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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】試験治具および試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/06 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
G01M7/06
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020150306
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022044917
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】春別府 佑
(72)【発明者】
【氏名】谷江 尚史
(72)【発明者】
【氏名】新谷 寛
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-73512(JP,A)
【文献】特開昭63-78038(JP,A)
【文献】特開2006-337086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生装置に接続可能であり、z軸方向に加振される振動発生装置接続部と、
前記振動発生装置接続部に接続されて、前記z軸方向に交差するx軸方向に片持ち状に延在する第一振動板と、
前記第一振動板のx軸方向端部近傍に接続されて、前記z軸方向および前記x軸方向に交差するy軸方向に片持ち状に延在する第二振動板と、
供試体を設置可能であり、前記振動発生装置接続部から前記第一振動板と前記第二振動板を介して振動を受ける供試体設置部とを有し、
前記第一振動板および前記第二振動板のうち少なくとも1つは、長さ調整機構を有する、
ことを特徴とする試験治具。
【請求項2】
請求項1に記載の試験治具であって、
前記長さ調整機構は、前記第一振動板および前記第二振動板のうち一方に形成された長穴と、前記第一振動板および前記第二振動板のうち他方に形成された雌ねじ穴と、前記雌ねじ穴に螺合可能な雄ねじを備え前記長穴に挿通可能である締結体とを有し、
前記締結体の雄ねじを前記雌ねじ穴に螺合させて締め付けることで、前記第一振動板と前記第二振動板が固定され、
前記締結体の雄ねじを前記雌ねじ穴から緩めることで、前記第一振動板と前記第二振動板が前記長穴に沿って相対移動可能となる、
ことを特徴とする試験治具。
【請求項3】
請求項1に記載の試験治具であって、
前記第二振動板のy軸方向端部近傍に接続されて、前記z軸方向に延在する第三振動板を有し、
前記供試体設置部は、前記振動発生装置接続部から前記第一振動板と前記第二振動板と前記第三振動板を介して振動を受ける、
ことを特徴とする試験治具。
【請求項4】
請求項2に記載の試験治具であって、
前記第二振動板のy軸方向端部近傍に接続されて、前記z軸方向に延在する第三振動板を有し、
前記供試体設置部は、前記振動発生装置接続部から前記第一振動板と前記第二振動板と前記第三振動板を介して振動を受ける、
ことを特徴とする試験治具。
【請求項5】
請求項4に記載の試験治具であって、
前記長さ調整機構は、前記第二振動板および前記第三振動板のうち一方に形成された長穴と、前記第二振動板および前記第三振動板のうち他方に形成された雌ねじ穴と、前記雌ねじ穴に螺合可能な雄ねじを備え前記長穴に挿通可能である締結体とを有し、
前記締結体の雄ねじを前記雌ねじ穴に螺合させて締め付けることで、前記第二振動板と前記第三振動板が固定され、
前記締結体の雄ねじを前記雌ねじ穴から緩めることで、前記第二振動板と前記第三振動板が前記長穴に沿って相対移動可能となる、
ことを特徴とする試験治具。
【請求項6】
請求項3に記載の試験治具であって、
前記第一振動板と前記第二振動板と前記第三振動板のうち少なくとも1つは、それぞれ厚板部と薄板部とを連設してなる2つの部材を組み合わせて形成され、前記薄板部同士は、前記長さ調整機構を介して連結されている、
ことを特徴とする試験治具。
【請求項7】
請求項4に記載の試験治具であって、
前記第一振動板と前記第二振動板と前記第三振動板のうち少なくとも1つは、それぞれ厚板部と薄板部とを連設してなる2つの部材を組み合わせて形成され、前記薄板部同士は、前記長さ調整機構を介して連結されている、
ことを特徴とする試験治具。
【請求項8】
請求項5に記載の試験治具であって、
前記第一振動板と前記第二振動板と前記第三振動板のうち少なくとも1つは、それぞれ厚板部と薄板部とを連設してなる2つの部材を組み合わせて形成され、前記薄板部同士は、前記長さ調整機構を介して連結されている、
ことを特徴とする試験治具。
【請求項9】
請求項3に記載の試験治具であって、
前記第一振動板の有効長さをL、前記第二振動板の有効長さをL、前記第三振動板の有効長さをLとおいたとき、L=2(L+L)/3が成立する、
ことを特徴とする試験治具。
【請求項10】
請求項4に記載の試験治具であって、
前記第一振動板の有効長さをL、前記第二振動板の有効長さをL、前記第三振動板の有効長さをLとおいたとき、L=2(L+L)/3が成立する、
ことを特徴とする試験治具。
【請求項11】
請求項5に記載の試験治具であって、
前記第一振動板の有効長さをL、前記第二振動板の有効長さをL、前記第三振動板の有効長さをLとおいたとき、L=2(L+L)/3が成立する、
ことを特徴とする試験治具。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の試験治具を用いる試験方法であって、
前記振動発生装置接続部を、前記振動発生装置により前記z軸方向に加振することによって、前記z軸方向以外の方向を含む振動を供試体に付与する、
ことを特徴とする試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験治具および試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品の設計段階で試作品に温度、振動等の過大な負荷を与え、この試作品を製品化した際に脆弱な箇所を早期に把握するHALT(Highly Accelerated Limit Test)と呼ばれる試験技術がある。かかる試験技術に好適な試験装置として、例えば多軸方向のランダム振動と温度急変を同時負荷可能なHALT装置が製品化されている。
【0003】
一方、1軸方向にのみ加振可能な振動発生装置も広く普及しており、主に、製品の振動に対する信頼性検証に使用されている。1軸方向に加振可能な振動発生装置とその試験治具に関する技術として、例えば特許文献1、2に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-055777号公報
【文献】特開2000-258290号公報
【文献】特開平10-073512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、HALT試験の際にはHALT専用装置を使用する。HALT専用装置は、装置自体も高価であることに加え、一般的には装置を冷却したり試験環境温度を急激に変更させる際に液体窒素や電力を大量に消費するため、1軸の試験装置を使用する場合に比べて評価のためにかかるコストが高くなるという課題がある。そのために、より低コストで評価を行いたいという要請がある。
【0006】
これに対し、製品の故障モードによっては、複数の軸方向に同時に加振した場合、各1軸方向に加振した場合よりも寿命が短縮されるという事象が知られている。また製品によっては、HALT専用装置を使用せずとも、例えば特許文献3に記載されているような試験装置を用いて試料評価を行うこともできる。
【0007】
特許文献3には、一方向に試料を加振して加振強度を測定する振動試験器を使用して、試料を傾斜した治具に取り付け、一方向に加振することにより、試料に垂直方向の分力によるに加振力と、水平方向の分力による加振力を印加することで、脆弱箇所を抽出できる試験装置が開示されている。かかる試験装置により、評価のためのコストを低減することができる。
【0008】
しかしながら、特許文献3の試験装置において、試料に印加される、垂直方向の加振力と、水平方向の加振力の調整を独立して行うことが難しいという問題がある。そこで、脆弱箇所の抽出のために、1軸方向のみ加振可能な振動発生装置に取り付けることによって試料を複数の軸方向に同時に加振でき、また各軸方向の加振力を様々な比率で容易に変更できる試験治具が望まれている。
【0009】
本発明は、前記課題を鑑みてなされたものであり、1軸方向のみ加振可能な振動発生装置を用いて、供試体に複数軸方向の加振力を同時に負荷し、かつ、各軸方向の加振力の比率を容易に変更できる試験治具および試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、代表的な本発明の試験治具の一つは、
振動発生装置に接続可能であり、z軸方向に加振される振動発生装置接続部と、
前記振動発生装置接続部に接続されて、前記z軸方向に交差するx軸方向に片持ち状に延在する第一振動板と、
前記第一振動板のx軸方向端部近傍に接続されて、前記z軸方向および前記x軸方向に交差するy軸方向に片持ち状に延在する第二振動板と、
供試体を設置可能であり、前記振動発生装置接続部から前記第一振動板と前記第二振動板を介して振動を受ける供試体設置部とを有し、
前記第一振動板および前記第二振動板のうち少なくとも1つは、長さ調整機構を有することにより達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1軸方向のみ加振可能な振動発生装置を用いて、供試体に複数軸方向の加振力を同時に負荷し、かつ、各軸方向の加振力の比率を容易に変更できる試験治具および試験方法を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1実施形態に係る試験治具の構造を示す概略斜視図である。
図2図2は、長さ調整機構の例である。
図3図3は、長さ調整機構の例である。
図4図4は、振動試験開始前の側面模式図である。
図5図5は、振動試験中の変形図である。
図6図6は、2次元の材料力学モデルを示す図である。
図7図7は、2次元の材料力学モデルの変形図である。
図8図8は、2次元の材料力学モデルにおける第一振動板の変形図である。
図9図9は、2次元の材料力学モデルを示す図である。
図10図10は、有限要素解析モデルを示す図である。
図11図11は、有限要素解析結果を示す図である。
図12図12は、有限要素解析結果を示す図である。
図13図13は、有限要素解析結果を示す図である。
図14図14は、有限要素解析結果を示す図である。
図15図15は、有限要素解析モデルを示す図である。
図16図16は、有限要素解析結果を示す図である。
図17図17は、有限要素解析結果を示す図である。
図18図18は、有限要素解析結果を示す図である。
図19図19は、第2実施形態に係る試験治具の構造を示す概略斜視図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施に好適な実施形態を説明する。ただし、本発明はここで取り挙げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組合せや改良が可能である。
本明細書中、「振動板の有効長さ」とは、振動板の両端に別の振動板が接合されている場合には、振動板の軸線同士が交わる点間の距離をいい、振動板の一端が振動発生装置接続部または供試体設置部と接合され、振動板の他端が別の振動板と接合されている場合は、振動板の軸線が一端側で接合部と交わる点と、他端側で他の振動板の軸線と交わる点との間の距離をいう。また、「長さ調整装置」は、振動板の有効長さの調整を行うものをいう。
また、以下の実施形態では、x軸方向、y軸方向、z軸方向が互いに直交する場合(直交座標系)を例に挙げて説明するが、x軸方向、y軸方向、z軸方向が斜めに交差する場合(斜交座標系)でも、同様に適用可能である。
【0014】
≪第1実施形態≫
図1は、試験治具の構造を示す概略斜視図である。試験治具100は、振動発生装置接続部1、第一振動板2、第二振動板3、第三振動板4、および供試体設置部5で構成される。振動発生装置接続部1は、1軸方向に加振可能な振動発生装置9(図4,5参照)に、ボルト等を用いて接続される。
ここで、鉛直方向をz軸方向とし、z軸方向に直交する方向をx軸方向及びy軸方向とする。x軸方向及びy軸方向は相互に直交する。
【0015】
第一振動板2は、振動発生装置接続部1と隣接して接続され、振動発生装置の振動方向(z軸方向)と直交してx軸方向に片持ち状に延在している。第二振動板3は、第一振動板2の端部近傍に接続されてy軸方向に片持ち状に延在している。第三振動板4は、第二振動板3の端部近傍に接続されてz軸方向に延在している。すなわち、第一振動板2、第二振動板3、第三振動板4は互いに直交している。供試体設置部5は、第三振動板4の端部近傍に位置しており、試験対象となる供試体をボルト等を用いて固定可能である。
【0016】
試験治具100は、質量が小さく剛性が高いほど共振周波数が大きくなり、試験周波数帯での試験治具の共振を回避しやすくなるため、その素材としては、比重が小さく剛性が高いものを用いることが望ましい。また、振動試験時の負荷による変形、破損や疲労破壊を抑制できる、十分な強度や疲労強度を有する素材を用いることが望ましい。
【0017】
試験治具100の素材として、例えば、鉄やアルミニウム、あるいはそれらを主成分とした合金等の金属、または、FRP(Fiber Reinforced Plastics)等の複合材料を用いても良い。金属は、一般的に加工性に優れるという長所がある。一方、複合材料は、一般的に比重が小さい割に、剛性や強度が高いという長所がある。
【0018】
第一振動板2、第二振動板3、および第三振動板4の断面形状は、図1に示したような中実の長方形の他、内部に空洞を持つロ字型や、H字型でも構わない。断面が中実の長方形の場合、例えば締結用のねじ穴等を確保しやすく加工や取り付けが容易という長所がある。一方、断面がロ字型、H字型の場合は、中実の長方形の場合と比較して、剛性を大きく低下させずに質量を低減できるという長所がある。
【0019】
第一振動板2、第二振動板3、および第三振動板4のうち少なくとも1つは、長さ調整機構6を持つ。長さ調整機構6は、振動発生装置接続部1から供試体設置部5までをつなぐ経路のうち、第一振動板2、第二振動板3、および第三振動板4それぞれの有効長さを相対的に変化させるための機構である。
【0020】
図2図3に長さ調整機構6の一例を示す。例えば、図2のように第一振動板2に、第二振動板3に対向する長穴状の穴(長穴ともいう、以下同じ)12を設け、先端に雄ねじを形成したピン(締結体ともいう)14を穴12に通して第二振動板3の雌ねじ穴に螺合させ、ピン14を強く締め付けることによって、第一振動板2に対する位置を固定する。ピン14を緩めて、長穴状の穴12に沿って相対移動を許容することで、第二振動板3を第一振動板2の長手方向に対して動かすことができる。この機構により、振動発生装置接続部1から供試体設置部5までをつなぐ経路のうち、第一振動板2の有効長さを変化させることができる。ピン14と穴12とで長さ調整機構6を構成する。締結体として、ピンの代わりに汎用のボルトを用いることもできる。
【0021】
同様に、第二振動板3に、第二振動板3に対向する長穴状の穴13を設け、先端に雄ねじを形成したピン15を穴13に通して第三振動板4の雌ねじ穴に螺合させ、ピン15を強く締め付けることによって、第二振動板3に対する位置を固定する。ピン15を緩めて、長穴状の穴13に沿って相対移動を許容することで、第三振動板4を第二振動板3の長手方向に対して動かすことができる。この機構により、振動発生装置接続部1から供試体設置部5までをつなぐ経路のうち、第二振動板3の有効長さを変化させることができる。ピン15と穴13とで長さ調整機構6を構成する。
【0022】
図3は、第三振動板4近傍のみを示した側面図である。例えば図3のように、第三振動板4が2つの部材4a、4bを組み合わせて形成されている。上側の部材4aは、厚板部4cと、厚板部4cから下方に向かって突出した薄板部4dとを連設している。また、下側の部材4bは、厚板部4eと、厚板部4eから上方に向かって突出し、薄板部4dに摺動可能に面接触する薄板部4fとを連設している。厚板部4c、4eの厚さは等しく、また薄板部4d、4fの厚さは等しく、且つ厚板部4c、4eの厚さの1/2となっている。
【0023】
薄板部4dに、薄板部4fに対向して上下方向に延在する長穴状の穴16を設け、先端に雄ねじを形成したピン17を穴16に通して薄板部4fの雌ねじ穴に螺合させ、ピン17を強く締め付けることによって位置を固定する。ピン17を緩めて、長穴状の穴16に沿って相対移動を許容することで、第三振動板4の厚板部4c、4e同士の距離を変化させることができ、これにより第三振動板4の全長、すなわち有効長さを変化させることができる。ピン17と穴16とで長さ調整機構6を構成する。
【0024】
ここでは、長さ調整機構6の一例を示したが、例えば図3に示した機構が、第一振動板2や第二振動板3に適用されていても構わない。また、図2図3では、ピン14、ピン15、ピン17を緩めて各部材の位置を変化させる例を示したが、例えばこのピン14、ピン15、ピン17に相当する箇所にアクチュエータを設けて、各部材の相対位置を調整できるようにしても構わない。そうした場合、振動試験時の加振負荷でアクチュエータが破損しないように信頼性を確保することが課題となるが、振動試験途中でもアクチュエータを動作させて有効長さ調整を行えるという長所がある。
【0025】
図4図5を用いて、試験治具100の動作を説明する。図4は振動試験開始前の側面模式図であり、図5は、図4の状態から振動試験を実施した際の、ある瞬間の変形形状の模式図である。わかりやすく説明するために変形量を拡大して示している。
【0026】
図4に示すように、試験治具100は、振動発生装置9に一端側の振動発生装置接続部(図4で不図示)が接続されてL字状に延在し、他端側の供試体設置部(図4で不図示)に供試体7を取り付けている。振動発生装置9は、振動部9aと振動発生装置本体9bから構成されている。振動試験中は、図5に示すように、振動部9aがz軸方向にのみ振動する。しかし、図5に示すように試験治具100に曲げ変形が生じるため、供試体7には、z軸方向成分の加速度だけでなく、x軸方向成分の加速度が発生する。
【0027】
同様に、紙面垂直のy軸方向にも試験治具100が曲げ変形し、供試体7にはy軸方向成分の加速度が発生する。以上のように、試験治具100を用いることで、1軸方向のみ加振可能な振動発生装置9によって、供試体7に複数軸方向の加振力を同時に印加することができる。
【0028】
x軸、y軸、z軸方向それぞれに同一オーダーの大きさの加速度を発生させるためには、供試体7の質量、試験治具100の材質に応じて、適切な治具の寸法を決定する必要がある。また、試験周波数帯で共振が発生すると、特定の周波数でのみ過大な加速度が発生し、今回目的としている試験を実施できないため、治具の共振周波数も適切に決定する必要がある。
【0029】
以下では、適切な治具の寸法の決定方法を説明する。まず、わかりやすくするため、xz座標系の2次元の場合を考え、x軸方向、z軸方向それぞれに同一オーダーの加速度を発生させ、かつ試験周波数内での共振を避ける方法を説明する。
【0030】
図6は、xz座標系における試験治具100を材料力学モデルで簡易的に示した模式図である。xz座標系の変形のみを考えるため、紙面垂直方向に存在する第二振動板3は、ここでは省略する。供試体7を質点と仮定した。梁で表した第三振動板4と第一振動板2が供試体7に接続されている。第一振動板2の端部は固定端11で変形を拘束し、振動発生装置にボルト接続されている状態をモデル化した。
【0031】
図7は、振動試験中のある瞬間、図5と同様の変形が生じた際のモデル形状を示す。uzeは、振動発生装置による加振で生じる、固定端11のz軸方向変位である。第一振動板2が、たわみ角θ、たわみ量uで曲げ変形し、それに伴い、供試体7にはx軸方向変位uも発生する。
【0032】
図8は、図7に示したモデルのうち、第一振動板2のみを表示したものである。このとき第一振動板2の先端に作用している荷重をPとおくと、材料力学における、梁の変形の基礎式より、u=P /(3EI)、θ=P /(2EI)と表される。ただし、Lは第一振動板2の有効長さ、Eは第一振動板2と第三振動板4のヤング率、Iは第一振動板2の断面二次モーメントである。
【0033】
また、第三振動板4の有効長さをLとおくと、θが十分小さいとき、u=Lθが成り立つ。u、uに対してuzeが十分小さく、u=uが成立するとき、L /(2EI)=P /(3EI)より、L=2L/3となる。すなわち、L=2L/3という関係が成立するようにL、Lを定めることにより、x軸方向およびz軸方向それぞれに同一オーダーの加速度を発生させることができる。
【0034】
図9は、供試体7と第三振動板4の質量を足し合わせ、合成質量10として質点で表現したモデルである。図7に示した第一振動板2が変形するモードを、図9のはりの振動の1次モードと捉えると、固有振動数fは、f=1/(2π)√(3EI/(M+m/4)/L )と表される。ただし、Mは合成質量10の質量であり、mは第一振動板2の質量である。よって、このfが試験周波数に含まれないようにすれば良い。
【0035】
例えば、供試体7の質量をm=0.5kgとし、第一振動板2および第三振動板4の材質を密度7.85g/cm、ヤング率200GPaの鉄とし、試験周波数帯が1000Hz以下の場合を考える。この場合、第一振動板2および第三振動板4の断面形状を中実な長方形すると、例えば、L=90mm、L=60mm、第一振動板2および第三振動板4それぞれの板厚t、tを、t=t=30mmとし、板幅b=100mmとすることで、共振周波数は1390Hzとなり、試験周波数範囲に含まれないので、上記の条件を満たす。
【0036】
図10に、検証のための有限要素解析で用いた解析モデルを示す。固定端11で変形を拘束し、供試体設置部5に質量m=0.5kgを等分布に設定し、モデル全体にz軸方向の加速度を与えた。
【0037】
図11に、x軸方向、y軸方向、および軸方向の加速度の応答倍率を示す。y軸方向にはほとんど加速度は発生せず、x軸方向およびz軸方向には同等の加速度が発生した。また、共振周波数は推定通り、1000Hzを上回った。
【0038】
図12に、図11で示したz軸方向およびx軸方向の応答倍率の比を示す。材料力学モデルでの計算では、実際の構造の厚さによる変形への影響等が考慮されないため、応答比はちょうど1.0には一致しなかったが、試験周波数帯1000Hz以下の範囲で約0.8となり、狙い通り、x軸方向およびz軸方向それぞれに同一オーダーの加速度を発生させられることを検証できた。
【0039】
、Lを変化させることにより、x軸方向およびz軸方向それぞれに任意の比率で加速度を発生させることができる。この比率を応答比という。応答比の例を図13図14に示す。
【0040】
図13は、L=100mm、L=75mmとした場合の有限要素解析結果である。z軸方向、x軸方向の応答比を1.0にすることができる。図14は、L=100mm、L=45mmとした場合の有限要素解析結果である。図14より、z軸方向とx軸方向の応答比を約0.5にすることができる。
【0041】
ここまでxz座標系の2次元の場合について説明してきたが、xyz座標系の3次元の場合も同様の方法で適切な試験治具の寸法を決定できる。2次元の検討で無視した第二振動板3の変形を、図8と同様のはりの曲げと捉え、はりの先端に発生している荷重をPとすると、同様に、たわみ量uz2=P /(3EI)、たわみ角θ=P /(2EI)となり、供試体7のy軸方向変位uはu=Lθとなる。ただし、Lは第二振動板3の有効長さ、Eは第二振動板3のヤング率、Iは第二振動板3の断面二次モーメントである。
【0042】
2次元の検討と同様の仮定のもと、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向の各変位が等しい場合を考えると、u=u=u+uz2が成り立つ。よって、L /(2EI)=L /(2EI)=P /(3EI)+P /(3EI)となる。
【0043】
ここで、P、Pを消去して整理すると、L=2(L+L)/3となる。すなわち、L=2(L+L)/3という関係が成立するようにL、Lを定めることにより、x、y、z軸方向それぞれに同一オーダーの加速度を発生させることができる。
【0044】
共振周波数についても、第一振動板2が変形するモードを考えた場合、図9において、合成質量10を、供試体7と第二振動板3と第三振動板4の質量を足し合わせたものと捉えれば良く、2次元の場合と同様の式を用いることができる。
【0045】
図15に、2次元の検討と同一条件で、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向それぞれに同一オーダーの加速度を発生させられるように寸法を選定した治具形状を示す。板厚は全て30mm、L=90mm、L=60mm、L=100mmである。
【0046】
このモデルに対して、2次元での検討と同様に有限要素解析を実施した。固定端11で変形を拘束し、供試体設置部5に質量m=0.5kgを等分布に設定し、モデル全体にz軸方向の加速度を与えた。
【0047】
図16に、解析の結果得られたx軸方向、y軸方向、およびz軸方向の各方向の応答倍率を示す。共振周波数は推定通り、1000Hzを上回った。図17に、z軸方向およびx軸方向の応答倍率の比を示し、図18に、z軸方向およびy軸方向の応答倍率の比を示す。3次元の場合も、2次元の場合と同様にx軸方向、y軸方向、およびz軸方向それぞれに同一オーダーの加速度を発生させられることを検証できた。
【0048】
≪第2実施形態≫
図19は、第二実施形態を示す概略斜視図である。第一実施形態に対し、第二実施形態は、第一振動板2、第二振動板3、第三振動板4に加えて、長さ調整機構6を介して第三振動板4に接続された第四振動板18を有する。それ以外の構成は上述した実施形態と同様であるため、重複する説明を省略する。
【0049】
第四振動板18は、第一振動板2、第二振動板3、第三振動板4のうちいずれか1つとは直交していなくても良い。このように振動板4枚以上から成る構成であっても、同様の効果を得られる。構造は複雑になるが、より細かい調整を行える。
【符号の説明】
【0050】
1 振動発生装置接続部
2 第一振動板
3 第二振動板
4 第三振動板
5 供試体設置部
6 長さ調整機構
7 供試体
8 振動方向
9 振動発生装置
9a 振動部
9b 振動発生装置本体
10 合成質量
11 固定端
12、13、16 穴
14、15、17 ピン(締結体)
18 第四振動板
100試験治具
図1
図2
図3
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図5
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図9
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図15
図16
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図18
図19