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特許7404040モータ制御装置およびモータ制御装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】モータ制御装置およびモータ制御装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/18 20160101AFI20231218BHJP
【FI】
H02P6/18
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019211449
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021083284
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】中村 伸治
(72)【発明者】
【氏名】川村 興二
(72)【発明者】
【氏名】三ヶ尻 悟
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-017179(JP,A)
【文献】特開2011-176912(JP,A)
【文献】特開2018-201306(JP,A)
【文献】特開2018-102064(JP,A)
【文献】特開2010-081664(JP,A)
【文献】特開2005-039899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータを駆動するモータドライバと、
前記モータの電流値を検出するモータ電流検出手段と、
前記検出された電流値と前記モータに印加された電圧を基に、モータの状態を推定するモータ状態推定手段と、
前記推定されたモータの状態に応じた第1の駆動の駆動電圧、または前記推定されたモータの状態を用いない第2の駆動の駆動電圧を前記モータドライバに印加するモータ制御手段と、
前記推定されたモータの状態を基に、前記モータの回転異常を検知する第1の異常検知手段と、
前記推定されたモータの状態を用いない第2の駆動の駆動電圧を前記モータドライバに印加する場合であって、前記検出されたモータの電流値と閾値との比較を基に、前記モータの回転異常を検知する第2の異常検知手段とを有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記モータ制御手段が前記第1の駆動の駆動電圧を前記モータドライバに印加している場合には、前記第1の異常検知手段が前記モータの回転異常を検知し、
前記モータ制御手段が前記第2の駆動の駆動電圧を前記モータドライバに印加している場合には、前記第2の異常検知手段が前記モータの回転異常を検知することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記第1の異常検知手段が回転異常であると判定した場合には、前記モータ制御手段は、前記モータドライバに対して、前記第1の駆動の駆動電圧の印加から前記第2の駆動の駆動電圧の印加に切り替えることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータの状態は、前記モータの電気角または速度であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記第1の駆動の駆動電圧は、所定の周期でパルス幅を変調した正弦波状の波形であり、
前記第2の駆動の駆動電圧は、所定の周期とデューティの矩形波であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記モータドライバは、前記第2の駆動の駆動電圧が印加されると、前記モータを所定の速度と移動量でステップ的に回転させることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記第2の異常検知手段は、前記モータの所定のタイミングの電流値が閾値より大きい場合には、回転異常であると判定し、前記モータの所定のタイミングの電流値が閾値より小さい場合には、回転異常でないと判定することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記第2の異常検知手段は、
前記モータ制御手段の前記第2の駆動の駆動電圧に応じたタイミングで、前記モータ電流検出手段が検出した電流値を取得する電流値取得手段と、
前記電流値取得手段が取得した電流値が閾値より大きい場合には、回転異常であると判定し、前記電流値取得手段が取得した電流値が閾値より小さい場合には、回転異常でないと判定する判定手段とを有することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記第2の異常検知手段が回転異常でないと判定した場合には、前記モータ制御手段は、前記モータドライバに対して、前記第2の駆動の駆動電圧の印加から前記第1の駆動の駆動電圧の印加に切り替えることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
前記モータが停止している状態で、前記モータ制御手段が前記第2の駆動の駆動電圧を前記モータドライバに印加し、前記第2の異常検知手段が回転異常でないと判定した場合には、前記モータ制御手段は、強制転流モードを介して、前記第1の駆動の駆動電圧を前記モータドライバに印加することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項11】
モータと、
前記モータを駆動するモータドライバとを有するモータ制御装置の制御方法であって、
前記モータの電流値を検出するモータ電流検出ステップと、
前記検出された電流値と前記モータに印加された電圧を基に、モータの状態を推定するモータ状態推定ステップと、
前記推定されたモータの状態に応じた第1の駆動の駆動電圧、または前記推定されたモータの状態を用いない第2の駆動の駆動電圧を前記モータドライバに印加するモータ制御ステップと、
前記推定されたモータの状態を基に、前記モータの回転異常を検知する第1の異常検知ステップと、
前記推定されたモータの状態を用いない第2の駆動の駆動電圧を前記モータドライバに印加する場合であって、前記検出されたモータの電流値と閾値との比較を基に、前記モータの回転異常を検知する第2の異常検知ステップとを有することを特徴とするモータ制御装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置およびモータ制御装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームプリンタにおいては、感光ドラムや転写ベルトの駆動にブラシレスDCモータなどが使用されている。一般的に、ブラシレスDCモータは、U相、V相、W相の三相のステータがあり、これらの各相のステータに印加する電圧を制御することによりモータを回転させている。また、この時、ブラシレスDCモータは、負荷等に応じて変化する回転速度を検出し、制御にフィードバックする事で安定した回転速度を実現している。
【0003】
従来、モータの回転速度の検出には、ホールセンサやエンコーダ等のセンサを用いることが一般的であった。しかし、近年では、センサ等を用いずに、三相の電流値から回転速度を推定するセンサレスベクトル制御(以降SFOCと表現する)が広く用いられるようになってきた(特許文献1参照)。SFOCとは、Sensorless Field Oriented Controlの略である。
【0004】
上述したSFOC方式において、モータ故障発生時、あるいは外乱トルクの印加によって回転子の回転が異常状態ないしは停止状態になった場合、ただちに異常検知し、モータを駆動する電力変換器を停止することで、電力変換器やモータを保護する必要がある。
【0005】
特許文献2には、拡張誘起電圧を用いたSFOC方式において、拡張誘起電圧の角度を用いて、脱調を検出する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、オブザーバによる第1の速度・磁極位置推定部とは別に、直接検出されたモータ誘起電圧による第2の速度・磁極位置推定部を用いて、脱調を検出する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、モータの断線を検出するモータ異常検出装置において、ロック状態判定手段と電流値判定手段を備え、ロック状態且つ、電流値が断線検出不可範囲にあると判断すると電流指令値の位相をシフトさせる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-213398号公報
【文献】特開2008-278595号公報
【文献】特開2017-77122号公報
【文献】特開2015-119532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
センサレスベクトル制御において、ロック状態等のモータの異常状態を検知するには、特許文献3のように、モータ状態推定器の推定結果(例えば、速度推定結果)を用いてモータがロックしているか否かを判断している。しかしながら、このモータ状態推定器は、モータが正常回転していることを前提としており、推定速度で異常検知しようとすると電流が定まらないことから状態推定がうまく働かず、推定速度も定まらない。推定結果が定まらずあてにならないため、誤検知が発生する可能性がある。特に、起動時は、異常状態でも正常状態でも、推定速度は定まらず変動しているため、使えないという課題がある。
【0010】
本発明の目的は、モータ状態推定手段の推定結果によらず、モータの回転異常を正しく検知できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のモータ制御装置は、モータと、前記モータを駆動するモータドライバと、前記モータの電流値を検出するモータ電流検出手段と、前記検出された電流値と前記モータに印加された電圧を基に、モータの状態を推定するモータ状態推定手段と、前記推定されたモータの状態に応じた第1の駆動の駆動電圧、または前記推定されたモータの状態を用いない第2の駆動の駆動電圧を前記モータドライバに印加するモータ制御手段と、前記推定されたモータの状態を基に、前記モータの回転異常を検知する第1の異常検知手段と、前記推定されたモータの状態を用いない第2の駆動の駆動電圧を前記モータドライバに印加する場合であって、前記検出されたモータの電流値と閾値との比較を基に、前記モータの回転異常を検知する第2の異常検知手段とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、モータ状態推定手段の推定結果によらず、モータの回転異常を正しく検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】モータ制御装置の構成例を示す図である。
図2】異常検知部の構成例を示す図である。
図3】モータドライバの構成例を示す図である。
図4】通常駆動の処理を示すフローチャートである。
図5】異常検知モードの処理を示すフローチャートである。
図6】駆動波形と電流波形を示す図である。
図7】回転時とロック時の電流波形を示す図である。
図8】起動時における異常検知を示す図である。
図9】起動前の異常検知を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本実施形態に係るモータ制御装置120の構成例を示すブロック図である。モータ制御装置120は、エンジン部111と、コントローラ112を有する。まず、エンジン部111について説明する。エンジン部111は、モータ100と、モータドライバ106と、モータ電流検出部101を有する。モータ100は、三相ブラシレスモータである。モータドライバ106は、モータ100の各コイル端にパルス電圧を印加して電流を流し、モータ100を駆動する。モータ電流検出部101は、モータ100の各相に流れるコイル電流値を検出する。
【0015】
コントローラ112は、統括制御処理部110と、異常検知部103と、異常検知部104と、センサレスベクトル制御部(SFOC部)107を有する。SFOC部107は、モータ状態推定部102と、モータ制御部105を有する。モータ状態推定部102は、モータ電流検出部101によって検出した電流値と、モータ100の各コイル端に印加された電圧の2つの入力値から、モータ100の状態(電気角や速度)を推定する。モータ制御部105は、選択部108を有する。選択部108は、通常駆動時には、モータ状態推定部102により推定されたモータ100の状態に応じた通常駆動の駆動電圧を選択してモータドライバ106に印加する。また、選択部108は、異常検知モードでは、モータ状態推定部102により推定されたモータ100の状態を用いないパルス駆動の駆動電圧を選択してモータドライバ106に印加する。モータ制御部105は、通常駆動時には、通常駆動を行い、異常検知モードでは、パルス駆動を行う。通常駆動の駆動電圧は、所定の周期でパルス幅を変調した正弦波状の波形である。パルス駆動の駆動電圧は、所定の周期とデューティ比の矩形波である。モータドライバ106は、パルス駆動の駆動電圧が印加されると、モータ100を所定の速度と移動量でステップ的に回転させる。また、モータ制御部105は、パルス駆動を行う場合、異常検知部104に対して、モータドライバ106の各スイッチング素子がオンまたはオフのどの状態になっているかの状態情報を通知する。
【0016】
統括制御処理部110は、エンジン部111とSFOC部107とを統括制御する。異常検知部103は、モータ状態推定部102によって推定されたモータの状態(電気角や速度)を基に、モータ100の回転異常を検知し、モータ100の回転異常であると判定した場合には、モータ制御部105に対してパルス駆動の指示を出す。例えば、異常検知部103は、モータ状態推定部102によって推定されたモータ速度が指令速度に対して所定値以上の乖離があった場合は、モータ100の回転異常であると判定する。異常検知部104は、モータ制御部105からの各スイッチング素子情報と、モータ電流検出部101によって検出されたモータ100をパルス駆動した際のモータ100の各相に流れるコイル電流値を基に、モータ100の回転異常を検知する。
【0017】
図2は、異常検知部104の構成例を示すブロック図である。異常検知部104は、判定用電流値取得部201と、異常状態判定部202を有する。判定用電流値取得部201は、パルス駆動時に、モータ制御部105からの各スイッチング素子の状態情報に基づき、誘起電圧分の電流が取得できるタイミングか否かを判断する。また、判定用電流値取得部201は、誘起電圧分の電流が取得できるタイミングで、モータ電流検出部101によって検出したモータ100の各相に流れるコイル電流値を判定用電流値として取得する。異常状態判定部202は、判定用電流値取得部201が取得した判定用電流値が所定の閾値より大きい場合には、モータ100がロック状態(回転異常)であると判定する。異常状態判定部202は、回転異常の検知が行われる状況(例えば、起動時や通常駆動時等)に応じて、ロック状態を判定する基準(閾値)を変更してもよい。
【0018】
図3は、モータ100と、モータドライバ106の内部のFET(スイッチング素子)301~306と、モータ電流検出部101と、電流計測用のシャント抵抗310~312を示す図である。U相電流計測用のシャント抵抗310は、U相ハイ側FET301とU相ロー側FET304との直列接続回路と、グランド電位ノードとの間に接続される。V相電流計測用のシャント抵抗311は、V相ハイ側FET302とV相ロー側FET305との直列接続回路と、グランド電位ノードとの間に接続される。W相電流計測用のシャント抵抗312は、W相ハイ側FET303とW相ロー側FET306との直列接続回路と、グランド電位ノードとの間に接続される。
【0019】
モータドライバ106は、U相ハイ側FET301と、U相ロー側FET304と、V相ハイ側FET302と、V相ロー側FET305と、W相ハイ側FET303と、W相ロー側FET306を有する。FET301~306は、スイッチング素子であり、図3のように、モータ100に接続される。ハイ側FET301~303は、モータドライバ106を駆動するPWM信号がハイレベルの場合にオンになる。ロー側FET304~306は、モータドライバ106を駆動するPWM信号がローレベルの場合にオンになる。モータドライバ106は、通常、この様なFETの動きになるようにFETを駆動する電圧波形を生成し、制御する。
【0020】
例えば、シャント抵抗310に電流Iuが流れる場合は、ロー側FET304がオンした状態で且つ、ハイ側FET302または303がオンした状態である。ハイ側FET301とロー側FET304は、同時にオフすることはあっても、同時にオンすることはない。また、ハイ側FET302とロー側FET305は、同時にオフすることはあっても、同時にオンすることはない。また、ハイ側FET303とロー側FET306は、同時にオフすることはあっても、同時にオンすることはない。
【0021】
モータ電流検出部101は、A/Dコンバータを有する。モータ電流検出部101は、外付けのICでもよいし、マイコンやASIC等の内部に組み込まれているIPやマクロであってもよい。モータ電流検出部101は、チャネル0(ch0)でシャント抵抗310の両端にかかる電圧を検知し、チャネル1(ch1)でシャント抵抗311の両端にかかる電圧を検知し、チャネル2(ch2)でシャント抵抗312の両端にかかる電圧を検知する。モータ電流検出部101は、チャネルを順番に切り替えながら時分割で電圧値を検知し、検知した電圧値をシャント抵抗値で除算した値を電流値として検出する。モータ電流検出部101は、シャント抵抗310に流れる電流Iuと、シャント抵抗311に流れる電流Ivと、シャント抵抗312に流れる電流Iwを検出する。
【0022】
図4は、モータ制御装置120の制御方法を示すフローチャートである。モータ制御装置120は、通常駆動の開始により、図4の処理を開始する。ステップS401では、モータ電流検出部101は、モータ100に流れる電流Iu,Iv,Iwの値を検出する。モータ電流検出部101は、検出した電流Iu,Iv,Iwの値をモータ状態推定部102に出力する。
【0023】
ステップS402では、モータ状態推定部102は、モータの状態(速度や電気角)を推定する。モータ状態推定部102は、モータ電流検出部101からの電流値とモータドライバ106からの駆動電圧から、SFOC演算を行って、モータ100の状態(速度や電気角)を推定する。モータ状態推定部102は、その推定結果をモータ制御部105と異常検知部103に出力する。
【0024】
ステップS403では、異常検知部103は、モータの速度を基に、モータの回転異常を検知する。異常検知部103は、ステップS402で推定した速度と目標速度との乖離が大きく、モータ100の回転異常である(回転異常が疑われる)と判定した場合、その判定結果を異常検知部104に通知し、ステップS411に進む。また、異常検知部103は、ステップS402で推定した速度と目標速度との乖離が小さく、モータ100の回転異常でないと判定した場合には、その判定結果をモータ制御部105に通知し、ステップS404に進む。
【0025】
ステップS404では、選択部108は、通常駆動を選択し、通常駆動の駆動電圧をモータドライバ106に印加する。モータ制御部105は、異常検知部103からモータ100の回転異常でないとの判定結果を入力すると、所定のPWM制御で引き続き正弦波状の波形をモータドライバ106に出力する。
【0026】
ステップS405では、モータドライバ106は、通常駆動によって駆動される。モータドライバ106は、モータ制御部105からの正弦波状の波形を入力し、所定の駆動電圧をモータ100に印加する。
【0027】
ステップS406では、モータ制御部105は、モータ駆動の終了を判定し、終了の場合はそのまま終了し、継続する場合はステップS401へ戻る。モータ制御部105は、モータ状態推定部102から入力したモータ100の電気角の推定結果から、モータ100を引き続き駆動させるか止めるかを判定する。例えば、モータ制御部105は、電気角が指定の角度に達していない場合、引き続きモータを駆動するが、電気角が指定の角度に達した場合はモータの駆動を止める。
【0028】
ステップS411では、選択部108は、モータ100の回転異常が疑われるため、パルス駆動を選択し、パルス駆動の駆動電圧をモータドライバ106に印加する。モータ制御部105は、異常検知部103からモータ100の回転異常であるとの判定結果を入力すると、所定のパルス駆動で矩形波をモータドライバ106に出力する。
【0029】
ステップS412では、モータドライバ106は、パルス駆動によって駆動される。モータドライバ106は、モータ制御部105からの矩形波を入力し、所定の駆動電圧をモータ100に印加する。その後、図5のステップS420の異常検知モードの処理に移行する。
【0030】
図5は、ステップS420の異常検知モードの処理を示すフローチャートである。ステップS501では、モータ100は、所定の駆動電圧が印加され、パルス駆動を開始する。
【0031】
ステップS502では、異常検知部104は、検出されたモータ100の電流値を基に、モータ100の回転異常を検知する。具体的には、図2で説明したように、パルス駆動時に、モータ電流検出部101は、シャント抵抗310~312に流れる電流値を検出する。異常検知部104は、モータ電流検出部101により検出された電流値を基に、モータ100の回転異常を判定する。異常検知部104は、モータ100が回転状態であると判定した場合にはステップS503に進み、モータが回転異常でないと判定した場合にはステップS430を介して図4のステップS404に戻る。異常検知部104は、判定した内容を統括制御処理部110へ通知する。
【0032】
ステップS503では、統括制御処理部110は、エラー割り込みを発行し、図5の処理を終了する。
【0033】
図6および図7(a)、(b)は、パルス駆動時のFET301~306を駆動する電圧波形とシャント抵抗310~312を流れる電流波形を示す図である。
【0034】
図6は、FET301~306の駆動電圧のハイレベルとローレベルを切り替えた場合、シャント抵抗310~312に電流波形がどのタイミングでどの様に現れるかを示している。シャント抵抗310~312に現れる電流波形は、回転時(回転正常時)とロック時(回転異常時)の両方を示している。図7(a)および(b)は、異常検知部104が回転異常を判定する際の、回転時とロック時の電流波形を比較して示している。
【0035】
まず、異常検知部103は、モータ100の推定速度から、推定したモータ速度が指令速度に対して所定値以上の乖離があり、モータ100の回転異常が疑われる場合、駆動方法を通常駆動からパルス駆動に変更する。このパルス駆動では、モータドライバ106は、モータ100をステッピングモータのように扱い、モータ100の各相に対して所定の角度にそれぞれ引き込むパルス信号を送ることでモータ100を回転させている。よって、モータ100が正常に回転していれば、モータ100の回転が止まることはない。そして、異常検知部104は、このパルス駆動時のシャント抵抗310~312に現れる電流波形からモータ100の回転異常を判定する。
【0036】
モータ100がロックしていない正常状態時にパルス駆動で回転させる場合、モータ100の内部のコイルには、モータ100の回転状態に応じた誘起電圧が発生し、その誘起電圧分の電流が発生する。そのため、例えば、シャント抵抗310から、図6のチャネル0の電流波形のように、U相ロー側FET304が駆動波形のハイレベルでオンしている時に、(2)と(5)のタイミングで電流波形の変化が得られる。チャネル0における(2)のタイミングは、ハイ側FET301~303が全てオフで、ロー側FET304だけがオンとなっているため、モータ100が回転していれば、誘起電圧分の電流波形のみが得られる。一方、誘起電圧が発生しないモータ100がロックした回転異常の場合は、電流波形に誘起電圧分の電流が乗らない。そのため、パルス駆動中のシャント抵抗に流れる電流の波形は、図6のロック時のチャネル0の電流波形の(2)のタイミング時のように、ほぼゼロの波形となる。よって、異常検知部104は、ノイズ等を考慮したゼロ近辺の閾値を設定することで、回転異常の判定が可能となる。異常検知部104は、(2)のタイミングで、チャネル0の電流値が閾値より小さい場合には、モータ100が回転異常でない正常の状態であると判定する。また、異常検知部104は、(2)のタイミングで、チャネル0の電流値が閾値より大きい場合には、モータ100が回転異常であると判定する。異常検知部104は、図7(a)および(b)のように、シャント抵抗310に流れる電流の(2)のタイミングでの波形の違いを判定することにより、モータ100の回転異常を検出することができる。
【0037】
判定用電流値取得部201は、モータ制御部105のパルス駆動の駆動電圧に応じた(2)のタイミングで、モータ電流検出部101が検出したチャネル0の電流値を取得する。異常状態判定部202は、判定用電流値取得部201が取得したチャネル0の電流値が閾値より大きい場合には、回転異常であると判定し、判定用電流値取得部201が取得したチャネル0の電流値が閾値より小さい場合には、回転異常でないと判定する。
【0038】
同様に、異常検知部104は、チャネル1では(4)のタイミングで、チャネル2では(6)のタイミングで、判定用電流値を取得し、回転異常の判定を行うことが可能である。
【0039】
本実施形態では、電流検出の回路や検出した電流波形を3チャネル分示しているが、異常検知部104は、少なくとも1チャネル分の情報があれば、モータ100の回転異常を検出することができる。また、パルス駆動のFET301~306の駆動波形を図6のデューティ比で示しているが、モータ100を止めることがない限り、このデューティ比を変更することは可能である。
【0040】
図8は、モータ100の目標速度900に対する実速度910を示す図である。以下、モータ100の起動時に異常検出を行う例を示す。まず、モータ制御部105は、オープン制御である強制転流モード901にてモータ100を起動させ、次にモータ100がある所定の速度に到達したら、通常駆動902へ切り替える。
【0041】
通常駆動902の期間では、モータ制御部105は、通常駆動の駆動電圧をモータドライバ106に印加し、異常検知部103は、推定速度を基に、モータ100の回転異常を検知する。モータ制御部105が通常駆動の駆動電圧をモータドライバ106に印加している場合には、異常検知部103がモータ100の回転異常を検知する。異常検知部103が、モータ100の回転異常である(異常が疑われる)と判定した場合には、モータ制御部105は、モータドライバ106に対して、通常駆動902の駆動電圧の印加からパルス駆動903の駆動電圧の印加に切り替える。
【0042】
パルス駆動903の期間では、モータ制御部105は、パルス駆動の駆動電圧をモータドライバ106に印加し、異常検知部104は、検出された電流値を基に、モータ100の回転異常を検知する。モータ制御部105がパルス駆動の駆動電圧をモータドライバ106に印加している場合には、異常検知部104がモータ100の回転異常を検知する。異常検知部104が、回転異常でないと判定した場合には、モータ制御部105は、モータドライバ106に対して、パルス駆動903の駆動電圧の印加から通常駆動904の駆動電圧の印加に切り替える。モータ100は、回転異常が認められなかった場合でも、パルス駆動903により回転状態を維持しているため、止まることなく、通常駆動904を再開できる。また、モータ制御部105は、モータ速度に段差が発生しないように、直前に検出した速度を引き継ぐ形で、パルス駆動903に設定していた速度と角度にして、通常駆動904に復帰する。
【0043】
図9は、モータ100の目標速度900に対する実速度910を示す図である。以下、モータ起動前に異常検出を行う例を示す。異常検知部104のみが異常検知を行う。
【0044】
モータ制御部105は、起動前からモータ異常が疑われているため、モータ100が停止している状態で、パルス駆動903の駆動電圧をモータドライバ106に印加し、モータを回転させる。パルス駆動903の期間では、異常検知部104は、電流値を基に、回転異常であるか否かを判定する。
【0045】
異常検知部104が、回転異常でないと判定した場合には、モータ制御部105は、通常の起動と同じく、オープン制御である強制転流モード901にてモータ100を起動させる。
【0046】
次に、モータ制御部105は、モータ100がある所定の速度に到達したら、通常駆動902の駆動電圧をモータドライバ106に印加する。
【0047】
以上説明したように、モータ制御部105は、モータ100の起動時、もしくは起動前において、回転異常が疑われる場合は、パルス駆動903で駆動する。異常検知部104は、パルス駆動903では、電流波形により、モータ100の回転異常を判定する。
【0048】
(その他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0049】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
100 モータ、101 モータ電流検出部、102 モータ状態推定部、103 異常検知部、104 異常検知部、105 モータ制御部、106 モータドライバ、110 統括制御処理部
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図2
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図5
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図9