(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】高屈折偏光レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/12 20060101AFI20231218BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20231218BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20231218BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20231218BHJP
【FI】
G02C7/12
G02B5/30
G02B3/00 Z
B32B7/023
(21)【出願番号】P 2021544336
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 KR2020002950
(87)【国際公開番号】W WO2020184881
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0028244
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515226261
【氏名又は名称】オンビッ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ONBITT CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】10-3,Seokpogongdan-gil,Jangan-myeon,Hwaseong-si,Gyeonggi-do 445-941,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】キム、チュン ドク
(72)【発明者】
【氏名】キム、スン ヨン
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-280154(JP,A)
【文献】特開2012-108465(JP,A)
【文献】特表2018-514817(JP,A)
【文献】特開2015-152911(JP,A)
【文献】特表2011-519982(JP,A)
【文献】特開2012-063773(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0026062(KR,A)
【文献】特開2007-025609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 ― 13/00
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TACフィルムの両表面を前処理する段階と、
前記前処理されたTACフィルムをPVAフィルムの両面に付着して前処理偏光フィルムを製造する段階と、
前記製造された前処理偏光フィルムをレンズ形状で成形する段階と、
前記成形された前処理偏光フィルムをレンズ製造用鋳型に安着させる段階と、
前記前処理偏光フィルムが安着されたレンズ製造用鋳型にポリチオウレタン系樹脂を注入する段階と、
前記鋳型を固定してポリチオウレタン系樹脂を冷却させる段階と、でなされ、
前記TACフィルムの前処理は、下記化学式:
【化1】
で表面改質されるように前記TACフィルムをNaOH水溶液に浸漬してなされ、
前記TACフィルムをPVAフィルムに付着する段階は、PVAフィルムの両面に、PVA粉末と水を混合して形成された水系接着剤でなされる接着剤を塗布した後前処理されたTACフィルムを付着し、
前記ポリチオウレタン系樹脂を注入する段階は、前記前処理された偏光フィルムの上部
及び下部に注入され、
前記ポリチオウレタン系樹脂は、
下記の化学式2:
【化3】
で表されるポリチオウレタン
系樹脂が使用され、また、前記ポリチオウレタン系樹脂と前記TACフィルムは水素結合により接着力が増加される
ことを特徴とする高屈折偏光レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折偏光レンズの製造方法に関するものであり、より詳細には、高屈折偏光レンズを構成するポリチオウレタン(Polythiourethane)系樹脂と、ポリチオウレタン系樹脂に付着される偏光フィルムの接着力を向上させてレンズを形成するウレタン樹脂から剥離されないで製品の安全性と信頼性を向上させることができる高屈折偏光レンズ製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自然物に反射されて難解に反射と屈折を繰り返えす自然光をそのまま目に受け入れるようになれば眩しさ現象を起こすようになる。この時偏光の原理を応用した偏光レンズを着すれば眩しさを減らすことができる。
【0003】
ここでの偏光は、難解に反射と屈折を繰り返えす自然光が偏光フィルム(偏光子)を通じて一方向のみに透過されて特定の方向のみに震動する光の波動を言う。
【0004】
このような偏光レンズは日が昇る頃や日暮れ頃に反射光と屈折光を遮断して眩しさを減少させることができるし、事物を見られる可視距離が長くなるようにする。
【0005】
また、自動車運転時に偏光レンズを着するようになれば、不必要な光が遮られて広い視野を確保することができて安全運転にも役に立つようになる。
【0006】
一般な偏光レンズは、プラスチックまたは硝子レンズの表面に偏光フィルム(偏光子)を加熱付着するか、または偏光フィルムをあらかじめレンズ形態で成形した後偏光フィルムの両方にCR-39(allyl diglycol carbonate)またはウレタンのような液状のモノマー、オリゴマーを注いで硬化させるキャスティング方法を使用するか、または偏光フィルム両面にポリカーボネートフィルムなどの保護フィルムを合紙(laminating)した偏光シートをレンズ形態で成形した後、成形した偏光シートを射出機に入れてインサート射出を通じて厚さを補強する方法を使って製造する。
【0007】
ポリチオウレタンを使用する高屈折偏光レンズ(‘MRレンズ'ともいう)の場合は、ポリチオウレタンの両面にPVA(Poly Vinyl Acetate)フィルムを付着するが、PVAフィルムは厚さが薄くて水分に敏感に反応して作業時ハンドリングが難しいという問題点がある。このような問題点を解決するためにPVAフィルムにTAC(Tri Acetyl Cellulose)フィルムを合紙して合紙されたフィルムをポリチオウレタンに付着して使って来た。
【0008】
しかし、PVAフィルムにTACフィルムが合紙されたフィルムの場合ポリチオウレタン樹脂との接着力が低くなって最終レンズ加工時に合紙されたフィルムがレンズから易しく脱離される問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述したような問題点を解決するために案出されたものであり、偏光レンズを構成するポリチオウレタン系樹脂と偏光フィルムの接着力を向上させて製品の安全性と信頼性を向上させることができる高屈折偏光レンズの製造方法を提供することにその目的がある。
【0010】
また、本発明は、ポリチオウレタン系樹脂に偏光フィルムの接着力を向上させて高屈折偏光レンズの加工時にも偏光フィルムが脱離されない信頼性高い高屈折偏光レンズの製造方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために本発明は、TACフィルムの両表面を前処理する段階と、前記前処理されたTACフィルムをPVAフィルムの両面に付着して前処理偏光フィルムを製造する段階と、前記製造された前処理偏光フィルムをレンズ形状で成形する段階と、前記成形された前処理偏光フィルムをレンズ製造用鋳型に安着させる段階と、前記前処理偏光フィルムが安着されたレンズ製造用鋳型にポリチオウレタン系樹脂を注入する段階と、及び前記鋳型を固定してポリチオウレタン系樹脂を冷却させる段階と、でなされることを特徴とする高屈折偏光レンズの製造方法を提供する。
【0012】
本発明でTACフィルムの前処理は、下記のような化学式で表面改質されるように前記TACフィルムをNaOH水溶液に浸漬してなされることを特徴とする。
【0013】
【0014】
本発明でTACフィルムをPVAフィルムに付着する段階は、PVAフィルムの両面に接着剤を塗布した後前処理されたTACフィルムを付着することを特徴とする。
【0015】
本発明で接着剤は、PVA粉末と水を混合して形成された水系接着剤でなされることを特徴とする。
【0016】
本発明でポリチオウレタン樹脂を注入する段階は、前処理された偏光フィルムの上部及び下部にポリチオウレタン樹脂が注入されることを特徴とする。
【0017】
本発明でポリチオウレタン樹脂と前処理された偏光フィルムは、水素結合でなされて接着力が増加されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
前述したように本発明の高屈折偏光レンズの製造方法は、偏光フィルムをポリチオウレタン系樹脂と接着させることでレンズと偏光フィルムの接着力を向上させて、レンズ加工時にエッジ部分でフィルムがレンズから脱離されることを防止することができる。
また、本発明はレンズに偏光フィルムの付着力を増加させるため、信頼性があるのに厚さが薄くて軽いレンズを製造することができる長所がある。
また、本発明はレンズと偏光フィルムの付着力が優秀であるため製品の信頼性と安全性を向上させることができる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明によるTACフィルムの前処理を示す断面図である。
【
図2】本発明による前処理されたTAC粒子の入射角を表示した図面である。
【
図3】本発明による前処理されたTACフィルムをPVAフィルムに付着することを示した断面図である。
【
図4】本発明による偏光フィルムが製造された状態を示した断面図である。
【
図5】本発明による偏光フィルムをレンズ形状で成形した状態を示す断面図である。
【
図6】本発明によるレンズ製造用鋳型にポリチオウレタン系樹脂が注入される状態を示す断面図である。
【
図7】本発明による偏光レンズが成形された状態での断面図である。
【
図8】本発明による偏光レンズの製造過程を示す流れ図である。
【
図9】本発明によるレンズ製造用鋳型にポリチオウレタン系樹脂が上下に注入される状態を示す断面図である。
【
図10】
図9の鋳型によって偏光レンズが成形された状態での断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施のための最善の形態は、ACフィルムの両表面を前処理する段階と、前記前処理されたTACフィルムをPVAフィルムの両面に付着して前処理偏光フィルムを製造する段階と、前記製造された前処理偏光フィルムをレンズ形状で成形する段階と、前記成形された前処理偏光フィルムをレンズ製造用鋳型に安着させる段階と、前記前処理偏光フィルムが安着されたレンズ製造用鋳型にポリチオウレタン系樹脂を注入する段階と、及び前記鋳型を固定してポリチオウレタン系樹脂を冷却させる段階と、でなされる。
【0021】
以下、添付された図面を参照して本発明の一実施例による高屈折偏光レンズの製造方法を詳しく説明する。
図1は、本発明によるTACフィルムの前処理を示す断面図であり、
図2は本発明による前処理されたTAC粒子の入射角を表示した図面であり、
図3は本発明による前処理されたTACフィルムをPVAフィルムに付着することを示した断面図であり、
図4は本発明による偏光フィルムが製造された状態を示した断面図であり、
図5は本発明による偏光フィルムをレンズ形状で成形した状態を示す断面図であり、
図6は本発明によるレンズ製造用鋳型にポリチオウレタン系樹脂が注入される状態を示す断面図であり、
図7は本発明による偏光レンズが成形された状態での断面図であり、
図8は本発明による偏光レンズの製造過程を示す流れ図であり、
図9は本発明によるレンズ製造用鋳型にポリチオウレタン系樹脂が上下に注入される状態を示す断面図であり、
図10は
図9の鋳型によって偏光レンズが成形された状態での断面図である。
【0022】
図8を参照して偏光レンズ製造過程を詳しく説明すれば、先ず、0.1mm程度のトリアセチルセルロース(TAC)フィルムの両面を前処理する段階(S1)を経る。TACフィルム110を前処理する理由はTACフィルム110が高屈折レンズを作るためのポリチオウレタン(MRレンズともいう)系樹脂とよく接着されることができるようにするためである。TACフィルム110の前処理は、NaOH水溶液にTACフィルム110を浸漬させてTACフィルム110の表面を改質する。改質反応による化学式1は下のようである。
【0023】
【0024】
前記化学式1に示されたように、表面改質反応が進行された後にTACフィルムの表面はヒドロキシ基(OH-)が表面に形成される。TACフィルムの表面に形成されたヒドロキシ基がポリチオウレタンと結合するためTACフィルムがポリチオウレタン樹脂から脱離されることを防止することができるようになる。このためにTACフィルムの表面を改質させる過程を経る。
図2は、前処理されたTACフィルム粒子の入射角を前処理の前と後を比べて表現した図面である。図面に示されたように前処理前後の入射角の差が大きく、前処理されたTAC粒子の入射角が小さくなって接触することができる表面積が広くなることがあるため、他の物質と接触して結合しやすくなるようになる。
【0025】
次に前処理されたTACフィルム120を厚さが0.03~0.05mm程度であるポリビニールアセテート(PVA:Poly Vinyl Acetate)フィルム110の両側に水系接着剤140を利用して接着して偏光フィルム100を製造し(S2)、製造過程は
図3に示されていて、製造された偏光フィルム100は
図4に示されている。
図3に示されたように、PVAフィルム130は表面に水系接着剤140を塗布した後にTACフィルム120を付着する。水系接着剤140はPVA粉末と水を混合して製造されることができる。PVAフィルム130はポリビニルアルコール系などの樹脂フィルムを一軸延伸するか、またはホルム化体などで安定化処理した後一軸延伸したことを利用することができるし、偏光度を高めるためにヨード(IODINE)または異色性染料をドープ(DOPE)処理することができる。
【0026】
次に偏光フィルム100を、
図5に示したようにレンズ形状で成形する(S3)。
次に、レンズ形状で成形された偏光フィルム200をレンズ製造用鋳型400の内部に挿入固定させる(S4)。
【0027】
図6に示したように、レンズ製造用鋳型400は両側にゴムパッキング410、420を具備するが、一側のゴムパッキング410にはポリチオウレタンが注入される注入口で形成される。両側の各ゴムパッキング410、420との間には上部及び下部にレンズ形状の遮断膜430が具備される。遮断膜は硝子などの材質でなされることができる。偏光フィルム200はゴムパッキング410、420の間に上下に具備された遮断膜430の間に位置するようになって、各遮断膜430と偏光フィルム200との間には注入空間440が形成される。
【0028】
前記レンズ製造用鋳型400内部に偏光フィルム200を挿入固定させた後鋳型400の一側に具備された注入口411を通じてポリチオウレタンが注入され、注入されるポリチオウレタンは偏光フィルム200の下部に形成された注入空間440で熱硬化剤を混合して注入される。
【0029】
ポリチオウレタン樹脂300が偏光フィルム200の下部に充電された後に一定時間冷却してポリチオウレタン樹脂300と偏光フィルム200が付着され、冷却が完了すれば偏光レンズ500の製造は完成される(S6)。
【0030】
ポリチオウレタン樹脂300は高屈折レンズを製造するために使われて、特に、MRTMレンズ(三井化学株式会社の登録商標)はポリチオウレタンを使ったレンズの一種として高屈折を有したシリーズで製品が発売開始されている。MRレンズシリーズをよく見れば、MR-8は屈折率が1.60であり、MR-7とMR-10は屈折率が1.67であり、MR-174は屈折率が1.74として屈折率が大きいほど薄いレンズ製造に適している。一般的なポリチオウレタン樹脂300の化学式は次のようである。
【0031】
【0032】
前記化学式2に示されたように、化学式1のTACフィルムのヒドロキシ基(OH-)が化学式2のポリチオウレタン樹脂300の末端部であるSHと水素結合され、水素結合によってTACフィルムはポリチオウレタン樹脂300に強く付着されることができる。それによってTACフィルムのポリチオウレタン樹脂に対する接着力は強まることができる。
【0033】
図9と
図10は、レンズ製造用鋳型でポリチオウレタン樹脂300が偏光フィルム200の上部及び下部に付着されるように製造されることを示している。ポリチオウレタン樹脂300が前処理された偏光フィルム200の上部及び下部に注入され、偏光フィルム200の上部及び下部TACフィルムのヒドロキシ基(OH-)が化学式2のポリチオウレタン樹脂300の末端部(SH)と水素結合され、水素結合によってポリチオウレタン樹脂300はTACフィルムに強く付着されることができる。
【0034】
以上で本発明の望ましい一実施例を説明したが、本発明は多様な変化と変更及び均等物を使用することができるし、前記実施例を適切に変形して等しく応用することができることが明確である。したがって、前記記載内容は下記特許請求範囲の限界によって決まる本発明の範囲を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、高屈折偏光レンズを構成するポリチオウレタン(Polythiourethane)系樹脂と、ポリチオウレタン系樹脂に付着される偏光フィルムの接着力を向上させてレンズを形成するウレタン樹脂から剥離されないで製品の安全性と信頼性を向上させることができる高屈折偏光レンズ製造方法に関するものであり、産業上利用可能性が高い発明である。