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特許7403854磁気共鳴環境用の神経モニタリングケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】磁気共鳴環境用の神経モニタリングケーブル
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/31 20210101AFI20231218BHJP
   A61B 5/291 20210101ALI20231218BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
A61B5/31
A61B5/291
A61B5/055 390
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021541055
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 US2020013514
(87)【国際公開番号】W WO2020150241
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】62/793,173
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521311001
【氏名又は名称】リズムリンク インターナショナル, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クロンベルク ジェームズ ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】フロイド ハリソン
(72)【発明者】
【氏名】マッコイ ダニエル イー.
(72)【発明者】
【氏名】オーシンガー ガブリエル
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05445162(US,A)
【文献】米国特許第05217010(US,A)
【文献】米国特許第10170874(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/31
A61B 5/291
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴環境用の神経モニタリング装置であって、
神経の電気信号をモニタリングするように構成された神経電極と、
増幅器に取り付ける働きをするコネクタと、
第1の端部及び第2の端部を有するケーブルと、を備え、
前記ケーブルの前記第1の端部が前記神経電極に電気的に接続され、前記ケーブルの前記第2の端部が前記コネクタに電気的に接続され、
前記ケーブルが、リードワイヤを含まない無線周波数のインラインフィルタモジュールを含み、前記インラインフィルタモジュールが、小型の表面実装構成要素で構成され、前記表面実装構成要素が、複数の抵抗器、及び前記複数の抵抗器と直列状態にあり、前記複数の抵抗器と交互に配置された複数のインダクタを含み、コンデンサを含まない、装置。
【請求項2】
前記複数のインダクタがN個のインダクタであり、前記複数の抵抗器がN+1個の抵抗器である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記複数の抵抗器のうちの1つの抵抗器が、前記複数の抵抗器のうちの別の抵抗器と同じ抵抗を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記複数のインダクタのうちの1つのインダクタが、前記複数のインダクタのうちの別のインダクタと同じインダクタンスを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記複数のインダクタが、1マイクロヘンリーと2マイクロヘンリーとの間の総インダクタンスを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記複数のインダクタが、1370ナノヘンリーと1800ナノヘンリーとの間の総インダクタンスを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記複数の抵抗器が、1オームと1000オームとの間の総抵抗を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記複数の抵抗器が、10オームと60オームとの間の総抵抗を有する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記インラインフィルタモジュールが第1の端部及び第2の端部を有し、前記インラインフィルタモジュールの前記第1の端部が第1の接点を含み、前記インラインフィルタモジュールの前記第2の端部が第2の接点を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記第1の接点及び前記第2の接点が非磁性である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記インラインフィルタモジュールが、非導電性ポリマーから作製された外層又はハウジングを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記非導電性ポリマーが、エポキシ、シリコーンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン及びポリプロピレンから構成される群より選択される、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記インラインフィルタモジュールが、複数の抵抗器と、前記抵抗器で始端し、かつ終端する電気的に直列関係に前記抵抗器と交互に配置された複数のインダクタと、を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記複数の抵抗器及び前記複数のインダクタの数、構成要素値、及び配置が、磁気共鳴処置中に前記ケーブル内の抵抗加熱を低減し、かつ分散させ、それによって抵抗加熱を最小限に抑えるように選択される、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気共鳴環境における脳波計電極の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脳波計(Electroencephalograph:EEG)電極は、神経モニタリングに使用されている。EEG電極は、電極、ケーブル及びコネクタを備えるシステムの一部である。この電極は患者に装着され、脳内の電気信号をピックアップするか、脳内の神経を刺激するものであり、このケーブルは、一端が電極に取り付けられ、他端がコネクタを介して増幅器に取り付けられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このケーブルが、磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging:MRI)装置によって生成されるような無線周波数(RF)で振動する磁場の存在下にある場合、ケーブルはアンテナとして作用する傾向があり、無線周波(RF)エネルギーを伝導する。このケーブル内のRFエネルギーは、ケーブルと、これに接続されたあらゆる電気抵抗材料を加熱する。このケーブルが患者の皮膚に装着された電極に接続されている場合、皮膚/電極界面での抵抗加熱が熱傷を招く恐れがある。
【0004】
MRIモニタリングは病院の処置手法として一般的であるため、そのような損傷を回避するために、MRI装置の周辺で処置や予防措置が取られている。皮肉なことに、その磁場が強いほど、またその無線周波数が高いほど、MRイメージングから得られる画質は良好になるが、一方で抵抗加熱が大きくなり、熱傷が生じる可能性も高くなる。
【0005】
神経モニタリングを必要とし、MRI処置を受けることになる患者にMRI熱傷の危険性が及ぶため、電極は通常、イメージング処置の前に患者から取り外され、その後に再度装着される。患者への電極の装着及び再装着は検査助手によって行われ、この作業には時間や費用がかかる。その上、MRI処置を受けているとき、患者自身はモニタリングされていない。
【0006】
しかしながら、条件付きであるMRイメージング中に、患者の頭部に装着されたままとなり得る電極システムが存在する。これらの電極システムは通常、「条件付きMRI」と呼ばれる。これらの電極の使用条件は、MRイメージング装置の磁場強度や、患者がこれらの電極システムを装着されたままで、この磁場に留まることができる時間に対する制限を含み得る。条件付きMRI対応電極システムは、例えば磁場にあまり反応しない異なる材料を使用するか、又は電極ケーブルに挿入されるタンクフィルタ(インダクタ-コンデンサ回路)を使用して、不要なRFエネルギーを遮断することができる。ところが、タンクフィルタは周波数固有であるため、MRI装置で使用される場合、加熱を低減する上で必ずしも効果的とは言えない。これらのフィルタをMRIで使用される周波数の通りに個別に調整する必要があるため、それらを構築するのに相対的に費用がかかり、多大な労力を要することにもなる。
【0007】
このため、MRイメージング中に患者に装着される電極システムで生じるRF加熱を回避又は最小限に抑えるためのより優れた方法が、引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
主要な態様を簡潔に記載すると、その態様によれば、電極システムのケーブル内の最適位置に直列挿入されるインダクタと抵抗器とを結合させることで、加熱を低減し、タンクフィルタよりも周波数固有性が低い無線周波フィルタが形成されることが分かった。
【0009】
本開示の一態様は、本インラインフィルタの構成要素が、正確な調整を必要とするタンクフィルタを含んでいないということである。
【0010】
本開示の一態様は、インラインフィルタの抵抗器及びインダクタの値や数が、電極システム内の無線周波(RF)電力、とりわけ電極の下及び近傍にある皮膚への熱放散を低減するように選択されることである。
【0011】
本開示の一態様は、本インラインフィルタのための構成要素の値や配置が、抵抗器とインダクタとが交互になる関係を通じて、電極システム内のRF電力を削減し、過剰加温を低減するように選択されることである。
【0012】
本開示の別の態様は、ケーブル内でインライン構成要素の位置を選択する際、その電極システム内のRF電力を削減するように選択されることである。
【0013】
本開示の一態様は、ケーブル内でインラインRFフィルタの位置、数並びに構成要素タイプ及び値、並びに配置を選択する際、広範囲の無線周波数にわたってRF電力を削減するように選択されることである。
【0014】
本開示の別の態様は、本インラインRFフィルタの構成要素が、ストック値の構成要素であってもよいことである。
【0015】
本開示の一態様は、本RFフィルタが、小型のインラインフィルタモジュールを含む、生体適合性電気絶縁材料によって包囲された、小型で無鉛の表面実装可能な構成要素で構成されていることである。
【0016】
本開示の別の態様は、すべてのモジュール材料及びフィルタ構成要素が、磁性材料を全く含有しないか、又はニッケルめっきを含むそのような材料を、少なくとも実行可能な最小量だけ含有するように選択され、その結果として、非常に強い磁場における危険な引力によるリスクを最小限に抑えていることである。
【0017】
本開示の一態様は、典型的なEEG増幅器で最適な性能を得るために必要とされる、約1000オーム以下の抵抗を、本RFフィルタで使用していることである。
【0018】
本開示の別の態様は、フェライトを含まないインダクタを本RFフィルタで使用していることであり、その結果として、危険な引力によるリスクだけでなく、強磁場においてフェライトの特性を変化させるような磁気飽和によるリスクも、最小限に抑えていることである。
【0019】
本開示の別の態様は、インラインRFフィルタの総インダクタンスが、磁性材料を使用せずとも容易に達成される、1~2マイクロヘンリーの範囲にあってもよいことである。
【0020】
本開示の一態様は、RFフィルタを備える神経電極システムが、本RFフィルタ内の少なくとも1つのインダクタと直列状態にある、少なくとも1つの抵抗器を有することである。
【0021】
本開示の別の態様は、これらの構成要素が、電極ケーブルにおいてインラインで使用するための、小型のフィルタモジュールとして構成されていることである。
【0022】
本開示のさらに別の態様は、前記ケーブルの第1の端部と第2の端部との間で、ソフトウェアにおけるアンテナシステムのシミュレーションによって検出され、その後、適度な回数の実地実験によって改良される位置において設計されたインラインフィルタモジュールを設置するにあたり、前記フィルタモジュールを設置する位置を少なくとも1つ改良することで、患者の皮膚に結合して向かうRFエネルギーを減少させ、その結果として、熱傷の危険性を低減していることである。
【0023】
本開示のさらに別の態様は、240ミリメートルから1000ミリメートル(1メートル)までの範囲内のケーブルにおいて、無線周波数減衰器の一実施形態で述べた小型のフィルタモデルを使用するにあたり、単純な数式を用いてその改良位置を求めてもよいことである。
【0024】
本開示の一態様は、本インラインフィルタモジュールで、電気的に直列に接続される抵抗器とインダクタとを、交互に、かつ実質的に線形に配置することを含んでもよいことである。
【0025】
本開示の別の態様は、本インラインRFフィルタ内の抵抗、ひいては電力散逸が、同じであるか、又は極めて類似したストック値をすべてが有する多数の抵抗器の間で分割され、その結果として、本フィルタに沿ったある位置での熱放散を、いずれの位置でもさらに低減していることである。
【0026】
本開示のさらに別の態様は、本インラインRFフィルタにおいて必要なインダクタンスが、同じであるか、又は極めて類似したストック値をすべてが有し、さらに発熱抵抗器間のスペーサとして作用する、フェライトを含まない多数のインダクタを使用して得られることである。
【0027】
本開示の別の態様は、抵抗器の数がインダクタの数を1つ上回ることが望ましいため、抵抗器を線形に配置しているその両端に、これらを設けていることである。換言すれば、必要となる総インダクタンスを得るために、フェライトを含まないインダクタがN個必要な場合、抵抗器の数はN+1個となることが望ましい。
【0028】
本開示の一態様は、本インラインフィルタモジュールをケーブルと接続するための接点を、本インラインフィルタモジュールが端部上に有することである。これらの接点は、ニッケル又は他の磁性材料の使用を回避して、銅、銀又は金で構成されるか、あるいはそれを用いて少なくともめっきされていることが好ましい。ケーブルを含むワイヤは、銅ではなく炭素繊維から作製されている可能性があり、このためにはんだ付け可能ではないため、スズめっきもはんだめっきも望ましいとは言えない。
【0029】
本開示のこれら及び他の態様並びにそれらの特徴及び利点は、以下の添付図面と併せて、発明を実施するための形態を注意深く読解することから、神経モニタリングの当業者には明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本開示の一態様による、インラインRFフィルタモジュールを備える電極システムの側面図である。
図2図1のインラインRFフィルタモジュールの断面を表す端面図である。
図3】本開示の一態様による、本インラインモジュールで使用される構成要素の一例を示す、図1のインラインモジュールによるエンクロージャ用に設計された、両面プリント回路基板の側面斜視図である。
図4】本開示の一態様による、本インラインモジュールで使用される構成要素の一例を示す、図1のインラインモジュールによるエンクロージャ用に設計された、代替となる片面プリント回路基板の平面図である。
図5】本開示の一態様による、本フィルタモジュールの電子概略図である。
図6】本開示の一態様による、電極システムの240ミリメートルのケーブルに沿った様々な位置のうちの1つに配置される、模擬のインラインフィルタモジュールを使用する場合に、3つの異なる磁気共鳴無線周波数で患者の皮膚に送達される、RF電力を表すグラフである。
図7】長さがそれぞれ240ミリメートル、300ミリメートル、500ミリメートル、700ミリメートル、及び1000ミリメートルあるケーブルに沿って配置された、3テスラのMRI装置で使用されるような、128MHzの磁気共鳴無線周波数で患者の皮膚に送達される、RF電力を表すグラフである。
【0031】
[先行技術の考察]
当技術分野における先行技術を調査すると、米国特許第7,945,322号明細書、米国特許第8,116,862号明細書、米国特許第8,180,448号明細書、米国特許第8,200,328号明細書、米国特許第8,301,243号明細書、米国特許第8,311,628号明細書、米国特許第8,463,375号明細書、米国特許第8,649,857号明細書、及び米国特許第9,061,139号明細書を含む多くの米国登録特許が既に存在することが分かり、これらはすべて、同じ発明者ら(Stevensonら)によるものであり、特定の望ましくない周波数を遮断するために、タンク回路を用いて埋込可能装置を作製するという同じ目的を有する。
【0032】
タンク回路は、インダクタ(何らかの抵抗を不可避的に含む)とコンデンサとを並列に結合させたものであり、このコンデンサは、製造チップ又はフィルムコンデンサなどの個別のものであってもよく、あるいは、プリント回路基板上に残存するトレース又は銅領域などの近傍にある物体が寄与する、他の静電容量を含んでもよい。このタンク回路は、fc=1l|2n(LC)を中心とする典型的に狭い周波数範囲である、その共鳴中心周波数を遮断し、ここでfcはヘルツ単位の周波数であり、Lはヘンリー単位のインダクタンスであり、Cはファラッド単位の静電容量である。
【0033】
例えば、値が390ナノヘンリー(「L」)であるインダクタと、10ピコファラッドのコンデンサ(「C」)とでは、FM放送用周波数帯に近似したfc=80.6メガヘルツをもたらす。
【0034】
当該タンク内の抵抗の影響でパラメータ「Q」が変化し、このパラメータ「Q」は、抵抗が増大するにつれて低下していくものである。「Q」が高いと、当該タンクがfcにおいて非常に効果的なバリアとなり、その値から周波数が逸脱するにつれて、性能が急激に低下する。「Q」が低いと周波数応答が拡大するが、fcに近似する性能を犠牲にすることになる。
【0035】
インダクタ及びコンデンサの値を厳密に制御し、なおかつタンク回路の周囲環境における浮遊容量や磁性材料の影響に対応することは困難であるため、通常は、各タンクを所望のfcで共鳴させるために、ある程度の個々の調整が必要となる。こうした調整には、調整可能なコンデンサなどの可変の構成要素を使用することが必要となり、この可変の構成要素は、ストック値が固定されたものよりもはるかに高価である。このために、当該タンクは、その調整に影響を及ぼし得る外部の影響から隔離される必要がある。このことは製造において、通常、著しいコストの付加をもたらす。さらなる欠点として、当該タンクは、その1つの周波数(及びその近傍にある他の周波数の狭帯域)のみを遮断し、他の周波数に対してはほとんど、又は全く影響を及ぼさないということが挙げられる。
【0036】
したがって、本発明の主要な目的は、EEG電極リード内のRFエネルギーに対するバリアを提供することであり、これにより、完全に異なるアプローチを取ることで、タンク回路が有するこうした欠点を回避することになり、このアプローチには、並列静電容量の使用を除外することと、全電極、ケーブル、及びコネクタをアンテナ状のシステムとして、一般的に使用されるすべてのMRI無線周波数で共に取り扱うことと、そのシステム内で、各ケーブルに沿った最適な位置に、複数のそのような周波数で有効な非共鳴フィルタを形成する、集中インダクタンス及び集中抵抗を含むフィルタモジュールを配置することであって、その最適な位置とは、電極に接触している患者の皮膚に送達されるRFエネルギーが最小量となるようにし、それによって熱傷の危険性を最小限に抑える位置である、ことと、が含まれる。
【0037】
別の目的は、磁場強度や、必要に応じて指定される他の条件を伴う「条件付きMRI」という意味で、MRI環境で安全に使用することができる構成要素を使用して、このRFエネルギーのバリアを提供することである。
【0038】
第3の目的は、組立後に個々の調整を一切必要としない、低コストで広く入手可能なストック値を有する構成要素のみを使用して、MRI対応バリアを提供することである。
【0039】
第4の目的は、電極ケーブルにインラインで取り付けることができ、医療環境での使用に際し安全である、小型のフィルタモジュール形式のバリアを提供することである。
【0040】
第5の目的は、そのようなモジュール、ひいては本モジュールを含む電極システムを、従来技術の電極システムよりも無線周波エネルギーに対してより耐性があり、抵抗加熱に対して堅牢となるようにすることである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
RF装置からのRFピックアップを評価する神経モニタリング電極のセットのための、コンピュータモデルが開発された。本モデルは、市販のEZNEC+、バージョン6.0のアンテナモデリングソフトウェアを使用して開発された。
【0042】
本モデルでは、電極、ワイヤ、コネクタ、及び患者の頭部は、無線周波受信アンテナの一部として表示される。患者の頭部は、各々がそれ自体の抵抗及び静電容量を有する19個の導電性容積に分割され、表皮効果によって広範化する電気抵抗負荷を通る、無線周波電流の分布がシミュレーションされる。外部ケーブルは、直線ワイヤ、懸垂ワイヤ、又は多電極コネクタに相当するコンデンサを含むループによって表示される。
【0043】
2つの3000オーム抵抗器によってシミュレーションされる負荷で、皮膚と各電極との間の典型的な抵抗をシミュレーションする。インダクタンスと抵抗とでそれぞれ構成される追加負荷は、様々な位置に配置されるフィルタモジュールをシミュレーションするために、ワイヤに沿ってこれらを容易に再配置できるようにモデル化されている。
【0044】
MRイメージングを受けている患者の周囲にある回転RF磁場をシミュレーションするために、典型的なMRI装置のRFソースとして使用される「バードケージ」コイルは、相互接続された4個のソースダイポールのセットとしてモデル化されたもので、ダイポールはそれぞれ、次のものと90度位相がずれている。
【0045】
ここで図1図5を参照すると、図1は、電極14と、インラインフィルタモジュール22を有するケーブル18と、コネクタ26とを備える、電極システム10を示す。ケーブル18は、電極14及びコネクタ26と電気的に接続されている。電極14は、神経モニタリング又は他の神経処置を行うために、他の電極と共に患者の頭部に装着されてもよい。コネクタ26は、他のケーブルの他のコネクタと共に増幅器(図示せず)に接続されて、電極14から受信され、ケーブル18及びインラインフィルタモジュール22を通過した信号を増幅する。
【0046】
図1の2-2線に沿って切断した、インラインフィルタモジュール22の断面図を図2に示している。インラインモジュール22は、エポキシ、シリコーンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン又はポリプロピレンなどの強靭で非導電性かつ非毒性のポリマーから作製された、ハウジング56を含む。ハウジング56は、複数のインダクタ38と交互に直列に複数の抵抗器34が取り付けられた、図3に斜視図で示している小型のプリント回路基板などの基板30を収容し、かつ保護している。基板30は、ケーブル18内にインライン挿入され、その結果、ケーブル18は、はんだ、導電性エポキシ、グラファイトペースト状の「ワイヤ接着剤」又は他の適切な接合材料50、50′を用いて、導体パッド46、46′で基板30の両端に電気的に接続される。基板30と、これによってインラインフィルタモジュール22とはその結果、電極14及びコネクタ26と電気的に接続される。
【0047】
図3及び図4では、抵抗器34とインダクタ38とを、2つの異なるタイプのプリント回路基板、即ち図3の両面プリント回路基板と、図4の片面プリント回路基板とに実装され得るものとして示している。いずれの場合も、インダクタの数「N」は4であるため、それとセット内で交互になる抵抗器の数は「N+1」となり、抵抗器34、インダクタ38、抵抗器34、インダクタ38などとなり、抵抗器とインダクタとはすべて、電気的に直列に接続されている。図3では、インダクタと抵抗器とが向かい合わせに配置され、ビアを介して接続されているが、図4では、すべての構成要素が基板の同じ側にある。後者のアプローチは、全幅が拡大するという代償を払いながらも、構造を単純化している。
【0048】
いずれかの製造業者による標準的な一連の小型の表面実装インダクタでは、インダクタンス値の高いものはフェライト、即ち磁性セラミックで作製されているコアを有する一方、インダクタンス値の低いものは、磁器又はアルミナなどの非磁性セラミックを使用している。通常、390ナノヘンリー(0.39マイクロヘンリー)が、フェライトコアなしで現在得られる最大値である。
【0049】
フェライトは主に酸化鉄で構成されているが、多くの組成が様々な周波数範囲に最適化された形態で得られる。これらは物理的力を受けることや、そのフェライトがインダクタに使用される場合に、インダクタの値を変化させる磁気飽和に達することの両方によって、磁場に強く反応する。したがって、強磁場、又はそれらを発生させるMRI機器などに近接した装置での使用を意図したインダクタでは、フェライトコアは避けるべきである。
【0050】
シミュレーションでは、本発明に使用可能であることが判明したインダクタンスの値は、約1.56マイクロヘンリー(1560ナノヘンリー)の最適値を有する1~2マイクロヘンリーの範囲内であった。この値は、フェライトを含まない市販の390ナノヘンリーの小型インダクタを4個電気的に直列に接続することにより、容易に得られるものである。
【0051】
厳密には必要ではないとしても、インダクタ38の公称値や製造業者部品番号がすべて同じとなるようにすることは、製造上好都合である。図3図4、及び図5に示すように、1.56マイクロヘンリーの総インダクタンスが4個のインダクタに分割される場合、この公称値は、直前に述べたように390ナノヘンリーとなる。
【0052】
公称値はいくらかの誤差を含み、通常は±1%、±5%などの許容値が付与されるので、「390ナノヘンリー±5%」として販売されているインダクタは、370.5~409.5ナノヘンリーのいずれかとなる実際値を有し得ることを強調すべきである。
【0053】
このオーダーの差は、タンク回路を正常に動作させる上で極めて重要である場合が多いが、本設計ではほとんど相違を生じない。
【0054】
最も頻繁に製造され、通常は製造業者間で標準化されている各構成要素タイプの公称値は、ストック値として知られている。390ナノヘンリーは、そのようなストック値の一例である。390ナノヘンリーとは異なるストック値を有するインダクタを使用した方が、場合によってはより好都合であると判明することもある。例えば、小型インダクタ技術の進歩により、フェライトを使用せずにより高いインダクタンス値を得ることができ、その結果、物理的に別個のインダクタをより少数使用して、必要な値を得ることが可能になっている。
【0055】
インダクタ38は、それらの磁場が著しく重複しないように、物理的にわずかな間隔だけ離隔されるべきである。そのような重複や、結果として生じるそれらの磁場間の相互作用は、それらの実効総インダクタンスを変化させる恐れがある。図3及び図4に示すように、インダクタを抵抗器と交互に配置しながら、それらを物理的に離隔することによって、離隔が好都合に達成される。好都合なことに、図5に概略的に示しているように、物理的に隣接するこれらの装置はその後、再度インダクタと抵抗器との間で交互に電気的に接続される。
【0056】
そのように交互に配置することで、本フィルタモジュールの長さに沿って、RF電力散逸からの熱が抵抗器内で可能な限り広範に分散して、ホットスポットが発生する可能性が最小限に抑えられるという別の利点が生じる。後者の理由のために、また小型インダクタよりもチップ抵抗器の方がはるかに安価であるために、厳密には必要ではないが、図3図4、及び図5に示すように、インダクタ(「N」)よりも1つ多い抵抗器(「N+1」を有することが望ましく、その結果として、発生した熱が、いずれもより広範に分散することになる。
【0057】
抵抗器は、累積抵抗が最大1000オームとなるように選択されてもよく、その結果として、ほとんどのEEG増幅器で動作が安定する入力要件内に留まることになる。ただし、ケーブル、接続部、及びインダクタ自体の抵抗を許容できるようにするために、本フィルタモジュール内の実際の総抵抗値を低下させることが望ましい。これら他の抵抗の値に応じて、本フィルタモジュール内の1オームという低い総抵抗が使用可能になることが判明し得る。
【0058】
インダクタと同様に、厳密には必要ではないとしても、抵抗器34の公称値やストック値、そして製造業者部品番号がすべて同じとなるようにすることは、製造上好都合である。
【0059】
例えば、好ましい一実施形態では、本発明に従って作製された、4個の(「N」個の)390ナノヘンリーインダクタを含むフィルタは、5個の(「N+1」個の)抵抗器を備え得る。1000オームを5で除算すると、200オームとなる。200オーム未満の次の数±1%のストック抵抗器値は、196オーム、191オーム、187オーム、182オーム及び180オームである。これらの値のうちの1つ、又は場合により、本システム内の他の抵抗が高いと予想されるときは、さらに低い値が選択されるべきであり、次いでこの値は、適度な回数の実験によって最適化されてもよい。
【0060】
したがって、好ましい実施形態によるインラインフィルタモジュール22の具体例は、各々が180オームの抵抗を有する5個の抵抗器34と、各々が0.39マイクロヘンリーのインダクタンスを有し、抵抗器34と交互に配置され、抵抗器34で始端し、かつ終端する直列に接続された、フェライトを含まない4個のインダクタと、を含む。その結果として、完全なモジュールは、1.56マイクロヘンリーと直列の900オームの抵抗を有する。
【0061】
電極14とコネクタ26との間のケーブル18内にあり、一般に使用される3つの異なる磁気共鳴周波数にさらされる本インラインフィルタの有効性をシミュレーションしたところ、240mm長のケーブル18に沿って得られる具体例を具現化して、インラインモジュール22の位置の関数として図6に示す応答曲線を生成した。横軸は、電極端部からのワイヤに沿った間隔を表し、縦軸は、電極の真下でシミュレーションされる皮膚抵抗に送達される電力を示す。先に述べたように、患者に熱傷が発生する可能性を回避するために、本発明の主な目的とするところは、この電力を最小限に抑えることである。
【0062】
算出済みのデータ点を三角形によって表示している曲線50が、64MHzでの送達電力を示す一方、比較を行うために、水平破線52は定電力の8.8ミリワットを示し、ここでは、フィルタモジュールを設けていない場合の電力を示している。240ミリメートルのワイヤが64MHzのRFエネルギーにおける4.65メートルの波長のわずか5%しか占めていないことを考慮すると、当該ワイヤはアンテナとして、極めて不十分にしか機能していないと言える。したがって、受容されて送達される電力レベルは低く、本フィルタモジュールを追加してもほとんど相違を生じることはない。RF周波数として64MHzを使用する1.5テスラのMRI装置では、RF熱傷の懸念はほとんどなかった。
【0063】
MRI装置の磁場強度を上昇させると、画質や画像解像度が向上し、共鳴を維持するために、RF周波数も比例上昇する。ほとんどの新型MRI装置は3テスラで動作し、2.33メートルの対応波長で128MHzの周波数を必要とする。ここで、240ミリメートルのワイヤは、2.33メートルの波長の約10%を占め、アンテナとしてはるかに良好に機能している。このことで、RFエネルギーによって患者に損傷が生じる懸念がより明確なものになる。
【0064】
曲線54が送達される電力を示す一方、ここでも比較を行うために、破線56は、フィルタモジュールを設けていない場合の電力を示す。容易に分かるように、128MHzで電力をフィルタリングしない場合は43.8ミリワットとなるが、これは、64MHzで見られる電力のほぼ5倍である。
【0065】
128MHzでは、好ましい実施形態によるフィルタモジュールは、本モジュールの位置に応じて電力を上昇させるか低下させるかのいずれかにより、ここで送達電力に強い影響を及ぼす。この送達電力を削減するために、本モジュールを配置できる領域は、ワイヤの長さと比較して驚くほど広く、最小点での減少量は極めて多くなる。例えば、240ミリメートルのワイヤでは、電極から約190ミリメートルの位置で本モジュールでの最小値が発生し、送達される電力はわずか2.56ミリワットとなり、これは、本モジュールを設けていない場合の値のわずか6%である。
【0066】
現在開発中の試験的なMRI装置は、通常7テスラのさらに強い磁場を使用しており、このために、299MHzのRF周波数を必要とする。この周波数では、240ミリメートルのワイヤがほぼ4分の1の波長となるため、RFエネルギーを非常に効率的にピックアップする。
【0067】
曲線58は、結果として生じる送達電力の応答の一部を示し、これはグラフの両端で、その頂点から大きく外れて延在している。フィルタリングなしの電力レベルである3.18ワットは、比較を行うにはグラフを拡大しないと示すことができず、患者に深刻な損傷を与えるには容易に十分なレベルとなり得る。電極から80ミリメートルの位置に本フィルタモジュールの好ましい実施形態を設けると、この電力レベルがわずか0.48ミリワットまで実質的に低下し、これはフィルタリングなしの値の.015%である。
【0068】
図7は、長さがそれぞれ240ミリメートル、300ミリメートル、500ミリメートル、700ミリメートル、及び1000ミリメートルある様々な長さのワイヤに沿って配置された、128MHzの3テスラ周波数のみを対象とした、同じ曲線を示す。ワイヤ18a~18eを縮尺通りに図示しており、左側に電極14a~14eがあり、右側にコネクタ26a~26eがある。
【0069】
曲線54aは、フィルタモジュール22の位置の関数として患者の皮膚で散逸される電力を示す、図6の240ミリメートルのワイヤによる曲線54を再現している一方、破線曲線56aは、フィルタリングなしの電力を示す線56を再現している。曲線54b、54c、54d及び54e、並びに破線曲線56b、56c、56d及び56eは、それぞれ、300ミリメートル、500ミリメートル、700ミリメートル及び1000ミリメートルのワイヤにおいて対応する電力曲線及びフィルタリングなしの電力レベルを示す。
【0070】
図7から分かるように、各電力曲線において、送達電力が最小になる点74a、74b、74c、74d又は74eをその中に含む、広範囲の最小値が出現する。700ミリメートルから1000ミリメートルのワイヤの送達電力を表す曲線74d及び74eに対しては、破線74d′又は74e′を追加して、最小値をより明確に示すために各曲線の一部を拡大している。
【0071】
送達電力を最小限に抑えるための正しい位置で、各ワイヤ18a、18b上などにフィルタモジュール22a、22bなどを描画する場合、それらが直線80上にほぼ位置していることが図7から分かる。わずかな不一致が生じているのは、EZNECアンテナモデリングソフトウェアの有限分解能(「セグメンテーション」)に起因したものであってもよい。
【0072】
上記の具体例では、128メガヘルツの無線周波数で使用される、1.56マイクロヘンリーと直列の900オームの場合、線80は、LM=0.27L+135となるフィルタモジュール22の最適位置を表し、ここでLは電極システム10の全長であり、LMは電極14からモジュール22の中心までの間隔であり、また、すべての間隔をミリメートル単位で表している。同様の式は、他の値の抵抗値やインダクタンス値を含むフィルタモジュールについても、おそらく導出され得るものである。
【0073】
ただし、コンピュータシミュレーションでは仮定を幾分単純化することが必要になったので、実際の測定曲線は図示している曲線とわずかに異なる可能性が高いことを強調すべきである。その場合、最適化は、十分に当業者の能力の範囲内で行われる適度な実験によって得られてもよい。
【0074】
例えば、インラインフィルタモジュール形式で電極システムのケーブルに挿入される場合、コンデンサを含まずに、インダクタと抵抗器とを直列に結合させることで、電極の下や近傍にある患者の皮膚表面での抵抗加熱を低減する一方、タンクフィルタよりも周波数固有ではなく、手持ちの市販の構成要素で作製することができ、なおかつ組立後に個々の調整を一切必要としないような、効果的なRFフィルタを形成する。
【0075】
これらの構成要素、即ちコンデンサを含まない、抵抗器34及びインダクタ38の数や値に関する実験を通じて、また抵抗器34及びインダクタ38のストック値を選択することを通じて、そして、ケーブル18の端部間で、なおかつ250センチメートルのケーブルの概ね中央に向かって、インラインモジュール22の位置を選択することを通じて、インラインフィルタモジュール22を最適化することにより、従来技術の電極システムよりも制約がはるかに少なく、無線周波エネルギーに対してより耐性があり、抵抗加熱に対して堅牢となる、電極システム10用のMRIケーブル18を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7