(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】溶接装置、溶接方法、溶接プログラム及びタンクの溶接工法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/127 20060101AFI20231218BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20231218BHJP
B23K 9/32 20060101ALI20231218BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B23K9/127 508A
B23K9/00 501L
B23K9/32 E
B23K31/00 L
(21)【出願番号】P 2018219326
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-06-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390014568
【氏名又は名称】東芝プラントシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 智浩
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 真次
(72)【発明者】
【氏名】高堀 賢一
(72)【発明者】
【氏名】向山 素
(72)【発明者】
【氏名】内田 貴文
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】菊地 牧子
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-184459(JP,A)
【文献】実開昭59-175477(JP,U)
【文献】特開2003-260584(JP,A)
【文献】特開平08-052586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K9/00-9/32
B23K31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの金属母材の接合部に沿って配置される長尺な第1ガイド、および第1ガイド上に組み込まれ第1ガイドの長手方向に移動する第1ステージを有する第1レールと、
前記第1ガイドに対して直交方向に延びるように形成されて前記第1ステージに固定される第2ガイド、および第2ガイド上に組み込まれ第2ガイドの長手方向に往復移動する第2ステージを有する第2レールと、
前記第2ガイドに設けられるモータ、このモータの回転動力を伝達するボールネジロッド、および前記第2ステージに組み込まれ前記ボールネジロッドに結合されるナットを有する移動機構と、
前記第1ステージを
第1ガイドの長手方向に移動させる第1駆動信号を送信する第1送信部と、
前記第2ステージに固定された検出器により前記接合部のギャップ位置を検出した検出信号を受信する受信部と、
前記第1ステージを移動しながら検出された前記ギャップ位置と前記接合部に沿う方向に設定された基準位置との偏差量を演算する演算部と、
前記偏差量とこの偏差量に対応する前記第1ステージの第1変位情報とを関連付けて登録する登録部と、
前記検出器と交換して前記第2ステージに固定した溶接トーチにアークを発生させるアーク発生部と、
前記第1駆動信号を送信しながら取得した前記第1変位情報に関連付けられた前記偏差量に基づいて第2変位情報を生成する生成部と、
前記第2変位情報に基づいて
前記移動機構のモータを回転して前記第2ステージを前記第2
ガイドの長手方向に往復移動させる第2駆動信号を送信する第2送信部と、を備える溶接装置。
【請求項2】
二つの金属母材の接合部に沿って配置される長尺な第1ガイド、および第1ガイド上に組み込まれ第1ガイドの長手方向に移動する第1ステージを有する第1レールと、
前記第1ガイドに対して直交方向に延びるように形成されて前記第1ステージに固定される第2ガイド、および第2ガイド上に組み込まれ第2ガイドの長手方向に移動する第2ステージを有する第2レールと、
前記第2ガイドに設けられるモータ、このモータの回転動力を伝達するボールネジロッド、および前記第2ステージに組み込まれ前記ボールネジロッドに結合されるナットを有する移動機構と、
前記第1ステージを
第1ガイドの長手方向に移動させる第1駆動信号を送信する第1送信部と、
前記第2ステージに固定された検出器により前記接合部のギャップ位置を検出した検出信号を受信する受信部と、
前記第1ステージを移動しながら検出された前記ギャップ位置と前記接合部に沿う方向に設定された基準位置との偏差量を演算する演算部と、
前記偏差量とこの偏差量に対応する前記第1ステージの第1変位情報とを関連付けて登録する登録部と、
前記検出器と交換して前記第2ステージに固定した溶接トーチにアークを発生させるアーク発生部と、
前記第1駆動信号を送信しながら取得した前記第1変位情報に関連付けられた前記偏差量に基づいて第2変位情報を生成する生成部と、
前記第2変位情報に基づいて
前記移動機構のモータを回転して前記第2ステージを前記第2
ガイドの長手方向に往復移動させる第2駆動信号を送信する第2送信部と、
前記溶接トーチによる溶接後に、前記溶接トーチと交換して前記第2ステージに固定された撮影カメラ、ケレン器および非破壊検査器の何れか一つに対し、前記第1ステージの移動が開始されて前記第2ステージに前記第2送信部からの第2駆動信号が送信されている状態で、前記撮影カメラ、ケレン器および非破壊検査器の何れかに対応する作動信号を送信する画像撮影部、ケレン実行部および非破壊検査部の何れか一つと、を備える溶接装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の溶接装置において、
前記前記移動機構におけるモータに組み込まれ、前記第2駆動信号に応じて前記モータの追従回転を制御するエンコーダを備える溶接装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の溶接装置において、
前記移動機構におけるモータは前記第2ガイドの前記第1ステージへの固定側端部に設けられている溶接装置。
【請求項5】
二つの金属母材の接合部に沿って配置される長尺な第1ガイド、および第1ガイド上に組み込まれ第1ガイドの長手方向に移動する第1ステージを有する第1レールと、前記第1ガイドに対して直交方向に延びるように形成されて前記第1ステージに固定される第2ガイド、および第2ガイド上に組み込まれ第2ガイドの長手方向に移動する第2ステージを有する第2レールと、前記第2ガイドに設けられるモータ、このモータの回転動力を伝達するボールネジロッド、および前記第2ステージに組み込まれ前記ボールネジロッドに結合されるナットを有する移動機構と、を接合部に沿って配置するステップと、
前記第1ステージを
前記第1ガイドの長手方向に移動させる第1駆動信号を送信するステップと、
前記第2ステージに固定された検出器により前記接合部のギャップ位置を検出した検出信号を受信するステップと、
前記第1ステージを移動しながら検出された前記ギャップ位置と前記接合部に沿う方向に設定された基準位置との偏差量を演算するステップと、
前記偏差量とこの偏差量に対応する前記第1ステージの第1変位情報とを関連付けて登録するステップと、
前記検出器と交換して前記第2ステージに固定した溶接トーチにアークを発生させるステップと、
前記第1駆動信号を送信しながら取得した前記第1変位情報に関連付けられた前記偏差量に基づいて第2変位情報を生成するステップと、
前記第2変位情報に基づいて
前記移動機構のモータを回転して前記第2ステージを前記第2
ガイドの長手方向に往復移動させる第2駆動信号を送信するステップと、を含む溶接方法。
【請求項6】
二つの金属母材の接合部に沿って配置される長尺な第1ガイド、および第1ガイド上に組み込まれ第1ガイドの長手方向に移動する第1ステージを有する第1レールと、
前記第1ガイドに対して直交方向に延びるように形成されて前記第1ステージに固定される第2ガイド、および第2ガイド上に組み込まれ第2ガイドの長手方向に移動する第2ステージを有する第2レールと、
前記第2ガイドに設けられるモータ、このモータの回転動力を伝達するボールネジロッド、および前記第2ステージに組み込まれ前記ボールネジロッドに結合されるナットを有する移動機構と、を具備し
前記第2ステージに検出器または溶接トーチを固定して溶接を行う溶接装置の制御を行う溶接プログラムであって、
コンピュータに、
前記第1ステージを
第1ガイドの長手方向に移動させる第1駆動信号を送信するステップ、
前記第2ステージに固定された検出器により前記接合部のギャップ位置を検出した検出信号を受信するステップ、
前記第1ステージを移動しながら検出された前記ギャップ位置と前記接合部に沿う方向に設定された基準位置との偏差量を演算するステップ、
前記偏差量とこの偏差量に対応する前記第1ステージの第1変位情報とを関連付けて登録するステップ、
前記検出器と交換して前記第2ステージに固定した溶接トーチにアークを発生させるステップ、
前記第1駆動信号を送信しながら取得した前記第1変位情報に関連付けられた前記偏差量に基づいて第2変位情報を生成するステップ、
前記第2変位情報に基づいて
前記移動機構のモータを回転して前記第2ステージを前記第2
ガイドの長手方向に往復移動させる第2駆動信号を送信するステップ、を実行させる溶接プログラム。
【請求項7】
底板を布設する工程と、
前記底板の周縁に複数の短冊型胴板を筒状に縦割りに配列する工程と、
請求項5に記載の溶接方法により前記短冊型胴板を前記金属母材とした接合部を溶接して胴体を形成する工程と、
前記胴体の上部に天板を設置する工程と、を含むタンクの溶接工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、大型構造物の溶接技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、屋外に設置される大型タンクの施工は、胴板、底板および天板等を分割搬入し、現場で組み立てる。このような大型タンクの施工の手順は、底板布設、胴体の溶接組立、天板組立が概略工程となる。このうち胴体の溶接組立方法の一つとして、分割された複数の短冊型胴板を筒状に縦割りに配列し、突き合わされた胴板端部同士を溶接する方法がある。
【0003】
この胴板の溶接組立において、接合部の開先合せ、その開先形状寸法の計測・確認、手動あるいは自動溶接機による溶接、ケレン(磨き)作業、溶接部の外観・寸法検査及び非破壊検査(PT他)による溶接欠陥の有無確認を行う。そして、工期短縮、人員削減及び品質安定性の観点から、この胴板の溶接組立の作業は自動化が推し進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-267242号公報
【文献】特開平8-74443号公報
【文献】特開平11-190790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した大型タンクの胴体を構成する短冊型胴板は、一辺の長さが10数mにわたるため、これらを筒状に縦割りに配列した場合、自重による変形が避けられない。このように短冊型胴板に生じた変形は、胴板端部の開先部のギャップ及び形状が規定値から外れる事象を生じさせるため、溶接を実施する前に、開先部のギャップ及び形状が規定値に収まるように治具による調整が行われる。
【0006】
しかし、開先部のギャップラインから胴板にわたり生じる歪みは、治具による調整は困難である。よって、自動溶接機で溶接する場合、歪みの大きなギャップラインに沿ってアークを走査することが困難となり、溶接部の品質低下が避けられない課題がある。
【0007】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、大型構造物を自動化により高品質で溶接する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
溶接装置において、二つの金属母材の接合部に沿って配置される長尺な第1ガイド、および第1ガイド上に組み込まれ第1ガイドの長手方向に移動する第1ステージを有する第1レールと、前記第1ガイドに対して直交方向に延びるように形成されて前記第1ステージに固定される第2ガイド、および第2ガイド上に組み込まれ第2ガイドの長手方向に往復移動する第2ステージを有する第2レールと、前記第2ガイドに設けられるモータ、このモータの回転動力を伝達するボールネジロッド、および前記第2ステージに組み込まれ前記ボールネジロッドに結合されるナットを有する移動機構と、前記第1ステージを第1ガイドの長手方向に移動させる第1駆動信号を送信する第1送信部と、前記第2ステージに固定された検出器により前記接合部のギャップ位置を検出した検出信号を受信する受信部と、前記第1ステージを移動しながら検出された前記ギャップ位置と前記接合部に沿う方向に設定された基準位置との偏差量を演算する演算部と、前記偏差量とこの偏差量に対応する前記第1ステージの第1変位情報とを関連付けて登録する登録部と、前記検出器と交換して前記第2ステージに固定した溶接トーチにアークを発生させるアーク発生部と、前記第1駆動信号を送信しながら取得した前記第1変位情報に関連付けられた前記偏差量に基づいて第2変位情報を生成する生成部と、前記第2変位情報に基づいて前記移動機構のモータを回転して前記第2ステージを前記第2ガイドの長手方向に往復移動させる第2駆動信号を送信する第2送信部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態により、大型構造物を自動化により高品質で溶接する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る溶接装置の制御部を示すブロック図。
【
図2】実施形態に係る溶接装置の機械構成を示す側面図。
【
図3】実施形態に係る溶接装置の断面図を示しこの溶接装置による接合部の検出工程の説明図。
【
図4】(A)実施形態に係る溶接装置による接合部の溶接工程の説明図、(B)溶接部の外観検査工程の説明図、(C)溶接部のケレン工程の説明図、(D)溶接部の非破壊検査工程の説明図。
【
図5】タンクの胴体を構成する短冊型胴板の説明図。
【
図7】実施形態に係る溶接装置の設置方法の説明図。
【
図9】実施形態に係る溶接方法及び溶接プログラムを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る溶接装置の制御部10(10A、10B)を示すブロック図である。
図2は実施形態に係る溶接装置の機械構成30を示す側面図である。
図3は機械構成30の断面図を示し溶接装置による接合部36の検出工程の説明図である。
【0012】
なお実施形態に係る溶接装置による工程は、接合部36の検出工程、接合部36の溶接工程、溶接部33の外観検査工程、溶接部33のケレン(みがき)工程、溶接部33の非破壊検査工程に大きく分類される。そして、制御部10Aは接合部36の検出工程における機能ブロックであり、制御部10Bは接合部36の溶接工程、溶接部33の外観検査工程、溶接部33のケレン(みがき)工程及び溶接部33の非破壊検査工程における機能ブロックである。
【0013】
図1に示すように溶接装置の制御部10は、二つの金属母材35a,35b(
図2)の接合部36に沿って配置された第1レール31上の第1ステージ41を移動させる第1駆動信号Aを送信する第1送信部11と、この第1ステージ41に固定された第2レール32上の第2ステージ42に固定された検出器45により接合部36のギャップ位置x
nを検出した検出信号Dを受信する受信部16と、第1ステージ41を移動しながら検出されたギャップ位置x
nと基準位置x
0との偏差量Δx
nを演算する演算部17と、偏差量Δx
nとこの偏差量Δx
nに対応する第1ステージ41の第1変位情報Eとを関連付けて登録する登録部20と、検出器45と交換して第2ステージ42に固定した溶接トーチ46(
図4(A))にアークを発生させるアーク発生部21と、第1駆動信号Aを送信しながら取得した第1変位情報Eに関連付けられた偏差量Δx
nに基づいて第2変位情報X
nを生成する生成部19と、第2変位情報X
nに基づいて第2ステージ42を移動させる第2駆動信号Bを送信する第2送信部12と、を備えている。
【0014】
図2に示すように第1レール31は、長尺に形成される第1ガイド43と、この第1ガイド43に組み込まれその長手方向に移動する第1ステージ41と、この第1レール31を金属母材35の表面に装着させるマグネット等の装着具57と、から構成されている。
【0015】
第1レール31には、第1送信部11から送信される第1駆動信号Aを受信して回転駆動する第1モータ51が設けられている。第1モータ51の回転動力は、傘歯車58を介してピニオンギア59を回転させる。回転するピニオンギア59は、第1ガイド43の表面に敷設されたラックギア61に歯合し、直進動力を発生させる。なお第1モータ51は第1ステージ41に設けられたものを例示しているが、その設置位置は特に限定はなく、第1ガイド43に設けられていてもよい。また第1モータ51の回転動力を直進動力に変換する機構は特に限定されるものではなく、第1ガイド43に対し第1ステージ41を移動させることができればよい。
【0016】
第1モータ51が受信する第1駆動信号Aは、第1ステージ41が等速直線運動するように、この第1モータ51を一方向に等速回転させる。
【0017】
第1変位計測器55は、第1レール31に対する第1ステージ41の変位量を表す第1変位情報Eを出力し、取得部18に取得させる。実施形態における第1変位計測器55は、第1モータ51に組み込まれたエンコーダが例示されており、第1モータ51の回転量を直線変位量に変換する。しかし第1変位計測器55は、このような実施形態に限定されるものではなく、第1レール31に対する第1ステージ41の変位量を計測できればよい。
【0018】
第2レール32は、第1レール31に対し直交方向に延びるように形成され第1ステージ41に固定される第2ガイド44と、この第2ガイド44に組み込まれその長手方向に移動する第2ステージ42と、から構成されている。
【0019】
第2ステージ42には、第2送信部12から送信される第2駆動信号Bを受信して回転駆動する第2モータ52が設けられている。第2モータ52の回転動力は、ボールネジロッド62を介して伝達され、ナット(図示略)が組み込まれた第2ステージ42に直進動力を発生させる。なお第2モータ52は第2ガイド44に設けられたものを例示しているが、その設置位置は特に限定はなく、第2ステージ42に設けられていてもよい。また第2モータ52の回転動力を直進動力に変換する機構は特に限定されるものではなく、第2ガイド44に対し第2ステージ42を移動させることができればよい。
【0020】
第2モータ52が受信する第2駆動信号Bは、接合部36のギャップラインが蛇行していれば、この蛇行したギャップラインに沿って第2ステージ42が追従するように、この第2モータ52を追従回転させる。なおこの第2モータ52に組み込まれたエンコーダ56は、第2モータ52の追従回転を制御するためのものである。
【0021】
第2ステージ42の上面にはギャップ検出器45が着脱自在に固定されている。なお第2ステージ42の上面は、この検出器45と交換して溶接トーチ46(
図4(A))、撮影カメラ47(
図4(B))、ケレン実行部48(
図4(C))、非破壊検査器49(
図4(D))等を着脱自在に固定する。なお検出器45と撮影カメラ47は、共通の機器を用いることができる。
【0022】
ギャップ検出器45は、検査実行部15(
図1)からの実行信号Cを受信することで接合部36のギャップ位置x
nを検出し、検出信号Dを受信部16に送信する。ギャップ検出器45は、具体的には、レーザースキャナや光学カメラ等が挙げられるが特に限定されない。ギャップ検出器45は、第1ステージ41の移動に合わせて、ギャップ位置x
nの相対的変位を検出することができるものであれば適宜採用される。
【0023】
演算部17(
図1)は、ギャップ検出器45で取得した形状データを取り込んで処理する演算機能を有する。そして、第1レール31上の第1ステージ41を移動(走行)させながら検出したギャップ位置x
nと基準位置x
0との偏差量Δx
nを演算する。登録部20は、偏差量Δx
nとこの偏差量Δx
nに対応する第1ステージ41の第1変位情報Eとを関連付けて登録する。
【0024】
このようにギャップ検出器45を第2ステージ42に搭載して走行させることで、接合部36の開先形状、開先間のギャップ寸法等を確認する溶接前の「開先検査」も、ギャップ位置xnの検出とは別に実施される。この「開先検査」においては、二つの金属母材35a,35bにおける開先開度、開先形状、ギャップの間隔、くい違い等の検査項目が検査される。そして、これら検査項目が規定値に収まるように、溶接の実施前に、治具による調整が行われる。
【0025】
しかし、治具の調整によっても、第1レール31の直線に対する接合部36のギャップラインの歪み(バラツキ)は修正しきれない。そこで、このギャップラインの歪みを内包した状態で、ギャップ検出器45でギャップ位置xnの変位を正確に検出する。そして、演算された偏差量Δxnに基づいて溶接トーチ46の位置を補正しながら溶接する。
【0026】
生成部19は、第1送信部11で第1駆動信号Aを送信しながら取得部18で取得された第1変位情報Eをリアルタイムで入力する。そして生成部19は、入力した第1変位情報Eに関連付けられた偏差量Δxnを登録部20から取得し、第2変位情報Xnを生成する。そして第2送信部12は、第2変位情報Xnに基づいて第2ステージ42を移動させる第2駆動信号Bを送信する。
【0027】
上述したように、接合部36の検出工程で導いた偏差量Δxnに基づいて溶接工程を実行し、さらにその後も、この偏差量Δxnに基づいて溶接部33の外観検査工程、ケレン(みがき)工程及び非破壊検査工程が実施される。なおこれらの工程における各作業は、遠隔操作・自動化されている。検出工程で導いた偏差量Δxnは、登録部20で一括して管理され、各工程で利用される。
【0028】
図4(A)は実施形態に係る溶接装置による接合部36の溶接工程の説明図である。溶接工程では、検出器45(
図3)から交換して第2ステージ42に溶接トーチ46が固定される。そして、第1ステージ41の移動(走行)が開始されると同時に、アーク発生部21(
図1)から信号Fが発信され、溶接トーチ46から溶接ワイヤが供給されるのと同時にこの溶接ワイヤの先端からアークが発生し、接合部36の自動溶接が開始する。
【0029】
本実施形態では、一般的なMAG自動溶接機等が用いられ、第1ステージ41及び第2ステージ42には、溶接トーチ46の他に、図示略のCO2ガス供給ラインやその他の溶接器具が搭載されている。そして、図示略の溶接ワイヤ供給装置及び溶接制御装置が第1ステージ41の走行と同期して制御される。
【0030】
さらに、第2ステージ42に固定された溶接トーチ46は、第1ステージ41の移動方向(Z方向)とは直交する方向(X方向)にも移動し、ギャップラインの歪みを補正しながら接合部36を溶接する。これにより、金属母材35bに設置した第1レール31自体の歪み、装着具57の取付位置の誤差、開先加工誤差等を解消することが可能で、溶接欠陥、品質低下の少ない精度の高い溶接が実現される。
【0031】
図4(B)は実施形態に係る溶接装置による溶接部33の外観検査工程の説明図である。外観検査工程では、溶接トーチ46から交換して第2ステージ42に撮影カメラ47が固定される。そして、第1ステージ41の移動(走行)が開始されると同時に、画像撮影部22(
図1)から信号Gが発信される。すると、撮影カメラ47は溶接部33の撮影を開始し、画像データHが画像撮影部22に受信される。
【0032】
外観検査工程では、撮影カメラ47により、溶接ビード形状を測定し、余盛り高さ、溶接幅等の寸法を確認する。なおこの撮影カメラ47は、具体的には、レーザースキャナや光学カメラ等が挙げられるが特に限定されない。ギャップラインの歪みが補正されながら外観検査が実施されることにより、溶接ビード形状の寸法計測の精度が向上し、エラーの少ない精度の高い確認が実施される。
【0033】
図4(C)は実施形態に係る溶接装置による溶接部33のケレン工程の説明図である。ケレン工程では、撮影カメラ47から交換して第2ステージ42にケレン器48が固定される。そして、第1ステージ41の移動(走行)が開始されると同時に、ケレン実行部25(
図1)から信号Jが発信される。すると、ケレン器48は溶接部33のクリーニングを開始する。
【0034】
ケレン工程では、溶接後の溶接スパッタ、スラグ又はその他の付着物の除去等の作業を行う。ケレン器48は、具体的にはレーザートーチ等であり、溶接ビードの表層部及びその周辺の付着物をレーザーエネルギーでプラズマ化し剥離する。そのようなレーザートーチは、第2ステージ42に取付けられ、レーザー供給用光ファイバー及び必要により冷却水等のユーテリテイの供給ラインが接続されている。ギャップラインの歪みが補正されながらケレン(磨き)が実施されることにより、第1ステージ41を第1レール31において一回走行させるだけで、必要とされる範囲において確実な磨きが可能であり、従来に比べ作業工数、時間の短縮が達成される。
【0035】
図4(D)は実施形態に係る溶接装置による溶接部33の非破壊検査工程の説明図である。非破壊検査工程では、ケレン器48から交換して第2ステージ42に非破壊検査器49が固定される。そして、第1ステージ41の移動(走行)が開始されると同時に、非破壊検査部26(
図1)から信号Kが発信される。すると、非破壊検査器49は溶接部33の検査を開始し、検査データLが非破壊検査部26に受信される。
【0036】
非破壊検査工程では、溶接部33のブローホール等の内部欠陥、微細なピット他の欠陥の有無が検査される。実施形態では、検査方式に超音波探傷検査(UT)を用いるものとし、装置として複数チャンネルによるフェーズドアレイ方式の超音波探傷装置を用いる。ギャップラインの歪みが補正されながら非破壊検査が実施されることにより、高精度の検査が実現される。
【0037】
図5はタンクの胴体70を構成する短冊型胴板35の説明図である。
図6はタンクの胴体の組立図である。容量が1000トンを超える大型タンクの施工は、底板72を布設し、この底板72の周縁に複数の短冊型胴板35を筒状に縦割りに配列する。そして上述した溶接方法により、短冊型胴板35の接合部を溶接して胴体70を形成する。そして、この胴体70の上部に天板(図示略)を設置する。
【0038】
図7は実施形態に係る溶接装置の設置方法の説明図である。
図8は実施形態に係るタンクの溶接工法の説明図である。第1レール31は、搭載する第2レール32、検出器45及び溶接トーチ46等の重量、並びに動作要求、胴板35への取付け/取外しを考慮して、材質を剛性が高く軽量なアルミニウム等を主要な構成材としている。
【0039】
さらに装着具57(
図2)がマグネットであることにより、第1レール31を胴板35の端部の接合部36に沿う取付け/取外しを容易に行うことができる。これにより、
図8に示すように、筒状に縦割りに配列された複数の短冊型胴板35に対し第1レール31の付け替えを容易にし、複数ある接合部36の全ての溶接作業を速やかに実施することができる。
【0040】
なお、詳細な説明を省略するが、底板72(
図5)に関しても、複数の短冊型胴板を平面状に縦割りに配列して、その端部の接合部を溶接して構成することができる。
【0041】
図9のフローチャートに基づいて実施形態に係る溶接方法及び溶接プログラムを説明する(適宜、
図1~
図8参照)。複数の胴板(金属母材)35を配列し、その接合部36に沿って第1レール31を配置する(S11)。そして、ギャップ検出器45を第2ステージ42に固定する(S12)。
【0042】
第1送信部11から第1駆動信号Aを送信して第1ステージ41を接合部36の一端から他端まで移動させながら(S13)、検出器45により検出された接合部36のギャップ位置xnの検出信号Dを受信する(S14)。そして演算部17においてギャップ位置xnと基準位置x0との偏差量Δxnを演算し(S15)、登録部20において偏差量Δxnとこの偏差量Δxnに対応する第1ステージ41の第1変位情報Eとを関連付けて登録する(S16)。
【0043】
検出器45と交換して溶接トーチ46を第2ステージ42に固定し(S17)、アークを発生させながら第1ステージ41を接合部36の一端から他端まで移動させる(S18)。このとき、第1変位情報Eと偏差量Δxnに基づいて、第2ステージ42を移動させるための第2変位情報Xnを生成し、第2モータ52を駆動させる第2駆動信号Bを送信して第2ステージ42を移動させる(S19)。これにより、ギャップラインが歪んでいたとしても、このギャップラインに沿って溶接トーチ46は走査され、一つの接合部36の溶接工程が終了する(S20)。
【0044】
そして引き続き、溶接トーチ46から交換して撮影カメラ47を第2ステージ42に固定し外観検査工程を実施する(S21)。さらに、撮影カメラ47から交換してケレン器48を第2ステージ42に固定しケレン工程を実施する(S22)。さらに、ケレン器48から交換して非破壊検査器49を第2ステージ42に固定し非破壊検査工程を実施する(S23)。
【0045】
これにより、一つの接合部36に対する一連の溶接作業が終了する。次に溶接する接合部36の対象が存在する場合は、第1レール31を取り外して、別の胴板(金属母材)35に付け替える(S24 No,S11)。そして、全ての接合部36の一連の溶接作業が終了したところで終了する(S24 Yes,END)。
【0046】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の溶接装置によれば、金属母材の接合部で検出したギャップ位置の偏差量に基づいて溶接トーチを変位させることにより、大型構造物を自動化により高品質で溶接することが可能となる。さらに溶接工程にとどまらず、ケレン外観検査工程、ケレン工程、非破壊検査工程等の一連の作業の自動化を図ることができ工数等の大幅な低減が図れる。
【0047】
なお、本実施形態は、縦割りした胴板の溶接施工に適用し、溶接組立する胴板の設定、開先合せ以降の「開先検査工程」、「溶接工程」、「ケレン工程」、「外観検査工程」、「非破壊検査工程」の各作業を順次実施している。しかし、この中の一部について従来の手法を用いても良い。例えば、溶接後の「ケレン工程」についてこれを従来の手作業としても良い。また、第2ステージ42に固定される各ユニットについて、具体的な装置を示したが、同様の機能を有する機器・装置であれば良く、方式等を限定するものでない。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0049】
以上説明した溶接装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードやタッチパネルなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。このように、溶接装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、溶接プログラムにより動作させることが可能である。
【符号の説明】
【0050】
10(10A,10B)…溶接装置の制御部、11…第1駆動信号の送信部(第1送信部)、12…第2駆動信号の送信部(第2送信部)、15…検査実行部、16…検出信号の受信部(受信部)、17…偏差量の演算部(演算部)、18…第1変位情報の取得部(取得部)、19…第2変位情報の生成部(生成部)、20…登録部、21…アーク発生部、22…画像撮影部、25…ケレン実行部、26…非破壊検査部、30…溶接装置の機械構成、31…第1レール、32…第2レール、33…溶接部、35(35a,35b)…金属母材、35…短冊型胴板(胴板)、36…接合部、41…第1ステージ、42…第2ステージ、43…第1ガイド、44…第2ガイド、45…ギャップ検出器(検出器)、46…溶接トーチ、47…撮影カメラ、48…ケレン実行部、48…ケレン器、49…非破壊検査器、51…第1モータ、52…第2モータ、55…変位計測器、56…エンコーダ、57…装着具、58…傘歯車、59…ピニオンギア、61…ラックギア、62…ボールネジロッド、70…胴体、72…底板、A…第1駆動信号、B…第2駆動信号、C…実行信号、D…検出信号、E…第1変位情報、F…信号、G…信号、H…画像データ、J…信号、K…信号、L…検査データ、xn…ギャップ位置、Δxn…偏差量、Xn…第2変位情報。