(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】電源変圧器の保護の改良またはそれに関連する改良
(51)【国際特許分類】
H02H 7/04 20060101AFI20231218BHJP
H02H 3/093 20060101ALI20231218BHJP
H02H 7/045 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H02H7/04 A
H02H3/093
H02H7/045 B
(21)【出願番号】P 2018537727
(86)(22)【出願日】2016-10-12
(86)【国際出願番号】 EP2016074517
(87)【国際公開番号】W WO2017064148
(87)【国際公開日】2017-04-20
【審査請求日】2019-09-30
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-03
(32)【優先日】2015-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515322297
【氏名又は名称】ゼネラル エレクトリック テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】General Electric Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 8, 5400 Baden, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100151286
【氏名又は名称】澤木 亮一
(72)【発明者】
【氏名】ハ,ヘンスゥ
(72)【発明者】
【氏名】ウェン,ユ
(72)【発明者】
【氏名】バラクリシュナン,ガジェンディラン
【合議体】
【審判長】高野 洋
【審判官】寺谷 大亮
【審判官】稲葉 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-322379(JP,A)
【文献】米国特許第6483680(US,B1)
【文献】特開昭62-110433(JP,A)
【文献】特開平10-257667(JP,A)
【文献】特開2004-15861(JP,A)
【文献】特開平11-252781(JP,A)
【文献】特開2003-259544(JP,A)
【文献】特開平5-137243(JP,A)
【文献】特開平11-41793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H3/08-3/253
H02H7/04-7/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ネットワークに配置され、保護装置により保護される変圧器を保護する方法であって、
(a)外部障害表示信号(12A、12B、12C)を制御ユニットが監視するステップと、
(b)障害判定(22)を制御ユニット
が実行するステップと、
(c)突入電流判定
を制御ユニットが実行するステップと、
(d)前記変圧器を保護するために前記保護装置を作動させるトリップ信号(48)を制御ユニットが発行するステップであって、
(i)前記外部障害表示信号(12A、12B、12C)が、障害が発生したことを識別し、前記
実行された障害判定(22)が、障害が発生したことを制御ユニットが確認した場合、または、
(ii)前記外部障害表示信号(12A、12B、12C)が、障害が発生したことを識別し、前記
実行された障害判定(22)が、障害が発生していないことを識別するが、所定の遅延の後に、前記
実行された突入電流判定(46)が、突入電流が存在しないことを制御ユニットが確認した場合に、前記トリップ信号(48)を制御ユニットが発行するステップと
を含
み、
前記外部障害表示信号(12A、12B、12C)が、前記変圧器が配置されている前記電力ネットワークにおいて、前記変圧器の外部において障害が発生したことを監視する外部保護手段から受信する信号であり、
前記保護装置は、前記トリップ信号(48)を受信したことに応答して、前記変圧器と前記電力ネットワークとの間を遮断する、変圧器を保護する方法。
【請求項2】
障害判定(22)を制御ユニット
が実行するステップ(b)は、前記変圧器の測定電流の異なる周波数成分
の振幅同士を制御ユニットが比較するステップを含
み、
前記測定電流は、前記変圧器の一次コイルまたは二次コイルを流れる電流に対応する、請求項1に記載の変圧器を保護する方法。
【請求項3】
前記変圧器の測定電流の異なる周波数成分を制御ユニットが比較するステップは、
前記測定電流の第1および第2の周波数帯域成分を制御ユニットが抽出するステップ(16)と、
前記第1および第2の周波数帯域成分の振幅を制御ユニットが判定するステップ(18)と、
前記第1および第2の周波数帯域成分の振幅の比を制御ユニットが求めるステップ(20)と、
前記第1および第2の周波数帯域成分の振幅の比が所定の値と異なる場合に
前記電力ネットワークで障害
が発生したことを制御ユニットが確認するステップと
を含む、請求項2に記載の変圧器を保護する方法。
【請求項4】
突入電流の判定のために、制御ユニットが前記変圧器の高調波電流を前記変圧器の基本電流と比較するステップを含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の変圧器を保護する方法。
【請求項5】
制御ユニットが前記変圧器の高調波電流を前記変圧器の基本電流と比較するステップは、
前記変圧器の測定電流の第2高調波周波数成分と基本周波数成分とを制御ユニットが取得するステップと、
前記第2高調波周波数成分および前記基本周波数成分の振幅の大きさを制御ユニットが求めるステップと、
前記第2高調波周波数成分の振幅の大きさと前記基本周波数成分の振幅の大きさとの比を制御ユニットが求めるステップと、
前記第2高調波周波数成分の振幅の大きさと前記基本周波数成分の振幅の大きさとの比が所定値と異なる場合に突入電流の存在を制御ユニットが特定するステップと
を含む、請求項4に記載の変圧器を保護する方法。
【請求項6】
前記第2高調波周波数成分の前記振幅の大きさは、複素係数による前記測定電流の畳み込みを利用して求められ、前記複素係数は、前記変圧器の測定電流のサンプリングに使用されるサンプリング周期に基づくパラメータ行列を使用して求められる、請求項5に記載の変圧器を保護する方法。
【請求項7】
前記基本周波数成分の前記振幅の大きさは、半周期フーリエ法を用いて求められる、請求項5または6に記載の変圧器を保護する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源変圧器を保護する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電源変圧器に最初に通電すると、通常、定格変圧器電流の10~15倍の大きな突入電流がほぼ1秒間流れる傾向がある。このような大きな電流の流れは、外部保護方式、例えば差動保護方式に対して、障害電流のように見えるので、それによって外部保護方式が保護回路遮断器などの関連する保護装置を誤動作させる。このような保護装置の誤動作は、例えば電力網における電源変圧器への通電およびその後の電源変圧器の使用を妨げるので望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2010/026276号明細書
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様によれば、電源変圧器を保護する方法が提供され、本方法は、
(a)外部障害表示信号を監視するステップと、
(b)障害判定を局所的に実行するステップと、
(c)突入電流判定を局所的に実行するステップと、
(d)電源変圧器を保護するための最終トリップ信号を発行するステップであって、
(i)外部障害表示信号が、障害が発生したことを識別し、局所的に実行された障害判定が、障害が発生したことを確認した場合、または、
(ii)外部障害表示信号が、障害が発生したことを識別し、局所的に実行された障害判定が、障害が発生していないことを識別するが、所定の遅延の後に、局所的に実行された突入電流判定が、突入電流が存在しないことを確認した場合に、最終トリップ信号を発行するステップと
を含む。
【0005】
本発明の方法は、電源変圧器を保護するための最終トリップ信号を発行することによって、例えば、保護回路遮断器または他の保護装置の動作を引き起こし、局所的に実行された障害判定が、従来の障害が発生したことを確認するや否や、障害電流と突入電流とを区別しようと試みるときに生じるかもしれない、このような最終トリップ信号を発行する際の遅延を回避し、電源変圧器を損傷させるおそれがある大きな障害電流から電源変圧器を直ちに保護することを保証するのを助けることができる。
【0006】
一方、局所的に実行された突入電流判定が、突入電流がないことを確認した場合にのみ最終トリップ信号を発行する本発明の方法の能力は、局所的に実行された障害判定によって障害を識別することができない場合、例えば障害がゼロポイントオンウェーブ障害の場合に、本方法が特定の状況において電源変圧器を同様に保護することを可能にする。
【0007】
さらに、この後者の機能は突入電流の存在を迅速に確立することができ、大きな突入電流が正常に流れているときに、電源変圧器の初期通電中に最終トリップ信号(および関連する保護装置の誤動作)が誤って発行されるのを防ぐのに役立つ。
【0008】
したがって、本発明の方法は、大部分の時間、すなわち、従来の障害が発生した場合に、直ちに電源変圧器を保護することができ、はるかに少ない頻度で特定の障害、例えばゼロポイントオンウェーブ障害が発生するおそれがある場合に、このような障害と突入電流とを区別し、例えば電源変圧器が最初に通電される際に関連する保護装置の誤動作を回避しながら、必要に応じて電源変圧器の保護を適正に開始することができる。
【0009】
好ましくは、障害判定を局所的に実行するステップ(b)は、電源変圧器の測定電流の異なる周波数成分を比較するステップを含む。
【0010】
任意選択的に、電源変圧器の測定電流の異なる周波数成分を比較するステップは、
測定電流の第1および第2の周波数帯域の成分を抽出するステップと、
第1および第2の周波数帯域成分の振幅を判定するステップと、
障害判定値に対する振幅の比を比較するステップと、
比が障害判定値と異なる場合に障害が発生したことを確認するステップと
を含む。
【0011】
前述のステップを実行することにより、障害が発生したかどうかを局所的にチェックする迅速かつ信頼性のある手段を提供する。
【0012】
突入電流判定を局所的に実行するステップ(c)は、電源変圧器の高調波電流を変圧器の基本電流と比較するステップを含むことができる。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、変圧器の高調波電流を電源変圧器の基本電流と比較するステップは、
電源変圧器の測定電流の第2高調波周波数成分と基本周波数成分とを取得するステップと、
第2高調波周波数成分および基本周波数成分の大きさを判定するステップと、
突入電流判定値に対する大きさの比を比較するステップと、
比が突入電流判定値と異なる場合に突入電流の存在を特定するステップと
を含む。
【0014】
任意選択的に、電源変圧器の測定電流の第2高調波周波数成分を取得し、第2高調波周波数成分の前日大きさを求めるステップは、複素係数による測定電流の畳み込みを含み、複素係数は、電源変圧器の電流を測定するために使用されるサンプリング方式に基づいて所定のパラメータ行列によって確立される。
【0015】
好ましくは、基本周波数成分の大きさは、半周期フーリエ法を用いて決定される。
【0016】
上記のステップにより、突入電流の存在を可能な限り迅速に局所的にチェックすることが可能になる。
【0017】
次に、以下の図面を参照して、非限定的な例によって、本発明の好ましい実施形態の簡単な説明を行う。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態による電源変圧器を保護する方法における原理ステップの概略を示す図である。
【
図2】
図1に示す方法の一部として局所的に障害判定を実行することに関わるステップを概略的に示す図である。
【
図3】
図1に示す方法の一部として突入電流判定を局所的に実行することに関わるステップを概略的に示す図である。
【
図4】電源変圧器を保護するために最終トリップ信号を発行するか否かを判定するために適用される例示的なロジックを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態による電源変圧器を保護する方法における原理ステップの概略は、符号10で全体的に示されている。
【0020】
説明される第1の実施形態の方法は、例として、第1、第2および第3の相A、B、Cを有する三相電源変圧器に適用される。しかしながら、本発明の方法は、三相よりも少ないまたはより多い相を有する電源変圧器に適用可能である。
【0021】
図1に概略的に示される第1の実施形態の方法に戻ると、本方法は、外部障害表示信号12A、12B、12Cを監視するステップ(a)を含む。このような信号は、保護されている電源変圧器が配置されている電力ネットワークを監視している別個の外部保護方式、例えば、差動保護方式から受信することができる。各信号12A、12B、12Cは、それぞれ、外部保護方式が対応する相A、B、Cに関する障害、例えば短絡の発生を判定したことを示す。
【0022】
第1の実施形態の方法はまた、第1の処理ブロック14によって
図1に概略的に示すように、局所的に障害判定を実行するステップ(b)を含む。本発明の文脈内では、局所的に障害判定を行うことは、例えば、本発明の方法を実施するように保護されかつプログラムされた電源変圧器に配置されたまたはそれに隣接して配置された制御ユニットによって、そのような障害判定が本発明を実施する目的のために具体的に実行されることを意味することを意図している。これは、個別に確立され、おそらく別個の保護方式によって遠隔的に確立される前述の外部障害表示信号12A、12B、12Cとは対照的である。
【0023】
障害判定を局所的に実行するステップは、電源変圧器の測定電流の異なる周波数成分を比較するステップを含み、より詳細には、電源変圧器の各相A、B、Cに対応するそれぞれの相電流ia、ib、icの異なる周波数成分を比較するステップを含む。
【0024】
それぞれの相電流i
a、i
b、i
cの異なる周波数成分のそのような比較は、
図2に概略的に示すように、
測定電流i
a、i
b、i
cの第1および第2の周波数帯域の成分i
H、i
Lを抽出する第1のステップ16と、
第1および第2の周波数帯域成分i
H、i
Lの振幅E
H、E
Lを決定する第2のステップ18と、
振幅E
H、E
Lの比R
H/Lを障害判定値R
set_FTと比較する第3のステップ20と、
比R
H/Lが障害判定値R
set_FTと異なる場合に、すなわち局所的障害表示信号22を出力することにより、障害が発生したことを確認するステップと、を含む。
【0025】
より詳細には、測定電流ia、ib、icの第1および第2の周波数帯域成分iH、iLを抽出する第1のステップ16は、測定された3つの相電流ia、ib、icを高周波数帯域フィルタ24および低周波数帯域フィルタ26を通過させるステップを含む。
【0026】
図2に概略的に示す第1の実施形態の方法では、各フィルタ24、26はウェーブレットフィルタバンクであるが、有限インパルス応答フィルタまたは無限インパルス応答フィルタを使用することもできる。
【0027】
例として、図示するウェーブレットフィルタバンク24、26(サンプリング周波数fsを仮定して)では、
高周波数帯域フィルタ24(例えば、約fs/4~fs/2の範囲にわたって動作するフィルタ)の帯域通過フィルタ係数は、
[0.0021-0.0604 0.3062-0.6312 0.6313-0.3063 0.0604-0.0021]であり、
低周波数帯域フィルタ26(例えば、約fs/8~fs/4の範囲にわたって動作するフィルタ)の帯域通過フィルタ係数は、
[0.0005-0.0151 0.0781-0.2031 0.3891-0.5953 0.7188-0.7188 0.5953-0.3891 0.2031-0.0781 0.0151-0.0005]である。
【0028】
第1および第2の周波数帯域成分iH、iLの振幅EH、ELを判定する第2のステップ18は、対応する第1および第2の処理サブブロック28、30内で、第1および第2の周波数帯域成分iH、iLのそれぞれのノルム値を計算するステップを含む。そのようなそれぞれのノルム値を計算することができる1つの方法は、以下のように、二乗平均(RMS)計算によるものである。
【0029】
【数1】
ここで、
NはRMS計算のためのウィンドウ長のサンプル数であり、Nは1周期あたりのサンプル数を4で除算した数となるように選択され、例えば、1周期あたりのサンプル数が48の場合にはN=12となる。
【0030】
振幅EH、ELの比RH/Lと障害判定値Rset_FTを比較し、その比RH/Lが障害判定値Rset_FTと異なる場合に障害が発生したことを確認する第3のステップ20は、以下の式に従って実行され、
【0031】
【数2】
ここで、
R
set_FTは所定値であって、例えば0.2とすることができるが、本発明の他の実施形態では異なっていてもよい。
【0032】
したがって、振幅EH、ELの比RH/Lが障害判定値Rset_FTよりも大きい場合には、局所的障害表示信号22が出力される、すなわち障害が発生したことを確認することになる。
【0033】
図1に概略的に示す本発明の第1の実施形態の方法に戻ると、本方法は、第2の処理ブロック32によって概略的に表されるように、突入電流判定を局所的に実行するステップ(c)をさらに含む。
【0034】
ここでもまた、本発明の文脈内では、局所的に突入電流判定を行うことは、例えば、本発明の方法を実施するように保護されかつプログラムされた電源変圧器に配置されたまたはそれに隣接して配置された制御ユニットによって、そのような突入電流判定が本発明を実施する目的のために具体的に実行されることを意味することを意図している。
【0035】
突入電流判定を局所的に実行することに関わるステップは、
図3に概略的に示されている。
【0036】
このような突入電流判定には、電源変圧器の高調波周波数成分を電源変圧器の基本電流と比較するステップが含まれ、より詳細には、第2高調波周波数成分E2ndの大きさと基本周波数成分E1stの大きさとの比R2nd/1stを突入電流判定値Rset_ICと比較するステップを含む。
【0037】
図3に示すように、第2高調波周波数成分E
2ndの大きさは、測定された3つの相電流i
a、i
b、i
cを合計して、次式により残留電流i
Rを求める第1のステップ34によって決定される。
【0038】
iR=ia+ib+ic
次いで、第2高調波周波数成分E2ndの大きさは、I2ndRealおよびI2ndImagとして示される複素数を生成するために、一連の複素係数を有する残留電流iRの畳み込み(第3の処理サブブロック36内で)によって、次に(第4の処理サブクロック38内で)次式に従ってRMS計算を利用することによって得られる。
【0039】
【数3】
前述の畳み込みに使用される複素係数は、以下のようにして得られる。
【0040】
パラメータ行列Aは、オイラーの式を参照して、また電源変圧器の相電流ia、ib、icを測定するために使用される選択されたサンプリング方式に基づいて、すなわち次式により、予め決定される。
【0041】
【数4】
ここで、
ω
0はラジアン単位の基本周波数で、2πf
0で与えられ、
T
sはサンプリング周期であり、
N
sは選択されたウィンドウ長のサンプル数である。
【0042】
次に、最小二乗行列Pを次の式で計算する。
【0043】
P=(ATA)-1AT
その後に、最小二乗行列Pの第3行は、上述の畳み込みにより第2高調波周波数成分I2ndReal、I2ndImagを抽出するための複素係数を提供する。
【0044】
例えば、システムの基本周波数f0が50Hzであり、サンプリング周波数が2400Hzであり、ウィンドウ長が24サンプルとして選択された場合には、複素係数は、
[-0.2708-0.0740i,-0.0702-0.0596i,0.0687-0.0389i,0.1493-0.0149i,0.1780+0.0097i,0.1644+0.0320i,0.1198+0.0498i,0.0565+0.0612i,-0.0130+0.0651i,-0.0774+0.0611i,-0.1271+0.04954i,-0.1554+0.0317i;-0.1583+0.0093i;-0.1357-0.01523i;-0.0907-0.0391i;-0.0295-0.0596i;0.0387-0.0736i;0.1028-0.0788i;0.1506-0.0731i;0.1696-0.0551i;0.1482-0.0240i;0.0766+0.0199i;-0.0524+0.0754i;-0.2428+0.1407i]である。
【0045】
基本周波数成分E1stの大きさは、第5の処理サブブロック42内の第2のステップ40において、残留電流iRから、次式による半周期フーリエ法を用いて得られる。
【0046】
【数5】
ここで、
Nは基本周波数の半周期の時間ウィンドウであり、サンプリング周波数が2400HzであればN=24となる。
【0047】
その後に、第2高調波周波数成分E2ndの大きさと基本周波数成分E1stの大きさの比R2nd/1stを、第3のステップ44において、すなわち次式により、突入電流判定値Rset_ICと比較する。
【0048】
【数6】
突入電流の有無を識別する識別基準は、すなわち、比R
2nd/1stが突入電流判定値R
set_ICと異なる場合に、次式により与えられ、
R
2nd/1st(n)>R
set_IC
ここで、
R
set_ICは所定値であり、例えば0.5とすることができるが、本発明の他の実施形態では異なってもよい。
【0049】
第2高調波周波数成分および基本周波数成分E2nd、E1stの大きさの比R2nd/1stが突入電流判定値Rset_ICより大きい場合には、突入電流の存在を識別するための局所的突入表示信号46が出力される。
【0050】
最後に、本発明の第1の方法は、電源変圧器を保護するために、すなわち回路遮断器などの保護装置の動作を開始するために、
(i)外部障害表示信号12A、12B、12Cが、障害が発生したことを識別し、局所的に実行された障害判定が、障害が発生したことを確認した場合、すなわち第1の処理ブロック14が局所的障害表示信号22を出力した場合、または、
(ii)外部障害表示信号12A、12B、12Cが、障害が発生したことを識別し、局所的に実行された障害判定が、障害が発生していないことを識別するが、すなわち第1の処理ブロック14によって局所的障害表示信号22が出力されていないが、所定の遅延の後に、局所的に実行された突入電流判定が、突入電流が存在しないことを確認した場合に、最終トリップ信号48を発行するステップ(d)を含む。
【0051】
本明細書で説明されている例示的な方法の実施形態では、上記の基準に従って最終トリップ信号48を発行するステップ(d)が、
図1に示すように第3の処理ブロック50内で実施され、
図4に示すロジックを具体化する。しかし、処理ブロックの他のロジックおよび/または構成を使用することもできる。
【0052】
第3の処理ブロック50および関連するロジックは、以下の3つの可能なシナリオに対処することができる。
【0053】
(i)従来の障害の発生、
(ii)障害判定を局所的に行うことによって通常検出できない特定の障害の発生、例えば、ゼロポイントオンウェーブ障害、および
(iii)電源変圧器の初期通電時の突入電流の存在。
【0054】
第1のシナリオ、すなわち従来の障害の発生では、電源変圧器の三相A、B、Cのうちの1つまたは複数に関する障害を示す1つまたは複数の外部障害表示信号12A、12B、12Cが受信される。
【0055】
同様に、局所的に実行された障害判定は、局所的障害表示信号22を出力することによって障害が発生したことを識別する。
【0056】
局所的障害表示信号22がORゲート62を介して第1のANDゲート52に到達する間に、それぞれの外部障害表示信号12A、12B、12Cは第1のANDゲート52に直接通過する。そのような信号12A、12B、12C、22の両方の正味の結果が第1のANDゲート52に到達すると、直ちに保護装置の起動を許可して電源変圧器を保護する最終トリップ信号48を遅延なしに発行する。
【0057】
局所的に実行された障害判定が特定できない、すなわちシナリオ(ii)における特定の障害が発生すると、1つまたは複数の外部障害表示信号12A、12B、12Cが受信されるが、局所的障害表示信号22は出力されない。
【0058】
局所的障害表示信号22は、第2のANDゲート56を通過する前に第1のNOTゲート54を通過し、一方、外部障害表示信号12A、12B、12Cのうちの1つまたは複数は、所定の遅延(遅延ユニット58により挿入される)の後に、同じ第2のANDゲート56を通過する。
【0059】
一方、局所的に実行された突入電流判定によって突入電流がないことが確認された場合には、すなわち局所的突入表示信号46が出力されない場合には、第2のNOTゲート60を通過した後のそのような論理ゼロは、第2のANDゲート56にも現れる。
【0060】
結果として、第2のANDゲート56への全ての入力はハイであり、したがって、それはORゲート62を通過する論理ハイを出力し、それにより、第1のANDゲート52における元の外部障害表示信号12A、12B、12Cのうちの1つまたは複数と結合し、所定の遅延の後に、最終トリップ信号48が発行されて、電源変圧器の保護を再び開始する。
【0061】
突入電流判定を局所的に実行するための上述のステップは、非常に迅速に完了することができるので、所定の遅延は約5msだけでよい。その結果、特定の障害、例えばゼロポイントオンウェーブ障害が発生した場合に電源変圧器の保護を開始する最終的な遅延も非常に小さく、すなわち約5msだけである。
【0062】
シナリオ(iii)では、突入電流が存在するので、このような突入電流は障害ではないので、局所的障害表示信号22は出力されないが、第1のNOTゲート54を通過した後、これは第2のANDゲート56の入力に論理ハイとして現れる。さらに、1つまたは複数の外部障害表示信号12A、12B、12Cが受信されるが、これは、関連する別個の外部保護方式が突入電流を障害として誤って識別し、その結果、第2のANDゲート56の入力にさらなる論理ハイが現れるからである。
【0063】
しかし、局所的に実行される突入電流判定は、一方、第2のNOTゲート60を通過した後に第2のANDゲート56の入力に論理ゼロとして現れる局所的突入表示信号46を出力することによって突入電流の存在を示す。
【0064】
第2のANDゲート56への1つの入力が論理ゼロであることの帰結として、第2のANDゲート56は、(局所的障害表示信号22が存在しない場合に)ORゲート62における同一の論理ゼロと結合する論理ゼロを同様に出力し、これにより、第1のANDゲート52にも論理ゼロが渡され、1つまたは複数の誤った外部障害表示信号12A、12B、12Cの第1のANDゲート52における入力に関わらず、最終トリップ信号48の発行が防止される。このようにして、電源変圧器を誤って保護する保護装置の誤動作が回避される。
【符号の説明】
【0065】
10 原理ステップ
12A 外部障害表示信号
12B 外部障害表示信号
12C 外部障害表示信号
14 第1の処理ブロック
16 第1のステップ
18 第2のステップ
20 第3のステップ
22 局所的障害表示信号
24 高周波数帯域フィルタ
26 低周波数帯域フィルタ
28 第1の処理サブブロック
30 第2の処理サブブロック
32 第2の処理ブロック
34 第1のステップ
36 第3の処理サブブロック
38 第4の処理サブクロック
40 第2のステップ
42 第5の処理サブブロック
44 第3のステップ
46 局所的突入表示信号
48 最終トリップ信号
50 第3の処理ブロック
52 第1のANDゲート
54 第1のNOTゲート
56 第2のANDゲート
58 遅延ユニット
60 第2のNOTゲート
62 ORゲート