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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】インダクタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20231218BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20231218BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F27/24 J
H01F27/255
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019044776
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020150064
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】奥村 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】古川 佳宏
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-169407(JP,A)
【文献】特開平11-040979(JP,A)
【文献】特開2009-009985(JP,A)
【文献】実開昭48-088475(JP,U)
【文献】国際公開第2015/119004(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/075110(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-19/08、27/24-27/255
H01F 27/28、37/00、41/02
H01B 7/00-7/02、11/06-11/10、13/00、
H01B 13/06-13/26
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線、および、前記導線の周面全面に配置される絶縁膜を備える配線と、
前記配線を埋設する磁性層とを備え、
前記磁性層は、磁性粒子を含み、
前記磁性層は、前記配線の周面に接触し、前記配線の外周面全面を被覆する第1層と、前記第1層の表面に接触する第2層と、・・・第(n-1)層の表面に接触する第n層とを備え(nは、3以上の正数)、
前記第1層に含まれる磁性粒子は、略球形状を有し、
前記第2層~前記第n層に含まれる磁性粒子は、略扁平形状を有し、
前記磁性層における隣接する2つの層において、前記配線により近い層の比透磁率が、前記配線からより遠い層の比透磁率より、低いことを特徴とする、インダクタ。
【請求項2】
前記配線は、断面視略円形状を有することを特徴とする、請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記第2層~前記第n層のいずれかの層は、前記配線と中心を共有する断面視略円弧形状を有することを特徴とする、請求項2に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記第1層~前記第n層のいずれかの層は、前記配線から、前記配線の延びる方向および前記磁性層の厚み方向に直交する方向に延出する延出部を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のインダクタ。
【請求項5】
少なくとも前記第2層に含まれる磁性粒子が、前記配線の外周面に配向していることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インダクタは、電子機器などに搭載されて、電圧変換部材などの受動素子として用いられることが知られている。
【0003】
例えば、磁性体材料からなる直方体状のチップ本体部と、そのチップ本体部の内部に埋設された銅からなる内部導体とを備えるインダクタが提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-144526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のインダクタでは、直流重畳特性が不十分であるという不具合がある。
【0006】
本発明は、直流重畳特性に優れるインダクタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(1)は、導線、および、前記導線の周面全面に配置される絶縁膜を備える配線と、前記配線を埋設する磁性層とを備え、前記磁性層は、磁性粒子を含み、前記磁性層は、前記配線の周面に接触する第1層と、前記第1層の表面に接触する第2層と、・・・第(n-1)層の表面に接触する第n層とを備え(nは、3以上の正数)、前記磁性層における隣接する2つの層において、前記配線により近い層の比透磁率が、前記配線からより遠い層の比透磁率より、低い、インダクタを含む。
【0008】
本発明(2)は、前記配線は、断面視略円形状を有する、(1)に記載のインダクタを含む。
【0009】
本発明(3)は、前記第2層~前記第n層のいずれかの層は、前記配線と中心を共有する断面視略円弧形状を有する、(2)に記載のインダクタを含む。
【0010】
本発明(4)は、前記第1層~前記第n層のいずれかの層は、前記配線から、前記配線の延びる方向および前記磁性層の厚み方向に直交する方向に延出する延出部を有する、(1)~(3)のいずれか一項に記載のインダクタを含む。
【0011】
本発明(5)は、前記第1層に含まれる磁性粒子は、略球形状を有し、前記第2層~前記第n層に含まれる磁性粒子は、略扁平形状を有する、(1)~(4)のいずれか一項に記載のインダクタを含む。
【0012】
本発明(6)は、少なくとも前記第2層に含まれる磁性粒子が、前記配線の外周面に配向している(1)~(5)のいずれか一項に記載のインダクタを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインダクタは、直流重畳特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明のインダクタの一実施形態の正断面図を示す。
図2図2は、図1に示すインダクタの製造方法を説明する正断面図を示す。
図3図3は、第1の態様に対応するインダクタの正断面図を示す。
図4図4は、図3に示すインダクタの製造方法を説明する正断面図を示す。
図5図5は、第2の態様に対応するインダクタの正断面図を示す。
図6図6は、図5に示すインダクタの製造方法を説明する正断面図を示す。
図7図7は、図1に示すインダクタの変形例(第2層が延出部を備える変形例)の正断面図を示す。
図8図8は、図1に示すインダクタの変形例(第1層~第4層のそれぞれが1層からなる変形例)の正断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<一実施形態>
本発明のインダクタの一実施形態を、図1を参照して説明する。
【0016】
<インダクタの基本形態>
図1に示すように、このインダクタ1は、面方向に延びる形状を有する。具体的には、インダクタ1は、厚み方向に対向する一方面および他方面を有しており、これら一方面および他方面のいずれもが、面方向に含まれる方向であって、配線2(後述)が電流を伝送する方向(紙面奥行き方向に相当)および厚み方向に直交する第1方向に沿う平坦形状を有する。
【0017】
インダクタ1は、配線2と、磁性層3とを備える。
【0018】
<配線>
配線2は、断面視略円形状を有する。具体的には、配線2は、電流を伝送する方向である第2方向(伝送方向)(紙面奥行き方向)に直交する断面(第1方向断面)で切断したときに、略円形状を有する。
【0019】
配線2は、導線4と、それを被覆する絶縁膜5とを備える。
【0020】
導線4は、第2方向に長尺に延びる形状を有する導体線である。また、導線4は、配線2と中心軸線を共有する断面視略円形状を有する。
【0021】
導線4の材料としては、例えば、銅、銀、金、アルミニウム、ニッケル、これらの合金などの金属導体が挙げられ、好ましくは、銅が挙げられる。導線4は、単層構造であってもよく、コア導体(例えば、銅)の表面にめっき(例えば、ニッケル)などがされた複層構造であってもよい。
【0022】
導線4の半径は、例えば、25μm以上、好ましくは、50μm以上であり、また、例えば、2000μm以下、好ましくは、200μm以下である。
【0023】
絶縁膜5は、導線4を薬品や水から保護し、また、導線4と磁性層3との短絡を防止する。絶縁膜5は、導線4の外周面(円周面)全面を被覆する。
【0024】
絶縁膜5は、配線2と中心軸線(中心)を共有する断面視略円環形状を有する。
【0025】
絶縁膜5の材料としては、例えば、ポリビニルホルマール、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミド(ナイロンを含む)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタンなどの絶縁性樹脂が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0026】
絶縁膜5は、単層から構成されていてもよく、複数の層から構成されていてもよい。
【0027】
絶縁膜5の厚みは、円周方向のいずれの位置においても配線2の径方向において略均一であり、例えば、1μm以上、好ましくは、3μm以上であり、また、例えば、100μm以下、好ましくは、50μm以下である。
【0028】
絶縁膜5の厚みに対する導線4の半径の比は、例えば、1以上、好ましくは、5以上であり、例えば、500以下、好ましくは、100以下である。
【0029】
配線2の半径R(=導線4の半径および絶縁膜5の厚みの合計)は、例えば、25μm以上、好ましくは、50μm以上であり、また、例えば、2000μm以下、好ましくは、200μm以下である。
【0030】
<磁性層の概要(層構成、形状等)>
磁性層3は、インダクタ1のインダクタンスを向上させながら、インダクタ1の直流重畳特性も向上させる。磁性層3は、配線2の外周面(円周面)全面を被覆する。これにより、磁性層3は、配線2を埋設している。磁性層3は、インダクタ1の外形を形成する。具体的には、磁性層3は、面方向(第1方向および第2方向)に延びる矩形状を有する。より具体的には、磁性層3は、厚み方向に対向する一方面および他方面を有しており、磁性層3の一方面および他方面のそれぞれが、インダクタ1の一方面および他方面のそれぞれを形成する。
【0031】
磁性層3は、配線2を埋設する第1層10と、第1層10の表面に接触する第2層20と、第2層20の表面に接触する第3層30と、第3層30の表面に接触する第4層40とを備える。
【0032】
また、配線2と重複する位置(重複位置)では、配線2から、厚み方向両側に向かって、それぞれ、第1層10、第2層20、第3層30、および、第4層40が配列されている。厚み方向に投影した投影面において、配線2から第1方向にずれた位置においては、磁性層3の厚み方向中間部(中央部)から、厚み方向両側に向かって、それぞれ、第1層10、第2層20、第3層30、および、第4層40が配列されている。
【0033】
第1層10は、面方向に延びる形状を有しており、厚み方向に対向する一方面11および他方面12を有する。また、第1層10は、絶縁膜5の外周面(円周面)全面を被覆する。これにより、第1層10は、絶縁膜5を埋設している。そのため、第1層10は、絶縁膜5の外周面に接触する内周面13をさらに有する。
【0034】
第1層10は、配線2と中心を共有する断面視略円弧形状を含む。具体的には、第1層10は、断面視において、一方側第1円弧部分15と、他方側第1円弧部分16と、延出部17とを一体的に有する。
【0035】
一方側第1円弧部分15は、配線2の中心より厚み方向一方側に配置される。一方側第1円弧部分15は、断面視において、配線2の周面において、配線2の中心より厚み方向一方側の一方側エリア18と径方向に対向する。一方側第1円弧部分15の一方面11は、配線2と中心を共有する円弧面を形成する。一方側第1円弧部分15の中心角は、例えば、180度未満、好ましくは、135度以下であり、また、例えば、30度以上、好ましくは、60度以上である。
【0036】
他方側第1円弧部分16は、断面視において、配線2の周面において、配線2の中心より厚み方向他方側の他方側エリア19と径方向に対向する。他方側第1円弧部分16の他方面12は、配線2と中心を共有する円弧面を形成する。他方側第1円弧部分16の中心角は、例えば、180度未満、好ましくは、135度以下であり、また、例えば、30度以上、好ましくは、60度以上である。
【0037】
一方側第1円弧部分15および他方側第1円弧部分16の合計の中心角は、例えば、360度未満である。
【0038】
なお、他方側第1円弧部分16は、一方側第1円弧部分15に対して、配線2の中心を面方向に沿って通過する仮想面に対して、面対称である。
【0039】
延出部17は、配線2から第1方向外側に向かって延出する形状を有する。延出部17は、第1層10に2つ備えられる。2つの延出部17のそれぞれは、配線2の第1方向両外側のそれぞれに配置されている。2つの延出部17のそれぞれは、一方側第1円弧部分15および他方側第1円弧部分16の間の配線2の周面から、第1方向外側に向かって延出し、インダクタ1の第1方向両端面のそれぞれに至っている。延出部17における一方面11および他方面12は、平行する。延出部17は、平面視において、配線2の第1方向両外側において、第2方向に延びる2枚の平帯形状を有する。
【0040】
一方側第1円弧部分15および他方側第1円弧部分16のそれぞれの厚みは、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上であり、また、例えば、1000μm以下、好ましくは、800μm以下である。延出部17の厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、10μm以上であり、また、例えば、2000μm以下、好ましくは、1600μm以下である。
【0041】
第1層10の厚みは、一方側第1円弧部分15および他方側第1円弧部分16の合計厚みに相当し、また、延出部17の厚みにも相当する。具体的には、第1層10の厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、10μm以上であり、また、例えば、2000μm以下、好ましくは、1600μm以下、より好ましくは、1000μm以下、さらに好ましくは、500μm下である。
【0042】
磁性層3の厚み(後述)に対する第1層10の厚みの比は、例えば、0.01以上、好ましくは、0.05以上、より好ましくは、0.1以上、さらに好ましくは、0.2以上、とりわけ好ましくは、0.3以上であり、また、例えば、0.5以下、好ましくは、0.4以下である。
【0043】
磁性層3の厚みに対する第1層10の厚みの比が上記した下限以上であれば、第2層20と配線2との十分な距離を確保して、第2層20、第3層30および第4層40の磁気和を抑制し、つまり、優れた直流重畳特性を維持しつつ、比透磁率がより高い層を第2層20以降に配置できる。
【0044】
第2層20は、一方側第2層21と、他方側第2層22とを独立して有する。
【0045】
一方側第2層21は、第1層10の一方面11に接触している。一方側第2層21は、第1層10の一方側第1円弧部分15および2つの延出部17の一方面11に追従する形状を有する。一方側第2層21は、第1層10の一方面11に接触する他方面24と、他方面24の厚み方向一方側に間隔を隔てて配置される一方面23とを有する。一方側第2層21は、配線2と中心を共有する断面視略円弧形状の一方側第2円弧部27を有する。
【0046】
他方側第2層22は、一方側第2層21の厚み方向他方側に第1層10を隔てて対向配置されている。他方側第2層22は、第1層10の他方面12に接触している。他方側第2層22は、第1層10の他方側第1円弧部分16および2つの延出部17の他方面12に追従する形状を有する。他方側第2層22は、第1層10の他方面12に接触する一方面25と、一方面25の厚み方向他方側に間隔を隔てて配置される他方面26とを有する。他方側第2層22は、配線2と中心を共有する断面視略円弧形状の他方側第2円弧部28を有する。
【0047】
他方側第2層22は、一方側第2層21に対して、配線2の中心を面方向に沿って通過する仮想面に対して、面対称である。
【0048】
第2層20の厚みは、一方側第2層21および他方側第2層22の合計厚みであり、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上であり、また、例えば、1000μm以下、好ましくは、800μm以下である。
【0049】
磁性層3の厚み(後述)に対する第2層20の厚みの比は、例えば、0.01以上、好ましくは、0.05以上であり、また、例えば、0.5以下、好ましくは、0.4以下である。
【0050】
第1層10の厚みに対する第2層20の厚みの比は、例えば、0.1以上、好ましくは、0.2以上であり、また、例えば、100以下、好ましくは、10以下である。
【0051】
第3層30は、一方側第3層31と、他方側第3層32とを独立して有する。
【0052】
一方側第3層31は、一方側第2層21に接触している。また、一方側第3層31は、第1方向にわたって略同一厚みを有する。一方側第3層31は、一方側第2層21の一方面23に接触する他方面34と、他方面34の厚み方向一方側に間隔を隔てて対向配置される一方面33とを有する。一方側第3層31は、面方向に延びる形状を有する。
【0053】
他方側第3層32は、一方側第3層31の厚み方向他方側に、第1層10および第2層20を間隔を隔てて対向配置されている。また、他方側第3層32は、第1方向にわたって略同一厚みを有する。他方側第3層32は、他方側第2層22の他方面26に接触する一方面35と、一方面35の厚み方向他方側に間隔を隔てて対向配置される他方面36とを有する。他方側第3層32は、面方向に延びる形状を有する。
【0054】
他方側第3層32は、一方側第3層31に対して、配線2の中心を面方向に沿って通過する仮想面に対して、面対称である。
【0055】
第3層30の厚みは、一方側第3層31および他方側第3層32の合計厚みであり、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上であり、また、例えば、1000μm以下、好ましくは、800μm以下である。
【0056】
磁性層3の厚みに対する第3層30の厚みの比は、例えば、0.01以上、好ましくは、0.05以上であり、また、例えば、0.5以下、好ましくは、0.4以下である。
【0057】
第2層20の厚みに対する第3層30の厚みの比は、例えば、0.1以上、好ましくは、0.2以上であり、また、例えば、100以下、好ましくは、10以下である。
【0058】
第4層40は、一方側第4層41と、他方側第4層42とを独立して有する。
【0059】
一方側第4層41は、一方側第3層31に接触する。また、一方側第4層41は、第1方向にわたって略同一厚みを有する。一方側第4層41は、一方側第3層31の一方面33に接触する他方面44と、他方面44の厚み方向一方側に間隔を隔てて対向配置される一方面43とを有する。一方側第4層41の一方面43は、厚み方向一方側に露出する。一方面43は、第1方向および第2方向に沿う平坦面を有する。
【0060】
他方側第4層42は、一方側第4層41の厚み方向他方側に、第1層10、第2層20および第3層30を隔てて対向配置されている。また、他方側第4層42は、第1方向にわたって略同一厚みを有する。他方側第4層42は、他方側第3層32に接触している。他方側第4層42は、他方側第3層32の他方面36に接触する一方面45と、一方面45と間隔を隔てて対向配置される他方面46とを有する。他方面46は、厚み方向他方側に露出する。他方面46は、第1方向および第2方向に沿う平坦面を有する。
【0061】
第4層40の厚みは、一方側第4層41および他方側第4層42の合計厚みであり、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上であり、また、例えば、1000μm以下、好ましくは、800μm以下である。
【0062】
磁性層3の厚みに対する第4層42の厚みの比は、例えば、0.01以上、好ましくは、0.05以上であり、また、例えば、0.5以下、好ましくは、0.4以下である。
【0063】
第3層30の厚みに対する第4層40の厚みの比は、例えば、0.1以上、好ましくは、0.2以上であり、また、例えば、100以下、好ましくは、10以下である。
【0064】
磁性層3の厚みは、第1層10、第2層20、第3層30および第4層40の合計厚みであって、配線2の半径の、例えば、2倍以上、好ましくは、3倍以上であり、また、例えば、20倍以下である。具体的には、磁性層3の厚みは、例えば、100μm以上、好ましくは、200μm以上であり、また、例えば、3000μm以下、好ましくは、1500μm以下、より好ましくは、950μm以下、さらに好ましくは、900μm以下、とりわけ好ましくは、850μmである。なお、磁性層3の厚みは、磁性層3の一方面および他方面間の距離である。
【0065】
<磁性層の比透磁率>
第1層10、第2層20、第3層30、および、第4層40において、隣接する2つの層において、配線2により近い層の比透磁率が、配線2からより遠い層の比透磁率より、低い。
【0066】
磁性層3において、例えば、各層の磁性粒子の種類、形状および容積割合を適宜変更することにより、配線2により近い層の比透磁率を、配線2からより遠い層の比透磁率より、低く設定することができる。その詳細な調整(処方)の態様については、第1の態様~第2の態様で説明する。
【0067】
なお、比透磁率は、周波数10MHzで測定される。
【0068】
具体的には、第1層10の比透磁率が、第2層20の比透磁率より低い。第2層20の比透磁率が、第3層30の比透磁率より低い。第3層30の比透磁率が、第4層40の比透磁率より低い。
【0069】
また、第1層10、第2層20、第3層30、および、第4層40において、隣接する2つの層において、配線2からより遠い層の比透磁率に対する、配線2により近い層の比透磁率の比Rは、例えば、0.9以下、好ましくは、0.7以下、より好ましくは、0.5以下、さらに好ましくは、0.4以下、とりわけ好ましくは、0.3以下であり、また、例えば、0.01以上である。
【0070】
具体的には、第2層20の比透磁率に対する第1層10の比透磁率の比R1(第1層10の比透磁率/第2層20の比透磁率)は、0.9以下、好ましくは、0.7以下、より好ましくは、0.5以下、さらに好ましくは、0.4以下、とりわけ好ましくは、0.3以下であり、また、例えば、0.1以上である。
【0071】
第3層30の比透磁率に対する第2層20の比透磁率の比R2(第2層20の比透磁率/第3層30の比透磁率)は、0.9以下、好ましくは、0.88以下、より好ましくは、0.85以下であり、また、例えば、0.1以上、好ましくは、0.2以上、より好ましくは、0.4以上、より好ましくは、0.5以上、さらに好ましくは、0.6以上、とりわけ好ましくは、0.7以上である。
【0072】
第4層40の比透磁率に対する第3層30の比透磁率の比R3(第3層30の比透磁率/第4層40の比透磁率)は、0.9以下、好ましくは、0.8以下、より好ましくは、0.75以下、さらに好ましくは、0.7以下であり、また、例えば、0.1以上、好ましくは、0.2以上、より好ましくは、0.3以上である。
【0073】
上記した比R1~比R3は、いずれも同一または変動してもよく、好ましくは、比R1が比R2より小さく、また、比R2が比R3より小さい。
【0074】
比R2に対する比R1の割合は、例えば、0.9以下、好ましくは、0.8以下であり、また、例えば、0.2以上、好ましくは、0.3以上、より好ましくは、0.35以上である。
【0075】
比R3に対する比R2の割合は、例えば、例えば、0.8以下、好ましくは、0.7以下であり、また、例えば、0.3以上、好ましくは、0.5以上である
また、第1層10、第2層20、第3層30、および、第4層40において、隣接する2つの層において、配線2からより遠い層の比透磁率から、配線2により近い層の比透磁率を差し引いた値Dは、例えば、5以上、好ましくは、10以上、より好ましくは、15以上であり、また、例えば、100以下である。
【0076】
具体的には、第2層20の比透磁率から第1層10の比透磁率を差し引いた値D1(第2層20の比透磁率-第1層10の比透磁率)は、例えば、5以上、好ましくは、10以上、より好ましくは、25以上であり、また、例えば、50以下である。
【0077】
第3層30の比透磁率から第2層20の比透磁率を差し引いた値D2(第3層30の比透磁率-第2層20の比透磁率)は、例えば、5以上、好ましくは、10以上であり、また、例えば、50以下、好ましくは、40以下、より好ましくは、30以下である。
【0078】
第4層40の比透磁率から第3層30の比透磁率を差し引いた値D3(第4層40の比透磁率-第3層30の比透磁率)は、例えば、10以上、好ましくは、20以上であり、また、例えば、70以下である。
【0079】
また、上記した値D1~値D3は、いずれも同一または変動してもよい。
【0080】
上記した比透磁率の比R(R1~R3を含む)や、差D(差し引いた値)(D1~D3を含む)が、上記した下限以上であれば、インダクタ1の直流重畳特性を向上させることができる。
【0081】
上記した各層の比透磁率によって、各層を定義する。
【0082】
具体的には、磁性層3において、配線2の周面に接触する領域(第1層10の内周面13に相当する領域)の比透磁率を測定し、続いて、配線2から離れるように、連続的に比透磁率を測定し、最初に取得した比透磁率と同一の比透磁率を有する領域までを第1層10と定義する。これを、第2層20、第3層30および第4層40についても順に実施する。つまり、同一の比透磁率を有する領域を一の層として定義する。なお、比透磁率の測定を、上記では、第1層10の内周面13から実施しているが、例えば、第4層40の一方面43から実施することもできる。
【0083】
なお、後述するように、各層が複数の磁性シート(後述)(図2の仮想線参照)から形成される場合には、上記した定義を参酌すれば、各層を形成するための複数の磁性シートの比透磁率は、同一である。
【0084】
また、後述する製造方法において、磁性層3を形成するための第1シート51、第2シート52、第3シート53および第4シート54のそれぞれの比透磁率を予め測定し、これを、第1層10、第2層20、第3層30、および、第4層40のそれぞれの比透磁率とすることもできる。
【0085】
<磁性層の材料>
磁性層3は、磁性粒子を含有する。具体的には、磁性層3の材料として、例えば、磁性粒子およびバインダを含有する磁性組成物などが挙げられる。
【0086】
磁性粒子を構成する磁性材料としては、例えば、軟磁性体、硬磁性体が挙げられる。好ましくは、インダクタンスおよび直流重畳特性の観点から、軟磁性体が挙げられる。
【0087】
軟磁性体としては、例えば、1種類の金属元素を純物質の状態で含む単一金属体、例えば、1種類以上の金属元素(第1金属元素)と、1種類以上の金属元素(第2金属元素)および/または非金属元素(炭素、窒素、ケイ素、リンなど)との共融体(混合物)である合金体が挙げられる。これらは、単独または併用することができる。
【0088】
単一金属体としては、例えば、1種類の金属元素(第1金属元素)のみからなる金属単体が挙げられる。第1金属元素としては、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、その他、軟磁性体の第1金属元素として含有することが可能な金属元素の中から適宜選択される。
【0089】
また、単一金属体としては、例えば、1種類の金属元素のみを含むコアと、そのコアの表面の一部または全部を修飾する無機物および/または有機物を含む表面層とを含む形態、例えば、第1金属元素を含む有機金属化合物や無機金属化合物が分解(熱分解など)された形態などが挙げられる。後者の形態として、より具体的には、第1金属元素として鉄を含む有機鉄化合物(具体的には、カルボニル鉄)が熱分解された鉄粉(カルボニル鉄粉と称される場合がある)などが挙げられる。なお、1種類の金属元素のみを含む部分を修飾する無機物および/または有機物を含む層の位置は、上記のような表面に限定されない。なお、単一金属体を得ることができる有機金属化合物や無機金属化合物としては、特に制限されず、軟磁性体の単一金属体を得ることができる公知乃至慣用の有機金属化合物や無機金属化合物から適宜選択することができる。
【0090】
合金体は、1種類以上の金属元素(第1金属元素)と、1種類以上の金属元素(第2金属元素)および/または非金属元素(炭素、窒素、ケイ素、リンなど)との共融体であり、軟磁性体の合金体として利用することができるものであれば特に制限されない。
【0091】
第1金属元素は、合金体における必須元素であり、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などが挙げられる。なお、第1金属元素がFeであれば、合金体は、Fe系合金とされ、第1金属元素がCoであれば、合金体は、Co系合金とされ、第1金属元素がNiであれば、合金体は、Ni系合金とされる。
【0092】
第2金属元素は、合金体に副次的に含有される元素(副成分)であり、第1金属元素に相溶(共融)する金属元素であって、例えば、鉄(Fe)(第1金属元素がFe以外である場合)、コバルト(Co)(第1金属元素がCo以外である場合)、ニッケル(Ni)(第1金属元素Ni以外である場合)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、銀(Ag)、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ストロンチウム(Sr)、各種希土類元素などが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0093】
非金属元素は、合金体に副次的に含有される元素(副成分)であり、第1金属元素に相溶(共融)する非金属元素であって、例えば、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)などが挙げられる。これらは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0094】
合金体の一例であるFe系合金として、例えば、磁性ステンレス(Fe-Cr-Al-Si合金)(電磁ステンレスを含む)、センダスト(Fe-Si-Al合金)(スーパーセンダストを含む)、パーマロイ(Fe-Ni合金)、Fe-Ni-Mo合金、Fe-Ni-Mo-Cu合金、Fe-Ni-Co合金、Fe-Cr合金、Fe-Cr-Al合金、Fe-Ni-Cr合金、Fe-Ni-Cr-Si合金、ケイ素銅(Fe-Cu-Si合金)、Fe-Si合金、Fe-Si―B(-Cu-Nb)合金、Fe-B-Si-Cr合金、Fe-Si-Cr-Ni合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Al-Ni-Cr合金、Fe-Ni-Si-Co合金、Fe-N合金、Fe-C合金、Fe-B合金、Fe-P合金、フェライト(ステンレス系フェライト、さらには、Mn-Mg系フェライト、Mn-Zn系フェライト、Ni-Zn系フェライト、Ni-Zn-Cu系フェライト、Cu-Zn系フェライト、Cu-Mg-Zn系フェライトなどのソフトフェライトを含む)、パーメンジュール(Fe-Co合金)、Fe-Co-V合金、Fe基アモルファス合金などが挙げられる。
【0095】
合金体の一例であるCo系合金としては、例えば、Co-Ta-Zr、コバルト(Co)基アモルファス合金などが挙げられる。
【0096】
合金体の一例であるNi系合金としては、例えば、Ni-Cr合金などが挙げられる。
【0097】
好ましくは、これら軟磁性体から、第1層10、第2層20、第3層30および第4層40のそれぞれの上記した比透磁率を満足するように、適宜選択される。
【0098】
磁性粒子の形状は、特に限定されず、略扁平形状(板形状)、略針形状(略紡錘(フットボール)形状を含む)などの異方性を示す形状、例えば、略球形状、略顆粒形状、略塊形状などの等方性を示す形状などが挙げられる。磁性粒子の形状としては、上記から、第1層10、第2層20、第3層30および第4層40のそれぞれの上記した比透磁率を満足するように、適宜選択される。
【0099】
磁性粒子の最大長さの平均値は、例えば、0.1μm以上、好ましくは、0.5μm以上であり、また、例えば、200μm以下、好ましくは、150μm以下である。磁性粒子の最大長さの平均値は、磁性粒子の中位粒子径として算出することができる。
【0100】
磁性粒子の磁性組成物における容積割合(充填率)は、例えば、10容積%以上、好ましくは、20容積%以上であり、また、例えば、90容積%以下、好ましくは、80容積%以下である。
【0101】
磁性粒子の種類、形状、大きさ、容積割合などを適宜変更することによって、第1層10、第2層20、第3層30および第4層40の比透磁率が所望の関係を満足する。
【0102】
バインダとしては、例えば、アクリル樹脂などの熱可塑性成分、例えば、エポキシ樹脂組成物などの熱硬化性成分が挙げられる。アクリル樹脂は、例えば、カルボキシル基含有アクリル酸エステルコポリマーを含む。エポキシ樹脂組成物は、例えば、主剤であるエポキシ樹脂(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)と、エポキシ樹脂用硬化剤(フェノール樹脂など)と、エポキシ樹脂用硬化促進剤(イミダゾール化合物など)とを含む。
【0103】
バインダとしては、熱可塑性成分および熱硬化性成分をそれぞれ単独使用または併用することができ、好ましくは、熱可塑性成分および熱硬化性成分を併用する。
【0104】
なお、上記した磁性組成物のより詳細な処方については、特開2014-165363号公報などに記載される。
【0105】
<インダクタの製造方法>
このインダクタ1の製造方法を、図2を参照して説明する。
【0106】
このインダクタ1を製造するには、まず、配線2を準備する。
【0107】
続いて、2つの第1シート51、2つの第2シート52、2つの第3シート53および2つの第4シート54を調製する。
【0108】
第1シート51、第2シート52、第3シート53、および、第4シート54は、それらが含有する磁性粒子の種類、形状および容積割合などを変更することによって、下記式(1)~(3)のいずれをも満足するような比透磁率を有する。
【0109】
第1シート51の比透磁率<第2シート52の比透磁率 (1)
第2シート52の比透磁率<第3シート53の比透磁率 (2)
第3シート53の比透磁率<第4シート54の比透磁率 (3)
具体的には、磁性粒子を含有する第1シート51、第2シート52、第3シート53、および、第4シート54を、上記のような処方で調製して、第1シート51、第2シート52、第3シート53、および、第4シート54の比透磁率を調整する。
【0110】
第1シート51、第2シート52、第3シート53、第4シート54は、それぞれ、第1層10、第2層20、第3層30、および、第4層40を形成するための磁性シートである。上記した各シートを、上記した磁性組成物から面方向に延びる板形状に形成する。
【0111】
なお、用途および目的応じて、一方の第1シート51は、単層でもよく、または、複層(2層以上)(図2の仮想線参照)からなっていてもよい。他方の第1シート51、さらには、第2シート52のそれぞれ、第3シート53のそれぞれ、および、第4シート54のそれぞれについても、同様である。
【0112】
次いで、第1シート51、第2シート52、第3シート53および第4シート54を、この順で、配線2の厚み方向両側のそれぞれに配置する。具体的には、2つの第1シート51を、配線2を挟むように配置する。第2シート52、第3シート53および第4シート54は、第1シート51に対して、この順で配線2から遠ざかるように配置する。
【0113】
具体的には、厚み方向一方側に向かって順に、第4シート54、第3シート53、第2シート52、第1シート51、配線2、第1シート51、第2シート52、第3シート53、第4シート54を配置する。
【0114】
続いて、例えば、これらを熱プレスする。熱プレスでは、例えば、平板プレスが用いられる。
【0115】
これによって、図1に示すように、第1シート51、第2シート52、第3シート53、および、第4シート54が、変形して、それぞれ、第1層10、第2層20、第3層30および第4層40を形成する。
【0116】
詳しくは、例えば、第1シート51は、板形状から、一方側第1円弧部分15と、他方側第1円弧部分16とを有し、配線2を埋設する形状に変形し、これによって、第1層10が形成される。
【0117】
第2シート52は、板形状から、一方側第2円弧部27と他方側第2円弧部28とを有し、第1層10の一方面11および他方面12に追従する形状に変形し、これによって、第2層10が形成される。
【0118】
また、第3シート53および第4シート54から、それぞれ、第3層30および第4層40が形成される。
【0119】
なお、磁性組成物が熱硬化性成分を含有する場合には、熱プレスと同時またはその後の加熱によって、磁性組成物が熱硬化する。
【0120】
これによって、配線2を埋設する磁性層3が形成される。
【0121】
これによって、配線2および磁性層3を備え、磁性層3の第1層10、第2層20、第3層30および第4層40では、隣接する2つの層において、配線2により近い層の比透磁率が、配線2からより遠い層の比透磁率より低い、インダクタ1が製造される。
【0122】
そして、このインダクタ1では、上記した比透磁率の第1層10、第2層20、第3層30、および、第4層40を有する磁性層3を備える。
【0123】
そのため、このインダクタ1は、直流重畳特性に優れる。
【0124】
このことは、配線2近傍ほど比透磁率が低く磁気飽和が生じにくいことが理由であると推測される。
【0125】
また、このインダクタ1では、第1層10が延出部17を備えるので、直流重畳特性の向上に寄与する磁性粒子(フィラー)の絶対量が多くなり、そのため、直流重畳特性を向上させる。
【0126】
(変形例)
変形例において、一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、変形例は、特記する以外、一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態およびその変形例を適宜組み合わせることができる。
【0127】
上記した一実施形態では、図1に示すように、磁性層3が、第1層10~第4層を備えるが、磁性層3は、n層(nは、3以上の正数)を有すれば、特に限定されず、例えば、図示しないが、磁性層3が、第4層40を備えず、第1層10~第3層30(nが3である態様)を備えてよい。また、磁性層3が、第1層10~第5層(nが5である態様)を備えることもできる。
【0128】
また、上記した一実施形態では、図1に示すように、配線2が、断面視略円形状を有するが、その断面視形状は、特に限定されず、例えば、図示しないが、断面視略矩形状、断面視楕円形状であってもよい。
【0129】
一実施形態では、延出部17は、配線2の周面からインダクタ1の第1方向端面まで至っているが、例えば、図示しないが、配線2の周面からインダクタ1の第1方向端面まで至らず、配線2の周面とインダクタ1の第1方向端面との間の中間部まで、延出させることもできる。
【0130】
一実施形態では、延出部17を第1層10に設けたが、磁性層3におけるいずれの層にも設けることができ、例えば、図7に示すように、第2層20に設けることができる。
【0131】
図7に示すように、第1層10は、断面視略円環形状を有する。第1層10は、内周面13と、内周面13に対して径方向外側に位置する外周面14とを有する。
【0132】
第2層10は、一方側第2円弧部27、他方側第2円弧部28、および、延出部17を有する。
【0133】
図8に示すように、第2層20、第3層30および第4層40のそれぞれが、1層からなっていてもよい。
【0134】
第2層20は、第1層10の一方面11に配置されている。第2層20は、第1層10の一方面11に接触する他方面24と、他方面24に対向する一方面23とを有する。
【0135】
第3層30は、第2層20の一方面23に配置されている。第3層30は、第2層の一方面23に接触する他方面34と、他方面34に対向する一方面33とを有する。
【0136】
第4層40は、第3層30の一方面33に配置されている。第4層40は、第3層30の一方面33に接触する他方面44と、他方面44に対向する一方面43とを有する。
【0137】
また、第3層30が、断面視略円弧形状を有することができる。
【0138】
そして、磁性層3における各層の磁性粒子の種類、形状および容積割合を適宜変更することにより、第1層10、第2層20、第3層30および第4層40において、配線2により近い層の比透磁率を、配線2からより遠い層の比透磁率より、低くしている。
【0139】
(具体的態様)
以下に第1の態様~第2の態様において、磁性層3における各層における磁性粒子の種類、形状、容積割合などを変更することにより、配線2により近い層の比透磁率を、配線2からより遠い層の比透磁率より低くした具体的態様を、図3図6を参照して、説明する。
【0140】
なお、図1図2では、磁性粒子を描画していないが、図3図6では、磁性粒子の形状、第2の磁性粒子の配向を容易に理解するために、描画している。但し、図3図6では、磁性粒子の形状および配向等を誇張して描画している。
【0141】
(第1の態様)
第1の態様のインダクタ1を、図3図4を参照して、説明する。
【0142】
図3に示すように、第1の態様のインダクタ1において、第1層10は、略球形状を有する第1の磁性粒子61を含有し、第2層20、第3層30および第4層40は、略扁平形状を有する第2の磁性粒子62を含有する。
【0143】
第1の磁性粒子61は、第1層10において、配向せず、均一(等方的)に分散している。第1の磁性粒子61の平均粒子径は、例えば、0.1μm以上、好ましくは、0.5μm以上であり、また、例えば、100μm以下、好ましくは、50μm以下である。第1の磁性粒子61の磁性材料としては、好ましくは、有機鉄化合物が熱分解された鉄粉、より好ましくは、カルボニル鉄粉(10MHzにおける比透磁率:例えば、1.1以上、好ましくは、3以上、また、例えば、25以下、好ましくは、20以下)が挙げられる。
【0144】
第1層10は、略球形状の第1の磁性粒子61を含有するので、その比透磁率を、後述する略扁平形状の第2の磁性粒子62を含有する第2層20の比透磁率より、確実に低く設定することができる。また、略球形状の第1の磁性粒子61であれば、インダクタ1が優れたインダクタンスを有する。さらに、略球形状の第1の磁性粒子61であれば、磁気飽和を抑制できる。
【0145】
第2の磁性粒子62は、第2層20、第3層30および第4層40のそれぞれにおいて、各層に沿う方向に配向している。
【0146】
具体的には、第2の磁性粒子62は、第2層20の一方側第2円弧部27および他方側第2円弧部28においては、配線2の円周方向に配向している。なお、第2の磁性粒子62の面方向と、第2の磁性粒子62と径方向内側に対向する配線2の円周面に接する接線とがなす角度が、15度以下である場合を、第2の磁性粒子62が円周方向に配向していると定義する。
【0147】
また、第2の磁性粒子62は、第3層30および第4層40において、その面方向に沿って配向している。
【0148】
第2の磁性粒子62の最大長さの平均値は、例えば、3.5μm以上、好ましくは、10μm以上であり、また、例えば、200μm以下、好ましくは、150μm以下である。
【0149】
第2の磁性粒子62の材料としては、好ましくは、Fe-Si合金(10MHzにおける比透磁率:25以上)が挙げられる。
【0150】
例えば、第2層20、第3層30および第4層40の第2の磁性粒子62の種類が同一である場合には、第2層20、第3層30および第4層40の第2の磁性粒子62の容積割合を調整する。この場合には、配線2により近い層における第2の磁性粒子62の容積割合を、配線2からより遠い層における第2の磁性粒子62の容積割合より、低く設定する。
【0151】
また、第2層20、第3層30および第4層40の第2の磁性粒子62の容積割合が略同一である場合には、第2層20、第3層30および第4層40の第2の磁性粒子62の種類を変更する。この場合には、配線2により近い層における第2の磁性粒子62の比透磁率を、配線2からより遠い層における第2の磁性粒子62の比透磁率より、低くなるように、第2の磁性粒子62の種類を選択する。
【0152】
また、第2の磁性粒子62の容積割合および比透磁率の両方を変更することもできる。
【0153】
このインダクタ1を製造するには、図4に示すように、第1の磁性粒子61を含有する第1シート51と、比透磁率が同一または異なる第2の磁性粒子62を同一または異なる容積割合で含有する第2シート52、第3シート53および第4シート54とを準備する。第2の磁性粒子62は、第2シート52、第3シート53および第4シート54のそれぞれにおいて、面方向に配向している。
【0154】
その後、配線2と、上記した第1シート51~第4シート54とを熱プレスする。
【0155】
そして、このインダクタ1は、第1層10は、略球形状の第1の磁性粒子61を含有し、第2層20、第3層30および第4層40が、略扁平形状の第2の磁性粒子62を有する。
【0156】
そうすると、第1の磁性粒子61が、第1層10において等方的に配置される一方、第2層20の一方側第2円弧部27および他方側第2円弧部28においては、第2の磁性粒子62が、円周方向に配向することができる。そのため、このインダクタ1は、直流重畳特性と、高インダクタンスとの両方に優れる。
【0157】
また、第2層20に含まれる略扁平形状の第2の磁性粒子62が配線2の外周面に配向するので、インダクタ1は、インダクタンスに優れる。
【0158】
(第2の態様)
第2の態様のインダクタ1を、図5図6を参照して、説明する。
【0159】
図5に示すように、第2の態様のインダクタ1において、第1層10、第2層20、第3層30および第4層30は、いずれも、略扁平形状の第2の磁性粒子62を含有する。第2の磁性粒子62は、略扁平形状を有する。第2の磁性粒子62は、第1層10、第2層20、第3層30および第4層30のそれぞれにおいて、各層に沿う方向に配向している。
【0160】
具体的には、第2の磁性粒子62は、第1層10の一方側第1円弧部15および他方側第1円弧部16において、配線2の円周方向に配向し、延出部17において、面方向に配向している。また、第2の磁性粒子62は、一方側第2円弧部27および他方側第2円弧部28において、配線2の円周方向に配向している。一方、第2の磁性粒子62は、第3層30および第4層40において、その面方向に沿って配向している。
【0161】
例えば、第1層10、第2層20、第3層30および第4層30の第2の磁性粒子62の種類が同一である場合には、第1層10、第2層20、第3層30および第4層30の第2の磁性粒子62の容積割合を調整する。この場合には、配線2により近い層における第2の磁性粒子62の容積割合を、配線2からより遠い層における第2の磁性粒子62の容積割合より、低く設定する。具体的には、第2層20における第2の磁性粒子62の容積割合に対する、第1層10における第2の磁性粒子62の容積割合の比が、例えば、1未満、好ましくは、0.9以下、より好ましくは、0.8以下であり、また、例えば、0.5以上、また、0.6以上である。第3層30および第4層40の第2の磁性粒子62の容積割合についても、上記と同様である。
【0162】
また、第1層10、第2層20、第3層30および第4層30における第2の磁性粒子62の容積割合が略同一である場合には、第1層10、第2層20、第3層30および第4層30の第2の磁性粒子62の種類を変更する。この場合には、配線2により近い層における第2の磁性粒子62の比透磁率を、配線2からより遠い層における第2の磁性粒子62の比透磁率より、低くなるように、第2の磁性粒子62の種類を選択する。
【0163】
また、第2の磁性粒子62の容積割合を変更する方法、および、第2の磁性粒子62の比透磁率を変更する方法の両方を採用することができる。
【0164】
第1層10~第4層40の比透磁率の調整の幅がより広い観点から、好ましくは、第2の磁性粒子62の容積割合を変更する方法よりも、第2の磁性粒子62の比透磁率を変更する方法が採用される。
【0165】
一方、優れた生産性を確保する観点から、好ましくは、第2の磁性粒子62の比透磁率を変更する方法よりも、第2の磁性粒子62の容積割合を変更する方法が採用される。
【0166】
また、第1の態様および第2の態様のうち、好ましくは、第1の態様である。第1の態様は、第2の態様より、第1層10の比透磁率を、第2層20の比透磁率より、確実かつ容易に、低くすることができる。
【0167】
第2の態様のインダクタ1を製造するには、図6に示すように、比透磁率が同一または異なる第2の磁性粒子62を同一または異なる容積割合で含有する第1シート51、第2シート52、第3シート53および第4シート54を準備する。第2の磁性粒子62は、第1シート51、第2シート52、第3シート53および第4シート54のそれぞれにおいて、面方向に配向している。
【0168】
その後、配線2と、上記した第1シート51~第4シート54とを熱プレスする。
【0169】
(さらなる変形例)
図示しないが第1層10~第4層40の全てが、例えば、等方性の磁性粒子、具体的には、略球形状の第1の磁性粒子61を含有してもよい。
【実施例
【0170】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0171】
調製例1
<バインダの調製>
表1に記載の処方に従って、バインダを調製した。
【0172】
実施例1
<第1の態様に基づくインダクタの製造例>
まず、半径が130μmの配線2を準備した。導線4の半径が115μmであり、絶縁膜5の厚みが15μmである。
【0173】
第1シート51、第2シート52、第3シート53および第4シート54を、表2に記載の磁性粒子の種類、充填率となるように、作製した。
【0174】
第1シート51として、厚み60μmのシートを4枚準備した。第2シート52として、厚み130μmのシートを8枚準備した。第3シート53として、厚み60μmのシートを8枚準備した。第4シート54として、厚み100μmのシートを4枚準備した。
【0175】
そして、厚み方向一方側に向かって、2枚の第4シート54、4枚の第3シート53、、4枚の第2シート52、2枚の第1シート51、配線2、2枚の第1シート51、4枚の第2シート52、4枚の第3シート53、2枚の第4シート54を、順に配置した。
【0176】
続いて、平板プレスを用いて、これらを熱プレスし、これにより、磁性層3を形成した。
【0177】
これによって、配線2およびこれを埋設する磁性層3を備えるインダクタ1を製造した。インダクタ1の厚みは、975μmであった。
【0178】
実施例4、参考例1、2、および、比較例1
磁性シートの処方を表3~表6に従って変更した以外は、実施例1と同様に、インダクタ1を製造した。
【0179】
なお、参考例1のインダクタ1は、第2の態様(詳しくは、磁性層における各層の磁性粒子の種類を変更する態様)に対応する。
【0180】
また、参考例2のインダクタ1は、第2の態様(詳しくは、磁性層における各層における磁性粒子の含有割合(充填率)を変更する態様)に対応する。
【0181】
また、実施例4のインダクタ1は、第2の態様であって、磁性層における各層の磁性粒子の種類および含有割合(充填率)の両方を変更する態様である。
【0182】
<評価>
下記の事項を評価し、その結果を表2~表7に記載する。
【0183】
<比透磁率>
実施例1、4、参考例1、2、および、比較例1の第1シート51と、実施例1、4、および、参考例1、2の第2シート52と、実施例1、4、および、参考例1、2の第3シート53と、実施例1および参考例2の第4シート54とのそれぞれの比透磁率を、磁性材料テストフィクスチャを使用したインピーダンスアナライザ(Agilent社製、「4291B」)によって測定した
<直流重畳特性>
DCバイアステストフィクスチャおよびDCバイアス電源を取り付けたインピーダンスアナライザ(桑木エレクトロニクス社製、「65120B」)を用い、実施例1、4、参考例1、2、および、比較例1のインダクタ1の導線4に10Aの電流を流して、インダクタンス低下率を測定することにより、直流重畳特性を評価した。
【0184】
インダクタンス低下率は、下記式に基づいて算出した。
[DCバイアス電流を印加しない状態でのインダクタンス-DCバイアス電流を印加した状態でのインダクタンス]/[DCバイアス電流を印加した状態でのインダクタンス]×100(%)
【0185】
【表1】
【0186】
【表2】
【0187】
【表3】
【0188】
【表4】
【0189】
【表5】
【0190】
【表6】
【0191】
【表7】
【符号の説明】
【0192】
1 インダクタ
2 配線
3 磁性層
4 導線
5 絶縁膜
10 第1層
20 第2層
30 第3層
40 第4層
17 延出部
61 第1の磁性粒子(略球形状の磁性粒子)
62 第2の磁性粒子(略平板形状の磁性粒子)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8