(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】電池輸送容器
(51)【国際特許分類】
H01M 50/256 20210101AFI20231218BHJP
H01M 50/202 20210101ALI20231218BHJP
【FI】
H01M50/256 101
H01M50/202 501Z
(21)【出願番号】P 2022172564
(22)【出願日】2022-10-27
(62)【分割の表示】P 2018183791の分割
【原出願日】2018-09-28
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】谷内 智紀
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/233791(US,A1)
【文献】特開2002-298806(JP,A)
【文献】特開2012-160269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/256
H01M 50/202
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極が電池本体の上方部位から突出する電池を天地逆さにして収容可能であり、かつその状態で電解質を含む水溶液を正極及び負極が浸る量充填して正極と負極とを導通させることが可能な電池輸送容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクルまたは廃却対象となった電池の輸送に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両や電気自動車等に搭載する二次電池として、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等が使用されている。車両用二次電池は、複数個の電池セルを直列接続してスタックとしたものである。各電池セルからは、電極である正極及び負極が上方に突出している。複数個のセルをスタック化するにあたっては、あるセルの正極と、このセルに隣接するセルの負極とをバスバーにより接続する(例えば、下記特許文献を参照)。さらに、大容量化のために、複数個のスタックを並列接続してユニット化することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の二次電池が使用済みとなり、リサイクルまたは廃却対象となったそれを輸送する際には、国連危険物輸送勧告やその他の法規に則った安全対策を施すことが要求される。即ち、強固で頑丈な外装容器、特に国連規格容器に二次電池を収容した上、その容器内を電解質を含む水溶液、典型的には食塩水で満たし、各電池セルの正極と負極とを導通させて放電を促すことが行われる。
【0005】
この種の二次電池の電圧は高いことから、輸送中の放電に伴い電極の銅が水溶液中に溶出する。結果として、適正な処理が必要な廃液が大量に発生するということになる。
【0006】
本発明は、以上の問題に初めて着目してなされたものであり、リサイクルまたは廃却対象の電池の輸送の際に発生する廃液の量をできる限り減少させることを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、正極及び負極が電池本体の上方部位から突出する電池を天地逆さにして収容可能であり、かつその状態で電解質を含む水溶液を正極及び負極が浸る量充填して正極と負極とを導通させることが可能な電池輸送容器を構成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リサイクルまたは廃却対象の電池の輸送の際に発生する廃液の量を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明と関連を有する参考例の電池及びこれに設けた水溶液収容体を示す斜視図。
【
図2】同参考例の電池及び水溶液収容体を示す断面図。
【
図5】本発明の一実施形態の電池及び電池輸送容器を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
はじめに、本発明と関連を有する参考例を説明する。
図1及び
図2に示す電池は、ハイブリッド車両や電気自動車等に搭載される二次電池である。この電池は、電池本体11と、電池本体11の上方部位から突出する正極12及び負極12と、それら正極12及び負極12を囲繞する周壁21を有した水溶液収容体2とを具備する。
【0011】
電池は、複数個の電池セル1を直列接続してスタックとしたものである。各セル1は、例えばリチウムイオン電池やニッケル水素電池等であり、板状の外形をなすセル本体11の上縁から電極である正極12及び負極12が上方に突き出しているものである。各電池セル1のセル本体11の集合が、電池本体となる。
【0012】
互いに隣接するセル1同士の間では、正極12及び負極12の配置が入れ違いになっている。つまり、あるセル1の正極12が左方に、負極12が右方にある場合、その後方に隣接するセル1の正極12は右方、負極12は左方にあり、さらにその後方に隣接するセル1の正極12は左方、負極12は右方にある、というように、各セル1を配列している。その上で、セル1の正極12をその後方に隣接するセル1の負極12にバスバー13を介して接続し、かつ同セル1の負極12をその前方に隣接するセル1の正極12にバスバー13を介して接続することで、複数個のセル1を直列接続する。なお、図示例では一個のスタックを描画しているが、電池の大容量化を目的として複数個のスタックを並列接続することもあり得る。
【0013】
水溶液収容体2は、周壁21が包囲する内部空間の下縁を底壁22により閉塞する、皿状または盆状をなす絶縁体である。後述するように、この水溶液収容体2は水溶液4の受け皿として機能する。底壁22には、各セル1の電極12を挿通する孔23を穿ってある。水溶液収容体2は、各電池セル1のセル本体11を束ねた電池本体の上に載置する。各セル1の電極12は、水溶液収容体2の底壁22を下方から貫通し、水溶液収容体2の内部空間に進入する。水溶液収容体2の周壁21は、それらの電極12を囲繞する。周壁21は、各電池セル1のセル本体11の上縁より起立し、その上端が電極12よりも高位置にある。だが、周壁21の高さ寸法は、せいぜい電極12の高さ寸法を超える程度であり、電池本体11の下縁から正極12及び負極12の上端までの距離と比較して顕著に小さい。
【0014】
水溶液収容体2は、原則として、車両等に搭載され運用される電池製品に予め設けておく。即ち、
図1及び
図2に示しているように、複数個の電池セル1からなる電池を包装するケース3内に、予め水溶液収容体2を配置しておく。但し、この水溶液収容体2を、使用済みとなりリサイクルまたは廃却対象となった電池に後付けすることを妨げるものではない。水溶液収容体2の底壁22の挿通孔23と各セル1の電極12との間隙は、水が漏れないようシールする。運用時、電池及び水溶液収容体2は、ケース3内に収まった状態で当該ケース3とともに車両に搭載される。なお、図示を省略しているが、ケース3には、車両の電装系のワイヤハーネスと接続するためのコネクタ(図示せず)等を表出させて設けてある。
【0015】
電池ケース3の頂板には、これを貫通するメンテナンスハッチ31を設けておく。メンテナンスハッチ31は、電池の運用時には蓋32により閉塞している。そして、電池が使用済みとなり、これをリサイクルまたは廃却するべく輸送する段階となったときに蓋32を開き、そこから水溶液収容体2内に電解質を含む水溶液4、典型的には食塩水を注入する。水溶液収容体2内に充填した水溶液4は、各電池セル1の正極12と負極12とを導通させ、それらセル1の放電を促す。
【0016】
既に述べた通り、水溶液収容体2の周壁21の高さ寸法は小さく、そのために水溶液収容体2の容積も小さい。従って、少ない量の水溶液4を充填することで、電池セル1の電極12を当該水溶液4に浸らせ、正極12と負極12とを導通させることが可能である。電池セル1の放電に伴い、水溶液4には電極12の銅が溶出するが、輸送時に充填する水溶液4の量が必要最小限でよく、発生する廃液の量が少なく済む。
【0017】
リサイクルまたは廃却の対象の電池を輸送する際には、当該電池をケース3ごと、さらに別の図示しない電池輸送容器に収容する。電池収容容器は、強固で頑丈な外装容器である。当該電池輸送容器は、国連規格容器であることが好ましい。
【0018】
図1及び
図2に示した電池では、各電池セル1の正極12及び負極12がセル本体11の上縁から上方に突出していたが、
図3及び
図4に示す電池では、各電池セル1の正極12及び負極12がセル本体11の上方部位における外側縁から左右に突出している。
【0019】
図3及び
図4に示している水溶液収容体2は、周壁21が包囲する内部空間の下縁を底壁22により閉塞する、枠状をなす絶縁体である。底壁22には、各電池セル1のセル本体11を束ねた電池本体を挿通する開口24を穿ってある。水溶液収容体2は、電池本体11の上方部位及び各電極12を四方から囲繞するように電池本体11に固定する。水溶液収容体2の底壁22の開口24と電池本体11との間隙は、水が漏れないようシールする。
【0020】
各セル1の電極12は、水溶液収容体2の底壁22の上方、かつ周壁21の内側方にあって、周壁22及び底壁21が隔てる水溶液収容体2の内部空間に位置する。周壁21は、それらの電極12を囲繞する。起立する周壁21の上端は、電極12よりも高位置にある。だが、周壁21の高さ寸法は、せいぜい電極12の高さ寸法を超える程度であり、電池本体11の下縁から正極12及び負極12の上端までの距離と比較して顕著に小さい。
【0021】
図3及び
図4に示す例においても、使用済みとなった電池をリサイクルまたは廃却するべく輸送する段階で、メンテナンスハッチ31の蓋32を開き、そこから水溶液収容体2内に電解質を含む水溶液4を注入し、水溶液収容体2内に充填した水溶液4により各電池セル1の正極12と負極12とを導通させることは言うまでもない。
【0022】
以降、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図5に示す本実施形態では、正極12及び負極12が電池本体11の上方部位から突出する電池を天地逆さにして収容可能であり、かつその状態で電解質を含む水溶液4を正極12及び負極12が浸る量充填して正極12と負極12とを導通させることが可能な電池輸送容器5を使用する。この電池輸送容器5は、強固で頑丈な外装容器である。電池輸送容器5は、国連規格容器であることが好ましい。
【0023】
電池の基本構成は、水溶液収容体2を具備しない点を除き、
図1ないし
図4に示したものと同様である。但し、電池ケース3の底板に、空気抜き用の孔33を穿っておく。
【0024】
使用済みとなった電池をリサイクルまたは廃却するべく輸送する段階で、メンテナンスハッチ31の蓋32を開き、電池を天地逆さとして電池輸送容器5内に収納する。電池輸送容器5内には、電解質を含む水溶液4を注入しておき、メンテナンスハッチ31から電池ケース3内に浸入する水溶液4により各電池セル1の正極12と負極12とを導通させて、セル1の放電を促す。
【0025】
天地逆さまにした電池の正極12及び負極12は、電池輸送容器5内で下方に所在する。従って、電池輸送容器5に少ない量の水溶液4を充填することで、正極12及び負極12を水溶液4に浸らせ、これらを導通させることが可能である。電池セル1の放電に伴い、水溶液4には電極12の銅が溶出するが、本実施形態によれば、輸送時に充填する水溶液4の量が必要最小限でよく、発生する廃液の量が少なく済む。
【0026】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的な構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、リサイクルまたは廃却対象となった電池の輸送に利用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1…電池セル
11…セル本体(電池本体)
12…電極(正極、負極)
3…電池ケース
4…水溶液
5…電池輸送容器