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特許7403838座席用表皮材、座席用表皮材の製造方法、及び座席用表皮材の製造に使用するエンボス加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】座席用表皮材、座席用表皮材の製造方法、及び座席用表皮材の製造に使用するエンボス加工装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/04 20060101AFI20231218BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B29C59/04 Z
B32B3/30
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021084625
(22)【出願日】2021-05-19
(65)【公開番号】P2022178089
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】510206039
【氏名又は名称】スミノエ テイジン テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】澤田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】國田 敏一
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-178718(JP,A)
【文献】特開2007-331222(JP,A)
【文献】特開2016-147432(JP,A)
【文献】特開2019-077040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
B32B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布帛層とクッション層とが積層一体化されてなり、エンボス加工による凹凸模様が形成された座席用表皮材であって、
前記凹凸模様は、前記繊維布帛層が積層された側である表面に形成され、表面凸部及び表面凹部を有する表面凹凸模様と、前記表面凸部より小さい微細凸部を有する微細凹凸模様とを有し、
前記表面凹凸模様は、前記クッション層が賦形されて形成されており、
前記微細凹凸模様は、前記繊維布帛層の厚みの範囲内で、前記表面凸部に形成されていることを特徴とする座席用表皮材。
【請求項2】
前記微細凹凸模様は、前記表面凸部のみに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の座席用表皮材。
【請求項3】
前記微細凹凸模様は、前記表面凸部に形成された凸部微細凹凸模様と、前記表面凹部に形成された凹部微細凹凸模様とを有していることを特徴とする請求項1に記載の座席用表皮材。
【請求項4】
繊維布帛層とクッション層とが積層一体化された複合シートを、エンボス加工装置に通して凹凸模様を形成するエンボス工程を備えた座席用表皮材の製造方法であって、
前記エンボス加工装置は、第1意匠ロールと第2意匠ロールとの間に、一つのベースロールが配置されており、
前記第1意匠ロール、前記第2意匠ロール、及び前記ベースロールは加熱されており、
前記第1意匠ロールの周面には、第1微細型押部が形成され、
前記第2意匠ロールの周面には、前記第1微細型押部より大きい型押部が形成され、
前記エンボス工程は、前記第1意匠ロールと前記ベースロールとの間で前記複合シートにエンボス加工を施す第1エンボス工程と、前記ベースロールの周面に沿って前記複合シートを搬送する搬送工程と、前記第2意匠ロールと前記ベースロールとの間で前記複合シートにエンボス加工を施す第2エンボス工程を備え、
前記第1エンボス工程では、前記複合シートの前記繊維布帛層の厚みの範囲内で、微細凸部及び微細凹部を有する微細凹凸模様を形成し、
前記第2エンボス工程では、前記クッション層を収縮させて、前記複合シートの表面に、前記微細凸部より大きい表面凸部及び前記微細凹部より大きい表面凹部を有するとともに、前記表面凸部に前記微細凹凸模様を有する表面凹凸模様を形成することを特徴とする座席用表皮材の製造方法。
【請求項5】
前記ベースロールの表面温度は、前記第1意匠ロールの表面温度以上に設定されており、
前記搬送工程では、前記ベースロールの周面に半周以上沿わせて前記複合シートを搬送することを特徴とする請求項4に記載の座席用表皮材の製造方法。
【請求項6】
前記第1意匠ロールの周面全体には、前記第1微細型押部が形成され、
前記第1エンボス工程では、前記複合シートの前記表面の全体に前記微細凹凸模様を形成し、
前記第2エンボス工程では、前記表面凹部及び前記表面凸部のそれぞれに前記微細凹凸模様が残存するように前記表面凹凸模様を形成することを特徴とする請求項4又は5に記載の座席用表皮材の製造方法。
【請求項7】
前記第1意匠ロールの周面全体には、前記第1微細型押部が形成され、
前記第1エンボス工程では、前記複合シートの前記表面の全体に前記微細凹凸模様を形成し、
前記第2エンボス工程では、前記表面凸部にのみ前記微細凹凸模様が残存するように前記表面凹凸模様を形成することを特徴とする請求項4又は5に記載の座席用表皮材の製造方法。
【請求項8】
前記第1意匠ロールの周面の一部には、前記第1微細型押部が形成され、
前記第1エンボス工程では、前記複合シートの前記表面の一部に前記微細凹凸模様を形成し、
前記第2エンボス工程では、前記表面において前記微細凹凸模様が形成されていない部分に前記表面凹凸模様を形成することを特徴とする請求項4又は5に記載の座席用表皮材の製造方法。
【請求項9】
第1意匠ロールと第2意匠ロールとベースロールとを有し、繊維布帛層とクッション層とが積層一体化された複合シートを各ロールに沿って搬送して、座席用表皮材製造するために使用するエンボス加工装置であって、
前記第1意匠ロールと前記第2意匠ロールとの間に、一つの前記ベースロールが配置されて、前記複合シートが前記ベースロールの周面に半周以上沿わせて搬送可能に構成されており、
前記ベースロールの表面温度を、前記第1意匠ロールの表面温度以上に調節可能であり、
前記第1意匠ロールの周面には、第1微細型押部が形成され、
前記第2意匠ロールの周面には、前記第1微細型押部より大きい型押部が形成されていることを特徴とするエンボス加工装置。
【請求項10】
前記第1意匠ロールの周面の一部には、前記第1微細型押部が形成され、
前記第2意匠ロールの周面の前記型押部は、前記第1意匠ロールにおいて前記第1微細型押部が形成されていない部分と同調して形成されていることを特徴とする請求項9に記載のエンボス加工装置。
【請求項11】
前記第2意匠ロールの前記型押部には、第2微細型押部が形成されていることを特徴とする請求項9又は10に記載のエンボス加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座席用表皮材、座席用表皮材の製造方法、及び座席用表皮材の製造に使用するエンボス加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の座席シートや、ソファ、座椅子等に使用される座席用表皮材として、近年、デザイン性が高く高級感のあるものが要望されている。そのような座席用表皮材として、合成樹脂製の布帛の表面にエンボス加工による凹凸模様を形成したものが広く知られている。
【0003】
特許文献1には、車両用の座席用表皮材に係る発明が記載されている。ここでは、織物、編物、不織布等の繊維布帛からなる表層と、ポリウレタンフォーム材等からなるクッション層とを積層一体化した複合シートを、エンボスロールとベースロールとの間でエンボス加工している。車両の座席用表皮材として使用する場合、使用中の摩耗によって凹凸模様が消失し易くなるため、エンボス加工では、高温に加熱したエンボスロールで複合シートを加熱圧縮することによって、深くはっきりとした凹凸模様を形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-276285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンボス加工によって凹凸模様を形成することは、車両の座席用表皮材を容易に立体的に見せることができるため、高いニーズがある。そのため、より複雑で、デザイン性が高く、高級感のあるものが要望されている。
【0006】
しかし、従来のようなエンボス加工では、高温で加熱圧縮されることによって繊維布帛層の表面が平坦になり易く、繊維布帛の有する素材感、組織感等の質感が損なわれてしまう場合がある。また、エンボス模様の凹部に、強い光沢感が付与されて、良好な質感が得られない場合もある。いずれの場合も、座席用表皮材としての意匠性を向上させる観点からはなお改善の余地があるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の座席用表皮材は、繊維布帛層とクッション層とが積層一体化されてなり、エンボス加工による凹凸模様が形成された座席用表皮材であって、前記凹凸模様は、前記繊維布帛層が積層された側である表面に形成され、表面凸部及び表面凹部を有する表面凹凸模様と、前記表面凸部より小さい微細凸部を有する微細凹凸模様とを有し、前記微細凹凸模様は、前記表面凸部に形成されている。
【0008】
上記の構成によれば、座席用表皮材の表面には、表面凹凸模様が形成されている。そして、表面凹凸模様の表面凸部には微細凹凸模様が形成されている。表面凸部にも微細な凹凸模様が形成されていることで、より複雑な凹凸模様が表現される。座席用表皮材としての意匠性が向上する。
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の座席用表皮材の製造方法は、繊維布帛層とクッション層とが積層一体化された複合シートを、エンボス加工装置に通して凹凸模様を形成するエンボス工程を備えた座席用表皮材の製造方法であって、前記エンボス加工装置は、第1意匠ロールと第2意匠ロールとの間に、一つのベースロールが配置されており、前記第1意匠ロール、前記第2意匠ロール、及び前記ベースロールは加熱されており、前記第1意匠ロールの周面には、第1微細型押部が形成され、前記第2意匠ロールの周面には、前記第1微細型押部より大きい型押部が形成され、前記エンボス工程は、前記第1意匠ロールと前記ベースロールとの間で前記複合シートにエンボス加工を施す第1エンボス工程と、前記ベースロールの周面に沿って前記複合シートを搬送する搬送工程と、前記第2意匠ロールと前記ベースロールとの間で前記複合シートにエンボス加工を施す第2エンボス工程を備え、前記第1エンボス工程では、前記複合シートの表面に、微細凸部及び微細凹部を有する微細凹凸模様を形成し、前記第2エンボス工程では、前記複合シートの表面に、前記微細凸部より大きい表面凸部及び前記微細凹部より大きい表面凹部を有するとともに、前記表面凸部に前記微細凹凸模様を有する表面凹凸模様を形成する。
【0010】
上記の構成によれば、第1エンボス工程と第2エンボス工程とが、第1意匠ロールと第2意匠ロールとの間に一つのベースロールが配置されたエンボス加工装置によって、一連の流れで行われる。そして、エンボス工程によって、表面凸部に微細凹凸模様を有する表面凹凸模様が形成される。複雑な凹凸模様が表現された意匠性に優れた座席用表皮材をワンパスで製造することができる。
【0011】
また、微細凹凸模様が形成された複合シートは、ベースロールの周面に沿って搬送される際、加熱されたベースロールによって温められる。そのため、第2エンボス工程では、複合シートが温められた状態でエンボス加工が施されるので、クッション層に対する賦型性が向上する。クッション層は、温められることによって収縮しようとするため、クッション層が繊維布帛層とともに賦形される際、繊維布帛層側の表面がクッション層に引っ張られるように賦形される。クッション層が温められた状態で賦形された表面凹凸模様は、クッション層が十分に温められることなく、エンボス型の凹凸形状がそのまま転写した凹凸模様に比べて、より深く、大きな凹凸模様となる。意匠性に優れた座席用表皮材を製造することができる。
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明のエンボス加工装置は、座席用表皮材の製造に使用するエンボス加工装置であって、第1意匠ロールと第2意匠ロールとの間に、一つのベースロールが配置されており、前記第1意匠ロール、前記第2意匠ロール、及び前記ベースロールは、それぞれの表面温度を調節可能に構成され、前記第1意匠ロールの周面には、第1微細型押部が形成され、前記第2意匠ロールの周面には、前記第1微細型押部より大きい型押部が形成されている。
【0013】
上記の構成によれば、第1意匠ロールと第2意匠ロールとの間に一つのベースロールが配置されている。そのため、第1意匠ロールによる第1微細型押部による賦形と、第2意匠ロールによる第1微細型押部により大きい型押部による賦形とを、一連の流れで行うことができる。複雑な凹凸模様が表現された意匠性に優れた座席用表皮材をワンパスで製造することができる。
【0014】
また、第1意匠ロールとベースロールとの間でエンボス加工をした後に、加熱されたベースロールの周面に沿って複合シートを搬送することができる。そのため、第2意匠ロールとベースロールとの間でエンボス加工をする際には、複合シートが温められた状態となっている。温めれたクッション層は収縮し易くなり、賦型性が向上する。これにより、第2意匠ロールとベースロールとの間でエンボス加工をする際には、繊維布帛層側の表面がクッション層に賦形された凹凸形状に引っ張られるように賦形される。より深く、大きな凹凸模様を賦形することができて、意匠性に優れた座席用表皮材を製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、意匠性に優れた座席用表皮材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態の座席用表皮材の斜視図。
図2】エンボス工程について説明する図。
図3】エンボス加工装置を構成する第1意匠ロールの端面図。
図4】エンボス加工装置を構成する第2意匠ロールの端面図。
図5】座席用表皮材の端面図。
図6】座席用表皮材の端面図。
図7】第2実施形態のエンボス加工装置を構成する第1意匠ロールの端面図。
図8】(a)は、第2実施形態のエンボス加工装置を構成する第2意匠ロールの端面図、(b)、(c)は、型押部の拡大端面図。
図9】座席用表皮材について説明する図であり、(a)は端面図、(b)は表面の模式図。
図10】座席用表皮材について説明する図であり、(a)は端面図、(b)は表面の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下に、本発明を具体化した座席用表皮材としての第1実施形態の車両用表皮材10(以下、表皮材10という。)について説明する。表皮材10は、車両用シートの表面を被覆して車両用シートに意匠性を付与するためのものである。
【0018】
<表皮材10について>
図1に示すように、本実施形態の表皮材10は、基材層2、クッション層3、繊維布帛層4がこの順に積層されて一体化されている。車両の座席用表皮材として使用される表皮材10は、後に説明する複合シート1にエンボス加工を施すことにより製造される。複合シート1としては、その最大厚みが概ね3.0~10.0mm程度のものが使用される。以下では、基材層2側を表皮材10の裏面10b、繊維布帛層4側を表皮材10の表面10aと言うものとする。本実施形態の表皮材10は、繊維布帛層4が最表層に積層されて、表皮材10の意匠面を構成する。
【0019】
基材層2は、織物、編物、不織布等のシートで構成されており、表皮材10に剛性を付与する。その材質は特に限定されないが、例えば、合成繊維、天然繊維、再生繊維等を挙げることができる。合成繊維としては、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル等を挙げることができる。天然繊維としては、木綿、麻、絹、リンネル、モヘヤ、カシミヤ等を挙げることができる。再生繊維としては、キュプラ、レーヨン、ポリノジック、アセテート、フリース等を挙げることができる。これらは1種類のみからなるものでもよく、2種類以上を混合して織物、編物、不織布等を形成したものでもよい。
【0020】
クッション層3は、表皮材10に弾性、クッション性や、ふっくらとした質感を付与するものである。その材質は特に限定されないが、例えば、合成樹脂を発泡させた発泡プラスチック等を挙げることができる。発泡プラスチックとしては、発泡ポリウレタンフォーム材、発泡ポリエチレンフォーム材、発泡ポリスチレンフォーム材等を挙げることができる。
【0021】
繊維布帛層4は、熱可塑性樹脂繊維で形成された織物、編物、不織布等のシートで構成されている。繊維布帛層4を形成する熱可塑性樹脂の材質は特に限定されず、従来公知の熱可塑性樹脂を1種、或いは、混紡、混繊、交織、交編等の手法によって2種以上組み合わせて使用することができる。車両用表皮材に適用する熱可塑性樹脂としては、耐久性、耐熱性、耐光性等の観点から、ポリエステル繊維であることが好ましい。
【0022】
また、織物、編物の組織も特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。織組織としては、例えば、平織、斜文織、朱子織、ドビー織、ジャカード織等を挙げることができる。編組織としては、例えば、ダブルトリコット編、ダブルラッセル編等の経編地、平編、リブ編、ガーター編等の緯編地、または丸編地等を挙げることができる。
【0023】
図1及び図2に示すように、表皮材10は、基材層2、クッション層3、繊維布帛層4が積層一体化された複合シート1にエンボス加工を施すことによって製造される。そのため、表皮材10の表面10aには、図1に示すように、表面凸部11と表面凹部12を有する表面凹凸模様が形成されている。表面凹凸模様は、後に説明するエンボス工程の第2エンボス工程により、第2意匠ロール30に形成された型押部31によって形成される。本実施形態の表皮材10の表面凹部12は、表面10a全体に格子状に延びている。表面凹部12に対して相対的に突出した表面凸部11は、上面視矩形状に形成されている。
【0024】
表皮材10の裏面10bには、裏面凸部13と裏面凹部14を有する裏面凹凸模様が形成されている。裏面凹凸模様は、エンボス加工によってクッション層3が加熱されて賦形されることによって、クッション層3に追随して引っ張られるようにして形成される。そのため、裏面凸部13は表面凸部11が形成された位置の裏面10b側の同じ位置に形成されている。同様に、裏面凹部14は、表面凹部12が形成された位置の裏面10b側の同じ位置に形成されている。
【0025】
図1に示すように、表皮材10の表面10aには、表面凸部11より小さい微細凸部15及び微細凹部16を有する微細凹凸模様が形成されている。微細凹凸模様は、後に説明するエンボス工程の第1エンボス工程により、第1意匠ロール20に形成された第1微細型押部21によって形成される。微細凸部15に対して相対的に凹んだ微細凹部16は、上面視矩形状に形成されている。微細凹凸模様は、表皮材10の裏面10bには形成されていない。
【0026】
表1に示す表皮材10では、微細凹凸模様は表面10aの全体に格子状に延びている。以下の説明では、便宜上、表面凸部11に形成された微細凹凸模様を凸部微細凹凸模様、表面凹部12に形成された微細凹凸模様を凹部微細凹凸模様と言う場合がある。
【0027】
<エンボス加工装置Tについて>
図2図4に示すように、表皮材10の製造には、第1意匠ロール20、第2意匠ロール30、及びベースロール40を有するエンボス加工装置Tを使用する。エンボス加工装置Tでは、第1意匠ロール20、ベースロール40、及び第2意匠ロール30が、この順に上下方向に配置されている。つまり、一つのベースロール40が、第1意匠ロール20と第2意匠ロール30との間に位置している。
【0028】
図2に示すように、第1意匠ロール20の周面全体には、複数の微細な第1微細型押部21が突出形成されている。第1微細型押部21は、上面視矩形状である。複数の第1微細型押部21は、第1意匠ロール20の軸方向及び周方向にそれぞれ並設されている。そのため、第1微細型押部21の間には、第1微細型押部21に対して相対的に凹んだ第1微細型押凹部22が格子状に延びるように形成されている。
【0029】
図4に示すように、第2意匠ロール30の周面全体には、型押部31が突出形成されている。型押部31は、第2意匠ロール30の軸方向及び周方向に延びるように格子状に形成されている。型押部31の天面は平滑面として形成されている。型押部31の間には、型押部31に対して相対的に凹んだ上面視矩形状の型押凹部32が形成されている。型押凹部32は、第1意匠ロール20に形成された第1微細型押部21や第1微細型押凹部22より大きい。
【0030】
第1意匠ロール20及びベースロール40は、第1意匠ロール20の第1微細型押部21の天面とベースロール40の周面との間に、所定のクリアランスが形成されるように配置されている。ここでのクリアランスは、第1意匠ロール20とベースロール40との間に複合シート1を搬送したとき、第1意匠ロール20の第1微細型押凹部22が、複合シート1の繊維布帛層4の表面に接触しないように設定されている。同様に、第2意匠ロール30及びベースロール40は、第2意匠ロール30の型押部31の天面とベースロール40の周面との間に、所定のクリアランスが形成されるように配置されている。ここでのクリアランスは、第2意匠ロール30とベースロール40との間に複合シート1を搬送したとき、第2意匠ロール30の型押凹部32が、複合シート1の繊維布帛層4の表面に接触しないように設定されている。
【0031】
第1意匠ロール20、第2意匠ロール30、及びベースロール40は、図示しない加熱装置により、それぞれの表面温度を調節可能に構成されている。また、複合シート1に対して所定の圧力を掛けた状態で、所定の搬送速度で搬送可能に構成されている。
【0032】
<表皮材10の製造方法について>
表皮材10の製造方法について、表皮材10の作用とともに説明する。
図2に示すように、表皮材10は、上記エンボス加工装置Tに複合シート1を搬送して、複合シート1にエンボス加工を施すエンボス工程を備えている。エンボス加工装置Tの第1意匠ロール20、第2意匠ロール30、及びベースロール40は、図示しない加熱装置によって加熱されて、その表面温度があらかじめ所定温度に調節されている。
【0033】
エンボス工程は、第1エンボス工程、搬送工程、及び第2エンボス工程を備えている。第1エンボス工程は、第1意匠ロール20とベースロール40との間で複合シート1にエンボス加工を施す工程である。搬送工程は、ベースロール40の周面に沿って複合シート1を搬送する工程である。第2エンボス工程は、第2意匠ロール30とベースロール40との間で複合シート1にエンボス加工を施す工程である。
【0034】
第1エンボス工程では、第1意匠ロール20とベースロール40との間に複合シート1を搬送する。複合シート1は、繊維布帛層4側が第1意匠ロール20側となるように搬送する。複合シート1は、第1意匠ロール20に形成された第1微細型押部21で繊維布帛層4側が加熱押圧される。第1微細型押部21は、第1意匠ロール20の周面全体に形成されていることから、第1エンボス工程を経た複合シート1には、その全面に微細凹凸模様が形成される。なお、図2では、複合シート1に形成された微細凹凸模様、表面凹凸模様、裏面凹凸模様の図示を略している。
【0035】
搬送工程では、ベースロール40の周面に沿って複合シート1を搬送する。複合シート1は、基材層2側がベースロール40に沿うように搬送する。複合シート1は、ベースロール40の周面に半周以上に亘って沿っていることが好ましい。こうすることで、複合シート1がしっかりと加熱されて、クッション層3の賦型性を良好にすることができる。
【0036】
第2エンボス工程では、第2意匠ロール30とベースロール40との間に複合シート1を搬送する。複合シート1は、繊維布帛層4側が第2意匠ロール30側となるように搬送する。複合シート1は、第2意匠ロール30に形成された型押部31で繊維布帛層4側が加熱押圧される。型押部31は、第2意匠ロール30の周面全体に形成されていることから、第2エンボス工程を経た複合シート1には、その全面に表面凹凸模様が形成される。
【0037】
また、搬送工程によってクッション層3の賦型性が良好になっていることから、複合シート1の基材層2側では、型押部31で加熱押圧されたクッション層3の凹凸形状に基材層2が引っ張られて、裏面凹部14が形成される。複合シート1の基材層2側には、表面凹凸模様と同調した裏面凹凸模様が形成される。
【0038】
図5及び図6に示すように、エンボス工程により、表面凹凸模様と裏面凹凸模様が形成されるとともに、表面凸部11に微細凹凸模様が形成された表皮材10が得られる。表面凸部11に微細凹凸模様が形成されているのは、第2意匠ロール30の型押凹部32が、第1意匠ロール20に形成された第1微細型押部21や第1微細型押凹部22より大きいことによる。また、第2エンボス工程では、第2意匠ロール30の型押凹部32が、複合シート1の繊維布帛層4の表面に接触しないことによる。そのため、表面凸部11に微細凹凸模様が残存した状態の表皮材10、つまり、表面凸部11に凸部微細凹凸模様が形成された表皮材10が得られる。
【0039】
一方で、図5に示す表皮材10は、表面凹部12にも微細凹凸模様が形成されているのに対し、図6に示す表皮材10では、表面凹部12に微細凹凸模様が形成されていない。つまり、図5に示す表皮材10には、凹部微細凹凸模様が形成されているのに対し、図6に示す表皮材10には、凹部微細凹凸模様が形成されていない。これは、第2エンボス工程での第2意匠ロール30の表面温度によるものである。なお、図5に示す表皮材10は、図1に示す表皮材10と同じである。
【0040】
次に、エンボス加工装置Tの第1意匠ロール20、第2意匠ロール30,及びベースロール40の表面温度について説明する。ここでは、基材層2及び繊維布帛層4がポリエステル製であり、クッション層3が発泡ポリウレタンフォームである場合について説明する。
【0041】
第1意匠ロール20の表面温度は、150℃以上に調節することが好ましい。これは、図5図6に示す表皮材10に共通である。第1意匠ロール20の表面温度が150℃以上であると、微細凹凸模様の耐摩耗性を向上させることができる。
【0042】
ベースロール40の表面温度は、第1意匠ロール20の表面温度以上であって、200℃以上に調節することが好ましい。これは、図5図6に示す表皮材10に共通である。ベースロール40の表面温度がこの範囲であると、搬送工程で複合シート1がしっかり加熱されて、クッション層3が十分温められる。そのため、第2エンボス工程では、クッション層3が収縮し易くなる。繊維布帛層4側の表面がクッション層3に引っ張られるように賦形されて、表面凹凸模様をしっかり賦形することができる。同様に、基材層2側の裏面がクッション層3に引っ張られるように賦形されて、表面凹凸模様に同調した裏面凹凸模様が形成される。また、表面凸部11と表面凹部12での厚みの差が大きくなって、メリハリのある表面凹凸模様を形成することができる。明瞭な表面凹凸模様となる。
【0043】
図5及び図6に示すように、表面凹部12での表皮材10の厚みをTa、表面凸部11での表皮材の厚みをTbとしたとき、100×(Tb-Ta)/Tbの式で算出される値を厚み変化率(%)として定義する。ベースロール40の表面温度を、第1意匠ロール20の表面温度以上であって、200℃以上に調節することにより、表皮材10の厚み変化率(%)を30%以上にすることができる。厚み変化率(%)が30%以上であると、明瞭な凹凸模様として実感することができる。
【0044】
第2意匠ロール30の表面温度は、図5に示す表皮材10と図6に示す表皮材10とで異なっている。図5に示す表皮材10では、第2意匠ロール30の表面温度を80℃以上120℃以下の範囲に調節することが好ましい。第2意匠ロール30の表面温度がこの範囲であると、複合シート1の全体に形成された微細凹凸模様が、型押部31によって押し潰されない。その結果、図5に示すように、第2エンボス工程後の表面凹部12には、微細凹凸模様が凹部微細凹凸模様として残存することになる。
【0045】
図6に示す表皮材10では、第2意匠ロール30の表面温度を150℃以上であって、ベースロール40の表面温度より低くなるように調節することが好ましい。第2意匠ロール30の表面温度がこの範囲であると、複合シート1の全体に形成された微細凹凸模様が、型押部31によって押し潰される。その結果、表面凹部12は、型押部31の天面に沿った平滑面となって、微細凹凸模様が残存せず、凹部微細凹凸模様が形成されていない表皮材10となる。
【0046】
第1実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)表皮材10の表面10aは、表面凸部11及び表面凹部12を有する表面凹凸模様と、表面凸部11より小さい微細凸部15を有する微細凹凸模様とを有している。微細凹凸模様は、表面凸部11に形成されている。表面凸部11の表面に微細な凸部微細凹凸模様が形成されていることで、表皮材10の意匠性が向上する。
【0047】
(2)図5に示す表皮材10では、微細凹凸模様が表面10a全体に形成されている。そのため、表面10a全体に表面凹凸模様と微細凹凸模様とが形成された状態となり、複雑な意匠を形成することができる。表皮材10の意匠性が向上する。
【0048】
(3)図6に示す表皮材10では、微細凹凸模様は表面凸部11のみに形成されている。そのため、表面凸部11と表面凹部12とのメリハリがついて、明瞭な意匠を形成することができる。
【0049】
(4)表皮材10の製造方法では、第1意匠ロール20と第2意匠ロール30との間に、一つのベースロール40が配置されたエンボス加工装置Tを使用してエンボス加工を行っている。そして、第1意匠ロール20の周面には、第1微細型押部21が形成されており、第2意匠ロール30の周面には、第1微細型押部21より大きい型押部31が形成されている。そのため、第1意匠ロール20でのエンボス加工と、第2意匠ロール30でのエンボス加工をワンパスで行うことができる。
【0050】
(5)第1意匠ロール20の周面には、第1微細型押部21が形成されており、第2意匠ロール30の周面には、第1微細型押部21より大きい型押部31が形成されている。そのため、表面凹凸模様と微細凹凸模様と言う2種類の凹凸模様を有する意匠性に優れた表皮材10をワンパスで製造することができる。
【0051】
(6)エンボス工程は、加熱されたベースロール40の周面に複合シート1を沿わせて搬送する搬送工程を備えている。そのため、複合シート1をしっかり加熱することができ、クッション層3の賦型性を良好にすることができる。繊維布帛層4がクッション層3に引っ張られるように賦形されることで、表面凸部11と表面凹部12との厚みの差が大きくなる。メリハリのついた意匠を形成することができる。
【0052】
(7)ベースロール40の表面温度は、第1意匠ロール20の表面温度以上であって、200℃以上に調節している。そのため、搬送工程ではクッション層3が加熱され、第2エンボス工程では、クッション層3が収縮し易くなる。これにより、繊維布帛層4側の表面がクッション層3に引っ張られるように賦形されて、厚み変化率(%)が30%以上で、明瞭な表面凹凸模様が形成された表皮材10が得られる。また、表面凹凸模様をしっかり賦形することができて、耐摩耗性に優れた表面凹凸模様を形成することができる。
【0053】
(8)第2意匠ロール30の表面温度を80℃以上120℃以下の範囲に調節することで、図5に示すような表皮材10が得られる。また、第2意匠ロール30の表面温度を150℃以上であって、ベースロール40の表面温度より低くなるように調節することで、図6に示すような表皮材10が得られる。第2意匠ロール30の表面温度を調節することで、同じエンボス加工装置Tを使用して、異なる意匠の表皮材10を製造することができる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した座席用表皮材としての第2実施形態の表皮材17及びその製造方法について、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。同様の構成には同じ符号を付して説明する。
【0055】
第2実施形態の表皮材17には、第1実施形態の表皮材10と同様の形状の表面凹凸模様、裏面凹凸模様が形成されている。つまり、第2実施形態の表皮材17の表面17aには、上面視矩形状の複数の表面凸部11と格子状に延びる表面凹部12が形成されている。また、表皮材17の裏面17bには、複数の裏面凸部13と格子状に延びる裏面凹部14が形成されている。
【0056】
図9は第2実施形態の表皮材17の端面図及び表面17aの模式図を示している。図9(a)は表皮材17の部分端面図である。また、図9(a)と(b)の間を点線で繋いでいるように、図9(b)は図9(a)を表面17a側から見た場合の模式図である。
【0057】
図9(b)に示すように、表面17aの一部の表面凸部11には、格子状に延びる微細凸部51を有する凸部微細凹凸模様が形成されている。他の一部の表面凸部11には、微細凸部51に対して交差するように延びる格子状の微細凸部52を有する凸部微細凹凸模様が形成されている。また、表面17aの一部の表面凹部12には、平行に延びる線状の微細凸部53を有する凹部微細凹凸模様が形成されている。他の一部の表面凹部12には、微細凸部53に対して交差するように延びる線状の微細凸部54を有する凹部微細凹凸模様が形成されている。このように、第2実施形態の表皮材17では、表面凸部11には、第1の凸部微細凹凸模様と、第1の凸部微細凹凸模様とは異なる形状の第2の凸部微細凹凸模様が形成されている。また、表面凹部12には、第1の凹部微細凹凸模様と、第1の凹部微細凹凸模様とは異なる形状の第2の凹部微細凹凸模様が形成されている。
【0058】
第2実施形態の表皮材17は、第1実施形態の表皮材10と同様に、図2に示すエンボス加工装置Tを使用して製造する。第2実施形態では、第1意匠ロール20、第2意匠ロール30に換えて、図7に示す第1意匠ロール23、図8に示す第2意匠ロール33をエンボス加工装置Tに取り付けて行う。
【0059】
図7に示すように、第1意匠ロール23の周面の一部には、複数の微細型押領域24が突出形成されている。微細型押領域24には、上面視矩形状の複数の第1微細型押部26が形成されている。第1微細型押部26は、第1意匠ロール23の軸方向及び周方向に並設されている。微細型押領域24は、複数の第1微細型押部26が並設されて、上面視矩形状の領域として形成されている。
【0060】
また、第1意匠ロール23の周面の他の一部には、複数の微細型押領域25が突出形成されている。微細型押領域25には、上面視矩形状の複数の第1微細型押部27が形成されている。第1微細型押部27は、第1意匠ロール23の軸方向及び周方向に交差する方向に並設されている。微細型押領域25は、複数の第1微細型押部27が並設されて、上面視矩形状の領域として形成されている。
【0061】
第1意匠ロール23の周面において微細型押領域24,25が形成されていない部分は、平面としての平面領域28を構成している。平面領域28は、第1意匠ロール23の軸方向及び周方向に延びるように格子状に形成されている。
【0062】
図8(a)に示すように、第2意匠ロール33の周面全体には、型押部34が突出形成されている。型押部34は、第2意匠ロール33の軸方向及び周方向に延びるように格子状に形成されている。第2意匠ロール33の型押部34は、第1意匠ロール23の平面領域28と同一ピッチで形成されている。つまり、第2意匠ロール33の型押部34と第1意匠ロール23の平面領域28は同調している。
【0063】
図8(b)に示すように、型押部34の一部には、天面に、複数の第2微細型押部35が突出形成されている。第2微細型押部35は、第2意匠ロール33の軸方向及び周方向に交差する方向に延びる線状に形成されている。第2微細型押部35が形成された型押部34を型押部34aとする。
【0064】
図8(c)に示すように、型押部34の他の一部には、天面に、複数の第2微細型押部36が突出形成されている。第2微細型押部36は、第2意匠ロール33の軸方向及び周方向に交差する方向に延びる線状に形成されている。また、第2微細型押部36は、第2微細型押部35と直交する方向に延びている。第2微細型押部36が形成された型押部34を型押部34bとする。
【0065】
次に、表皮材17の製造方法について説明する。表皮材17の製造方法は、エンボス加工装置Tに第1意匠ロール23、第2意匠ロール33を取り付けて行う以外は、表皮材10の製造方法とほぼ同様である。
【0066】
第1エンボス工程では、第1意匠ロール23とベースロール40との間に複合シート1を搬送する。複合シート1は、第1意匠ロール23に形成された微細型押領域24、25で繊維布帛層4側が加熱押圧される。微細型押領域24には、複数の第1微細型押部26が第1意匠ロール23の軸方向及び周方向に並設されている。そのため、複合シート1の表面の一部には、格子状に延びる微細凸部51を有する微細凹凸模様が、上面視矩形状に形成される。また、微細型押領域25には、複数の第1微細型押部27が第1意匠ロール23の軸方向及び周方向に交差する方向に並設されている。そのため、複合シート1の表面の他の一部には、微細凸部51に対して交差するように延びる微細凸部52を有する微細凹凸模様が、上面視矩形状に形成される。
【0067】
第1意匠ロール23の周面には、軸方向及び周方向に延びるように平面領域28が格子状に形成されている。そのため、複合シート1に形成された上面視矩形状の微細型押領域24、25の間には、微細凹凸模様が形成されていない領域が格子状に延びている。
【0068】
搬送工程では、第1実施形態と同様に、ベースロール40の周面に沿って複合シート1を搬送する。ベースロール40によって複合シート1が加熱される。
第2エンボス工程では、第2意匠ロール33とベースロール40との間に複合シート1を搬送する。複合シート1は、繊維布帛層4側が第2意匠ロール33側となるように搬送する。複合シート1は、第2意匠ロール30に形成された型押部31で繊維布帛層4側が加熱押圧される。第2意匠ロール33の型押部34は第1意匠ロール23の平面領域28と同調していることから、複合シート1において微細凹凸模様が形成されていない領域が型押部34によって加熱押圧されて表面凹部12及び裏面凹部14が形成される。また、型押部34によって加熱押圧されない部分は表面凸部11及び裏面凸部13となる。
【0069】
型押部34は、複数の第2微細型押部35が突出形成された型押部34aと、複数の第2微細型押部36が形成された型押部34bを有している。そのため、表面凹部12には、平行に延びる線状の微細凸部53を有する凹部微細凹凸模様と、微細凸部53に対して交差するように延びる線状の微細凸部54を有する凹部微細凹凸模様とが形成される。
【0070】
第2エンボス工程では、第2意匠ロール33の型押部34によって微細凸部53、54を賦形する。そのため、第2意匠ロール33の表面温度を150℃以上であって、ベースロール40の表面温度より低くなるように調節することが好ましい。第2意匠ロール33の表面温度を比較的高く調節することで、表面凹凸模様を明瞭に形成することができるとともに、表面凹部12での凹部微細凹凸模様を明瞭に形成することができる。
【0071】
第2実施形態によれば、第1実施形態の(1)、(2)、(4)~(7)に加えて、以下のような効果を得ることができる。
(9)表皮材17の表面17aは、表面凸部11及び表面凹部12を有する表面凹凸模様と、表面凸部11より小さい微細凸部51、52、53、54を有する微細凹凸模様とを有している。表面凸部11は、微細凸部51を有する凸部微細凹凸模様が形成されたものと、微細凸部52を有する凸部微細凹凸模様が形成されたものを有している。表面凹部12は、微細凸部53を有する凹部微細凹凸模様が形成された領域と、微細凸部54を有する凹部微細凹凸模様が形成された領域とを有している。そのため、複雑な凹凸模様が形成された表皮材17が得られる。
【0072】
(10)第1意匠ロール23の平面領域28と第2意匠ロール33の型押部34は同調している。そして、第2意匠ロール33の型押部34には、第2微細型押部35、36が突出形成されている。そのため、表面凸部11に微細凸部51、52が形成され、表面凹部12に微細凸部53、54が形成された表皮材17をワンパスで製造することができる。
【0073】
(11)第2意匠ロール30の表面温度は、150℃以上であって、ベースロール40の表面温度より低くなるように調節している。そのため、表面凹部12の凹部微細凹凸模様を明瞭に形成することができる。
【0074】
(変更例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて適用することができる。
【0075】
・上記各実施形態の複合シート1は、基材層2、クッション層3、繊維布帛層4が積層一体化されたものとして構成されているが、層構成はこれに限定されない。基材層2を備えておらず、クッション層3と繊維布帛層4から構成されていてもよい。また、これらの層構成以外に他の層を備えていてもよい。例えば、上記各実施形態では繊維布帛層4が最表層として構成されているが、繊維布帛層4の表層側に色材がプリントされたような色材層が設けられていてもよい。
【0076】
・上記各実施形態の表面凸部11、表面凹部12、微細凹部16、微細凸部15、51、52、53、54は規則的に並設されているが、不規則に並設されていてもよい。
・第1実施形態の表皮材10の表面凹凸模様、裏面凹凸模様、及び微細凹凸模様の形状、配置は、上記実施形態のものに限定されない。つまり、第1意匠ロール20の第1微細型押部21、第2意匠ロール30の型押部31の形状、配置は、上記実施形態のものに限定されない。第2実施形態の表皮材17、第1意匠ロール23、第2意匠ロール33についても同様である。
【0077】
・第1実施形態の第1意匠ロール20は、周面全体に第1微細型押部21が形成されていなくてもよい。例えば、第2意匠ロール30の型押部31と同調する部分の一部に第1微細型押部21が形成されていなくてもよい。これにより、表面凹部12の一部に凹部微細凹凸模様が形成され、表面凹部12の他の一部に凹部微細凹凸模様が形成されていない表皮材10を製造することができる。
【0078】
・第2実施形態の第2意匠ロール33は、型押部34の天面に第2微細型押部35、36が形成されているが、第2微細型押部35、36が形成されていなくてもよい。第2意匠ロール33の型押部34に第2微細型押部35、36が形成されていないと、図10(a)及び(b)に示すような表皮材17を製造することができる。つまり、第2エンボス工程では、表面凸部11及び表面凹部12からなる表面凹凸模様を形成するが、表面凹部12には、凹部微細凹凸模様を形成されない。
【0079】
・第2実施形態の第2意匠ロール33は、第2微細型押部35、36が形成された型押部34と、第2微細型押部35、36が形成されていない型押部34とが混在していてもよい。つまり、一部の型押部34の天面は平滑面とされていてもよい。こうすると、表面凹部12の一部に凹部微細凹凸模様が形成された表皮材17を製造することができる。
【0080】
・第2実施形態の第1意匠ロール23の第1微細型押部26、27はすべて同じ形状であってもよい。第1微細型押部26、27がすべて同じ形状であると、図10(a)及び(b)に示すように、すべての表面凸部11に同じ形状の凸部微細凹凸模様が形成された表皮材17を製造することができる。
【0081】
・第2実施形態の第1意匠ロール23の第1微細型押部26、27は、第1微細型押部26、27の2種類だけでなく、3種類以上の第1微細型押部で構成されていてもよい。第2意匠ロール33の第2微細型押部35、36についても同様である。
【0082】
・エンボス加工装置Tに第2実施形態の第1意匠ロール23と、第1実施形態の第2意匠ロール30を取り付けてもよい。この場合、第1意匠ロール23の平面領域28の形成位置と、第2意匠ロール30の型押部34とが同調している。こうした組み合わせによっても、図10(a)及び(b)に示すような、表面凹部12には、凹部微細凹凸模様を形成されていない表皮材17を製造することができる。
【0083】
上記実施形態から把握される技術思想について以下に記載する。
(イ)繊維布帛層と、クッション層とが積層一体化されてなり、エンボス加工による凹凸模様が形成された座席用表皮材であって、前記凹凸模様は、前記繊維布帛層が積層された側である表面に形成され、複数の表面凸部及び表面凹部を有する表面凹凸模様と、前記表面凸部より小さい複数の微細凸部を有する微細凹凸模様と、前記クッション層が積層された側である裏面に形成され、裏面凸部及び裏面凹部を有する裏面凹凸模様とを有し、前記裏面凸部は、前記表面凸部が形成された位置の裏面側の同じ位置に形成されているとともに、前記裏面凹部は、前記表面凹部が形成された位置の裏面側の同じ位置に形成されており、前記微細凹凸模様は前記表面凸部に形成されている。
【0084】
(ロ)繊維布帛層と、クッション層とが積層一体化されてなり、エンボス加工による凹凸模様が形成された座席用表皮材であって、前記凹凸模様は、前記繊維布帛層が積層された側である表面に形成され、複数の表面凸部及び表面凹部を有する表面凹凸模様と、前記表面凸部より小さい複数の微細凸部を有する微細凹凸模様と、前記クッション層が積層された側である裏面に形成され、裏面凸部及び裏面凹部を有する裏面凹凸模様とを有し、前記裏面凹凸模様は前記表面凹凸模様と同調しており、前記微細凹凸模様は前記表面凸部に形成されている。
【0085】
(ハ)座席用表皮材の製造に使用するエンボス加工装置であって、第1意匠ロールと第2意匠ロールとの間に、一つのベースロールが配置されており、前記第1意匠ロール、前記第2意匠ロール、及び前記ベースロールは、それぞれの表面温度を調節可能に構成され、前記第1意匠ロールの周面全体には、複数の微細型押部が形成され、前記第2意匠ロールの周面には、前記微細型押部より大きい型押部が形成されている。
【実施例
【0086】
以下、上記各実施形態の表皮材10について、実施例により詳述する。
(実施例1)
<表皮材10の調製>
実施例1の表皮材10は、基材層2、クッション層3、繊維布帛層4がフレームラミネート加工により積層一体化された複合シート1を使用して調製した。基材層2は、厚み約0.5mm、目付量40g/mのポリエステル製の丸編地である。クッション層3は、厚み約5.0mm、密度20kg/mの発泡ポリウレタンフォームである。繊維布帛層4は、ポリエステル製の長繊維を使用した厚み約1.0mmの織物である。複合シート1の総厚みは約6.5mmである。
【0087】
エンボス加工装置としては、図2図4に示すものを使用した。第1意匠ロール20の周面全体には、立方体形状の複数の第1微細型押部21が形成されている。また、第2意匠ロール30の周面全体には、格子状に延びる型押部31が形成されている。ベースロール40の周面全体は平滑面として形成されている。
【0088】
第1意匠ロール20及びベースロール40は、第1意匠ロール20の第1微細型押部21の天面とベースロール40の周面との間に、所定のクリアランスが形成されるように配置されている。これにより、第1意匠ロール20とベースロール40との間に複合シート1を通したとき、第1意匠ロール20の第1微細型押凹部22が、複合シート1の繊維布帛層4に接触しない。同様に、第2意匠ロール30及びベースロール40は、第2意匠ロール30の型押部31の天面とベースロール40の周面との間に、所定のクリアランスが形成されるように配置されている。これにより、第2意匠ロール30とベースロール40との間に複合シート1を通したとき、第2意匠ロール30の型押凹部32が、複合シート1の繊維布帛層4に接触しない。
【0089】
エンボス工程は、第1意匠ロール20の表面温度が190℃、第2意匠ロール30の表面温度が100℃、ベースロール40の表面温度が230℃となるように調節して行った。第1意匠ロール20から複合シート1に掛かる圧力、第2意匠ロール30から複合シート1に掛かる圧力は、ともに50kgf/cmとなるように調節した。複合シート1は、2m/minの加工スピードで搬送した。エンボス工程を経て、実施例1の表皮材10が得られた。
【0090】
実施例1の表皮材10には、図5に示すような凹凸模様が形成された。つまり、表皮材10の表面10aには、表面凸部11と表面凹部12を有する表面凹凸模様と、表面凸部11より小さい微細凸部15を有する微細凹凸模様が形成されていた。微細凹凸模様は、表面凸部11及び表面凹部12の双方に形成されていた。また、表皮材10の裏面10bには、裏面凸部13と裏面凹部14を有する裏面凹凸模様が、表面凹凸模様と同調して形成された。
【0091】
<表面凹凸模様、微細凹凸模様の摩耗試験>
得られた実施例1の表皮材10について、表面凹凸模様、微細凹凸模様のそれぞれについて摩耗試験を行い、表面凹凸模様、微細凹凸模様の摩耗強さを評価した。
【0092】
摩耗試験は、テーパー摩耗試験機を用いて、摩耗輪CS10、荷重4.9N、回転速度60rpmの条件で、1000回行った後の表面凹凸模様、微細凹凸模様の状態について評価した。耐摩耗性の評価は下記の基準で行った。その結果を表1に示した。
【0093】
◎;凹凸模様の柄消えやプリントの剥がれがない。
〇;凹凸模様の柄がやや薄まり、プリントの剥がれがない。
×;凹凸模様の柄が薄まり、プリントの剥がれが見られる。
【0094】
<表皮材10の厚み変化率の測定>
表皮材10の表面凹凸模様の明瞭さや、深く、大きな凹凸模様が形成されているかを見るために、表皮材10の厚み変化率(%)を算出した。表面凹部12での表皮材10の厚みをTa、表面凸部11での表皮材10の厚みをTbとしたとき、厚み変化率(%)は、100×(Tb-Ta)/Tbの式に基づいて算出した。表皮材10の厚みは、マイクロスコープ(ホーザン株式会社製、L-KIT581)を使用して測定した。その結果を表1に示した。
【0095】
(実施例2)
実施例2の表皮材10は、エンボス加工装置Tの第1意匠ロール20及び第2意匠ロール30の表面温度が実施例1と異なっている。第1意匠ロール20の表面温度は200℃、第2意匠ロール30の表面温度は180℃に調節した。これ以外は、実施例1と同様の条件である。
【0096】
実施例2の表皮材10には、図6に示すような凹凸模様が形成された。つまり、表皮材10の表面10aには、表面凸部11と表面凹部12を有する表面凹凸模様と、表面凸部11より小さい微細凸部15を有する微細凹凸模様が形成されていた。微細凹凸模様は、表面凸部11のみに形成されていた。また、表皮材10の裏面10bには、裏面凸部13と裏面凹部14を有する裏面凹凸模様が、表面凹凸模様と同調して形成された。
【0097】
(実施例3)
実施例3の表皮材17は、エンボス加工装置Tに図7に示す第1意匠ロール23を取り付けたことと、第1意匠ロール23、第2意匠ロール30、及びベースロール40の表面温度が実施例1と異なっている。第1意匠ロール23の平面領域28の形成位置は、第2意匠ロール30の型押部34と同調している。第1意匠ロール20の表面温度は160℃、第2意匠ロール30の表面温度は190℃、ベースロール40の表面温度は220℃に調節した。これら以外は、実施例1と同様の条件である。
【0098】
実施例3の表皮材17には、図10に示すような凹凸模様が形成された。つまり、表皮材17の表面17aでは、表面凸部11の頂面のみに凸部微細凹凸模様が形成された。表面凹部12は平滑面として形成された。また、表皮材10の裏面10bには、裏面凸部13と裏面凹部14を有する裏面凹凸模様が、表面凹凸模様と同調して形成された。
【0099】
(比較例1)
比較例1の表皮材は、エンボス加工装置Tの第1意匠ロール20及び第2意匠ロール30の表面温度が実施例1と異なっている。第1意匠ロール20の表面温度は100℃、第2意匠ロール30の表面温度は190℃に調節した。これ以外は、実施例1と同様の条件である。比較例1の表皮材には、図6に示すような凹凸模様が形成された。
【0100】
(比較例2)
比較例2の表皮材は、エンボス加工装置Tのベースロール40の表面温度のみが実施例1と異なっている。ベースロール40の表面温度は160℃に調節した。これ以外は、実施例1と同様の条件である。比較例2の表皮材には、図5に示すような凹凸模様が形成された。
【0101】
実施例2、3、比較例1、2の表皮材10、17についても、表面凹凸模様、微細凹凸模様の摩耗試験、及び表皮材10、17の厚み変化率の測定を行った。これらの結果を表1に示した。
【0102】
【表1】
表1の結果より、上記複合シートで調製した表皮材10、17では、ベースロール40の表面温度を、第1意匠ロール20、23の表面温度以上であって200℃以上に調節することで、厚み変化率が30%以上となることがわかった。第2エンボス工程では、温められたクッション層3が、第2意匠ロール30、33の型押部31、34に押圧されて繊維布帛層4とともに賦形される際に収縮しようとする。そして、繊維布帛層4側の表面10a、17aがクッション層3に引っ張られるように賦形される。ベースロール40の表面温度が200℃以上であることにより、複合シート1のクッション層3が十分温められて、第2エンボス工程での賦型性が良好になることによると考えられる。これにより、賦形された表面凹凸模様は、より深く大きな意匠となった。また、厚み変化率が30%以上であることで、メリハリのついた明瞭な凹凸模様となった。
【0103】
一方、ベースロール40の表面温度が160℃と低い比較例2では、搬送工程においてクッション層3の加熱が十分でないことから、クッション層3に対する賦型性が十分でないと考えられる。そのため、クッション層3によって引っ張られるような効果が得られ難く、厚み変化率が小さい結果となった。
【0104】
表1の結果より、第1意匠ロール20、23の表面温度を150℃以上に調節することで、耐摩耗性に優れた微細凹凸模様が形成されることがわかった。
また、実施例1~3の比較から、ベースロール40の表面温度が200℃以上に調節されている場合、第2意匠ロール30、33の表面温度が低いほうが、微細凹凸模様の耐摩耗性が優れていることがわかった。これは、第1意匠ロール20、23により賦形された微細凹凸模様が、第2意匠ロール30、33による熱の影響を受け難いためであると考えられる。ベースロール40による複合シート1の加熱が十分に行われていれば、第2意匠ロール30、33の表面温度が低いほうが、微細凹凸模様の耐摩耗性が向上すると言える。
【符号の説明】
【0105】
1…複合シート、3…クッション層、4…繊維布帛層、10、17…表皮材(座席用表皮材)、10a、17a…表面、11…表面凸部、12…表面凹部、15、51、52、53、54…微細凸部、20、23…第1意匠ロール、21、26、27…第1微細型押部、30、33…第2意匠ロール、35、36…第2微細型押部、31、34、34a、34b…型押部、40…ベースロール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10