(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】肉厚測定システム、肉厚測定方法、肉厚測定プログラム及び肉厚測定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/06 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
G01B7/06 M
(21)【出願番号】P 2020108090
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良宜
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-020320(JP,A)
【文献】特開2017-151872(JP,A)
【文献】特開2009-257933(JP,A)
【文献】特表2016-508222(JP,A)
【文献】特開2011-117890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01N 27/72-27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス
渦電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定システムであって、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後、前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出部と、
検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理部と、
を備え、
前記フィルタ処理部は、前記検出信号の検出開始から終了までの検出期間を、1区間を所定期間とする複数の区間に分け、区間ごとに、該検出信号のフーリエ級数に基づいて算出した前記ノイズの周波数成分を該検出信号から除去する、
肉厚測定システム。
【請求項2】
前記所定期間は、誘導起電力の継続時間の位置が前記区間の端部に位置しない期間である請求項1に記載の肉厚測定システム。
【請求項3】
前記誘導起電力検出部は、前記パルス
渦電流プローブに設けられ、
前記フィルタ処理部は、前記パルス
渦電流プローブと通信可能な第一装置に設けられている請求項1又は請求項2に記載の肉厚測定システム。
【請求項4】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス
渦電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定方法であって、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後、前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出工程と、
検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理工程と、
を含み、
前記フィルタ処理工程では、前記検出信号の検出開始から終了までの検出期間を、1区間を所定期間とする複数の区間に分け、区間ごとに、該検出信号のフーリエ級数に基づいて算出した前記ノイズの周波数成分を該検出信号から除去する、
肉厚測定方法。
【請求項5】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス
渦電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出するコンピュータに、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後、前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出機能と、
検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理機能と、
を実現させ、
前記フィルタ処理機能では、前記検出信号の検出開始から終了までの検出期間を、1区間を所定期間とする複数の区間に分け、区間ごとに、該検出信号のフーリエ級数に基づいて算出した前記ノイズの周波数成分を該検出信号から除去する、
肉厚測定プログラム。
【請求項6】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス
渦電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定装置であって、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後、前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出部と、
検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理部と、
を備え、
前記フィルタ処理部は、前記検出信号の検出開始から終了までの検出期間を、1区間を所定期間とする複数の区間に分け、区間ごとに、該検出信号のフーリエ級数に基づいて算出した前記ノイズの周波数成分を該検出信号から除去する、
肉厚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス渦電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
配管等の金属物品の被測定物の傷の有無や肉厚等を検査する方法として、渦電流を使用したパルス渦流探傷法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このパルス渦流探傷法を適用したパルス渦流探傷装置では、被測定物に渦電流(誘導電流)を発生させる。この渦電流によって、プローブ(受信コイル)に誘導起電力が発生する。そして、受信コイルに生じた誘導起電力(検出信号)を検出する。この検出信号に基づいて、傷の有無や肉厚の測定等が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のよう検出信号には、ノイズが混入する場合がある。例えば、モーター機器(ファン、ドリル等)のノイズが電源を介して混入する。検出信号にノイズが混入すると肉厚の測定等の算出処理の精度が低下する。そのため、検出信号の全体にノイズフィルタをかけることも想定されるが、この場合はノイズ除去後の信号が変形してしまう虞があった。これは、検出信号の測定期間(検出期間)が数百ミリ秒~1秒程度と長いため、検出信号に含まれるノイズ成分の周波数や位相が一定ではないからである。信号が変形した場合、渦電流の継続時間τを正確に特定することができず、肉厚等を正確に算出することができない場合がある。
【0005】
この発明は、誘導起電力の検出信号に含まれる周波数成分を持ったノイズを除去し、肉厚の測定等の算出処理の精度を向上させる肉厚測定システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面によって提供される肉厚測定システムは、送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する。また、肉厚測定システムは、誘導起電力検出部及びフィルタ処理部を備える。誘導起電力検出部は、送信コイルへのパルス電流の出力停止後、受信コイルに生じた誘導起電力を検出する。フィルタ処理部は、検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去する。また、フィルタ処理部は、検出信号の検出開始から終了までの検出期間を、1区間を所定期間とする複数の区間に分け、区間ごとに、検出信号のフーリエ級数に基づいて算出したノイズの周波数成分を該検出信号から除去する。
【0007】
上記所定期間は、誘導起電力の継続時間の位置が区間の端部に位置しない期間であってもよい。
【0008】
上記誘導起電力検出部は、パルス渦電流プローブに設けられ、上記フィルタ処理部は、パルス渦電流プローブと通信可能な第一装置に設けられていてもよい。
【0009】
本発明の第2の側面によって提供される肉厚測定方法は、送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する方法であって、送信コイルへのパルス電流の出力停止後、受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出工程と、検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理工程と、を含む。また、フィルタ処理工程では、検出信号の検出開始から終了までの検出期間を、1区間を所定期間とする複数の区間に分け、区間ごとに、検出信号のフーリエ級数に基づいて算出したノイズの周波数成分を検出信号から除去する。
【0010】
本発明の第3の側面によって提供される肉厚測定プログラムは、送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出するコンピュータに、送信コイルへのパルス電流の出力停止後、受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出機能と、検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理機能と、を実現させる。また、フィルタ処理機能では、検出信号の検出開始から終了までの検出期間を、1区間を所定期間とする複数の区間に分け、区間ごとに、検出信号のフーリエ級数に基づいて算出したノイズの周波数成分を該検出信号から除去する。
【0011】
本発明の第4の側面によって提供される肉厚測定装置は、送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する。また、肉厚測定装置は、誘導起電力検出部及びフィルタ処理部を備える。誘導起電力検出部は、送信コイルへのパルス電流の出力停止後、受信コイルに生じた誘導起電力を検出する。フィルタ処理部は、検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去する。また、フィルタ処理部は、検出信号の検出開始から終了までの検出期間を、1区間を所定期間とする複数の区間に分け、区間ごとに、検出信号のフーリエ級数に基づいて算出したノイズの周波数成分を該検出信号から除去する。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、検出信号の検出期間を複数の区間に分け、ノイズを除去するフィルタ処理を区間ごとに行っているので、フィルタ処理による検出信号の変形が低減され、肉厚の測定等の算出処理の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの概要を示す斜視図である。
【
図2】この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの構成図である。
【
図3】誘導起電力(検出信号)の時間的変化を示す図である。
【
図4】ノイズ除去後の誘導起電力(検出信号)の時間的変化を示す図である。
【
図5】ノイズ除去後の誘導起電力(検出信号)の時間的変化の比較例を示す図である。
【
図7】フィルタ処理部のフィルタ処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照してこの発明の実施形態に係る肉厚測定システム(肉厚測定方法、肉厚測定プログラム、肉厚測定装置)について説明する。なお、この発明の構成は、実施形態に限定されるものではない。また、以下で説明するフローを構成する各種処理の順序は、処理内容に矛盾等が生じない範囲で順不同である。
【0015】
図1は、この発明の実施形態に係る肉厚測定システム1の概要を示す図である。
図2は、この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの構成図である。本実施形態の肉厚測定システム(測定システム)1は、化学プラント等に設置された配管(被測定物)Pの肉厚を測定する。測定システム1は、複数のパルス
渦電流プローブ2、ハブ端末3(第一装置の例)及びサーバ装置4等を備える。
【0016】
複数のパルス渦電流プローブ2は、配管Pに設定されたそれぞれ異なる被測定箇所(配管Pの外周面)に当接するように設置されている。複数のパルス渦電流プローブ2とハブ端末3とは有線接続されており、接続線Lを介して電力供給及び情報通信が行われる。ハブ端末3とサーバ装置4とは、互いに無線通信可能に構成されている。
【0017】
パルス
渦電流プローブ2は、
図2に示すように、送信コイル21、受信コイル22及びマイクロコントローラ23等を有する。マイクロコントローラ23の給電制御部231は、ハブ端末3の測定制御部311からの制御信号に従って、送信コイル21にパルス電流を流すように制御する。具体的には、給電制御部231は、一定期間だけパルス電流を流すように制御する。送信コイル21へのパルス電流が遮断されると、急激な磁界変化によって、パルス
渦電流プローブ2が当接する被測定箇所に誘導電流(
渦電流)が発生する。
【0018】
受信コイル22は、被測定箇所で発生した誘導電流による磁界によって、誘導起電力を発生させる。誘導起電力検出部232は、パルス電流の出力停止後、受信コイル22に生じた誘導起電力を電圧信号(検出信号)として検出する。誘導起電力検出部232は、受信コイル22による電圧信号の検出を所定期間継続し、記憶部(不図示)に記憶させる。検出される誘導起電力の検出信号の例を
図3に示す。
図3は、誘導起電力(検出信号)であるV(t)の時間的変化を示す図である。
【0019】
なお、パルス渦電流プローブ2の各個体は、識別情報Idにより識別される。識別情報Idは、例えば、ハブ端末3から近い順に01、02、03、…としてディップスイッチを用いて設定可能である。また、各パルス渦電流プローブ2の識別情報Idは、被測定箇所を特定する識別情報でもある。以下の説明では、識別情報Idにより特定されるパルス渦電流プローブ2が設置された被測定箇所を、単に識別情報Idにより特定される被測定箇所という場合がある。
【0020】
なお、以下の説明では、給電制御部231が送信コイル21にパルス電流を流すように制御し、誘導起電力検出部232が受信コイル22に生じた誘導起電力を検出する一連の動作を、「測定を実行する」という場合がある。
【0021】
次に、ハブ端末3について説明する。ハブ端末3は、ハブ側演算装置31及びハブ側通信部32等を有する。ハブ側演算装置31は、測定制御部311、フィルタ処理部312及び減衰解析部313を含む。ハブ側演算装置31は、例えばマイクロコントローラとして実装される。ハブ端末3は、電源(不図示)から電力供給を受けて動作するとともに、各パルス渦電流プローブ2に電力を供給する。
【0022】
測定制御部311は、複数のパルス渦電流プローブ2のうち、いずれのパルス渦電流プローブ2を用いた肉厚測定を実行するかを制御する。具体的には、測定制御部311は、一つのパルス渦電流プローブ2を選択し、選択されたパルス渦電流プローブ2にパルス渦電流が流れるように指示する制御信号を発信する。制御信号には、選択されたパルス渦電流プローブ2を識別する識別情報Idが含まれる。選択されたパルス渦電流プローブ2のマイクロコントローラ23は、識別情報Idに基づいて当該制御信号が自身宛であることを認識し、送信コイル21にパルス電流を流す制御を実行する。
【0023】
測定制御部311は、サーバ装置4の測定回数分配部412により算出された測定実行回数に基づいて、パルス渦電流プローブ2を制御する。測定制御部311は、各パルス渦電流プローブ2に分配された測定実行回数が充足されるように、複数のパルス渦電流プローブ2の送信コイル21に順次パルス電流が流れるようにパルス渦電流プローブ2を制御する。
【0024】
フィルタ処理部312は、検出された誘導起電力(検出信号)を誘導起電力検出部232から取得し、検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理を実行する。詳細は後述する。減衰解析部312は、ノイズ除去後の検出信号の継続時間τを算出する。
図6は、ノイズ除去後の誘導起電力の減衰曲線を示す図である。
図6に示すように、誘導起電力は、t
-n(tは時間)に比例する曲線部分(急激な減衰を示す曲線部分)S2と、t
-nから外れる曲線部分(緩やかな減少を示す曲線部分)S1とに区分される。減衰解析部312は、減衰曲線の形状を解析して曲線部分S1と曲線部分S2との境界の時刻を特定し、これに基づいて継続時間τを決定する。
【0025】
ハブ側通信部32は、サーバ装置4のサーバ側通信部43と無線通信可能に構成される。ハブ側通信部32は、減衰解析部312が算出した継続時間τに、測定制御部311が選択したパルス渦電流プローブ2を特定する識別情報Id及び測定日時(肉厚の算出に用いられた継続時間τを測定した日時。)を付して、サーバ装置4に送出する。また、測定回数分配部412が決定した各パルス渦電流プローブ2の測定実行回数を表す測定回数テーブルを受信する。
【0026】
次に、サーバ装置4について説明する。サーバ装置4は、サーバ側演算装置41、記憶部42及びサーバ側通信部43等を有する。サーバ側演算装置41は、肉厚演算部411及び測定回数分配部412を含む演算装置である。サーバ側演算装置41は、例えばCPUとして実装される。
【0027】
記憶部42には、肉厚演算部411により算出された肉厚及び継続時間τが、被測定箇所(パルス渦電流プローブ2)を特定する識別情報Id及び測定日時に関連付けられて記憶されている。また、記憶部42には、それぞれの被測定箇所について当初肉厚及び下限肉厚が記憶されている。当初肉厚は、配管Pが設置された当初の被測定箇所の肉厚である。下限肉厚は、使用不可となる下限の肉厚である。
【0028】
サーバ側通信部43は、ハブ端末3のハブ側通信部32と無線通信可能に構成にされる。サーバ側通信部43は、測定回数テーブルをハブ端末3に送出する。また、ハブ端末3から継続時間τを受け取る。
【0029】
肉厚演算部411は、ハブ端末3から送出された継続時間τに基づいて、識別情報Idにより特定される被測定箇所の肉厚を算出する。具体的には、継続時間τと肉厚とがおおむね比例関係にあることに基づいて肉厚を算出する。算出された肉厚は、識別情報Id及び測定日時と関連付けられて記憶部42に記憶される。また、肉厚演算部411は、コロージョンレート及び減肉厚率等をも算出し、記憶部42に記憶させる。測定回数分配部412は、コロージョンレート及び減肉厚率に基づいて、複数のパルス渦電流プローブ2のそれぞれについて、肉厚測定を実行する回数を決定する。
【0030】
次に、ハブ端末3のフィルタ処理部312におけるノイズ除去について詳述する。フィルタ処理部312は、上述したように、検出された誘導起電力(検出信号)を誘導起電力検出部232から取得し、検出信号に含まれるノイズを除去する。フィルタ処理部232は、検出信号の検出開始から終了までの検出期間(測定期間)を、1区間をフィルタ期間t
p(所定期間)とする複数の区間に分ける。例えば、
図3に示すように、検出期間(t
1~t
5)をフィルタ期間t
pを1区間とする複数の区間に分ける。そして、区間ごとに、検出信号からノイズ除去を行う。具体的には、ノイズ処理部312は、1の区間において、その区間内の検出信号のフーリエ級数に基づいてノイズの周波数成分を算出し、その区間内の検出信号からノイズの周波数成分を除去する。
【0031】
なお、検出期間は、
図3に示すように、送信コイル21へのパルス電流の出力停止後、検出信号の検出が開始されて検出が終了するまでの期間(t
1~t
5)である(t
1<t
5)。
【0032】
1区間であるフィルタ期間としては、例えば、検出期間(測定期間)の1/3、1/4又は1/5の期間(時間)が設定される。フィルタ期間は、予めハブ端末3の記憶部に記憶されているパラメータデータである。検出期間は被測定物の肉厚等によっておおよそ特定可能であるので、特定された検出期間に基づいてフィルタ期間を設定すればよい。
【0033】
図7は、フィルタ処理のフローを示す図である。以下、
図3も参照しつつ、フィルタ処理について説明する。
図3は、検出期間が1000(ms)である。フィルタ処理部312は、1の区間{(t
5-Rt
p)~(t
5-(R-1)t
p)}(Rは整数)でのV(t)のフーリエ級数(フーリエ係数)を求める(ステップS10)。たとえばフィルタ期間t
pが検出期間の1/4である場合、Rの初期値は4であり、最初に区間{t
1~t
2}のV(t)のフーリエ級数が求められる。例えば、
図3では、フィルタ期間t
p=250(ms)であり、区間D1が区間{t
1~t
2}である。すなわち、t
1からt
5に向かう区間D1,D2,D3,D4の順に、区間ごとにノイズ除去が行われる。区間D1{t
1~t
2}のV(t)のフーリエ級数(フーリエ係数)を下記の式で求める。
【0034】
【0035】
【0036】
なお、Nは、区間内の測定(検出)点の数である。fは、ノイズの周波数成分である。Nとfの各値は、パラメータとして与えられる。これらのパラメータは、被測定物の肉厚等によって設定すればよい。また、フーリエ級数の対象期間を「t2-100msからt2」としているのは、計算時間を短縮することに加えて、継続時間τの近傍の値を含まないようにするためでもある。このパラメータ「100ms」についても、被測定物の肉厚等によって適宜設定すればよい。
【0037】
次に、フィルタ処理部312は、ステップS10の処理と同じ区間において、最大となるfを算出する(ステップS20)。具体的には、ステップS10の処理で算出したap(f)、bp(f)を用いた下記の式(3)から最大となるfを算出する。例えば、区間D1においては、式(1),(2)で表されるap(f)、bp(f)を用いた式(3)から最大となるfを算出する。
【0038】
【0039】
次に、フィルタ処理部312は、ステップS10の処理と同じ区間(フィルタ期間tp)内で、fの周期の整数倍の期間(tq)でフーリエ級数(フーリエ係数)を算出する(ステップS30)。例えば、上記の区間D1では、式(4),(5)のように表される。
【0040】
【0041】
【0042】
次に、フィルタ処理部312は、ステップS20の処理におけるA(f)が、所定の閾値以下になったか否かを判断する(ステップS40)。すなわち、A(f)が、所定の閾値以下となった場合、ノイズが存在していない状態又は全てのノイズが除去された状態であると判断される。所定の閾値は、例えば、ノイズが除去されたと想定される値を設定しておけばよい。A(f)が所定の閾値以下ではない場合(ステップS40:NO)、フィルタ処理部312は、ステップS10の処理と同じ区間(フィルタ期間tp)で、V(t)からfの周波数成分を差し引く(ステップS50)。上記の区間D1では、式(6)のように表される。
【0043】
【0044】
その後、フィルタ処理部312は、ステップS10の処理に戻って、Vf(t)に対して、上述したように、フーリエ級数(フーリエ係数)を算出する。すなわち、A(f)が、所定の閾値以下になるまでステップS10~S50の処理を繰り返してVf(t)に含まれるノイズを繰り返し除去する。検出信号に含まれるノイズは1つではない場合もあるからである。
【0045】
一方、A(f)が所定の閾値以下になった場合(ステップS40:YES)、フィルタ処理部312は、現在の区間のノイズ除去が終了したと判断し、現在の区間が最終区間であるか否かを判断する(ステップS60)。フィルタ処理部312は、R=1であるか否かを判断すればよい。最終区間ではない場合(ステップS60:NO)、フィルタ処理部312は、次にノイズ除去するべき区間を設定する(ステップS70)。
【0046】
具体的には、フィルタ処理部312は、R=R-1として、次にノイズ除去するべき区間を設定する。例えば、現在の区間D1(R=4)のノイズ除去が終了した場合、R=3となって区間D2がノイズ除去の対象となる。その後、フィルタ処理部312は、ステップS10の処理に戻って、次にノイズ除去するべき区間D2に対して上述した処理を行う。
【0047】
また、ステップS60の処理において、現在の区間が最終区間であると判断した場合(ステップS60:YES)、フィルタ処理部312は、全ての区間でノイズが除去されたV(f)をフィルタ処理後の検出信号とする。そして、このノイズ除去後のV(f)を用いて、減衰解析部313が継続時間τを算出する。
【0048】
上記のフィルタ処理によって、例えば、
図3に示すノイズを含む検出信号が、
図4(A)、
図4(B)、
図4(C)、
図4(D)の順にノイズが除去されていく。
図4(A)は、区間D1のノイズ除去が完了した状態を示す。
図4(B)は、区間D2までのノイズ除去が完了した状態を示す。
図4(C)は、区間D3までのノイズ除去が完了した状態を示す。
図4(D)は、全区間のノイズ除去が完了した状態を示す。また、
図4(D)の検出信号が、曲線フィッテング等により、
図6に示すような減衰曲線のグラフとして表される。なお、
図3に示すノイズを含む検出信号に対して、本実施形態の区間ごとではなく、検出期間の全体に対してフーリエ級数を用いてノイズ除去した場合は
図5に示す比較例のようになり、検出信号が変形してしまう。
【0049】
以上のように、誘導起電力の検出信号の検出期間を複数の区間に分け、ノイズを除去するフィルタ処理を区間ごとに行っているので、フィルタ処理による検出信号の変形を抑制できる。これにより、肉厚の測定等の算出処理の精度を向上させることができる。
【0050】
上述の実施形態では、1区間であるフィルタ期間(所定期間)として、検出期間(測定期間)の1/3、1/4又は1/5の期間(時間)が設定される例を説明した。この場合、継続時間τの位置が各区間の端部(境界)に位置しないように、フィルタ期間を設定してもよい。区間の端部は、フィルタ処理の切り替わりの境界であり、区間の端部よりも区間の内部の方がフィルタ処理の精度が高いためである。したがって、継続時間τの位置が各区間の端部(境界)に位置しないようにフィルタ期間を設定することで、継続時間τの算出処理の精度を向上させることができる。
【0051】
なお、検出期間における継続時間τのおおよその位置は、被測定箇所の肉厚に応じて特定可能である。したがって、被測定箇所の検出期間(測定期間)及び被測定箇所の継続時間τに基づいて、継続時間τが区間の内部に含まれるようにフィルタ期間を予め設定しておけばよい。例えば、
図3で例示した検出信号では、継続時間τはおよそ50ms程度である。したがって、フィルタ期間を200ms~300msとしておけば、区間の内部に継続時間τが含まれる。
【0052】
上述の実施形態の肉厚測定システムは、複数のパルス渦電流プローブ、ハブ端末及びサーバ装置4等を備える構成を説明したが、特にこれに限定されるものではない。肉厚測定システムにおける給電制御部、誘導起電力検出部及び測定制御部等の各部を設ける機器の振り分けは任意である。例えば、給電制御部、誘導起電力検出部及び測定制御部をハブ端末(第一装置)に設け、フィルタ処理部、減衰解析部、肉厚演算部及び測定回数分配部をサーバ装置に設けてもよい。また、給電制御部、誘導起電力検出部、測定制御部、フィルタ処理部、減衰解析部、肉厚演算部及び測定回数分配部を全て一台の装置に設けてもよい。また、例えば、パルス渦電流プローブを備える単一の肉厚測定装置に本発明を適用してもよい。この場合、肉厚測定装置は、1の被測定箇所を測定するので、測定回数分配部は設けなくてもよい。肉厚装置装置は、例えば、搭載したバッテリで駆動する。
【0053】
上述の実施形態では、パルス渦電流プローブとハブ端末とが有線接続され、ハブ端末3とサーバ装置とが無線通信可能に構成されていたが、特にこれに限定されるものではない。装置間の通信接続は、有線接続であっても無線接続であってもよい。例えば、パルス渦電流プローブとハブ端末との間で無線通信を可能にする無線通信モジュールを設けてもよい。この場合、パルス渦電流プローブに電力供給用のバッテリを搭載すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
この発明は、被測定箇所に誘導起電力を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定システム等において、肉厚の測定等の算出処理の精度を向上させるのに有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 肉厚測定システム
2 パルス渦電流プローブ
3 ハブ端末
4 サーバ装置
21 送信コイル
22 受信コイル
232 誘導起電力検出部
312 フィルタ処理部
P 配管