(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】医用画像処理装置および医用画像処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20231218BHJP
G06T 5/00 20060101ALI20231218BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
A61B6/03 360B
A61B6/03 360D
A61B6/03 360J
G06T5/00 705
G06T1/00 290
(21)【出願番号】P 2019150822
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悠
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大雅
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-085198(JP,A)
【文献】特開2011-131040(JP,A)
【文献】特開2012-232062(JP,A)
【文献】米国特許第8594402(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00
G06T 5/00
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取得される医用画像のノイズを低減する医用画像処理装置であって、
前記医用画像の平滑化画像を生成する平滑化部と、
前記平滑化画像において連続して位置する画素群であってルート条件を満たすルートを生成するルート生成部と、
前記ルートに対応する画素群を前記医用画像から抽出し、抽出された画素群に基づいて前記医用画像のノイズを低減するノイズ低減部と、を備え
、
前記ルート生成部は、前記平滑化画像の中から選択された起点画素を注目画素に設定した後、前記注目画素に隣接する画素群から前記注目画素の画素値との差異が最小の画素を新たな注目画素に設定することをルート条件が満たされなくなるまで繰り返すことにより、前記起点画素から最新の注目画素までの画素群を前記ルートとして生成することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の医用画像処理装置であって、
前記ルート生成部は、前記平滑化部での平滑化強度に応じて、前記ルート条件を設定することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の医用画像処理装置であって、
前記ルート条件は、前記ルートの起点画素の画素値と注目画素の画素値との差異の上限値であり、
前記ルート生成部は、前記平滑化強度が大きいほど前記上限値を小さく設定することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項4】
請求項2に記載の医用画像処理装置であって、
前記ルート条件は、前記ルートの連続する画素の数の上限値であり、
前記ルート生成部は、前記平滑化強度が大きいほど前記上限値を小さく設定することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の医用画像処理装置であって、
前記ノイズ低減部によって低減されるノイズの種類が粒状ノイズである場合、前記平滑化部は前記医用画像を平滑化することによって前記平滑化画像を生成し、
前記ノイズ低減部によって低減されるノイズの種類が線状ノイズである場合、前記平滑化部は前記医用画像の生成に用いられる投影データを平滑化することによって平滑化投影データを取得し、前記平滑化投影データを再構成処理することにより前記平滑化画像を生成することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項6】
請求項
1に記載の医用画像処理装置であって、
前記ルート生成部は、前記平滑化画像の中の全ての画素を前記起点画素として選択し、前記起点画素のそれぞれに対して前記ルートを生成することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の医用画像処理装置であって、
前記ノイズ低減部は、前記抽出された画素群の画素値の代表値を算出し、前記医用画像において前記ルートの起点画素に対応する画素の画素値を前記代表値に置換することを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項8】
請求項
7に記載の医用画像処理装置であって、
前記代表値は、前記抽出された画素群の画素値の平均値、中央値、起点画素からの距離が短いほど大きくなる1未満の重み係数を用いて算出される加重加算値のいずれかであることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項9】
取得される医用画像のノイズを低減する医用画像処理方法であって、
前記医用画像の平滑化画像を生成する平滑化ステップと、
前記平滑化画像において連続して位置する画素群であってルート条件を満たすルートを生成するルート生成ステップと、
前記医用画像において前記ルートに対応する画素群を抽出し、抽出された画素群に基づいて前記医用画像のノイズを低減するノイズ低減ステップと、を備え
、
前記ルート生成ステップでは、前記平滑化画像の中から選択された起点画素を注目画素に設定した後、前記注目画素に隣接する画素群から前記注目画素の画素値との差異が最小の画素を新たな注目画素に設定することをルート条件が満たされなくなるまで繰り返すことにより、前記起点画素から最新の注目画素までの画素群が前記ルートとして生成されることを特徴とする医用画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT(Computed Tomography)装置等の医用画像撮影装置によって得られる医用画像を扱う医用画像処理装置および医用画像処理方法に係り、医用画像に含まれる構造物の境界を維持しながらノイズを低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医用画像撮影装置の一例であるX線CT装置は、被検体の周囲からX線を照射して複数の投影角度における投影データを取得し、投影データを逆投影処理することによって被検体の断層画像、いわゆる再構成画像を生成する装置である。生成された再構成画像は医用画像として被検体の診断に用いられる。医用画像に含まれるノイズは診断の妨げになるので、様々なノイズ低減の方法が開発されている。
【0003】
特許文献1には、注目画素に隣接する隣接画素から連続して位置する画素で形成される事前に設定されたルート上で、終了条件を満たさなくなるまでの画素群を求め、求められた画素群を用いて注目画素からノイズを除去することが開示されている。特許文献1によれば、構造物の有無にかかわらず、ノイズを低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1では、含まれるノイズが多い医用画像、例えば被ばく低減のために低線量のX線照射で生成された再構成画像に対して、終了条件を満たさなくなるまでの画素群を正確に求められない場合がある。このような場合、構造物の境界を維持できなかったり、ノイズの低減が不十分になったりする。
【0006】
そこで本発明は、含まれるノイズが多い医用画像であっても、構造物の境界を維持しながらノイズを低減することが可能な医用画像処理装置および医用画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、取得される医用画像のノイズを低減する医用画像処理装置であって、前記医用画像の平滑化画像を生成する平滑化部と、前記平滑化画像において連続して位置する画素群であってルート条件を満たすルートを生成するルート生成部と、前記医用画像において前記ルートに対応する画素群を抽出し、抽出された画素群に基づいて前記医用画像のノイズを低減するノイズ低減部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、取得される医用画像のノイズを低減する医用画像処理方法であって、前記医用画像の平滑化画像を生成する平滑化ステップと、前記平滑化画像において連続して位置する画素群であってルート条件を満たすルートを生成するルート生成ステップと、前記医用画像において前記ルートに対応する画素群を抽出し、抽出された画素群に基づいて前記医用画像のノイズを低減するノイズ低減ステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、含まれるノイズが多い医用画像であっても、構造物の境界を維持しながらノイズを低減することが可能な医用画像処理装置および医用画像処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】医用画像撮影装置の一例であるX線CT装置の全体構成図
【
図6】
図4の平滑化ステップの流れの他の例を示す図
【
図7】
図4のルート生成ステップの流れの一例を示す図
【
図8】
図4のノイズ低減ステップの流れの一例を示す図
【
図9】ノイズによってルート生成の結果が変化することを示す図
【
図10】平滑化によって等高線の法線方向が変化しないことを示す図
【
図11】ノイズ付加画像の平滑化画像の等高線を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に従って本発明に係る医用画像処理装置及び医用画像処理方法の実施例について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【実施例1】
【0012】
図1は医用画像処理装置1のハードウェア構成を示す図である。医用画像処理装置1は、CPU(Central Processing Unit)2、主メモリ3、記憶装置4、表示メモリ5、表示装置6、コントローラ7、入力装置8、ネットワークアダプタ10がシステムバス11によって信号送受可能に接続されて構成される。医用画像処理装置1は、ネットワーク12を介して医用画像撮影装置13や医用画像データベース14と信号送受可能に接続される。ここで、「信号送受可能に」とは、電気的、光学的に有線、無線を問わずに、相互にあるいは一方から他方へ信号送受可能な状態を示す。
【0013】
CPU2は、各構成要素の動作を制御する装置である。CPU2は、記憶装置4に格納されるプログラムやプログラム実行に必要なデータを主メモリ3にロードして実行する。記憶装置4は、CPU2が実行するプログラムやプログラム実行に必要なデータを格納する装置であり、具体的にはHHD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid state Drive)等である。各種データはLAN(Local Area Network)等のネットワーク12を介して送受信される。主メモリ3は、CPU2が実行するプログラムや演算処理の途中経過を記憶するものである。
【0014】
表示メモリ5は、液晶ディスプレイ等の表示装置6に表示するための表示データを一時格納するものである。入力装置8は、操作者が医用画像処理装置1に対して操作指示を行う操作デバイスであり、具体的にはキーボードやマウス、タッチパネル等である。マウスはトラックパッドやトラックボール等の他のポインティングデバイスであっても良い。コントローラ7は、マウスの状態を検出して、表示装置6上のマウスポインタの位置を取得し、取得した位置情報等をCPU2へ出力するものである。ネットワークアダプタ10は、医用画像処理装置1をLAN、電話回線、インターネット等のネットワーク12に接続するためのものである。
【0015】
医用画像撮影装置13は、被検体の断層画像等の医用画像を取得する装置である。医用画像撮影装置13は、例えばX線CT装置であり、
図2を用いて後述する。医用画像データベース14は、医用画像撮影装置13によって取得された医用画像を記憶するデータベースシステムである。
【0016】
図2を用いて医用画像撮影装置13の一例であるX線CT装置100の全体構成を説明する。なお、
図2において、横方向をX軸、縦方向をY軸、紙面に垂直な方向をZ軸とする。X線CT装置100は、スキャナ200と操作ユニット250を備える。スキャナ200は、X線管211、検出器212、コリメータ213、駆動部214、中央制御部215、X線制御部216、高電圧発生部217、スキャナ制御部218、寝台制御部219、コリメータ制御部221、プリアンプ222、A/Dコンバータ223、寝台240等を有する。
【0017】
X線管211は寝台240上に載置された被検体210にX線を照射する装置である。X線制御部216から送信される制御信号に従って高電圧発生部217が発生する高電圧がX線管211に印加されることによりX線管211から被検体にX線が照射される。
【0018】
コリメータ213はX線管211から照射されるX線の照射範囲を制限する装置である。X線の照射範囲は、コリメータ制御部221から送信される制御信号に従って設定される。
【0019】
検出器212は被検体210を透過したX線を検出することにより透過X線の空間的な分布を計測する装置である。検出器212はX線管211と対向配置され、X線管211と対向する面内に多数の検出素子が二次元に配列される。検出器212で計測された信号はプリアンプ222で増幅された後、A/Dコンバータ223でデジタル信号に変換される。その後、デジタル信号に対して様々な補正処理が行われ、投影データが取得される。
【0020】
駆動部214はスキャナ制御部218から送信される制御信号に従って、X線管211と検出器212とを被検体210の周囲で回転させる。X線管211と検出器212の回転とともに、X線の照射と検出がなされることにより、複数の投影角度からの投影データが取得される。投影角度毎のデータ収集単位はビューと呼ばれる。二次元に配列された検出器212の各検出素子の並びは、検出器212の回転方向がチャネル、チャネルに直交する方向が列と呼ばれる。投影データはビュー、チャネル、列によって識別される。
【0021】
寝台制御部219は寝台240の動作を制御し、X線の照射と検出がなされる間、寝台240を静止させたままにしたり、Z軸方向に等速移動させたりする。寝台240を静止させたままのスキャンはアキシャルスキャン、寝台240を移動させながらのスキャンはらせんスキャンとそれぞれ呼ばれる。
【0022】
中央制御部215は以上述べたスキャナ200の動作を、操作ユニット250からの指示に従って制御する。次に操作ユニット250について説明する。操作ユニット250は、再構成処理部251、画像処理部252、記憶部254、表示部256、入力部258等を有する。
【0023】
再構成処理部251は、スキャナ200で取得された投影データを逆投影処理することにより、再構成画像を生成する。画像処理部252は再構成画像を診断に適した画像にするため、様々な画像処理を行う。記憶部254は投影データや再構成画像、画像処理後の画像を記憶する。表示部256は再構成画像や画像処理後の画像を表示する。入力部258は投影データの取得条件(管電圧、管電流、スキャン速度等)や再構成画像の再構成条件(再構成フィルタ、FOVサイズ等)を操作者が設定する際に用いられる。
【0024】
なお、操作ユニット250が
図1に示した医用画像処理装置1であっても良い。その場合、は、画像処理部252がCPU2に、記憶部254が記憶装置4に、表示部256が表示装置6に、入力部258が入力装置8に、それぞれ相当することになる。
【0025】
図3を用いて本実施例の要部について説明する。なおこれらの要部は、専用のハードウェアで構成されても良いし、CPU2上で動作するソフトウェアで構成されても良い。以降の説明では本実施例の要部がソフトウェアで構成された場合について説明する。
【0026】
本実施例は、平滑化部301、ルート生成部302、ノイズ低減部303を備える。また記憶装置4には、X線CT装置100で生成された再構成画像や投影データが記憶される。以下、各構成部について説明する。
【0027】
平滑化部301は、医用画像、例えば再構成画像の平滑化画像を生成する。平滑化画像を生成するには、医用画像の中の平滑化の対象となる対象画素の画素値を対象画素に隣接する画素群の各画素値に対して滑らかになるように変更する。最も単純には、対象画素と隣接画素群から平均値あるいは中央値を算出し、算出された平均値あるいは中央値により対象画素の画素値を置換する。また対象画素の画素値と対象画素の周囲の画素群の各画素値とを、対象画素からの距離が短いほど大きくなる1未満の重み係数を用いて加重加算し、算出された加重加算値により対象画素の画素値を置換しても良い。なお、平均値や中央値、加重加算値による対象画素の画素値の置換以外の公知の方法によって平滑化画像を生成しても良い。例えば、平均値の置換により生成された平滑化画像と元の医用画像とを1未満の重み係数を用いて加重加算しても良い。あるいは、平滑化方法として公知の逐次近似法によるノイズ低減方法や人工知能を利用したノイズ低減方法を使用することもできる。
【0028】
さらに、再構成画像の生成に用いられた投影データを平滑化して平滑化投影データを算出し、平滑化投影データを再構成処理することによって平滑化画像を生成しても良い。投影データや再構成画像は、記憶装置4から読み出されたり、ネットワークアダプタ10を介して外部から送信されたりする。
【0029】
なお、再構成画像を平滑化して平滑化画像を生成するか、投影データを平滑化して算出される平滑化投影データを再構成処理して平滑化して平滑化画像を生成するかは、後述するノイズ低減部303によって低減されるノイズの種類に応じて選択されても良い。例えば、X線の統計的な揺らぎに起因する粒状ノイズが低減される場合には再構成画像を平滑化し、線状ノイズ、いわゆるストリーク状アーチファクトが低減される場合には投影データを平滑化することが好ましい。ノイズ低減部303によって低減されるノイズの種類は、入力装置8を介して操作者が指定しても良い。また被検体210の輪郭形状や、骨等のX線減弱係数の大きな部位の配置の偏りに応じて、ノイズの種類が判定されても良い。例えば、輪郭形状が真円に近ければ粒状ノイズが低減対象と判定され、輪郭形状の扁平率が高かったり骨の配置が特定方向に偏っていたりすれば線状ノイズが低減対象と判定される。
【0030】
ルート生成部302は、平滑化部301によって生成される平滑化画像において連続して位置する画素群であってルート条件を満たすルートを生成する。より具体的には、平滑化画像の中から選択された起点画素が注目画素に設定された後、注目画素に隣接する画素群から注目画素の画素値との差異が最小の画素を新たな注目画素に設定することが、ルート条件を満たさなくなるまで繰り返される。そして、起点画素から、ルート条件が満たさなくなったときの注目画素である最新の注目画素までの画素群がルートとして生成される。なお注目画素に隣接する画素群から注目画素の画素値との差異に基づいて新たな注目画素が設定されるので、生成されるルートは事前に設定されたものではない。
【0031】
注目画素に隣接する画素群である隣接画素群には、医用画像の断面内で注目画素の上下左右に位置する4画素が設定されても良いし、さらに斜め方向に位置する4画素を加えた8画素が設定されても良い。また断面内の上下左右の4画素だけでなく、断面に直交する方向に位置する前後の2画素を加えた6画素が隣接画素群に設定されても良いし、さらに斜め方向に位置する20画素を加えた26画素が隣接画素群に設定されても良い。
【0032】
ルート条件には、起点画素の画素値と注目画素の画素値との差異の上限値や、ルートの連続する画素の数の上限値、すなわち注目画素の更新回数の上限値等が用いられる。またルート条件は、平滑化部301での平滑化強度に応じて設定されても良い。例えば、既知構造のファントムを撮影したデータに基づいて求められる平滑化強度とルート条件との関係を記憶装置4に予め記憶させておき、この関係に平滑化部301での平滑化強度を照合することによりルート条件を設定する。
【0033】
また平滑化強度がより大きい平滑化画像では、生成されるルートが構造物の境界の法線方向に広がる場合がある。そこで、平滑化部301での平滑化強度が大きいほど、ルート条件である起点画素の画素値と注目画素の画素値との差異の上限値やルートの連続する画素の数の上限値が小さく設定されても良い。上限値が小さく設定されることにより、構造物の境界の法線方向へのルートの広がりを抑制できる。
【0034】
ノイズ低減部303は、ルート生成部302によって平滑化画像において生成されたルートに対応する画素群を医用画像から抽出し、抽出された画素群に基づいて医用画像のノイズを低減する。より具体的には、平滑化画像のルートと同じ座標を有する画素群が医用画像から抽出され、抽出された画素群の各画素値を用いて算出される代表値によって、医用画像におけるルートの起点画素の画素値が置換される。なお代表値には、例えば医用画像から抽出された画素群の画素値の平均値や、中央値、起点画素からの距離が短いほど大きくなる1未満の重み係数を用いて算出される加重加算値等が用いられる。ノイズの低減は、医用画像全体に対して実施されても良いし、医用画像の一部の領域に対して実施されても良い。ノイズが低減された医用画像は表示装置6に表示され、被検体210の診断に用いられる。
【0035】
図4を用いて、本実施例で実行される処理の流れの一例を説明する。
【0036】
(S401)
平滑化部301は、医用画像の平滑化画像を生成する。医用画像と平滑化画像とは、同じ画素数を有するとともに、同じ座標を有する画素同士が対応する。医用画像に含まれるノイズが多い場合であっても、本ステップで生成される平滑化画像ではノイズが低減される。
【0037】
本ステップの処理の流れの一例を
図5に示し、
図5の各ステップについて以降で説明する。なお
図5の医用画像は、X線CT装置100によって生成される再構成画像である。
【0038】
(S501)
平滑化部301は、再構成画像を取得する。再構成画像は記憶装置4から読み出されたり、ネットワークアダプタ10を介して外部から送信されたりする。
【0039】
(S502)
平滑化部301は、再構成画像を平滑化して平滑化画像を生成する。再構成画像の平滑化は、対象画素の画素値と、対象画素に隣接する画素群の各画素値との平均値による対象画素の画素値の置換等によって行われる。
【0040】
S401の処理の流れの他の例を
図6に示し、
図6の各ステップについて以降で説明する。なお
図6の医用画像は、X線CT装置100によって取得される投影データから生成される再構成画像である。
【0041】
(S601)
平滑化部301は、再構成画像の生成に用いられた投影データを取得する。投影データは記憶装置4から読み出されたり、ネットワークアダプタ10を介して外部から送信されたりする。
【0042】
(S602)
平滑化部301は、投影データを平滑化して平滑化投影データを生成する。投影データの平滑化は、投影データの中の対象データの投影値と、チャネル方向または列方向において対象データに隣接するデータ群の各投影値との平均値による対象データの投影値の置換等によって行われる。なお対象データの投影値と、対象データの周囲のデータ群の各投影値とを、対象データからの距離が短いほど大きくなる1未満の重み係数を用いて加重加算し、算出された加重加算値により対象データの投影値を置換しても良い。
【0043】
(S603)
平滑化部301は、S602において生成された平滑化投影データを再構成処理することにより平滑化画像を生成する。
【0044】
【0045】
(S402)
ルート生成部302は、S401にて生成された平滑化画像内でルートを生成する。平滑化画像内で生成されるルートは、平滑化されていない医用画像内で生成されるルートよりも正確に求められる。
【0046】
本ステップの処理の流れの一例を
図7に示し、
図7の各ステップについて以降で説明する。
【0047】
(S701)
ルート生成部302は、平滑化画像内で起点となる画素である起点画素を選択する。なお、起点画素は任意の画素で良く、例えば左上端部の画素が起点画素として選択される。
【0048】
(S702)
ルート生成部302は、起点画素を注目画素に設定する。注目画素とは、以降の処理の対象となる画素である。
【0049】
(S703)
ルート生成部302は、注目画素に隣接する画素群である隣接画素群から、注目画素に最も類似する最類似画素を選択する。具体的には、注目画素の画素値との差異が最も小さい画素が隣接画素群の中から選択される。
【0050】
(S704)
ルート生成部302は、S703において選択された最類似画素を新たな注目画素に設定する。すなわち注目画素が更新される。
【0051】
(S705)
ルート生成部302は、最新の注目画素がルート条件を満たしているか否かを判定する。ルート条件が満たされない場合はS706へ処理が進み、満たされる場合はS703に処理が戻る。なおS703に処理が戻った場合、S703において選択される最類似画素に、過去の注目画素は含まれない。過去の注目画素を最類似画素に含めないことにより、生成されるルートが同じ画素の間を往復することを防止できる。
【0052】
(S706)
ルート生成部302は、起点画素から最新の注目画素までの画素群でルートを生成する。S703において選択される各最類似画素の連なりによって生成されるルートは、構造物の境界を含む。
【0053】
(S707)
ルート生成部302は、平滑化画像の全画素を起点画素にしたか否かを判定する。全画素が起点画素にされた場合は処理の流れは終了となり、起点画素になっていない画素がある場合はS708に処理が進む。すなわち、全画素に対してルートが生成される。なお医用画像の一部の領域に対してノイズ低減する場合は、その領域に含まれる全画素が起点画素になったか否かが判定される。
【0054】
(S708)
ルート生成部302は、まだ起点画素になっていない画素群の中から任意の画素を選択することにより、起点画素を更新する。起点画素が更新された後、S702に処理が戻る。
【0055】
【0056】
(S403)
ノイズ低減部303は、S402にて平滑化画像において生成されたルートに基づいて、医用画像のノイズを低減する。より正確に求められたルートに基づいて医用画像のノイズを低減することにより、構造物の境界を維持しながらノイズを低減することが可能となる。
【0057】
本ステップの処理の流れの一例を
図8に示し、
図8の各ステップについて以降で説明する。
【0058】
(S801)
ノイズ低減部303は、平滑化画像において生成されたルートの中の一つを選択し、選択されたルートに対応する座標の画素の画素値を医用画像から抽出する。ルート上の画素の数がN個であれば、N個の画素値が医用画像から抽出される。
【0059】
(S802)
ノイズ低減部303は、S801において抽出された画素値の代表値を算出する。代表値には、例えば抽出された画素値の平均値や中央値、起点画素からの距離が短いほど大きくなる1未満の重み係数を用いて算出される加重加算値等が用いられる。
【0060】
(S803)
ノイズ低減部303は、医用画像においてルートの起点画素に対応する座標の画素の画素値をS802において算出された代表値に置換する。医用画像における起点画素の画素値が代表値に置換されることにより、医用画像のノイズが低減される。医用画像における起点画素の画素値は代表値によって順次置換されても良いし、医用画像とは別に準備されるメモリ領域に代表値を埋め込むようにしても良い。
【0061】
(S804)
ノイズ低減部303は、平滑化画像において生成されたルートの全てを処理したか否かを判定する。全ルートが処理された場合は処理の流れは終了となり、まだ処理されていないルートがある場合はS805に処理が進む。
【0062】
(S805)
ノイズ低減部303は、まだ処理されていないルートの中から任意のルートを選択することによってルートを更新する。ルートが更新された後、S801に処理が戻る。
【0063】
以上説明した処理の流れにより、含まれるノイズが多い医用画像であっても、平滑化画像において生成されるルートに基づいて医用画像のノイズが低減されるので、構造物の境界を維持しながらノイズを低減することができる。
【0064】
図9乃至12を用いて、本実施例の効果について説明する。まず
図9を用いてノイズによってルート生成の結果が変化することについて説明する。なお
図9(a)は画素値の異なる二種類の円形構造物が計算機上で配置された模擬画像、
図9(b)は模擬画像上で画素値が等しい画素を線でつないだ等高線を模擬画像に重ねた画像である。また
図9(c)は模擬画像にランダムノイズを付加したノイズ付加画像、
図9(d)はノイズ付加画像に等高線を重ねた画像である。本実施例のルートは、概ね等高線に沿って生成されることになる。
【0065】
図9(b)では等高線が構造物の境界に沿っているのに対し、
図9(d)では等高線が構造物の境界に一致せず、構造物の内部等にも点在する。すなわち、ランダムノイズが少ない
図9(a)では構造物の境界を維持しながらノイズを低減できるのに対し、ランダムノイズが多い
図9(c)ではノイズを低減できるものの構造物の境界をぼかすことになる。
【0066】
図10を用いて平滑化によって等高線の法線方向が変化しないことについて説明する。なお
図10(a)は
図9(a)と同じ模擬画像、
図10(b)は模擬画像上に等高線とともに等高線の法線方向を示す矢印を重ねた画像、
図10(c)は模擬画像の平滑化画像、
図10(d)は平滑化画像に等高線と等高線の法線方向を示す矢印を重ねた画像である。
【0067】
図10(b)と
図10(d)との比較から、模擬画像が平滑化されることにより、等高線の間隔が広くなったことがわかる。その一方で、等高線の法線方向は、
図10(b)と
図10(d)で一致しており、模擬画像が平滑化されても構造物の境界に沿ったルートを生成できることがわかる。
【0068】
図11を用いてノイズ付加画像の平滑化画像の等高線について説明する。なお
図11(a)は
図9(c)と同じノイズ付加画像、
図11(b)はノイズ付加画像の平滑化画像、
図11(c)は
図11(b)の平滑化画像に等高線を重ねた画像である。
【0069】
図11(c)では、
図9(d)のように構造物の境界と等高線との不一致はなく、
図9(b)と同様に等高線が構造物の境界に沿っている。すなわち、ノイズ付加画像の平滑化画像において生成されるルートを用いることにより、構造物の境界を維持しながらノイズを低減できる。
【0070】
図12を用いて本実施例の効果について説明する。なお
図12(a)は
図9(c)と同じノイズ付加画像、
図12(b)は特許文献1の方法によってノイズ付加画像からノイズを低減した画像、
図12(c)は本実施例によってノイズ付加画像からノイズを低減した画像である。また
図12(d)は
図12(a)と
図12(b)の差分画像、
図12(e)は
図12(a)と
図12(c)の差分画像である。
【0071】
図12(b)と
図12(c)を比較すると、ノイズの指標の一つである画素値のSD(Standard Deviation)値はほぼ同等であり、両者ともにほぼ同等のノイズ低減効果を有する。一方、
図12(d)と
図12(e)を比較すると、
図12(d)では構造物の境界に周囲の画素値との差異が大きい箇所があるのに対し、
図12(e)ではそのような箇所は見受けられない。周囲の画素値との差異が大きい箇所は、ノイズ低減にともなって構造物の境界がぼかされて生じた結果である。すなわち、特許文献1の方法では構造物の境界をぼかしながらノイズを低減するのに対し、本実施例では構造物の境界を維持しながらノイズを低減できることが
図12(e)によって示された。
【0072】
なお、本発明の医用画像処理装置及び医用画像処理方法は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0073】
1:医用画像処理装置、2:CPU、3:主メモリ、4:記憶装置、5:表示メモリ、6:表示装置、7:コントローラ、8:入力装置、10:ネットワークアダプタ、11:システムバス、12:ネットワーク、13:医用画像撮影装置、14:医用画像データベース、100:X線CT装置、200:スキャナ、210:被検体、211:X線管、212:検出器、213:コリメータ、214:駆動部、215:中央制御部、216:X線制御部、217:高電圧発生部、218:スキャナ制御部、219:寝台制御部、221:コリメータ制御部、222:プリアンプ、223:A/Dコンバータ、240:寝台、250:操作ユニット、251:再構成処理部、252:画像処理部、254:記憶部、256:表示部、258:入力部、301:平滑化部、302:ルート生成部、303:ノイズ低減部