(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】有機スルホン酸化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 303/44 20060101AFI20231218BHJP
C07C 303/02 20060101ALI20231218BHJP
C07C 309/04 20060101ALI20231218BHJP
C07C 309/20 20060101ALI20231218BHJP
C07C 309/31 20060101ALI20231218BHJP
B01J 39/04 20170101ALI20231218BHJP
【FI】
C07C303/44
C07C303/02
C07C309/04
C07C309/20
C07C309/31
B01J39/04
(21)【出願番号】P 2023178683
(22)【出願日】2023-10-17
【審査請求日】2023-10-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 駿
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-147554(JP,A)
【文献】特開2009-143842(JP,A)
【文献】特開2001-64249(JP,A)
【文献】特開2002-332273(JP,A)
【文献】特開2017-131810(JP,A)
【文献】特開平3-169845(JP,A)
【文献】特開2009-283875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
H01L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の反応工程1、接触工程2及び接触工程3を含む有機スルホン酸化合物の製造方法であって、
前記接触工程2のアニオン交換樹脂と前記接触工程3のカチオン交換樹脂とが相互に離間していることを特徴とする製造方法。
反応工程1:塩素系化合物を含有する反応基剤を用いて有機スルホン酸化合物を合成する工程
接触工程2:反応工程1で得られた有機スルホン酸化合物の溶液をアニオン交換樹脂に接触させる工程
接触工程3:接触工程2を経た有機スルホン酸化合物の溶液をカチオン交換樹脂に接触させる工程
【請求項2】
前記有機スルホン酸化合物が、界面活性剤である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記接触工程2において、有機スルホン酸化合物濃度が1~50質量%である前記溶液を前記アニオン交換樹脂に接触させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記接触工程3において、有機スルホン酸化合物濃度が1~40質量%である前記溶液を前記カチオン交換樹脂に接触させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記接触工程2において、前記溶液を空間速度(SV)0.3~4.9h
-1で前記アニオン交換樹脂に接触させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記接触工程3において、前記溶液を空間速度(SV)0.3~4.9h
-1で前記カチオン交換樹脂に接触させる請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機スルホン酸化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品や半導体等のデバイスの製造及び精密加工の技術分野などにおいて、界面活性剤を含有した高機能洗浄剤が使用されている。シリコンウエハーや半導体などの製造工程において生じる恐れのある汚染物質や付着物には、パーティクルと呼ばれるゴミや塵埃、種々の不純物イオンなどが挙げられる。半導体上にパーティクルがあると、回路が断線するなどして、不良動作を起こしてしまう。その結果、半導体が使用できなくなり、製品の歩留まりが低下する。また、半導体の金属配線上に塩素イオンや金属イオンなどの不純物イオンが存在すると、金属配線の隙間にそれらの不純物イオンが入り込み、電流が漏れて半導体が正常に動作しなくなるという事態が起こり得る。不純物イオンの存在は、電気的特性の変動に起因する不十分な性能など、製造されたデバイスに対して重大な問題を呈する可能性がある。さらに、半導体の金属配線上に塩素イオンが存在していると金属配線の腐食が進行しやすく、傷が生じやすいため、金属配線の抵抗値が上昇してしまう。このように、パーティクルや不純物イオンの存在は、半導体の品質に著しく影響を及ぼす。近年はスマートフォンやパソコン等のデバイスの小型化が目覚ましく、それらに使用される半導体についても小型化が進んでいる。小型化された半導体は、回路の線幅が細くなっており、より小さなパーティクルによって回路の変形等が起こるため、より高い精度のパーティクルや不純物イオン除去が必要となる。そのため、塩素イオンおよび金属イオンの濃度をより低減した、精製度の高い界面活性剤が望まれている。
【0003】
従来から、界面活性剤の精製方法については、一般的な濃縮、晶析、抽出による方法の他に、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法による方法等が知られている。例えば、特開2009-143842号公報には、有機スルホン酸のアルカリ金属塩を、強酸性カチオン交換樹脂を用いたイオン交換法に供して処理することにより、各種の金属イオン濃度を低減させる方法が開示されている(特許文献1)。また、特開2015-38051号公報には、有機スルホン酸のアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩を、強酸性カチオン交換樹脂を用いたイオン交換法に供して処理することにより、各種の金属イオンを低減させる方法が開示されている(特許文献2)。さらに、特開2001-64249号公報には、アルカンスルホン酸中の硫酸の含有率を低下させるために、アルカンスルホン酸の水溶液を塩基性アニオン交換樹脂と接触させる方法が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-143842号公報
【文献】特開2015-38051号公報
【文献】特開2001-64249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来から行われている晶析、抽出等の精製方法によって不純物を低減した界面活性剤では、半導体分野で要求される品質には程遠い。また、特許文献1または特許文献2に開示されている方法では、界面活性剤溶液が含有する金属イオン濃度を低減することは可能であるが、塩素イオン濃度の低減については不明である。特許文献3に開示されている方法では、界面活性剤溶液が含有する硫酸イオン濃度を低減することは可能であるが、塩素イオン濃度および金属イオン濃度の低減については不明である。いずれにおいても、半導体製造の分野において要求される品質にまで塩素イオンおよび金属イオン等が低減されていることは明示されていない。
【0006】
有機スルホン酸化合物を用いた界面活性剤溶液は、分散、表面改質、洗浄等の目的で半導体の製造時に使用されている。有機スルホン酸の合成法としては、塩素系化合物を用いて製造する方法、および、硫酸系化合物を用いて製造する方法が広く知られている。塩素系化合物を使用して製造する場合には、合成した有機スルホン酸中に塩化スルホン酸等の反応物由来の塩素イオンが多く含有される。硫酸系化合物を使用して製造する場合には、反応の溶媒としてクロロホルム等の塩素系の溶媒を用いることが多いため、合成したスルホン酸化合物中に塩素イオンが含有されてしまう。このように、塩素系化合物を使用して製造する場合には、塩化スルホン酸等の反応物由来の塩素イオンが含有され、硫酸系化合物を使用して製造する場合にも、ナトリウム等の塩を形成する際に塩の不純物由来の塩素イオンを多く含有するため、半導体製造分野では問題となっており、これらの塩素イオンの低減が望まれている。
【0007】
そこで本開示は、効率よく塩素イオン含有量および金属イオン含有量を低減した有機スルホン酸化合物を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本開示の技術は以下の手段をとる。
[1]下記の反応工程1、接触工程2および接触工程3を含む有機スルホン酸化合物の製造方法であって、
前記接触工程2のアニオン交換樹脂と前記接触工程3のカチオン交換樹脂とが相互に離間していることを特徴とする製造方法。
反応工程1:塩素系化合物を含有する反応基剤を用いて有機スルホン酸化合物を合成する工程
接触工程2:反応工程1で得られた有機スルホン酸化合物の溶液をアニオン交換樹脂に接触させる工程
接触工程3:接触工程2を経た有機スルホン酸化合物の溶液をカチオン交換樹脂に接触させる工程
[2]前記有機スルホン酸化合物が、界面活性剤である[1]の製造方法。
[3]前記接触工程2において、有機スルホン酸化合物濃度が1~50質量%である前記溶液を前記アニオン交換樹脂に接触させる[1]の製造方法。
[4]前記接触工程3において、有機スルホン酸化合物濃度が1~40質量%である前記溶液を前記カチオン交換樹脂に接触させる[1]の製造方法。
[5]前記接触工程2において、前記溶液を空間速度(SV)0.3~4.9h-1で前記アニオン交換樹脂に接触させる[1]の製造方法。
[6]前記接触工程3において、前記溶液を空間速度(SV)0.3~4.9h-1で前記カチオン交換樹脂に接触させる[1]の製造方法。
【0009】
なお、本明細書において「A~B」で示される数値範囲は、特段の記載が無い限り、その上限及び下限を含む。つまり、「A~B」は「A以上、B以下」を意味する。
【発明の効果】
【0010】
以上説明した本開示の製造方法によれば、効率よく塩素イオン含有量および金属イオン含有量を低減した有機スルホン酸化合物を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の有機スルホン酸化合物の製造方法は、有機スルホン酸化合物を合成する反応工程1と、イオン交換を行う接触工程2および接触工程3とを含み、前記接触工程2のイオン交換樹脂と前記接触工程3のイオン交換樹脂とが相互に離間している方法である。
【0012】
≪反応工程1≫
反応工程1は、塩素系化合物を含有する反応基剤を用いて有機スルホン酸化合物を合成する工程である。本発明において「塩素系化合物を含有する反応基剤」は、溶媒、触媒等の反応の出発物質に含まれる一連のものをさす。反応基剤としては、例えば、ベンゼン、オクチルベンゼン、ドデシルベンゼン、オクタデシルベンゼン等の芳香族炭化水素や、オクテン、デセン、ウンデセン、ドデセン、テトラデセン、ヘキサデセン、オクタデセン等の二重結合を含む不飽和炭化水素が挙げられる。好ましくは、ベンゼン、ドデシルベンゼン、オクテン、ドデセン、ヘキサデセン、オクタデセンが好ましい。反応基剤は、1種でも、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0013】
<塩素系化合物>
塩素系化合物としては、特に制限はない。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、塩化アルミニウム、塩化水素、塩化鉄、塩化銅、クロロメタン、クロロエタン、クロロスルホン酸、クロロホルム、クロロベンゼン等が挙げられる。塩素系化合物は、1種でも、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0014】
<有機スルホン酸化合物>
反応工程1の合成方法には特に制限はなく、従来公知の方法を使用することができる。例えば、塩素系化合物を用いてスルホ塩素化する方法、硫酸系化合物を用いてスルホン化、また二酸化硫黄と酸素を用いスルホ酸化をした後、水酸化ナトリウム等で中和する方法等が挙げられる。合成される有機スルホン酸化合物は、モノ体、ジ体、及びそれらの混合物のいずれでもよい。また、アルキル基は直鎖型、分岐型を含み、アルキル基は炭素数が分布を有するものも含む。
【0015】
好ましくは、有機スルホン酸化合物は界面活性剤である。そのような有機スルホン酸化合物としては、例えば、オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクタデシルスルホン酸ナトリウム等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0016】
反応工程1では、有機スルホン酸化合物の生成とともに副生成物としてハロゲン(塩素を含んだ化合物)が生成される、あるいは、反応の溶媒として用いた塩素系化合物由来の塩素が有機スルホン酸化合物に含まれてしまう。そのため、合成した有機スルホン酸化合物を精製するために、以下の接触工程2,3を順に行う。
【0017】
≪接触工程2≫
接触工程2は、反応工程1で得られた有機スルホン酸化合物の溶液をアニオン交換樹脂に接触させる工程である。接触工程2は、主としてアニオン交換樹脂に有機スルホン酸化合物中の塩素イオンを吸着させることを目的とする。接触工程2および後述する接触工程3において、イオン交換樹脂に有機スルホン酸化合物の溶液を接触させる方法は特に限定はなく、カラム法でも、バッチ法でもよい。作業効率などの観点から、カラム法が好ましい。イオン交換カラムなどの公知の装置は、本開示の方法に従ってイオン交換樹脂に接触させるために用いることができる。
【0018】
反応工程1で得られた有機スルホン酸化合物の溶液をアニオン交換樹脂に通液すると、有機スルホン酸化合物の溶液に含まれていた塩素イオンがアニオン交換樹脂に吸着される。その結果、塩素イオンを低減した精製液が得られる。本開示では、反応工程1の後で接触工程2を行う、すなわち、反応工程1で合成した有機スルホン酸化合物の状態から接触工程2のアニオン交換を行うことで、塩素イオンのみがアニオン交換樹脂に選択的に捕捉される。その結果、効果的に塩素イオンを低減することが可能となる。なお、有機スルホン酸化合物の溶液は、イオン交換水等のイオン交換法に適した溶媒に、反応工程1で合成した有機スルホン酸化合物を溶解した溶液である。
【0019】
<アニオン交換樹脂>
接触工程2で使用するアニオン交換樹脂は、強塩基性でも弱塩基性でもよく、これらの混合樹脂であってもよいが、強塩基性アニオン交換樹脂を含むことが好ましい。アニオン交換樹脂の種類としては特に限定されず、公知のものを用いることができる。アニオン交換樹脂の形状は、粒状に限定されることはなく、粉状、繊維状あるいは膜状でもかまわない。イオン交換樹脂の構造は、ゲル型であっても、マクロポーラス型であってもよい。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
アニオン交換樹脂中に含まれる強塩基性アニオン交換樹脂の含有量の割合は特に制限はないが、50容量%以上であることが好ましい。塩素イオンが強塩基性アニオン交換樹脂に吸着され、有機スルホン酸化合物の溶液中の塩素イオン含有量が低減されるのに効果的であるからである。
【0021】
強塩基性アニオン交換樹脂とは、第4級アンモニウム塩基(R-N+R1R2R3)等の強塩基性官能基が導入されたアニオン交換樹脂である。強塩基性アニオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト(登録商標、以下同様)IRA400J Cl、IRA402BL、IRA900J、(共に米国デュポン社製)、デュオライト(登録商標、以下同様)A113LF、A161JCL、AGP(共に米国デュポン社製)、ダイヤイオン(登録商標、以下同様)SA10A、SA11A(共に三菱ケミカル社製)等のI型強塩基性アニオン交換樹脂、アンバーライト IRA410J、IRA910CT、HPR4010(共に米国デュポン社製)、デュオライト A116、A162LF(共に米国デュポン社製)、ダイヤイオン SA20A、SA20ALL(共に三菱ケミカル社製)等のII型強塩基性アニオン交換樹脂を使用できる。
【0022】
弱塩基性アニオン交換樹脂は、第1~3級アミン等の弱塩基性官能基が導入されたアニオン交換樹脂である。弱塩基性アニオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRA67、IRA96SB、IRA98(共に米国デュポン社製)、デュオライト A368MS、A378D、A375LF(共に米国デュポン社製)、ダイヤイオン WA10、WA20(共に三菱ケミカル社製)等を使用できる。
【0023】
アニオン交換樹脂は、予めテトラメチルアンモニウム塩水溶液等の塩を用いてOH型とし、イオン交換水や超純水等で十分洗浄するなどして使用するのが好ましい。
【0024】
接触工程2において、アニオン交換樹脂に接触させる有機スルホン酸化合物の溶液の濃度は特に制限はないが、好ましくは1~50質量%である。溶液の濃度が濃すぎる場合、溶液の粘度が高くなるため、溶液中の分子運動が制限されることとなる。その結果、イオン交換樹脂との接触回数が減り、塩素イオンの低減が効率的に行えない。
【0025】
アニオン交換樹脂に接触させる有機スルホン酸化合物の溶液の濃度は、より好ましくは15~35質量%である。濃度が薄すぎる場合、希釈するための水の量が増えてしまい、イオン交換を行うときの単位時間当たりの流量を多くしなければならない。そのため、濃度が薄すぎると、生産性の観点から適当でない。
【0026】
接触工程2において有機スルホン酸化合物の溶液をイオン交換処理する際の空間速度(SV)は、0.3~4.9h-1とすることが好ましく、0.3~1.0h-1とするのがより好ましい。通液するスピードが速すぎると、塩素イオンを十分に吸着することが難しいためである。なお、空間速度(SV)の値すなわちSV値は、充填されているイオン交換樹脂量に対して、1時間当たり何倍量の処理水を通液(通水)するかという単位である。
【0027】
≪接触工程3≫
接触工程3は、接触工程2を経た有機スルホン酸化合物の溶液をカチオン交換樹脂に接触させる工程である。接触工程3は、主としてカチオン交換樹脂に有機スルホン酸化合物中の金属イオンを吸着させることを目的とする。接触工程2を経た有機スルホン酸化合物の溶液をカチオン交換樹脂に通液すると、有機スルホン酸化合物の溶液に含まれている金属イオンがカチオン交換樹脂に吸着される。その結果、塩素イオンだけでなく、さらに金属イオンを低減した精製液が得られる。
【0028】
<カチオン交換樹脂>
接触工程3で使用するカチオン交換樹脂は、強酸性でも弱酸性でもよく、これらの混合樹脂であってもよいが、強酸性カチオン交換樹脂を含むことが好ましい。カチオン交換樹脂の種類としては特に限定されず、公知のものを用いることができる。カチオン交換樹脂の形状は、粒状に限定されることはなく、粉状、繊維状あるいは膜状でもかまわない。イオン交換樹脂の構造は、ゲル型であっても、マクロポーラス型であってもよい。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
カチオン交換樹脂中に含まれる強酸性カチオン交換樹脂の含有量の割合は特に制限はないが、90容量%以上であることが好ましい。金属イオンが強酸性カチオン交換樹脂に吸着され、有機スルホン酸化合物の溶液中の金属イオン含有量が低減されるのに効果的であるからである。
【0030】
強酸性カチオン交換樹脂とは、カチオン成分に対する吸着力が比較的高いカチオン交換樹脂であり、スルホン酸基(R-SO3-H+)等の強酸性交換基を官能基として持つものである。強酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライトIR120BNa、IR-124Na、200CTNa(共に米国デュポン社製)、デュオライトC20、C20LF、C255LFH(共に米国デュポン社製)、ダイヤイオンSK104H、SK110、SK1B(共に三菱ケミカル社製)等を使用できる。
【0031】
弱酸性カチオン交換樹脂は、カチオン成分に対する吸着力が比較的低いカチオン交換樹脂であり、カルボン酸基(R-COO-H+)等の弱酸性交換基を官能基として持つものである。弱酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRC76、FPC3500、HPR8400(共に米国デュポン社製)、デュオライト C476(米国デュポン社製)ダイヤイオン WK10、WK11(共に三菱ケミカル社製)等を使用できる。
【0032】
カチオン交換樹脂は、予め塩酸や硫酸等の酸を用いてH型とし、イオン交換水や超純水等で十分洗浄するなどして使用するのが好ましい。
【0033】
接触工程3において、カチオン交換樹脂に接触させる有機スルホン酸化合物の溶液の濃度は特に制限はないが、好ましくは1~40質量%である。溶液の濃度が濃すぎる場合、溶液の粘度が高くなるため、溶液中の分子運動が制限されることとなる。その結果、イオン交換樹脂との接触回数が減り、金属イオンの低減が効率的に行えない。
【0034】
カチオン交換樹脂に接触させる有機スルホン酸化合物の溶液の濃度は、より好ましくは15~30質量%である。濃度が薄すぎる場合、希釈するための水の量が増えてしまい、イオン交換をするときの単位時間当たりの流量を多くしなければならない。そのため、濃度が薄すぎると、生産性の観点から適当でない。
【0035】
接触工程3において有機スルホン酸化合物の溶液をイオン交換処理する際の空間速度(SV)は、0.3~4.9h-1とするのが好ましく、0.3~1.0h-1とするのがより好ましい。通液するスピードが速すぎると、金属イオンを十分に吸着することが難しいためである。
【0036】
本開示では、反応工程1、接触工程2、接触工程3をこの順番で行うことによって、有機スルホン酸化合物を製造する。反応工程1で塩素系化合物を含有する反応基剤を用いて合成した有機スルホン酸化合物の状態から、接触工程2においてアニオン交換樹脂でアニオン交換することで、塩素イオンのみがアニオン交換樹脂に選択的に捕捉される。その後、接触工程3において、接触工程2を経た状態の有機スルホン酸化合物の溶液をカチオン交換樹脂でカチオン交換することで、金属イオンを除去することができる。したがって、精製の結果、塩素イオンおよび金属イオンを低減した有機スルホン酸化合物を得ることができる。
【0037】
一方、接触工程2と接触工程3の順番を逆にした場合には、反応工程1で塩素系化合物を含有する反応基剤を用いて合成した有機スルホン酸化合物の状態から、接触工程3のカチオン交換を行うことになる。そのため、接触工程3のカチオン交換において、金属が吸着されてアルキルスルホン酸の状態となってしまう。その後、接触工程2でアニオン交換を行うとき、アニオン交換樹脂に塩素イオンが吸着されるが、スルホン酸も吸着されてしまう。したがって、精製の結果、塩素イオンおよび金属イオンが除去された有機スルホン酸化合物を得ることができない。
【0038】
さらに本開示では、接触工程2のアニオン交換樹脂と接触工程3のカチオン交換樹脂とが相互に離間している。一方、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂が接触している場合は、接触部分において炭酸イオンとプロトンが発生する。すなわち、アニオン交換樹脂が空気に触れることで二酸化炭素を吸着し、アニオン交換樹脂から炭酸イオンが遊離する。そして、遊離した炭酸イオンがカチオン交換樹脂から生じたプロトン(H+)と接触する。その結果、二酸化炭素が泡として生じるため、有機スルホン酸化合物の溶液が通液しにくくなりイオン交換が十分に行えなくなる。また、接触工程2および接触工程3について、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合樹脂を用いて行う場合も同様に二酸化炭素の泡が発生してしまい、イオン交換が十分に行えなくなる。
【0039】
以上説明した製造方法により、塩素イオンおよび金属イオンを低減した有機スルホン酸化合物を得ることができ、しかも、通液の途中で泡が発生するなどしてイオン交換が行えなくなることもなく、効率よく精製度の高い有機スルホン酸化合物を製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本開示の構成及び効果をより具体的とする実施例および比較例を挙げるが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、%は質量%を意味する。表1は、各実施例および各比較例における、反応工程1で合成された化合物およびその合成方法、並びに接触工程2,接触工程3のそれぞれの溶液濃度、SV値、および試験方法を示す。
【0041】
≪反応工程1≫
反応工程1は、下記の合成方法1~3により行った。実施例1~5,7~10,14~31,および比較例1~5は、合成方法1により行った。実施例6は、合成方法2により行った。実施例32は合成方法3により行った。実施例11~13は、合成方法1および合成方法3により行った。
【0042】
実施例1
<合成方法1>
500mLの4つ口フラスコにドデシルベンゼン246.4g(1.0mol)を量り取り、クロロスルホン酸116.5g(1.0mol,1.0eq.)を10分かけて滴下した。滴下後、150℃に加熱し、10時間反応させた。2Lのビーカーに水500gを量り取り、上記反応物を加え、70℃で2時間攪拌を行った後、放冷した。次いで、30wt%の水酸化ナトリウム水溶液を中性領域まで添加し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液として回収した。その後、得られた水溶液を減圧蒸留することで水と未反応の原料を除去した。得られた固体に対しクロロホルムにより抽出操作を行い、有機層からクロロホルムを減圧留去することで、不純物を除去したドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを得た。
【0043】
実施例2~5,7~10,14~31,比較例1~5
合成方法1の反応基剤をドデシルベンゼンから二重結合を含む不飽和炭化水素(C8-C18)に変更した以外は合成方法1と同様にして、表1に記載のスルホン酸化合物を得た。
【0044】
実施例6
<合成方法2>
500mLの4つ口フラスコにドデシルベンゼン295.7g(1.2mol)を量り取り、20%発煙硫酸113.4g(1.2mol,1.0eq.)を10分かけて滴下した。滴下後、160℃に加温し、4時間反応させた。2Lのビーカーに水700gの量り取り、上記反応物を加え、70℃で2時間攪拌を行った後、放冷した。次いで、30wt%の水酸化ナトリウム水溶液を中性領域まで添加し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液として回収した。その後、得られた水溶液を減圧蒸留することで水と未反応のドデシルベンゼンを除去した。得られた固体に対しクロロホルムにより抽出操作を行い、有機層からクロロホルムを減圧留去することで、不純物を除去したドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを得た。
【0045】
実施例11
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、合成方法1により得た。ドデシルベンゼンジスルホン酸ナトリウムを、下記の合成方法3により得た。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム/ドデシルベンゼンジスルホン酸ナトリウム=9:1で調整した。
<合成方法3>
500mLの4つ口フラスコにドデシルベンゼン295.7g(1.2mol)を量り取り、20%発煙硫酸226.7g(2.4mol,2.0eq.)を10分かけて滴下した。滴下後、160℃に加温し、4時間反応させた。2Lのビーカーに水700gを量り取り、上記反応物を加え、70℃で2時間攪拌を行った後、放冷した。次いで、30wt%の水酸化ナトリウム水溶液を中性領域まで添加し、ドデシルベンゼンジスルホン酸ナトリウム水溶液として回収した。その後、得られた水溶液を減圧蒸留することで水と未反応のドデシルベンゼンを除去した。得られた固体に対しクロロホルムにより抽出操作を行い、有機層からクロロホルムを減圧留去することで、不純物を除去したドデシルベンゼンジスルホン酸ナトリウムを得た。
【0046】
実施例12,13
実施例12のアルキル(C10-C18)スルホン酸ナトリウム、および実施例13のテトラデシルスルホン酸ナトリウムは、合成方法1の反応基剤をドデシルベンゼンから二重結合を含む不飽和炭化水素(C10-C18)に変更した以外は合成方法1と同様にして得た。
実施例12のアルキル(C10-C18)ジスルホン酸ナトリウム、および実施例13のテトラデシルジスルホン酸は、合成方法3の反応基剤をドデシルベンゼンから二重結合を含む不飽和炭化水素(C10-C18)に変更した以外は合成方法3と同様にして得た。
実施例12のスルホン酸化合物を、アルキル(C10-C18)スルホン酸ナトリウム:アルキル(C10-C18)ジスルホン酸ナトリウム=1:9で調整した。実施例13のスルホン酸化合物を、テトラデシルスルホン酸ナトリウム:テトラデシルジスルホン酸ナトリウム=1:1で調整した。
【0047】
実施例32
実施例11の合成方法3の反応基剤をドデシルベンゼンからベンゼンに変更した以外は合成方法3と同様にして、ベンゼンジスルホン酸ナトリウムを得た。
【表1】
【0048】
反応工程1で合成したスルホン酸化合物を、表1に記載の溶液濃度に水で希釈し、有機スルホン酸化合物の水溶液を得た。その後、接触工程2、接触工程3の順に行った。
【0049】
≪接触工程2≫
接触工程2は、下記の試験方法2-1~2-6により行った。実施例1~13,15,17~28,31~32,および比較例3は、試験方法2-1により行った。実施例14,16は、試験方法2-2により行った。実施例29は試験方法2-3、実施例30は試験方法2-4、比較例4は試験方法2-5、比較例5は試験方法2-6により行った。比較例2は、後述する試験方法3-1により行った。
【0050】
<試験方法2-1>
1Nテトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液を用いて予めOH型に再生しておいたゲル型の強塩基性アニオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IRA400J Cl」)200mlを、垂直にセットされた内容量300mlのカラムに充填し、4000gの純水により十分に洗浄した後、24時間静置した。次いで、カラムに純水を注入し、15~25℃の範囲内の一定の温度に保温した。その後、カラム内の純水と同温度に調整された有機スルホン酸化合物の水溶液を表1に記載の空間速度(SV)で流通させた。
【0051】
<試験方法2-2>
試験方法2-1のゲル型の強塩基性アニオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IRA400J Cl」)をMR型強塩基性アニオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IRA900J」)に変更して用いた以外は試験方法2-1と同様の操作を行い、有機スルホン酸化合物の水溶液を表1に記載の空間速度(SV)で流通させた。
【0052】
<試験方法2-3>
試験方法2-1のゲル型の強塩基性アニオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IRA400J Cl」)をゲル型弱塩基性アニオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IRA67」)に変更して用いた以外は試験方法2-1と同様の操作を行い、有機スルホン酸化合物の水溶液を表1に記載の空間速度(SV)で流通させた。
【0053】
<試験方法2-4>
試験方法2-1のゲル型の強塩基性アニオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IRA400J Cl」)100mlと試験方法2-3のゲル型の弱塩基性アニオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IRA67」)100mlを均一に混合した。上記混合した樹脂を垂直にセットされた内容量300mlのカラムに充填した。次いで、カラムに純水を注入し、15~25℃の範囲内の一定の温度に保温した。その後、カラム内の純水と同温度に調整された有機スルホン酸化合物の水溶液を表1に記載の空間速度(SV)で流通させた。
【0054】
<試験方法2-5>
1N希塩酸を用いて予めH型に再生しておいたMR型強酸性カチオン交換樹脂(商品名「アンバーライト 200CT」)100mlと、1Nテトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液を用いて予めOH型に再生しておいたMR型強塩基性アニオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IRA900J」)100mlとを均一に混合した。上記混合した樹脂を垂直にセットされた内容量300mlのカラムに充填した。次いで、カラムに純水を注入し、15~25℃の範囲内の一定の温度に保温した。その後、カラム内の純水と同温度に調整された有機スルホン酸化合物の水溶液を表1に記載の空間速度(SV)で流通させた。
【0055】
<試験方法2-6>
MR型強塩基性アニオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IRA900J」)100mlを垂直にセットされた内容量300mlのカラムに充填した。次いで、1N希塩酸を用いて予めH型に再生しておいたMR型強酸性カチオン交換樹脂(商品名「アンバーライト 200CT」)100mlをアニオン交換樹脂の上段に樹脂同士が接触するような形にして充填した。次いで、カラムに純水を注入し、15~25℃の範囲内の一定の温度に保温した。その後、カラム内の純水と同温度に調整された有機スルホン酸化合物の水溶液を表1に記載の空間速度(SV)で流通させた。
【0056】
≪接触工程3≫
接触工程3の試験方法は、下記の試験方法3-1~3-3により行った。実施例1~14,17~30,32,および比較例1は、試験方法3-1により行った。実施例15、16は試験方法3-2、実施例31は試験方法3-3、比較例2は上記接触工程2の試験方法2-1により行った。
【0057】
<試験方法3-1>
1N希塩酸を用いて予めH型に再生しておいたゲル型の強酸性カチオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IR-124Na」)200mlを、垂直にセットされた内容量300mlのカラムに充填し、4000gの純水により十分に洗浄した後、24時間静置した。次いで、カラムに純水を注入し、15~25℃の範囲内の一定の温度に保温した。その後、カラム内の純水と同温度に調整された有機スルホン酸化合物の水溶液を表1に記載の空間速度(SV)で流通させた。
【0058】
<試験方法3-2>
試験方法3-1のゲル型の強酸性カチオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IR-124Na」)をMR型強酸性カチオン交換樹脂(商品名「アンバーライト 200CT」)に変更して用いた以外は試験方法3-1と同様の操作を行い、有機スルホン酸化合物の水溶液を表1に記載の空間速度(SV)で流通させた。
【0059】
<試験方法3-3>
試験方法3-1のゲル型の強酸性カチオン交換樹脂(商品名「アンバーライト IR-124Na」)180mlとMR型の弱酸性カチオン交換樹脂(商品名「アンバーライト FPC3500」)20mlを均一に混合した。上記混合した樹脂を垂直にセットされた内容量300mlのカラムに充填した。次いで、カラムに純水を注入し、15~25℃の範囲内の一定の温度に保温した。その後、カラム内の純水と同温度に調整された有機スルホン酸化合物の水溶液を表1に記載の空間速度(SV)で流通させた。
【0060】
実施例1~32、比較例1~5で得られた有機スルホン酸化合物の水溶液について、下記の試験方法により、塩素含有量、各金属含有量、および単位時間当たりの精製量を評価・測定した。その結果を表2に示す。
【0061】
≪塩素含有量≫
精製後の有機スルホン酸化合物の水溶液に対して、電位差滴定装置(AT-610、京都電子工業株式会社製)を用いて、0.01mol/lの硝酸銀水溶液を滴下し、塩素イオンの含有量を定量した。下記の評価基準に基づいて、精製後の有機スルホン酸化合物の水溶液中の塩素イオン含有量を評価した。
【0062】
<塩素イオンの評価基準(水溶液換算値)>
◎◎:塩素イオン含有量が20ppm未満(優れる)
◎:塩素イオン含有量が20ppm以上 50ppm未満(良好)
○:塩素イオン含有量が50ppm以上 100ppm未満(可)
×:塩素イオン含有量が100ppm以上(不可)
【0063】
≪金属含有量≫
精製後の有機スルホン酸化合物の水溶液に対して、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS 7700、アジレントテクノロジー社製)を用いて、金属イオン含有量を測定した。下記の評価基準に基づいて、精製後の有機スルホン酸化合物の水溶液中の各金属イオン含有量を評価した。
【0064】
<Naイオンの評価基準(水溶液換算値)>
◎◎:Naイオン含有量が30ppb未満(優れる)
◎:Naイオン含有量が30ppb以上 50ppb未満(良好)
〇:Naイオン含有量が50ppb以上 80ppb未満(可)
×:Naイオン含有量が80ppb以上(不可)
【0065】
<Kイオンの評価基準(水溶液換算値)>
◎◎:Kイオン含有量が5ppb未満(優れる)
◎:Kイオン含有量が5ppb以上 20ppb未満(良好)
○:Kイオン含有量が20ppb以上 50ppb未満(可)
×:Kイオン含有量が50ppb以上(不可)
【0066】
<Caイオンの評価基準(水溶液換算値)>
◎◎:Caイオン含有量が10ppb未満(優れる)
◎:Caイオン含有量が10ppb以上 20ppb未満(良好)
○:Caイオン含有量が20ppb以上 50ppb未満(可)
×:Caイオン含有量が50ppb以上(不可)
【0067】
<Feイオンの評価基準(水溶液換算値)>
◎◎:Feイオン含有量が10ppb未満(優れる)
◎:Feイオン含有量が10ppb以上 20ppb未満(良好)
○:Feイオン含有量が20ppb以上 50ppb未満(可)
×:Feイオン含有量が50ppb以上(不可)
【0068】
≪単位時間当たりの精製量≫
接触工程2および接触工程3について、イオン交換樹脂100mlに対して、1時間当たりの精製量を固形分換算で測定し、下記の評価基準に基づいて評価した。
◎◎:精製量が10g以上(優れる)
◎:精製量が5g以上 10g未満(良好)
○:精製量が5g未満(可)
【表2】
【0069】
実施例1~32は、精製された有機スルホン酸化合物の水溶液中の塩素イオン含有量は100ppm未満に低減され、各金属含有量はNaイオンにおいて80ppb未満、Kイオン、Caイオン、およびFeイオンにおいて50ppb未満に低減されていた。さらに、実施例1~19,21~32では、接触工程2および接触工程3ともに単位時間当たりの精製量が5g以上であった。実施例20では、接触工程2および接触工程3で交換樹脂に接触させる有機スルホン酸化合物の溶液濃度がともに低いため、単位時間当たりの精製量が5gを超えないものの、塩素イオン含有量および各金属含有量の低減に優れていた。一方、比較例1では、接触工程2を行わなかったため、塩素イオン含有量が100ppm以上であった。比較例2では、接触工程3の後で接触工程2を行ったため、塩素イオン含有量が100ppm以上であった。比較例3では、接触工程3を行わなかったため、各金属イオン含有量の低減が十分でなかった。比較例4では、接触工程2において、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混床を用いたため、塩素イオン含有量および各金属イオン含有量の低減が十分でなかった。比較例5では、接触工程2において、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂が接触するように充填され、相互に離間していなかったため、塩素イオン含有量の低減が十分でなく、各金属含有量はNaイオンにおいて50ppb以上80ppb未満であり、Kイオン、Caイオン、およびFeイオンにおいて20ppb以上50ppb未満であった。
【要約】
【課題】
精製途中で析出を起こすことなく、効率よく塩素イオンを低減した有機スルホン酸化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】
反応工程1:塩素系化合物を含有する反応基剤を用いて有機スルホン酸化合物を合成する工程と、接触工程2:反応工程1で得られた有機スルホン酸化合物の溶液をアニオン交換樹脂に接触させる工程と、接触工程3:接触工程2を経た有機スルホン酸化合物の溶液をカチオン交換樹脂に接触させる工程とを含む有機スルホン酸化合物の製造方法であって、前記接触工程2のアニオン交換樹脂と前記接触工程3のカチオン交換樹脂とが相互に離間していることを特徴とする製造方法。
【選択図】なし