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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】樹脂成形体及び繊維強化樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/20 20060101AFI20231218BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20231218BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20231218BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20231218BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20231218BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
B29C43/20
B29C43/34
B29C70/68
B29C70/16
B29K105:08
B29K101:10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022149936
(22)【出願日】2022-09-21
(62)【分割の表示】P 2018149636の分割
【原出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2022171921
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】大藪 淳
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-302062(JP,A)
【文献】特開2013-072055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/20
B29C 43/34
B29C 70/68
B29C 70/16
B29K 105/08
B29K 101/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の熱硬化性樹脂を含むシートモールディングコンパウンドからなる表層構成部と、
前記第1の熱硬化性樹脂に比べて硬化温度が高い又は硬化時間が長い第2の熱硬化性樹脂が含浸した発泡シートを備える基材と、を備え、
前記表層構成部は、前記発泡シートに配置されており、前記発泡シートと反対側を向く面に、突部又は凹部からなる賦形部を有する、樹脂成形体。
【請求項2】
前記基材には、前記第2の熱硬化性樹脂が含浸した繊維シートが、前記繊維シートと前記表層構成部とが前記発泡シートを挟むように配置して積層されている請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
発泡シートを備える基材に、第1の熱硬化性樹脂を含むシートモールディングコンパウンドからなる表層構成部が積層されてなり、
前記基材は、前記シートモールディングコンパウンドに含まれる繊維よりも繊維長の長い補強繊維と、前記第1の熱硬化性樹脂に比べて硬化温度が高い又は硬化時間が長い第2の熱硬化性樹脂を含み、
前記表層構成部は、前記基材と反対側を向く面に、突部又は凹部からなる賦形部を有する、繊維強化樹脂成形体。
【請求項4】
基材に、第1の熱硬化性樹脂を含むシートモールディングコンパウンドからなる表層構成部が積層されてなり、
前記基材は、前記シートモールディングコンパウンドに含まれる繊維よりも繊維長の長い補強繊維と、前記第1の熱硬化性樹脂に比べて硬化温度が高い又は硬化時間が長い第2の熱硬化性樹脂とを含み、
前記表層構成部は、前記基材と反対側を向く面に、凹部からなる賦形部を有する、繊維強化樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材としてのプリプレグにシートモールディングコンパウンドが積層されてなる繊維強化樹脂成形体が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような繊維強化樹脂成形体では、シートモールディングコンパウンドによって、繊維強化樹脂成形体の表面に補強リブやボスのような局所的な突部等が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4015584号公報(段落[0020])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の樹脂成形体において、シートモールディングコンパウンドからなる部位と基材との固定の安定化が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた発明の第1態様は、板状の基材の表裏のうち少なくとも一方の面に、第1の熱硬化性樹脂を含むシートモールディングコンパウンドからなる表層構成部が部分的に積層されてなり、前記基材は、前記シートモールディングコンパウンドに含まれる繊維よりも繊維長の長い補強繊維と第2の熱硬化性樹脂とを含み、前記第1の熱硬化性樹脂と前記第2の熱硬化性樹脂とが硬化することにより、前記基材と前記表層構成部とが一体化した繊維強化樹脂成形体であって、前記表層構成部は、前記基材に埋め込まれ、前記基材と反対側を向く面に、突部又は凹部からなる賦形部を有し、前記表層構成部のうち前記賦形部以外の部分は、前記基材と略面一に配置され、前記第2の熱硬化性樹脂は、前記第1の熱硬化性樹脂に比べて、硬化温度が高い、又は、硬化時間が長い、繊維強化樹脂成形体である。
【0006】
ここで、硬化温度が高いとは、熱硬化性樹脂を一定時間で硬化させるために必要な温度が高い、という意味である。また、硬化時間が長いとは、熱硬化性樹脂を一定の温度で硬化させるために必要な時間が長い、という意味である。
【0007】
発明の第2態様は、前記基材は、熱硬化性樹脂発泡体からなり連続気泡を有する発泡シートの表裏のうち少なくとも一方の面に、前記補強繊維からなる1対の繊維シートが積層されると共に、前記発泡シートと前記1対の繊維シートとに前記第2の熱硬化性樹脂が含浸してなり、前記発泡シートのうち、厚み方向で前記表層構成部と重なる部分は、厚み方向で前記表層構成部と重ならない部分に比べて、厚み方向に圧縮されている、第1態様に記載の繊維強化樹脂成形体である。
【0008】
発明の第3態様は、前記基材の前記少なくとも一方の面には、複数の前記表層構成部が互いに離れて設けられ、各表層構成部に前記賦形部が設けられている、第1態様又は第2態様に記載の繊維強化樹脂成形体である。
【0009】
発明の第4態様は、第1の熱硬化性樹脂を含むシートモールディングコンパウンドと、前記シートモールディングコンパウンドに含まれる繊維よりも繊維長の長い補強繊維と第2の熱硬化性樹脂とを含む基材用シートと、を用意し、前記シートモールディングコンパウンドを前記基材用シートの表裏のうち少なくとも一方の面に部分的に重ね、加熱プレス成形により、前記第1の熱硬化性樹脂と前記第2の熱硬化性樹脂とを硬化させて、前記基材用シートから形成した基材と、前記シートモールディングコンパウンドから形成した表層構成部と、を一体化する繊維強化樹脂成形体の製造方法であって、前記表層構成部を形成する際に、前記表層構成部のうち前記基材と反対側を向く面に、突部又は凹部からなる賦形部を形成し、前記第2の熱硬化性樹脂として、前記第1の熱硬化性樹脂に比べて、前記加熱プレス成形の温度において硬化時間が長いものを用いる、繊維強化樹脂成形体の製造方法である。
【0010】
発明の第5態様は、前記基材用シートとして、熱硬化性樹脂発泡体からなり連続気泡を有する発泡シートの表裏のうち少なくとも一方の面に、前記補強繊維からなる繊維シートが積層され、前記第2の熱硬化性樹脂が含浸したものを用いる、第4態様に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法である。
【0011】
発明の第6態様は、前記加熱プレス成形を行うための成形金型の成形面に、前記表層構成部の前記賦形部を形成するための表面形成部を複数設けておき、前記加熱プレス成形を行うにあたって、前記シートモールディングコンパウンドを複数枚用意し、それら複数枚のシートモールディングコンパウンドを、互いに離して前記成形面の前記表面形成部に重ねる、第4態様又は第5態様に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
発明の第1態様、第4態様では、基材に含まれる第2の熱硬化性樹脂が、シートモールディングコンパウンドに含まれる第1の熱硬化性樹脂よりも、硬化温度が高いか、又は、硬化時間が長くなっている。従って、繊維強化樹脂成形体の製造時に、第1の熱硬化性樹脂を硬化させてから、第2の熱硬化性樹脂を硬化させることができ、第1の熱硬化性樹脂が硬化して硬くなった表層構成部の形状に、基材を追従させた状態に形成することが容易となる。これにより、表層構成部が基材に埋め込まれて、シートモールディングコンパウンドからなる表層構成部と基材との固定の安定を図ることが可能となる。また、表層構成部のうち突部又は凹部からなる賦形部以外の部分を、基材と略面一に配置することで、突部の突出量又は凹部の深さについて寸法精度の安定化を図ることが可能となる。
【0013】
発明の第2態様では、基材には、連続気泡を有する発泡シートが設けられる。そして、発泡シートのうち厚み方向で表層構成部と重なる部分は、厚み方向で表層構成部と重ならない部分に比べて、厚み方向に圧縮されている。本発明によれば、発泡シートのうち厚み方向で表層構成部と重なる部分が圧縮されることによって、表層構成部を基材に埋め込まれた状態に形成し易くすることができる。また、発明の第5態様によっても、発泡シートのうち厚み方向でシートモールディングコンパウンドと重なる部分を圧縮することにより、表層構成部を基材に埋め込まれた状態に形成し易くすることができる。
【0014】
発明の第3態様、第6態様では、突部又は凹部からなる賦形部が複数設けられる。本発明によれば、複数の賦形部全てに亘って1つのシートモールディングコンパウンドからなる表層構成部が形成される場合に比べて、表層構成部を形成するためのシートモールディングコンパウンドの使用量を少なくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の斜視図
図2】繊維強化樹脂成形体の側断面図
図3】繊維強化樹脂成形体のボス周辺の拡大側断面図
図4】成形金型で加熱プレス成形する前の基材用シートとシートモールディングコンパウンドとの側断面図
図5】成形金型で加熱プレス成形された後の基材と表層構成部との側断面図
図6】(A)加熱プレス成形される前の基材用シートとシートモールディングコンパウンドの拡大側断面図、(B)成形金型内で第1の熱硬化樹脂が硬化したときの基材用シートと表層構成部の拡大側断面図、
図7】(A)成形金型内で変形した基材用シートの拡大側面図、(B)成形金型内で形成された基材の拡大側断面図
図8】第1と第2の熱硬化性樹脂の加熱時間と硬化度の関係を概念的に示すグラフ
図9】他の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の斜視図
図10】他の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の側断面図
図11】他の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の側断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1には、本開示の一実施形態に係る繊維強化樹脂成形体10が示されている。本実施形態の繊維強化樹脂成形体10は、例えば、自転車の部品等に用いられる。繊維強化樹脂成形体10は、板状の基材20を有し、その基材20の表裏の一方の面である第1面20Aから、突部(具体的には、補強リブ13とボス14)が突出した構成となっている。なお、本実施形態では、基材20の他方の面である第2面20B(図2参照)は、平坦面となっているが、第2面20Bは、凹凸を有していてもよいし、湾曲面であってもよい。
【0017】
具体的には、図2に示されるように、繊維強化樹脂成形体10は、基材20の第1面20Aに、補強リブ13とボス14を構成する表層構成部30が部分的に積層されてなる。表層構成部30は、繊維と第1の熱硬化性樹脂を含むシートモールディングコンパウンド(以下、SMCということとする。)からなる。
【0018】
図2及び図3に示されるように、表層構成部30は、基材20と反対側を向く面に、賦形部を有する構成となっている。具体的には、表層構成部30は、薄板状をなして基材20に重ねられるベース部31と、そのベース部31のうち基材20と反対側を向く露出面31Aから突出する上述の賦形部としての表面突部32と、からなる。また、本実施形態では、補強リブ13を構成する表層構成部30と、ボス14を構成する表層構成部30とが、別に設けられ、互いに離れて配置されている。そして、各表層構成部30の表面突部32が、それぞれ補強リブ13とボス14を構成している。
【0019】
基材20は、発泡シート21の表裏の両面に、1対の繊維シート22,22が積層された構成を有する。発泡シート21は、熱硬化性樹脂からなる連続気泡発泡体で構成され、発泡シート21には第2の熱硬化性樹脂が含浸している。また、本実施形態では、繊維シート22は、表層構成部30を構成するSMCの繊維よりも繊維長が長い補強繊維から構成されていると共に、繊維シート22にも第2の熱硬化性樹脂が含浸している。そして、発泡シート21と1対の繊維シート22,22に含浸した第2の熱硬化性樹脂が硬化することによって発泡シート21と1対の繊維シート22,22とが一体化されている。
【0020】
ここで、表層構成部30のベース部31は、基材20に埋め込まれていて、基材20に密着している。表層構成部30のうち表面突部32以外の部分は、基材20と略面一に配置されている。具体的には、表層構成部30のベース部31の露出面31Aと基材20の第1面20Aとが略面一となっている。
【0021】
また、基材20の発泡シート21のうち、厚み方向で表層構成部30と重なる部分は、厚み方向で表層構成部30と重ならない部分に比べて、ベース部31の厚みと略同じ分だけ圧縮されて薄くなっている。
【0022】
繊維強化樹脂成形体10では、表層構成部30に含まれる第1の熱硬化性樹脂と、基材20に含浸された第2の熱硬化性樹脂とが硬化することにより、表層構成部30と基材20とが一体化している。ここで、第2の熱硬化性樹脂は、第1の熱硬化性樹脂よりも、熱硬化し難くなっている。即ち、第2の熱硬化性樹脂は、第1の熱硬化性樹脂よりも、一定の温度で硬化するために必要な時間である硬化時間が長いか、又は、一定時間で硬化するために必要な温度である硬化温度が高くなっている。
【0023】
繊維強化樹脂成形体10の各構成要素、即ち、発泡シート21、繊維シート22、第1の熱硬化性樹脂、第2の熱硬化性樹脂、及び、SMCの詳細については、以下のようになっている。
【0024】
発泡シート21を構成する発泡体としては、例えば、ウレタン樹脂発泡体、メラミン樹脂発泡体等が挙げられる。また、発泡シート21の厚みは、例えば、基材20の厚み0.5~30mmに対して、0.1~29.5mmとなっている。
【0025】
繊維シート22としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊維によって構成されたものを用いることができる。また、繊維シート22は、例えば、織物、編み物、不織布等の形態であってもよい。織物の織り方としては、平織、綾織、朱子織、三軸織等が挙げられる。また、繊維シート22は、一方向又は複数方向に配向した繊維から構成されていてもよい。なお、軽量化と剛性向上の観点から、繊維シート22を構成する繊維としては、炭素繊維が好ましい。また、剛性向上の観点から、繊維シート22は、繊維織物から構成されることが好ましい。熱硬化性樹脂が含浸した繊維シート22としては、例えば、プリプレグが挙げられる。
【0026】
また、繊維シート22を構成する繊維としては、SMCの繊維より繊維長が長いものが好ましく、例えば、SMCの繊維よりも数平均繊維長が長いものが挙げられる。また、繊維シート22としては、例えば、連続繊維又は不連続繊維からなるものが挙げられる。繊維シート22は、剛性の観点から、5mm以上の繊維長のものが好ましい。また、繊維シート22は、剛性、第2の熱硬化性樹脂の含浸性、軽量性の観点から、目付量が90~400g/mのものが好ましい。
【0027】
SMCとしては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維等の繊維を含むものを用いることができる。なお、軽量化と剛性向上の観点から、SMCを構成する繊維としては、炭素繊維が好ましい。SMCを構成する繊維としては、30mm以下の繊維長のものが好ましい。
【0028】
SMCの第1の熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、又は、これらの樹脂のうち2種類以上の樹脂の混合樹脂、等が挙げられる。
【0029】
なお、表層構成部30に設けられる補強リブ13としては、例えば、突出量が0.1~30mmで、最小幅が0.5~10mmであるものが挙げられる。また、ボス14としては、例えば、突出量が0.1~30mmで、内径と外径の差が0.5~10.0mmのものが挙げられる。
【0030】
基材20の第2の熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、又は、これらの樹脂の混合樹脂、等が挙げられる。これらの樹脂を用いることにより、剛性の向上が図られる。
【0031】
繊維強化樹脂成形体10は、以下のようにして製造される。まず、複数のシートが用意される。具体的には、連続気泡を有する発泡シート21、1対の繊維シート22,22、及び、第1の熱硬化性樹脂を含むSMC30S、が用意される。発泡シート21と各繊維シート22には、第2の熱硬化性樹脂を含浸させておく。第2の硬化性樹脂としては、第1の硬化性樹脂に比べて、硬化温度が高いか、又は、硬化時間が長いものを用いればよい。なお、第2の熱硬化性樹脂は、発泡シート21と繊維シート22のうち一方にのみ含浸させておいてもよい。また、発泡シート21としては、後述する加熱プレス成形での圧縮容易性、第2の熱硬化性樹脂の含浸性、軽量性、剛性の観点から、密度が5~80kg/mのものを用いるのが好ましい。
【0032】
本実施形態の例では、第1の熱硬化性樹脂としてビニールエステル樹脂とエポキシアクリレート樹脂との混合樹脂を用い、第2の熱硬化性樹脂として第1の熱硬化性樹脂よりも硬化時間が高く且つ硬化時間も長いフェノール樹脂を用いた。また、発泡シート21としてウレタン樹脂発泡体からなるものを用い、繊維シート22として炭素繊維織物からなるプリプレグ、SMCとして炭素繊維を有するものを用いた。
【0033】
次いで、発泡シート21と繊維シート22とSMC30Sとが重ねられて、成形金型70によって加熱プレス成形される。
【0034】
図4には、成形金型70が示されている。同図に示されるように、成形金型70は、上型71と下型72とから構成される。本実施形態では、上型71の成形面は、平坦となっている一方、下型72の成形面には、補強リブ13とボス14をそれぞれ形成するための表面形成部として成形凹部73,74が設けられている。詳細には、成形凹部73は、溝状となっていると共に、成形凹部74は、円筒状の凹部となっている。なお、下型72の成形面のうち成形凹部73,74が設けられた部分以外は、平坦になっている。
【0035】
加熱プレス成形を行うにあたっては、まず、成形金型70が型開き状態にされて、SMC30Sが、下型72の成形凹部73,74を覆うように下型72の成形面に部分的に重ねられる(図4及び図6(A)参照)。本実施形態では、成形凹部73を覆うSMC30Sと成形凹部74を覆うSMC30Sとは、別に設けられ、互いに離れて配置される。また、各SMC30Sは、各成形凹部73,74を満たすのに必要な量、即ち、補強リブ13、ボス14の形成に必要な量、よりも多い量となっている。
【0036】
そして、発泡シート21の両面に1対の繊維シート22,22が重ねられた基材用シート20Sが、SMC30Sの上に重ねられ、成形金型70が型閉じされる。すると、図5及び図6(B)に示されるように、加熱されて流動性が生じたSMC30Sが、成形凹部73,74に流れ込む。また、SMC30Sのうち成形凹部73,74に入りきれなかった余剰部分は、薄板状となって成形凹部73,74の上に残る。一方、基材用シート20S(特に、発泡シート21)は、成形金型70に加熱プレスされることにより圧縮される。
【0037】
ここで、上述のように、基材用シート20Sの第2の熱硬化性樹脂は、SMC30Sの第1の熱硬化性樹脂よりも、硬化時間が長くなっている。従って、図6(B)に示されるように、成形金型70内で、SMC30Sの第1の熱硬化性樹脂が、第2の熱硬化性樹脂よりも先に硬化することとなる(図6(B)、図7(A)及び図7(B)では、第1と第2の熱硬化性樹脂のうち硬化しきった熱硬化性樹脂を含む部分が灰色で示されている)。なお、ここで、図8には、成形金型70内での一定の加熱温度における、第1及び第2の熱硬化性樹脂の硬化度と加熱時間との関係が概念的に示されていて、図7において第1と第2の熱硬化性樹脂がそれぞれ硬化しきったタイミングT1、T2のときが、それぞれ図6(B)、図7(B)に示す状態である。
【0038】
第1の熱硬化性樹脂が硬化すると、SMC30Sから表層構成部30が形成される。このとき、SMC30Sのうち成形凹部73,74に入り込んだ部分により、それぞれ補強リブ13とボス14(即ち、各表面突部32)が形成されると共に、SMC30Sのうち成形凹部73,74に入りきらなかった薄板状の余剰部分により、ベース部31が形成される。
【0039】
ここで、図8に示されるように、第1の熱硬化性樹脂が硬化しきってからもタイミングT2までは、第2の熱硬化性樹脂は硬化しきっていないので、基材用シート20Sが硬化しきっておらず、図6(B)から図7(A)への変化に示されるように、基材用シート20Sを変形させて表層構成部30の形状に追従させることができる。これにより、ベース部31を基材用シート20Sに埋め込んで、ベース部31と基材用シート20Sとのうち下型72と対向する部分同士を略面一にすることができる。また、このとき、基材用シート20Sの発泡シート21のうち、厚み方向で表層構成部30のベース部31と重なる部分は、厚み方向でベース部31と重ならない部分に比べて、ベース部31の厚みと略同じ分だけ圧縮されることとなる。
【0040】
図7(B)に示されるように、基材用シート20Sの第2の熱硬化性樹脂が硬化しきると、基材用シート20Sが硬化する。このとき、発泡シート21と1対の繊維シート22,22とが一体化して基材20が形成されると共に、基材20と表層構成部30とが一体化する(図5参照)。
【0041】
次いで、成形金型70が型開きされて、基材20と表層構成部30が成形金型70から外され、図2に示される繊維強化樹脂成形体10が完成する。
【0042】
本実施形態に係る繊維強化樹脂成形体10の構成及び繊維強化樹脂成形体10の製造方法に関する説明は以上である。次に、繊維強化樹脂成形体10及びその製造方法の作用効果について説明する。
【0043】
本実施形態の繊維強化樹脂成形体10及びその製造方法では、基材20に含まれる第2の熱硬化性樹脂が、SMCに含まれる第1の熱硬化性樹脂よりも、硬化温度が高いか、又は、硬化時間が長くなっている。従って、繊維強化樹脂成形体10の製造時に、SMCの第1の熱硬化性樹脂を硬化させてから、基材用シート20Sの第2の熱硬化性樹脂を硬化させることができ、第1の熱硬化性樹脂が硬化して硬くなった表層構成部30の形状に、基材20を追従させた状態に形成することが容易となる。これにより、表層構成部30が基材20に埋め込まれて、SMCからなる表層構成部30と基材20との固定の安定を図ることが可能となる。また、表層構成部30のベース部31を、基材と略面一に配置することで、表面突部32の突出量について寸法精度の安定化を図ることが可能となる。しかも、ベース部31が基材20の第1面20Aと略面一になることにより、下型72と基材用シート20Sとの間に、ベース部31の略厚み分のスペースが生じることを防ぐことができ、基材20の厚み精度の向上が図られると共に、基材20の設計において設計自由度の向上を図ることができる。
【0044】
本実施形態の繊維強化樹脂成形体10では、基材20には、連続気泡を有する発泡シート21が設けられる。そして、発泡シート21のうち厚み方向で表層構成部30と重なる部分は、厚み方向で表層構成部30と重ならない部分に比べて、厚み方向に圧縮されている。本実施形態の繊維強化樹脂成形体10によれば、発泡シート21のうち厚み方向で表層構成部30と重なる部分を圧縮することによって、表層構成部30を基材20に埋め込まれた状態に形成し易くすることができ、ベース部31と基材20の第1面20Aとを略面一に配置し易くすることができる。また、本実施形態の繊維強化樹脂成形体10の製造方法によっても、発泡シート21のうち厚み方向でSMC30Sと重なる部分を圧縮することにより、表層構成部30を基材20に埋め込まれた状態に形成し易くすることができる。しかも、本実施形態によれば、発泡シート21によって加熱プレス成形時の歪みを吸収し、基材20の第2面20Bにおいて厚み方向で表層構成部30と重なる部分に、ヒケ等が発生することを抑制可能となり、第2面20Bが不均一な外観になることを抑制可能となる。
【0045】
本実施形態では、表面突部32が設けられる表層構成部30が複数設けられ、それら複数の表層構成部30が互いに離れて配置される。本実施形態によれば、複数の表面突部32全てに亘って1つのSMCからなる表層構成部30が形成される場合に比べて、表層構成部30を形成するためのSMCの使用量を少なくすることが可能となる。
【0046】
[確認実験]
以下、繊維強化樹脂成形体10を上述の製造方法で製造した実験例について説明する。
【0047】
<材料>
本実験例では、繊維強化樹脂成形体10を構成する各構成要素について、以下の材料を用いた。
発泡シート21:株式会社イノアックコーポレーション製の「バソテクト(登録商標)G+」(密度:9.2kg/m、厚み5.0mmで、200mm×200mmのサイズにカットしたものを用いた。)
繊維シート22:東邦テナックス株式会社製の「W-3161-L」(連続繊維からなる炭素繊維織物で、目付量が200g/m。発泡シート21と同様のサイズにカットしたものを用いた。)
第2の熱硬化性樹脂:住友ベークライト株式会社製の「スミライトレジン(登録商標)PR-55791」(フェノール樹脂。ガラス転移温度:151℃)
シートモールディングコンパウンド(SMC):三菱ケミカル株式会社製の「パイロフィル(登録商標) STR120N131」(厚み2.0mm、繊維長25.4mm。第1の熱硬化性樹脂としてビニールエステル樹脂とエポキシアクリレート樹脂の混合樹脂を含有。ガラス転移温度:130℃)
【0048】
<成形条件>
本実験例の加熱プレス成形の成形条件としては、成形温度を150℃、成形圧力を20MPa、成形時間を10分とした。
【0049】
<実験結果>
上記の材料及び成形条件で、加熱プレス成形を行ったところ、補強リブ13とボス14が形成される共に、表層構成部30のベース部31と基材20の第1面20Aとが面一となった繊維強化樹脂成形体10が得られた。具体的には、繊維強化樹脂成形体10において、補強リブ13とボス14(即ち、表面突部32)を除いた部分の厚みは、1.0mmとなった。詳細には、繊維強化樹脂成形体10において基材20と表層構成部30が厚み方向で重なっていない部分では、発泡シート21が0.50mm、各繊維シート22が0.25mmであった。また、繊維強化樹脂成形体10において基材20と表層構成部30が厚み方向で重なっている部分では、発泡シート21が0.10mm、各繊維シート22が0.25mm、表層構成部30のベース部31が0.40mmであった。
【0050】
この繊維強化樹脂成形体10では、基材20とSMCからなる表層構成部30とが十分に固定されていることが確認できたと共に、寸法精度が良好であった。さらに、基材20の第2面20Bにおいて厚み方向で表層構成部30と重なる部分は、ヒケ等が生じて不均一な外観になることもなく、良好な外観であった。
【0051】
なお、上記同様の成形温度及び成形圧で、加熱プレス成形の成形時間を3分とした場合、SMCの第1の熱硬化性樹脂が硬化していることが確認できた一方で、第2の熱硬化性樹脂が硬化しきっておらず、成形金型70から基材20を外す際に、基材20が変形した。即ち、成形時間が3分経ったタイミングは、図8に示すタイミングT1以降で、タイミングT2の前であると考えられる。成形時間が10分の場合、図8に示すタイミングT2を経過するため、SMCの第1の熱硬化性樹脂と、発泡シート21及び繊維シート22に含浸した第2の熱硬化性樹脂と、の両方が硬化しきり、上述のような良好な状態の繊維強化樹脂成形体10を製造することができる。
【0052】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態では、表層構成部30のうち基材20と反対側を向く面に、賦形部として、表面突部32が設けられていたが、図9及び図10に示されるように、凹部32Vが設けられていてもよい。この場合においても、表層構成部30のベース部31を、基材20と略面一に配置することで、凹部32Vの深さについて寸法精度の安定化を図ることが可能となる。なお、このような凹部32Vは、溝であってもよいし、穴であってもよい。
【0053】
(2)上記実施形態において、補強リブ13とボス14とをそれぞれ構成する2つの表面突部32,32同士が、1つの表層構成部30に設けられていてもよい(即ち、1枚のSMCから形成されてもよい)。
【0054】
(3)上記実施形態では、基材20が、繊維シート22を発泡シート21の表裏の両面に積層した構成であったが、繊維シート22を発泡シート21の表裏の一方の面のみに積層した構成であってもよい。この場合、表層構成部30は、基材20に対して、繊維シート22側から積層されていてもよいし、図11に示されるように発泡シート21側から積層されていてもよい。
【0055】
(4)上記実施形態において、発泡シート21と繊維シート22が積層された基材20の構成として、発泡シート21が2枚以上設けられる構成であってもよいし、繊維シート22が3枚以上設けられる構成であってもよい。これらの場合、基材20が、発泡シート21と繊維シート22を一枚ずつ交互に積層した構成であってもよいし、隣り合う発泡シート21同士又は隣り合う繊維シート22同士を含む構成であってもよい。また、これらの場合、基材20のうち表層構成部30が積層される最外層は、発泡シート21によって構成されていてもよいし、繊維シート22によって構成されていてもよい。
【0056】
(5)上記実施形態では、基材20を構成するシートが、発泡シート21と繊維シート22であったが、繊維シート22のみであってもよい。この構成として、例えば、基材20がプリプレグからなる構成が挙げられる。
【0057】
(6)上記実施形態において、表層構成部30が、基材20の表裏の両面に設けられていてもよい。この場合、繊維強化樹脂成形体10を製造する際に、基材用シート20Sの表裏の両面にSMC30Sが重ねられる。
【0058】
(7)上記実施形態では、発泡シート21と繊維シート22とに含浸する熱硬化性樹脂が同じであったが、異なっていてもよい。この場合、発泡シート21に含浸する熱硬化性樹脂と、繊維シート22に含浸する熱硬化性樹脂とは、それぞれ、SMCを構成する第1の熱硬化性樹脂に比べて、硬化温度が高いか、又は、硬化時間が長いものが用いられる。
【0059】
(8)上記実施形態において、表層構成部30の表面突部32は、例えば、突条、突壁、棒状の突部であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 繊維強化樹脂成形体
20 基材
30 表層構成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11