷箇所をまたぐようになることをいう。
【0057】
なお、「損傷箇所と交差する凹部又は凸部」には、上記[3]に関連して記載した帯状凹部及び帯状凸部が含まれ得る。ただし、上記[13]における凹部や凸部は、損傷箇所の先端側から基端側にかけて連続していれば、互いに交差したり合流したりしていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】実施形態1に係る骨固定具1を説明するために示す図。
図2】実施形態1に係る骨固定具1で骨Bを固定している状態を示す図。
図3】実施形態2に係る骨固定具2を説明するために示す図。
図4】実施形態3に係る骨固定具3を説明するために示す図。
図5】実施形態4に係る骨固定具4を説明するために示す図。
図6】実施形態5に係る骨固定具5を説明するために示す図。
図7】実施形態5に係る骨固定具5で骨Bを固定している状態を示す図。
図8】実施形態6に係る骨固定具1aを説明するために示す図。
図9】変形例に係る骨固定具1b及び骨固定具1cの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本発明の骨固定具について、図に示す各実施形態に基づいて説明する。各図面は模式図であり、必ずしも実際の構造や構成を厳密に反映するものではない。以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明に必須であるとは限らない。以下の説明においては実質的に同等とみなせる構成要素に関しては実施形態をまたいで同じ符号を用い、再度の説明を省略する場合がある。
【0060】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る骨固定具1を説明するために示す図である。図1(a)は骨固定具1の側面図であり、図1(b)は図1(a)のA2-A2断面図であり、図1(c)は図1(a)のA1で示す部分を拡大して示す図であり、図1(d)は図1(b)のA3で示す部分を拡大して示す図である。図1(a)における両矢印は、ナノ周期構造における複数の帯状凹部S1又は複数の帯状凸部S2が連続する方向を示すものである。後述する図における両矢印も、図1(a)における両矢印と同様のものである。
【0061】
図2は、実施形態1に係る骨固定具1で骨Bを固定している状態を示す図である。図2においては、説明をわかりやすくするため、骨固定具1については側面図を表示しており、骨Bについては断面図を表示している。なお、後述する他の「骨固定具で骨Bを固定している状態を示す図」においても、骨固定具については側面図を表示しており、骨Bについては断面図を表示している。
【0062】
実施形態1に係る骨固定具1は、図1に示すように、固定を想定する骨Bの皮質骨B1又は海綿骨B2(図2参照。)に対応する箇所の少なくとも一部に、周期性を有するナノスケールの凹凸構造からなるナノ周期構造が形成されているものである。実施形態1においては、固定を想定する骨Bは骨折した骨である。図2においては、符号Dで示した箇所が骨折箇所である。
【0063】
なお、本明細書及び各図面においては、形状や損傷の様子が異なる場合であっても、固定を想定する骨については特に種類を区別せずBという符号を付して説明及び図示をおこなう。また、固定を想定する骨Bについては、単に「骨B」と記載することもある。なお、各図面に記載した骨Bの形状は模式図であり、各図面で示した骨Bの形状や位置等は、本発明の骨固定具を適用する対象となる骨を限定するものではない。
【0064】
骨固定具1は、図1(a)に示すように、先端ネジ部10と、円筒部20と、頭部30とを有する骨固定用ネジである。図2に示すように、骨固定具1においては、円筒部20は固定を想定する骨Bの海綿骨B2に対応する箇所である。なお、円筒部20は、皮質骨B1に対応する箇所を兼ねていてもよい。円筒部20の表面(図1(b)参照。)にはナノ周期構造が形成されている。骨固定具1においては、円筒部20の表面全体にナノ周期構造が形成されている。なお、実施形態1における円筒部20は、主構造22からなる。また、実施形態1における頭部30の側面には、先端ネジ部10におけるネジ山とはピッチが異なるネジ山が存在する。頭部30の基端側には、穴又は溝が形成されている(図示せず。)。
【0065】
骨固定具1におけるナノ周期構造は、図1(c)及び図1(d)に示すように、互いに接触しない複数の帯状凹部S1からなる。なお、ナノ周期構造は互いに接触しない複数の帯状凸部S2からなるということもできる。
【0066】
帯状凹部S1及び帯状凸部S2の幅や帯状凹部S1の深さ(帯状凸部S2の高さ)については、骨固定具1の用途等に応じて、ナノスケールであれば任意の値を取ることができる。
【0067】
ナノ周期構造は、ナノスケールの構造を形成可能なあらゆる方法を用いて形成することが可能である。ナノ周期構造を形成可能な方法としては、刃物やレーザーによる切削、金型による押圧(例えば、プレス成型)及びイオンや薬液によるエッチングを例示することができる。
【0068】
骨固定具1におけるナノ周期構造は、固定を想定する骨Bの海綿骨B2に対応する箇所において、円筒部20の先端側から基端側にかけて連続する凹部である帯状凹部S1を含むということもできる。また、ナノ周期構造は、固定を想定する骨Bの海綿骨B2に対応する箇所において、円筒部20の先端側から基端側にかけて連続する凸部である帯状凸部S2を含むということもできる。なお、実施形態1における「先端側」は骨固定具1(骨固定用ネジ)で骨Bを固定するときに骨固定具1を前進させる側(円筒部20との関係では、先端ネジ部10がある側)であり、「基端側」は、先端側とは反対の側(円筒部20との関係では、頭部30がある側)のことをいう。
【0069】
骨固定具1においては、ナノ周期構造が形成されている位置を表示する注意表示が付されている。骨固定具1における注意表示は色によりなされており、具体的には、ナノ周期構造が形成されている部分(円筒部20の表面)とナノ周期構造が形成されてない部分とでは色が異なっている。なお、色による注意表示は、例えば、塗料を用いて付すことができる。骨固定具1においては円筒部20の表面全体にナノ周期構造が形成されているため、円筒部20の表面全体が他の部分とは異なる色となっている。
【0070】
骨固定具1の主要形状を構成する主構造としては、生体内で用いることができる材料からなるものであれば、用途等にあわせて任意の材料からなるものを用いることができる。主構造は、例えば、ステンレス鋼からなることが好ましい。また、主構造は、例えば、マグネシウム又はマグネシウム合金からなることも好ましい。さらに、主構造は、例えば、チタン又はチタン合金からなることも好ましい。
【0071】
以下、実施形態1に係る骨固定具1の効果を記載する。
【0072】
実施形態1に係る骨固定具1によれば、固定を想定する骨Bの皮質骨B1又は海綿骨B2に対応する箇所の少なくとも一部に、周期性を有するナノスケールの凹凸構造からなるナノ周期構造が形成されているため、ナノ周期構造を固定を想定する骨Bの実体部位である皮質骨B1及び海綿骨B2の少なくとも一方と接触させて使用することで、皮質骨B1及び海綿骨B2の少なくとも一方における細胞(特に骨芽細胞)の増殖や分化を促進させることが可能となる。このため、実施形態1に係る骨固定具1によれば、骨固定具1と骨Bとを早期にかつ強固に固着させることで骨を安定して固定することが可能となる。また、実施形態1に係る骨固定具1によれば、細胞の増殖や分化を促進させることから、骨B自体の治癒力を高めることも可能となる。したがって、実施形態1に係る骨固定具1は、従来の骨固定具と比較して、骨Bの治癒を促進させることが可能な骨固定具となる。
【0073】
また、実施形態1に係る骨固定具1によれば、固定を想定する骨Bは、骨折した骨であるため、骨固定具1の表面構造により骨折面の癒合を促進させることが可能となる。
【0074】
また、実施形態1に係る骨固定具1によれば、ナノ周期構造は、互いに接触しない複数の帯状凹部S1又は複数の帯状凸部S2からなるため、細胞の増殖や分化が帯状凹部S1や帯状凸部S2に沿うようになるように制御することが可能となり、治癒の方向性を制御することが可能となる。
【0075】
また、実施形態1に係る骨固定具1によれば、ナノ周期構造が形成されている位置を表示する注意表示が付されているため、ナノ周期構造が形成されている位置の把握が容易となり、使用時における配置ミスを抑制することが可能となる。
【0076】
実施形態1に係る骨固定具1は、主構造がステンレス鋼からなる場合には、生体内で使用できる他の材料からなる骨固定具と比較して強度とコストとのバランスに優れ、かつ、骨Bの治癒を積極的に促進させることが可能な骨固定具となる。
【0077】
実施形態1に係る骨固定具1は、主構造がマグネシウム又はマグネシウム合金からなる場合には、十分な初期強度を有し、生体により分解・吸収されることが期待でき、かつ、骨Bの治癒を積極的に促進させることが可能な骨固定具となる。
【0078】
実施形態1に係る骨固定具1は、主構造がチタン又はチタン合金からなる場合には、生体内で使用できる他の材料からなる骨固定具と比較して優れた強度及び生体への毒性が低い性質を有し、かつ、骨Bの治癒を積極的に促進させることが可能な骨固定具となる。
【0079】
実施形態1に係る骨固定具1は、先端ネジ部10及び円筒部20を有する骨固定用ネジであり、円筒部20の表面にナノ周期構造が形成されているため、骨Bの治癒を促進させることが可能な骨固定用ネジとなる。
【0080】
また、実施形態1に係る骨固定具1によれば、ナノ周期構造は、固定を想定する骨Bの皮質骨B1及び海綿骨B2に対応する箇所において、円筒部20の先端側から基端側にかけて連続する帯状凹部S1又は帯状凸部S2を含むため、骨固定具1が刺さっている方向に沿うように細胞の増殖や分化を促すことが可能となり、その結果、骨固定具1と骨Bとの間の結合を早期に強固なものとすることが可能となると考えられる。また、実施形態1に係る骨固定具1によれば、骨固定具1の使用に起因する骨Bの損傷を速やかに治癒させることが可能となると考えられる。
【0081】
[実施形態2]
図3は、実施形態2に係る骨固定具2を説明するために示す図である。図3(a)は骨固定具2の側面図であり、図3(b)は骨固定具2で骨Bを固定している状態を示す図である。
【0082】
実施形態2に係る骨固定具2は、図3に示すように、骨固定用ピンである。骨固定具2におけるナノ周期構造は、固定を想定する骨Bの皮質骨B1及び海綿骨B2に対応する箇所において、長さ方向に沿って連続する凹部又は凸部を含む。図3における符号40で示す箇所は、ナノ周期構造が形成されている箇所である。また、図3における符号42で示す箇所は、ナノ周期構造が形成されていない箇所である。
【0083】
なお、骨固定具2におけるナノ周期構造が形成されている箇所40及びナノ周期構造が形成されていない箇所42はあくまで例示である。例えば、骨固定具2の全体にナノ周期構造が形成されていてもよい。
【0084】
骨固定具2におけるナノ周期構造及び注意表示は、実施形態1におけるナノ周期構造及び注意表示と実質的に同様のものであるため、再度の説明は省略する。また、骨固定具2における主構造についても実施形態1における骨固定具1の場合と同様のことがいえるため、主構造についての説明も省略する。
【0085】
このように、実施形態2に係る骨固定具2は骨固定用ピンであり、実施形態1に係る骨固定具1とは異なるが、固定を想定する骨Bの皮質骨B1又は海綿骨B2に対応する箇所の少なくとも一部にナノ周期構造が形成されている。このため、実施形態2に係る骨固定具2は、実施形態1に係る骨固定具1と同様に、従来の骨固定具と比較して骨Bの治癒を促進させることが可能な骨固定具となる。
【0086】
また、実施形態2に係る骨固定具2は、骨Bの治癒を促進させることが可能な骨固定用ピンとなる。
【0087】
また、実施形態2に係る骨固定具2によれば、骨固定具2が刺さっている方向に沿うように細胞の増殖や分化を促すことが可能となり、その結果、骨固定具2と骨Bとの間の結合を早期に強固なものとすることが可能となると考えられる。また、このような構成とすることにより、骨固定具2の使用に起因する骨Bの損傷を速やかに治癒させることが可能となると考えられる。
【0088】
なお、実施形態2に係る骨固定具2におけるナノ周期構造、注意表示及び主構造は、実質的に実施形態1に係る骨固定具1におけるナノ周期構造、注意表示及び主構造と同様のものである。このため、実施形態2に係る骨固定具2は、ナノ周期構造、注意表示及び主構造に関しては、実施形態1に係る骨固定具1が有する効果と同様の効果を有する。
【0089】
[実施形態3]
図4は、実施形態3に係る骨固定具3を説明するために示す図である。図4(a)は骨固定具3の側面図であり、図4(b)は骨固定具3で骨Bを固定している状態を示す図である。
【0090】
実施形態3に係る骨固定具3は、図4に示すように、骨固定用ワイヤーである。骨固定具3におけるナノ周期構造は、固定を想定する骨Bの皮質骨B1に対応する箇所及び海綿骨B2に対応する箇所において、長さ方向に沿って連続する凹部又は凸部を含む。図4における符号50で示す箇所は、ナノ周期構造が形成されている箇所である。また、図4における符号52で示す箇所は、ナノ周期構造が形成されていない箇所である。
【0091】
なお、骨固定具3におけるナノ周期構造が形成されている箇所50及びナノ周期構造が形成されていない箇所52はあくまで例示である。例えば、骨固定具3の全体にナノ周期構造が形成されていてもよい。
【0092】
骨固定具3におけるナノ周期構造及び注意表示は、実施形態1におけるナノ周期構造及び注意表示と実質的に同様のものであるため、再度の説明は省略する。また、骨固定具3における主構造についても実施形態1における骨固定具1の場合と同様のことがいえるため、主構造についての説明も省略する。
【0093】
このように、実施形態3に係る骨固定具3は骨固定用ワイヤーであり、実施形態1に係る骨固定具1とは異なるが、固定を想定する骨Bの皮質骨B1及び海綿骨B2に対応する箇所にナノ周期構造が形成されている。このため、実施形態3に係る骨固定具3は、実施形態1に係る骨固定具1と同様に、従来の骨固定具と比較して骨Bの治癒を促進させることが可能な骨固定具となる。
【0094】
また、実施形態3に係る骨固定具3は、骨Bの治癒を促進させることが可能な骨固定用ワイヤーとなる。
【0095】
また、実施形態3に係る骨固定具3によれば、骨固定具3が刺さっている方向に沿うように細胞の増殖や分化を促すことが可能となり、その結果、骨固定具3と骨Bとの間の結合を早期に強固なものとすることが可能となると考えられる。また、このような構成とすることにより、骨固定具3の使用に起因する骨Bの損傷を速やかに治癒させることが可能となると考えられる。
【0096】
なお、実施形態3に係る骨固定具3におけるナノ周期構造、注意表示及び主構造は、実質的に実施形態1に係る骨固定具1におけるナノ周期構造、注意表示及び主構造と同様のものである。このため、実施形態3に係る骨固定具3は、ナノ周期構造、注意表示及び主構造に関しては、実施形態1に係る骨固定具1が有する効果と同様の効果を有する。
【0097】
[実施形態4]
図5は、実施形態4に係る骨固定具4を説明するために示す図である。図5(a)は骨固定具4の側面図であり、図5(b)は骨固定具4で骨Bを固定している状態を示す図である。
【0098】
実施形態4に係る骨固定具4は、図5に示すように、骨固定用ステープルである。骨固定具4におけるナノ周期構造は、固定を想定する骨Bの皮質骨B1に対応する箇所及び海綿骨B2に対応する箇所において、長さ方向に沿って連続する凹部又は凸部を含む。図5における符号60,61で示す箇所は、ナノ周期構造が形成されている箇所である。また、図5における符号62で示す箇所は、ナノ周期構造が形成されていない箇所である。
【0099】
なお、骨固定具4におけるナノ周期構造が形成されている箇所60,61及びナノ周期構造が形成されていない箇所62はあくまで例示である。例えば、骨固定具4の全体にナノ周期構造が形成されていてもよい。
【0100】
骨固定具4におけるナノ周期構造及び注意表示は、実施形態1におけるナノ周期構造及び注意表示と実質的に同様のものであるため、再度の説明は省略する。また、骨固定具4における主構造についても実施形態1における骨固定具1の場合と同様のことがいえるため、主構造についての説明も省略する。
【0101】
このように、実施形態4に係る骨固定具4は骨固定用ステープルであり、実施形態1に係る骨固定具1とは異なるが、固定を想定する骨Bの皮質骨B1又は海綿骨B2に対応する箇所の少なくとも一部にナノ周期構造が形成されている。このため、実施形態4に係る骨固定具4は、実施形態1に係る骨固定具1と同様に、従来の骨固定具と比較して骨Bの治癒を促進させることが可能な骨固定具となる。
【0102】
実施形態4に係る骨固定具4は、骨Bの治癒を促進させることが可能な骨固定用ステープルとなる。
【0103】
また、実施形態4に係る骨固定具4によれば、骨固定具4が刺さっている方向に沿うように細胞の増殖や分化を促すことが可能となり、その結果、骨固定具4と骨Bとの間の結合を早期に強固なものとすることが可能となると考えられる。また、このような構成とすることにより、骨固定具4の使用に起因する骨Bの損傷を速やかに治癒させることが可能となると考えられる。
【0104】
なお、実施形態4に係る骨固定具4におけるナノ周期構造、注意表示及び主構造は、実質的に実施形態1に係る骨固定具1におけるナノ周期構造、注意表示及び主構造と同様のものである。このため、実施形態4に係る骨固定具4は、ナノ周期構造、注意表示及び主構造に関しては、実施形態1に係る骨固定具1が有する効果と同様の効果を有する。
【0105】
[実施形態5]
図6は、実施形態5に係る骨固定具5を説明するために示す図である。図6(a)は骨固定具5の平面図であり、図6(b)は骨固定具5の側面図である。
図7は、実施形態5に係る骨固定具5で骨Bを固定している状態を示す図である。
【0106】
実施形態5に係る骨固定具5は、図6に示すように、骨固定用プレートである。骨固定具5においては、固定を想定する骨Bの損傷箇所に対応する箇所にナノ周期構造が形成されている。図6における符号70で示す箇所は、ナノ周期構造が形成されている箇所である。また、図6における符号72,74で示す箇所は、ナノ周期構造が形成されていない箇所である。なお、図6(a)に示すように、骨固定具5には取付穴76が形成されている。骨固定具5を骨に取り付けるときには、図7に示すように、留め具78を用いる。留め具78は例えば骨固定用ネジであり、この場合には従来からある一般的な骨固定用ネジを用いることもできるし、実施形態1に係る骨固定具1のようなものを用いることもできる。
【0107】
なお、骨固定具5におけるナノ周期構造が形成されている箇所70及びナノ周期構造が形成されていない箇所72,74はあくまで例示である。例えば、骨固定具5の全体にナノ周期構造が形成されていてもよい。
【0108】
骨固定具5におけるナノ周期構造は、固定を想定する骨Bの損傷箇所(骨折箇所D)と交差する凹部又は凸部を含む。なお、骨固定具5は骨Bの表面に配置するものであるため、骨固定具5には骨Bの海綿骨に対応する箇所は存在しない。
【0109】
骨固定具5におけるナノ周期構造は、実施形態1におけるナノ周期構造と実質的に同様のものであるため、再度の説明は省略する。また、骨固定具5における主構造についても実施形態1における骨固定具1の場合と同様のことがいえるため、主構造についての説明も省略する。
【0110】
なお、ナノ周期構造が形成されている箇所70における注意表示は、実施形態1における注意表示と実質的に同様のものである。骨固定具5においては、ナノ周期構造が形成されている箇所70が存在する位置及び向きをわかりやすくするために、注意表示71が骨固定具5の側面に付されている。注意表示71が付されている箇所については、ナノ周期構造が形成されていてもよいし、形成されていなくてもよい。
【0111】
このように、実施形態5に係る骨固定具5は骨固定用プレートであり、実施形態1に係る骨固定具1とは異なるが、固定を想定する骨Bの皮質骨B1又は海綿骨B2に対応する箇所の少なくとも一部にナノ周期構造が形成されている。このため、実施形態5に係る骨固定具5は、実施形態1に係る骨固定具1と同様に、従来の骨固定具と比較して骨Bの治癒を促進させることが可能な骨固定具となる。
【0112】
実施形態5に係る骨固定具5は、骨Bの治癒を促進させることが可能な骨固定用プレートとなる。
【0113】
また、実施形態5に係る骨固定具5によれば、ナノ周期構造は、固定を想定する骨Bの損傷箇所と交差する凹部又は凸部を含むため、骨Bの損傷箇所を埋めるように細胞の増殖や分化を促すことが可能となり、その結果、骨Bの損傷を速やかに治癒させることが可能となると考えられる。
【0114】
なお、実施形態5に係る骨固定具5におけるナノ周期構造、注意表示及び主構造は、実質的に実施形態1に係る骨固定具1におけるナノ周期構造、注意表示及び主構造と同様のものである。このため、実施形態5に係る骨固定具5は、ナノ周期構造、注意表示及び主構造に関しては、実施形態1に係る骨固定具1が有する効果と同様の効果を有する。
【0115】
[実施形態6]
図8は、実施形態6に係る骨固定具1aを説明するために示す図である。図8(a)は骨固定具1aの側面図であり、図8(b)は図1(d)に相当する図(図1(a)のA3で示す部分に相当する部分を拡大して示す図)である。
【0116】
実施形態6に係る骨固定具1aは、実施形態1に係る骨固定具1と基本的に同様の構成を有するが、円筒部の構成が実施形態1に係る骨固定具1の場合とは異なる。すなわち、実施形態6に係る骨固定具1aは、図8に示すように、円筒部20aにおいて、主構造22を覆う被覆膜24を備える。なお、被覆膜24は、円筒部20a以外の箇所にも配置されていてもよいし、円筒部20aのみに配置されていてもよい。また、被覆膜24は、円筒部20a全体に配置されていてもよいし、円筒部20aの一部のみに配置されていてもよい。被覆膜24としては、骨固定具1aの用途等に応じて種々の材料や厚さからなるものを用いることができる。
【0117】
このように、実施形態6に係る骨固定具1aは、円筒部の構成が実施形態1に係る骨固定具1の場合とは異なるが、実施形態1に係る骨固定具1と同様に、固定を想定する骨Bの皮質骨B1又は海綿骨B2に対応する箇所の少なくとも一部にナノ周期構造が形成されている。このため、実施形態6に係る骨固定具1aは、実施形態1に係る骨固定具1と同様に、従来の骨固定具と比較して骨Bの治癒を促進させることが可能な骨固定具となる。
【0118】
また、実施形態6に係る骨固定具1aによれば、主構造22の他に被覆膜24を備えるため、主構造22のみでは得ることが難しい性質を有する骨固定具とすることが可能となる。
【0119】
なお、実施形態6に係る骨固定具1aは、円筒部20aにおいて主構造22を覆う被覆膜24を備えること以外については実施形態1に係る骨固定具1と同様の構成を有するため、実施形態1に係る骨固定具1が有する効果のうち該当する効果と同様の効果を有する。
【0120】
以上、本発明を上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0121】
(1)上記各実施形態において説明した構成要素の形状、数、位置等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0122】
(2)上記各実施形態において記載及び説明した、骨固定具におけるナノ周期構造が形成されている箇所はあくまで例示である。本発明の骨固定具におけるナノ周期構造は、固定を想定する骨の皮質骨又は海綿骨に対応する箇所の少なくとも一部に形成されていればよい。
【0123】
(3)本発明の骨固定具は、固定を想定する骨の皮質骨又は海綿骨と接触する骨固定具であれば適用することが可能である。つまり、本発明の骨固定具は、上記した骨固定用ネジ、骨固定用ピン、骨固定用ワイヤー、骨固定用ステープル及び骨固定用プレートに限られるものではない。
【0124】
(4)本発明におけるナノ周期構造は、上記した帯状凹部S1又は帯状凸部S2からなるものに限定されるものではない。例えば、帯状凹部及び帯状凸部が連続する方向は、上記した帯状凹部S1又は帯状凸部S2の場合とは異なる方向であってもよい。また、例えば、帯状凹部及び帯状凸部は屈曲した形状や蛇行するような形状からなる構造であってもよい。また、ナノ周期構造は、格子状の凹部又は凸部を含む構造や、円形の凹凸を含む構造であってもよい。
【0125】
(5)上記実施形態1で説明した骨固定具1はあくまで例示であり、その構成等は変更することが可能である。図9は、変形例に係る骨固定具1b及び骨固定具1cの側面図である。図9(a)は変形例に係る骨固定具1bの側面図であり、図9(b)は骨固定具1cの側面図である。変形例に係る骨固定具1bは、図9(a)に示すように、基本的には実施形態1に係る骨固定具1と同様の構成を有するが、先端ネジ部12は骨固定具1の先端ネジ部10よりも長く、円筒部20bは骨固定具1の円筒部20よりも短い。また、変形例に係る骨固定具1cは、図9(b)に示すように、基本的には実施形態1に係る骨固定具1と同様の構成を有するが、円筒部を有しない。また、変形例に係る骨固定具1cにおいては、先端ネジ部14及び頭部34においてもナノ周期構造が形成されている。なお、主構造36は頭部34の主構造であり、主構造16は先端ネジ部14の主構造である。変形例に係る骨固定具1b及び骨固定具1cのように、先端ネジ部や頭部におけるナノ周期構造の有無、各部の比率、頭部におけるネジ山の有無等は、骨固定用ネジの用途等により適宜決定することができる。
【0126】
(6)上記実施形態6において説明した被覆膜を備える構成は、上記実施形態2~5に記載したような骨固定具においても適用可能である。
【符号の説明】
【0127】
1,1a,1b,1c,2,3,4,5…骨固定具、10,12,14…先端ネジ部、16,22,36…主構造、20,20a,20b…円筒部、24…被覆膜、30,32,34…頭部、40,50,60,61,70…ナノ周期構造が形成されている箇所、42,52,62,72,74…ナノ周期構造が形成されていない箇所、71…注意表示、76…取付穴、78…留め具、B…固定を想定する骨、B1…皮質骨、B2…海綿骨、D…骨折箇所、S1…帯状凹部、S2…帯状凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9