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  • 特許-電動車両の制御装置 図1
  • 特許-電動車両の制御装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 7/18 20060101AFI20231218BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B60L7/18
B60L7/14
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020034456
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021141624
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】山本 稜治
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-122186(JP,A)
【文献】特開2013-158178(JP,A)
【文献】特開2008-131700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 7/18
B60L 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの力行運転により走行のための動力が駆動系に付与され、前記モータの回生運転により回生制動力が前記駆動系に付与される電動車両の制御装置であって、
ユーザにより操作されるユーザインタフェースと、
前記ユーザインタフェースの操作に基づいて、複数の車速ごとに、予め設定された最大減速度を上限とする範囲内で減速度を設定する減速度設定手段と、
前記モータの回生運転時に、車速に応じて前記減速度設定手段により設定された減速度が得られるように、前記モータの回生運転を制御する回生制御手段と、を含み、
前記複数の車速ごとに、前記減速度設定手段により設定される減速度を前記ユーザインタフェースに表示させる、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)や電気自動車(EV:Electric Vehicle)などの車両には、走行用の駆動源としてのモータが搭載されている。モータの動力は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の駆動輪に伝達される。車両の減速時には、モータの回生運転により、モータの回転軸に入力される動力が電力に変換される。このとき、モータが駆動系の抵抗となり、その抵抗が車両を制動する制動力(回生制動力)として作用する。モータが発生する電力は、電池に蓄えられて、その後のモータの駆動に利用される。
【0003】
モータの回生運転時の減速度は、ユーザによる車両の操作性などに影響する。そのため、減速度の強弱が異なる複数のレベルを設定して、ユーザがスイッチ操作で減速度のレベルを選択できるようした構成が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-7844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、減速度の強弱のレベルを選択できるだけでは、ユーザの細かい好みやユーザが車両を使用する道路の状況に合った減速度を得ることはできない。
【0006】
本発明の目的は、モータの回生運転時の減速度を細やかに設定できる、電動車両の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明に係る電動車両の制御装置は、モータの力行運転により走行のための動力が駆動系に付与され、前記モータの回生運転により回生制動力が駆動系に付与される電動車両の制御装置であって、ユーザにより操作されるユーザインタフェースと、前記ユーザインタフェースの操作に基づいて、複数の車速ごとに、予め設定された最大減速度を上限とする範囲内で減速度を設定する減速度設定手段と、前記モータの回生運転時に、車速に応じて前記減速度設定手段により設定された減速度が得られるように、前記モータの回生運転を制御する回生制御手段とを含む。
【0008】
この構成によれば、ユーザインタフェースの操作により、モータの回生運転時の回生制動力による減速度を複数の車速ごとにユーザが任意に設定することができる。そして、その設定された減速度が得られるようにモータの回生運転が制御されるので、ユーザの細かい好みやユーザが電動車両を使用する道路の状況に合った減速度を得ることができる。
【0009】
モータの回生運転は、車両のサービスブレーキ(フットブレーキ)の作動時に限らず、アクセルペダルが踏まれていないアクセルオフでサービスブレーキが作動していない状態でも行われてよく、減速度設定手段により、そのアクセルオフでサービスブレーキが作動していない状態での回生運転による減速度が設定されてもよい。
【0010】
この構成では、アクセルオフにより発生する減速度がユーザの好みに応じて細やかに設定された減速度となるので、アクセルペダルおよびブレーキペダルの踏み込み/踏み戻しが頻繁に繰り返されることを抑制できる。その結果、電動車両の燃費または電費の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モータの回生運転時の減速度を細やかに設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る電動車両の構成を示すブロック図である。
図2】電動車両の回生制動力による減速度の設定について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
<電動車両>
図1は、本発明の一実施形態に係る電動車両1の構成を示すブロック図である。
【0015】
電動車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステム2を搭載している。ハイブリッドシステム2には、エンジン(ENG)11、発電モータ(MG1)12、駆動モータ(MG2)13、駆動用バッテリ14およびPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)15が含まれる。
【0016】
エンジン11は、たとえば、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンである。エンジン11のクランクシャフト21には、エンジン出力ギヤ22がクランクシャフト21と一体に回転するように設けられている。
【0017】
発電モータ12は、たとえば、永久磁石同期モータからなる。発電モータ12の回転軸23には、発電モータギヤ24が一体に回転するように設けられている。発電モータギヤ24は、エンジン出力ギヤ22と噛合している。発電モータ12は、エンジン11の停止時に、エンジン11をクランキングさせるスタータモータとして使用される。エンジン11の始動後、発電モータ12は、エンジン11の動力を電力に変換する発電機として機能する。
【0018】
駆動モータ13は、たとえば、発電モータ12よりも大型の永久磁石同期モータからなる。駆動モータ13の回転軸25には、モータ出力ギヤ26が回転軸25と一体回転するように設けられている。
【0019】
モータ出力ギヤ26は、電動車両1に搭載されている動力伝達機構3に結合されている。動力伝達機構3には、カウンタ軸31、カウンタギヤ32、出力ギヤ33およびデファレンシャルギヤ34が含まれる。カウンタ軸31は、駆動モータ13の回転軸25と平行に設けられている。カウンタギヤ32および出力ギヤ33は、カウンタ軸31に一体に回転するように設けられている。出力ギヤ33は、デファレンシャルギヤ34のリングギヤ35と噛合している。モータ出力ギヤ26は、カウンタギヤ32と噛合している。
【0020】
駆動モータ13の動力は、モータ出力ギヤ26、カウンタギヤ32および出力ギヤ33を介して、デファレンシャルギヤ34に伝達される。そして、デファレンシャルギヤ34に伝達された動力は、電動車両1の左右のドライブシャフト4を介して、左右の駆動輪5に伝達される。これにより、左右の駆動輪5が回転し、電動車両1が前進または後進走行する。
【0021】
駆動用バッテリ14は、複数の二次電池(たとえば、リチウムイオン電池)を組み合わせた組電池である。駆動用バッテリ14は、たとえば、約200~350V(ボルト)の直流電力を出力する。
【0022】
PCU15は、発電モータ12および駆動モータ13の駆動を制御するためのユニットであり、第1インバータ(MG1 INV)41、第2インバータ(MG2 INV)42および昇圧コンバータ(BstCONV)43を備えている。
【0023】
電動車両1の加速走行時には、駆動モータ13が力行運転されて、駆動モータ13が力行のための動力を発生する。このとき、駆動用バッテリ14から出力される直流電力が昇圧コンバータ43により必要に応じて昇圧されて、昇圧コンバータ43から出力される直流電力が第2インバータ42で交流電力に変換され、その交流電力が駆動モータ13に供給される。これにより、駆動用バッテリ14の電力が消費される。
【0024】
また、エンジン11の始動時には、駆動用バッテリ14から出力される直流電力が昇圧コンバータ43により昇圧されて、昇圧された直流電力が第1インバータ41で交流電力に変換され、交流電力が発電モータ12に供給される。これにより、発電モータ12がモータリング運転されて、エンジン11が発電モータ12によりモータリングされる。このモータリングによりエンジン11のクランクシャフトが回転し、その回転数が始動に必要な回転数まで上昇すると、エンジン11の点火プラグがスパークされて、エンジン11が始動される。
【0025】
エンジン11が動作している状態で、発電モータ12が発電運転されることにより、発電モータ12が交流電力を発生する。発電モータ12が発電する交流電力は、第1インバータ41により、直流電力に変換される。そして、第1インバータ41から出力される直流電力が第2インバータ42で交流電力に変換され、交流電力が駆動モータ13に供給される。また、駆動モータ13への電力の供給が不要なときには、第1インバータ41から出力される直流電力が昇圧コンバータ43で降圧されて、降圧後の直流電力が駆動用バッテリ14に供給されることにより、駆動用バッテリ14が充電される。
【0026】
電動車両1の減速走行時には、駆動モータ13が回生運転されて、駆動輪5から駆動モータ13に伝達される動力が交流電力に変換される。このとき、駆動モータ13が走行駆動系の抵抗となり、その抵抗が電動車両1を制動する制動力(回生制動力)として作用する。駆動モータ13が発生する交流電力は、第2インバータ42により、直流電力に変換される。そして、第2インバータ42から出力される直流電力が昇圧コンバータ43で降圧されて、降圧後の直流電力が駆動用バッテリ14に供給されることにより、駆動用バッテリ14が充電される。
【0027】
また、電動車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)51を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)6が備えられている。マイコン51には、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。図1には、1つのECU6のみが示されているが、電動車両1には、各部を制御するため、ECU6と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU6を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0028】
さらに、電動車両1の車室内、たとえば、インストルメントパネルには、タッチパネル52が配設されている。タッチパネル52は、たとえば、液晶ディスプレイ上に感圧式または静電容量式の透明フィルムスイッチを貼付した構成であり、電動車両1の車両設定の情報のほか、ナビゲーション情報や音楽情報など種々の情報を表示するマルチインフォメーションディスプレイとして設けられている。
【0029】
<減速度設定>
図2は、電動車両1の回生制動力による減速度の設定について説明するための図である。
【0030】
電動車両1では、サービスブレーキ(フットブレーキ)の作動による減速時に限らず、アクセルペダルが踏まれていないアクセルオフの状態での走行時にも、減速走行時として、駆動モータ13が回生運転されて、その回生運転による回生制動力が駆動輪5を含む駆動系に作用する。
【0031】
そして、電動車両1では、タッチパネル52を操作して、そのアクセルオフでサービスブレーキが作動していない状態での回生制動力による減速度を複数の車速ごとに設定することができる。
【0032】
具体的には、図2に示されるように、0km/hから予め定められた最高車速(たとえば、180km/h)までの車速が複数の車速域、たとえば、低速域、中速域および高速域に分けられて、低速域、中速域および高速域の各車速域ごとに、図2に実線で一例が示されるように、アクセルオフでサービスブレーキが作動していない状態での最大減速度が予め設定されている。図2に実線で示される最大減速度の一例では、低速域での最大減速度は、一定であり、中速域での最大減速度は、低速域での最大減速度から車速が高くなるにつれて減少し、高速域での最大減速度は、中速域での最大減速度に滑らかに連続して、車速が高くなるにつれて減少するように設定されている。
【0033】
アクセルオフでサービスブレーキが作動していない状態での減速度は、所定の車速ごと(たとえば、1km/hごと)に、0から最大限速度までの範囲内でユーザが任意に設定することができる。タッチパネル52には、初期状態において、たとえば、最大減速度を示す線上に重ねて、アクセルオフでサービスブレーキが作動していない状態での減速度を示す線が表示されている。この減速度を示す線を部分的にユーザの手指で押さえ、その手指を上下にスライドさせることにより、手指で押さえた部分に対応する車速の減速度を大小変化させることができる。手指で押さえた部分に対応する車速の減速度が変えられると、減速度を示す線が滑らかに変化するように、その車速の近傍の車速の減速度が自動的に変更される。図2には、ユーザによる変更後の減速度を示す線が二点鎖線および破線で2通り示されている。
【0034】
<作用効果>
以上のように、タッチパネル52の操作により、アクセルオフでサービスブレーキが作動していない状態での減速度を複数の車速ごとにユーザが任意に設定することができる。そして、その設定された減速度が得られるように駆動モータ13の回生運転が制御されるので、ユーザの細かい好みやユーザが電動車両1を使用する道路の状況に合った減速度を得ることができる。
【0035】
また、アクセルオフにより発生する減速度がユーザの好みに応じて細やかに設定された減速度となるので、アクセルペダルおよびブレーキペダルの踏み込み/踏み戻しが頻繁に繰り返されることを抑制できる。その結果、電動車両1の燃費または電費の向上を図ることができる。
【0036】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0037】
たとえば、減速度を設定するためのユーザインタフェースとして、タッチパネル52を例示したが、ユーザインタフェースは、タッチパネル52に限らない。ユーザインタフェースとして、たとえば、インストルメントパネルに配設されたディスプレイに、車速ごとに設定される減速度がゲージ(棒グラフ)で表示され、そのゲージの長さをダイヤルで調整する構成が採用されてもよい。また、スマートフォンなどの端末がユーザインタフェースとして利用されてもよい。
【0038】
前述の実施形態では、シリーズ方式のハイブリッドシステム2を搭載した電動車両1を取り上げたが、本発明は、シリーズ・パラレル方式など、シリーズ方式以外の方式のハイブリッドシステムを搭載した電動車両に適用可能である。シリーズ・パラレル方式のハイブリッドシステムでは、たとえば、エンジンおよびモータが遊星歯車機構に接続されており、エンジンからの動力を分割してモータおよび駆動輪に振り分けることができ、エンジンからの動力およびモータからの動力を合成して駆動輪に伝達することができる。
【0039】
また、本発明は、ハイブリッドシステムを搭載した電動車両に限らず、モータを走行用の駆動源として搭載した車両であれば、エンジンを搭載していない電気自動車(EV:Electric Vehicle)に適用することもできる。
【0040】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1:車両
2:エンジン
11:エンジン
12:発電モータ(発電機)
16:駆動用電池(電池)
17:ECU(制御装置、連続停車検知手段、充電制御手段、空調制御手段)
21:車速センサ(連続停車検知手段)
22:EPBスイッチ(連続停車検知手段)
23:エアコンディショナ
図1
図2