(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】LED発光装置
(51)【国際特許分類】
H01L 33/54 20100101AFI20231218BHJP
H01L 33/34 20100101ALI20231218BHJP
H01L 33/62 20100101ALI20231218BHJP
【FI】
H01L33/54
H01L33/34
H01L33/62
(21)【出願番号】P 2018104046
(22)【出願日】2018-05-30
【審査請求日】2021-05-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】596099446
【氏名又は名称】シーシーエス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(72)【発明者】
【氏名】板谷 和樹
【合議体】
【審判長】山村 浩
【審判官】秋田 将行
【審判官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-149321(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102007029369(DE,A1)
【文献】特表2013-535808(JP,A)
【文献】特開2008-166661(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111542(WO,A1)
【文献】特開2002-335020(JP,A)
【文献】特開2009-111098(JP,A)
【文献】特開2011-119739(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003228(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L33/00-33/64
H01S 5/00- 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板に取り付けられた435nm以下の波長の光を射出するLED素子と、
前記基板と前記LED素子との間に配置されてこれらを電気的に接続する導電性接合材とを備えたLED発光装置であり、
前記LED発光装置が、さらに前記導電性接合材を被覆する被覆材を備え、
前記LED素子が、支持基板層と、該支持基板層の表面に取り付けられた半導体層とを備えたものであって、
前記支持基板層の前記半導体層が取り付けられた面とは反対側の面が前記基板に取り付けられており、
前記被覆材が、前記支持基板層の側面の一部又は全部を被覆するものであり、
前記LED素子の前記基板とは反対側の面と、前記半導体層の側面が露出して
おり、
前記被覆材が、光透過性のものであることを特徴とするLED発光装置。
【請求項2】
前記導電性接合材が銀を含有するものであることを特徴とする請求項1記載のLED発光装置。
【請求項3】
前記支持基板層が、金属を含有するものであることを特徴とする請求項1又は2記載のLED発光装置。
【請求項4】
前記支持基板層と前記半導体層との間に反射層を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のLED発光装置。
【請求項5】
前記被覆材が、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂からなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物を含有するものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のLED発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、435nm以下の波長の光を射出するLED素子を備えたLED発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LED発光装置の基板にLED素子を取り付ける方法として、銀などの金属を含有するペースト状の導電性接合材を用いる方法が知られている。
この方法で基板にLED素子を取り付ける場合、特許文献1に記載されているように、前記導電性接合材に含まれる銀などの金属が空気中の硫黄と反応して硫化されることがある。
硫化が起こると、前記導電性接合材が黒変して製品の見た目が悪くなるだけでなく、前記導電性接合材の導電性、熱伝導性、接合強度などが低下してしまう。
そこで、前記導電性接合材が空気に触れないように、樹脂等の封止材を用いてLED素子全体を覆うように封止して、前記導電性接合材の硫化を防ぐことが考えられる。
【0003】
しかしながら、従来からLED素子を封止する封止材として使用されている樹脂は波長が435nm以下の紫光や紫外光などの短波長の光に対する耐性が低い。
LED素子が435nm以下の波長の光を射出するものである場合、LED素子全体をこのような封止材で覆ってしまうと、前記LED素子から射出される光によって該封止材が劣化し、クラックや変色が生じてしまうことがある。
前記封止材にクラックが発生すると、ボンディングワイヤが切断されてLED素子が不点灯になったり、前記封止材の切片が剥離して屑が出たりする恐れがある。
また、前記封止材が変色するとLED素子からの光出力が低下するという問題がある。
【0004】
また、紫外光に対して耐性を有する、例えばフッ素系樹脂を前記封止材として使用することも考えられるが、このような素材は原料価格が高い。
また、封止作業時によれたり気泡を含んだりしやすかったり、LED素子やセラミックスおよび金属に対する密着性が低い傾向にあり、従来からLEDを封止するために使用されている封止材を使用する場合よりも作業が難しく新たな工夫も必要になるので、LED発光装置の製造コストが上昇してしまう。
さらに、紫外光に対して耐性を有する樹脂の中には、光吸収が大きいものもあり、光出力が低下してしまうという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、製造コストの上昇を抑えながら、信頼性の高いLED発光装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係るLED発光装置は、基板と、該基板に取り付けられた435nm以下の波長の光を射出するLED素子と、前記基板と前記LED素子との間に配置されてこれらを電気的に接続する導電性接合材とを備えたものであり、さらに前記導電性接合材を被覆する被覆材を備え、前記被覆材が、前記LED素子の側面の一部又は全部を覆い、前記LED素子の前記基板とは反対側の面が露出していることを特徴とするものである。
【0008】
このように構成されたLED発光装置によれば、前記LED発光装置が前記導電性接合材を被覆する被覆材を備えているので、前記導電性接合材の硫化を防止もしくは低減することができる。
さらに、前記被覆材が、前記LED素子の表面のうち、前記LED素子の側面の一部又は全部を覆うものであり、前記LED素子の前記基板とは反対側の面が露出しているので、前記被覆材に対して前記LED素子から照射される紫光や紫外光の量を減らして、前記被覆材の紫外光による劣化を抑えることができる。
【0009】
本発明の効果が特に顕著になる具体的な実施態様としては、前記導電性接合材が銀を含有するものを挙げることができる。
【0010】
前記LED素子が、支持基板層と、該支持基板層の前記基板とは反対側の表面に取り付けられた半導体層とを備えたものであって、前記支持基板層の前記半導体層が取り付けられている面とは反対側の面が前記基板に取り付けられており、前記被覆材が前記支持基板層の側面の一部又は全部を被覆するものであれば、前記半導体層中に存在する発光層から射出された紫光や紫外光が前記被覆材に照射されにくいので、前記被覆材の紫光や紫外光による劣化をより低減することができる。
【0011】
前記被覆材が、さらに前記半導体層の側面の一部又は全部を覆うものであっても良い。
【0012】
前記被覆材が、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有するものであれば、前記被覆材に高いガスバリア性を持たせることができるので、前記導電性接合材の硫化をより効果的に抑えることができる。
【0013】
前記支持基板層が、金属を含有するものであれば、金属は非透光性であるので、前記被覆材に照射される光をさらに低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、導電性接合材を被覆材により被覆しているので、前記導電性接合材の硫化を防止もしくは低減することができる。
さらに、LED素子の基板とは反対側の面を露出させているので、被覆材がLED素子の全体を覆っている場合に比べ、LED素子から被覆材に照射される紫光や紫外光の量を減らすことができる。
その結果、LED素子として、高出力のものを使用したとしても、被覆材の紫光や紫外光による劣化を抑えることができる。
【0015】
被覆材として、従来からLED素子の封止材として使用されている樹脂を問題なく使用することができるので、製造コストを抑えながら、信頼性が高く、高出力なLED発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るLED発光装置の全体模式図。
【
図3】他の実施形態に係るLED発光装置の断面図。
【
図4】他の実施形態に係るLED発光装置の端面を示す摸式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。
本実施形態に係るLED発光装置100は、例えば、表面実装型のものであり、印刷、接着、コーティング等の分野をはじめとした様々な用途に広く使用できるものである。
【0018】
本実施形態に係るLED発光装置100は、
図1及び
図2に示すように、基板1と、該基板1の表面上に取り付けられたLED素子2と、該LED素子2と前記基板1とを電気的に接続する導電性接合材3とを備えたものである。
以下に各部について詳述する。
【0019】
前記基板1は、例えば、面板部が略正方形状のものであり、例えば、ベースとなるセラミックと、銅などからなる電極パターンと、ニッケル、パラジウム、金などからなるボンディングパッド等を備えたものである。この基板1の表面中央部には、前記LED素子2が取り付けられている。
【0020】
該LED素子2は、例えば、波長が435nm以下の高出力の光を射出するものであり、直方体形状をしている。
前記LED素子2は、
図2に示すように、金属を含有し導電性を有する支持基板層21と、該支持基板層21の一表面に取り付けられた半導体層22とを備えたものである。
【0021】
前記支持基板層21は、例えば、金、銀、ニッケル、銅モリブデン合金、銅タングステン合金、シリコン、金錫合金などの金属からなるものであり、前記半導体層22が取り付けられた面とは反対側が前記基板1側に向くように、前記導電性接合材3を介して前記基板1に取り付けられている。
この実施形態では、前記支持基板層21は、前記半導体層22から前記支持基板層21側に向けて射出される光を前記半導体層22側に向けて反射する反射層を備えている。
前記反射層は、例えば、銀等の金属からなる薄板状のものであり、前記支持基板層21の前記半導体層22と接している表面を形成するように設けられている。
前記半導体層22は、窒化ガリウム等からなるものであり、そのn電極又はp電極の一方が、前記支持基板層21と前記導電性接合材3を介して前記基板1と電気的に接続されている。前記n電極又はp電極のうちのもう一方は、例えば、図示しないボンディングワイヤを介して前記基板1と電気的に接続されている。
【0022】
前記導電性接合材3は、例えば、銀と、樹脂と、溶剤とを含有するペースト状の接合材であり、前記基板1と前記LED素子2との間に配置されて、前記LED素子2を前記基板1に固定するものである。
前記導電性接合材3に含まれる樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂などを挙げることができる。
【0023】
しかして、前記LED発光装置100は、さらに前記導電性接合材3を被覆する被覆材4を備えたものである。
該被覆材4は、例えば、シリコーン等の樹脂であり、前記導電性接合材3が空気にふれないように、前記基板1と前記LED素子2との間からはみ出した部分である前記導電性接合材3のフィレット部分31を完全に覆うように配置されている。
【0024】
このとき前記被覆材4は、前記導電性接合材3だけではなく、前記基板1の表面の一部及び前記LED素子2の側面2sの一部をも覆っており、例えば、
図2に示すように、前記LED素子2の前記支持基板層21の高さまでを覆うようにしてある。前記LED素子の側面2sとは、前記LED素子の前記基板と対向する面及び前記基板と対向する面とは反対側の面を除く表面のことである。
【0025】
本実施形態に係るLED発光装置100の製造方法は以下のようなものである。
前記基板1に、適量の前記導電性接合材3を塗布する。
次に、前記LED素子2の前記支持基板層21を前記基板1側に向けた状態で前記導電性接合材3に押し付け、前記導電性接合材を熱硬化させることで前記LED素子2を前記基板1に取り付ける。
前記基板1と前記LED素子2との間から外側にはみ出した前記導電性接合材3のフィレット部分31を全て覆うように、前記基板1の表面から前記LED素子2の側面2sにわたって前記被覆材4を塗布し、熱硬化させる。
前記被覆材4は、およそ10μm以上500μm以下の厚みで塗布することが好ましい。
【0026】
このように構成したLED発光装置100によれば、前記被覆材4が、前記支持基板層21の高さまでを被覆し、前記半導体層22が露出するようにしてあるので、前記半導体層22中に存在する発光層から射出される光の多くはそのまま外部に放出され、前記被覆材4に対して照射される光の量を少なく抑えることができる。
前記被覆材4がシリコーン樹脂であれば、厚く塗布することが容易であり、しかも、LED素子2に対する密着性が高いので、密着性を高めるための特別な工夫をしなくても、結果としてガスバリア性が高まり、前記導電性接合材3の硫化を効率的に抑えることができる。
【0027】
また、前記被覆材4が前記LED素子2の前記支持基板層21の高さまでを覆うようにしてあるので、前記被覆材4の厚みが十分確保されており、前記導電性接合材3の硫化をより効果的に抑えることができる。
さらに、シリコーン樹脂は、光の取り出し効率が高いので、紫外LED発光装置100の光出力を低下させる恐れがない。
【0028】
前記導電性接合材3の大半は銀から構成されており、揮発性成分が金属微粉末と、フラックスと、溶剤とからなる半田ペーストに比べて非常に少ないため、前記導電性接合材3のボイド率を低減することができる。その結果、前記紫外LED発光装置100の放熱効率を向上させることができる。
前記支持基板層21が、金属からなるものであるので、前記基板1と前記半導体層22とを電気的に接続する際に、電流を前記LED素子のn型半導体層、発光層及びp型半導体層の積層方向に流せる垂直構造とすることができ、その結果、電流密度の集中を防ぎ、発光効率および信頼性を向上させる機能を果たしている。
前記支持基板層21が、金属からなるものであることにより、前記支持基板層21の線膨張係数を前記半導体層22の線膨張係数に近づけることができる、さらに、前記支持基板層21の放熱性を向上させることができる等の効果も奏することができる。
前記支持基板層21が、銀等の金属からなる反射層を備えているので、前記半導体層22から、前記支持基板層21側に向けて射出される光を前記半導体層22側に向けて反射することができる。
その結果、光の取り出し効率を向上させるとともに、前記被覆材4に照射される光をさらに低減することができる。
さらに、前記反射層が、銀等の前記半導体層とオーミック接触が可能な金属からなるものであるので、前記反射層が前記半導体層と前記支持基板層とを電気的に接続するn電極又はp電極としての役割を兼ねることも可能である。
【0029】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
前記被覆材4による被覆高さは、前記導電性接合材3のフィレット部が全て覆われ、かつ、前記LED素子2の前記半導体層22の表面が外部に露出する高さであれば良い。
例えば、
図3(a)に示すように、前記LED素子2の側面2sを全て覆う高さまで被覆していてもよいし、
図3(b)に示すように、前記支持基板層21の側面21sの全てと、前記半導体層22の側面22sの一部を覆う高さまで被覆してもよいし、
図3(c)に示すように、前記フィレット部分31の全てと前記支持基板層21の側面21sの一部を覆う高さまで被覆するようにしても良い。
【0030】
図3(a)に示すように、前記LED素子2の側面2sを全部覆う高さまで前記被覆材4で覆う場合には、高湿環境下で異物がLED素子2の側面2sに付着する、又は析出する等という問題を回避できるという効果もある。
【0031】
前記反射層は、前記支持基板層の前記半導体層と接する表面を形成するように設けられているものに限らず、前記支持基板層の内部に設けられていても良い。
前記支持基板層は金属からなるものに限らず、金属を含むものであれば良く、例えば、サファイア等からなる透光性を有する層を含むものであっても良い。
前記支持基板層が、サファイア等からなる層を含むものである場合には、前記反射層は、前記支持基板層の前記半導体層と接する側の表面ではなく、前記支持基板層の前記サファイアからなる層よりも前記導電性接合材と接する面側に設けられている。
前記基板1やLED素子2の形状は、上述のものに限定されず、各種の形状を採用することができる。
【0032】
前記LED素子2は、435nm以下の波長(紫~紫外領域)の光を(射出するものであれば良く、よりエネルギーが高い405nm以下、380nm以下等の波長の光を射出するLED素子を使用する場合には、本願発明の効果をより顕著に発揮することができる。
【0033】
前記被覆材4は、ガスバリア性が高く、光取り出し効率が良く、LED素子2との密着性も高い樹脂であれば特に限られないが、具体的には、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。
前記実施形態では、前記被覆材4は、前記基板1の表面の一部を覆うようにしていたが、これに限らず、前記基板1の表面の全部を覆うようにしても良い。
【0034】
前記LED発光装置100は、前記基板1の中央部に前記LED素子2を取り付けたものに限られず、例えば、前記LED素子2が前記基板1の端部に取り付けられているようなものであっても良い。
また、1つの基板上に1つの前記LED素子を取り付けたものに限られず、
図4に示すように、1つの基板上に複数のLED素子を取り付けたチップオンボード型のものとしても良い。
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
【符号の説明】
【0035】
100・・・LED発光装置
1 ・・・基板
2 ・・・LED素子
21 ・・・支持基板層
22 ・・・半導体層
3 ・・・導電性接合材
31 ・・・フィレット部分
4 ・・・被覆材