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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】ウィリー抑制制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20231218BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20231218BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20231218BHJP
   B60W 40/11 20120101ALI20231218BHJP
   B60W 40/112 20120101ALI20231218BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20231218BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20231218BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
F02D29/02 311Z
B60W10/04
B60W30/02
B60W40/11
B60W40/112
F02D9/02 341Z
F02D29/00 F
F02D29/02 L
F02D41/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019160914
(22)【出願日】2019-09-04
(65)【公開番号】P2021038709
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 昭平
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-109079(JP,A)
【文献】国際公開第2014/167983(WO,A1)
【文献】特開2009-214855(JP,A)
【文献】特開2016-016726(JP,A)
【文献】特開2011-137416(JP,A)
【文献】特開2013-209047(JP,A)
【文献】特開2012-145072(JP,A)
【文献】特開2017-178285(JP,A)
【文献】国際公開第2017/037549(WO,A1)
【文献】特開2018-206401(JP,A)
【文献】特開2018-154242(JP,A)
【文献】特開2017-072073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
B60W 10/04
B60W 30/02
B60W 40/11
B60W 40/112
F02D 9/02
F02D 29/00
F02D 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、駆動輪である後輪と、従動輪である前輪と、前記駆動輪を駆動する駆動源と、前記駆動源の出力変更操作を行う操作子と、を備えた鞍乗型乗物の走行状態がウィリー状態を示す第1条件を満足したか否かを判定する第1判定部と、
前記鞍乗型乗物の走行状態が前記ウィリー状態の前段階であるプレウィリー状態を示す第2条件を満足したか否かを判定する第2判定部と、
前記操作子への操作入力に基づいて前記鞍乗型乗物の制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第1判定部が前記第1条件を満たしたと判定した場合、前記鞍乗型乗物の駆動源の出力を抑制する第1制御を実行し、
前記第1判定部が前記第1条件を満たしていないと判定し、かつ前記第2判定部が前記第2条件を満たしたと判定した場合、前記第1制御とは異なる第2制御であって、前記操作子への操作入力に対して出力変更速度を制限する第2制御を実行する、ウィリー抑制制御装置。
【請求項2】
前記ウィリー状態は、前記前輪が浮き上がった状態であり、
前記プレウィリー状態は、前記前輪が浮き上がっていない状態であり、
前記制御部は、前記第1制御の開始時点からの、前記前輪が路面から離れていく回転方向における前記車体の角度の変化量をウィリー量として算出し、前記第1制御において、前記ウィリー量が大きいほど前記駆動源の出力抑制量が大きくなるように前記駆動源の出力を制御する、請求項1に記載のウィリー抑制制御装置。
【請求項3】
前記鞍乗型乗物は、前記制御部からの開度指令値信号に基づいて前記駆動源のスロットルバルブの開度を変更する電子スロットル装置を備え、
前記制御部は、前記操作子への操作量に基づいて前記電子スロットル装置への前記開度指令値信号を生成する信号生成部を含み、
前記信号生成部は、前記第2制御において、前記スロットルバルブの開度の変化速度が、所定の上限値以下に制限されるように、前記開度指令値信号を生成する、請求項1または2に記載のウィリー抑制制御装置。
【請求項4】
前記鞍乗型乗物は、前記制御部からの開度指令値信号に基づいて前記駆動源のスロットルバルブの開度を変更する電子スロットル装置を備え、
前記制御部は、前記操作子への操作量に基づいて前記電子スロットル装置への前記開度指令値信号を生成する信号生成部を含み、
前記信号生成部は、前記第2制御において、前記後輪の加速度が所定の目標加速度となるような前記開度指令値信号を生成する、請求項1から3の何れかに記載のウィリー抑制制御装置。
【請求項5】
車体と、駆動輪である後輪と、従動輪である前輪と、前記駆動輪を駆動する駆動源と、前記駆動源の出力変更操作を行う操作子と、を備えた鞍乗型乗物の走行状態がウィリー状態を示す第1条件を満足したか否かを判定する第1判定部と、
前記鞍乗型乗物の走行状態が前記ウィリー状態の前段階であるプレウィリー状態を示す第2条件を満足したか否かを判定する第2判定部と、
前記操作子への操作入力に基づいて前記鞍乗型乗物の制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第1判定部が前記第1条件を満たしたと判定した場合、前記鞍乗型乗物の駆動源の出力を抑制する第1制御を実行し、
前記第1判定部が前記第1条件を満たしていないと判定し、かつ前記第2判定部が前記第2条件を満たしたと判定した場合、前記第1制御とは異なる第2制御であって、前記操作子への操作入力に対して出力変更速度を制限する第2制御を実行し、
前記第1条件は、前記後輪の加速度が第1のしきい値以上であることを含み、
前記第2条件は、前記後輪の加速度が前記第1のしきい値より小さい第2のしきい値以上であることを含み、
前記制御部は、前記第1制御の開始時点からの、前記前輪が路面から離れていく回転方向における前記車体の角度の変化量をウィリー量として算出し、前記第1制御において、前記ウィリー量が大きいほど前記駆動源の出力抑制量が大きくなるように前記駆動源の出力を制御する、ウィリー抑制制御装置。
【請求項6】
前記鞍乗型乗物は、前記車体を旋回方向内側に傾斜可能であり、
前記第1判定部は、前記車体の旋回方向内側への傾斜の大きさを示すロール角を取得し、前記第1のしきい値を、前記ロール角が大きいほど大きい値に設定する、請求項5に記載のウィリー抑制制御装置。
【請求項7】
前記鞍乗型乗物は、前記車体を旋回方向内側に傾斜可能であり、
前記第2判定部は、前記車体の旋回方向内側への傾斜の大きさを示すロール角を取得し、前記第2のしきい値を、前記ロール角が大きいほど大きい値に設定する、請求項5または6に記載のウィリー抑制制御装置。
【請求項8】
前記鞍乗型乗物は、前記前輪を支持するフロントフォークに設けられたフロントサスペンションを備え、
前記第1条件は、前記フロントサスペンションの縮み量が第3のしきい値以下であることを含み、
前記第2条件は、前記フロントサスペンションの縮み量が前記第3のしきい値より大き第4のしきい値以下であることを含む、請求項1から7の何れかに記載のウィリー抑制制御装置。
【請求項9】
前記鞍乗型乗物は、複数の変速段に変速される変速装置を備え、
前記第2条件は、前記変速装置の変速比が所定の値以上となる所定の変速段以下であることを含む、請求項1から8の何れかに記載のウィリー抑制制御装置。
【請求項10】
前記鞍乗型乗物は、前記車体を旋回方向内側に傾斜可能であり、
前記制御部は、前記車体の旋回方向内側への傾斜の大きさを示すロール角を取得し、前記ロール角が大きいほど前記駆動源の出力抑制の程度が小さくなるように前記第1制御を行う、請求項1からの何れかに記載のウィリー抑制制御装置。
【請求項11】
前記鞍乗型乗物は、前記車体を旋回方向内側に傾斜可能であり、
前記制御部は、前記車体の旋回方向内側への傾斜の大きさを示すロール角を取得し、前記ロール角が大きいほど前記第2制御における抑制の程度が小さくなるように前記第2制御を行う、請求項1から10の何れかに記載のウィリー抑制制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィリー抑制制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両がウィリー状態にあるか否かを判定し、ウィリー状態であると判定した場合に、ウィリー状態を解消すべく、駆動源出力を抑制する制御(出力抑制制御)を行う制御装置が知られている。ウィリー状態の開始判定が遅いと、ウィリーの解消が遅れることになる。しかし、ウィリー状態であるとの判定条件を緩めると、ウィリーが発生していないにも関わらず車両がウィリー状態になっていると誤判定を生じやすくなる。
【0003】
そこで、下記特許文献1では、走行状態を表す走行状態値と、運転者の運転操作を表す操作値とに基づいて、ウィリー状態であるか否かの判定を行っている。これにより、誤判定を防ぎつつ、ウィリーが開始したとの判定を早めることができる。
【0004】
また、下記特許文献2では、フロントフォークのストローク量を検出し、検出されたストローク量から所定時間後のストローク量を予測し、予測ストローク量に基づいてエンジンの出力抑制制御を行っている。このように、特許文献2では、ウィリー状態に移行する前段階からウィリー解消のための出力抑制制御を行うことで出力抑制制御の応答遅れを防止することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-43627号公報
【文献】特開2012-145072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、これらの従来技術においては、ウィリー状態またはウィリー状態に移行する前段階であると判定された場合に、出力抑制制御が実行される。すなわち、特許文献1では、ウィリー状態への移行開始を早期に検出することを目的としており、ウィリー状態を未然に抑制することについては改善の余地がある。
【0007】
特許文献2においては、ウィリー状態に移行する前段階であるか否かを判定するが、特許文献2においても、前段階であると判定した場合に、ウィリー状態に移行すると仮定しており、これを契機として出力抑制制御が実行される点では特許文献1と変わりがない。したがって、特許文献2においてもウィリー状態を未然に抑制することはできない。さらに、特許文献2においては、ウィリー状態に移行していないにもかかわらず出力抑制制御が実行されてしまう可能性があり、運転者が予期しない挙動が生じる恐れがある。
【0008】
そこで、本発明は、乗物においてウィリー状態が生じることを未然に抑制することができるウィリー抑制制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るウィリー抑制制御装置は、車体と、駆動輪である後輪と、従動輪である前輪と、前記駆動輪を駆動する駆動源と、前記駆動源の出力変更操作を行う操作子と、を備えた鞍乗型乗物の走行状態がウィリー状態を示す第1条件を満足したか否かを判定する第1判定部と、前記鞍乗型乗物の走行状態が前記ウィリー状態の前段階であるプレウィリー状態を示す第2条件を満足したか否かを判定する第2判定部と、前記操作子への操作入力に基づいて前記鞍乗型乗物の制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1判定部が前記第1条件を満たしたと判定した場合、前記鞍乗型乗物の駆動源の出力を抑制する第1制御を実行し、前記第1判定部が前記第1条件を満たしていないと判定し、かつ前記第2判定部が前記第2条件を満たしたと判定した場合、前記第1制御とは異なる第2制御であって、前記操作子への操作入力に対して出力変更速度を制限する第2制御を実行する。
【0010】
上記構成によれば、鞍乗型乗物の走行状態が、ウィリー状態の前段階であるプレウィリー状態であるか否かが判定され、プレウィリー状態であると判定された場合に、出力抑制制御である第1制御とは異なる第2制御が実行される。第2制御においては、操作子に対する運転者の操作入力に対して出力変更速度が制限される。これにより、第2制御時においては、運転者が急激な出力変化(トルク変化)を伴うような操作を行っても、駆動源の出力変更が緩やか(または滑らか)に行われる。したがって、ウィリー状態の前段階において、駆動源の出力の急激な変化を抑制し、ウィリー状態が生じることを未然に抑制することができる。
【0011】
なお、鞍乗型乗物の仕様、運転者の嗜好などにより、ウィリー状態への移行をある程度許容するような場合であっても、急激なウィリー状態への移行(ウィリー角の急変)は好ましくない。したがって、ウィリー状態への移行をある程度許容するように設定される乗物に対しても急激なウィリー状態への移行を未然に抑制するために、上記構成は有用である。
【0012】
前記ウィリー状態は、前記前輪が浮き上がった状態であり、前記プレウィリー状態は、前記前輪が浮き上がっていない状態であり、前記制御部は、前記第1制御の開始時点からの、前記前輪が路面から離れていく回転方向における前記車体の角度の変化量をウィリー量として算出し、前記第1制御において、前記ウィリー量が大きいほど前記駆動源の出力抑制量が大きくなるように前記駆動源の出力を制御してもよい。
【0013】
前記鞍乗型乗物は、前記制御部からの開度指令値信号に基づいて前記駆動源のスロットルバルブの開度を変更する電子スロットル装置を備え、前記制御部は、前記操作子への操作量に基づいて前記電子スロットル装置への前記開度指令値信号を生成する信号生成部を含み、前記信号生成部は、前記第2制御において、前記スロットルバルブの開度の変化速度が、所定の上限値以下に制限されるように、前記開度指令値信号を生成してもよい。
【0014】
上記構成によれば、第2制御において、スロットルバルブの開度の速度変化が抑制される。これにより、駆動源の出力の急激な変化を抑制するための制御を容易に実現することができる。
【0015】
前記鞍乗型乗物は、前記制御部からの開度指令値信号に基づいて前記駆動源のスロットルバルブの開度を変更する電子スロットル装置を備え、前記制御部は、前記操作子への操作量に基づいて前記電子スロットル装置への前記開度指令値信号を生成する信号生成部を含み、前記信号生成部は、前記第2制御において、前記後輪の加速度が所定の目標加速度となるような前記開度指令値信号を生成してもよい。
【0016】
上記構成によれば、第2制御において、スロットルバルブの開度が、後輪の加速度が所定の目標加速度となるように制御される。すなわち、後輪の加速度が目標加速度より大きくなるような操作を行っても、後輪の加速度が設定された目標加速度に制御される。これにより、駆動源の出力の急激な変化を抑制する制御を容易に実現することができる。
【0017】
本発明の他の態様に係るウィリー抑制制御装置は、車体と、駆動輪である後輪と、従動輪である前輪と、前記駆動輪を駆動する駆動源と、前記駆動源の出力変更操作を行う操作子と、を備えた鞍乗型乗物の走行状態がウィリー状態を示す第1条件を満足したか否かを判定する第1判定部と、前記鞍乗型乗物の走行状態が前記ウィリー状態の前段階であるプレウィリー状態を示す第2条件を満足したか否かを判定する第2判定部と、前記操作子への操作入力に基づいて前記鞍乗型乗物の制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1判定部が前記第1条件を満たしたと判定した場合、前記鞍乗型乗物の駆動源の出力を抑制する第1制御を実行し、前記第1判定部が前記第1条件を満たしていないと判定し、かつ前記第2判定部が前記第2条件を満たしたと判定した場合、前記第1制御とは異なる第2制御であって、前記操作子への操作入力に対して出力変更速度を制限する第2制御を実行し、前記第1条件は、前記後輪の加速度が第1のしきい値以上であることを含み、前記第2条件は、前記後輪の加速度が前記第1のしきい値より小さい第2のしきい値以上であることを含み、前記制御部は、前記第1制御の開始時点からの、前記前輪が路面から離れていく回転方向における前記車体の角度の変化量をウィリー量として算出し、前記第1制御において、前記ウィリー量が大きいほど前記駆動源の出力抑制量が大きくなるように前記駆動源の出力を制御する。
【0018】
上記構成によれば、鞍乗型乗物の走行状態が、ウィリー状態の前段階であるプレウィリー状態であるか否かが判定され、プレウィリー状態であると判定された場合に、出力抑制制御である第1制御とは異なる第2制御が実行される。第2制御においては、操作子に対する運転者の操作入力に対して出力変更速度が制限される。これにより、第2制御時においては、運転者が急激な出力変化(トルク変化)を伴うような操作を行っても、駆動源の出力変更が緩やか(または滑らか)に行われる。したがって、ウィリー状態の前段階において、駆動源の出力の急激な変化を抑制し、ウィリー状態が生じることを未然に抑制することができる。
【0019】
さらに、上記構成によれば、後輪の加速度に応じてウィリー状態かプレウィリー状態かの判定基準(条件)を簡単に設定することができる。
【0020】
前記鞍乗型乗物は、前記車体を旋回方向内側に傾斜可能であり、前記第1判定部は、前記車体の旋回方向内側への傾斜の大きさを示すロール角を取得し、前記第1のしきい値を、前記ロール角が大きいほど大きい値に設定してもよい。
【0021】
ロール角が大きいほど、すなわち、車体が傾斜しているほどウィリー状態には移行し難いため、ロール角が大きいほどウィリー状態であるとは判定し難くすることにより、より適切な制御の切り替えを行うことができる。
【0022】
前記鞍乗型乗物は、前記車体を旋回方向内側に傾斜可能であり、前記第2判定部は、前記車体の旋回方向内側への傾斜の大きさを示すロール角を取得し、前記第2のしきい値を、前記ロール角が大きいほど大きい値に設定してもよい。
【0023】
ロール角が大きいほど、すなわち、車体が傾斜しているほどウィリー状態には移行し難いため、ロール角が大きいほどプレウィリー状態であるとは判定し難くすることにより、より適切な制御の切り替えを行うことができる。
【0024】
前記鞍乗型乗物は、前記前輪を支持するフロントフォークに設けられたフロントサスペンションを備え、前記第1条件は、前記フロントサスペンションの縮み量が第3のしきい値以下であることを含み、前記第2条件は、前記フロントサスペンションの縮み量が前記第3のしきい値より大き第4のしきい値以下であることを含んでもよい。
【0025】
上記構成によれば、フロントサスペンションの縮み量に応じてウィリー状態かプレウィリー状態かの判定基準(条件)を簡単に設定することができる。
【0026】
前記鞍乗型乗物は、複数の変速段に変速される変速装置を備え、前記第2条件は、前記変速装置の変速比が所定の値以上となる所定の変速段以下であることを含んでもよい。
【0027】
上記構成によれば、ウィリー状態が発生し易い変速比領域において第2制御が実行され得る。したがって、誤判定の発生を防止することができる。
【0028】
前記鞍乗型乗物は、前記車体を旋回方向内側に傾斜可能であり、前記制御部は、前記車体の旋回方向内側への傾斜の大きさを示すロール角を取得し、前記ロール角が大きいほど前記駆動源の出力抑制の程度が小さくなるように前記第1制御を行ってもよい。
【0029】
ロール角が大きいほど、すなわち、車体が傾斜しているほどウィリー状態には移行し難くウィリー状態から復帰し易いため、ロール角が大きいほど出力抑制の程度が小さくなるように駆動源を制御することにより、より適切な制御を実行することができる。
【0030】
前記鞍乗型乗物は、前記車体を旋回方向内側に傾斜可能であり、前記制御部は、前記車体の旋回方向内側への傾斜の大きさを示すロール角を取得し、前記ロール角が大きいほど前記第2制御における抑制の程度が小さくなるように前記第2制御を行ってもよい。
【0031】
ロール角が大きいほど、すなわち、車体が傾斜しているほどウィリー状態には移行し難くウィリー状態から復帰し易いため、ロール角が大きいほど第2制御における抑制の程度が小さくなるように駆動源を制御することにより、より適切な制御を実行することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、乗物においてウィリー状態が生じることを未然に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、乗物の一例として示す自動二輪車の左側面図である。
図2図2は、一実施の形態におけるウィリー抑制制御装置を備えた乗物の制御系を示すブロック図である。
図3図3は、本実施の形態におけるウィリー抑制制御の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、本実施の形態における第1条件を示す図である。
図5図5は、本実施の形態における第2条件を示す図である。
図6図6は、本実施の形態の第2制御の一例における操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を模式的に示すグラフである。
図7図7は、本実施の形態の第2制御の一例において操作入力が緩やかな場合の操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を模式的に示すグラフである。
図8図8は、本実施の形態の第2制御の他の例における操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を模式的に示すグラフである。
図9図9は、図6において第2制御を行わない比較例における操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を模式的に示すグラフである。
図10図10は、図8において第2制御を行わない比較例における操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。全図を通じて、同一のまたは対応する要素には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0035】
図1は、乗物の一例として示す自動二輪車の左側面図である。図1に示す乗物1は、前輪2、後輪3および駆動源4を備え、後輪3が駆動源4で発生される動力で駆動される。すなわち、後輪3が駆動輪であり、前輪2が従動輪である。駆動源4は、エンジン、電気モータまたはこれらの組合せである。以下では駆動源4としてエンジンを含む構成を例示する。乗物1は、駆動源4の出力を調整する出力調整機器8を備えている。出力調整機器8は、駆動源4がエンジンで構成される場合、スロットルバルブ、インジェクタおよび点火プラグを含む。駆動源4で発生された動力は、変速装置5等の動力伝達機構を介して後輪3に伝達される。乗物1は、ウィリー抑制制御装置10(後述する図2参照)を備える。
【0036】
乗物1の一例として図示された自動二輪車においては、前輪2および後輪3がそれぞれ1つ設けられ、ホイールベースが小さく、出力重量比[W/kg]が比較的大きい。このため、自動二輪車は、前輪2が路面から離れるウィリーを生じやすい。したがって、鞍乗型車両である自動二輪車は、ウィリー抑制制御装置10を備えた乗物1の好適例である。
【0037】
前輪2が路面から浮き上がっていく(ウィリー量が大きくなっていく)過程では、車体6が、後輪接地点を車幅方向に通過する仮想的な角変位軸を中心に前輪2が路面から離れていく回転方向P1(例えば、左側面視で時計回り)に角変位していく。なお、「ウィリー量」は、前輪2が路面からどの程度浮き上がっているのか表す量をいう。以下、車幅方向に延びる仮想的な第1角変位軸を中心とした車体6の角変位運動を「ピッチ(pitch)
」と呼び、当該第1角変位軸を中心とした車体6の回転角を「ピッチ角」と呼ぶ。
【0038】
また、車長方向に延びる仮想的な第2角変位軸を中心とした車体6の角変位運動を「ロール(role)」と呼び、当該第2角変位軸を中心とした車体6の回転角を「ロール角」(またはバンク角)と呼ぶ。自動二輪車のような鞍乗型車両においては、進行方向を変える(旋回する)際に車体6を進行方向に対して交差する方向(より具体的には旋回方向内側)に傾斜させるため、ロール角が大きく変化する。
【0039】
図2は、一実施の形態におけるウィリー抑制制御装置を備えた乗物の制御系を示すブロック図である。図2に示すように、ウィリー抑制制御装置10は、乗物1を制御する電子制御ユニットにより構成される。なお、これに代えて、ウィリー抑制制御装置10は、電子制御ユニットとは別の制御装置(サブECU)として構成されてもよい。ウィリー抑制制御装置10には、後述する各種センサが接続され、ウィリー抑制制御装置10は、各種センサの検出値を取得する。ウィリー抑制制御装置10は、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ(記憶器)およびI/Oインターフェース等を有し、不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで各種制御を実現する。
【0040】
乗物1は、駆動源4の出力変更操作を行う操作子38を備えている。操作子38には、加速操作位置センサ34が設けられる。加速操作位置センサ34は、操作子38の操作位置(操作量)を検出する。
【0041】
ウィリー抑制制御装置10は、駆動源4の出力制御を行う制御部(出力制御部)73を機能ブロックとして備えている。運転者が操作子を操作する(例えば、アクセルグリップを開方向に捻り操作するまたはアクセルペダルを開方向に踏込み操作する)ことにより、加速操作位置センサ34が操作子38の操作位置を検出し、加速操作値をウィリー抑制制御装置10に送信する。ウィリー抑制制御装置10は、加速操作値を取得し、駆動源4の出力を調整する出力調整機器8に加速操作値に応じた制御信号を出力する。この制御信号は、後述する各種センサの検出値に応じて補正される。
【0042】
本実施の形態において、出力調整機器8は、電子スロットル装置81を備えている。この場合、制御部73からの制御信号として開度指令値信号が電子スロットル装置81に送信される。電子スロットル装置81は、開度指令値信号に基づいて駆動源4のスロットルバルブ41の開度を変更する。スロットルバルブ41の開度は、スロットル位置センサ35により検出され、電子制御ユニット7に入力される。これにより、制御部73は、スロットルバルブの開度をフィードバック制御することができる。
【0043】
ウィリー抑制制御装置10に各種検出値を供給する各種センサは、上述した加速操作位置センサ34およびスロットル位置センサ35に加えて、前輪回転速度センサ31、後輪回転速度センサ32、前サスペンション縮み量センサ33、ピッチレートセンサ36、ロールレートセンサ37および変速段センサ39を含む。
【0044】
前輪回転速度センサ31は、前輪2に取り付けられ、前輪2の回転速度(周速度)を検出する。ウィリー抑制制御装置10は、前輪回転速度センサ31の検出値から前輪2の周速度(以下、前輪速度)および周加速度(以下、前輪加速度)を求める。後輪回転速度センサ32は、後輪3に取り付けられ、後輪3の回転速度(周速度)を検出する。ウィリー抑制制御装置10は、後輪回転速度センサ32の検出値から後輪3の周速度(以下、後輪速度)および周加速度(以下、後輪加速度)を求める。周加速度は、周速度の現在値と過去値(例えば、1サンプリング周期前に取得された値)とから平易に求めることができる。
【0045】
後輪回転速度センサ32の検出値から得られた後輪加速度が乗物1の対地加速度(乗物1の進行方向加速度)となる。また、ウィリー抑制制御装置10は、後輪加速度と前輪加速度との差を求める。得られた加速度差が乗物1の進行方向加速度に対する前輪2の加速度の相違量となる。前サスペンション縮み量センサ33は、前輪2を支持するフロントフォークに設けられたフロントサスペンション機構の縮み量(ストローク量)を検出する。前サスペンション縮み量センサ33は、フロントサスペンション機構が伸び切った状態を0とし、縮み切った状態を最大値としたときにフロントサスペンション機構が縮むほど大きくなる値として検出する。
【0046】
ピッチレートセンサ36およびロールレートセンサ37は、何れもレートジャイロセンサであり、例えば、乗物1の重心付近に搭載される。ウィリー抑制制御装置10は、ピッチレートセンサ36およびロールレートセンサ37からの検出値を所定サンプリング周期で取得し、取得した検出値を逐次積算することで、所定の初期値からのピッチ角およびロール角の変化量を求めることができる。
【0047】
変速段センサ39は、変速装置5の変速段を検出するセンサである。変速装置5は、出力軸に対する入力軸の回転数比を表す変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を備えている。変速段は、変速比が大きいほど小さい値となる。
【0048】
ウィリー抑制制御装置10は、制御部73に加えて、第1判定部71および第2判定部72を機能ブロックとして有している。
【0049】
図3は、本実施の形態におけるウィリー抑制制御の流れを示すフローチャートである。まず、第1判定部71は、乗物1の走行状態がウィリー状態を示す第1条件を満足したか否かを判定する第1条件判定処理を行う(ステップS1)。制御部73は、第1判定部71における第1条件判定処理の結果を取得し、乗物1の走行状態がウィリー状態を示す第1条件を満足したと判定した場合(ステップS2でYes)、制御部73は、乗物1の駆動源4の出力を抑制する第1制御を実行する(ステップS3)。
【0050】
(第1条件判定処理)
前輪2が路面から浮き上がり始める状況下では、駆動源4の出力が大きく、駆動源4からの大きな動力が駆動輪たる後輪3に伝達されており、対地速度および対地加速度は大きい蓋然性が高い。前輪2が一旦路面から離れれば、前輪2は空気抵抗や車軸との摩擦を受けつつ慣性で回転する。よって、前輪速度は漸減していく。このような状況を考慮して、ウィリー状態か否かを判定するための第1条件が設定される。
【0051】
図4は、本実施の形態における第1条件を示す図である。第1条件は、乗物1の進行方向加速度が第1のしきい値A以上であることを含む。第1判定部71は、後輪回転速度センサ32の検出値から後輪加速度を算出し、それを乗物1の進行方向加速度とする。第1判定部71は、乗物1の進行方向加速度が第1のしきい値A以上か否かを判定する(第1条件のための第1の判定)。第1の判定は、乗物1の進行方向加速度が大きいほどウィリー状態に移行し易いことに基づいている。
【0052】
ここで、第1判定部71は、ロールレートセンサ37の検出値から車体6の傾斜角(ロール角)を取得し、第1のしきい値Aを、車体6の傾斜角が大きいほど大きい値に設定する。旋回時に車体6を傾斜させる乗物1において、車体6の傾斜角が大きいほど、すなわち、車体6が傾斜しているほどウィリー状態には移行し難いといえる。このため、傾斜角が大きいほどウィリー状態であるとは判定し難くしている。
【0053】
さらに、第1条件は、乗物1のフロントサスペンションの縮み量が第3のしきい値C以下であることを含む。第1判定部71は、前サスペンション縮み量センサ33の検出値を取得し、それが第3のしきい値C以下であるか否かを判定する(第1条件のための第2の判定)。第2の判定は、乗物1の車輪への荷重が後輪3側に偏重する(後方荷重になる)ほどウィリー状態に移行し易いことに基づいている。
【0054】
さらに、第1条件は、乗物1の進行方向加速度に対する前輪2の加速度の相違量が第5のしきい値E以下であることを含む。第1判定部71は、後輪回転速度センサ32の検出値から後輪加速度を算出し、前輪回転速度センサ31の検出値から前輪速度を算出し、後輪加速度と前輪加速度との差を求める。第1判定部71は、得られた加速度差を、乗物1の進行方向加速度に対する前輪2の加速度の相違量として、それが第5のしきい値E以下であるか否かを判定する(第1条件のための第3の判定)。第3の判定は、ウィリー状態に移行すると前輪2が浮き上がることで前輪速度が後輪速度に対して低下することに基づいている。このような判定を行うことにより、進行方向加速度に対する前輪加速度の相違量に応じてウィリー状態であるか否かの判定基準(条件)を簡単に設定することができる。
【0055】
本実施の形態において、上記第1条件のための第1から第3の判定が何れも是となる場合、第1判定部71は、第1条件を満たすと判定する。この結果を受けて、制御部73は、乗物1の駆動源4の出力を抑制する第1制御を実行する。
【0056】
(第1制御)
制御部73は、第1制御を実行するための制御ブロックとして、ウィリー量算出部74および信号生成部75を含む。ウィリー量算出部74は、第1制御の開始時点からの、前輪2が路面から離れていく回転方向(左側面視で時計回り方向)P1における車体6の角度の変化量をウィリー量として算出する。
【0057】
ウィリー量算出部74は、第1制御開始時点における車体6の角度を所定の基準値に設定する。ウィリー量算出部74は、基準値に角度の変化量を加算した値をウィリー量として算出する。基準値は、例えばゼロ値であり、その場合、第1制御開始時点からの角度の変化量そのものがウィリー量となる。ウィリー量算出部74は、ピッチレートセンサ36の検出値を所定のサンプリング周期で逐次取得し、取得した検出値を積算することで、角度の変化量を求める。
【0058】
なお、ウィリー量を算出するためにピッチレートセンサ36以外のセンサの検出値を用いてもよい。例えば、レートジャイロ以外の慣性センサ、ピッチ角を検出する積分ジャイロ、またはピッチ角加速度を検出する角加速度計等の検出値を用いてもよい。また、リヤサスペンションのストロークを検出するセンサの検出値を用いてもよい。
【0059】
信号生成部75は、第1制御において、ウィリー量算出部74で算出されたウィリー量およびそのときの駆動源4の回転数(エンジン回転数)に基づいて、駆動源4の出力を抑制するための出力抑制信号を生成する。出力抑制態様については特に限定されない。例えば、信号生成部75は、算出されたウィリー量に応じて、スロットルバルブの開度、燃料噴射量、燃料が噴射される気筒の数および/または点火プラグが作動する気筒の数を小さくし、かつ/または点火時期を遅角するような出力抑制信号を生成する。
【0060】
本実施の形態において、出力調整機器8は、駆動源4のスロットルバルブの開度を変更する電子スロットル装置を備えている。信号生成部75が生成する出力抑制信号がスロットルバルブの開度に関する制御信号である場合、出力抑制信号は、スロットルバルブの開度指令値信号を含む。出力抑制信号として生成される開度指令値信号は、開度指令値の最大値が第1制御を行わない通常制御時より小さい値に制限された信号となる。
【0061】
出力抑制信号は、ウィリー量が大きいほど駆動源4の出力抑制量が大きくなるような信号として生成される。なお、ウィリー量が所定のしきい値未満であるときは、駆動源4の出力抑制量を0(実質的に出力抑制制御を行わない)としてもよい。また、第1制御開始時点からの経過時間をタイマ(図示せず)で計測し、その経過時間が長いほど駆動源4の出力抑制量が大きくなるように出力調整機器8が制御されてもよい。
【0062】
さらに、信号生成部75は、車体6の傾斜角(ロール角/バンク角)を取得し、車体6の傾斜角が大きいほど駆動源4の出力抑制の程度が小さくなるような出力抑制信号を生成する。より具体的には、信号生成部75は、車体6の傾斜角が大きいほど駆動源4の出力抑制量が小さくなるように出力抑制量を補正する。
【0063】
傾斜角が大きいほど、すなわち、車体6が傾斜しているほどウィリー状態には移行し難くウィリー状態から復帰し易いため、傾斜角が大きいほど出力抑制の程度が小さくなるように駆動源4を制御することにより、より適切な制御を実行することができる。
【0064】
信号生成部75で生成された出力抑制信号は、対応する出力調整機器8に伝送され、それに基づいて制御される。これにより、駆動源4の出力が抑制される。
【0065】
第1条件判定処理において、乗物1の走行状態がウィリー状態を示す第1条件を満足しないと判定した場合、すなわち、第1条件のための第1から第3の判定のうち少なくとも何れか1つの判定が否となる場合(ステップS2でNo)、第2判定部72は、乗物1の走行状態がウィリー状態の前段階であるプレウィリー状態を示す第2条件を満足したか否かを判定する第2条件判定処理を行う(ステップS4)。
【0066】
制御部73は、第2判定部72における第2条件判定処理の結果を取得し、乗物1の走行状態がプレウィリー状態を示す第2条件を満足したと判定した場合(ステップS5でYes)、制御部73は、操作子38への操作入力に対して出力変更速度を制限する第2制御を実行する(ステップS6)。なお、第2条件を満足しないと判定した場合(ステップS5でNo)、制御部73は、通常制御(第1制御および第2制御を行わない出力制御)を実行する(ステップS7)。
【0067】
(第2条件判定処理)
図5は、本実施の形態における第2条件を示す図である。第2条件は、乗物1の進行方向加速度が第1のしきい値Aより小さい第2のしきい値B以上であることを含む。第2判定部72は、後輪回転速度センサ32の検出値から後輪加速度を算出し、それを乗物1の進行方向加速度とする。第2判定部72は、乗物1の進行方向加速度が第2のしきい値B以上か否かを判定する(第2条件のための第1の判定)。このような判定を行うことにより、乗物1の進行方向加速度に応じてウィリー状態かプレウィリー状態かの判定基準(条件)を簡単に設定することができる。
【0068】
ここで、第2判定部72は、ロールレートセンサ37の検出値から車体6の傾斜角(ロール角)を取得し、第2のしきい値Bを、車体6の傾斜角が大きいほど大きい値に設定する。旋回時に車体6を傾斜させる乗物1において、車体6の傾斜角が大きいほど、すなわち、車体6が傾斜しているほどウィリー状態には移行し難いといえる。このため、傾斜角が大きいほどウィリー状態の前段階として定められるプレウィリー状態であるとは判定し難くしている。
【0069】
さらに、第2条件は、乗物1のフロントサスペンションの縮み量が第3のしきい値Cより大きい第4のしきい値D以下であることを含む。第2判定部72は、前サスペンション縮み量センサ33の検出値を取得し、それが第4のしきい値D以下であるか否かを判定する(第2条件のための第2の判定)。このような判定を行うことにより、フロントサスペンションの縮み量に応じてウィリー状態かプレウィリー状態かの判定基準(条件)を簡単に設定することができる。
【0070】
なお、プレウィリー状態では、前輪2が浮き上がっていない状態が想定される。このため、プレウィリー状態における前輪速度および前輪加速度は、後輪速度および後輪加速度(乗物1の進行方向加速度)とほぼ同じとなる。したがって、第1条件のための第3の判定のような、乗物1の進行方向加速度に対する前輪2の加速度の相違量についての判定は行われない。
【0071】
第2条件のための第1の判定および第2の判定において設定される範囲は、それぞれ、第1条件のための第1の判定および第2の判定において設定される範囲と一部重複する。これは、第1条件が満たされない場合であっても、第1条件のための第1の判定または第2の判定においては是となっている可能性があるためである。
【0072】
例えば、乗物1の進行方向加速度が第1のしきい値A以上(第2のしきい値B以上でもある)であり、乗物1のフロントサスペンションの縮み量が第3のしきい値Cより大きく、かつ第4のしきい値D以下である場合、第1条件のための第1の判定は是である一方第1条件のための第2の判定は否となるため、第1条件は満たさないが、第2条件の第1の判定および第2の判定はともに是となるため、第2条件は満たされる。
【0073】
本実施の形態において、上記第2条件のための第1および第2の判定が何れも是となる場合、第2判定部72は、第2条件を満たすと判定する。この結果を受けて、制御部73は、第2制御を実行する。
【0074】
(第2制御)
制御部73は、第2制御を実行するための制御ブロックとして、信号生成部75を含む。信号生成部75は、第2制御において、操作子38への操作入力に対して出力変更速度を制限する。上述のように、本実施の形態において、出力調整機器8は、駆動源4のスロットルバルブ41の開度を変更する電子スロットル装置81を備えている。
【0075】
信号生成部75は、第2制御において、スロットルバルブ41の開度の変化速度が、所定の上限値以下に制限されるように、開度指令値信号を生成する。このために、信号生成部75は、加速操作位置センサ34が検出した加速操作値を取得し、加速操作値の変化率(単位時間あたりの加速操作値の変化量)を求める。加速操作値の変化率は、現在値と過去値(例えば、1サンプリング周期前に取得された値)とから平易に求めることができる。
【0076】
なお、信号生成部75は、第2制御において、スロットルバルブ41の開度を開方向に変化させる場合(加速操作時)にのみ、その変化速度を制限してもよい。これに代えて、加速操作時に加えて、スロットルバルブ41の開度を閉方向に変化させる場合(減速操作時)にも、その変化速度を制限してもよい。
【0077】
図6は、本実施の形態の第2制御の一例における操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を模式的に示すグラフである。図9は、図6において第2制御を行わない比較例における操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を模式的に示すグラフである。図6および図9の何れのグラフにおいても、ウィリー状態における第1制御(出力抑制制御)は実行される。図6および図9において、上から順に、車輪速の時間的変化を示すグラフ、車両状態の時間的変化を示すグラフ、および操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を示すグラフが示されている。
【0078】
図6および図9において、後輪速度に対して前輪速度が相違した(遅くなった)状態がウィリー状態であり、ウィリー状態になる直前までの所定期間がプレウィリー状態である。図9に示すように第2制御を行わない場合、操作入力(加速操作値)に応じた開度指令値信号が生成されるため、操作入力にスロットルバルブ開度が追従して変化する。その後、ウィリー状態と判定された後で初めてスロットルバルブ開度を低下させて出力を抑制する制御が行われる。この結果、ウィリー量が大きくなり易く、その結果スロットルバルブ開度の変化量(低下幅)も大きくなる。
【0079】
一方、図6に示すように、第2制御が実行されることにより、加速操作値の変化率にかかわらず、開度指令値信号において、スロットルバルブ41の開度の変化速度が、所定の上限値以下に制限される。すなわち、運転者が急激な加速操作を行っても、スロットルバルブ41の開度は緩やかに変化する。この結果、第2制御を行わない場合に比べてウィリー状態への移行を遅らせることができる。さらに、ウィリー状態に移行しても、第2制御を行わなかった場合に比べてウィリー量を小さくすることができ、第1制御におけるスロットルバルブ開度の低下幅も少なくてすむ。これにより、第1制御においてもスロットルバルブ開度の変化を比較的に緩やかにすることができる。
【0080】
このように、上記構成によれば、乗物1の走行状態が、ウィリー状態の前段階であるプレウィリー状態であるか否かが判定され、プレウィリー状態であると判定された場合に、出力抑制制御である第1制御とは異なる第2制御が実行される。第2制御においては、操作子38に対する運転者の操作入力に対して出力変更速度が制限される。これにより、第2制御時においては、運転者が急激な出力変化(トルク変化)を伴うような操作を行っても、駆動源4の出力変更が緩やか(または滑らか)に行われる。したがって、ウィリー状態の前段階において、駆動源4の出力の急激な変化を抑制し、ウィリー状態が生じることを未然に抑制することができる。また、制御部73(信号生成部75)が、スロットルバルブ41の開度の変化速度が所定の上限値以下に制限されるように、開度指令値信号を生成することにより、駆動源4の出力の急激な変化を抑制するための制御を容易に実現することができる。
【0081】
なお、乗物1の仕様、運転者の嗜好などにより、ウィリー状態への移行をある程度許容するような場合であっても、急激なウィリー状態への移行(ウィリー角の急変)は好ましくない。したがって、ウィリー状態への移行をある程度許容するように設定される乗物1に対しても急激なウィリー状態への移行を未然に抑制するために、上記構成は有用である。
【0082】
図7は、本実施の形態の第2制御の一例において操作入力が緩やかな場合の操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を模式的に示すグラフである。図7に示すように、運転者の操作入力が緩やかである場合(加速操作量の変化率が所定の基準値より小さい場合)、制御部73は、スロットルバルブ41の開度の変化速度を制限しない。したがって、図7の例では、加速操作量に対してスロットルバルブ41の開度が追従して変化する。このように、ウィリー状態の前段階であるプレウィリー状態における第2制御実行中であっても、ウィリー状態に移行し難い状況にあっては、制御部73は、運転者の操作に介入しない。これにより、制御部73が過度に介入することによる走行状態の悪化(出力の低下、操作に対するレスポンスの悪化等)を防止することができる。
【0083】
さらに、信号生成部75は、車体6の傾斜角(ロール角/バンク角)を取得し、車体6の傾斜角が大きいほど第2制御における抑制の程度が小さくなるような出力抑制信号を生成する。より具体的には、信号生成部75は、車体6の傾斜角が大きいほどスロットルバルブ41の開度の変化速度の上限値が高い値に設定される。
【0084】
傾斜角が大きいほど、すなわち、車体6が傾斜しているほどウィリー状態には移行し難くウィリー状態から復帰し易いため、傾斜角が大きいほど第2制御における抑制の程度が小さくなるように駆動源4(スロットルバルブ41の開度)を制御することにより、より適切な制御を実行することができる。
【0085】
(第1制御の終了)
制御部73は、第1制御において、所定の第3条件を満たした場合に、第1制御を終了して通常制御に復帰する。第3条件は、乗物1のフロントサスペンションの縮み量が第4のしきい値Dより大きい第6のしきい値F以上であることを含む(第3条件のための第1の判定)。さらに、第3条件は、乗物1の進行方向加速度に対する前輪2の加速度の相違量が第5のしきい値Eより小さい第7しきい値Gであることを含む(第3条件のための第2の判定)。本実施の形態において、上記第3条件のための第1および第2の判定のうちの少なくとも何れか一方が是となる場合、制御部73は、第1制御を終了する。
【0086】
(第2制御の終了)
同様に、制御部73は、第2制御において、所定の第3条件を満たした場合に、第2制御を終了して通常制御に復帰する。ただし、第2制御を行うプレウィリー状態は、前輪2が浮き上がっていない状態が想定される。このため、第2制御を終了するための第3条件には、上記第3条件のための第2の判定は行われない。
【0087】
(第2制御の変形例)
第2制御において、操作子38への操作入力に対して出力変更速度を制限する態様は、上記の態様に限られない。例えば、信号生成部75は、第2制御において、乗物1の進行方向加速度が所定の目標加速度となるような開度指令値信号を生成してもよい。
【0088】
図8は、本実施の形態の第2制御の他の例における操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を模式的に示すグラフである。図10は、図8において第2制御を行わない比較例における操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を模式的に示すグラフである。図8および図10の何れのグラフにおいても、ウィリー状態における第1制御(出力抑制制御)は実行される。図8および図10において、上から順に、車輪速の時間的変化を示すグラフ、車両状態の時間的変化を示すグラフ、進行方向加速度の時間的変化を示すグラフおよび操作入力に対するスロットルバルブ開度の時間的変化を示すグラフが示されている。
【0089】
図10に示すように第2制御を行わない場合、操作入力(加速操作値)に応じた開度指令値信号が生成されるため、操作入力にスロットルバルブ開度が追従して変化する。これに応じて進行方向加速度もスロットルバルブ開度の変化に追従する。したがって、プレウィリー状態である期間に加速操作が行われると、進行方向加速度は増大する。その後、ウィリー状態と判定された後で初めてスロットルバルブ開度を低下させて出力を抑制する制御が行われる。この結果、ウィリー量が大きくなり易く、その結果スロットルバルブ開度の変化量(低下幅)も大きくなる。またプレウィリー状態における加速操作によりウィリー状態への移行が早められてしまう。
【0090】
一方、図8に示すように、第2制御が実行されることにより、加速操作値にかかわらず、開度指令値信号において、進行方向加速度が目標加速度に維持されるように、スロットルバルブ41の開度が制御される。すなわち、運転者が乗物1の進行方向加速度が目標加速度より大きくなるような操作を行っても、乗物1の進行方向加速度は、目標加速度近傍に維持される。この結果、第2制御を行わない場合に比べてウィリー状態への移行を遅らせることができる。さらに、ウィリー状態に移行しても、第2制御を行わなかった場合に比べてウィリー量を小さくすることができ、第1制御におけるスロットルバルブ開度の低下幅も少なくてすむ。これにより、第1制御においてもスロットルバルブ開度の変化を比較的に緩やかにすることができる。
【0091】
なお、本変形例においても、信号生成部75は、車体6の傾斜角(ロール角/バンク角)を取得し、車体6の傾斜角が大きいほど第2制御における抑制の程度が小さくなるような出力抑制信号を生成する。より具体的には、信号生成部75は、車体6の傾斜角が大きいほど目標加速度が大きい値に設定される。
【0092】
(他の実施の形態)
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0093】
例えば、上記実施の形態において、第1条件のための3つの判定がすべて是である場合に、第1条件を満たすと判定する態様を例示したが、第1条件のための3つの判定のうちの1つまたは2つの判定が是であれば第1条件を満たすとしてもよい。また、第1条件を満たす要件(判定)自体が1または2つでもよい。例えば、乗物1の進行方向加速度が第1のしきい値A以上であれば、第1条件を満たすとしてもよい。
【0094】
同様に、上記実施の形態において、第2条件のための2つの判定がすべて是である場合に、第2条件を満たすと判定する態様を例示したが、第2条件のための2つの判定のうちの何れか1つの判定が是であれば第2条件を満たすとしてもよい。また、第2条件を満たす要件(判定)自体が1つでもよい。例えば、乗物1の進行方向加速度が第2のしきい値B以上であれば、第2条件を満たすとしてもよい。
【0095】
さらに、第1条件または第2条件のための要件として上記実施の形態とは異なる要件(判定条件)が含まれていてもよい。例えば、第1条件または第2条件は、変速装置5の変速比が所定の値以上となる所定の変速段以下であることを含んでもよい。この判定条件は、変速比が大きくなるほど駆動輪である後輪3で発生するトルクが大きくなり、ウィリー状態に移行し易いことに基づいている。このような要件を加えることにより、ウィリー状態が発生し易い変速比領域において第1制御または第2制御が実行され得る。したがって、誤判定の発生を防止することができる。
【0096】
また、例えば、第1条件または第2条件は、乗物1が特定の路面を走行中であることを含んでもよい。この場合、第1判定部71または第2判定部72は、乗物1が走行する路面情報を取得し、取得した路面情報に基づいて特定の路面であるか否かを判定する。第1判定部71または第2判定部72は、路面情報取得部40から乗物1が走行している路面に関する路面情報を取得する。
【0097】
例えば、ウィリー抑制制御装置10の記憶器には、位置情報に対応する路面情報が記憶される。路面情報は、例えば、第2条件における特定の路面か否かの情報を含む。路面情報取得部40は、例えば、GPS等の位置情報を外部から取得するとともに、現在の位置に対応する路面情報を記憶器から取得する。第1判定部71または第2判定部72は、路面情報取得部40が取得した路面情報に基づいて乗物1の現在位置が特定の路面か否かの判定を行う。
【0098】
また、例えば、ウィリー抑制制御装置10の記憶器には、特定の走行区間またはサーキット等の周回路におけるコーナー情報が含まれていてもよい。このコーナー情報は、特定の走行区間または周回路における所定の位置からの走行距離に対応した路面情報を含んでいる。路面情報取得部40は、外部からの信号等により走行区間または周回路における所定の位置(例えばスタートライン等)に到達したことを検知すると、そのときからの走行距離を計測する。計測された走行距離が、所定の位置から特定の路面までの走行距離に到達したときに、路面情報取得部40は、特定の路面であることを示す信号を第1判定部71または第2判定部72に送信する。これに基づいて、第1判定部71または第2判定部72は、第1条件または第2条件の判定を行う。
【0099】
このような構成によれば、ウィリー状態が発生し易い特定の路面において第1制御または第2制御の実行が許可される。したがって、誤判定の発生を防止することができる。
【0100】
また、第1条件または第2条件の判定に際し、上記実施の形態における判定に加えて、または、それらの少なくとも一部に代えて、他の判定を行ってもよい。例えば、駆動源4の出力変化量が所定のしきい値以上であることを判定してもよい。駆動源4の出力変化量は、例えば、エンジン回転数を検出することで算出可能である。また、第1条件の判定に際し、例えば、乗物1の進行方向速度に対する前輪速度の差が所定のしきい値以上であることを判定してもよい。また、第1条件の判定に際し、例えば、乗物1のピッチ角を検出し、そのピッチ角が所定のしきい値以上であることを判定してもよい。
【0101】
また、乗物1の対地速度および対地加速度を取得するために、後輪回転速度センサ32を用いる代わりに、GPSセンサのような無線波を用いるセンサの検出値に基づいて乗物1の対地速度および対地加速度を測定してもよい。
【0102】
また、上記実施の形態において、駆動源4がエンジンである場合を例示したが、駆動源4は、交流モータを備えた電動機であってもよいし、エンジンと電動機との組み合わせであってもよい。なお、出力調整機器8は、駆動源4の形式によって異なる。駆動源4が交流モータを備える場合、出力調整機器8は、当該交流モータと電気的に接続されたインバータを含む。
【0103】
また、上記実施の形態では、上記ウィリー抑制制御装置10が自動二輪車に適用される例を示したが、自動二輪車以外の鞍乗型乗り物等、その他の乗物にも適用可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 乗物
2 前輪
3 後輪
4 駆動源
5 変速装置
6 車体
10 ウィリー抑制制御装置
38 操作子
41 スロットルバルブ
71 第1判定部
72 第2判定部
73 制御部
75 信号生成部
81 電子スロットル装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10