(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】2-ヨードソ安息香酸類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 347/00 20060101AFI20231218BHJP
C07D 517/04 20060101ALI20231218BHJP
C07D 517/14 20060101ALI20231218BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
C07D347/00
C07D517/04
C07D517/14
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020561512
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2019049848
(87)【国際公開番号】W WO2020130081
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2018239815
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウエブサイトにて公開 [掲載日]2018年5月21日 [ウェブサイトのアドレス]http://jaci-gsc.com/7th_web/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 シンポジウムにて公開 [開催日]2018年6月14日から2018年6月15日 [集会名、開催場所]第7回JACI/GSCシンポジウム ANAクラウンプラザホテル神戸(兵庫県神戸市中央区北野町1丁目)
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土肥 寿文
(72)【発明者】
【氏名】知名 秀泰
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-523524(JP,A)
【文献】REN,J. et al,Selective Oxidation of 1-Tetralones to 1,2-Naphthoquinones with IBX and to 1,4-Naphthoquinones with,Synthesis,2015年,Vol.47, No.15,pp.2270-2280
【文献】DOHI,T. et al,Hypervalent iodine reagents as a new entrance to organocatalysts,Chemical Communications,2009年,No.16,pp.2073-2085
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 347/00
C07D 517/04
C07D 517/14
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
[式中、
Arは、ベンゼン、二環式C9-C10芳香族炭素環、或いは窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選ばれる1個又は2個のヘテロ原子を有する二環式9-10員芳香族複素環を示し、前記ベンゼン、前記炭素環、及び前記複素環は、ベンゼン環Aを構成する二つの炭素原子とともに形成された5-6員環を有し、
前記ベンゼン、前記炭素環、及び前記複素環は、1~4個の基R
11で置換されてもよく、
R
11は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、直鎖状C1-C6アルキル、分枝状C1-C6アルキル、又は環状構造を含むC1-C6アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
R
1は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、直鎖状C1-C6アルキル、分枝状C1-C6アルキル、又は環状構造を含むC1-C6アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
mは、nが0の場合は0~4の整数を、nが1の場合は0、1、又は2を示し、
nは0又は1を示す。]
で表される化合物又は
式(II):
【化2】
[式中、
Xは、酸素原子、メチレン、カルボニル、-NH-、又はスルホニルを示し、
R
21は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、直鎖状C1-C6アルキル、分枝状C1-C6アルキル、又は環状構造を含むC1-C6アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
R
22は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、直鎖状C1-C6アルキル、分枝状C1-C6アルキル、又は環状構造を含むC1-C6アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
r及びr’は、それぞれ独立して、0、1、又は2を示す。]
で表される化合物
の製造方法であって、
式(III):
【化3】
[式中、
Qは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム、又は第四級アンモニウムを示し、
xは、Qがアルカリ土類金属原子の場合は2+を、Qがその他の場合は+を示し、
yは、Qがアルカリ土類金属原子の場合は2を、Qがその他の場合は1を示し、
Ar、R
1、m、及びnは前記と同じであり、
yが2の場合において、2つのヨードベンゼン環の各々にArが結合しているときは、2つのArは同一又は異なってよく、2つのヨードベンゼン環の各々にR
1が結合しているときは、2つ以上のR
1は同一又は異なってよい。]
で表される化合物又は
式(IV):
【化4】
[式中、
Q’は水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム、又は第四級アンモニウムを示し、
x’は、Q’がアルカリ土類金属原子の場合は2+を、Q’がその他の場合は+を示し、zは、Q’がアルカリ土類金属原子の場合は1を、Q’がその他の場合は2を示し、
R
21、R
22、r、及びr’は前記と同じである]
で表される化合物を、
水及び水と有機溶媒との混合溶媒から選択される溶媒中、
ペルオキソ一硫酸モノカリウム及びオキソンから選択される少なくとも1つの過硫酸塩の存在下、
0℃~100℃で酸化する酸化工程を含み、
前記酸化工程が、塩化ルテニウム(III)、ルテニウム担持活性炭、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)、及び過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種がさらに存在する条件下で行われる、方法。
【請求項2】
前記酸化工程の温度が0℃~60℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化工程の温度が60℃~100℃であり、前記溶媒が10μM以上の金属イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属イオンが鉄(III)、鉄(II)、又はマグネシウム(II)イオンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化工程の温度が60℃~100℃であり、前記溶媒が式(III)又は式(IV)で表される化合物1モルに対して0.00005モル以上の金属塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金属塩が、塩化鉄(III)、硫酸鉄(II)、又は塩化マグネシウム(II)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒が水と有機溶媒との混合溶媒である、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記過硫酸塩がオキソンである、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記式(I)及び(III)において、nは0を示し、mは0又は1を示し、R
1はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、直鎖状C1-C6アルキル、分枝状C1-C6アルキル、又は環状構造を含むC1-C6アルキルを示し、
前記式(III)において、Qはリチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子を示す、請求項1~
8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記式(I)及び(III)において、nは1を示し、Arはベンゼンを示し、前記ベンゼンはベンゼン環Aを構成する二つの炭素原子とともにナフタレンを形成し、mは0又は1を示し、R
1はアルコキシ、カルバモイル、アシルアミド、又はアシルオキシを示し、前記式(III)において、Q’はリチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子を示す、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-ヨードソ安息香酸類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨードキシ安息香酸は超原子価ヨウ素触媒として使用されており、その製造方法として脱イオン水中でオキソンに2-ヨード安息香酸を添加し70~73℃で3時間加熱処理する方法が報告されている(非特許文献1)。しかし、ヨードキシ安息香酸は爆発性を有しているため取り扱いが容易ではなかった。このため、爆発性の低いヨードソ安息香酸が超原子価ヨウ素触媒として注目されている。ヨードソ安息香酸の製造方法として2-ヨード安息香酸からヨードソ安息香酸を合成する方法がいくつか知られている(非特許文献2~5)。
【0003】
非特許文献2に記載の方法では比較的高価な過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4)と加熱を必要とする。非特許文献3に記載の方法では毒性の強いアセトアルデヒドを多量に(10当量)必要とする。非特許文献4に記載の方法では爆発性の高いジアゾメタンを必要とする。非特許文献5に記載の方法では毒性の強い塩素ガスを必要とする。このため、これらの方法では工業的にヨードソ安息香酸を製造することが容易ではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J. Org. Chem., 1999, 64, 4537-4538.
【文献】Arkivoc, 2003, vi, 120-125.
【文献】Nat. Chem., 10, 200-204 (2018).
【文献】Angew. Chem. Int. Ed., 2014, 53, 9860-9864.
【文献】J. Chem. Soc., 1965, 3721-3728.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高価な試薬を要せず、比較的安全に、ヨードソ安息香酸類を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、2-ヨード安息香酸類を、水及び/又は水と有機溶媒との混合溶媒の存在下、0℃~100℃において、ペルオキソ一硫酸モノカリウム及び/又はオキソンで酸化することにより、ヨードソ安息香酸類を合成できることを見出した。代表的な本発明は以下の通りである。
【0007】
項1.
式(I):
【化1】
[式中、
Arは、ベンゼン、二環式C9-C10芳香族炭素環、或いは窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選ばれる1個又は2個のヘテロ原子を有する二環式9-10員芳香族複素環を示し、前記ベンゼン、前記炭素環、及び前記複素環は、ベンゼン環Aを構成する二つの炭素原子とともに形成された5-6員環を有し、
前記ベンゼン、前記炭素環、及び前記複素環は、1~4個の基R
11で置換されてもよく、
R
11は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
R
1は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
mは、nが0の場合は0~4の整数を、nが1の場合は0、1、又は2を示し、
nは0又は1を示す。]
で表される化合物(本明細書中、化合物(I)と称する場合がある。)又は
式(II):
【化2】
[式中、
Xは、酸素原子、メチレン、カルボニル、-NH-、又はスルホニルを示し、
R
21は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
R
22は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
r及びr’は、それぞれ独立して、0、1、又は2を示す。]
で表される化合物(本明細書中、化合物(II)と称する場合がある。)
の製造方法であって、
式(III):
【化3】
[式中、
Qは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム、又は第四級アンモニウムを示し、
xは、Qがアルカリ土類金属原子の場合は2+を、Qがその他の場合は+を示し、
yは、Qがアルカリ土類金属原子の場合は2を、Qがその他の場合は1を示し、
Ar、R
1、m、及びnは前記と同じであり、
yが2の場合において、2つのヨードベンゼン環の各々にArが結合しているときは、2つのArは同一又は異なってよく、2つのヨードベンゼン環の各々にR
1が結合しているときは、2つ以上のR
1は同一又は異なってよい。]
で表される化合物(本明細書中、化合物(III)と称する場合がある。)又は
式(IV):
【化4】
[式中、
Q’は水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム、又は第四級アンモニウムを示し、
x’は、Q’がアルカリ土類金属原子の場合は2+を、Q’がその他の場合は+を示し、zは、Q’がアルカリ土類金属原子の場合は1を、Q’がその他の場合は2を示し、
R
21、R
22、r、及びr’は前記と同じである]
で表される化合物(本明細書中、化合物(IV)と称する場合がある。)を、
水及び水と有機溶媒との混合溶媒から選択される溶媒中、
ペルオキソ一硫酸モノカリウム及びオキソンから選択される少なくとも1つの過硫酸塩の存在下、
0℃~100℃で酸化する酸化工程を含む、方法。
項2.
前記酸化工程が、塩化ルテニウム(III)、ルテニウム担持活性炭、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)、及び過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種がさらに存在する条件下で行われる項1に記載の方法。
項3.
前記酸化工程の温度が0℃~60℃である、項1又は2に記載の方法。
項4.
前記酸化工程の温度が60℃~100℃であり、前記溶媒が10μM以上の金属イオンを含む、項1又は2に記載の方法。
項5.
前記金属イオンが鉄(III)、鉄(II)、又はマグネシウム(II)イオンである、項4に記載の方法。
項6.
前記酸化工程の温度が60℃~100℃であり、前記溶媒が式(III)又は式(IV)で表される化合物1モルに対して0.00005モル以上の金属塩を含む、項1又は2に記載の方法。
項7.
前記金属塩が、塩化鉄(III)、硫酸鉄(II)、又は塩化マグネシウム(II)である、項6に記載の方法。
項8.
前記溶媒が水と有機溶媒との混合溶媒である、項1~7のいずれかに記載の方法。
項9.
前記過硫酸塩がオキソンである、項1~8のいずれかに記載の方法。
項10.
前記式(I)及び(III)において、nは0を示し、mは0又は1を示し、R
1はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又は低級アルキルを示し、
前記式(III)において、Qはリチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子を示す、項1~9のいずれかに記載の方法。
項11.
前記式(I)及び(III)において、nは1を示し、Arはベンゼンを示し、前記ベンゼンはベンゼン環Aとともにナフタレンを形成し、mは0又は1を示し、R
1はアルコキシ、カルバモイル、アシルアミド、又はアシルオキシを示し、前記式(III)において、Q’はリチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子を示す、項1~9のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、爆発性又は毒性の強い化合物やNaIO4のような比較的高価な化合物の使用を必須とせずに、2-ヨード安息香酸類からヨードソ安息香酸類を製造できる。また、本発明によれば、加熱処理を必須とせずに、例えば常温域(例えば10℃~30℃)であっても、2-ヨード安息香酸類からヨードソ安息香酸類を製造できる。さらにまた、本発明によれば、塩化ルテニウム(III)等を併用することにより短時間でヨードソ安息香酸類を製造することができる。また、本発明によれば、爆発性のあるヨードキシ安息香酸類をほとんど副生しないため、2-ヨード安息香酸類からヨードソ安息香酸類を比較的安全に製造でき、ヨードソ安息香酸類の精製も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、オキソンを種々の量で使用した場合の2-ヨードソ安息香酸(IBA)の収率を示すグラフである(試験例2)。横軸は、2-IB量に対するオキソン量(当量)を示し、縦軸は収率(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の前記概要は、本発明の各々の開示された実施形態または全ての実装を記述することを意図するものではない。
本発明の後記説明は、実例の実施形態をより具体的に例示する。
本発明のいくつかの箇所では、例示を通してガイダンスが提供され、及びこの例示は、様々な組み合わせにおいて使用できる。
それぞれの場合において、例示の群は、非排他的な、及び代表的な群として機能できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられる。
【0011】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、特に断りのない限り、室温で実施され得る。本明細書中、室温は、10℃~40℃の範囲内の温度を意味することができる。
本明細書中、表記「Cn-Cm」(ここで、n、及びmは、それぞれ、数である。)は、当業者が通常理解する通り、炭素数がn以上、且つm以下であることを表す。
【0012】
本発明において、「二環式C9-C10芳香族炭素環」は、芳香族性を有する二環式の炭素環であり、一方の環の一部が飽和されていてもよい。二環式C9-C10芳香族炭素環としては、例えば、インデン、ナフタレン、ジヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレンなどが挙げられる。
【0013】
本発明において、「二環式9-10員芳香族複素環」は、芳香族性を有する二環式の複素環であり、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選ばれる1個又は2個のヘテロ原子を含有し、一方の環の一部が飽和されていてもよい。窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選ばれる1個又は2個のヘテロ原子を含有する二環式9-10員芳香族複素環としては、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、ベンゾチオフェン、イソベンゾチオフェン、ジチアナフタレン、インダゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、クロメン、インドリン、イソインドリン、ジヒドロベンゾフラン、ジヒドロベンゾチオフェン、ジヒドロイソベンゾチオフェン、ジヒドロイソベンゾフラン、ジヒドロインダゾール、ジヒドロキノリン、テトラヒドロキノリン、ジヒドロイソキノリン、テトラヒドロイソキノリン、ジヒドロフタラジン、テトラヒドロフタラジン、ジヒドロナフチリジン、テトラヒドロナフチリジン、ジヒドロキノキサリン、テトラヒドロキノキサリン、ジヒドロキナゾリン、テトラヒドロキナゾリン、ジヒドロシンノリン、テトラヒドロシンノリン、ベンゾオキサチアン、ジヒドロベンゾオキサジン、ジヒドロベンゾチアジン、ピラジノモルホリン、ジヒドロベンゾオキサゾール、ジヒドロベンゾチアゾール、ジヒドロベンゾイミダゾール、ジオキサインダン、ベンゾジオキサン、クロマン、ベンゾジチオラン、ベンゾジチアンなどが挙げられる。
【0014】
本発明において「ハロゲン」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0015】
本発明において「アルキル」としては、例えば、直鎖状、分枝状、又は環状構造を含む、C1-C12アルキルが挙げられ、好ましくはC1-C6アルキル、より好ましくはC1-C4アルキル、特に好ましくはC1-C3アルキルが挙げられる。具体的には、直鎖状又は分枝状のアルキルとしては、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、3-メチルペンチル等が挙げられ、環状構造を含むアルキルとしては、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロブチル、シクロブチルメチル、シクロペンチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、シクロヘキシルエチル等が挙げられる。好ましくは低級アルキルであり、より好ましくは直鎖状のC1-C6アルキル(メチル、エチル、1-プロピル、1-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなど)、2-プロピル、2-ブチル又はt-ブチルであり、より一層好ましくは直鎖状のC1-C4アルキル、特に好ましくはメチル又はエチルである。
【0016】
本発明において「低級アルキル」としては、例えば、直鎖状、分枝状、又は環状構造を含む、C1-C6アルキルが挙げられ、好ましくはC1-C4アルキル、より好ましくはC1-C3アルキルが挙げられる。具体的には、直鎖状又は分枝状の低級アルキルとしては、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル等が挙げられ、環状構造を含む低級アルキルとしては、シクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロブチル、シクロブチルメチル、シクロペンチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシル等が挙げられる。好ましくは、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、t-ブチル、シクロプロピル等が挙げられる。
【0017】
本発明において「アルコキシ」としては、例えば、直鎖状、分枝状、又は環状構造を含む、C1-C12アルコキシが挙げられ、好ましくはC1-C8アルコキシ、より好ましくはC1-C6アルコキシ、より一層好ましくはC1-C4アルコキシ、特に好ましくはC1-C3アルコキシが挙げられる。具体的には、直鎖状又は分枝状のアルコキシとしては、メトキシ、エトキシ、1-プロポキシ、2-プロポキシ、1-ブトキシ、2-ブトキシ、イソブトキシ、t-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシ等が挙げられる。環状構造を含むアルコキシとしては、シクロプロポキシ、シクロプロピルメトキシ、シクロブチロキシ、シクロブチルメトキシ、シクロペンチロキシ、シクロペンチルメトキシ、シクロヘキシロキシ、シクロヘキシルメトキシ、シクロヘキシルエトキシ等が挙げられる。好ましいアルコキシとしては、メトキシ、エトキシ、1-プロポキシ、2-プロポキシ、1-ブトキシ、t-ブトキシ、シクロプロポキシ等が挙げられる。
【0018】
本発明において「アシルアミド」としては、例えば、ホルムアミド、アセトアミド、プロピオンアミド、n-ブチリルアミド、イソブチリルアミド、tert-ブチルアミド、N-メチルアセトアミドなどの直鎖状又は分岐状の低級アシルアミド(総炭素数が1~4のアシルアミド)が挙げられる。
【0019】
本発明において「アシルオキシ」は、アルキルカルボニルオキシ又はアリールカルボニルオキシを意味する。
【0020】
本発明において「アルキルカルボニルオキシ」としては、例えば、アセチルオキシ、エチルカルボニルオキシ、n-プロピルカルボニルオキシ、イソプロピルカルボニルオキシ、n-ブチルカルボニルオキシ、イソブチルカルボニルオキシ、tert-ブチルカルボニルオキシ、n-ペンチルカルボニルオキシ、イソペンチルカルボニルオキシ、ヘキシルカルボニルオキシなどの直鎖状又は分枝状の(C1-C6アルキル)カルボニルオキシ;ベンゾイルオキシが挙げられる。
【0021】
本発明において「アリールカルボニルオキシ」としては、例えば、ベンゾイルオキシ、ナフチルカルボニルオキシ、フルオレニルカルボニルオキシ、アントリルカルボニルオキシ、ビフェニリルカルボニルオキシ、テトラヒドロナフチルカルボニルオキシ、クロマニルカルボニルオキシ、2,3-ジヒドロ-1,4-ジオキサナフタレニルカルボニルオキシ、インダニルカルボニルオキシ、フェナントリルカルボニルオキシ等の(C6-C13アリール)カルボニルオキシが挙げられる。
【0022】
本発明において「アリール」としては、例えばフェニル、ナフチルなどが挙げられ、1~4個のC1-C3アルキルで置換されていてもよい。アリールが複数のC1-C3アルキルで置換されるときは、C1-C3アルキルは同一であっても異なってもよい。アリールは、好ましくはフェニル、ナフチル、トリル、キシリルであり、より好ましくはフェニル、ナフチルである。
【0023】
本発明において「アラルキル」としては、ベンジル、フェネチル、ナフチルメチル、フルオレニルメチルなどのC7-C13アラルキルが挙げられる。
【0024】
本発明において「アルケニル」としては、直鎖状、分枝状又は環状のいずれでもよく、二重結合を少なくとも1個(例えば、1個又は2個)有する不飽和炭化水素基を意味し、例えばビニル、アリル、1-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、イソプロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、イソブテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、2-メチル-2-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、5-ヘキセニル、1-シクロペンテニル、1-シクロヘキセニル、3-メチル-3-ブテニルなどのC2-C6アルケニルが挙げられる。
【0025】
本発明において「アルカリ金属原子」としては、例えばリチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、ルビジウム原子、セシウム原子、フランシウム原子が挙げられる。
【0026】
本発明において「アルカリ土類金属原子」としては、例えばベリリウム原子、マグネシウム原子、カルシウム原子、ストロンチウム原子、バリウム原子、ランタン原子が挙げられる。
【0027】
本発明において、ベンゼン環Aを構成する炭素原子の位置番号は、例えば2-ヨード安息香酸の場合であれば、次の式中の1~6に従うものとし、これは化合物(I)及び化合物(III)についても同様とする。
【化5】
【0028】
本発明の一実施形態は、
【0029】
項1.
式(I):
【化6】
[式中、
Arは、ベンゼン、二環式C9-C10芳香族炭素環、或いは窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選ばれる1個又は2個のヘテロ原子を有する二環式9-10員芳香族複素環を示し、前記ベンゼン、前記炭素環、及び前記複素環は、ベンゼン環Aを構成する二つの炭素原子とともに形成された5-6員環を有し、
前記ベンゼン、前記炭素環、及び前記複素環は、1~4個の基R
11で置換されてもよく、
R
11は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
R
1は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
mは、nが0の場合は0~4の整数を、nが1の場合は0、1、又は2を示し、
nは0又は1を示す。]
で表される化合物又は
式(II):
【化7】
[式中、
Xは、酸素原子、メチレン、カルボニル、-NH-、又はスルホニルを示し、
R
21は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
R
22は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルを示し、複数ある場合は同一でも異なってもよく、
r及びr’は、それぞれ独立して、0、1、又は2を示す。]
で表される化合物
の製造方法であって、
式(III):
【化8】
[式中、
Qは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム、又は第四級アンモニウムを示し、
xは、Qがアルカリ土類金属原子の場合は2+を、Qがその他の場合は+を示し、
yは、Qがアルカリ土類金属原子の場合は2を、Qがその他の場合は1を示し、
Ar、R
1、m、及びnは前記と同じであり、
yが2の場合において、2つのヨードベンゼン環の各々にArが結合しているときは、2つのArは同一又は異なってよく、2つのヨードベンゼン環の各々にR
1が結合しているときは、2つ以上のR
1は同一又は異なってよい。]
で表される化合物又は
式(IV):
【化9】
[式中、
Q’は水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム、又は第四級アンモニウムを示し、
x’は、Q’がアルカリ土類金属原子の場合は2+を、Q’がその他の場合は+を示し、zは、Q’がアルカリ土類金属原子の場合は1を、Q’がその他の場合は2を示し、
R
21、R
22、r、及びr’は前記と同じである]
で表される化合物を、
水及び水と有機溶媒との混合溶媒から選択される溶媒中、
ペルオキソ一硫酸モノカリウム及びオキソンから選択される少なくとも1つの過硫酸塩の存在下、
0℃~100℃で酸化する酸化工程を含む、方法、である。
【0030】
<原料>
化合物(III)又は(IV)は2-ヨード安息香酸化合物類(2-ヨード安息香酸化合物とその縮合環式化合物)であり、化合物(I)又は(II)の2-ヨードソ安息香酸化合物類(2-ヨードソ安息香酸化合物とその縮合環式化合物)の原料である。
【0031】
式(III)においてArは、ベンゼン、二環式C9-C10芳香族炭素環、或いは窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選ばれる1個又は2個のヘテロ原子を有する二環式9-10員芳香族複素環を示す。前記ベンゼン、前記炭素環、及び前記複素環は、式中のベンゼン環Aを構成する二つの炭素原子とともに形成された5-6員環を有する。例えば、Arがベンゼンの場合、当該ベンゼンはベンゼン環Aとともにナフタレンを形成し、Arがベンゾフランの場合、当該ベンゾフランはベンゼン環Aとともにジベンゾフラン又はナフトフランを形成する。
【0032】
前記ベンゼン、前記炭素環、及び前記複素環は、1~4個の基R
11で置換されてもよい。したがって、(Ar)
n-は次の式(V)で表すこともできる。
【化10】
[式中、qは0~4の整数を示し、R
11、Ar、及びnは式(I)中のそれらと同じ。]
【0033】
Ar中の環がR11で置換される場合、置換の数は1~4個である。好ましいR11の数は1~3個、より好ましくは1又は2個である。また、R11は、Arで示されるいずれの環に結合してもよい。本発明の一実施形態において、ArはR11で置換されていない。
【0034】
好ましいArは、ベンゼン、ナフタレン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ベンゾフラン、又はインドールであり、これらはR11で置換されていてもよく、より好ましいArは、ベンゼン、ナフタレン、ベンゾフラン、又はインドールであり、これらはR11で置換されていてもよく、より一層好ましいArは、ベンゼン、ナフタレン、又はベンゾフランであり、これらはR11で置換されていてもよい。
【0035】
式(III)においてR11は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルであり、R11が複数ある場合は同一でも異なってもよい。
【0036】
R1とR11がある場合は両者は同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
R11において、前記低級アルキルは直鎖状又は分枝状の低級アルキルであってもよく、より好ましくはメチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、又はt-ブチルであり、より一層好ましくはメチル又はエチルである。また、ハロゲンはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってもよく、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましい。前記アシルアミドは直鎖状又は分枝状の低級アシルアミドであってもよく、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、又はプロピオンアミドが好ましい。前記アシルオキシは直鎖状又は分枝状の(C1-C6アルキル)カルボニルオキシであってもよいし、(C6-C13アリール)カルボニルオキシであってもよく、アセチルオキシ、n-プロピルカルボニルオキシ、又はベンゾイルオキシが好ましい。
【0038】
R11はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又は低級アルキルであると収率の高さの観点から、好ましい。また、R11はアルコキシ、カルバモイル、アシルアミド、又はアシルオキシであると医薬品原料等、利用範囲の広さの観点から、好ましく、アシルアミド又はアシルオキシがより好ましい。
【0039】
式(III)においてR1は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルを示し、R1が複数ある場合は同一でも異なってもよい。
【0040】
R1において、前記低級アルキルは直鎖状又は分枝状の低級アルキルであってもよく、より好ましくはメチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、又はt-ブチルであり、より一層好ましくはメチル又はエチルである。また、ハロゲンはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってもよく、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましい。前記アシルアミドは直鎖状又は分枝状の低級アシルアミドであってもよく、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、又はプロピオンアミドが好ましい。前記アシルオキシは直鎖状又は分枝状の(C1-C6アルキル)カルボニルオキシであってもよいし、(C6-C13アリール)カルボニルオキシであってもよく、アセチルオキシ、n-プロピルカルボニルオキシ、又はベンゾイルオキシが好ましい。
【0041】
R1はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又は低級アルキルであると収率の高さの観点から、好ましい。また、R1はアルコキシ、カルバモイル、アシルアミド、又はアシルオキシであると医薬品原料等、利用範囲の広さの観点から、好ましく、アシルアミド又はアシルオキシがより好ましい。
【0042】
式(III)においてR1が結合する炭素原子は、ベンゼン環の3位~6位のいずれの炭素原子であってもよく、ベンゼン環の4位、5位、又は6位の炭素原子が好ましく、5位の炭素原子がより好ましい。
【0043】
式(III)においてmは、nが0の場合は0~4の整数を、nが1の場合は0、1、又は2を示し、いずれの場合も好ましくは0又は1である。
【0044】
式(III)においてQは、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム、又は第四級アンモニウムを示す。したがって、化合物(III)はカルボン酸、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又は第四級アンモニウム塩であってよい。
【0045】
前記アルカリ金属原子としては、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子が好ましく、ナトリウム原子又はカリウム原子がより好ましい。
【0046】
前記アルカリ土類金属原子としては、ベリリウム原子、マグネシウム原子、カルシウム原子、ストロンチウム原子、バリウム原子、又はランタン原子が好ましく、マグネシウム原子又はカルシウム原子がより好ましい。
【0047】
前記第四級アンモニウムの4つの置換基は同一でも異なっていてもよく、好ましくは同一である。当該置換基は、アルキル、アリール、アラルキル、又はアルケニルであってもよい。好ましくは、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、フェニル、ベンジル、又はビニルであり、より好ましくは、n-ブチルである。
【0048】
Qとしては、水素原子、アルカリ金属原子、又はアルカリ土類金属原子が好ましく、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、マグネシウム原子、又はカルシウム原子がより好ましく、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子がより一層好ましく、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子が特に好ましい。
【0049】
式(III)においてxは、Qがアルカリ土類金属原子の場合は2+を、Qがその他の場合は+を示す。
【0050】
式(III)においてyは、Qがアルカリ土類金属原子の場合は2を、Qがその他の場合は1を示す。
yが1の場合、化合物(III)は、Q+と-COO-で表される基(本明細書中、カルボキシレート基と称する場合がある。)を有する有機ヨウ素化合物(つまり、ヨード置換芳香族カルボン酸類)とが結合した、酸又は塩である。
yが2の場合、化合物(III)は、Q2+と2つのヨード置換芳香族カルボン酸類とが結合した、酸又は塩である。この場合において、2つのヨード置換芳香族カルボン酸類にArがあるときは、2つのArは同一であっても異なっていてもよく、好ましくは同一である。また、この場合において、2つのヨード置換芳香族カルボン酸類のそれぞれにR1があるときは、2つ以上のR1は同一であっても異なっていてもよく、好ましくは同一である。
【0051】
一実施形態において、化合物(III)は、
mは0又は1であり、
R1はハロゲン、アルコキシ、アシルオキシ、又は低級アルキルであり、
R11はハロゲン、アルコキシ、アシルオキシ、又は低級アルキルであり、複数ある場合は同一であっても異なってもよく、
R11は0~4個であり、
nは0又は1であり、
Arはベンゼン、ナフタレン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ベンゾフラン、又はインドールであり、
Qは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子
で示される化合物であってよい。
【0052】
また、他の実施形態において、化合物(III)は、
mは0又は1であり、
R1は、ベンゼン環Aを構成する4、5、又は6位の炭素原子に結合したアシルオキシ、アシルアミド、カルバモイル、又はアルコキシであり、
R11はアシルオキシ、アシルアミド、カルバモイル、又はアルコキシであり、複数ある場合は同一であっても異なってもよく、
R11は0~4個であり、
nは0又は1であり、
Arはベンゼン、ナフタレン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ベンゾフラン、又はインドールであり、
Qは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子又はカリウム原子
で示される化合物であってよい。
【0053】
さらに別の実施形態において、化合物(III)は、
mは0又は1であり、
R1は、ベンゼン環Aを構成する4、5、又は6位の炭素原子に結合したフッ素原子、塩素原子、臭素原子、メトキシ、アセトキシ、又はメチルであり、
R11はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、メトキシ、アセトキシ、又はメチルであり、複数ある場合は同一であっても異なってもよく、
R11は0~4個であり、
nは0又は1であり、
Arはベンゼン、ナフタレン、ベンゾフラン、又はインドールであり、
Qはリチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子で示される化合物であってよい。
【0054】
また、別の実施形態において、化合物(III)は、
mは0又は1であり、
R1は、ベンゼン環Aを構成する4、5、又は6位の炭素原子に結合したメチル、メトキシ、又はヒドロキシであり、
R11はメチル、メトキシ、又はヒドロキシであり、複数ある場合は同一であっても異なってもよく、
R11は0~4個であり、
nは0又は1であり、
Arはベンゼン、ナフタレン、又はベンゾフランであり、
Qはリチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子で示される化合物であってよい。
【0055】
さらに、別の実施形態において、化合物(III)は、
mは0又は1であり、
R1はベンゼン環Aを構成する4、5、又は6位の炭素原子に結合したフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ニトロ、シアノ、又はカルボキシであり、
R11はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ニトロ、シアノ、又はカルボキシであり、複数ある場合は同一であっても異なってもよく、
R11は0~4個であり、
nは0又は1であり、
Arはベンゼン、ナフタレン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、又はインドールであり、
Qは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子で示される化合物であってよい。
【0056】
さらにまた、本発明の一実施形態において、化合物(III)としては具体的には次に示す化合物を挙げることができる。
2-ヨード安息香酸、
4-クロロ-2-ヨード安息香酸、5-クロロ-2-ヨード安息香酸、6-クロロ-2-ヨード安息香酸、
4-フルオロ-2-ヨード安息香酸、5-フルオロ-2-ヨード安息香酸、6-フルオロ-2-ヨード安息香酸、
4-ブロモ-2-ヨード安息香酸、5-ブロモ-2-ヨード安息香酸、6-ブロモ-2-ヨード安息香酸、
4-メチル-2-ヨード安息香酸、5-メチル-2-ヨード安息香酸、6-メチル-2-ヨード安息香酸、
4-エチル-2-ヨード安息香酸、5-エチル-2-ヨード安息香酸、6-エチル-2-ヨード安息香酸、
4-メトキシ-2-ヨード安息香酸、5-メトキシ-2-ヨード安息香酸、6-メトキシ-2-ヨード安息香酸、
4-アセトキシ-2-ヨード安息香酸、5-アセトキシ-2-ヨード安息香酸、6-アセトキシ-2-ヨード安息香酸、
4-ニトロ-2-ヨード安息香酸、5-ニトロ-2-ヨード安息香酸、6-ニトロ-2-ヨード安息香酸、
4-ヒドロキシ-2-ヨード安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ヨード安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ヨード安息香酸、
3-ヨード-2-ナフトエ酸、1-ヨード-2-ナフトエ酸、2-ヨード-1-ナフトエ酸、
1-ヨードアントラセン-2-カルボン酸、2-ヨードアントラセン-1-カルボン酸、1-ヨードフェナントレン-2-カルボン酸、2-ヨードフェナントレン-1-カルボン酸、
1-ヨードジベンゾ[b,d]フラン-2-カルボン酸、2-ヨードジベンゾ[b,d]フラン-1-カルボン酸、
これらのナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、又はカルシウム塩。
【0057】
式(IV)において、Xは、酸素原子、メチレン、カルボニル、-NH-、又はスルホニルを示し、好ましくは酸素原子又はカルボニルであり、より好ましくは酸素原子である。
【0058】
式(IV)においてR21は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルを示し、R21が複数ある場合は同一でも異なってもよい。
【0059】
R21とR22がある場合は両者は同一であっても異なっていてもよい。
【0060】
R21において、前記低級アルキルは直鎖状又は分枝状の低級アルキルであってもよく、より好ましくはメチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、又はt-ブチルであり、より一層好ましくはメチル又はエチルである。また、ハロゲンはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってもよく、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましい。前記アシルアミドは直鎖状又は分枝状の低級アシルアミドであってもよく、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、又はプロピオンアミドが好ましい。前記アシルオキシは直鎖状又は分枝状の(C1-C6アルキル)カルボニルオキシであってもよいし、(C6-C13アリール)カルボニルオキシであってもよく、アセチルオキシ、n-プロピルカルボニルオキシ、又はベンゾイルオキシが好ましい。
【0061】
R21はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又は低級アルキルであると収率の高さの観点から、好ましい。また、R21はアルコキシ、カルバモイル、アシルアミド、又はアシルオキシであると医薬品原料等、利用範囲の広さの観点から、好ましく、アシルアミド又はアシルオキシがより好ましい。
【0062】
式(IV)においてR22は、ハロゲン、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、シアノ、カルボキシ、カルバモイル、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルを示し、R22が複数ある場合は同一でも異なってもよい。
【0063】
R22において、前記低級アルキルは直鎖状又は分枝状の低級アルキルであってもよく、より好ましくはメチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、又はt-ブチルであり、より一層好ましくはメチル又はエチルである。また、ハロゲンはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってもよく、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましい。前記アシルアミドは直鎖状又は分枝状の低級アシルアミドであってもよく、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、又はプロピオンアミドが好ましい。前記アシルオキシは直鎖状又は分枝状の(C1-C6アルキル)カルボニルオキシであってもよいし、(C6-C13アリール)カルボニルオキシであってもよく、アセチルオキシ、n-プロピルカルボニルオキシ、又はベンゾイルオキシが好ましい。
【0064】
R22はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又は低級アルキルであると収率の高さの観点から、好ましい。また、R22はアルコキシ、カルバモイル、アシルアミド、又はアシルオキシであると医薬品原料等、利用範囲の広さの観点から、好ましく、アシルアミド又はアシルオキシがより好ましい。
【0065】
式(IV)においてrは、0、1、又は2を示し、好ましくは0又は1である。
【0066】
式(IV)においてr’は、0、1、又は2を示し、好ましくは0又は1である。
【0067】
式(IV)においてQ’は、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム、又は第四級アンモニウムを示す。
【0068】
前記アルカリ金属原子としては、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子が好ましく、ナトリウム原子又はカリウム原子がより好ましい。
【0069】
前記アルカリ土類金属原子としては、ベリリウム原子、マグネシウム原子、カルシウム原子、ストロンチウム原子、バリウム原子、又はランタン原子が好ましく、マグネシウム原子又はカルシウム原子がより好ましい。
【0070】
前記第四級アンモニウムの4つの置換基は同一でも異なっていてもよく、好ましくは同一である。当該置換基は、アルキル、アリール、アラルキル、又はアルケニルであってもよい。好ましくは、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、フェニル、ベンジル、又はビニルであり、より好ましくは、n-ブチルである。
【0071】
Q’としては、水素原子、アルカリ金属原子、又はアルカリ土類金属原子が好ましく、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、マグネシウム原子、又はカルシウム原子がより好ましく、水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子がより一層好ましく、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子が特に好ましい。
【0072】
式(IV)においてx’は、Q’がアルカリ土類金属原子の場合は2+を、Q’がその他の場合は+を示す。
【0073】
式(IV)においてzは、Q’がアルカリ土類金属原子の場合は1を、Q’がその他の場合は2を示す。zが1の場合、化合物(IV)は、Q’2+と-COO-で表される基(本明細書中、カルボキシレート基と称する場合がある。)を2つ有する有機ヨウ素化合物(つまり、ヨード置換芳香族カルボン酸類)とが互いに1つずつ結合した酸又は塩である。zが2の場合、化合物(IV)は、2つのQ’+と1つのヨード置換芳香族カルボン酸類とが結合した酸又は塩である。
【0074】
一実施形態において、化合物(IV)は、
rは0又は1であり、
R21はハロゲン、アルコキシ、カルボキシ、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルであり、
r’は0又は1であり
R22はハロゲン、アルコキシ、カルボキシ、アシルアミド、アシルオキシ、又は低級アルキルであり、
Q’は水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子
で示される化合物であってよい。
【0075】
また、本発明の一実施形態において、化合物(IV)としては具体的には次に示す化合物を挙げることができる。
4,5-ジヨード-9-オキソ-9H-フルオレン-3,6-ジカルボン酸、
1-ヨードジベンゾ[b,d]フラン-2-カルボン酸、
2-ヨードジベンゾ[b,d]フラン-1-カルボン酸、
これらのナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、又はカルシウム塩。
【0076】
<製造物>
本発明では、化合物(III)を所定の方法で酸化することにより、化合物(I)に変換する。式(I)中のAr、R1、m、及びnは式(III)中のそれらと同じである。また、化合物(I)の詳細な事項には、これら事項に対応する、化合物(III)に関する事項についての前記の記載が適用又は参照される。
【0077】
本発明では、化合物(IV)を所定の方法で酸化することにより、化合物(II)に変換する。式(II)中のX、R21、R22、r、及びr’は式(IV)中のそれらと同じである。また、化合物(II)の詳細な事項には、これら事項に対応する、化合物(IV)に関する事項についての前記の記載が適用又は参照される。
【0078】
<酸化工程>
本発明では、化合物(III)又は化合物(IV)を、水及び水と有機溶媒との混合溶媒から選択される溶媒中、ペルオキソ一硫酸モノカリウム及びオキソンから選択される少なくとも1つの過硫酸塩の存在下、0℃~100℃で酸化する。例えば次の反応工程式(Ia)で示される工程である。なお、化合物(II)又はその他の化合物(I)は、対応する構造を有する化合物(IV)又は化合物(III)から同様にして製造することができる。
【0079】
【化11】
[式中、Qaは水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム、又は第四級アンモニウムを示し、R
1及びmは前記項1記載の記号と同じ意味を表す。
【0080】
酸化工程では、Qがアルカリ土類金属原子でない化合物(III)を原料とする場合は、化学量論的には、1モルの原料から1モルの対応する化合物(I)を製造できる。Qがアルカリ土類金属原子である化合物(III)を原料とする場合は、化学量論的には、1モルの原料から2モルの対応する化合物(I)を製造できる。化合物(IV)を原料とする場合は、化学量論的には、1モルの原料から1モルの対応する化合物(II)を製造できる。
【0081】
<溶媒>
本発明では酸化工程において、水及び水と有機溶媒との混合溶媒から選択される溶媒を使用する。本発明において水(水又は混合溶媒中の水)は過硫酸塩を溶解する点で重要である。
【0082】
溶媒としては、水と有機溶媒との混合溶媒が好ましい。混合比(容積比)は、目的物が製造できる限り特に制限されないが、例えば、有機溶媒/水が85/15~0/100、好ましくは70/30~50/50である。
【0083】
混合溶媒における有機溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジメトキシメタン等のエーテル系溶媒、ベンゼン等の炭化水素系溶媒、アセトニトリル(MeCN)等の非プロトン性溶媒、メタノール、エタノール、tert-ブチルアルコール、2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)等のプロトン性溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、2種類以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。好ましくはアセトニトリルである。
【0084】
<過硫酸塩>
酸化工程では、ペルオキソ一硫酸モノカリウム及びオキソンから選択される少なくとも1つの過硫酸塩を使用する。ペルオキソ一硫酸モノカリウムはペルオキソ一硫酸(H2SO5)のモノカリウム塩であり、KHSO5の化学式で表される。また、オキソンは登録商標であり、2KHSO5・KHSO4・K2SO4の化学式で表される。本発明では両者を適当な比率で混合して用いてもよい。混合比率は例えばペルオキソ一硫酸モノカリウム:オキソンが1:95~99:1(モル比)などである。好ましい過硫酸塩はオキソンである。
【0085】
過硫酸塩の使用量は目的物を製造できる限り特に制限されないが、原料中のカルボキシレート基量1モルに対して、例えば0.5モル以上、好ましくは0.8~1.5モル、より好ましくは0.8モル~1.3モル、より好ましくは0.9モル~1.1モルである。
【0086】
<遷移金属触媒>
酸化工程では、反応促進させるために、塩化ルテニウム(III)(本明細書において「RuCl3」と称することがある。)などの遷移金属触媒を使用してもよい。遷移金属触媒の使用により低温での合成が容易となり、また、短時間(例えば1時間以下、30分以下、20分以下、15分以下、10分以下など)で合成が容易となる。
【0087】
遷移金属触媒としてはルテニウム化合物を使用すればよく、例えば塩化ルテニウム(III)、ルテニウム担持活性炭(Ru/C)、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)(Ru(acac)3)、過ルテニウム酸テトラプロピルアンモニウム(nPr4N+RuO4
-)などが使用でき、1種単独で使用しても2種以上併用してもよい。好ましい遷移金属触媒は、塩化ルテニウム(III)、又はルテニウム担持活性炭、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)である。塩化ルテニウム(III)は水和物であってもよい。また、ルテニウム担持活性炭は粉末形態が好ましい。
【0088】
遷移金属触媒を使用する場合の使用量は目的物を製造できる限り特に制限されないが、通常、触媒量であってよく、例えば原料中のカルボキシレート基量1モルに対して、0.00001モル以上、好ましくは0.0001モル~0.05モル、より好ましくは0.0001モル~0.02モル、さらに好ましくは0.0001モル~0.01モル、特に好ましくは0.0001モル~0.005モルである。
【0089】
<金属イオン>
酸化工程では、金属イオンが溶媒中に含有されてもよい。金属イオンの使用によって、反応系を高温(60℃~100℃)とした場合であっても、生成した目的物の酸化(すなわち、過剰な酸化)による2-ヨードキシ安息香酸等の副生が抑制されるため、目的物の収率が向上し得、又は目的物の精製が容易になり得る。また、反応系を高温とすることにより合成が短時間(例えば1時間以下、30分以下、20分以下、15分以下、10分以下など)で終了し得る。
【0090】
金属イオンとしては、好ましくは鉄(III)、鉄(II)、マグネシウム(II)、アルミニウム(III)、亜鉛(II)、銅(II)、又はコバルト(II)のイオンが挙げられ、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。さらに好ましくは鉄(III)、鉄(II)、又はマグネシウム(II)のイオンが挙げられ、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0091】
金属イオンを使用する場合の使用量は目的物を製造できる限り特に制限されないが、通常、溶媒中に10μM以上、好ましくは10μM~0.1M、より好ましくは1mM~0.1Mである。また、金属イオンの使用量に関する別の態様としては、例えば原料中のカルボキシレート基量1モルに対して、0.00005モル以上であり、好ましくは0.001モル~0.3モル、より好ましくは0.005モル~0.3モルである。
【0092】
<金属塩>
酸化工程では、金属塩としては、塩化鉄(III)(本明細書において「FeCl3」と称することがある。)などの金属塩を使用してもよい。金属塩の使用によって、反応系を高温(60℃~100℃)とした場合であっても、生成した目的物の酸化(すなわち、過剰な酸化)による2-ヨードキシ安息香酸等の副生が抑制されるため、目的物の収率が向上し得、又は目的物の精製が容易になり得る。また、反応系を高温とすることにより合成が短時間(例えば1時間以下、30分以下、20分以下、15分以下、10分以下など)で終了し得る。
【0093】
金属塩としては例えば塩化鉄(III)、硫酸鉄(II)、塩化マグネシウム(II)などが使用でき、1種単独で使用しても2種以上併用してもよい。好ましい金属塩は、塩化鉄(III)又は硫酸鉄(II)である。塩化鉄(III)は水和物であってもよい。
【0094】
金属塩を使用する場合の使用量は目的物を製造できる限り特に制限されないが、通常、触媒量であってよく、例えば原料中のカルボキシレート基量1モルに対して、0.00005モル以上であり、好ましくは0.001モル~0.3モル、より好ましくは0.005モル~0.3モルである。
【0095】
<酸化反応>
酸化工程は、反応系を加熱しなくとも目的物を製造できるが、加熱してもよい。反応温度は通常0℃~100℃、好ましくは0℃~60℃、より好ましくは4℃~30℃である。反応温度を上記範囲とすることでヨードキシ安息香酸類の副生を低減できる。また、本発明において、前記金属イオン又は前記金属塩を使用する場合は過剰な酸化が抑制されるため、反応温度を60℃~100℃としてもよい。反応時間は目的物が製造できる限り特に制限されないが、通常5分間以上とすればよく、好ましくは10分間~48時間、より好ましくは10分間~15時間である
【0096】
本発明では、本質的に他の反応試薬や触媒を用いることなく、温度制御のみでヨードキシ安息香酸類とヨードソ安息香酸類を作り分けることができるため、コスト面で無駄のない簡便な選択的合成法である。更に、本発明では、温度幅の広い温和な条件下で2-ヨードソ安息香酸類を製造できる点が有利である。例えば、2-ヨードソ安息香酸を触媒として利用する場面において、2-ヨードソ安息香酸を反応系に添加して使用する形態とすることもできるが、これに加えて、2-ヨード安息香酸及びオキソンを反応系に存在させる形態でも反応系内に2-ヨードソ安息香酸を発生させることができる。さらに、前記点は、2-ヨードソ安息香酸を再酸化剤又は犠牲試薬として利用する場面でも有利である。例えば、活性な他の酸化触媒と2-ヨード安息香酸及びオキソンとを反応系に存在させることによって、反応の進行により還元されて失活した触媒を、系内に発生する2-ヨードソ安息香酸が再び活性型に変換する形態を幅広い温度域で利用可能である。
【0097】
酸化工程では、溶媒中に原料及び過硫酸塩を存在させればよく、またこれらに加えて適宜、反応促進のために遷移金属触媒や過剰酸化防止のために金属塩を存在させてもよい。溶媒、原料、過硫酸塩、遷移金属触媒、金属塩等の添加順序は特に制限されないが、例えば原料、遷移金属触媒、及び金属塩を溶媒に添加し、ここに過硫酸塩を加えればよい。
【0098】
酸化工程で生成した目的物を単離及び精製することができる。本発明の製造方法では、反応混合物中に固形の目的物が生成するとともに、副生物であるヨードキシ安息香酸類がほとんど生成しないため、例えばろ過によって容易に目的物を分離し、必要に応じて水、アセトン等で洗浄することにより精製できる。また、反応混合物から粗反応生成物を分離するために濃縮、抽出等の単離手順を行い、その後、粗反応生成物を、カラムクロマトグラフィー、再結晶化等の一般的な精製手順に供することによって、反応混合物から目的物を単離及び精製してもよい。
【実施例】
【0099】
以下、試験例等を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに示された態様に限定されない。なお、試験例中、混合溶媒における混合比は容積比である。
【0100】
以下の例で使用された略称の意味は次のとおりである。
H2O:水道水
DIW:脱イオン水
MeCN:アセトニトリル
MeCN/H2O(1/1):アセトニトリル及び水道水の混合溶媒(容積比1:1)
IBA:2-ヨードソ安息香酸
4-Cl:原料化合物のベンゼン環の4位における塩素原子の結合
5-Cl:原料化合物のベンゼン環の5位における塩素原子の結合
5-Me:原料化合物のベンゼン環の5位におけるメチルの結合
5-Br:原料化合物のベンゼン環の5位における臭素原子の結合
5-F:原料化合物のベンゼン環の5位におけるフッ素原子の結合
5-OH:原料化合物のベンゼン環の5位におけるヒドロキシの結合
5-OMe:原料化合物のベンゼン環の5位におけるメトキシの結合
5-OAc:原料化合物のベンゼン環の5位におけるアセトキシの結合
5-NO2:原料化合物のベンゼン環の5位におけるニトロの結合
6-F:原料化合物のベンゼン環の6位におけるフッ素原子の結合
3-I-2-NA: 3-ヨード-2-ナフトエ酸
3-INA:3-ヨードソナフトエ酸
3-INX:3-ヨードキシナフトエ酸
Oxone:オキソン
RuCl3:塩化ルテニウム(III)
FeCl3:塩化鉄(III)
MeOH:メタノール
EtOH:エタノール
nPrOH:n-プロパノール
nBuOH:n-ブタノール
iPrOH:イソプロパノール
tBuOH:tert-ブタノール
Me:メチル
Et:エチル
nPr:n-プロピル
nBu:n-ブチル
iPr:イソプピル
tBu:tert-ブチル
【0101】
<試験例1>原料化合物の検討
次の反応工程式(Ib)に従い、表1に示した2-ヨード安息香酸化合物、溶媒、RuCl3、反応時間、及び反応温度を使用して合成を行った。
【0102】
【化12】
[式中、Rは表1に示したとおりである。]
【0103】
10 mLのナスフラスコにて、表1に示した2-ヨード安息香酸化合物(1.0 mmol)、溶媒(水10 mL、又はアセトニトリルと水との混合溶媒(2 mL;容積比1:1)、及び0.1Mの塩化ルテニウム(III)水溶液(50μL,塩化ルテニウム量0.005 mmol)を表1に示した温度で混合し、そこにオキソン(1.0 mmol,614.8 mg)を加え、磁気撹拌子で撹拌した。表1に示した時間経過後、反応液中の固形物を吸引濾過し、水で洗浄して塩を除き、次いでアセトンで洗浄し、2-ヨードソ安息香酸化合物を得た。2-ヨードソ安息香酸化合物の収率は収量から求め、表1に示した。
【0104】
IBA(2-ヨードソ安息香酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.72 (1H, td, J = 7.3, 0.9 Hz, H5), 7.86 (1H, d, J = 8.2 Hz, H3), 7.97 (1H, ddd, J = 8.7, 7.4, 1.8 Hz, H4), 8.03 (1H, dd, J = 7.8, 1.4 Hz, H6), 8.08 (1H, s) ppm.
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 120.3 (C2), 126.2 (C3), 130.3 (C5), 131.0 (C1), 131.4(C6), 134.4 (C4), 167.7(COOH) ppm.
IR (ATR, KBr): ν 2908 (OH) cm-1.
4-Cl IBA(4-クロロ-2-ヨードソ安息香酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.75 (1H, d, J = 1.8 Hz), 7.78 (1H, dd, J = 7.8, 1.8 Hz), 7.96 (1H, d, J = 8.2, 2.3 Hz), 8.27 (1H, s) ppm.
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 122.1, 125.7, 130.6, 130.7, 132.2, 139.3, 166.7 ppm.
IR (ATR, KBr): ν 2844 (OH) cm-1.
5-F IBA(5-フルオロ-2-ヨードソ安息香酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.72-7.80 (1H, m), 7.80-7.90 (2H, m), 8.24 (1H, brs) ppm.
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ114.2, 117.4 (d, J = 23.0 Hz), 121.7 (d, J = 24.0 Hz), 128.3 (d, J = 8.6 Hz), 134.1 (d, J = 7.7 Hz), 162.6, 165.1, 166.4 ppm.
5-Cl IBA(5-クロロ-2-ヨードソ安息香酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.81 (1H, d, J = 8.7 Hz), 7.95 (1H, d, J = 2.3 Hz), 8.03 (1H, dd, J = 8.7, 2.3 Hz), 8.28 (1H, s) ppm.
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 118.6, 128.1, 130.3, 133.5, 134.0, 135.8, 166.3 ppm.
IR (ATR, KBr): ν 2887 (OH) cm-1.
5-Br IBA(5-ブロモ-2-ヨードソ安息香酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.74 (1H, d, J = 8.7 Hz), 8.07 (1H, d, J = 2.3 Hz), 8.15 (1H, dd, J = 8.7, 2.3 Hz), 8.27 (1H, s) ppm.
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 119.5, 124.2, 128.3, 133.3, 133.7, 136.8, 166.2 ppm.
IR (ATR, KBr): ν 2887 (OH) cm-1.
5-Me IBA(5-メチル-2-ヨードソ安息香酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 2.48 (3H, s), 7.70 (1H, d, J = 8.2 Hz), 7.79 (1H, dd, J = 8.7, 1.8 Hz), 7.85 (1H, s), 8.01 (1H, s) ppm.
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 20.1, 116.7, 125.9, 131.3, 131.4, 135.2, 140.4, 167.7 ppm.
IR (ATR, KBr): ν 3067 (OH) cm-1.
5-OH IBA(5-ヒドロキシ-2-ヨードソ安息香酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 3.39 (3H, s), 7.36 (1H, dd, J = 8.7, 2.7 Hz), 7.40 (1H, d, J = 2.3 Hz), 7.57 (1H, d, J = 9.2 Hz), 7.94 (1H, s), 10.38 (1H, s) ppm.13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ106.6, 117.1, 122.0, 127.0, 132.6, 159.7, 167.6 ppm.
5-OMe IBA(5-メトキシ-2-ヨードソ安息香酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 3.89 (3H, s), 7.52 (1H, d, J = 2.7 Hz), 7.55 (1H, dd, J = 8.7, 2.8 Hz), 7.67 (1H, d, J = 9.2 Hz), 8.04 (1H, s) ppm.
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 55.8, 108.9, 114.8, 121.5, 127.0, 132.9, 161.4, 167.4 ppm.
5-OAc IBA(5-アセトキシ-2-ヨードソ安息香酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 2.33 (3H, s), 7.74 (1H, dd, J = 8.7, 2.7 Hz), 7.78 (1H, d, J = 2.3 Hz), 7.83 (1H, s) ppm.
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 20.8, 116.2, 124.2, 127.4, 128.0, 133.0, 152.5, 166.8, 169.0 ppm.
5-NO2 IBA(5-ニトロ-2-ヨードソ安息香酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 8.10 (1H, d, J = 8.7 Hz), 8.54 (1H, s), 8.57 (1H, d, J = 2.3 Hz), 8.73 (1H, dd, J = 8.7, 2.8 Hz) ppm.
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 124.8, 127.7, 128.1, 128.2, 133.4, 149.7, 165.9 ppm.
6-F IBA(6-フルオロ-2-ヨードソ安息香酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.55 (1H, dd, J = 10.5, 8.2 Hz), 7.71 (1H, d, J = 8.2 Hz), 7.91 (1H, td, J = 8.2, 4.6 Hz), 8.24 (1H, s) ppm.
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 119.2 (d, J = 22.0 Hz), 119.9 (d, J = 11.5 Hz), 123.5 (d, J = 69.0 Hz), 135.9 (d, J = 8.6 Hz), 163.1, 164.4, 165.8 ppm.
3-INA (3-ヨードソナフタレン)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.76 (2H,m), 8.18-8.26 (1H, brs), 8.21 (1H, d, J = 8.2 Hz), 8.29 (1H, d, J = 8.2 Hz), 8.39 (1H, s), 8.69 (1H, s) ppm.
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 115.9, 126.3, 127.8, 127.9, 128.1, 128.9, 129.3, 131.7, 132.8, 135.8, 167.7 ppm.
【0105】
【0106】
いずれの合成においても2-ヨードキシ安息香酸化合物は検出されなかった。また、加温することなく室温付近(25℃)でも、高い収率で2-ヨードソ安息香酸化合物を得ることができた。さらに、塩化ルテニウム(III)を併用することによって、低温かつ短時間で2-ヨードソ安息香酸化合物を得ることができた。
また、合成後に生じた廃棄溶媒は緩衝成分を含まないため少量の塩基で中和できること、オキソンが環境負荷要因でない硫酸塩であることにより、容易に廃棄でき、環境負荷の少ない合成法であることが確認された。
【0107】
<試験例2>オキソン量の検討
次の反応工程式(Ic)に従い、原料である2-ヨード安息香酸使用量に対するオキソン使用量(x)を0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1.0,1.1,1.2当量とし、その他は試験例1と同様にして、2-ヨードソ安息香酸を合成した。結果を
図1に示す。
【0108】
【0109】
図1より、塩化ルテニウム(III)存在下、オキソンを1当量使用することによって低温でも最大収率は90%以上を示した。
【0110】
<試験例3>スケールアップの検討
原料を試験例1の100倍量とし2-ヨードソ安息香酸の合成を行った。
500 mLのナスフラスコにて、2-ヨード安息香酸(100 mmol,24.80 g)、アセトニトリルと水との混合溶媒(体積比1:1,200 mL)、及び0.1 Mの塩化ルテニウム(III)水溶液(1 mL,塩化ルテニウム量 0.1 mmol)を、4℃で混合し、そこにオキソン(100 mmol,61.48 g)を4回に分けて段階的に加え、磁気撹拌子で撹拌した。10分経過後、反応液中の固形物を吸引濾過し、水で洗浄して塩を除き、次いでアセトンで洗浄し、2-ヨードソ安息香酸を92%(92 mmol,24.37 g)の収率で得た。
【0111】
試験例1の100倍量でも試験例1と同等の収率で2-ヨードソ安息香酸を合成できることが確認された。
【0112】
<試験例4>2-ヨードソ安息香酸の縮合環式化合物の合成
次の反応工程式(Id)に示した反応条件としたほかは試験例1と同様にして、3-ヨード-2-ナフトエ酸(3-I-2-NA)から3-ヨードソナフタレン(3-INA)を合成した。なお、溶媒使用量は2 mLであった。
【0113】
【0114】
縮合環式化合物の3-I-2-NAを原料とした場合でも室温付近(25℃)で3価の3-INAを高収率(94%)で与えた。一方、5価の3-ヨードキシナフトエ酸(3-INX)は検出されなかった。
3-INA (3-ヨードソナフタエ酸)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ 7.76 (2H,m), 8.18-8.26 (1H, brs), 8.21 (1H, d, J = 8.2 Hz), 8.29 (1H, d, J = 8.2 Hz), 8.39 (1H, s), 8.69 (1H, s) ppm.13C NMR (100 MHz, DMSO-d6): δ 115.9, 126.3, 127.8, 127.9, 128.1, 128.9, 129.3, 131.7, 132.8, 135.8, 167.7 ppm.
【0115】
<試験例5>FeCl3水溶液(金属イオン含有溶媒)を使用した合成
次の反応工程式(Ie)に示した反応条件としたほかは試験例1と同様にして、2-IBからIBAを合成した。なお、脱イオン水を用いて作成した0.1M FeCl3水溶液の3 mL(0.3当量)を溶媒として使用した。
【0116】
【0117】
一般的には過剰な酸化が進行することで2-ヨードキシ安息香酸化合物類が生成する温度条件の100℃でも、塩化鉄(III)を併用することで2-ヨードキシ安息香酸化合物類を副生することなく高い収率で2-ヨードソ安息香酸化合物類を得ることができた。また、反応時間も室温では1時間以上を要するが、100℃の高温とすることによって10分に短縮された。
【0118】
<試験例6>本発明の方法で製造された2-ヨードソ安息香酸(IBA)におけるIBXの混入の検討(試験例1で得られたIBAを原料として使用したIBA誘導体の合成)
種々のアルコール溶媒を用いた、2-ヨードソ安息香酸(IBA)からの1-アルコキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オンの合成
【0119】
【0120】
上記反応工程式(IIa)にしたがい、表2に記載した条件で試験例1で合成番号1として合成した2-ヨードソ安息香酸(IBA)からアルコキシ体を合成した。
【0121】
10 mLのナスフラスコにIBA(1.0 mmol, 264 mg)を入れ、これを表2に記載のアルコール溶媒(5 mL)で溶解させた後、モレキュラーシーブス3Å(1 g)を加えた。ジムロート冷却器管をナスフラスコに取り付け、磁気撹拌子で攪拌した。表2に記載の温度及び時間で攪拌後、濾過によりモレキュラーシーブス3Åを除去し、エバポレーターによりアルコール溶媒を留去した。残渣をアルコール溶媒で再結晶し、表2に記載のIBA誘導体(1-アルコキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オンを得た。1-アルコキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オンの収率は収量から求め、表2に示した。
【0122】
1-メトキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オン
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 4.26 (3H, s, CH3), 7.69 (1H, td, J = 7.3, 1.0 Hz), 7.75 (1H, d, J = 7.3 Hz), 7.89 (1H, td, J = 7.3, 1.4 Hz), 8.27 (1H, dd, J = 7.3, 1.4 Hz) ppm.
1-エトキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オン
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 1.31 (3H, t, J = 6.8 Hz, CH3), 4.26 (2H, q, J = 6.8 Hz, CH2), 7.67 (1H, t, J = 7.3 Hz), 7.75 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.87 (1H, t, J = 7.8 Hz), 8.25 (1H, d, J = 7.3 Hz) ppm.
1-プロピルオキシ- 1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オン
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 0.99 (3H, t, J = 7.8 Hz, CH3), 1.69 (2H, sext, J = 7.3 Hz, CH2), 4.17 (2H, t, J = 6.8 Hz, OCH2), 7.68 (1H, t, J = 7.3 Hz), 7.76 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.87 (1H, t, J = 7.3 Hz), 8.27 (1H, d, J = 7.3 Hz) ppm.
1-ブトキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オン
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 0.91 (3H, t, J = 7.3 Hz, CH3), 1.39 (2H, sext, J = 7.3 Hz, CH2), 1.60 (2H, quin, J = 7.8 Hz, CH2), 4.17 (2H, t, J = 6.8 Hz, OCH2), 7.63 (1H, t, J = 7.3 Hz), 7.67 (1H, d, J = 7.8 Hz), 7.90 (1H, t, J = 6.8 Hz), 8.22 (1H, d, J = 7.4 Hz) ppm.
1-(2,2,2-トリフルオロエチルオキシ)-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オン
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ4.49 (2H, q, J = 8.3 Hz, CH2), 7.72 (1H, t, J = 7.8 Hz), 7.83 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.95 (1H, t, J = 7.8 Hz), 8.26 (1H, d, J = 7.4 Hz) ppm.
1-イソプロピロピルオキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オン
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ1.33 (6H, d, J = 5.8 Hz, CH3), 4.29 (1H, sep, J = 6.3 Hz, CH), 7.67 (1H, t, J = 7.3 Hz), 7.79 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.86 (1H, t, J = 7.3 Hz), 8.26 (1H, d, J = 7.8 Hz) ppm.
1-tert-ブトキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オン
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ1.38 (9H, s, CH3), 7.64 (1H, t, J = 6.9 Hz), 7.80-7.88 (2H, m), 8.24 (1H, d, J = 7.8 Hz) ppm.
1-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルオキシ)-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オン
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ4.62 (1H, sep, J = 5.9 Hz, CH), 7.75 (1H, t, J = 7.3 Hz), 7.93-8.04 (2H, m), 8.26 (1H, d, J = 6.3 Hz) ppm.
【0123】
【0124】
本試験例により、本発明の方法で合成した2-ヨードソ安息香酸(IBA)を使用して、良好な収率で誘導体である1-アルコキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オンを合成できることが確認された。
【0125】
1-アルコキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オンを合成するには、通常、2-ヨードソ安息香酸(IBA)をアセトキシ誘導体である1-アセトキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オンに変換して、その後、アルコールと反応させる必要がある(P. Eisenberger, S. Gischig, and A. Togni, Chem.-Eur. J. 2006, 12, 2579.;Y. Li, D. P. Hari, M. V. Vita, J. Waser, Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 4436.)。これは、2-ヨードソ安息香酸(IBA)に潜在的に含まれる5価の2-ヨードキシ安息香酸(IBX)を除去するためである(G. Shan, X. Yang, Y. Zong, Y. Rao, Angew. Chem., Int. Ed. 2013, 52, 13606.;H. Huang, G. Zhang, Y. Chen, Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 7872.)。
【0126】
以上の結果より、本発明の方法で合成した2-ヨードソ安息香酸(IBA)には5価の2-ヨードキシ安息香酸(IBX)の混入が極めて少なく、1-アルコキシ-1,2-ベンゾヨードキソリン-3-オンを直接合成できる高い純度を有することが確認された。