(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】オイル受渡し構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20231218BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 Q
(21)【出願番号】P 2020034459
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】米本 真也
(72)【発明者】
【氏名】山中 駿平
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155912(JP,A)
【文献】特開2018-063037(JP,A)
【文献】特開平04-277360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの間に隙が生じる第1部材と第2部材との間で、前記第1部材の第1油路から前記第2部材の第2油路にオイルを受け渡す構造であって、
前記第1油路が第1方向に延びており、
前記第1部材には、前記第1油路から流れてくるオイルを前記第1方向と交差する第2方向に放出する放出口が形成され、
前記第2部材には、前記第2油路と連通し、前記放出口から放出されるオイルを受け入れる受入口が形成され
、
前記第2油路は、前記第1方向および前記第2方向と交差する方向に延び、前記受入口から離れるほど低く下がるように傾斜している、オイル受渡し構造。
【請求項2】
前記第1部材には、前記第1油路と前記放出口との間に、前記第1油路から前記放出口に流れるオイルの流量を制限する絞りが形成され
、
前記放出口は、前記第2方向の下流側ほど拡径する略円錐状に形成されている、請求項1に記載のオイル受渡し構造。
【請求項3】
前記第2部材には、前記受入口の周縁部の一部から前記第1部材側に前記第1部材と前記第2方向にオーバラップする位置まで延出する延出部が形成されている、請求項1または2に記載のオイル受渡し構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイル受渡し構造に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、エンジンの動力により走行するコンベンショナルな車両には、変速機が搭載されている。エンジンの動力は、変速機のインプット軸に入力されて、変速機内で変速され、変速機のアウトプット軸からデファレンシャルギヤなどを介して左右の駆動輪に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変速機には、クラッチやベアリングなど、回転要素間の差回転を吸収しなければならない部材が多く使用されている。それらの各部材には、差回転の吸収による摩耗や焼き付きなどを防止するために、潤滑のためのオイル(潤滑油)を供給する必要がある。
【0005】
そのため、変速機では、別部材の油路間でオイルの受け渡しが生じる設計を余儀なくされる場合がある。
図4には、その場合の設計の一例が示されている。
図4に示される設計では、一方の部材91の側面に開口92が形成され、他方の部材93の側面に開口94が形成される。一方の部材91に形成されている油路95は、開口92と連通して、開口92で開放されている。他方の部材93に形成されている油路96は、開口94と連通して、開口94で開放されている。そして、一方の開口92と他方の開口94とが互いに突き合わされて、一方の部材91と他方の部材93との間に、開口92,94の周囲を取り囲むように円環状のガスケット97が介在される。これにより、一方の部材91の油路95から他方の部材93の油路96にオイルを漏らさずに受け渡すことが可能となる。
【0006】
しかしながら、オイルの漏れを防止するためのガスケット97などのシール部材が必要となり、コストアップにつながる。
【0007】
本発明の目的は、シール部材を用いずに、互いの間に隙が生じる第1部材と第2部材との間で、第1部材の第1油路から第2部材の第2油路にオイルを良好に受け渡すことができる、オイル受渡し構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明に係るオイル受渡し構造は、互いの間に隙が生じる第1部材と第2部材との間で、第1部材の第1油路から第2部材の第2油路にオイルを受け渡す構造であって、第1油路が第1方向に延びており、第1部材には、第1油路から流れてくるオイルを第1方向と交差する第2方向に放出する放出口が形成され、第2部材には、第2油路と連通し、放出口から放出されるオイルを受け入れる受入口が形成されている。
【0009】
この構成によれば、第1部材では、第1油路から放出口にオイルが流入し、そのオイルが放出口から第2方向に放出される。第2部材には、第1部材の放出口から第2方向に放出されるオイルを受け入れる受入口が形成されている。受入口は、第2油路と連通している。そのため、第1部材の放出口から放出されるオイルが第2部材の受入口に受け入れられると、受入口から第2油路にオイルが流れ込み、そのオイルが第2油路を流れる。
【0010】
よって、シール部材を用いずに、互いの間に隙が生じる第1部材と第2部材との間で、第1部材の第1油路から第2部材の第2油路にオイルを良好に受け渡すことができる。
【0011】
第1部材には、第1油路と放出口との間に、第1油路から放出口に流れるオイルの流量を制限する絞りが形成されていてもよい。
【0012】
この構成により、放出口から放出されるオイルの流速を高めることができ、放出口から放出されるオイルを受入口に良好に到達させることができる。その結果、第1部材と第2部材との間からオイルが漏れることを良好に抑制することができる。また、第1油路から第2油路に受け渡されるオイルの量が低減するので、第2油路から供給されるオイルで潤滑される部材の回転抵抗などを下げることができる。その結果、このオイル受渡し構造が車両の変速機などに適用される場合には、車両の燃費の向上を期待できる。さらには、第1油路から第2油路に受け渡されるオイルの低減分、第1油路から潤滑が必要な他の部材にオイルを供給することができる。
【0013】
第2部材には、受入口の周縁部の一部から第1部材側に第1部材と第2方向にオーバラップする位置まで延出する延出部が形成されていてもよい。
【0014】
この構成では、放出口以外から飛散してくるオイルの飛沫が受入口に受け入れられることを抑制でき、オイルのコンタミネーションを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シール部材を用いずに、互いの間に隙が生じる第1部材と第2部材との間で、第1部材の第1油路から第2部材の第2油路にオイルを良好に受け渡すことができる
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るオイル受渡し構造が適用される変速ユニットの一部を示す図である。
【
図2】
図1に示される切断面線A-Aにおける第1保持部材および第2保持部材の断面図である。
【
図3】他の実施形態に係るオイル受渡し構造を示す断面図である。
【
図4】従来のオイル受渡し構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
<オイル受渡し構造>
図1は、本発明の一実施形態に係るオイル受渡し構造が適用される変速ユニット1の一部を示す図である。
【0019】
変速ユニット1は、車両に搭載されて、走行用の駆動源としてのエンジン2(E/G)2が発生する動力を変速するユニットである。変速ユニット1は、プライマリプーリとセカンダリプーリとに無端状のベルトを巻き掛けた構成の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)、つまりベルト式の無段変速機を内蔵している。
【0020】
変速ユニット1には、プライマリプーリの回転軸の端部を保持するための第1保持部材11と、セカンダリプーリの回転軸32(
図2参照)を保持するための第2保持部材12とが設けられている。
【0021】
図2は、
図1に示される切断面線A-Aにおける第1保持部材11および第2保持部材12の断面図である。
【0022】
第1保持部材11には、変速ユニット1に設けられているバルブボディ(図示せず)から潤滑油としてのオイルが供給される第1油路21が形成されている。第1油路21は、上下方向に延びている。第1保持部材11の側面には、第1油路21の下端部と対向する位置に、放出口22が設けられている。放出口22は、第1保持部材11の側面で開放され、その側面に近づくほど拡径する略円錐状に形成されている。また、第1保持部材11には、第1油路21と放出口22との間に、第1油路21の内径よりも小さい内径を有する絞り管部23が形成されている。第1油路21と放出口22とは、絞り管部23を介して連通している。
【0023】
第2保持部材12には、上下方向と直交する方向、たとえば、車両の前後方向における後側に凹む軸受凹部31が形成されている。軸受凹部31には、セカンダリプーリの回転軸32の後端部が挿入される。回転軸32の後端部は、軸受凹部31内に挿入されて、その周面と軸受凹部31の内周面との間に介在されるベアリング33を介して第2保持部材12に回転可能に支持されている。言い換えれば、回転軸32の後端部にベアリング33が外嵌され、そのベアリング33が軸受凹部31に嵌入されることにより、回転軸32の後端部は、ベアリング33を介して第2保持部材12に回転可能に支持されている。
【0024】
第2保持部材12は、第1保持部材11の放出口22が形成されている部分と隙間を空けて近接して配置される近接部34を有している。近接部34には、放出口22に向けて開放された略半球状の受入口35が形成されている。また、第2保持部材12には、近接部34と軸受凹部31の後上端部との間に、第2油路36が形成されている。第2油路36は、近接部34に接続されて、近接部34と連通している。そして、第2油路36は、近接部34から軸受凹部31の後上端部に近づくほど低く下がるように傾斜している。また、第2油路36は、軸受凹部31と連通している。
【0025】
<作用効果>
かかる構成により、第1保持部材11では、第1油路21を流れるオイルが第1油路21から絞り管部23を通して放出口22に流入し、そのオイルが放出口22から第2保持部材12の受入口35に向けて上下方向と交差ないしは直交する方向(第2方向)に放出される。
【0026】
第2保持部材12では、受入口35が第2油路36と連通している。そのため、第1保持部材11の放出口22から放出されるオイルが第2部材の受入口35に受け入れられると、受入口35から第2油路36にオイルが流れ込み、そのオイルが第2油路36を流れる。
【0027】
よって、シール部材を用いずに、互いの間に隙が生じる第1保持部材11と第2部材との間で、第1保持部材11の第1油路21から第2部材の第2油路36にオイルを良好に受け渡すことができる。
【0028】
そして、第2保持部材12では、第2油路36と軸受凹部31とが連通しているので、第2油路36を流れるオイルが軸受凹部31に流入する。これにより、軸受凹部31内に配置されているベアリング33およびそのベアリング33に保持されている回転軸32にオイルを供給することができ、回転軸32およびベアリング33をオイルで潤滑することができる。
【0029】
また、第1保持部材11には、第1油路21と放出口22との間に、絞り管部23が形成されている。これにより、第1油路21から放出口22に流出するオイルの流速が高まり、放出口22から放出されるオイルの流速を高まるので、放出口22から放出されるオイルを受入口35に良好に到達させることができる。その結果、第1保持部材11と第2部材との間からオイルが漏れることを良好に抑制することができる。また、第1油路21から放出口22に流れるオイルの流量が制限されるので、第1油路21から第2油路36に受け渡されるオイルの量が減り、オイルによる回転軸32およびベアリング33の回転抵抗を下げることができる。その結果、車両の燃費の向上を期待できる。さらには、第1油路21から第2油路36に受け渡されるオイルの低減分、第1油路21から潤滑が必要な他の部材にオイルを供給することができる。
【0030】
<他の実施形態>
図3は、他の実施形態に係るオイル受渡し構造を示す断面図である。
【0031】
図3において、
図2に示される各部に相当する部分には、それらの各部と同一の参照符号が付されている。また、以下では、その同一の参照符号が付された部分の説明を省略する。
【0032】
図3に示されるオイル受渡し構造では、
図2に示されるオイル受渡し構造と比較して、受入口35が放出口22に向けて大きく開口している。これにより、受入口35の上端は、放出口22の上端に対して上方に離間しており、
受入口35の内面には、放出口22から放出されるオイルを受け止めて、その受け止めたオイルを第2油路36に導く受面51が形成されている。
【0033】
これにより、放出口22から放出されるオイルを受入口35に良好に受け入れて、その受け入れたオイルを受入口35から第2油路36に流すことができる。その結果、第1保持部材11と第2部材との間からオイルが漏れることを一層良好に抑制することができる。
【0034】
また、受入口35の周縁部の下部から第1保持部材11側に延出する延出部52が形成されている。延出部52は、第1保持部材11と上下方向と交差ないしは直交する方向にオーバラップする位置まで延出している。
【0035】
延出部52が設けられていることにより、放出口22以外から飛散してくるオイルの飛沫が受入口35に受け入れられることを抑制でき、オイルのコンタミネーションを抑制することができる。
【0036】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0037】
たとえば、変速ユニット1に備えられる変速機は、ベルト式の無段変速機に限らず、ベルト式以外の無段変速機であってもよいし、有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)であってもよいし、手動変速機(MT:Manual Transmission)であってもよい。
【0038】
また、本発明は、変速ユニット1以外に、オイルで潤滑する必要がある部材を備える構成に広く適用することができる。
【0039】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0040】
11:第1保持部材(第1部材)
12:第2保持部材(第2部材)
21:第1油路
22:放出口
33:絞り管部(絞り)
35:受入口
36:第2油路
52:延出部