(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】乾式タイル施工のためのタイル取付金具、タイル取付金具のタイルへの取付方法及び乾式タイル施工法並びに乾式タイル壁面構造
(51)【国際特許分類】
E04F 13/08 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
E04F13/08 101U
(21)【出願番号】P 2020082893
(22)【出願日】2020-05-09
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】509298562
【氏名又は名称】株式会社アクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】原 裕之
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-166034(JP,U)
【文献】特開昭62-129453(JP,A)
【文献】特開昭63-280151(JP,A)
【文献】実開平02-005546(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2011/0302865(US,A1)
【文献】特開平11-107471(JP,A)
【文献】特開2000-336893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/00-13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付プレートとばねとの2部材を組み合わせて成り、
前記取付プレートは下地または下地材に対して締結具によって固着される連結部を少なくとも一端に有し、
前記ばねはタイルの裏面の溝の両側壁に押しつけられる脚部を両側に有し、前記脚部の間の中央部分が前記溝の底に向けて屈曲するように塑性変形させられたときに前記両脚部が外側に拡がって前記溝の前記両側壁に押しつけられるものであり、
前記タイルの前記溝の任意の位置に収められた前記取付プレートの上から前記ばねを被せ、前記脚部の間の中央部分を前記溝の底に向けて屈曲させることで前記ばね自体を前記タイルに取り付けると共に前記ばねの前記脚部で前記取付プレートを前記タイルに押さえ付けて前記タイルに固定するものである
ことを特徴とするタイル取付金具。
【請求項2】
前記取付プレートは、前記連結部とは反対側の端部に前記下地または下地材に対して引っ掛かけられる引っ掛け部を備え、前記連結部と前記引っ掛け部との間に前記タイルの前記溝の底に接する一対の接底部と、一対の前記接底部の間で前記タイルの前記溝の底から浮いた部分とを備え
、前記一対の接底部の間の前記タイルの溝の底から浮いた部分を前記ばねで
前記タイルの前記溝の底に向けて押さえつけることを特徴とする請求項1記載のタイル取付金具。
【請求項3】
前記取付プレートは、前記ばねが被せられる部位に、両端部に比べて幅狭でかつ前記ばねの前記脚部が前記溝の側面に向けて拡がったときに前記脚部が押しつけられる括れ部が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のタイル取付金具。
【請求項4】
タイル裏面の溝の任意の位置に、請求項1から3のいずれか1つに記載のタイル取付金具の取付プレートを収め、前記取付プレートの上に前記ばねを被せ、その状態で前記ばねの前記脚部の間の中央部分をプレスにより前記溝の底に向けてV曲げ加工して左右の脚部を外へ押し拡げて前記溝の前記両側壁に押しつけることで前記ばね自体を前記タイルに取り付けると共に前記ばねの前記脚部で前記取付プレートを前記タイルに押し付けて前記タイルに固定する
ことを特徴とするタイル取付金具のタイルへの取付方法。
【請求項5】
タイルの裏面に少なくとも1本の溝を形成し、
前記溝の任意の位置に、請求項1から3のいずれか1つに記載のタイル取付金具の取付プレートを収め、前記取付プレートの上に前記ばねを被せ、その状態で前記ばねの前記脚部の間の中央部分をプレスにより前記溝の底に向けてV曲げ加工して左右の脚部を外へ押し拡げて前記溝の前記両側壁に押しつけることで前記ばね自体を前記タイルに取り付けると共に前記ばねの前記脚部で前記取付プレートを前記タイルに押し付けて前記タイルに固定し、
前記タイルの裏面に弾性接着剤を塗布してから前記下地または下地材に前記取付プレートの少なくとも一端の前記連結部を締結具で締結して吊り下げると共に前記タイルを前記下地または下地材に前記弾性接着剤を押しつけて固定する
ことを特徴とする乾式タイル施工法。
【請求項6】
少なくとも1本の溝を裏面に有するタイルと、
下地材に対して締結具によって固着される連結部を少なくとも一端に有すと共に他端側に前記下地材に対して引っ掛かけられる引っ掛け部を備える取付プレートと、前記タイルの裏面の溝の両側壁に押しつけられる脚部を両側に有し、前記脚部の間の中央部分が前記溝の底に向けて屈曲するように塑性変形させられたときに前記両脚部が外側に拡がって前記溝の前記両側壁に押しつけられるばねとの2部材を組み合わせて成るタイル取付金具と、
前記タイル取付金具の前記連結部を固着しあるいは前記引っ掛け部を引っ掛ける支承部を有する前記下地材としての横胴縁と、
前記タイルの裏面にタイル飛散防止材として塗布される弾性接着剤とを用い、
前記横胴縁を下地あるいは建物躯体に所定間隔毎に取り付け、
前記タイルの前記溝の任意の位置に、前記タイル取付金具の前記取付プレートを収めてから前記取付プレートの上に前記ばねを被せ、その状態で前記ばねの前記脚部の間の中央部分をプレスにより前記溝の底に向けてV曲げ加工して左右の脚部を外へ押し拡げて前記溝の前記両側壁に押しつけることで前記ばね自体を前記タイルに取り付けると共に前記ばねの前記脚部で前記取付プレートを前記タイルに押し付けて前記タイルの上側および下側に前記タイル取付金具を取り付け、
前記タイルの裏面に前記弾性接着剤を塗布してから、
前記横胴縁の前記支承部に前記タイルの下側の前記タイル取付金具の前記引っ掛け部を引っ掛けて前後方向に固定する一方、前記タイルの上側の前記タイル取付金具の前記連結部を上段の前記横胴縁の前記支承部に締結具で固着し、
前記タイルを前記横胴縁に吊った状態で前記横胴縁並びに前記下地あるいは建物躯体に前記弾性接着剤を押しつけて固定する
ことを特徴とする乾式タイル施工法。
【請求項7】
少なくとも1本の溝を裏面に有するタイルと、
前記タイルの裏面にタイル飛散防止材として塗布される弾性接着剤と、
前記タイルの前記溝に固定される請求項1から3のいずれか1つに記載のタイル取付金具と、
少なくとも前記タイル取付金具の前記連結部を固着する支承部を有し下地あるいは建物躯体に所定間隔毎に取り付けられる横胴縁とを備え、
前記タイルの前記溝の任意の位置に収められた前記取付プレートをその上に被せた前記ばねの塑性変形によって前記タイルに押しつけて前記タイルと前記タイル取付金具とが固定され、前記タイル取付金具の前記取付プレートを前記横胴縁の前記支承部に締結具で固着して吊り下げると共に前記タイルと前記横胴縁並びに下地あるいは建物駆体とは弾性接着剤により接着されて外壁面を構成することを特徴とする乾式タイル壁面構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式タイル施工のためのタイル取付金具、タイル取付金具のタイルへの取付方法及び乾式タイル施工法並びに乾式タイル壁面構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、外壁用タイルの施工法として、窯業製のサイディングボードや爪を有する金属板製のタイル取付板等の下地材を建物の壁面に固着し、該下地材にタイルを係止したり或いは接着剤で止着して取り付ける乾式工法が知られている。
【0003】
ところが、窯業製のサイディングボードは、耐用年数が20~30年程度とタイルの耐用年数と比べて寿命が比較的短い上に、温度変化に伴う伸縮が大きいため、タイルが破損したり、剥離が発生する欠点がある。また、接着剤でタイルを固着する工法では、内部の点検が出来ず、住宅寿命の長期化に対応できないと共に、接着剤の劣化によって脱落が起こるなどの問題もある。
【0004】
乾式工法におけるかかる問題点を解決するために、サイディングボードに代わってアルミニウム製の下地材を使用する工法(特許文献1)や、接着剤に代わって、金属製の弾性クリップや金属製の取付用ブラケットレールを使ってタイルを止着する工法(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第32662369号公報
【文献】特許第4566280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、サイディングボードに代わるほどのアルミニウム製の下地材は、高価であり施工コストを上げる要因となると共に、温度変化に伴う伸縮が大きいため、サイディングボードと同様にタイルの破損や剥離の問題を有しており、耐久性の向上を図ることはできない。
【0007】
また、接着剤に代わる金属製の取付用ブラケットレールと弾性クリップとの併用は、下地材であるサイディングボードの凹凸に対して金属製取付用ブラケットレールを取付け、その上で取付用ブラケットレールとタイルの上端との間に弓形の弾性クリップを変形させながらタイルを装入させるという煩わしいタイル取付作業を必要として、作業効率の悪いものとなってしまう問題がある。また、弾性クリップを押さえながら圧縮しつつ下地材に嵌め込まれた取付用ブラケットレールのダブテール状の斜面に係止させるため、弾性クリップの手による圧縮・挿入が作業者の指に大きな負担と痛みをもたらすことになる。
【0008】
しかも、タイルとレール間の隙間に挿入した弾性クリップが地震時などに外れる可能性がある他、弾性クリップをタイルとレールの間の隙間に挿入し難いという欠点がある。弾性クリップによって上下方向に押しつけているだけなので、地震時などに建物躯体の外壁面から離れる方向の力を受けた際に弾性クリップの力が脱落させる方向に作用するため、タイルの中間部分裏面側に取付用ブラケットレールのダブテール状の斜面と係合するあり溝(引っ掛かりとなる楔状の凸部)を形成する必要があり、使用するタイルの形状に制約を受ける。
【0009】
本発明は、タイルを長期的に安定して固定し、かつ改修時や解体時には容易にタイルを脱着できる乾式タイル施工のためのタイル取付金具、タイル取付金具のタイルへの取付方法及び乾式タイル施工法並びに乾式タイル壁面構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成する本発明のタイル取付金具は、取付プレートとばねとの2部材を組み合わせて成り、取付プレートは下地または下地材に対して締結具によって固着される連結部を少なくとも一端に有し、ばねはタイルの裏面の溝の両側壁に押しつけられる脚部を両側に有し、脚部の間の中央部分が溝の底に向けて屈曲するように塑性変形させられたときに両脚部が外側に拡がって溝の両側壁に押しつけられるものであり、タイルの溝の任意の位置に収められた取付プレートの上からばねを被せ、脚部の間の中央部分を溝の底に向けて屈曲させることでばね自体をタイルに取り付けると共にばねの脚部で取付プレートをタイルに押さえ付けてタイルに固定するようにしている。
【0011】
ここで、取付プレートは、連結部とは反対側の端部に下地または下地材に対して引っ掛かけられる引っ掛け部を備え、連結部と引っ掛け部との間にタイルの溝の底に接する一対の接底部と、一対の接底部の間でタイルの溝の底から浮いた部分とを備え、一対の接底部の間のタイルの溝の底から浮いた部分をばねでタイルの溝の底に向けて押さえつけることが好ましい。
【0012】
また、取付プレートは、ばねが被せられる部位に、両端部に比べて幅狭でかつばねの脚部が溝の側面に向けて拡がったときに脚部が押しつけられる括れ部が形成されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明にかかるタイル取付金具のタイルへの取付方法は、タイル裏面の溝の任意の位置に、請求項1から3のいずれか1つに記載のタイル取付金具の取付プレートを収め、取付プレートの上にばねを被せ、その状態でばねの脚部の間の中央部分をプレスにより溝の底に向けてV曲げ加工して左右の脚部を外へ押し拡げて溝の両側壁に押しつけることでばね自体をタイルに取り付けると共にばねの脚部で取付プレートをタイルに押し付けてタイルに固定するようにしている。
【0014】
また、本発明にかかる乾式タイル施工法は、タイルの裏面に少なくとも1本の溝を形成し、溝の任意の位置に、請求項1から3のいずれか1つに記載のタイル取付金具の取付プレートを収め、取付プレートの上にばねを被せ、その状態でばねの脚部の間の中央部分をプレスにより溝の底に向けてV曲げ加工して左右の脚部を外へ押し拡げて溝の両側壁に押しつけることでばね自体をタイルに取り付けると共にばねの脚部で取付プレートをタイルに押し付けてタイルに固定し、タイルの裏面に弾性接着剤を塗布してから下地または下地材に取付プレートの少なくとも一端の連結部を締結具で締結して吊り下げると共にタイルを下地または下地材に弾性接着剤を押しつけて固定するようにしている。
【0015】
また、本発明にかかる乾式タイル施工法は、少なくとも1本の溝を裏面に有するタイルと、下地材に対して締結具によって固着される連結部を少なくとも一端に有すと共に他端側に下地材に対して引っ掛かけられる引っ掛け部を備える取付プレートと、タイルの裏面の溝の両側壁に押しつけられる脚部を両側に有し、脚部の間の中央部分が溝の底に向けて屈曲するように塑性変形させられたときに両脚部が外側に拡がって溝の両側壁に押しつけられるばねとの2部材を組み合わせて成るタイル取付金具と、タイル取付金具の連結部を固着しあるいは引っ掛け部を引っ掛ける支承部を有する下地材としての横胴縁と、タイルの裏面にタイル飛散防止材として塗布される弾性接着剤とを用い、横胴縁を下地あるいは建物躯体に所定間隔毎に取り付け、タイルの溝の任意の位置に、タイル取付金具の取付プレートを収めてから取付プレートの上にばねを被せ、その状態でばねの脚部の間の中央部分をプレスにより溝の底に向けてV曲げ加工して左右の脚部を外へ押し拡げて溝の両側壁に押しつけることでばね自体をタイルに取り付けると共にばねの脚部で取付プレートをタイルに押し付けてタイルの上側および下側にタイル取付金具を取り付け、タイルの裏面に弾性接着剤を塗布してから、横胴縁の支承部にタイルの下側のタイル取付金具の引っ掛け部を引っ掛けて前後方向に固定する一方、タイルの上側のタイル取付金具の連結部を上段の横胴縁の支承部に締結具で固着し、タイルを横胴縁に吊った状態で横胴縁並びに下地あるいは建物躯体に弾性接着剤を押しつけて固定するようにしている。
【0016】
さらに、本発明にかかる乾式タイル壁面構造は、少なくとも1本の溝を裏面に有するタイルと、タイルの裏面にタイル飛散防止材として塗布される弾性接着剤と、タイルの溝に固定される請求項1から3のいずれか1つに記載のタイル取付金具と、少なくともタイル取付金具の連結部を固着する支承部を有し下地あるいは建物躯体に所定間隔毎に取り付けられる横胴縁とを備え、タイルの溝の任意の位置に収められた取付プレートをその上に被せたばねの塑性変形によってタイルに押しつけてタイルとタイル取付金具とが固定され、タイル取付金具の取付プレートを横胴縁の支承部に締結具で固着して吊り下げると共にタイルと横胴縁並びに下地あるいは建物駆体とは弾性接着剤により接着されて外壁面を構成するようにしている。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる乾式タイル施工法並びに乾式タイル壁面構造によれば、タイル取付金具を下地または下地材に少なくとも一端の連結部と締結具による固着でタイルを吊り下げるように保持しているので、接着剤による全面接着だけに頼る固定法のような経時劣化を引き起こすことがなく、タイルを長期的に安定して固定し、かつ改修時や解体時には容易にタイルを下地または下地材から取り外すことができる。
【0018】
しかも、タイル取付金具及びタイルへの取付方法によれば、タイルに対して簡単に取り付けでき、かつタイル取付金具を下地または下地材に少なくとも一端の連結部を接合させることでだけでタイルを固定できるので、タイル施工作業性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のタイル取付金具の2部材タイプの取付プレートの一実施形態を示す図で、(A)は取付プレートの正面図、(B)は側面図である。
【
図2】同タイル取付金具のばねの一実施形態を示す図で、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図3】ばねと取付プレートとの組み合わせ状態をタイルとの関係で説明する図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【
図4】タイルの上部と下部にタイル取付金具を装着した状態を説明する縦断面図である。
【
図5】タイルとタイル取付金具との組付け関係を
図4のV-V線に沿って示す横断面図である。
【
図6】タイルとタイル取付金具との組付け関係を
図4のVI-VI線に沿って示す示す横断面図である。
【
図9】本発明の乾式タイル工法の一実施形態を示す説明図である。
【
図10】乾式タイル壁の最上端のタイル取付構造の一実施形態を示す縦断面図である。
【
図11】乾式タイル壁の最下端のタイル取付構造の一実施形態を示す縦断面図である。
【
図12】乾式タイル壁の中程のタイル取付構造の一実施形態を示す縦断面図である。
【
図13】1部材タイプのタイル取付金具の一実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。尚、本明細書のタイル施工において、前後左右の方向は建物躯体のタイルを貼り付ける外壁面を中心に定められるものとし、「前」又は「前方」とは外壁面から離れる方向であり、「裏面」又は「後方」とは外壁面に近づく方向である。また、水平方向とは外壁面の左右方向であり、上下方向とは外壁面に沿った鉛直方向である。さらに、上段または下段とは、水平に配列された複数列のタイルのうち任意のタイルの列を中心に定められるものとし、上側のタイル列を上段と、下側のタイル列を下段と、その間の装入されるタイルを単にタイルと呼ぶ。
【0021】
図1に、本発明の乾式タイル工法に用いるタイル取付金具の実施の一形態を示す。この実施形態にかかるタイル取付金具2は、下地または下地材に少なくとも一端が締結具20によって固着される取付プレート3と、取付プレート3をタイル1の裏面(以下、タイル裏面22と呼ぶ)の溝21に収めて固定するばね15との2部材で構成されている。
【0022】
ここで、タイル裏面22の溝21は、タイル取付金具2が装着可能な形状をしていれば足り、少なくとも1本が存在していれば良い。この溝21は、例えば、入り口(タイル裏面22に開口する部分)の幅に対してタイル厚み方向において奥側の幅(タイル内部の溝の幅)が広がっている部分(あり溝部分)を有している横断面形状であることが好ましい。湿式製法のタイル1の溝21の場合、タイルの押し出し成形と同時に成形されるので、
図4などに示しているように、押し出し方向に貫通したものとなる。また、図示していないが、湿式製法によるタイルの溝の場合は、水分を含んだ粘土状の素地原料を、押し出し成形機で板状に押し出して、所定の寸法に切断してタイルを成形するため、局部的に形成される任意の断面形状とされる。しかも、オーバーハングを有する形状でも容易に成形できる。そこで、本実施形態では、例えば
図5,6に示すようなあり溝として成形されている。尚、タイル1の製法並びに形状は特定のものに限られるものではないし、図示のような短冊形のタイルに限られず、正方形のタイルなどにも適用できることは言うまでも無い。
【0023】
本実施形態のタイル取付金具2は、タイル裏面22の溝21に嵌合されるばね15と、下地または下地材(例えば横胴縁30)に固定される取付プレート3との2部材を組み合わせて成り、タイル1の溝21の任意の位置に取付プレート3を収めその上からばね15を溝21に嵌め込むことでばね15のばね弾性を利用して取付プレート3をタイル1に押さえ付けて固定するものである。
【0024】
取付プレート3は、下地または下地材に締結具20で固着される部位(以下、連結部5と呼ぶ)を少なくとも一端に有する。また、取付プレート3は、好ましくは他端に下地または下地材に引っ掛けられる部位(以下、引っ掛け部6と呼ぶ)を有する。本実施形態の場合には、
図1および
図3に示すように、取付プレート3は、一枚の帯板から、両端部を除く中央部分がタイル1の溝21の底に接する一方で、両端の連結部5および引っ掛け部6がタイル1の溝21の底から離れるように浮き上がった形状に曲げ加工によって一体的に成形され、中央部分をばね15でタイル1の溝21の底に押さえつけるようにしてタイル1に固定する一方、連結部5および引っ掛け部6を下地または下地材に固定あるいは引っかけ可能な構造とされている。この取り付けプレート3は、本実施形態の場合、例えば1mm程度の厚みのステンレス鋼例えばSUS304で形成されている。
【0025】
ここで、取付プレート3には、下地または下地材例えば横胴縁に固定あるいは引っ掛けられる連結部5および引っ掛け部6の部分については剛性を高める上で可能な限り幅広く形成したいという要望がある一方で、連結部5と引っ掛け部6との間の中程の領域のばね15が上から重なる部分では、ばね15が当該取付プレート3と干渉して浮き上がることにより溝21内に収まらない事態を回避することが望まれる。そこで、本実施形態の取付プレート3は、例えば、
図1に示すように、ばね15が配置される部位つまり中程に、両端部即ち連結部5および引っ掛け部6に比べて幅狭の括れ部4が形成されている。
【0026】
また、本実施形態の場合、
図1に示すように、取付プレート3の一端の連結部5には、締結具例えばリベット20(ブラインドリベット)やタッピングビス等を貫通させる孔、好ましくは長孔7が左右方向(幅方向)に横長に形成されている。また、反対側の端部の引っ掛け部6にも長孔8が穿孔されている。この場合、例えば、
図10に示すように、下段のタイル1の上側タイル取付金具2の取付プレート3の連結部5を横胴縁30の支承部32の前面に、上段のタイル1Uの下側タイル取付金具2の引っ掛け部6を背後に配置して、横胴縁30の支承部32を挟んでリベット20で共締めすることも可能である。つまり、引っ掛け部6の長孔8は引っ掛け部6を上述の連結部として兼用させる際に用いられるものであり、最上端のタイル1Uの固定を行うタイル下端側のタイル取付金具2の取付プレート3としても使用できる。勿論、
図11あるいは
図12に示すように、横胴縁30の支承部32あるいは横胴縁30’のU形の樋状の支承部32’の背後に取付プレート3の引っ掛け部6を回り込ませて引っ掛けるだけあるいは全くの無拘束としてしか使用されない場合には長孔8は必要とされない。
【0027】
また、反対側の端部の引っ掛け部6には、先端が反り返るように折り曲げられた導入部(横胴縁30の支承部32の背面側に回り込む際の案内となる)12が形成されていることが好ましい。
【0028】
ここで、一方の端部の連結部5は、例えば
図3に示すように、取付プレート3を溝21に収めた状態でほぼタイル裏面22と面一になる高さ(換言すれば、横胴縁30の支承部32の前面側に配置される高さ)L
1に設定され、他方の端部の引っ掛け部6は溝21ひいてはタイル裏面22から下地または下地材の側へ突出して例えば横胴縁30の支承部32の背後に回り込んで支承部32に引っ掛け可能とする高さL
2に設定されている。ここで、引っ掛け部6の高さL
2は単に支承部32に引っ掛けるだけでなく、タイル裏面22との間で支承部32を挟持するクリアランスに設定することも可能である。この場合でも、タイル1の上下並びに左右のずれを許容しながら前後方向への揺れを抑制することができることは言うまでもない。
【0029】
また、括れ部4と連結部5または引っ掛け部6との境界部分には、裏面側(つまりタイル1の溝21の底面側)に向けて突出するように屈曲して成る接底部10が形成され、該接底部10がタイル1の溝21の底面に当接することでそれらの間の括れ部4が溝底面から浮き上がった状態を確保されるように設けられている。この場合、ばね15によって取付プレート3を溝21の底面に押さえ付け易くすることができる。そして、この接底部10よりも外側の連結部5および引っ掛け部6の領域がタイル1から離れる方向に折り返されると共にさらにタイル裏面22と平行に折り曲げられている。これによって、取付プレート3の両端の連結部5および引っ掛け部6は、溝21の底面に対して所定の間隔を開けてほぼ平行となるように形成される。また、括れ部4には、一方の接底部10から他方の接底部10にかけて、長手方向中心部分で最も深くなる裏面側(つまりタイル1の溝21の底面側)に向けて膨出する縦長なくぼみ11がプレス曲げ加工によって形成されている。これによって、括れ部4から接底部10の谷部にかけての境界部分に円弧状の湾曲部13が形成され、括れ部4と接底部10の谷部との間にリブ効果を与え、連結部5または引っ掛け部6にかかる負荷がかかっても括れ部4と接底部10との境界部分での変形が抑制される構造とされている。
【0030】
尚、括れ部4は取付プレート3にとって好ましい存在ではあるが必須の存在ではなく、例えばばね15がタイル裏面22よりも外側に突出しないように収まるのであれば必要とされないし、ばね15の高さが低くできる場合にも不要となるかも知れない。本実施形態のタイル取付金具2は、タイル裏面22からの出っ張りを最小限にすることにより、タイル1と下地との隙間を狭くして(つまり、貼り代を最小限にして)、下地(ECPやRC壁、ボード下地など)や横胴縁に直接取り付け可能にしようとしている。例えば、タイル裏面22からのタイル取付金具2の出っ張りを、通常の乾式工法では最低でも5mm程度であるが、これよりも狭く、好ましくは最低限(例えば2mm程度)に抑えるようにしている。2mm程度の出っ張りに抑えれば、タイル裏面22と引っ掛け部6との間に横同縁30の支承部32を挟み込むことを可能とするし、下地(ECPやRC壁、ボード下地など)への直接取り付けが可能となる。しかも、タイル裏面22に塗布する弾性接着剤38の使用量が少なくても下地または下地材に直に弾性接着剤を届かせて、弾性接着剤38にて飛散防止とがた止めを兼用できる。また、弾性接着剤の使用量が少なくて済むだけでなく、櫛目による全面接着も可能となる上に、タイル裏面22の側の空隙がなくなるため衝撃に対して有利になるなどの格別なる効果を奏する上に、コストも下げることができて、安全性も高まる。勿論、タイル取付金具2の出っ張りは、上述の2mm程度に限られるものでは無く、5mmあるいはそれ以上例えば10mm程度まで出っ張ってもタイル支持という点において支障が生ずるものではない。
【0031】
ばね15は、例えばタイル裏面22の溝21に嵌合された際に溝21の壁面(つまり、内向きに傾斜する面)を内側から押し拡げるように当接する折り返し部17と、ハ形を成す脚部16と天面部18とを有する台形状の略ハット形を成していることが好ましい。この場合、溝21の長手方向に沿った折り曲げ線19を天面部18の中央に設定して天面部18を卓上簡易プレス器などでV曲げ加工することで、斜めの脚部16の先端側を溝21の側壁面に向けて拡げるように潰れて、取付プレート3の括れ部4の両側縁部9を脚部16で押さえつけることができる。ここで、プレスした際の左右の脚部16の外側への拡がりに偏りが生じないようにするため、予め中央部(頂部)に折り曲げ線19がけがきされていたり、線状に少しの凹みが入れられていることが好ましい。つまり、天面部18の中央をプレスして略M形に塑性変形させられることによって、両脚部16の先端の折り返し部17が溝21の壁面に偏り無く押しつけられてタイル1の溝21に強固に食い込み固定させることができる。同時に、天面部18のV曲げ加工で略M形に変形させられるばね15は、斜めの両脚部16が取付プレート3の括れ部4の両側縁部9を溝21の底に向けて押し付けるような付勢力を発生させる。この状態では、略M形のばね15は、取付プレート3を出入り方向(タイル裏面に垂直な方向)と上下方向(タイル裏面と平行な溝長手方向)との双方ともに拘束することとなる。依って、下地あるいは下地材に取付プレート3を取付けてタイル1を吊り下げた際に、タイル1に対してタイル取付金具2が鉛直方向へ相対的にずれてしまうこと、つまりタイル1がずり落ちることを防ぐことができる。同時に、面外方向(出入り方向)も風荷重などに対し、充分な強度を確保することができる。これら効果、即ち取付プレート3を固定するばね15のばね効果が充分であることは本発明者等の実験により確認された。
【0032】
また、左右両脚部16の先端には折り返し部17が例えば脚部16の先端縁を外向きに折り曲げることによって構成される。この折り返し部17の存在は溝21の底での脚部16の動き即ち拡がりや引っ掛かりを容易にする上で好ましいが、必ずしも設けなくとも係合可能である。ここで、ばね材としては、特定の材質に限定されるものではないが、例えばばね鋼としても広く使われているSUS304やその他のばね鋼鋼材(SUP材)、ZAM(溶融亜鉛・アルミニウム・マグネシウム合金メッキ鋼板/日鉄日新製鋼株式会社の登録商標)などの、ある程度のばね性を呈する高耐食性の鋼板の使用が好ましい。このばね材は、折り曲げ加工のし易さとタイル1を支持する強度及びばね性を呈する可撓性とを兼ね備える厚さ、例えば本実施形態のSUS304の場合には0.6mm程度とされている。
【0033】
ハット形のばね15のばね力は高さ(換言すれば両脚部の長さ)に左右されることからできるだけ高くすることが望まれる。他方、本実施形態では、タイル取付金具2は、タイル裏面22からの出っ張りを最小限にすることが望まれる。そこで、ばね15の高さは溝21の高さと同等もしくはプレス加工によるV曲げ加工した後の高さが溝21の高さを越えない高さとすることが好ましい。また、ばね15は、本実施形態の場合、溝21に対して上から即ちタイル裏面22に対して垂直な方向から溝内に挿入されるようにしているので、溝21のタイル裏面22での幅と同等もしくはわずかに傾けることで挿入可能な程度に幅広く形成されている。勿論、タイル1の端面から溝21の長手方向へ挿入する(換言すれば、タイル裏面22と平行に挿入する)ことも可能であるが、タイル1への取付プレート3並びにばね15の組み込み作業が面倒で煩わしく時間がかかる問題がある。このため、タイル裏面22の溝21への取付プレート3並びにばね15の組み込み作業は、装着作業性を考慮すると、溝21に対して上から即ちタイル裏面22に対して垂直な方向から挿入されるようにすることが好ましい。このことを両立させる上で、ハット形のばね15の高さを最大限とするには、ばね15と取付プレート3とが重なる部分の取付プレート3の幅を狭くする括れ部4を形成することが好ましい。
【0034】
このように役目の異なる2部品を組み合わせることでタイル取付金具2が構成される場合には、タイル1を吊り下げる構造物としての取付プレート3の強度と該取付プレート3をタイル1に固定するばね15のばね性との両立を実現してタイル1を下地または下地材に固定することができるので、大型タイルへの取り付けにも適用できる。例えば、本実施形態では、厚み25mm、幅42mm、長さ242~395mmの短冊形のタイルに、溝入り口幅18.5mm、溝底幅22.5mm、深さ5~6mm程度のあり溝を成形した例を挙げているが、これに特に限られず、200角や300角といったより大きなタイルにも適用できることは言うまでも無い。
【0035】
尚、本実施形態では総厚みの関係で5~6mm程度の浅い溝しか形成できない比較的小さなタイルを取り付ける場合を例に挙げているので、2部材でタイル取付金具を構成したが、これに特に限られるものではなく、場合によっては1部材のタイル取付金具として構成しても良いことは言うまでも無い。例えば、幅25mm以上、深さ15mm程度の大きく深い溝21となれば、ばね15を取付プレート10と同じ厚みにしてもばね効果が十分に得られるので、取付プレートとばねとが一体型の金物(1部材)としても良い。例えば、
図13に示すようなばね15’と取付プレート3’とが一体のタイル取付金具2’とすることもある。尚、図中の符号5’は一端部、6’は他端部、7’および8’は長孔、16’は脚部、17’は折り返し部、18’はばねと取り付けプレートの中央部分を兼ねる天面部である。天面部18’は、タイル1の溝21の適宜箇所にタイル取付金具2’を装入した後に、溝底に向けて卓上プレス器などで強く押し込んで左右の脚部16’を押し拡げてタイル1の溝21の側壁面に食い込ませるように塑性変形させられる。
【0036】
以上のように構成されたタイル取付金具2によれば、例えば、タイル裏面22の溝21の所定位置に取付プレート3を収め、さらにばね15を括れ部4の上に被せるように配置してから、ばね15の天面部18の中央に卓上簡易プレス器(図示省略)などでV曲げ加工を施してばね15を略M形に塑性変形させることによって、両脚部16の先端側を拡げて折り返し部17を溝21の壁面に強く押しつけることができる。同時にばね15の両脚部16は、取付プレート3の括れ部4の両側縁部9を上から押さえつける。この状態では、ばね15が取付プレート3を出入り方向(面外方向)にも、上下方向にも拘束することから、当然、風荷重などに対し、充分な強度を確保する。また、ばね15が括れ部4に嵌まり込み脚部16の斜面が側縁部9を押しつけることで取付プレート3の左右方向のがたつきが抑えられる。しかも、括れ部4にばね15が嵌められることで、括れ部4の両端の首部14がばね15の両脚部16に引っかかることで、取付プレート3とばね15との間の位置決めが安定的なものとなるばかりか、取付プレート3の上下方向への動きを拘束する働きを増強させることができる。依って、取付プレート3並びにばね15がタイル1に強固に固定される。
【0037】
また、本実施形態の場合、タイル裏面22からのタイル取付金具2の出っ張りを必要最小限にしてタイル1とPC版下地37との間の隙間を狭く設定できる(つまり、貼り代を最小限にできる)ので、飛散防止材としてタイル裏面22に塗布する弾性接着剤38が直にPC版下地37または横胴縁30に届かせることが可能となる。依って、弾性接着剤38にて飛散防止とがた止めを兼用でき、コストを下げることが可能になる。
【0038】
次に、本発明にかかるタイル取付金具2を用いたタイル施工法並びに壁面構造の一実施形態について説明する。この実施形態においては横胴縁を用いてタイルを取り付ける場合を一例として示す。
【0039】
まず、タイル1の裏面22の溝21にタイル取付金具2を適宜数取り付ける。例えば、短い長さのタイル1であれば、少なくとも1箇所に装着することでも足りるが、より好ましくはタイル1の上と下の両端付近にそれぞれ合計2箇所装着することである。本実施形態の場合には、例えば
図4や
図9に示すように、250mm程度の長さのタイル1の上と下の両端に2組のタイル取付金具2を装着している。尚、タイル取付金具2のタイル1への取り付けは、タイル1を施工現場に搬入する前、例えば工場出荷前に予め工場などで実施されることが組み付け精度を確保すると共に管理がし易く、施工作業の能率を上げる上で好ましい。
【0040】
ここで、タイル壁の最上端と最下端を除いた大部分のタイルでは、例えば
図4に示すように、上側のタイル取付金具2の連結部5がタイル上端から上へ突出するように取り付けられる一方、下側のタイル取付金具2の引っ掛け部6がタイル下端と揃う程度にそれぞれ位置決めされて取り付けられている。また、タイル壁の最下端のタイル1Dでは、例えば
図11に示すように、上側のタイル取付金具2の連結部5がタイル上端から突出するように取り付けられる一方、下側のタイル取付金具2の引っ掛け部6がタイル1の下端よりも上の方に引き込まれて配置されるようにそれぞれ取り付けられる。さらに、タイル壁の最上端のタイル1Uでは、例えば
図10に示すように、上側のタイル取付金具2がタイルに隠れるようにタイル上端よりも下に引き込まれた位置に取り付けられる一方、下側のタイル取付金具2の引っ掛け部6がタイル下端よりも下方に突出して横胴縁30の支承部32の背後に回り込むようにして下段のタイル1の上側のタイル取付金具2の連結部5との間で支承部32を挟みながらリベット20で共締め可能な位置に固定される。
【0041】
他方、PC版下地37に予め埋設されたプレキャストインサート35に横胴縁30,30’をボルト36にて取り付ける。この横胴縁30,30’は、不陸調整の上、固定するようにしている。
【0042】
ここで、最上端のタイル1Uと最下端のタイル1Dとを除いた大部分のタイル1が取り付けられる横胴縁30は、例えば
図7に示すように、タイル取付金具2が取り付けられる支承部(上縁)32を有し、下部の胴縁本体31の部分がPC版下地37に直接あるいは図示していない縦胴縁を介して固定されることが好ましい。支承部32は、本実施形態の場合、例えば、胴縁本体31に対して前側へ偏倚させられて、上方に向けて延びるように形成されている。この支承部32の前面にタイル取付金具2の連結部5が、支承部32の背面に引っ掛け部6が設置された状態で、タイル1は鉛直線(つまり下地と平行)に配置されるように設けられている。尚、支承部32には例えば50mmピッチで取付プレート3を止め付けるための締結具たるリベット20を通す孔33が設けられている(
図7,
図9参照)。また、胴縁本体31には、締結用ボルト36を通すための孔例えば長孔34が適宜間隔で設けられ、少なくとも2箇所のコンクリート用インサートナットの間に横胴縁30が渡されて固定されている。
【0043】
ちなみに、横胴縁30の支承部32は、例えば
図9に示すように、胴縁本体31と一体に端から端まで連続して形成されること、即ち横胴縁30の全幅に占位する通し材とされることが構造強度的には好ましいが、必ずしもこれに限られるものでは無く、タイル1を均等に支持できるのであれば分散配置されても良い。つまり、支承部32は、連続的であると断続的であるとを問わず、連続的な胴縁本体31に対して断続的例えば一定間隔でラック状に支承部32を設けるようにしても良いし、概ねタイル1が引っ掛けられる位置の付近にのみ部分的に設けるようにしても良い。
【0044】
また、最下端のタイル1Dの下側のタイル取付金具2並びに最上端のタイル1Uの上側のタイル取付金具2は、それぞれU形の横胴縁30’に引っ掛けられて支持される。勿論、引っ掛け部6のタイル裏面22からの突出量を少なめ設定してU形の横胴縁30’の縁32’をタイル裏面22との間で挟持されるようにしても良い。これらU形の横胴縁30’は取付プレート3の引っ掛け部6を引っ掛けるだけであり、リベット止めするための孔33を多数設ける必要がないため安価にできる。
【0045】
次いで、タイル1の横胴縁30への取り付けは次のようにして行われる。
【0046】
まず、最下端のタイル1Dの場合には、例えば
図11に示すように、タイル下側のタイルに隠れた位置の取付プレート3の引っ掛け部6が、下地37のプレキャストインサート35に固定された横胴縁30’のU形の樋状の支承部32’に差し込まれて受け支えられる。そして、タイル上側の取付プレート3の連結部5が上段の横胴縁30の支承部32’の前面に重ねられてからリベット止めされる。尚、図中の符号39はシーラーである。
【0047】
次に、途中のタイル1については、
図12に示すように、タイル下側のタイル取付金具2の引っ掛け部6を横胴縁30の支承部32の背後に差し込むように引っ掛ける一方、タイル上側のタイル取付金具2の連結部5を上段の横胴縁30の支承部32の前面側に重ね合わせてからリベット20で連結する。このとき、取付プレート3の連結部5と横胴縁30の支承部32には、リベット20を貫通させる長孔7および孔33が設けられているので、これら長孔7と孔33とが重なるところにリベット20を通して止め付ける。これにて、タイル1の上端側がリベット止めで横胴縁30に連結される一方、下端側が引っ掛け部6によって横胴縁30に係止される。
【0048】
さらに、最上端のタイル1Uについては、例えば
図10に示すように、タイル上側のタイル取付金具2の引っ掛け部6がタイル1に隠れた位置で建物駆体側のプレキャストインサート35に固定された横胴縁30’のU形の樋状の支承部32’に差し込まれて引っ掛けられる。そして、タイル下側の取付プレート3の引っ掛け部6を、下段の横胴縁30の支承部32の背面側に引っ掛けてから、支承部32にリベット止めされている。本実施形態の取付プレート3は、引っ掛け部6にも長孔8を備えているので、下段の横胴縁30の支承部32の背面側に引っ掛けてから、支承部32に対してリベット止めされる。例えば、下段のタイル1の上側タイル取付金具2の取付プレート3の連結部5を横胴縁30の支承部32の前面に、上段のタイル1Uの下側タイル取付金具2の引っ掛け部6を支承部32の背後に配置して、横胴縁30の支承部32を挟んでリベット20で共締めすることができる。これによって、最上端のタイルの固定が行われる。
【0049】
ここで、タイル裏面22には、タイル取り付けに際し、万一タイルが割れた際の飛散防止材としての弾性接着剤38を塗布しておくことが望ましい。弾性接着剤38は、タイル裏面22に塗布されることによってタイル1に割れや欠けなどが生じた際に飛散するのを防ぐためのものであるが、タイル裏面22からのタイル取付金具2の出っ張りを必要最小限(換言すれば貼り代を最小限)に抑えることで下地あるいは横胴縁30にまで達したときにはタイル1のがたつきをも防ぐことができる。即ち、タイル1のがたつきが防がれると共に、タイル面に外力が作用しても動き難く、タイル取付金具2との接触による騒音や雑音を発生しない壁面を得ることができる。弾性接着剤38にて飛散防止とがた止めとを兼用できれば、コストを下げることが可能になる。
【0050】
本実施形態のタイル取付金具2はタイル裏面22からの出っ張りを引っ掛け部6が横胴縁30の支承部32に引っ掛かることを可能とする程度(即ち、支承部32の厚みと引っ掛け部6の厚みとを合算した値に僅かの余裕を持たせた程度)の最小限の値例えば2mm程度にできることから、下地に直接タイルを取付けることも、胴縁を使用する場合でも懐を薄くして貼り代を最小限にすることも可能であり、それ故にタイル裏面に塗布する弾性接着剤によって飛散防止とガタ止めを兼用できることから、コストを下げることが可能になる。
【0051】
斯くして構成されるタイル壁面におけるタイル1は、タイル取付金具2の取付プレート3の連結部5が横胴縁30の支承部32にリベット止めされることで、吊り下げられる。同時に、タイル下側の取付プレート3の引っ掛け部6と下段の横胴縁30の支承部32との引っ掛かりによってずれを許容するように弾力的に固定されて、前後方向への揺れが抑制される。依って、タイル1は出入り方向(面外方向)にも、上下方向にも拘束されて、風荷重などに対し充分な強度を確保して固定される。
【0052】
また、タイル1の下側は引っ掛けで保持され拘束部位がないので、タイル1やタイル取付金具2に温度変化に伴う伸縮が生じても、タイル1には何ら外力が及ぶことはない。したがって、地震等で建物躯体に振動や変形(歪み)が起きたとしても、横胴縁30とタイル取付金具2との間で変位等が吸収されるため、タイル1に外力が作用し難い。さらに、本実施形態のタイル取付金具2を用いたタイル壁面構造の場合、タイル裏面22からのタイル取付金具2の出っ張り量が数mm程度に小さく収められることにより、タイル裏面22に弾性接着剤38が塗布される場合には、タイル裏面22に塗布した弾性接着剤38が下地または下地材(本実施形態の場合は横胴縁30)に直に届くので、タイル1のがたつきが抑えられて、タイル1と横胴縁30との間の擦れによる騒音や雑音を発生させることがない。しかも、弾性接着剤38は、タイル1のがた止めと飛散防止を兼用できることから、コストを下げることが可能となる。
【0053】
さらに、横胴縁などの下地材にタイル1を取り付けるだけでなく、下地そのものに直接タイル1を取付けることも可能である。例えば、ECPやRC壁には直接ビス止めすることが可能である。また、ボード類の場合にはボード下地の胴縁まで貫通させてビスを利かせることが好ましい。また、タイル1の取り付けに関しては、タイル1の上側のタイル取付金具2の取付プレート3だけリベット止めあるいはビス止めする一方、タイルの下側の取付プレート3を横胴縁30の支承部32に引っ掛けることにより、タイル1を吊った状態にする工法は作業の簡略化、工期短縮などの観点から好ましいが、タイルの上下ともビス止めすることも可能である。これは、胴縁を流してから取り付ける場合、即ち横胴縁にタイルを取り付ける場合も同様である。
【0054】
一般的には1枚のタイルに対し、上下2点づつの合計4か所で取り付けるのが通常であるが、タイルが小さい場合には例えば
図9に示すように上下1点づつで取り付けるようにしても良い。この場合、例えば
図12に示すように、タイル下側の引っ掛け部6を下段の横胴縁30の支承部32の裏側(背後)に引っ掛ける一方、タイル上側の連結部5を該当横胴縁30の支承部32の前側に配置してからリベットなどの締結具で固着することが好ましい。
【0055】
さらに、タイル1の上下の取付プレート3ともリベット止めあるいはビス止めで完全固定とすることも可能である。例えば、下側の取付プレート3は上側の取付プレート3とは逆向きに溝21に挿入するように配置してばね15で固定することで、タイル1の上端及び下端からそれぞれタイル裏面22と面一に連結部5を突出させ、下地または下地材にリベットあるいはビス止めすることで完全固定できる。ただし、4点止め、2点止めのいずれの場合でも、施工性及びコストを考慮すれば、例えば
図9や
図12に示すように、タイル1の下側には引っ掛け部6を装備して下地材例えば横胴縁に引っ掛ける工法を標準とすることが好ましい。
【0056】
尚、上下リベット止めあるいはビス止めにて完全固定した場合は、弾性接着剤38はがた止めとしては必要としなくなるが、飛散防止材としては依然として必要である。さらに、上下完全固定した場合は、地震時などの層間変位に追従できる機構が必要になるが、本実施形態のタイル取付金物2は、リベット20を通す孔を横方向(水平方向)に長い長孔7とすることにより、追従可能としている。
【0057】
また、タイル1とタイル1との間の目地に相当する部分には、本実施形態の場合、空隙が設定される。このため、タイル1とタイル1との衝突を回避して、壁面全体の変形による過大な負荷の発生を抑えることができる。また、横胴縁30に対するタイル1の取付は上からでも下からでもあるいは左右方向でも任意の方向に取り付け得る。そこで、例えば、
図9のタイル外壁構造の場合、タイル1の取り付けは、横に並べながら下から上へと組み込まれる。このタイル装着作業は極めて簡易且つ迅速に実施できる。
【0058】
また、タイル取付金具2で横胴縁30に固定する工法であるので、接着剤の劣化によって脱落が起こる問題もないし、内部の点検をする際には弾性接着剤38並びにリベット20を剥離させるだけなので、住宅寿命の長期化に容易に対応できる。尚、タイル1が破損したり、タイル1を取り外して内部の点検を行う必要があるときなどには、例えば、リベット頭部(固定部)を錐揉みすると、リベットが綺麗に破壊されて容易に外れる。横胴縁30には予めリベットを通す孔33が明けられているので、その孔径と同じ径の錐を使用することで、孔33も大きくならずに再度、同じ位置にリベット20でのタイル取付が可能となる。また、締結具としてはリベット20に限られるものではなく、リベット以外の締結具例えばタッピングビス等を用いて固定することも可能である。
【0059】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態はPC版下地37に直に固定された横胴縁30にタイル取付金具2を取り付けるようにした例を上げて主に説明したが、これに特に限られず、図示していない縦胴縁に直にあるいは縦胴縁を介してPC版下地37に取り付けられた横胴縁30にタイル取付金具2を取り付けるようにしても良いし、また、場合によっては、PC版下地37に直に取り付けるようにしても良い。
【0060】
また、上述の実施形態では、ばね15を装着するタイル裏面22の溝21は、あり溝形状としているが、これに特に限られず、入り口に対して奥側の幅が広がっている溝であればタイル取付金具2のより安全な取り付けが可能である。例えば、図示していないが、奥側は広く、手前側は狭い段付きの溝(つまり、T字形の溝)であっても良い。この場合にも、湿式タイル製法であれば、押し出し成形機で容易に成形することができる。寧ろ、折り返し部17を有する場合には、折り返し部17が嵌合する位置が安定するので、タイル1に対するタイル取付金具2の装着位置が安定する。さらに、奥側のタイル取付金具2の折り返し部17を挿入する凹部・空間の壁面が斜面に形成されていれば、さらに折り返し部17の位置が安定することとなる。また、図示していないが、場合によっては溝の両側の壁面が湾曲したドーム形の溝であっても良い。
【0061】
さらに、上述の実施形態の取付プレート3は、連結部5と引っ掛け部6との双方を備える構造としているが、これに特に限られるものではなく、上専用取付プレート(つまり、連結部5のみを有し引っ掛け部6を備えない取付プレート)と下専用取付プレート(つまり、引っ掛け部6のみを有し連結部5を備えない取付プレート)とを別々に準備して用いるようにしても良い。
【0062】
また、ばね15は、取付プレート3と組み合わせた状態で何らかの塑性変形が与えられることにより、脚部16の先端側が横に拡がりながら潰れて、脚部16を取付プレート3の両側縁部を押さえつけながら先端をタイル1の溝21に強固に食い込ませて固定させることができるものであれば特定の形状即ち脚部16と天面部18とを有する図示の略ハット形に限定されるものではない。本実施形態では総厚みの関係で5~6mm程度の浅い溝しか形成できない比較的小さなタイルを取り付ける場合を例に挙げているので、プレスストロークが小さくなって脚部の拡がり寸法も小さくなってしまうことから、頂部が平坦な略ハット形として中央部だけを線状にプレスするようにしているが、例えば半円筒形でも良い。この場合、プレスした際の左右の脚部の外側への拡がりに偏りが生じないようにするため、中央部(頂部)に線状に少しの凹みが予め入れられていることが好ましい。これにより、プレス位置が一定にできるので、左右にバランス良く潰れながら両脚部が偏り無く拡がるようにできる。
【0063】
また、タイル1は、上述した実施形態において図示するような縦掛け(引っかける方向が縦)のみならず、図示していない横掛けとすることもできる。例えば、取付プレート3の一端あるいは両端の形状を溝21の長手方向と直交する幅方向に突出したL形に形成して、横胴縁に引っ掛けてからリベット止めするような構造にすれば、容易に横掛けもできる。
【符号の説明】
【0064】
1 タイル
2 タイル取付金具
3 取付プレート
4 括れ部
5 連結部
6 引っ掛け部
7 長孔
8 長孔
9 括れ部の側縁部
10 接底部
11 くぼみ
12 折り返し部
13 湾曲部
14 首部
15 ばね
16 脚部
17 折り返し部
18 天面部
19 折り曲げ線
20 締結具(リベット)
21 溝
22 タイル裏面
30 横胴縁
31 胴縁本体
32 支承部
38 弾性接着剤