(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス用粘着テープ
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20231218BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J201/00
(21)【出願番号】P 2019190937
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-07-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(72)【発明者】
【氏名】山本 修平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亜紀子
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-189832(JP,A)
【文献】特開2012-140496(JP,A)
【文献】特開2006-096856(JP,A)
【文献】特開平11-349907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーハーネスの結束または固定のためのワイヤーハーネス用粘着テープであって、
85μm以下の厚みを有する基材と、
前記基材の厚み方向一方側に配置された、55μm以上100μm以下の厚みを有する粘着剤層と、を備え、
前記粘着剤層は、前記基材の前記厚み方向一方面に対する粘着剤組成物の塗工膜の乾燥物であ
り、ベースポリマーとしてアクリルポリマーを含有し、
前記基材の厚みに対する前記粘着剤層の厚みの割合が80%以上であり、
前記ワイヤーハーネス用粘着テープは、2kgのローラーを1往復させる圧着作業によるステンレス板に対する貼り合せを経た後、23℃、剥離角度180°および引張速度300mm/分の条件での剥離試験において前記ステンレス板に対して示す粘着力が14N/20mm以上である、ワイヤーハーネス用粘着テープ。
【請求項2】
前記基材が一軸延伸フィルムであることを特徴とする、請求項1に記載のワイヤーハーネス用粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスの結束または固定に使用されるワイヤーハーネス用粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
電気配線ケーブルおよび光配線ケーブルなどのケーブルの束であるワイヤーハーネスを結束するために、または、ワイヤーハーネスを所定箇所に固定するために、粘着テープが使用されることがある。粘着テープによってワイヤーハーネスを結束するにあたっては、粘着テープは、束ねられた複数のケーブルに対して巻き付けられる。このようなワイヤーハーネス用の粘着テープは、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤーハーネス用粘着テープによるワイヤーハーネスの結束および固定は長期間にわたる場合が多い。そのため、ワイヤーハーネス用粘着テープには、ワイヤーハーネスに対して経時的に安定して貼着状態を維持できることが求められる。
【0005】
しかしながら、従来、ワイヤーハーネスに巻き付けられた粘着テープにおいては、時間が経過すると、粘着テープ端部がめくれ上がって剥離することがある。このような剥離が生ずるのは、粘着テープがワイヤーハーネスに巻き付けられた状態において当該粘着テープ自体に生ずる反発力に主に起因すると考えられる。
【0006】
本発明は、ワイヤーハーネスの結束または固定において高い貼着安定性を実現するのに適したワイヤーハーネス用粘着テープを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、ワイヤーハーネスの結束または固定のためのワイヤーハーネス用粘着テープであって、85μm以下の厚みを有する基材と、基材の厚み方向一方側に配置された、55μm以上の厚みを有する粘着剤層と、を備えるワイヤーハーネス用粘着テープを含む。
【0008】
基材の厚みが85μm以下であり且つ粘着剤層の厚みが55μm以上である構成は、基材の柔軟性を確保して本粘着テープのワイヤーハーネス巻付け状態での反発力を抑制するとともに、粘着剤層において対ワイヤーハーネス粘着力を確保するのに適する。したがって、当該構成を具備する本ワイヤーハーネス用粘着テープは、ワイヤーハーネスの結束または固定において高い貼着安定性を実現するのに適する。
【0009】
本発明[2]は、基材が一軸延伸フィルムである、上記[1]に記載のワイヤーハーネス用粘着テープを含む。
【0010】
このような構成は、本ワイヤーハーネス用粘着テープにおいて良好な手切れ性を実現するのに適する。
【0011】
本発明[3]は、基材の厚みに対する粘着剤層の厚みの割合が80%以上である、上記[1]または[2]に記載のワイヤーハーネス用粘着テープを含む。
【0012】
このような構成は、本ワイヤーハーネス用粘着テープによるワイヤーハーネスの結束または固定において高い貼着安定性を実現するうえで好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のワイヤーハーネス用粘着テープの一実施形態における断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一実施形態である粘着テープXの断面模式図である。粘着テープXは、ワイヤーハーネスを結束するための又は所定箇所に固定するためのワイヤーハーネス用粘着テープであって、基材10および粘着剤層20を備える。基材10は、所定の厚みのシート形状を有する。粘着剤層20は、基材10の厚み方向一方側に配置され、好ましくは、基材10の厚み方向一方面に接触するように配置されている。
【0015】
基材10は、粘着テープXにおいて支持体として機能する要素である。基材10は、例えば、可撓性を有するプラスチックフィルムである。プラスチックフィルムの構成材料としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース、ポリスチレン、およびポリカーボネートが挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、およびエチレン・ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリブチレンテレフタレートが挙げられる。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン6,6、および部分芳香族ポリアミドが挙げられる。基材10は、一種類の材料からなってもよいし、二種類以上の材料からなってもよい。基材10は、単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。基材10において、その可撓性と機械的強度とを両立させる観点からは、基材10構成用のプラスチック材料は、好ましくはポリオレフィンであり、より好ましくはポリプロピレンである。
【0016】
基材10における粘着剤層20側の面11は、粘着剤層20との密着性を高めるための物理的処理、化学的処理、または下塗り処理が施されていてもよい。物理的処理としては、例えば、コロナ処理およびプラズマ処理が挙げられる。化学的処理としては、例えば、酸処理およびアルカリ処理が挙げられる。
【0017】
基材10の厚みは、好ましくは55μm以上、より好ましくは60μm以上である。このような構成は、粘着テープ使用時の基材10の強度の観点、および、基材10上での粘着剤層形成過程における粘着性組成物塗布時の基材10の加熱変形防止の観点から、好ましい。また、基材10の厚みは、85μm以下であり、好ましくは80μm以下である。このような構成は、基材10の柔軟性を確保して、粘着テープXのワイヤーハーネス巻付け状態での反発力を抑制するのに適する。
【0018】
基材10は、好ましくは、一軸延伸フィルムである。一軸延伸フィルムとは、フィルムの製造プロセスにおける原料樹脂材料の押出成形後に、フィルム状の押出成形体の一軸延伸処理を経たフィルムをいうものとする。一軸延伸フィルムの延伸倍率は、例えば2.5倍以上であり、好ましくは3倍以上である。また、当該延伸倍率は、例えば6倍以下であり、好ましくは5.5倍以下である。基材10がこのような一軸延伸フィルムである構成は、粘着テープXにおいて良好な手切れ性を実現するのに適する。
【0019】
粘着テープXにおける良好な手切れ性と、基材10における上述の加熱変形防止とを両立する観点からは、基材10は、好ましくは、一軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
【0020】
粘着剤層20は、粘着テープXを被着体に貼着させるための要素であり、基材10とは反対の側に粘着面21を有する。粘着剤層20は、ベースポリマーを含有する粘着性組成物から形成された層である。
【0021】
ベースポリマーは、粘着剤層20において粘着性を発現させるための粘着成分である。ベースポリマーとしては、例えば、アクリルポリマー、ゴム系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、フッ素系ポリマー等の、室温域でゴム弾性を示すポリマーが挙げられる。粘着剤層20における粘着性を確保する観点から、ベースポリマーとしては、好ましくはアクリルポリマーが用いられる。
【0022】
粘着剤層20におけるベースポリマーの含有割合は、粘着剤層20でのベースポリマーの機能を適切に発現させる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。
【0023】
アクリルポリマーは、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上の割合で含むモノマー成分を重合することにより得られるポリマーである。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸をいうものとする。
【0024】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、直鎖状または分岐状の炭素数1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。そのような(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソトリドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸イソテトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソオクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、および(メタ)アクリル酸エイコシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、好ましくは、炭素数1~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが用いられ、より好ましくは、アクリル酸メチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルが用いられる。
【0025】
モノマー成分における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、粘着剤層20において粘着性等の基本特性を適切に発現させる観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、とりわけ好ましくは95質量%以上である。同割合は、例えば99.9質量%以下である。
【0026】
モノマー成分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な1種または2種以上の官能基含有ビニルモノマーを含んでいてもよい。官能基含有ビニルモノマーは、アクリルポリマーへの架橋点の導入、アクリルポリマーの凝集力の確保など、アクリルポリマーの改質に役立つ。モノマー成分における官能基含有ビニルモノマーの割合は、官能基含有ビニルモノマーを用いることによる効果を確保する観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上である。同割合は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0027】
官能基含有ビニルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基含有ビニルモノマー、酸無水物ビニルモノマー、水酸基含有ビニルモノマー、スルホ基含有ビニルモノマー、リン酸基含有ビニルモノマー、シアノ基含有ビニルモノマー、およびグリシジル基含有ビニルモノマーが挙げられる。官能基含有ビニルモノマーは、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。
【0028】
カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸2-カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、およびクロトン酸が挙げられる。モノマー成分は、好ましくは、好ましくは、カルボキシル基含有ビニルモノマーを含み、より好ましくは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を含む。
【0029】
酸無水物ビニルモノマーとしては、例えば、無水マレイン酸および無水イタコン酸が挙げられる。
【0030】
水酸基含有ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、および(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0031】
スルホ基含有ビニルモノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、および(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸が挙げられる。
【0032】
リン酸基含有ビニルモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートが挙げられる。
【0033】
シアノ基含有ビニルモノマーとしては、例えば、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが挙げられる。
【0034】
グリシジル基含有ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルおよび(メタ)アクリル酸-2-エチルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0035】
モノマー成分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他の共重合性モノマーを含んでいてもよい。そのようなモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルピロリドン等のビニル系モノマーや、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、フッ素(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、およびN-アクリロイルモルホリンが挙げられる。
【0036】
アクリルポリマーは、上述のモノマー成分を重合させることによって形成することができる。重合手法としては、例えば、乳化重合、溶液重合、および塊状重合が挙げられ、好ましくは乳化重合が挙げられる。乳化重合においては、例えば、まず、アクリルポリマーを形成するために必要なモノマー成分と、乳化剤と、水とを含む混合物を撹拌してモノマーエマルションを調製する。次に、モノマーエマルションに重合開始剤を添加して重合反応を開始する。この重合反応には、アクリルポリマーの分子量を調整するために連鎖移動剤を用いてもよい。重合方式としては、滴下重合であってもよいし、一括重合であってもよい。重合時間は、例えば0.5~10時間である。重合温度は、例えば50~80℃である
【0037】
乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウムなどの、アニオン系乳化剤が挙げられる。乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック重合体などの、ノニオン系乳化剤も挙げられる。乳化剤としては、これらアニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤に、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ビニルエーテル基、アリルエーテル基などのラジカル重合性官能基が導入されたラジカル重合性(反応性)乳化剤も挙げられる。乳化剤は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。乳化剤の配合量は、モノマー成分100質量部に対して、例えば0.2~10質量部である。
【0038】
重合開始剤としては、例えば、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、および、過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系重合開始剤が挙げられる。アゾ系重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、および、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)が挙げられる。過酸化物系重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、および過酸化水素が挙げられる。レドックス系重合開始剤としては、例えば、過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせ、過酸化水素水と鉄(II)塩との組み合わせ、および、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせが挙げられる。重合開始剤は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。重合開始剤の配合量は、モノマー成分100質量部に対して、例えば0.01~2質量部である。
【0039】
連鎖移動剤としては、例えば、t-ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2-メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、および、2,3-ジメルカプト-1-プロパノールが挙げられる。連鎖移動剤は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。連鎖移動剤の配合量は、モノマー成分100質量部に対して、例えば0.001~0.5質量部である。
【0040】
例えばこのようにして形成されるアクリルポリマーの重量平均分子量は、例えば100000以上、好ましくは300000以上であり、また、例えば5000000以下、好ましくは3000000以下である。アクリルポリマーの重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)によって測定してポリスチレン換算により算出される。
【0041】
粘着性組成物は、ベースポリマーに加えて他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、粘着付与剤、シランカップリング剤、増粘剤、架橋剤、充填剤、酸化防止剤、界面活性剤、および帯電防止剤が挙げられる。
【0042】
粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂などの各種粘着付与剤樹脂が挙げられる。粘着付与剤の配合量は、ベースポリマー100質量部に対して、例えば5~40質量部である。
【0043】
シランカップリング剤としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、および3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。シランカップリング剤の配合量は、ベースポリマー100質量部に対して、例えば0.005~1質量部である。
【0044】
増粘剤としては、例えば、ポリアクリル酸系増粘剤、ウレタン系増粘剤、およびポリビニルアルコール系増粘剤が挙げられる。増粘剤の配合量は、ベースポリマー100質量部に対して、例えば0.1~10質量部である。
【0045】
粘着性組成物は、必要に応じて、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有してもよい。
【0046】
また、粘着性組成物の粘度は、好ましくは5~20Pa・s、より好ましくは7~15Pa・sである。この粘度は、B型粘度計を使用して、ローターNo.5、ローター回転数20rpm、液温30℃、および測定時間1分の条件で測定した値とする。
【0047】
粘着テープXは、例えば、粘着性組成物を基材10上に塗布して塗膜を形成した後、塗膜を乾燥して粘着剤層20を形成することによって、製造することができる。
【0048】
粘着剤層20の厚みは、被着体であるワイヤーハーネスに対する充分な粘着力を確保する観点からは、55μm以上であり、好ましくは60μm以上、より好ましくは70μm以上、さらに好ましくは80μm以上である。また、粘着剤層20の厚みは、好ましくは100μm以下、好ましくは95μm以下、より好ましくは90μm以下である。このような構成は、粘着テープXの軽量化の観点から好ましく、また、基材10上に塗布された粘着性組成物の乾燥に要する熱量を軽減して基材10の変形を防止・抑制する観点から、好ましい。
【0049】
基材10の厚みに対する上述の粘着剤層20の厚みの割合は、80%以上であり、好ましくは90%以上、より好ましくは100%以上、さらに好ましくは110%以上である。同割合は、例えば150%以下であり、好ましくは130%以下である。このような構成は、粘着テープXによるワイヤーハーネスの結束または固定において高い貼着安定性を実現するうえで好ましい。
【0050】
粘着テープXは、ステンレス板に対する貼り合せを経た後に23℃、剥離角度180°および剥離速度300mm/分の条件での剥離試験において当該ステンレス板に対して示す粘着力が、例えば10N/20mm以上であり、好ましくは12N/20mm以上、より好ましくは14N/20mm以上、さらに好ましくは16N/20mm以上である。このような構成は、ワイヤーハーネスに対して良好な粘着力を発揮するのに適する。
【0051】
粘着テープXにおいては、上述のように、基材10の厚みが85μm以下、好ましくは80μm以下であり、且つ、粘着剤層20の厚みが55μm以上、好ましくは60μm以上である。このような構成は、基材10の柔軟性を確保して粘着テープXのワイヤーハーネス巻付け状態での反発力を抑制するとともに、粘着剤層20において対ワイヤーハーネス粘着力を確保するのに適する。したがって、当該構成を具備する粘着テープXは、ワイヤーハーネスの結束または固定において高い貼着安定性を実現するのに適する。
【0052】
また、粘着テープXの基材10は、上述のように、好ましくは一軸延伸フィルムである。粘着テープXの基材10が一軸延伸フィルムである場合、粘着テープXにおいて良好な手切れ性を実現しやすく、例えば、基材10が二軸延伸フィルムである場合よりも、良好な手切れ性を実現するのに適する。粘着テープXの手切れ性が良くなるほど、例えば、粘着テープXによってワイヤーハーネスを多数の箇所に固定する作業現場において、高い作業効率を実現しやすい。
【0053】
加えて、基材10が一軸延伸フィルムである構成は、基材10が無延伸フィルムである構成よりも、基材10上での粘着剤層形成過程における粘着性組成物塗布時の基材10の加熱変形防止の観点から好ましい。
【実施例】
【0054】
〔実施例1〕
〈アクリルポリマーエマルションの調製〉
アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)85質量部と、メタクリル酸メチル(MA)13質量部と、アクリル酸(AA)1.25質量部と、メタクリル酸(MAA)0.75質量部と、連鎖移動剤としてのt-ラウリルメルカプタン 0.048質量部と、シランカップリング剤としての3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名「KBM-503」,信越化学工業株式会社製)0.02質量部と、乳化剤としてのポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム2質量部と、イオン交換水30質量部とを含む混合物を、容器内でホモミキサーによって撹拌し、モノマーエマルション溶液を調製した。一方、還流冷却管、窒素ガス導入管、温度計および撹拌機を備える反応容器内で、イオン交換水60質量部を、60℃で1時間以上、窒素ガスを導入しながら撹拌した。次に、この反応容器内に、重合開始剤としての2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド(商品名「VA-057」,和光純薬工業株式会社製)0.1質量部を投入した後、上述のモノマーエマルションを4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた(反応温度は60℃に維持した)。モノマーエマルションの滴下終了後、さらに3時間、反応液を60℃に保持した。その後、当該反応液に、10質量%過酸化水素水0.1質量部と、アスコルビン酸0.2質量部とを添加した。そして、当該反応液を常温まで冷却した後、10質量%のアンモニア水の添加によって反応液をpH7.0に調整した。以上のようにして、アクリルポリマーエマルションを調製した。
【0055】
〈粘着性組成物の調製〉
アクリルポリマーエマルションと、粘着付与剤としての重合ロジンエステルの水性エマルション(商品名「E-865NT」,荒川化学工業株式会社製)とを、アクリルポリマーエマルション中のアクリルポリマー100質量部に対して粘着付与剤(固形分)が10質量部となる量比で混合して組成物を得た。この組成物について、pH調整剤としての10質量%アンモニウム水と、増粘剤としてのポリアクリル酸(商品名「アロンB-500」,東亞合成株式会社製)とを用いて、pH8.0および粘度10Pa・sに調整した(粘度は、B型粘度計を使用して、ローターNo.5、ローター回転数20rpm、液温30℃、および測定時間1分の条件で測定した値である)。このようにして、粘着性組成物を調製した。
【0056】
〈粘着テープの作成〉
一軸延伸ポリプロピレンフィルム(商品名「パイレンOT(一軸延伸タイプ)」,厚み70μm,東洋紡株式会社製)に、フジコー株式会社製の剥離処理(処理名「BK1」)を施し、片面剥離処理基材を得た。次に、当該基材の非剥離処理面上に上述の粘着性組成物を塗布して塗膜を形成した。次に、この塗膜を100℃で2分間乾燥し、基材上に厚さ70μmの粘着剤層を形成した。以上のようにして、実施例1の粘着テープを作製した。
【0057】
〔実施例2,3および比較例1〕
厚み70μmの一軸延伸ポリプロピレンフィルムの代わりに、厚み60μm(実施例2)、80μm(実施例3)または90μm(比較例1)の一軸延伸ポリプロピレンフィルム(商品名「パイレンOT(一軸延伸タイプ)」)を用いたこと以外は、実施例1の粘着テープと同様にして、実施例2,3および比較例1の各粘着テープを作製した。
【0058】
〔実施例4,5〕
粘着剤層の厚みを70μmに代えて厚み60μm(実施例4)または90μm(実施例5)としたこと以外は、実施例1の粘着テープと同様にして、実施例4,5の各粘着テープを作製した。
【0059】
〔実施例6〕
一軸延伸ポリプロピレンフィルム(商品名「パイレンOT」,厚み70μm,東洋紡株式会社製)の代わりに、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(商品名「パイレンOT(二軸延伸タイプ)」,厚み70μm,東洋紡株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1の粘着テープと同様にして、実施例6の粘着テープを作製した。
【0060】
〔比較例2〕
粘着剤層の厚みを70μmに代えて厚み30μmとしたこと以外は、実施例1の粘着テープと同様にして、比較例2の粘着テープを作製した。
【0061】
〈耐反発性〉
実施例および比較例の各粘着テープについて、被着体貼着後の耐反発性を調べた。まず、粘着テープから試料片(幅20mm×長さ35mm)を切り出した。次に、粘着テープ試料片を、筒状の剥離フィルム(外径12mm)に巻き付けた。この筒状剥離フィルムは、剥離ライナー(商品名「ダイアホイル MRF38」,三菱ケミカル株式会社製)を、その剥離処理面が外側を向く態様で巻き上げて外径12mmの筒状の形態にしたものである。この筒状剥離フィルムの周方向に試料片の長さ方向が沿うように、試料片を筒状剥離フィルムに巻き付けた。そして、筒状剥離フィルムに巻き付けられた粘着テープ試料片を常温で24時間放置した後、粘着テープ試料片の端部が浮きあがって剥離した場合にその剥離長さ(mm)を測定した。その結果を表1に掲げる。粘着テープが上記筒状剥離フィルムに巻き付けられた状態において当該粘着テープ自体に生ずる反発力が強いほど、粘着テープの端部に剥離が生じやすく、また、剥離長さは長い。
【0062】
〈粘着力〉
実施例および比較例の各粘着テープにおける粘着剤層について、次のようにして粘着力を調べた。まず、粘着テープから試料片(幅20mm×長さ100mm)を切り出した。次に、粘着テープ試料片をSUS板に貼り合わせ、2kgのローラーを1往復させる圧着作業によって試料片をSUS板に圧着させた。次に、粘着テープ試料片について、25℃で30分間の放置の後、引張試験機(商品名「オートグラフ」,島津製作所製)を使用して、SUS板に対する粘着力(N/20mm)を測定した。本測定では、測定温度を25℃とし、SUS板に対する試料片の剥離角度を180°とし、試料片の引張速度を300mm/分とした。その結果を表1に掲げる。
【0063】
〈手切れ性〉
実施例および比較例の各粘着テープの手切れ性を調べた。具体的には、手作業による粘着テープの切断を試み、切断できた場合を手切れ性は“可”と評価し、切断できなかった場合を手切れ性は“不可”と評価した。その結果を表1に掲げる。
【0064】
[評価]
基材の厚みが85μmを越える比較例1の粘着テープは、上述の筒状剥離フィルムに対する巻付け状態において、基材の反発力が強すぎて耐反発性が低く、2mmの剥離を生じた。粘着剤層の厚みが55μm未満である比較例2の粘着テープは、上述の筒状剥離フィルムに対する巻付け状態において、粘着剤層の粘着力が弱すぎて耐反発性が低く、1mmの剥離を生じた。これに対し、基材の厚みが85μm以下であり且つ粘着剤層の厚みが55μm以上である実施例1~6の粘着テープは、いずれも、上述の筒状剥離フィルムに対する巻付け状態において剥離を生じず(即ち、剥離長さが0mmであり)、良好な耐反発性を示した。基材が一軸延伸フィルムである実施例1~5の粘着テープは、加えて、手切れ性を示した。
【0065】
【符号の説明】
【0066】
X 粘着テープ
10 基材
20 粘着剤層
21 粘着面